説明

トロイダル型無段変速機

【課題】運転時にパワーローラに加わるスラスト荷重に基づいて、トラニオン7bを構成する支持梁部9bが、その中立線を直線αから曲線βとする方向に弾性変形した状態で、この支持梁部9bの内側面に設けた部分円筒状の係合凸面22aと、外輪16aの外側面に設けた部分円筒状の係合凹面23とを、十分に広い範囲で接触させられる構造を実現する。
【解決手段】前記係合凸面22aにクラウニングを施す事により、この係合凸面22aの母線形状を、前記曲線βと逆方向に湾曲した曲線形状とする。この様な構成を採用する事により、運転時の弾性変形に伴い、前記係合凸面22aが前記係合凹面23に合致する傾向となる様にして、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両(自動車)用の自動変速機、建設機械(建機)用の自動変速機、航空機(固定翼機、回転翼機、飛行船等)等で使用されるジェネレータ(発電機)用の自動変速機、ポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の自動変速機として利用する、トロイダル型無段変速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、一部で実施されて周知である。図10〜11は、特許文献1等に記載されて従来から知られているトロイダル型無段変速機の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合、入力回転軸1の両端寄り部分の周囲に1対の入力側ディスク2、2を、それぞれがトロイド曲面である内側面同士を互いに対向させた状態で、前記入力回転軸1と同期した回転を自在に支持している。又、この入力回転軸1の中間部周囲に出力筒3を、この入力回転軸1に対する回転を自在に支持している。又、この出力筒3の外周面には、軸方向中央部に出力歯車4を固設すると共に、軸方向両端部に1対の出力側ディスク5、5を、スプライン係合により、前記出力筒4と同期した回転を自在に支持している。又、この状態で、それぞれがトロイド曲面である、前記両出力側ディスク5、5の内側面を、前記両入力側ディスク2、2の内側面に対向させている。
【0003】
又、前記入力側ディスク2、2と前記出力側ディスク5、5との間に、それぞれの周面を球状凸面とした複数個のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7に回転自在に支持されており、これら各トラニオン7、7は、それぞれ前記両ディスク2、5の中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸8、8を中心とする揺動変位自在に支持されている。即ち、これら各トラニオン7、7は、両端部に互いに同心に設けられた前記両傾転軸8、8と、これら両傾転軸8、8同士の間に存在する支持梁部9とを備えており、これら両傾転軸8、8が、支持板10、10に対し、ラジアルニードル軸受11、11を介して枢支されている。
【0004】
又、前記各パワーローラ6、6は、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面に、基半部と先半部とが互いに偏心した支持軸12、12と、複数の転がり軸受とを介して、これら各支持軸12、12の先半部回りの回転、及び、これら各支持軸12、12の基半部を中心とする若干の揺動変位自在に支持されている。この様な各パワーローラ6、6の外側面と、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面との間には、それぞれが前記複数の転がり軸受の一部である、スラスト玉軸受13、13と、スラストニードル軸受14、14とを、前記各パワーローラ6、6の側から順番に設けている。このうちのスラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ6、6の回転を許容するものである。これら各スラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6の外側面に形成された内輪軌道15と、外輪16の内側面に形成された外輪軌道17との間に複数個の玉18、18を、転動自在に設けて成る。又、前記各スラストニードル軸受14、14は、前記各パワーローラ6、6から前記各スラスト玉軸受13、13を構成する外輪16、16に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら各外輪16、16及び前記各支持軸12、12の先半部が、これら各支持軸12、12の基半部を中心に揺動する事を許容するものである。尚、前記各スラスト玉軸受13、13を構成する外輪16、16と、前記各支持軸12、12とは、図10〜11に示す様に互いに別体に形成する他、例えば後述する図16及び図17(A)に示す様に、互いに一体に形成する場合もある。
【0005】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸19により一方(図10の左方)の入力側ディスク2を、ローディングカム式の押圧装置20を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、前記各パワーローラ6、6を介して前記両出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータ21、21により前記各トラニオン7、7を前記傾転軸8、8の軸方向に変位させる。この結果、前記各パワーローラ6、6の周面と前記両ディスク2、5の内側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化する(転がり接触部にサイドスリップが発生する)。そして、この力の向きの変化に伴って前記各トラニオン7、7が、自身の傾転軸8、8を中心に揺動し、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との接触位置が変化する。これら各パワーローラ6、6の周面を、前記入力側ディスク2、2の内側面の径方向外寄り部分と、前記出力側ディスク5、5の内側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が増速側になる。これに対して、前記各パワーローラ6、6の周面を、前記入力側ディスク2、2の内側面の径方向内寄り部分と、前記出力側ディスク5、5の内側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が減速側になる。
【0006】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各部材、即ち、前記入力側、出力側各ディスク2、5と前記各パワーローラ6、6とが、前記押圧装置20が発生する押圧力に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、前記入力側、出力側各ディスク2、5が軸方向に変位する。又、前記押圧装置20が発生する押圧力は、前記トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴って前記各部材2、5、6の弾性変形量も多くなる。従って、前記トルクの変動に拘らず、前記入力側、出力側各ディスク2、5の内側面と前記各パワーローラ6、6の周面との接触状態を適正に維持する為に、前記各トラニオン7、7に対して前記各パワーローラ6、6を、前記各ディスク2、5の軸方向に変位させる機構が必要になる。上述した従来構造の第1例の場合には、前記各パワーローラ6、6を支持した前記各支持軸12、12の先半部を、同じく基半部を中心として揺動変位させる事により、前記各パワーローラ6、6を前記軸方向に変位させる様にしている。
【0007】
これに対して、前記特許文献1には、各パワーローラを各トラニオンに対し、各ディスクの軸方向に変位させる為の機構として、上述した従来構造の第1例の場合とは異なる機構を備えた構造が記載されている。この様な異なる機構を備えた、トロイダル型無段変速機の従来構造の第2例に就いて、図12〜14により説明する。この従来構造の第2例の場合、トラニオン7aは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8、8と、これら両傾転軸8、8同士の間に存在し、少なくとも入力側、出力側両ディスク2、5(図10参照)の径方向(図12〜14の上下方向)に関する内側(図12〜14の上側)の側面を、円筒状凸面である係合凸面22とした、支持梁部9aとを備える。この係合凸面22の中心軸イは、図12〜13に示す様に、前記両傾転軸8、8の中心軸ロと平行で、これら両傾転軸8、8の中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側(図12〜14の下側)に存在する。
【0008】
又、前記支持梁部9aとパワーローラ6の外側面との間に設けたスラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外側面に、円筒状凹面である係合凹面23を、これら外輪16aの中心軸と係合凹面23の中心軸とを互いに直交させる状態で設けている。尚、前記スラスト玉軸受13aが、特許請求の範囲に記載したスラスト転がり軸受に相当する。そして、前記係合凸面22に前記係合凹面23を係合させる事により、前記トラニオン7aに対し前記外輪16aを、前記各ディスク2、5の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。尚、図示の例では、前記係合凹面23の断面形状の曲率半径r23を、前記係合凸面22の断面形状の曲率半径r22と等しく(r23=r22)している。但し、前記係合凹面23の断面形状の曲率半径r23を、前記係合凸面22の断面形状の曲率半径r22よりも大きく(r23>r22)しても良い。又、図示の例では、その周囲に前記パワーローラ6を回転自在に支持する為の支持軸12aを、前記外輪16aの内側面中央部に一体に固設している。
【0009】
上述の様に構成する従来構造の第2例の場合、トロイダル型無段変速機の運転時に、前記各ディスク2、5及び前記各パワーローラ6の弾性変形に基づいて、これら各パワーローラ6をこれら各ディスク2、5の軸方向に変位させる必要が生じた場合には、前記スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外側面に設けた係合凹面23と、前記各トラニオン7aを構成する支持梁部9aの内側面に設けた係合凸面22との当接面を滑らせつつ、前記各パワーローラ6が、この係合凸面22の中心軸イを中心として揺動変位する。この結果、前記各パワーローラ6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との転がり接触部が、これら各ディスク2、5の軸方向に変位し、これら各面同士の接触状態が適正に維持される。この場合に、前記係合凸面22の中心軸イを中心とする揺動変位の揺動半径は、前記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、前記入力側ディスク2、2と出力側ディスク5、5との間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
【0010】
ところで、上述した様な従来構造の第1〜2例の場合、トロイダル型無段変速機の運転時には、前記各ディスク2、5から前記各パワーローラ6、6に加わるスラスト荷重に基づいて、前記各トラニオン7、7aを構成する支持梁部9、9aが、図15に誇張して示す様に、その内側面を凹面とする方向に弾性変形する。この結果、これら各支持梁部9、9aの内側面から、前記各スラスト玉軸受13、13aを構成する外輪16、16aに、図16の(A)(B)に矢印で示す方向のモーメントMが加わる。
【0011】
一方、前述の図10〜11に示した従来構造の第1例の場合、前記外輪16は、全体的に板厚の変化が少ない、略平板状に形成されている。即ち、この外輪16の、前記モーメントMに対する曲げ剛性は、低くなっている。この為、この外輪16は、このモーメントMが加わる事により、前記支持梁部9の内側面に倣う方向に弾性変形する。従って、トロイダル型無段変速機の運転時に、前記支持梁部9の内側面と前記外輪16の外側面とは、図17の(A)(B)に斜格子を付して示す様な広い範囲で、互いに(前記スラストニードル軸受14を介して)押し付け合う状態となる。この結果、前記支持梁部9の内側面と前記外輪16の外側面とに加わる面圧を低く抑える事ができ、これら支持梁部9及び外輪16の耐久性を確保する事が容易となる。
【0012】
これに対して、上述の図12〜14に示した従来構造の第2例の場合、前記外輪16aは、前記係合凹面23の湾曲方向{図12、14、16の(B)の表裏方向、図13の左右方向}両端部分の肉厚が、同じく中央部分の肉厚に比べて、十分に大きくなった形状を有する。従って、前記外輪16aの、前記モーメントMに対する曲げ剛性は、十分に高くなっている。この為、この外輪16aは、このモーメントMが加わった場合にも、前記支持梁部9aの内側面に倣う方向には、余り弾性変形しない。従って、トロイダル型無段変速機の運転時に、前記支持梁部9aの内側面に設けた係合凸面22と、前記外輪16aの外側面に設けた係合凹面23とは、図18の(A)(B)に斜格子を付して示す様な、この係合凹面23の外周縁部分に対応する環状の狭い範囲でのみ、互いに押し付け合う状態となる。この結果、前記係合凸面22と前記係合凹面23との接触部に加わる面圧が高くなり、この事が、前記支持梁部9aと前記外輪16aとの耐久性の確保を難しくする要因になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−25821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、トラニオンを構成する支持梁部の内側面に設けた係合凸面と、スラスト転がり軸受を構成する外輪の外側面に設けた係合凹面とを係合させる事により、入力側、出力側両ディスクの軸方向に関するパワーローラの揺動変位を可能とした構造に関し、前記支持梁部及び前記外輪の耐久性を向上させる事を目的として、運転時の前記係合凸面と前記係合凹面との接触範囲を広くできる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のトロイダル型無段変速機は、入力側ディスク及び出力側ディスクと、複数個のトラニオンと、複数個のパワーローラとを備える。
このうちの入力側ディスク及び出力側ディスクは、相対回転を自在として互いに同心に支持されている。
又、前記各トラニオンは、前記両ディスクの軸方向に関して、これら両ディスクの間部分に設けられ、それぞれの両端部に互いに同心に、且つ、これら両ディスクの中心軸に対して捩れの位置に設けられた傾転軸を中心とする揺動変位を自在とされている。
又、前記各パワーローラは、前記各トラニオンの中間部側面に、それぞれスラスト転がり軸受を介して回転自在に支持された状態で、前記両ディスク同士の間に挟持されている。
又、前記各トラニオンは、両端部に互いに同心に設けられた前記両傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記両ディスクの径方向に関する内側の側面を、前記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも前記両ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面である係合凸面とした支持梁部とを備える。
又、前記各スラスト転がり軸受は、前記各支持梁部と前記各パワーローラとの間に設けられたもので、外輪と、互いに対向するこの外輪の内側面と前記パワーローラの外側面との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。そして、前記外輪は、外側面に設けられた円筒状凹面である係合凹面を、前記係合凸面に係合させる事により、前記各トラニオンに対し、前記両ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されている。
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、前記係合凸面と前記係合凹面とのうちの少なくとも一方の面にクラウニング(その母線形状を、当該面の軸方向両端側に向かうに従って漸次相手面から遠ざかる方向に傾斜した曲線形状にする処理)が施されている。
【0016】
本発明を実施する場合には、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記係合凸面と前記係合凹面とのうちの少なくとも一方の面の全体にクラウニングを施す。
又は、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記係合凸面と前記係合凹面とのうちの少なくとも一方の面の軸方向両端部にのみクラウニングを施す。
尚、本発明を実施する場合に、クラウニングを施した部分の母線形状は、例えば、単一円弧形状とする他、途中で曲率半径が変化する複合曲線形状とする事もできる。
【0017】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記係合凸面の軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凸面の自由状態での曲率半径を、前記係合凹面の軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凹面の自由状態での曲率半径よりも小さくする。尚、この様な寸法関係は、勿論、前記係合凸面と前記係合凹面との係合部に於ける、軸方向位置が互いに整合する部分で成立する様にする。又、前記各仮想平面に関する、前記係合凸面及び前記係合凹面の断面形状は、それぞれ単一円弧形状とする他、複合円弧形状(曲率半径が途中で変化する円弧形状)とする事もできる。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機の場合、運転時に両ディスクから各パワーローラに加わるスラスト荷重に基づいて、各トラニオンを構成する支持梁部が弾性変形すると、これら各支持梁部の内側面に設けた係合凸面が、各スラスト転がり軸受を構成する外輪の外側面に設けた係合凹面に対し、合致する傾向、即ち、十分に広い範囲で接触する傾向となる。この為、運転時に前記係合凸面と前記係合凹面との接触部に加わる面圧を低く抑える事ができ、前記各支持梁部と前記各外輪との耐久性を向上させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を構成する、トラニオンと、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪とを、互いに組み合わせる以前の状態で示す、部分切断側面図。
【図2】同第2例を示す、図1と同様の図。
【図3】係合凸面の母線形状の別例(第2例)を示す、トラニオンの断面図。
【図4】係合凹面の母線形状の別例(第2例)を示す、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪の断面図。
【図5】係合凸面の母線形状の別例(第3例)を示す、トラニオンの断面図。
【図6】係合凹面の母線形状の別例(第3例)を示す、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪の断面図。
【図7】係合凸面の軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凸面の断面形状の別例を示す、トラニオンの断面図。
【図8】係合凹面の軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凹面の断面形状の別例を示す、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪の断面図。
【図9】運転時の係合凹面の弾性変形状態を鎖線で誇張して示す、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪の断面図。
【図10】従来構造の第1例を示す断面図。
【図11】図10のa−a断面に相当する図。
【図12】従来構造の第2例を示す、要部断面図。
【図13】図12のb−b断面図。
【図14】従来構造の第2例を構成する、トラニオンと、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪とを、互いに組み合わせる以前の状態で示す、部分切断側面図。
【図15】運転時に弾性変形した状態で示す、トラニオンの断面図。
【図16】支持軸と一体に造られたスラスト玉軸受用の外輪に対して運転時に作用するモーメントMの方向を示す、(A)は従来構造の第1例に関する、(B)は従同第2例に関する、それぞれ断面図。
【図17】従来構造の第1例を構成する、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸用の外輪の半部切断斜視図(A)、及び、トラニオンの半部切断斜視図(B)。
【図18】同第2例を構成する、支持軸と一体に造られたスラスト玉軸用の外輪の半部切断斜視図(A)、及び、トラニオンの半部切断斜視図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、トラニオン7bを構成する支持梁部9bの内側面(図1に於ける上側面)に設けた係合凸面22aの形状にある。その他の部分の基本構造及び作用は、前述の図12〜14に示した従来構造の第2例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0021】
本例の場合、前記係合凸面22aは、単なる円筒状凸面とはせず、この係合凸面22aの全体に、図1に誇張して示す様な、クラウニングを施している。具体的には、このクラウニングを施した部分である、前記係合凸面22aの全体の母線形状を、図1に誇張して示す様な、中央部が入力側、出力側両ディスク2、5(図10参照)の径方向内側(図1の上側)に最も突出した、単一円弧形状としている。尚、本例の場合には、前記係合凸面22aの軸方向寸法L22aが60〜70mm程度であるのに対し、前記係合凸面22aの母線形状(単一円弧形状)の曲率半径R1を2000mmとしている。一方、本例の場合、スラスト玉軸受を構成する外輪16aの外側面(図1に於ける下側面)に設けた係合凹面23には、特にクラウニングを施していない。即ち、この係合凹面23は、前述した従来構造の第2例の場合と同様、単なる円筒状凹面になっており、この係合凹面23の母線形状は、単なる直線形状になっている。
【0022】
上述の様に構成する本例のトロイダル型無段変速機の運転時には、前記両ディスク2、5からパワーローラ6(図12〜13参照)に加わるスラスト荷重に基づいて、前記トラニオン7bを構成する支持梁部9bが、図1に誇張して示す様に、その中立線を直線αから曲線βとする方向に弾性変形する。そして、この弾性変形に伴い、前記支持梁部9bの内側面に設けた係合凸面22aの母線形状(単一円弧形状)が、前記外輪16aの外側面に設けた係合凹面23の母線形状(直線形状、若しくは、この直線形状が前記外輪16aの弾性変形に基づいて僅かに変化した形状)に一致する方向に変化する。この結果、前記係合凸面22aが前記係合凹面23に対し、合致する傾向、即ち、十分に広い範囲で接触する傾向となる。この為、運転時にこれら係合凸面22aと係合凹面23との接触部に加わる面圧を低く抑える事ができ、前記各支持梁部9bと前記外輪16aとの耐久性を向上させる事ができる。
【0023】
[実施の形態の第2例]
図2は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。尚、本例の特徴は、パワーローラ6(図12〜13参照)に加わるスラスト荷重を支承する為のスラスト玉軸受を構成する外輪16bの外側面(図2に於ける下側面)に設けた係合凹面23aの形状にある。その他の部分の基本構造及び作用は、前述の図12〜14に示した従来構造の第2例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0024】
本例の場合、前記係合凹面23aは、単なる円筒状凹面とはせず、この係合凹面23aの全体に、図2に誇張して示す様な、クラウニングを施している。具体的には、このクラウニングを施した部分である、前記係合凹面23aの全体の母線形状を、図2に誇張して示す様な、中央部が入力側、出力側両ディスク2、5(図10参照)の径方向外側(図2の下側)に最も突出した、単一円弧形状としている。尚、本例の場合には、前記係合凹面23aの軸方向寸法L23aが55〜65mm程度であるのに対し、前記係合凹面23aの母線形状(単一円弧形状)の曲率半径R2を2000mmとしている。一方、本例の場合、トラニオン7aを構成する支持梁部9aの内側面(図2に於ける上側面)に設けた係合凸面22には、特にクラウニングを施していない。即ち、この係合凸面22は、前述した従来構造の第2例の場合と同様、単なる円筒状凸面になっており、この係合凸面22の母線形状は、単なる直線形状になっている。
【0025】
上述の様に構成する本例のトロイダル型無段変速機の運転時には、前記両ディスク2、5から前記パワーローラ6に加わるスラスト荷重に基づいて、前記トラニオン7aを構成する支持梁部9aが、図2に誇張して示す様に、その中立線を直線αから曲線βとする方向に弾性変形する。そして、この弾性変形に伴い、前記支持梁部9aの内側面に設けた係合凸面22の母線形状(直線形状)が、前記外輪16bの外側面に設けた係合凹面23aの母線形状(単一円弧形状、若しくは、この単一円弧形状が前記外輪16bの弾性変形に基づいて僅かに変化した形状)に一致する方向に変化する。この結果、前記係合凸面22が前記係合凹面23aに対し、合致する傾向、即ち、十分に広い範囲で接触する傾向となる。この為、運転時にこれら係合凸面22と係合凹面23aとの接触部に加わる面圧を低く抑える事ができ、前記各支持梁部9aと前記外輪16bとの耐久性を向上させる事ができる。
【0026】
尚、本発明を実施する場合で、前述した実施の形態の第1例、又は、上述した実施の形態の第2例の様に、係合凸面の全体、又は、係合凹面の全体にクラウニングを施す場合には、例えば、図3又は図4に誇張して示す様に、係合凸面22bの全体の母線形状、又は、係合凹面23bの全体の母線形状を、それぞれ中間部の曲率半径R1、R2が比較的大きく、両端部の曲率半径R3、R4が比較的小さい(例えば、上述した各実施の形態のサイズで、R1、R2が2000mm程度であり、R3、R4が1000mm程度である)、複合曲線形状とする事もできる。
又、本発明を実施する場合には、図5に誇張して示す様に、係合凸面22cの軸方向両端部にのみ、又は、図6に誇張して示す様に、係合凹面23cの軸方向両端部にのみ、クラウニングを施して、これら各軸方向両端部の母線形状のみを、円弧形状とする(例えば、上述した各実施の形態のサイズで、これら各円弧形状の曲率半径R3、R4を1000mm程度とする)事もできる。
【0027】
更に、上述した各実施の形態では、係合凸面と係合凹面とのうちの何れか一方の面にのみクラウニングを施す構成を採用したが、本発明を実施する場合には、係合凸面と係合凹面との両方の面にクラウニングを施す構成を採用する事もできる。何れの構成を採用する場合でも、対象となる面(係合凸面又は係合凹面)に対してどの様なクラウニングを施すかは、本発明の目的(運転時に生じる弾性変形に伴って係合凸面と係合凹面との接触範囲が十分に広くなる様にする事で、トラニオンを構成する支持梁部とスラスト転がり軸受を構成する外輪との耐久性を向上させると言った目的)を十分に達成できる様に決定する。好ましくは、前記クラウニングの形状及び寸法を、運転時にパワーローラに加わるスラスト荷重が最大となる(入力側ディスクへの入力トルクが最大となる)状態、又は、最も長い時間作用する大きさとなる状態で、前記係合凸面と前記係合凹面との接触面積が最大となる様に設定する。
【0028】
又、本発明を実施する場合には、図7〜8に誇張して示す様な、請求項4に記載した発明の構成を採用する事もできる。即ち、係合凸面22dの軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凸面22dの自由状態での曲率半径R22dを、係合凹面23dの軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凹面23dの自由状態での曲率半径R23dよりも僅かに小さくする(R22d<R23d)事ができる。この様な構成を採用すれば、次の様な作用・効果を得られる。
【0029】
即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、パワーローラに加わるスラスト荷重に基づいて、前記外輪16eが弾性変形すると、これに伴い、前記係合凹面23dの曲率半径R23dが、僅かに小さくなる傾向となる。具体的には、この係合凹面23dの断面形状が、図9に実線で示す状態から、同図に鎖線で誇張して示す状態に変化する傾向となる。更に別な言い方をすれば、前記係合凹面23dの円周方向中央部が、前記係合凸面22dから退避する方向に、僅かに弾性変形する傾向となる。この結果、前記係合凹面23dの円周方向両端部のみが前記係合凸面22dに接触する傾向となり、これら両面23d、22d同士の接触面圧が過大になる可能性がある。この為、前記係合凸面22dと前記係合凹面23dとのうちの少なくとも一方の面にクラウニングを施す事に加えて、上述の様な寸法関係(自由状態でR22d<R23d)を採用すれば、運転時に生じる弾性変形に伴って、前記係合凹面23dの曲率半径R23dが前記係合凸面22dの曲率半径R22dに一致する(R23d=R22d)傾向となる。従って、前記係合凹面23dを前記係合凸面22dに対し、より広い範囲で接触させる事ができる。この結果、運転時にこれら係合凸面22dと係合凹面23dとの接触部に加わる面圧をより低く抑える事ができ、前記支持梁部9eと前記外輪16eとの耐久性をより向上させる事ができる。
【0030】
尚、上述の様な請求項4に記載した発明の構成を採用する場合には、係合凸面と係合凹面とのうちの少なくとも一方の面の断面形状を、単一円弧形状に代えて、複合円弧形状とする事もできる。何れにしても、前記係合凸面及び前記係合凹面の自由状態での断面形状及び曲率半径は、請求項4に記載した発明の目的(運転時に生じる弾性変形に伴って前記係合突部と前記係合凹部との接触範囲をより広くする)を十分に達成できる様に決定する。好ましくは、前記係合凸面及び前記係合凹面の自由状態での断面形状及び曲率半径を、運転時にパワーローラに加わるスラスト荷重が最大となる状態、又は、最も長い時間作用する大きさとなる状態で、前記係合凸面と前記係合凹面との接触面積が最大となる様に設定する。
【符号の説明】
【0031】
1 入力回転軸
2 入力側ディスク
3 出力筒
4 出力歯車
5 出力側ディスク
6 パワーローラ
7、7a、7b、7c、7d、7e トラニオン
8 傾転軸
9、9a、9b、9c、9d、9e 支持梁部
10 支持板
11 ラジアルニードル軸受
12、12a 支持軸
13、13a スラスト玉軸受
14 スラストニードル軸受
15 内輪軌道
16、16a、16b、16c、16d、16e 外輪
17 外輪軌道
18 玉
19 駆動軸
20 押圧装置
21 アクチュエータ
22、22a、22b、22c、22d 係合凸面
23、23a、23b、23c、23d 係合凹面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転を自在として互いに同心に支持された入力側ディスク及び出力側ディスクと、これら両ディスクの軸方向に関してこれら両ディスクの間部分に設けられ、それぞれの両端部に互いに同心に、且つ、これら両ディスクの中心軸に対して捩れの位置に設けられた傾転軸を中心とする揺動変位を自在とされた複数個のトラニオンと、これら各トラニオンの中間部側面に、それぞれスラスト転がり軸受を介して回転自在に支持された状態で、前記両ディスク同士の間に挟持された複数個のパワーローラとを備え、
このうちの各トラニオンは、両端部に互いに同心に設けられた前記両傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記両ディスクの径方向に関する内側の側面を、前記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも前記両ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面である係合凸面とした支持梁部とを備えたものであり、
前記各スラスト転がり軸受は、前記各支持梁部と前記各パワーローラとの間に設けられたもので、外輪と、互いに対向するこの外輪の内側面と前記パワーローラの外側面との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであって、前記外輪は、外側面に設けられた円筒状凹面である係合凹面を、前記係合凸面に係合させる事により、前記各トラニオンに対し、前記両ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されている
トロイダル型無段変速機に於いて、
前記係合凸面と前記係合凹面とのうちの少なくとも一方の面にクラウニングが施されている事を特徴とする
トロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記係合凸面と前記係合凹面とのうちの少なくとも一方の面の全体にクラウニングが施されている、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記係合凸面と前記係合凹面とのうちの少なくとも一方の面の軸方向両端部にのみクラウニングが施されている、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記係合凸面の軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凸面の自由状態での曲率半径を、前記係合凹面の軸方向と直交する仮想平面に関する、この係合凹面の自由状態での曲率半径よりも小さくした、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−159186(P2012−159186A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21299(P2011−21299)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】