説明

ドーパミン産生ニューロン特異的マーカーLmx1a

本発明により、分裂停止前のドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞から分裂停止後までの全ての分化段階のドーパミン産生ニューロンに発現する遺伝子Lmx1aが同定された。細胞における該Lmx1aの発現は、パーキンソン病を含む神経変性疾患に対する移植治療に適した細胞の選択の指標となると共に、ドーパミン産生ニューロンの分化誘導に関与する薬剤のスクリーニングにおけるマーカーとしても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパミン産生ニューロンにおいて特異的に発現している遺伝子Lmx1aに関する。該遺伝子の発現または該遺伝子によりコードされる蛋白質の発現を検出することにより、パーキンソン病(PD)等の神経変性疾患の移植治療において用いられるドーパミン産生ニューロン及びその前駆細胞を効率的に分離することができる。
【背景技術】
【0002】
ドーパミン系は、哺乳動物の脳において重要な運動調節、ホルモン分泌調節、情動調節等に関与する非常に重要な系である。従って、ドーパミン作動性神経伝達における異常は、様々な神経系の障害を引き起こす。例えば、パーキンソン病(PD)は、中脳黒質のドーパミン産生ニューロンの特異的な脱落が原因で起こる錐体外路系の神経変性疾患である(HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 第2巻第23版,Isselbacher et al.編,McGraw−Hill Inc.,NY(1994)pp.2275−7)。パーキンソン病の治療法としては、産生されるドーパミン量の低下を補うためにL−DOPA(3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン)を経口投与する方法が主に採られているが、効果の持続性が良くないことが知られている。
【0003】
失われたドーパミン産生ニューロンを補うために、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む6〜9週齢の中絶胎児の中脳腹側領域を移植する治療法も試みられている(米国特許第5690927号;Spencer et al.(1992)N.Engl.J.Med.327:1541−8;Freed et al.(1992)N.Engl.J.Med.327:1549−55;Widner et al.(1992)N.Engl.J.Med.327:1556−63;Kordower et al.(1995)N.Engl.J.Med.332:1118−24;Defer et al.(1996)Brain 119:41−50;Lopez−Lozano et al.(1997)Transp.Proc.29:977−80)。しかし、現在のところ、この方法では細胞の供給面、倫理面(Rosenstain(1995)Exp.Neurol.33:106;Turner et al.(1993)Neurosurg.33:1031−7)で問題がある。また、感染汚染の危険性、免疫学的な移植片拒絶(Lopez−Lozano et al.(1997)Transp.Proc.29:977−80;Widner and Brudin(1988)Brain Res.Rev.13:287−324)、胎児組織が糖分解よりも脂質代謝に主に依存しているための生存率の低さ(Rosenstein(1995)Exp.Neurol.33:106)等の様々な面で問題が指摘されている。
【0004】
倫理面や供給不足の問題を解決するために、例えばブタ由来の皮質、線条、及び中脳細胞を用いる方法も提案されている(例えば、特表平10−508487号公報;特表平10−508488号公報;特表平10−509034号公報参照)。この方法においては、拒絶反応を抑制するため、細胞表面上の抗原(MHCクラスI抗原)を改変するという煩雑な操作が必要とされる。移植片拒絶を解消する方法としては、例えば、セルトーリ細胞を同時に移植することにより、局在的に免疫抑制する方法も提案されている(特表平11−509170号公報;特表平11−501818号公報;Selawry and Cameron(1993)Cell Transplant 2:123−9)。MHCがマッチする血縁者、他人の骨髄、骨髄バンク、及び臍帯血バンク等から移植細胞を得ることも可能であるが、患者自身の細胞を用いることができれば、余計な操作や手間なしに拒絶反応の問題も解決することができる。
【0005】
そこで、中絶胎児由来の細胞に代えて、胚性幹細胞(ES)細胞、骨髄間質細胞などの非神経系細胞からのin vitroにおけるドーパミン産生ニューロンの分化系の移植材料としての利用が有望視されている。実際、ラットパーキンソン病モデルの病変線条へのES細胞移植により機能的なドーパミン産生ニューロンが形成されたとの報告もある(Kim et al.(2002)Nature 418:50−56)。将来的にはES細胞若しくは患者本人の持つ神経幹細胞からの再生治療の重要性が増してくるものと思われる。
【0006】
神経組織の損傷の治療においては脳機能の再構築が必要となり、周囲の細胞と適切なリンクを形成する(ネットワーク形成)ために成熟した細胞ではなくニューロンへとin vivoにおいて分化し得る細胞を移植する必要がある。ニューロン前駆細胞の移植において上述した供給面以外で問題となるのは、前駆細胞が不均一な細胞集団へと分化する可能性がある点である。例えば、パーキンソン病の治療においては、カテコールアミン含有ニューロンの中でもドーパミン産生ニューロンを選択的に移植することが必要である。これまで、パーキンソン病の治療に用いることが提案されている移植細胞としては、線条体(Lindvall et al.(1989)Arch.Neurol.46:615−31;Widner et al.(1992)N.Engl.J.Med.327:1556−63)、ヒト胎児神経由来の不死化セルライン(特表平8−509215号公報;特表平11−506930号公報;特表2002−522070号公報)、NT2Z細胞の有糸分裂後ヒトニューロン(特表平9−5050554号公報)、ニューロン始原細胞(特表平11−509729号公報)、ドーパミン等のカテコールアミンを産生するように外来遺伝子によりトランスフェクトされた細胞、骨髄ストロマ細胞(特表2002−504503号公報;特表2002−513545号公報)、遺伝子改変されたES細胞(Kim et al(2002)Nature 418:50−56)等が挙げられる。しかしながらいずれも、ドーパミン産生ニューロンまたはドーパミン産生ニューロンへと分化する細胞のみを含むものではない。
【0007】
未分化な細胞集団からドーパミン産生ニューロンを選択的に濃縮・分離する方法としては、ドーパミン産生ニューロンで発現するチロシンハイドロキシラーゼ(TH)等の遺伝子のプロモーター/エンハンサーの制御下で蛍光蛋白質を発現するレポーター遺伝子を細胞集団の各細胞に導入し、蛍光を発する細胞を分離することにより、ドーパミン産生ニューロンを生きたまま可視化して濃縮・分離、または同定する方法(特開2002−51775号公報)が提案されている。この方法は、外来遺伝子の導入という煩雑な工程を不可欠とするものであり、さらに、遺伝子治療に用いることを目的とする場合、レポーター遺伝子の存在は毒性、免疫原性の面からも問題である。
【0008】
Lmx1aは、発生中の脊髄の上衣板(最も背側の領域で分化誘導因子を分泌するオーガナイザー領域。ニューロンはここからは発生しない)、神経堤、菱脳の菱唇、発生中の大脳半球の後部において発現されているLIM型ホメオボックス遺伝子として同定された(非特許文献1及び2)。II型脳回欠損のモデル動物であるdreher変異体マウスでは、Lmx1aの常染色体劣性変異が生じていることが明らかにされている(非特許文献1)。さらに、Lmx1aの変異によりqueue courte(qc)ラットにおける中枢神経系病変が引き起こされることも知られている(非特許文献3〜5)。Lmx1a遺伝子は胎仔期ばかりでなく生後も発現し、大脳皮質や小脳の構築に寄与している。
【非特許文献1】Millonig et al.(2000)Nature 403:764−769
【非特許文献2】Failli et al.(2002)Mechanisms of Development 118(1−2):225−228
【非特許文献3】Kitada et al.(2001)The 2001 meeting on Physiologycal Genomics and Rat Models
【非特許文献4】Kitada et al.(2001)The 15th international mouse genome conference
【非特許文献5】Kitada et al.(2000)第17回日本疾患モデル動物学会記録
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現時点でのパーキンソン病(PD)移植治療における大きな問題の一つは、中絶胎児の中脳腹側領域あるいは分化誘導されるドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、いずれも多種の細胞の混合物である点である。神経回路形成における安全性を考えると、目的の細胞種のみを分離してから用いるのが望ましく、また腫瘍形成の危険性を考慮すれば、分裂停止後の神経細胞を分離してから使用することが良いと考えられる。さらに、細胞の移植先の脳内での生存や、正しくネットワーク形成する能力を考えると、より早期の前駆細胞を分離することにより治療効果を増大させ得ると期待される。そこで、本発明者は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的な遺伝子の単離を試みた。その結果、分裂停止直前及び後の神経前駆細胞で一過性に発現する遺伝子の一つとして、Lrp4(WO 2004/065599)及び新規遺伝子65B13(WO 2004/038018)の単離に成功している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的な遺伝子を単離するために、E12.5マウス中脳腹側領域を背腹方向にさらに2つの領域に切り分けて、ドーパミン産生ニューロンを含む最も腹側の領域に特異的に発現する遺伝子をサブトラクション法(N−RDA;representational difference analysis法;RDA法(Listsyn NA(1995)Trends Genet.11:303−7)を改良(「DNA断片の量の均一化方法及びサブストラクション法」(WO 02/103007))により同定した。単離した断片の一つとして、Lmx1aをコードするcDNA断片が得られた。これまで、Lmx1aは間脳から脊髄にかけての最背側の上衣板(roof plate)領域、海馬及び小脳に発現することが報告されている。しかしながら、ドーパミン産生ニューロン特異的に発現していることは知られていなかった。
【0011】
Lmx1aは、増殖中の前駆細胞の段階から分裂停止後も、さらには成体において発現が維持されていた。このようにLmx1aは、公知のマーカーとは異なった発現パターンを示した。特に増殖中の前駆細胞の段階から発現する遺伝子としての特徴を有する。そのため増殖中前駆細胞を含めたドーパミン産生ニューロンの検出において有用なマーカーとなる考えられた。また、公知のマーカーとの併用により、増殖中の前駆細胞と分裂停止後の前駆細胞の選別も可能にした。このように、本発明は、公知のマーカーと比較し、最も初期に発現するマーカーであるという点からも、特にドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング時の有効なマーカーとなることが期待された。
【0012】
本発明は、具体的には次に示す通りである。
<1>ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
以下の(1)〜(6)のいずれかに記載の塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドをドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程を含む方法。
(1)配列番号:13記載の塩基配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
<2>ポリヌクレオチドが、少なくとも15塩基長を有する、上記<1>記載の方法。
<3>以下の(1)〜(6)のいずれかに記載の塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有効成分として含有する、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するための試薬。
(1)配列番号:13記載の塩基配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
<4>ポリヌクレオチドが、少なくとも15塩基長を有する、上記<3>記載の試薬。
<5>ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
下記(1)から(6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程を含む、方法。
(1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
<6>一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、上記<5>記載の方法。
<7>下記(1)から(6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体を有効成分として含有する、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するための試薬。
(1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
<8>一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、上記<7>記載の試薬。
<9>ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載の塩基配列に記載のいずれかの塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドとドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程、
(a−1)配列番号:13記載の塩基配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(a−4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物と結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
<10>さらに(c)DATおよびADH2から選択された一方の遺伝子若しくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程を含む、上記<9>記載の方法。
<11>(b)工程において、選択された遺伝子がLmx1b、Nurr1、またはEn1のいずれか一つまたはこれらのうちの複数である、上記<9>記載の方法。
<12>ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載の塩基配列に記載のいずれかの塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドとドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程、
(a−1)配列番号:13記載の塩基配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(a−4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(b)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
<13>ポリヌクレオチドが、少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列である、上記<9>乃至上記<12>記載の方法。
<14>上記<3>または上記<4>記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
<15>上記<3>または上記<4>記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の翻訳産物に結合する抗体とを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
<16>ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程、
(a−1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(a−4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物と結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
<17>さらに(c)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程を含む、上記<16>記載の方法。
<18>(b)工程において、選択された遺伝子がLmx1b、Nurr1、またはEn1のいずれか一つまたはこれらのうちの複数である、上記<16>記載の方法。
<19>ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程、
(a−1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(a−4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(b)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
<20>一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、上記<16>乃至上記<19>記載の方法。
<21>上記<7>または上記<8>記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
<22>上記<7>または上記<8>記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の翻訳産物に結合する抗体とを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
<23>ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング方法であって、
(a)ドーパミン産生ニューロンに分化し得る細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた後の前記細胞に、以下の(b−1)〜(b−6)に記載のいずれかの塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを接触させて、Lmx1a遺伝子の転写産物を検出する工程
(b−1)配列番号:13記載の塩基配列
(b−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(b−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(b−4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(b−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(b−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(c)Lmx1a遺伝子の転写産物が検出された場合に、被験物質がドーパミン産生ニューロンの分化を誘導する能力を有すると判定する工程、
を含む方法。
<24>ポリヌクレオチドが少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列である、上記<23>記載の方法。
<25>ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング方法であって、
(a)ドーパミン産生ニューロンに分化し得る細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた後の前記細胞に、下記(b−1)から(b−6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体を接触させて、Lmx1a遺伝子翻訳産物を検出する工程、
(b−1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(b−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(b−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(b−4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(b−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(b−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(c)Lmx1a遺伝子の翻訳産物が検出された場合に、被験物質がドーパミン産生ニューロンの分化を誘導する能力を有すると判定する工程、
を含む方法。
<26>一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、上記<25>記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ドーパミン産生ニューロンマーカー遺伝子チロシンヒドロキシラーゼ(TH)のマウスE12.5中脳腹側での発現を示す写真である。左側は、矢状断の写真である。右側は、左側の写真の線部分での冠状断の写真である。さらに中脳部分を4領域に切りけ、VからVLを差し引いたサブトラクションを行った。Mes:正中面(mesal)、D:背側(dorsal)、DL:背側側方(dorsal lateral)、VL:腹側側方(ventral lateral)、及びV:腹側(ventral)。
【図2】Lmx1a、Lmx1b、Nurr1及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)のmRNAのマウスE12.5中脳における発現をin situハイブリダイゼーション法により解析した結果を示す写真である。
【図3】Lmx1a及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)タンパク質のマウスE12.5中脳における共発現を免疫染色法により検出した結果を示す写真である。
【図4】Lmx1a及びEn1タンパク質のマウスE12.5中脳の中脳における共発現を免疫染色法で検出した結果を示す写真である。
【図5】mouseE12.5中脳におけるLmx1aの発現及びBrdUの取り込みを免疫染色法で検出した結果を示す写真である。Lmx1aはドーパミンニューロン増殖前駆細胞において発現していることが示された。
【図6】Lmx1a及びDAT mRNAの出生後7日マウス中脳における発現をin situハイブリダイゼーション法により検出した結果を示す写真である。矢印は中脳黒質領域を示す。
【図7】ヒト成体脳領域におけるLmx1aの発現をRT−PCR法で検出した結果を示す写真である。SN:黒質(Substantia Nigra)、Pu:被殻(Putamen)、CC:大脳皮質(Cerebral Cortex)、Ce:小脳(Cerebellum)、Hi:海馬(hippocampus)、MO:延髄(Medulla Oblongata)、CN:尾状核(Caudate Nucleus)、及びPo:脳橋(Pons)。
【図8】Lmx1a及びドーパミン産生ニューロン特異的マーカー遺伝子の発現タイミングを模式的に示す図である。横軸は、ドーパミン産生ニューロンの発生と成熟の時間を示す。Lmx1aは全ての分化段階のドーパミン産生ニューロンに発現すると考えられた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<マーカーポリヌクレオチドプローブ>
本発明の「ドーパミン産生ニューロンマーカーポリヌクレオチドプローブ」は、増殖前及び増殖後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞、並びにドーパミン産生ニューロンを選択及び/または検出するマーカーとして使用されるものである。該ポリヌクレオチドは、分裂停止前のドーパミン産生ニューロン前駆細胞から成体におけるドーパミン産生ニューロンまで、全ての分化段階を通じて発現するLmx1a遺伝子の発現を検出できるものである。Lmx1a遺伝子の塩基配列は公知である。例えば、マウスLmx1aの配列は、Nature 403:764−769(2000)、Nature 420:563−573(2002)及びMech.Dev.118:225−228(2002)等の文献を参照することができ、GenBankにもAccession番号NM_033652として登録されている。またヒトLmx1aは、Gene 290:217−225(2002)に報告されている。ヒトLmx1aのゲノム配列はGenBank Accession番号AH011517として登録されており、6A変異体(GenBank Accession番号NM_177398)等のアイソフォームも報告されている。
【0015】
ここで、「マーカーポリヌクレオチドプローブ」とは、Lmx1a遺伝子の発現を検出することができればよく、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指す。二本鎖cDNAも組織in situハイブリダイゼーションでプローブとして利用可能であることが知られており、本発明のマーカーにはそのような二本鎖cDNAも含まれる。組織中のRNAの検出において特に好ましいプローブとなるマーカーポリヌクレオチドプローブとしては、RNAプローブ(リボプローブ)を挙げることができる。mRNAの発現の有無によりLmx1a遺伝子の発現を検出する場合には、Lmx1aをコードする領域を使用することが好ましい。マウスLmx1aのアミノ酸配列は、NP_387501.1としてGenBankに登録されており、NM_033652の配列中、220番目から1368番目の塩基がそのコード領域であり、具体的配列を配列番号:14に示した。また、ヒトLmx1aのアミノ酸配列も公知であり(GenBank Accession番号 AAL82892.1等)、その具体的な配列を配列番号:16、18に示した。
【0016】
また、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、天然以外の塩基、例えば、4−アセチルシチジン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’−O−メチルシチジン、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’−O−メチルプソイドウリジン、β−D−ガラクトシルキュェオシン、2’−O−メチルグアノシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデノシン、1−メチルアデノシン、1−メチルプソイドウリジン、1−メチルグアノシン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアノシン、2−メチルアデノシン、2−メチルグアノシン、3−メチルシチジン、5−メチルシチジン、N6−メチルアデノシン、7−メチルグアノシン、5−メチルアミノメチルウリジン、5−メトキシアミノメチル−2−チオウリジン、β−D−マンノシルキュェオシン、5−メトキシカルボニルメチル−2−チオウリジン、5−メトキシカルボニルメチルウリジン、5−メトキシウリジン、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデノシン、N−((9−β−D−リボフラノシル−2−メチルリオプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)N−メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン−5−オキシ酢酸−メチルエステル、ウリジン−5オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2−チオシチジン、5−メチル−2−チオウリジン、2−チオウリジン、4−チオウリジン、5−メチルウリジン、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン、2’−O−メチル−5−メチルウリジン、2’−O−メチルウリジン、ワイブトシン、3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0017】
本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、ドーパミン産生ニューロン特異的に発現するLmx1aのmRNAに相補的な塩基配列を含む。例えば、マウスLmx1aのcDNAの塩基配列はGenBankアクセッション番号NM_033652として登録されており、その具体的配列を配列番号:13に示した。該cDNAに対して相補的な配列を有するポリヌクレオチドは、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブとして使用され得る。さらに、マウスLmx1aのアミノ酸配列がGenBankアクセッション番号NP_387501.1として登録されているが(配列番号:14)、それをコードする塩基配列は上述のGenBankアクセッション番号NM_033652の塩基配列(配列番号:13)に加えて、遺伝子暗号の縮重により該塩基配列とは異なる塩基配列が考えられる。そのような縮重配列に相補的なポリヌクレオチドも本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブに含まれる。さらに、縮重配列以外にもLmx1a遺伝子(配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子)に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列に相補的なポリヌクレオチドも本発明のし得るマーカーポリヌクレオチドプローブに含まれる。
また、同様にヒトについてもLmx1aの配列が知られており(配列番号:15、17)、ヒトLmx1aのmRNAに対して相補的な配列を有するポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドと縮重の関係を有するポリヌクレオチド、さらにはヒトLmx1a遺伝子(配列番号:15、17)に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列に相補的なポリヌクレオチドもまた、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブに含まれる。
【0018】
ここで、或る「塩基配列に対して相補的」とは、塩基配列が鋳型に対して完全に対になっている場合のみならず、そのうちの少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上(例えば、97%、98%または99%)が対になっているものも含む。このような高い相同性を有する遺伝子同士は、同一の機能を示すポリペプチドをコードしている可能性が高いことが知られている。ここで、対になっているとは、鋳型となるポリヌクレオチドの塩基配列中のアデニン(A)に対してチミン(T)(RNAの場合はウラシル(U))、TまたはUに対しA、シトシン(C)に対しグアニン(G)、そしてGに対しCが対応して鎖が形成されていることを意味する。そして特定のヌクレオチド鎖同士の塩基配列レベルでの相同性は、例えばBLASTアルゴリズム(Altschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいた塩基配列の相同性を決定するためのプログラムとして、BLASTN(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410)が開発されており、マーカーポリヌクレオチドプローブと鋳型の配列の相同性を決定するのに使用することができる。具体的な解析方法については、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照することができる。
【0019】
Lmx1aにはオルタナティブアイソフォーム及びアレリック変異体が存在する可能性がある。そのようなアイソフォーム及びアレリック変異体の発現を検出できるポリペプチドも本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブとして利用することができる。また、上述したように、互いに高い相同性を有する遺伝子同士は同一の機能を有するポリペプチドをコードしている可能性が高い。そして、このような高い相同性を有するポリヌクレオチドは、多くの場合、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で対形成することができる。そこで、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブには、ドーパミン産生ニューロン特異的に発現するLmx1aをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含むポリヌクレオチドが包含される。これらのアイソフォーム、アレリック変異体、及び高い相同性を有するポリヌクレオチドは、例えば、公知のLmx1a遺伝子の塩基配列を元にプローブを作成し、該プローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。cDNAライブラリーの作成方法については、『Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989))を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを利用することもできる。
【0020】
以下、より具体的なcDNAライブラリーの作製について説明する。まず、Lmx1aを発現する細胞、臓器、組織等からグアニジン超遠心法(Chirwin et al.(1979)Biochemistry 18:5294−9)、AGPC法(Chomczynski and Sacchi(1987)Anal.Biochem.162:156−9)等の公知の手法により全RNAを調製する。続いて、調製した全RNAよりmRNA Purification Kit(Pharmacia)等を用いてmRNAを精製する。または、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia)のような、直接mRNAを調製するためのキットを利用してmRNAを得ることもできる。次に、得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)のようなcDNA合成のためのキットも市販されている。その他の方法として、cDNAはPCRを利用した5’−RACE法(Frohman et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:8998−9002;Belyavsky et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:2919−32)により合成、及び増幅させてもよい。また、全長率の高いcDNAライブラリーを作製するために、オリゴキャップ法(Maruyama and Sugano(1994)Gene 138:171−4;Suzuki(1997)Gene 200:149−56)等の公知の手法を採用することもできる。上述のようにして得られたcDNAは、適当なベクター中に組み込む。
【0021】
本発明におけるハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」及び「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid−hyb buffer(Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution(CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、Lmx1aのアイソフォーム、アレリック変異体、及び他種生物由来の対応する遺伝子を得るための条件を設定することができる。
【0022】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、『Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection 9.47−9.58)、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987−1997)、特にSection 6.3−6.4)、『DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach 2nd ed.』(Oxford University(1995)、条件については特にSection 2.10)を参照することができる。ハイブリダイズするポリヌクレオチドとしては、公知のLmx1aの塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。このような同一性は、同一の相同性の決定と同様にBLASTアルゴリズム(Altschul et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−8;Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−7)によって決定することができる。上述の塩基配列についてのプログラムBLASTNの他に、このアルゴリズムに基づいたアミノ酸配列についての同一性を決定するためのプログラムとしてBLASTX(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−10)が開発されており、アミノ酸レベルでの同一性を決定するために利用可能である。具体的な解析方法については先に述べたように、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照することができる。
【0023】
その他、遺伝子増幅技術(PCR)(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 6.1−6.4)により、Lmx1aのアイソフォーム及びアレリック変異体等のLmx1aと類似した構造及び機能を有する遺伝子を、公知のLmx1a遺伝子の塩基配列を基にプライマーを設計し、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ヒトを含む霊長類等の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。
【0024】
ポリヌクレオチドの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5463)により確認することができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0025】
さらに、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブはLmx1aの発現を特異的に検出することができれば良いことから、上記(1)Lmx1aのmRNAに相補的な配列、(2)Lmx1aのアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な配列、及び(3)Lmx1aのmRNAに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列の各塩基配列中の少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドが含まれる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、Lmx1a mRNAの発現を検出するためのプローブ、Lmx1a mRNAを増幅して検出するためのPCRまたはRT−PCR用プライマーとして利用することができる。通常、プローブとして使用する場合には、15〜100、好ましくは15〜35個の塩基より構成されたポリヌクレオチドであることが望ましい。また、プライマーとして使用する場合には、少なくとも15個以上、好ましくは30個前後の塩基より構成されるポリヌクレオチドが望ましい。プライマーとして使用する場合には、ポリヌクレオチドの3’末端側の領域を標的とする配列に対して相補的にし、5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、Lmx1a mRNAに対してハイブリダイズすることができる。
【0026】
本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、Lmx1aを発現する細胞より上述のハイブリダイゼーション法、PCR法等を利用して調製することができる。また、Lmx1aの公知の配列情報に基づいて化学合成により製造することもできる。特に組織中のRNAの検出に好ましいとされるリボプローブは、クローニングしたLmx1a遺伝子またはその一部をプラスミドベクターpSP64に逆方向に挿入し、挿入した配列部分をランオフ転写することにより得ることができる。pSP64はSP6プロモーターを含むものであるが、その他、ファージT3、T7プロモーター及びRNAポリメラーゼを組み合わせてリボプローブを作製する方法も公知である。
【0027】
<抗体>
本発明により、ドーパミン産生ニューロンの組織免疫染色等に利用することができる抗Lmx1a抗体が提供される。本発明の抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFv)(Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−83;The Pharmacology of Monoclonal Antibody,Vol.113,Rosenburg and Moore ed.,Springer Verlag(1994)pp.269−315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al.(1992)Int.J.Cancer Suppl.7:58−62;Paulus(1985)Behring Inst.Mitt.78:118−32;Millstein and Cuello(1983)Nature 305:537−9;Zimmermann(1986)Rev.Physiol.Biochem.Pharmacol.105:176−260;VanDijk et al.(1989)Int.J.Cancer 43:944−9)、並びに、Fab、Fab’、F(ab’)、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。さらに本発明の抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。その他、本発明の抗体は、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、GST、緑色蛍光蛋白質(GFP)等との融合蛋白質として製造して、二次抗体を用いずに検出できるようにすることもできる。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の検出、回収を行い得るように改変することもできる。
【0028】
本発明の抗体は、(1)Lmx1a遺伝子(配列番号:13、15、17)によりコードされるポリペプチド、(2)Lmx1aポリペプチド(配列番号:14、16、18)、(3)Lmx1aポリペプチド(配列番号:14、16、18)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、(4)Lmx1a遺伝子の塩基配列(配列番号:13、15、17)に相補的な配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるポリペプチド、並びに(5)前記(1)〜(4)のポリペプチドのうちの抗体を誘導し得る抗原性を備えている一部断片、例えば、少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド(例えば、6、8、10、12または15アミノ酸残基以上)、のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0029】
本発明の抗体は、Lmx1aポリペプチド若しくはその断片、またはそれらを発現する細胞を感作抗原として製造することができる。また、Lmx1aポリペプチドの短い断片はウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、卵白アルブミン等のキャリアに結合させて免疫原として用いてもよい。また、Lmx1aポリペプチドまたはその断片と共に、アルミニウムアジュバント、完全(または不完全)フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント等の公知のアジュバントを抗原に対する免疫応答を強化するために用いてもよい。
【0030】
ヒト、マウス等由来の天然Lmx1aを本発明の抗体を得るための「Lmx1aポリペプチド」として挙げることができる。また、Lmx1aポリペプチドを構成するアミノ酸残基は天然アミノ酸でも、修飾されたものであっても良い。さらに、その他のペプチド配列により修飾された融合蛋白質も本明細書中のLmx1aポリペプチドに含まれる。
【0031】
本発明の抗体を得るためのLmx1aポリペプチドは、Lmx1aの抗原性を有していればよく、天然Lmx1aのアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが包含される。1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドで元のポリペプチドと同じ生物学的活性が維持されることは公知である(Mark et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:5662−6;Zoller and Smith(1982)Nucleic Acids Res.10:6487−500;Wang et al.(1984)Science 224:1431−3;Dalbadie−McFarland et al.(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:6409−13)。ある蛋白質において、元の蛋白質の抗原性を維持した状態で、1若しくは複数個のアミノ酸を欠失、挿入、置換または付加させる方法は公知である。例えば、部位特異的変異誘発法により変異蛋白質をコードするポリヌクレオチドを調製し、適宜発現させて得ることができる(Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor Press(1989);Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,(1987−1997),Section 8.1−8.5;Hashimoto−Goto et al.(1995)Gene 152:271−5;Kinkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−92;Kramer and Fritz(1987)Method.Enzymol.154:350−67;Kunkel(1988)Method.Enzymol.85:2763−6)。
【0032】
本発明の抗体には、Lmx1aポリペプチドの一部に対して特異的な抗体も含まれる。即ち、本発明の抗体を得るためのLmx1aポリペプチドには、Lmx1aの全長アミノ酸配列を有するポリペプチドに加えて、Lmx1aの少なくとも6アミノ酸残基以上(例えば、6、8、10、12または15アミノ酸残基以上)と同一の配列を有するポリペプチド断片である。特に好ましい断片としては、Lmx1aのアミノ末端、カルボキシル末端等のポリペプチド断片を挙げることができる。αヘリックス及びαヘリックス形成領域、α両親媒性領域、βシート及びβシート形成領域、β両親媒性領域、基質結合領域、高抗原指数領域、コイル及びコイル形成領域、親水性領域、疎水性領域、ターン及びターン形成領域、並びに表面形成領域を含む断片がLmx1aポリペプチド断片に含まれる。本明細書におけるLmx1aポリペプチド断片は、Lmx1aポリペプチドの抗原性さえ有すればどのような断片であってもよい。ポリペプチドの抗原決定部位は、蛋白質のアミノ酸配列上の疎水性/親水性を解析する方法(Kyte−Doolittle(1982)J.Mol.Biol.157:105−22)、二次構造を解析する方法(Chou−Fasman(1978)Ann.Rev.Biochem.47:251−76)により推定し、さらにコンピュータープログラム(Anal.Biochem.151:540−6(1985))または短いペプチドを合成しその抗原性を確認するPEPSCAN法(特表昭60−500684号公報)等の手法により確認することができる。
【0033】
Lmx1aポリペプチド、及びポリペプチド断片は、Lmx1aを発現する細胞、組織または臓器よりその物理的性質に基づいて単離することができる。または、公知の遺伝子組換え技術、化学的な合成法等により製造することもできる。例えば、Lmx1aポリペプチドをin vitroで製造する場合、in vitroトランスレーション(Dasso and Jackson(1989)Nucleic Acids Res.17:3129−44)の方法に従って、細胞を含まない試験管内の系でポリペプチドを製造することができる。それに対して、細胞を用いてポリペプチドを製造する場合には、まず所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを適当な発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞を選択して該発現ベクターにより形質転換する。続いて、形質転換された宿主細胞をポリペプチド発現が最も効率よく行われる条件下で培養することにより、所望のポリペプチドを得ることができる。
【0034】
ポリペプチドを発現させるためのベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々の由来のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor Press(1989);Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987))。ベクターは制御配列を有し、ベクターが導入された宿主細胞内で所望のポリヌクレオチドが発現されるように、ポリヌクレオチドは該制御配列下に結合される。ここで、「制御配列」とは、宿主細胞が原核生物であれば、プロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターが含まれる。また宿主細胞が真核生物の場合には、プロモーター及びターミネーターが含まれ、場合によってトランスアクチベーター、転写因子、転写物を安定化するポリAシグナル、スプライシング及びポリアデニル化シグナル等が含まれる。このような制御配列は、それに連結されるポリヌクレオチドの発現に必要とされる全ての構成成分を含む。ベクターには更に選択のためのマーカーが含まれていてもよい。その他、細胞内で発現されたポリペプチドを小胞体内腔、細胞外、またはグラム陰性菌を宿主とする場合にはペリプラズム内へと移行させるために必要とされるシグナルペプチドを目的のポリペプチドに付加するように発現できる塩基配列を発現ベクターに組み込むこともできる。このようなシグナルペプチドとしては、異種蛋白質由来の各種シグナルペプチドが公知であり利用できる。さらに、必要に応じリンカーの付加、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)の挿入を行ってもよい。
【0035】
in vitroにおけるポリペプチドの発現を可能にするベクターとしては、pBEST(Promega)を例示することができる。また、原核細胞宿主における発現に適した種々のベクターが公知である(『微生物学基礎講座8遺伝子工学』(共立出版)等参照)。当業者であれば、選択した宿主に適したベクター及びベクターの宿主への導入方法を適宜選択することができる。種々の宿主細胞が公知である。例えば、酵母、カビ等の真菌類、高等植物、昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳類等の細胞、種々の培養細胞系(COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowesメラノーマ細胞、ミエローマ、Vero、Namalwa、Namalwa KJM−1、HBT5637(特開昭63−299号公報)等)もLmx1aポリペプチド及びその抗原性断片を発現させる宿主として利用することができ、各細胞に適したベクター系、ベクターの宿主細胞への導入手法も公知である。さらに、動物の生体内(Susumu(1985)Nature 315:592−4;Lubon(1998)Biotechnol.Annu.Rev.4:1−54等参照)、及び植物体において外来蛋白質を発現させる方法も公知でありLmx1aポリヌクレオチドを発現させるために利用することができる。
【0036】
ベクターへのDNAの挿入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 11.4−11.11;Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor Press(1989)Section 5.61−5.63)。また必要に応じ、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、発現効率の高い塩基配列を選択し、Lmx1aポリペプチド発現ベクターを設計することができる(Grantham et al.(1981)Nucleic Acids Res.9:r43−74)。Lmx1aポリペプチドを産生する宿主は、Lmx1aポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞内に含むものであるが、該ポリヌクレオチドが適切に発現される限り、該ポリヌクレオチド自身のプロモーター支配下にあっても、ゲノム中に組み込まれていても、または染色体外の構造として保持されていても良い。
【0037】
宿主細胞の培養は、選択した細胞に適した公知の方法により行う。例えば、動物細胞を宿主とする場合、DMEM(Virology 8:396(1959))、MEM(Science 122:501(1952))、RPMI1640(J.Am.Med.Assoc.199:519(1967))、199(Proc.Soc.Biol.Med.73:1(1950))、IMDM等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等の血清を添加し、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。その他、必要に応じ途中で培地の交換を行ったり、通気及び攪拌を行ったりすることができる。
【0038】
通常、遺伝子組換え技術により製造されたLmx1aポリペプチドはまず、ポリペプチドが細胞外に分泌される場合には培地を、宿主がトランスジェニック生物の場合には体液等を、細胞内に産生される場合には細胞を溶解した溶解物を回収する。そして、蛋白質の精製方法として公知の塩析、蒸留、各種クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、ゲル濾過、限外濾過、再結晶、酸抽出、透析、免疫沈降、溶媒沈澱、溶媒抽出、硫安またはエタノール沈澱等を適宜組み合わせることにより所望のポリペプチドを精製する。クロマトグラフィーとしては、アニオンまたはカチオン交換等のイオン交換、アフィニティー、逆相、吸着、ゲル濾過、疎水性、ヒドロキシアパタイト、ホスホセルロース、レクチンクロマトグラフィー等が公知である(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual,Marshak et al.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996))。各種カラムを使用して、HPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーにより蛋白質の精製を行うことができる。また、例えば、GSTとの融合蛋白質として所望の蛋白質を発現させた場合には、グルタチオンカラムを用いた精製法が有効である。一方、ヒスチジンタグを付加した融合蛋白質とした場合にはニッケルカラムを用いた精製法が利用できる。Lmx1aポリペプチドを融合蛋白質として製造した場合には、必要に応じて精製後にトロンビンまたはファクターXa等の酵素を使用して不要な部分を切断することもできる。
【0039】
天然由来のポリペプチドをその物理的性質に基づいて精製し、本発明の抗体を得るための抗原として利用してもよい。さらに、精製したポリペプチドを必要に応じキモトリプシン、グルコシダーゼ、トリプシン、プロテインキナーゼ、リシルエンドペプチダーゼ等の酵素を用いて修飾することもできる。一方、Lmx1aポリペプチドの断片は、上述のLmx1aポリペプチドと同様の化学合成及び遺伝子工学的な手法に加えて、ペプチダーゼ等の適当な酵素を使用したLmx1aポリペプチドの切断により製造することもできる。
【0040】
ドーパミン産生ニューロン特異的なポリクローナル抗体は、例えば、精製されたLmx1aポリペプチドまたはその断片を、必要に応じアジュバントと共に哺乳動物に免疫し、免疫した動物より採取される血清より得ることができる。ここで用いる哺乳動物は、特に限定されないが、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的である。マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物が挙げられる。動物の免疫化は、感作抗原をPhosphate−Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射して行われる。その後、好ましくはフロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生は、血清中の所望の抗体レベルを慣用の方法により測定することにより確認することができる。最終的に、血清そのものをポリクローナル抗体として用いても良いし、さらに精製して用いてもよい。具体的な方法として、例えば『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987)Section 11.12−11.13)を参照することができる。
【0041】
また、モノクローナル抗体を産生するためには、まず、上述のようにして免疫化した動物より脾臓を摘出し、該脾臓より免疫細胞を分離し、適当なミエローマ細胞とポリエチレングリコール(PEG)等と用いて融合してハイブリドーマを作成する。細胞の融合は、Milsteinの方法(Galfre and Milstein(1981)Methods Enzymol.73:3−46)に準じて行うことができる。ミエローマ細胞としては、特に、薬剤により融合細胞を選択できるようにする細胞が好ましい。このような薬剤による選択が可能なミエローマを使用した場合、融合された細胞以外は死滅するヒポキサンチン、アミノプレテリン及びチミジンを含む培養液(HAT培養液)で培養することにより融合されたハイブリドーマを選択することができる。次に、作成されたハイブリドーマの中から、Lmx1aポリペプチドまたはその断片に対して結合する抗体を産生するクローンを選択する。その後、選択したクローンをマウス等の腹腔内に移植し、腹水を回収してモノクローナル抗体を得る。また、具体的な方法として、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987)Section 11.4−11.11)を参照することもできる。
【0042】
ハイブリドーマは、その他、最初にEBウイルスに感染させたヒトリンパ球をin vitroで免疫原を用いて感作し、感作リンパ球をヒト由来のミエローマ細胞(U266等)と融合し、ヒト抗体を産生するハイブリドーマを得る方法(特開昭63−17688号公報)によっても得ることができる。また、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物を感作して製造した抗体産生細胞を用いても、ヒト抗体を得ることができる(WO92/03918;WO93/02227;WO94/02602;WO94/25585;WO96/34096;Mendez et al.(1997)Nat.Genet.15:146−56等)。ハイブリドーマを用いない例としては、抗体を産生するリンパ球等の免疫細胞に癌遺伝子を導入して不死化する方法が挙げられる。
【0043】
また、遺伝子組換え技術により抗体を製造することもできる(Borrebaeck and Larrick(1990)Therapeutic Monoclonal Antibodies,MacMillan Publisheres LTD.,UK参照)。そのためには、まず、抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)からクローニングする。得られた遺伝子を適当なベクターに組み込み、宿主に該ベクターを導入し、宿主を培養することにより抗体を産生させる。このような組換え型の抗体も本発明の抗体に含まれる。代表的な組換え型の抗体として、非ヒト抗体由来可変領域及びヒト抗体由来定常領域とからなるキメラ抗体、並びに非ヒト抗体由来相補性決定領域(CDR)、及びヒト抗体由来フレームワーク領域(FR)及び定常領域とからなるヒト化抗体が挙げられる(Jones et al.(1986)Nature 321:522−5;Reichmann et al.(1988)Nature 332:323−9;Presta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−6;Methods Enzymol.203:99−121(1991))。
【0044】
抗体断片は、上述のポリクローナルまたはモノクローナル抗体をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することにより製造することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を用いて遺伝子工学的に製造することも可能である(Co et al.(1994)J.Immunol.152:2968−76;Better and Horwitz(1989)Methods Enzymol.178:476−96;Pluckthun and Skerra(1989)Methods Enzymol.178:497−515;Lamoyi(1986)Methods Enzymol.121:652−63;Rousseaux et al.(1986)121:663−9;Bird and Walker(1991)Trends Biotechnol.9:132−7参照)。
【0045】
多特異性抗体には、二特異性抗体(BsAb)、ダイアボディ(Db)等が含まれる。多特異性抗体は、(1)異なる特異性の抗体を異種二機能性リンカーにより化学的にカップリングする方法(Paulus(1985)Bohring Inst.Mill.78:118−32)、(2)異なるモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを融合する方法(Millstein and Cuello(1983)Nature 305:537−9)、(3)異なるモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子(4種類のDNA)によりマウス骨髄種細胞等の真核細胞発現系をトランスフェクトした後、二特異性の一価部分を単離する方法(Zimmeremann(1986)Rev.Physio.Biochem.Pharmacol.105:176−260;Van Dijk et al.(1989)Int.J.Cancer 43:944−9)等により作製することができる。一方、Dbは遺伝子融合により構築される二価の2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーの抗体断片であり、公知の手法により作製することができる(Holliger et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−8;EP404097;WO93/11161参照)。
【0046】
抗体及び抗体断片の回収及び精製は、プロテインA及びGを用いて行うことができる。その他、抗体以外のポリペプチドと同様に、上記した蛋白質精製技術によって精製することもできる(Antibodies:A Laboratory Manual,Ed.Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))。例えば、本発明の抗体の精製にプロテインAを利用する場合、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia)等のプロテインAカラムが公知であり、使用可能である。得られた抗体の濃度は、その吸光度を測定することにより、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等により決定することができる。
【0047】
抗体の抗原結合活性は、吸光度測定、蛍光抗体法、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ELISA等により測定することができる。ELISA法により測定する場合、本発明の抗体をプレート等の担体に固相化し、次いでLmx1aポリペプチドを添加した後、目的とする抗体を含む試料を添加する。ここで、抗体を含む試料としては、抗体産生細胞の培養上清、精製抗体等が考えられる。続いて、本発明の抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。その後、プレートを洗浄し、二次抗体に付加されている標識の検出を行う。即ち、二次抗体が例えばアルカリホスファターゼで標識されている場合には、p−ニトロフェニルリン酸等の酵素基質を添加して吸光度を測定することで、抗原結合活性を測定することができる。また、抗体の活性評価に、BIAcore(Pharmacia)等の市販の系を使用することもできる。
【0048】
<ドーパミン産生ニューロンの検出>
本発明によりドーパミン産生ニューロンを選択的に検出する方法が提供された。分裂停止前のドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞から成熟ドーパミン産生ニューロンを含む全ての分化段階のドーパミン産生ニューロンをLmx1aの発現を指標として検出することができる。本発明のポリヌクレオチドまたは抗体を用いたドーパミン産生ニューロンを検出する方法は、パーキンソン病等、ドーパミン産生ニューロンの脱落が関連する疾患の診断において使用することができる。ドーパミン産生ニューロンは、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を用いて検出することができる。
【0049】
より具体的には、本発明は、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブとドーパミン産生ニューロンを含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程を含むドーパミン産生ニューロンを検出する方法を提供するものである。該方法においては、マーカーポリヌクレオチドプローブを好ましくは放射性同位体または非放射性化合物で標識しておく。例えば、標識するための放射性同位体としては、35S、H等を挙げることができる。放射標識したマーカーポリヌクレオチドプローブを用いた場合、エマルションオートラジオグラフィーにより銀粒子を検出することによりマーカーと結合するRNAを検出することができる。また、マーカーポリヌクレオチドプローブ標識のため慣用の非放射性同位体としては、ビオチン、ジゴキシゲニン等が公知である。ビオチン標識マーカーの検出は、例えば、蛍光、または、アルカリ性ホスファターゼ若しくは西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を標識したアビジンを用いて行うことができる。一方、ジゴキシゲニン標識マーカーの検出には、蛍光、または、アルカリ性ホスファターゼ若しくは西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を標識した抗ジゴキシゲニン抗体を使用することができる。酵素標識を使用する場合には、酵素の基質と共にインキュベートし、安定な色素をマーカー位置に沈着させることで検出を行う。特に蛍光を利用した、in situハイブリッド形成法(FISH)は簡便な、ドーパミン産生ニューロンの検出に好ましい方法である。
【0050】
また、本発明により、抗Lmx1a抗体とドーパミン産生ニューロンを含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程を含むドーパミン産生ニューロンの検出方法が提供される。即ち、ドーパミン産生ニューロンまたはその前駆細胞を含むことが予測される細胞試料と本発明の抗体とを接触させ、抗体に結合する細胞を選択することでLmx1aポリペプチドを発現している細胞、成熟ドーパミン産生ニューロンから増殖前の前駆細胞を含む全分化段階のドーパミン産生ニューロンを検出・選択することができる。また、この検出・選択を簡便にするために、本発明の抗体を固相に固定化したり、標識化することもできる。検出目的の場合には、ELISA、RIA、表面プラズモン等の技術を組み合わせることができる。選択したドーパミン産生ニューロンやその前駆細胞の精製を必要とする場合には、本発明の抗体をアフィニティークロマトグラフィーに応用することができる。
【0051】
また本発明のマーカーと既存のドーパミン産生ニューロンあるいはその前駆細胞を検出するマーカーとを組合せることにより、前駆細胞と成熟ニューロンとの選別、さらには前駆細胞の中でも分裂前前後の細胞を選別することも可能となる。
例えば、前駆細胞と成熟ニューロンとの選別は、マーカーとしてLmx1aと、DATおよび/またはADH2とを組合せることにより実施することができる。Lmx1a遺伝子は上述の通り分裂前の前駆細胞から成熟ドーパミン産生ニューロンまでの分化において広範囲で発現が確認されている。一方、DAT、ADH2遺伝子は、後述する実施例に示す通りドーパミン産生ニューロンへ分化した後に発現する。したがって、Lmx1a遺伝子の発現を本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは本発明の抗体により検出するともに、Lmx1a遺伝子の発現が検出された細胞における、DAT遺伝子、ADH2遺伝子の一方または双方の発現を解析することにより、前駆細胞と成熟したニューロンとを区別して検出・選択を行うことができる。
【0052】
本発明の第一のドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞の検出・選択方法はとしては、次の(a)、(b)工程が含まれる。
(a)Lmx1a遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドとドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程
(b)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程
【0053】
本発明の第二のドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞の検出・選択方法はとしては、次の(a)、(b)工程が含まれる。
(a)Lmx1aのアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程
(b)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程
【0054】
上記第一の方法および第二の方法のいずれにおいても(a)工程において、Lmx1a遺伝子の発現が解析される。第一の方法のようにLmx1a遺伝子の発現を転写レベルで検出するためには、「Lmx1a遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド」が用いられる。このポリヌクレオチドは、上述した本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブを利用することができる。第二の方法のようにLmx1a遺伝子の発現を翻訳レベルで検出するためには、「Lmx1aのアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体」が用いられる。この抗体は上述した本発明の抗Lmx1a抗体を用いることができる。このようにいずれの方法において、(a)工程においても、Lmx1aの発現が解析される。
(b)工程では、成熟ドーパミン産生ニューロンに分化した細胞であるかを検討するために、DATおよび/またはADH2遺伝子の発現を転写または翻訳産物に基づき検討する。
このDAT遺伝子の発現を転写産物に基づいて検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、DATmRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたDAT検出用ポリヌクレオチドは、DATmRNAにハイブリダイズし得る(1)DATcDNA(配列番号39、41)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)DAT遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:40、42に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)配列番号:39、41に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでDAT遺伝子の発現を検出する場合には、DATと結合する抗体を用いる。DATと結合する抗体としては、(1)DATポリペプチド(配列番号:40または42)、(2)DATポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:40または42)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0055】
同様に、ADH2遺伝子の発現を転写産物に基づいて検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、ADH2mRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたADH2検出用ポリヌクレオチドは、ADH2mRNAにハイブリダイズし得る(1)ADH2cDNA(配列番号43、45)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)DAT遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:44、46に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)ADH2cDNA(配列番号:43、45)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでADH2遺伝子の発現を検出する場合には、ADH2と結合する抗体を用いる。ADH2と結合する抗体としては、(1)ADH2ポリペプチド(配列番号:44または46)、(2)ADH2ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:44または46)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0056】
上述のように、Lmx1a遺伝子発現が検出された細胞群からDAT遺伝子および/またはADH2遺伝子の発現が検出された細胞群を差分することにより、前駆細胞を選択的に検出・選択することができる。なお、このLmx1a遺伝子発現の検出と、DAT遺伝子および/またはADH2遺伝子の発現の検出は同時に行っても、前後して行ってもよい。同時に行う場合には、一例としては、それぞれ検出するためのプローブ等に異なる標識を付加することにより、同時にそれぞれの遺伝子発現を検出してもよい。また前後して行う場合には、Lmx1a遺伝子発現が検出された細胞を選択してから、DAT遺伝子および/またはADH2遺伝子の発現の有無を確認してもよく。また、DAT遺伝子および/またはADH2遺伝子の発現が検出されなかった細胞群に対して、Lmx1a遺伝子を発現する群を選択してもよい。
【0057】
次に、前駆細胞中の分裂前後の細胞群を区別して検出・選択する場合には、マーカーとして(a)Lmx1a遺伝子と、(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択される1または複数の遺伝子とを組合せることにより実施することができる。
Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHは、前駆細胞のうち、分裂停止後に発現する遺伝子群である。そのため、これら遺伝子の発現は、分裂停止後の前駆細胞を見分ける際に利用し得る。一方、Lmx1a遺伝子は、分裂停止前の増殖中の前駆細胞においても発現している。そのため、Lmx1a遺伝子を発現し、かつ(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3またはTHが発現していない細胞を検出・選択することにより、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞のうちでも分裂停止前の増殖前駆細胞の検出・選択が可能となる。
【0058】
具体的には、本発明の第一のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を分裂停止前後の前駆細胞とで分けて検出または選択する方法は、次の(a)および(b)工程から構成される。
(a)Lmx1a遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドとドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程
(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択される1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該遺伝子の翻訳産物と結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程
【0059】
本発明の第二のドーパミン産生ニューロン前駆細胞をを分裂停止前後の前駆細胞とで分けて検出または選択する方法は、次の(a)および(b)工程から構成される。
(a)Lmx1a遺伝子の翻訳産物に結合する抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程
(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択される1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該遺伝子の翻訳産物と結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程
【0060】
上記第一の方法、第二の方法のいずれにおいても、(a)工程は、上述した「Lmx1aとDAT等とを用いて前駆細胞を選択する方法」と同様に、Lmx1a遺伝子の発現を転写または翻訳産物に基づいて検出する。なお、このLmx1a遺伝子発現を検出する方法、材料は、上述した「Lmx1aとDAT等とを用いて前駆細胞を選択する方法」と同様である。
(b)工程では、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞のうち分裂停止後の前駆細胞を見分けるために、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択される1または複数の遺伝子の発現を転写または翻訳産物に基づいて解析する。
【0061】
「Lmx1b遺伝子」の発現を転写レベルで検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、Lmx1bmRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたLmx1b検出用ポリヌクレオチドは、Lmx1bmRNAにハイブリダイズし得る(1)Lmx1bcDNA(配列番号19、21)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)Lmx1b遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:20、22に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)配列番号:19、21に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでLmx1b遺伝子の発現を検出する場合には、Lmx1bと結合する抗体を用いる。Lmx1bと結合する抗体としては、(1)Lmx1bポリペプチド(配列番号:20または22)、(2)Lmx1bポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:20または22)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0062】
「Nurr1遺伝子」の発現を転写レベルで検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、Nurr1mRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたNurr1検出用ポリヌクレオチドは、Nurr1mRNAにハイブリダイズし得る(1)Nurr1cDNA(配列番号23、25)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)Nurr1遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:24、26に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)Nurr1cDNA(配列番号:23、25)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでNurr1遺伝子の発現を検出する場合には、Nurr1と結合する抗体を用いる。Nurr1と結合する抗体としては、(1)Nurr1ポリペプチド(配列番号:24または26)、(2)Nurr1ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:24または26)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0063】
「En1遺伝子」の発現を転写レベルで検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、En1mRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたEn1検出用ポリヌクレオチドは、En1mRNAにハイブリダイズし得る(1)En1cDNA(配列番号27、29)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)En1遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:28、30に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)En1cDNA(配列番号:27、29)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでEn1遺伝子の発現を検出する場合には、En1と結合する抗体を用いる。En1と結合する抗体としては、(1)En1ポリペプチド(配列番号:28または30)、(2)En1ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:28または30)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0064】
「Ptx3遺伝子」の発現を転写レベルで検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、Ptx3mRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたPtx3検出用ポリヌクレオチドは、Ptx3mRNAにハイブリダイズし得る(1)Ptx3cDNA(配列番号31、33)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)Ptx3遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:32、34に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)Ptx3cDNA(配列番号:31、33)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでADH2遺伝子の発現を検出する場合には、Ptx3と結合する抗体を用いる。Ptx3と結合する抗体としては、(1)Ptx3ポリペプチド(配列番号:32または34)、(2)Ptx3ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:32または34)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
【0065】
「TH遺伝子」の発現を転写レベルで検出するための検出用ポリヌクレオチドとしては、THmRNAを検出し得るポリヌクレオチドを用いる。こうしたTH検出用ポリヌクレオチドは、THmRNAにハイブリダイズし得る(1)THcDNA(配列番号:35、37)に相補的な塩基配列からなるRNA、DNA、(2)TH遺伝子暗号の縮重配列である、配列番号:36、38に記載のアミノ酸配列をコードした塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA、RNA、(3)THcDNA(配列番号:35、37)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるDNA、RNAが挙げられる。一方、翻訳レベルでTH遺伝子の発現を検出する場合には、THと結合する抗体を用いる。THと結合する抗体としては、(1)THポリペプチド(配列番号:36または38)、(2)THポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号:36または38)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(3)これら(1)または(2)のポリペプチドのうち少なくとも6アミノ酸残基を有するポリペプチド断片のいずれかに対して特異的な抗体である。
これら(b)工程で使用し得るマーカー遺伝子のうち、Lmx1b、Nurr1、En1をマーカーとして選択することが好ましい。これら三つの遺伝子の発現は、分裂停止後直ちに検出することができることから、前駆細胞の分裂停止前後の細胞をより正確に区別して検出、選択することが可能となる。
【0066】
上述のように、Lmx1a遺伝子発現が検出された細胞群からLmx1b、Nurr1、En1、Ptx3またはTH遺伝子の発現が検出された細胞群を差分することにより、前駆細胞のうち、分裂停止前の増殖前駆細胞を選択的に検出・選択することができる。
上記においては、(a)Lmx1a遺伝子発現検出工程、(b)Lmx1b等のマーカー遺伝子発現検出工程の順で説明をしたが、本方法はこの順に制限されるものではない。
Lmx1a遺伝子発現の検出と、Lmx1b等のマーカー遺伝子発現検出を異なる標識等を用いて同時行ってもよい。また、Lmx1b等のマーカー遺伝子発現検出の後にLmx1a遺伝子発現の検出を行ってもよい。この場合、Lmx1b等のマーカー遺伝子発現が検出されなかった細胞群に対して、Lmx1a遺伝子を発現する群を選択することにより、増殖前駆細胞を選択することができる。
【0067】
上記前駆細胞を分裂停止前後で区別して検出・選択する方法にさらに、上述した成熟ドーパミン産生ニューロンに分化した細胞を検出するマーカー、DAT遺伝子および/またはADH2遺伝子の発現検出工程を加えることにより、「分裂停止前ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞」、「分裂停止後ドーパミン産生ニューロン前駆細胞」、「成熟ドーパミン産生ニューロン」とを区別して検出・選択することができる。
一例を示せば、先ず、Lmx1a遺伝子の発現を上述したプローブまたは抗体等を用いて検出し、ドーパミン産生ニューロンおよび前駆細胞を選択する。次いで、Lmx1a遺伝子発現を指標に選択された細胞群のうち、DAT遺伝子またはADH2遺伝子の発現をそれぞれのプローブまたは抗体等により検討する。ここで、DAT遺伝子またはADH2遺伝子の発現が検出された細胞は、成熟ドーパミン産生ニューロンとして検出・選択される。一方、DAT遺伝子またはADH2遺伝子の発現が検出されなかった細胞群は、さらにLmx1b等のマーカー遺伝子の発現を検討する。ここで、Lmx1b等のマーカー遺伝子の発現が検出された細胞は分裂停止後の前駆細胞であり、Lmx1b等のマーカー遺伝子の発現が検出されなかった細胞は分裂停止前増殖前駆細胞であると、識別することができる。なお、本発明におけるドーパミン産生ニューロンまたはその前駆細胞の選択・検出方法は、ここで示した検出の順序には制限されることはなく、検出工程の順序は任意に決定することができる。
【0068】
また、本発明のドーパミン産生ニューロンまたはその前駆細胞等の検出・選択方法に使用するプローブ・プライマーの設計条件、ストリンジェントな条件、ハイブリダイズの定義については、Lmx1a遺伝子発現検出用プローブ・プライマーにおける条件等と同様である。また、本発明のドーパミン産生ニューロンまたはその前駆細胞等の検出・選択方法に使用する抗体の作成の方法、抗体の種類などについても、上記抗Lmx1a抗体と同様である。
【0069】
また、本発明はドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキットを提供する。上述のように、本発明のLmx1aマーカーポリヌクレオチドまたは抗Lmx1a抗体と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択される1または複数の遺伝子に対するマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を組合せることにより、前駆細胞を選択的に、または前駆細胞における分裂停止前後の細胞群を区別して検出・選択することが可能となった。したがって、上記Lmx1aマーカーポリヌクレオチドまたは抗Lmx1a抗体と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択される1または複数の遺伝子に対するマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体とを組合せた試薬セットは、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキットとして有用である。例えば、ここでLmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群から、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、THのいずれか一つまたは複数を選択し、そのマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体と、Lmx1aマーカーポリヌクレオチドまたは抗Lmx1a抗体とを組合せることにより、前駆細胞のうち、分裂停止前後の前駆細胞を識別して検出・選択するキットとして有効となる。またDATまたはADH2を選択し、そのマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体と、Lmx1aマーカーポリヌクレオチドまたは抗Lmx1a抗体とを組合せることにより、前駆細胞と成熟ニューロンとを識別して検出・選択するキットとして有効となる。
【0070】
<ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング>
Lmx1aは比較的早い発生段階からドーパミン産生ニューロン特異的に発現するマーカーであるので、ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニングにおいて利用することも考えられる。即ち、適当な細胞試料に被験物質を作用させ、Lmx1aの発現を検出することにより、該被験物質にドーパミン産生ニューロンの分化を誘導する能力があるかどうかを決定することができる。従って、本発明はLmx1aの発現を指標とするドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬の候補化合物のスクリーニング方法を提供するものである。Lmx1aの発現は、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗Lmx1a抗体のいずれかを用いて検出することができる。
【0071】
ここで使用する細胞試料は好ましくは、中脳腹側領域の細胞、または多分化能を有するES細胞等、ドーパミン産生ニューロンへと分化誘導され得る細胞を含む細胞試料である。in vitroにおけるドーパミン産生ニューロンの分化誘導は、公知のES細胞、骨髄間質細胞、神経由来の不死化セルライン(特表平8−509215号公報;特表平11−506930号公報;特表2002−522070号公報)、ニューロン始原細胞(特表平11−509729号公報)等の細胞を出発材料とする方法が公知である。さらに、線条体及び皮質等の通常非ドーパミン産生神経組織からドーパミン産生細胞を誘導する方法も知られている(特表平10−509319号公報)。従って、好ましくはこれらの細胞をドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬の候補化合物を作用させる細胞試料として用いる。
【0072】
ここで、細胞と接触させる被験物質はどのような化合物であってもよいが、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、合成ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物等由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。本方法によりスクリーニングされた被験物質は、ドーパミン産生ニューロンの分化を誘導する能力を示す。従って、ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬として、ドーパミン産生ニューロンにおける何等かの欠陥が病因となっている疾病の治療薬候補となり得、有用と考えられる。
【0073】
細胞の分化は、被験物質と接触させない場合におけるLmx1a発現のレベルと比較することにより判定することができる。また、Lmx1a発現と合わせ、細胞の状態を比較することにより細胞の分化の判定を行ってもよい。例えば、細胞の分化を、顕微鏡下において形態学的な観察を行うこと、または、細胞で産生されるドーパミン等の物質を検出、定量して検出してもよい。
【0074】
<Lmx1aの発現領域解析>
Lmx1aの発現制御領域は、Lmx1aの遺伝子配列を利用してゲノムDNAから公知の方法によってクローニングすることができる。例えば、S1マッピング法のような転写開始点の特定方法(細胞工学 別冊8 新細胞工学実験プロトコール,東京大学医科学研究所制癌研究部編,秀潤社(1993)pp.362−374)が公知であり、利用できる。一般に、遺伝子の発現制御領域は、遺伝子の5’末端の15〜100bp、好ましくは30〜50bpをプローブDNAとして利用して、ゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによりクローニングすることができる。このようにして得られるクローンは、10kbp以上の5’非翻訳領域を含むものであるので、次にエキソヌクレアーゼ等により処理し短縮化または断片化する。最後に、短縮された発現制御領域の候補を含む配列部分をレポーター遺伝子を利用して、その発現の有無、強さ、制御等について評価し、Lmx1a発現制御領域の活性維持のための最小必要単位を決定することができる。
【0075】
遺伝子の発現制御領域は、Neural Network等のプログラム(http://www.fruitfly.org./seq_tools/promoter.html;Reese et al.,Biocomputing:Proceedings of the 1996 Pacific Symposium,Hunter and Klein ed.,World Scientific Publishing Co.,Singapore,(1996))を用いて予測することもできる。さらに、発現制御領域の活性最小単位を予測するプログラム(http://biosci.cbs.umn.edu./software/proscan/promoterscan.htm;Prestridge(1995)J.Mol.Biol.249:923−32)も公知であり、用いることができる。
【0076】
このようにして単離された、Lmx1a遺伝子の発現領域は、in vivoでドーパミン産生ニューロンの全ての発生段階において、ドーパミン産生ニューロン特異的に所望のポリペプチド/蛋白質を産生するのに利用することができる。また、Lmx1aは比較的早い発生段階からドーパミン産生ニューロン特異的に発現するマーカーであるので、ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニングにおいて利用することも考えられる。即ち、まず、Lmx1a遺伝子の発現領域の制御下に検出可能なレポーター遺伝子を導入したベクターを作成し、該ベクターで形質転換した適当な細胞を作成する。次に、該細胞を被験物質と接触させ、該被験物質によりレポーター遺伝子の発現が誘導されるかどうかを検出する。レポーター遺伝子の発現が検出された場合、該被験物質は、ドーパミン産生ニューロンの分化を誘導すると判定される。
【0077】
<Lmx1a結合蛋白質>
ホメオボックス遺伝子がコードする蛋白質では類似した60アミノ酸残基から成る配列が保存されている。この保存された領域はホメオドメインと呼ばれ、ホメオドメインをコードするDNA領域はホメオボックスと称される。ホメオドメインはヘリックス・ターン・ヘリックス構造をとるDNA結合ドメインを構成し、DNAの二本鎖の溝に入り込み特定の塩基配列に結合する。それによりホメオボックス遺伝子の産物は、他の遺伝子の転写を活性化または不活性化する転写因子として機能すると考えられている。一方、LIMドメインは6つのシステインと1つのヒスチジンの位置が保存された60アミノ酸残基からなる、Znフィンガーと類似した構造を示す。Znフィンガーと異なりDNA結合能は検出されておらず、蛋白質間の相互作用に関与していると考えられている。LIMドメインが、ホメオドメインと分子内結合することにより、ホメオドメインの機能を抑制し、活性化蛋白質がLIMドメインと結合することによりホメオドメインがDNA結合活性を示すようになると考えられている。
Lmx1a遺伝子は、LIMドメインを持つホメオボックス遺伝子であることから、in vivoにおいて活性化蛋白質と結合して他の遺伝子の転写を制御していると考えられる。従って、Lmx1aと結合する蛋白質は、ドーパミン産生ニューロンのin vivo、ex vivo及びin vitroにおける分化、成熟及び/または機能を制御するのに利用できる可能性がある。Lmx1aに対する結合蛋白質の同定においては、まず、Lmx1aと候補蛋白質とを接触させ、結合の有無を検定する。この際、Lmx1aを担体に固定することもできる。候補蛋白質は特に限定されるものではない。例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、海洋生物由来の天然成分、各種細胞の抽出物、公知化合物及びペプチド、植物由来の天然成分、生体組織抽出物、微生物の培養上清、並びにファージディスプレイ法等によりランダムに製造されたペプチド群(J.Mol.Biol.222:301−10(1991))が挙げられる。しかしながら、in vivoにおいて、実際にLmx1aと相互作用している蛋白質を探す上では、特にドーパミン産生ニューロンにおいて発現している蛋白質を候補蛋白質とすることが好ましい。また、結合の検出を容易にするために、候補蛋白質は標識しても良い。
【0078】
<Lmx1aの発現抑制>
本発明により、Lmx1aが増殖中のドーパミン産生ニューロン前駆細胞から分裂停止後までの全ての分化段階を含むドーパミン産生ニューロンに発現されることが明らかにされた。その結果、Lmx1aは、ドーパミン産生ニューロンのin vivoにおける分化、成熟及び/または機能に関与していることが考えられた。従って、Lmx1a遺伝子の発現を阻害するものは、ドーパミン産生ニューロンのin vivo、ex vivo及びin vitroにおける分化、成熟及び/または機能を制御するのに利用できる可能性がある。遺伝子の発現を阻害し得るものとして、例えば、アンチセンス、リボザイム及び2本鎖RNA(small interfering RNA;siRNA)が挙げられる。従って、本発明はこのようなアンチセンス、リボザイム及び2本鎖RNAを提供するものである。
【0079】
アンチセンスが標的遺伝子の発現を抑制する機構としては、(1)3重鎖形成による転写開始阻害、(2)RNAポリメラーゼにより形成される局所的開状ループ構造部位とのハイブリッド形成による転写抑制、(3)合成中のRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、(4)イントロン−エキソン接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(5)スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(6)mRNAとのハイブリッド形成による、mRNAの細胞質への移行抑制、(7)キャッピング部位またはポリA付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(8)翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、(9)リボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、(10)mRNA翻訳領域またはポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長抑制、並びに(11)核酸と蛋白質の相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制が挙げられる(平島及び井上『新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現』日本生化学会編、東京化学同人、pp.319−347(1993))。
【0080】
本発明のLmx1aアンチセンス核酸は、上述の(1)〜(11)のどの機構により遺伝子発現を抑制する核酸であってもよい。即ち、発現を阻害する目的の遺伝子の翻訳領域のみならず、非翻訳領域の配列に対するアンチセンス配列を含むものであってもよい。アンチセンス核酸をコードするDNAは、その発現を可能とする適当な制御配列下に連結して使用され得る。アンチセンス核酸は、標的とする遺伝子の翻訳領域または非翻訳領域に対して完全に相補的である必要はなく、効果的に該遺伝子の発現を阻害するものであればよい。このようなアンチセンス核酸は、少なくとも15bp以上、好ましくは100bp以上、さらに好ましくは500bp以上であり通常3000bp以内、好ましくは2000bp以内、より好ましくは1000bp以内の鎖長を有し、標的遺伝子の転写産物の相補鎖に対して好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上同一である。このようなアンチセンス核酸は、Lmx1a遺伝子の配列情報を基に、ホスホロチオネート法(Stein(1988)Nucleic Acids Res.16:3209−21)等により調製することができる。
【0081】
リボザイムとは、RNAを構成成分とする触媒の総称であり、大きくラージリボザイム(large ribozyme)及びスモールリボザイム(small liboyme)に分類される。ラージリボザイムは、核酸のリン酸エステル結合を切断し、反応後に5’−リン酸と3’−ヒドロキシル基を反応部位に残す酵素である。ラージリボザイムは、さらに(1)グアノシンによる5’−スプライス部位でのトランスエステル化反応を行うグループIイントロンRNA、(2)ラリアット構造を経る二段階反応により自己スプライシングを行うグループIIイントロンRNA、及び(3)加水分解反応によるtRNA前駆体を5’側で切断するリボヌクレアーゼPのRNA成分に分類される。それに対して、スモールリボザイムは、比較的小さな構造単位(40bp程度)であり、RNAを切断して、5’−ヒドロキシル基と2’−3’環状リン酸を生じさせる。スモールリボザイムには、ハンマーヘッド型(Koizumi et al.(1988)FEBS Lett.228:225)、ヘアピン型(Buzayan(1986)Nature 323:349;Kikuchi and Sasaki(1992)Nucleic Acids Res.19:6751;菊地洋(1992)化学と生物 30:112)等のリボザイムが含まれる。リボザイムは、改変及び合成が容易なため多様な改良方法が公知であり、例えば、リボザイムの基質結合部を標的部位近くのRNA配列と相補的となるように設計することにより、標的RNA中の塩基配列UC、UUまたはUAを認識して切断するハンマーヘッド型リボザイムを作ることができる(Koizumi et al.(1988)FEBS Lett.228:225;小泉誠及び大塚栄子(1990)蛋白質核酸酵素35:2191;Koizumi et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:7059)。ヘアピン型のリボザイムについても、公知の方法に従って設計、製造が可能である(Kikuchi and Sasaki(1992)Nucleic Acids Res.19:6751;菊地洋(1992)化学と生物 30:112)。
【0082】
本発明のアンチセンス核酸及びリボザイムは、細胞内における遺伝子の発現を制御するために、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルス由来のベクター、リポソーム等を利用した非ウイルスベクター、またはnaked DNAとしてex vivo法またはin vivo法により遺伝子治療に用いることもできる。
【0083】
1998年に、線虫においてRNA同士が邪魔し合い働きを失う現象(RNA干渉)が観察された(Fire et al.(1998)Nature 391:806−11)。RNA干渉とは、二本鎖の人工RNAを細胞に導入することにより、同じ塩基配列を有するRNAが分解される現象である。その後の研究により、RNA干渉等のRNAサイレンシングの現象は、欠陥を持つmRNAの排除、並びにトランスポゾン、ウイルス等の寄生体に対する防御のための細胞機構であることが示唆されている。現在では、多くの遺伝子の発現を抑制するためのツールとして、二本鎖RNA(small interfering RNA;siRNA)が利用されており、病気の原因遺伝子等の発現抑制をsiRNAを用いて行うことにより病気を治療・予防する方法も検討されている。本発明のsiRNAは、Lmx1aのmRNAの転写を阻害する限り、特に限定されない。通常、siRNAは、標的mRNAの配列に対するセンス鎖及びアンチセンス鎖の組合せであり、少なくとも10個から標的mRNAと同じ個数までのヌクレオチド長を有する。好ましくは、15〜75個、より好ましくは18〜50個、さらに好ましくは20〜25個のヌクレオチド長である。
Lmx1a発現を抑制するために、siRNAは公知の方法により細胞に導入することができる。例えば、siRNAを構成する二本のRNA鎖を、一本鎖上にコードするDNAを設計し、該DNAを発現ベクターに組み込み、細胞を該発現ベクターで形質転換し、siRNAをヘアピン構造を有する二本鎖RNAとして細胞内で発現させることができる。トランスフェクションにより持続的にsiRNAを産生するプラスミド発現ベクターも設計されている(例えば、RNAi−Ready pSIREN Vector、RNAi−Ready pSIREN−RetroQ Vector(BD Biosciences Clontech))。
siRNAの塩基配列は、例えば、Ambion website(http:///www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)のコンピュータープログラムを用いて設計することができる。機能的siRNAをスクリーニングするためのキット(例えば、BD Knockout RNAi System(BD Biosciences Clontech))等も市販されており利用可能である。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
[実施例1]ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的遺伝子の単離及び配列解析
ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的な遺伝子を単離するために、E12.5マウス中脳腹側領域を背腹方向にさらに二つの領域に切り分けて、ドーパミン産生ニューロンを含む最も腹側の領域に特異的に発現する遺伝子をサブトラクション(N−RDA)法により同定した。単離した断片の一つはLmx1aをコードするcDNA断片であった。Lmx1aは、LIMドメイン及びホメオドメインを含む蛋白質をコードしている。
1.N−RDA法
1−1.アダプターの調製
下記のオリゴヌクレオチドをアニーリングさせ、100μMに調製した。
(ad2:ad2S+ad2A、ad3:ad3S+ad3A、ad4:ad4S+ad4A、ad5:ad5S+ad5A、ad13:ad13S+ad13A)
ad2S:cagctccacaacctacatcattccgt(配列番号:1)
ad2A:acggaatgatgt(配列番号:2)
ad3S:gtccatcttctctctgagactctggt(配列番号:3)
ad3A:accagagtctca(配列番号:4)
ad4S:ctgatgggtgtcttctgtgagtgtgt(配列番号:5)
ad4A:acacactcacag(配列番号:6)
ad5S:ccagcatcgagaatcagtgtgacagt(配列番号:7)
ad5A:actgtcacactg(配列番号:8)
ad13S:gtcgatgaacttcgactgtcgatcgt(配列番号:9)
ad13A:acgatcgacagt(配列番号:10)
1−2.cDNA合成
日本SLCより入手したマウス12.5日胚より中脳腹側を切り出し、さらに背腹方向に2つの領域に切り分けた。RNeasy mini kit(Qiagen)を用いて全RNAを調製し、cDNA synthesis kit(TAKARA)を用いて二本鎖cDNAを合成した。制限酵素RsaIで消化したのち、ad2を付加し、ad2Sをプライマーとして、15サイクルのPCRでcDNAを増幅した。増幅条件は72℃で5分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を15サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。N−RDAのPCRはすべて以下の反応液組成で行った。

1−3.Driverの作製
ad2Sで増幅したcDNAをさらに5サイクルのPCRで増幅した。増幅条件は94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を5サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。Qiaquick PCR purification kit(Qiagen)を用いてcDNAを精製し、RsaI消化した。1回のサブトラクションに3μgずつ使用した。
1−4.Testerの作製
ad2Sで増幅したcDNAをさらに5サイクルのPCRで増幅した。増幅条件は94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を5サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。Qiaquick PCR purification kit(Qiagen)を用いてcDNAを精製し、RsaI消化した。60ngのRsaI消化cDNAにad3を付加した。
1−5.サブトラクション1回目
上記3及び4で作製したTesterおよびDriverを混合し、エタノール沈殿した後に、1xPCR buffer 1μlに溶解した。98℃5分の後、1xPCR buffer+1M NaCl 1μlを加えた。さらに98℃5分の後、68℃で16時間ハイブリダイズさせた。
ハイブリダイズさせたcDNAをad3Sをプライマーとして10サイクルのPCRで増幅した後(72℃で5分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を10サイクル行った)、Mung Bean Nuclease(TAKARA)で消化し、Qiaquick PCR purification kitで精製した。さらに13サイクルのPCRで増幅した。増幅条件は94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を13サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
1−6.均一化
サブトラクション1回目で増幅したcDNA 8ngに2xPCR buffer 1μlを加えた。98℃5分の後、1xPCR buffer+1M NaCl 2μlを加えた。さらに98℃5分の後、68℃で16時間ハイブリダイズさせた。
ハイブリダイズさせたcDNAをRsaIで消化し、Qiaquick PCR purification kitで精製した。これをad3Sをプライマーとして11サイクルのPCRで増幅した後(94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を11サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした)RsaIで消化し、ad4を付加した。
1−7.サブトラクション2回目
上記6でad4を付加したcDNA 20ngをTesterとして、上記3のDriverと混合し、さらに、上記5と同様の方法でサブトラクションを行った。最終的にRsaI消化したcDNAにad5を付加した。
1−8.サブトラクション3回目
上記7でad5を付加したcDNA 2ngをTesterとして、上記3のDriverと混合し、さらに、上記5と同様の方法でサブトラクションを行った。最終的にRsaI消化したcDNAにad13を付加した。
1−9.サブトラクション4回目
上記8でad13を付加したcDNA 2ngをTesterとして、上記3のDriverと混合し、以下、上記5と同様の方法でサブトラクションを行った。増幅したcDNAをpCRII(Invitrogen)にクローニングし、ABI3100シーケンスアナライザーを用いて塩基配列を解析した。
【0085】
[実施例2]Lmx1aの発現解析
1.Lmx1aがドーパミン産生ニューロンに発現することを確認するため、以下のプロトコールによりin situハイブリダイゼーションによるLmx1a、Lmx1b、Nurr1及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)のmRNAの発現解析を行った。Nurr1及びTHは、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞において、分裂停止後に初めて発現が誘導されることが知られているマーカーである。また、Lmx1bは、増殖前駆細胞の段階では非常に低レベルで発現され、分裂停止後に高レベルに発現し始めることが知られている転写因子マーカーである。
まず、マウス12.5日胚を摘出し4%PFA/PBS(−)で4℃、2時間固定した後、20%ショ糖/PBS(−)で4℃、一晩置換し、OCTで包埋した。厚さ12μmの切片を作製し、スライドガラス上で乾燥させた後に4%PFAで室温30分間再固定した。PBSで洗浄した後、ハイブリダイゼーション(1μg/mlDIG化RNAプローブ、50%ホルムアミド、5xSSC,1%SDS,50μg/ml yeast RNA,50μg/ml Heparin)を68℃で40時間行った。その後、洗浄(50%ホルムアミド、5xSSC,1%SDS)を68℃で行い、RNase処理(0.05μg/ml RNase)を室温5分間行った。0.2xSSCで68℃の洗浄、1xTBSTで室温の洗浄ののち、ブロッキング(Blocking reagent:Roche)を行った。アルカリフォスファターゼ標識抗DIG抗体(DAKO)を4℃で一晩反応させ、洗浄(1xTBST、2mM Levamisole)の後、NBT/BCIP(DAKO)を基質として発色させた。
【0086】
in situハイブリダイゼーションによる発現解析の結果、ドーパミン産生ニューロンの発生する時期であるE12.5で、Lmx1aはTH、Lmx1b及びNurr1と同様に中脳最腹側部に発現することが明らかになった(図2)。
【0087】
2.次にLmx1a特異的抗体を用いてLmx1a蛋白質の発現を確認した。さらに、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞のマーカーであるTH及びEn1との二重染色も行った。En1はドーパミン産生ニューロン前駆細胞において、分裂停止後に初めて発現が誘導されるマーカーである。
抗Lmx1aポリクローナル抗体は、まず免疫に必要な抗原をLmx1aの271−307アミノ酸にあたるDNA領域とGSTをfusionさせたvectorをE.coli(JM109株)にTransformした後IPTGによって発現誘導して回収を行った。回収後、ウサギに免疫を行った後に採血し、その血清から免疫に用いたGST−Lmx1a抗原によるaffinity精製を行うことによって得られた。
マウス12.5日胚を摘出し4%PFA/PBS(−)で4℃、2時間固定したのち、20%ショ糖/PBS(−)で4℃、一晩置換し、OCTで包埋した。厚さ12μmの切片を作製し、スライドガラスに貼り付けた後、室温で30分乾燥させ、PBS(−)で再び湿潤させた。その後、ブロッキング(ブロックエース)を室温、30分間行い、一次抗体を室温、1時間反応させた後、さらに4℃、一晩反応させた。0.1%Tween−20/PBS(−)で、室温、15分間の洗浄を3回行った。次に蛍光標識した2次抗体を室温、1時間反応させ、同様に洗浄を行った後、PBS(−)によって室温、10分間洗浄し、封入した。
その結果、in situハイブリダイゼーションと同様の発現パターンが認められた(図3及び4)。Lmx1a蛋白質は、E12.5中脳においてmRNAだけでなく蛋白質としても発現していることが明らかになった。TH及びEn1との二重染色の結果では、Lmx1aのこれらの蛋白質との同一細胞での共発現が確認され、発現領域も背−腹方向で完全に一致することが明らかになった(図3及び4)。TH及びEn1と比べLmx1aは脳質側にも発現が認められた。この領域は将来ドーパミンニューロンに分化する増殖前駆細胞が存在する領域(脳質領域(Ventricular Zone(VZ))である。
3.そこで、Lmx1aが増殖前駆細胞に発現することを確認するために、マウスE12.5中脳におけるBrdUの取込みとLmx1aの発現を免疫染色法により検出した。
マウスE12.5胎児を摘出する2時間前に妊娠マウスの腹腔へBrdU(sigma)を注入し(10mg/ml in 0.9% saline injected to give 50ug/g body weight)、増殖細胞のDNA中へBrdUを取り込ませた。通常の免疫染色と同様に切片を作成し、まず抗Lmx1a抗体を用いてLmx1aタンパクを検出した後、再固定(2%PFA、室温、30分)、塩酸処理を施し(2N HCl、37℃、30分)、引き続いて抗BrdU抗体を用いてBrdUを検出した。
その結果、VZ領域のLmx1a陽性細胞の多くでBrdUが取込まれていることが明らかになった(図5)。
4.出生後のマウスのドーパミン産生ニューロンにおけるLmx1a発現についても調べた。マウスE12.5胚に代えて、出生後7日目(P7)の中脳の切片を用い、比較するマーカーとしてドーパミン産生ニューロンマーカーDATを使用した以外、上記1.の方法によりLmx1aのマウスP7中脳における発現を検出した。DATは、ドーパミン産生ニューロンの成熟が進んで初めて発現することが知られているマーカーである。
その結果、DATの発現する領域でLmx1aが発現していることが明らかになった(図6)。
5.さらに、ヒトにおいてもLmx1aがドーパミン産生ニューロン特異的に発現するかについて、成体脳領域RNAを用いたRT−PCRを行うことにより調べた。
Clontech社より購入したヒト脳各種領域total RNA 1μgに対して、RNA PCR kit(TaKaRa)を用いてcDNA合成を行った。このうち10ng、1ng、0.1ng相当分のcDNAを鋳型に用いて以下の反応系でPCRを行った。
2分インキュベートした。N−RDAのPCRはすべて以下の反応液組成で行った。


94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で30秒の反応を37サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
以下の配列のプライマーを使用した。
Human Lmx1a:TGAAGAAAGTCTCTGCAAGTCAGCCC(配列番号:11)/
CACCACCGTTTGTCTGAGCAGAGCTC(配列番号:12)
その結果、ヒトにおいてもLmx1aはドーパミン産生ニューロンの存在する中脳黒質領域に発現することが明らかになった(図7)。また、海馬等他の脳領域においてもマウスと同様の発現を示し、成体のドーパミン産生ニューロンにおいても発現が維持されていることが明らかになった。
以上の結果をもとにLmx1aのドーパミン産生ニューロンにおける発現のタイミングを他のドーパミン産生ニューロンマーカーと比較した(図8)。Lmx1aは、増殖中の前駆細胞の段階から分裂停止後も、さらには成体において発現が維持される。一方、公知のNurr1、En1、Ptx3及びTHは分裂停止後に初めて発現が誘導され、DAT及びADH2は発現が進んで初めて発現を開始する。Lmx1bは増殖前駆細胞でも発現が認められるが、非常に発現レベルが低く、分裂停止後に高レベルで発現する。このように公知のマーカーと発現パターンを異にするLmx1aは、ドーパミン産生ニューロンの検出において有用なマーカーとなる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
Lmx1aは、増殖中の前駆細胞の段階から分裂停止後も、さらには成体においてもドーパミン産生ニューロンにおいて発現が維持されることが明らかにされた。一方、公知のNurr1、En1、Ptx3及びTH等のドーパミン産生ニューロンマーカーは、分裂停止後に初めて発現が誘導され、DAT及びADH2は発現が進んで初めて発現を開始する。Lmx1bは増殖前駆細胞でも発現が認められるが、非常に発現レベルが低く、分裂停止後に高レベルで発現する。このように公知のマーカーと発現パターンを異にし、増殖中のドーパミン産生ニューロン前駆細胞から分裂停止後までの全ての分化段階を含むドーパミン産生ニューロンに特異的に発現するLmx1aは、ドーパミン産生ニューロンの検出において有用なマーカーとなるものと考えられる(図8参照)。
【0089】
Lmx1aは、公知のマーカーと比べ、最も初期に発現するマーカーであることから、細胞における該Lmx1aの発現を指標とすることにより、安全面、生存率及びネットワーク形成能の面でもパーキンソン病を含む神経変性疾患に対する移植治療に適した細胞を選択することを可能にする。さらに、最も初期に発現するマーカーであるという点からも、特にドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング時の有効なマーカーとなることが期待される。このような分裂停止前のドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞(ニューロン形成における初期の前駆細胞)から成熟した細胞まで、幅広い分化段階にわたって発現している遺伝子は、ニューロンの成熟過程に関与する種々の因子、及びニューロンの機能の発現に関与する種々の因子を明らかにする上でも役立つものと考えられる。そして、このような因子の解明は、神経変性疾患の治療に大きく貢献することが予期される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
以下の(1)〜(6)のいずれかに記載の塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドをドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程を含む方法。
(1)配列番号:13記載の塩基配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
【請求項2】
ポリヌクレオチドが、少なくとも15塩基長を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
以下の(1)〜(6)のいずれかに記載の塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有効成分として含有する、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するための試薬。
(1)配列番号:13記載の塩基配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
【請求項4】
ポリヌクレオチドが、少なくとも15塩基長を有する、請求項3記載の試薬。
【請求項5】
ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
下記(1)から(6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程を含む、方法。
(1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
【請求項6】
一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
下記(1)から(6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体を有効成分として含有する、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するための試薬。
(1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
【請求項8】
一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、請求項7記載の試薬。
【請求項9】
ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載の塩基配列に記載のいずれかの塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドとドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程、
(a−1)配列番号:13記載の塩基配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(a−4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物と結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
【請求項10】
さらに(c)DATおよびADH2から選択された一方の遺伝子若しくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
(b)工程において、選択された遺伝子がLmx1b、Nurr1、またはEn1のいずれか一つまたはこれらのうちの複数である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載の塩基配列に記載のいずれかの塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドとドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料とを接触させる工程、
(a−1)配列番号:13記載の塩基配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(a−4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列(ヒト)からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(b)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
【請求項13】
ポリヌクレオチドが、少なくとも連続した15塩基を有する塩基配列である、請求項9乃至12記載の方法。
【請求項14】
請求項3または4記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
【請求項15】
請求項3または4記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の翻訳産物に結合する抗体とを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
【請求項16】
ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程、
(a−1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(a−4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(b)Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3およびTHからなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物と結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
【請求項17】
さらに(c)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
(b)工程において、選択された遺伝子がLmx1b、Nurr1、またはEn1のいずれか一つまたはこれらのうちの複数である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を検出または選択する方法であって、
(a)下記(a−1)から(a−6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体をドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料に接触させる工程、
(a−1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(a−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(a−4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(a−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(a−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(b)DATおよびADH2から選択された一方もしくは双方の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたは該選択された遺伝子の翻訳産物に結合する抗体と、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を含むと考えられる細胞試料と、を接触させる工程、
を含む方法。
【請求項20】
一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、請求項16乃至19記載の方法。
【請求項21】
請求項7または8記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
【請求項22】
請求項7または8記載の試薬と、Lmx1b、Nurr1、En1、Ptx3、TH、DATおよびADH2からなる群より選択された1または複数の遺伝子の翻訳産物に結合する抗体とを含む、ドーパミン産生ニューロンおよび/またはその前駆細胞を識別するためのキット。
【請求項23】
ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング方法であって、
(a)ドーパミン産生ニューロンに分化し得る細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた後の前記細胞に、以下の(b−1)〜(b−6)に記載のいずれかの塩基配列からなる遺伝子の転写産物に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを接触させて、Lmx1a遺伝子の転写産物を検出する工程
(b−1)配列番号:13記載の塩基配列
(b−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(b−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(b−4)配列番号:15または17記載の塩基配列
(b−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードした塩基配列
(b−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(c)Lmx1a遺伝子の転写産物が検出された場合に、被験物質がドーパミン産生ニューロンの分化を誘導する能力を有すると判定する工程、
を含む方法。
【請求項24】
ポリヌクレオチドが、少なくとも連続した15塩基を有する塩基配列である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
ドーパミン産生ニューロン分化誘導試薬のスクリーニング方法であって、
(a)ドーパミン産生ニューロンに分化し得る細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた後の前記細胞に、下記(b−1)から(b−6)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体を接触させて、Lmx1a遺伝子翻訳産物を検出する工程、
(b−1)配列番号:14記載のアミノ酸配列
(b−2)配列番号:14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(b−3)配列番号:13記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(b−4)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列
(b−5)配列番号:16または18記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列
(b−6)配列番号:15または17記載の塩基配列からなる遺伝子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされたアミノ酸配列
(c)Lmx1a遺伝子の翻訳産物が検出された場合に、被験物質がドーパミン産生ニューロンの分化を誘導する能力を有すると判定する工程、
を含む方法。
【請求項26】
一部配列からなるポリペプチドが、少なくとも連続した6アミノ酸残基を有する、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/052190
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515811(P2005−515811)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017574
【国際出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】