説明

トリクロサン含有抗菌・抗黴組成物

【課題】優れた抗菌作用を有するトリクロサン含有抗菌性組成物の提供。
【解決手段】液体状態のトリクロサン微粒子を含有する抗菌・抗黴組成物であり、トリクロサン微粒子の有効平均粒子径が10nm〜5000nmであり、菌又は黴は、緑濃菌(Pseudomonas aeruginosa)、アオカビ(Penicillium citrinum)、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から選ばれる菌又は黴に対し有効である抗菌・抗黴組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体状態のトリクロサン微粒子を含有する抗菌・抗黴組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロサン(トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル)は、広範囲の抗菌スペクトルをもつ常温で固体の抗菌・抗黴物質であり、医薬品、医薬部外品、化粧品、家庭用品等において、製造時及び使用時における細菌・真菌等の微生物の混入による変質を防止すること、殺菌性能を付与することを目的として配合されている(非特許文献1)。しかし、水への溶解度が低いため使用の際には一般に有機溶媒、あるいは界面活性剤に溶解させる必要がある。
【0003】
一方、多くのスキンケア製品、家庭用品には、界面活性剤が配合されているが、アニオン性界面活性剤等種々の界面活性剤は、製品中でトリクロサンの抗菌・殺菌性を低下させることが知られている。
従って、トリクロサンを含有する製品においては、所望の抗菌・殺菌作用を得るために、本来有効と考えられる量以上のトリクロサン、すなわち、製品の特性上、あるいは溶解目的のために使用される界面活性剤により低下する抗菌・殺菌作用を考慮した量のトリクロサンが、製品に配合されているのが実情である。
【0004】
しかしながら、斯かる製品群において使用される抗菌・抗黴剤は、安全性の面から配合量が規制されている場合が多く、低濃度でもより優れた抗菌・抗黴効力を有し、且つ安全性の高いことが求められている(非特許文献2)。
一方で、分散液中で液体状態のトリクロサン微粒子の性質と固体状態のトリクロサン及び溶解状態のトリクロサンの性質とが異なることは、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】香粧品医薬品 防腐・殺菌剤の科学(ジョン・J・カバラ編、フレグランスジャーナル社、547頁)
【非特許文献2】薬事法「化粧品基準」別表第3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた抗菌・抗黴活性を有するトリクロサン含有抗菌・抗黴組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、まず、トリクロサンについて検討したところ、トリクロサンは、ナノ又はマイクロスケールに微粒子化することにより、粒子の一部又は全部が液体状態となることを見出した。
さらに、当該トリクロサン微粒子について検討したところ、トリクロサン微粒子は、界面活性剤や有機溶媒に溶解した状態のトリクロサンよりも高い抗菌・抗黴活性を有し、意外にも、従来、トリクロサンが有効ではないとされていた緑膿菌や一部の黴についても、抗菌・抗黴力を発揮し、これを用いることにより、優れた抗菌・抗黴活性を有し、安全性が高い抗菌・抗黴組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、液体状態のトリクロサン微粒子を含有する抗菌・抗黴組成物に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体状態のトリクロサン微粒子を含有する抗菌・抗黴組成物は、有機溶媒や界面活性剤で可溶化して用いた場合に比べ、様々なグラム陰性細菌、グラム陽性細菌、真菌に対して優れた抗菌・抗黴活性を有し、且つトリクロサンが有効でないとされていた緑膿菌、アオカビ(Penicillium citrinum)、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対しても抗菌活性を有し、一部の黴にも抗菌作用を有する。このため、本発明の抗菌・抗黴組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品、家庭用品、雑貨等でトリクロサンの配合量を減らすことが可能となる。また、有機溶媒、界面活性剤の使用量を低減した処方が可能になる。このため環境や人体への負荷を低減することになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】遠心分離によって得られたトリクロサン微粒子の液体沈殿物をプラスチックトレーに移したものを示す図である。
【図2】偏光顕微鏡にて観察した調製2時間後のトリクロサン微粒子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
トリクロサンとは、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテルであり、広範囲の抗菌スペクトルをもつ抗菌・抗黴物質である。本発明において、トリクロサン微粒子とは、水系溶媒中において液体状態でナノ又はマイクロスケールに微粒子化するトリクロサンを意味する。
上記有効平均粒子径(粒径)としては、10nm〜5000nmが好ましい。このうち、好適な有効平均粒子径の範囲としては、抗菌活性の点から、10nm〜3000nm、10nm〜2500nm、10nm〜500nmが挙げられ、さらに好適には、190nm〜300nm、200〜250nmが挙げられる。
なお、有効平均粒子径の測定は、例えば、動的光散乱法により行うことができる。
【0012】
本発明のトリクロサン微粒子の分散液の製造法としては、特に限定されるものではなく、トリクロサンをそれに対する溶解度が相対的に高い溶媒に溶解させた溶液を含む第1液と、トリクロサンに対する溶解度が相対的に低い溶媒を含む第2液とを、マイクロミキサーを用いて混合する方法(特開2007−8924号公報参照)により製造することができる。
トリクロサンの溶解度が相対的に高い溶媒としては、例えばエタノール、アセトンなどの親水性有機溶媒やアルカリ水溶液を用いることができ、トリクロサンの溶解度が相対的に低い溶媒としては、例えば水や酸を用いることができる。
尚、原料となるトリクロサンは、市販品、例えばCiba Specialty Chemicals inc.製、和光純薬工業製等を用いることができる。
なお、本発明のトリクロサン微粒子は、分散液中で、溶媒に溶解せず液体状態で存在している。
【0013】
本発明の抗菌・抗黴組成物は、斯くして得られたトリクロサン微粒子の分散液をそのまま、或いは濃縮、希釈等して調製できるが、通常は、斯かる分散液或いは濃縮物等に、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール等のアルコールやグリセリン等の溶媒、油分、高級脂肪酸、アルコール類、シリコーン類、界面活性剤水溶性高分子、キレート剤、pH調整剤、増粘剤、粉末成分、色素、香料、生理活性物質、その他の抗菌・抗黴剤等を適宜配合して製造することができる。
また、斯かる組成物の剤型としては、水溶液系、乳化系、水−油2層系、水−油−粉末3層系の何れでもよい。また、布、紙、プラスチック等の固体面に付着させて用いることもできる。
【0014】
上記抗菌・抗黴組成物中のトリクロサン微粒子の含有量は、抗菌・抗黴活性の点から、1ppm〜7000ppmが好ましく、7ppm〜5000ppmがより好ましく、25ppm〜1000ppmがさらに好ましい。
また、抗菌・抗黴組成物中のトリクロサンは、全てが液体状態でなくてもよく、一部が固体状態であってもよく、また、一部が分散液に溶解していてもよい。この場合、トリクロサン微粒子の全トリクロサンに対する含有率は30%以上であればよいが、50〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましい。本発明は、トリクロサンの一部又は全部が液体状態のトリクロサン微粒子となっていることにより、分散液に溶解したトリクロサンよりも、優れた抗菌作用を有する。
【0015】
後述の実施例に示すとおり、本発明のトリクロサン微粒子は、細菌及び真菌に対して低い濃度でも優れた抗菌作用を有する。例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Pseudomonas putida等のシュードモナス(Pseudomonas)属細菌、大腸菌(Escherichia coli)、アルカリジェネス(Alcaligenes faecalis)、クレブシエラ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス(Proteus vulgaris)、セラチア(Serratia marcescense)に代表されるグラム陰性菌;Bacillus cereusBacillus coagulans等のバチルス(Bacillus)属細菌、乳酸菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に代表されるグラム陽性菌、;クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)、キャンディダ(Candida albicans)、アオカビ(Penicillium citrinum)、サッカロマイセス(Saccharomyces)属真菌、ロドトルラ(Rhodotorula)、ピキア(Pichia)属真菌に代表される真菌についても高い効果を示す。緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アオカビ(Penicillium citrinum)、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に代表されるトリクロサンに有効ではないとされている菌に対しても有効である。
【0016】
従って、トリクロサン微粒子を含有する組成物は、微生物の抗菌・抗黴、特に殺菌、増殖抑制を必要とする医薬品、医薬部外品、化粧品、家庭用品・雑貨等に用いることができる。
ここで、家庭用品、雑貨等としては、衣料用抗菌仕上げ剤、衣料用抗菌洗剤、衣料用抗菌柔軟剤、衣料用抗菌漂白剤、住居用抗菌洗剤、排水口用抗菌洗剤、浴室用抗菌洗剤、洗濯機用抗菌洗剤等の抗菌性製品、台所用抗菌洗浄剤、食器用抗菌洗浄剤、繊維製品類(例えば、肌着、靴下等の衣類;枕カバー;ソファー;ベッドカバー;タオル;カーペット;カーテン;スリッパ;サンダル;靴敷皮等の日用品の素材として用いられる繊維、布、不織布、紙、皮等)、玩具類、紫外線防御製品、化粧綿、ウェットティッシュ、汗拭きシート、トイレットペーパー、ティシュペーパー、ペーパータオル、インソール、生理用品、おむつ)、防カビ剤、その他の洗剤、消臭・防臭剤、芳香剤、綿棒等の抗菌性・抗黴性を目的とする家庭用品・雑貨類が挙げられる。
【0017】
化粧品としては、例えば、化粧水、エッセンス、乳液、クリーム、ローション、カラミンローション、サンスクリーン剤、サンタン剤、ジェル、シェービングフォーム、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、パック、フェイスマスク、クレンジング料、洗顔料、アクネ対策化粧料等の基礎化粧品;ファンデーション、白粉、打粉、アイシャドウ、アイライナー、アイブロー、マスカラ、眉墨、チーク、ネイルカラー、口紅等のメイクアップ化粧品;シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント、ヘアカラー、ヘアブリーチ、ヘアトニック、セット剤、パーマ剤、育毛剤、脱毛剤等の毛髪化粧品;香水、コロン等の芳香化粧品;ボディーパウダー、デオドラント、制汗剤、石鹸、ボディシャンプー、ボディローション、入浴剤、ハンドソープ等のボディ化粧品;歯磨き粉、歯ブラシ、洗口液等の口腔用化粧品などが挙げられる。
斯かる製品には、本発明の抗菌・抗黴組成物をそのまま、あるいは担体に保持させて液体状、ゲル状、固形状等の形態として用いることができる。
【0018】
液体状担体としては、水;エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の各種アルコール類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の各種グリコール類;フタル酸エステル、アジピン酸エステル等のエステル類;流動パラフィン、イソパラフィン、スクワラン等の炭化水素油類;メチルポリシロキサン等のシリコーン油類、及びこれらの混合物(例えば、水を含むアルコール類)等を使用することができ、本発明の抗菌・抗黴組成物をこれらの液体中に分散させる。この際、必要に応じて各種の補助成分を添加溶解させることができる。補助成分としては、非イオン、アニオン又はカチオン界面活性剤、着色剤、粘度調節剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料、抗菌・抗黴剤、防腐剤、生理活性物質等を挙げることができる。
【0019】
ゲル状担体としては、例えば、寒天、カラギーナン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、糊、アルギン酸、ポリビニルアルコール、デキストリン、金属石けんゲル等が挙げられる。本発明の抗菌・抗黴組成物をゲル状担体に保持させる方法としては、あらかじめ生成したゲル状物質に本発明の抗菌・抗黴組成物を混合分散させる方法の他、ゲル状物質の製造時、特にゲル状物質を製造するための原料に本発明の抗菌・抗黴組成物を添加する方法等がある。
【0020】
固体状担体としては、無機又は有機多孔性物質を使用することができ、このような無機多孔性物質としてはケイソウ土、黄土、粘土、素焼き物、タルク、スクメタイト、モンモリナイト、炭酸カルシウム、ゼオライト、アタパルジャイト、セピオライト、シリカ、シリカゲル、アルミナ、マグネシア、シリカアルミナ、シリカマグネシア、合成アルミノシリケート等が挙げられる。有機多孔性物質としては活性炭、濾紙等の紙、セルロース加工品、木材加工品、ポプリ(乾燥した草木、花卉等)、不織布、織布、デキストリン等が挙げられる。これらの多孔性物質としては、粉末状、ビーズ状、ペレット状、球状、円柱状、円筒状物等の種々の形状のものを用いることができる。また、その他の固体状担体として、各種の合成樹脂製のシート、繊維、建材中に含浸あるいは練り込み等によって保持させることもできる。その際に、有効成分として多孔性物質に保持させたものや、マイクロカプセル封入したものを使用することもできる。
【0021】
医薬品、医薬部外品、化粧品、家庭用品、雑貨等においては、本発明の抗菌・抗黴組成物は、トリクロサン微粒子として1〜7000ppm、更に7〜5000ppm、特に25〜1000ppmの濃度で使用されることが抗菌・抗黴効果の点から好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0023】
製造例 トリクロサン微粒子分散液の調製
(1)溶液の調製
A. トリクロサン溶液(濃度400mg/L)
100mLメスフラスコに固体粉末のトリクロサン(Ciba Specialty Chemicals inc.)40mgとり、0.1M水酸化ナトリウム水溶液(キシダ化学)20mLを加えて溶解したのち、イオン交換水を加え100mLとした。
B. HEPES溶液
100mLメスフラスコにHEPES(和光純薬)2.383gをとり、イオン交換水を加え溶解し100mLとした。
C. HEPESバッファ(0.05M)
100mLメスフラスコにHEPESを2.383gとり、イオン交換水を加え溶解し100mLとした。別の100mLメスフラスコに0.1M水酸化ナトリウム水溶液を20mLとりイオン交換水を加え溶解し100mLとした。両者をビーカー内で混合した。
【0024】
(2)調製装置
3本の30mLプラスチックシリンジをそれぞれA液、B液、C液用に用いる。それぞれ先端に孔径0.22μmのメンブレンフィルターを装着した。それぞれをマイクロシリンジポンプ(kd Scientific社製)に取り付けた。それぞれのシリンジ出口(フィルター出口)には、長さ20cm、内径0.8mmのPTFE製チューブを接続した。A液のチューブとB液のチューブを内径0.15mmのT字継手(ジーエルサイエンス)に接続した。T字継手の向きはA液とB液が正面衝突する向きとする。T字継手の残る一方には長さ10cm、内径0.8mmのPTFE製チューブを接続し、これとC液のチューブを内径1.3mmのT字継手(スウェジロック)に接続した。接続の向きは2液が正面衝突するようにした。T字継手の残る一方に長さ10cm、内径0.8mmのPTFE製チューブを接続し、その先端をサンプリング口とした。
【0025】
(3)トリクロサン微粒子分散液の調製
配管部分を事前にオートクレーブ内で滅菌した。滅菌後、シリンジへ液を充填し液体状態のトリクロサン微粒子を分散させた液(トリクロサン微粒子分散液)の調製を開始した。
マイクロシリンジポンプにより、A液およびB液を3mL/min、C液を42mL/min送液した。送液開始後1分待った後、サンプリング口より適量サンプリングし、トリクロサン微粒子分散液を得た。このときサンプリングした液中のトリクロサン濃度は25mg/L、HEPESバッファ濃度は0.05M、pHは7であった。
得られた分散液中のトリクロサン微粒子の有効平均粒子径を動的光散乱度計(大塚電子社製 型番:ELS−Z2)により測定したところ、調製後1分で200nm、2時間静置後で2300nm、6時間静置後で2711nmであった。
なお、当該粒子径200nmのトリクロサン微粒子を含有する分散液を本発明品1とし、2300nmのトリクロサン微粒子を含有する分散液を本発明品2とし、2711nmのトリクロサン微粒子を含有する分散液を本発明品3とする。
【0026】
比較例 溶解状態トリクロサン含有液の調製
固体粉末のトリクロサンを、100%ジメチルスルホキシドにて溶解した後、ボルテックスを用いて激しく攪拌しながら滅菌水で希釈することにより、終濃度5000 ppmのジメチルスルホキシド溶液を含む、溶解状態のトリクロサンを含有する液体(溶解状態トリクロサン含有液)を調製した(比較品)。
【0027】
試験例1
大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)を用いて抗菌活性を評価した。
30℃で一夜培養したソイビーン カゼイン ダイジェスト アガー(Soybeancasein Digest Agar(SCDA))平板(和光純薬工業)上の大腸菌の菌体を一白金耳で掻き取り、滅菌生理食塩水に懸濁して接種菌液とした。
当該菌液10μLに、上記により得られた本発明品1、本発明品2又は比較品を、それぞれ10分間接触した。接触後の菌数のLog減少量から、抗菌活性を比較した。
【0028】
また、上記本発明品1が液体状態であることは、高濃度トリクロサン微粒子分散液を遠心分離(3000×g、20分、20℃、日立工機(株)製CR7、ロータ:R7AF2)することで得られた沈殿物の状態を肉眼で観察した結果、液体状態であったことから判断した。結果を図1に示す。具体的には、遠心分離後のボトル内底部に沈殿した物質をスパーテルですくい、図1に示すプラスチックトレーに移す際に、この物質の流動性や粘性を目視で観察することにより液体状態であると判断した。
また、上記本発明品1を調製後2時間静置したものを偏光顕微鏡(KEYENCE デジタルマイクロスコープVHX-500、450倍)で観察したところ、偏光が確認されず、形状が真球であった(図2)。従って、この微粒子が液体状態であることが示唆された。
【0029】
接触後の試験液をレシチン ポリソルベート(Lecithin Polysorbate)を用いて希釈することで試験液を不活性化し、ソイビーン カゼイン ダイジェスト レシチン ポリソルベート アガー(Soybean Casein Digest - Lecithin Polysorbate Agar)に塗布、30℃で1晩培養して得られたコロニー数を測定することで、試験時の生残菌数を算出した。一方で、接種菌液を希釈してSCDAに塗布、30℃で1晩培養して得られたコロニー数を測定することで、初発菌数を算出した。この初発菌数に対する生残菌数の減少菌数をLogで表現することで菌数のLog減少量とした。結果を表1に示す。
尚、比較品は100%プロピレングリコールにトリクロサンを溶解した後、0.05M HEPESバッファにて希釈し、調製した。
【0030】
【表1】

【0031】
本発明品1は、トリクロサン量25ppm、50ppm、100ppmにおいて、比較品より顕著な抗菌活性がみられた。
本発明品2は、トリクロサン量25ppmにおいて、比較品より高い抗菌活性がみられ、トリクロサン量50ppm、100ppmにおいて比較品より顕著な抗菌活性がみられた。
【0032】
試験例2
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)を用いて抗菌活性を評価した。
菌体を黄色ブドウ球菌とする以外は試験例1と同様にして試験を行い、接触後の菌数のLog減少量から、抗菌活性を比較した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
本発明品1は、トリクロサン量25ppm、400ppmにおいて、比較品より顕著な抗菌活性がみられた。
本発明品2は、トリクロサン量25ppmにおいて、比較品より高い抗菌活性がみられ、トリクロサン量400ppmにおいて比較品より顕著な抗菌活性がみられた。
【0035】
試験例3
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)を用いて評価した。
菌体を緑膿菌とする以外は試験例1と同様にして試験を行い、接触後の菌数のLog減少量から、抗菌活性を比較した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
本発明品1及び2は、トリクロサン量25ppmにおいて、比較品より高い抗菌活性がみられた。また、トリクロサン量400ppmにおいて、緑膿菌に対する顕著な抗菌活性を得た。
よって、本発明の液相化トリクロサン含有組成物は、優れた抗菌性を有し、且つ緑膿菌に対しても抗菌活性を有する。
【0038】
試験例4
アオカビ(Penicillium citrinum NBRC 6532)を用いて評価した。
菌体をアオカビの胞子液とする以外は試験例1と同様にして試験を行い、接触後の菌数のLog減少量から、抗黴性を比較した。結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
一般的にトリクロサンは、アオカビに対し有効でないとされており、比較品1では抗黴活性がみられなかった。
一方、本発明品1及び2では、トリクロサン量25ppmにおいて、アオカビに対する抗黴作用がみられた。また、トリクロサン量200ppm、400ppmにおいて、アオカビに対する顕著な抗黴活性を得た。
【0041】
よって、本発明のトリクロサン微粒子含有組成物は、優れた抗黴作用を有する。
【0042】
試験例5 様々な菌を用いた抗菌性試験
クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides NBRC6348)、アオカビ(Penicillium citrinum NBRC6352)、キャンディダ(Candida albicans NBRC1061)、アルカリジェネス(Alcaligenes faecalis NBRC13111)、クレブシエラ(Klebsiella pneumoniae NBRC14940)、プロテウス(Proteus vulgaris NBRC3167)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、シュードモナス(Pseudomonas putida NBRC14164)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)、セラチア(Serratia marcescense NBRC12648)、バチルス(Bacillus cereus (分離株)、Bacillus coagulans(分離株))、及び大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)を用いて抗菌活性を評価した。
尚、NBRC株はNITE biological research centerより購入した。
【0043】
アルカリジェネス(Alcaligenes faecalis NBRC13111)、クレブシエラ(Klebsiella pneumoniae NBRC14940)、プロテウス(Proteus vulgaris NBRC3167)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、シュードモナス(Pseudomonas putida NBRC14164)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)及びセラチア(Serratia marcescence NBRC12648)については、菌体を変える以外は試験例1と同様にして接種菌液を調製した。
クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides NBRC6348)とアオカビ(Penicillium citrinum NBRC6352)については、ポテト デキストロース アガー(Poteto Dextrose Agar(PDA))平板培地(ディフコ社)を用いて25℃で1週間培養した後でツイン80(東京化成工業)を用いて胞子液を調製し、接種菌液とした。また、Candida albicansはグルコース ペプトン アガー(Glucose Pepton Agar(GPA))平板培地(和光純薬工業)上で30℃で3日間培養した菌を用いて試験例1と同様にして接種菌液を調製した。
【0044】
当該菌液10μLと25、100、200、400 ppmの上記本発明品1又は比較品を10分間接触した。接触後の菌数のLog減少量が1以上となるトリクロサン濃度(ppm)を比較することで、抗菌性を比較した。結果を下記表5に示す。
尚、比較品は100%プロピレングリコールにトリクロサンを溶解した後、0.05M HEPESバッファにて希釈することで調製した。
【0045】
【表5】

【0046】
本発明品(粒径200nm)は上記の全ての菌に対して、比較品よりも顕著な抗菌活性が見られた。
【0047】
試験例6 粒径依存的な抗菌性の変化
様々な粒径のトリクロサン微粒子を調製して抗菌活性を比較した。トリクロサン濃度25ppmで試験を行った。菌体を大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)とし、粒径200nm(本発明品1)、2300nm(本発明品2)、2711 nm(本発明品3)のトリクロサン微粒子を用いた以外は試験例1と同様にして試験を行い、接触後の菌数のLog減少量から、抗菌性を比較した。結果を表6に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
全ての粒径で抗菌活性が認められたが、200nmでは著しく高い抗菌活性が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状態のトリクロサン微粒子を含有する抗菌・抗黴組成物。
【請求項2】
トリクロサン微粒子の有効平均粒子径が10nm〜5000nmである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
菌又は黴が、緑濃菌(Pseudomonas aeruginosa)、アオカビ(Penicillium citrinum)、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から選ばれる菌又は黴である請求項1又は2記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63528(P2011−63528A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214252(P2009−214252)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】