説明

トンネル長尺先受け工法

【課題】支保工の剛性を低下することなく、予め定めた位置あるいは適宜選定した位置に長尺先受材を正確に配置することができ、しかも、施工コストを抑えるトンネル長尺先受け工法を提供する。
【解決手段】地山面9を除々に拡径して掘削し、支保工11、12を設置した後、今度は地山面9を除々に縮径して掘削し、外周面に所定間隔で打設制御部材30が固定された支保工13を設置する。打設制御部材30は所定方向に向いた制御管を具備するから、長尺先受材20を該制御管に挿入して、これによってガイドされた状態で打設する。また、予め打設制御部材30が固定された支保工13に替えて、打設制御部材30が固定されていない支保工13を設置した後、打設制御部材30を固定する。さらに、支保工の外周面に替えて、内周面に打設制御部材を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽の斜め前方に長尺の先受け材を設置するトンネル長尺先受け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル長尺先受け工法(長尺先受鋼管工法、AGF−Φ工法に同じ)は、トンネル切羽部に支保工を設置し、該支保工に孔を空けて、該孔にガイドパイプを溶接し、該ガイドパイプに先受け材を貫通させるものである。すなわち、先受け材に掘削手段を挿入し、先受け材の先端部において掘削しながら先受け材を深く推し進めるものである。このため、軟弱地盤であっても、先受け材を正確な設置に、確実に深く推し進めることができるという特徴がある反面、支保工の剛性が低下するという問題があった。
そこで、かかる剛性低下を補う目的で、支保工に形成された孔の周囲を補剛する発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3658612号(第3頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、支保工であるH形鋼に補強器具を接合するものであって、補強器具が、上端および下端が同一方向に折り曲げられた補強板と、該補強板を貫通する補強管とから構成され、該補強管をH形鋼のウエブに形成された孔に挿入し、前記折り曲げ部をH形鋼のフランジ内面に溶接接合するため、以下の問題があった。
(i)H形鋼は掘進方向に垂直な面内でアーチ状に形成されているため、掘進方向に平行した面内で二次元的に曲げられた補強板の折り曲げ部とH形鋼のフランジ内面との距離は一定でない。そのため、溶接接合の作業が繁雑になり施工コストが高くなるだけでなく、品質が低下して所望の補剛効果が得られない。
(ii)所望の補剛効果を得るため前記距離を一定にしようとすると、前記補強板の折り曲げ加工が複雑になり、製造コスト(結果として施工コスト)が高くなる。
(iii)H形鋼の補強器具が予め溶接接合されているから、たとえば、地山の状態によって掘削が困難になり、掘削位置を僅かに変更したい(ズラしたい)場合であっても、これができない。このため、長尺先受材を欠く部分が生じる(ワンピッチ分が歯抜けになる)ことが生じ、当該工法自体の信頼性が損なわれるおそれがある。
(iv)通常、支保工を複数のH形鋼によって形成する際、線対称に分割されたH形鋼を突き合わせるため、アーチの最上部に補強器具を配置することができない。このため、アーチの最上部に長尺先受材を配置した上で、左右対称に長尺先受材を配置することができない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、支保工(たとえば、H形鋼)の剛性を低下することなく、予め定めた位置あるいは適宜選定した位置に長尺先受材を正確に配置することができ、しかも、施工コストを高くしないトンネル長尺先受け工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るトンネル長尺先受け工法は、略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成された支保工を設置する工程と、
該支保工の上面または下面に複数の打設制御部材を固定する工程と、
該打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、を有する。
【0007】
(2)略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成され、かつ、上面または下面に複数の打設制御部材が固定された支保工を設置する工程と、
前記打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、を有する。
【0008】
(3)前記(1)または(2)において、前記支保工を、H形鋼によって形成し、
前記長尺先受材を、鋼管または樹脂管によって形成し、
前記打設制御部材を、前記鋼管または樹脂管が貫通自在な制御管と、該制御管を所定の角度で支持する制御管支持部材とから構成し、
該制御管支持部材を、前記H形鋼のフランジ外面に溶接接合することを特徴とする。
【0009】
(4)略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に略円弧状に形成された後方支保工を設置する工程と、
該後方支保工の上面または下面に複数の後方打設制御部材を固定する工程と、
前記掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成された前方支保工を設置する工程と、
該前方支保工の上面または下面に複数の前方打設制御部材を固定する工程と、
前記後方打設制御部材および前方打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、を有する。
【0010】
(5)略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に、略円弧状に形成され、かつ、上面または下面に複数の後方打設制御部材が固定された後方支保工を設置する工程と、
前記掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成され、かつ、上面または下面に複数の前方打設制御部材が固定された前方支保工を設置する工程と、
前記後方打設制御部材および前方打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るトンネル長尺先受け工法は以上であるから、以下の効果を奏する。
(i)支保工の上面または下面に複数の打設制御部材を固定する工程を有するから、支保工に孔を形成する必要がないため剛性を低下することなく、打設制御部材を所望の位置に設置することができるため、予め定めた位置あるいは適宜選定した位置に長尺先受材を正確に配置することができ、しかも、施工が容易であるため施工コストを低く抑えることができる。
(ii)上面または下面に複数の打設制御部材が固定された支保工を設置する工程を有するから、現場における施工の迅速化を図ることができる。
(iii)また、打設制御部材を制御管と制御管支持部材とから構成し、制御管支持部材を支保工であるH形鋼のフランジ外面に溶接接合するから、部材の製造が安価であって、施工コストを低く抑えることができる。
(iv)さらに、後方打設制御部材および前方打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を打設する工程を有するから、打設方向の精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施の形態1−事前上設置式]
図1〜図3は、本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を示す、図1は側面視の断面図、図2は図1の一部を拡大して示す断面図、図3は正面視の断面図(図1におけるA−A断面)である。なお、以下の説明において、同じ部分または相当する部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、同じ部材でありながら、配置される位置が相違するものを区別して説明する場合には符号に小番「a、b・・・」を付す場合がある。さらに、前記図は各部材を模式的に示すため、正確な寸法を表すものではない。
【0013】
(トンネル)
図1〜図3において、トンネル100は、アーチ状に掘削された地山面9に沿って、H形鋼を用いてアーチ状に形成された支保工10が、掘削方向で所定の間隔をあけて複数設置されている。支保工10の外周には隣接する支保工10に跨ってこれらを覆うように金網8が設置され、金網8の内側にH形鋼のウエブ高さ(梁せい)に略同じ厚さ(図中、250mm)の吹付コンクリート7が打設されている。さらに、所定の間隔で、支保工10より拡径して支保工11、12と、外面に打設制御部材30が設置された支保工13と、が配置され、前記と同様に支保工10、11、12、13を覆う金網8が設置され、金網8の内側に擦付コンクリート6が設置されている。
【0014】
そして、吹付コンクリート7または擦付コンクリート6の内側に覆工コンクリート5(図中、厚さ350mm)が打設され、その内壁面によって、空間1(図中、半径4800mmと6700mmの複円弧から形成されている)が形成されている。
【0015】
支保工10の周方向で上方約2/3の範囲(図中、124°)に、周方向に所定間隔で長尺先受材20が略放射状に打設され、該範囲を除く下方に、周方向に所定間隔でロックボルト90が略放射状に打設されている。
長尺先受材20は先端管21と、中間管22、23と、端末管24とが、連結されたものであって、支保工11に設置された打設制御部材30にガイドされながら打設されたものである(これについては別途詳細に説明する)。なお、長尺先受材20の長さや連結形態、打設される本数や間隔、範囲等は図示するものに限定するものではない。同様に、ロックボルト90の長さや打設される本数や間隔、範囲等は図示するものに限定するものではない。
【0016】
支保工13aの外周面(正確には、外周側フランジの外周側の面)には打設制御部材30aが設置され、打設制御部材30aにガイドされて長尺先受材20aが打設されている。同様に、所定の距離をあけて、支保工13bの外周面には打設制御部材30bが設置され、打設制御部材30bにガイドされて長尺先受材20bが打設されている。
そして、図1において、長尺先受材20aの先端管21aの下方に、長尺先受材20bの端末管24bが位置している。なお、正確には、先端管21aと端末管24bとは周方向で位相が相違し、隣接する端末管24bの中間位置の放射方向に先端管21aが位置している。
【0017】
(トンネル長尺先受け工法−その1)
図4および図5は、本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法を、工程を追って説明する側面視の断面図であって、図4は空間を形成する要領、図5は長尺先受材を設置する要領を説明するためのものである。
図4において、略円弧状に掘削された地山面9aに沿って支保工10が設置され、隣接する支保工10同士の外周面を覆うように金網8aが設置されている。
次に、金網8aの内側に吹付コンクリート7aを設置した後、支保工11を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に拡大し、地山面9bを形成している。このとき、既に掘削した空間1(図中、支保工10よりも左側)に地山面9aから土砂が侵入することがない。
【0018】
次に、前記拡径した地山面9bに沿って、支保工10より拡径した支保工11を設置した後、支保工10と支保工11とを覆うように金網8bを設置し、その内側に吹付コンクリート7bを設置する。
次に、同様に、支保工11よりも拡径した支保工12を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に拡大して地山面9cを形成し、支保工12を設置する。
【0019】
次に、今度は、支保工12よりも縮径した支保工13を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に縮小して地山面9dを形成し、支保工13を設置する。支保工13の外周面には打設制御部材30が設置(たとえば、溶接固定)されているため、地山面9dは打設制御部材30を収容する大きさになっている。そして、支保工12と支保工13とを覆うように金網8dを設置して、その内側に吹付コンクリート7dを設置する。
【0020】
吹付コンクリート7dは周方向で均一な厚さではなく、打設制御部材30と周方向で位相が同じ位置は、長尺先受材20を打設するためのスペースを確保する目的で、吹き付け厚さが薄かったり、殆ど吹き付けられていなかったりしている(図3に、吹き付け厚さがテーパ状に変動するものを例示している)。一方、打設制御部材30と周方向で位相が異なる位置では、吹付コンクリート7a、7b、7cと同様に略均一な厚さになっている。
さらに、掘削前面(切り羽に同じ)4に吹付コンクリート3を設置する。
【0021】
図5において、長尺先受材20を、支保工13に設置された打設制御部材30によってガイドしながら、掘削装置50を用いて斜め前方に向けて打設している。
すなわち、先端に掘削手段(たとえば、掘削ビット)が固定されている掘削ロッド(たとえば、鋼管)60を長尺先受材20に貫通させ、その先端部において両者を連結し、掘削ロッド60の尾端部を掘削駆動部51に連結する。
そして、掘削ロッド60が内部を貫通した状態の長尺先受材20(二重管の状態になっている)を、打設制御部材30に挿入し、掘削駆動部51を駆動して、地山の掘削と長尺先受材20の打設を並行して実行する。
【0022】
このとき、長尺先受材20は打設制御部材30によってガイドされているから、所定の方向に正確に打設されることになる。また、地山の状況(たとえば、転石の存在)や削孔トラブル等によっては、長尺先受材20を予め定めた位置に打設することができない場合が生じるが、かかる場合には、当該位置の打設制御部材30を移動したり、あるいは、当該位置から偏位した(ズラした)位置に別の打設制御部材30を設置したりすることが容易にできるから、かかる場合であっても、長尺先受材20の配置が歯抜けになることがない。さらに、支保工13に貫通孔を設ける必要がないから、支保工13の剛性が低下することがない。よって、施工の信頼性が高く、また、異常時の対応にも優れている。
【0023】
そして、複数の長尺先受材20は略円錐の一部を形成するように地山に串刺しになった状態で、吹付コンクリート3および掘削前面4を掘削し、所定距離だけ掘り進んだときに、支保工10を設置する。さらに、前記と同様に、支保工13と支保工10との間に金網8、吹付コンクリート7および覆工コンクリート5を設置する。
よって、支保工13自体(たとえば、H形鋼のウエブ部)に貫通孔が形成されないから、支保工の剛性が維持され、打設された複数の長尺先受材20によって地山の崩落が防止された状態で、掘削を継続することができる(図1および図2参照)。
なお、本発明は、掘削装置50や掘削駆動部51の形式は限定するものではなく、回転式、打撃式、両者の併用式であってもよい。また、掘削手段は回収ビットでも、ロストビット(削孔中に残置する)であってもよい。さらに、長尺先受材20の周囲の地山に地盤改良材を注入してもよい。
【0024】
(打設制御部材)
図6は、本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法に用いられる打設制御部材を示す、(a)は断面図、(b)は正面図である。
図6において、打設制御部材30は、短尺の鋼管である制御管31と、制御管31を支持する制御管支持部材32とから形成されている。制御管支持部材32はL字状に曲げられ、制御管31の側面に当接する略円弧状凹部33が形成された垂直支持部34と、支保工13に当接する水平支持部35と、から形成されている。制御管31の軸心は水平支持部35の下面に対して、所定の角度だけ傾斜している。
なお、図6において、垂直支持部34と水平支持部35とが直交して、制御管31の軸心と垂直支持部34とが所定の傾斜角を形成しているが、本発明はこれに限定するものではなく、垂直支持部344と水平支持部35とが所定の傾斜角を形成して、制御管31の軸心と垂直支持部34とが直交してもよい。また、前記当接部の接合は溶接固定が好ましいがこれに限定するものではない。
【0025】
[実施の形態2−現場上設置式]
(トンネル長尺先受け工法−その2)
実施の形態2に係るトンネル長尺先受け工法は、施工現場において打設制御部材30を設置するものである。
すなわち、支保工12よりも縮径した支保工13を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に縮小して地山面9dを形成し、支保工13を設置した後、支保工13の外周面には打設制御部材30を設置(たとえば、溶接固定)する点で、予め打設制御部材30が設置されている支保工13を設置する実施の形態1と相違し、その他の点で実施の形態1に共通するため、図示を省略する。
【0026】
このため、支保工13を複数の部材(アーチ状に形成されたH形鋼等)を連結して形成する場合、該部材の連結位置が支保工13の頂点(対象面の位置に同じ)に一致しても、該頂点に打設制御部材30を設置することができる。実施の形態1において、前記部材の端部(連結位置)に打設制御部材30を予め設置したのでは、前記部材同士の連結に支障が生じるため、支保工13の頂点に打設制御部材30を配置することが困難である。したがって、実施の形態2においては、支保工13の頂点の位置に長尺先受材20を打設することが可能になる。つまり、アーチの頂点に打設された長尺先受材20を含む面を、対称面として複数の長尺先受材20を対称に打設することが可能になる。
【0027】
[実施の形態3−事前下設置式]
図7〜図9は本発明の実施の形態3に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を示す、図7は側面視の断面図、図8は図7の一部を拡大して示す断面図、図9は正面視の断面図(図7におけるA−A断面)である。図7〜図9において、実施の形態2に係るトンネル長尺先受け工法によって施工されたトンネル300は、支保工14の内周面(正確には、内周側フランジの内周側の面)に打設制御部材30設置されている。
すなわち、実施の形態1のトンネル100では、支保工10と同じ径の支保工13の外周面に打設制御部材30が設置されるのに対し、実施の形態2のトンネル300では、支保工12よりも径の大きな支保工14の内周面に打設制御部材30が設置される点で、両者は相違している。以下、かかる相違点を主に説明し、共通する内容については説明を省略する。
【0028】
(トンネル)
図7〜図9において、トンネル300は、アーチ状に掘削された地山面9に沿って、H形鋼を用いてアーチ状に形成された支保工10、11、12、14が、掘削方向で所定の間隔をあけて複数設置され、これらを覆うように金網8が設置され、金網8の内側にH形鋼のウエブ高さ(梁せい)に略同じ厚さ(図中、250mm)の吹付コンクリート7が打設されている。支保工14は支保工12よりも拡径し、その内周面に打設制御部材40が設置されている。
そして、吹付コンクリート7の拡径した範囲(支保工10〜支保工14)の内側には、擦付コンクリート6が設置され、吹付コンクリート7または擦付コンクリート6の内側に覆工コンクリート5(図中、厚さ350mm)が打設され、その内壁面によって、空間1(図中、半径4800mmと6700mmの複円弧から形成されている)が形成されている。
【0029】
(トンネル長尺先受け工法−その3)
図10および図11は、本発明の実施の形態2に係るトンネル長尺先受け工法を、工程を追って説明する側面視の断面図であって、図10は空間を形成する要領、図11は長尺先受材を設置する要領を説明するためのものである。
図10において、実施の形態1(図4参照)と同様に、順番に、地山面9a形成して、支保工10、金網8a、吹付コンクリート7aを設置した後、地山面9bを形成して、支保工11、金網8b、吹付コンクリート7bを設置し、次に、地山面9cを形成して、支保工12、金網8c、吹付コンクリート7cを設置する。
【0030】
さらに、今度は、支保工12よりも拡径した支保工14を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に拡大して地山面9eを形成し、支保工14を設置する。地山面9eは支保工14の外周面(正確には、外周側フランジの外周側の面)を収容する大きさになっている。そして、支保工12と支保工14とを覆うように金網8eを設置して、その内側に吹付コンクリート7eを設置する。このとき、吹付コンクリート7eは周方向で均一な厚さになっている。さらに、掘削前面(切り羽に同じ)4に吹付コンクリート3を設置する。
【0031】
図11において、実施の形態1(図5参照)と同様に、長尺先受材20を、支保工14に設置された打設制御部材40によってガイドしながら、掘削装置50を用いて斜め前方に向けて打設している。
したがって、長尺先受材20は打設制御部材40によってガイドされているから、所定の方向に正確に打設されることになる。また、地山の状況(たとえば、転石の存在)や削孔トラブル等によっては、長尺先受材20を予め定めた位置に打設することができない場合が生じるが、かかる場合には、当該位置の打設制御部材40を移動したり、あるいは、当該位置から偏位した(ズラした)位置に別の打設制御部材40を設置したりすることが容易にできるから、かかる場合であっても、長尺先受材20の配置が歯抜けになることがない。さらに、支保工13に貫通孔を設ける必要がないから、支保工13の剛性が低下することがない。よって、施工の信頼性が高く、また、異常時の対応にも優れている。
そして、支保工14自体(たとえば、H形鋼のウエブ部)に貫通孔が形成されないから、支保工の剛性が維持され、打設された複数の長尺先受材20によって地山の崩落が防止された状態で、掘削を継続することができる(図7および図8参照)。
【0032】
(打設制御部材)
図12は、本発明の実施の形態3に係るトンネル長尺先受け工法に用いられる打設制御部材を示す、(a)は断面図、(b)は正面図である。
図12において、打設制御部材40自体は、実施の形態1(図6参照)の打設制御部材40に準じるものであって、短尺の鋼管である制御管41と、制御管41を支持する制御管支持部材42とから形成されている。制御管支持部材42はL字状に曲げられ、制御管41の側面に当接する略円弧状凹部43が形成された垂直支持部44と、支保工14に当接する水平支持部45と、から形成されている。制御管41の軸心は水平支持部45の上面に対して、所定の角度だけ傾斜している。
なお、打設制御部材40の形態は、図6に示すものに限定するものではない。また、前記当接部の接合は溶接固定が好ましいがこれに限定するものではない。
【0033】
[実施の形態4−現場下設置式]
(トンネル長尺先受け工法−その4)
実施の形態4に係るトンネル長尺先受け工法は、施工現場において打設制御部材30を支保工の内周面に設置するものである。
すなわち、支保工12よりも拡径した支保工14を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に拡大して地山面9eを形成し、支保工14を設置した後、支保工14の内周面には打設制御部材40を設置(たとえば、溶接固定)する点で、予め打設制御部材40が設置されている支保工14を設置する実施の形態3と相違し、その他の点で実施の形態3に共通するため、図示を省略する。
【0034】
このため、支保工14を複数の部材(アーチ状に形成されたH形鋼等)を連結して形成する場合、該部材の連結位置が支保工14の頂点(対象面の位置に同じ)に一致しても、該頂点に打設制御部材40を設置することができる。実施の形態3において、前記部材の端部(連結位置)に打設制御部材40を予め設置したのでは、前記部材同士の連結に支障が生じるため、支保工14の頂点(正確には頂点位置の内周面)に打設制御部材40を配置することが困難である。したがって、実施の形態4においては、支保工14の頂点の位置に長尺先受材20を打設することが可能になる。つまり、アーチの頂点に打設された長尺先受材40を含む面を、対称面として複数の長尺先受材20を対称に打設することが可能になる(実施の形態2に同じ)。
【0035】
[実施の形態5−二点制御式]
(トンネル長尺先受け工法−その5)
図13は、本発明の実施の形態5に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を拡大して示す断面図である。図13において、トンネル500は、トンネル100(実施の形態1)における支保工12の内面側に打設制御部材40が設置されたものに同じである。
すなわち、支保工12を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に拡大して地山面9を形成した後、支保工12を設置する。このとき、予め内周面に打設制御部材40が固定されている支保工12を用いても(実施の形態3参照)、あるいは、支保工12を設置した後に、その内周面に打設制御部材40を固定(実施の形態4参照)してもよい。
【0036】
そして、長尺先受材20を、支保工12に設置された打設制御部材40と支保工13に設置された打設制御部材30との両方によってガイドしながら、掘削装置50を用いて斜め前方に向けて打設している。
そうすると、実施の形態5は実施の形態1または2の作用効果に加え、長尺先受材20が打設制御部材40と打設制御部材30との両方によってガイドされるから、長尺先受材20の打設方向がさらに一層正確になる。また、打設制御部材40は擦付コンクリート6内に収容されるため、覆工コンクリート5の打設の支障になることはない。
【0037】
[実施の形態6−二点制御式]
(トンネル長尺先受け工法−その6)
図14は、本発明の実施の形態6に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を拡大して示す断面図である。図14において、トンネル600は、トンネル300(実施の形態3)における支保工12の内面側に打設制御部材40が設置されたものに同じである。
すなわち、支保工12を設置するために掘削を続けてトンネル内径を除々に拡大して地山面9を形成した後、支保工12を設置する。このとき、予め内周面に打設制御部材40が固定されている支保工12を用いても(実施の形態3参照)、あるいは、支保工12を設置した後に、その内周面に打設制御部材40を固定(実施の形態4参照)してもよい。
【0038】
そして、長尺先受材20を、支保工12に設置された打設制御部材40と支保工14に設置された打設制御部材40との両方によってガイドしながら、掘削装置50を用いて斜め前方に向けて打設している。
そうすると、実施の形態6は実施の形態3または4の作用効果に加え、長尺先受材20が一対の打設制御部材40の両方によってガイドされるから、長尺先受材20の打設方向がさらに一層正確になる。また、打設制御部材40は擦付コンクリート6内に収容されるため、覆工コンクリート5の打設の支障になることはない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、支保工の剛性低下がなく、長尺先受材を正確な位置および方向に打設することができると共に、必要に応じ打設位置を容易に変更することできるから、各種地山に対応したトンネル長尺先受け工法として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を示す側面視の断面図。
【図2】図1の一部を拡大して示す断面図。
【図3】図1におけるA−A断面を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法を、工程を追って説明する側面視の断面図(空間を形成する要領)。
【図5】本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法を、工程を追って説明する側面視の断面図(長尺先受材を設置する要領)。
【図6】本発明の実施の形態1に係るトンネル長尺先受け工法に用いられる打設制御部材を示す断面図および正面図。
【図7】本発明の実施の形態3に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を示す側面視の断面図。
【図8】図7の一部を拡大して示す断面図。
【図9】図7におけるA−A断面を示す断面図。
【図10】本発明の実施の形態3に係るトンネル長尺先受け工法を、工程を追って説明する側面視の断面図(空間を形成する要領)。
【図11】本発明の実施の形態3に係るトンネル長尺先受け工法を、工程を追って説明する側面視の断面図(長尺先受材を設置する要領)。
【図12】本発明の実施の形態3に係るトンネル長尺先受け工法に用いられる打設制御部材を示す断面図および正面図。
【図13】本発明の実施の形態5に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を拡大して示す断面図。
【図14】本発明の実施の形態6に係るトンネル長尺先受け工法を用いて施工したトンネルの一部を拡大して示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
1 空間
3 吹付コンクリート
4 掘削前面(切り羽)
5 覆工コンクリート
6 擦付コンクリート
7 吹付コンクリート
8 金網
9 地山面
10 支保工
11 支保工
12 支保工
13 支保工(実施の形態1)
14 支保工(実施の形態3)
20 長尺先受材
21 先端管
22 中間管
23 中間管
24 端末管
30 打設制御部材(実施の形態1)
31 制御管
32 制御管支持部材
33 略円弧状凹部
34 垂直支持部
35 水平支持部
40 打設制御部材(実施の形態3)
41 制御管
42 制御管支持部材
43 略円弧状凹部
44 垂直支持部
45 水平支持部
50 掘削装置
51 掘削駆動部
60 掘削ロッド
90 ロックボルト
100 トンネル(実施の形態1)
300 トンネル(実施の形態3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成された支保工を設置する工程と、
該支保工の上面または下面に複数の打設制御部材を固定する工程と、
該打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、
を有するトンネル長尺先受け工法。
【請求項2】
略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成され、かつ、上面または下面に複数の打設制御部材が固定された支保工を設置する工程と、
前記打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、
を有するトンネル長尺先受け工法。
【請求項3】
前記支保工を、H形鋼によって形成し、
前記長尺先受材を、鋼管または樹脂管によって形成し、
前記打設制御部材を、前記鋼管または樹脂管が貫通自在な制御管と、該制御管を所定の角度で支持する制御管支持部材とから構成し、
該制御管支持部材を、前記H形鋼のフランジ外面に溶接接合することを特徴とする請求項1または2記載のトンネル長尺先受け工法。
【請求項4】
略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に略円弧状に形成された後方支保工を設置する工程と、
該後方支保工の上面または下面に複数の後方打設制御部材を固定する工程と、
前記掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成された前方支保工を設置する工程と、
該前方支保工の上面または下面に複数の前方打設制御部材を固定する工程と、
前記後方打設制御部材および前方打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、
を有するトンネル長尺先受け工法。
【請求項5】
略円弧状に掘削されたトンネルの掘削面に、略円弧状に形成され、かつ、上面または下面に複数の後方打設制御部材が固定された後方支保工を設置する工程と、
前記掘削面に沿ってトンネル内径を拡大する工程と、
該拡大された位置に、略円弧状に形成され、かつ、上面または下面に複数の前方打設制御部材が固定された前方支保工を設置する工程と、
前記後方打設制御部材および前方打設制御部材によって打設方向を制御された長尺先受材を、トンネルの掘削方向の前方上部地盤に打設する工程と、
を有するトンネル長尺先受け工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−248528(P2008−248528A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89133(P2007−89133)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(507102506)日豊株式会社 (1)
【出願人】(596147367)株式会社ティーエフティー (11)
【Fターム(参考)】