説明

トレッド加硫装置

【課題】タイヤトレッドの踏面側をタイヤトレッドにおける加硫の最遅点とすることにより、タイヤトレッドの踏面側が過加硫となることを防止することが可能なトレッドの加硫装置を提供する。
【解決手段】踏面2B側にトレッド溝2Cを有するタイヤトレッド2を成型するトレッド加硫装置1であって、タイヤトレッドの踏面側を型付けする踏面金型6と、踏面金型とトレッド成型空間を形成し、タイヤトレッドの踏面側と反対側の非踏面2A側を型付けする非踏面金型3と、踏面金型及び非踏面金型を同一温度で加熱する熱源とを有し、踏面金型が非踏面金型よりも熱伝導率の低い低熱伝導領域を含む構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッドの加硫装置に関し、特にタイヤトレッド内における加硫の最遅点の制御が容易に可能なトレッド加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤを製造する方法の1つとして、予め成型されたタイヤの土台となる台タイヤの外周面に対して、予め加硫成型されたタイヤトレッドをクッションゴムと呼ばれる未加硫のゴムを介して貼着し、当該クッションゴムが加硫装置によって加硫されることにより、台タイヤとタイヤトレッドとを一体化させるいわゆる更生タイヤの製造方法が提案されている。
上記更生タイヤに採用されるタイヤトレッドの加硫装置としては、未加硫のタイヤトレッドを加圧しながら加熱が可能なプレス型の装置が採用される。
当該装置は、長手状に成型された未加硫のタイヤトレッドを包囲して加圧する一対の金型と、一対の金型の外側から金型に対して熱を加える一対のプラテンとを備え、プラテンによって金型を加熱することにより、一対の金型の成型空間内に存する未加硫のタイヤトレッドを加圧加熱状態で成型する装置である。当該加硫装置によって加硫されたタイヤトレッドには、金型の型付け面の形状が反転した凹凸形状のトレッドパターンが形成される。
しかしながら、上記のような製造装置は、熱源である一対のプラテンが同じ温度に設定されるため、タイヤトレッドの外側から内側に対して伝わる熱の伝達速度も均一なものとなり、タイヤトレッドの厚さ方向の中心部が加硫の最遅点となる。そして、中心部の加硫を終えた時点においては、タイヤトレッド内における加硫の最速点であるトレッドパターンを有する踏面側が過加硫状態となり易い傾向にあった。
また、近年の研究により路面と接地するタイヤトレッドの踏面側が過加硫になるにつれ、タイヤの転がり抵抗が上昇し、結果として車両の燃費が上がることが報告されており、タイヤトレッドの踏面側が過加硫状態とならない加硫装置が強く望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記課題を解決するため、タイヤトレッドの踏面側をタイヤトレッドにおける加硫の最遅点とすることにより、タイヤトレッドの踏面側が過加硫となることを防止することが可能なトレッドの加硫装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための構成として、踏面側にトレッド溝を有するタイヤトレッドを成型するトレッド加硫装置であって、タイヤトレッドの踏面側を型付けする踏面金型と、踏面金型とトレッド成型空間を形成し、タイヤトレッドの踏面側と反対側の非踏面側を型付けする非踏面金型と、踏面金型及び非踏面金型を同一温度で加熱する熱源とを有し、踏面金型が非踏面金型よりも熱伝導率の低い低熱伝導領域を含む構成とした。
本構成によれば、成型空間内のタイヤトレッドにおける踏面側の温度が非踏面側の温度よりも低い状態で加硫されるため、踏面側がタイヤトレッドにおける加硫反応速度がタイヤトレッドにおいて最も遅い最遅点となり、加硫完了時点において過加硫となることを防止することができる。
なお、本構成において踏面金型は、その一部に低熱伝導領域を有する構成であっても、全体が低熱伝導部材によって構成されるものであってもよい。
また、他の構成として、低熱伝導領域は、踏面金型におけるタイヤトレッドの踏面側と対向する型付け面を含む領域である構成とした。
本構成によっても、前記構成から生じる効果を奏することができる。
また、他の構成として、低熱伝導領域は、踏面金型におけるタイヤトレッドの踏面側と対向する型付け面を被覆する領域である構成とした。
本構成によれば、前記構成から生じる効果に加え、既存の踏面金型に低熱伝導領域を容易に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】トレッド加硫装置の幅方向断面図である(実施例1)。
【図2】タイヤトレッドの加硫における加硫時間と加硫度との関係を示すグラフである。
【図3】踏面金型の断面斜視図である(実施例2)。
【図4】踏面金型の断面斜視図である(実施例3)。
【図5】踏面金型の断面斜視図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、トレッド加硫装置1の幅方向断面図である。
同図を用いて、トレッド加硫装置1の構造及び加硫方法について説明する。トレッド加硫装置1は、内部に配置される未加硫のタイヤトレッド2の長手方向に沿って延長する装置であって、一回の加硫が完了すると、後述の台タイヤの周長と略等しい長さの帯状のタイヤトレッド2を得ることが可能である。
同図において、トレッド加硫装置1は、概略、非踏面金型3、非踏面側プラテン4、非踏面基台5、踏面金型6、踏面側プラテン7、踏面基台8、加圧昇降機構9、熱源供給装置10を備える。
非踏面金型3は、例えばアルミニウム製の矩形状金属体であって、上方に位置する熱源としての非踏面側プラテン4からの熱をタイヤトレッド2に伝達可能である。
非踏面金型3は、加硫時にタイヤトレッド2の非踏面2A側と対向する内側面が型付け面3Aとして形成される。型付け面3Aは、タイヤトレッド2の非踏面2Aと当接する平坦面として形成される。当該型付け面3Aと当接するタイヤトレッド2の非踏面2Aは、型付け面3Aによって幅方向及び長手方向に沿って平坦な面として型付けされる。
また、非踏面2Aは、後述の踏面2Bの反対側の面であって、台タイヤと一体化される際に台タイヤの外周面と対向する面である。
【0008】
非踏面金型3の上面には、非踏面側プラテン4が固定される。非踏面側プラテン4は、非踏面金型3よりも大きな矩形状の板体であって、内部に長手方向に沿って延在する複数の流路4Aを有する。流路4Aは、後述の熱源供給装置10から供給される高温の蒸気や液体等が流入する通路であって、非踏面金型3の幅方向に沿って複数開設されるとともに、各流路4Aは、長手方向に波線的に延長する。非踏面側プラテン4は、流路4A内に供給される蒸気や液体により、下方の非踏面金型3を加熱する熱源として機能し、非踏面金型3は、内部に配置されるタイヤトレッド2を熱伝導により徐々に加熱する。
【0009】
非踏面側プラテン4の上面には、非踏面基台5が固定される。非踏面基台5は、非踏面側プラテン4よりも大きな矩形状の板体である。非踏面基台5は、床面上に立設される図外の固定フレームによって支持され、非踏面金型3及び非踏面側プラテン4が非踏面基台5によって固定される。
【0010】
踏面金型6は、非踏面金型3よりも熱伝導率が低い領域を含む矩形状の金属体であって、上方に固定される非踏面金型3と対をなすように相対向して配置される。
また、踏面金型6は、下方に位置する熱源としての踏面側プラテン7からの熱をタイヤトレッド2に伝達可能である。踏面金型6は、加硫時にタイヤトレッド2の踏面2B側と対向する内側面が型付け面6Aとして形成される。
型付け面6Aは、幅方向に沿って連続する凹凸として形成され、型付け面6Aと非踏面金型3の型付け面3Aとによって形成される成型空間内に配置されるタイヤトレッド2が、当該型付け面6Aに押し付けられることにより、ブロック状のトレッドパターンが幅方向及び長手方向に沿って連続して形成される。具体的には、型付け面6Aの内、凹部と対向する部分が車両走行時に路面等と接地する踏面2Bを形成し、凸部と対向する部分が踏面2B同士を幅方向に区画する溝部2Cを形成する。
なお、本例においては、タイヤトレッド2のトレッドパターンを所謂ブロックパターンとして形成する例を示したが当該パターンに限定されるものではなく、他のパターンであってもよい。
【0011】
踏面金型6は、非踏面金型3よりも熱伝導率が低い領域を含んで形成される。
具体的には、例えば、上述のとおり、非踏面金型3がアルミニウム製である場合には、踏面金型6全体をアルミニウムよりも熱伝導率が低い金属として亜鉛、真鍮、鉄又はステンレス鋼等の材料から形成することや、後述のとおり踏面金型6の一部をアルミニウムで形成し、他の部分を亜鉛、真鍮、鉄又はステンレス鋼等によって形成することが挙げられる。
【0012】
踏面金型6の下面には、踏面側プラテン7が固定される。
踏面側プラテン7は、踏面金型6よりも大きな矩形状の板体であって、内部に長手方向に沿って延在する複数の流路7Aを有する。流路7Aは、後述の熱源供給装置10から供給される高温の蒸気や液体等が流入する通路であって、踏面金型6の幅方向に沿って複数開設されるとともに、各流路7Aは、長手方向に波線的に延長する。踏面側プラテン7は、流路7A内に供給される蒸気や液体により、上方の踏面金型6を加熱する熱源として機能し、踏面金型6は、内部に配置されるタイヤトレッド2を熱伝導により徐々に加熱する。
【0013】
踏面側プラテン7は、下方側の踏面基台8に固定される。
踏面基台8は、踏面側プラテン7よりも大きな矩形状の板体である。踏面基台8は、加圧昇降機構9の昇降動作によって昇降可能であって、上方の踏面金型6及び踏面側プラテン7と共に昇降する。
【0014】
加圧昇降機構9は、踏面基台8の下方側に位置し、踏面基台8を水平状態で支持する。加圧昇降機構9は、踏面基台8の長手方向に沿って複数配置され、踏面基台8の幅方向両端部を下方から支持する。加圧昇降機構9は、図外の油圧ポンプの駆動によって、上下方向に伸縮動作するロッドを有し、ロッドの伸縮動作に伴って上方の踏面金型6及び非踏面金型3とのプレス動作又は開放動作が行われる。
【0015】
熱源供給装置10は、内部に加熱媒体としての高温の蒸気や液体を貯留するとともに、流路4A及び流路7Aに加熱媒体を供給する装置であって、加熱媒体が一定の温度になるように保温する。
熱源供給装置10によって貯留される加熱媒体は、供給配管11を経由して非踏面側プラテン4の流路4A内及び踏面側プラテン7の流路7A内へと供給される。流路4A;7A内に供給される加熱媒体は、長手方向前方から後方へと流れ、戻り配管12を経由して熱源供給装置10へと戻る。即ち、加熱媒体は、非踏面側プラテン4の流路4A、踏面側プラテン7の流路7A、及び熱源供給装置10との間を循環する。
【0016】
次に、図1を用いて、トレッド加硫装置1による未加硫のタイヤトレッド2の加硫方法を説明する。
タイヤトレッド2は、加圧昇降機構9を収縮動作することにより踏面金型6及び非踏面金型3を開放した状態で踏面金型6の型付け面6A上に載置される。
なお、加硫前の未加硫のタイヤトレッド2は、図外の押出成形機で予め所定の断面形状及び長さに成形される帯状のゴム部材であって、その断面形状は例えば矩形である。
【0017】
次に、加圧昇降機構9を作動させ、踏面基台8、踏面側プラテン7及び踏面金型6を上昇させる。踏面金型6が上方の非踏面金型3と当接すると、型付け面3A及び型付け面6Aによって成型空間が形成され、当該成型空間内のタイヤトレッド2は、所定の圧力が印加された状態で密閉される。即ち、タイヤトレッド2は、非踏面金型3と踏面金型6とによって加圧されるとともに、上下方向の表面が型付け面3A及び型付け面6Aに沿った形状に成型される。
【0018】
非踏面金型3及び踏面金型6によるプレス動作完了後、非踏面側プラテン4の流路4A及び踏面側プラテン7の流路7A内には、熱源供給装置10から加熱媒体が供給される。加熱媒体の供給により、非踏面側プラテン4及び踏面側プラテン7が加熱されるとともに、熱伝達によって非踏面金型3及び踏面金型6も加熱される。
非踏面金型3及び踏面金型6が加熱された状態において、内部のタイヤトレッド2の加硫反応は、タイヤトレッド2の非踏面2A及び踏面2Bの側からタイヤトレッド2の中心部に向かって進行する。そして、タイヤトレッド2は、非踏面金型3及び踏面金型6によって加圧された状態で徐々に加熱され、踏面金型6の型付け面6Aの凹部と当接する踏面2Bが必要加硫度に達するまで加硫される。
【0019】
以下、本発明に係るトレッド加硫装置1によって加硫されるタイヤトレッド2について説明する。
図中に示すタイヤトレッド2内のP1は、タイヤトレッド2の踏面2B上の任意の点である。P2は、非踏面2Aと踏面2Bとの中間に位置する中心点である。P3は、タイヤトレッド2の非踏面2A上の任意の点である。
【0020】
加硫時において、非踏面側プラテン4及び踏面側プラテン7からの熱は、それぞれP1,P3から中心点P2側へと伝達されるが、前述のとおり、踏面金型6は、非踏面金型3よりも熱伝導率が低い低熱伝導領域を含むため、非踏面側プラテン4及び踏面側プラテン7の温度を同一温度として設定した場合において、踏面金型6からタイヤトレッド2に伝達される熱の伝達速度は、非踏面金型3からタイヤトレッド2に伝達される熱の伝達速度よりも遅くなる。
よって、タイヤトレッド2の踏面2B側は、タイヤトレッド2の非踏面2A側よりもゆっくりと加硫反応が進行するため、P1を加硫反応の進行が最も遅い最遅点とすることが可能となり、加硫完了時点においてP1、即ち、踏面2Bが過加硫の状態となることを防止することが可能となる。以下、実験例を参照し、上記効果について詳説する。
【0021】
図2(a)は、非踏面金型3と踏面金型6とが同一の熱伝導率を有する材料によって成型された従来の加硫装置によってタイヤトレッド2を加硫したときの加硫時間と加硫度との関係を示すグラフである。
同図において、横軸は加硫開始からの加硫時間を示し、縦軸は加硫度を示す。また、縦軸と直交する方向に延長する破線は、タイヤトレッド2が製品としての機能を発揮するために必要とされる必要加硫度である。
図中の破線51は、P1の加硫度を示すグラフである。従来の加硫装置による加硫においては、踏面側のP1がタイヤトレッド2の内、最も早く必要加硫度に到達することが分かる。
即ち、従来の加硫装置におけるタイヤトレッド2の加硫の最速点は踏面2B側のP1であることが分かる。
【0022】
一点鎖線52は、タイヤトレッド2の中心点P2を示すグラフである。加硫反応は、タイヤトレッド2の踏面及び踏面の反対側の非踏面から中心側へと進行するため、P1が必要加硫度に達した状態において、P2は必要加硫度に達しておらず、従来の加硫装置におけるタイヤトレッド2の加硫の最遅点は、P2であることが分かる。
また、実線53は、P3の加硫度を示すグラフである。P3の加硫度は、P1の加硫度とほぼ同様の軌跡を描くが、P1よりも僅かに反応速度が遅いことが分かる。
【0023】
つまり、従来の加硫装置にあっては、加硫の最遅点がP2であるため、P2を製品としての機能を発揮するために必要とされる必要加硫度まで上昇させようとすると、タイヤトレッド2のP3のみならず、路面と接する踏面に相当するP1の加硫度までも、加硫反応が進行し過ぎたいわゆる過加硫状態となることが分かる。
【0024】
これに対して、図2(b)は、本実施形態に係るトレッド加硫装置1によってタイヤトレッド2を加硫したときの加硫時間と加硫度との関係を示すグラフである。
図中の破線61は、P1の加硫度を示すグラフである。本実施形態に係るトレッド加硫装置1による加硫においては、踏面2B側のP1がタイヤトレッド2の内、最も遅く必要加硫度に到達することが分かる。即ち、本実施形態に係るトレッド加硫装置1におけるタイヤトレッド2の加硫の最遅点は踏面2B側のP1であることが分かる。
また、一点鎖線62及び実線63は、タイヤトレッド2のP2及びP3の加硫度を示すグラフであって、P1が必要加硫度に達した時点で、P2及びP3の加硫度は、必要加硫度に達していることが分かる。
即ち、本実施形態に係るトレッド加硫装置1によれば、加硫の最遅点が踏面2Bに相当するP1であるため、P1を製品としての機能を発揮するために必要とされる必要加硫度まで上昇させた時点で、他のP2,P3の加硫度も必要加硫度に達しており、少なくとも転がり抵抗に影響する踏面2Bを過加硫の状態とすることなくタイヤトレッド2を得ることが可能となる。
【0025】
図3は、踏面金型6の第一の変形例を示す断面斜視図である。
本実施形態における踏面金型6は、厚さ方向中間部に非踏面金型3よりも低い熱伝導率を有する領域が設けられる。なお、本実施形態における踏面金型6以外の構成は、上記実施形態における構成と同様であるので説明を省略する。
同図において、踏面金型6は、下面が踏面側プラテン7の表面と当接する基礎金属領域80と、当該基礎金属領域80に載置された状態で固定される低熱伝導領域81と、当該低熱伝導領域81に載置された状態で固定される型付け金属領域82とにより構成される積層構造である。
基礎金属領域80は、例えば非踏面金型3と同じ熱伝導率を有するアルミニウム製の板材であって、踏面側プラテン7上に固定される。低熱伝導領域81は、少なくとも非踏面金型3よりも熱伝導率が低い、例えば、亜鉛、真鍮、鉄又はステンレス鋼等のうちから選択される材料からなる板材であって、基礎金属領域80の表面上に載置される。下方の基礎金属領域80と低熱伝導領域81とは、例えば超音波接合や図外のネジ穴を介して接合されることにより一体化される。
型付け金属領域82は、低熱伝導領域81の表面上に載置される部材であって、非踏面金型3と同じ熱伝導率を有するアルミニウムによって成型される。踏面金型6のうち、最も上方に位置する型付け金属領域82の上面は、前記実施形態と同様に型付け面6Aとして成型され、当該型付け面6Aによってタイヤトレッド2の踏面2B及び溝部2Cが成型される。型付け金属領域82と低熱伝導領域81とは、前記同様超音波接合や図外のネジ穴を介して接合されることにより一体化される。即ち、本形態に係る踏面金型6は、基礎金属領域80と低熱伝導領域81及び型付け金属領域82とから構成される積層構造である。
【0026】
本形態に係る踏面金型6を備えるトレッド加硫装置によっても、前述の実施形態に係るトレッド加硫装置1と同様の効果を得ることができる。即ち、本形態に係る踏面金型6は、厚さ方向中間部に非踏面金型3よりも低い熱伝導率を有する材料からなる低熱伝導領域81を含んで構成されるため、下方に位置する踏面側プラテン7からの熱伝達が低熱伝導領域81によって阻害され、非踏面側プラテン4及び踏面側プラテン7の温度を同一とした場合、タイヤトレッド2の踏面2Bをタイヤトレッド2内における加硫の最遅点とすることが可能となる。
なお、低熱伝導領域81の形状は図示されるものに限られず、基礎金属領域80及び型付け金属領域82よりも面積が小さい形状や、ブロック形状としてもよく、これらの形状によっても踏面側プラテン7からの熱伝達を阻害することが可能となる。
【0027】
図4は、踏面金型6の第二の変形例を示す断面斜視図である。
同図において踏面金型6は、型付け面6Aを含む型付け金属領域91が少なくとも非踏面金型3よりも熱伝導率が低い、例えば、亜鉛、真鍮、鉄又はステンレス鋼等のうちから選択される材料からなる低熱伝導領域として形成された点で前述の変形例と異なる。
即ち、本形態における踏面金型6は、基礎金属領域90と型付け金属領域91とからなる二層構造である。基礎金属領域90は、非踏面金型3と同じ熱伝導率を有する例えばアルミニウム製の板材であって、踏面側プラテン7上に固定される。また、型付け金属領域91は、基礎金属領域90上に対して前述(第一の変形例)と同様の方法により固定される。
即ち、本形態に係る踏面金型6は、型付け面6Aを含む型付け金属領域91が低熱伝導領域として構成されるため、下方に位置する踏面側プラテン7からの熱伝導が型付け金属領域91によって阻害され、非踏面側プラテン4及び踏面側プラテン7の温度を同一とした場合、タイヤトレッド2の踏面2Bをタイヤトレッド2内における加硫の最遅点とすることが可能となる。
また、型付け面6Aを含む型付け金属領域91が低熱伝導領域として構成されるため前述の第一の変形例に係る踏面金型6と比較して金型自体を容易に製作することが可能である。
【0028】
図5は、踏面金型6の第三の変形例を示す断面図である。
同図において踏面金型6は、型付け面6A上が非踏面金型3の部材よりも熱伝導率の低い低熱伝導領域96で被覆された点で、前述の変形例と異なる。
即ち、本形態における踏面金型6は、基礎金属領域95の型付け面6Aの全域を覆う低熱伝導領域96を有する構造である。基礎金属領域95は、非踏面金型3と同じ熱伝導率を有する例えばアルミニウム製の板材であって、踏面側プラテン7上に固定される。
低熱伝導領域96は、例えば非踏面金型3がアルミニウムである場合は、亜鉛、真鍮、鉄及びステンレス鋼、並びに、セラミックス等の材質により形成される。型付け面6A表面への被覆方法の一例としては、電着や電析、若しくは蒸着等が挙げられる。また、低熱伝導領域96の厚さは、例えば1mmから50mmの間から選択される任意の厚さに設定される。
【0029】
図2(c)は、低熱伝導領域96が、型付け面6Aの表面を被覆する領域として形成された変形例に係る踏面金型6によってタイヤトレッド2を加硫したときの加硫時間と加硫度との関係を示すグラフである。
図中の破線71は、点P1の加硫度を示すグラフであり、図2(b)に示される結果と同様に、踏面2B側のP1がタイヤトレッド2の内、最も遅く必要加硫度に到達することが分かる。即ち、本変形例に係る踏面金型6を採用したトレッド加硫装置1におけるタイヤトレッド2の加硫の最遅点は、踏面2B側のP1であることが分かる。
また、一点鎖線72及び実線73は、P2及びP3の加硫度を示すグラフであって、P1が必要加硫度に達した時点で、P2及びP3の加硫度は、必要加硫度に達していることが分かる。
即ち、本変形例に係る踏面金型6を採用したトレッド加硫装置1によっても、加硫の最遅点を踏面2Bに相当するP1とすることができ、さらに、P1を製品としての機能を発揮するために必要とされる必要加硫度まで上昇させた時点で、他のP2,P3の加硫度も必要加硫度に達していることから、少なくとも転がり抵抗に影響する踏面2Bを過加硫の状態とすることなくタイヤトレッド2を得ることが可能となる。
また、低熱伝導領域96が、型付け面6Aの表面を被覆する領域として形成されることから、既存の踏面金型の型付け面に低熱伝導領域を容易に形成することが可能となる。
【0030】
以上のとおり、本発明に係るトレッド加硫装置1によれば、踏面金型6が、非踏面金型3よりも熱伝導率の低い低熱伝導領域96を含んで形成されることにより、タイヤトレッド2の踏面2Bへの熱の伝わり方が非踏面2Aへの伝わり方よりも緩やかなものとなり、踏面2B側の加硫の進行が非踏面2A側の進行よりも遅くなり、タイヤトレッド2の踏面2Bをタイヤトレッド2内における加硫の最遅点とすることが可能となる。また、踏面金型6に含まれる低熱伝導領域96を構成する材質の熱伝導率を調整することにより、踏面2B側の加硫反応速度を容易に制御することが可能となる。
また、踏面2B側をタイヤトレッド2内における加硫の最遅点とすることができるため、踏面2Bが過加硫状態となることがなく、製品タイヤとした時の転がり抵抗を低減することができ、製品タイヤの品質を向上することが可能となる。
また、加硫の最遅点を踏面2Bとした場合であっても、タイヤトレッド2の製造時間は従来の加硫装置と比較してほとんど変わることがないので(図2(a)参照)、タイヤトレッド2の品質を向上させつつ、生産性を維持、向上させることが可能となる。
【0031】
次に、上記複数の実施形態に係るトレッド加硫装置1によって加硫されたタイヤトレッド2を製品として成型する方法について概説する。トレッド加硫装置1によって加硫成型を終えたタイヤトレッド2は、バフ掛け工程、トレッド貼付工程及び加硫工程を経て、最終の製品タイヤとして成型される。
まず、バフ掛け工程においては、タイヤトレッド2の非踏面2Aが図外のバフ掛け機によって研磨され、表面が目粗しされた状態とされる。
【0032】
次に、トレッド貼付工程においては、予め図外の加硫装置等によって加硫成型された図外の台タイヤの外周面をバフ掛け機によって目粗しした状態とし、当該台タイヤの外周面に対してクッションゴムと呼ばれる未加硫ゴムを配置する。
そして、台タイヤの外周面に配置されたクッションゴムを介して台タイヤの周囲にタイヤトレッド2を巻きつけ、端部同士を接合する。なお、巻きつけ時において非踏面2Aは、台タイヤの外周面と対向する面となる。
【0033】
貼付工程によってクッションゴムを介して接着された台タイヤ及びタイヤトレッド2は、加硫工程へと搬送される。加硫工程においては、台タイヤ及びタイヤトレッド2が加硫缶と呼ばれる図外の加硫装置に投入され、台タイヤとタイヤトレッド2との間に介在する未加硫のクッションゴムが加硫されることにより、台タイヤとタイヤトレッド2とが一体化され、製品としての性能を発揮し得る製品タイヤが製造される。
【0034】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施の形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば、上記実施形態においては、一対の非踏面金型3及び踏面金型6と非踏面側プラテン4及び踏面側プラテン7とを有する装置としたが、両金型及びプラテンを直列に重畳配置したいわゆる多段プレス機として構成することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 トレッド加硫装置、2 タイヤトレッド、2A 非踏面、2B 踏面、2C 溝部、
3 非踏面金型、3A 型付け面、4 非踏面側プラテン、4A 流路、
5 非踏面基台、6 踏面金型、6A 型付け面、7 踏面側プラテン、7A 流路、
8 踏面基台、9 加圧昇降機構、10 熱源供給装置、
80 基礎金属領域、81 低熱伝導領域、82 型付け金属領域、
90 基礎金属領域、91 型付け金属領域、
95 基礎金属領域、96 低熱伝導領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏面側にトレッド溝を有するタイヤトレッドを成型するトレッド加硫装置であって、
前記タイヤトレッドの踏面側を型付けする踏面金型と、
前記踏面金型とトレッド成型空間を形成し、前記タイヤトレッドの踏面側と反対側の非踏面側を型付けする非踏面金型と、
前記踏面金型及び非踏面金型を同一温度で加熱する熱源とを有し、
前記踏面金型が前記非踏面金型よりも熱伝導率の低い低熱伝導領域を含むことを特徴とするトレッド加硫装置。
【請求項2】
前記低熱伝導領域は、前記踏面金型における前記タイヤトレッドの踏面側と対向する型付け面を含む領域であることを特徴とする請求項1記載のトレッド加硫装置。
【請求項3】
前記低熱伝導領域は、前記踏面金型における前記タイヤトレッドの踏面側と対向する型付け面を被覆する領域であることを特徴とする請求項1記載のトレッド加硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20512(P2012−20512A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160619(P2010−160619)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】