説明

トンネル用防水シートの製造方法

【課題】 コンクリート製トンネル構築物と強固に接着一体化し、長期間経過後も防水シートとコンクリートとの間に空隙が生じず、破損等の不具合が生じず、地山や地盤からの滲出水のトンネル内への漏水を防止するトンネル用防水シートの製法の提供。
【解決手段】 合成樹脂製基材シートの表面に、その表層部分をなす合成樹脂を溶解する有機溶媒にSiO2含量が90wt%以上でBET比表面積が80m2/g以上のシリカを分散させたシリカ分散液(a1)又は前記シリカ分散液(a1)中に基材シート表層部分の合成樹脂と親和性の増粘剤を更に含有させたシリカ分散液(a2)を塗布し、加熱乾燥して、シート表面から5〜30μmの深さで前記シリカを30〜200mg/cm3の濃度で含有するシリカ含有表層を有するトンネル用防水シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂製のトンネル用防水シートの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、山岳トンネルや都市部の地下トンネルなどのトンネル工事の際に、地山や地盤とコンクリート製トンネル構造物との間に設置して、地山や地盤から滲み出た水がトンネル内部に漏水するのを防止するためのトンネル用防水シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルや都市部の地下トンネルなどのトンネル工事では、従来、山岳トンネル工法(NATM工法)やシールド工法などが採用されており、いずれの場合も、地山や地盤からトンネル内部への漏水を防止するために防水シートが用いられてきた。
防水シートとしては、熱可塑性樹脂または加硫系合成樹脂のシートの少なくとも片面に、フッ素系樹脂架橋発泡体を積層した防水シート(特許文献1参照)、プロピレン単独重合体ブロックまたはエチレン含量5重量%以下のプロピレン−エチレンランダム共重合体ブロックAと、プロピレン含量10重量%以上のエチレン−プロピレンランダム共重合体ブロックBを有するブロック共重合体からなる防水シート(特許文献2参照)、酢酸ビニル含量の異なる2種以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体の混合物を主成分とする防水シート(特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されている従来の防水シートは、いずれも、トンネル内部に構築されるコンクリート構造物との接着性や密着性に劣るため、防水シートの配設後に時間が経過すると、地山や地盤から滲み出した水が防水シートとコンクリート構造物との間の空隙を伝って防水シートの接合不良部や破れ部から流入してコンクリート構造物の亀裂からコンクリート構造物内に浸入して漏水するという問題を生じやすい。
【0004】
上記した従来の防水シートにおける問題を解消して、コンクリートとの接着性に優れる防水シートを得るために、本発明者らは、酢酸ビニル含量が80〜99質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と酢酸ビニル含量が50〜70質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(B)を(A)/(B)=0.2〜5の質量比で含有するエチレン−酢酸ビニル共重合体組成物よりなる表面を有する土木工事用遮水シートを開発して出願した(特許文献4参照)。
【0005】
本発明者らの開発した特許文献4の遮水シートは、特許文献1〜3に記載されているような従来の防水シートに比べて、コンクリートなどの水硬性材料との接着性に優れ、水硬性材料から剥離しにくく、遮水効果に優れている。本発明者らは、この特許文献4の遮水シートをベースにして更に検討を重ねてきた。そして、地山や地盤から滲み出した水がコンクリート製のトンネル構造物の内部に浸入するのを一層効果的に防ぐためには、防水シートのコンクリート構造物への接着特性を一層向上させる必要があることが判明した。
【0006】
【特許文献1】特開平7−329228号公報
【特許文献2】特開平9−52330号公報
【特許文献3】特開2001−115791号公報
【特許文献4】特開2002−294015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、コンクリート製のトンネル構築物と強固に接着し一体化して、施工後に長い時間が経過しても防水シートとコンクリート構築物との間に空隙が生じず、それによって地山や地盤から滲み出した水を防水シートが完全に遮蔽して、滲み出した水がコンクリート構造物の内部に浸入するのを効果的に防ぐことのできるトンネル用防水シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく種々研究を重ねてきた。その結果、合成樹脂製の基材シートの表面に、シリカの水性分散液を塗布するのではなく、特定の二酸化珪素含量と特定の比表面積を有するシリカを前記基材シートの表層部分の溶解作用を有する有機溶媒に分散させた分散液を塗布するか、または前記シリカの有機溶媒分散液中に基材シートの表層部分と親和性の増粘剤を更に含有させたシリカ分散液を塗布した後、加熱乾燥して、基材シートの表層部分に、前記シリカを特定の濃度で含有するシリカ含有表層を表面から特定の深さまで形成させると、コンクリートに対して高い接着力を有し、15N/cm以上の高いモルタル接着力をも示す、トンネル用防水シートが円滑に得られることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、その際に、合成樹脂製の基材シートの表層部分を形成する合成樹脂または表層用の合成樹脂として酢酸ビニル由来の構造単位の含有割合が特定範囲にあるエチレン−酢酸ビニル共重合体を選択して使用すると、また表層部分の下の部分を構成する合成樹脂またはシート本体形成用の合成樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用すると、更にはシリカの有機溶媒分散液中に含有させる増粘剤をなす合成樹脂として特定のエチレン−酢酸ビニル共重合体を選択して使用すると、コンクリートに対する前記した高い接着力と共に高い引張破断強力を有していて、トンネルの防水に用いたときに、シートの破損、漏水などを生ずることなく、トンネルを長期にわたって良好に防水することのできるトンネル用防水シートが得られることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 合成樹脂製の基材シートの表面に、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上であるシリカを前記基材シートの表層部分を構成する合成樹脂に対して溶解作用を示す有機溶媒に分散させたシリカ分散液(a1)、または前記シリカ分散液(a1)中に前記基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤を更に含有させたシリカ分散液(a2)を塗布した後、加熱乾燥して、基材シートの表面から5〜30μmの深さにわたって前記シリカを30〜200mg/cm3で含有するシリカ含有表層を形成させることを特徴とする、シリカ含有表層を有する合成樹脂製のトンネル用防水シートの製造方法である。
【0011】
そして、本発明は、
(2) 基材シート及び基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤が、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる前記(1)のトンネル用防水シートの製造方法;
(3) 基材シートの表層部分を構成する合成樹脂および基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤が、酢酸ビニル由来の構造単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる前記(1)または(2)のトンネル用防水シートの製造方法;および、
(4) モルタル接着力が15N/cm以上のトンネル用防水シートを製造するものである、前記(1)〜(3)のいずれかのトンネル用防水シートの製造方法;
である。
【0012】
さらに、本発明は、
(5) 合成樹脂製の基材シートとして、表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり且つ表層部分の下の部分がエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる基材シートを用い、当該基材シートの表面に、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上であるシリカを分散液の質量に対して1〜20質量%の濃度で含有するシリカ分散液(a1)を2〜50g/m2の塗布量で塗布するか、または前記シリカ分散液(a1)中に酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を増粘剤として更に含有させたシリカ分散液(a2)を2〜50g/m2の塗布量で塗布した後、加熱乾燥して、基材シートの表層部分に、前記シリカを30〜200mg/cm3で含有するシリカ含有表層を基材シートの表面から5〜30μmの深さにわたって形成させる、前記(1)〜(4)のいずれかのトンネル用防水シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法により、コンクリート製のトンネル構築物と強固に接着し一体化して、施工後に長い時間が経過しても、防水シートとコンクリート構築物との間に空隙が生じず、それによって地山や地盤から滲み出した水を完全に遮蔽して、滲み出した水がコンクリート構造物の内部に浸入するのを防ぐことのできるトンネル用防水シートを、円滑に製造することができる。
さらに、本発明の製造方法により得られるトンネル用防水シートは、大きな引張破断強力を有しているため、防水シートの施工時や施工後に防水シートに応力がかかっても、破損やその他の不具合が生じず、その優れた防水効果を長期にわたって維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、合成樹脂製の基材シートの表面に、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上であるシリカを前記基材シートの表層部分を構成する合成樹脂に対して溶解作用を示す有機溶媒に分散させたシリカ分散液(a1)、または前記シリカ分散液(a1)中に前記基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤を更に含有させたシリカ分散液(a2)を塗布した後、加熱乾燥して、基材シートの表面から5〜30μmの深さにわたって前記シリカを30〜200mg/cm3で含有するシリカ含有表層を形成させることを特徴とする、シリカ含有表層を有する合成樹脂製のトンネル用防水シートの製造方法である。
この本発明の製造方法により、コンクリートとの接着力に優れるトンネル用防水シートを、良好な工程性で円滑に製造することができる。
【0015】
本発明の製造方法では、トンネルを形成しているコンクリートとの接着力の高いトンネル用防水シートを得るために、トンネル用防水シートにシリカ含有表層を形成するためのシリカとして、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上であるシリカを用いる。
【0016】
通常、シリカには主成分である二酸化珪素の他に、酸化アルミニウム、酸化鉄、黒鉛などの副成分が含まれているが、これらの副成分はセメントと反応して結合する能力を有していないため、これらの副成分がシリカ中に10質量%以上含まれていてシリカにおける二酸化珪素の含有量が90質量%未満であると、コンクリートやモルタルに対するトンネル用防水シートの接着力が十分なものにならず、特に「モルタル接着力」が15N/cm以上のトンネル用防水シートが得られない。
例えば、シリカブラックあるいはブラックシリカと呼ばれる黒鉛を含む珪素系鉱物は、その脱臭、抗菌、除湿作用を利用して住宅の床下に敷設されたりしているが、二酸化珪素含有量は80質量%程度であり、このようなものを用いてシリカ含有表層を形成しても、モルタル接着力が15N/cm以上のトンネル用防水シートは得られない。
本発明ではトンネル用防水シート(以下単に「防水シート」ということがある)におけるシリカ含有表層を形成するためのシリカとして、純度のより高いものがより好ましく用いられ、かかる点から、二酸化珪素の含有量が92質量%以上、特に95質量%以上のシリカが好ましく用いられる。
【0017】
さらに、本発明では、二酸化珪素の含有量が90質量%以上のシリカとして、BET比表面積が80m2/g以上であるものを用いることが必要であり、BET比表面積が90m2/g以上のものが好ましく用いられ、100m2/g以上のものがより好ましく用いられる。シリカのBET比表面積が前記範囲から外れて小さ過ぎると、防水シートのシリカ含有表層面にコンクリート用原料を施工したときに、シリカとコンクリートとの接触面積、反応地点が減り、十分な接着力を得られなくなる。BET比表面積は粒子の一次粒子径に反比例することが知られており、BET比表面積が80m2/g以上である本発明で用いるシリカは、一般に40nm以下の一次粒子径を有する。
【0018】
シリカの製造法としては、湿式法、乾式法、電弧法などが挙げられるが、本発明では、粒子の凝集性と水分吸着性のバランスの点から、湿式法で製造された、二酸化珪素含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上のシリカが好ましく用いられる。さらに、湿式法には沈殿法とゲル法があるが、コンクリートと反応してトバモライトを形成するシラノール基の数は、沈殿法により得られるシリカの方がゲル法により得られるシリカに比べて多いことから、沈殿法により得られる、二酸化珪素含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上のシリカが好ましく用いられる。なお、シラノール基の数は、沈殿法により得られるシリカが一般に約8個/nm2程度、ゲル法によるシリカが一般に約5個/nm2程度とされている。
【0019】
本発明の製造方法では、合成樹脂製の基材シートの表面に、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上のシリカ[以下、「シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)」というか、または単に「シリカ」という]を、基材シートの表層部分を構成する合成樹脂に対して溶解作用を示す有機溶媒に分散させたシリカ分散液(a1)を塗布するか、または前記シリカ分散液(a1)中に基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性のある増粘剤を更に含有させたシリカ分散液(a2)を塗布した後、加熱乾燥して、基材シートにシリカ含有表層を形成させる。
【0020】
シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)を塗布する合成樹脂製の基材シートとしては、シリカ含有表層となる表層部分が少なくともエチレン−酢酸ビニル共重合体からなっている合成樹脂製シートが好ましく用いられる。そのうちでも、基材シートとしては、その表層部分が酢酸ビニルに由来する構造単位(以下これを「酢酸ビニル単位」という)の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートがより好ましく用いられ、表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が32質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートが更に好ましく用いられ、表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が32〜50質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートが一層好ましく用いられる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体、特に酢酸ビニル単位を30質量%以上の割合で含有するエチレン−酢酸ビニル共重合体は、コンクリートとの密着性に優れている。しかも、酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上、更には32質量%以上、特に32〜50質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体は、有機溶媒への溶解性にも優れている。
【0021】
基材シートとして表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートを用い、当該基材シートの表面に有機溶媒にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を分散させたシリカ分散液(a1)または当該分散液(a1)に更に増粘剤を加えたシリカ分散液(a2)を塗布して加熱乾燥した場合には、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)に用いられている有機溶媒によって基材シートの表層部分が良好に膨潤および/または溶解され、その膨潤および/または溶解した表層部分にシリカが均一に分散し付着した状態で加熱乾燥が行われるため、エチレン−酢酸ビニル共重合体よりなる表層部の最表面から内部にわたってシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)が均一に分散すると共に表層部を形成している樹脂中に当該シリカが強固に保持されたシリカ含有表層が基材シートに形成される。
特に、増粘剤を更に加えたシリカ分散液(a2)を用いると、加熱乾燥後の基材シートの表層部に増粘剤として用いた重合体も堆積付着するために、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)がシリカ含有表層中に一層強固に保持される。
基材シートの表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体から形成されている場合は、基材シートの表層部分が有機溶媒によって膨潤されにくくなるため、最表面から所定の深さの内部までシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)が均一に分散し且つ強固に保持されたシリカ含有表層が形成されにくい。
【0022】
合成樹脂製の基材シートにおいて、シリカ含有表層となる表層部分よりも下の部分を形成する合成樹脂の種類は特に限定されず、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ECB(エチレン・コポリマー・ビチューメン)、熱可塑性ポリウレタン、オレフィン系重合体などの熱可塑性合成樹脂の1種または2種以上からなっていることができる。
そのうちでも、本発明では、基材シートとして、表層部分が前記したエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり、表層部分よりも下の部分もエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートが好ましく用いられる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、引っ張り強度や引き裂き強度などが大きく、且つ伸長率が大きく、しかも押出成形やカレンダーロールなどでの成形加工が容易で、耐薬品性にも優れ、その上酢酸ビニル単位の共重合比率量を変えることで重合体の物性の調整が可能である。そのため、本発明の製造方法によって引張破断強力が10MPa以上で且つ引張破断伸度が300%以上の防水シートを製造しようとする際には、基材シートの表層部分だけでなく、当該表層部分よりも下の部分もエチレン−酢酸ビニル共重合体からなっている合成樹脂製シートを用いることが好ましい。
【0023】
基材シートとして、基材シートの表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり且つ表層部分よりも下の部分もエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートを用いるに当たっては、当該基材シートにおける表層部分よりも下の部分は、酢酸ビニル単位の含有割合が5〜50質量%、更には7〜30質量%、特に10〜20質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなっていることが、防水シートの低温時の物性保持が良好である点から好ましい。
【0024】
合成樹脂製の基材シートにおける、シリカ含有表層となる表層部分よりも下の部分を構成する合成樹脂は、必要に応じて、炭酸カルシウムなどの無機充填物、顔料、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0025】
基材シートは、織編物、不織布などの布帛層を有していなくてもよいし、またはその内部やもう一方の表面(シリカ含有表層となる表層部分とは反対側の表面)に織編物、不織布などの布帛層を有していてもよい。布帛層を有していない場合は、引張破断伸度の高い防水シート(特に引張破断伸度が300%以上の防水シート)を得ることができ、一方布帛層を有する場合は引張破断強力の一層高い防水シートを得ることができる。
【0026】
最終的に得られるトンネル用防水シートの柔軟性、施工性、軽量性、強度、耐引裂性などの点から、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)を塗布する前の基材シートの全体の厚さは、1.5mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、2〜5mmであることが更に好ましい。基材シートの厚さが薄すぎると、トンネルへの施工時や施工した後に防水シートが伸ばされたとき(特に300%以上伸ばされたとき)に薄くなって、十分なく遮水性を保ちにくくなり、一方厚すぎるとトンネルへの施工時の取り扱い性が不良になり易い。
また、基材シートにおける表層部分(シリカ含有表層を形成する前の表層部分)の厚さは、0.05〜1mm、特に0.1〜0.5mmであることが、基材シートの表面にシリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)を塗布し加熱乾燥することで、シリカ含有表層を基材シートの表層部分に円滑に形成できる点から好ましい。
また、基材シートにおける表層部分よりも下の部分の厚さは、一般に0.5〜4mm、特に1〜2mmであることが、強度、加工性、耐引裂性などの点から好ましい。
【0027】
合成樹脂製の基材シートの表面に塗布するシリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量は、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の質量に対して、1〜20質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましく、3〜7質量%であることが更に好ましい。
シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量が少なすぎると、基材シートの表層部分に形成されるシリカ含有表層中でのシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量が少なくなり過ぎて、トンネルを形成するコンクリートとの接着力の高い防水シートが得られなくなる。一方、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量が多すぎると、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の保存時にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の沈降、凝集などが生じて保存安定性が悪くなり、しかもシリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の粘度が高くなり過ぎて、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)を基材シートに塗布する際の作業性が低下したり、均一な塗布が困難になり、しかもシリカ分散液中の有機溶媒量の相対的な低下によって、有機溶媒による基材シートの表層部分の膨潤および/または溶解作用が低下して、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)が表層部分内に強固の保持されにくくなる。
【0028】
シリカ分散液(a1)およびシリカ分散液(a2)の調製に用いる有機溶媒としては、基材シートの表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体から形成されている場合には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンなどを用いることができ、そのうちでもトルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンが、乾燥性、表層樹脂の溶解性の点から好ましく用いられる。
基材シートの表層部分を形成している合成樹脂に対して溶解作用を示す有機溶媒にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を分散させたシリカ分散液(a1)またはそれに更に増粘剤を含有させたシリカ分散液(a2)を用いる本発明の方法に代えて、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を水に分散させた水性のシリカ分散液またはそれに増粘用の重合体を更に添加した水性のシリカ分散液を用いた場合、或いは有機溶媒であっても基材シートの表層部分を形成している合成樹脂に対して溶解作用を示さないか又は溶解作用の小さい有機溶媒にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を分散させたシリカ分散液を用いた場合には、分散媒体である水または溶解作用の小さい有機溶媒が基材シートの表層部分を形成している合成樹脂に対する膨潤および/または溶解作用を持たないために、シリカが基材シートの表層部内に取り込まれた状態で基材シートに強固に保持されなくなり、トンネルを形成するコンクリートに対して高い接着力を有するトンネル用防水シートが得られなくなり、特に15N/cm以上のモルタル接着力を有するトンネル用防水シートを得ることは極めて困難である。
【0029】
本発明の製造方法では、シリカ分散液(a1)およびシリカ分散液(a2)のいずれを用いても、基材シートの表層部分にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を安定した状態で強固に保持するシリカ含有表層が形成されて、トンネルを形成するコンクリートとの接着力の高い防水シートを得ることができ、そのうちでも増粘剤を更に含有させたシリカ分散液(a2)を用いると、増粘剤の働きによってシリカ含有表層からのシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の脱落が一層生じにくくなり、コンクリートとの接着力の一層大きな防水シートを得ることができる。
【0030】
シリカ分散液(a2)に用いる増粘剤としては、基材シートがエチレン−酢酸ビニル共重合体(特に基材シートの表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体)から形成されている場合には、基材シートの表層部分を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体との親和性の点から、酢酸ビニル単位の含有割合が30〜90質量%、特に30〜70質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく用いられる。シリカ分散液(a2)における増粘剤の添加量は、シリカ分散液(a2)を形成する有機溶媒の質量に対して20質量%以下であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。増粘剤の添加量が多すぎると、シリカ分散液(a2)の基材シートの表面に対する膨潤作用が低下して、基材シートの表層部分にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を強固に付着・含有させにくくなる。
【0031】
シリカ含有表層を形成するためのシリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の合成樹脂製の基材シートへの塗布量は、一般に、2〜50g/m2が好ましく、5〜30g/m2がより好ましく、8〜20g/m2が更に好ましい。シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の塗布量が少なすぎてもまたは多すぎても、基材シートの表層部分に、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を好適な量で含有するシリカ含有表層を形成しにくくなり、特に、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の濃度で含有するシリカ含有表層を防水シートの表面から5〜30μmの深さにわたって有する、コンクリートと接着力の高いトンネル用防水シートを製造することが困難になり易い。
【0032】
合成樹脂製の基材シートにシリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)を塗布した後の乾燥処理は、一般に、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の調製に用いた有機溶媒の沸点から当該沸点+20℃の範囲の温度で行うことが、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を表層部に強固に付着・含有させることができ、しかも防水シートの熱劣化を防止できるなどの点から好ましい。
【0033】
本発明の製造方法によってトンネル用防水シートを製造するに当たっては、最終的に得られるトンネル用防水シートにおいて、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の濃度で含有するシリカ含有表層が、防水シートの表面から5〜30μmの深さにわたって形成させているようにすることが必要である。
本発明の製造方法によってトンネル用防水シートを製造するに当たっては、最終的に得られるトンネル用防水シートにおいて、前記したシリカ含有表層におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量(濃度)が、40〜100mg/cm3の範囲になるようにすることが好ましく、45〜80mg/cm3の範囲になるようにすることがより好ましい。
また、本発明の製造方法によってトンネル用防水シートを製造するに当たっては、最終的に得られるトンネル用防水シートにおいて、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の濃度で含有するシリカ含有表層の厚さ(表面からの深さ)が6〜20μmの範囲になるようにすることが好ましく、7〜18μmの範囲になるようにすることがより好ましい。
【0034】
トンネル用防水シートにおいて、シリカ含有表層におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量(濃度)が少なすぎると、コンクリートとの接着力が小さくなり易く(特にモルタル接着力が15N/cmよりも小さくなり易く)、一方シリカ含有表層におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量(濃度)が高すぎると、シリカ含有表層自体の強度の低下、シリカ含有表層とその下の層との結合力の低下、シリカ含有表層内での亀裂発生などにより、防水シートのモルタル接着力の低下、シート表面のひび割れなどが生じ易くなる。
また、トンネル用防水シートにおいて、シリカ含有表層にシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量(濃度)が30〜200mg/cm3であっても、シリカ含有表層の厚さ(表面からの深さ)が小さすぎると、コンクリートとの接着力が小さくなり易く(特にモルタル接着力が15N/cm未満になり易く)、一方前記シリカ含有表層の厚さが大きすぎると、シリカ含有表層内でのひび割れが生じ易い。
【0035】
本発明の製造方法によってトンネル用防水シートを製造するに当たって、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の塗布と加熱乾燥処理を1回行っただけでは、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の濃度で含有し且つ防水シートの表面からの深さ(厚さ)が5〜30μmの範囲にあるシリカ含有表層を形成できない場合には、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の濃度で含有するシリカ含有表層が防水シートの表面から5〜30μmの深さで形成されるまで、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散液(a2)の塗布とその後の加熱乾燥処理を複数回繰り返して行う(重ね塗りを行う)ようにするのがよい。
【0036】
シリカ含有表層におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量(濃度)およびシリカ含有表層の防水シート表面からの深さ(厚さ)の調整は、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散(a2)中におけるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の含有量、シリカ分散液(a2)中での増粘剤の濃度、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散(a2)の塗布量、前記分散液を塗布してから加熱乾燥するまでの時間、加熱乾燥時間、シリカ分散液(a1)またはシリカ分散(a2)の塗布と加熱乾燥の回数(重ね塗りの数)などを調整することによって行うことができる。
【0037】
本発明の製造方法によって得られるトンネル用防水シートは、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の濃度で含有するシリカ含有表層を防水シートの表面から5〜30μmの厚さ(深さ)で有していることによって、当該防水シートのシリカ含有表層上にコンクリート形成用のセメント材料を施工したときに、その水硬化反応過程でセメント中のカルシウム成分とシリカ含有表層中のシリカ((SiO2≧90%、BET≧80m2/g)が反応して、強固なトバモライトを形成することで、防水シートとコンクリートとが強固に且つ完全に一体化される。
【0038】
特に、本発明の製造方法の実施に当たって、合成樹脂製の基材シートとして、表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上、更には32質量%以上、特に32〜50質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり、表層部分の下の部分がエチレン−酢酸ビニル共重合体、特に酢酸ビニル単位の含有割合が5〜50質量%、更には7〜30質量%、特に10〜20質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる基材シートを用い、当該基材シートの表面に、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を分散液の質量に対して1〜20質量%の濃度で含有するシリカ分散液(a1)を2〜50g/m2、特に5〜30g/m2の塗布量で塗布するか、または前記シリカ分散液(a1)中に増粘剤として酢酸ビニル単位の含有割合が30〜90質量%、特に30〜70質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を更に含有させたシリカ分散液(a2)を2〜50g/m2、特に5〜30g/m2の塗布量で塗布し、次いでそれを有機溶媒の沸点から沸点+20℃の範囲内の温度で加熱乾燥する方法を採用した場合には、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を30〜200mg/cm3の割合(濃度)で含有するシリカ含有表層が合成樹脂製の防水シートの表面から5〜30μmの深さにわたって形成されていて、15N/cm以上の高いモルタル接着力を有し、しかも10MPa以上の高い引張破断強力を有する、極めて優れた諸特性を有するトンネル用防水シートを円滑に製造することができる。
【0039】
本発明の製造方法によって得られるトンネル用防水シートは、15N/cm以上のモルタル接着力を有していることが好ましく、17N/cm以上のモルタル接着力を有していることがより好ましく、18N/cm以上のモルタル接着力を有していることが更に好ましい。モルタル接着力の上限値は特に制限されないが、製造コストの点からは、30N/cm以下にするのがよい。
本発明の製造方法によって得られる15N/cm以上のモルタル接着力を有するトンネル用防水シートは、防水シート上に構築されるコンクリート構造物と全面にわたって強固に接着して、防水シートとコンクリート構造物との間に、地山や地盤などから滲み出た水の流路となる空隙が発生せず、長期にわたって良好な防水性を発揮することができる。
【0040】
ここで、本明細書でいう防水シートの「モルタル接着力」とは、普通ポルトランドセメント100質量部、標準砂200質量部および水50質量部をよく混合して調製したモルタル液を、所定寸法に切断した防水シートのコンクリート接着面上に厚さ(深さ)4cmに流し込んで密閉状態で20℃にて28日間養生してモルタルを硬化させたものについて、防水シートを一方の端部から180℃の角度で10mm/分の測度で2cm剥離させたときの、防水シート幅1cm当りの平均剥離強力(N)をいう。「モルタル接着力」の詳細な測定法は以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0041】
また、本発明の製造方法によって得られるトンネル用防水シートでは、その引張破断強力は10MPA以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましく、18MPa以上であることが更に好ましい。
さらに、本発明の製造方法で得られるトンネル用防水シートでは、その引張破断伸度は特に制限されないが、300%以上、更には500%以上、特に750%以上であると、一層高い防水効果を得ることができる。
本発明の製造方法によって得られるトンネル用防水シートでは、引張破断強力および引張破断伸度の上限値は特に制限されないが、引張破断強力は用いる樹脂のコストの点から50MPa以下にすることが好ましく、また引張破断伸度は施工性の点から1000%以下であることが好ましい。
ここで、本明細書でいう防水シートの「引張破断強力」および「引張破断伸度」は、いずれも、JIS K6773に従って測定した引張破断強力および引張破断伸度を意味する。
【0042】
本発明の製造方法によって得られるトンネル用防水シートを用いてトンネル工事を行うに当たっては、山岳部や都市部の地下などに形成した、一次覆工面などを含むトンネルの地山や地盤部分に防水シートを施工し、その防水シート上にコンクリート構造物を形成するための材料を打設する方法が一般に採用される。特に、本発明の製造方法によって得られるトンネル用防水シートは、都市NATM工法、中でもウォータータイトと呼ばれる気密性・遮水性を高めたトンネルに好適に用いられ、その場合にはトンネルの周囲360゜にわたって防水シートを敷設し、トンネル外部から地下水の浸入を防ぐ構造となっている。
【0043】
前記した工法では、一次覆工面を含むトンネルの地山や地盤に敷設される防水シートは、防水シートの敷設後にトンネル本体となるコンクリート構造物を防水シートの内側から打設したときに、打設コンクリートの圧力によって防水シートが破れたり、地盤の凹部で防水シートが突っ張って防水シートに局部的に応力がかかって破れたりするなどの不具合が生じないようにする必要がある。
本発明の製造方法によって得られる10MPa以上の高い引張破断強力を有するトンネル用防水シート、特に10MPa以上の高い引張破断強力と300%以上の高い引張破断伸度を有するトンネル用防水シートは、工事の際に打設コンクリートの圧力によって破れることがなく、しかも地盤の凹部で防水シートが突っ張って防水シートに局部的に応力がかかっても破損が生じない。その上、本発明の製造方法によって得られる前記した高い引張破断強力と高い引張破断伸度を有するトンネル用防水シートは、トンネルを構築した後に防水シートに応力などがかかっても破損が生じにくく、長期にわたって良好な防水性能を維持することができる。
【0044】
本発明の製造方法で得られる防水シートを用いてトンネル内の防水工事を行うに当たっては、工事内容などに応じて、1枚の防水シートを用いて工事を行ってもよいし、複数枚の防水シートを用いて工事を行ってもよい。複数枚の防水シートを用いて工事を行う場合は、防水シート同士の端部を接合してもよいし、または防水シートの端部と他のシートの端部を接合してもよい。端部の接合は、例えば、高周波誘電加熱、高周波誘導加熱などによる熱融着法、接着剤を用いる方法などにより行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明について実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例に何ら限定されるものではない。
以下の例において、シリカ中の二酸化珪素の含有量、シリカのBET比表面積、防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、防水シートにおけるシリカ含有表層の厚み、シリカ含有表層におけるシリカの含有割合および防水シートのモルタル接着力の測定並びにトンネル内部の漏水の有無の判定は次のようにして行った。
【0046】
(1)シリカ中の二酸化珪素の含有量:
下記の数式(i)からシリカ中の二酸化珪素(SiO2)の含有量を求めた。

SiO2の含有量(質量%)=99.80(質量%)−(CA+CB+CC+D) (i)

[式中、CAはシリカ中のAl23の含有量(質量%)、CBはシリカ中のFe23の含有量(質量%)、CCはシリカ中のNa2Oの含有量(質量%)、Dはシリカを105℃で2時間加熱した後に更に1000℃で1時間加熱したときの加熱前のシリカの質量に対する減量率(質量%)を示す。なお、シリカ中のAl23、Fe23およびNa2Oの含有量は、蛍光X線を用いて測定した。また、上記の数式(i)において、SiO2の含有量を求める際の固定値を100質量%とせずに99.80質量%とした理由は、シリカ中に微量不純物(TiO2、CaO、MgOおよびSO4)が0.20質量%含まれているので、その微量不純物の含有量を差し引いた値を固定値として採用したことによる。]
【0047】
(2)シリカのBET比表面積:
株式会社島津製作所製の自動比表面積測定装置「ジェミニ2375」を使用して、BET法にてシリカのBET比表面積を測定した。
【0048】
(3)防水シートの引張破断強力および引張破断伸度:
防水シートの引張破断強力および引張破断伸度は、いずれもJIS K6773に従って測定した。
具体的には、防水シートの引張破断強力は、JIS K6773の7の項に記載されている方法に従って、インストロン5566の試験機を用いて、温度20℃、湿度65%(RH)の条件で行った。
また、防水シートの引張破断伸度は、JIS K6773の7.6の項に記載されている方法に従って、インストロン5566の試験機を用いて、温度20℃、湿度65%(RH)の条件で行った。
【0049】
(4)防水シートにおけるシリカ含有表層の厚み:
以下の例で得られた防水シートを幅方向にミクロトームで切断し、その切断面を50cm間隔で電子顕微鏡(倍率1000倍)にて3カ所を写真撮影し(各箇所の写真撮影した幅の長さ=0.1mm)、各撮影箇所のシリカ含有表層の厚さ(深さ)を測定して、3カ所の平均値を採ってシリカ含有表層の厚みとした。
【0050】
(5)防水シートのシリカ含有表層におけるシリカの含有割合:
上記(4)で電子顕微鏡にて写真撮影した防水シートから、縦×横=3cm×3cm)の試験片を切り出し、その試験片をるつぼに入れて電気炉で800℃に加熱し、有機物をすべて気化させ、残った灰分に塩酸とモリブデン酸アンモニウムを加えて発色させ、濃度既知の試料から作製した検量線に照合して試験片中に含まれていたシリカの含有量を測定し(モリブデン青法)、下記の数式(ii)から防水シートのシリカ含有表層中のシリカの含有割合を求めた。なお、防水シートでは、シリカ含有表層よりも下の部分にシリカがふくまれていることがあるが、その量は極めて僅かであるため、シリカ含有表層よりも下方に含まれていたシリカもシリカ含有表層中に含まれていたものとして取り扱った。

シリカ含有表層中のシリカの含有割合(mg/cm3)=(W/V)×100 (ii)

[式中、W=試験片に含まれていたシリカの含有量(mg)、V=試験片におけるシリカ含有表層の体積=シリカ含有表層の厚さ(cm)×試験片の縦寸法(cm)×試験片の横寸法(cm)を示す。]
【0051】
(8)防水シートのモルタル接着力:
(i) 普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製の普通ポルトランドセメント)と、乾燥させた豊浦標準砂を、砂:セメント=2:1(質量比)の割合でよく混合し、それに水0.5質量部を加えてよく撹拌してモルタル液を調製した。
(ii) 防水シートから、長さ方向に沿って幅×長さ=4cm×16cmの長方形の試験片を切断・採取し、この試験片を、幅×長さ×深さ=4cm×16cm×4cmの金型の底に、モルタルを接着させる面を上に向けて敷設し、その上から上記(i)で調製したモルタル液を流し込み、撹拌・振動によりモルタル中の気泡を抜いた後、水分が蒸発しないように金型ごと密閉容器内に入れて、20℃にて28日間養生した。
(iii) 養生完了後、防水シートの接着したモルタル片を金型から取り出して、防水シートの接着した面を上にし、防水シートの長さ方向の一方の端部をモルタル片から2cm剥がし、その剥がした端部の幅方向に沿ってポリエステル製帆布(株式会社クラレ製「E5基布」よりなる片(幅×長さ=4cm×20cm)をホッチキスで外れないように強固に接続し、図1に示すように、180°の角度で、10mm/minの速度で、シートの長さ方向に2cm剥離が進むまで剥がし(他だしポリエステル製帆布片を接続するために剥離した長さ部分は除く)、その際に応力を継続して測定し、2cmの剥離が終了した後に平均剥離強力(N)をチャートから算出し、試験片の幅が4cmなので前記で算出した値を4で除して幅1cm当たりの剥離時の応力(N/cm)を求めた。1つの防水シートにつき3枚の試験片を切断・採取して、上記と同じ試験を行って、3枚の試験片の平均値をモルタル接着力とした。
【0052】
(9)トンネル内部の漏水の有無の判定:
地下20m地点で都市NATM工法によるウォータータイトトンネルを施工した。具体的には、図2に示すように、地下20mの地点に断面楕円形(長径約15m、短径約10m)の横穴を掘削し、その横穴のほぼ上半分にコンクリートを吹き付け、下半分にはコンクリートを打設し、そこに防水シート1のシリカ含有層を大気に向けて設置(シリカ含有層のない面をコンクリートに接触させて配置)し、その上をコンクリート2で覆った後(覆工コンクリートの厚さ約20cm)、ロックボルト3を打ち込んでトンネルを建設した。工事完了後に、地下水位を復元し、28日後にトンネル内部への漏水の有無を観察した。
【0053】
また、以下の例で用いたエチレン−酢酸ビニル共重合体およびシリカの種類および内容は下記に示すとおりである。
[エチレン−酢酸ビニル共重合体]
エチレン−酢酸ビニル共重合体(I)
三井デュポンポリケミカル社製「エバフレックスEV45LX」
(酢酸ビニル単位の含有割合=46質量%、エチレン単位含有割合=54質量%、MFR=2.5g/10分)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(II)
東ソー株式会社製「ウルトラセン631」(酢酸ビニル単位の含有割合=20質量%、エチレン単位含有割合=80質量%、MFR=1.5g/10分)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(III)
東ソー株式会社製「ウルトラセン6M51A」(酢酸ビニル単位の含有割合=15質量%、エチレン単位含有割合=85質量%、MFR=0.6g/10分)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(IV)
大日本インキ株式会社製「エバフレックス420P」(酢酸ビニル単位の含有割合=60質量%、エチレン単位含有割合=40質量%、MFR=15g/10分)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(V)
三井デュポンポリケミカル社製「エバフレックスP1905」(酢酸ビニル単位の含有割合=19質量%、エチレン単位含有割合=81質量%、MFR=2.5g/10分)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(VI)
三井デュポンポリケミカル社製「エバフレックスP2505」(酢酸ビニル単位の含有割合=25質量%、エチレン単位含有割合=75質量%、MFR=2.0g/10分)
【0054】
[シリカ]
シリカ(i)
東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールLP」(二酸化珪素の含有量=93質量%、BET比表面積=200m2/g)
シリカ(ii)
東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールE200A」(二酸化珪素の含有量=94質量%、BET比表面積=140m2/g)
シリカ(iii)
東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールE75」(二酸化珪素の含有量=94質量%、BET比表面積=45m2/g)
【0055】
《実施例1》
(1) エチレン−酢酸ビニル共重合体(I)50質量部にエチレン−酢酸ビニル共重合体(II)50質量部を混合し、170℃で溶融混練した後、170℃で棒状に押し出し切断して、A層用のエチレン−酢酸ビニル共重合体組成物のペレットを製造した。
(2) 二層押出式の押出成形機(日立造船株式会社製)の一方の溶融混練装置に上記(1)で製造したA層用のペレットを供給して一方のTダイ(ダイリップ幅220cm、ダイ温度200℃)からでシート状に溶融押し出す(A層)と共に、もう一方のTダイ(ダイリップ幅220cm、ダイ温度200℃)からエチレン−酢酸ビニル共重合体(III)をシート状に溶融押し出し(B層)、押し出し後に直ちに両者を積層して、幅が220cm、A層の厚さが0.4mm、B層の厚さが1.6mmの積層シート(基材シート)(シート全体の厚さ2mm)を製造した。なお、A層を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体組成物における酢酸ビニル単位の含有割合(平均値)は33質量%であった。
【0056】
(3) シリカ(i)5質量部、トルエン85質量部およびエチレン−酢酸ビニル共重合体の50%メタノール溶液(日本合成化学工業社製「コーポニール9484」、溶液中のエチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル単位の含有割合80質量%)10質量部を混合し、十分に撹拌して、シリカ分散液を調製した。
(4) 上記(2)で製造した積層シート(基材シート)のA層側の表面に、上記(3)で調製したシリカ分散液を10g/m2の割合でグラビアロールにて塗布した後、130℃で1分間加熱して乾燥した。この塗布・乾燥操作を3回繰り返し、A層の表層部にシリカ含有表層を有する、図3の(a)に示す防水シートを作製した。
(5) 上記(4)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
図4は、この実施例1で得られた防水シートの断面(A層の上部)を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジース社製「S−2600N型」)(倍率1000倍)にて撮影した写真であり、図4にみるように、防水シートの表層部に厚さ(深さ)が13μmのシリカ含有表層が形成されていた。また、シリカはシリカ含有表層より下方に僅かに含まれていたが、防水シートの最表面から深さ0.1mm内にすべてが含まれており、それよりも深部には含まれていなかった。
【0057】
《実施例2》
(1) シリカ(ii)5質量部、トルエン90質量部およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(I)5質量部を混合し、十分に撹拌して、シリカ分散液を調製した。
(2) 実施例1において、実施例1の(3)で調製したシリカ分散液の代わりに、本製造例の上記(1)で調製したシリカ分散液を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って、A層の表層部にシリカ含有表層を有する防水シートを作製した。
(3) 上記(2)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0058】
《実施例3》
(1) エチレン−酢酸ビニル共重合体(IV)60質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(VI)40質量部、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「白艶草O」)10質量部およびシリコン系滑剤(堺化学株式会社製「LBT−100」)1質量部を170℃で溶融混練した後、棒状に押し出し、切断してA層用のペレットを製造した。
(2) エチレン−酢酸ビニル共重合体(IV)25質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(V)75質量部、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「白艶草O」)10質量部およびシリコン系滑剤(堺化学株式会社製「LBT−100」)1質量部を170℃で溶融混練した後、棒状に押し出し、切断してB層用のペレットを製造した。
【0059】
(3) 上記(2)で製造したB層用のペレットを用いて、カレンダーロール(日本ロール社、逆L4本型、径56cm、幅152cm)にて170℃で混練成形して幅150cm、厚さ0.4mmのシートとした。
(4) 上記(3)で製造したシートを上記のカレンダーロールの下側から仕込み、その上から上記(2)と同様にして溶融してカレンダーで出した幅150cm、厚さ0.4mmの同じエチレン−酢酸ビニル共重合体組成物からなるシートを重ねて貼り合わせて幅150cm、厚さ0.8mmのシートを得た。この操作を更に2回繰り返し、最終的に幅150cm、厚さ1.6mmのB層用のシートを製造した。
(5) 上記(4)で得られたB層用のシートを、上記と同じカレンダーロールの下側から仕込み、その上から上記(1)で製造したA層用のペレットを用いて、同じカレンダーロールにて溶融して厚さ0.4mmのシート(A層)に排出してB層シートの上に貼り合わせて、幅が150cm、全体の厚さが2mm(A層0.4mm、B層1.6mm)の積層シート(基材シート)を製造した。
【0060】
(6) 上記(5)で製造した積層シート(基材シート)のA層の表面に、実施例1の(3)で調製したのと同じシリカ分散液を10g/m2の割合でグラビアロールにて塗布した後、130℃で1分間加熱して乾燥した。この塗布・乾燥操作を3回繰り返し、A層の表層部にシリカ含有表層を有する防水シートを作製した。
(7) 上記(6)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0061】
《比較例1》
(1) 実施例1の(3)において、シリカ分散液を調製する際にシリカの添加量を1質量部に変え、実施例1の(4)においてシリカ分散液のグラビアロールでの塗布回数を1回に変えた以外は、実施例1と同様にして防水シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0062】
《比較例2》
(1) 実施例1において、A層用のペレットの製造時に実施例1で用いたのと同じシリカ(i)を1質量%の割合で添加したペレットを用いてA層を形成し、またシリカ分散液の塗布を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、A層全体にシリカが分散した図3の(b)に示す防水シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0063】
《比較例3》
(1) シリカ(i)の代わりにシリカ(iii)を用いた以外は、実施例1と同様にして、A層の表層部にシリカ含有表層を有する防水シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0064】
《比較例4》
(1) A層用のエチレン−酢酸ビニル共重合体組成物のペレットにおける配合組成をエチレン−酢酸ビニル共重合体(I):エチレン−酢酸ビニル共重合体(II)=30:70(質量比)に変えた以外は、実施例1と同様にして、A層の表層部にシリカ含有表層を有する防水シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0065】
《比較例5》
(1) 実施例1の(3)においてシリカ分散液の調製に用いた有機溶媒をトルエンからメタノールに替えた以外は、実施例1と同様にして、A層の表層部にシリカ含有表層を有する防水シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0066】
《比較例6》
(1) 実施例1の(3)において、シリカ分散液の調製に当たって、トルエン85質量部の代わりに水85質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、A層の表層部にシリカ含有表層を有する防水シートを製造した。
(2) 上記(1)で得られた防水シートの引張破断強力、引張破断伸度、シリカ含有表層のA層表面からの厚み(深さ)、シリカ含有表層におけるシリカの含有量、モルタル接着力、トンネル内部に設置したときの漏水の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
上記の表1〜表3の結果にみるように、実施例1〜3では、合成樹脂製の基材シート[酢酸ビニル単位の含有量が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体よりなる表層部分(A層)とエチレン−酢酸ビニル共重合体よりなる本体(B層)からなる基材シート]の表面に、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を基材シートの表層部分(A層)に対して溶解作用を有する有機溶媒(トルエン)に分散させ、更に増粘剤(酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体)を含有させたシリカ分散液を塗布した後に加熱乾燥して、シリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)の濃度が30〜200mg/cm3の範囲にあるシリカ含有表層を防水シートの表面から5〜30μmの範囲内の深さにわたって有するトンネル用防水シートを製造したことによって、モルタル接着力が15N/cm以上(18.7〜20.7N/cm)と高く、しかも引張破断強力が10MPa以上(19.8〜23.4MPa)と高く且つ引張破断伸度が300%以上(825〜1079%)と高くて、コンクリートに対する接着性に優れ、トンネル内に施工したときに漏水を生じないトンネル用防水シートが得られている。
【0071】
それに対して、比較例1で製造したトンネル用防水シートでは、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)が18mg/cm3と少なすぎ、更に当該シリカ含有表層の防水シート表面からの厚さが4μmと薄すぎて、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)およびシリカ含有表層の厚さの両方が本発明の範囲から外れていることによって、モルタル接着力が8.3N/cmと小さくてコンクリートに対する接着性に劣り、トンネル内に施工したときに漏水が生じた。
また、比較例2で製造したトンネル用防水シートでは、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)が10mg/cm3と少なすぎ、更に当該シリカ含有表層の防水シート表面からの厚さが400μmと厚すぎて、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)およびシリカ含有表層の厚さの両方が本発明の範囲から外れていることによって、モルタル接着力が6.5N/cmと小さくてコンクリートに対する接着性に劣り、トンネル内に施工したときに漏水が生じた。
【0072】
比較例3では、BET比表面積が45m2/gと小さいシリカを用い、BET比表面積が80m2/g以上であるシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を用いなかったために、比較例3で製造したトンネル用防水シートでは、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)およびシリカ含有表層の防水シート表面からの厚さは本発明で規定する範囲内であったものの、モルタル接着力が8.0N/cmと小さくてコンクリートに対する接着性に劣り、トンネル内に施工したときに漏水が生じた。
比較例4では、基材シートとして表層部分が酢酸ビニル単位含量27.8質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂製シートを用いると共に、シリカ分散液としてシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)をトルエンに分散させた分散液(増粘剤含有)を用いていて、基材シートの表層部分を形成している前記エチレン−酢酸ビニル共重合体に対するトルエン(シリカ分散液の分散媒)の溶解作用が不足しているために、比較例4で製造したトンネル用防水シートでは、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)およびシリカ含有表層の防水シート表面からの厚さは本発明で規定する範囲内であったものの、モルタル接着力が5.3N/cmと小さくてコンクリートに対する接着性に劣り、トンネル内に施工したときに漏水が生じた。
【0073】
比較例5では、シリカ分散液としてシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)をメタノールに分散させた分散液(増粘剤含有)を用いていて、メタノール(シリカ分散液の分散媒)が基材シートの表層部分を形成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体に対して溶解作用を待たないため、比較例5で製造したトンネル用防水シートでは、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)が少なすぎ、且つシリカ含有表層の防水シート表面からの厚さが薄すぎて、いずれも本発明で規定する範囲から外れていることにより、モルタル接着力が5.1N/cmと小さくてコンクリートに対する接着性に劣り、トンネル内に施工したときに漏水が生じた。
比較例6では、シリカ分散液としてシリカ(SiO2≧90%、BET≧80m2/g)を水に分散させた分散液(増粘剤含有)を用いていて、水(シリカ分散液の分散媒)が基材シートの表層部分を形成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体に対して溶解作用を待たないため、比較例6で製造したトンネル用防水シートでは、シリカ含有表層におけるシリカの含有量(濃度)が少なすぎ、且つシリカ含有表層の防水シート表面からの厚さが薄すぎて、いずれも本発明で規定する範囲から外れていることにより、モルタル接着力が0.5N/cmと小さくてコンクリートに対する接着性に劣り、トンネル内に施工したときに漏水が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法によって、コンクリート製のトンネル構築物と強固に接着し一体化し、施工後に長い時間が経過しても、防水シートとコンクリート構築物との間に空隙が生じず、しかもトンネル内への施工時や施工後に防水シートに応力がかかっても、破損やその他の不具合が生じず、地山や地盤から滲み出した水がトンネル構築物内に漏れるのを円滑に防止することができるトンネル用の防水シートを円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】防水シートのモルタル接着力の測定方法を示した図である。
【図2】防水シートを施工したトンネル構造を模式的に示した図である。
【図3】実施例1で得られた防水シートの断面を模式的に示した図[(a)]および比較例2で得られた防水シートの断面を模式的に示した図[(b)]である。
【図4】実施例1で得られた防水シートの断面(A層部分)を撮影した電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0076】
1 防水シート
2 覆工コンクリート
3 ロックボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の基材シートの表面に、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上であるシリカを前記基材シートの表層部分を構成する合成樹脂に対して溶解作用を示す有機溶媒に分散させたシリカ分散液(a1)、または前記シリカ分散液(a1)中に前記基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤を更に含有させたシリカ分散液(a2)を塗布した後、加熱乾燥して、基材シートの表面から5〜30μmの深さにわたって前記シリカを30〜200mg/cm3で含有するシリカ含有表層を形成させることを特徴とする、シリカ含有表層を有する合成樹脂製のトンネル用防水シートの製造方法。
【請求項2】
基材シートおよび基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤が、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる請求項1に記載のトンネル用防水シートの製造方法。
【請求項3】
基材シートの表層部分を構成する合成樹脂および基材シートの表層部分を構成する合成樹脂と親和性の増粘剤が、酢酸ビニル由来の構造単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる請求項1または2に記載のトンネル用防水シートの製造方法。
【請求項4】
モルタル接着力が15N/cm以上のトンネル用防水シートを製造するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトンネル用防水シートの製造方法。
【請求項5】
合成樹脂製の基材シートとして、表層部分が酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなり且つ表層部分の下の部分がエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる基材シートを用い、当該基材シートの表面に、二酸化珪素の含有量が90質量%以上で且つBET比表面積が80m2/g以上であるシリカを分散液の質量に対して1〜20質量%の濃度で含有するシリカ分散液(a1)を2〜50g/m2の塗布量で塗布するか、または前記シリカ分散液(a1)中に酢酸ビニル単位の含有割合が30質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を増粘剤として更に含有させたシリカ分散液(a2)を2〜50g/m2の塗布量で塗布した後、加熱乾燥して、基材シートの表層部分に、前記シリカを30〜200mg/cm3で含有するシリカ含有表層を基材シートの表面から5〜30μmの深さにわたって形成させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のトンネル用防水シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−12915(P2008−12915A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144438(P2007−144438)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】