説明

トンネル用防水シート

【課題】 継ぎ足し乍ら行う防水シートの展着、延設作業においてロスがなく、かつ、二次覆工に際して打設される生コンクリートの荷重によっても当該防水シートが破損、裂損等しないようにしたトンネル用防水シートを提供すること。
【解決手段】 一次覆工面f1に防水シート1を展着するために当該防水シート1へ配設する複数枚のヒレ4,40をトンネル長さ方向に沿って適宜間隔を置いて位置付けたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル用防水シートに関し、特に、NATM工法において一次覆工面へ展着するのに適したトンネル用防水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳、地下、海底などのトンネル建設においては、いわゆるNATM工法を採用することがある。NATM工法とは、掘削後の岩盤が緩み始める前に、露出した地山面に対してコンクリート材を吹き付け、鋼製の支保工を建て込み、ロックボルトを打設して一次覆工面を形成し、そこへ防水シート材を展着した後,当該防水シートを埋め殺しながら更にコンクリートを打設して二次覆工を施す工法であり、壁面の強化や滲水の遮断によってトンネルの安定性や耐久性を向上させる。
【0003】
二次覆工に際しては、防水シートを一次覆工面に展着しておく必要があるが、当該防水シートに孔を穿つことなく施工し得る方法として、一端が自由で他端が防水シートに固着された柔軟な帯状のシート材(以下、ヒレという)をその自由端側において一次覆工面に釘などで止着する方法が、既に提案されている。
【0004】
しかし、上記従来のヒレは防水シートの裏面にトンネル周方向へ沿って配設されているところ、前述の通り、一次覆工面にはH型鋼をトンネル周方向に沿うように曲げて埋没された支保工の一部がトンネルの長さ方向に沿って間欠的に突出しており、防水シートを延設するに際してヒレの位置が支保工と重なる場合には釘などの止着部材を打ち込めない。このため、防水シートを手前側の防水シートの上へ大きく後退させてヒレの位置をずらし、すなわち防水シート同士の重なり代を大きく取ってから溶着することになりシートのムダが生じている。
【0005】
また、二次覆工では防水シートにより覆われた一次覆工面をさらにコンクリートで補強するが、このとき、防水シートを一次覆工面の有する凹凸へ沿うように隙間なく展着しなければならず、凹部に対してシートがピンと張った張着状態にあれば打設されたコンクリートの荷重によって当該シートが押圧され破損、裂損等することがある。さらに、一次覆工面と型枠によって形成されるスペースの下方から溜まり始める二次覆工コンクリートがシートの裾部を引っ張ってシート全体にテンションを及ぼし、この影響で防水シートの既に止着した部位が一次覆工面から剥離することもあって、作業はなお問題を有している。
【特許文献1】特開平8−303193号公報
【特許文献2】特開2000−54800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点に鑑み、継ぎ足し乍ら行う防水シートの展着、延設作業においてロスがなく、かつ、二次覆工に際して打設される生コンクリートの荷重によっても当該防水シートが破損、裂損等しないようにしたトンネル用防水シートを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的としてなされた本発明トンネル用防水シートの構成は、一次覆工面に防水シートを展着するために当該防水シートへ配設する複数枚のヒレをトンネル長さ方向に沿って適宜間隔を置いて位置付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、トンネル建設において防水シートに配設する複数枚のヒレをトンネル長さ方向に沿って位置付けたことにより、突出する支保工の位置に関係なく一次覆工面へヒレを止着できるから、防水シート同士の継ぎ目において当該シートを重複させる重なり代を設計どおりに設定でき、防水シートのムダな使用を回避できる。さらに、不陸な一次覆工面に隙間なく追従させながら防水シートを展着できるため、打設された二次覆工コンクリートの荷重によっても当該防水シートが破損、裂損等することはなく、遮水性を確保しつつ施工できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態例について図により説明する。図1は本発明に係るトンネル用防水シートの一例の要部を示した斜視図、図2は従来型のトンネル用防水シートの要部を例示した斜視図、図3は本発明防水シートのヒレを一次覆工面に止着した状態を模式的に例示した側端面図、図4は従来型防水シートのヒレを一次覆工面に止着した状態を模式的に例示した側端面図、図5は一次覆工面に張着された防水シートと二次覆工コンクリートを模式的に拡大して例示した側端面図である。
【0010】
図1において、1は本発明に係るトンネル用防水シートの一例であって、掘削した地山面f0(図3〜図4参照)からの滲水を遮断する止水材2と、当該止水材2を一次覆工面f1の凹凸から保護する緩衝材3の二層からなっている。本実施例において止水材2は、一例としてエチレン酢酸ビニル共重合体からなる厚さ0.8ミリメートル程度のシート材で形成され、一次覆工面f1側の適宜箇所において前記緩衝材3と貼着され一体化している。止水材2の厚さ設計は、防水シート1の熱溶着時における確実性と、その重量による作業時の困難性との兼合いから適宜決定されるものであり、本実施例においては望ましい設定値として0.8ミリメートルを選択しているが、設計はこれに限られるものではなく0.8ミリメートル以上、或は、0.8ミリメートル以下としてもよい。また、止水材2の素材は遮水性を備えればよいから、ポリ塩化ビニル(PVC)やエチレン共重合体・ビューチメン(ECB)等の合成樹脂製素材、或は、ゴム、人工皮革、その他によって形成することは任意であるが、互いに重ね合わせて延設できるよう電磁熱等によって溶着可能な材質であることが望ましい。なお、本発明の技術は後述するように、止水材2と緩衝材3とを別々にして施工するいわゆる分離型シートにおいても適用可能であり、本実施例の防水シートのように二層一体化された形態に限るものではない。因みに、図1、図2の上下方向はトンネルの周方向に、左右方向はトンネルの長さ方向に沿っている。
【0011】
上記緩衝材3は、厚さが3〜5ミリメートル程の不織布層により形成されており、防水シート1の一次覆工面f1側へ接着剤等により接着、或は、熱溶着されている。一次覆工面f1は、露出したロックボルトLの鋭利な断面や吹き付けられたコンクリート材C1の凹凸等によりきわめて不陸であるが、不織布層は緩衝材として破損することなくこれに耐え得るものであることを要する。なお、不織布層の厚さは3〜5ミリメートルに限られるものではなく、3ミリメートル以下、或は、5ミリメートル以上に設計することは任意である。
【0012】
二次覆工コンクリートを打設する前には、遮水性を維持しながら防水シート1を一次覆工面f1へ展着する必要があり、シートに孔を開けることなく施工するためにはいわゆるヒレ部材を用いる方法が有効である。このために、前記緩衝材3には防水シート1を一次覆工面f1に止着するためのヒレ部材4が取り付けてある。このヒレ4は、前記緩衝材3と同様の不織布により形成されているが、引張、引裂に耐える素材であれば織布、合成樹脂、ゴム、皮革その他の素材により形成することは任意である。また、止水材2と緩衝材3を貼着一体化しない分離型シートの場合においては、止水材2に対して直接ヒレ4を固着し(図示せず)、先に一次覆工面f1へ固定された緩衝材3に当該ヒレ4を止着することによって、止水材2を損傷することなく防水シート1を展着できる。
【0013】
本実施例の止水材2と緩衝材3とは、防水シート1の左右端域約200〜250ミリメートルにおいては貼着せず、分離した構造が採られている。これにより、止水材2はその左右端域を重なり代5として互いに重畳でき、重ね合わせて(積層して)、或は、拝み合わせて(合掌タイプで)溶着することによって防水シート1をトンネル長さ方向へと延設できる。本実施例においてヒレ4は、防水シート1同士の重なり代5における熱溶着作業の支障とならないように防水シート1の幅よりもやや短く乃至はほぼ同じ長さで形成されている(図1参照)。或は、ヒレ4が防水シート1の少なくとも一端縁部において当該防水シート1に固着されず自由となるように形成して、熱溶着作業の支障となるのを回避してもよい。
【0014】
一方、従来型の防水シート10においては、図2に例示するように、ヒレ40がトンネル周方向に沿って取り付けられていた。このため、例えば坑口側から防水シート10を延設して行くに際して、ヒレ40が前述の鋼製支保工と位置的に重なるときは釘等による止着が不可能なため、手前側へ引き戻して重なり代50を余計に取らざるを得ずムダとなっていたことは既に述べた通りである。
【0015】
また、従来型の防水シート10は一次覆工面f1に対し、ヒレ40や緩衝材30の左右端域をトンネル周方向に沿って止着されるだけであるため、隙間なく当該シート10を展着することは難しい(図5参照)。このため、二次覆工コンクリートC2の打設によって一次覆工面f1の凹凸部分へ押圧された従来型の防水シート10が破損、裂損等して不都合の起きていたことは既に述べた通りである。
【0016】
そこで本発明トンネル用防水シート1は、図1に例示したように、緩衝材3に対して(或は、止水材2に対して直接)ヒレ4をトンネル長さ方向に沿って配設したことによって、上述の不具合を解消したので、この点について図1〜図5を参照しつつ以下に説明する。
【0017】
図1において例示する本発明防水シート1は、緩衝材3の一次覆工面f1側へトンネル長さ方向に沿ってヒレ4を備えており、また、その左右端域を重なり代5とすることで溶着、延設可能である。このヒレ4は、図1において上下幅が10〜20センチメートル程度、長さが防水シート1とほぼ同程度乃至少し短い程度に形成されており、上下幅における一端が緩衝材3へ固着され他端は自由である。このため、防水シート1の展着において、当該シート1が支保工と出会っても、各ヒレ4において支保工を跨いだ位置で一次覆工面f1へ釘等により止着できるため、支保工の存在は弊害とならず、図2の従来シート10のヒレ40の位置形態により生じていたムダは一切ない。
【0018】
本実施例においては、内周長20メートル程度のトンネルに対してヒレ4が合計で20枚前後となるように設計されており、各ヒレ4同士は約1メートル間隔で取り付けられている。そして、ヒレ4にはトンネル長さ方向に沿って複数の止着部材7を配設できるから、一次覆工面f1に追従させながら防水シート1を隙間なく展着するのに要する止着箇所を、トンネル周方向と長さ方向のいずれにおいても十分な数と自由な位置で確保することができる。これにより、防水シート1が不陸な一次覆工面f1に対して張着された状態となることを回避でき、その結果、二次覆工コンクリートC2の荷重により当該シート1が破損、裂損等することを阻止する。また、防水シート1は従来シート10よりも多くの止着部材7をもって一次覆工面へ展着することができるため、これによって大きな固着力を得た防水シート1は二次覆工コンクリートC2の及ぼすテンションによっても一次覆工面f1から剥離することはない。
【0019】
さらに、防水シート一枚当りの固着力を大きくできれば、当該シート一枚当りのサイズも大きくして固着することができる。この結果、従来シート10が一枚当りトンネル長さ方向に沿って2メートル程度の長さ(前後方向の幅)で加工されていたところ、本発明の防水シート1にあっては一枚当り4〜6メートル程度で形成し、施工することが可能となった。これによって、トンネル内壁における単位面積当たりの溶着箇所が大幅に削減され、現場の作業負担を軽減できるとともに、防水シート1による遮水性を高いままに維持することが可能となる。
【0020】
なお、トンネル周方向に沿ってシートを巻き取ると、従来型防水シート10はヒレ40の配置構造によりシート幅方向の中間部が膨出した紡錘形の不安定な状態で巻き取られるところ、本発明の防水シート1はヒレ4がトンネル長さ方向に配設されるために従来型のシート10よりも安定した形状をもって巻き取ることができることから、作業時や運搬時の取扱いにおいても優れている。同様の理由により、シートを巻き取らずにジグザグに折り畳むいわゆるジャバラ折りにおいても、本発明の防水シート1は安定した折畳状態を提供できるので、防水シート1の展着作業も円滑に行い得るなど高い実用性を備えている。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は以上の通りであって、トンネル建設において一次覆工面と防水シートとを展着するために当該防水シートへ配設する複数枚のヒレをトンネル長さ方向に沿って位置付けたことによって、一次覆工面へ突出する鋼製支保工の位置に影響されることなくヒレを止着でき、かつ、不陸な一次覆工面に隙間なく追従しながら防水シートを展着できることから、打設された二次覆工コンクリートの荷重によっても当該防水シートが破損、裂損等することはなくなり、遮水性を高く維持しつつ施工できるという効果があるから、トンネル用防水シートとしてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るトンネル用防水シートの一例の要部を示した斜視図
【図2】従来型のトンネル用防水シートの要部を例示した斜視図
【図3】本発明防水シートのヒレを一次覆工面に止着した状態を模式的に例示した側端面図
【図4】従来型防水シートのヒレを一次覆工面に止着した状態を模式的に例示した側端面図
【図5】一次覆工面に張着された防水シートと二次覆工コンクリートを模式的に拡大して例示した側端面図
【符号の説明】
【0023】
1 本発明防水シート
10 従来型防水シート
2,20 止水材
3、30 緩衝材
4,40 ヒレ
5、50 重なり代
6 型枠
7 止着部材
L ロックボルト
f0 地山面
f1 一次覆工面
f2 二次覆工面
C1 一次覆工用コンクリート
C2 二次覆工用コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル用防水シートであって、その防水シートを一次覆工面に展着するため複数枚のヒレを当該防水シートのトンネル長さ方向に沿って適宜間隔を置いて配設したことを特徴とするトンネル用防水シート。
【請求項2】
前記防水シートは、前記防水シートが有する止水材に対して前記ヒレを固着した請求項1のトンネル用防水シート。
【請求項3】
前記防水シートは、前記防水シートが有する緩衝材に対して前記ヒレを固着した請求項1のトンネル用防水シート。
【請求項4】
前記ヒレのトンネル長さ方向の長さは、前記防水シートとほぼ同じであり当該防水シートの少なくとも一端縁部において当該防水シートに対して自由である、或は、前記防水シートよりもやや短い請求項1〜3のいずれかのトンネル用防水シート。
【請求項5】
前記緩衝材は、不織布である請求項1〜4のいずれかのトンネル用防水シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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