説明

トロンビン切断可能な第X因子アナログ

本発明は、ネイティブな第X因子の活性化部位の配列Thr−Arg−Ileの代わりにトロンビン切断可能な配列Pro−Arg−Alaを含む第X因子アナログに関する。これらの第X因子アナログは、凝血促進性医薬品を得るために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンビン切断可能な第X因子誘導体およびその治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固は、酵素反応のカスケードの結果であり、この最終段階は、トロンビンの生産であり、これは、血管開口部を塞ぎ得る血塊の形成を誘導する。これらの反応の多くは、活性なセリンプロテアーゼへの不活性チモーゲンのタンパク分解性活性化を含む。
【0003】
この反応のカスケードは、「内因性経路」および:「組織因子経路」または「外因性経路」と呼ばれる2つの経路に慣用的に分けられる。
【0004】
内因性経路を介する凝固のプロセスは、内皮下組織と接触する血液によって開始される。この接触は、第XII因子(FXII)から第FXIIa因子への活性化を生じ、次いで、これは、第XI因子(FXI)の第XIa因子(FXIa)への活性化を触媒し、これは、それ自体、第IX因子(FIX)を第IXa因子に活性化する。後者は、その補助因子である第VIIIa因子(FVIIIa)に結合し、テナーゼ(tenase)複合体を形成する。この複合体は、非常に高い効率で第X因子(FX)を切断し、活性化第X因子(FXa)を生成する。
【0005】
外因性経路を介する凝固のプロセスは、組織因子(TF)によって開始され、血管開口の形成が生じる際に血液と接触される。この組織因子は、血液中に少量で存在する活性化第VII因子(FVIIa)に結合する。このようにして形成されたFVIIa−TF複合体は、第IX因子および第X因子を活性化し得る。
【0006】
従って、内因性経路および外因性経路は、第X因子の第Xa因子への活性化に向けて収斂し、これは、凝固における重要な酵素の1つを構成する。
【0007】
第X因子は、N末端からC末端まで:単一ペプチド、プロペプチド、「Gla」ドメイン、表皮成長因子のそれに類似する構造の2つの「EGF」(表皮成長因子について)ドメイン、活性化ペプチド、およびセリンプロテアーゼ型の触媒ドメインを含む、448アミノ酸前駆体の形態の肝細胞によって合成される。第X因子の翻訳後修飾は、特に複雑である:シグナルペプチドおよびプロペプチドの切断に加えて、これらは、「Gla」ドメインの11のグルタミン酸のγ−カルボキシグルタメートへのカルボキシル化、第2のEGFドメインを活性化ペプチドから分離するトリペプチドArg180−Lys181−Arg182(数は、第X因子cDNAの翻訳産物を指す)の切断、EGFドメインのAsp103残基のβ−ヒドロキシアスパラギン酸へのβ−ヒドロキシル化、および活性化ペプチドに関して4つを含む少なくとも5つのグリコシル化を含む。
【0008】
従って、血漿中に循環する成熟第X因子は、ジスルフィド架橋(Cys172−Cys342)によって結合される2つのポリペプチド鎖からなる:139アミノ酸の「軽」鎖は、Glaドメインおよび2つのEGFから構成され;306アミノ酸「重」鎖は、触媒ドメインに結合した活性化ペプチドから構成される。
【0009】
第X因子のセリンプロテアーゼへの活性化は、活性化ペプチドと触媒ドメインとの間のタンパク質分解性切断を必要とする。テナーゼ複合体およびFVIIa−TF複合体は、Arg234とIle235残基との間のこの切断を行う。
【0010】
活性化第X因子はまた、その重鎖のC末端において小さいフラグメントをゆっくり放出する自己触媒性切断を行い得る。従って、第Xa因子αおよびβは、このC末端ペプチドが存在するか否かに従って区別される。しかし、第Xa因子のこれらの2つの形態の触媒活性は、同一である(JESTY et al., J. Biol. Chem, 250, 4497-4504, 1975);結果として、他に特定されない限り、本発明の説明において、用語「第Xa因子」は、これら2つの形態の一方または他方を等しく示す。
【0011】
第Xa因子のその補助因子(第Va因子)との結合は、プロトロンビンをトロンビンに活性化する、プロトロンビナーゼ複合体を形成する。
【0012】
トロンビンはまた、凝固および一般に出血において必須酵素である;これは、多機能セリンプロテアーゼである。これは、表面においてそのレセプターを切断することによって血小板凝集を誘導し、循環するフィブリノゲンを不溶性フィブリン血塊に変換する。この血塊は、すでに形成された血小板血栓を強化することによって、血管開口をブロックし、従って、出血を停止することが可能である。
【0013】
トロンビンは、第V因子および第VIII因子(これらは、それぞれ、テナーゼおよびプロトロンビナーゼ複合体の補助因子である)、ならびに第XI因子(FXI)を活性化し得、これは、これらの因子が関与する、その形成を導く反応の増幅を生じる。
【0014】
図1は、外因性経路を介するかまたは内因性経路を介する凝固の主要な酵素反応、およびトロンビン形成の自己増幅機構(破線矢印によって示す)を概略的に示す。
【0015】
凝固に関与する因子の1つにおける定性的または定量的欠乏は、しばしば重篤であり、そして生命を脅かし得る、血栓または出血発現を生じる。この文脈において、第VIII因子または第IX因子における欠乏からそれぞれ生じる血友病Aおよび血友病Bが特に言及される。
【0016】
血友病AおよびBは、重大かつかなり一般的である出血型の凝固障害である:その発生率は、血友病Aについて10000人の男性の出生当たり約1ケース、そして血友病Bについて30000人の男性の出生当たり1ケースである。
【0017】
臨床用語において、これら2つの病理学的状態は、区別可能でない:両方の場合において、これは、第VIII因子の、影響される第IX因子との会合から生じるテナーゼ複合体である。結果として、活性化第X因子および結果としてトロンビンの不十分な生成が生じる。
【0018】
このトロンビン欠乏は、フィブリン形成における減少だけでなく、トロンビン生成の自己増幅における減少もまた生じる。
【0019】
現在提案される血友病の処置は、テナーゼ複合体の機能を再確立することを目的とした置換型処置、またはこのテナーゼ複合体を迂回することを可能にする1つ以上の分子の使用に基づく処置のいずれかである(HEDNER, Thromb. Haemost., 82,51-539,1999)。
【0020】
置換処置は、欠乏している第VIII因子または第IX因子を投与することを包含する。これは、フィブリンの形成の他に、トロンビン生成の自己増幅を正確に再確立することを可能にする現在利用可能な唯一の処置である。
【0021】
この処置の主要な欠点は、レシピエントの免疫系によって外来と見られ得る、注射された分子の潜在的な抗原性にある。使用される因子に対する中和アロ抗体の発生は、置換処置の重大な合併症であり、これは、それを徐々に非効果的にする。
【0022】
テナーゼ複合体を迂回するための3つのアプローチが提案されている:
−特にプロトロンビンならびに第VII因子、第IX因子および第X因子を含む、「ビタミンK−依存」凝固因子の混合物の注射。第VII因子および第X因子は、部分的に活性型で存在する。しかし、この処置は、まれであるが、重大な副作用:アナフィラキシーショックおよび血栓アクシデント(心筋梗塞、播種性血管内凝固症候群)を誘導し、これらは、血管外傷に局在しない作用によって説明され得る。さらに、この処置は、血友病タイプBの場合においてのみトロンビン生成の自己増幅を再確立する;
−組織因子存在下で、テナーゼ複合体と独立して第X因子を活性化する、活性化第VII因子の大規模注射。活性化第VII因子は、組織因子との複合体が形成する血管開口部にその作用が位置するという利点を有する。血友病を処置する際のその効果はまた、活性化血小板によって暴露されるアニオン性ホスホリピドを使用する組織因子独立機構によって説明され得る(HOFFMAN et al., Blood Coag. Fibrinolysis, 9 (suppl1), S61-65, 1998)。活性化第VII因子を使用する主要な欠点は、その非常に短い血漿半減期(3時間より短い)であり、これは、大量に投与することを必要とし、これは、処置を非常に高価にする。さらに、活性化第VII因子は、トロンビン生成の自己増幅を誘導しない。活性化第VII因子の治療用量の添加後に血友病者の血漿において生成されるトロンビンの量は、通常の血漿において生成されるよりもずっと少ない(BUTENAS et al., Blood, 99, 923-930, 2002)。
−第X因子の投与、その活性は、血漿においてごくゆっくりと放出される;この文脈において、投与の3つの型が提案されている:ホスホリピド小胞と組み合わせた活性化第X因子の投与(NI et al., Thromb. Haemost., 67, 264-271, 1992);活性化されるが、例えば、活性化部位のセリンのアセチル化によって可逆的に阻害され、徐々に脱アセチル化することによって血漿中でゆっくりと再活性化し得る、第X因子の投与(WOLF et al., Blood, 86, 4153-4157, 1995;LIN et al., Thromb. Res., 88, 365-372, 1997);血漿中でテナーゼ複合体と独立して活性化され得るチモーゲンの形態での第X因子の投与。後者のアプローチは、テナーゼ複合体による切断についての部位が別のプロテアーゼによる切断についての部位と置換される第X因子アナログを使用する。
【0023】
HIMMELSPACH et al. (Thromb. Res., 97, 51-67 2000) は、このようにして、活性化部位がフューリン(furin)についての切断部位と置換される第X因子アナログを記載する。一旦注射されると、このチモーゲンは、ゆっくりとそして連続して、第Xa因子に変換される。
【0024】
PCT出願WO98/38317は、ネイティブな活性化部位が別のプロテアーゼ(第XIa因子、トロンビン、第XIIa因子、カリクレイン、第Xa因子およびフューリンより選択される)による切断部位と置換される種々の第X因子アナログの構築を提案する。PCT出願WO01/10896は、第XIa因子による切断部位と、テナーゼ複合体による活性化のためのネイティブな部位の置換を提案する。
【0025】
第X因子アナログの使用の主要な利点は、これらのアナログの血漿半減期にあり、これは、第X因子のそれと類似し(48時間)、従って、活性化第X因子のそれ(1分未満)よりもはるかに長い。これらのアナログの潜在的な欠点は、それらの効果を制御する際の困難性より生じる:活性化第X因子の生成は、調節されることなく、そして血管開口部において局在化することなく、連続して生じる。さらに、これらのアナログは、トロンビン生成の増幅を誘導することを可能としない。
【0026】
従って、これらの欠点を示さない他の第X因子アナログを有することが所望であるように見える。この目的で、本発明者らは、図2に示される機構に従って、凝固カスケードの欠乏ステップ、特にテナーゼ複合体を迂回するだけでなく、トロンビン生成の自己増幅を再確立することを可能にするトロンビン活性可能な第X因子誘導体を求めている。この第X因子誘導体の活性型(FXa)は、機能的なプロトロンビナーゼ複合体を(活性化第V因子と組み合わせて)形成し得、従って、プロトロンビンをトロンビンへ活性化し得る。次いで、このトロンビンは、第X因子誘導体の分子をさらに活性化する。
【0027】
生理学的に、トロンビンは、第X因子を活性化しない。実際に、切断の効率は、切断部位をフレームするアミノ酸の性質によって、特に、活性化部位の残基P−P−P−P’−P’−P’(残基PとP’との間で切断が生じる)によって条件付けされる。現在、第X因子の場合には、活性化部位の配列Leu−Thr−Arg−Ile−Val−Gly(LTR−IVG;配列番号1)は、トロンビンによる切断について特に好ましい、配列Met−Pro−Arg−Ser−Phe−Arg(MPR−SFR;配列番号2)またはVal−Pro−Arg−Ser−Phe−Arg(VPR−SFR;配列番号3)と非常に異なっている(MARQUE et al., J. Biol. Chem., 275, 809-816, 2000; BIANCHINI et al., J. Biol. Chem., 277, 20527-20534, 2002)。
【0028】
切断部位に先行する残基P〜Pは、活性化後の第X因子の触媒活性に関与しない;これらは切断後に放出される活性化ペプチドの一部である。同じことが残基P’〜P’(これは、切断部位の直後に続く)について当てはまらない:全てのセリンプロテアーゼにおけるように、活性化第X因子の触媒鎖のN末端残基は、酵素活性に関与する。特に残基P’が酵素の触媒機構において基本的な役割を果たす。
【0029】
第X因子の活性化部位の配列LTR−IVGの配列VPR−SFRとの置換は、トロンビンによる第X因子の切断の速度を10倍増幅することを可能にする。しかし、この置換は第Xa因子の酵素活性に有害であるという危険が存在する。実際に、重鎖がイソロイシン以外の残基で始まる活性化第X因子アナログの酵素活性がどんなものかを予測することは可能ではない。
【0030】
PCT出願WO98/38317は、ネイティブな活性化部位の配列LTR−IVGが配列Thr−Arg−Arg−Ser−Val−Gly(TRR−SVG;配列番号4)で置換された第X因子アナログを記載し、これは、潜在的にトロンビン切断可能であると示される。しかし、トロンビンによるこのチモーゲンの効果的な切断に関して、そしてこの切断から生じる第Xa因子アナログの触媒活性に関しては何の示唆も与えられていない。
【0031】
本発明者らは、第1に、トロンビンによる切断に関して、第2に、それから生じる第Xa因子アナログの酵素活性に関して、これらの置換の効果を研究するために、第X因子のネイティブな活性化部位のP−P−P−P’−P’−P’位における種々の置換を試験した。
【0032】
従って、彼らは、配列TR−IのP−P−P’における配列PR−Aでの置換は、トロンビンによって効果的に切断され得る第X因子アナログ、および減少するがその非変異型ホモローグのそれと類似しそして通常の生理学的機能に匹敵する、触媒活性を有する第Xa因子アナログを生成する切断を得ることを可能にすること;さらに、触媒活性における減少は、ネイティブな第Xa因子のそれと比較される半減期の増加によって補償される。半減期におけるこの増加は、セルピン(serpines)(血漿中のセリンプロテアーゼインヒビター)に対する、特にアンチトロンビンに対する、より優れた耐性より生じる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0033】
結果として、本発明の主題は、ネイティブな第X因子の活性化部位の配列Thr−Arg−Ileがトロンビン切断可能な配列で置換され、該トロンビン切断可能な配列が配列Pro−Arg−Alaであることを特徴とする、第X因子アナログである。
【0034】
本発明の主題はまた、本発明に従う、第X因子アナログのトロンビンによる切断によって得られ得る任意の第Xa因子アナログである。
【0035】
本明細書中において、用語「第X因子アナログ」は、成熟な第X因子分子およびその細胞内前駆体の両方を示す;用語「第Xa因子アナログ」は、活性化されたαまたはβ形態の分子を示す。
【0036】
活性化部位のP、P’およびP’位における置換に関して、これらは、トロンビンによる切断の効果に対して、およびP、PまたはP’位において行われるものより得られる第Xa因子アナログの酵素活性に対して、あまり影響しない。
【0037】
従って、Pにおいて、ネイティブな第X因子のLeu残基は、保存されても良いし、Pro、AspおよびGluを除く任意のアミノ酸で置換されても良い;P’において、ネイティブな第X因子のVal残基は、保存されても良いし、好ましくはIle、LeuおよびPheより選択されるアミノ酸で置換されても良い;P’において、ネイティブな第X因子のGly残基は、保存されても良いし、好ましくはAsnおよびHisより選択されるアミノ酸で置換されても良い。
【0038】
必要に応じて、本発明に従って、第X因子アナログおよび第Xa因子アナログに特異的な活性部位改変を、第X因子または第Xa因子の異なるドメインに関する他の改変と組み合わせることが可能であり、それらの特性のいくつかを改善することを可能にする。従って、例えば、CAMIRE et al.(Biochemistry, 39, 14322-14329, 2000)によって記載されるように、γ−カルボキシル化成熟タンパク質のよりよい収率を得るために、ネイティブな第X因子のプロペプチドをプロトロンビンのそれと置換することが可能である。
【0039】
本発明の主題はまた、本発明に従う第X因子アナログをコードする核酸分子である。
【0040】
これらの核酸分子は、当業者に周知の従来の方法によって、特に、ネイティブな第X因子をコードする核酸分子の部位特異的突然変異誘発によって、得られ得る。
【0041】
本発明はまた、転写(特にプロモーターおよび必要に応じてターミネーター)および必要に応じて翻訳の制御についての適切なエレメントに関連する、本発明に従う核酸分子を含む発現カセット、また、本発明に従う核酸分子が挿入される組換えベクターを包含する。これらの組換えベクターは、例えば、クローニングベクター、発現ベクター、または遺伝子治療において使用され得る遺伝子移入ベクターであり得る。
【0042】
本発明の主題はまた、本発明に従う少なくとも1つの核酸分子で遺伝的に形質転換された原核生物または真核生物宿主細胞である。好ましくは、本発明に従う第X因子アナログの発現および生成のために、真核生物(例えば、哺乳動物細胞)が選択される。
【0043】
本発明に従う、ベクターの構築および宿主細胞の形質転換は、従来の分子生物学技術によって実施され得る。
【0044】
本発明はまた、本発明に従う発現カセットを含む少なくとも1つのトランスジーンを有する、動物、特に非ヒトトランスジェニック哺乳動物を包含する。これらのトランスジェニック哺乳動物は、例えば、治療目的の他のタンパク質の生成についてすでに提案されているものと類似する様式で、本発明に従う第X因子アナログを製造するために使用され得る(BRINK et al., Theriogenology, 53, 139-148 2000)。
【0045】
本発明に従う第X因子アナログは、例えば、本発明に従う遺伝的形質転換された細胞を培養することによって、そして該細胞によって発現されるアナログを培養物から回収することによって、得られ得る。次いで、これらは、必要な場合、当業者に公知の従来の手順によって、例えば、分画沈殿、特に硫酸アンモニウムでの沈殿、電気泳動、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィーなどによって、精製され得る。
【0046】
本発明の主題はまた、凝血促進性医薬品を得るための、本発明に従う第X因子アナログもしくは第Xa因子アナログ、またはこれらのアナログをコードする核酸分子の使用である。
【0047】
本発明に従う、第X因子アナログまたは第Xa因子アナログより得られる医薬品は、出血性型の凝固障害の予防または処置の文脈において、特に第VIII因子、第IX因子または第XI因子における欠乏に続いて使用され得る。これらは、特に、血友病Aまたは血友病Bであり得、これらは、インヒビター(処置のために従来使用される第VIII因子または第IX因子に対する中和アロ抗体)の存在によって複雑化されてもよいしされなくてもよい;これらはまた、別の病理学的状態(自己免疫疾患、癌、リンパ球増殖症候群、突発性障害など)に関連する自己抗体の出現より生じる後天性血友病であり得る。
【0048】
本発明に従う核酸分子は、遺伝子治療において使用され得る医薬品に有利に組み込まれ得る。遺伝子治療において従来使用されるベクター(例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスまたはレトロウイルス型のベクター))、リポソームなどが、本発明に従う医薬品を得るために使用され得る。
【0049】
本発明に従う第Xa因子アナログは、プロトロンビナーゼ複合体の外側で、ネイティブな第Xa因子のそれよりも遙かに弱い触媒活性を有する。しかし、プロトロンビナーゼ複合体内で(すなわち、生理学的条件下で)、ネイティブな第Xa因子と比較したそれらの活性の減少は、遙かに少なく、そしてこれらは、第VIII因子または第IX因子の欠失の影響を効果的に補正し得る。さらに、アンチトロンビンに対するかなりの耐性に起因して、本発明に従う第Xa因子アナログは、それらのより弱い活性を補償する、より長い半減期を有するという利点を有する。これは遙かにゆっくりであるが、アンチトロンビンによる阻害(これは、触媒活性に比例する)が依然として存在し、ネイティブな第Xa因子のそれと類似する自己調節の機能を保存することを可能にする。
【0050】
さらに、本発明に従う第Xa因子アナログの作用は、図2において示されるように、これらのアナログが関与する酵素カスケードが組織因子によって引き起こされるので、血管開口部に局在化したままである。最終的に、また、図2において示されるように、本発明に従う第X因子アナログの使用は、トロンビン生成の自己増幅を再確立することを可能にする。
【0051】
この全体結果は、先行技術の第X因子または第Xa因子アナログのそれよりも、よりよく標的化され、制御が容易な治療効果である。
【0052】
本発明に従う第X因子アナログは、例えば、0.1〜0.5μM、すなわち、5〜25mg/lのオーダーの血漿濃度で使用され得る。これらの濃度は、第VIIa因子での処置の場合において使用されるものと近い用量を投与することによって得られ得るが、あまり頻繁ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明は、以下に続くさらなる説明よりより明確に理解され、これは、本発明に従う第X因子アナログの調製および特徴付けの非制限的な例をいう。
【0054】
実施例1:第X因子アナログについての発現ベクターの構築
種々のヒト第X因子誘導体を構築した:
−そのC末端において、モノクローナル抗体9E10(PHARMINGEN, San Jose, USA)によって認識される11アミノ酸ペプチド(EQKLISEEDLN;配列番号5)の添加によってのみネイティブな第X因子と異なる誘導体(以下「FX−組換え体」という);この改変は、発現されるタンパク質の検出および精製を容易にするのを可能にする;
−Glaドメインを欠き(これは、発現される組換えタンパク質の量を増加するのを可能にする)、そしてそのN末端において、モノクローナル抗体HPC−4(ROCHE DIAGNOSTIC, Meylan, France)によって認識されるエピトープを構成する、12アミノ酸配列(EDQVDPRLIDGK;配列番号6)を包含する点で、「組換え」誘導体と異なる誘導体(以下「GF−FX」という);
−活性化部位のP、P、P、P’、P’、P’位における残基の1つ以上の改変によってGD−FX誘導体と異なる、誘導体(以下GDX−IVG、GDX−IFG、GDX−AVG、GDX−IFR、GDX−SVG、GDX−SFRという)。
【0055】
血漿から単離される通常の第X因子(FX−血漿)および上の誘導体の各々の活性化部位の残基P〜P’は、表Iに示される。
【0056】
【表1】

これらの誘導体を構築するために使用される発現ベクターは、所望の第X因子誘導体をコードする配列を有するヒト成長ホルモン(hGH)をコードする配列の置換によって、ベクターpNUT-hGH(PALMITER et al., Science, 1983,222, 809-814,1983)より得る。
【0057】
ベクターPNUT-FXの構築
「pNUT-FX」と称されるベクターは、真核生物細胞において「FX−組換え体」誘導体を発現するのを可能にする。
【0058】
使用されるヒト第X因子の完全なcDNA(1467塩基対)をプラスミドpBluescript KS(-)のSalI部位にMESSIER et al.(Gene, 99,291-294, 1991)によって、最初にクローニングした。
【0059】
このcDNAを、それを含むベクターpBluescriptよりPCR増幅によって回収した。使用したプライマーを以下の表IIに示す。使用される融解温度(Th°)は、表の最終列に示す。
【0060】
【表2】

プライマー1(配列番号13)および2(配列番号14)は、第X因子をコードする配列のぞれぞれ、5’側に位置するBamHI制限部位および3’側に位置するXmaI部位を導入する。さらに、プライマー2は、第X因子cDNAの停止コドンのすぐ前に、モノクローナル抗体9E10によって認識されるエピトープをコードする配列を導入する。
【0061】
増幅プロトコルは、以下の通りである:増幅は、製造業者によって推奨される緩衝液中で、2μg(7nM)のプラスミドpBluescript、2μMの各プライマー1および2、0.2mMの各dNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTP;AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH, Orsay, France)および6ユニットのPfu DNAポリメラーゼ(STRATAGENE)を含む100μlの容量で、実施される。増幅は、以下のプログラムに従って、DNA THERMAL CYCLER(model 480, PERKIN ELMER, Roissy, France)において実施される;95℃で5分の最初の変性、続いて、95℃での45秒の変性、プライマーの融解温度より少なくとも4℃低い温度での45秒のハイブリダイゼーション、および72℃での3.5分の伸長を各々含む30サイクル。この増幅は、72℃で10分間のインキュベーションによって終了する。
【0062】
増幅生成物は、フェノール/クロロホルム抽出によって精製され、そしてエタノールでの沈殿によって濃縮される。次いで、末端を、5ユニットのTDNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BIOLABS, Beverly, MA, USA)、10ユニットのTポリヌクレオチドキナーゼ(NEW ENGLAND BIOLABS)および0.3mMのdNTP(AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH)の存在下で、37℃で30分間のインキュベーションによって、平滑化およびリン酸化した。目的のフラグメントを、製造業者の指示に従って、標準1%アガロースゲルでの分離後、”QIAquick Gel Extraction Kit”(QIAGEN, Courtaboeuf, France)を使用して精製する。
【0063】
並行して、レシピエントベクター(pBluescript, STRATAGENE)の140μl中の40μg(86nM)を、37℃で90分間、400ユニットのEcoRVで直鎖状にする。直鎖状のpBluescriptベクターの末端を、50ユニットのウシ小腸アルカリホスファターゼ(NEW ENGLAND BIOLABS)の存在下で37℃で60分間のインキュベーションによって脱リン酸化する;次いで、このベクターを、標準1%アガロース中での分離後、”QIAquick Gel Extraction Kit”を使用して、上のように精製する。
【0064】
製造業者によって推奨される10μlの緩衝液中で、周囲温度で24時間の400ユニットのTDNAリガーゼ(NEW ENGLAND BIOLABS)の存在下で、インサート20nMと共に10nMのベクターをインキュベートするライゲーションによって、インサートをレシピエントベクターに導入した。
【0065】
得られたプラスミド(pBluscript-FX)を、E.coli株DH5α中で増幅し、SAMBROOK et al. (Molecular Cloning: A laboratory Manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)によって記載されるように、標準的なプロトコルに従って精製する。
【0066】
プラスミドpBluscript-FXのインサートを、以下のプロトコルに従って、カセット交換によってベクターpNUT-hGHに移入する。
【0067】
2μg(4nM)のpNUT-hGHを、100μlの反応混合物中で、37℃で2時間、60ユニットのBamHIで消化する。このように、直鎖化したベクターを、フェノール/クロロホルム抽出によって精製し、続いて、エタノールで沈殿させる。次いで、1mMのEDTAを含む、10μlの10mM Tris、pH8.0中にとり、30ユニットのXmaIで、37℃で3時間消化した。
【0068】
この第2の消化に由来する2つのフラグメントを、150ユニットのアルカリホスファターゼの存在下で、37℃で1時間のインキュベーションによって脱リン酸化する。
【0069】
直鎖状のpNUTベクターを、標準1%アガロース中の電気泳動によって、その先のインサート(hGHをコードする配列を含む)から分離し、”QIAquick Gel Extraction Kit”を使用して精製する。
【0070】
並行して、130μg(1.3μM)のpBluscript-FXを、30μlの反応混合物中で、37℃で1時間の20ユニットのBamHIで消化する。直鎖化したベクターを、フェノール/クロロホルム抽出、続いてエタノールでの沈殿によって精製する。次いで、1mMのEDTAを含む、10μlの10mM Tris、pH8.0中にとり、30ユニットのXmaIで、37℃で3時間消化する。
【0071】
FXインサートを、標準1%アガロース中での電気泳動によってその先のベクターから分離し、”QIAquick Gel Extraction Kit”を使用して精製する。
【0072】
ベクターpNUT-FXは、上に記載されるように、TDNAリガーゼの存在下で、ベクターpNUTへのFXインサートのライゲーションによって得られる。
【0073】
ベクターpNUT-GDXの構築
「Gla」ドメインの存在は、真核生物細胞中の組換えタンパク質の合成をかなり制限する。その除去は、発現される組換えタンパク質の量を5倍に増加させることを可能にする。
【0074】
さらに、第X因子の「Gla」ドメインは、その生物学的活性について必要であるが、触媒の溝とのみ相互作用する基質に関するタンパク質分解活性について必須ではない。従って、「Gla」ドメインを欠く誘導体の調製は、セリンプロテアーゼ活性に関して、活性化部位を並列する残基の改変の影響を迅速に決定することを可能にする。
【0075】
ベクターpNUT-ETW (LE BONNIEC et al., J. Biol. Chem., 267, 6970-6976, 1992) は、その「Gla」ドメインを欠き、N末端において、ウシ第V因子のシグナルペプチドおよび12アミノ酸配列(EDQVDPRLIDGK)(モノクローナル抗体HPC−4によって認識されるエピトープを構成する)に融合される、ヒトプロトロンビンの誘導体を発現する。
【0076】
ベクターpNUT-GDXを構築するために、「ベクターpNUT-FXのシグナルペプチドおよび“Gla”ドメイン」アセンブリは、「ベクターpNUT-ETWのシグナルペプチド、プロペプチドおよびHPC−4エピトープ」アセンブリと置換される。
【0077】
ベクターpNUT-FXおよびpNUT-ETWのフラグメントを増幅するために使用されるプライマーは、以下の表IIIにおいて示される。PCT増幅は、ベクターpNUT-FXについて上に記載されるように実施される。
【0078】
【表3】

pNUT−ETWに由来するフラグメント(これは、pNUTのBamHIおよびXmaI部位、第V因子のシグナルペプチドをコードする配列および抗体HPC−4によって認識されるエピトープをコードする配列を含む)の増幅を、プライマー3(配列番号15)および5(配列番号17)を用いて行う;pNUT−FX由来のフラグメント(これは、2つのEGFドメインをコードする配列、活性化ペプチド、および第X因子のセリンプロテアーゼドメイン、ならびに抗体9E10によって認識されるエピトープを含む)の増幅は、プライマー6(配列番号18)および4(配列番号16)を用いて行われる。プライマー5および6は、部分的に相補的であり(プライマー6は、第1のEGFの5’側に位置する、抗体HPC−4によって認識されるエピトープをコードする配列の一部を導入する)、これは、プライマー3および4の存在下で、“メガ−プライマー”PCR(HO et al., Gene, 15, 51-59, 1989)によって2つのPCRに由来するフラグメントを結合する(join up)のを可能にする。このPCRの産物は、40ユニットのXmaI(400μlの容量で)で消化され、そして制限フラグメント(各末端にXmaI部位を有する)を、1%アガロースゲル中での分離後に、QIAquick Gel Extraction Kitを使用して精製する。
【0079】
さらに、6μg(140μl中(12nM))のベクターpNUT−hGHを、37℃で2時間、20ユニットのXmaIで消化する。このようにして直鎖化したベクターを、標準1%アガロース中での電気泳動によってその以前のインサート(hGHをコードする配列)から分離し、そしてQIAquick Gel Extraction Kitを使用して精製する。インサートのないベクター(10μl中0.1μg、すなわち、2.7nM)を400ユニットのTDNAリガーゼの存在下で、周囲温度で16時間、ライゲーションによって再環状化する。
【0080】
再環状化したpNUTベクターは、E.coli株DH5α中で増幅され、精製される。
【0081】
インサートなしの100μl中の40μg(すなわち、110nM)のベクターpNUTを、37℃で3時間、10ユニットのXmaIで直鎖化し、その末端を、150ユニットのアルカリホスファターゼの存在下で、37℃で1時間のインキュベーションによって脱リン酸化する。このようにして調製したベクターpNUTを、1%アガロースゲル中での分離後、QIAquick Gel Extraction Kitを使用して単離する。
【0082】
ベクターpNUT−GDXを、上に記載されるように、TDNAリガーゼの存在下で、“メガ−プライマー”PCR由来のフラグメントのベクターpNUTへのライゲーション、およびBamHI、XmaI、PstIまたはRcoRI制限プロフィールに基づく、正しい方向でインサートを含む構築物の選択によって得る。
【0083】
ベクターpNUT−GDXの部位特異的突然変異誘発
ネイティブな第X因子において(およびGDX−FX誘導体において)、切断部位(PとP’との間に生じる切断)をフレームする、残基P−P−P−P’−P’−P’の配列は、LTR−IVGである。
【0084】
6つの第X因子アナログが調製される:GDX−IVG、GDX−IFG、GDX−AVG、GDX−IFR、GDX−SVG、GDX−SFRは、それぞれ配列P−P−P−P’−P’−P’:VPR−IVG、VPR−IFG、VPR−IFR、VPR−AVG、VPR−SVGおよびVPR−SFRを有する。
【0085】
これらの第X因子アナログを発現するベクターは、JONES et al.(Nature, 344, 793-794, 1990)のそれに由来する方法によって、ベクターpNUT−GDXの変異誘発によって調製した。
【0086】
ベクターpNUT−GDXの変異誘発について使用されるプライマーの配列は、表IV(配列番号19〜配列番号30)において示される。
【0087】
「センス」プライマーは、非コード鎖上でハイブリダイズし、そして「アンチセンス」プライマーは、コード鎖上でハイブリダイズする。
【0088】
【表4】

変異誘発は、DNA thermal cycler 480 (PERKIN ELMER)を使用して、製造業者によって推奨される緩衝液中に、マトリックスとして50ng(0.2nM)のpNUT−GDX、125ng(70nM)の各プライマー(センスおよびアンチセンス、表4を参照のこと)、各dNTPの当モル混合物(0.5mM)、および2.5ユニットのPfuポリメラーゼを含む、50μlの容量でのPCRによって行われる。PCRは、95℃で5分間の最初の変性工程、続いて、95℃で45秒の変性、55℃で60秒のハイブリダイゼーション、および68℃で26分の伸長から各々なる同一の16サイクルである。これらの16サイクル後に、マトリックスとして機能するベクターを、37℃で60分間、10ユニットのDpnIで分解する。
【0089】
DH5α細菌を、100mM CaCl中4℃での洗浄によってコンピテントにし、そしてDpnIで消化した5〜10μlのPCR産物で形質転換する;生存可能なプラスミドを取り込むコロニーを選択し、インサートの方向および配列を確認する。
【0090】
実施例2:真核生物細胞中の第X因子誘導体の生成
BHK−21細胞のトランスフェクション
組換えタンパク質を、European Collection of Cell Cultures (Sofia-antipolis, France)によって提供される新生児ハムスター腎細胞(BHK−21)中で発現した。
【0091】
BHK−21細胞を、10%の胎児ウシ血清(GIBCO BRL)、2mMのL−グルタミン(GIBCO BRL)、100ユニット/mlのペニシリン(GIBCO BRL)、および100μg/mlのストレプトマイシン(GIBCO BRL)で補充した、完全なDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地):(GIBCO BRL)中、5%COの雰囲気下で、37℃でインキュベーター中で、ペトリ皿(直径80mm)中で培養する。約80%コンフルエントに達したとき、細胞をPBS緩衝液(リン酸緩衝化生理食塩水、GIBCO BRL)中で2回リンスし、次いで、4mlのOPTI−MEM(GIBCO BRL)中で、37℃で1時間インキュベートする。
【0092】
トランスフェクションを、所望の第X因子誘導体について40nMの発現ベクター(蒸留水で調整した220μlの容量中40μg)を、正確にpH7.05で、250μlの溶液に添加することによって実施し、これは、50mM Hepes、1.5mM NaHPO、280mM NaCl、10mM KClおよび12mMデキストロースからなる。DNAの同時沈殿は、31μlの2.5M CaClを添加し、絶えず撹拌することによって得られる。周囲温度で30分間のインキュベーション後、沈殿を、細胞をカバーする培地に添加し、そして37℃で3時間、沈殿させた。細胞を(ほとんどの沈殿を除去するために)PBSで洗浄し、そして37℃で24時間、完全なDMEM培地中の培養物に戻した。
【0093】
細胞を、0.5mg/mlトリプシンを含む、2mlの54mM EDTA、pH8.0の溶液で、ペトリ皿から剥離し、選択培地(50mg/lのメトトレキセート(TEVA, Courbevoie, France)を含む完全なDMEM)中で再懸濁し、そして、新しいペトリ皿に再播種する。培養培地を、コロニーが得られるまで、2日毎に2〜3週間更新する。これらのコロニーを単離し、24ウェル培養プレートのウェル(2cm)中に移し、ここで、これらは、選択培地中でコンフルエントまで増殖される。
【0094】
第X因子誘導体を生成するクローンの同定
第X因子誘導体を安定して発現するクローンの検出を、免疫ブロッティングによって実施する。
【0095】
BHK−21細胞培養物上清(これは、少なくとも48時間トランスフェクトした細胞と接触したままである)のアリコート(30μl)を、40%(v/v)のグリセロール、8%(v/v)のSDS、0.04%(w/v)のブロモフェノールブルーおよび20%(v/v)のβ−メルカプトエタノールを含む、10μlの100mM Tris−HCl、pH6.8に添加する。サンプル中のタンパク質を、95℃で5分間変性し、0.1Mグリシンおよび0.1%(w/v)SDSを含む、25mM Tris緩衝液、pH7.5中の12%ポリアクリルアミドゲル(架橋29/1)で分離する。
【0096】
電気泳動に続いて、20%メタノールを含む、25mM Tris−HCl緩衝液、0.1Mグリシン、pH7.5中のニトロセルロースメンブレン(TRANS-BLOT, BIO-RAD, Ivry sur Serine, France)へ移した。メンブレンを、150mMのNaCl、0.1%のTween20(TTBS)を含む50mM Tris緩衝液、pH7.5中の5%(w/v)スキムミルクの溶液中で、周囲温度で1時間のインキュベーションによって飽和し、次いで、同じ緩衝液中で、10分間3回洗浄する。メンブレンを、次いで、TTBS中の50ng/mlのモノクローナル抗体9E10の存在下で、1〜12時間インキュベートする。3回の洗浄後(先のように)、メンブレンを、TTBS中で1/3000まで希釈したアルカリホスファターゼ標識抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体(BIO−RAD)の存在下で、周囲温度で1時間インキュベートする。組換えタンパク質の存在は、色素産生基質(0.5MのMgClを含む、0.1M Tris緩衝液、pH9.5中で希釈された、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート、p−トルイジン塩(BCIPT)およびニトロテトラゾリウムクロライド(NTC)の等量の混合物)の存在下で、メンブレンのインキュベーションによって明らかにされる。
【0097】
細胞培養および生成:
所望の第X因子誘導体を最も強力に発現するクローンを増幅し、そして液体窒素中で凍結することによって保存する(10%(v/v)DMSOを添加した1mlの胎児ウシ血清中の約10細胞)。
【0098】
第X因子誘導体の生成を、50μMの亜鉛(メタロチオネインプロモーターの誘導のための)、およびGlaドメインを有するFX−組換え誘導体を発現するクローンのために、翻訳後のγ−カルボキシル化を可能にする5mg/mlのビタミンK(ROCHE, Neuilly sur Seine, France)を含む選択培地で、行う。細胞を、850cmボトルを接種するために使用される150cmフラスコ中の連続的な継代によって増殖する。培養物上清を、2〜6日毎に収穫し(細胞密度に依存して)、5000gでの10分間の遠心分離によって清澄化し、そして5mM EDTAおよび10mMのベンズアミジンの添加後に−20℃で保存する。
【0099】
実施例3:第X因子誘導体の精製
誘導体の精製を、関連する誘導体に依存して、2または3工程で行った。
【0100】
第1の工程は、全ての精製に共通である:これは、培養上清に含まれるタンパク質を濃縮するために、アニオン交換樹脂への吸着を含む。
【0101】
培養上清を、10mMのベンズアミジンおよび5mMのEDTAを含む、50mM Tris,pH7.5中の1/3に希釈する。代表的に、2リットルの上清を、4リットルの緩衝液で希釈し、4.5グラムのQAE SEPHADEX A50(AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH)を添加し、混合物を、(回転式ブレード撹拌機を使用して)周囲温度で30分間ゆっくりと撹拌する。SEPHADEXビーズを1時間沈降させ、上清を捨てる。
【0102】
ローディングした樹脂を、カラムに移し、吸着したタンパク質を、0.5M NaClを含む、50mM Tris緩衝液、pH7.5で溶出する。
【0103】
第2の工程は、QAE−SEPHADEX溶出液に含まれる他のタンパク質から第X因子誘導体を分離することを可能にするアフィニティークロマトグラフィーである。
【0104】
FX−組換え誘導体は、ゲルml当たり3mgのモノクローナル抗体9E10でグラフトされたAFFI−PREP HZゲル(BIO−RAD)でのアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。QAE−SEPHADEX溶出液でのカラムのローディングおよび0.5MのNaClを含む50mM Tris緩衝液、pH7.5中での洗浄後、FX−組換え誘導体を、0.1Mグリシン−HCl緩衝液、pH2.7中で溶出する。溶出液のpHを、30μl/mlの2M Trisを添加することによって7.5に調整し、カラムを洗浄緩衝液中で再平衡化する。
【0105】
抗体9E10でグラフトしたアフィニティーカラムは、低容量を有し、そして変性培地における溶出を必要とするという欠点を有する。第3の精製工程(高分離能アニオン交換クロマトグラフィーによる)は、変性剤を除去し、そしてカラムから溶出した誘導体を濃縮するために必要である。
【0106】
アフィニティーカラム由来のいくつかの溶出液(全部で2〜10mgのFX−組換え誘導体)をプールし、5mM EDTAを含む50mM Tris緩衝液、pH7.5中で1/4に希釈し、Q-SEPHAROSE FAST FLOWカラム(0.8×10cm)(AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH)にローディングする。希釈緩衝液での洗浄後、カラムを、0.5M NaClを含む50mM Tris緩衝液、pH7.5中で溶出する。
【0107】
Glaドメインを欠く第X因子誘導体(これは、そのN末端において、抗体HPC−4によって認識されるエピトープを有する)を、この抗体でグラフトしたアフィニティーカラムで精製した。抗体HPC−4は、カルシウム依存性であるので、カラムは、タンパク質を変性しないカルシウムキレート剤の存在下で洗浄することによって溶出し得る。このようにして精製された第X因子誘導体は、直接使用され得る。
【0108】
この場合において、QAE−SEPHADEX溶出液は、5mMでCaClを添加することによって、予め再石灰化される。カラムは、0.5MのNaClおよび1mM CaClを含む、50mM Tris緩衝液、pH7.5中で洗浄され、第X因子誘導体は、100mM NaClおよび5mM EDTAを含む50mM Tris緩衝液、pH7.5中で溶出される。
【0109】
全部で、最小10mgの各第X因子誘導体が調製された。
【0110】
どのプロトコルが使用されるかに関わらず、調製物の純度は、サンプルの変性および還元後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%、架橋29/1)およびクマシーブルーでの染色によって、制御される。
【0111】
得られた全ての調製物は、SDS−ポリアクリルアミドゲルで純粋であるように見えるが、2つの形態が全体的に存在する;重鎖および軽鎖について予想されるものと比較可能な見かけの分子量を有する(FX−組換え体について50および23kDa;Glaドメインを欠く誘導体について50および18kDa)主要な二重鎖形態(80〜90%);FX−組換え体について66kDaおよびGlaドメインを欠く誘導体について60kDaの分子量を有するマイナーな単鎖形態(調製物に依存して10〜20%)。
【0112】
単鎖形態の割合は、導入された変異ではなく、調製物が由来する上清のプールに依存するようである:所定の変異について、単鎖形態の割合は、1つの精製ごとに変化する。
【0113】
精製された誘導体は、アリコートされ、使用まで−80℃で貯蔵される。アリコートの濃度は、1.25g−11cm−1がモル吸着係数(ε%280)であるとして、280nmでのその吸光度によって推定される。
【0114】
実施例4:第X因子誘導体のトロンビン活性化
ネイティブな第X因子は、その生理学的アクチベーター(テナーゼまたは組織因子複合体)によって、そして特定のヘビ毒によってのみ活性化され得、その最も一般的に使用されるものは、Russellの毒蛇の毒抽出物(RVV−X)である。第X因子のGlaドメインは、この活性化において非常に重要な役割を果たす:Glaドメインを欠く正常な第X因子の活性化速度は、完全な第X因子のそれよりも平均して約100倍遅い。
【0115】
FX−組換え体は、(BHK−21細胞によって不正確にγ−カルボキシル化される)部分はプロトロンビナーゼ複合体内で活性化が困難でありそしてごくわずかに活性であることを除き、血漿第X因子と本質的に同様に振る舞う。Glaドメインを欠く第X因子誘導体は、単離されたヘビ毒アクチベーターおよび(ある程度)生理学的な複合体によって、(ゆっくりと)切断可能なままである。
【0116】
トロンビンによって切断されるGlaドメインを欠く誘導体の能力を試験した。
【0117】
2つの方法を使用して、この切断が検出可能なアミド分解活性を生じるか否かに依存して、トロンビンによる第X因子誘導体の切断速度を評価した。第1のケースにおいて、活性化因子によって生成されるアミド分解活性は測定され、第2のケースにおいて、切断された形態は、電気泳動によって定量化される。
【0118】
アミド分解活性の測定:
トロンビンによる第X因子誘導体の活性化についての速度定数は、偽一次条件下で測定する。すなわち、チモーゲンの濃度は、アクチベーターの半数飽和濃度(そのK)の最大0.1倍に等しい。これらの条件下で、測定される速度定数は、その基質(第X因子に由来するチモーゲン)についてのアクチベーター(トロンビン)の特異性定数(kcat/Km)に正比例する。K値を知ることなく、偽一次条件が2つの基質の濃度での活性化速度を測定することによって関係することを証明することは可能である:測定される速度定数は、チモーゲンの2つの濃度について同じであるべきである(実験誤差を許容する)。
【0119】
各第X因子誘導体(1と10μmの間)は、トロンビン(100nM)の存在下で、キネティックス緩衝液(150mM NaCl、0.2%PEG8000(w/v)および5mMCaClを含む50mM Tris,pH7.8)中で37℃で、インキュベートされる。種々のインキュベーション時間後、10μlアリコートをサンプルにとり、これに、1μM(ml当たり100ユニット)のヒルジン(REFLUDAN, HOECHST, Frankfurt, Germany)を(トロンビンを中和することによって反応を停止させるために)添加する。生成される活性型の量は、活性化誘導体のアミド分解活性によって推定される。100μMのN−α−Z−Arg−Gly−Arg−pNA(S2765,BIOGENIC,Maurin,France)を添加した後、アミド分解活性を、MR5000マイクロプレートリーダー(DYNEX, Guyancourt, France)を使用して、時間の関数として405nmでの吸光度(S2765の加水分解の最初の速度)におけるバリエーションを記録することによって測定する。トロンビンの添加前、S2765の加水分解速度は、0である。なぜなら、第X因子誘導体は、完全にチモーゲン形態で存在するからである。S2765の加水分解の最初の速度を、チモーゲンのトロンビンとのインキュベーションの時間の関数としてプロットすることによって、曲線を得る。これは、非線形回帰によって、一次関数増加を示す等式1を使用して、チモーゲンの活性化についての速度定数(k)を推定することを可能にする:
=V+Vmax(1−exp(−kt)) (等式1)
ここで、Vは、時間tにおける色素産生基質の加水分解速度を示し、Vは、時間0における色素産生基質の加水分解速度を示し(通常0)、そしてVmaxは、無限大時間における色素産生基質の加水分解速度を示す(全てのチモーゲンが活性化される場合)。偽一次条件に関する場合、kの値は、チモーゲン活性化反応についてkcat/Kmを掛けたアクチベーター(トロンビン)の濃度に等しい。従って、この方法は、活性化後にアミド分解活性を生成する第X因子誘導体を活性化するトロンビンの能力を比較することを可能にする。この方法は、触媒活性が測定され得るという条件でのみ、いずれのアミド分解活性が生成されても適用可能である:実際に、それは、時間の関数として活性化割合を測定することと同じである。
【0120】
電気泳動による定量化
あるいは、触媒活性が検出可能でない場合、トロンビンの第X因子誘導体を切断する能力は、SDSポリアクリルアミドゲルで検出される。そのアクチベーターとの基質チモーゲンのインキュベーションは、上のように同じ偽一次条件下で実施される。種々のインキュベーション時間後、20μlのアリコートを取り、サンプルの変性および還元後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%、架橋29/1)によって分析する。
【0121】
クマシーブルーで染色した後、ゲルをスキャンし、そして各移動バンドの強度を、画像化ソフトウェア(SCION-IMAGE,アドレス
1109049063500_0
で入手可能)を用いて推定する。
【0122】
この方法は、第X因子誘導体の各形態(不活性単鎖、不活性二重鎖、α形態で活性化された、β形態で活性化された)の割合を評価することを可能にする。活性化形態に対応するバンドの強度を、トロンビンとのチモーゲンのインキュベーションの時間の関数としてプロットすることによって、曲線を得る。これは、非線形回帰によって、等式1を使用して、チモーゲンの活性化についての速度定数(k)を推定することを可能にする。ここで、V、V、およびVmaxは、それぞれ以下と交換される:時間t、時間0(通常0)、無限大時間(100%のチモーゲンが活性化される場合)でのバンドの強度。偽一次条件に関する場合、k値は、チモーゲン活性化反応について、kcat/Kmを掛けたアクチベーター(トロンビン)の濃度に等しい。実際には、経時的にチモーゲンの消滅を評価することがより信頼性がある。チモーゲン形態に対応するバンドの強度を、トロンビンとのインキュベーション時間の関数としてプロットすることによって、曲線を得、これは、以下の等式2(一次関数減少を示す)を使用して、非線形回帰によって、チモーゲンの活性化についての速度定数を推定することを可能にする:
=d+dminexp(−kt) (等式2)
この等式において、dは、時間tにおける密度を示し、dは、時間0における密度を示し(これは最大である)、そしてdminは、無限大時間における密度を示す(これは、全てのチモーゲンが活性化される場合に0である)。偽一次条件に関する場合、k値は、チモーゲン活性化反応についてのkcat/Kmを掛けたアクチベーター(トロンビン)の濃度に等しい。この方法は、いずれの第X因子誘導体が考慮されても適用可能であるが、色素産生方法よりもあまり正確でない。
【0123】
結果を表Vに示す。
【0124】
トロンビンによる各第X因子誘導体の活性化のためのkcat/Km値が、標準誤差(得られた値の割合として表される)と同様に、与えられる。
【0125】
【表5】

その通常の血漿ホモローグと同様に、FX−組換え体は、GD−FX誘導体と同様に、トロンビンによって検出可能に切断可能ではない(ND)。他方、GDX−SFR誘導体は、トロンビンによって非常に迅速に切断される:kcat/Km値は、4×10−1−1である;しかし、切断された誘導体は、アミド分解活性を欠く。GDX−SVG誘導体はまた、トロンビンによって切断されるが、検出可能なアミド分解活性もまた生じない。トロンビンによる、GDX−AVG誘導体の切断のためのkcat/Km値は、10−1−1であり、活性化誘導体は、容易に検出可能なアミド分解活性を有する。他の第X因子誘導体(GDX−IVG、GDX−IFGおよびGDX−IFR)は、トロンビン切断可能であるようであるが、反応が遅すぎてkcat/Km値を信頼できるように推定するのが可能でない。
【0126】
実施例5:第X因子誘導体の活性化形態の調製および特徴付け
第X因子誘導体の各々の触媒活性(切断後)をより完全に特徴付けるために、数ミリグラムの各誘導体を活性化および精製した。
【0127】
その活性化部位のP、PおよびP位に配列LTR(FX−組換え体およびGD−FX誘導体)を有する第X因子誘導体は、トロンビン切断可能でない。これらは、単離されたRussellのヘビ毒(RVV−X)アクチベーター(KORDIA, Leiden, The Netherlands)を用いて、5mg/mlのゲルで、グラフトしたHITRAP NHS活性化カラム(5ml)(AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH)を通過させることによって活性化した。150mM NaCl、5mM CaClおよび0.2%(w/v)PEG8000を含む50mM Tris緩衝液、pH7.5中の4ミリグラムの第X因子誘導体を、RVV−Xでグラフトしたカラムに導入する。カラムを両端で閉じ、周囲温度で16時間、インキュベーションを保持する。活性化誘導体を、0.5M NaClおよび5mM CaClを含む50mM Tris,pH7.5で溶出する。この溶出液は、主に活性化形態を含むが、活性化は必ずしも完全ではない。活性化形態の溶出液を濃縮するために、これを、5mMのCaCl(イオン強度を減少させるため)を含む50mM Tris,pH7.5中で1/3に希釈し、1ml HITRAPヘパリン−セファロースカラム(AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH)にローディングし、0.5M NaClおよび5mMのCaClを含む50mM Tris緩衝液pH7.5で溶出する。
【0128】
他の第X因子誘導体(これは、トロンビンによって(はるかにゆっくりと)活性化され得る)は、1mg/mlのゲルにおいて、トロンビンでグラフトしたHITRAP NHS活性化カラム(1ml)(AMERSHAM PHARMACIA BIOTECH)にそれらを通過させることによって全て活性化した。インキュベーション条件(濃度、緩衝液、温度および期間)は、カラムからの溶出およびヘパリン−セファロースでの誘導体の活性化形態の精製と同様に、RVV−Xでグラフトしたカラムを通過させることによる活性化と同じである。
【0129】
種々の第X因子誘導体の活性化によって生成される重鎖のN末端配列は、微小配列決定によって決定した。得られた各配列は、活性化部位のP残基とP’残基との間の切断後に考慮される誘導体(IVG、IFG、IFR、AVG、SVGまたはSFR)の活性化形態の重鎖について予想されるN末端に明らかに対応する。
【0130】
クロロメチルケトンペプチドとの相互作用:
クロロメチルケトンペプチドは、それらの標的との等モルかつ共有結合の複合体を形成する不可逆的なセリンプロテアーゼインヒビターである。プロテアーゼとのクロロメチルケトンペプチドの相互作用の速度は、クロロメチルケトン基に先行する配列に依存する。これらのインヒビターは、実際、標的の活性化部位の完全性を評価することを可能にする:反応についての速度定数(kon)は、実際に、各インヒビター/プロテアーゼ対に特異的なシグネチャーである。第X因子の活性化形態と最も反応性であるクロロメチルケトンペプチドの1つは、D−Phe−Phe−Arg−CHCl(CALBIOCHEM, Meudon, Franceによって市販されるD-FFR-CK)である。反応が偽一次条件下で実施される場合、konは、標的の正確な濃度が未知である場合でさえ、推定され得る。一旦konが公知となると、プロテアーゼ(以下を参照のこと)についての活性部位濃度を正確に滴定することを可能にする実験条件を予想することが可能である。この力価決定は、本当の機能的特徴付けのための必要条件である。
【0131】
容易に検出可能なアミド分解活性を得るために十分な第X因子誘導体の活性化形態の量が、25℃で、キネティック緩衝液中の固定濃度のD−FFR−CKの存在下で所定の期間にわたり、10μlの反応溶液中でインキュベートされる。試薬の濃度は、実際に非常に変動する:容易に検出可能なアミド分解活性(30分での色素産生基質の10%加水分解)を有するように、第X因子誘導体に依存して、30nM〜1.8μMの活性化形態(280nmでの吸光度に従う)。添加されるD−FFR−CKの濃度は、その標的のものよりも遙かに大きいはずであり、その結果、反応が偽一次条件下で生じる。しかし、D−FFR−CKの濃度は、高すぎるべきでなく、そうでなければ、反応が速すぎる。代表的に、D−FFR−CKの3つの濃度が使用され、これは、標的のそれの10、20および40倍に対応する(280nmでのその吸光度によって推定される)。実験毎のインキュベーション時間を変化させて(最初の実験について10秒〜最後の実験について5時間、その結果、所定の実験についてのインキュベーション時間は、先行する実験のものの2倍に等しい)、同じ実験が12回繰り返される。各インキュベーションの終わりに、キネティック緩衝液中の190μlの100μM S2765が添加され、そして残りのアミド分解活性が、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して、時間の関数として405nmでの吸光度(すなわち、S2765の加水分解の最初の速度)のバリエーションを記録することによって測定する。S2765の加水分解の速度を、その標的とのインヒビターのインキュベーション時間の関数としてプロットすることによって、曲線が得られ、これは、等式2を使用して、非直線回帰によって、第X因子誘導体の活性化形態の不活化のための速度定数を推定することを可能とする。この場合において、等式2のパラメーターd、dおよびdminは、時間tでの残余活性、最初の活性(これは最大である)および無限大時間での活性(これは通常0である)を示す。偽一次条件に関する場合、kについて得られた値は、酵素についてそのkonで掛けたインヒビターの濃度に等しい。
【0132】
得られた第X因子誘導体の活性化形態についてのD−FFR−CKのkon値は、標準誤差(得られた値の割合として表される)と同様に、表VIに要約される。触媒活性を欠く誘導体についてのkonは、使用される方法によって測定され得ない(ND)。
【0133】
【表6】

FX−組換え誘導体の活性化形態、GD−FX誘導体の活性化形態、およびGDX−IVG誘導体の活性化形態のkon値は、血漿由来の第X因子の活性化形態で得られたものと全て類似する。この結果は、予想されていた:これらの第X因子誘導体のチモーゲンは、Glaドメインの存在または非存在によって、また、活性化部位の上流のP残基およびP残基によって異なるが、それらの活性化の産物の触媒ドメインは同一である。
【0134】
GDX−IFG誘導体の活性化形態についてのkon値は、20倍低い;これは、この第X因子誘導体の触媒グルーブが変異によって厳密に保存されていないことを示唆する。GDX−AVG誘導体の活性化形態についてのkon値は、1000倍少ない。第X因子誘導体(これは、切断後に、検出可能なアミド分解活性(GDX−IFR、GDX−SVGおよびGDX−SFR)を欠く)は、この方法によって分析され得ない。
【0135】
第X因子誘導体の活性化形態の滴定:
第X因子誘導体の活性化形態についての活性部位濃度は、各変異体の有効な触媒活性を評価し得るように、測定するのに必須である値である。280nmでの吸光度は、確かに、精製されたプロテアーゼの濃度を計算することを可能にするが、活性化形態であるサンプルを比例して提供しない。他方、滴定は、通常のプロテアーゼと比較した残余チモーゲン形態の割合または変異体の固有の活性がどうであっても、活性化形態の濃度を推定することを可能にする。
【0136】
セリンプロテアーゼを滴定するための非常に正確な方法は、酵素が測定可能な触媒活性を有し、その標的との滴定物質の反応の半減期が予想され得るという条件で、クロロメチルケトンペプチドの使用に基づく。第X因子誘導体の活性化形態の3つは、これらの条件を満たし、そしてこの方法によって:増加濃度のインヒビターとのインキュベーション後に残余アミド分解活性を測定することによって滴定した。使用されるクロロメチルケトンペプチドは、D−FFR−CKであり、各標的についてのkon値は、上で決定した。
【0137】
20nMと12μMとの間の増加濃度のD−FFR−CKを、25℃で、キネティックス緩衝液中で、滴定される第X因子誘導体の活性化形態の固定量(0.5〜1μM)と共にインキュベートする。インキュベーションは、反応が完了するまで保持される:すなわち、最小で10倍半減期をカバーする(反応の半減期は、konの生成およびインヒビターの濃度によって2を除算した自然対数に等しい)。このインキュベーションの終わりに、キネティックス緩衝液中の190μlの100μM S2765を添加し、そして残渣アミド分解活性を、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して、時間の関数として405nmでの吸光度(すなわち、S2765の加水分解の最初の速度)におけるバリエーションを記録することによって測定する。D−FFR−CKの濃度の関数として、S2765の加水分解の速度をプロットすることによって、直線を得、これについて、元の横座標は、活性酵素の最初の濃度に対応する(LE BONNIEC et al., Biochemistry, 33, 3959-3966, 1994)。
【0138】
GDX−AVX誘導体の活性化形態は、この方法によって滴定され得ない。なぜなら、D−FFR−CK(2M−1−1)のkon値は、低すぎて合理的な量の時間で反応を終了できないからである:1μMのD−FFR−CKの存在下で、約10半減期をカバーするために、15日間反応を保持することが必要であるが、D−FFR−CKの安定性は、pH7.5で48時間を超えない。検出可能なアミド分解活性(GDX−IFR、GDX−SVGおよびGDX−SFR)を欠く、第X因子誘導体の「活性化」形態は、D−FFR−CKを使用して滴定され得ない。これらの誘導体について、活性化形態の割合は、サンプルの変性および還元後(第X因子誘導体を生成するBHK−21クローンを同定するために上に記載されるように)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%、架橋29/1)後にデンシトメーターによって簡単に推定した。クマシーブルーでの染色後、ゲルをスキャンし、そして活性化αおよびβ重鎖に対応するバンドの強度を、分析ソフトウェアSCION−IMAGEを使用して残余非切断形態のものと比較する。この方法は、第X因子誘導体の各アリコートの活性化形態の割合を評価することを可能にする。活性化形態のこの割合を、280nmでの吸光度を介して推定される全濃度と比較することによって、活性化αおよびβ形態の有効濃度をそこから推定する。
【0139】
この方法は、先のものよりもより困難であるが、関連する変異体の機能的な特徴付けを行い得るように十分信頼性がある。
【0140】
アミド分解活性:
セリンプロテアーゼのアミド分解活性は、それらの触媒グルーブおよびそれらの荷電リレーシステムのみに関与する。これは、C末端におけるパラ−ニトロアニリド基を有する小さいペプチドからなる合成基質を使用して測定される;これらの基質の加水分解の間、パラ−ニトロアニリン(pNA)(これは、405nmで容易に検出可能である)が放出される。これらのペプチドは、プロテアーゼの触媒機構の非常に微細な特徴付けを可能にする:これらの基質の1つについての加水分解のためのkcatおよびKmは、本明細書中で再び、各酵素/基質対について唯一のシグネチャー(signature)を構成する。従って、第X因子誘導体の活性化形態のアミド分解活性を測定することは、それらの触媒機構が変更されたか否かを検出するのを可能にした。2つの色素産生基質をこの分析のために使用した:S2765、およびBIOGENICによって販売されるベンジル−CO−Ile−Glu−(γ−OR)−Gly−Arg−pNA(S2222)。
【0141】
第X因子誘導体の活性化形態のkcatおよびKm値を、25℃で、キネティックス緩衝液中で測定する。種々の濃度の基質(6と800μMとの間の)を、固定量の第Xa因子誘導体の活性化形態とともにインキュベートする(第X因子誘導体の活性化形態に依存して10nM〜0.5μM、その結果、少なくとも10%の色素産生基質が30分で加水分解される)。時間の関数としての405nmでの吸光度におけるバリエーションは、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して記録され、そして加水分解の最初の速度は、直線回帰によって推定される(基質の最大15%の加水分解に対応する吸光度のみが、分析について考慮される)。KcatおよびKmの値は、ミカエリス−メンテンの等式を使用して、基質の最初の濃度の関数として、加水分解の最初の速度におけるバリエーションの非線形回帰によって推定する。
【0142】
第X因子誘導体の活性化形態についての、S2222およびS2765のkcat値およびKm値およびkcat/Km比の値、ならびに標準誤差(得られる値の割合として表される)は、表VIIに与えられる。
【0143】
これらの定数は、検出可能なアミド分解活性を欠く誘導体について推定され得ない(ND)。
【0144】
【表7】

FX−組換え誘導体の活性化形態についてのkcatおよびK値、Glaドメインを欠くFX−組換え体の活性化形態のもの、およびGDX−IVG誘導体のものは、血漿由来の第X因子の活性化形態について得られるものと類似である(これらは、最大2倍異なる)。C末端エピトープに加えて、これらの第X因子誘導体の活性化の間に形成される触媒ドメインは、同一である;従って、D−FFR−CKのkonについてと同様に、それらのアミド分解活性は、少なくとも比較可能であると予測される。Glaドメインの非存在は、誘導体の活性化形態のアミド分解活性に顕著な影響を与えないことに注目するのは興味深い;これは、それが第X因子の活性化形態の触媒グルーブの構造に影響しないことを示唆する。比較によって、GDX−IFG誘導体の活性化形態のkcat値は、減少する(S2222について10倍、そしてS2765について3倍);Km値は、同様に増加する(5〜10倍)。全体的に、これらの色素産生基質についてのkcat/Kmは、通常の第X因子の活性化形態よりも30〜50倍小さい(従って、その減少はD−FRR−CKについて観察されるものと同じオーダーの規模である(2倍))。GDX−AVG誘導体の活性化形態のkcat値における減少は、Kmにおける増加の場合のように(S2222について5倍高く、S2765について40倍高い)、遙かに大きい割合で存在する(S2222について約100倍、S2765について約10倍)。全体的に、これらの色素産生基質についてのkcat/Kmは、通常の第X因子の活性化形態よりも400〜600倍小さい;これらの値は、D−FFR−CKについて観察される減少と一致している(1000倍)。これらの結果は、GDX−IFGおよびGDX−AVG誘導体によって保有される変異が、触媒グルーブにおける構造的な改変を明確に誘導し、そして/または電荷リレーシステムの活性を妨げることを確認する。
【0145】
プロトロンビナーゼ複合体内の活性:
ネイティブな第Xa因子は、トリプシンまたはトロンビンと比較してあまり活性な酵素ではない。生理学的に、プロトロンビン活性化反応が非常に迅速になるのは、ホスホリピドおよびカルシウムの存在下で、酵素がその補助因子(第Va凝固因子)に結合する場合のみである(反応は、それらの非存在下よりも補助因子の存在下で数千倍迅速である)。しかし、プロトロンビナーゼ複合体内の活性は、Glaドメインの存在に大きく依存する:それなしでは、速度は、多くても50倍のみ増加する。しかし、この差異は、第X因子誘導体が第Va因子と相互作用するか否か、そして特に、補助因子がそれがプロトロンビンを効果的に活性化し得るか否かを検出することを可能にするのに主として十分である。従って、本発明者らは、第Va因子、ホスホリピドおよびカルシウムの存在下、ならびに非存在下で、第X因子誘導体の活性化形態の各々によってプロトロンビンの活性化の速度を比較する。
【0146】
第Va因子(KORDIA)の補助因子効果は、厳密に制御された精製システムにおいて研究される:特にプロトロンビンは、活性化形態(第X因子またはトロンビン)のいずれのトレースもないように、免疫精製される(LE BONNIEC et al. J. Biol. Chem., 266,13796-803, 1991;LE BONNIEC et al., 1992,上述)。このプロトロンビンの活性化は、それから生じるトロンビンの形成によって検出される。反応は、色素産生基質、H−D−Phe−Pip−Arg−pNA(S2238,BIOGENIC)の反応培地中の存在が続き、これは、第X因子の活性化形態よりもトロンビンに遙かにより感受性である。時間0において、トロンビンは存在せず、第X因子誘導体の活性化形態によるS2238の顕著でない加水分解のみが存在する。反応の間、トロンビン濃度は、経時的に直線様式で増加する(第X因子誘導体の活性化形態によるプロトロンビンの活性化のための反応が、定常状態である場合)。S2238の加水分解の速度は、トロンビン濃度に正比例するが、これは、経時的に増加する。切断の速度は、従って一定ではない;それは、漸増的に速く進む:反応は加速する。加水分解されたS2238によって放出されるpNAの量(従って、混合物の405nmでの吸光度)は、時間の二乗の反応の促進係数に比例することを示すのは可能である(KOSOW,Thromb. Res. Suppl., 4,219-227, 1974);加速係数自体は、トロンビン形成の最初の速度に正比例する。実際には、20nMの第Va因子の存在下または非存在下で、100μMのS2238、0.5μMのプロトロンビンおよび35μMのホスホリピド小胞体(20%〜80%w/wの割合のホスファチジルセリンおよびホスファチジルコリンの混合物)を含む、195μlのキネティックス緩衝液は、マイクロタイタープレートで37℃でプレインキュベートされる。第X因子誘導体の2.5nMの活性化形態(50nMで5μl)を添加することによって、反応を引き起こし、時間の関数として、405nmでの吸光度におけるバリエーションを、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して記録する。インキュベーション時間の関数として、405nmでの吸光度をプロットすることによって、曲線を得、これは、等式3を使用して、非線形回帰によって、c、反応の加速の係数を予測することを可能にする:
405=A+bt+ct (等式3)
ここで、Aは、405nmでの混合物の最初の吸光度を示し(酵素の添加前)、そしてbは、第X因子誘導体の活性化形態によるS2238の加水分解の速度を示す(これは、実際に無視できる)。第X因子誘導体の活性化形態によるプロトロンビンの活性化のための反応が定常状態にある場合、そして、加水分解されていないS2238の残余濃度がトロンビンについてのそのKm(3.6μM)より遙かに大きいままである場合、パラメーターcは、第X因子誘導体の活性化形態によるプロトロンビンの活性化の最初の速度に効果的に比例する。これらの条件を満たすために、各基質(プロトロンビンおよびS2238)の15%未満の加水分解に対応する実験地点のみが、非線形回帰による分析について考慮される。このアプローチは、第X因子誘導体の活性化形態によるプロトロンビンの活性化についての触媒定数を推定することを可能にしない;それは、反応が同一条件下で行われる場合に、2つの酵素の活性を比較することを可能にするのみである(ここで、第X因子誘導体の各活性化形態の活性は、リファレンスとして機能するGlaドメインを欠く活性化形態のそれと比較される)。
【0147】
得られた結果を表VIIIに要約する。
【0148】
プロトロンビナーゼ複合体(+第Va因子)または活性化第X因子誘導体のみ(−第Va因子)によって生成されたトロンビンによるpNA放出の加速の係数を、標準誤差と共に示す(得られた値の割合として表される)。
【0149】
【表8】

ホスホリピドおよびカルシウムの存在下で(しかし、第Va因子の非存在下で)、プロトロンビンの活性化(Glaドメインを欠く第X因子の活性化形態またはGDX−IVG誘導体の活性化形態を含む)は、非常にゆっくりであり、そして検出するのが難しい;第Va因子の添加は、プロトロンビンの活性化の速度をそれぞれ50倍および10倍増加させる。第Va因子の非存在下で、プロトロンビンの活性化は、第X因子誘導体(GDX−AVG、GDX−IFG、GDX−IFR、GDX−SVGおよびGDX−SFR)の他の活性化形態のいずれも検出可能でない。第Va因子の添加は、GDX−AVG誘導体の活性化形態によるプロトロンビンの活性化の速度をかなり増加させることを可能にする:これは、現在、その非変異型ホモローグ(GDX−IVG)の活性化形態について得られるものよりも13倍のみ少ない。従って、第Va因子は、大部分、GDX−AVG誘導体の活性化形態の触媒活性を回復するようである。なぜなら、非変異型ホモローグと比較して、触媒グルーブプローブ(D−FFR−CK、S2765およびS2222)は、少なくとも400倍減少する触媒の効率を反映するからである。第X因子誘導体(GDX−IFG、GDX−IFR、GDX−SVGおよびGDX−SFR)の他の活性化形態を用いて、第Va因子の添加は、このような効果を有することから遙かに遠い:それは、依然として、プロトロンビンの任意の活性化を検出するのを可能にしない(ND)。
【0150】
アンチトロンビンによる阻害:
第X因子の活性化形態の最も強力な血漿インヒビターは、組織因子経路インヒビター(TFPI)である;第X因子の活性化形態との相互作用についてのそのkon値は、10−1−1よりも大きい。しかし、TFPIの血漿濃度(2.5nM)は、このインヒビターが第X因子(その生理学的標的は、むしろ第VIIa凝固因子である)の活性化形態を阻害する際に比較的重要でない役割を果たすことを意味する。
【0151】
アンチトロンビン(単独)は、比較的強力でないインヒビターである。なぜなら、第X因子の活性化形態との相互作用についてのそのkon値は、10−1−1のオーダーであるからである。しかし、アンチトロンビンの血漿濃度(2.3μM)は、それを第Xa因子の主要な生理学的インヒビターにする:この濃度で、第X因子の活性化形態の血漿半減期は、たった30秒である(本発明者らは、実験的に1分測定した、以下を参照のこと)。特に、ヘパリンの存在下で、第X因子の活性化形態との相互作用についてのアンチトロンビンのkon値は、10−1−1を超える(すなわち、2.3μMのアンチトロンビン血漿濃度について、プロテアーゼの中和化が数秒で起こる(半減期は現在たった0.3秒である))。従って、第X因子誘導体の活性化形態とのアンチトロンビンの相互作用のkonを測定することは必須である。なぜなら、血漿半減期における何らかの増加は、第X因子誘導体の凝血促進作用を延長し、従って、その抗血友病効果を強化する。
【0152】
本発明者らは、第X因子誘導体の各活性化形態がアンチトロンビンと安定した共有結合複合体を形成する能力を測定した。本発明者らはまた、検出可能なアミド分解活性を有する第X因子誘導体(Glaドメインを欠く誘導体、ならびにGDX−IVG、GDX−IFGおよびGDX−AVG誘導体)の活性化形態について、アンチトロンビンのkon値を(ヘパリンの存在下および非存在下で)推定した。
【0153】
第X因子誘導体の活性化形態(1μM)とアンチトロンビン(2μM;MCKAY (Thromb. Res., 21, 375-382, 1981) によって記載される技術に従ってヒト血漿から精製された)との間の共有結合複合体の証明は、2ユニット/mlのヘパリン(KORDIA)の存在下で行われる。インキュベーションは、25℃で1時間保持され、反応混合物は、サンプルの変性および還元後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(10%、架橋29/1)によって分析する。クマシーブルーでの染色後、第X因子誘導体の(不活化)形態とアンチトロンビンとの間の共有結合複合体の存在は、アンチトロンビンに対応するバンド(60kDa)の強度の減少、第X因子誘導体の活性化形態に対応するバンド(31kDa)の強度における減少、および共有結合複合体に対応するより大きい分子量の新しいバンド(約100kDa)の出現を生じる。
【0154】
結果を図3に示す。
【0155】
レーン1および8:アンチトロンビン単独;レーン2および3:アンチトロンビンを用いないかまたは用いるGDX−IVG誘導体;レーン4および5:アンチトロンビンを用いないかまたは用いるGDX−IFG誘導体;レーン6および7:アンチトロンビンを用いないかまたは用いるGDX−IFR誘導体;レーン9および10:アンチトロンビンを用いないかまたは用いるGDX−SVG誘導体;レーン11および12:アンチトロンビンを用いないかまたは用いるGDX−SFR誘導体;レーン13および14:アンチトロンビンを用いないかまたは用いるGDX−AVG誘導体。
【0156】
複合体の形成は、高分子量バンドの出現(レーン3,5,7,10および14)を生じ、これは、アンチトロンビン(レーン1および8)または第X因子アナログの活性化形態の1つ(レーン2,4,6,9,11,13)が単独で使用される場合に存在しない。単一の第X因子アナログ(GDX−SFR、レーン12)は、検出可能な共有結合複合体の形成を可能にしない。
【0157】
第X因子誘導体の全ての活性化形態(GDX−SFR誘導体を除く)は、従って、ヘパリンの存在下で、GDX−SVG誘導体(これは、それにもかかわらず、いずれの検出可能な触媒活性を欠く)を含む、アンチトロンビンとの安定な共有結合複合体を形成し得る。
【0158】
第X因子誘導体の活性化形態についてアンチトロンビンのkonを推定するために選択される方法は、試薬の半減期に依存する。この方法は、半減期が3分より大きいか、15秒と3分との間であるか、または15秒より短いかに依存して異なる。反応は、(不可能でない限り、以下を参照のこと)偽一次条件下で、行われなければならない:すなわち、インヒビター(アンチトロンビン)の濃度は、その標的(第X因子誘導体の活性化形態)の少なくとも10倍でなければならない。さらに、標的の濃度は、その残余アミド分解活性を容易に検出し得るのに十分であるべきである(第X因子誘導体の活性化形態に依存して10nM〜1μM、その結果、理想的には、10%の色素産生基質が30分で加水分解される)。これらの2つの制約は、試薬の濃度の選択をかなり制限する:アンチトロンビンの濃度は、(標的に依存して)少なくとも0.1〜10μMであるべきである。標的の半減期(インヒビターの濃度の生成物および標的についてのそのkonで除算した2の自然対数に等しい)は、使用される方法を決定する。3分よりも大きい半減期について、使用される方法は、D−FFR−CKのkonを推定するために記載されるものと同じである:それは、種々の時間において採取されるアリコートに含まれる残余活性を測定することを包含し、約10倍の半減期をカバーする。0.1と10μMとの間のアンチトロンビン濃度について、このアプローチは、最大で2 10−1−1に等しいkon値のみを推定することを可能にする。反応の半減期が3分未満である場合、残余活性の(アリコートをサンプリングすることによる)バッチ式(batchwise)測定は、実施するのが困難となる。この場合において、依然として、0.1と10μMとの間のアンチトロンビン濃度(従って、kon値は、2 10−1−1より大きい)を用いて、反応は、S2765の反応媒体中の存在のために、連続して続けられる。S2765の加水分解速度は、第X因子の活性化形態の残余濃度に正比例する。0時間において、アミド分解活性は最大である。なぜなら阻害がまだ生じていないからである。偽一次条件が考慮され、第X因子誘導体の活性化形態の濃度は、一次減少関数に従って、経時的に減少する。切断の速度は一定ではない:これは、ゼロ(全ての標的が中和されるとき)になるまでスローダウンする。S2765の加水分解によって放出されるpNAの量(従って、反応混合物の405nmでの吸光度)は、一次指数関数増加に従って増加することを示すのは可能であり(CHA, Biochem. Pharmacol., 24, 2177-2185, 1975; STONE & HOFSTEENGE, Biochemistry, 25, 4622-4628, 1986)、これは、等式4を使用して非線形回帰によって分析され得る:
405=A+V(1−exp(−Ikt))/k (等式4)
ここで、Aは、405nmでの最初の吸光度を示し、Viは、アンチトロンビンの非存在下でのS2765の加水分解速度を示し、Iは、アンチトロンビンの濃度を示し、そしてkは、阻害反応についての偽一次速度定数を示す。反応の間、インヒビターは、酵素との相互作用のための基質と競合する;したがって、第X因子誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkon値は、等式:
kon=k(1+S/Km) (等式5)
によってkに関連付けられ、ここで、Sは、色素産生基質(S2765)の最初の濃度を示し、Kは、第X因子誘導体の活性化形態についてのそのミカエリス定数を示す(アミド分解活性の特徴付けの間に測定される)。この方法は、15秒のオーダーで半減期を測定する(すなわち、最大で2 10−1−1に等しいkon値を推定する)のを可能にする(0.1と10μMとの間のアンチトロンビン濃度について)。10nMと1μMとの間の第X因子誘導体の活性化形態の濃度について、反応の半減期が15秒未満である場合、シグナルの振幅(405nmにおける吸光度)は、小さすぎて残余活性の信頼できる連続的な測定が可能でない(酵素の濃度の増加は、偽一次条件に関連づけるために増加されるアンチトロンビンのそれを必要とし、従って半減期はさらに減少する)。従って、konが2 10−1−1よりも大きい場合、反応は、偽一次条件下でもはや行われないが、二次条件下で行われる。偽一次条件は、アンチトロンビンの濃度が反応中(見かけ上)一定のままであることを意味する;これは、標的と比較して過剰に存在する場合である。インヒビターの濃度がその標的のそれの10倍より少ない場合、インヒビターの濃度の減少(その標的との複合体の形成による)は、もはや無視できない。反応の間、インヒビターの濃度およびその標的の濃度は共に、経時的に変化し、これは、分析を非常に複雑化する。しかし、十分なシグナル振幅を得ること、そして二次条件下で色素産生基質の存在下で阻害のキネティックスをフォローすることは可能なままである。この場合において、反応混合物の405nmにおける吸光度が、「緩やかな堅い結合阻害(slow tight-binding inhibition)」と呼ばれる、等式6を使用する非線形回帰によって分析され得る曲線に従って増加する(CHA, 1975, 上述; Biochem. Pharmacol, 25, 2695-2702, 1976; WILLIAMS and MORRISON, Methods Enzymol, 63, 437-467, 1979):
P=Vst+(V0-Vs)(1-d)/(dk’)In{(1-d exp(-k’t))/(1-d)} (等式6)
ここで、Pは、時間tで放出されるpNAの濃度を示し(405nmでの吸光度に正比例する)、Vは、インヒビターの非存在下でのS2765の加水分解速度を示し、そしてVは、S2765の加水分解の最終速度を示す(反応が終了する場合)。パラメーターdおよびk’自体は、2つのパラメーター(FおよびF)に依存し、その結果:
d=(F1-F2)/(F1+F2);
k’=kF2;
F1=KI’+I+E;
F2=(F12-4EI)1/2.
これらの等式において、Iは、アンチトロンビンの最初の濃度を示し、Eは、標的のそれを示し、そしてK’は、相互作用についての見かけの阻害定数を示す。第X因子誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkonは、等式5において与えられる関係によってk(これは、等式4における意味と同一の意味を有する)に関連する。
【0159】
アリコートのバッチ式サンプリングによる方法は、(ヘパリンの存在下および非存在下で)GDX−AVG誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkonを推定するために使用される。
【0160】
1mg/mlのプロテアーゼフリーウシアルブミン(SIGMA, St Quentin-Fallavier, France)および適切な場合に1ml当たり2ユニットのヘパリン(KORDIA)を含むキネティックス緩衝液中で反応を実施する。10μlの反応容積中で、十分な量の活性化形態のGDX−AVG誘導体(ヘパリンの存在下で0.5μM、その非存在下で1μM)を、25℃で種々の時間で、大過剰のアンチトロンビン(ヘパリンの存在下で5μM、その非存在下で10μM)の存在下でインキュベートする。同じ実験を、実験毎にインキュベーション時間を変化させて(最初について10秒〜最後について5時間、その結果、所定の実験についてのインキュベーション時間は、前のものの2倍に等しい)、12回繰り返す。各インキュベーションの終わりにおいて、190μlのS2765(キネティックス緩衝液中200μM)を添加し、残余アミド分解活性を、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して、時間の関数として405nmでの吸光度(すなわち、S2765の加水分解の最初の速度)におけるバリエーションを記録することによって測定する。インヒビターのその標的とのインキュベーション時間の関数として、S2765の加水分解の速度をプロットすることによって、曲線を得、これは、等式2を使用する非線形回帰によって、第X因子誘導体の活性化形態の不活化についての速度定数を推定することを可能にする。等式2のパラメーターd、dおよびdminは、それぞれ以下を示す:時間tにおける残余活性、最初の活性(これは最大である)、そして無限大時間での活性(これは通常0である)。偽一次条件に関する場合、kについて得られた値は、第X因子誘導体の活性化形態の不活化のための反応のkonを掛けたインヒビターの濃度に等しい。
【0161】
偽一次条件下で405nmでの吸光度の連続記録による方法を使用して、Glaドメインを欠く第X因子誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkon、ならびにGDX−IVGおよびGDX−IFG誘導体の活性化形態のそれを(ヘパリンの非存在下で)推定する。
【0162】
キネティックスを、1mg/mlのプロテアーゼフリーウシアルブミンを含むキネティックス緩衝液中で25℃で研究し、100μMのS2765の反応媒体中での存在について連続して行う。シグナルの振幅がプレートリーダーを用いてキネティックスをフォローすることを可能にする場合には、反応を、200μlの容量で、マイクロプレート中で行う。そうでない場合、反応を600μlマイクロキュベットで行い、キネティックスを分光光度計(LAMBDA 14, PERKIN-ELMER (Courtaboeuf, France))を使用して続ける。反応を、10〜25nMの第X因子誘導体の活性化形態を添加することによって引き起こす(理想的には、その結果、インヒビターの非存在下で、10%の色素産生基質が60分で加水分解される)。第X因子誘導体の各活性化形態について、反応を、標的の濃度の10、20および40倍に等しい、3つのアンチトロンビンの濃度の存在下で行う。時間の関数として405nmでの吸光度をプロットすることによって、曲線を得、これは、等式4を使用する非線形回帰(一次指数関数増加を示す)によって、第X因子誘導体の活性化形態の不活化のための速度定数を推定するのを可能にする。偽一次条件に関する場合、第X因子誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkonは、等式5(キネティックスの間に基質によって導入される競合を考慮に入れる)によって与えられる。
【0163】
ヘパリンの存在下で、偽一次条件に関する場合、Glaドメインを欠く第X因子誘導体の活性化形態の半減期、ならびにGDX−IVGおよびGDX−IFG誘導体の活性化形態のそれは、15秒より短い。アンチトロンビンの濃度およびその標的の濃度を減少させることは、同時に半減期を増加させながら、偽一次条件に関連づけることを可能にするが、シグナルの振幅を減少させる;現在、分光光度計の感受性は、振幅が数ミリユニットの吸光度である場合、連続するキネティックスをフォローするのに不十分となる。結果として、ヘパリンの存在下で、Glaドメインを欠く第X因子誘導体の活性化形態のアンチトロンビンによる阻害のキネティックス、並びに、GDX−IVGおよびGDX−IFG誘導体の活性化形態のそれは、二次条件下でフォローされる。
【0164】
キネティックスを、1mg/mlのプロテアーゼフリーウシアルブミンおよび1ml当たり2ユニットのヘパリンを含むキネティックス緩衝液中で、25℃で研究する;これらは、400μM S2765の反応媒体中の存在によって連続的に続ける。反応を、600μlの容量でマイクロキュベット中で行い、続いてラムダ14分光光度計を使用するキネティックスを行う。反応を、信頼できるシグナルに対応する第X因子誘導体の活性化形態の最小量を添加することによって引き起こす(誘導体に依存して1〜2.5nM、その結果、インヒビターの非存在下で、色素産生基質の約10%が60分で加水分解される)。第X因子誘導体の各活性化形態について、反応を、標的の濃度の2および3倍に等しい、2つのアンチトロンビンの濃度の存在下で行う。時間の関数として405nmでの吸光度をプロットすることによって、曲線を得、これは、等式6を使用する非線形回帰によって、反応についての二次速度定数を推定することを可能とする。第X因子誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkonを等式5によって与え、これは、キネティックスの間の基質によって導入される競合を考慮する。
【0165】
得られた結果は、表IXに要約する。ヘパリン存在下(+ヘパリン)または非存在下(−ヘパリン)でのアンチトロンビンのkon(M−1−1)値を、標準誤差と共に示す(得られた値の割合として示される)。
【0166】
【表9】

ヘパリンの非存在下で、Glaドメインを欠く第X因子誘導体の活性化形態およびGDX−IVG誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkon値は、類似している(これらは、最大で2倍異なる)。比較すると、GDX−IFG誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkon値は、66倍小さい。特に、GDX−AVG誘導体の活性化形態についてのkon値は、その非変異ホモローグのそれよりも1000倍を超えて小さい(阻害は実際に検出するのが困難である)。ヘパリンの存在下で、第X因子の活性化誘導体についてのアンチトロンビンのkon値は、1000〜4000倍増加するが、ヘパリンの存在下でさえ、GDX−AVG誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkonは、3 10−1−1を超えない。重要な観察は、活性化後、GDX−AVG誘導体がその非変異ホモローグよりも遙かに長く活性なままであることを示唆する(その血漿半減期は、ヘパリンの非存在下で数時間、その存在下で17分である)。
【0167】
第X因子誘導体の活性化形態の血漿半減期:
第X因子誘導体の活性化形態についてのアンチトロンビンのkonは、GDX−AVG誘導体の活性化形態の血漿半減期がかなり延長されることを示唆し、これは、その抗血友病の可能性を強化する。この仮説を証明するために、本発明者らは、第X因子誘導体の各々の活性化形態の血漿半減期を測定した。
【0168】
第X因子誘導体の活性化形態の血漿半減期は、通常のヒト血漿のプール中の種々の時間量のインキュベーション後のそれらの残余活性を測定することによって推定される。血塊の形成を妨げるために、血漿のプールは、(8mM CaClを添加することによって)再石灰化する前に、0.8μMのヒルジン(1ml当たり80ユニット)を添加することによって非凝固性とされる。反応混合物は、80%(v/v)の血漿、ならびにヒルジン、カルシウムおよびその検出を可能にするのに十分な濃度(20〜300nM最終濃度)の第X因子誘導体の1つの活性化形態を含む、20%(v/v)のキネティックス緩衝液からなる。種々のインキュベーション時間後、アリコート(40μl)を取り出し、160μlのS2765(GDX−AVG誘導体の活性化形態について1mM、第X因子誘導体の他の活性化形態について100μM)の添加後、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して、時間の関数として405nmでの吸光度(S2765の加水分解の最初の速度)におけるバリエーションを記録することによって、残余アミド分解活性を測定する。活性における減少についての速度定数は、等式2を使用して、時間の関数として、残存活性におけるバリエーションの非線形回帰によって推定し、ここで、d、dおよびdminは、それぞれ、時間tにおける残余活性、最初の活性(これは最大である)、および無限大時間での活性(これは最小である)を示す。ヒルジンは、トロンビンの任意のトレースを中和するが、第X因子の全ての活性化形態が中和されたとしても、最小活性は、0ではない:このバックグラウンドノイズは、S2765をゆっくり加水分解し得る、血漿中に含まれる他のプロテアーゼに由来する。偽一次条件が関連する場合、血漿半減期は、自然対数2とk(減少についての速度定数)の比に等しい。観察される血漿半減期は、標的の濃度または測定されるアミド分解活性の大きさのいずれにも依存せず、これは、血漿中に含まれるインヒビターの最初の濃度(およびもちろん、標的に関するその反応性)のみに依存する:アンチトロンビンが本当に関与する主要な血漿インヒビターである場合、偽一次条件が考慮される。なぜなら、インキュベーション全体の間、それは、その標的と比較して大過剰(1.8μM)のままだからである。
【0169】
得られた結果を表Xに要約する。ヘパリンの存在下(+ヘパリン)またはその非存在下(−ヘパリン)での第X因子誘導体の活性化形態の半減期(分)についての値が、標準誤差におけるように与えられる(得られる値の割合として表される)。検出可能なアミド分解活性を欠く誘導体の活性化形態の半減期は、測定されていない(ND)。
【0170】
【表10】

ヘパリンの非存在下で、Glaドメインを欠く第X因子の活性化形態およびGDX−IVG誘導体の活性化形態の血漿半減期は比較可能である(1分);ヘパリン存在下で、これらの活性化形態の血漿半減期は、短すぎて信頼可能に測定できない。ヘパリンの非存在下で、GDX−AVG誘導体の活性化形態の半減期は、顕著に延長される:これは、Glaドメインを欠く第X因子の活性化形態のそれよりも55倍長い。ヘパリンの存在下での血漿半減期における増加もまた顕著である。なぜなら、これは、その非変異体ホモローグのそれとは異なり、容易に測定され得るからである(5分および30秒)。GDX−IFG誘導体の活性化形態の血漿半減期はまた、延長される(Glaドメインを欠く第X因子の活性化形態のそれと比較して12倍)。第X因子誘導体(アミド分解活性を欠く)の他の活性化形態の血漿半減期は、使用される方法によって推定できない。
【0171】
実施例6:第X因子誘導体の抗血友病活性
第X因子誘導体の活性化形態の凝血促進活性を、重篤な血友病AまたはBをシミュレートする血漿において試験した。これらの血漿は、正常血漿の第VIII因子または第IX因子を欠乏させることによって得られ、インビトロで、血友病患者由来の本物の血漿のように振る舞う。試験された第X因子アナログ(GDX−IVG、GDX−IFG、GDX−AVG、GDX−IFR、GDX−SFR、GDX−SVG)はすべて、Glaドメインを欠く。正常な血漿において、Glaドメインを欠く第X因子の凝血促進作用は、正常な第X因子のそれよりも遙かに少ない。なぜなら、Glaドメインは、プロトロンビナーゼ複合体の活性に貢献するからである。
【0172】
これらの第X因子誘導体の凝血促進活性は、正常な第X因子のそれと比較可能となり得ない。実際に、Glaドメインを欠く任意の第X因子誘導体は、プロトロンビナーゼ複合体のインヒビターである;詳細には、これは、血漿第X因子の活性化形態(これは、そのGlaドメインを有し、はるかにより活性である)と競合する。言い換えると、正常な血漿において、Glaドメインを欠く任意の第X因子誘導体の添加は、促進するのではなく血塊の形成を遅らせる。
【0173】
しかし、Glaドメインを欠く誘導体の凝血促進活性が正常な第X因子のそれよりも遙かに小さいという事実は、これらの誘導体間で行われる比較を妨げない。詳細には、凝血促進活性におけるGlaドメインの貢献は、どの誘導体であっても均一である:それは、その触媒活性とは独立している。第X因子誘導体(これは、正常な誘導体と比較して「凝固時間」(血漿がその流動性を失うのに要する時間)を減少させる)は、従って、より優れた凝血促進活性を反映する;他方、凝固時間における増加は、誘導体がその正常なホモローグよりもより活性でないことを示す。従って、第X因子誘導体(活性化されているかまたはされていない)の凝血促進活性を、Glaドメインを欠く正常なホモローグ(GD−FX)のそれと比較した。
【0174】
第X因子誘導体の活性化形態の凝血促進効果:
第X因子誘導体の活性化形態の血友病患者由来の血漿への添加は、プロトロンビンの活性化のサイクル化を試験しない:それは、インビボで遭遇する条件に近い条件下で機能する活性化された誘導体の能力を反映する。組織因子および第VIII因子またはIX因子の非存在下で、凝固カスケードの増幅は起こらず、第X因子誘導体の活性化形態のみが、トロンビンの形成、引き続く血塊の形成を可能にする。プロトロンビナーゼ複合体内の活性の研究(参考、実施例5)は、活性化第V因子の添加が、GDX−AVGアナログの活性化形態の触媒活性を部分的に回復させることを示す:これは、現在、その非変異ホモローグ(GDX−IVG)のそれよりも13倍のみ少ない。この効果は、第X因子アナログ(GDX−IFG、GDX−IFR、GDX−SVG、およびGDX−SFR)の他の活性化形態で記録されるものとは遙かに異なる。第VIII因子または第IX因子欠乏血漿の使用は、他の凝固因子とのあり得る干渉、特に、調節機構(アンチトロンビンなど)の効果を研究するのを可能にする。
【0175】
第X因子誘導体の活性化形態の凝血促進効果は、第VIII因子または第IX因子欠乏血漿(DIAGNOSTICA STAGO, Asnieres, France)中の血塊の形成を誘導する能力によって検出される。これらの血漿の1つに組織因子を添加することによって、血塊の形成を誘導するのに十分なトロンビンの形成を引き起こすことが可能であるが、凝固時間は、極端に長く、従来の方法で測定され得ない。従って、反応は、マイクロプレートで行われ、そして血塊形成に続いて、濁度測定され、時間の関数として405nmでの光学密度を記録する(波長がどうであれ、吸光度は濁度と共に増加する)。血塊形成(これは、比較的突然である)は、いくらか長い潜伏期間が先にある:代表的に、濁度測定は、時間の関数としてS字状曲線に従う。最大濁度の50%に達するのに必要な時間は、従来の凝固アッセイの「凝固時間」の代表である。
【0176】
実際には、100μlの第VIII因子または第IX因子欠乏血漿が、25℃でマイクロプレート中でプレインキュベートされ、そして反応は、20mM CaClおよび200nMの活性化第X因子誘導体を含む100μlのキネティックス緩衝液を添加することによって引き起こされる。時間の関数として、405nmでの吸光度におけるバリエーションが、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して記録される。時間の関数として、405nmでの吸光度のバリエーションをプロットすることによって、曲線を得、これは、非線形回帰によって、「ボルツマン等式7」を使用して、凝固時間(V50)を推定することが可能となる:
405=Amin+(Amax−Amin)/(1+e((V50−t)/スロープ)) (等式7)
ここで、A405は、時間tでの405nmでの吸光度を示し、Aminは、405nmでの最初の吸光度を示し、そしてAmaxは、405nmでの最終吸光度を示す(血塊の形成後)。スロープは、血塊の形成における上昇する相の比較的簡単な性質を考慮するパラメーターである(潜伏期間が減少するにつれて、スロープは増加する)。
【0177】
得られる結果を表XIに要約する。
【0178】
第X因子誘導体の1つの活性化形態の添加後の第VIII因子欠乏(−第VIII因子)または第IX因子欠乏(−第IX因子)血漿の凝固時間(分)が、標準誤差と同様に示される(得られた値の割合として表される)。50分を超えると、凝固時間についての値は、もはや信頼可能でない(>50)。
【0179】
【表11】

GD−FX誘導体の活性化形態およびGDX−IVG誘導体の活性化形態は、顕著な凝血促進効果を有する。
【0180】
さらに、GDX−AVG誘導体の活性化形態の可能性が確認される:第VIII因子または第IX因子欠乏血漿において、この誘導体は、GD−FX誘導体の活性化形態と同じくらい多く凝固時間を短くする。同じことは、GDX−IFG誘導体の活性化形態について当てはまらない:第IX欠乏血漿中のその凝血促進活性は検出可能であるが、この誘導体は、第VIII因子欠乏血漿中で50分よりも短いうちに、血塊の形成を誘導し得るままである。検出可能な触媒活性を欠く第X因子誘導体の活性化形態(GDX−SFR、GDX−SVGおよびGDX−IFR)は、検出可能な凝血促進活性を有さない。
【0181】
GDX−AVG誘導体(活性化されていない)の凝血促進効果:
組織因子なしで、血漿が血友病患者のものであるかに関わらず、血塊形成はない:凝血カスケードは開始されない。他方、正常な血漿は、組織因子の添加後、非常に迅速に凝固する;血友病患者の血漿はまた、最終的に凝固する。なぜなら、内因性凝固複合体(組織因子と第VIIa因子との間で形成される)は、第X因子を活性化し、これは、プロトロンビナーゼ複合体(活性化第V因子と形成される)内で、プロトロンビンをトロンビンに活性化し、これは、最終的に、十分なフィブリノゲンを切断して血塊を形成する。反応は、テナーゼ複合体を含む増幅がないので、はるかにゆっくりである。トロンビン活性化可能な第X因子の存在は、トロンビン生成の増幅を確立すべきである:2つのアクチベーターが利用可能である:以前のように第VIIa因子と組織因子の複合体だけでなく、トロンビン。トロンビン濃度が増加するにつれて、より多くの第X因子誘導体が活性化され、これは、より多くのトロンビンを生成し、従って増幅を生成する。
【0182】
Glaドメインを欠く第X因子誘導体は、本当は、その抗血友病可能性を試験することを可能にしない。なぜなら、その凝血促進作用は、いずれの場合においても制限されるからである。しかし、このような誘導体の存在下で、トロンビン形成の増幅が組織因子の添加後に生じるか否かを証明することは可能である。
【0183】
第X因子誘導体(活性化されていない)の凝血促進効果を検出するために使用される方法は、それらの活性化形態の活性を検出するために記載される方法に非常に類似している。主な違いは、反応が、組織因子およびホスホリピドの混合物の添加によって開始されることである(これらの誘導体は予め活性化されていないという事実に加えて)。活性化形態の研究に関して、反応は25℃でマイクロプレート中で行われ、血塊形成に続き、濁度測定、時間の関数として405nmでの光学濃度を記録する。これは、研究される第VIII因子または第IX因子欠乏血漿の凝固時間を短くする第X因子誘導体の能力である。
【0184】
実際には、第X因子誘導体(0.5μM)が、100μlの第VIII因子または第IX因子欠乏血漿に添加され、反応は、20mM CaClおよびホスホリピドと混合した2pMの組換え組織因子(INNOVIN, DADE BEHRING, La Defense, France)を含む100μlのキネティックス緩衝液の添加によって引き起こされる。時間の関数としての405nmでの吸光度におけるバリエーションは、MR5000マイクロプレートリーダーを使用して記録され、そして最大の濁度の半分に達するのに必要とされる時間を、第X因子誘導体の活性化形態の凝血促進活性を研究するための上に記載されるような等式7を使用して非線形回帰によって推定する。
【0185】
GDX−AVG誘導体(チモーゲン)で得られた結果を図4に示す。これは、この誘導体(○)(活性化されていない)の凝血促進効果を、第VIII因子欠乏(4A)または第IX因子欠乏(4B)血漿中のGD−FX誘導体(□)(活性化されていない)と比較する。GDX−AVG誘導体の存在下で、凝固時間は、GD−FX誘導体の存在下よりもより短い(第VIII因子欠乏血漿と第IX因子欠乏血漿の両方で)。従って、GDX−AVG誘導体のチモーゲン形態は、Glaドメインの非存在およびその非変異ホモローグと比較したその減少した触媒活性にかかわらず、明らかに凝血促進活性を有する。GDX−AVG誘導体は、GD−FX誘導体よりもより活性であるという事実は、トロンビン生成の増幅が、GDX−AVGの存在下で確かに生じていることを示唆する。実際に、GD−FX誘導体と比較して、GDX−AVG誘導体は、プロトロンビナーゼ複合体内で13倍活性が低く、ここで、それは、血友病患者由来の血漿において少なくとも2倍活性である:従って、血塊形成の間に、GDX−AVG誘導体の活性化形態よりも少なくとも26倍の生成が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1は、外因性経路を介するかまたは内因性経路を介する凝固の主要な酵素反応、およびトロンビン形成の自己増幅機構(破線矢印によって示す)を概略的に示す。
【図2】なし
【図3】なし
【図4】なし
【配列表フリーテキスト】
【0187】
配列番号1の人工配列は第X因子活性化部位である。
配列番号2〜6は、人工配列である。
配列番号7〜12の人工配列は第X因子活性化部位の改変体である。
配列番号13〜30の人工配列はPCRプライマーである。
配列番号31の人工配列は第X因子活性化部位の改変体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビン切断可能な配列が配列Pro−Arg−Alaであることを特徴とする、ネイティブな第X因子の活性化部位の配列Thr−Arg−Ileがトロンビン切断可能な配列で置換された第X因子アナログ。
【請求項2】
ネイティブな第X因子の活性化部位の配列Leu−Thr−Arg−Ile−Val−Glyが、配列P−Pro−Arg−Ala−P’−P’(配列番号31)で置換され、ここで、Pが、Pro、AspまたはGluを除く任意のアミノ酸を示し、P’がVal、Ile、LeuまたはPheを示し、P’がGly、AsnまたはHisを示すことを特徴とする、請求項1に記載の第X因子アナログ。
【請求項3】
ネイティブな第X因子の活性化部位の配列Leu−Thr−Arg−Ile−Val−Glyが配列Val−Pro−Arg−Ala−Val−Glyで置換されることを特徴とする、請求項2に記載の第X因子アナログ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の第X因子アナログのトロンビンによる切断によって得られ得る第Xa因子アナログ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の第X因子アナログをコードするか、または請求項4に記載の第Xa因子アナログをコードする、核酸分子。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸分子を含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項7】
請求項5に記載の核酸分子で遺伝的形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
凝血促進性医薬品を得るための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の第X因子アナログ、請求項4に記載の第Xa因子アナログ、または請求項5に記載の核酸分子の使用。
【請求項9】
前記医薬品が、第VIII因子、第IX因子または第XI因子における欠乏に由来する凝固障害の処置について意図される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記凝固障害が血友病タイプAまたは血友病タイプBであることを特徴とする、請求項9に記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−507806(P2006−507806A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−518770(P2004−518770)
【出願日】平成15年6月30日(2003.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007793
【国際公開番号】WO2004/005347
【国際公開日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【出願人】(501081362)アンスティテュ ナシオナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル (3)
【Fターム(参考)】