説明

ドップラセンサ

【課題】製造コストの増大や大型化を抑えながらも、検出範囲の広さと鉛直下方向附近の立体角に対する感度とを共に確保することができるドップラセンサを提供する。
【解決手段】発振器11からの送信信号が、切替スイッチ13により、鉛直下方を含む第1検出範囲に送信波を送信する第1送信アンテナ12aと、鉛直下方を含み第1検出範囲よりも立体角が小さい第2検出範囲に送信波を送信する第2送信アンテナ12bとの一方に択一的に入力される。第1送信アンテナ12aにより比較的に広い第1検出範囲を確保しながらも、鉛直下方に関しては第1検出範囲よりも絞られた第2検出範囲に対応する第2送信アンテナ12bを用いることで感度を確保することができる。また、第1検出範囲と第2検出範囲とで発振器11と信号処理回路2とが共用とされることにより、製造コストの増大や大型化が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、図4に示すように、電波(送信波)を検出範囲Zに照射するとともに、検出範囲Zで反射された電波(反射波)を受信する送受信回路1を有し、送信波と反射波とから得られるドップラ信号を用いて人体M等の移動物体を検出するドップラセンサが提供されている。上記の電波としては例えばミリ波が用いられる。この種のドップラセンサは、例えば、人体Mの検出に応じて光源の点灯・消灯を切り替える照明システムにおいて、人体Mの検出に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
人体Mを検出するセンサとしては他には例えば人体Mから放射される熱線を検出する熱線センサがあるが、ドップラセンサは熱線センサに比べて遠距離の人体Mを検出することができるという利点があるため、図4のように天井CEが高い建物内で天井CEに取り付けられるような使用形態に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−31066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ドップラセンサは、送信波と反射波との周波数の差であるドップラ周波数が、送受信回路1と人体M(移動物体)との間での距離の変化速度に比例することを利用して人体M(移動物体)を検出する。従って、床面FL上を移動する人体M(移動物体)の移動方向が、送受信回路1と人体Mとを結ぶ直線に対してなす角θを略90°となる方向、すなわち人体Mの実際の移動速度Vの割に送受信回路1との間の距離の変化速度Vcosθが非常に小さくなる方向である、鉛直下方向附近の立体角に対し、感度が比較的に低くなってしまう。検出範囲Zを絞って立体角当りに照射される電波の強度を高めれば感度は向上するが、そうすると検出範囲Zが狭くなってしまう。
【0006】
また、鉛直下方向附近の立体角に対する感度を他種のセンサで確保することも考えられるが、そうすると製造コストの増大や大型化を招いてしまう。
【0007】
本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、製造コストの増大や大型化を抑えながらも、検出範囲の広さと鉛直下方向附近の立体角に対する感度とを共に確保することができるドップラセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、床面上を移動する移動物体を検出するドップラセンサであって、移動物体よりも高い位置に配置され、鉛直下方を含む所定の第1検出範囲と鉛直下方を含み且つ立体角が第1検出範囲よりも小さい第2検出範囲とにそれぞれ電波を送信するとともに第1検出範囲及び第2検出範囲からの電波を受信し第1検出範囲又は第2検出範囲に存在する移動物体との距離の変化速度に応じた周波数のドップラ信号を少なくとも含む出力を生成する送受信回路と、送受信回路の出力に含まれるドップラ信号に基いて第1の検出範囲及び第2の検出範囲における移動物体の有無を判定する信号処理回路とを備え、送受信回路は、所定の送信周波数の送信信号を生成する発振器と、送信信号を入力されることにより送信周波数の電波である送信波を第1検出範囲に対して送信するとともに反射波を受信して送信波の周波数と反射波の周波数の差の周波数を有するドップラ信号を信号処理回路に出力する第1アンテナ部と、送信信号を入力されることにより送信周波数の電波である送信波を第2検出範囲に対して送信するとともに反射波を受信して送信波の周波数と反射波の周波数の差の周波数を有するドップラ信号を信号処理回路に出力する第2アンテナ部と、信号処理回路によって制御され送信信号を第1アンテナ部と第2アンテナ部との一方に択一的に入力する切替スイッチとを有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、第1アンテナ部により比較的に広い第1検出範囲の移動物体の検出を可能としながらも、比較的に感度が低下する鉛直下方に関しては第1検出範囲よりも立体角が絞られた第2検出範囲に送信波を送信する第2アンテナ部を用いることで感度を確保することができる。また、第1検出範囲と第2検出範囲とで少なくとも発振器と信号処理回路とは共用とすることができるので、鉛直下方に関する感度を熱線センサのような他種のセンサで確保する場合に比べ、製造コストの増大や大型化が抑えられる。さらに、単純に送信信号の強度を増すことで検出範囲の広さと鉛直下方向附近の立体角に対する感度とを共に確保しようとする場合に比べ、消費電力が低減される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、第2検出範囲は全体が第1検出範囲に包含されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、信号処理回路は切替スイッチを定期的に切り替えることで送信信号を第1アンテナ部と第2アンテナ部とに交互に入力することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、信号処理回路は、検出範囲に移動物体が存在すると判定されてから検出範囲に移動物体が存在すると判定されないまま所定の遅れ時間が経過するまでの期間以外には、送信信号を第1アンテナ部に入力する状態に切替スイッチを維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、第1アンテナ部により比較的に広い第1検出範囲の移動物体の検出を可能としながらも、比較的に感度が低下する鉛直下方に関しては第1検出範囲よりも立体角が絞られた第2検出範囲に送信波を送信する第2アンテナ部を用いることで感度を確保することができる。また、第1検出範囲と第2検出範囲とで少なくとも発振器と信号処理回路とは共用とすることができるので、鉛直下方に関する感度を熱線センサのような他種のセンサで確保する場合に比べ、製造コストの増大や大型化が抑えられる。さらに、単純に送信信号の強度を増すことで検出範囲の広さと鉛直下方向附近の立体角に対する感度とを共に確保しようとする場合に比べ、消費電力が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】(a)(b)はそれぞれ同上による各検出範囲の形状を示す説明図であり、(a)は水平方向から見た形状を示し、(b)は床面上での形状を示す説明図である。
【図3】同上の変更例を示すブロック図である。
【図4】ドップラセンサの使用形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態は、床面上を移動する移動物体としての人体M(図2(a)参照)を検出するドップラセンサであって、図3に示すように、電波を送受信する送受信回路1と、送受信回路1の出力を解析して移動物体の有無を判定する信号処理回路2とを備える。
【0017】
送受信回路1は、図2(a)に示すように、例えば高さ10mの天井CEに固定されることで一般的な人体Mの身長よりも高い位置に配置され、鉛直下方を含む所定の第1検出範囲Z1と、鉛直下方を含み且つ立体角が第1検出範囲Z1よりも小さく第1検出範囲Z1に全体が包含される所定の第2検出範囲Z2とにそれぞれ電波を送信するとともに第1検出範囲Z1及び第2検出範囲Z2からの電波を受信し第1検出範囲Z1又は第2検出範囲Z2に存在する人体Mとの距離の変化速度に応じた周波数のドップラ信号を生成するものである。
【0018】
より詳しく説明すると、送受信回路1は、所定の送信周波数(例えば24GHz)の送信信号を生成する発振器11と、送信信号を入力されることにより送信周波数の電波である送信波を第1検出範囲Z1に対して送信する第1送信アンテナ12aと、送信信号を入力されることにより送信周波数の電波である送信波を第2検出範囲Z2に対して送信する第2送信アンテナ12bと、送信信号を第1送信アンテナ12aと第2送信アンテナ12bとの一方に択一的に入力する切替スイッチ13と、第1送信アンテナ12aから送信された送信波が第1検出範囲Z1において反射された電波である第1反射波と第2送信アンテナ12bから送信された送信波が第2検出範囲Z2において反射された電波である第2反射波とをそれぞれ受信して受信信号に変換する受信アンテナ14と、発振器11が出力した送信信号と受信アンテナ14が出力した受信信号とを混合するミキサ15とを有する。すなわち、第1送信アンテナ12aと受信アンテナ14とミキサ15とが請求項における第1アンテナ部を構成し、第2送信アンテナ12bと受信アンテナ14とミキサ15とが請求項における第2アンテナ部を構成しており、図3の例では第1アンテナ部と第2アンテナ部とで受信アンテナ14とミキサ15とが共用とされている。ところで、送信信号と受信信号とを混合(乗算)した信号は、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数を有するドップラ信号と、送信信号の周波数と受信信号の周波数との和の周波数を有する信号(以下、「和信号」と呼ぶ。)とが互いに加算された信号となっているが、本実施形態のミキサ15には上記の和信号を選択的に減衰させるローパスフィルタが一体化されており、ミキサ15から信号処理回路2にはドップラ信号が出力される。
【0019】
図2(a)(b)に示すように、第1検出範囲Z1と第2検出範囲Z2とはそれぞれ送受信回路1から鉛直下方に下ろした垂線を中心軸とする円錐形状となっており、図2(b)に示すように第1検出範囲Z1の床面上での輪郭と第2検出範囲Z2の床面上での輪郭とは互いに同心円状となっている。
【0020】
信号処理回路2は、送受信回路1が出力したドップラ信号を増幅して出力する増幅部21と、増幅部21が出力したドップラ信号に基いて検出範囲に移動物体が存在するか否かを判定する判定部22とを有する。増幅部21は、検出すべき移動物体である人体Mの移動速度に対応したドップラ信号の周波数を選択的に増幅するような周波数特性を有する。
【0021】
また、判定部22は、ドップラ信号の強度(電圧値)を所定の判定閾値と比較し、ドップラ信号の強度が判定閾値以上である期間には人体Mが存在していると判定し、ドップラ信号の強度が判定閾値未満である期間には人体Mが存在していないと判定して、判定結果に応じた出力を生成する。判定部22による判定結果は、例えば、電気的な光源をオンオフする照明制御システム(図示せず)において、移動物体(主に人体M)が存在すると判定されたときに光源を点灯させ、移動物体が存在すると判定されないまま所定の点灯保持時間が経過したときに光源を消灯させるといった制御に用いられる。
【0022】
さらに、判定部22は、切替スイッチ13の制御も行うものであって、人体Mが存在していると判定された後に人体Mが存在していないとの判定が所定の遅れ時間継続するまでの期間(以下、「検出期間」と呼ぶ。)には所定の切替時間(例えば0.5msec)おきに定期的に切替スイッチ13を切替制御することで第1送信アンテナ12aと第2送信アンテナ12bとに上記の切替時間ずつ交互に送信信号を入力するという交互切替動作を行い、検出期間以外の期間(以下、「非検出期間」と呼ぶ。)には送信信号が第1送信アンテナ12aに入力されるように切替スイッチ13を制御するという固定接続動作を行う。つまり、非検出期間には比較的に立体角の大きい第1検出範囲Z1が維持される。本実施形態を上記のような照明制御システムに用いる場合において、上記の点灯保持時間と遅れ時間とを互いに一致させる場合、上記の検出期間は光源の点灯を継続させる期間に一致し、上記の非検出期間は光源の消灯を継続させる期間に一致する。
【0023】
上記のような送受信回路1及び信号処理回路2はそれぞれ周知技術で実現可能であるので、詳細な図示並びに説明は省略する。
【0024】
上記構成によれば、第1送信アンテナ12aにより比較的に広い第1検出範囲Z1の人体Mの検出を可能としながらも、比較的に感度が低下する鉛直下方に関しては第1検出範囲Z1よりも立体角が絞られた第2検出範囲Z2に送信波を照射する第2送信アンテナ12bを用いることで感度を確保することができる。また、第2送信アンテナ12bと切替スイッチ13とを追加するだけでよいので、鉛直下方に関する感度を熱線センサのような他種のセンサで確保する場合に比べ、製造コストの増大や大型化が抑えられる。さらに、単純に送信信号の強度を増すことで検出範囲の広さと鉛直下方向附近の立体角に対する感度とを共に確保しようとする場合に比べ、消費電力が低減される。
【0025】
なお、検出期間であるか非検出期間であるかに関わらず交互切替動作が行われるようにしてもよい。
【0026】
また、図1に示すように、送信アンテナ12a,12bに一対一に対応して受信アンテナ14a,14bとミキサ15a,15bとを2組設けてもよい。図1の例では、各送信アンテナ12a,12bは対応する1組ずつの受信アンテナ14a,14b及びミキサ15a,15bとともにアンテナ部1a,1bを構成しており、このうち第1検出範囲Z1に対応する一方が第1アンテナ部1aとなり、第2検出範囲Z2に対応する一方が第2アンテナ部1bとなっている。各アンテナ部1a,1bにおいて、各ミキサ15a,15bの出力端はそれぞれ信号処理回路2の増幅部21に接続され、各ミキサ15a,15bの一方の入力端はそれぞれ対応する受信アンテナ14a,14bに接続され、各ミキサ15a,15bの他方の入力端は対応する送信アンテナ12a,12bとともに切替スイッチ13の一方ずつの切替接点に接続されている。つまり、各ミキサ15a,15bは、それぞれ、対応する送信アンテナ12a,12bに送信信号が入力されている期間のみ、送信信号が入力されて出力を発生させており、対応する送信アンテナ12a,12bに送信信号が入力されていない期間には、対応する受信アンテナ14a,14bの出力に関わらず、出力を発生させない。各受信アンテナ14a,14bは、それぞれ、対応する送信アンテナ12a,12bによる検知範囲Z1,Z2からの反射波が受信できればよい。この場合であっても、2個の検出範囲Z1,Z2で発振器11と信号処理回路2とは共用とされるので、鉛直下方に関する感度を熱線センサのような他種のセンサで確保する場合に比べれば、製造コストの増大や大型化は抑えられる。
【符号の説明】
【0027】
1 送受信回路
1a 第1アンテナ部
1b 第2アンテナ部
2 信号処理回路
11 発振器
FL 床面
M 人体(請求項における移動物体)
Z1 第1検出範囲
Z2 第2検出範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面上を移動する移動物体を検出するドップラセンサであって、
移動物体よりも高い位置に配置され、鉛直下方を含む所定の第1検出範囲と鉛直下方を含み且つ立体角が第1検出範囲よりも小さい第2検出範囲とにそれぞれ電波を送信するとともに第1検出範囲及び第2検出範囲からの電波を受信し第1検出範囲又は第2検出範囲に存在する移動物体との距離の変化速度に応じた周波数のドップラ信号を少なくとも含む出力を生成する送受信回路と、
送受信回路の出力に含まれるドップラ信号に基いて第1の検出範囲及び第2の検出範囲における移動物体の有無を判定する信号処理回路とを備え、
送受信回路は、所定の送信周波数の送信信号を生成する発振器と、送信信号を入力されることにより送信周波数の電波である送信波を第1検出範囲に対して送信するとともに反射波を受信して送信波の周波数と反射波の周波数の差の周波数を有するドップラ信号を信号処理回路に出力する第1アンテナ部と、送信信号を入力されることにより送信周波数の電波である送信波を第2検出範囲に対して送信するとともに反射波を受信して送信波の周波数と反射波の周波数の差の周波数を有するドップラ信号を信号処理回路に出力する第2アンテナ部と、信号処理回路によって制御され送信信号を第1アンテナ部と第2アンテナ部との一方に択一的に入力する切替スイッチとを有することを特徴とするドップラセンサ。
【請求項2】
第2検出範囲は全体が第1検出範囲に包含されていることを特徴とする請求項1記載のドップラセンサ。
【請求項3】
信号処理回路は切替スイッチを定期的に切り替えることで送信信号を第1アンテナ部と第2アンテナ部とに交互に入力することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のドップラセンサ。
【請求項4】
信号処理回路は、検出範囲に移動物体が存在すると判定されてから検出範囲に移動物体が存在すると判定されないまま所定の遅れ時間が経過するまでの期間以外には、送信信号を第1アンテナ部に入力する状態に切替スイッチを維持することを特徴とする請求項2記載のドップラセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223714(P2010−223714A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70482(P2009−70482)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】