説明

ドライバ状態判定装置

【課題】ドライバの意識低下状態を精度よく判定できるドライバ状態判定装置を提供すること。
【解決手段】車両のドライバが意識低下状態であるか否かを判定するドライバ状態判定装置において、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1より大きいか否かを判定し(S16)、大きい場合には接近状態値d(n)が第1閾値A1より大きいか否かの判定を行い(S18)、大きい場合には意識低下判定を行う。また、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下の場合は、接近状態値d(n)が第1閾値A1より大きな第2閾値A2を上回っているか否かの判定を行い(S20)、上回っている場合に限り意識低下判定を行う。このように、接近状態予測値dp(n)が小さいときは意識低下の判定閾値を大きくすることにより、車両が一時的に且つ意識的に先行車に近づいた場合における誤判定が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドライバの意識低下状態を判定するドライバ状態判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のドライバの意識低下状態を判定する技術として、ドライバの所定の運転操作を検出して、ドライバの状態を確認したりドライバを覚醒させたりする技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、先行車の有無を考慮してドライバの覚醒度の判定を行うことにより、その判定精度を向上させたドライバ状態判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−173929号公報
【特許文献2】特表2008−542935号公報
【特許文献3】特開平11−034773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような技術にあっては、所定の運転操作において、ドライバの意識低下状態を精度よく判定できないという問題点がある。具体的には、先行車との車間距離の変化や先行車との相対速度の変化等、先行車への接近状態に基づいてドライバの意識低下判定を行う場合、ドライバの意識低下により先行車に近づいているのか、又はドライバが先行車を追い越すため若しくは自車や先行車の状態を先読みするために意識的に先行車に近づいているのか、の切り分けができない。よって、ドライバの意識が低下していないにもかかわらず低下したものと判定する誤判定が増加する可能性があり、覚醒状態のドライバに警報を発し煩わしさを与えるおそれがあるという問題がある。そこで、先行車への接近状態に加えてドライバの無操作状態を加味してドライバの意識低下状態を判定する方法が考えられる。
【0005】
上記のようにドライバの無操作状態を加味した場合は、ドライバが意識的にアクセル等の操作を行って先行車に近づいた場合を意識低下状態から除外することが可能になるため、ドライバの意識低下判定の精度を上げることができる。しかしながら、上記の方法を用いた場合でも、例えば、ドライバの先行車追従時における車間調整操作の後において、無操作(例えば、アクセルオフ)で先行車に瞬間的に接近したようなときには、ドライバが意識低下状態でないにもかかわらず意識が低下したものと判定され、不要な警報が出力されるおそれがある。このように、ドライバの意識低下の判定においては、未だ改善の余地が大きい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ドライバの意図的な接近による意識低下の誤判定を抑制することにより、ドライバの意識低下状態の判定精度を向上させたドライバ状態判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る意識低下判定装置は、車両のドライバが意識低下状態であるか否かを判定するドライバ状態判定装置において、前記車両と前記車両の前方に位置する先行車との現在の接近度合いを接近状態値として算出する接近状態算出手段と、前記車両と前記先行車との将来の接近度合いを接近状態予測値として算出する接近状態予測手段と、前記接近状態算出手段により算出された接近状態値が判定閾値を上回ったときに前記車両のドライバの意識が低下したものと判定するものであって、前記接近状態予測手段により算出された接近状態予測値と比較して前記接近状態算出手段により算出された接近状態値が所定値以上かけ離れているときに前記判定閾値を意識低下と判定されにくくなるように変更する意識低下判定手段とを備えて構成されている。
【0008】
この発明によれば、接近状態算出手段が現在における接近度合いを算出するとともに接近状態予測手段が将来の接近度合いを算出し、意識低下判定手段は、接近状態予測値に対して接近状態値が所定値以上かけ離れているときには、ドライバの意図的な運転操作があったものとして判定閾値を意識低下と判定されにくくなるように変更する。このため、ドライバが意識低下状態であることにより先行車に接近したのか、それとも、ドライバが意識的に先行車に自車を近づけたのか、の切り分けが可能となるため、ドライバの意識低下の判定精度を向上させることができる。
【0009】
また、本発明に係るドライバ状態判定装置において、前記意識低下判定手段は、前記接近状態予測手段により算出された接近状態予測値が第1の閾値より大きいときに前記判定閾値を前記第1の閾値とし、前記接近状態予測手段により算出された接近状態予測値が前記第1の閾値以下であるときに前記判定閾値を前記第1の閾値よりも大きな値である第2の閾値に変更する。すなわち、接近状態予測値が第1の閾値以下であって将来の接近度合いが小さいと予測されるときには、判定閾値を上げることにより意識低下と判定されにくくなる。このため、将来自車が先行車に接近しないと予測される場合であって、ドライバの意図的な運転操作により一時的に自車が先行車に近づいたときには、意識低下状態でないと判定され、不要警報を抑制することが可能になる。従って、ドライバの意識低下の判定精度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係るドライバ状態判定装置において、前記接近状態予測手段は、過去に前記接近状態算出手段により算出された接近状態値に基づいて、接近状態予測値を算出することが好ましい。
【0011】
この発明によれば、接近状態予測手段が、過去の接近状態値に基づいて、接近状態予測値を算出することにより、瞬間的な接近状態だけでなくこれまでの長期間のトレンドを捉えて将来の接近状態を予測することが可能になる。従って、接近状態予測手段の予測値の算出における正確性を向上させることが可能になるため、ドライバの意識低下の判定精度を更に向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係るドライバ状態判定装置において、前記接近状態予測手段は、前記車両の車速、前記車両の加速度、並びにアクセルペダル及びブレーキペダルの操作状態、の少なくともいずれかに基づいて接近状態予測値を算出することが好ましい。
【0013】
この発明によれば、自車の車速、加速度、並びにアクセルペダル及びブレーキペダルの操作状態の少なくともいずれかに基づいて接近状態が予測されるため、自車と先行車との位置関係又は走行状態に基づいて接近状態予測値を算出し、自車が先行車に接近しているか否かをより客観的に判定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自車と先行車との接近状態について、現在の接近状態を算出するとともに将来の接近状態を予測し、予測した将来の接近状態予測値に対して実際の接近状態値が所定値以上乖離している場合は判定閾値を大きくすることにより意識低下と判定されにくくなるため、ドライバの意図的な運転操作による先行車への一時的な接近を意識低下状態から除外することが可能となり、ドライバの意識低下状態をより精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るドライバ状態判定装置の概要を示すブロック図である。
【図2】図1のドライバ状態判定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1のドライバ状態判定装置において、算出された接近状態値及び接近状態予測値の値を時系列で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、同一要素又は同一相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るドライバ状態判定装置1の概要構成を示すブロック図である。ドライバ状態判定装置1は、車両に搭載され、車両のドライバの意識が低下しているか否かを判定する装置である。
【0018】
このドライバ状態判定装置1は、前方検知部2、自車速度センサ3、自車加速度センサ4、操舵角センサ5、アクセル開度センサ6、ブレーキ開度センサ7、ブレーキスイッチ8、ECU(Electronic Control Unit)9及び警報部10を備えて構成されている。
【0019】
前方検知部2は、車両の前方を検知する前方検知手段として機能するものであり、例えば、車両前部に取り付けられ、レーザ光を前方に照射しその反射光によって先行車の有無等を検出するセンサが用いられる。また、前方検知部2は、例えば車両の前方を撮像するカメラであってもよく、この場合、その撮像画像ないし撮像映像を、障害物有無の検知、走行路の白線検知に用いることができる。前方検知部2はECU9と接続され、その出力信号はECU9に入力される。
【0020】
自車速度センサ3は、自車の車速を検出する車速検出手段として機能するものであり、例えば車輪速センサが用いられる。自車速度センサ3は、ECU9と接続され、その出力信号は、ECU9に入力される。
【0021】
自車加速度センサ4は、自車の加速度を検出する加速度検出手段として機能するものであり、例えば、自車の前部に設けられ、自車の前後加速度と横加速度を検出する加速度センサが用いられる。自車加速度センサ4は、ECU9と接続され、その出力信号は、ECU9に入力される。
【0022】
操舵角センサ5は、車両のハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段として機能するものである。この操舵角センサ5としては、例えば、ステアリングシャフトの回転角を検出する操舵角センサが用いられる。この操舵角センサ5は、ECU9と接続され、その出力信号は、ECU9に入力される。なお、操舵角センサ5に代えて、操舵トルクセンサを用いてもよい。この場合、操舵トルクが出力する操舵トルク値に基づいてハンドルの操舵角が演算される。また、ハンドルの操舵角が取得できるものであれば、操舵角センサ5に代えて、いずれのものを用いてもよい。
【0023】
アクセル開度センサ6は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度検出手段として機能するものである。アクセル開度センサ6は、ECU9に接続され、その出力信号は、ECU9に入力される。
【0024】
ブレーキ開度センサ7は、ブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキ開度)を検出するブレーキ開度検出手段として機能するものである。ブレーキ開度センサ7は、ECU9に接続され、その出力信号は、ECU9に入力される。
【0025】
ブレーキスイッチ8は、ドライバによるブレーキペダルの操作状態を検出するブレーキペダル操作検出手段として機能するものであり、例えば車室内におけるブレーキペダルに取り付けられている。ブレーキスイッチ8は、ECU9と接続され、ドライバがブレーキペダルを操作してブレーキ動作をした際にON信号を出力し、このON信号がECU9に入力される。
【0026】
ECU9は、ドライバ状態判定装置1の装置全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を含むコンピュータを主体とし、入力信号回路、出力信号回路及び電源回路を含んで構成される。
【0027】
ECU9は、情報取得部91、情報格納部92、接近状態算出部93、接近状態予測部94、意識低下判定部95及び警報制御部96を少なくとも有している。
【0028】
情報取得部91は、前方検知部2、自車速度センサ3、自車加速度センサ4、操舵角センサ5、アクセル開度センサ6、ブレーキ開度センサ7及びブレーキスイッチ8から出力される各種信号を繰り返し取得して、各々の信号を情報格納部92に格納させる。また、情報取得部91は、操舵角センサ5から入力された信号に基づいて操舵速度を演算する機能、アクセル開度センサ6から入力された信号に基づいてアクセルペダルの踏み込み速度(アクセル踏み込み速度)を演算する機能、ブレーキ開度センサ7から入力された信号に基づいてブレーキペダルの踏み込み速度(ブレーキ踏み込み速度)を演算する機能、並びに後述する衝突余裕度TTC、車間時間THW及び接近感指標PREの値を演算する機能を有する。情報取得部91は、演算した上記の操舵速度、アクセル踏み込み速度、ブレーキ踏み込み速度、衝突余裕度TTC、車間時間THW及び接近感指標PREを情報格納部92に格納させる。
【0029】
接近状態算出部93は、自車と自車の前方に位置する先行車との現在の接近度合いを示す接近状態値を算出するものであり、接近状態算出手段として機能する。接近状態算出部93は、例えば以下に示す第1〜第4の接近状態算出方法により接近状態値を算出する。この接近状態値は、大きければ大きいほど自車が先行車に接近していることを示し、小さければ小さいほど自車が先行車から離れていることを示す。以下で、第1〜第4の接近状態算出方法について説明する。
【0030】
第1の接近状態算出方法は、前方検知部2により検出された自車と先行車との車間距離Dの逆数を算出して、これを接近状態値として利用する方法である。なお、車間距離Dの逆数に代えてこの逆数に所定の加減乗除を施した値を接近状態値として利用してもよい。
【0031】
第2の接近状態算出方法は、先行車に対する自車の接近度合いを示す物理量である衝突余裕度TTCを用いる方法である。この衝突余裕度TTCの値が大きいほど衝突する可能性が低く、値が小さいほど衝突する可能性が高い。衝突余裕度TTCは、次の式(1)により演算することができる。
【数1】

【0032】
式(1)において、Dは車間距離、Vrは先行車に対する自車の相対速度である。
【0033】
第2の接近状態算出方法において接近状態算出部93は、衝突余裕度TTCの逆数を接近状態値として利用する。なお、この逆数に代えてこの逆数に所定の加減乗除を施した値を接近状態値として利用してもよい。
【0034】
第3の接近状態算出方法は、自車が先行車に到達するまでの時間に関する指標である車間時間THWを用いる方法である。車間時間THWの値が大きいほど自車は先行車から離れており、値が小さいほど自車は先行車に接近している。車間時間THWは、次の式(2)により演算することができる。
【数2】

【0035】
式(2)において、Dは車間距離、Vsは自車の車速である。
【0036】
第3の接近状態算出方法において接近状態算出部93は、車間時間THWの逆数を接近状態値として利用する。なお、この逆数に代えてこの逆数に所定の加減乗除を施した値を接近状態値として利用してもよい。
【0037】
第4の接近状態算出方法は、自車が先行車に接近している感覚(接近感)を示す指標である接近感指標PREを利用する方法である。接近感指標PREの値が大きいほど自車は先行車に接近しており、値が小さいほど自車は先行車から離れている。接近感指標PREは、次の式(3)により演算することができる。
【数3】

【0038】
式(3)において、Vrは相対速度、Vsは自車の車速、Axは相対加速度、Dは車間距離、α及びβは所定の係数、nは所定の1以下の正の実数である。
【0039】
第4の接近状態算出方法において接近状態算出部93は、接近感指標PREを接近状態値として利用する。なお、接近感指標PREに所定の加減乗除を施した値を接近状態値としてもよい。
【0040】
接近状態算出部93は、上述した第1〜第4のいずれかの接近状態算出方法を用いて、自車がどの程度先行車に近づいているかの指標を示す接近状態値を算出する。接近状態算出部93により算出された接近状態値は随時情報格納部92に格納される。なお、接近状態値としては、必ずしも上記第1〜第4の接近状態算出方法により得られた値を用いなければならないわけではなく、別の方法を用いて算出した接近状態値を利用してもよい。
【0041】
接近状態予測部94は、自車と先行車との将来の接近度合いを接近状態予測値として算出するものであり、接近状態予測手段として機能する。接近状態予測値は、将来接近状態算出部93により算出される接近状態値の予測値であり、接近状態値同様、大きければ大きいほど接近していることを示し、小さければ小さいほど離れていることを示す。接近状態予測部94は、接近状態算出部93の接近状態値の算出に合わせて繰り返し接近状態予測値を算出し、算出した値は随時情報格納部92に格納される。
【0042】
以下で、接近状態予測部94による接近状態予測値の算出方法の例について説明する。まず、nを自然数として、n回目に接近状態算出部93が算出すると予測される接近状態予測値を接近状態予測値dp(n)、接近状態算出部93が実際にn回目に算出した接近状態値を接近状態値d(n)、としたとき、接近状態予測部94は、例えば、nが4以上の自然数のときは以下のテイラー2次展開を用いて、接近状態予測値dp(n)を算出する。
【数4】

【0043】
また、n=2のときはdp(2)=d(1)、n=3のときはdp(3)=d(2)+(d(2)−d(1))、として接近状態予測値dp(n)を算出する。
【0044】
このように、接近状態予測部94は、2次テイラー展開を用いた場合、過去3回分の接近状態値(d(n−1)、d(n−2)及びd(n−3))を用いてn回目の接近状態予測値dp(n)を算出することにより、過去の接近状態のトレンドを考慮してより正確な接近状態予測値dp(n)を算出することができる。
【0045】
なお、上記では、接近状態予測部94が、2次テイラー展開を利用してn回目の接近状態予測値dp(n)を算出する例について示したが、接近状態予測部94の接近状態予測値の算出方法はこれに限定されない。すなわち、1次若しくは3次以上のテイラー展開を利用してもよいし、又はテイラー展開に代えて別の方法を利用するようにしてもよい。
【0046】
更に、接近状態予測部94は、自車速度センサ3により得られた自車の速度、自車加速度センサ4により得られた自車の加速度、操舵角センサ5により得られた操舵状態、アクセル開度センサ6により得られたアクセルの操作状態、ブレーキ開度センサ7により得られたブレーキの操作状態、及び/又はブレーキスイッチ8の状態、をも加味して接近状態予測値を算出するようにしてもよい。すなわち、例えば、自車の速度若しくは加速度が大きい場合又はアクセルペダルが踏み込まれた場合は接近状態予測値の値を大きくし、ブレーキペダルが踏み込まれた場合又はブレーキスイッチ8がON状態になった場合は接近状態予測値を小さくするようにしてもよい。
【0047】
意識低下判定部95は、接近状態算出部93により算出された接近状態値d(n)が意識低下の判定に用いる判定閾値を上回ったときに、車両のドライバの意識が低下したものと判定するものであり、意識低下判定手段として機能する。すなわち、意識低下判定部95は、接近状態算出部93により算出された接近状態値d(n)及び接近状態予測部94により算出された接近状態予測値dp(n)に基づいて、ドライバの意識が低下したか否かを判定する。
【0048】
また、意識低下判定部95は、接近状態予測値dp(n)に対して接近状態値d(n)が所定値以上かけ離れているときに、上記判定閾値を、意識低下と判定されにくくなるように変更する閾値変更手段としても機能する。すなわち、意識低下判定部95は、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1より大きいときには判定閾値をそのまま第1閾値A1とするが(図3(a)及び(b))、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下であるときには判定閾値を第1閾値A1よりも大きな値である第2閾値A2とする(図3(c),(d)及び(e))。
【0049】
よって、意識低下判定部95は、接近状態予測値dp(n)及び接近状態値d(n)が共に第1閾値A1より大きいとき(図3(a))、又は接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下であってかつ接近状態値d(n)が第2閾値A2を上回るときに(図3(c))、自車のドライバの意識が低下したものと判定する。一方、この意識低下判定部95は、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下であってかつ接近状態値d(n)が第2閾値A2以下である場合(図3(d)及び(e))、又は接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1より大きくかつ接近状態値d(n)が第1閾値A1以下である場合(図3(b))には、ドライバが意識低下状態でないと判定する。
【0050】
警報制御部96は、警報部10の作動を制御する警報制御手段として機能するものであり、ドライバが意識低下状態であると判定された場合に警報部10に対し警報制御信号を出力する。
【0051】
上述した情報取得部91、情報格納部92、接近状態算出部93、接近状態予測部94、意識低下判定部95及び警報制御部96は、それらの機能ないし処理が実行できるものであれば、個別のハードウェアによって構成されていてもよい。
【0052】
警報部10は、自車のドライバに警報を与える警報手段であって、ECU9から出力される警報制御信号に応じて作動する。この警報部10としては、ドライバの聴覚、視覚、又は触覚を通じてドライバに警報を与えるものが用いられる。例えば、警報部10としては、スピーカ、ブザー、ナビゲーションシステムのモニタ、ディスプレイ、ランプ、LED、ハンドル又はシートに設置される振動装置等が用いられる。
【0053】
次に、本実施形態に係るドライバ状態判定装置1の動作について説明する。
【0054】
図2は、ドライバ状態判定装置1の動作を示すフローチャートである。図3は、ドライバ状態判定装置1において、接近状態算出部93により算出された接近状態値d(n)、及び接近状態予測部94により算出された接近状態予測値dp(n)の値を時系列で示したグラフである。図2のフローチャートに示される一連の制御処理は、例えばECU9によって予め定められた周期(例えば100ms)で繰り返し実行される。なお、上記nの値は、一連の制御処理の実行の度に1ずつインクリメントされる。
【0055】
このフローチャートの制御処理は、例えば車両のイグニッションオンによって開始され、まずステップS10(以下、「S10」という。他のステップにおいても同様とする。)にて、センサ情報の読み込み処理が行われる。このセンサ情報の読み込み処理は、前方検知部2、自車速度センサ3、自車加速度センサ4、操舵角センサ5、アクセル開度センサ6、ブレーキ開度センサ7及びブレーキスイッチ8の出力信号に含まれるセンサ信号をそれぞれ情報取得部91が取得し情報格納部92に格納する処理である。
【0056】
次に、S12に処理が移行し、接近状態予測値算出処理が行われる。接近状態予測値算出処理は、n回目の接近状態値d(n)の予測値である接近状態予測値dp(n)を算出する処理であり、接近状態予測部94により実行される。この接近状態予測値dp(n)としては、上述したように、自車と先行車との車間距離の逆数、衝突余裕度TTCの逆数、車間時間THWの逆数、又は接近感指標PRE等を用いることができるが、接近状態値d(n)で用いているものと同一のものが利用される。
【0057】
また、S12におけるdp(n)の算出においてテイラー2次展開を利用する場合は、情報格納部92に格納されている過去の3回分の接近状態値d(n−1),d(n−2)及びd(n−3)に基づいて接近状態予測値dp(n)が算出され、図3(a)〜(d)の各グラフに示すように、過去の接近状態値d(n−1),d(n−2)及びd(n−3)のトレンドを加味した接近状態予測値dp(n)が算出される。なお、このS12の接近状態予測値算出処理は、図2に示す一連の制御処理とは別の処理として実行されてもよい。
【0058】
そして、S14に処理が移行し、接近状態値算出処理が行われる。接近状態値算出処理は、現在の自車の先行車に対する接近状態を示す指標となる接近状態値d(n)を算出する処理であり、接近状態算出部93により実行される。具体的には、例えば上述したように、自車と先行車との車間距離の逆数、衝突余裕度TTCの逆数、車間時間THWの逆数、又は接近感指標PRE等の値が接近状態算出部93により接近状態値d(n)として算出される。
【0059】
そして、S16に処理が移行し、接近状態予測値判定処理が行われる。この判定処理は、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1より大きいか否かを判定する処理であり、意識低下判定部95により実行される。そして、S16において接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1より大きい場合、すなわち、自車の先行車に対する接近状態値d(n)が上昇トレンドにある場合は、S18に処理が移行し、S16にて接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下の場合、すなわち、接近状態値d(n)が上昇トレンドにない場合は、S20に処理が移行する。
【0060】
S18及びS20では、接近状態値判定処理が行われる。この判定処理は接近状態値d(n)と、第1閾値A1又は第1閾値A1より大きな値である第2閾値A2との大小を比較する処理であり、意識低下判定部95により実行される。具体的に、S18では、接近状態値d(n)が第1閾値A1より大きいか否かが判定され、S20では、接近状態値d(n)が第2閾値A2より大きいか否かが判定される。なお、第1閾値A1及び第2閾値A2は、予めECU9に設定される値が用いられる。
【0061】
そして、S18において接近状態値d(n)が第1閾値A1より大きい場合(図3(a))、又はS20において接近状態値d(n)が第2閾値A2より大きい場合(図3(c))、にはS24に処理が移行する。また、S18において接近状態値d(n)が第1閾値A1以下である場合(図3(b))、又はS20において接近状態値d(n)が第2閾値A2以下である場合(図3(d)及び(e))、にはS22に処理が移行する。
【0062】
S22では、意識低下判定部95によりドライバの意識が低下していないと判定され、一連の処理を終了する。このとき例えば、ドライバの意識低下状態を認識するためのフラグがオフとされ、そのフラグによりドライバが意識低下状態でないことが認識される。
【0063】
一方、S24では、意識低下判定処理が行われる。意識低下判定処理は、接近状態予測値dp(n)及び接近状態値d(n)が共に第1閾値A1より大きいとき、又は接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下であってかつ接近状態値d(n)が第2閾値A2を上回るときに、ドライバが意識低下状態であると判定し認識する処理である。このとき例えば、ドライバの意識低下状態を認識するためのフラグがオンとされ、そのフラグによりドライバが意識低下状態であることが認識される。
【0064】
そして、S26に処理が移行し、警報処理が行われる。警報処理は、警報部10に対し警報制御信号を出力する処理である。この警報処理により、警報部10がドライバに対し警報動作、例えば音声若しくは警報音を発したり、モニタ若しくはディスプレイに警報表示を行ったり、ハンドル若しくはシートに警報振動を与えたりする。これにより、ドライバは意識低下状態から覚醒状態となる。S26の処理を終えたら、一連の制御処理が終了する。
【0065】
以上のように、本実施形態に係るドライバ状態判定装置によれば、接近状態算出部93が、自車と先行車との現在の接近度合いを示す接近状態値d(n)を算出するとともに、接近状態予測部94が、自車と先行車との将来の接近度合いを接近状態予測値dp(n)として算出する。そして、意識低下判定部95は、接近状態予測値dp(n)及び接近状態値d(n)が共に第1閾値A1より大きいとき、又は接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下であって接近状態値d(n)が第1閾値A1より大きな第2閾値A2を上回るときに、ドライバの意識が低下したものと判定する。
【0066】
このように、本実施形態に係るドライバ状態判定装置によれば、接近状態予測値dp(n)に対して実際の接近状態値d(n)が所定値以上かけ離れているときには、判定閾値を大きくすることにより、ドライバの意識が低下したものと判定されにくくなる。よって、自車が先行車に接近していない状態からドライバが意図的に自車を先行車に近づけたときには意識低下状態でないと判定されるため、不要警報を抑制することが可能となる。従って、ドライバの意識低下の判定精度を上げることができる。
【0067】
また、本実施形態に係るドライバ状態判定装置では、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1以下であって、自車と先行車との将来の接近度合いが小さい、すなわち将来において先行車に接近しないと予測されるときには、判定閾値を大きくすることにより、ドライバの意識が低下したものと判定されにくくなる。よって、将来先行車に接近しないと予測される場合において意識的にかつ瞬間的に自車が先行車に近づいたときには、意識低下状態でないと判定され不要警報を抑制することが可能になる。従って、ドライバの意識低下の判定精度を上げることができる。
【0068】
また、本実施形態に係るドライバ状態判定装置では、接近状態予測部94が、例えばテイラー2次展開により、過去の接近状態値であるd(n−1),d(n−2)及びd(n−3)等を用いて接近状態予測値dp(n)を算出する。これにより、接近状態値d(i)のトレンドを加味して接近状態予測値dp(n)の算出を行うことが可能になるため、意識低下の判定精度を更に向上させることができる。
【0069】
また、本実施形態に係るドライバ状態判定装置では、自車速度センサ3により得られた自車の速度、自車加速度センサ4により得られた自車の加速度、アクセル開度センサ6により得られたアクセルの操作状態、ブレーキ開度センサ7により得られたブレーキの操作状態、の少なくともいずれかに基づいて接近状態予測値を算出することもできる。これにより、自車と先行車との位置関係又は走行状態等を加味して、客観的な観点で、接近状態予測値の算出を行うことが可能となる。
【0070】
なお、上述した実施形態は本発明に係るドライバ状態判定装置の実施形態を説明したものであり、本発明に係るドライバ状態判定装置は本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。本発明に係るドライバ状態判定装置は、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係るドライバ状態判定装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0071】
例えば、上述した実施形態では、接近状態予測値dp(n)が第1閾値A1より小さく接近状態値d(n)が上昇トレンドにない場合に、第1閾値A1より大きな値である第2閾値A2を意識低下判定に用いる例について説明したが、この例に限られることはない。具体的には、例えば上記に代えて、接近状態予測値dp(n)が所定の閾値より大きく接近状態値d(n)が上昇トレンドにある場合に、上記所定の閾値より小さな値を閾値として意識低下判定に用いるようにしてもよい。この場合、接近状態値d(n)が上昇トレンドにあるときに判定閾値を小さくすることにより、上昇トレンドを検出したときに限り意識低下判定がされやすくなるため、上記実施形態同様、ドライバの意識低下判定の精度を向上させることができる。
【0072】
また、上述した実施形態では、第1閾値A1及び第2閾値A2を用いて意識低下判定部95が判定を行う例について説明したが、第1閾値A1及び第2閾値A2を必ず用いなければならないわけではない。すなわち、意識低下判定部95が、単純に接近状態値d(n)と接近状態予測値dp(n)の値の比較のみを行って意識低下判定をしてもよい。具体的には、上記の値の差分が所定値以上の場合にはドライバが意図的な運転操作をしたものとして意識低下状態でないと判定し、上記所定値未満の場合にはドライバが無操作状態で先行車に接近しているものして意識低下状態であると判定してもよい。
【0073】
また、意識低下判定部95が意識低下状態であると判定したときに、警報制御部96により、警報部10から警報がドライバに発せられる例について説明したが、必ずしもこの警報制御部96及び警報部10を用いなければならないわけではない。具体的には、意識低下状態であると判定したときに、自車を先行車から離すよう減速処理を行うようにしてもよい。
【0074】
また、図2のS16、S18及びS20の判定処理は、その順番を入れ替えて処理を実行してもよい。そして、図2の一連の制御処理において、本実施形態に係るドライバ状態判定装置の作用効果が得られれば、その一部の処理を省略し又は追加の処理を行って実行してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…ドライバ状態判定装置、2…前方検知部、3…自車速度センサ、4…自車加速度センサ、5…操作角センサ、6…アクセル開度センサ、7…ブレーキ開度センサ、8…ブレーキスイッチ、9…ECU、10…警報部、91…情報取得部、92…情報格納部、93…接近状態算出部、94…接近状態予測部、95…意識低下判定部、96…警報制御部。A1…第1閾値(第1の閾値)、A2…第2閾値(第2の閾値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバが意識低下状態であるか否かを判定するドライバ状態判定装置において、
前記車両と前記車両の前方に位置する先行車との現在の接近度合いを接近状態値として算出する接近状態算出手段と、
前記車両と前記先行車との将来の接近度合いを接近状態予測値として算出する接近状態予測手段と、
前記接近状態算出手段により算出された接近状態値が判定閾値を上回ったときに前記車両のドライバの意識が低下したものと判定するものであって、前記接近状態予測手段により算出された接近状態予測値と比較して前記接近状態算出手段により算出された接近状態値が所定値以上かけ離れているときに前記判定閾値を意識低下と判定されにくくなるように変更する意識低下判定手段と、
を備えたことを特徴とするドライバ状態判定装置。
【請求項2】
前記意識低下判定手段は、前記接近状態予測手段により算出された接近状態予測値が第1の閾値より大きいときに前記判定閾値を前記第1の閾値とし、前記接近状態予測手段により算出された接近状態予測値が前記第1の閾値以下であるときに前記判定閾値を前記第1の閾値よりも大きな値である第2の閾値に変更する、
請求項1に記載のドライバ状態判定装置。
【請求項3】
前記接近状態予測手段は、過去に前記接近状態算出手段により算出された接近状態値に基づいて、接近状態予測値を算出する、
請求項1又は2に記載のドライバ状態判定装置。
【請求項4】
前記接近状態予測手段は、前記車両の車速、前記車両の加速度、並びにアクセルペダル及びブレーキペダルの操作状態、の少なくともいずれかに基づいて接近状態予測値を算出する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のドライバ状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−234292(P2012−234292A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101585(P2011−101585)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】