説明

ドラムインディスクブレーキ

【課題】水の侵入を抑制するドラムインディスクブレーキを提供することを目的とする。
【解決手段】ブレーキドラムの開口端部に連接されたブレーキディスクを備えるドラムインディスクブレーキにおいて、ブレーキドラムの開口部に対向して固接されたバックプレートは、ブレーキディスクの車両側基端部に形成された凹部に挿入されるフランジ部と、フランジ部への水の伝わりを防止する水ガイド部と、を備えるドラムインディスクブレーキとする。好ましくは、水ガイド部が、ブレーキディスクの周方向1/3以上に設けられるドラムインディスクブレーキとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の侵入を抑制するドラムインディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキドラムの開口端部にブレーキディスクを連設したドラムインディスクブレーキにおいて、ブレーキディスクの車両内側基端部に凹部を形成して、その凹部に挿入されたバッキングプレート等を設けることが、例えば下記特許文献1に開示されている。
【0003】
このバッキングプレート等は、ブレーキドラムの開口部に対向して固設される。また、いわゆるラビリンス等の凹部を設ける構成により、ブレーキアッシー内部への水の侵入を防止し、ブレーキシューの固着や錆等を防止しようとするものである。
【特許文献1】実開昭61−181130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホイール等から滴下した水が、バックプレートを伝わり落ちてロータ側の凹部に侵入する畏れがあり、ブレーキディスクの凹部等での錆等の防止効果が十分であるとはいえなかった。
【0005】
本発明は、上述の問題点に鑑み為されたものであって、水の侵入を抑制するドラムインディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるドラムインディスクブレーキのある態様は、ブレーキドラムの開口端部に連接されたブレーキディスクを備えるドラムインディスクブレーキにおいて、ブレーキドラムの開口部に対向して固接されたバックプレートが、ブレーキディスクの車両内側基端部に形成された凹部に挿入されるフランジ部と、フランジ部への水の伝わりを防止する水ガイド部と、を備える。
【0007】
また、本発明にかかるドラムインディスクブレーキのある態様では、好ましくは水ガイド部が、ブレーキディスクの全周の1/3以上の範囲に設けられてもよい。
【0008】
また、本発明にかかるドラムインディスクブレーキのある態様では、さらに好ましくは水ガイド部が、ブレーキディスクの全周の少なくとも下方1/3以上の範囲に設けられてもよい。
【0009】
また、本発明にかかるドラムインディスクブレーキのある態様では、さらに好ましくは水ガイド部が、フランジ部の車両内側に、溶接により固接されたプレートであってもよい。
【0010】
また、本発明にかかるドラムインディスクブレーキの他の態様では、ブレーキドラムの開口端部に連接されたブレーキディスクを備えるドラムインディスクブレーキにおいて、ブレーキドラムの開口部に対向して固接されたバックプレートが、ブレーキディスクの車両内側基端部に形成された凹部に挿入されるフランジ部を備え、フランジ部は、フランジ部を水が伝わって凹部に水が侵入しないように、ブレーキディスクの全周の少なくとも下方1/3に切り欠き部を有するものとする。
【0011】
また、本発明にかかるドラムインディスクブレーキの他の態様では、好ましくは上述の水ガイド部を備えてもよい。
【0012】
また、本発明にかかるドラムインディスクブレーキの他の態様では、さらに好ましくはブレーキディスクの周方向において、水ガイド部を備える部位に対応するフランジ部が切り欠かれていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明により、水の侵入を抑制するドラムインディスクブレーキを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施形態で説明するドラムインディスクブレーキは、ホイールから滴下した水滴がバックプレートを伝わってブレーキディスクの凹部(ラビリンスともいう)内に侵入することを防止する。これにより、ブレーキディスクに錆が発生することを抑制する。
【0015】
従って、このドラムインディスクブレーキは、ブレーキシューの張り付きによるパーキングブレーキの解除不具合等を低減し、またブレーキパッドの早期摩耗等を抑制してブレーキディスクの長寿命化を図ることが可能となる。
【0016】
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態にかかるドラムインディスクブレーキ100(1)の構成概要を示す概念図である。図1に示すように、車軸方向から見たドラムインディスクブレーキ100(1)は、ブレーキアッシー110(1)内部に水滴が侵入するのを抑制するために、バックプレート120(1)の周縁部の下部1/3程度に、水侵入防止プレート130(1)を溶接で固着する。
【0017】
ドラムインディスクブレーキ100(1)は、典型的にはリアパーキングブレーキに用いることができる。また、詳細な説明は省略するがバックプレート120(1)には、ブレーキシューやスプリング等の部材が組み付けられている。
【0018】
図2は、ドラムインディスクブレーキ100(1)を車軸と垂直な方向から見た断面図である。図2において、紙面左側が車両内側であり紙面右側が車両外側に対応する。ダストカバー210(1)は、バックプレート120(1)の車両内側に配置される。
【0019】
ブレーキドラム230(1)とブレーキディスク220(1)との境界部分、すなわちブレーキディスク220(1)の車両内側基端部には、凹部240(1)が形成されている。凹部240(1)にはバックプレート120(1)のフランジ部121(1)が挿入され、凹部240(1)とフランジ部121(1)とで、水の侵入を防いでいる。
【0020】
ドラムインディスクブレーキ100(1)においては、フランジ部121(1)は、バックプレート120(1)の周縁部分を、ほぼ直角に車両外側に湾曲または屈曲させて形成さる。しかし、例えば不図示の屈曲部材をバックプレート120(1)周縁に取り付けることにより、フランジ部121(1)を形成してもよい。
【0021】
ドラムインディスクブレーキ100(1)は、バックプレート120(1)に沿って上方から伝わってきた水が、フランジ部121(1)から凹部240(1)に侵入しないように、バックプレート120(1)の水進行向きのフランジ部121(1)手前部分において、水侵入防止プレート130(1)が溶接取り付けされる。
【0022】
図2(b)に示すように、水侵入防止プレート130(1)は、バックプレート120(1)を上方から伝わってきた水進行向きのフランジ部121(1)手前において、バックプレート120(1)の車両内側に取り付けられ、水滴が矢印21の向きに流れ落ちるように水の進行方向をガイドする。
【0023】
水はおおよそ鉛直方向に流れ落ちることから、水侵入防止プレート130(1)は、図1で説明したように、ドラムインディスクブレーキ100(1)の鉛直方向を基準としてプラスマイナス60度ずつ計120度程度以上に亘って、90度ずつ計180度以内の範囲内で、バックプレート120(1)の周縁部に取り付けることが好ましい。
【0024】
水侵入防止プレート130(1)を取り付ける範囲が小さすぎると、水侵入防止プレート130(1)が取り付けられていないフランジ部121(1)から凹部240(1)へと水が侵入するので好ましくない。
【0025】
また、水侵入防止プレート130(1)を取り付ける範囲が大きすぎると、ドラムインディスクブレーキ100(1)全体として重くなるので、小型軽量化及び低コスト化の観点からは好ましくない。
【0026】
また、水侵入防止プレート130(1)は、例えば鉄等の金属を用いて作製することができるが、その他任意の薄板部材を用いることができる。また、ドラムインディスクブレーキ100(1)における水滴落下挙動に鑑み、例えば図6(a)に示すような三日月状の水侵入防止プレート130(1a)としてもよく、図6(b)に示すような部分リング状の水侵入防止プレート130(1b)としてもよい。図6は、水侵入防止プレート130(1)の形状バリエーションを例示する図である。
【0027】
図6においては鉛直方向を矢印で示すものとし、車軸61を中心とするバックプレート120(1)の全周360度に対する水侵入防止プレート130(1a),130(1b)が設けられる角度θの割合は、1/3程度以上かつ1/2程度未満であることが好ましい。また、さらに好ましくは水侵入防止プレート130(1a),130(1b)を、下方1/3程度以上かつ下方1/2程度未満に設けるものとする。
【0028】
図6(a)に示すような三日月状の水侵入防止プレート130(1a)とした場合には、より多くの水滴が集中する水適流れ向きにおける下流側にいくに従って、三日月状の水侵入防止プレート130(1a)の幅Wが増大するので、より確実かつ迅速に水を凹部240(1)に侵入しないようにガイドすることが可能となる。
【0029】
また、図6(b)に示すようなリング状の水侵入防止プレート130(1b)とした場合には、水侵入防止プレート130(1b)の作製及び溶接取り付け作業が容易となるので好ましい。
【0030】
水侵入防止プレート130(1a),130(1b)の幅Wは、例えば25〜35ミリメートルとすることができ、バックプレート120(1)から15〜20ミリメートル程度水落下方向に突出した水ガイド部22を設けることが好ましい。
【0031】
図2(b)に示すように、水ガイド部22により、水滴を確実にバックプレート120(1)のフランジ部121(1)から離間させて、鉛直方向に落下するように水をガイドすることが可能となる。
【0032】
図3は、ドラムインディスクブレーキ100(1)のブレーキアッシー110(1)の上方、すなわちダストカバー210(1)の上方、から水滴を滴下した場合の凹部240(1)への水の溜まり具合を説明する概念図である。
【0033】
図3(a)にドットで示すのが、車両内側への水滴の流れを説明したものである。ダストカバー210(1)の上方からダストカバー210(1)のフランジに水滴を滴下すれば、ダストカバー210(1)のフランジ沿いに、かつダストカバー210(1)の車両内側面に沿って水滴が流れ落ちる。
【0034】
そして、キャリパーブラケット31に水滴が落下して、キャリパーブラケット31とダストカバー210(1)との隙間を水滴が流れ落ち、その後ダストカバー210(1)の下部から水滴が落下する。また、図3(b)にドットで示すのが、車両外側への水滴の流れを説明したものである。
【0035】
ダストカバー210(1)の上方からダストカバー210(1)のフランジに水滴を滴下すれば、ダストカバー210(1)のフランジ沿いに、かつダストカバー210(1)の車両外側面に沿って水滴が流れ落ちる。
【0036】
さらに、水滴はバックプレート120(1)に落下し、バックプレート120(1)の絞り形状に沿ってバックプレート120(1)とダストカバー210(1)との間を流れ落ちる。そして、ダストカバー210(1)を流れ落ちる水は下部から落下する。また、バックプレート120(1)の水滴は、仮に水侵入防止プレート130(1)を備えなければフランジ部121(1)から凹部240(1)に侵入することとなる。
【0037】
以上が水滴流れの概要である。現実には、図3(a)に示す車両内側への水滴の流れと、図3(b)に示す車両外側への水滴の流れとが共に生じるものである。また、車両内側への水滴の流れも水量が増大すれば、シューホールド部やケーシング部等から車両外側への水滴の流れと成り得るものである。
【0038】
本実施形態においては、バックプレート120(1)の周縁部に取り付けられた水侵入防止プレート130(1)が、水滴の凹部240(1)への侵入を防止する。特に、水侵入防止プレート130(1)の水ガイド部22が、フランジ部121(1)方向ではなく水ガイド部22方向へと水滴の流れを導くものとなる。
【0039】
(第二の実施形態)
図4は、第二の実施形態にかかるドラムインディスクブレーキ100(2)の構成概要を示す概念図である。また、図5は、ドラムインディスクブレーキ100(2)を車軸と垂直な方向から見た断面図である。図5において、紙面左側が車両内側であり紙面右側が車両外側に対応する。
【0040】
ダストカバー210(2)は、バックプレート120(2)の車両内側に配置される。なお、図4及び図5においては、図1及び図2と対応する部位には、対応する符号を付して説明の重複を避けるため、ここでは簡略に説明することとする。
【0041】
ブレーキドラム230(2)とブレーキディスク220(2)との境界部分、すなわちブレーキディスク220(2)の車両内側基端部には、凹部240(2)が形成されている。
【0042】
凹部240(2)には、切り欠き部130(2)を除いてバックプレート120(2)のフランジ部121(2)が挿入され、凹部240(2)とフランジ部121(2)とで水の侵入を防いでいる。しかし、この構成のみでは上述したように水侵入防止効果が十分ではない。
【0043】
図4に示すように、車軸方向から見たドラムインディスクブレーキ100(2)は、ブレーキアッシー110(2)内部に水滴が侵入するのを抑制するために、バックプレート120(2)の周縁部の下部1/3程度において、フランジ部121(2)に切り欠き部130(2)を有する。
【0044】
切り欠き部130(2)は、フランジ部121(2)を水滴が伝わって凹部240(2)に水が侵入することを回避するため、典型的には図5(b)に示すようにフランジ部121(2)の全て又は一部が除去されて形成される。
【0045】
しかし、フランジ部121(2)が全て除去されることに限定されず、例えば水滴がフランジ部121(2)を伝わって凹部240(2)に侵入することを回避できる程度の切り欠き、換言すればバックプレート120(2)に沿って落下してきた水滴が、そのまま下方へ落下する程度の切り欠きをフランジ部121(2)の一部除去等により施して切り欠き部130(2)を形成してもよい。
【0046】
また、切り欠き部130(2)をフランジ部121(2)の全部分に設けると、凹部240(2)とフランジ部121(2)とで、ブレーキアッシー110(2)内部に水滴が侵入するのを抑制する効果が低減される畏れもある。従って、図4に示すように切り欠き部130(2)は、車軸を中心として鉛直方向を中央に120度程度から180度程度の角度範囲内で設けることが好ましい。
【0047】
これにより、凹部240(2)とフランジ部121(2)とで、ブレーキアッシー110(2)内部に水滴が侵入するのを抑制することと、フランジ部121(2)に沿った水滴の凹部240(2)への侵入防止とを両立することができ、ブレーキアッシー110(2)内部への水の侵入を、より効果的に防ぐことが可能となる。
【0048】
上述のように、ドラムインディスクブレーキ100(2)は、新たな部材を要しないので低コストかつ軽量に水の侵入を防止するパーキングブレーキとすることができるので好ましい。
【0049】
また、ドラムインディスクブレーキ100(1),100(2)は、上述の説明に限定されることはなく、自明な範囲で適宜その構成を変更して利用できることは、当業者に容易に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第一の実施形態にかかるドラムインディスクブレーキの構成概要を示す概念図である。
【図2】ドラムインディスクブレーキを車軸と垂直方向から見た断面図である。
【図3】ダストカバーの上方から水滴を滴下した場合の凹部への水の溜まり具合を説明する概念図である。
【図4】第二の実施形態にかかるドラムインディスクブレーキの構成概要を示す概念図である。
【図5】ドラムインディスクブレーキを車軸と垂直な方向から見た断面図である。
【図6】水侵入防止プレートの形状バリエーションを例示する図である。
【符号の説明】
【0051】
22・・水ガイド部、31・・キャリパーブラケット、61・・車軸、100(1)・・ドラムインディスクブレーキ、110(1)・・ブレーキアッシー、120(1)・・バックプレート、121(1)・・フランジ部、130(1)・・水侵入防止プレート、210(1)・・ダストカバー、220(1)・・ブレーキディスク、230(1)・・ブレーキドラム、240(1)・・凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキドラムの開口端部に連接されたブレーキディスクを備えるドラムインディスクブレーキにおいて、
前記ブレーキドラムの開口部に対向して固接されたバックプレートは、
前記ブレーキディスクの車両内側基端部に形成された凹部に挿入されるフランジ部と、
前記フランジ部への水の伝わりを防止する水ガイド部と、を備える
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のドラムインディスクブレーキにおいて、
前記水ガイド部は、前記ブレーキディスクの全周の1/3以上の範囲に設けられる
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項2に記載のドラムインディスクブレーキにおいて、
前記水ガイド部は、前記ブレーキディスクの全周の少なくとも下方1/3の範囲に設けられる
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のドラムインディスクブレーキにおいて、
前記水ガイド部は、前記フランジ部の車両内側に、溶接により固接されたプレートである
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項5】
ブレーキドラムの開口端部に連接されたブレーキディスクを備えるドラムインディスクブレーキにおいて、
前記ブレーキドラムの開口部に対向して固接されたバックプレートは、
前記ブレーキディスクの車両内側基端部に形成された凹部に挿入されるフランジ部を備え、
前記フランジ部は、前記フランジ部を水が伝わって前記凹部に前記水が侵入しないように、前記ブレーキディスクの全周の少なくとも下方1/3に切り欠き部を有する
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項6】
請求項5に記載のドラムインディスクブレーキにおいて、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の前記水ガイド部を備える
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項7】
請求項6に記載のドラムインディスクブレーキにおいて、
前記ブレーキディスクの周方向において、前記フランジ部は、前記水ガイド部を備える部位に対応して切り欠き部を有する
ことを特徴とするドラムインディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−138946(P2010−138946A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313672(P2008−313672)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】