説明

トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの精製方法

【課題】本発明によれば、電解フッ素化で製造したトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、3工程を経ることにより、高選択率かつ高純度で効率良く製造できる。また、該目的物を繰り返して製造することも可能であり、工業的規模で製造する上で非常に優れた方法である。
【解決手段】トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る。次いでトリフルオロメタンスルホン酸に三塩化リン(PCl3)及び塩素(Cl2)を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)を得る。次いでトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させることにより、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成や医農薬、電子材料分野における中間体の製造原料、及びフッ素化試剤として有用なトリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CF3SO2F)の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを初めとする、含フッ素アルカンスルホニルフルオリドの製造方法として、電気化学的フッ素化する方法が従来から知られている。例えば、特許文献1には、無水フッ酸中でメタンスルホニルクロリド(CH3SO2Cl)を電解フッ素化させて製造する方法が開示されている。また、特許文献2においては、無水フッ化水素の存在下で、α,β-ジフルオロアルカン-β-スルトン、及び対応するα-ハロカルボニルフルオロアルカンスルホニルハロゲン化物の電気化学的フッ素化より得られる反応が開示されている。
【0003】
一方、近年、電気化学的フッ素化を用いない手法として、以下に挙げられる方法で製造がなされてきた。例えば、特許文献3において、パーフルオロオレフィンを出発原料として、無水硫酸と反応させ、パーフルオロアルカンスルトンを経由した後、加水分解させてモノヒドロパーフルオロアルカンスルホニルフルオリド(Rf−CHF−SO2F)に誘導させ、続いてフッ素又はフッ素を含むガスと反応させることによりパーフルオロアルカンスルホニルフルオリド(Rf−CF2−SO2F)を製造する方法が、また特許文献4では、アルカンスルホニルフルオリドとフッ素を含むガスと反応させることで、ペルフルオロアルカンスルホニルフルオリド又はヒドロフルオロアルカンスルホニルフルオリドを製造する方法が開示されている。
【0004】
また、本発明と関連する技術分野として、特許文献5や特許文献6ではフルオロカーボンスルホン酸フルオリドと水酸化カリウム溶液で加水分解し、さらに酸処理して蒸留することでフルオロカーボンスルホン酸を得る方法が、そして特許文献7−9では、トリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン及び塩素、オキシ塩化リン等を作用させて対応するスルホニルクロリドを得る製造方法が開示されている。また、特許文献10では、有機−水相において、スルホン酸ハライドを無機フッ化物と反応させることによるスルホン酸フルオリドの製造方法において、反応を触媒量のアミン又はオニウム塩の存在下で実施する方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許第2732398号明細書
【特許文献2】特表平8−512095号公報
【特許文献3】国際公開第2004−096759号公報
【特許文献4】特開2003−206272号公報
【特許文献5】特公昭30−4218号公報
【特許文献6】特開平1−061452号公報
【特許文献7】特開2000−191634号公報
【特許文献8】特開2000−191635号公報
【特許文献9】特開2000−264871号公報
【特許文献10】特開昭51−125322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に挙げた特許文献1や特許文献2(電解フッ素化)では、反応時に、反応溶液に約20vol%のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドと約80vol%の水素との混合ガスが電解槽より発生する。酸化性ガスが0.1%〜0.2%含有している為、水素ガスが混在している溶液から高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを分離、精製する為には、可燃性ガスを扱うこととなるため、大規模な製造設備(可燃性高圧ガス設備)が必要となり、危険を伴うことになる。
【0006】
一方、電解フッ素化を用いない方法、すなわち特許文献3の方法は、該目的物が88%と良好に得られることから、好ましい製造方法であるが、一方で多段階の工程を要するため、合成方法は煩雑となり、工業的に製造する上ではいくぶん難があった。また、特許文献4の方法は、得られるペルフルオロアルカンスルホニルフルオリドが非常に低収率であるため、工業的に採用するのは難しい。
【0007】
さらに、水素ガス以外に、電解フッ素化に起因した副生成物が多く反応系内に生成(モノフルオロメタンスルホニルフルオリド、ジフルオロメタンスルホニルフルオリド)していることから、分離精製がさらに難しくなる。電子材料分野において、数ppmレベルの不純物が混在するだけでも電子機器に多大な影響を及ぼすことからも、この製造方法では高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを製造することは非常に困難であった。
【0008】
一方、特許文献10では、有機相及び水相の2層系での反応であるが、対応するスルホン酸フルオリドを精製する為には、スルホン酸フルオリドが2層に混在していることから、これらの相を別々に処理しなければならず、また、反応系内に水が存在するため、加水分解されてスルホン酸が生成しやすい為、生産性の点でいくぶん難がある。
【0009】
これらのことから、高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、簡便かつ短工程で、工業的規模で容易に製造できる方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる問題点に鑑み、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを工業的に容易に製造する方法につき、鋭意検討を行った。その結果、短工程かつ高純度で目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る方法を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の[発明1]−[発明11]に記載する、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの精製方法を提供する。
[発明1]
以下の3工程を含む、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CF3SO2F)の精製方法。
第1工程:トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)を得る工程。
第2工程:第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン(PCl3)及び塩素(Cl2)を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)を得る工程。
第3工程:第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
[発明2]
トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る(第1工程)際、金属水酸化物が水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1に記載の方法。
[発明3]
第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン及び塩素(PCl3+Cl2)を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)を得る(第2工程)際、反応系内にオキシ塩化リン(POCl3)を共存させることにより行うことを特徴とする、発明1又は2に記載の方法。
[発明4]
第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させる(第3工程)際、金属フッ化物が、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、フッ化セシウム(CsF)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
[発明5]
第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させる(第3工程)際、ハロゲン化4級塩が、式[1]で表されるハロゲン化アンモニウム塩
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は同一又は異なるアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表し、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を表す)
又は式[2]で表されるハロゲン化ホスホニウム塩
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R1及びXは式[1]と同じ)
である、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
[発明6]
ハロゲン化アンモニウム塩が、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明5に記載の方法。
[発明7]
ハロゲン化ホスホニウム塩が、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明5に記載の方法。
[発明8]
ハロゲン化4級塩の量が、トリフルオロメタンスルホニルクロリド1モルに対して、0.005〜1.0モルであることを特徴とする、発明5乃至7の何れかに記載の方法。
[発明9]
金属フッ化物の量が、トリフルオロメタンスルホニルクロリド1モルに対して、
1〜10モルであることを特徴とする、発明5乃至8の何れかに記載の方法。
[発明10]
反応を行う際の温度を−5℃〜20℃とすることを特徴とする、発明5乃至9の何れかに記載の方法。
[発明11]
第1工程で用いるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが、メタンスルホニルクロリドを金属フッ化物でフッ素化し、得られたメタンスルホニルフルオリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化することにより得られることを特徴とする、発明1乃至10の何れかに記載の方法。
【0016】
本発明では、電解法でフッ素化して得られたトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、この時点で精製操作をせずに続けて3つの工程(第1工程〜第3工程)を経ることで、高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを簡便かつ効率的に得ることができるという、実用的に有利な知見を得た。
【0017】
また、3つの工程のうち、第3工程(フッ素化工程)において、反応が良好に進行し、高収率で該目的物を得るという、工業的規模で製造する上できわめて有用な知見を得た。
【0018】
第3工程は「水及びハロゲン化4級塩存在下」において、金属フッ化物を反応させることに特徴がある。これまでに、フッ素原子の持たない基質、すなわちメタンスルホニルクロリドと金属フッ化物を水の存在下反応させて、対応するフッ素化物を得る反応が知られており(CH3SO2Cl+KF→CH3SO2F+KCl)、特許文献5もこれに関連した方法である。例えば、特許文献5の方法において、本発明の出発原料であるトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用いても、該目的物であるフッ素化物がほとんど得られない(後述の比較例1参照)。
【0019】
一方、特許文献4のように、トリフルオロメチル基を持たない基質に対して、クラウンエーテル等の相間移動触媒を用いた例が従来から知られているが、その方法をトリフルオロメタンスルホニルクロリドに適用させた場合、対応するトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが得られるが、収率が非常に低い(後述の比較例2−3参照)。
【0020】
また、特許文献5や特許文献10に記載されているように、メタンスルホニルクロリド自身が加水分解性を持ち、メタンスルホニルクロリドは対応するスルホン酸に容易に変換されやすいことが知られている。
【0021】
ここで、本発明の出発原料であるトリフルオロメタンスルホニルクロリドはトリフルオロメチル基を有する。フッ素原子の強い電子求引性の影響で、フッ素原子を持たないスルホニルクロリドと比べて、反応性は大きく異なり、水が反応系内に存在している系では加水分解も容易に進行し、深刻な副反応であるスルホン酸の生成が生じやすいものと考えられる。
【0022】
これらのことから、本発明で用いるトリフルオロメチル基を有する基質に対して、良好にフッ素化させて該目的物を効率よく得ることは非常に困難であると当初予想していた。
【0023】
ところが、本発明者らは、「水及びハロゲン化4級塩存在下」で、金属フッ化物を反応させることで、実際は加水分解がほとんど起こらず、トリフルオロメタンスルホニルクロリドがフッ化カリウム等の金属フッ化物と優先的に反応し、非常に高い選択率及び収率で当該目的物が良好に得られるという、驚くべき知見を得た(後述の実施例1−5を参照)。
【0024】
このように、本発明は工業的に実施可能な反応条件において、従来技術よりも高い収率で目的化合物が製造可能である。環境負荷がかからず、特に精製操作を必要としないことから、高い生産性で目的とするトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを製造できることとなった。
【0025】
なお、本出願人は、第3工程の内容について既に出願している(特願2008−048951号、国際出願PCT/JP2008/53767号)。本発明では先の2つの工程と第3工程を組み合わせることで、電解法でフッ素化して得られたトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、この時点で精製操作をせずに高純度の該フルオリドを得ることが可能となった。大規模な製造設備(可燃性高圧ガス設備)の簡略化が可能となり、また、本発明によりトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを繰り返して製造できることから、従来の電解フッ素化法で懸念されていた可燃性ガス(水素ガス)を取り扱う必要もなくなった。
【0026】
このように、本発明は、工業的かつ経済的に非常に優位性のある方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電解フッ素化で製造したトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、3工程を経ることにより、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを高選択率かつ高純度で効率良く製造できる。また、該目的物を繰り返して製造することも可能であり、工業的規模で製造する上で非常に優れた方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明ではトリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得(第1工程)、第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン(PCl3)及び塩素(Cl2)を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)を得(第2工程)、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る(第3工程)工程によってなる(以下のスキーム1参照)。
【0029】
【化5】

【0030】
なお、第1工程の出発原料のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドについては、特許文献1や2に開示している方法、すなわちトリフルオロメタンスルホニルクロリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化する方法、又は以下のスキーム2に示すように、メタンスルホニルクロリドを金属フッ化物でフッ素化し、得られたメタンスルホニルフルオリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化する(本明細書において、この工程を「A工程」とも言う)ことにより製造することができる(以下、スキーム2参照)。
【0031】
【化6】

【0032】
しかしながら、前述したように、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを分離、精製する為には、可燃性ガスを扱うこととなるため、大規模な製造設備(可燃性高圧ガス設備)が必要となり、危険を伴うことになる。
【0033】
そこで、詳細は後述するが、上述した電解フッ素化で得られたトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、この時点で精製等の分離操作を行わずに、混合物のまま次の第1工程における出発原料として使用することにより、第1工程において、収率を損なわずに良好に進行することができ、また、分離操作も非常に簡便に行うことができる。例えば、本実施例において、電解フッ素化にて分離の困難な混合ガスを含むトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを、第1工程の出発原料として使用することは、分離操作への工程が削減でき、従来よりも格段に生産性が向上することから、本発明において好ましい態様の一つである。
【0034】
まず、第1工程について説明する。第1工程はトリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る工程である。ここで本工程の化学反応式を記述すると以下のようになる(以下、スキーム3参照)。
【0035】
【化7】

【0036】
用いる金属水酸化物としては、反応を効率的に進ませる金属水酸化物であれば良く、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)からなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられるが、この中で水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。ここで言う金属とはアルカリ金属のことであり、アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。
【0037】
本工程に使用する金属水酸化物の量は、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド1モルに対して、通常2〜10モルであり、2〜6モルであることが好ましく、2〜4モルであることがさらに好ましい。塩基が2モルより少ないことは、選択率の上では大きな影響はないが、反応変換率が低く、収率の低下につながり、逆に塩基が10モルよりも多いと、先の電解フッ素化において生成ガスに含まれる副生成物と反応し、多量の無機物が副生し、精製が困難になることから、いずれも好ましくない。
【0038】
本工程で用いる水の使用量は、金属水酸化物の水溶液の濃度を、通常10%〜50%、好ましくは15%〜40%、より好ましくは20%〜30%となるように水を加えると良い。ここで、水の量が多いとき、反応速度の低下を起こす原因となり、水の量が少ないと金属水酸化物が溶解せずに析出する原因となるので好ましくない。
【0039】
金属水酸化物を加える際の反応温度(内部の液体の温度)は0℃〜90℃の範囲で可能であるが、40℃〜60℃が加熱の負荷がかからず、温度制御も容易であるから好ましい。中でも、40℃〜50℃の範囲で反応を行うことは、本発明の特に好ましい態様の一つである。
【0040】
0℃未満であると、用いる水が凍結し、さらに金属水酸化物が溶解しにくくなることから、好ましくない。また、一方、90℃を超えると、副生物が生じやすく、また過剰な加熱はエネルギー効率が悪く、経済性の面からも好ましくない。また、反応時間は1〜5時間が好ましい。
【0041】
本工程において、電解フッ素化にて分離の困難な混合ガスを含むトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを出発原料として用いた場合、電解フッ素化に由来するフッ化水素が含まれている。そこで、電解フッ素化で電解槽から抜き出した生成ガスを、0〜−40℃のコンデンサーを通すことにより同伴するフッ化水素酸を液化して電解槽に戻し、SUS製のスクラバーに導き、10%〜50%の金属水酸化物溶液(本実施例では水酸化カリウム水溶液)と0℃〜90℃の範囲で反応させることで、分離操作も非常に簡便に行うことができる。また、金属水酸化物を2段階に分けて反応させることもでき、当業者が適宜調整することができる。
【0042】
スキーム3に示すように、金属水酸化物と反応させた後にトリフルオロメタンスルホニルフルオリドの金属塩(CF3SO3M、ここで言う「M」とは、アルカリ金属のことであり、前述の金属水酸化物由来の金属のことを示す)が得られる。ここでCF3SO3Mが得られるのと同時に、金属フッ化物が反応系内に生成するが、濾過、遠心分離等の通常の操作により、容易に金属フッ化物と容易に分離できる。ろ過、遠心分離、温度等については当業者が適宜調整することができる。
【0043】
反応圧力については特に制限はなく、常圧(大気圧)、加圧条件下で反応を行うことができる。
【0044】
また、減圧条件下で反応を行うことも可能である。本発明では、上述したように本工程の原料であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが室温で気体として発生するために、反応系内の圧力が高くなることがある。そこで、耐圧反応容器を用い、反応系内を予め減圧させた後に、反応試剤を加えることで、圧力がそれほど高くない状態で反応を行うことも可能である。
【0045】
次に、スキーム3に示すように、得られたCF3SO3Mを酸で処理することで、対応するトリフルオロメタンスルホン酸を得ることができる。本工程で用いられる酸は、ブレンステッド酸であれば特に限定されないが、塩酸、硫酸、発煙硫酸、硝酸、燐酸、珪酸、臭化水素酸、ホウ酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、クロトン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸を例示することができる。その使用量は、使用する酸の価数により変化するが、例えば1価の酸の場合、CF3SO3M1モルに対して、酸の使用量は、1モル以上であり、好ましくは、1〜5モルである。また、2価の酸の場合、CF3SO3M1モルに対して、酸の使用量は、0.5モル以上であり、好ましくは、0.5〜2.5モルである。また、酸の濃度に関して特に限定は無いが、10%〜90%が好ましい。酸の存在下にて加水分解を行う場合の、用いる水の使用量は、基質であるCF3SO3M1モルに対して、1モル以上であれば特に制限はないが、好ましくは1〜1000モルであり、更に好ましくは1〜100モルである。また、上述した酸の中に水が含まれている場合はその水を使用しても良い。反応温度は通常、−30℃〜150℃、好ましくは−10℃〜120℃で、さらに好ましくは0℃〜100℃の範囲である。また、反応時間は1〜4時間程度が好適である。
【0046】
酸分解した混合物から、蒸留等の通常の手段に付して、トリフルオロメタンスルホン酸を得ることができる。なお、蒸留操作に関し、常圧(大気圧)又は減圧条件下、いずれも可能であるが、トリフルオロメタンスルホン酸の沸点が高い(沸点162℃)ことから、減圧蒸留で行うことが好ましい。減圧蒸留に関しては当業者が適宜調整することができる。
【0047】
本工程に用いられる反応器は、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。
【0048】
次に第2工程について説明する。第2工程は第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン及び塩素を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを得る工程である(スキーム4参照)。
【0049】
【化8】

【0050】
三塩化リン及び塩素を用いる場合、用いる三塩化リンと塩素のモル比は、通常、1:1とするのが好ましい。本工程における三塩化リンおよび塩素の添加量は、トリフルオロメタンスルホン酸1モルに対して2モル以下とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0モルである。三塩化リン及び塩素の添加量が2モルを超える場合、三塩化リン及び塩素の添加量が2モルを超えたあたりで、目的生成物であるトリフルオロメタンスルホニルクロリドの収量がほとんど増加しなくなることや、さらに添加量の増加に伴い、原料である三塩化リンが多量に残存し、その後の精製工程に負荷がかかる原因となるため、好ましくない。また、トリフルオロメタンスルホン酸に対する三塩化リンおよび塩素のモル比が小さい場合には、それに伴って副生成物であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物[(CF3SO22O]の生成量が増加し、目的生成物であるトリフルオロメタンスルホニルクロリドの収率が低下する原因となるため、好ましくない。トリフルオロメタンスルホン酸に対する三塩化リンおよび塩素のモル比が0.5を下回ったあたりで、目的生成物であるトリフルオロメタンスルホニルクロリドの収率が50%以下となるため、効率よく反応を行うためには、トリフルオロメタンスルホン酸に対する三塩化リンおよび塩素のモル比は、0.5以上としたほうがよい。上記のような理由から、より効率よく反応を行うには、0.8〜1.2モルとするのがさらに好ましい。
【0051】
三塩化リン及び塩素を用いる場合の仕込み方法としては、通常、トリフルオロメタンスルホン酸及び三塩化リンを仕込み、次に塩素を導入して反応を行うと良い。塩素を導入する際に発熱を伴うため、導入時の反応温度は、50℃以下とするのが好ましく、より好ましくは10〜30℃である。
【0052】
また、塩素を導入した後の反応温度は、40〜90℃とするのが好ましいが、反応をより効率よく進行させるためには、60〜80℃がより好ましい。反応をより効率よく進行させるためには、2〜4時間程度還流することが好ましく、それにより目的生成物であるトリフルオロメタンスルホニルクロリドを高選択的かつ高収率で得ることができる。
【0053】
本工程に用いられる反応器は、常圧もしくは加圧下で反応を行うことができる。加圧下で反応を行う場合、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。ステンレス鋼、鉄などが内壁となっている反応容器の場合も反応自体は進行するが、金属が塩素により腐食を引き起こしたりすることがあるので、前述の反応容器を用いることが好ましい。
【0054】
なお、本工程では、反応系内にオキシ塩化リン(POCl3)を共存させることが好ましい。オキシ塩化リンを添加せずに塩素を導入した場合、塩素導入時にトリフルオロメタンスルホン酸と三塩化リンが反応することにより生成する中間体が結晶として析出する。この結晶析出により、撹拌が不十分となったり、塩素の導入管の閉塞が起こる場合があり、反応に支障をきたすことがある。
【0055】
そこで、オキシ塩化リンを添加して結晶を溶解することにより、撹拌が良好、かつ、塩素導入管の閉塞を回避できる反応系となる。
【0056】
本発明で用いられる溶媒としては、原料および反応生成物に不活性な溶媒が好ましく、中でもフッ素系溶媒が好適に用いられる。例えば、一般式(Cn2n+1SO22O(n=1〜8)で示されるフルオロアルキルスルホン酸無水物、一般式Cn2n+1SO2・Onn2n+1(n=1〜8)で示されるフルオロアルキルスルホン酸エステル、一般式Cn2n+2(n=4〜20)で示されるペルフルオロアルカン、一般式(Cn2n+13N(n=2〜6)で示されるペルフルオロアルキルアミン、およびペルフルオロポリエーテル等が挙げられ、溶媒は、一種類、又は複数を組み合わせても良い。
【0057】
しかしながらトリフルオロメタンスルホン酸や、得られるトリフルオロメタンスルホニルクロリド、また、塩化ホスホリルが反応系内に共存している場合でも、これらはいずれも常温で液体であり、特に溶媒を必要としない。
【0058】
本工程の具体的な態様として、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸と三塩化リン、オキシ塩化リンを仕込み、次いで塩素を導入した後に加圧下で反応を行うことができる。
【0059】
なお、上記の反応を行った場合、トリフルオロメタンスルホニルクロリドとオキシ塩化リンが生成する。さらに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物が副生する場合もあるが、これらは未反応原料であるトリフルオロメタンスルホン酸、及び反応前に予め添加してあるオキシ塩化リンを含めて、反応終了後に濾過、抽出、蒸留、再結晶等の通常の手段により、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを得ることができる。
【0060】
次に第3工程について説明する。第3工程は、第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、金属フッ化物を、水及びハロゲン化4級塩存在下で反応させ、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程である。
【0061】
本工程で用いる金属フッ化物の具体的な化合物としては、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、フッ化セシウム(CsF)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、これらのうち、比較的入手が容易であることから、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムが好ましく用いられる。これらのフッ化物は単独、又は2種類以上を混合して使用することもできる。
【0062】
金属フッ化物の量はトリフルオロメタンスルホニルクロリド1モルに対して通常、1〜10モルであり、好ましくは1〜8モル、より好ましくは1.5〜6モルである。1モルより少ないと反応収率が低下する原因となる。また、10モルを超えると反応の進行について問題はないが、反応速度、収率の点で特にメリットはなく、また、経済的にも好ましくない。
【0063】
本発明において、金属フッ化物の種類により溶解度が異なるため、それに応じて水の量が大きく変動する。本反応を実施する際、反応を効率良く進行させる程度に、当業者が水の量を適宜調整することができる。
【0064】
例えば、金属フッ化物としてフッ化カリウムを用いた場合、水溶液の濃度を、通常15%〜60%、好ましくは25%〜50%、より好ましくは35%〜45%となるように水を加えると良い。ここで、水の量が多いとき、反応速度の低下を起こす原因となり、水の量が少ないと金属フッ化物が溶解せずに析出する原因となるので好ましくない。この場合、水の量はフッ化カリウム1gに対して、0.5g〜10gの範囲で加えることで、上述の濃度を達成することができる。本実施例において、フッ化カリウム1gに対して、水を1〜6gの範囲で加えることは好ましい態様の一つである。
【0065】
また、本発明は水を溶媒としているが、水と共に、別途有機溶媒を共存させて反応を行うこともできる。ここで有機溶媒とは、本発明の反応に直接関与しない不活性な有機化合物のことを言う。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、アセトニトリル、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、エチルベンゼン、メシチレン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなど、有機溶媒として入手可能なものをいう。また、これら有機溶媒を単独、又は2種類を組み合わせて用いることも可能である。
【0066】
しかしながら、本発明の工業的な製造方法を考えた場合、水を溶媒とした方法でも充分反応が進行し、高収率かつ高選択的に目的物が得られる(後述の実施例参照)ことから、別途有機溶媒を共存させるメリットは少ない。
【0067】
本発明の最も大きな特徴は、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)と、金属フッ化物を、水及びハロゲン化4級塩存在下で反応させることにある。本発明は、水はもちろんのこと、ハロゲン化4級塩を用いることが必須であり、ハロゲン化4級塩が存在しない場合には該目的物がほとんど生成しないか、もしくは目的物の収率が非常に低い(後述の比較例参照)。ハロゲン化4級塩としては、式[1]で表されるハロゲン化4級アンモニウム塩、又は式[2]で表されるハロゲン化4級ホスホニウム塩が挙げられるが、式[1]又は式[2]中、R1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は同一又は異なるアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であるものが使用できる。これらのうち、脂肪族炭化水素基に関しては、炭素数1〜7のものが好ましく、炭素数1〜4のものが特に好ましい。
【0068】
これらのうち、ハロゲン化4級アンモニウム塩の具体的な化合物としては、テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムフルオリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリエチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリブチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリブチルアンモニウムヨージド、メチルトリブチルアンモニウムフルオリド、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリブチルアンモニウムブロミド、メチルトリブチルアンモニウムヨージド、メチルトリオクチルアンモニウムフルオリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムブロミド、メチルトリオクチルアンモニウムヨージドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、これらの中でもテトラプロピルアンモニウムフルオリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリブチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロミド、メチルトリブチルアンモニウムフルオリド、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリブチルアンモニウムブロミド、メチルトリオクチルアンモニウムフルオリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムブロミドが好ましく、入手容易であるという点から、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、又はメチルトリオクチルアンモニウムクロリドがより好ましく用いられる。
【0069】
また、ハロゲン化4級ホスホニウム塩の具体的な化合物としては、テトラフェニルホスホニウムフルオリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムフルオリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムフルオリド、ブチルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムヨージド、トリオクチルエチルホスホニウムフルオリド、トリオクチルエチルホスホニウムクロリド、トリオクチルエチルホスホニウムブロミド、トリオクチルエチルホスホニウムヨージド、ベンジルトリフェニルホスホニウムフルオリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヨージド、エチルトリフェニルホスホニウムフルオリド、エチルトリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、これらの中でもテトラフェニルホスホニウムフルオリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムフルオリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムヨージドが好ましく、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミドがより好ましく用いられる。
【0070】
ハロゲン化4級塩の使用量は、通常、原料であるトリフルオロメタンスルホニルクロリド1モルに対して0.005〜1.0モルであり、好ましくは0.01〜0.5モル、より好ましくは0.03〜0.3モルである。0.005モルより少ないと反応収率が低下する原因となり、1.0モルを超えても反応を行うこともできるが、不必要にハロゲン化4級塩を用いることは経済的にも好ましくない。この反応における好適な使用量は反応条件によって異なり、当業者が上記範囲内で適宜調整することができる。
【0071】
これらのハロゲン化4級塩は単独で使用しても良いし、複数のものを組み合わせて使用しても良い。一方、ハロゲン化4級塩は、実際には水和物としてそれに任意の数の水分子が水和した水和物で使用することもでき、当業者が適宜調整することができる。
【0072】
本発明の製造方法における反応は、水存在下、金属フッ化物、ハロゲン化4級塩を投入し、撹拌して混合させた後、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを加えて行うことができる。本発明における反応試薬の仕込みの順番については、特に制限はないが、本発明では、水、金属フッ化物、ハロゲン化4級塩を加えた後に、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを加える方が、製造する上で効率的であることから、好ましい。
【0073】
反応させる際の温度は、通常−5℃〜20℃、好ましくは0℃から15℃の範囲にして行うことができる。−5℃より低いと水が固化したり、金属フッ化物やハロゲン化4級塩が析出し、反応速度が低下してしまうので好ましくない。また、なお、20℃より高い温度で行う場合、出発原料であるトリフルオロメタンスルホニルクロリド(沸点25℃〜35℃)や水が気化するため、耐圧反応容器を用いて反応系を密閉させ、加圧条件下で反応を行うことができる。しかしながら、−5℃〜20℃の範囲でも十分反応が進行するため、20℃より高い温度で行うメリットは特に大きくない。
【0074】
反応時間については、特に制限はないが、ガスクロマトグラフィー等の手法によって、原料の消費が十分に進み、もはや反応が進行しないことを確認してから終了するのが望ましく、当業者が適宜調整することができる。さらに、本反応を実施する際、反応を効率良く進行させるために攪拌するのが好ましい。トリフルオロメタンスルホニルクロリドを加える際、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを反応系内に一度に加えるか、もしくは連続的に加えても反応は進行するため、当業者が適宜選択することができるが、本発明では、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを滴下することは、好ましい態様の一つである。また、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを加える際の滴下時間については、1時間〜4時間程度で滴下を終了させることが好ましい。
【0075】
反応圧力については特に制限はなく、常圧(大気圧)又は加圧下で反応を行うことができる。本発明の目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドの沸点が非常に低く(−23℃)、室温で気体(ガス)として存在する。上述した反応系内の温度範囲で本発明を実施した場合、トリフルオロメタンスルホニルクロリドと金属フッ化物が反応した直後に目的物が反応系内で発生する。耐圧反応容器を用いて反応系を密閉させて、加圧条件下で反応を行うことも可能であるが、本発明では、発生した気体(トリフルオロメタンスルホニルフルオリド)を、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの沸点以下に冷却したコンデンサー(凝縮器。冷却器とも言う)に流通させながら反応器に戻しながら反応を行う(この操作を還流とも言う)のと同時に、所定の圧力に達したときに、コンデンサーの一部を開放させてコンデンサーに流通させた気体の一部を捕集器で捕集することにより、反応容器全体の圧力がほとんど上がらずに反応を行うことができる。このことから、本発明は常圧(大気圧)でも十分に実施することができる。
【0076】
本発明で用いられる反応器は、常圧で反応を行う際、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。また、加圧下で反応を行う際、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器などを用いることができる。
【0077】
本発明の目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドは、上述したように室温で気体として存在するため、反応後に得られた気体を、コンデンサーに流通させた後、該気体を捕集容器で捕集することで、蒸留等の精製操作を必要とせずに高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることができる。
【0078】
例えば、水、フッ化カリウム、ハロゲン化4級塩、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを加えた後、発生した気体を−30℃に冷却したコンデンサーに流通させ、流通させた気体を再び反応容器に戻しながら反応液を室温まで昇温させて還流させる。その還流操作を行う一方で、コンデンサーの一部を開放させ、コンデンサーに流通させた気体の一部を捕集器で捕集する。反応終了後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温して、気体の残りを全て捕集容器で捕集することで、蒸留操作を必要とせずに高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることができる(後述の実施例参照)。このように、蒸留操作を必要としないことは、本発明の好ましい特徴の一つである。
【0079】
なお、本発明では、連続的、又は半連続的もしくはバッチ式で行っても良く、当業者が適宜調整することができる。
【0080】
このようにして、水やトリフルオロメタンスルホニルクロリドの混入もなく、簡便な方法で高純度のトリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得ることができる。
【0081】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(GC、特に記述のない場合、検出器はTCD)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【実施例1】
【0082】
[A工程]:トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造(電解フッ素化)
撹拌器、還流管、温度計を備えた四フッ化エチレン樹脂、又はハステロイ製反応器に水363.0kgを投入して、攪拌しながらフッ化ナトリウム130.86kgを加え、5℃に冷却した。そこへメタンスルホニルクロリド(CH3SO2Cl)255.0kgを徐々に加え、次に反応液を室温で1時間攪拌し、攪拌後の反応液を常圧で蒸留することで、メタンスルホニルフルオリド(CH3SO2F)384.8kg及び水176.9kgを含む混合溶液が得られた。次に二層分離させて水を取り除いた後、このメタンスルホニルフルオリドの一部を用いて電解フッ素化を行った。
【0083】
−34℃に設定したリフラックスコンデンサーを取り付けた電解フッ素化槽に、メタンスルホニルフルオリド2.42kg、無水フッ化水素(HF)10.0kgをそれぞれ8時間毎に4回投入し(計32時間)、槽温度4℃、電圧5.5ボルト(V)、電流500アンペア(A)にて電解フッ素化を行った。
結果、次のような組成のガスが得られた。

【0084】
【表1】

【0085】
この組成ガスを用いて、以下、第1工程の原料として用いた。
[第1工程]トリフルオロメタンスルホン酸の製造
前記A工程で製造した生成ガスを、水スクラバーに導いた後、60℃で12%水酸化カリウム水溶液38.73kgを1時間かけて供給してトリフルオロメタンスルホニルフルオリドと反応させた。
【0086】
次に、この加水分解液をステンレス製の蒸発缶において蒸気で加熱することにより、沸点下で水を蒸発させた。その後に30℃に冷却したところ、結晶が析出し始めた。そこで遠心分離器によってろ過分離し、120℃で10時間乾燥したところ、次のような組成の結晶18.54kgが得られた。
【0087】
【表2】

【0088】
次に、表2で得られた組成の結晶18.54kgの一部を用いて、酸処理を行った。
表2で得られた組成の結晶3kgと、98%硫酸1.05kg、26%発煙硫酸1.9kgを混合して120℃で攪拌しながら1時間反応させた。1時間後、攪拌を止めて温度を常温に戻し、5.33kPa〜3.33kPa、沸点130℃〜110℃で減圧下、単蒸留してトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)2.32kgを純度99%以上で得た。トリフルオロメタンスルホン酸の一部を用いて、以下、第2工程の原料として用いた。
[第2工程]トリフルオロメタンスルホニルクロリドの製造
トリフルオロメタンスルホン酸200.5g(1.3mol)に三塩化リン183.5g(1.3mol)を仕込んだ。次いで、オキシ塩化リン202.9g(1.3mol)を水冷下、添加した。塩素95.0(1.3mol)を22〜32℃で導入した。塩素導入後、75℃まで加温し、4時間還流した。反応終了後、蒸留し、トリフルオロメタンスルホニルクロリド201.1g(収率89.6%)を得た。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド3水和物((C494NF・3H2O)を4.9g(0.016mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(50.0g(0.297mol))を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。40.8gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度99.4%、収率89.3%で得られた。
【実施例2】
【0089】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を67g、フッ化カリウムを34.5g(0.594mol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド3水和物((C494NF・3H2O)を4.9g(0.016mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。40.3gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度99.2%、収率88.6%で得られた。
【実施例3】
【0090】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)、テトラブチルアンモニウムクロリド((C494NCl)を4.1g(0.016mol)投入し攪拌してよく混合した。
【0091】
大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。40.9gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度99.0%、収率89.1%で得られた。
【実施例4】
【0092】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)、テトラプロピルアンモニウムブロミド((C374NBr)を7.9g(0.030mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。36.4gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度98.9%、収率79.7%で得られた。
【実施例5】
【0093】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを52.2g(0.898mol)、メチルトリブチルアンモニウムクロリド(CH3N(Cl)(C37)3)を3.5g(0.015mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを25.2g(0.150mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。18.1gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度99.3%、収率79.6%で得られた。
【実施例6】
【0094】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を50g、フッ化カリウムを27.0g(0.465mol)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(C65CH2N(Cl)(C25)3)を7.2g(0.032mol)投入し、攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを52.3g(0.310mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。32.7gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度98.5%、収率69.4%で得られた。
【実施例7】
【0095】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を50g、フッ化カリウムを27.0g(0.465mol)、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド(C65CH2N(Cl)(C49)3)を9.7g(0.031mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを52.3g(0.310mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。41.7gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度99.6%、収率88.5%で得られた。
【実施例8】
【0096】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を50g、フッ化カリウムを27.0g(0.465mol)、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド((C8173N(Cl)CH3)を12.0g(0.031mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを52.3g(0.310mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。37.9gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度95.1%、収率80.4%で得られた。
【実施例9】
【0097】
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の第3工程を行った。
[第3工程]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)、テトラブチルホスホニウムブロミド((C494PBr)を10.1g(0.030mol)投入し攪拌してよく混合し
た。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。21.1gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム(GC)分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度90.6%、収率42.3%で得られた。
[比較例1]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の実験を行った。
【0098】
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。5.3gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度1.0%、収率0.1%で得られた。
【0099】
このように、ハロゲン化4級塩を用いない場合は、反応が進行せず、目的物であるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが殆ど得られないことがわかる。
[比較例2]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の実験を行った。
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに、水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)、クラウンエーテル(18−クラウン−6)を7.8g(0.030mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌しながら還流させた。攪拌後、コンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。23.6gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度49.7%、収率26.0%で得られた。
[比較例3]トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの製造
A工程、第1工程、そして第2工程は実施例1と同様に行った。第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドを用い、以下の実験を行った。
−30℃程度に冷却したコンデンサーをつけた200mlガラスフラスコに水を100g、フッ化カリウムを51.7g(0.890mol)、ポリエチレングリコール200(PEG200)を17.5g(0.088mol)投入し攪拌してよく混合した。大気圧下、液温度を10℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホニルクロリドを50.0g(0.297mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌したのちコンデンサー温度を−20℃程度に昇温し、反応により生成したガスを液体窒素で冷却した捕集器で捕集した。22.7gの捕集物が得られ、ガスクロマトグラム分析により、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの生成が確認でき、純度52.3%、収率26.3%で得られた。
【0100】
このように、クラウンエーテルやポリエチレングリコールを用いた場合は、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドは得られるが、実施例1−9と比べると収率が低く、工業的な製造としてはいくぶん難がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の3工程を含む、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(CF3SO2F)の精製方法。
第1工程:トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)を得る工程。
第2工程:第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン(PCl3)及び塩素(Cl2)を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)を得る工程。
第3工程:第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させて、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドを得る工程。
【請求項2】
トリフルオロメタンスルホニルフルオリドに、金属水酸化物を反応させた後、続いて酸で処理してトリフルオロメタンスルホン酸を得る(第1工程)際、金属水酸化物が水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸に、三塩化リン及び塩素(PCl3+Cl2)を反応させ、トリフルオロメタンスルホニルクロリド(CF3SO2Cl)を得る(第2工程)際、反応系内にオキシ塩化リン(POCl3)を共存させることにより行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させる(第3工程)際、金属フッ化物が、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、フッ化セシウム(CsF)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
第2工程で得られたトリフルオロメタンスルホニルクロリドに、水及びハロゲン化4級塩存在下、金属フッ化物を反応させる(第3工程)際、ハロゲン化4級塩が、式[1]で表されるハロゲン化アンモニウム塩
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜9の同一又は異なる直鎖、分岐鎖の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は同一又は異なるアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アルキル基、アミノ基、ニトロ基、アセチル基、シアノ基もしくはヒドロキシル基で置換されていても良い)を表し、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を表す)
又は式[2]で表されるハロゲン化ホスホニウム塩
【化2】

(式中、R1及びXは式[1]と同じ)
である、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
ハロゲン化アンモニウム塩が、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、メチルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ハロゲン化ホスホニウム塩が、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ハロゲン化4級塩の量が、トリフルオロメタンスルホニルクロリド1モルに対して、0.005〜1.0モルであることを特徴とする、請求項5乃至7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
金属フッ化物の量が、トリフルオロメタンスルホニルクロリド1モルに対して、
1〜10モルであることを特徴とする、請求項5乃至8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
反応を行う際の温度を−5℃〜20℃とすることを特徴とする、請求項5乃至9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
第1工程で用いるトリフルオロメタンスルホニルフルオリドが、メタンスルホニルクロリドを金属フッ化物でフッ素化し、得られたメタンスルホニルフルオリドを無水フッ化水素中、電解法によりフッ素化することにより得られることを特徴とする、請求項1乃至10の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−59071(P2010−59071A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224641(P2008−224641)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】