説明

トリフルオロメタンの選択的処理方法、処理ユニットおよび該処理ユニットを用いた試料処理システム

【課題】 CHFを含む試料から、簡便で、効率よく、かつ選択的にCHFを処理する方法、処理ユニットおよび該処理ユニットを用いた試料処理システムを提供すること。
【解決手段】 酸化アルミニウムを主剤とする吸着剤の選択的吸着機能を利用することを特徴とする。また、2種類以上の吸着剤を用いて段階的に処理し、前段の1つに合成ゼオライトを主剤とする試剤を用い、後段に酸化アルミニウムを主剤とする試剤を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルオロメタンの選択的処理方法、処理ユニットおよび該処理ユニットを用いた試料処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマエッチングプロセス等半導体製造プロセスにおいては、排ガスとして水分、二酸化炭素(CO)およびトリフルオロメタン(CHF)、CF、C、C等のフルオロカーボン(FC)などが排出される。このうち、CHFは地球温暖化ガスの一つであるため、様々な処理方法により分解・変性して大気に放出する必要がある。一般的に、CHFを含むこれらのFCを無害化する技術として燃焼法やプラズマ法などが利用されている。また、マイクロ波によるFCの分解方法も提案されている。
(1)燃焼法とは、FCを含むガスを高温で燃焼させ、FCをCOやフッ化水素(HF)に変換し処理する方法である。
(2)プラズマ法とは、コロナ放電や無声放電を利用し、放電プラズマによってFCを他の物質に分解処理する方法であって、具体的には、FCを含む試料をコロナ放電に暴露させる一方、分解されるFCより高いイオン化ポテンシャルをもつキャリヤーガスに共存させて分解する方法が提案されている。キャリヤーガスには、酸素や水素あるいは水が含まれている(例えば特許文献1参照)。
(3)マイクロ波によるFCの分解方法とは、アプリケータ内でマイクロ波をあててマグネタイトを発熱させ、この発熱状態にあるマグネタイトにFCを接触させることによってFCを分解する方法である(例えば特許文献2参照)。
【0003】
一方、FCを回収する技術についても検討され、いくつか提案されている。例えば、以下のような吸着剤を使用した回収技術が提案されている。
(4)吸着剤として活性炭を使用したパーフルオロカーボン,ハイドロフルオロカーボン等の回収技術が開示されている(例えば特許文献3参照)。
(5)ハイドロフルオロカーボン等の冷媒を種々の吸着材に吸着,脱着させて熱サイクルに利用する吸着式ヒートポンプの技術が開示されている(例えば特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−323147号公報
【特許文献2】特開平6−293501号公報
【特許文献3】特開2000−117052号公報
【特許文献4】特開2000−35256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記処理方法の適用には、以下のような課題が生じることがあった。
(1)燃焼法では、同時に窒素酸化物(NOx)も発生するため、このNOxの処理にさらなる施策が必要となる。さらに、HFについても水等による処理を実施するため、この処理水は強酸性を示すことから中和処理等が必要となる。また、燃焼用の原料ガスとして大量の空気が使用され、こうしたガスを高温にするために必要となるエネルギーは多大であり、燃焼装置出口排ガスの処理も大掛かりな機構が必要となる。
(2)プラズマ法では、FCをプラズマにより分解するためプラズマ発生に必要となるエネルギーは大きい。また、FC等の完全な除去は難しく、さらに入口のFC濃度によってFCの除去効率が大きく異なるという課題があり、適用は難しい。
(3)マイクロ波によるFCの分解方法では、高価なマイクロ波発生装置を必要とし、かつ反応容器もマイクロ波がよく透過する耐熱材質に制限されるという問題があった。マイクロ波がよく透過する耐熱材料にはセラミックス系のものがあるが、これらはフッ素と反応して材質が劣化するものが多い。従って、工業的に安価にかつ安定してFCの分解を行うには、いま一つ問題があった。
(4)活性炭を吸着剤とした場合、CF,C等の回収が可能であるとの開示はあったが、CHFの除去や回収については開示されておらず不明である。また、FC全体としての回収を意図したものであり、分別して回収するものではなく、特に活性炭を吸着剤とする場合には、CF,C等が混在する試料からCHFを選択的に除去や回収をすることは、本発明者の実証においても不可能であった。
(5)吸着式ヒートポンプの技術においては、冷媒として使用するFCを対象とするものであり、他の成分との選択的回収を必要とせず、FCの濃度は約100%であり、低濃度での選択的除去や回収を目的とする技術に適用することはできない。
【0006】
上記のように、FCの除去方法や回収方法には様々な方法があるが、CHFの選択的除去や回収については、そうした観点に主眼を置いていないため、その選択的除去や回収のレベルは不完全であった。一方、他のFC成分に影響を与えずに選択的に除去や回収をすることは、同様に他のFC成分の回収や再利用あるいは資源の有効活用による環境保全への寄与を可能とすることから、こうした観点からのCHFの選択的除去の要請が強くあった。
【0007】
本発明の目的は、CHFを簡便な方法により選択的に除去や回収する技術を提供すること、つまり、少なくとも水分、CO、CHFおよび飽和結合からなるFC(以下「飽和FC」という。)あるいは不飽和からなるFC(以下「不飽和FC」という。)を含む試料から、簡便で、効率よく、かつ選択的にCHFを処理する方法、処理ユニットおよび該処理ユニットを用いた試料処理システムを提供することである。
【0008】
なお、ここで、「処理」とは、試料中から化学的あるいは物理的に除去や回収すること、さらには他の物質への可逆的な変換などを含む広い概念であり、除去や回収に限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示すCHFの選択的処理方法、処理ユニットおよび該処理ユニットを用いた試料処理システムによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、試料中のトリフルオロメタンを選択的に処理する方法であって、酸化アルミニウムを主剤とする吸着剤の選択的吸着機能を利用することを特徴とする。
【0011】
CHFの選択的な除去や回収等の処理においては、従前の一般的なFCの除去の方法の適用はできないことは、上記の通りであった。本発明者は、種々の物理的あるいは化学的手法によって、CHFの選択的な処理方法を検証した結果、酸化アルミニウムを主剤とする吸着剤が選択的吸着機能を有し、FC等が共存する試料に対しても適用することが可能であることを見出した。
【0012】
つまり、CHFの回収には物理的吸着を用いた方法が好ましく、具体的な吸着剤の選定においては、後述するように、1つには、静的な吸着特性の把握として、吸着等温線を基に、特定の吸着剤に対する特定物質の吸着能力および選択性の検証を行った。酸化アルミニウムを含む種々の吸着剤について、CHFを含む種々の成分に対する吸着等温線を取得した。また、こうした静的な吸着特性に加え、(a)静的な吸着容量が大きな成分であっても、吸着速度が遅い場合には、動的な吸着量は小さくなること、および(b)共存する成分が種々ある場合には、他の成分の競合吸着によって、動的な吸着能力が小さくなることから、特定の吸着剤に対する特定物質の動的な吸着特性を検証した。本発明においては、このようないくつかの観点から検証した結果、水分、COおよびCHF、CF、C等のFCなどを含む試料におけるCHFに対する選択的吸着機能は、酸化アルミニウムが最も優れており、かつ実用に耐える選択性を有することを実証した。
【0013】
また、酸化アルミニウムによるCHFの可逆的物理吸着によって、該吸着剤からのCHFの脱離によるCHFの選択的濃縮操作も可能となり、CHFの個別回収も可能となった。従って、CHFを簡便で効率よく、かつ選択的に除去や回収する方法を提供することが可能となった。
【0014】
本発明は、上記トリフルオロメタンの選択的処理方法であって、前記試料が、少なくとも水分、二酸化炭素、トリフルオロメタンおよび他の飽和結合あるいは不飽和結合からなるフルオロカーボンを含むものであって、
前記吸着剤として、2種類以上の吸着剤を用いて段階的に処理し、前段の1つに合成ゼオライトを主剤とする試剤を用い、後段に酸化アルミニウムを主剤とする試剤を用いることを特徴とする。
【0015】
酸化アルミニウムは、吸着剤としてCHFに対する選択性を有することから、水分、COおよびCF、C等のFCなどを含む試料であっても、CHFを他の共存成分に殆んど影響を与えずに除去することができる。しかしながら、試料には、CHFと比較して数倍〜数十倍の濃度の水分やCOを含むことがあることから、酸化アルミニウムでのCHFとの競合吸着を生じることがあり、特にCHFの回収を図るときには、吸着剤から脱離したガスからさらにこうした不純物を除去する必要がある。本発明においては、吸着剤として、前段に合成ゼオライトを設けて水分やCOを選択的に除去することによって、後段の酸化アルミニウムでの競合吸着を防止し、さらにCHFの選択的吸着能力を高めることが可能となった。従って、CHFをさらに効率よく、かつ選択的に除去や回収することが可能となった。
【0016】
本発明は、上記トリフルオロメタンの選択的処理方法であって、前記処理によってトリフルオロメタンを選択的に吸着させた前記吸着剤を、加熱することによって吸着したトリフルオロメタンを脱着させた後、該トリフルオロメタンをその標準沸点より低温条件下において凝縮液化させることによって回収することを特徴とする。
【0017】
酸化アルミニウムを主剤とする吸着剤のCHFに対する選択的吸着機能を利用することによって、試料中のCHFを効率よくかつ選択的に除去することができると同時に、純度の高いCHFを吸着剤に吸蔵することができる。しかしながら、上記のように、0.01〜0.1%程度という低濃度のCHFを含む試料からCHFを回収する場合においては、試料中に略同濃度の不純物を含むことから1段階の処理操作あるいは同種の複数段の処理操作によって、99%を超える高純度のCHFまで濃縮することは困難である。本発明においては、第1段階の吸着剤による吸着および該吸着剤からの脱離による選択的な濃縮に加え、低温液化凝縮分離による第2段階の凝縮操作を施すことによって、初めて高純度のCHFを効率よく安定的に回収することが可能となった。このときの液化温度は、CHFの標準沸点である−82.1℃を下回る−90〜−120℃が必要条件としなる。ここで、−90℃以下を「低温」といい、99%以上を「高純度」という。
【0018】
本発明は、上記トリフルオロメタンの選択的処理方法であって、前記吸着剤に吸着したトリフルオロメタンの脱着温度を250℃以上とすることを特徴とする。
【0019】
CHFの回収実務においては、如何に選択的に吸着剤に吸蔵させるか、と同時に吸着したCHFを如何に効率よく脱着させるかが重要である。吸着剤によっては、吸着特性と脱着特性が大きく異なることがあり、CHFの脱着においては、より高い脱離エネルギーを付加する必要があること等を考慮し、具体的な最適温度を検証した結果、後述するように、脱着温度を250℃以上とすることが好ましいことが実証された。こうした条件を確保することによって、後段での低温凝縮処理と相俟って高純度のCHFを効率よく安定的に回収することが可能となった。
【0020】
本発明は、上記吸着剤を充填する、トリフルオロメタンの処理ユニットであって、
(1)該処理ユニット内部に設けられ、試料導入部および試料供出部を有する空間部、
(2)該空間部を加熱する加熱部、
(3)前記空間部の中央に配設された、吸着剤を充填する充填部、
(4)前記空間部を前記充填部と接する2つ以上の空間に分け、各部を流通可能に仕切るガイド部、
(5)一端が前記試料導入部あるいは試料供出部のいずれかに接続されるとともに、前記充填部内において螺旋状に巻回され、前記ガイド部を介して前記充填部の外部に他端が配設された流路、
を有することを特徴とする。
【0021】
CHFの吸着効率を維持するためには、低温条件(吸着ユニット環境雰囲気温度以下)で処理することが好ましいと同時に、吸着熱を如何に排除するかが重要である。一方、CHFの脱着効率を維持するためには、高温条件を確保する必要がある。また吸着剤の多くが、常態として粉状物あるいは微粒子状物であることから、如何に均等かつ効率的に吸脱着条件を確保するかが重要である。本発明者は、こうした機能を確保するために、吸着剤の充填層内部に螺旋状管路を挿入し、該管路と吸着剤との熱交換機能を有した処理ユニットを構成した。また、ガイド部によって仕切られた充填層と接する空間からガイド部を介して試料を充填層に導入あるいは導出することによって、熱交換機能を有効に生かし、かつ均一に吸着剤と接触可能な機能を有した処理ユニットを構成することができる。つまり、吸着処理操作時には、充填層を通過した試料を螺旋状管路によって吸着熱を奪いながら導出することができ、脱着処理操作時には、螺旋状管路によって予熱された試料を充填層に導入することができる。また、試料を充填層と接する空間において一旦拡散した状態でガイド部を介して充填層に導入することによって、均一に吸着剤と接触することが可能となる。このような熱交換機能と拡散機能を有した処理ユニットを構成することによって、CHFを効率的に吸着、濃縮、脱着させることができる。
【0022】
本発明は、上記処理ユニットを用いた試料処理システムであって、
(1)少なくとも水分、二酸化炭素、トリフルオロメタンおよび他の飽和結合あるいは不飽和結合からなるフルオロカーボンを含む試料を、前記処理ユニットに導入し、トリフルオロメタンを選択的に吸着させる処理操作、(2)吸着したトリフルオロメタンを脱着させる処理操作、(3)該トリフルオロメタンをその沸点より低温条件下において凝縮液化させることによって回収する処理操作、を有することを特徴とする。
【0023】
上記のように、0.01〜0.1%程度という低濃度のCHFを含む試料から高純度のCHFを回収する場合においては、試料中にほぼ同濃度の不純物を含むことから、選択性の高い吸着処理操作によっても、99%を超える高純度のCHFまで濃縮することは困難である。本発明においては、吸着剤による選択的吸着処理操作および該吸着剤からの脱離による選択的な濃縮処理操作に加え、低温液化凝縮分離による凝縮操作を施すことによって、初めて高純度のCHFを効率よく安定的に回収することが可能となった。このように、上記処理ユニットの高い機能性を利用するとともに、さらに高度の濃縮処理との組合せによって、試料中のCHFをさらに効率よくかつ選択的に吸着、濃縮、脱着させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、CHFを含む試料から、簡便で、効率よく、かつ選択的にCHFを除去あるいは回収する方法、処理ユニットおよび該処理ユニットを用いた試料処理システムを提供することができる。特に、半導体製造プロセスの排ガスのように、水分、COおよびFCを含む試料からCHFを簡便な方法により選択的に除去あるいは回収する技術を提供することが可能となる。また、回収、精製されたCHFは、再度半導体製造プロセスにおいて使用することが可能であり、地球温暖化ガスであるCHFの排出削減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
本発明は、CHFを含む試料について、酸化アルミニウムを主剤とする吸着剤の選択的吸着機能を利用し、CHFを選択的に除去あるいは回収する方法であり、これに用いる処理ユニットおよび試料処理システムである。
【0026】
具体的には、例えば、プラズマエッチング等の半導体製造プロセス排ガスのように、水分、CO、CHF、CF、C、C等が含まれる試料からCHFを選択的に吸着し、除去あるいは回収する方法であり、これに用いる処理ユニットおよび試料処理システムである。ただし、半導体製造プロセスなどにおいては、プロセス直後のガスを試料とする場合と、排ガス処理(除害処理)前あるいは処理後のガスを試料とする場合によって、CHFの濃度あるいはその他の成分や濃度が大きく変化するが、高濃度の場合には、本システム導入前に不活性ガス(本システムで除去処理可能なガスが好ましい。)による希釈処理を行うことによって、本システムの機能を適切に利用することができる。
【0027】
ここで、酸化アルミニウム(Al)を主剤とする試剤とは、通常に使用されるα−アルミナやγ−アルミナ(活性アルミナ)そのものや、シリカアルミナやアルミナセラッミクスなどのような酸化アルミニウム混合物などを含む化合物をいう。また、これらの化合物を混合して使用することも好適である。粉状や粒状等形状は問わないが、処理ガスの圧力損失や後段での処理の負荷を考慮すると、粒状体あるいは粉状体をバインドした粒状体等が好ましく、また表面積を大きくして吸着活性を確保することが好ましい。
【0028】
以下、吸着剤の選択的吸着機能に関する検証事項と吸着剤の選定、こうした吸着特性をさらに効率的に利用できるようにしたCHFの処理ユニットの構成およびその吸着効率と選択性、およびこれを用いた試料処理システムについて詳述する。
【0029】
<吸着剤の選択的吸着機能の把握と吸着剤の選定>
吸着剤の選定においては、吸着剤と被吸着物質との静的な吸着特性および動的な吸着特性を把握する必要がある。つまり、静的な吸着特性としては、吸着等温線を基に、特定の吸着剤に対する特定物質の吸着能力および選択性を把握し、動的な吸着特性としては、実際の使用条件に近い温度、圧力や線速を設定し、このときの吸着剤に対する特定物質の吸着能力および選択性を把握することができる。
【0030】
(1)静的な吸着特性の把握
吸着剤と被吸着物質との静的な吸着特性を把握するためには、CHFに対する吸着等温線を検証する必要がある。一般には、図1に例示するような、IUPACの吸着等温線(Pure Appl.Chem.,57,603(1985))として6つのパターンが知られている。本発明のように0.01〜0.1%程度という低濃度のCHFに対しては、図1における(I),(II),(IV)あるいは(VI)のように、相対圧の低い条件においても吸着量の大きな特性を有する吸着剤が好ましい。水分やCOのような一般的に知られた物質ではないことから、活性アルミナ,シリカゲル,合成ゼオライト,活性炭など吸着剤の各々に対するCHFの吸着特性を比較した。
【0031】
具体的には、活性アルミナ,合成ゼオライト(4A)および活性炭に対する、CF、窒素(N)、CO、CHF、酸素(O)の吸着等温線を、図2〜4に示す。
(1−1)図2に示すように、活性アルミナの各種物質に対する静的吸着特性は、COおよびCHFの選択性があった。COに対する選択性から生じる吸着競合についての解析および対応については、後述する。
(1−2)図3に示すように、合成ゼオライト(4A)の各種物質に対する静的吸着特性は、CHFに対する選択性はほとんどなかった。
(1−3)同様に、活性炭の各種物質に対する静的吸着特性は、図4に示すように、CHFに対する選択性はなかった。
(1−4)シリカゲルについても同様にCHFに対する選択性はなかった(図示せず)。
(1−5)以上から、吸着剤の静的吸着特性から、活性アルミナのCHFに対する選択的吸着機能を推認することができる。
【0032】
(2)動的な吸着特性の把握
吸着剤と被吸着物質との動的な吸着特性を把握するためには、実際の使用条件に近い条件下における吸着剤に対するCHFの吸着能力および選択性を検証する必要がある。下記の実施例では、活性アルミナ,シリカゲル,合成ゼオライト,活性炭などの吸着剤について実証結果を示す。
【0033】
〔実施例1〕
実際にCHFの動的吸着特性を、図5に示す装置を用いて検証した。
(a)使用した吸着ユニット
内径33mm,長さ150mmのステンレス製の吸着筒に直径約2mmのビーズ状の活性アルミナ,シリカゲル,合成ゼオライト(4A)を充填し、また同様の吸着筒に破片状の活性炭を充填し、各々処理ユニット20とした。
(b)実験条件
(b−1)図5に示す装置に、吸着ユニット20をセットし、該吸着ユニット20に電気ヒータ20aを装着し、吸着ユニット20上方からNを流通させ、電気ヒータ20aにより吸着ユニット20を250℃に昇温した後、5Hrその温度を保持した。5Hr経過後、電気ヒータ20aをOFFにし、Nを流通させた状態で吸着ユニット20の冷却を行い、各吸着ユニット20の再生操作を実施した。
(b−2)再生後、0.1%CHF/Nバランスの標準ガス21を、減圧弁22により調圧し、マスフローコントローラ(堀場エステック社製、型式:SEC−4400MC−MK3)23により流量を調整し、コンプレッサ24を用いて圧力100kPaを調整した上で、操作温度300Kに維持された各処理ユニット20へ導入した。
(b−3)各吸着ユニット20出口のガス濃度を、フーリエ変換赤外分光測定装置(FT−IR、MIDAC社製、型式:Mシリーズ)25により計測し、CHFの破過をモニターすることにより、各種吸着剤の動的吸着特性(吸着量)を明らかにした。
(c)実験結果
実験結果を、下表1に示す。活性アルミナが、他の吸着剤と比較して非常に高い動的吸着能力を有することが判った。
【0034】
【表1】

【0035】
(3)吸着剤の選定
以上のように、静的な吸着特性および動的な吸着特性のいずれの面においても、活性アルミナ(酸化アルミニウム)が、CHFに対する優れた選択的吸着機能を有することから、これを吸着剤として選択した。
【0036】
(4)酸化アルミニウムの再生処理における温度特性
吸着剤(酸化アルミニウム)のCHFに対する安定な吸着能力を確保するためには、吸着剤の十分な再生処理が必要となる。吸着剤の再生処理には、上記〔実施例1〕のように、吸着剤を所定時間パージするとともに、パージ時に所定温度以上の高温状態を維持する必要がある。従って、CHFに対する吸着剤の再生処理における温度特性、つまり、再生処理温度に対する再生後の動的な吸着特性を把握する必要がある。下記の実施例では、活性アルミナについての実証結果を示す。
【0037】
〔実施例2〕
(a)使用した吸着ユニット
内径33mm,長さ150mmのステンレス製の吸着筒に直径約2mmのビーズ状の活性アルミナを充填した。
(b)実験条件
(b−1)処理ユニット10の再生処理操作を行った。図5に示す装置に、吸着ユニット20をセットし、該吸着ユニット20に電気ヒータ20aを装着し、吸着ユニット20にNを流通させ、電気ヒータ20aにより吸着ユニット20を設定温度に昇温させた後、5Hrその温度を保持した。5Hr経過後、電気ヒータ20aをOFFにし、Nを流通させた状態で吸着ユニット20の冷却を行った。設定温度は、150℃、200℃、250℃、300℃とした。
(b−2)再生後、0.1%CHF/Nバランスの標準ガス21を、減圧弁22により調圧し、実施例1と同様マスフローコントローラ23により流量を調整し、コンプレッサ24を用いて線速0.5cm/sec,圧力0.3MPaGを調整した上で、操作温度300Kに維持された処理ユニット20へ導入した。
(b−3)吸着ユニット20出口のガス濃度を、実施例1と同様FT−IR25により計測し、CHFの破過をモニターすることにより、各設定温度での吸着剤の動的吸着特性を明らかにした。
(c)実験結果
実験結果を、図6に示す。100%の吸着処理が、150℃の再生処理では数分程度、同じく200℃では10分程度しか維持できず、250℃以上において約20分維持することができ、かつその経時特性が安定した。従って、吸着剤の再生処理温度を250℃以上とすることが好ましいことが判った。また、実動状態においては、吸着剤の再生は吸着したCHFの脱着操作つまり回収操作を意味することから、脱着温度を250℃以上とすることによって、高い脱着効率つまり回収効率を確保することができることが判った。
【0038】
<CHFの処理ユニット>
酸化アルミニウムを吸着剤とするCHFの処理ユニット(以下「処理ユニット」という。)は、CHFの吸着効率を確保するための低温条件の維持と同時に、吸着熱を如何に排除するかが重要であり、CHFの脱着効率を確保するための高温状態の維持・確保が必要である。また、吸着剤の多くが、常態として粒状体あるいは微粒子状物であることから、如何に均等かつ効率的に吸脱着条件を確保するかが重要である。本発明に係る処理ユニットは、こうした機能を確保するために、以下のような熱交換機能とガスの拡散機能の両方を備える構成とした。
【0039】
具体的には、図7(A)〜(D)に例示するように、試料導入部1および試料供出部2を有し、内部に吸着剤3を充填する充填層4を設けた空間部5を有するとともに、充填層4内部に螺旋状管路(熱交換流路)6を挿入することにより熱交換機能を有した処理ユニット10を構成した。これによって、順方向(吸着操作)における試料ガスによる吸着熱の放出、および逆方向(パージ操作)におけるパージガスの予熱が可能となった。また、螺旋状管路6の他端を拡散部7aまたは7bに配設し、充填層4を流通可能に仕切るガイド部8aまたは8bを介して、充填層4と相互に流通することによって、均一に吸着剤3を接触可能なガス流を形成することができる。このとき、必要な場合には、ガイド部8aまたは8bにフィルタを設ける、あるいはガイド部8aまたは8b自体を、焼結材等フィルタ機能を有する素材で構成することも好適である。また、空間部5の周囲には、処理ユニット10を加熱するための電気ヒータ9を配設し、吸着処理後の吸着剤の再生時あるいは吸着したCHFの回収時に利用する。
【0040】
図7(A)は、吸着処理操作を行う場合を例示する。CHFを含む試料を処理ユニット10の試料導入部1から導入すると、試料は、まず、拡散部7aにおいて緩衝された後、ガイド部8aを介して充填層4に導入され、充填されている酸化アルミニウムの吸着剤3と接触することによりCHFを吸着処理することができる。このとき、充填層4は低温ほど吸着能力が高い一方、試料中に水分が含まれる場合には凝縮する可能性があることから、処理ユニット10の環境温度あるいは試料条件に対応した温度に調整することが好ましい。CHFが除去された試料は、ガイド部8bを介して拡散部7bに導入され、螺旋状管路6を介して試料供出部2から供出される。このとき、充填層4において発生した吸着熱が螺旋状管路6を介して試料に伝達され、ともに処理ユニット外部へ供出される。
【0041】
図7(B)は、脱着処理操作を行う場合を例示する。試料の導入を停止した状態で、処理ユニット10を電気ヒータ9により加熱する。加熱温度は、後述するように250℃以上が好適である。加熱状態が安定すると、パージガス(例えばN)を、処理ユニット10の試料供出部2から導入する。パージガスは、熱交換流路6を流通した後、拡散部7bにおいて緩衝され、ガイド部8bを介して充填層4に導入される。熱交換流路6において予熱されたパージガスは、その温度を上昇され、その後加熱されている吸着剤3と接触することにより、吸着剤3に吸着されているCHFを効率よく脱着処理することができる。高濃度のCHFを含むパージガスは、試料導入部1から供出される。
【0042】
また、図7(C)のように、試料導入部1と試料供出部2が同方向に配設され、取り合いを容易にした構成や、図7(D)のように、二重の螺旋状管路6を形成することにより高い熱交換機能を確保することが可能な構成とすることも可能である。
【0043】
以上のように、処理ユニット10は、CHFの吸着、濃縮、脱離という物質移動の効率的な処理操作を可能にするとともに、吸着操作時の吸着熱の放出、パージ操作時のパージガスの予熱というエネルギー移動の効率的な処理操作を可能にする。
【0044】
処理ユニット10に導入する試料は、0.1〜2.0cm/s好ましくは0.2〜0.5cm/sの線速が好適である。また、処理ユニット10内の圧力は、少なくとも0MpaGを保持し、それ以上であることが好ましい。処理ユニット10の材質については、ニッケル材,ステンレス材等の金属材を使用することができるが、ステンレス材が好ましく、より好ましくはステンレス316材が好適である。
【0045】
ここで、処理ユニットとして実用するに際しては、2種類以上の吸着剤を用いて段階的に処理し、前段の1つに合成ゼオライトを主剤とする試剤を用い、後段に酸化アルミニウ
ムを主剤とする試剤を用いることが好適である。CHFを含む試料の中には、その数倍〜数十倍の濃度の水分やCOを含むことがあることから、吸着剤としての選択性が高くても、それを超える共存成分の存在は、酸化アルミニウムでのCHFとの競合吸着を生じることがあり、特にCHFの回収を図るときには、吸着剤から脱離したガスからさらにこうした不純物を除去する必要がある。そこで、水分やCOを選択的に除去する手段として合成ゼオライトを前段に設けることによって、酸化アルミニウムでの競合吸着を防止し、さらにCHFの選択的吸着能力を高めることが可能となる。ここで、前段の合成ゼオライトと後段の酸化アルミニウムを一体の処理ユニットとすることが可能であるが、CHFの選択的回収を行う場合は、別々の処理部で構成する方が処理操作上好ましい。
【0046】
<上記処理ユニットを用いた試料処理システム>
上記処理ユニットは、種々の成分が共存する試料からCHFを選択的にかつ効率的に吸着し除去する機能を有している。こうした機能は、(1)半導体製造プロセスの排ガスのように少なくとも水分、COおよびFCを含む試料に対して、排ガスの無害化のみならず、他の成分を回収する場合において非常に有用な手段となる。また、(2)こうして吸着されたCHFは、可逆的物理吸着によって、該吸着剤からのCHFの脱離によるCHFの選択的濃縮操作も可能となり、CHFの個別回収も可能となる。以下、上記処理ユニットを用いた試料処理システムにおけるこの2つの機能について詳述する。
【0047】
(1)CHFの選択的除去機能
CHFの選択的除去機能については、具体的に、酸化アルミニウムを吸着剤とする処理ユニットを用いた、以下の3つの処理システムにおける実施例について報告する。ここでは、試料中の水分とCOおよびCHFを吸着除去する第1吸着手段A1、主として飽和FCを分離除去するガス分離膜モジュールからなるガス分離手段A2、希ガス成分を吸着濃縮する第2吸着手段A3、不飽和FCと反応する反応剤が充填された反応手段A4のいずれかから構成される。第1吸着手段A1は、前段に細孔径4Å以下の合成ゼオライトを用いた処理部を設け、後段に上記処理ユニットを設けた場合を設定している。
【0048】
〔実施例3〕
(a)試料条件
テストガスとして、希ガス(Xe),水分,COが0.3%,3.1%,0.3%、およびFCとしてCF濃度1000ppm,CHF濃度100ppm,C濃度200ppm,C濃度500ppmの窒素バランスガスとし、流量を25slmに設定した。
(b)実験に用いた試料処理システム
図8に例示するように、第1吸着手段A1によって、水分とCOおよびCHFを除去し、ガス分離膜モジュールからなるガス分離手段A2によって、主として飽和FCを除去し、第2吸着手段A3によって、希ガス成分を濃縮除去する。精製された試料は、さらにいくつかの処理手段によって、精製され、排出される。このときの第1吸着手段A1の入口および出口の試料組成を測定した。測定には、FT−IR(MIDAC社製、型式:Mシリーズ、およびThermo−Nicolet社製、型式:AVATAR)を使用した。
(c)実験結果
下表2のように、CF、C、Cという他の成分に影響を及ぼすことなくCHFを選択的に除去することができ、かつCOも検出限界レベルまで除去することができた。
【0049】
【表2】

(単位:ppm)
【0050】
〔実施例4〕
(a)試料条件
テストガスとして、水分を含まないこと以外は、実施例3と同様に設定した。
(b)実験に用いた試料処理システム
図9に例示するように、最初にガス分離膜モジュールからなるガス分離手段A2によって、主として飽和FCを除去し、その後第1吸着手段A1によって、水分とCOを除去し、第2吸着手段A3によって、希ガス成分を濃縮する。精製された試料は、さらにいくつかの処理手段によって、精製され、排出される。このときの第1吸着手段A1の入口および出口の試料組成を測定した。測定には、実施例3と同様FT−IRを使用した。
(c)実験結果
上表2のように、第1吸着手段A1の入口においては、CHFやCOの濃度が高く、既にCFやCが除去されているという点において、実施例3と相違する点があったが、Cという他の成分に影響を及ぼすことなくCHFを選択的に除去することができ、かつCOも検出限界レベルまで除去することができた。
【0051】
〔実施例5〕
(a)試料条件
テストガスとして、水分およびCを含まないこと以外は、実施例3と同様に設定した。
(b)実験に用いた試料処理システム
図10に例示するように、最初に反応剤が充填された反応手段A4によって、不飽和FCを除去し、その後第1吸着手段A1によって、水分とCOおよびCHFを除去し、ガス分離膜モジュールからなるガス分離手段A2によって、主として飽和FCを除去し、第2吸着手段A3によって希ガス成分を濃縮する。精製された試料は、さらにいくつかの処理手段によって、精製され、排出される。このときの第1吸着手段A1の入口および出口の試料組成を測定した。測定には、実施例3と同様FT−IRを使用した。
(c)実験結果
上表2のように、CFという他の成分に影響を及ぼすことなくCHFを選択的に除去することができた。また水分とCOについては検出限界レベルまで除去することができた。
【0052】
(2)CHFの選択的濃縮回収機能
CHFの選択的濃縮回収機能については、上記(1)の処理ユニットによる選択的吸着処理操作を行った後、処理ユニットを加熱状態でパージして吸着したCHFを脱着させる処理操作を行い、該CHFを低温条件下において凝縮液化させて回収する処理操作を行うことによって、構成することができる。
【0053】
具体的に、本発明に係るCHFを回収する試料処理システムを図11に例示する。ビーズ状あるいはペレット状等に形成された活性アルミナが充填された処理ユニット10から脱着されたガスが、同様にビーズ状あるいはペレット状等に形成された合成ゼオライトが充填された吸着筒11を介して、液体窒素等の冷熱源を使用してCHFの標準沸点(−82.1℃)以下に冷却された凝縮器12に導入され、凝縮液化させて回収される。このとき、活性アルミナは、除湿等に使用される一般的なものである。また、合成ゼオライトは、3〜10Å程度の細孔径のものを使用することが可能であるが、好ましくは細孔径が4Å程度を使用することが好ましい。凝縮器12は、アルミニウム材,銅材,ステンレス材等が使用できるが、ガス状CHFを液化するために熱伝導の良いアルミニウム材を使用するのが好ましい。
【0054】
また、処理ユニット10および吸着筒11は、使用前に、電気ヒータ等で加熱した状態で、N等の不活性ガスを流通させて、各吸着剤の初期再生を実施することが好ましい。この時の再生温度は、上記のように250℃以上が好ましく、再生時間は1Hr以上好ましくは5Hr以上である。流通する不活性ガスの線速は、1cm/s以上好ましくは2cm/s以上である。処理ユニット10および吸着筒11は、連続稼動が可能なように、各々2筒以上用意することが好ましい。
【0055】
次に、半導体製造工程から排出される排ガス(試料)からのCHFの吸着処理から、順次その操作を説明する。
(2−1)試料は、マスフローコントローラ13およびコンプレッサ14によって、その流量および圧力が調整されて処理ユニット10に導入される。処理ユニット10では、試料中のCHFが主に吸着される。この時排ガス中に水分やCOが含まれている場合は、これらも吸着されるが、その他の排ガス成分は吸着されない。この時の処理ユニット10の圧力は、0〜0.9MPaGの範囲で、好ましくは0.2〜0.5MPaGである。また、流通するガスの線速は、0.1〜2.0cm/sで、好ましくは0.5〜1.0cm/sに調整する。
(2−2)CHFが処理ユニット10を破過する前に、もう一方の処理ユニット10切り替える。その後、CHFが吸着した処理ユニット10を不活性ガスと電気ヒータによる加熱再生をする。加熱温度は、250〜350℃である。
(2−3)次に、この再生ガスは、マスフローコントローラ15およびコンプレッサ16によって、その流量および圧力が調整されて吸着筒11に導入される。吸着筒11では、再生ガス中の水分とCOが吸着され、再生ガスから分離される。この時の吸着筒11の圧力は0〜0.9MPaGの範囲で、好ましくは0.2〜0.5MPaGである。また、流通するガスの線速は0.1〜2.0cm/sで、好ましくは0.5〜1.0cm/sに調整する。
(2−4)吸着筒11を通過した再生ガスは、−82.1℃以下に冷却された凝縮器12に導入される。この再生ガスは、不活性ガスとCHFから構成されるため、凝縮器12に導入すると、CHFのみが液化凝縮し、不活性ガスは凝縮器12から排出される。また、液化凝縮したCHFは液相から取り出すことにより精製される。
(2−5)処理ユニット10の再生が終了すれば、吸着筒11の再生を不活性ガスと電気ヒータにより実施する。この時の再生温度は、250〜350℃である。
(2−6)このようにして、半導体製造プロセスから排出されるCHFは、簡便な操作により回収・精製することができ、さらにこの回収精製したCHFは、再度半導体製造プロセスに使用することが可能となる。
【0056】
次に、具体的に、酸化アルミニウムを吸着剤とする処理ユニットを用いた、以下の3つの試料処理システムにおける実施例について報告する。
【0057】
〔実施例6〕
図12に例示するように、1つの処理ユニット10を用いて実験した。
(a)使用した処理ユニット
内径33mm,長さ150mmのステンレス製の吸着筒に直径約2mmのビーズ状の活性アルミナを充填した。
(b)実験条件
(b−1)予め処理ユニット10の再生処理操作を行った。処理ユニット10にNを流通させて250℃に昇温した後5Hrその温度を保持した。5Hr経過後加熱を停止し、Nを流通させた状態で吸着筒の冷却を行った。なお、この時のNの線速は2.0cm/sである。なお、昇温は2段階に分けて行うことが好ましい。つまり、第一昇温として100℃とし、100℃到達後1Hr以上その温度を保持した後、第二昇温として250℃までの昇温を実施した。
(b−2)次に、処理ユニット10へのCHFの吸着処理操作を行った。マスフローコントローラ13とコンプレッサ14を用いて流量および圧力を調整し、0.1%CHF/Nバランスの標準ガス17を処理ユニット10に導入した。処理ユニット10の圧力を0.3MPaG,導入ガスの線速を0.5cm/sに調整し、CHFを吸着させた。
(b−3)その後、標準ガスの供給を停止し、吸着筒圧力が0MPaGになるまで吸着筒内ガスを放出した。なお、この時の放出ガスを実施例1と同様FT−IRにより計測したが、放出ガス中のCHF濃度は1ppm以下であった。
(b−4)次に、CHFの脱着処理操作を行った。処理ユニット10を、電気ヒータにより250℃まで昇温し、Nガスをこの処理ユニット10へ導入した。
(b−5)同時に、CHFの凝縮回収処理操作を行った。予め内容積0.3Lのアルミニウム製の凝縮器12を、液体窒素を用いて−90℃に冷却しておく。処理ユニット10から排出されたNガスは凝縮器12へ導入され、CHFが液化する。なお、この時のNガス線速は1.0cm/sである。
(c)実験結果
この時のCHFの回収精製率を[導入CHF量]/[液化CHF量]で定義すると、0.95以上であった。
【0058】
〔実施例7〕
図13に例示するように、吸着筒11を処理ユニット10と凝縮器12の間に配置し、実験した。
(a)使用した処理ユニットおよび吸着筒
処理ユニット10は、上記〔実施例6〕と同様のものを使用し、吸着筒11は、内径33mm,長さ150mmのステンレス製の吸着筒に直径約2mmのビーズ状のゼオライト(細孔径4Å)を充填した。
(b)実験条件
(b−1)上記〔実施例6〕と同様の方法で、初期再生を実施した。
(b−2)次に、処理ユニット10へのCHFの吸着処理操作を行った。水分,CO,CHF,CF,C各0.1%/Nバランスを組成とする試料を、処理ユニット10に導入した。処理ユニット10においては、CHFが吸着するとともに、CHF以外に水分およびCOも吸着された。
(b−3)次に、CHFの脱着処理操作を行った。処理ユニット10を、上記〔実施例6〕と同様の方法でパージし、パージガスを吸着筒11に導入した。このパージガスには水分やCOおよびCHFが含まれており、吸着筒11において水分およびCOが吸着除去される。
(b−4)その後CHFの凝縮回収処理操作を行った。吸着筒11を排出するガスは冷却された凝縮器12に導入され、ここでCHFが液化する。
(b−5)なお、以上の操作において、処理ユニット10および吸着筒11の圧力および線速,凝縮器12の冷却温度は、実施例1と同様である。
(c)実験結果
この時のCHFの回収精製率は0.95以上であった。
【0059】
〔実施例8〕
上記〔実施例6〕および〔実施例7〕と同様の実験において、処理ユニット10に導入するガス中のCHF濃度を0.01%及び1.0%に変更して実施した。その結果は、上記〔実施例6〕および〔実施例7〕の結果と同等であった。
【0060】
以上のように、上記試料処理システムによれば、CHFを含む試料から、簡便で、効率よく、かつ選択的にCHFを除去あるいは回収することができることを実証した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明に係るCHFの選択的処理ユニットおよびこれを用いた試料処理システムは、例えば半導体製造プロセス排ガス中の水分やCOおよび種々のFCが含まれる試料から、CHFを機能的に除去あるいは回収する場合のみならず、高純度な希ガスあるいは特定の他の成分を回収精製する場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】IUPACの吸着等温線を示す概略図。
【図2】活性アルミナの各種物質に対する静的吸着特性を例示する概略図。
【図3】合成ゼオライト(4A)の各種物質に対する静的吸着特性を例示する概略図。
【図4】活性炭の各種物質に対する静的吸着特性を例示する概略図。
【図5】CHFの動的吸着特性を実証するための装置を例示する概略図。
【図6】CHFの動的吸着特性を例示する概略図。
【図7】本発明に係るCHFの処理ユニットを例示する概略図。
【図8】CHFの選択的除去機能を実証するための装置を例示する概略図。
【図9】CHFの選択的除去機能を実証するための装置を例示する概略図。
【図10】CHFの選択的除去機能を実証するための装置を例示する概略図。
【図11】本発明に係るCHFを回収する試料処理システムを例示する概略図。
【図12】本発明に係る試料処理システム(実施例6)を例示する概略図。
【図13】本発明に係る試料処理システム(実施例7)を例示する概略図。
【符号の説明】
【0063】
1 試料導入部
2 試料供出部
3 吸着剤
4 充填層
5 空間部
6 螺旋状管路(熱交換流路)
7a,7b 拡散部
8a,8b ガイド部
9 電気ヒータ
10 処理ユニット
11 吸着筒
12 凝縮器
13,15 マスフローコントローラ
14,16 コンプレッサ
17 標準ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のトリフルオロメタンを選択的に処理する方法であって、酸化アルミニウムを主剤とする吸着剤の選択的吸着機能を利用することを特徴とするトリフルオロメタンの選択的処理方法。
【請求項2】
前記試料が、少なくとも水分、二酸化炭素、トリフルオロメタンおよび他の飽和結合あるいは不飽和結合からなるフルオロカーボンを含むものであって、
前記吸着剤として、2種類以上の吸着剤を用いて段階的に処理し、前段の1つに合成ゼオライトを主剤とする試剤を用い、後段に酸化アルミニウムを主剤とする試剤を用いることを特徴とする請求項1記載のトリフルオロメタンの選択的処理方法。
【請求項3】
前記処理によってトリフルオロメタンを選択的に吸着させた前記吸着剤を、加熱することによって吸着したトリフルオロメタンを脱着させた後、該トリフルオロメタンをその標準沸点より低温条件下において凝縮液化させることによって回収することを特徴とする請求項1または2記載のトリフルオロメタンの選択的処理方法。
【請求項4】
前記吸着剤に吸着したトリフルオロメタンの脱着温度を250℃以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトリフルオロメタンの選択的処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに係る吸着剤を充填する処理ユニットであって、
(1)該処理ユニット内部に設けられ、試料導入部および試料供出部を有する空間部、
(2)該空間部を加熱する加熱部、
(3)前記空間部の中央に配設された、吸着剤を充填する充填部、
(4)前記空間部を前記充填部と接する2つ以上の空間に分け、各部を流通可能に仕切るガイド部、
(5)一端が前記試料導入部あるいは試料供出部のいずれかに接続されるとともに、前記充填部内において螺旋状に巻回され、前記ガイド部を介して前記充填部の外部に他端が配設された流路、
を有することを特徴とするトリフルオロメタンの処理ユニット。
【請求項6】
請求項5に係る処理ユニットを用いた試料処理システムであって、
(1)少なくとも水分、二酸化炭素、トリフルオロメタンおよび他の飽和結合あるいは不飽和結合からなるフルオロカーボンを含む試料を、前記処理ユニットに導入し、トリフルオロメタンを選択的に吸着させる処理操作、
(2)吸着したトリフルオロメタンを脱着させる処理操作、
(3)該トリフルオロメタンをその沸点より低温条件下において凝縮液化させることによって回収する処理操作、
を有することを特徴とする試料処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−136935(P2008−136935A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325365(P2006−325365)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】