説明

トロイダル型無段変速機

【課題】軸受で発生する損失を低減できるとともに、ディスクの加工がし易い、低コストでワイドレンジ化が可能なトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機では、内側ディスク3の小端面3aに玉軸受6の軌道輪100が形成される。また、軌道輪100の少なくとも一部は、パワーローラと内側ディスク3との界面であるトラクション面12と軸方向でオーバーラップする。また、支持ポスト8a,8bとディスク3に相対する軌道輪(小端面3aの軌道輪100と対向する玉軸受6の他方の軌道輪)との間に位置調整部材120が介挿されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機の一例が図8に示されている。なお、図8は、一対のキャビティ同士の間で、断面の位置が、互いに回転方向に90度ずれている。図示のように、このトロイダル型無段変速機1は、外側ディスクである一対の入力側ディスク2a,2bと、同じく内側ディスクである一体型の出力側ディスク3と、複数のパワーローラ4,4とを備える。そして、一対の入力側ディスク2a,2bは、回転軸である入力軸5を介して、互いに同心に且つ同期回転自在に結合されている。また、出力側ディスク3は、両入力側ディスク2a,2b同士の間に、これら両入力側ディスク2a,2bと同心に且つこれら両入力側ディスク2a,2bに対して相対回転自在に支持されている。更に、各パワーローラ4,4は、出力側ディスク3の軸方向両側面と両入力側ディスク2a,2bの軸方向片側面との間に、それぞれ複数個ずつ挟持されている。そして、各パワーローラ4,4は、これら両入力側ディスク2a,2bの回転に伴って回転しつつ、これら両入力側ディスク2a,2bから出力側ディスク3に動力を伝達する。
【0003】
出力側ディスク3の軸方向両端部(以下、小端面とも称する)は、それぞれがスラストアンギュラ型である一対の玉軸受6,6によって回転自在に支持されている。このため、ケーシング7の内面に固設された支持ポスト8a,8bを、ケーシングの内面に固定される部材である円環状の保持環9により連結している。これら各支持ポスト8a,8bは、各パワーローラ4,4を回転自在に支持する支持部材であるトラニオン10,10の両端部を支持する支持板11a,11bを支持するためのものであり、入力軸5を挟んで径方向反対側に互いに同心に設けられている。この構造では、一対の支持ポスト8a,8bを保持環9により連結し、この保持環9の内側に入力軸5を挿通している。
【0004】
そして、各キャビティ毎に設けた各保持環9,9と、出力側ディスク3の軸方向両端面、すなわち、この出力側ディスク3の両側面に設けた出力側面12,12よりも内径側部分との間に、各玉軸受6,6が設けられている。また、これら各玉軸受6,6を構成する一対のスラスト軌道輪13a,13bの外側面(互いに反対側の側面)の内径寄り部分に、短円筒状の突条部14,14が全周にわたって形成されている。そして、これら各突条部14,14を各保持環9,9および出力側ディスク3の端部に内嵌することにより、各玉軸受6,6の径方向に関する位置決めがなされている。また、一方のスラスト軌道輪13a,13aの外側面と各保持環9,9との間にシム板15,15を挟持することにより、各玉軸受6,6の軸方向に関する位置決めがなされている。また、この状態で、これらの各玉軸受6,6に所望の予圧が付与されている。出力側ディスク3は、各キャビティ内に一対ずつ設けた各支持ポスト8a,8b同士の間に、径方向および軸方向に関する位置決めが図られた状態で、回転自在に支持されている。
【0005】
このように、一体型の出力側ディスクに基づく構造は、従来から様々なものが存在する(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−81519号公報
【特許文献2】特開2003−314645号公報
【特許文献3】特開2008−64139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1は、スラストニードル軸受を用いて、軸方向の一体型内側ディスクの位置決めを行なっているので、軸受で発生する損失が大きい。また、内側ディスクの小端面側を転動面としているので、少なくともニードルの幅分は端面幅を確保する必要があり、これに伴ってディスクのサイズを大きく或いは軸径を小さくするなど、設計を変更する必要がでてくる場合がある。ディスクのサイズを大きくした場合には、重量増加となる。また、軸径を小さくした場合には、許容伝達トルクが低下する。また、ディスク端面の仕上げ範囲が大きくなり、加工に伴う時間、コストの増大に繋がる。
一方、特許文献2は、一体型内側ディスクの小端面に設けた印籠部(インロー部)にスラストアンギュラ軸受を嵌め込み、ディスクを支持するものであるが、この場合、印籠部を設けることから、小端面近傍の径方向の肉厚が薄くなり、ワイドレンジ化を目指して更に小端面を使用する場合に、この部分に発生する応力が高くなることから、ディスクの使用範囲が限られてくる。
また、特許文献3は、特許文献2の課題を解決するべく、小端面に円筒部を設け、この円筒部に軸受を設けるものであるが、円筒部を設けた分、軸方向の長さが更に必要になるとともに、加工もし難くなる。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、軸受で発生する損失を低減できるとともに、ディスクの加工がし易い、低コストでワイドレンジ化が可能なトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、ケーシングと、このケーシング内に回転自在に支持された回転軸と、それぞれが断面円弧形である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で前記回転軸の両端部に前記回転軸と同期回転自在に支持された一対の外側ディスクと、前記回転軸の中間部周囲に断面円弧形である軸方向両側面を前記各外側ディスクの軸方向片側面に対向させた状態で前記回転軸に対して相対回転自在に支持された内側ディスクと、軸方向に関してこれら内側ディスクの軸方向両側面と各外側ディスクの軸方向片側面との間の位置にそれぞれ複数個ずつ前記回転軸に対し捩れの位置にある枢軸を中心に揺動自在に設けられた支持部材と、これらの各支持部材に回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を前記内側ディスクの軸方向両側面と各外側ディスクの軸方向片側面とに当接させたパワーローラとを備え、前記内側ディスクの小端面を前記ケーシングの内面に固定された固定部材に対して玉軸受により回転自在に支持したトロイダル型無段変速機において、前記内側ディスクの小端面には前記玉軸受の軌道輪が形成され、前記軌道輪の少なくとも一部は、前記パワーローラと前記内側ディスクとの界面であるトラクション面と軸方向でオーバーラップすることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、軸受を玉軸受としたことにより、スラストニードル軸受に比べて、軸受で発生する損失を低減することができる。また、小端面からの突出物がないので、ディスクの加工がし易い。更に、内側ディスクの小端面に玉軸受の軌道輪が形成され、軌道輪の少なくとも一部がパワーローラと内側ディスクとの界面であるトラクション面と軸方向でオーバーラップするので、ワイドレンジ化が可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内側ディスクの小端面に玉軸受の軌道輪が形成され、軌道輪の少なくとも一部がパワーローラと内側ディスクとの界面であるトラクション面と軸方向でオーバーラップするので、軸受で発生する損失を低減できるとともに、ディスクの加工がし易い、低コストでワイドレンジ化が可能なトロイダル型無段変速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図2】(a)は図1の要部拡大図、(b)は(a)のZ部拡大図である。
【図3】トロイダル型無段変速機のパワーローラおよびトラニオンを示す断面図である。
【図4】内側ディスクのトラクション面中心と傾転軸(枢軸)との間の関係を示す概略図である。
【図5】本発明の構造(下半分)と従来の構造(上半分)とを比較して示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図8】従来の一体型内側ディスクを備えるトロイダル型無段変速機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態を説明する。
なお、本発明の特徴は、一体型内側ディスクの支持構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図8と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の要部断面を示している。本実施形態のトロイダル型無段変速機は、図8に示すトロイダル型無段変速機1と同様に、ケーシング7と、このケーシング7内に回転自在に支持された入力軸(回転軸)5と、それぞれが断面円弧形である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で入力軸5の両端部に入力軸5と同期回転自在に支持された一対の入力側ディスク(外側ディスク)2a,2bと、入力軸5の中間部周囲に断面円弧形である軸方向両側面を各入力側ディスク2a,2bの軸方向片側面に対向させた状態で回転軸5に対して相対回転自在に支持された出力側ディスク(内側ディスク)3と、軸方向に関して出力側ディスク3の軸方向両側面と各入力側ディスク2a,2bの軸方向片側面との間の位置にそれぞれ複数個ずつ入力軸5に対し捩れの位置にある枢軸を中心に揺動自在に設けられたトラニオン(支持部材)10と、これらの各トラニオン10に回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を出力側ディスク3の軸方向両側面と各入力側ディスク2a,2bの軸方向片側面とに当接させたパワーローラ4とを備えている。
【0015】
特に図2に明確に示されるように、本実施形態では、一体型の出力側ディスク3の両小端面3aに玉軸受6のための軌道輪100が設けられている(直接に形成されている)。
すなわち、出力側ディスク3の両小端面3aに玉軸受6の玉が転動する溝状の軌道101が直接形成されている。
軸受を玉軸受6としたことにより、スラストニードル軸受に比べて、軸受6で発生する損失を低減することができる。また、スラストニードル軸受を使用する場合に比べて、軌道輪(軌道面)100のみ仕上げれば良く、小端面3aの加工範囲を小さくできることから、コスト低減が可能である。なお、軸受6は、スラスト玉軸受に限らず、スラストアンギュラ玉軸受であってもよい。スラストアンギュラ玉軸受の場合には、出力側ディスク3の径方向の支持を行なう軸受を省いてもよい。
【0016】
また、本実施形態では、前述した特許文献2のように印籠部を設けていないので、小端部3a近傍のディスク3の肉厚を確保することができ、ディスク3をより小端部3aまで使用できる(すなわち、パワーローラ4とディスク3との接触点をより小端面3a側へと移動できる)ことから、ワイドレンジ化が可能となる。これに加え、本実施形態では、図2に示すように、パワーローラ4とディスク3との接触点(接触楕円)Pを、小端面3aに設けた軌道輪100と軸方向に所定量Lだけオーバーラップさせる(軌道輪100の少なくとも一部をトラクション面12と軸方向でオーバーラップさせる)ことにより、更にワイドレンジ化を図ることができる。また、玉軸受6の外輪()を別個に設けていないことから、固定部材である支持ポスト8a,8bとディスク3との間の距離を更に縮めることができる。この効果により、ディスク3の小端面3aを更に支持ポスト8a,8bに近づけることができ、したがって、トラクション面(パワーローラ4とディスク3との間の界面)を広げることができるので、ワイドレンジ化に寄与し得る。
【0017】
なお、出力側ディスク3の入力側ディスク2a、2bに対向する面におけるトラクション面12の範囲は、パワーローラ4が潤滑油(トラクション油)を介して接触可能な面の範囲である。なお、パワーローラ4と出力側ディスク43とがトラクション油を介して接触する部分は、例えば、点ではなく、楕円状の範囲、すなわち接触楕円と見なすことができる。
【0018】
トラクション面の出力側ディスク3の小端面側の端(縁)は、上述の出力側ディスク3とパワーローラ4との接触楕円(接触点P)が出力側ディスク3の最も内側、すなわち、最も小端面3a側となった際の接触楕円の小端面3a側の端部の位置である。したがて、図2に示すように、出力側ディスク3とパワーローラ4との接触楕円(接触点P)が出力側ディスク3の最も内側、すなわち、最も小端面3a側となった際に、接触楕円の小端面側の端部が軌道輪100と重なる場合に、トラクション面もその小端面側の端部(縁部)が軌道輪100と重なることになる。
【0019】
この実施形態では、軌道輪100は、出力側ディスク3の小端面3a側に一体に設けられているが、軌道輪100の出力側ディスク3の軸方向に沿った範囲を、例えば、小端面3aから軌道輪100に形成された溝状の軌道101の最も深い部位101aまでとしている。すなわち、溝状の軌道101と軸方向位置が同じになる部分があれば、軌道輪100と軸方向でオーバーラップしていることになる。
【0020】
図5は、本発明の構造と従来の構造とを比較して示す断面図である。図5の上半分は、小端面3aに軸受6の軌道輪100を設けずに玉軸受6の外輪(ディスク3とは別部材になっている軌道輪)150を小端面3aに付設した構造を示している。一方、図5の下半分は、図1のように小端面3aに軸受6の軌道輪100を設けた構造を示している。したがって、図5において矢印で示すように、図5の下半分に示される本実施形態の方がトラクション面12を広くできることが分かる。
すなわち、軌道輪150を、出力側ディスク3に対して別部材として設けた場合に、この軌道輪150と、出力側ディスク3のトラクション面12(のうちの最もの小端面3a側になった接触楕円が配置される部分)とが軸方向の位置で重なることがない。したがって、出力側ディスク3と、玉軸受6の玉の軌道101との間に出力側ディスク3と別部材の外輪150が入り込むことにより、トラクション面12が狭くなる。言い換えれば、出力側ディスク3の小端面3aに軌道101を直接形成することにより、軌道101を備える軌道輪100の出力側ディスク3の軸方向位置とトラクション面12の小端面3a側の出力側ディスク3の軸方向位置とが重なるようにすることができる。
【0021】
また、図3に示すように、トラニオン10は、スラスト玉軸受20を介してパワーローラ4を回転自在に支持している柱状部21と、この柱状部21の長手方向(図3の上下方向)の両端部に、この柱状部21のパワーローラ4側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部22,22を有している。この折れ曲がり壁部22,22によって、各トラニオン10,10には、パワーローラ4を収容するための凹状のポケット部が形成される。また、各折れ曲がり壁部22,22の外側面には、各枢軸(傾転軸)23,23が互いに同心的に設けられている。これら一対の枢軸23は、入力軸5の中心線、すなわち入力側ディスク2a、2bおよび出力側ディスク3の中心軸に対して捻れの位置にある。
【0022】
また、トラニオン10,10の上下端部に設けられた枢軸23,23は、それぞれ上側の支持板11aと、下側の支持板11bに回転(傾転)自在に支持されている。支持板11a、11bがそれぞれ上側の支持ポスト8a、下側の支持ポスト8bを支点として揺動することにより、一対のトラニオン10,10は、枢軸23の軸方向に沿って互いに逆方向に移動自在とされている。
【0023】
また、本実施形態の出力側ディスク3は一体型の出力側ディスク(内側ディスク)であるので、同時に2つのキャビティで正しい位置にくるように出力側ディスク3の位置を定めることが重要である。したがって、本実施形態では、図1に示すように、支持ポスト8a,8bとディスク3に相対する軌道輪103(小端面3aの軌道輪100と対向する玉軸受6の他方の軌道輪)との間に位置調整部材120を介挿することにより、ディスク3の位置を正確に決定できるようになっている。この位置調整部材120の厚さは、図4に示されるようにディスク3のトラクション面12の中心O間の中心O’と各キャビティの傾転軸23との間の距離が一致するように、(フロントキャビティの傾転軸と中心O’との間の距離L1a=リアキャビティの傾転軸と中心O’との間の距離L1b)それぞれ別々に決定する。ここで、中心O’はディスク3の対称中心軸に一致する(L2=L3)。
【0024】
トラクション面12の中心Oとは、出力側ディスク3の中心軸に沿い、かつ、中心軸が含まれる断面において、円弧状のトラクション面12の円弧(円弧を含む円)の中心であり、一体型の出力側ディスク3の断面において、二つのトラクション面12の中心Oどうしの間の中心O’を出力側ディスクの中心としている。
この出力側ディスク3の中心O’が、上述の位置調整部材120の厚さにより、各キャビティのトラニオン10の傾転軸(枢軸23)の中心線から等距離になるように調整している。そのために、上述のように玉軸受6の出力側ディスク3側の軌道輪100と出力側ディスク3とを一体に設けたのに対して、玉軸受6の保持環9側の軌道輪103を保持環9と別部材とし、保持環9と軌道輪103との間に位置調整部材120を挟めるようにしている。
また、本実施形態では、前述した特許文献3のように小端面3aから円筒部を突出させていないため、ディスク3の加工がし易くなる。
【0025】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
第1の実施形態では、複数の玉108を有する玉軸受6において、固定部材としての保持環9側の軌道輪103を保持環9に対して別部材とし、軌道輪103と保持環9との間に位置調整部材120を配置するようにしている。それに対して、第2の実施の形態では、図6に示すように、出力側ディスク3と左右の保持環9との間にそれぞれ設けられる玉軸受106の保持環9側の軌道輪110を保持環9に一体に設け、位置調整部材120が設けられていない構造としている。その他の構成は、第1の実施形態と同様となっている。
【0026】
この実施形態のトロイダル型無段変速機においては、一体型の出力側ディスク3と、その左右に配置される保持環9,9との間に出力側ディスクのスラスト荷重を受ける玉軸受106が設けられている。
玉軸受106は、出力側ディスク3の小端面3a側の軌道輪107と、保持環9側の軌道輪110と、これら軌道輪107,110の間に配置される玉(転動体)108を備える。
【0027】
出力側ディスク3の小端面側の軌道輪107は、出力側ディスク3の小端面3aに、直接、軌道109を設けることにより、軌道輪107と、出力側ディスク3とが一体になっている。この軌道109は、円環状の小端面3aに沿って、円環状の溝として設けられている。
【0028】
保持環9の入力軸5が貫通する貫通孔9aの外側で、出力側ディスク3の小端面3aに対向する部分が、玉軸受106の保持環9側の軌道輪110とされている。この保持環9側の軌道輪110においても、保持環9の小端面3aに対向する部分に、直接、軌道111が設けられることにより、軌道輪110と保持環9とが一体になっている。この軌道111は、軌道109と対向する円環状の溝として設けられ、この軌道111と軌道109に沿って玉108が転動可能になっている。
このようなトロイダル型無段変速機においては、出力側ディスク3側の軌道輪107が出力側ディスク3と一体になっているだけではなく、玉軸受106の保持環9側の軌道輪110が保持環9と一体に設けられているので、より構造が簡単になる。また、第2の実施形態のトロイダル型無段変速機は、位置調整部材120による出力側ディスク3の位置調整を除いて、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0029】
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。
第1の実施形態では、一体型の出力側ディスク3の左右に配置される玉軸受6の両方において、固定部材としての保持環9側の軌道輪103を保持環9に対して別部材とし、軌道輪103と保持環9との間に位置調整部材120を配置するようにしている。それに対して、第3の実施の形態では、図7に示すように、出力側ディスク3と左右の保持環9との間にそれぞれ設けられる玉軸受106、112のうちの一方の玉軸受106においては、第2の実施形態と同様に、保持環9側の軌道輪110を保持環9に一体に設け、位置調整部材120が設けられていない構造とし、他方の玉軸受112においては、第1の実施形態と同様に、保持環9側の軌道輪114を保持環9と別部材とし、軌道輪114と保持環9との間に、位置調整部材116を配置している。その他の構成は、第1の実施形態と同様となっている。
【0030】
すなわち、第3の実施形態においては、出力側ディスク3の前後に配置される二つの玉軸受106、112において、第1実施形態と同様に、出力側ディスク3側の小端面3aに直接軌道109が設けられることにより、軌道輪107と出力側ディスク3が一体に設けられている。
【0031】
また、一方の玉軸受106の保持環9側においては、保持環9に直接軌道111が設けられ、保持環9に一体に軌道輪110が設けられている。
また、他方の玉軸受112においては、保持環9側の軌道輪114が、保持環9と別部材とされ、別部材とされた軌道輪114に軌道115が形成され、かつ、軌道輪114と保持環9との間に位置調整部材116が配置され、出力側ディスク3の入力軸5(図8に図示)に軸方向に沿った位置の調整が可能になっている。したがって、第3の実施の形態のトロイダル型無段変速機においては、構成の簡略化を図るとともに、出力側ディスク3の位置調整を位置調整部材116により可能にしている。
【0032】
このような第3実施形態のトロイダル型無段変速機の製造方法における組み立て工程においては、入力軸5を略鉛直方向(上下方向)に立てて倒れないように固定した状態で、保持環9により上下の支持ポスト8a、8bが連結された一対の一体型の支持ポストのうちの一方の一体型の支持ポストをその保持環9に入力軸5を貫通させるように取り付けた後に、出力側ディスク3に入力軸5を貫通させるようにして、先に取り付けた一体型の支持ポストの上に出力側ディスク3を取り付ける。その上に再び、他方の一体型の支持ポストを保持環9に入力軸5を貫通させるようにして、出力側ディスク3の上に他方の一体型の支持ポストを取り付ける。
【0033】
この際に、一方の一体型の支持ポストの保持環9と、出力側ディスク3との間に一方の玉軸受106を配置し、他方の一体型の支持ポストの保持環9と、出力側ディスク3との間に他方の玉軸受112を配置することになる。また、一方の玉軸受106の配置においては、軌道輪107が出力側ディスク3と一体に設けられ、軌道輪110が保持環9に一体に設けられ、組み立て時に軌道輪107、110を配置する作業が必要なく、かつ、位置調整部材116を配置する必要がない。
【0034】
それに対して、他方の玉軸受112を配置する際には、保持環9と別部材にされている軌道輪114を配置する必要があるとともに、保持環9と軌道輪114との間に位置調整部材116を配置する必要がある。
【0035】
ここで、組み立て後の検査等から出力側ディスク3の位置の再調整が必要と判断された場合に、位置調整部材116を交換する必要が生じる。
この場合に、出力側ディスク3と、その上側の一体型の支持ポストとの間に、保持環9に対して軌道輪114が別部材にされた玉軸受112を配置する構成だと、上側の一体型の支持ポスト(保持環9)を取り外すことにより、位置調整部材116の交換が可能になる。
それに対して、出力側ディスク3と、その下側の一体型の支持ポストとの間に、保持環9に対して軌道輪114が別部材にされた玉軸受112を配置する構成だと、上側の一体型の支持ポスト(保持環9)を外すと共に、上側の玉軸受106(主に玉108等)を取り外す。次いで、出力側ディスク3を取り外し、下側の玉軸受106(主に、玉108と、軌道輪114)を取り外すことにより、位置調整部材116の交換が可能となる。
【0036】
したがって、位置の再調整(位置調整部材116の交換)を考慮した場合に、保持環9と軌道輪114とが別部材とされる玉軸受112を組み立て時に出力側ディスク3の上側に配置することが好ましい。すなわち、組み立て時の配置が、図7において、左側が上となるようにすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、様々なトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
2a,2b 入力側ディスク(外側ディスク)
3 出力側ディスク(内側ディスク)
3a 小端面
4 パワーローラ
5 入力軸(回転軸)
6 玉軸受
7 ケーシング
8a,8b 支持ポスト(固定部材)
10 トラニオン(支持部材)
12 トラクション面
100 軌道輪
106 玉軸受
110 軌道輪
112 玉軸受
103 位置調整部材
116 位置調整部材
120 位置調整部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシング内に回転自在に支持された回転軸と、それぞれが断面円弧形である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で前記回転軸の両端部に前記回転軸と同期回転自在に支持された一対の外側ディスクと、前記回転軸の中間部周囲に断面円弧形である軸方向両側面を前記各外側ディスクの軸方向片側面に対向させた状態で前記回転軸に対して相対回転自在に支持された内側ディスクと、軸方向に関してこれら内側ディスクの軸方向両側面と各外側ディスクの軸方向片側面との間の位置にそれぞれ複数個ずつ前記回転軸に対し捩れの位置にある枢軸を中心に揺動自在に設けられた支持部材と、これらの各支持部材に回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を前記内側ディスクの軸方向両側面と各外側ディスクの軸方向片側面とに当接させたパワーローラとを備え、前記内側ディスクの小端面を前記ケーシングの内面に固定された固定部材に対して玉軸受により回転自在に支持したトロイダル型無段変速機において、
前記内側ディスクの小端面には前記玉軸受の軌道輪が形成され、前記軌道輪の少なくとも一部は、前記パワーローラと前記内側ディスクとの界面であるトラクション面と軸方向でオーバーラップすることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記軌道輪の少なくとも一部は、前記パワーローラと前記内側ディスクとの楕円状の接触点と軸方向でオーバーラップすることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記小端面の前記軌道輪に対向する前記玉軸受の他方の軌道輪と前記固定部材との間には、前記内側ディスクの位置を調整するための位置調整部材が介挿されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記位置調整部材の厚さは、前記内側ディスクのトラクション面の中心間の中心と各キャビティの前記枢軸との間の距離が一致するように設定されることを特徴とする請求項3に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−193845(P2012−193845A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25932(P2012−25932)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】