説明

ドラムブレーキ装置

【課題】入力手段の電動化やエアー化が容易で、効きが安定したデュオサーボ式ドラムブレーキ装置を得る。
【解決手段】 カムプレート11のアンカピン8回りの回動に従動して一対のブレーキシュー3,4を拡開すると共に制動トルクが基準倍率を超える時には制動トルクの増加を抑止する方向の制御力をカムプレート11に作用させて、制動トルクを基準倍率以内に抑止する入力制御機構13と、バッキングプレート6を貫通して設けられたカムシャフト51の回転に応じてカムプレート11を回転駆動させる入力機構15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載されるデュオサーボ式のドラムブレーキ装置に関し、詳しくは、制動トルクを基準倍率以下に制限して安定した効きが確保できると共に、ブレーキを作動させる入力手段の電動化やエアー化が容易なドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行を制動するために種々の形式のドラムブレーキ装置が用いられているが、これらのドラムブレーキ装置は、略円筒状のドラムの内周面に押圧されるブレーキシューの配置によって、リーディングトレーリング式やツーリーディング式、若しくはデュオサーボ式等に分類される。
【0003】
デュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、一般に、円筒状のドラム内に、互いに対向して配置されたプライマリシューとセカンダリシューの一対のブレーキシューを備える。プライマリシューは、ドラムの前進回転方向入口側が入力部とされると共に、ドラムの前進回転方向出口側は例えばアジャスタを介してセカンダリシューの入口側に連結される。一方、セカンダリシューの出口側はバッキングプレート上に装備されたアンカー部に当接させられ、プライマリシュー及びセカンダリシューに作用するアンカー反力をアンカー部で受け止めるようになっている。
【0004】
これにより、プライマリシュー及びセカンダリシューを拡開させてドラムの内周面に押し付けると、プライマリシューに作用するアンカー反力がセカンダリシューに入力してセカンダリシューをドラム内周面に押し付けるように作用するため、プライマリシューとセカンダリシューの双方がリーディング・シューとして動作し、非常にゲインの高い制動力を得ることができる。
【0005】
このようなデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、リーディングトレーリング式やツーリーディング式のドラムブレーキ装置と比較して、極めて高い制動力を得ることができるばかりでなく、小型化し易く、かつ駐車ブレーキの組み込みも容易である等の多くの長所を有している。しかし、その反面、ブレーキシューのライニングの摩擦係数の変化に敏感であるため、制動力を安定させにくい傾向があって、制動力を安定化させる工夫が課題とされていた。
【0006】
このような背景から、従来の大型車両用のドラムブレーキ装置としては、効きは低いが安定性に優れたリーディングトレーリング式を採用したものが多く、また、一対のブレーキシューを拡開させる入力機構としては、一対のブレーキシューの一方の対向端間に配置した一対のピストンを、これらの一対のピストン間に挿入されるくさび形状のウエッジにより進退駆動するようにしたウエッジ機構が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平7−309217号公報
【特許文献2】実用新案登録 第2539812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ウエッジ機構による入力機構は、くさび形状のウエッジの傾斜面との摺り合わせでピストンの進退を制御するため、各種の構成部品に高い加工精度が求められると同時に、高い組立精度も必要となり、これらの加工精度や組立精度を守らないと安定した作動を得ることが難しいという問題が生じた。
【0009】
また、小型車両用のドラムブレーキ装置における入力機構としては、油圧で作動するホイールシリンダが採用されることが多いが、設計自由度を高めることから、電動化やエアー化に適した入力機構の開発も望まれていた。
【0010】
本発明は上記課題を解消することに係り、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させ、また、比較的簡単な構造の入力機構で安定した作動を確保することができるだけでなく、入力機構の電動化やエアー化が容易なドラムブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)本発明に係るドラムブレーキ装置は、プライマリシュー及びセカンダリシューの一対のブレーキシューと、
これら一対のブレーキシューをドラムの内周面に向かって拡開自在に支持するバッキングプレートと、
前記ブレーキシューの一方の対向端間に位置するように前記バッキングプレートに固定されたアンカピンと、
前記アンカピンに回動自在に取り付けられたカムプレートと、
前記カムプレートの回動に従動して前記ブレーキシューを拡開すると共に制動トルクが基準倍率を超える時に該制動トルクの増加を抑止する方向の制御力を前記カムプレートに作用させる入力制御機構と、
前記カムプレートを回転駆動させる入力機構と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)のドラムブレーキ装置であって、前記入力機構が、前記バッキングプレートを貫通して回転駆動されるカムシャフトと、前記カムシャフトの中心軸から離間した位置に作用点部を有する偏心カムと、一端が前記偏心カムの作用点部に連結されると共に他端が前記カムプレートに連結され前記カムプレートを前記アンカピンの回りに回動させるストラットと、を備え、
前記カムプレートは前記ストラットを挟む上下一対の板部材を有していることを特徴とする。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)のドラムブレーキ装置であって、前記バッキングプレートの裏面側に突出した前記カムシャフトの端部には、該カムシャフトの半径方向に突出したアームを押圧可能なエアーチャンバを入力手段として装備していることを特徴とする。
【0014】
(4)上記(1)又は(2)のドラムブレーキ装置であって、前記バッキングプレートの裏面側に突出した前記カムシャフトの端部には、該カムシャフトに回転力を入力する入力手段として、電動モータがウォーム及びウォームホイールを介して連結されると共に、前記カムプレートは弾性付勢手段により前記ストラットの他端に弾性的に連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記ドラムブレーキ装置では、入力機構からの入力によりカムプレートがアンカピン回りに回動すると、カムプレートの回動に従動する入力制御機構により、一対のブレーキシューが拡開されて、一対のブレーキシューがドラム内周面に押圧されて制動力を得る。
制動中に、制動トルクが基準倍率を超える時には、入力制御機構が制動トルクの増加を抑止する方向の制御力をカムプレートに作用させて、制動トルクを基準倍率以内に抑止するため、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係るドラムブレーキ装置の正面側から見た斜視図、図2は図1のドラムブレーキ装置の裏面側から見た斜視図、図3は図1に示したドラムブレーキ装置の正面図、図4はドラムブレーキ装置の要部の拡大正面図、図5は図4に示した入力機構の拡大斜視図である。
【0017】
この一実施の形態のドラムブレーキ装置1は、所謂、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置で、略円筒形の図示せぬドラム内の空間に対向配備される一対のプライマリシュー3及びセカンダリシュー4と、これらのブレーキシュー3,4をドラムの内周面に向かって拡開自在に支持するバッキングプレート6と、一対のブレーキシュー3,4の一方の対向端間に位置するようにバッキングプレート6に固定されたアンカピン8と、アンカピン8に回動自在に取り付けられたカムプレート11と、カムプレート11の回動に従動してブレーキシュー3,4の拡開動作を制御する入力制御機構13(図4参照)と、カムプレート11を回動させる入力機構15と、入力機構15を作動させる回転力を入力機構15に入力する入力手段であるエアーチャンバ17と、を備えている。
【0018】
なお、図示せぬドラムは、バッキングプレート6と同心で、車両の前進時には図3の矢印R方向に回転する。また、各ブレーキシュー3,4の他方の対向端間には、プライマリシュー3の出力をセカンダリシュー4に入力するリンク機能を兼ねるアジャスタ組立体19が装備されている。
【0019】
一対のブレーキシュー3,4は、ドラムの内周に向かって移動可能に、シューホールドダウン機構21によりバッキングプレート6に取り付けられている。各ブレーキシュー3,4のアンカピン8側の端部は、アンカスプリング23,24を介して、各アンカピン8に取り付けられているブラケット27に連結され、それぞれのシューの端部が互いに接近する方向(即ち、ドラムから離間する方向)に付勢されている。
【0020】
また、各ブレーキシュー3,4のアジャスタ組立体19側の端部相互は、アジャスタスプリング29の付勢力によって、アジャスタ組立体19の端部に当接した状態が維持されるように付勢されている。
【0021】
アジャスタ組立体19は、本来は、各ブレーキシュー3,4のライニング3c,4cの摩耗の進行に応じて、これらブレーキシュー3,4の端部間の間隔を調整するもので、アジャスタスプリング29の付勢力によって先端がアジャスタ組立体19上の調整用歯車19aに当接されたアジャスタレバー31の回動動作で、ブレーキシュー3,4の端部間の間隔を自動調整するように構成されている。
アジャスタレバー31には、アンカピン8からセカンダリシュー4上に取り付けられたケーブルガイド33を経由するアジャスタケーブル組立体35の端部が連結されている。
【0022】
このアジャスタケーブル組立体35は、セカンダリシュー4の拡開時の移動量に応じてアジャスタレバー31に回動力を作用させて、アジャスタレバー31に所定の回動動作をさせる。
【0023】
上記の入力制御機構13は、図4に示すように、プライマリシュー3の拡開駆動用にカムプレート11上に固定装備された第1のシュー駆動ピン41と、セカンダリシュー4の拡開駆動用にカムプレート11上に固定装備された第2のシュー駆動ピン43と、プライマリシュー3のアンカピン8側の端部とアンカピン8との間に介在するようにカムプレート11上に組み付けられた第1の制御レバー45と、セカンダリシュー4のアンカピン8側の端部とアンカピン8との間に介在するようにカムプレート11上に組み付けられた第2の制御レバー47と、を備えている。
【0024】
図4に示したように、第1のシュー駆動ピン41と第2のシュー駆動ピン43とは、アンカピン8を挟んで対称となる位置に固定装備されている。
【0025】
第1の制御レバー45は、プライマリシュー3のアンカピン8側の端部に回動自在に当接する凸円弧曲面状の作用点部45aと、アンカピン8に回動自在に当接する凹円弧曲面状の支点部45bと、第1のシュー駆動ピン41の外周に回動自在に当接する凹円弧曲面状の入力部45cとを備え、カムプレート11が図4に矢印Aで示す方向へ回動すると第1のシュー駆動ピン41がプライマリシュー3側へ変位してプライマリシュー3を拡開する。
【0026】
第1の制御レバー45の作用点部45aは、支点部45bと入力部45cとの中間に位置していて、例えば後進制動時にプライマリシュー3の端部から作用点部45aに作用する制動トルクをアンカピン8と第1のシュー駆動ピン41とに分配し、制動トルクが基準を超える時には該制動トルクの増加を抑止する方向の制御力を第1のシュー駆動ピン41に作用させる。
【0027】
第2の制御レバー47は、セカンダリシュー4のアンカピン8側の端部に回動自在に当接する凸円弧曲面状の作用点部47aと、アンカピン8に回動自在に当接する凹円弧曲面状の支点部47bと、第2のシュー駆動ピン43に回動自在に当接する凹円弧曲面状の入力部47cとを備え、カムプレート11が図4に矢印Aで示す方向へ回動すると第2のシュー駆動ピン43がセカンダリシュー4側へ変位してセカンダリシュー4を拡開する。
【0028】
第2の制御レバー47の作用点部47aは、支点部47bと入力部47cとの中間に位置していて、例えば前進制動時にセカンダリシュー4の端部から作用点部47aに作用する制動トルクをアンカピン8と第2のシュー駆動ピン43とに分配し、制動トルクが基準を超える時には該制動トルクの増加を抑止する方向の制御力を第2のシュー駆動ピン43に作用させる。
【0029】
以上に説明した入力制御機構13は、簡単に説明すれば、制動時には、図4に矢印Aで示した方向へのカムプレート11の回動に従動して、一対の制御レバー45,47がアンカピン8を支点に揺動して、各一対の制御レバー45,47の作用点部45a,47aにより一対のブレーキシュー3,4を拡開すると共に、制動トルクが基準倍率を超える時には、該制動トルクの増加を抑止する方向の制御力を一対の制御レバー45,47がシュー駆動ピン41,43を介してカムプレート11に作用させて、制動トルクを基準倍率以内に抑止する。
【0030】
一対の制御レバー45,47が組み付けられるカムプレート11には、各制御レバー45,47の揺動範囲を規制する一対のリミットピン48,49が装備されている。
【0031】
なお、図示はしていないが、上記カムプレート11は、間隔をあけて同一形状の一対の板部材11aを対向配置したもので、対向する板部材11a相互は、一対のシュー駆動ピン41,43及び一対のリミットピン48,49により結合一体化される。
対向する板部材11a間に画成される空間が、前述した一対の制御レバー45,47の収容スペースとなり、また、後述する入力機構15のストラットの他端を挟んだ状態に収容する収容スペースとなる。
【0032】
入力機構15は、図4及び図5に示すように、バッキングプレート6を貫通して設けられて外部から入力される回転力で回転駆動されるカムシャフト51と、バッキングプレート6の表面側に突出したカムシャフト51の端部に組み付けられてカムシャフト51と一体回転する偏心カム53と、一端55aが偏心カム53の作用点部53aに回動自在に連結されると共に他端55bがジョイントピン56によりカムプレート11に回動自在に連結されるストラット55とを具備している。
【0033】
偏心カム53の作用点部53aは、図5に示すように、カムシャフト51の中心軸51aから半径方向に距離Lだけ離間した位置に設定されている。
また、本実施の形態の場合、作用点部53aは、円柱構造である。
ストラット55の一端55aは、作用点部53aに嵌合する円筒状の滑り軸受57を介して、作用点部53aに回動自在に連結される。作用点部53aに嵌合したストラット55の一端55aは、作用点部53aの先端側外周に形成されたクリップ用溝53bに抜け止めクリップ58を嵌合させることにより、抜け止めされる。
【0034】
本実施の形態の場合、ストラット55は平板状である。そして、ストラット55の他端55bは、カムプレート11の上下一対の板部材11a間に挟まれており、これら一対の板部材11a間に橋渡しされたジョイントピン56によりカムプレート11に連結されている。
【0035】
カムプレート11に連結されたストラット55は、カムシャフト51及び偏心カム53の矢印B方向(図4参照)への回転に応じて、カムプレート11をアンカピン8の回りに矢印A方向(図4参照)に回動させる。
【0036】
本実施の形態の場合、図5に示すように、カムシャフト51のバッキングプレート6の裏面側に突出する端部には、スプライン51bが形成されている。
そして、図2に示すように、バッキングプレート6の裏面側に突出した端部には、前述のスプライン51bを利用して、カムシャフト51の半径方向に突出したアーム61が連結されている。
アーム61の先端には、エアーチャンバ17の出力部17aが結合されている。エアーチャンバ17は、入力手段としてアーム61の先端を出力部17aで押圧して、カムシャフト51を図2の矢印C方向(図4の場合は矢印B方向)に回転駆動する。
【0037】
以上に説明した一実施の形態のドラムブレーキ装置1では、入力機構15からの入力によりカムプレート11がアンカピン8回りに図4の矢印A方向へ回動されると、カムプレート11の回動に従動して入力制御機構13の一対の制御レバー45,47が揺動することで、一対のブレーキシュー3,4が拡開されて、一対のブレーキシュー3,4がドラム内周面に押圧されることで制動力を得る。
【0038】
そして、制動動作中に、制動トルクが基準倍率を超える時には、入力制御機構13が制動トルクの増加を抑止する方向の制御力をカムプレート11に作用させて、制動トルクを基準倍率以内に抑止するため、効きの高いデュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができる。
【0039】
また、上記一実施の形態のドラムブレーキ装置1に装備されている入力機構15は、カムシャフト51に回転力を入力すると、カムプレート11が回動する構成であり、カムシャフト51に回転力を入力するだけで作動させることができるため、入力手段としてエアーチャンバ17を利用することができ、入力機構15のエアー化を容易に達成することができる。
換言すれば、ブレーキ装置への入力手段としてエアー化が普及している大型車両への搭載が容易になる。
【0040】
更に、上述したように、カムシャフト51は、バッキングプレート6を貫通して設けられているため、回転軸受を使うことで、バッキングプレート6上に容易に回転自在に支承させることができ、バッキングプレート6への組付け性も良い。
また、上記実施の形態に示した入力機構15は、従来のウエッジ機構と比較すると、高い加工精度や組立精度が要求されるウエッジ等の部品を使用していないため、比較的容易に安定した作動を得ることができる。
【0041】
また、上記実施の形態のドラムブレーキ装置1では、入力機構15は、バッキングプレート6を貫通して設けられたカムシャフト51に回転力を入力すると、該カムシャフト51の端部に装備された偏心カム53に連結されたストラット55が変位して、カムプレート11が回動する構成であり、ストラット55が単純な平板状のため、ストラット55の製造が容易になる。
【0042】
更に、上記実施の形態のドラムブレーキ装置1では、平板状のストラット55のカムプレート11との連結部は、カムプレート11を構成している一対の板部材11aにより挟まれた形態に組み付けられるため、ストラット55とカムプレート11との連結が外れにくく、動作安定性を向上させることができる。
【0043】
図6は本発明に係るドラムブレーキ装置の他の実施の形態の正面側からの斜視図、図7は図6に示したドラムブレーキ装置の裏面側からの斜視図、図8は図6に示したドラムブレーキ装置の要部の拡大正面図である。
【0044】
この第2の実施の形態のドラムブレーキ装置1Aは、第1の実施の形態に示したドラムブレーキ装置1の一部を改良したもので、改良した点が2つある。
第1の改良点は、カムシャフト51に回転力を入力する入力手段として、エアーチャンバ17の代わりに、電動モータ71を採用した点である。
また、第2の改良点は、図8に示したように、ストラット55の他端部とカムプレート11との連結を、弾性力付勢手段であるダンパスプリング73を使って、弾性的な連結構造にした点である。
【0045】
第2の実施の形態のドラムブレーキ装置1Aにおいて、上記の2つの改良点以外となる基本的な構成は、第1の実施の形態のドラムブレーキ装置1と共通で良く、共通の構成については、同番号を付して説明を省略する。
【0046】
この第2の実施の形態のドラムブレーキ装置1Aの場合、入力機構15への入力手段としての電動モータ71の出力軸は、図示はしていないが、ウォーム及びウォームホイールを介してカムシャフト51に回転力を伝達する構成になっている。
【0047】
ダンパスプリング73は、図8に示したように、平板状のストラット55の他端側に連結ピン75により連結された円筒状のホルダ77内に圧縮状態で収容されている。ホルダ77内のダンパスプリング73は、ストラット55の反対側から、ジョイント78を介してストラット55を押圧付勢している。ジョイント78はストラット55の他端側で開口するピン挿通溝78aを有しており、該ピン挿通溝78aにカムプレート11上のジョイントピン56を嵌合させることで、カムプレート11が弾性的にストラット55の端部に連結されている。
【0048】
上記ダンパスプリング73により弾性的にカムプレート11をストラット55の他端に連結した構成では、ダンパスプリング73の弾性変位によってカムプレート11の回動を許容することにより、ドラムの振れを吸収することができる。
【0049】
図6乃至図8に示したドラムブレーキ装置1Aでは、カムシャフト51を回転駆動する入力手段として電動モータ71を使うため、入力手段としてエアー化を図ることが難しい小型車両への利用も可能になる。
【0050】
また、電動モータ71の出力軸とカムシャフト51との間に介在するウォーム及びウォームホイールは、減速比を大きくして大きなトルク出力を得ることができるため、小さな電動モータ71でも、制動力の大きなデュオサーボ式ドラムブレーキ装置の作動が可能になる。
【0051】
更に、ウォーム及びウォームホイールを使った動力伝達機構は、通常、ウォーム側が入力側として使用されるもので、ウォームホイール側を入力側として可逆的に動作させることが難しい。そのため、ストラット55の他端を単純にカムプレート11に直結してしまうと、ドラムの振れをカムプレート11の回動により吸収させることができないが、ダンパスプリング73によりカムプレート11を弾性的にストラット55の端部に連結した上記の構成であれば、ダンパスプリング73の弾性変位によるカムプレート11の回動によってドラムの振れを吸収することができ、ドラムの振れの影響を受けずに、安定した制動性能を発揮することが可能になる。
【0052】
なお、図2に示したように入力機構15にエアーチャンバ17を用いた場合には、エアーチャンバ17自体が緩衝性を有しているため、ダンパスプリング73により弾性的にカムプレート11をストラット55に連結する必要は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置の一実施の形態の正面側から見た斜視図である。
【図2】図1に示したドラムブレーキ装置の裏面側から見た斜視図である。
【図3】図1に示したドラムブレーキ装置の正面図である。
【図4】図1に示したドラムブレーキ装置の要部の拡大正面図である。
【図5】図4に示した入力機構の拡大斜視図である。
【図6】本発明に係るドラムブレーキ装置の他の実施の形態の正面側から見た斜視図である
【図7】図6に示したドラムブレーキ装置の裏面側から見た斜視図である。
【図8】図6に示したドラムブレーキ装置の要部の拡大正面図である。
【符号の説明】
【0054】
1,1A ドラムブレーキ装置
3,4 ブレーキシュー
6 バッキングプレート
8 アンカピン
11 カムプレート
11a 板部材
13 入力制御機構
15 入力機構
17 エアーチャンバ
41 第1のシュー駆動ピン
43 第2のシュー駆動ピン
45 第1の制御レバー
45a 作用点部
45b 支点部
45c 入力部
47 第2の制御レバー
47a 作用点部
47b 支点部
47c 入力部
48,49 リミットピン
51 カムシャフト
53 偏心カム
53a 作用点部
55 ストラット
55a 一端
55b 他端
56 ジョイントピン
61 アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリシュー及びセカンダリシューの一対のブレーキシューと、
これら一対のブレーキシューをドラムの内周面に向かって拡開自在に支持するバッキングプレートと、
前記ブレーキシューの一方の対向端間に位置するように前記バッキングプレートに固定されたアンカピンと、
前記アンカピンに回動自在に取り付けられたカムプレートと、
前記カムプレートの回動に従動して前記ブレーキシューを拡開すると共に制動トルクが基準倍率を超える時に該制動トルクの増加を抑止する方向の制御力を前記カムプレートに作用させる入力制御機構と、
前記カムプレートを回転駆動させる入力機構と、を備えたことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記入力機構が、前記バッキングプレートを貫通して回転駆動されるカムシャフトと、前記カムシャフトの中心軸から離間した位置に作用点部を有する偏心カムと、一端が前記偏心カムの作用点部に連結されると共に他端が前記カムプレートに連結され前記カムプレートを前記アンカピンの回りに回動させるストラットと、を備え、
前記カムプレートは前記ストラットを挟む上下一対の板部材を有していることを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ装置。
【請求項3】
前記バッキングプレートの裏面側に突出した前記カムシャフトの端部には、該カムシャフトの半径方向に突出したアームを押圧可能なエアーチャンバを入力手段として装備していることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラムブレーキ装置。
【請求項4】
前記バッキングプレートの裏面側に突出した前記カムシャフトの端部には、該カムシャフトに回転力を入力する入力手段として、電動モータがウォーム及びウォームホイールを介して連結されると共に、前記カムプレートは弾性付勢手段により前記ストラットの他端に弾性的に連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133465(P2010−133465A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308726(P2008−308726)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】