説明

トンネル周縁部の掘削方法

【課題】放電用電極の基端部と支保工とが接触した状態で放電を行うと支保工に高電圧が流れて危険である。
【解決手段】トンネル掘削対象部に掘削進行方向に延長する放電用孔4を形成し、放電用孔内に放電用電極を設けてこの放電用電極の放電部での放電により衝撃波を発生させ、この衝撃波でトンネル掘削対象部を破砕してトンネルを掘削していくに際し、掘削の終了した孔の周縁の内側に地山を支える支保工93を設け、その支保工より掘削進行方向側に位置する切羽面94の周縁部96に放電用孔を形成し、この放電用孔内に設置して放電を行う放電用電極として折り曲げ可能な放電用電極1を用い、この放電用電極を折り曲げて支保工より離した状態としてから放電用孔内で当該放電用電極による放電を行なってトンネル周縁部を破砕したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電破砕方法によってトンネル周縁部を破砕してトンネルを掘削する場合に、安全に施工できるトンネル掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石やコンクリート等の破壊対象物を破砕するために放電破砕装置を用いた放電破砕方法が知られている。即ち、図7のように、破壊対象物60に予め放電用孔61を形成し、この放電用孔61内に水などの電解液63を注入してこの電解液63中に放電破砕装置50Aの放電用電極70を挿入し、放電用電極70に8kV〜20kVの高電圧を印加して放電を行なわせる。この放電エネルギーにより衝撃波が発生し、この衝撃波で放電用孔61の周囲を破砕することで、破壊対象物60を破砕する。放電破砕装置50Aは、大容量(例えば約500kJ)のコンデンサ82及びスイッチ83,84を備えた回路で構成されたパルスパワー源80と、コンデンサ82の一方の極82aに接続されるとともにコンデンサ82の他方の極82bにスイッチ83を介して接続された発電機等の電源部81と、コンデンサ82の一方の極82aに接続された一方電極とコンデンサ82の他方の極82bにスイッチ84を介して接続された他方電極とこれら一方電極と他方電極とを絶縁する絶縁体とで形成された放電用電極70とを備える。図示しないが、パルスパワー源80の回路は接地(アース)されている。放電用電極70は、例えば、+電極のような一方電極としての棒状の内部導体73と、内部導体73の外周囲を被覆する筒状の絶縁体74と、絶縁体74の外周囲に設けられた−電極のような他方電極としての外部導体75とにより構成される。すなわち、放電用電極70は、内部導体73と絶縁体74と外部導体75とが同軸状に配置された構成の同軸電極である。外部導体75は、内部導体73の中心線に沿った方向に間隔を隔てて設けられた複数の浮遊電極76;76・・・を構成する。浮遊電極とは、電源側と電気的に絶縁された電極のことである。絶縁体74の先端74tより突出して露出する内部導体73の先端部73tとこの先端部73tに最も近い浮遊電極76の先端部76tとで放電を生じさせる先端側放電ギャップ77が形成され、互いに対向する浮遊電極76同士の端部76sと端部76sとで放電を生じさせる中間側放電ギャップ78が形成される。中間側放電ギャップ78は複数形成される。先端側放電ギャップ77と複数の中間側放電ギャップ78とにより放電部79が形成される。スイッチ84及びスイッチ83の非導通の状態で、破壊対象物60の放電用孔61内の電解液63中に放電用電極70を挿入した後に、スイッチ83を導通してコンデンサ82に電源部81からの電荷を蓄積させる。そしてスイッチ84を導通して、コンデンサ82に蓄えられた電荷がケーブル71及びコネクタ72を介して放電用電極70に印加されると、先端側放電ギャップ77で放電を生じ、この放電エネルギーによって衝撃波を発生する。同様に、複数の中間側放電ギャップ78で放電を生じ、この放電エネルギーによって衝撃波を発生する。これら衝撃波により破壊対象物60が破砕する。
【特許文献1】特開2003−311175号公報
【特許文献2】特開2003−320268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した放電破砕方法を使用してトンネルを掘削することが考えられる。つまり、地山におけるトンネル掘削対象部に掘削進行方向に延長する放電用孔を形成し、放電用孔内に設置した放電用電極に高電圧を印加して発生させた放電により衝撃波を発生させ、その衝撃波でトンネル掘削対象部を破砕してトンネルを掘削することが考えられる。この場合、まず、トンネル掘削対象部の表面となる地山の地肌面に放電用孔を形成し、上述した放電破砕方法を使用してトンネルの孔を掘削する。その後、図8のように、掘削した孔90の周縁91の内側に地山92を支える支保工93を設ける。その支保工93より掘削進行方向X側に位置するトンネル掘削対象部の表面となる切羽面94から掘削進行方向Xに延長する複数の放電用孔95を形成し、この放電用孔95内に上述の真直ぐな丸棒状に形成された同軸構成の放電用電極70を設けて放電を行うことで切羽面94を破砕して孔90を掘進していくことが考えられる。この場合、切羽面94の周縁部96を破砕するために切羽面94の周縁部96にも放電用孔95を形成する。切羽面94の周縁部96とは、支保工93の後端部97と対向する切羽面94内の面領域(図4における切羽面94の周縁96aと想像線96b(図3の支保工93の下縁位置93tに対応する線)との間の領域)を言う。一般に、切羽面94における周縁部96の破砕の後にトンネル周縁部の余掘りを行うことでトンネルの断面径を設計に合わせるためには、トンネル周縁の設計位置Cより内側にくるように放電用孔95を形成する必要がある。このため、切羽面94の周縁部96に形成する放電用孔95の差角αを小さくすることが望ましい。尚、差角αとは、図8に示すように、トンネルの掘削進行方向Xに沿う基準線Aと放電用孔95の孔の進行方向に沿う線Bとのなす角度、すなわち、基準線Aに対する線Bの傾き角度である。しかしながら、切羽面94の周縁部96の破砕において上述した真直ぐな丸棒状に形成された同軸構成の放電用電極70を用いる場合に、切羽面94の周縁部96に形成する放電用孔95の差角αを小さく設定する(例えば、差角αを0°〜10°の角度に設定する)と、放電用孔95内に挿入した放電用電極70の基端部98が鋼製の支保工93に接触してしまう。放電用電極70の基端部98と支保工93とが接触した状態で放電を行うと支保工93に高電圧が流れて危険である。上述した放電用電極70の基端部98を曲げて使用することができれば、放電用電極70の基端部98と支保工93との接触を回避することも可能であるが、当該放電用電極70は、基端部98を曲げて使用するような使い方は考慮されておらず、基端部98を曲げることが困難であり、基端部98を曲げることができたとしても放電用電極70自体が壊れてしまって正常な放電を行えない。従って上述した放電用電極70を用いて放電用電極70と支保工93との接触を防止するためには、図8に示すように、切羽面94の周縁部96に形成する放電用孔96の差角αを大きく設定する必要がある(例えば、差角αを10°より大きい角度に設定する)。しかしながら、放電用孔96の差角αを大きく設定する場合、放電用孔95の掘削進行方向Xに延長する孔の長さを長くすると、放電用孔95の孔の先端部(底部)95tがトンネル周縁の設計位置Cより外側にはみだしてしまい、このように差角αを大きく設定して孔の長さを長く形成した放電用孔95内に放電用電極70を入れて放電を行って切羽面94の周縁部96を破砕するとトンネルの孔90の径が大きくなってしまい、設計より大きな断面径のトンネルとなってしまう。これを防ぐために、放電用孔96の差角αを大きく設定する場合において、放電用孔95の掘削進行方向Xに延長する孔の長さを短くすることが考えられる。しかし、この場合、放電用孔95を形成する回数が多くなり、作業効率が悪くなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明に係るトンネル周縁部の破砕方法は、トンネル掘削対象部に掘削進行方向に延長する放電用孔を形成し、放電用孔内に放電用電極を設けてこの放電用電極の放電部での放電により衝撃波を発生させ、この衝撃波でトンネル掘削対象部を破砕してトンネルを掘削していくに際し、掘削の終了した孔の周縁の内側に地山を支える支保工を設け、その支保工より掘削進行方向側に位置する切羽面の周縁部に放電用孔を形成し、この放電用孔内に設置して放電を行う放電用電極として折り曲げ可能な放電用電極を用い、この放電用電極を折り曲げて支保工より離した状態としてから放電用孔内で当該放電用電極による放電を行なってトンネル周縁部を破砕したことを特徴とする。切羽面の周縁部に形成する放電用孔の差角を0°〜10に設定したり、折り曲げ可能な放電用電極としてワイヤにより形成されたワイヤ電極を用い、ワイヤ電極は、ワイヤの一端がワイヤの他端の方向に折曲されてワイヤの両端部が絶縁保持部材により互いに絶縁状態に保持され、かつ、ワイヤの切断による切断面と切断面とを対向させて放電を生じさせる放電ギャップが形成されたことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のトンネル掘削方法によれば、放電用孔に挿入される放電用電極の基端部を曲げることによって放電用電極の基端部と鋼製の支保工との接触を防止できるので、トンネルを安全に施工できる。また、切羽面の周縁部に形成する放電用孔の差角を小さく設定したとしても、放電用電極の基端部を曲げることによって放電用電極の基端部と鋼製の支保工との接触を防止できるので、トンネルを安全に施工できる。よって、放電用孔の差角を小さく設定できることによって、放電用孔の孔の先端部がトンネル周縁の設計位置より外側に大きくはみだすことがないように放電用孔の長さを長くすることが可能となり、設計に合った断面径のトンネルを効率的に施工できる。即ち、設計に合った断面径のトンネルを安全かつ効率的に施工できる。特に、切羽面の周縁部に形成する放電用孔の差角を0°〜10°に設定したことにより、放電用孔の孔の先端部がトンネル周縁の設計位置より外側に大きくはみだすことがないように放電用孔の長さを長くできるという効果をより具体的に実現できるようになり、設計に合った断面径のトンネルを効率的に施工できるという効果をより具体的に実現できる。折り曲げ可能な放電用電極としてワイヤ電極を用いることで、折り曲げが容易で、かつ、確実に放電を行わせることができ、作業、破砕を効率的に行え、トンネルを効率的に施工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1〜図5は本発明の最良の形態を示し、図1はトンネル周縁部の掘削方法を示し、図2は地山のトンネル掘削対象部に形成される放電用孔及び自由面の配置を示し、図3は図1のA−A断面を示し、図4は図1のB−B断面を示し、図5はトンネル周縁部の掘削方法に用いる放電用電極としてのワイヤ電極を示す。尚、図7;8の従来例と同一又は相当部分は同一符号を付して詳説を省略する。
【0007】
本形態によるトンネル周縁部の掘削方法は、図2に示すように、地山92におけるトンネル掘削対象部2の表面2Aからトンネルの掘削進行方向X(図1参照)及びこの掘削進行方向Xと直交する方向に延長する自由面3を形成するとともに掘削進行方向Xに延長する放電用孔4を形成し、放電用孔4内に放電用電極を設置して放電を行ってトンネル掘削対象部2を破砕することでトンネルを掘削して行く。トンネル掘削対象部2は、図2において想像線(二点鎖線)Dで囲まれた地山92の内側領域であって、トンネル掘削対象部2の表面2Aは、掘削開始の際には地山92の地肌面に設定される面であり、掘削進行後は切羽面94である。切羽とは、トンネルの掘削している孔90の最先端箇所である。掘削進行方向Xと直交する方向とは、例えばトンネル掘削対象部2の表面2Aが掘削進行方向Xと直交する面(トンネル断面)だとすれば、当該表面2Aに沿った方向である。
【0008】
自由面3は、トンネル掘削対象部2に表面2Aから掘削進行方向Xに延長する複数の孔5を掘削進行方向Xと直交する方向に数珠繋ぎのように並べて形成することで複数の孔5を互いに連続させた連続削孔溝6の内面により形成される。孔5や放電用孔4は例えば断面円形の筒状の孔である。自由面3を形成する連続削孔溝6は、例えば、本出願人により出願された特許出願である特願2001−133097号(特開2002−327589号公報)に記載された図外の切削機械としての穿孔機を用いて形成する。つまり、案内ロッドと先端に岩盤を削る穿孔ビットを有する穿孔ロッドとを備えた穿孔機を用いて連続削孔溝6を形成する。まず、トンネル掘削対象部2におけるトンネル断面の内側に対応する箇所の上方側から穿孔ビットで最初の孔5a(5)を形成した後、最初の孔5a内に案内ロッドを挿入して穿孔ビットで最初の孔5aの下方(地面8側)に最初の孔5aと連続する孔5b(5)を形成する。つまり、穿孔ロッド及び穿孔ビットを駆動手段で回転及び前後駆動させることで穿孔ロッドが地山92の岩盤を削って孔5を形成する。穿孔機の穿孔ロッドと案内ロッドとの間には超硬チップが設けられており、上下に並ぶ孔5aと孔5bとの間の地山1は超硬チップにより削られて、この削られた連結孔部分7により孔5aと孔5bの内面同士が繋がる。以後、同様に、下方に向けて順番に孔5を形成していくことで、トンネル掘削対象部2の上下方向に設けられた複数の孔5が連結孔部分7により数珠繋ぎのように繋がれた連続削孔溝6が形成される。この連続削孔溝6の内面が自由面3として機能する。
【0009】
放電用孔4は、上述した穿孔機の案内ロッドを取り外して残った穿孔ロッドの先端の穿孔ビットを駆動して形成したり、専用の穿孔機を用いて形成する。トンネル掘削対象部2の表面2Aの中心側に形成される複数の放電用孔4は任意の間隔を隔てて形成される。トンネル掘削対象部2の表面2Aの周縁(図2の想像線D及び地面8に近い部分)に沿って形成される複数の放電用孔4は上述した任意の間隔より狭い所定の間隔を隔てて形成される。
【0010】
まず、トンネル掘削対象部2の表面2Aである地山92の地肌面を破砕する。即ち、地山92の地肌面に形成した放電用孔4内に放電用電極を設けてこの放電用電極にパルスパワー源80から8kV〜20kVの高電圧を印加する。これにより、放電用電極の放電部で放電を生じ、この放電エネルギーによって衝撃波を発生し、衝撃波で地山92におけるトンネル掘削対象部2の表面である地肌の岩盤を破砕して孔90を掘削する。本形態では、自由面3は連続削孔による溝6内の空間と接している溝6の内面により形成され、この自由面3を形成する溝6により掘削対象部2の岩盤が縁切りされる。よって、放電用孔4と自由面3との間の岩盤が岩盤によって拘束されていない溝6のある側に動きやすくなるので、衝撃波によって放電用孔4と自由面3との間の岩盤にひび割れ(亀裂)が生じやすくなり、さらには、衝撃波が自由面3で反射されて戻ることに伴う引張力によっても放電用孔4と自由面3との間の岩盤にひび割れが生じやすくなることから、放電用孔4と自由面3との間の岩盤がひび割れにより破砕したり、あるいは、ひび割れた部分を小型のブレーカなどの削岩機を用いて破砕することで、横坑を効率的に掘削できる。一方、自由面3を形成しない場合には、衝撃波は放電用孔4の周りから外側に広がって行く過程で徐々に減衰するので、衝撃波によって岩盤を効率的に破砕できない。また、本形態では、掘削対象部2の表面2Aの中心に近い部位に形成された放電用孔4から表面2Aの中心より遠い位置の放電用孔4という順番で放電を行う。すなわち、まず、図2のように2つの溝6;6で挟まれた掘削対象部2の表面2Aの中心に近い部位に形成された放電用孔4内で放電を行うことで発生させた衝撃波により放電用孔4と溝6の自由面3との間の岩盤を破砕する。これにより、2つの溝6;6で挟まれた掘削対象部2の中央部を破砕できる。この2つの溝6;6で挟まれた掘削対象部2の中央部が破砕されると、2つの溝6;6の間に図外の大きな孔が形成されて、溝6;6の内面が図外の大きな孔の内面の一部となり、この図外の孔の内面で大きな面積の自由面が形成されることになる。そして、当該図外の孔の周囲にある放電用孔4内で放電を行って当該放電用孔4と自由面となる中央の孔の内面との間の岩盤を破砕することにより掘削対象部2の中央の周囲を徐々に破砕していき、最後に、掘削対象部2における横坑の周縁部近傍に形成された放電用孔4内で放電を行って横坑の周縁部の岩盤を破砕することで、掘削対象部2を掘削できる。このように、掘削対象部2の表面2Aの中心に近い部位に形成された放電用孔4から表面2Aの中心より遠い位置の放電用孔4という順番で放電を行うようにすることで、横坑掘削対象部2の中央に図外の大きな孔の内面による自由面を形成でき、この自由面を利用して掘削対象部2における横坑の周縁部側を効率的に破砕できる。トンネル掘削対象部2の表面である地山92の地肌面の破砕に用いる放電用電極としては上述した放電用電極70を用いてもよいし、後述するワイヤ電極1を用いてもよい。
【0011】
その後、図1のように、掘削した孔90の周縁91に沿った内側に地山92を支えるための支保工93を構築する。図3に示すように、支保工93は、上部が湾曲形状に形成された2本の鋼支柱35の上端同士をボルトナットなどによる固定具35Aによって接合してアーチ状に形成された支保工柱36が、掘削進行方向Xに沿って所定の間隔を隔てて順次設けられ、これら支保工柱36が鋼製の連結パイプ37により互いに連結され、連結パイプ37で繋がれた支保工柱36と支保工柱36との間の外側に図外の土留材を設けてなる。支保工柱36の鋼支柱35はH形鋼やI形鋼のような鋼材よりなる。連結パイプ37の両端部はボルト部38に形成され、連結パイプ37のボルト部38が支保工柱36に形成された図外のボルト挿通孔に通されてナット39により支保工柱36に固定される。すなわち、掘削が進むにつれて孔90の周縁91の内側において切羽面94に近い場所まで支保工93を構築するとともに切羽面94の中央部及び周縁部96に放電用孔4を形成する。切羽面94の周縁部96とは、支保工93の後端部97と対向する切羽面94内の面領域(図4における切羽面94の周縁96aと想像線96b(図3の支保工93の下縁位置93tに対応する線)との間の領域)を言う。
【0012】
本形態では、掘削した孔90の周縁91の内側に支保工93を形成した後に、この支保工93より掘削進行方向X側に位置する切羽面94の周縁部96に形成する複数の放電用孔4A(4)(図4参照)の差角αを、0°〜10°、さらに好ましくは、0°〜5°に設定する(図1参照)。そして、当該放電用孔4A内に挿入して放電を行う放電用電極としてワイヤ電極1を用いた。すなわち、切羽面94の周縁部96に形成する放電用孔4Aの差角αを小さく設定するとともにこの切羽面94の周縁部96に形成した放電用孔4A内での放電に用いる折り曲げ可能な放電用電極としてワイヤ電極1を用いる。
【0013】
図5に示すように、ワイヤ電極1は、1本のワイヤ11(導体線棒)を中間点12を基準としてワイヤ11の一端13をワイヤ11の他端14の方向に折り返した後に、一直線状に対向するワイヤ11の一端側15と他端側16とを複数箇所で絶縁保持部材17により互いに保持してから、ワイヤ11の一端側15や他端側16の一部を切断することで放電ギャップ18が形成された電極本体19と、電極本体19の少なくとも放電ギャップ18の形成された部分を収納するとともに内部に電解液63が充填されるカートリッジ20とを備えた構成である。ワイヤ11としては、例えば鉄,銅,貴金属,合金等の導体により直径5mm程度に形成されたワイヤを用いる。ワイヤ11の一端側15(あるいは他端側16)が複数箇所で切断され、切断面21と切断面21とを対向させて放電を生じさせる上記放電ギャップ18が複数形成される。放電ギャップ18は数mm程度に設定される。カートリッジ20は、ゴムやプラスチック等で形成された収納体であり、上部に封止部22を有する。すなわち、ワイヤ電極1は、電解液63及び電極本体19の放電ギャップ18の部分をカートリッジ20の内部に収納した後に封止部22を図外の封止材での水密に封止して、電解液63がカートリッジ20の外部に漏れないように構成されたものである。ワイヤ電極1の後端、即ち、ワイヤ11の一端13と他端14は、互いに電気的に絶縁状態に電極側コネクタ25に接続され、かつ、機械的に電極側コネクタ25により保持される。この電極側コネクタ25に着脱可能に接続される接続コネクタ26にはパルスパワー源80からの正極線27及び負極線28が接続される。従って、電極側コネクタ25と接続コネクタ26とを互いに電気的に接続することで、例えば、ワイヤ21の一端13が正極線27に接続され、ワイヤ21の他端14が負極線28に接続される。正極線27と負極線28は同軸ケーブルで形成してもよい。パルスパワー源80には電源ケーブル29を介して電源部81が接続される。
【0014】
従って、図1に示すように、ワイヤ電極1の基端部30を折り曲げておいてワイヤ電極1の先端31側を切羽面94の周縁部96に形成した放電用孔4A内に挿入し、ワイヤ電極1の基端部30が支保工93と接触しないように設定した後に放電する。このようにすることで、切羽面94の周縁部96に形成する放電用孔4Aの差角αを小さく設定したとしても、ワイヤ電極1の基端部30を曲げることによってワイヤ電極1の基端部30と鋼製の支保工93との接触を防止できるので、トンネルを安全に施工できる。また、放電用孔4Aの差角αを小さく設定できることによって、放電用孔4Aの孔の先端部4tがトンネル周縁の設計位置Cより外側にはみだすことがないように放電用孔4Aの長さを長くすることが可能となり、設計に合った断面径のトンネルを効率的に施工できる。特に、本形態では、切羽面94の周縁部96に形成する放電用孔4Aの差角αを0°〜10°に設定したことにより、放電用孔4Aの孔の先端部4tがトンネル周縁の設計位置Cより外側にはみだすことがないように放電用孔4Aの長さを長くできるという効果をより具体的に実現できるようになる。よって、本形態によれば、設計に合った断面径のトンネルを効率的に安全に施工できる。また、差角αを0°に近くするほど放電用孔4Aの掘削進行方向Xへの孔の長さを長くできるので、作業効率を向上でき、しかも、トンネル周縁部の余掘り部分を残すことができて、トンネルの孔90の径を正確に施工できる。また、折り曲げ可能な放電用電極としてワイヤ電極1を用いたことで、折り曲げが容易で、かつ、放電ギャップ18に影響を与えずに電極本体19を折り曲げることができるので、確実に放電を行わせることができ、作業、破砕を効率的に行え、トンネルを効率的に施工できる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
切羽面94の周縁部96に形成した放電用孔4A内に挿入して放電を行わせる放電用電極として、図6に示すようなワイヤ電極1Aを用いても良い。以下、図6によりワイヤ電極1Aを説明するが、図5のワイヤ電極1と同一又は相当部分は同一符号を付して詳説を省略する。このワイヤ電極1Aは、1本のワイヤ11を中間点12を基準としてワイヤ11の一端13をワイヤ11の他端14の方向に折り返し、中間点12の折曲部位を境としたワイヤ11の一端側15と他端側16とを複数の箇所で交差させる。複数の交差点31においてワイヤ11の一端側15と他端側16とが絶縁保持部材32により互いに絶縁保持された電極本体32を備えたものである。絶縁保持部材32間におけるワイヤ11の一端側15や他端側16の一部を切断することで放電ギャップ18が形成される。交差点31のワイヤ11の一端側15と他端側16とを絶縁接着剤で絶縁接着保持してもよい。すなわち、ワイヤ電極1Aは、電解液63及び電極本体32の放電ギャップ18の部分をカートリッジ20の内部に収納した後に封止部22を図外の封止材での水密に封止して、電解液63がカートリッジ20の外部に漏れないように構成されたものである。折り曲げ可能な放電用電極として、上述したワイヤ電極1;1Aとは形態の異なるワイヤ電極、あるいは、ワイヤ電極以外で基端部が折り曲げ可能に構成された電極を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】トンネル周縁部の掘削方法を示す断面図(最良の形態)。
【図2】トンネル掘削対象部に形成した放電用孔及び衝撃波反射面の配置図(最良の形態)。
【図3】図1のA−A断面図(最良の形態)。
【図4】図1のB−B断面図(最良の形態)。
【図5】トンネル周縁部の掘削方法に用いる放電用電極としてのワイヤ電極を示す構成図(最良の形態)。
【図6】トンネル周縁部の掘削方法に用いる放電用電極としての他のワイヤ電極を示す構成図。
【図7】従来の放電破砕装置及び電極を示す図。
【図8】従来の放電破砕方法を用いて考えられるトンネル周縁部の掘削方法を示す断面図。
【符号の説明】
【0017】
1 ワイヤ電極、2 トンネル掘削対象部、2A トンネル掘削対象部の表面、
4A(4) 放電用孔、11 ワイヤ、18 放電ギャップ、92 地山、
93 支保工、94 切羽面、96 切羽面の周縁部、α 差角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削対象部に掘削進行方向に延長する放電用孔を形成し、放電用孔内に放電用電極を設けてこの放電用電極の放電部での放電により衝撃波を発生させ、この衝撃波でトンネル掘削対象部を破砕してトンネルを掘削していくに際し、掘削の終了した孔の周縁の内側に地山を支える支保工を設け、その支保工より掘削進行方向側に位置する切羽面の周縁部に放電用孔を形成し、この放電用孔内に設置して放電を行う放電用電極として折り曲げ可能な放電用電極を用い、この放電用電極を折り曲げて支保工より離した状態としてから放電用孔内で当該放電用電極による放電を行なってトンネル周縁部を破砕したことを特徴とするトンネル周縁部の掘削方法。
【請求項2】
切羽面の周縁部に形成する放電用孔の差角を0°〜10に設定したことを特徴とする請求項1に記載のトンネル周縁部の掘削方法。
【請求項3】
折り曲げ可能な放電用電極としてワイヤにより形成されたワイヤ電極を用い、ワイヤ電極は、ワイヤの一端がワイヤの他端の方向に折曲されてワイヤの両端部が絶縁保持部材により互いに絶縁状態に保持され、かつ、ワイヤの切断による切断面と切断面とを対向させて放電を生じさせる放電ギャップが形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトンネル周縁部の掘削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−154514(P2007−154514A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350992(P2005−350992)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(502281127)株式会社ファテック (83)
【Fターム(参考)】