説明

トンネル構築方法

【課題】 トンネル軸方向の残留推力を解放し、リング間摩擦を縁切りしてセグメントを移動させることができるトンネル構築方法を提供すること。
【解決手段】 地山1を掘削しトンネル3を形成する。次に、拡幅予定位置の拡幅用セグメント13aとその前方の可とうセグメント15aとを挟み込むように配置された調整用セグメント11aの内周面に、軸力伝達部材として、補強用リブ17と妻板19とを具備する伝達部材18を設置する。また、対となる伝達部材18の妻板19の間に、支保工23とジャッキ21とからなる軸方向部材である残留推力受替え機構25を設置する。その後、可とうセグメント15aにより縁を切って拡幅用セグメント13aにかかる軸方向力を解放しつつ、ジャッキ21をトンネル3の軸方向に伸縮させて軸方向力を残留推力受替え機構25で受け替え、拡幅用セグメント13aをトンネル3の外周方向に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路トンネル、鉄道トンネル、共同溝トンネルなどを構築する際に、通常部以上の断面を有する拡幅部を形成する場合や、セグメントの一部を撤去して合流部等を形成する場合があった。
【0003】
拡幅部を有するトンネルを構築するには、(1)余掘り部を有する坑内に拡幅用セグメントリングを設置し、シールド機が通過した後、拡幅用セグメントリングを拡幅する方法(例えば、特許文献1参照)や、(2)余掘り部を設けて地山を掘削し、シールド機のスキンプレートと、シールド機の内部に設置した拡幅用セグメントリングとを同時に拡幅する方法(例えば、特許文献2参照)があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−143917号公報
【特許文献2】特開2004−270356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トンネル軸方向力が大きな場合(トンネル断面が大きい、トンネルの深度が深い、高水圧下にある場合など)には、トンネル軸方向の残留推力が大きいため、セグメントを撤去する場合や拡幅させる際に、リング間の摩擦力が非常に大きくなる問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、トンネル軸方向の残留推力を解放し、リング間摩擦を縁切りしてセグメントを移動させることができるトンネル構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための本発明は、トンネルの内周面に軸力伝達部材を設置する工程(a)と、前記軸力伝達部材に、前記トンネルの軸方向に配置される支保工と、前記支保工の端部に配置され、前記トンネルの軸方向に伸縮可能なジャッキとからなる軸方向部材を設置する工程(b)と、前記トンネルを構成するセグメントのうち、移動予定のセグメントにかかる軸方向力を解放しつつ、前記ジャッキを伸縮させて前記軸方向力を前記軸方向部材で受け替える工程(c)と、前記移動予定のセグメントを移動させる工程(d)と、を具備することを特徴とするトンネル構築方法である。
【0008】
移動予定のセグメントとは、拡幅用セグメントや、撤去されるセグメントである。工程(d)では、移動予定のセグメントを、トンネルの外周方向に移動させる、または、撤去する。
【0009】
軸力伝達部材には、例えば、以下の3種類のものが用いられる。
第1の軸力伝達部材は、移動予定のセグメント以外の所定のセグメントの内周面に固定された補強用リブと、補強用リブに固定された妻板とを具備する少なくとも1対の伝達部材からなる。第1の軸力伝達部材を用いる場合には、工程(b)で、軸方向部材の一端を対となる一方の伝達部材の妻板に対向させ、軸方向部材の他端を他方の伝達部材の妻板に対向させる。第1の軸力伝達部材は、シールド機の通過後に移動予定のセグメントを移動させる場合に適用される。
【0010】
第2の軸力伝達部材は、移動予定のセグメント以外の所定のセグメントの内周面に固定された補強用リブと、補強用リブに固定された妻板とを具備する少なくとも1つの伝達部材からなる。第2の軸力伝達部材を用いる場合には、工程(b)で、軸方向部材の一端を妻板に対向させ、軸方向部材の他端をシールド機の構成部材に対向させる。第2の軸力伝達部材は、シールド機のスキンプレートと移動予定のセグメントとを同時に移動させる場合に適用される。
【0011】
第3の軸力伝達部材は、移動予定のセグメント以外の所定のセグメントの内周面に押付けられたグリッパである。第3の軸力伝達部材を用いる場合には、工程(b)で、軸方向部材の一端をグリッパに対向させ、軸方向部材の他端をシールド機の構成部材に対向させる。第3の軸力伝達部材は、シールド機のスキンプレートと移動予定のセグメントとを同時に移動させる場合に適用される。
【0012】
第1から第3の軸力伝達部材を用いて移動予定のセグメントにかかる軸方向力を軸方向部材で受け替える場合には、例えば、移動予定のセグメントと所定のセグメントとの間に可とうセグメントを設ける。そして、工程(c)で、可とうセグメントによって軸方向力を除荷して移動予定のセグメントにかかる軸方向力を解放する。
【0013】
第2または第3の軸力伝達部材を用いて移動予定のセグメントにかかる軸方向力を軸方向部材で受け替える場合には、工程(c)で、シールド機のシールドジャッキと移動予定のセグメントとの縁を切ることにより、移動予定のセグメントにかかる軸方向力を解放してもよい。
【0014】
第1の発明では、必要に応じて、トンネルの外周面と地山との間に地山サポートを設置する。そして、工程(c)で、軸力伝達部材と地山サポートとを介して、軸方向力を地山に伝達する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トンネル軸方向の残留推力を解放し、リング間摩擦を縁切りしてセグメントを移動させることができるトンネル構築方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。第1の実施の形態では、余掘り部を有する坑内に拡幅用セグメントリングを設置し、シールド機が通過した後に拡幅用セグメントリングを拡幅する場合について説明する。
【0017】
図1は、拡幅用セグメント13aを移動させる前のトンネル3の断面図を示す。図1の(a)図はトンネル3の軸方向の断面図を、図1の(b)図はトンネル3の周方向の断面図である。図1の(b)図は、図1の(a)図のA−Aによる断面図である。
【0018】
第1の実施の形態では、まず、シールド機(図示せず)を用いて地山1を掘削し、図1に示すようなトンネル3を形成する。なお、シールド機(図示せず)は、図1の(a)図の矢印Bに示す方向に掘進するものとする。
【0019】
図1の(a)図に示すように、トンネル3では、通常坑5に通常セグメントリング9が設置される。通常セグメントリング9は、複数の通常セグメント9aからなる。また、余掘り部を有する拡幅坑7に拡幅用セグメントリング13が設置される。拡幅用セグメントリング13は、拡幅用セグメント13aを有する。拡幅用セグメント13aは移動予定のセグメントである。
【0020】
トンネル3では、最前部の拡幅用セグメントリング13の前方に、可とうセグメントリング15が設置される。可とうセグメントリング15は、可とうセグメント15aを有する。可とうセグメント15aの詳細な構成については後述する。可とうセグメントリング15の前方、および、最後部の拡幅用セグメントリング13の後方には、調整用補強セグメントリング11が設置される。調整用補強セグメントリング11は、調整用セグメント11aを有する。
【0021】
可とうセグメントリング15、調整用補強セグメントリング11は、通常坑5内に設置される。図1に示すように、拡幅用セグメント13aを移動させる前のトンネル3では、拡幅用セグメントリング13、可とうセグメントリング15、調整用補強セグメントリング11の外径は、通常セグメントリング9とほぼ同じである。
【0022】
通常坑5の坑壁とトンネル3の外周面との間には、充填材27が充填される。拡幅坑7の坑壁とトンネル3の外周面との間には、必要に応じて充填材27が充填される。拡幅坑7とトンネル3の外周面との間に充填される充填材27には、拡幅用セグメント13aの移動時まで硬化しないものを用いる。
【0023】
図1に示すようなトンネル3を構築した後、トンネル3の内周面に軸力伝達部材を設置する。軸力伝達部材は、複数対(図1の(b)図では6対を図示)の伝達部材18からなる。対となる伝達部材18は、それぞれ、拡幅用セグメントリング13の前方、後方に設置された調整用補強セグメントリング11の調整用セグメント11aに設けられる。伝達部材18は、調整用セグメント11aの内周面に固定された補強用リブ17と、補強用リブ17の拡幅用セグメントリング13側の端部に固定された妻板19とを具備する。
【0024】
次に、軸方向部材である残留推力受替え機構25を設置する。残留推力受替え機構25は、トンネル3の軸方向に配置される支保工23と、支保工23の一端に配置され、トンネル3の軸方向に伸縮可能なジャッキ21とからなる。支保工23の他端は、対となる一方の伝達部材18の妻板19に固定される。ジャッキ21は、他方の伝達部材18の妻板19に固定される。
【0025】
図2は、可とうセグメント15aの立面図を示す。図2の(a)図は、通常坑5内に設置する前の可とうセグメント15aの立面図、図2の(b)図は、通常坑5に設置した後の可とうセグメント15aの立面図である。なお、図2では、矢印Cに示す方向がトンネル3の軸方向である。
【0026】
図2の(a)図に示すように、設置前の可とうセグメント15aは、セグメント外枠29、スキンプレート31、カバープレート33、一次止水材37、軸伝達材39、連結用部材41、ジャッキ43等からなる。なお、図2ではジャッキ43を用いているが、ジャッキ43に示す位置に設置する部材は必ずしもジャッキ限定されない。例えば、クサビ状の部材を設置してもよい。
【0027】
セグメント外枠29、スキンプレート31、連結用部材41は、それぞれ1対の部材である。セグメント外枠29は、セグメントの外枠を形成する。スキンプレート31は、セグメント外枠29に固定される。連結用部材41は、セグメント外枠29とスキンプレート31とが形成する入隅部に固定される。
【0028】
カバープレート33は、一対のスキンプレート31の間を覆うように配置される。一次止水材37は、一次止水押さえ板49を用いて1対の連結用部材41の間に固定される。軸伝達材39は、ボルトおよびナット47を介して1対の連結用部材41を連結する。ジャッキ43は、ボルトおよびナット45を介して1対のセグメント外枠29を連結する。
【0029】
可とうセグメント15aを通常坑5に設置する際には、軸伝達材39とジャッキ43を取り外した後、図2の(b)図に示すように、可とうゴム押さえ板53を用いて1対の連結用部材41の間に可とうゴム部材51を固定する。そして、ジャッキ43を再度取り付ける。なお、可とうセグメント15aの外周には、全周にわたってピース間シール材55が設置されている。
【0030】
カバープレート33、一次止水材37、可とうゴム部材51は、1対のスキンプレート31の間を止水する。ピース間シール材55は、可とうセグメント15aと隣接するセグメントとの間を止水する。軸伝達材39は、可とうセグメント15aが所定の長さの際に、連結用部材41を介してセグメント外枠29間で軸方向力を伝達する。ジャッキ43は、軸伝達材39を撤去した後に収縮する。可とうセグメント15aでは、ジャッキ43を収縮させることにより、セグメント外枠29間の軸方向力を解放する。クサビを有する可とうセグメントでは、クサビを外すことで軸方向力を解放する。
【0031】
図3は、拡幅用セグメント13aを移動させた後のトンネル3の断面図を示す。図3の(a)図は、拡幅用セグメント13aを移動させた直後のトンネル3の軸方向の断面図である。
【0032】
図1に示す状態とした後、図2に示す可とうセグメント15aのジャッキ43を矢印Cに示す方向に収縮させ、可とうセグメント15aにより縁を切って拡幅用セグメント13aにかかる軸方向力を解放する。また、残留推力受替え機構25のジャッキ21を伸縮させ、通常坑5に残留する軸方向力を、調整用セグメント11aに固定された伝達部材18を介して残留推力受替え機構25で受け替える。これにより、隣接する拡幅用セグメントリング13同士のリング間の摩擦力が低下する。
【0033】
可とうセグメント15aには、図2の(b)図に示すように、カバープレート33、一次止水材37、可とうゴム部材51が設置されているので、ジャッキ43を収縮させることによって1対のセグメント外枠29の間隔が変化した場合にも、可とうセグメント15a自身の止水性を保持することができる。また、ピース間シール材55が設置されているので、可とうセグメント15aと隣接するセグメントとの間の止水性を保持することができる。
【0034】
拡幅用セグメント13aにかかる軸方向力を残留推力受替え機構25で受け替えた後、図3の(a)図に示すように、拡幅用セグメント13aを、順次トンネル3の外周方向、すなわち矢印Dに示す方向に移動させ、拡幅坑7の余掘り部内に配置する。このとき、拡幅坑7の壁面とトンネル3の外周面との間に充填された充填材27を、適宜トンネル3内に回収する、または、地山1に逃がす。
【0035】
図3の(b)図は、残留推力受替え機構25および伝達部材18を撤去した状態のトンネル3の軸方向の断面図である。図3の(a)図に示すように拡幅用セグメント13aを移動させて拡幅用セグメントリング13を拡幅した後、図3の(b)図に示すように残留推力受替え機構25および伝達部材18を撤去し、トンネル3の拡幅部を完成する。
【0036】
このように、第1の実施の形態では、可とうセグメント15aにより縁を切って拡幅用セグメント13aにかかる軸方向力を解放すると同時に、残留推力受替え機構25のジャッキ21を伸縮させ、通常坑5に残留する軸方向力を残留推力受替え機構25で受け替える。これにより、隣接する拡幅用セグメントリング13のリング間の摩擦力を低下させ、拡幅用セグメント13aを容易に移動させることができる。
【0037】
なお、拡幅用セグメント13aの軸方向力を解放するため、図2に示す可とうセグメント15aでは、セグメント外枠29の内部に設置したジャッキ43を収縮させたが、可とうセグメント15aの構成はこれに限らない。例えば、セグメント外枠29の内部に推力伝達材(くさびなど)を設置してもよい。この場合、推力伝達材を切断あるいは撤去することにより、拡幅用セグメント13aの軸方向力を解放する。
【0038】
また、第1の実施の形態において、通常セグメント9aの外周面と地山1との間に、後述するような地山サポート35(図5)を設置し、伝達部材18と地山サポート35とを介して、残留推力受替え機構25で受け替えた軸方向力を地山1に伝達してもよい。
【0039】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、余掘り部を設けて地山を掘削し、シールド機のスキンプレートと、シールド機の内部に設置した拡幅用セグメントリングとを同時に拡幅する場合について説明する。
【0040】
図4は、トンネル63を拡幅する際の各工程における断面図を示す。図4の(a)図は、拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63の軸方向の断面図である。
【0041】
シールド機85は、断面を拡幅する機能を有する筒状のスキンプレート89、スキンプレート89の前面に設けられたカッタ87、スキンプレート89の内部の空間を分割する隔壁91、スキンプレート89の内部に設けられたシールドジャッキ95等からなる。
【0042】
第2の実施の形態では、まず、カッタ87で地山61を掘削しつつシールド機85を矢印Eに示す方向に前進させ、図4の(a)図に示すようなトンネル63を形成する。
【0043】
図4の(a)図に示すように、トンネル63では、通常坑65に通常セグメントリング69が設置される。通常セグメントリング69は、複数の通常セグメント69aからなる。また、余掘り部を有する拡幅坑67に拡幅用セグメントリング73が設置される。拡幅用セグメントリング73は、拡幅用セグメント73aを有する。拡幅用セグメント73aは移動予定のセグメントである。通常セグメントリング69と拡幅用セグメントリング73との間には、調整用補強セグメントリング71が設置される。調整用補強セグメントリング71は、調整用セグメント71aを有する。
【0044】
図4の(a)図に示す工程では、調整用補強セグメントリング71、拡幅用セグメントリング73の外径は、通常セグメントリング69の外径とほぼ同じである。
【0045】
通常坑65の坑壁とトンネル63の外周面との間には、充填材93が充填される。拡幅坑67の坑壁とシールド機85のスキンプレート89との間には、必要に応じて充填材93が充填される。拡幅坑67の坑壁とシールド機85のスキンプレート89との間に充填される充填材93には、スキンプレート89の移動時まで硬化しないものを用いる。
【0046】
図4の(a)図に示すようなトンネル63を構築した後、トンネル63の内周面に軸力伝達部材を設置する。軸力伝達部材は、少なくとも1つの伝達部材78からなる。伝達部材78は、調整用セグメント71aの内周面に固定された補強用リブ77と、補強用リブ77の拡幅用セグメントリング73側の端部に固定された妻板79とを具備する。
【0047】
次に、軸方向部材である残留推力受替え機構75を設置する。残留推力受替え機構75は、トンネル63の軸方向に配置される支保工83と、支保工83の一端に配置され、トンネル63の軸方向に伸縮可能なジャッキ81とからなる。支保工83は、伝達部材78の妻板79に固定される。ジャッキ81は、シールド機85の隔壁91に固定される。
【0048】
図4の(b)図は、スキンプレート89および拡幅用セグメント73aを移動させた後のトンネル63の断面図を示す。図4の(a)図に示す状態とした後、シールドジャッキ95を収縮させることにより、シールドジャッキ95と拡幅用セグメント73aとの縁を切り、拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放する。また、残留推力受替え機構75のジャッキ81を伸縮させ、解放された軸方向力を、調整用セグメント71aに固定された伝達部材78を介して残留推力受替え機構75で受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と調整用補強セグメントリング71との間の摩擦力が低下する。
【0049】
拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を残留推力受替え機構75で受け替えた後、シールド機85のスキンプレート89および拡幅用セグメント73aを、トンネル63の外周方向、すなわち矢印Fに示す方向に移動させ、拡幅坑67の余掘り部内に配置する。このとき、拡幅坑67の壁面とスキンプレート89との間に充填された充填材93を、適宜トンネル63内に回収する、または、地山61に逃がす。
【0050】
図4の(c)図は、拡幅セグメントリング97を設置する工程におけるトンネル63の軸方向の断面図である。図4の(b)図に示す状態とした後、シールド機85を通常の方法で掘進させ、スキンプレート89内に拡幅セグメントリング97を設置する。
【0051】
トンネル63では、図4の(c)図に示す状態から、さらにシールド機85を掘進させて所定のリング数の拡幅セグメントリング97を設置し、トンネル63の拡幅部を完成する。なお、シールド機85が前進する毎に、残留推力受替え機構75の支保工83を追加する。
【0052】
このように、第2の実施の形態では、シールドジャッキ95と拡幅用セグメント73aとの縁を切って拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放すると同時に、残留推力受替え機構75のジャッキ81を伸縮させ、解放された軸方向力を残留推力受替え機構75で受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と調整用補強セグメントリング71の間の摩擦力を低下させ、拡幅用セグメント73aを容易に移動させることができる。
【0053】
なお、第2の実施の形態では、必要に応じて、地山サポートが用いられる。図5は、拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63の軸方向の断面図である。地山サポート35は、トンネル63を形成する際に、図5に示すように、調整用セグメント71aや通常セグメント69aの外周面と地山61との間に設置される。
【0054】
地山サポート35を設置することにより、シールド機83の掘進時やセグメントの組立時に、調整用セグメント71aや通常セグメント69aの変形を防止することができる。また、拡幅用セグメント73aを移動させる際に、伝達部材78と地山サポート35とを介して、残留推力受替え機構25で受け替えた軸方向力を地山1に伝達することができる。
【0055】
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、余掘り部を設けて地山を掘削し、シールド機のスキンプレートと、シールド機の内部に設置した拡幅用セグメントリングとを同時に拡幅する場合について説明する。第3の実施の形態でのトンネル拡幅部の形成方法は、第2の実施の形態とほぼ同様であるが、シールドジャッキ95と拡幅用セグメント73aとの縁を切るかわりに、可とうセグメント15の縁を切る。
【0056】
図6は、トンネル63aを拡幅する際の各工程における断面図を示す。図6の(a)図は、拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63aの軸方向の断面図である。
【0057】
第3の実施の形態では、まず、第2の実施の形態と同様のシールド機85を用いて、カッタ87で地山61を掘削しつつシールド機85を矢印Eに示す方向に前進させ、図6の(a)図に示すようなトンネル63aを形成する。
【0058】
図6の(a)図に示すトンネル63aは、図4の(a)図に示すトンネル63とほぼ同様の構成であるが、拡幅用セグメントリング73と調整用補強セグメントリング71との間に可とうセグメントリング15が設置される。可とうセグメントリング15は、図2に示すような可とうセグメント15aを有する。
【0059】
図6の(a)図に示す工程では、調整用補強セグメントリング71、可とうセグメントリング15、拡幅用セグメントリング73の外径は、通常セグメントリング69の外径とほぼ同じである。
【0060】
図6の(a)図に示すようなトンネル63aを構築した後、トンネル63aの内周面に軸力伝達部材を設置し、軸方向部材である残留推力受替え機構75を設置する。軸力伝達部材および残留推力受替え機構75の構成や構成部材の設置個所は、第2の実施の形態と同様である。
【0061】
図6の(b)図は、スキンプレート89および拡幅用セグメント73aを移動させた後のトンネル63aの断面図を示す。図6の(a)図に示す状態とした後、ジャッキ43(図2)を伸縮させて可とうセグメント15aにより縁を切り、拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放する。また、残留推力受替え機構75のジャッキ81を伸縮させ、通常坑65に残留する軸方向力を、調整用セグメント71aに固定された伝達部材78を介して残留推力受替え機構75で受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と可とうセグメントリング15との間の摩擦力が低下する。
【0062】
拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を残留推力受替え機構75で受け替えた後、シールド機85のスキンプレート89および拡幅用セグメント73aを、トンネル63の外周方向、すなわち矢印Fに示す方向に移動させ、拡幅坑67の余掘り部内に配置する。このとき、拡幅坑67の壁面とスキンプレート89との間に充填された充填材93を、適宜トンネル63内に回収する、または、地山61に逃がす。
【0063】
図6の(c)図は、拡幅セグメントリング97を設置する工程におけるトンネル63の軸方向の断面図である。図6の(b)図に示す状態とした後、シールド機85を通常の方法で掘進させ、スキンプレート89内に拡幅セグメントリング97を設置する。
【0064】
トンネル63aでは、図6の(c)図に示す状態から、さらにシールド機85を掘進させて所定のリング数の拡幅セグメントリング97を設置し、トンネル63の拡幅部を完成する。なお、シールド機85が前進する毎に、残留推力受替え機構75の支保工83を追加する。
【0065】
このように、第3の実施の形態では、可とうセグメント15aにより縁を切って拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放すると同時に、残留推力受替え機構75のジャッキ81を伸縮させ、通常坑65に残留する軸方向力を残留推力受替え機構75で受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と可とうセグメントリング15との間の摩擦力を低下させ、拡幅用セグメント73aを容易に移動させることができる。
【0066】
なお、第3の実施の形態においても、可とうセグメント15aの構成は上述したものに限らない。例えば、セグメント外枠29の内部に推力伝達材を設置してもよい。この場合、推力伝達材を切断して、拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放する。
【0067】
また、調整用セグメント71aや通常セグメント69aの外周面と地山61との間に、図5に示すような地山サポート35を設置し、伝達部材78と地山サポート35とを介して、残留推力受替え機構75で受け替えた軸方向力を地山61に伝達してもよい。
【0068】
次に、第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態では、余掘り部を設けて地山を掘削し、シールド機のスキンプレートと、シールド機の内部に設置した拡幅用セグメントリングとを同時に拡幅する場合について説明する。第4の実施の形態でのトンネル拡幅部の形成方法は、第2の実施の形態とほぼ同様であるが、軸力伝達部材として、伝達部材78のかわりにグリッパ99を用いる。
【0069】
図7は、トンネル63を拡幅する際の各工程における断面図を示す。図7の(a)図は、拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63の軸方向の断面図である。
【0070】
第4の実施の形態では、まず、第2の実施の形態と同様のシールド機85を用いて、カッタ87で地山61を掘削しつつシールド機85を矢印Eに示す方向に前進させ、図7の(a)図に示すようなトンネル63を形成する。図7の(a)図に示すトンネル63は、図4の(a)図に示すトンネル63と同様の構成である。
【0071】
図7の(a)図に示すようなトンネル63を構築した後、トンネル63の内周面に軸力伝達部材を設置する。軸力伝達部材は、グリッパ99である。グリッパ99は、通常セグメント69aの内周面に押し付けられた部材である。
【0072】
次に、軸方向部材である残留推力受替え機構75aを設置する。残留推力受替え機構75aは、トンネル63の軸方向に配置される支保工83aと、支保工83aの一端に配置され、トンネル63の軸方向に伸縮可能なジャッキ81とからなる。支保工83aは、グリッパ99に固定される。ジャッキ81は、シールド機85の隔壁91に固定される。
【0073】
図7の(b)図は、スキンプレート89および拡幅用セグメント73aを移動させた後のトンネル63の断面図を示す。図7の(a)図に示す状態とした後、シールドジャッキ95を収縮させることにより、シールドジャッキ95と拡幅用セグメント73aとの縁を切り、拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放する。また、残留推力受替え機構75aのジャッキ81を伸縮させ、解放された軸方向力を、通常セグメント69aの内周面に押し付けられたグリッパ99を介して残留推力受替え機構75aで受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と調整用補強セグメントリング71との間の摩擦力が低下する。
【0074】
拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を残留推力受替え機構75aで受け替えた後、シールド機85のスキンプレート89および拡幅用セグメント73aを、トンネル63の外周方向、すなわち矢印Fに示す方向に移動させ、拡幅坑67の余掘り部内に配置する。このとき、拡幅坑67の壁面とスキンプレート89との間に充填された充填材93を、適宜トンネル63内に回収する、または、地山61に逃がす。
【0075】
第4の実施の形態では、図7の(b)図に示す状態とした後、第2の実施の形態と同様に、シールド機85を通常の方法で掘進させ、スキンプレート89内に拡幅セグメントリング(図示せず)を設置する。さらにシールド機85を掘進させて所定のリング数の拡幅セグメントリング(図示せず)を設置し、トンネル63の拡幅部を完成する。なお、シールド機85が前進する毎に、残留推力受替え機構75の支保工83aを追加する。
【0076】
このように、第4の実施の形態では、シールドジャッキ95と拡幅用セグメント73aとの縁を切って拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放すると同時に、残留推力受替え機構75aのジャッキ81を伸縮させ、解放された軸方向力を残留推力受替え機構75aで受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と調整用補強セグメントリング71との間の摩擦力を低下させ、拡幅用セグメント73aを容易に移動させることができる。
【0077】
なお、第4の実施の形態においても、図5に示すものと同様の地山サポート35を設置することができる。図8は、拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63の軸方向の断面図である。地山サポート35は、トンネル63を形成する際に、図8に示すように、調整用セグメント71aや通常セグメント69aの外周面と地山61との間に設置される。
【0078】
地山サポート35を設置することにより、シールド機83の掘進時やセグメントの組立時に、調整用セグメント71aや通常セグメント69aの変形が防止される。また、拡幅用セグメント73aを移動させる際に、グリッパ99と地山サポート35とを介して、残留推力受替え機構75aで受け替えた軸方向力を地山61に伝達することができる。
【0079】
また、第4の実施の形態においても、第3の実施の形態と同様に、シールドジャッキ95と拡幅用セグメント73aとの縁を切るかわりに、可とうセグメント15により縁を切ってもよい。この場合には、まず、図6の(a)図に示すように、拡幅用セグメントリング73と調整用補強セグメントリング71との間に可とうセグメントリング15が設置されたトンネル63aを形成する。可とうセグメントリング15は、図2に示すような可とうセグメント15aを有する。
【0080】
次に、トンネル63a内に、軸力伝達部材であるグリッパ99と、軸方向部材である残留推力受替え機構75aとを設置する。グリッパ99、残留推力受替え機構75aの構成や構成部材の設置位置は、図7と同様である。
【0081】
その後、ジャッキ43(図2)を伸縮させ、可とうセグメント15aにより縁を切って拡幅用セグメント73aにかかる軸方向力を解放する。また、残留推力受替え機構75aのジャッキ81を伸縮させ、解放された軸方向力を、通常セグメント69aに押し付けられたグリッパ99を介して残留推力受替え機構75aで受け替える。これにより、拡幅用セグメントリング73と可とうセグメントリング15との間の摩擦力を低下させ、拡幅用セグメント73aを容易に移動させることができる。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかるトンネル構築方法の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】拡幅用セグメント13aを移動させる前のトンネル3の断面図
【図2】可とうセグメント15aの立面図
【図3】拡幅用セグメント13aを移動させた後のトンネル3の断面図
【図4】トンネル63を拡幅する際の各工程における断面図
【図5】拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63の軸方向の断面図
【図6】トンネル63aを拡幅する際の各工程における断面図
【図7】トンネル63を拡幅する際の各工程における断面図
【図8】拡幅用セグメント73aを移動させる前のトンネル63の軸方向の断面図
【符号の説明】
【0084】
1、61………地山
3、63、63a………トンネル
5、65………通常坑
7、67………拡幅坑
9、69………通常セグメントリング
9a、69a………通常セグメント
11、71………調整用補強セグメントリング
11a、71a………調整用セグメント
13、73………拡幅用セグメントリング
13a、73a………拡幅用セグメント
15………可とうセグメントリング
15a………可とうセグメント
17、77………補強用リグ
18、78………伝達部材
19、79………妻板
21、43、81………ジャッキ
23、83、83a………支保工
25、75、75a………残留推力受替え機構
35………地山サポート
85………シールド機
89………スキンプレート
91………隔壁
95………シールドジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内周面に軸力伝達部材を設置する工程(a)と、
前記軸力伝達部材に、前記トンネルの軸方向に配置される支保工と、前記支保工の端部に配置され、前記トンネルの軸方向に伸縮可能なジャッキとからなる軸方向部材を設置する工程(b)と、
前記トンネルを構成するセグメントのうち、移動予定のセグメントにかかる軸方向力を解放しつつ、前記ジャッキを伸縮させて前記軸方向力を前記軸方向部材で受け替える工程(c)と、
前記移動予定のセグメントを移動させる工程(d)と、
を具備することを特徴とするトンネル構築方法。
【請求項2】
前記工程(d)で、前記移動予定のセグメントを、前記トンネルの外周方向に移動させる、または、撤去することを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。
【請求項3】
前記軸力伝達部材が、
前記移動予定のセグメント以外の所定のセグメントの内周面に固定された補強用リブと、
前記補強用リブに固定された妻板と、
を具備する少なくとも1対の伝達部材からなり、
工程(b)で、前記軸方向部材の一端を対となる一方の前記伝達部材の妻板に対向させ、前記軸方向部材の他端を対となる他方の前記伝達部材の妻板に対向させることを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。
【請求項4】
前記軸力伝達部材が、
前記移動予定のセグメント以外の所定のセグメントの内周面に固定された補強用リブと、
前記補強用リブに固定された妻板と、
を具備する少なくとも1つの伝達部材からなり、
工程(b)で、前記軸方向部材の一端を前記妻板に対向させ、前記軸方向部材の他端をシールド機の構成部材に対向させることを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。
【請求項5】
前記軸力伝達部材が、
前記移動予定のセグメント以外の所定のセグメントの内周面に押付けられたグリッパであり、
工程(b)で、前記軸方向部材の一端を前記グリッパに対向させ、前記軸方向部材の他端をシールド機の構成部材に対向させることを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。
【請求項6】
前記移動予定のセグメントと前記所定のセグメントとの間に可とうセグメントが設けられ、
前記工程(c)で、前記可とうセグメントにより、前記軸方向力を除荷することを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載のトンネル構築方法。
【請求項7】
前記工程(c)で、前記シールド機のシールドジャッキと前記移動予定のセグメントとの縁を切ることを特徴とする請求項4または請求項5記載のトンネル構築方法。
【請求項8】
前記トンネルの外周面と地山との間に地山サポートが設置され、
前記工程(c)で、前記軸力伝達部材と前記地山サポートとを介して、前記軸方向力を前記地山に伝達することを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−348678(P2006−348678A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178869(P2005−178869)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】