説明

ドラムブレーキにおけるシューホールド機構

【課題】部品点数が少なく組み付けが容易で、しかもバッキングプレートに対して安定した状態で支持させることができるドラムブレーキにおけるシューホールド機構を提供すること。
【解決手段】ドラムブレーキにおけるシューホールド機構のブレーキシュー20のリム部20bのホイルシリンダ側及びアンカー側のバッキングプレート18に対する当接面は前記バッキングプレート上面に形成したレッジ部b,cに当接支持され、ブレーキシュー20のリム部20bの略中央位置に形成したバッキングプレート18に対する当接面は前記バッキングプレート18の切起部18aの下面に形成したレッジ部aに当接支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシューがバッキングプレート上に摺動自在に支持され、前記ブレーキシューのリム幅方向中心よりもバッキングプレートから離れた方向にオフセットした位置にリターンスプリングのばね力がブレーキシューに作用するドラムブレーキにおけるシューホールド機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、振動等によりブレーキシューがバッキングプレートから飛び跳ねたり、リターンスプリングの影響でブレーキシューがバッキングプレートから浮き上がるような回転モーメントを受けても、ブレーキシューがバッキングプレート上に常に安定して摺動支持されるように、コイルスプリングとシューホールドピンから成るシューホールド機構が従来用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6はこのような従来のコイルスプリングとシューホールドピンから成るシューホールド機構の部分断面図であり、図6に示すように、シューホールド機構1は、バッキングプレート2に形成した係止孔3に、シューホールドピン4の基部4aが弾性板5を介して係止され、シューウェブ6の長孔6aを貫通して延びたシューホールドピン4の頭部側にはワッシャ7,7間に挟まれたコイルスプリング8が配されている。このコイルスプリング8のばね力によりブレーキシューは常にバッキングプレート2側に押圧されているので、ブレーキシューに外力が作用したり、リターンスプリングによる回転モーメントを受けたりしても、バッキングプレートから浮き上がることなく安定した状態で支持されている。
【0004】
【特許文献1】実願昭61−91847(実開昭62−204045号公報)のマイクロフィルム(第5,6頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の従来のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、一つのブレーキに対して、シューホールドピン4、コイルスプリング8、2つのワッシャ7,7および弾性板5を必要とし、部品点数が多く部品管理が面倒であるばかりでなく、バッキングプレート2およびシューウェブ6に係止孔3や長孔6aを形成しなければならずコスト的にも低く抑えることができなかった。しかも、シューホールド機構の組み付けに際しては、シューホールドピン4を長孔6aに挿通させ、コイルスプリング8を圧縮させながら組み付けて90°回転させてバッキングプレート2に摺動自在に支持させるため、熟練を要し半掛け状態にないかどうかの検査も行わなければならなかった。
【0006】
本発明はこのような問題点に着目して成されたもので、部品点数が少なく組み付けが容易で、しかもバッキングプレートに対して安定した状態で支持させることができるドラムブレーキにおけるシューホールド機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、ブレーキシューがバッキングプレート上に摺動自在に支持され、前記ブレーキシューのリム幅方向中心よりもバッキングプレートから上方に離れた方向にオフセットした位置にリターンスプリングのばね力がブレーキシューに作用するドラムブレーキにおけるシューホールド機構であって、前記ブレーキシューのリム部のホイルシリンダ側及びアンカー側の前記バッキングプレートに対する当接面はバッキングプレート上面に形成したレッジ部に当接支持され、前記ブレーキシューのリム部の略中央位置に形成した前記バッキングプレートに対する当接面はバッキングプレートの切起部の下面に形成したレッジ部に当接支持されている。
【0008】
本発明の請求項2に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、請求項1に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構であって、前記リム部の前記バッキングプレートに対する当接面が前記ブレーキシューのウェブ側に突出した打ち出しニブで形成されている。
【0009】
本発明の請求項3に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、請求項1記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構であって、前記リム部の前記バッキングプレートに対する当接面は前記ブレーキシューのウェブ側に折り曲げた折曲片で構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、バッキングプレートの上面と下面に切り分けて当接支持させることで、シューホールド機構のために従来要した多くの部品を使用せず、かつバッキングプレートやシューウェブに形成した孔あけ加工の必要もない。しかもリターンスプリングのばね力を利用してバッキングプレートに対して安定した状態でブレーキシューを支持させることができる。
【0011】
本発明の請求項2に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、ブレーキシューのリム部のバッキングプレートに対する当接面が打ち出しニブで形成されているので、ブレーキシューのリム強度が強化されるとともに、従来用いていたブレーキシューに打ち出し加工を施すだけで済み、新たな構造のブレーキシューを用意する必要がない。
【0012】
本発明の請求項3に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構は、ブレーキシューのリム部のバッキングプレートに対する当接面に折曲片を設けることで、摺動面を大きく設定でき、より安定したブレーキシューの支持が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1を図1ないし図3に基づいて説明する。図1は本発明の実施例1におけるシューホールド機構を備えたドラムブレーキの正面図、図2はリターンスプリングとブレーキシューとの取付関係を説明する模式図で、(a)はホイールシリンダ側のリターンスプリングとブレーキシューとの取付関係、(b)はアンカー側のリターンスプリングとブレーキシューとの取付関係を示す。図3(a)はリム部の略中央位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図1のA−A断面図であり、(b)はリム部のホイルシリンダ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図1のB−B断面図であり、(c)はリム部のアンカ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図1のC−C断面図である。
【0015】
図1に示すように、本発明のシューホールド機構はリーディング・トレーリング型のドラムブレーキ12に適用されたものであり、ホイルシリンダ14とアンカ16を備えたバッキングプレート18には一対のブレーキシュー20,20が摺動自在に支持されている。このブレーキシュー20,20のウェブ20a,20aの一端はホイルシリンダ14内に配設した一対のピストン(図示せず)に当接し、他端はアンカ16に当接している。ブレーキシュー20,20のリム部20b,20bには摩擦ライニング22,22が取り付けられ、ブレーキ作動時に、ホイルシリンダ14に導入された液圧により作動する一対のピストンによりブレーキシュー20,20がアンカ16を支点として拡張し、摩擦ライニング22,22ブレーキドラム24と摩擦係合することにより制動作用が行われる。
【0016】
ホイルシリンダ14に導入された液圧が解除されると、ホイルシリンダ14側のリターンスプリング26と、アンカ16側のリターンスプリング28のばね作用で一対のブレーキシュー20,20は初期の位置に戻される。ブレーキシュー20,20のリム部20b,20bの上下両端部の略中央位置と、ホイルシリンダ14側とアンカ16側の各3カ所にウェブ20a,20aに向かって突出した打ち出しニブ20cが計6個形成されている。バッキングプレート18に対する当接面として構成されるニブ20cはリム部20b,20bの下端側の計3個である。これら打ち出しリム20cはブレーキシュー20,20のリム強度を強化することができるとともに、従来用いていたブレーキシューに打ち出し加工を施すだけで済み、新たな構造のブレーキシューを用意する必要がない。
【0017】
図2(a)に示すように、ホイルシリンダ14側のリターンスプリング26はブレーキシュー20,20のリム部20b,20bの幅方向中心よりもバッキングプレート18から上方に離れた方向にオフセットした位置(リム部20b,20bの幅方向中心線X−XよりR1離れている)に配設され、このリターンスプリング26の両端部26a,26aはブレーキシュー20,20にそれぞれ係止している。ブレーキ作動時に、リターンスプリング26がブレーキシュー20,20を初期位置に戻す方向に作用するばね力をP1とすると、各ブレーキシュー20,20にはP1×R1=M1の回転トルクが作用することになる。
【0018】
一方、アンカ16側のリターンスプリング28も、図2(b)に示すように、ブレーキシュー20,20のリム部20b,20bの幅方向中心よりもバッキングプレート18から上方に離れた方向にオフセットした位置(リム部20b,20bの幅方向中心線Y−YよりR2離れている)に配設され、このリターンスプリング28の両端部28a,28aはブレーキシュー20,20にそれぞれ係止している。ブレーキ作動時に、リターンスプリング28がブレーキシュー20,20を初期位置に戻す方向に作用するばね力をP2とすると、各ブレーキシュー20,20にはP2×R2=M2の回転モーメントが作用することになる。
【0019】
このようにして各ブレーキシュー20,20にはリターンスプリング26,28のばね力P1,P2によりM1,M2の回転モーメントが作用するので、各ブレーキシュー20,20は摩擦ライニング22,22側がバッキングプレート18から上方に向かって離れる方向に回転力を受けることになる。
【0020】
しかし図3(a)に示すように、リム部20b,20bの略中央位置の下方のニブ20cはバッキングプレート18を切り欠いて形成した切起部18aの下面に当接支持され、またホイルシリンダ14側の下方のニブ20cは、図3(b)に示すように、バッキングプレート18の上面に当接支持されており、図3(c)に示すように、アンカ16側の下方のニブ20cも、バッキングプレート18の上面に当接支持されているので、各ブレーキシュー20,20はそれぞれ3カ所に設けたニブ20cにより回転が拘束されることになる。
【0021】
即ち、図3(a)に示すように、各ブレーキシュー20,20に作用するリターンスプリング26,28に基づく回転モーメントは回転モーメントMaとなり、バッキングプレート18の切起部18aの下面であるリム部20bの略中央位置のニブ20cと当接するレッジ面a(レッジ部)には、バッキングプレート18から離れる上向きの押付力Paが発生する。そして回転モーメントMaにより、ホイルシリンダ14側のニブ20cと当接するレッジ面bには、図3(b)に示すようにバッキングプレート18に向かう下向きの押付力Pbが、アンカ16側のニブ20cと当接するレッジ面cには、図3(c)に示すようにバッキングプレート18に向かう下向きの押付力Pcが発生する。
【0022】
そして回転モーメントMaにより、レッジ面aに発生したバッキングプレート18から離れる上向きの押付力Paは、レッジ面b及びレッジ面cに発生した下向きの押付力PbとPcの合力と釣り合うことになり、各ブレーキシュー20,20はバッキングプレート18に対して常に水平な状態に保って拘束されることになるため、各ブレーキシュー20,20は外力による浮き上がりが防止されるとともに、小さな摺動抵抗で案内されることになる。
【0023】
このように本実施例1のシューホールド機構は、ブレーキシュー20,20のリム部20b,20bに設けた3つのニブ20cをバッキングプレート18の3つのレッジ面(レッジ部)a,b,cに当接させることにより、従来と同等のシューホールド機能を持たせることができる。
【実施例2】
【0024】
次に本発明の実施例2を図4及び図5に基づき説明する。図4は本発明の実施例2におけるシューホールド機構を備えたドラムブレーキの正面図、図5(a)はリム部の略中央位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図4のD−D断面図であり、(b)はリム部のホイルシリンダ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図4のE−E断面図であり、(c)はリム部のアンカ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図4のF−F断面図である。なお、実施例1と共通の部品は同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0025】
ブレーキシュー30,30のリム部30b,30bの上下両端部の略中央位置と、ホイルシリンダ14側とアンカ16側の各3カ所にウェブ30a,30aに向かって折り曲げた折曲片30cが計6個形成されている。バッキングプレート18に対する当接面として構成される折曲片30cはリム部30b,30bの下端側の計3個である。
【0026】
そして図5(a)に示すようにリム部30b,30bの略中央位置の下方の折曲片30cはバッキングプレート18を切り欠いて形成した切起部18aの下面に当接支持され、またホイルシリンダ14側の下方の折曲片30cは、図5(b)に示すように、バッキングプレート18の上面に当接支持されており、図5(c)に示すように、アンカ16側の下方の折曲片30cも、バッキングプレート18の上面に当接支持されているので、各ブレーキシュー30,30はそれぞれ3カ所に設けた折曲片30cにより回転が拘束されることになる。
【0027】
このように折曲片30cをバッキングプレート18に対し当接支持させることで、実施例1で既に説明したように、各ブレーキシュー30,30はバッキングプレート18に対して常に水平な状態に保って拘束されることになり、外力による浮き上がりが防止されるとともに、小さな摺動抵抗で案内されることになる。そしてバッキングプレート18に対する当接面に折曲片30cを設けることで、摺動面を任意の大きさに設定でき、より安定したブレーキシューの支持を得ることができる。
【0028】
このように本実施例2のシューホールド機構は、ブレーキシュー30,30のリム部30b,30bに設けた3つの折曲片30cをバッキングプレート18の3つのレッジ面(レッジ部)a,b,cに当接させることにより、従来と同等のシューホールド機能を持たせることができる。
【0029】
以上、本発明の実施例1,2を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、例えば、本実施例ではリーディング・トレーリング型のドラムブレーキに適応した例で説明したが、ツーリーディング型やデュオ・サーボ型等の形式にも適応可能である。
また、ニブ20c或いは折曲片30cをリム部の上下両端部に計6個形成したが、少なくともバッキングプレートと当接するリム部の下端部側だけ3個形成されていれば十分である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1におけるシューホールド機構を備えたドラムブレーキの正面図である。
【図2】リターンスプリングとブレーキシューとの取付関係を説明する模式図で、(a)はホイールシリンダ側のリターンスプリングとブレーキシューとの取付関係、(b)はアンカー側のリターンスプリングとブレーキシューとの取付関係を示す。
【図3】本発明の実施例1におけるシューホールド機構を備えたドラムブレーキの断面図で、(a)はリム部の略中央位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図1のA−A断面図であり、(b)はリム部のホイルシリンダ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図1のB−B断面図であり、(c)はリム部のアンカ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図1のC−C断面図である。
【図4】本発明の実施例2におけるシューホールド機構を備えたドラムブレーキの正面図である。
【図5】本発明の実施例2におけるシューホールド機構を備えたドラムブレーキの断面図、(a)はリム部の略中央位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図4のD−D断面図であり、(b)はリム部のホイルシリンダ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図4のE−E断面図であり、(c)はリム部のアンカ側近傍位置とバッキングプレートとの当接関係を示す図4のF−F断面図である。
【図6】従来のコイルスプリングとシューホールドピンから成るシューホールド機構の部分断面図である。
【符号の説明】
【0031】
12 リーディング・トレーリング型のドラムブレーキ
14 ホイルシリンダ
16 アンカ
18 バッキングプレート
18a 切起部
20 ブレーキシュー
20a ウェブ
20b リム部
20c ニブ
22 摩擦ライニング
24 ブレーキドラム
26 リターンスプリング
26a 端部
28 リターンスプリング
28a 端部
30 ブレーキシュー
30a ウェブ
30b リム部
30c 折曲片
a〜c レッジ面(レッジ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシューがバッキングプレート上に摺動自在に支持され、前記ブレーキシューのリム幅方向中心よりもバッキングプレートから上方に離れた方向にオフセットした位置にリターンスプリングのばね力がブレーキシューに作用するドラムブレーキにおけるシューホールド機構であって、前記ブレーキシューのリム部のホイルシリンダ側及びアンカー側の前記バッキングプレートに対する当接面はバッキングプレート上面に形成したレッジ部に当接支持され、前記ブレーキシューのリム部の略中央位置に形成した前記バッキングプレートに対する当接面はバッキングプレートの切起部の下面に形成したレッジ部に当接支持されているドラムブレーキにおけるシューホールド機構。
【請求項2】
前記リム部の前記バッキングプレートに対する当接面が前記ブレーキシューのウェブ側に突出した打ち出しニブで形成されている請求項1に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構。
【請求項3】
前記リム部の前記バッキングプレートに対する当接面は前記ブレーキシューのウェブ側に折り曲げた折曲片で構成されている請求項1に記載のドラムブレーキにおけるシューホールド機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−225080(P2007−225080A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49609(P2006−49609)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】