説明

ドラッグ・デリバリー・システム

本発明は、担体の全質量に対して50質量%を上回る割合で、少なくとも1つの線状、分枝又は架橋ポリマーを含有するポリマー担体をベースとする新規球状のドラッグ・デリバリー・システムに関する。この系は、生物学的バリアーを通って輸送するための少なくとも1つのシグナル物質と、少なくとも1つの活性物質が貯蔵され、担体、シグナル物質及び作用物質が共有結合を有さず、かつ作用物質に特異的な配位結合及びシグナル物質に特異的な配位結合を互いに有さないことに特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー担体、特に少なくとも1つの作用物質と少なくとも1つのシグナル物質を含有する分枝、架橋又は樹枝状担体をベースとする新規ドラッグ・デリバリー・システムに関し、その際、担体、作用物質及びシグナル物質は互いに特異的に架橋又は結合していない。
【0002】
疾患を薬物治療する際の最大の問題のうちの1つは、疾患の目的部位、すなわち組織、器官もしくは相応の細胞への作用物質のターゲットを絞った輸送である。この場合に、膜は目的部位(作用部位)を輸送すべき作用物質から遮る最も重要なバリアーである。もう1つの問題は、生体内で放出された作用物質の分解又は誘導化である。このような代謝は、目的部位でターゲットを絞った作用物質の薬理作用を減少させるか又は断念させてしまう。更に体内で誤って分配もしくは変化した作用物質は、特にこれらが局所又は全身にとって毒性である場合には、不所望な副作用を生じ得る。
【0003】
この欠点を回避するために既に実証済みの方法は、球状の作用物質調製物を製造することにあり、その際、作用物質は被覆又はマトリックス中に包まれて存在している(Nishiyama等, Drug Discovery Today; Technologies (2005), 2(1), 21-26. 出版者:Elsevier B. V.)。一般に、作用物質が1種のポリマーコンテナである小胞に包囲された単なるボリューム−キャリヤーは、個々の内容物、例えば、作用物質又はシグナル物質が官能化担体に化学的に結合している化学的官能化ポリマーキャリヤー(マトリックスタイプ)とは区別される。
【0004】
疾患組織内への作用物質の輸送は、単なる担体/作用物質−調製物の場合には、簡単な放出と拡散(平衡)により行われる。特定の作用物質のターゲットを絞ったコントロールを改善するために、シグナル物質が作用物質もしくは担体に頻繁に共有結合もしくは配位結合する。その際、このシグナル物質は、疾患組織の細胞膜に特異的に結合し、かつエンドサイトーシスに特徴的な作用物質の細胞への吸収が始まる(例えば、WO 2005/084158, WO 2004/072153, Pitard, B.等, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(1999), 96(6), 2621-2626)。
【0005】
エンドサイトーシスによる作用物質又は球状の輸送系の吸収を開始するシグナル物質が結合することで、確かに単なる拡散のような吸収と比べて作用物質のターゲットを絞ったコントロールは改善されるが、担体の化学的官能化により又は作用物質へのシグナル物質の共有結合又は配位結合により新たな問題も生じる。
【0006】
従って、医薬品作用物質は、特に吸収、分布、代謝及び排泄(ADME−パラメーター)に関して、ならびにそれらの作用及び毒性に関して最適化されなくてはならない。作用物質へのシグナル物質の結合により、これらの特性は頻繁に変化し、それによって作用物質はその製剤学的な利用度を制限されるか、むしろ役に立たなくなってしまう。官能化した担体への作用物質の結合は、大抵は似たような問題を生じる。更に、担体、シグナル物質もしくは作用物質は、相応する特異的な結合を可能にするために、しばしば余分に官能化されなくてはならない。従って、このような化学的に官能化された担体及びシグナル物質は、制限された担体、シグナル物質、作用物質の組合せにしか出来ない。更に、これらのドラッグ・デリバリー・システムは、費用をかけて製造されることになり、かつ作用物質がシグナル物質又は担体に共有結合もしくは配位結合している限り、通常は作用物質を目的部位で化学的に放出させなくてはならない。更に、シグナル物質もしくは担体の共有結合又は配位結合により、費用のかかる臨床試験を必要とする新たな化学的作用物質が生じる。
【0007】
本発明の目的は、生物学的バリアーを通って作用物質のターゲットを絞った輸送を可能にし、前記問題の少なくとも一部が取り除かれた新規のドラッグ・デリバリー・システムを提供することであった。
【0008】
意外にも、作用物質又は担体へのシグナル物質の共有結合又は配位結合が必要なく、その都度使用される作用物質及び使用されるシグナル物質とも非特異的に凝集する分枝もしくは架橋ポリマー担体をベースとする球状のドラッグ・デリバリー・システムを十分に使用できることが確認された。
【0009】
これまでに検討されたエンドサイトーシスモデルと拡散モデルが、生物学的膜を通る作用物質の輸送を矛盾なく説明できなかった場合に、これまでは細胞膜を通る作用物質のエンドサイトーシスによる輸送には、作用物質と輸送開始シグナル物質の間、もしくはシグナル物質と更なる融合単位の間、又はシグナル物質と作用物質含有担体との間に特異的な架橋が存在しているに違いないということが暗示されていた。その際、第一の場合に、直接に作用物質が、第二の場合に、担体と作用物質が細胞へ輸送される。しかし、本発明によれば、このような特異的な化学結合は必要ではない。この場合に、これらの作用物質の輸送は、これまでに知られていなかった作用物質を細胞吸収するメカニズムによるものとみなすことができるかもしれない。
【0010】
従って、本発明の対象はポリマー担体をベースとするドラッグ・デリバリー・システムであり、これは生物学的バリアーを通って輸送するための少なくとも1つのシグナル物質と、少なくとも1つの作用物質を貯蔵し、その際、担体、シグナル物質及び作用物質は、互いに何の共有結合も有さないことに特徴付けられる。
【0011】
担体として例えば、ポリラクチドのような線状ポリマーが用いられる。但し、少なくとも1つの分枝又は架橋ポリマーを含有するポリマー担体が有利である。それというのも、分枝又は架橋ポリマーは、シグナル物質、作用物質及び担体の単なる凝集に特に適切であるからである。分枝もしくは架橋担体ポリマーの割合は、担体の全質量に対して有利には10質量%を上回り、特に50質量%を上回る。
【0012】
この場合に、シグナル物質と作用物質は、有利にはポリマー担体中に分散もしくはコアセルベート化して存在する。これに特に適切であるのは、樹枝状又は高度架橋したポリマーならびに櫛状ポリマーである。この場合に、天然又は合成ポリマーが特に興味深い。
【0013】
特に有利な担体は、専門書に"樹枝状ポリマー"とも記載されている高分枝の球状ポリマーである。多官能性モノマーから合成されるこれらの樹枝状ポリマーは、 "デンドリマー"と"高分枝ポリマー"の2つの異なるカテゴリーに分けることができる。デンドリマーは、極めて規則正しい、放射相称の世代構造を有する。これらは、単分散性の球状ポリマーであり、これは高分枝ポリマーと比べて多くの工程で合成される。この場合に、前記構造は種々の面により特徴付けられる:
− 対称中心である多官能性のコア、
− 繰り返し単位(世代)の明確に規定された種々の放射相称の層、
− 末端基。
【0014】
高分枝ポリマーは、デンドリマーに比べて多分散であり、かつそれらの分枝と構造に関して不規則である。デンドリマーとは異なって樹枝状単位及び線状単位の他に、高分枝ポリマー中では線状単位も生じる。それぞれ3つの結合能を有する繰り返し単位から構成されるデンドリマーの例(図2a)と高分枝ポリマーの例(図2b)は、図2に図式的に記載されている。ここで使用される樹枝状ポリマーは、分子あたり少なくとも3つの繰り返し単位、有利には分子あたり少なくとも10個の繰り返し単位、特に有利には分子あたり少なくとも100個の繰り返し単位、とりわけ有利には分子あたり少なくとも200個の繰り返し単位、なお有利には分子あたり少なくとも400個の繰り返し単位を有し、これらは、更にまたその都度少なくとも3つ、有利には少なくとも4つの結合能を有し、その際、これらの繰り返し単位の少なくとも3つ、特に有利には少なくとも10個、更に有利には少なくとも20個は、少なくとも3つの結合能により、有利には少なくとも4個の結合能により、少なくとも3つ、有利には少なくとも4つの更なる繰り返し単位と結合する。通常、多分枝ポリマーは、最大10000個、有利には最大5000個、特に有利には2500個の繰り返し単位を有する。
【0015】
有利な実施態様では、高分枝の樹枝状ポリマーは、少なくとも3つの繰り返し単位を有し、これはその都度できるだけ少なくとも3つの結合能を有し、その際、これらの繰り返し単位の少なくとも3つは、できるだけ少なくとも2個の結合能を有する。
【0016】
"繰り返し単位"という用語は、有利には高分枝分子内での不変の繰り返し構造、例えば、線状、樹枝状又は末端単位であると解釈され、これらは、Seiler, Fortschritt-Berichte VDI, 第3シリーズ, No.820 ISBN 3-18-382003-x及びGao, C等, Hyperbranched Polymers: from synthesis to application, Prog. Polym. Sci., 29(2004) 183-275に定義されている。"結合能"という用語は、他の繰り返し単位への結合を可能にする繰り返し単位内部のその官能性構造であると解釈される。
【0017】
上記のデンドリマーもしくは高分枝ポリマーの例に関連して、繰り返し単位は、その都度3つの結合能(X、Y、Z)を有する構造である:
【化1】

【0018】
個々の結合単位の結合は、縮重合により、ラジカル重合により、アニオン重合により、カチオン重合により、官能基移動重合により、配位重合により、開環重合により又は酵素触媒重合により行われる。
【0019】
特に有利なデンドリマーは、Starbust(R)ポリアミドアミン(PAMAM)−デンドリマー、ポリプロピレンイミン−デンドリマー、ポリエチレンオキシドベースのデンドリマー、ポリエーテル−デンドリマー、被覆PAMAM−デンドリマー、例えば、ポリラクチド−コグリコライドで被覆したもの、ポリリシン−デンドリマー、特にポリリシン−ブロック−PEG−ブロック−ポリリシン−デンドリマー及びポリアリールエーテルである。このような有利なデンドリマーは、例えば、Frechet, J. M. J等, Dendrimers and Other Dendritic Polymers, Jphn Wiley & Sons Ltd., West Sussex, UK (2001); Malik, N.等, Journal of Controlled Release 65, (2000), 133-148; Frey, H.等, Reviews in Molecular Biotechnology 90(2002) 257-267; Jikei, M.等, Hyperbranched Polymers: a promising new class of materials, Prog. Polym. Sci., 26(2001), 1233-1285に記載されている。
【0020】
これに関連して、有利な線状又は高分枝担体ポリマーは、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリエーテル、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリグリセリン、ポリグリコライド、ポリラクチド、ポリラクチド−コ−グリコライド、ポリタータレート及びポリサッカリドである。これらのポリマーのうちで、特に有利にものは、商標名Boltorn(R)でPerstorp AB社から既に市販されている高分枝ポリエステル、DSM BV Niederlande 社から商標名Hybrane(R)で市販されている高分枝ポリエステルアミド、Hyperpolymers GmbH社により製造されているポリグリセリンならびにBASF AG社からPolyimin(R)として得られる高分枝ポリエチレンイミンである。
【0021】
更に有利な分枝担体ポリマーは、ポリカプロラクトン、コポリマー、例えば、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリセリド)ならびにDegussa AG社から製造されている製品系列Dynapol(R)SとDynacoll(R)から成るポリエステル化合物である。
【0022】
特に有利な樹枝状ポリマーは、分子量1000g/mol〜2000000g/molを有する、特に有利には2000g/mol〜700000g/molを有する、とりわけ有利には6000g/mol〜100000g/molを有し、有利には0℃〜150℃の溶融温度及び/又は80℃で測定して3.0Pas未満、有利には2.5Pas未満、特に2.0Pas未満の担体ポリマーの溶融粘度を有するポリマーである。特に、高分枝ポリマー担体は、20%〜100%の間、有利には30%〜70%の間の分枝度、及び/又は10mgKOH/g〜600mgKOH/gの間のヒドロキシ価を有する。デンドリマーの分枝度は、有利には25%〜75%の間である。
【0023】
更に担体ポリマーとして、炭水化物(ポリサッカリド)からの;天然及び合成アミノ酸からの;天然及び合成核酸からの;ポリアミンからの;ポリエステルからの;ポリエーテルからの;ポリオール、特にポリビニルアルコールからの;ポリオレフィン、特にポリイソプレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン又はポリスチレンからの;ポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールからの;ポリアミドからの;ポリアセタールからの;ポリアクリレートからの;ポリアセテート、特にポリビニルアセテートからの;ポリウレタンからの;有機ケイ素ポリマーからの、例えば、シリコーンからの;エポキシド樹脂からの;ポリチオールからの又はポリカーボネートからの分枝又は架橋ホモポリマーもしくはヘテロポリマーが有利である。
【0024】
有利なポリマー担体は、さらに生物学的適合性及び遅延させた酵素分解可能なものである。このために、特にポリカプロラクトン、ポリグリコライド、ポリラクチド、ポリラクチド−コ−グリコライド、ポリタルタレート又はポリエステルのグループから成る酵素分解可能な分枝又は架橋担体ポリマーが挙げられる。特に有利なものは、セルロース、ペクチン、アミロペクチン又はデキストランをベースする分枝又は架橋ポリサッカリドである。
【0025】
特に有利な架橋担体ポリマーは、ヒドロゲル、特に樹枝状ヒドロゲル、例えば、Rueda, J. C.,等 Macromol. Chem. Phys. 2003, 204, 947-953; Hatice, K. C.等, 2003年10月24日オンライン出版、Wiley InterScience DOI 10. 1002/app. 13125; Knischka, R.等, Polymeric Materials: Science & Engineering 2001, 84, 945に記載されてるようなものである。
【0026】
特に有利な実施態様では、できるだけ自然に任せた又は自然に近く、かつ特別に更に官能化もしくは誘導化していないポリマー担体が使用される。一方では、薬理学的特性を変化させ得る作用物質もしくはシグナル物質との不所望な化学反応が進行しないように保証し、他方では、ドラッグ・デリバリー・システムにおけるアレルギー反応の危険性を最小限にするように保証できる。
【0027】
分枝又は架橋ポリマーは、有利な実施態様では、担体の全質量に対して、少なくとも50質量%、有利には75質量%を上回る割合を有する。更に、その他のポリマー、特に前記ポリマークラスのポリマーの非分枝及び非架橋ポリマーを担体に混ぜることもできる。専ら、特に有利な実施態様では、分枝又は架橋ポリマーが担体として使用される。
【0028】
請求したドラッグ・デリバリー・システムにおける担体の割合は、球状のドラッグ・デリバリー・システムの全質量に対して、有利には30質量%〜99.5質量%の間、有利には50質量%〜98質量%の間である。その際、高活性の作用物質を有する調製物は、有利には、80質量%以上から99.5質量%まで、特に90質量%〜99質量%の間の担体の割合を有する。それに対して、通常の作用物質を有する調製物は、55質量%〜94.5質量%、特に有利には65質量%〜94質量%の間の担体割合を有する。
【0029】
本発明の範囲内の意味では、シグナル物質又はシグナル物体とは、生物学的バリアーを通ってターゲットを絞った作用物質の輸送を開始できる全ての物質であると解釈される。これに対して、種に特異的ペプチド、特にホ乳類に特異的ペプチド、有利にはヒトに特異的なペプチドも含む生体に特異的ペプチドは、横断すべき生物学的バリアーに関して輸送刺激を作用できると解釈される。この中に、極めて一般的な刺激シグナルである全ての生物学的、バイオモルフ的又は生体類似的な膜透過性ドメイン(PTDs)、特にレセプター結合型ペプチド、d−類似体ペプチド、前記ペプチド又はタンパク質の抗体又は断片が当てはまる。更に"de novo"としても見出される物質(例えば、データバンクのBlast検索による)であるシグナル物質、例えば、ハプテン、レセプターアゴニスト及びアンタゴニストを輸送刺激としても使用できる。
【0030】
有利な公知のシグナルペプチドは、"VP22"(単純ヘルペスウイルスからのタンパク質)、"Antp"(アミノ酸配列RQIKIWFQNRRMKWKKを有する)、"R9"(アミノ酸配列RRRRRRRRRを有する)及び"Tat"(アミノ酸配列YGRKKRRQRRRを有する)から成るグループから選択される。
【0031】
シグナルペプチドとして、有利には、ラクトフェリン、特にヒト又はウシのラクトフェリン、又は少なくとも8個の連続したアミノ酸から成るラクトフェリン断片含有のペプチドが使用され、その際、前記ペプチドは細胞浸透性ペプチド(CPP)として働く。
【0032】
有利な実施態様では、前記シグナルペプチドは、少なくとも4つのカチオンアミノ酸を含む。有利なカチオンシグナルペプチドは、特に生理学的pH値で、プラスの実効電荷を有する。もう1つの有利な実施態様では、シグナル物質として、少なくとも2個のシステイン又は相応の類似体を含有するラクトフェリン由来のペプチドが使用される。特に有利な実施態様では、シグナルペプチドは2個のシステイン基から形成されるジスルフィド架橋、又はシステイン類似体により形成される類似の結合を有する。2個のシステインもしくはそれらの類似体は、有利には8〜20個のアミノ酸、特に14〜18個のアミノ酸、とりわけ有利には16個のアミノ酸によって互いに離れている。2個のシステインもしくはそれらの類似体は、シグナルペプチドのC末端及び/又はN末端を直接形成するか、又はC末端及び/又はN末端の近くに存在することができる。通常このような有利に架橋安定化したシグナルペプチドは、酵素分解に対して、特にプロテアーゼ分解に対して高い安定性を有するループ構造を有する。
【0033】
有利な実施態様では、アミノ酸配列配列番号1を有するヒトラクトフェリンタンパク質又はアミノ酸配列配列番号2を有するウシラクトフェリンタンパク質が使用される。
【0034】
もう1つの有利な実施態様では、ラクトフェリン由来のシグナルペプチドは、α−ヘリックスの構造を有する領域、有利には12〜20個のアミノ酸長さを有するもの、もしくはβ−シート構造を有する領域、有利には8〜12個のアミノ酸長さを有するものを含有する。特に有利なシグナルペプチドは、"ヘリックス・ターン・シート"モチーフを有する。
【0035】
もう1つの有利な実施態様では、ラクトフェリン由来のシグナルペプチドは、8〜60個のアミノ酸、有利には20〜45個のアミノ酸、特に有利には18〜22個のアミノ酸を有する。
【0036】
アミノ酸配列配列番号1の20〜64の位置のアミノ酸に相応するアミノ酸配列を有するような、ラクトフェリン由来のシグナルペプチドが特に有利である。
【0037】
更に、N末端がアミノ酸配列配列番号1又は配列番号2の20〜64の位置のアミノ酸に相応する配列であるシグナルペプチドを使用してもよい。このようなシグナルペプチドは、例えば、配列番号1に相応する位置20〜711によるアミノ酸配列を有するペプチドであるか、又は配列番号2に相応する位置20〜708によるアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0038】
特に有利な実施態様では、シグナルペプチドはアミノ酸配列
【化2】

又はそれらの誘導体を有するペプチドのグループから選択される。
【0039】
有利な実施態様では、細胞浸透性ペプチドは、配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30によるアミノ酸配列、又は少なくとも40%、有利には少なくとも50%の相同性、特に有利には少なくとも75%を上回る相同性、又は90%を上回る相同性を有する相応の配列を有する。
【0040】
配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30に少なくとも40%の相同性を有するアミノ酸配列を有するシグナルペプチドは、配列番号3又は配列番号29と比べて1〜13個のアミノ酸の置換及び/又は欠失、もしくは配列番号4又は配列番号30と比べて1〜10個のアミノ酸の置換及び/又は欠失により特徴付けられる。その際、相同体のアミノ酸により1つ以上のアミノ酸が置換された配列が重要性を増す。
【0041】
配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30によるアミノ酸配列、又は少なくとも40%の相同性を有する相応の配列を含むペプチドは、8個のアミノ酸(配列番号3もしくは配列番号29由来のシグナルペプチドに関して)もしくは少なくとも9個のアミノ酸(配列番号4もしくは配列番号30由来のシグナルペプチドに関して)から成る。シグナルペプチドは、有利には10〜45個のアミノ酸、特に有利には14〜25個のアミノ酸を有する。
【0042】
特に、相同体のアミノ酸の置換とは、別の同じ1つの基による1つのアミノ酸の置換であると解釈される。この場合に、アミノ酸は、疎水性アミノ酸(脂肪族アミノ酸を含む)、芳香族アミノ酸、カチオンアミノ酸及びアニオンアミノ酸、中性アミノ酸、硫黄含有アミノ酸及び複素環式アミノ酸に分けることができる。疎水性アミノ酸は、有利にはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンであり、芳香族アミノ酸は、有利にはフェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンであり、イオン性アミノ酸は、有利にはリシン、アルギニン、ヒスチジンのようなカチオンアミノ酸と、アスパラギン酸とグルタミン酸のようなアニオンアミノ酸であり、中性アミノ酸は、有利にはセリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びメチオニンであり、硫黄含有アミノ酸は、有利にはシステインとメチオニンであり、かつ複素環式アミノ酸は、有利にはプロリンとヒスチジンである。
【0043】
配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30による有利なシグナルペプチド、又は少なくとも40%の相同性を有する相応の配列は、特に配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30の内部に存在する少なくとも4個のカチオンアミノ酸により、カチオン電荷を有する。前記シグナルペプチドの更に有利な特徴は、ジスルフィド架橋又はこれに似た架橋を形成できる少なくとも2組のシステイン基又はシステイン類似体の存在である。2つのシステイン又はそれらの類似体は、少なくとも6個、有利には12〜43個のアミノ酸を包囲している。
【0044】
もう1つの有利な実施態様では、配列番号3〜6によるアミノ酸配列を有するペプチドの誘導体である。その際、メチオニン基は、バリン、イソロイシン、ノルバリン、ロイシン及びノルロイシンを含むグループから選択されるアミノ酸により置換される。このようなペプチドは、例えば、次のアミノ酸配列:
【化3】

を有するペプチドである。
【0045】
もう1つの有利な実施態様では、シグナルペプチドには、有利にはチオエステルのグループから選択されるリンカー基を有するような誘導体も当てはまる。その際、リンカー基はジスルフィド架橋に置換される。その際、ジスルフィド架橋を構造的及び官能的に置換するが、しかし還元的な切断を受けないリンカー基をペプチド中に組み込んでもよい。このようなリンカー基は、例えば、エチレン架橋(JACS, 1985, 107, 2986-2987, Bioorg. Med. Chem. Letter 1999, 9, 1767-1772, J. Med. Chem. 2002, 45, 1767-1777)、チオエーテル架橋(Yu等 Tetrahedron Lett. 1998, 39, 6633-6636)、カルボニル架橋(Pawlak等, J. Pept. Sci. 2001, 7, 128-140)、長鎖脂肪族架橋、特に10個までの炭素原子を有するもの(Tetrahedron Lett. 2001, 42, 5804)である。更に、システイン基を例えばホモセリンのような他の基により置換することもできる(Yu等, Tetrahedron Lett. 1998, 39 6633-6636)。
【0046】
更に、前記のペプチドシグナル物質を、有利に放射性標識したアミノ酸、特にトリウムで標識したアミノ酸で放射性標識することができる。更に、シグナル物質を検出可能な基で変性することもでき、その際、このような基は、有利には蛍光体、放射性トレーサー及びハプテンのグループから選択され、その際、ハプテンであるビオチンが特に適切である。
【0047】
ヒトシグナル物質の使用、特にラクトフェリン由来の細胞浸透性ペプチドの使用により、ドラッグ・デリバリー・システムに対するアレルギー反応を最小限にすることができる。更にラクトフェリン由来のペプチドは、細胞内へ吸収されるペプチドもしくはペプチド調製物の量に関しても、吸収に必要な時間に関しても、細胞浸透の際に高い効率を示す。更に、吸収されたペプチド、調製物もしくは調製物の成分は、細胞の細胞質中に輸送されるのが有利である。
【0048】
ラクトフェリン由来のシグナルペプチドは、特に、腸管上皮を介した作用物質の輸送に関して重要である。その際、高い効率で作用物質が上皮細胞へ輸送され、かつ引き続き血管に吸収される。ターゲットを絞った作用物質の輸送に関しては、例えば、腫瘍細胞中では、シグナルペプチドをマスクしてもよい。タンパク質分解による切断により、例えば、腫瘍細胞から放出されたプロテアーゼによって、マスクしたペプチドをその機能的細胞浸透性型に切断できる(analog Jiang, T等, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 17867-17872, 2004)。
【0049】
更に、前記シグナルペプチドは通常の方法で誘導化させて存在してもよい。特に、この場合にC末端がアセチル化又はアミド化されたペプチドが挙げられる。これは、しばしば生理学的条件下での良好な安定性により傑出している。しかし、非変性シグナルペプチドを使用するのが有利である。
【0050】
シグナル材料での担体の装填は、球状のドラッグ・デリバリー・システムの全量に対して、通常0.5質量%〜20質量%の間、有利には1質量%〜10質量%の間の量で行われる。
【0051】
更に、特に"アンチセンス"法からは、イオン性化合物、核酸、核酸断片、核酸コンジュゲート及び核酸類似体が膜輸送を強化できることが公知である。すなわち、純粋な断片又は化学的に変性した断片も同様に補足的刺激として使用できる。
【0052】
作用物質にもシグナル物質にも特異的な結合が行われないので、ポリマー担体の装填は、球状のドラッグ・デリバリー・システムを製造するために使用可能な作用物質とシグナル物質に関しては制限されない。化学分解又は酵素分解の前、目的部位への輸送の間に保護しなくてはならないか、もしくは副作用を回避するために目的部位でようやく放出される作用物質又は作用混合物にとって本明細書で記載した輸送系が特に有利あると見なすことができる。従って、記載したドラッグ・デリバリー・システムは、製剤学的に作用するペプチド又はタンパク質の輸送に適切である。このような作用物質は、例えば、製剤タンパク質又はプロテオ作用物質、例えば、抗体、ペプチドホルモン、レセプターもしくはそれらのペプチドリガンド又は酵素である。この例に、α1−プロテアーゼ阻害剤、エグリン、エラスターゼ、α1−アンチトリプシン(気腫)、アンチトロンビン(抗凝血薬)、アンギオテンシナーゼ(高血圧)、因子VII、VIII、XI、X、フィブリノーゲン、トロンビン、プラスミノゲン、アクチベーター阻害剤(血液凝固阻害)、免疫グロブリン(受動免疫)、ガンシクロビル、アシクロビル、インターフェロン(ウイルス感染、腫瘍治療)、腫瘍−壊死因子、カケクチン、ジヒドロ葉酸還元酵素、リンフォトキシン、インターロイキン、癌抑制タンパク質、例えば、p53(癌)、プラスミン、ウロキナーゼ、ヒルジン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、タンパク質C、タンパク質S(トロンボラーゼ)、ホスホリパーゼA2、ウロモジュリン、タム・ホースフォールタンパク(炎症)、インスリン(糖尿病)、トリプシン阻害剤(膵炎)、リゾチーム、サイモポイエチン、ペプチド抗生物質(バクテリア感染)、エリスロポイエチン(貧血)が挙げられる。しかし、ここで記載したドラッグ・デリバリー・システムは、このような作用物質に限定されるわけではなく、低分子作用物質("小さな分子")、例えば、多くのアンチウイルス物質、肝臓治療物質、神経保護物質、免疫治療薬及び免疫抑制薬、心臓血管疾患又は癌に対する低分子作用物質、鎮痛剤、低分子炎症阻害剤、抗生物質及び抗菌作用物質ならびに低分子ホルモン、又は巨大分子作用物質、例えば、核酸断片又は核酸(ゲノムDNA、cDNA、mRNA、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドなど)も使用できる。低分子作用物質は、例えば、ヌクレオシド類似体、β−インターフェロン、α−リポ酸、ペプチド類似体、酵素もしくはレセプター阻害剤、酵素もしくはレセプターアゴニスト及びアンタゴニスト、プロスタグランジン、ステロイド、抗腫瘍薬ならびに複素環式抗生物質である。特に、作用物質をプロドラッグの形で使用することもできる。
【0053】
本発明の輸送粒子の利点は、特に例えば種々の親水性のような様々な物理的特性を有する2つ以上の作用物質を一緒に1つの調製物の中に加えることが出来ることである。これに関して、医薬品作用物質を異なる4つのクラスに分けたFDAにより開発されたBCSシステムである薬理学的割り振りを提供する。ここに記載されている粒子は、輸送系に収められる種々のクラスからの特に適切な作用物質である。
【0054】
作用物質での担体の装填は、通常の方法で球状のドラッグ・デリバリー・システムの全質量に対して、0.001質量%〜50質量%の間の量で行われる。その際、高活性作用物質は、有利には0.01質量%〜1質量%の間の量、特に有利には0.1質量%未満の量で含有される。他の作用物質は、一般に1質量%〜30質量%の間、有利には5質量%〜25質量%の間の量で使用される。
【0055】
球状のドラッグ・デリバリー・システム中の作用物質の割合は、製剤学的調製物に関しては、有利には患者の体重1kgあたり0.1mg〜100mgの間の作用物質が得られるように選択される。例えばホルモンのような高活性作用物質の場合には、低用量でも十分である。
【0056】
ここで使用されるシグナル物質と作用物質の特に有利な特徴は、これらが非変性であることである。本発明の範囲内の意味で"非変性"とは、担体での又は相互の配位結合又は共有結合を可能するために、付加的な官能基又はリンカー無しにシグナル物質もしくは作用物質が誘導化されていると解釈される。
【0057】
"生物学的バリアー"という用語は、本発明の範囲内の意味では、細胞膜の他に、一般に特に上皮細胞の位置もしくは内皮細胞の位置であるとも解釈される。従って、例えば血管−脳−壁又は腸管上皮のような器官もしくは組織壁も生物学的バリアーという概念に含まれる。その際、バリアーを横断した後に、血管形成は優れた薬物動態による更なる輸送(作用物質の吸引)を提供する。
【0058】
本発明による球状のドラッグ・デリバリー・システムの構成に決定的なことは、作用物質もシグナル物質も分枝又は架橋ポリマー担体と非特異的に凝集して存在することである。すなわち、共有結合を互いに受け入れない。共有結合という概念には配位結合も含まれ、その際、結合対による結合電子対は、特定の電子対アクセプターを提供する。配位結合という概念には、生理学的条件下で安定でもなく、かつ選択的でもない非特異的結合は何も含まれない。特異的配位結合は、例えばエピトープ結合又はハプタマー結合もしくはアプタマー結合のような錯化である。一般に、宿主−ゲスト結合とも称される架橋は、錯体形成結合とみなされる。このような配位結合は、生理学的条件下でのそれらの安定性と選択性により傑出している。本発明の範囲内の意味での非選択的、非特異結合とは、通常は50kJ/mol未満、もしくは20kJ/mol未満の結合エンタルピーを有する極性相互作用もしくは親油性相互作用及びファンデルワールス相互作用である(考察する基ごとに、このような結合を用意する)。それに対して、本明細書で記載した球状の輸送系は、シグナル物質も相応の作用物質も、ポリマー担体材料中で有利には容易に分散もしくはコアセルベート化して存在する。
【0059】
従って、構成されたドラッグ・デリバリー・システムは、従来の作用物質調製物に比べて多様な利点を有する。従って、作用物質とシグナル物質は、化学的変性なしに使用できる。それによりそれらの固有の特性が、特にそれらの作用に関しても、ADMEパラメーターに関しても得られる。更に、天然に生じるモノマーから生成される分枝又は架橋ポリマー担体を使用してもよい。従って、特にアレルギー反応を回避するためにも都合の良い優れた相容性の球状のドラッグ・デリバリー・システムが得られる。
【0060】
更に、本発明によるドラッグ・デリバリー・システムは簡単に製造できる。それというのも、個々の成分の付加的な機能化も、担体、シグナル物質及び/又は作用物質の間での特異的な架橋も行われてはならないからである。その上、例えば、Tat−タンパク質(シグナル物質)とp53−タンパク質(作用物質)の共有結合の場合(Tat−p53融合タンパク質)のように、新たな作用物質が生じること無く種々のシグナル物質と作用物質を互いに簡単に組み合わせることができる。更に、例えば、担体及び/又はシグナル物質のタンパク質分解による切断又は酵素切断によって、作用物質の放出が行われてはならない。記載したドラッグ・デリバリー・システムのもう1つの利点は、種々のシグナル物質と作用物質を1つの輸送系内で相互に調製できることにある。輸送粒子が装填されるシグナル物質と作用物質の量も自由に選択でき、それゆえにその都度の指標に問題なく合わせることができる。
【0061】
特に樹枝状担体ポリマーの使用により、官能基、特に極性基の種類と数により、担体中の粒子の装填濃度を作用物質とシグナル物質で調節できる。この場合に、粒子の全質量に対して20質量%を上回る作用物質とシグナル物質の非常に高い装填濃度も達成できる。更に、官能基の数により時間単位当たりに放出される作用物質の量も調節できる。
【0062】
有利な実施態様では、ラクトフェリン由来のペプチドがシグナル物質として、請求したドラッグ・デリバリー・システム中に組み込まれ、その際、調製には、マイナスに帯電もしくは良好に分極可能な担体が使用される。二者択一的に、マイナスに帯電した調製助剤、例えば核酸断片のようなものを用いながらプラスの実効電荷を有する担体も、使用できる。
【0063】
以下のもの含むドラッグ・デリバリー・システムが特に有利である。
a)ラクトフェリン由来の細胞浸透性シグナルペプチド(CPP)、
b)製剤学的作用物質及び
c)炭水化物(ポリサッカリド)からの;ポリエステルからの;ポリエーテルからの;ポリオールからの:ポリオレフィンからの;ポリアルキレングリコールからの;ポリアミドからの;ポリアセタールからの;ポリアクリレートからの;ポリアセテートからの;ポリウレタンからの;有機ケイ素ポリマーからの;エポキシ樹脂からの;ポリチオールからの;ポリカーボネートからの;ポリカプロラクトンからの;ポリグリコライドからの;ポリラクチドからの;ポリラクチド−コ−グリコライドからの又はポリタータレートからの分枝又は架橋ホモポリマー又はヘテロポリマーから成るポリマー担体
を含むドラッグ・デリバリー・システムが特に有利である。
【0064】
このような調製物は、腸管上皮を通る製剤学的作用物質の径細胞輸送に特に適切である。それに応じて、ラクトフェリン由来のCPPsと肝臓治療薬、例えば、特定の抗腫瘍薬、ヌクレオシド類似体又はα−リポ酸、インターフェロン、ラミブジン、コルチコイド、アザチオプリン、クロロアンブシル、コルチゾン、メトトレキセート、ウルソデキシコール酸、ナロキソン、アンホテリシンB、フルコナゾール、アルベンダゾールとの組合せも特に有利である。
【0065】
球状のドラッグ・デリバリー・システムの投与は、例えば、経口、経肺、舌下、経頬側、経鼻、経眼又は径胃腸により行われる。この場合に、経口及び径静脈の投与型が特に有利である。これに、輸送粒子は機能を失うこと無く更に市販のガレン剤、例えば、Eudragit(R)でカプセル化できる。
【0066】
球状のドラッグ・デリバリー・システムの製造は、種々の方法を用いて実施できる。この場合に、コアセルベーション法は、噴霧乾燥、圧縮ガスを用いる高圧法ならびに溶剤蒸留法に加えて有利な方法として明らかである。原則的に、作用物質とシグナル物質は、一緒に又は別々の運転工程で調製され、本発明によるドラッグ・デリバリー・システムになる。
【0067】
コアセルベーションとは、コロイドを析出させるため、もしくは粒子を製造するための強制的な相分離である。これは、温度、pH、塩溶液又は非溶剤のような種々の外部刺激により引き起こすことができる。結局、生じる粒子は熱、架橋、溶剤除去又は乾燥により硬化される。コアセルベーション法は、極めて多岐にわたり、かつ種々のポリマーを用いて実施できる。この場合に、粒子の壁強度及び大きさならびに(活性)作用物質の装填グレードは自由に変えることができる。この場合に、カプセル化した作用物質の放出プロフィールも任意に調節できる。コアセルベーション法は、球状の調製物を製造するために極めて効率的な方法である。それというのも、高い収率、高い装填率及び良好な再現性を可能にするからである。
【0068】
シンプル・コアセルベーションとコンプレックス・コアセルベーション、ならびに水性相分離と有機相分離は区別される(Arshady, R. Micropheres and microcapsules, a survey of manufacturing techniques, Part II, Coacervation, Polymer Engineering and Science, 30(15), 905, 1990)。シンプル・コアセルベーションの場合には、コロイド状成分、例えば、ゼラチンが投入され、かつコンプレックス・コアセルベーションの場合には、2つの対照的な線状コロイド状成分、例えば、ゼラチンとアラビアゴムが投入される。コアセルベーションの原則は、例えばエタノールの添加によりゼラチン水溶液を、ゼラチンに富む(コアセルベート)相とゼラチンに乏しい相から成る2相系に変えることにある。これは、ポリマー分別法に極めて似ているが、しかしこの場合には、剪断力の作用下に2〜5000μmの平均サイズを有するミクロ粒子が生じる。
【0069】
コアセルベーションによるマイクロカプセルの製造は、3つの工程に分けることができる:(1)混合不可能な3つの相を生成する、(2)カプセル被覆としてコロイドを析出する、かつ(3)カプセル被覆を硬化する。混合不可能な3つの相は、外部の媒体、コア材料及びカプセル被覆材料から成る。カプセル被覆材料は、外部の媒体に溶け、かつコア材料がその中に分散する。外部刺激(温度、pH、電解質)の作用により、カプセル被覆材料は外部の媒体に溶解せず、かつ分散したコア材料への界面に付着する。濾過の後に、最終的にカプセル被覆は熱、架橋又は溶剤除去により硬化するか、又は噴霧乾燥又は凍結乾燥により乾燥される。
【0070】
球状の作用物質調製物の乾燥は特に有利には、とりわけ揮発性溶剤(例えば、エタノール、プパノール、アセトン、ジクロロメタン)中で粒子の洗浄に引き続き、真空乾燥器、ディスク乾燥器又はタンブル乾燥器中で行われる。粒子分離の際に残る溶剤に富む相は、より大きな規模で戻すことができる。
【0071】
ミクロ粒子を(活性)作用物質で装填してもよい。すなわちコア材料はこれらの作用物質に相当する。この場合に、これは疎水性物質又は親水性物質であってよく、このことは、水性又は有機相分離を使用しなくてはならないことにつながる。水性相分離の場合には、疎水性物質を包囲/カプセル化してもよい。逆に親水性物質の場合には、有機相分離が必要である。すなわち、コロイドは有機相中に溶け、かつ外部刺激を作用した後に、親水性物質への界面に蓄積する。従って、水性及び有機コアセルベーションという概念は、それぞれ水溶性コロイドと油溶性コロイドを示す。シグナル物質と作用物質でのマイクロカプセルの装填は、0.5〜70質量%であり、かつ包囲される物質の放出は、種々のメカニズムにより引き起こすことができる:カプセル被覆材料の拡散、溶解、酵素分解など。以下のカプセル被覆材料は、簡単なコアセルベーションの場合に有利に使用できる:カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、シェラック、カラゲナン、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、コラーゲン、セルロースアセテート、フタレート、エチルセルロース、ポリグリセロール、ポリエステル、Eudragits(R)など。複雑なコアセルベーションの場合には、ゼラチンと以下の組合せで使用される:ゼラチンとアラビアゴム、カルボポール又はペクチン。
【0072】
本発明による球状の作用物質調製物を製造するもう1つの可能性は、圧縮流体又は超臨界流体を用いる高圧法である(Gamse等、Chemie Ingenieur Technik 77 (2005) 669-680; McHugh und Krukonis 、Supercritical Fluid Extraction: Principles and Practices", Stoneham MA 1986, Fages等、Powder Technology 141 (2004) 219-226 and Bungert等、Ind. Eng. Chem. Res., 37, (1997)3208-3220)。
【0073】
圧縮ガスを用いる公知の粒子製造法は、GAS(Gas AntiSolvent:ガスアンチソルベント)法、PCA(Precipitation with Compressed fluid Antisolvent:圧縮流体アンチソルベントを用いた析出)法、PGSS(Particles from Gas Saturated Solutions:ガス飽和溶液からの粒子生成)法及びRESS(Rapid Expansion of Supercritical Solutions:超臨界流体の急速膨張)法である。以下にこれらの方法を短く説明する。
【0074】
GAS法では、ポリマー、作用物質、シグナル物質及び溶剤を含有する溶液をオートクレーブ内に一定の温度で装入され、次にガスで非溶剤として強く送り込み、その結果、ポリマーと作用物質が細かい粒子として析出する。この場合に、粒子の凝集を回避するために、撹拌機による溶剤/懸濁液の十分な混和が合理的である。
【0075】
シグナル物質分子と作用物質分子は、析出の間に、ポリマーマトリックス中に組み込まれるか、又はコア(貯蔵場所)として存在し、この周りにポリマー被覆を形成する。次に濾過により分離できる懸濁液を形成する。超臨界流体中で粒子を洗浄することにより、溶剤の残りを抽出できる。プロセスを低温で、ひいては作用物質を痛めない温度で実施する可能性の他に、特に相転移、すなわち粒子形成の運動力学における影響力が重要な役割を及ぼす。時間経過による過飽和とガス添加の強さをコントロールすることにより、粒度分布も選択できる。第一の工程で、相分離が開始し、かつ形成されつつあるポリマーに富む相の液滴の形で結晶化の核が形成され、後にミクロ粒子になる。液滴を凝結させ、かつ成長させるのではなく、できるだけ速くこれらの液体から溶剤を抽出することが重要である。その場合に、小さな直径を有する粒子が析出する(Gamse等、Chemie Ingenieur Technik 77(2005) 669-680 and Bungert等、Ind. Eng. Chem. Res., 37, (1997) 3208-3220)。目標を定めたバリエーションにより、これらの2つの工程は粒子分布と粒子サイズを調節できる。
【0076】
PCA法又はSEDS(Solution Enhanced Dispersion by Supercritical Fluids:超臨界流体による高度分散溶液)法は、両方ともGAS法の大きさの制限を最適化する。すなわち、粒子形成のイニシエーターとして圧力上昇速度と物質輸送を最適化して溶剤を液滴から除去する(Gamse等、Chemie Ingenieur Technik 77 (2005) 669-680; Fages等、Powder Technology 141(2004) 219-226 and Bungert等、Ind. Eng. Chem. Res., 37, (1997) 3208-3220)。オートクレーブからのシグナル物質−作用物質−ポリマー溶液は、この場合に圧縮され、かつ噴射ノズル内で超臨界ガスと接触させ、かつ析出装置内で一緒に噴射させる。続く洗浄工程では、超臨界流体での抽出により粒子から溶剤が除去される。溶液と超臨界流体を噴霧工程の直前に既にノズル中に一緒に投入しておくことにより、短い接触時間で高い圧力合成速度を達成することができる。既に先に説明したように、これらからポリマー−作用物質−シグナル物質溶液の高い過飽和が生じる。このように、均質な分布ならびに僅かな粒子サイズを達成でき、よって相分離が開始した後に、蒸発により細かい分散が行われ、この場合に、ポリマー溶液の液滴の高い比表面積により、圧縮ガス又は超臨界ガス中への溶剤の改善した物質輸送を行うことができる。超臨界噴霧乾燥により置換した結晶化と溶剤蒸発による結晶化を組み合わせることができる。
【0077】
PGSS法は、予め記載した高圧法とは基本的に異なる。それというのも、これはポリマーにとって(大概は有毒である)溶剤を用いずに行うことができるからである。WO 95/21688でWeidnerにより、Chemie Ingenieur Technik 77 (2005) 669-680でGames等により、Powder Technology 141 (2004) 219-226でFages 等により及びInd. Eng. Chem. Res ., 37, (1997) 3208-3220でBungert等により記載されているように、これらのプロセスの場合には、超臨界流体によるポリマーのガラス温度の低下の作用が利用されている。ポリマーは、超臨界流体中で溶融され、かつ溶液中で作用物質が分散される。この場合に、ポリマー溶融物の粘度も下がる。分散した作用物質とシグナル物質を有するポリマー−ガス溶融物は、析出装置内でノズルを介して放圧され、その際、ノズルは付加的に更に超臨界ガスを加えることができる。ジュール・トムソン効果による温度の低下によって、溶液が冷め、かつポリマーが細かい粉末として析出する。粒子は、サイクロン又は後続の電気的フィルターを通ってガス流から分離できる。このように、種々の大きさのフラクションを分離できる。作用物質は、ポリマーの溶融物ゆえにポリマーマトリックス中に分散できる。ノズル中での放圧により、単分散の細かい粒子が生じる。
【0078】
RESS法はPGSS法に似ている。なぜならば、この方法でも有機溶剤を使用しないからである。Chemie Ingenieur Technik 77 (2005) 669-680でGames等により、Powder Technology 141 (2004) 219-226でFages 等により及びInd. Eng. Chem. Res ., 37, (1997) 3208-3220でBungert等により記載されているように、まず高圧オートクレーブ内でポリマーを溶液中に入れる。作用物質とシグナル物質を同様に溶液に入れるか、又は撹拌機により分散する。装填したミクロ粒子が、溶融物中での作用物質とシグナル物質の均質な分布に極めて重要である場合には、最終的には作用物質分子の大きさがミクロ粒子の大きさを決定的に制限する(Games等, Chemie Ingenieur Technik 77 (2005) 669-680; Fages等, Powder Technology 141 (2004) 219-226 and Bungert等, Ind. Eng. Chem. Res., 37, (1997) 3208-3220)。超臨界溶液は、超臨界圧の場合に析出装置内で周辺圧で噴射される。溶液もしくは液滴の過飽和は、上記の方法と比べて極めて大きな速度を生じる。放圧により、極めて短時間に超臨界流体の密度が下がり、よって溶液のエネルギーもガスに典型的な値まで低下する。このプロセスの場合に、すぐに核形成と物質輸送が続き、かつ他の方法に比べて何倍も最適化される(Games等、Chemie Ingenieur Technik 77 (2005) 669-680; Fages等、 Powder Technology 141 (2004) 219-226 and Bungert等、Ind. Eng. Chem. Res., 37, (1997) 3208-3220)。
【0079】
記載した方法を用いて、900μm未満、有利には500μm未満の粒子直径を有する球状のドラッグ・デリバリー・システムを簡単に得ることができる。記載した方法で、100nm〜10μmの間の粒子直径を有するドラッグ・デリバリー・システムも形成できる。その際、500nm〜10μmの間の粒子直径を有する通常の粒子も使用できる。
【0080】
コアセルベーションによる担体の作用物質装填とシグナル物質装填、又は担体ポリマー溶融物又は担体ポリマーに富む溶液中での作用物質分散とシグナル物質分散は、有利には、−30℃〜100℃の間、特に有利には0℃〜60℃の間の温度範囲内で行われる。このプロセスの際の圧力は、有利には0.1mbar〜20barの間、特に有利には1mbar〜10barの間である。
【0081】
噴霧乾燥、GAS(Gas AntiSolvent)法、PCA(Precipitation with Compressed fluid Antisolvent)法、PGSS(Particles from Gas Saturated Solutions)法及びRPESS(Rapid Expansion of Supercritical Solutions)法による本発明による作用物質の調製物の二者択一的な製造は、有利には−30℃から+150℃の間の温度範囲、有利には0℃〜100℃の間の温度範囲で、かつ0.1mbar〜250barの間、有利には1bar〜180barの間の系圧で行われる。
【0082】
記載した製法の適切な溶剤として、特に水、エタノール又はイソプロパノールのようなアルコール、圧縮CO2、圧縮プロパン、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン、過酸化ベンゾイル、HCl水溶液、ヘキサン、酢酸、エタンジオール、ジクロロメタン、ジクロロエタン及びイオン性液体が挙げられる。
【0083】
このように用意された球状のドラッグ・デリバリー・システムのカプセル化は、特に原則的に経口利用に対して、市販のEudragit(R)(Degussa AG, DE)のようなガレン物質で機能を損失することなく可能である。
【0084】
コアセルベート化もしくは特殊コーティング法(噴霧乾燥、Brace Microsphere法、同軸ノズル、流動床コーティング)の特殊な変法を使用する場合には、
複数の工程で作用物質とシグナル物質を1つ以上の担体ポリマーで覆うか又は被せて存在させることができる。従って、例えば、外側の層にシグナル物質を埋め込み、内側の層に作用物質を埋め込むことができる。その結果、まずシグナル物質が、次に作用物質が放出する。更に、複数の種々の作用物質を種々の粒子層に凝集することもできる。
【0085】
製剤学的作用物質を例えば、先に記載した方法を用いて製剤調製物中に組み込む場合には、作用物質調製物の安定性、担体ポリマーの特性プロフィール、放出トリガーならびに放出力学に常に特殊な要求が課せられる。これは、作用物質が時折その周囲(酵素的分解、温度、pH値の変化)と反応しやすく、溶解性ではなく、もしくは親油性ではないことにある。上記の線状又は分枝又は架橋ポリマー担体を使用しながら該方法で製造される球状のドラッグ・デリバリー・システムは、特に高い安定性を示し、このことにより特に毒性、感受性、反応性又は不安定な製剤学的作用物質を、シグナル物質と一緒に制御して放出もしくは安定化させることができる。分枝又は架橋担体ポリマー、有利には樹枝状ポリマー及び特に有利にはポリエステル基含有の高分枝ポリマー、高分枝ポリグリセリン、ポリサッカリド又はPAMAMデンドリマーを、生物学的に活性な作用物質とシグナル物質用の担体材料として使用する場合には、記載した欠点を減らすか又は完全に取り除くことができる。
【0086】
更に、特に樹枝状担体ポリマーは、ポリマーにとってその比較的に低い溶融粘度と溶液粘度ゆえに、著しく減ない量の溶剤もしくは圧縮ガスでカプセル化法を行うことができる。この場合に、樹枝状ポリマーはそれ自体が溶剤/分散剤としてはたらく。減少した溶剤により、球状の輸送系の製造は、より安全になり、特に爆発しやすい又は健康に有害なガスの放出が著しく減少する。
【0087】
制御された作用物質の放出は、特に作用物質もしくはシグナル物質を囲む担体ポリマー層の厚さ、担体ポリマー中の官能基の種類と数により、かつカプセル化法の種類により影響させることができる。放出時間は、担体ポリマー被覆が厚くなるほど長くなる。担体の厚さは、プロセスパラメーター(pH値、温度、溶剤)のバリエーションの他に、特に出発混合物中のポリマー濃度の変化により達成できる。樹枝状ポリマーを担体として使用することにより、作用物質とシグナル物質での担体の装填は70質量%まで増大させることができ、その結果、放出される作用物質の量が多い場合に特に長い放出時間を達成できる。担体ポリマー被覆の厚さの他に、官能化の度合いがヒドロキシ数もしくは放出時間を決定する。作用物質の放出を極性媒体で行うのがよい場合には、担体ポリマー中に含有される遊離極性基、例えばOH基が少なくなるほど放出はより長くなる。また遊離OH基の数は脂肪酸でのエステル化により影響させることができる。
【0088】
球状のドラッグ・デリバリー・システムからのシグナル物質と作用物質の放出は、種々のメカニズム、例えば担体ポリマーの酵素分解により、加水分解プロセス、pH値の変化又は温度変化のようなものにより行われる。薬理学的作用物質のターゲットを絞った放出に関しては、特に担体の酵素分解が有利である。これに関して特に適切なポリマー担体は、エステル基を有するポリマー、特に分枝又は架橋したポリエステル、有利には樹枝状ポリエステルである。
【0089】
球状のドラッグ・デリバリー・システムは、更に通常の助剤、例えば、安定剤、界面活性剤、油、ワックス、植物エキス、酵母エキス、藻類エキス、アミノ酸、アミノ酸誘導体、ビタミン及びそれらの誘導体、生物活性脂質、例えば、コレステロール、セラミド、擬似セラミド、酸化防止剤、保存剤、着色剤及び顔料のようなものを含有していてもよい。
【0090】
図の説明:
図1aは、非特異的に埋め込まれた非変性のバリアー、シグナル物質(1)、例えば、Tat−タンパク質、非特異的に埋め込まれた非変性の作用物質(2)、分枝ポリマー担体(3)から成り、その際、シグナル物質と作用物質は2つの層で、分枝ポリマー担体(3)とコアセルベート化している担体−作用物質−シグナル剤−凝集物を模範的に示している。さらにまた作用物質調製物は、経口−消化層(4)、例えば、Eudragit(R)で包囲されている。
【0091】
図1bには、細胞外マトリックス(5)でのシグナル物質(8)の放出が示されている。それによって、細胞膜(7)を通って細胞プラズマ(6)への輸送系の吸収(9)が行われる。図1cは、それに続く細胞中での作用物質の放出(10)を示している。
【0092】
図2は、樹枝状担体材料に関する図式的例であり、図2aは、デンドリマーを、図2bは、高分枝ポリマーを模範的に示している。
【0093】
図3は、本発明によるドラッグ・デリバリー・システムを用いて処理したCHO細胞の蛍光顕微鏡写真を示している。その際、シグナル物質としてTatペプチドが使用され、かつ作用物質類似体としてカルボキシフルオレセイン(マーカー)が使用されている。CHO細胞へのマーカーの多くの吸収が検出され、CHO細胞の外側では、インキュベーション30分後でも実質的に何の蛍光も検出できなかった。この作用は、記載したドラッグ・デリバリー・システムを用いると、特異的に結合していない細胞外刺激によっても、細胞膜(バリアー)を通って作用物質を輸送できる("Hopping")という理論を支持する。
【0094】
図4は、フローサイトメトリーを用いて測定したHeLa細胞内での種々のペプチドシグナル物質の吸収の濃度依存性を示している(Tatペプチド、Antpペプチド、hLFペプチド(配列番号1に相応する位置38〜59のアミノ酸配列を有する)、bLFペプチド(配列番号2に相応する位置33〜50によるアミノ酸配列を有する))。
【0095】
図5は、フローサイトメトリーを用いて測定した、短いペプチドLF1とLF2(配列番号1に相応する位置40〜55のアミノ酸を有する(LF1)もしくは配列番号1に相応する位置40〜50のアミノ酸を有する(LF2))と比べた蛍光標識したhLFペプチド(配列番号1に相応する位置38〜59のアミノ酸を有する)の吸収を示している。
【0096】
図6は、種々のhLFペプチド(配列番号1に相応する位置38〜59のアミノ酸を有する)の濃度で0.5時間もしくは6時間インキュベートした場合のHeLa細胞の毒性試験の結果を示している。
【0097】
図7は、α−リポ酸(図7AとB)もしくはヒトのラクトフェリン由来のシグナルペプチドとα−リポ酸を含有する球状のドラッグ・デリバリー・システムを示している。
【0098】
実施例:
実施例では、以下の略語を使用する:
Boc t−ブチルオキシカルボニル
DIPEA ジイソプロピルエチルアミン
DMF ジメチルホルムアミド
EDT エタンジチオール
Fmoc 9−フルオレニルメトキシカルボニル
HBTU 2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
Pmc 2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマンスルホニル
tBu t−ブチル
TES トリエチルシラン
TFA トリフルオロ酢酸
Trt トリフェニルメチル
例1:ペプチドシグナル−補助剤の製造
Fmoc/tBu法を用いて、配列Tyr−Gly−Arg−Lys−Lys−Arg−Arg−Gln−Arg−Arg−Arg(Tat−配列)を有する天然同位体のシグナルペプチドを製造し、その際、使用したL−アミノ酸のα−アミノ官能基をFmoc保護し、かつ三官能性のアミノ酸の側鎖は、以下の保護基で保護してある:Bocはリシンとトリプトファン;tBuはアスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン及びチロシン;Pmcはアルギニン;Trtはシステイン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミン。
【0099】
ペプチドは、スチレン−ペプチドシンセサイザー(MultiSynTech, Witten, DE)で自動的に製造した。これに、それぞれプラスチックフリッターを有するプラスチックノズル5ml中のFmoc−Gly−Trityl−Harz(装填0.85mmol/g;59.5μmol)70mgを装入した。側鎖保護したFmoc−アミノ酸を0.4M DMF中に溶かし、活性化試薬としてDMF中の0.4M HBTUとDMF中の0.8M DIPEAを使用し、一時的なFmoc−保護基の脱離をDMF中の40%ピペリジンで行った。アミノ酸のカップリング、Fmoc−保護基の脱離及び洗浄工程は、磁気撹拌機で撹拌しながら行った。
【0100】
合成プロトコール:Harzをまず2mlのDMFで5分間膨潤させ、かつ吸引濾過し、その後に更に3回DMF2mlで洗浄した。最初のFmoc−グリシンのFmoc保護基を脱離するために、Harzを40%ピペリジン/DMF1.2mlと15分間混ぜ、吸引濾過し、かつもう1度40%ピペリジン/DMF1.2mlと15分間混ぜ、吸引濾過し、かつDMF2mlで4回洗浄した。カップリングのために、まずHarzにDMF中の0.4Mアミノ酸溶液(240μmol、4当量)600μlを、次に0.8M DIPEA/MDF(480μmol、8当量)600μl及び引き続き0.4M HBTU/DMF(240μmol、4当量)600μlをそれぞれ添加した。1時間後に、カップリング溶液を吸引濾過し、かつHarzをDMF2mlで4回洗浄した。更なるカップリングサイクルを初めの状態と同じように実施した。その際、上記のようにまずFmocの脱離を行った。次に洗浄した活性化生成物に、Fmoc保護したもう1つのアミノ酸をカップリングさせ、かつ得られたカップリング生成物を更に洗浄した。最後のアミノ酸をカップリングした後に、Fmoc保護基を上記のように脱離し、次にHarzをDMF2ml、メタノール2ml及びジクロロメタン2mlで4回濯ぎ、かつ乾燥吸収した。引き続き、得られたペプチドを3時間TFA/EDT/TES/H2O(92.5:2.5:2.5:2.5)1.5mlで処理し、側鎖保護基を取り除き、かつ合成したペプチドを固体の担体から脱離した。得られたペプチドを濾過した後に、ペプチド含有濾液をIR−真空蒸発器(TecConsult+Trading, Eggstaett, DE)中でその都度0.5mlまで濃縮し、氷冷したジエチルエーテル3.5mlと混ぜ、かつ−20℃で2時間保存した。次に、析出したペプチドを遠心分離し、再び氷冷したジエチルエーテル3.5mlと3回混合し、スラリー化し、−20℃で2時間保存し、再び遠心分離にかけた。この後に得られたペプチドを真空で乾燥させた。得られた生成物をHPLCと質量分析により検査した。
【0101】
合成に必要なスカベンジャー化合物をFluka(Seelze, DE)で取得した。合成樹脂はRappポリマー(Tuebingen, DE)から、側鎖保護したFmoc−アミノ酸ならびにHBTUはNovabiochem(Bad Soden, DE)から得た。
【0102】
例2:球状の調製物の製造:
このために、6909g/molの分子量Mw、80℃で3Pas未満の溶融粘度、100%の分枝度及び約36ÅのPAMAM−担体分子の直径を有する樹枝状ポリマー(ポリアミドアミン(PAMAM)−デンドリマー)を1番目の混合容器中で100℃で溶かした。
【0103】
作用物質をシミュレーションするためにカルボキシフルオレセイン(マーカー)を使用した。ポリマー溶融物に対して約1質量%のマーカーの割合と約1質量%のシグナルペプチドの割合が達成されるまで、カルボキシフルオレセインを例1で製造したシグナルペプチドと一緒に1番目の混合溶液に計量供給した。この場合に、カルボキシフルオレセインとシグナルペプチドをポリマー溶融物中で強く混合することにより分散させた。
【0104】
2番目の混合容器中に、水(溶剤)87質量%中のペクチン(安定剤)2質量%、ラウリルエーテルスルフェート(乳化剤)1質量%から成る混合物を50℃で撹拌しながら装入し、1番目の混合容器からのポリマー/マーカー/シグナルペプチド−分散液10質量%に絶え間なく撹拌しながら計量供給した(質量%の数値は、2番目の混合容器の乳化剤の全質量に対して示してある)。10分間までの持続時間の後に生じた球状の調製物が析出した。得られた粒子を引き続き濾別し、弱い揮発性溶剤であるエタノールで洗浄し、次に真空乾燥器、ディスク乾燥器又はタンブル乾燥器中で乾燥させた。
【0105】
得られた粒子の大部分は、1μm〜200μmの間の粒子サイズを有した。
【0106】
例3:球状のドラッグ・デリバリー・システムのバリアー輸送の証明
このために、8個のカバーガラスチャンバー(Nunc)中のHeLa細胞もしくはCHO細胞をpHインディケーター有り又は無しで、例2で製造した球状のドラッグ・デリバリー・システム10μMを含有するダルベッコ変法イーグル培地中、37℃で30分間インキュベートした。引き続き、細胞を培地で洗浄し、トリプシン処理により5分間溶かし、PBS中に懸濁させ、かつ続いてすぐにフローサイトメトリーを用いて中程度の蛍光強さ/細胞を全部で10000個の細胞に関して決定した(BD FACSCalibur System, Becton Dickinson, Heidelberg, DE)。生細胞は、測方散乱と前方散乱に基づいて選択した。選択した細胞は阻害されない形態を示した。
【0107】
作用物質の吸収の全ての測定は、Plan-Apochromat 63×1.4 N.A.対物レンズを使用しながら、インバースLSM510レーザースキャンニング顕微鏡(Carl Zeiss, Goettingen, DE)を用いて生細胞で実施した。ペプチドとのインキュベーションは、フローサイトメトリーで記載したように行った。カルボキシフルオレセインの検出に関しては、HFT UV/488ビームスプリッター上でアルゴンイオンレーザーの488nmラインでフルオレセインを刺激した。フルオレセンは、BP505-550"バンドパス"−フィルターを用いて検出した。
【0108】
図3は、共焦点蛍光顕微鏡下で30分間インキュベートした後のCHO細胞のシグナル作用を模範的に示している。蛍光−シグナル("作用物質"−シグナル)の良好な浸透深さが検出できた。それに応じて、細胞膜を通る作用物質の輸送を保証するために、作用物質又はポリマー担体とのシグナルペプチドの共有結合は何も必要ではなかった。
【0109】
もう1つの試験では、例1と2と同様に、蛍光塗料Cy3(0.5質量%)とCy5(0.5質量%)から成る組合せを用いて球状のドラッグ・デリバリー・システムを作り、これと共にCHO細胞をインキュベートした。CHO細胞中での2つの染料のターゲットを絞った吸収は、ここでも検出できた。
【0110】
例4:シグナル物質としてのヒトラクトフェリンとウシラクトフェリン
一般的検討:
細胞と試薬:使用したヒトHeLa−癌細胞はAmerican Type Culture Collection(Manassas, VA, USA)から入手した。HeLa細胞は、安定化グルタミンと2.0g/L NaHCO3(PAN Biotech, Aidenbach、ドイツ)含有のRPMI 1640培地中で培養し、かつ10%濃度のウシ胎児血清(PAN Biotech)とインキュベートした。クロロブロマジンは、Calbiochem(Bad Soden、ドイツ)社から購入し、5−(N−エチル−N−イソプロピル)アミロライド(EIPA)、メチル−β−クロロデキストリン(MSCD)及びMTT[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド]は、Sigma社(Deisenhofen、ドイツ)から購入した。
【0111】
ペプチド:使用したペプチドは、EMC microcollections(Tuebingen、ドイツ)により合成したものである。全てのペプチドの純度は、分析的HPLCにより検査した。ペプチドの相同性は、MALDI-TOFマススペクトロメトリーにより確認した。全てのペプチドの純度は、>95%(214nm HPLC)であった。ペプチドは、カルボキシフルオレセインでN末端を標識した(Fischer等、Bioconjugate Chem. 14m 653-660, 2003に記載されているように)。
【0112】
ペプチドのストック溶液:ペプチドをDMSO中に取り、10mM溶液を得た。得られたストック溶液を更にPBS又は培地と混ぜた。DMSOストック溶液のペプチド濃度は、カルボキシフルオレセインの吸収により算出した。これはUV/VISスペクトロメトリーにより、0.1M Tris/HCL緩衝液(pH8.8)でストック溶液を1:100希釈して行い、吸収は492nmで測定し、かつ75000L/(mol・cm)のカルボキシフルオレセインの吸光係数を呈した。
【0113】
フローサイトメトリー:ペプチドでの装填の効率を測定するために、24ウェルプレート(Sarstedt, Nuembrecht, ドイツ)中1つのウェル当たり50000の濃度でHeLa細胞をRPMI1640含有血清中に入れた。1日後に、細胞を培地で洗浄し、かつ所望の濃度のペプチドを溶かし、かつ300μlのRPMI1640中で30分間インキュベートした。各調合は3回実施した。インキュベーション後に、細胞を培地で洗浄し、かつ5分間のトリプシン処理により溶かし、0.1%(w/v)BSA含有の氷冷したPBS中に懸濁させ、かつ直ちにフローサイトメトリーにより測定した(BD FACS Calibur Systems, Becton Dickinson, Heidelberg、ドイツ)。各プローブ中、7000個の生細胞の蛍光が得られた。生細胞は測方散乱と前方散乱により確認された。
【0114】
例4.1:ヒトラクトフェリンとウシラクトフェリンからのペプチドの吸収効率
ヒト又はウシのラクトフェリン由来のペプチドを固相ペプチド合成により製造した。生細胞中でのペプチドの吸収と細胞内分布を調べるために、2つのペプチドをN末端でカルボキシフルオレセインで修飾した。誘導されたラクトフェリンペプチドが細胞浸透性ペプチドとして活性を有するかどうかを決定するために、bLF−ペプチド又はhLF−ペプチドとインキュベートしたHeLa細胞の細胞会合した蛍光をフローサイトメトリーにより測定した。比較のために、Antp−ペプチドとTat−ペプチドが既に良好に安定した細胞浸透ペプチドとして選択された。
【0115】
図4に示されているように、フローサイトメトリーを用いて測定した4つの全てのペプチドに関して、ペプチド濃度の増大に伴って細胞蛍光が増加した。
【0116】
例4.2:構造−活性に関連する調査
22個のアミノ酸を有するhLF−ペプチドは中程度の長さの細胞浸透性ペプチドである。ノナアルギニンは、9個のアミノ酸だけを有し、一般に普及している細胞浸透性ペプチドであるトランスポータン(Transportan)は27個のアミノ酸を有した。この場合に、7つのカチオンアミノ酸のうち4つ及び芳香族アミノ酸は、シトシン基の近くにある。完全なタンパク質中では、シトシン基はジスルフィド架橋を形成し、これによりドメインはループ構造を形成する。さらに、完全なタンパク質に比べて末端のシステイン基が欠けた短いペプチドの細胞の吸収を試験した(LF1とLF2、表1)。
【0117】
【表1】

【0118】
全てのペプチドをペプチドアミドとして合成した。"Fluo"は、5(6)−カルボキシフルオレセインを表し、CHNH2は、ペプチドのアミド化C−末端を表す。非変性アミノ酸配列は、配列番号3〜6(表1書き込みNo. 3〜6)に相応し、非変性Tat−配列は配列番号27に相応し、非変性Antp−配列は配列番号28に相応する。
【0119】
フローサイトメトリーの結果は図5に記載されている。システインが欠けたペプチドLF1とLF2の吸収は、2つのシステイン基を有するhLFタンパク質の吸収量のほんの十分の一であった。
【0120】
例4.3:hLFペプチドの細胞毒性
上記の実験では、40μMのhLFペプチド濃度を使用し、これにより何の細胞毒性作用も観察されなかった。しかし、生細胞中でのペプチド吸収を観察した際には、1時間未満の比較的に短いインキュベーション時間を使用した。更に細胞の残存性に対する長いインキュベーション時間と高濃度のペプチドの影響を試験した。これに対して、HeLa細胞は1.25μM〜160μMまでの濃度を有するhLF−ペプチドと0.5又は6時間インキュベートした。この後に、細胞の活力をMTT−試験で測定した。結果は図6にまとめてある。
【0121】
30分だけペプチドとインキュベートした細胞では、40μMの濃度まで細胞毒性が観察できなかった。
【0122】
6時間後に、5μMのペプチド濃度では細胞の残存性は僅かに減少した。40μMを上回る濃度では、細胞が死滅した。
【0123】
例5:ヒトラクトフェリン由来のシグナルペプチドとα−リポ酸を用いた及び無しのドラッグ・デリバリー粒子の装填
例5.1:使用した高分枝ポリエステルは、3500g/molの分子量Mw、約35℃のガラス温度及び約490mgKOH/gのヒドロキシ価を有する親水性高分枝ポリエステル(Perstorp(R)社によりBoltorn H30(R)の商標名で市販されている)の疎水化により得られた。疎水化は、ステアリン酸とパルミチン酸から成る混合物での親水性ポリマーのエステル化により行った(ステアリン酸:パルミチン酸の測定比=2:1)。その際、親水性ポリマーのヒドロキシ基の50%が反応した。分子量Mwは、7500g/molであった。
【0124】
調製物の製造のために、α−リポ酸(CAS:62-46-4;Degussa(R) AG社から市販されている)20質量%を溶融ポリマー中約65℃の温度で、1番目の混合容器中でスパイラル撹拌機(200rpm)を用いて5分以内に溶かした。
【0125】
もう1つの混合溶液中に、水中のポリビニルアルコール(M=6000g/mol、Polisciences(R), Warrington, USA)1質量%とエトキシ化脂肪族アルコール(Degussa(R) AG社のTego(R) Alkanol L4)0.1質量%から成る界面活性剤の混合物を50℃で撹拌しながら装入した。
【0126】
引き続き、ポリマーの他にカプセル化すべき物質も含有している1番目の混合容器中で製造したポリマー溶融物を、絶え間なく撹拌しながら(UL TRA-TURRAX, 3000rpm)1番目の混合容器から2番目の混合容器中に50℃で移した。
【0127】
2分間の持続時間ならびに2番目の混合容器中に含まれている組成物を、ポリマーの溶融温度を25℃下回る温度まで冷却した後に、粒子が形成された。チューブポンプを用いて、懸濁液に遠心分離器を入れ、その中で作用物質粒子は25℃で連続相から分離された。引き続き、作用物質粒子を真空乾燥器中で25℃、10mbarで100時間乾燥させた。
【0128】
粒子は不所望な溶剤不含であり、かつ高分枝脂肪酸変性ポリエステルとα−リポ酸約4質量%から成っていた(粒子の質量に対して)。
【0129】
α−リポ酸の粒子含有量は、メタノールもしくはメタノール/水で抽出した後に、HPLCにより測定してα−リポ酸(チオクト酸)約5.4質量%を含有していた。
【0130】
このように得られた粒子のプローブを、例4の表1中No.3からのシグナルペプチドでアセトニトリル/水−溶液中で約30分間膨潤させ、フィルター上で吸引濾過し、かつ外側が乾いた蛍光を発するポリマー材料を引き続きタンタル担体上で、装填したポリマー材料を有するペーパーフィルター細片を粘着テープにより固定し、かつ高真空で一晩乾燥させ、微量のアセトニトリルを取り除いた。
【0131】
プローブの一部を乾燥させ、かつグラファイト粘着フィルム上に固定し、かつ接触させた。プローブ材料において、走査電子顕微鏡の撮影により形態を描写した。相応の写真は図7に記載されている。図7Aと7Bには、α−リポ酸で装填した粒子の電子顕微鏡写真が示されている。図7Cと7Dは、α−リポ酸とシグナルペプチドを装填した粒子の電子顕微鏡写真を示している。
【0132】
撮影条件:
顕微鏡:Jeol JSM 6400
加速度ポテンシャル:20KV
作動間隔:15mm
得られた粒子(シグナルペプチドの装填有り又は無し)を表面分析的にX線電子分光法(XPS)(XPS−表面分析装置、Leybold社, Koeln, Mh-Kante)により特徴付けた。結果は表2と3に再現されている。ペプチド無しの粒子は、担体ポリマーの原子に特異的なシグナル(CとO)を示し、シグナルペプチドを有する調製物は更に特異的な窒素(N)シグナルを示した。結果は、担体、シグナルペプチド及び作用物質が容易に凝集したこと、すなわち、共有結合しないで存在していることを示している。更にシグナルペプチドが粒子表面上で検出できた。
【0133】
【表2】

【0134】
例5.2:調製物を製造するために、95体積%アセトニトリル中のα−リポ酸(CAS: 62-46-4;Degussa(R) AG社から市販されている)1質量%とポリ(DL−ラクチド−コ−グリコライド)(CAS: 26780-50-7、Boehringer Ingelheim社のRESOMER(R) RG 502Hとして市販されている)4質量%を室温にてブレード撹拌機(200rpm)を用いて1番目の混合容器中で5分以内に溶かした。
【0135】
もう1つの混合容器中に、ナタネ油(EAN No. 22112683、Associated Oil Packers GmbH社から入手)中のエトキシ化脂肪族アルコール(Degussa(R) AG社のTago(R)アルコールL4)1質量%を室温で撹拌しながら装入した。
【0136】
引き続き、ポリマーの他に、カプセル化すべき物質も含有している1番目の混合容器中で製造したポリマー溶液を、絶え間なく撹拌しながら(プロペラ撹拌機, 500rpm)1番目の混合容器から2番目の混合容器中に室温で移した。
【0137】
3時間の保持時間後に、有機溶剤を蒸発させ、かつ粒子が形成された。同じ混合容器中で、植物油をn−ヘキサンと混合し(混合比1:1)、引き続き粒子を濾別した。濾過した粒子を真空乾燥器中、50℃、10mbarで100時間乾燥させた。
【0138】
α−リポ酸の粒子含有量は、メタノールもしくはメタノール/水で抽出した後にHPLCにより測定し、α−リポ酸(チオクト酸)0.4質量%が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1a】図1aは、担体−作用物質−シグナル剤−凝集物を示す図である。
【図1b】図1bは、細胞外マトリックスでのシグナル物質の放出を示す図である。
【図1c】図1cは、細胞中での作用物質の放出を示す図である。
【図2】図2のaは、3つの結合能を有する繰り返し単位から構成されるデンドリマーの例を示す図である。図2のbは、高分枝ポリマーの例を示す図である。
【図3】図3は、本発明によるドラッグ・デリバリー・システムを用いて処理したCHO細胞の蛍光顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4は、フローサイトメトリーを用いて測定したHeLa細胞内での種々のペプチドシグナル物質の吸収の濃度依存性を示す図である。
【図5】図5は、フローサイトメトリーを用いて測定した、短いペプチドLF1とLF2と比較した蛍光標識したhLFペプチドの吸収を示す図である。
【図6】図6は、種々のhLFペプチドの濃度で0.5時間もしくは6時間インキュベートした場合のHeLa細胞の毒性試験の結果を示す図である。
【図7】図7は、α−リポ酸(図7AとB)もしくはヒトのラクトフェリン由来のシグナルペプチドとα−リポ酸を含有する球状のドラッグ・デリバリー・システムを示す図である。
【符号の説明】
【0140】
図1中、1.シグナル物質、 2.非変性作用物質、 3.分枝ポリマー担体、 4.経口−消化層、 5.細胞外マトリックス、 6.細胞プラズマ、 7.細胞膜、 8.シグナル物質、 9.吸収、 10.放出。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー担体をベースとする球状のドラッグ・デリバリー・システムにおいて、生物学的バリアーを通る輸送のための少なくとも1つのシグナル物質と、少なくとも1つの作用物質を貯蔵し、その際、担体、シグナル物質及び作用物質は、互いに共有結合を有さないことを特徴とする、ポリマー担体をベースとする球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項2】
シグナル物質も作用物質もポリマー担体中に分散又はコアセルベート化して存在している、請求項1に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項3】
ポリマー担体は、担体の全質量に対して、50質量%を上回る割合で少なくとも1つの分枝又は架橋ポリマーを含有している、請求項1又は2に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項4】
ポリマー担体として、樹枝状ポリマーを使用する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項5】
分枝ポリマー担体は、ヒドロゲル又は櫛状ポリマーである、請求項1から4までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項6】
ポリマー担体として、1000g/molを上回る分子量及び/又は80℃で3.0Pas未満の溶融粘度を有する樹枝状ポリマーを使用する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項7】
担体ポリマーは、ポリアミドアミン−デンドリマー、ポリプロピレンイミン−デンドリマー、ポリエチレンオキシドベースのデンドリマー、ポリエーテル−デンドリマー、ポリアミド−デンドリマー、ポリリシン−デンドリマー及びポリアリールエーテル−デンドリマーのグループから選択される樹枝状担体ポリマーであり;及び/又は
ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリエーテル、ポリアミド、ポリエチレンイミン;ポリカプロラクトン、ポリグリセリン、ポリグリコライド、ポリラクチド、ポリラクチド−コ−グリコライド、ポリタータレート及びポリサッカリドのグループから選択される樹枝状ポリマーであり;及び/又は
天然及び合成炭水化物のホモ又はコポリマー、天然及び合成アミノ酸ポリマー、天然及び合成核酸、ポリアミン、ポリイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオール、ポリオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアセテート、ポリウレタン、有機ケイ素ポリマー、エポキシド樹脂、ポリチオール、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリグリコライド、ポリラクチド、ポリラクチド−コ−グリコライド及びポリタータレートのグループから選択される分枝又は架橋担体ポリマーである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項8】
シグナル物質は、膜透過性ドメイン(PTD)含有の非変性シグナル物質である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項9】
シグナル物質は、ラクトフェリン又はラクトフェリン由来のペプチドである、請求項1から8までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項10】
ラクトフェリン由来のペプチドは、配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30による配列、又は40%を上回る相同性を有するこれらの変異体を含有する、請求項9に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項11】
作用物質は、非変性の製剤学的作用物質である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項12】
含有される作用物質及び/又はシグナル物質は、ドラッグ・デリバリー粒子中の種々の層に非特異的に凝集されている、請求項1から11までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項13】
内側の層の中の作用物質と、これに続く層の中のシグナル物質は、球状の輸送系中に非特異的に凝集されている、請求項1から12までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システム。
【請求項14】
ポリマー担体と非特異的に凝集した少なくとも1つのシグナル物質と、少なくとも1つの作用物質を含有している請求項1から13までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システムを製造するための、分枝又は架橋ポリマー担体の使用。
【請求項15】
ラクトフェリン又はラクトフェリン由来のペプチドをシグナル物質として含有している請求項14に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システムを製造するための、分枝又は架橋ポリマー担体の使用。
【請求項16】
請求項1から13までのいずれか1項に記載の球状のドラッグ・デリバリー・システムを製造する方法において、前記ドラッグ・デリバリー・システムの粒子は、コアセルベーションにより、又は圧縮ガスもしくは超臨界ガスを使用する高圧法により、−30℃から+150℃の間の温度範囲内で、かつ0.1mbar〜250barの間の圧力で作られることを特徴とする、球状のドラッグ・デリバリー・システムを製造する方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−512722(P2009−512722A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536998(P2008−536998)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010301
【国際公開番号】WO2007/048599
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】