説明

ドライブシャフト

【課題】 部品点数および組立工数の低減や、外側継手部材の軸方向寸法の縮小化を容易に図る。
【解決手段】 中間軸10と、一端に開口部を有するカップ状の外側継手部材23,43、および、中間軸10の両端にトルク伝達可能に連結され、外側継手部材23,43との間でボール27,47を介して角度変位および軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材26,46からなる一対の摺動式等速自在継手20,40とを備え、外側継手部材23,43の開口部を閉塞する筒状のブーツ30,50の端部を外側継手部材23,43の開口部と中間軸10とにそれぞれ装着したドライブシャフトであって、ブーツ30,50は、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用され、中間軸の両端部に一対の摺動式等速自在継手を連結したドライブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達する手段として使用される等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的に、エンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を中間軸で連結した構造を具備する。
【0004】
また、自動車のリア用ドライブシャフトの場合、車輪側(アウトボード側)においても大きな角度変位を必要としないことから、エンジン側および車輪側の両方で摺動式等速自在継手を用い、これら一対の摺動式等速自在継手を中間軸で連結した構造のものもある。
【0005】
この中間軸の両端部に一対の摺動式等速自在継手を連結したリア用ドライブシャフトでは、中間軸の両側に位置する摺動式等速自在継手が軸方向変位も許容するものであることから、エンジン側および車輪側に取り付けられた摺動式等速自在継手の間で中間軸が軸方向に移動可能となってその軸方向位置が定まらない。そのため、この種のドライブシャフトでは、中間軸を強制的に軸方向で位置決めできるように、中間軸を自動調芯する構造を具備したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この特許文献1で開示されたドライブシャフトは、図6に示すように、中間軸110の両端部にトリポード型等速自在継手120,140を連結した構造を具備する。
【0007】
両方の等速自在継手120,140の基本構成は同一であり、一端に開口部を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝121,141が形成されると共に各トラック溝121,141の内側壁に互いに対向するローラ案内面122,142が形成された外側継手部材123,143と、径方向に突出した三本の脚軸124,144を有するトリポード部材125,145と、そのトリポード部材125,145の脚軸124,144に回転自在に支持されると共に外側継手部材123,143のトラック溝121,141に転動自在に挿入されてローラ案内面122,142に沿って案内されるローラ126,146とで主要部が構成されている。
【0008】
これら等速自在継手120,140は、ローラ126,146およびトリポード部材125,145を含む内部部品が外側継手部材123,143に軸方向摺動自在に収容された構造を備え、中間軸110の端部をトリポード部材125,145の軸孔にスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結している。また、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するため、外側継手部材123,143と中間軸110との間に筒状のブーツ127,147を装着した構造としている。
【0009】
アウトボード側(図示左側)の等速自在継手120では、外側継手部材123の底に形成された凹部に圧縮コイルばね128を挿入し、その先端に凹球面状部材129を装着すると共に、トリポード部材125から突出する中間軸110の端部に凸球面状部材130を装着し、凹球面状部材129と凸球面状部材130とを衝合した構造を具備する。これに対して、インボード側(図示右側)の等速自在継手140では、外側継手部材143の底に凹球面状部材149を装着すると共に、トリポード部材145から突出する中間軸110の端部に凸球面状部材150を装着し、凹球面状部材149と凸球面状部材150とを衝合した構造を具備する。
【0010】
以上の構造を具備することにより、特許文献1のドライブシャフトでは、圧縮コイルばね128の弾性力をアウトボード側からインボード側へ中間軸110に作用させることで、その中間軸110を強制的に位置決めできるように自動調芯している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−172142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前述した特許文献1に開示された従来のドライブシャフトにおいて、アウトボード側の等速自在継手120では、外側継手部材123の内部に圧縮コイルばね128を組み込み、その先端に凹球面状部材129を装着すると共に中間軸110の端部に凸球面状部材130を装着した構造とし、また、インボード側の等速自在継手140では、外側継手部材143の内部に凹球面状部材149を装着すると共に中間軸110の端部に凸球面状部材150を装着した構造としている。
【0013】
そのため、従来のドライブシャフトでは、圧縮コイルばね128、凹球面状部材129,149および凸球面状部材130,150の別部品を必要とすることから、部品点数の増加や組立工数の増加によりドライブシャフトのコストアップを招くことになる。
【0014】
また、圧縮コイルばね128、凹球面状部材129,149および凸球面状部材130,150を外側継手部材123,143および中間軸110に組み込んだ複雑な構造となり、それら圧縮コイルばね128、凹球面状部材129,149および凸球面状部材130,150の別部品を収容するスペースも必要となり、外側継手部材123,143の軸方向寸法が大きくなってドライブシャフトのコンパクト化が困難になる。
【0015】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、部品点数および組立工数の低減や、外側継手部材の軸方向寸法の縮小化を容易に図り得るドライブシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、中間軸と、一端に開口部を有するカップ状の外側継手部材、および、中間軸の両端部にトルク伝達可能に連結され、外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位および軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材からなる一対の摺動式等速自在継手とを備え、外側継手部材の開口部を閉塞する筒状のブーツの端部を外側継手部材の開口部と中間軸とにそれぞれ装着したドライブシャフトであって、ブーツは、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有することを特徴とする。ここで、「反力特性」とは、回転トルクの付与により等速自在継手に発生する軸力に対してその反対方向に作用する単位長さ当りのブーツの剛性力を意味する。
【0017】
なお、ブーツは、ゴム製あるいは樹脂製のいずれであってもよい。また、一対の摺動式等速自在継手は、中間軸の両端部に同位相あるいは異なる位相のいずれで連結されていてもよい。ここで、「位相」とは、外側継手部材と内側継手部材との間に配されたトルク伝達部材の円周方向位置を意味する。
【0018】
本発明では、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有するブーツを使用したことにより、回転トルクが負荷された状態であっても、ブーツによる調芯作用でもって中間軸を強制的に初期状態に位置決めする自動調芯を確保することができる。このようなブーツによる自動調芯を実現したことにより、従来のような圧縮コイルばね、凹球面状部材および凸球面状部材の別部品が不要となることから、部品点数および組立工数の低減が図れる。また、圧縮コイルばね、凹球面状部材および凸球面状部材の別部品を収容するスペースも不要となることから、外側継手部材の軸方向寸法の縮小化も容易となる。
【0019】
なお、前述の反力特性が0.5kN/mmよりも小さいと、ブーツによる調芯作用を発揮させることが困難となって中間軸を初期状態に位置決めすることが難しくなる。また、反力特性が3.0kN/mmよりも大きいと、ブーツによる調芯作用を発揮させることは可能であるが、ブーツの剛性が高くなり過ぎることから、ドライブシャフトの車両組み付け時の取り扱い性、等速自在継手の作動性、あるいはブーツ自体の耐久性が低下することになる。
【0020】
本発明における一対の摺動式等速自在継手のそれぞれは、同一仕様のものであることが望ましい。さらに、一対の摺動式等速自在継手に装着されたそれぞれのブーツも、同一仕様のものであることが望ましい。ここで、「同一仕様」とは、同一のサイズおよび構造の等速自在継手、あるいは同一のサイズおよび材質のブーツを意味する。このように、同一仕様の等速自在継手あるいはブーツを使用すれば、回転トルクの付与により等速自在継手に発生する軸力あるいはブーツの剛性力がそれぞれの等速自在継手あるいはブーツで同じになることから、中間軸の軸方向移動量を最小限に抑制することができ、ブーツによる調芯作用でもって中間軸を強制的に初期状態に位置決めする自動調芯をより一層確実に実現することができる。
【0021】
本発明における外側継手部材は、円筒状内周面に軸方向に延びる複数の直線状トラック溝が形成され、内側継手部材は、外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の直線状トラック溝が形成され、トルク伝達部材は、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するボールである構造が望ましい。本発明は、このような構造を具備した等速自在継手、つまり、ダブルオフセット型等速自在継手に適用可能である。なお、ボールは6個であることが望ましいが、その数は任意である。
【0022】
また、本発明における外側継手部材は、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成され、内側継手部材は、半径方向に突出した三本の脚軸を有し、トルク伝達部材は、脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されてローラ案内面に沿って案内される構造が望ましい。本発明は、このような構造を具備した等速自在継手、つまり、トリポード型等速自在継手に適用可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有するブーツを使用したことにより、回転トルクが負荷された状態であっても、ブーツによる調芯作用でもって中間軸を強制的に初期状態に位置決めする自動調芯を確保することができる。このようなブーツによる自動調芯を実現したことにより、従来のような圧縮コイルばね、凹球面状部材および凸球面状部材の別部品が不要となることから、部品点数および組立工数の低減が図れる。また、圧縮コイルばね、凹球面状部材および凸球面状部材の別部品を収容するスペースも不要となることから、外側継手部材の軸方向寸法の縮小化も容易となる。
【0024】
このように、部品点数および組立工数の低減により、等速自在継手のコスト削減が容易となり、外側継手部材の軸方向寸法の縮小化により、等速自在継手のコンパクト化も容易となって、安価で小型のドライブシャフトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態で、ドライブシャフトの全体構成を示す縦断面図である。
【図2】一対の等速自在継手を同位相で連結した場合で、(a)はアウトボード側の等速自在継手を示す横断面図、(b)はインボード側の等速自在継手を示す横断面図である。
【図3】一対の等速自在継手を異なる位相で連結した場合で、(a)はアウトボード側の等速自在継手を示す横断面図、(b)はインボード側の等速自在継手を示す横断面図である。
【図4】本出願人が行った試験条件および試験結果(ブーツなしの場合)を示す表である。
【図5】本出願人が行った試験結果(ブーツありの場合)を示す波形図である。
【図6】従来のドライブシャフトを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るドライブシャフトの実施形態を以下に詳述する。以下の実施形態では、自動車のエンジン側(インボード側)および車輪側(アウトボード側)ともに摺動式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を中間軸で連結した構造を具備するリア用ドライブシャフトを例示し、その摺動式等速自在継手の一つとしてダブルオフセット型等速自在継手を適用した場合を例示する。
【0027】
図1および図2(a)(b)に示す実施形態におけるドライブシャフトは、中間軸10の両端部にダブルオフセット型等速自在継手20,40を連結した構造を具備する。アウトボード側(図1の左側)の等速自在継手20とインボード側(図1の右側)の等速自在継手40は同一の基本構成をなす。なお、図1では中間軸10の一部を省略している。図2(a)はアウトボード側の等速自在継手20の横断面図、図2(b)はインボード側の等速自在継手40の横断面図である。
【0028】
両方の等速自在継手20,40は、一端に開口部を有するカップ状をなし、軸線に平行な複数の直線状トラック溝21,41が円筒状内周面22,42に円周方向等間隔で形成された外側継手部材23,43と、その外側継手部材23,43のトラック溝21,41と対応させて軸線に平行な複数の直線状トラック溝24,44が球面状外周面25,45に形成された内側継手部材26,46と、外側継手部材23,43のトラック溝21,41と内側継手部材26,46のトラック溝24,44との間に介在してトルクを伝達する複数のトルク伝達部材であるボール27,47と、外側継手部材23,43の内周面22,42と内側継手部材26,46の外周面25,45との間に配され、円周方向等間隔に形成されたポケット28,48に収容したボール27,47を保持するケージ29,49とを主要な構成要素としている。なお、この実施形態では、図2(a)(b)に示すように6個のボール27,47を例示するが、ボール27,47は、その他、3,5あるいは8個のいずれであってもよく、その個数は任意である。
【0029】
両者の等速自在継手20,40は、内側継手部材26,46、ボール27,47およびケージ29,49からなる内部部品が外側継手部材23,43に軸方向摺動自在に収容された構造を具備する。また、内側継手部材26,46の軸孔に中間軸10の端部がスプライン嵌合により連結されている。また、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するため、外側継手部材23,43と中間軸10との間に筒状のブーツ30,50を装着した構造を具備する。
【0030】
このように、外側継手部材23,43およびブーツ30,50の内部空間に潤滑剤を封入することにより、外側継手部材23,43に対して中間軸10が作動角をとりながら回転する動作時において、継手内部の摺動部位、つまり、外側継手部材23,43、内側継手部材26,46、ボール27,47およびケージ29,49で構成される摺動部位での潤滑性を確保するようにしている。
【0031】
ブーツ30,50は、外側継手部材23,43の開口部の外周面にブーツバンド31,51により締め付け固定された大径端部32,52と、内側継手部材26,46から延びる中間軸10の外周面にブーツバンド33,53により締め付け固定された小径端部34,54と、大径端部32,52と小径端部34,54とを繋ぎ、その大径端部32,52から小径端部34,54へ向けて縮径した伸縮自在な蛇腹部35,55とで構成されている。
【0032】
このブーツ30,50としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンアクリルゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムクロロスルフォンゴム等の各種ゴムからなるゴム製、あるいはエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー等の公知の各種エラストマーからなる樹脂製のものが使用可能である。
【0033】
両者の等速自在継手20,40に装着されるブーツ30,50は、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有する。ここで、反力特性とは、回転トルクの付与により等速自在継手20,40に発生する軸力に対してその反対方向に作用する単位長さ当りのブーツ30,50の剛性力を意味する。
【0034】
0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有するブーツ30,50を使用したことにより、回転トルクが負荷された状態であっても、ブーツ30,50による調芯作用でもって中間軸10を強制的に初期状態に位置決めする自動調芯を確保することができる。このようなブーツ30,50による自動調芯を実現したことにより、従来のような圧縮コイルばね128、凹球面状部材129,149および凸球面状部材130,150(図6参照)の別部品が不要となることから、部品点数および組立工数の低減が図れる。また、圧縮コイルばね128、凹球面状部材129,149および凸球面状部材130,150(図6参照)の別部品を収容するスペースも不要となることから、外側継手部材23,43の軸方向寸法の縮小化も容易となる。
【0035】
なお、この反力特性が0.5kN/mmよりも小さいと、ブーツ30,50による調芯作用を発揮させることが困難となって中間軸10を初期状態に位置決めすることが難しくなり、中間軸10がいずれか一方の等速自在継手20,40側に片寄ることになる。また、反力特性が3.0kN/mmよりも大きいと、ブーツ30,50による調芯作用を発揮させることは可能であるが、ブーツ30,50の剛性が高くなり過ぎることから、ドライブシャフトの車両組み付け時の取り扱い性、等速自在継手20,40の作動性、あるいはブーツ自体の耐久性が低下することになる。
【実施例1】
【0036】
本出願人は、以上で説明したダブルオフセット型等速自在継手20,40を中間軸10の両端部に連結したドライブシャフト(図1参照)について以下のような条件に基づいて試験を実施した。図示左右の等速自在継手20,40の自重による影響を除くため、水平方向に10°の取り付け角度を設定し、100rpmの回転数で、等速自在継手20,40に回転トルクを付与した。その他、図示左右の等速自在継手20,40の位相、回転方向、駆動方向、および試験結果としての中間軸10の動きについては図4の表に示す通りである。なお、図4はブーツ30,50を装着しない場合を示す。
【0037】
図4に示すように、条件A〜Hのドライブシャフトのうち、条件A〜Dでは同位相、条件E〜Hでは逆位相とした。ここで、同位相とは、図1に示す左右の等速自在継手20と等速自在継手40とで、図2(a)(b)に示すように、ボール27,47の円周方向位置を同じにすることを意味する。逆位相とは、図3(a)(b)に示すように、等速自在継手20と等速自在継手40とで、ボール27,47の円周方向位置を例えば30°ずらしたことを意味する。また、条件C,D,G,Hでは正回転、条件A,B,E,Fでは逆回転とした。この回転方向については、図1中の矢印方向を正回転「+」とし、その逆方向を逆回転「−」としている。さらに、駆動方向については、左右の等速自在継手20と等速自在継手40とで、回転トルクを付与する側を「駆動」、その回転トルクの付与に対して従動する側を「被駆動」とした。
【0038】
これら条件に基づく試験の結果、図4の「中間軸の動き」で示すように、中間軸10は、回転方向および位相に関係なく、駆動側の等速自在継手20,40から被駆動側の等速自在継手20,40へ向けて移動することが判明した。被駆動側の等速自在継手20,40では、内部部品が外側継手部材23,43の底面に突き当たるまで移動し続け、その後、外側継手部材23,43の底面に内部部品が当接した状態で回転し続ける。
【0039】
一方、前述の条件A〜Hのドライブシャフトの等速自在継手20,40(ブーツ30,50を装着しない場合)に、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有するブーツ30,50を取り付け、このブーツ30,50を装着した条件A〜Hのドライブシャフトについて、ブーツ30,50を装着しない場合と同一条件で試験を実施した。
【0040】
その結果、条件A〜Hの全てのドライブシャフトについて、図5に示すような試験結果を得た。つまり、中間軸10は、駆動側の等速自在継手20,40から被駆動側の等速自在継手20,40へ向けて移動を開始するが、すぐに反対方向へ移動し、また、数mm(5〜6mm)程度、駆動側の等速自在継手20,40から被駆動側の等速自在継手20,40へ向けて移動した後、反対方向へ移動する。
【0041】
このように、初期位置を中心に数mmの振幅Wで、駆動側の等速自在継手20,40から被駆動側の等速自在継手20,40への移動と、被駆動側の等速自在継手20,40から駆動側の等速自在継手20,40への移動とを繰り返すことが判明した。なお、この試験は、運転開始から10分間行ったが、等速自在継手20,40の内部部品が外側継手部材23,43の底面に突き当たることはなかった。
【0042】
以上の試験結果から、ブーツ30,50を装着しない場合には、等速自在継手20,40の内部で発生した軸力により、中間軸10が駆動側の等速自在継手20,40から被駆動側の等速自在継手20,40へ向けて移動する。これに対して、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有するブーツ30,50を装着した場合、初期位置を中心に数mmの振幅Wで、駆動側の等速自在継手20,40から被駆動側の等速自在継手20,40への移動と、被駆動側の等速自在継手20,40から駆動側の等速自在継手20,40への移動とを繰り返すことで、ブーツ30,50による自動調芯が実現可能となる。
【0043】
左右の等速自在継手20,40あるいはブーツ30,50のそれぞれは、同一仕様のものを使用する。ここで、「同一仕様」とは、同一のサイズおよび構造の等速自在継手20,40、あるいは同一のサイズおよび材質のブーツ30,50を意味する。
【0044】
このように、同一仕様の等速自在継手20,40あるいはブーツ30,50を使用することにより、回転トルクの付与により等速自在継手20,40に発生する軸力あるいはブーツ30,50の剛性力がそれぞれの等速自在継手20,40あるいはブーツ30,50で同じになることから、ブーツ30,50による調芯作用でもって中間軸10を強制的に初期状態に位置決めする自動調芯をより一層確実に実現することができる。また、中間軸10の軸方向移動量を最小限に抑制することができ、外側継手部材23,43の軸方向長さが最短で済むため、ドライブシャフトの軸方向寸法を短くすることができてコンパクト化が容易に図れる。
【0045】
以上の実施形態では、摺動式等速自在継手の一つとしてダブルオフセット型等速自在継手を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、他の摺動式等速自在継手としてトリポード型等速自在継手を適用することも可能である。
【0046】
このトリポード型等速自在継手は、図示しないが、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成された外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有する内側継手部材であるトリポード部材と、脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されてローラ案内面に沿って案内されるトルク伝達部材であるローラとで構成されている(図6参照)。
【0047】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0048】
10 中間軸
20,40 等速自在継手
21,41 トラック溝
22,42 円筒状内周面
23,43 外側継手部材
24,44 トラック溝
25,45 球面状外周面
26,46 内側継手部材
27,47 トルク伝達部材(ボール)
29,49 ケージ
30,50 ブーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間軸と、一端に開口部を有するカップ状の外側継手部材、および、前記中間軸の両端部にトルク伝達可能に連結され、前記外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位および軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材からなる一対の摺動式等速自在継手とを備え、前記外側継手部材の開口部を閉塞する筒状のブーツの端部を前記外側継手部材の開口部と前記中間軸とにそれぞれ装着したドライブシャフトであって、前記ブーツは、0.5〜3.0kN/mmの反力特性を有することを特徴とするドライブシャフト。
【請求項2】
前記ブーツは、ゴム製である請求項1に記載のドライブシャフト。
【請求項3】
前記ブーツは、樹脂製である請求項1に記載のドライブシャフト。
【請求項4】
前記一対の摺動式等速自在継手のそれぞれは、同一仕様のものである請求項1〜3のいずれか一項に記載のドライブシャフト。
【請求項5】
前記一対の摺動式等速自在継手に装着されたそれぞれのブーツは、同一仕様のものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のドライブシャフト。
【請求項6】
前記一対の摺動式等速自在継手は、中間軸の両端部に同位相で連結されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のドライブシャフト。
【請求項7】
前記一対の摺動式等速自在継手は、中間軸の両端部に異なる位相で連結されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のドライブシャフト。
【請求項8】
前記外側継手部材は、円筒状内周面に軸方向に延びる複数の直線状トラック溝が形成され、前記内側継手部材は、外側継手部材のトラック溝と対をなして球面状外周面に複数の直線状トラック溝が形成され、前記トルク伝達部材は、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球面状外周面との間に配されたケージにより保持された状態で、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するボールである請求項1〜7のいずれか一項に記載のドライブシャフト。
【請求項9】
前記ボールは6個である請求項8に記載のドライブシャフト。
【請求項10】
前記外側継手部材は、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成され、前記内側継手部材は、半径方向に突出した三本の脚軸を有し、前記トルク伝達部材は、脚軸に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されて前記ローラ案内面に沿って案内される請求項1〜7のいずれか一項に記載のドライブシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140967(P2011−140967A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−549(P2010−549)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】