説明

トンネル用インバート、インバートブロックおよび該インバートブロックを用いたインバートの築造方法

【課題】 特殊形状のセグメントを必要とせず、施工性、安定性、製作性、経済性に優れ、曲線部への適用が可能で、トンネル内面の目違い、誤差などにも容易に対応できインバートおよびその築造方法を提供する。
【解決手段】 インバート3をトンネル円周方向およびトンネル軸方向に複数に分割したプレキャスト部材で構成する。プレキャスト部材からなる中央部インバートブロック11とその両側の端部インバートブロック21は、ボルトなどの金具を用いず、ナックル継手などで鉛直面内での回動を許容するように接続する。トンネル軸方向については、隣接するインバートブロック11,21どうしの間では、互いに嵌合し合う雄雌の継手間に遊隙を持たせ、嵌合状態での水平面内および鉛直面内での回動を許容するように接続する。各インバートブロック11,21の下面には短尺の複数の脚部15,25が形成されており、トンネル内面に安定的に支持させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネルや共同溝等のトンネル(本願では筒状構造体一般を意味するものとする)の内部に構築されるインバートについて、製作性の向上、経済性の向上および施工性の向上を図るために、プレキャスト部材として製造するインバートブロック部材、該ブロック部材を用いたインバートの築造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記代表的インバートとして、以下シールド工法により構築されたトンネルに使用するインバート(図1参照)を例として説明する。
【0003】
トンネル1内部に築造されるインバート3は、主にトンネル構築後の点検・補修等の作業の容易性を目的として設けられる。具体的には、大雨時の雨水の一次的な貯留池として用いられている雨水貯留管においては、トンネル構築後の保守点検や補修時、多雨後の沈殿した泥土の搬出時の人や重機の移動経路として、電線・ガス管・上水道などの共同溝においては、トンネル内部での配線等の作業時や保守点検や補修作業時の人や機械の移動経路として、一般的に設けられている。
【0004】
一方、下水道トンネルでは、従来、シールド工法により施工したトンネル内面の目違いや段差、漏水さらに防食の対策として、一次覆工したトンネル内面を現場打ちコンクリートで覆う二次覆工を行っており、インバートを設けるということはなかった。
【0005】
しかし、近年、シールド工法技術の向上により、一次覆工の段階での目違いや段差、漏水がほとんどなくなってきたことや、建設工事費の低減や工期短縮の観点から、セグメントに予め防食層を設けておき二次覆工を省略する手法が採用されるようになり、その場合、建設後の保守点検や補修の容易性を目的として、インバートを設ける必要性も生じてきている。
【0006】
そのインバートの施工方法として一般的に用いられている方法が、トンネル覆工後に型枠を組みコンクリートを打設する現場打ちの方法である。しかし、この方法には下記の欠点がある。
【0007】
(1) 型枠の設置、脱型やコンクリートの打設に多大な労力とコストがかかる。
【0008】
(2) 現場で打設するため、養生期間が必要である。(一般に、図1に示すインバート3の中央水平部のみの型枠を組み、打設・養生したのちに、端部の型枠に組み換え打設・養生するという2段階の施工方法を必要とし、多大な労力と時間、コストを要する。)
【0009】
それに対し、小口径シールドトンネルを対象として、近年ではトンネル覆工用セグメントとインバートを一体化することにより、現場養生の不要なプレキャスト部材とした技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これにも下記の欠点がある。
【0010】
(1) 形状が特殊なため、セグメントの製作に多大なコストがかかる。特に急曲線部においては、外殻を鉄板で覆い中にコンクリートを詰めた合成セグメントや、中詰めコンクリート鋼製セグメントで製作されることが多く、コスト高となっている。
【0011】
(2) 形状が特殊なため、取扱いに難がある。
【0012】
(3) インバート付のセグメントの位置が限定されるため、蛇行修正等をする場合や、曲線施工時にセグメントの組み方に制限がある。
【0013】
この他、特許文献2には、トンネル覆工用セグメントの内周面にトンネル周方向の係合溝を設け、インバートブロックの下面にこれと係合する係合突条を設け、さらにインバートブロックどうしもインバートブロックの前後面に形成した凹凸形状の係合溝と係合突条を嵌合させて設置するものが開示されている。
【0014】
しかし、この場合も、特許文献1記載の発明と同様にセグメント形状が特殊であるため、セグメントのコストが高くつくだけでなく、係合溝分の断面欠損を考慮する必要がある。
【0015】
また、インバートブロックをセグメントどうしの継手を跨ぐように配置するため、トンネル曲線部への設置や、誤差や設計上避けられないセグメント間での目違いや段差への対応も非常に困難となる。
【0016】
また、特許文献3や特許文献4には、版状のインバートブロックの両端を直接、またはブラケットを介して、ボルトまたはアンカーでセグメントに固定するものが開示されている。しかし、トンネル断面が大きくなると、平板状のブロック両端での支持が困難となり、1つあたりのブロック重量も大きくなるため、ブロックの搬入が容易でない。
【特許文献1】特開2001−288992号公報
【特許文献2】特開平11−287095号公報
【特許文献3】特開2004−183273号公報
【特許文献4】特開2004−204583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上述のような従来技術における課題の解決を図ったものであり、特殊形状のセグメントを用いることなく、現場で簡単に効率良く設置でき、築造されるインバートがトンネル内面において安定性に優れ、曲線部への適用が可能で、トンネル内面の目違い、誤差などにも容易に対応でき、かつ製作性、経済性に優れ、プレキャスト部材としての管理も容易なインバートおよびその築造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に係る発明は、多数のセグメントからなるトンネル断面の内面下方に設けられるインバートを、トンネル周方向およびトンネル軸方向にそれぞれ複数に分割した形状の複数のインバートブロックの接続により形成してなり、前記インバートブロックは、下面にセグメントの内面に接する複数の脚部を有し、トンネル周方向に隣接するインバートブロックどうしの間では、接続部における鉛直面内での回動を許容し、トンネル軸方向に隣接するインバートブロックどうしの間では、互いに嵌合し合う雄雌の継手間に遊隙を持たせて嵌合状態での水平面内での回動を許容するよう構成したことを特徴とするものである。
【0019】
インバートブロックの材質は、インバートとしての必要な強度や耐久性が確保できるものであれば、特に限定されず、覆工用のセグメントと同様の鉄筋コンクリート、無筋コンクリート、気泡コンクリート、鋼とコンクリートの組み合わせなどの他、強化プラスチック、セラミック等を用いてよく、またこれらの任意の組み合わせも可能である。
【0020】
トンネル周方向について、隣接するインバートブロックどうしの間での接続部における鉛直面内での回動を許容するようにしたのは、各種の誤差だけでなく、特にトンネルの曲線部などで、一次覆工のセグメントの製作性、経済性を考慮した場合、設計上もトンネル断面の変化が避けられないのが通常であり、多種のインバートブロックを用意することは経済的でないことなどから、本発明ではトンネル周方向についても複数のブロックに分け、これらをトンネル内周面を構成するセグメントに合わせて無理なく設置できるようにしたものである。
【0021】
また、トンネル軸方向および周方向それぞれ複数に分割されるインバートブロックの大きさを決める場合、機械による場合も人力を用いることを考慮した場合も、それに応じて取扱いの容易な大きさ、重量に設定することができる。
【0022】
トンネル軸方向に隣接するインバートブロックどうしの間で、互いに嵌合し合う雄雌の継手間に遊隙を持たせて嵌合状態での水平面内(好ましくは水平面内および鉛直面内)での回動を許容するようにしたのは、主として曲線部、特に急曲線部への対応を考えたものである。雄雌の継手間での応力伝達を可能とした上で、遊隙を利用して必要最小限の種類数のインバートブロックで、インバートを構築できるようにすれば、経済性、管理・取扱いの容易さの面でも有利となる。
【0023】
例えば、トンネル周方向に3分割した場合、周方向両側の端部インバートブロックを同一形状とし、中央部インバートブロックと端部インバートブロックの2種のインバートブロックで、トンネルの曲線部および/または直線部のインバートをトンネル軸方向に連続させることも可能である。
【0024】
この他、脚部があることで、セグメントとインバートブロックが曲面で直接接する場合に比べ、支点の確保が容易であり、安定性がよく、製作誤差、施工誤差、その他の不陸にも対処させやすい。また、本発明で想定している脚部は一般に極短いものであるが、実施形態として後述するように、トンネルの径その他の設計条件に対応させる際、同一の型枠で脚部の長さのみ変えて製作することは容易であるため、型枠の費用の軽減にもつながる。
【0025】
請求項2は、請求項1に係るインバートにおいて、トンネル周方向に隣接する前記インバートブロックどうしが、ナックル継手を介して接続されている場合を限定したものである。
【0026】
ナックル継手は、従来、シールドトンネルにおいて、セグメントどうしを周方向に接続するセグメント間継手などに用いられているが、接続端部どうしが凹凸の曲面で接し、曲がりボルトなどの接合金具を用いなくても接続することができ、曲面での若干の回動が許容される構造となっている。
【0027】
したがって、トンネル周方向に隣接するインバートブロック間にナックル継手を用いることで、接続作業は基本的にはインバートブロックを横に並べるだけでよく、作業が非常に容易となる。
【0028】
また、ナックル継手部分での若干の回動が許容されることで、トンネルの施工誤差や変形および急曲線部でのセグメント間の不陸や折れ曲がりなどに容易に対応できる他、径の異なるトンネルへの適用を考慮する場合に有利となる。
【0029】
請求項3は、請求項1または2に係るインバートにおいて、セグメントの内面と前記インバートブロックの下面および/または前記インバートブロックどうしの間の隙間に充填材が充填される場合を限定したものである。
【0030】
インバートを永久構造物とせずに転用を図る場合には、インバートブロックどうしを並べて接続するだけでもよいが、完成したトンネルの一部として用いる場合には、充填材の充填により構造的な安定性を高めたり、遮水性能が要求される場合には止水性の高い充填材を充填することが考えられる。
【0031】
充填材としては目的に応じ、モルタル系の材料や樹脂系の各種グラウト材の使用が考えられ、止水性、流出防止を目的とする場合には、必要箇所にゴム、プラスチック、発泡性材料等の止水材、流出防止材を用いてもよい。
【0032】
請求項4は、請求項1、2または3に係るインバートにおいて、前記インバートブロックが、トンネル周方向については、中央部インバートブロックとその両側の端部インバートブロックとの3つのインバートブロックに分割してなるものであり、前記端部インバートブロック間に挟まれる中央部インバートブロックの上面の一部または全面がインバートのトンネル軸方向に延びる溝の底面を形成している場合を限定したものである。
【0033】
本発明において、トンネル周方向および軸方向の分割数は、トンネルの径にもよるが、単一のブロックが重量的にも扱いやすく、さらにブロックの寸法などについて、できるだけ少ない種類で対応できることが望ましい。また、インバートの断面形状としては、トンネルの下面に位置する中央部に溝が設けられることが多く、構築に処理水を流したり、清掃に利用されたり、下水トンネル等においては構築後において、低水位の状態ではインバートの溝部分を汚水等が流れることになる。
【0034】
なお、トンネル軸方向については、目違いの影響などで不安定にならないよう、各インバートブロックがセグメント間に跨らないようにすることが望ましく、その場合、トンネル軸方向について、セグメント幅の整数分の1の長さとする。一般的なシールドトンネルの場合、通常、セグメント幅に合わせるかその1/2が適当である。また、脚部については、インバートブロックの側面より内側に位置させることが好ましい。
【0035】
本発明に係るインバートは、トンネルの曲線部への設置に適したものであるが、トンネル直線部にも利用でき、その場合、セグメントの製作誤差、施工誤差、セグメントリングの変形などにも容易に対処しつつ、高い施工性、経済性のメリットを有しているが、曲線部、特に急曲線の曲線部に適用した場合に、従来のインバートに比べ飛躍的な効果が期待できる。
【0036】
その場合、本発明に係るインバートを曲線部のみに用いる場合と、曲線部に限定せず直線部にも併用する場合とが考えられる。さらに、後者の直線部に併用する場合においても、トンネル周方向に隣接するインバートブロックどうしの間での鉛直面内での回動と、トンネル軸方向に隣接するインバートブロックどうしの間での水平面内(好ましくは水平面内および鉛直面内)での回動が許容されることで、直線部と曲線部に同じインバートブロックを用い、最小限の種類数のインバートブロックで対処させることができる。
【0037】
それにより、一般に高価となる型あるいは型枠の種類、数量が少なくて済むため、製作コストの低減も図れ、管理、取扱いも容易となる。
【0038】
請求項5に係るインバートブロックは、多数のセグメントからなるトンネル断面の内面下方に設けられるインバートを、トンネル周方向およびトンネル軸方向にそれぞれ複数に分割した形状を有し、下面にセグメントの内面に接する複数の脚部を有し、トンネル周方向の少なくとも一側には、隣接するインバートブロックとの接続部における鉛直面内での回動を許容する継手が形成され、トンネル軸方向両側には、トンネル軸方向に隣接するインバートブロックどうしの間で、互いに遊隙を持たせて嵌合し合う凸形状の雄継手および/または凹形状の雌継手が形成されていることを特徴とするものである。
【0039】
請求項6は、請求項5に係るインバートブロックにおいて、前記トンネル周方向の少なくとも一側に、隣接するインバートブロックと曲面どうしで接するナックル継手を構成する凹曲面または凸曲面が形成されている場合を限定したものである。
【0040】
請求項5および6は、請求項1〜4に係るインバートに使用されるインバートブロックの一態様を規定したものであり、トンネル周方向のナックル継手の機能やトンネル軸方向の遊隙を持たせた継手の機能は前述した通りである。
【0041】
請求項7は、請求項5または6に係るインバートブロックにおいて、トンネル軸方向両側に形成されている前記雄継手および/または前記雌継手間に、前記雄継手の内部を貫通し、トンネル軸方向に連続する貫通孔が形成されている場合を限定したものである。
【0042】
インバートがトンネル軸方向に連続することから、インバートブロックにトンネル軸方向に連続する貫通孔を設けておくことで、この貫通孔に例えば、光ファイバーや電線、その他各種ケーブル類等を通し、作業時に支障となり、完成後には見栄えや設置スペースの問題も生じるこれらの露出をなくすことができる。
【0043】
また、この場合、互いに嵌合雄雌の継手部分において貫通孔が雄継手の内部を貫通する
ことで、トンネル軸方向に連続する貫通孔部分の連続性、止水性も確保しやすいといったメリットがある。
【0044】
請求項8にかかるインバートの築造方法は、多数のセグメントからなるトンネル断面の内面下方に、請求項5、6または7に係るトンネル覆工用インバートブロックを、トンネル周方向およびトンネル軸方向に接続しながら、順次、設置して行くことを特徴とするものである。
【0045】
本発明のインバートの築造は、既設のトンネルやある区間完成した状態のトンネルに対しても可能であるが、トンネル建設中の資材や排出土砂などの移送設備の設置、車両の走行等に用いる場合には、トンネルの構築に合わせてインバートを築造して行く必要がある。
【0046】
本発明の場合、インバートの築造はインバートブロックを敷き並べ、継手部を合わせて行くだけでよいので、現場打ちのインバートや、特殊形状のセグメントあるいはセグメントに固定したブラケットにプレキャストブロックを取り付ける場合に比べ、作業が大幅に簡略化され、施工性に優れる。
【0047】
請求項9は、請求項8に係るインバートの築造方法において、セグメントの内面と前記インバートブロックの下面および/または前記インバートブロックどうしの間の隙間に充填材を充填する場合を限定したものである。
【0048】
充填材については、請求項3に関して述べた通りである。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、インバートブロックを連続して設置できるため、施工時間が大幅に短縮でき、かつインバートとして一体性、安定性に優れたインバートを築造することができる。
【0050】
継手部でのトンネル周方向の回動、およびトンネル軸方向に対する水平回転や鉛直回転が可能であるため、セグメントの目違いや目開きなどの施工誤差にも容易に対応でき、トンネル曲線部への設置にも適する。
【0051】
また、トンネル内面との隙間や継手間の隙間に充填材を注入することにより、現場打ちの場合のように段差のない平滑な面にすることも可能である。
【0052】
トンネルセグメントについては、インバート設置のための特殊形状のものを必要とせず、 通常のセグメントを使用したトンネルにも適用できるので、トンネル工事全体の工費も低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図2は、本発明の一実施形態として、インバート3をトンネル円周方向に3分割し(それ以上の分割数でもよい)、トンネル1長手方向をセグメント2(円周方向分割線は図示せず)の幅で分割した(それ以上の分割数でもよい)インバートブロック11,21を設置して築造した状態を示したものである。
【0054】
それぞれ単体の図を、図3(中央部インバートブロック11)および図4(端部インバートブロック21)に示す。
【0055】
中央部インバートブロック11は、長手方向(トンネル軸方向)の接合面の向かって左側に雄継手13、右側に雌継手14を設けており(右側に雄、左側に雌でも可)、その対面にも同様の継手を設けている。これはインバートブロック11を鉛直軸まわりに180度回転させても同形状の継手配置となるように考慮したものである。
【0056】
また、該継手13,14は長手方向に幅が漸減および漸増しており、型枠からの脱型時においては脱型しやすく、現場での組立時においてはガイドとなる。端部インバートブロック21と接合する円周方向の継手は、円形状の凸部を長手方向に連続して設けた雄ナックル継手12である。
【0057】
製品の底面には接合面よりも内側に2対の脚部15を設け、トンネル内面と接触する箇所としている。図に示すように、接合面の角部は欠け防止のため面取り形状(面取り部19)としている。
【0058】
図4の端部インバートブロック21も、中央部インバートブロック11と同様に長手方向の継手は左右に雄・雌で長手方向に径の漸減または漸増する形状としており、鉛直軸まわりに180度回転させることにより、左右のインバートブロック21のどちらにも利用可能であり、組立時においてはガイドとなりスムーズな設置が可能である。
【0059】
なお、図示した例では端部インバートブロック21の厚さが中央部インバートブロック11側(内側)で厚く、反対側(外側)で薄くなっており、それに応じて内側に位置する雄継手23aと雌継手(図では表れず)の径が大きく、外側に位置する雄継手23bと雌継手24bの径が小さくなっている。
【0060】
小口径用の軽量な(人力による搬送が可能な)端部インバートブロック21に関しては、図5の如く左右に継手を設けず、中央側の継手23,24のみとしてもよい。
【0061】
円周方向の継手は、中央部インバートブロック11の雄ナックル継手12の円弧半径よりも僅かに大きな円弧半径の円形状の凹部を長手方向に連続して設けた雌ナックル継手22としており、セグメント2の変形等によってトンネル1内面が所定の曲率半径でなくとも該ナックル部の回転により脚部15,25がトンネル1内面に接触し、浮き上がりやガタつきが生じにくい構造としている。また、底面には中央部インバートブロック11と同様に2対の脚部25を設け、接合面の角部には面取り加工(面取り部29)を施している。
【0062】
上記の実施例では、中央部インバートブロック11の円周方向継手を雄ナックル継手12、端部インバートブロック21の中央部インバートブロック11との接合面側を雌ナックル継手22としたが、これとは逆に前者の円周方向継手を雌ナックル継手、後者の中央部インバートブロック11との接合面側を雄ナックル継手としてもよい。
【0063】
前述したように、インバートブロック11,21の継手は長手方向・円周方向ともに力学的な締結部材を使用しない凹凸のみであり、組立の際にボルトを締めるなどの締結作業を必要とせず、組立作業は少し手前に該インバートブロック11,21を仮置きして押し込むという単純作業の繰り返しでよいため、連続した高速組立が可能であり、施工時間の大幅な短縮を図れるとともに、露出金物を一切使用しないため、耐久性に優れた構造物を提供することができる。
【0064】
図2〜4の例では、インバートブロック11,21の幅をセグメント幅で分割しているが、セグメント幅の整数倍の数で分割しより重量を軽くすることも可能である。どちらの場合においても、インバートブロック11,21が隣接セグメントリング間に跨ることがないようにする必要がある。
【0065】
インバートブロック11,21が隣接セグメントリング間に跨ると、組立誤差により生じる目違いや目開きによる段差やテーパーセグメントの接合により生じる設計上避けられない上下方向の傾斜等により、インバートブロック11,21の脚部15,25底面とトンネル1内面とが接触しない箇所が生じ、その上を人が歩いた場合や搬送台車、ズリ台車が走行した場合に、がたつきや局所的な応力の発生によりインバートブロック11,21にひび割れ等の損傷をきたす可能性があるためである。
【0066】
図6は、インバートブロック2組の上面図である。インバートブロック11,21の長手方向(トンネル軸方向)の接合面間には10mm程度の隙間31を、設けてあり、セグメント2間の目開きなどの施工誤差を吸収したり、曲線部に使用するテーパーセグメントに設置するインバートブロックを直線部に使用する普通セグメントに設置するインバートと同一形状として設置可能なように配慮しているものである。
【0067】
すなわち、テーパーセグメント2bのテーパー量が僅かであれば、図7に示すように、隙間31の設置時の離間量を31a、31bのように微調整してテーパーセグメント2bと普通セグメント2aの両方に同一形状のインバートブロック11,21を利用することも可能である。
【0068】
また、テーパーセグメント2bの中心幅が普通セグメント2aの幅と同じ場合には、インバートブロックの形状をテーパーセグメント2bの形状と合わせたテーパー形状もしくはその曲線部の曲率半径に合わせたテーパー形状にすることにより(端部インバートブロックについてはテーパーに応じて大きい端部インバートブロック21aと小さい端部インバートブロック21bの2種類を用いる)、直線部に使用されている普通セグメント2aに対しては中央部インバートブロック11と2種類の端部インバートブロック21a,21bを鉛直軸まわりに180度回転し交互に組み合わせることで、曲線部に使用されている普通セグメント2aに対してはそのまま連続して組み合わせることで、普通セグメント2aに対しても同一形状のインバートブロック11,21a,21bで設置していくことが可能である(図8、図9参照)。
【0069】
それらの場合には、インバートブロックの種類を少なくでき、型枠数が減少し、より経済的になることは言うまでもない。このように隙間31で微調整して同一形状のインバートブロック11,21(11,21a,21b)を形状の異なるセグメントに設置した場合には、該ブロックの一部が多少セグメントリング間に跨る場合があるが、トンネル内面との接触部分である該ブロック底面に設けた4点の脚部15,25は継手面から少し離してあるため(図10参照)、該ブロックの長手方向の接合面の一部がセグメントリング間に多少跨った場合でも、トンネル内面と該ブロックの接触部分に関しては跨ることはない。
【0070】
さらに、前記隙間31,32に充填材を注入して埋めることにより、現場打ちした場合のように段差のない連続したインバートを形成することも可能である(充填材の注入方法については後述)。一方、充填材を注入しない場合にはこの隙間31,32をより狭くしてインバートブロックを設置するのみとしてもよい。その場合、隙間31,32による微調整の範囲が狭くなるためセグメントの形状に応じてインバートブロックの形状も変更しなくてはならず、種類が増え型枠数が増加する可能性がある。
【0071】
型枠の有効利用による経済化として、図11に示すように、内径の多少異なるトンネルに対しては同じ型枠を使用し底面の脚部15,25のみ変更する方法もある。
【0072】
繰り返しになるが、図10の正面図に示すように、インバートブロック11,21の円周方向の継手は円形状の凹凸である雄・雌ナックル継手12,22であり、2次覆工のないセグメントの組立誤差による円周方向のセグメント継手間に段差がある場合や2次覆工したトンネルの内面が完全な円弧でない場合、トンネルが土水圧荷重等により変形した場合においても、ナックル部の回転により微調整され4点の脚部15,25がトンネルの内面に接触し、浮き上がりや、がたつきが生じにくい構造としている。
【0073】
また、端部インバートブロック21上に人や搬送台車等の上載荷重が作用した際には、ナックル部の接触面から中央部インバート11に応力が伝達するため、周方向の継手部分をフラットにしていると継手面の角部で接触し、抵抗面積を確保できず、ひび割れ等の損傷の原因になる可能性があるが、ナックル形状であれば角部での接触を回避可能である。長手方向の継手13,14,23,24は長手方向に直径(または幅および高さ)の漸減または漸増するテーパーのついた凹凸のみでありせん断に対してのみ抵抗する構造である。
【0074】
長手方向の引き抜きに対しては、インバートブロック11,21を長手方向に連続に接続していくため、前後に設置されているインバートブロック11,21自体が長手方向の引き抜きに対して抵抗するため、特に抵抗機構を設けなくても充分な構造である。また、この継手は人力により搬送する場合には雄・雌継手13,14,23,24それぞれを把手として使用でき、吊具を用いて搬送する場合には雄継手13,23に吊帯等を掛けて使用することが可能である。
【0075】
図12および図13は、他の実施形態としてトンネル軸方向の継手についての変形例を示したものである。
【0076】
図12は、長手方向の継手13,14,23a,23b,24a,24bの凹凸を、各インバートブロック11,21の上面まで連続させた場合、図13は、長手方向の継手13,14,23a,23b,24a,24bの凹凸を、各インバートブロック11,21の上下面に連続させた場合であり、これらは設置後の取り外しを可能とした構造となっている。
【0077】
図14および図15は、トンネル1内面とインバートブロック11,21の隙間にモルタル等の充填材41を注入した場合の図である。注入区間の最初と最後の中央部インバートブロック11に注入口42付のものを配置しておくことにより、一つは注入用として、もう一つは充填の確認用として利用することができる。
【0078】
また、注入区間の前後には、必要に応じ充填材41の流出を防止するためにせき板43を設置する。せき板43の材質については、例えば木材、ゴム、プラスチック、セラミックス等を用いることができる。
【0079】
インバートブロック11,21の長手方向の隙間31には、端部インバートブロック21よりも低くなっている中央部インバートブロック11上に充填材41が流出しないように、必要に応じ充填材流出防止材44を貼り付ける。流出防止材44としては、例えばゴム、プラスチック、発泡性材料等を用いることができる。
【0080】
図16は、端部インバートブロック21の継手23,24部にトンネル軸方向の貫通孔51を設けた場合の断面図である。このようにトンネル軸方向に連続した孔を設けることにより、光ファイバーや電線等を通すことも可能である。
【0081】
この場合、前述した継手間の隙間31から内部に充填材41が流入する可能性があるため、雄継手23の貫通孔51の部材を継手面より少し突出させ、その部分に容易に収縮し且つ充填材41を通さない被覆材52で覆うことにより、貫通孔51内への充填材41の流入を防止する対策が必要である。被覆材52としては、例えばゴム、プラスチック、発泡性材料等を用いることができる。
【0082】
従来の技術で述べたように、インバート付セグメントの急曲線部は高価であるので、この部分のみインバート付でない通常のセグメントで施工し、本発明のインバートブロックを並べることも可能である。その際、インバート付セグメントに貫通孔が設けてある場合には、前述の貫通孔51付のインバートブロックを使用すれば、貫通孔を連続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】シールド工法により構築されたトンネルに使用するインバートの代表的な形態例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態として、インバートをトンネル円周方向に3分割し、トンネル長手方向をセグメント幅で分割したインバートブロックで築造した状態を示す斜視図である。
【図3】図2の実施形態における中央部インバートブロック単体を示したもので、(a)は平面図、(b)は上方からの斜視図、(c)はトンネル軸方向から見た正面図、(d)は側面図、(e)は底面図、(f)は下方からの斜視図である。
【図4】図2の実施形態における端部インバートブロック単体を示したもので、(a)は平面図、(b)は上方からの斜視図、(c)はトンネル軸方向から見た正面図、(d)は側面図、(e)は底面図、(f)は下方からの斜視図である。
【図5】比較的小口径のトンネル用の実施形態におけるインバートブロックの配置状態を示すインバート部分の斜視図である。
【図6】インバートブロック間の隙間をトンネル軸方向2組分のインバートブロックの配置で説明するための平面図である。
【図7】トンネル曲線部について、テーパーセグメントのテーパー量が僅かである場合の端部インバートブロックが1種類とした配置例を示す平面図である。
【図8】トンネル曲線部について、テーパーセグメントと普通セグメントを使用する場合について曲線の外側に大きい端部インバートブロックを、曲線の内側に小さい端部インバートブロックを用いた場合の配置例を示す平面図である。
【図9】図8と同じ大小の端部インバートブロックを直線部に用いる場合の配置例を示す平面図である。
【図10】インバートブロックどうしの組合せとインバートブロックの下面に設けた脚部の位置関係を例示したもので、(a)は平面図、(b)はトンネル軸方向から見た正面図、(c)は側面図、(d)は底面図である。
【図11】内径の多少異なるトンネルに対して同じ型枠を使用し底面の脚部のみ変更する場合の実施形態を示したもので、(a)は径が小さい場合の正面図、(b)は径が大きい場合の正面図である。
【図12】他の実施形態としてトンネル軸方向の継手についての変形例を示すインンバート部分の斜視図である。
【図13】トンネル軸方向の継手のさらに他の変形例を示すインンバート部分の斜視図である。
【図14】他の実施形態としてトンネル内面とインバートブロックの隙間に充填材を注入した場合の実施形態を示す平面図である。
【図15】図14に対応する拡大鉛直断面図である。
【図16】他の実施形態として端部インバートブロックの継手部にトンネル軸方向の貫通孔を設けた場合の断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1…トンネル、2…セグメント、2a…普通セグメント、2b…テーパーセグメント、3…インバート、4…溝、
11…中央部インバートブロック、12…雄ナックル継手、13…雄継手、14…雌継手、15…脚部、19…面取り、
21…端部インバートブロック、21a…端部インバートブロック(大)、21b…端部インバートブロック(小)、22…雌ナックル継手、23…雄継手、23a…雄継手(大)、23b…雄継手(小)、24…雌継手、24a…雌継手(大)、24b…雌継手(小)、25…脚部、29…面取り、
31…隙間、31a…隙間(大)、31b…隙間(小)、
41…充填材、42…注入口、43…せき板、44…流出防止材、51…貫通孔、52 …被覆材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセグメントからなるトンネル断面の内面下方に設けられるインバートを、トンネル周方向およびトンネル軸方向にそれぞれ複数に分割した形状の複数のインバートブロックの接続により形成してなり、前記インバートブロックは、下面にセグメントの内面に接する複数の脚部を有し、トンネル周方向に隣接するインバートブロックどうしの間では、接続部における鉛直面内での回動を許容し、トンネル軸方向に隣接するインバートブロックどうしの間では、互いに嵌合し合う雄雌の継手間に遊隙を持たせて嵌合状態での水平面内での回動を許容するよう構成したことを特徴とするインバート。
【請求項2】
トンネル周方向に隣接する前記インバートブロックどうしは、曲面どうしで接するナックル継手を介して接続されていることを特徴とする請求項1記載のインバート。
【請求項3】
セグメントの内面と前記インバートブロックの下面および/または前記インバートブロックどうしの間の隙間に充填材が充填されていることを特徴とする請求項1または2記載のインバート。
【請求項4】
前記インバートブロックは、トンネル周方向については、中央部インバートブロックとその両側の端部インバートブロックとの3つのインバートブロックに分割してなるものであり、前記端部インバートブロック間に挟まれる中央部インバートブロックの上面の一部または全面がインバートのトンネル軸方向に延びる溝の底面を形成していることを特徴とする請求項1、2または3記載のインバート。
【請求項5】
多数のセグメントからなるトンネル断面の内面下方に設けられるインバートを、トンネル周方向およびトンネル軸方向にそれぞれ複数に分割した形状を有し、下面にセグメントの内面に接する複数の脚部を有し、トンネル周方向の少なくとも一側には、隣接するインバートブロックとの接続部における鉛直面内での回動を許容する継手が形成され、トンネル軸方向両側には、トンネル軸方向に隣接するインバートブロックどうしの間で、互いに遊隙を持たせて嵌合し合う凸形状の雄継手および/または凹形状の雌継手が形成されていることを特徴とするインバートブロック。
【請求項6】
前記トンネル周方向の少なくとも一側に、隣接するインバートブロックと曲面どうしで接するナックル継手を構成する凹曲面または凸曲面が形成されていることを特徴とする請求項5記載のインバートブロック。
【請求項7】
トンネル軸方向両側に形成されている前記雄継手および/または前記雌継手間には、前記雄継手の内部を貫通し、トンネル軸方向に連続する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項5または6記載のインバートブロック。
【請求項8】
多数のセグメントからなるトンネル断面の内面下方に、請求項5、6または7記載のインバートブロックを、トンネル周方向およびトンネル軸方向に接続しながら、順次、設置して行くことを特徴とするインバートの築造方法。
【請求項9】
セグメントの内面と前記インバートブロックの下面および/または前記インバートブロックどうしの間の隙間に充填材を充填することを特徴とする請求項8記載のインバートの築造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−233538(P2006−233538A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48525(P2005−48525)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(502341247)
【出願人】(505068206)
【出願人】(597058664)株式会社トーヨーアサノ (24)
【Fターム(参考)】