説明

ドープ製造装置及び製造方法

【課題】 均一且つ溶解性に優れているドープを得る。
【解決手段】 TACを溶媒に入れて膨潤させて原液15を調製する。押出機11に−75℃の冷媒35a,35bを流して冷却する。押出機11は2軸のスクリューを備えている。2軸スクリューのらせん羽根は、下流側に向かうに従ってピッチが小さくなる圧縮型である。2軸スクリューを噛み合わせて同方向に回転させる。原液15を押出機11内に供給して圧縮させつつ冷却して送液する。TACが溶媒に溶解してドープ18が得られる。ドープ18を冷却機12に送液して更に冷却することで溶解性を向上させる。ドープ18を加熱機13に送液することでドープ18の流動性が向上して送液が容易となる。ドープ18から溶液製膜法により光学特性に優れるTACフィルムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープ製造装置及びドープの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物(以下、ポリマーと称する)は、様々な分野で使用され、また用途に応じて各種の製造方法により製品が製造されている。例えば、プラスチックフィルムのようなものは、ポリマーを加熱して溶融状にする溶融製膜法や、有機溶媒中に溶解または分散させた液(以下、ドープと称する)を調製して製膜する溶液製膜法などがある。溶液製膜法では、ドープを支持体上に流延した後に、溶媒を揮発させてフィルムを製造している。この際に用いられる溶媒は、ポリマーの溶解性、揮発性及び人体、環境への影響など様々な点を考慮して最も適切なものが選択されている。特に近年、人体及び環境に対して安全性が強く要求されている。このため、ポリマーの種類によってはドープを調製する際の溶媒の選択に困難が生じている。
【0003】
例えば、写真用フィルムベースとしてよく用いられるセルロースアセテート(以下、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)と併せてTACとも称する)フィルムを製造する歳には、塩化メチレン(メチレンクロライド,ジクロロメタン)を主溶媒とした溶液製膜方法により製造されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れるため偏光板保護フィルムのような光学機能性膜としても用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。ところで、塩化メチレンは、人体や環境に対する問題から、その使用が著しく制限される方向にある。そこで、人体や環境に対する問題が他の溶媒と比べて小さい酢酸メチル,アセトンなどを用いる方法があるが、TACが溶解し難い問題が生じている。
【0004】
そこで、溶液製膜法に必要なドープの製造方法として、スクリュー式混合機(スクリュー押出機)を利用した冷却溶解装置が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。この方法によれば、置換度2.80(酢化度60.1%)から置換度2.90(酢化度61.3%)のセルロースアセテート(TAC)をアセトン中で−80℃〜−70℃に冷却した後に加温することにより、アセトン中にTACが0.5重量%〜5重量%溶解したドープが得られる。以下、ポリマーを含む溶媒を冷却してドープを調製する方法を「冷却溶解法」と称する。また、冷却溶解法を紡糸方法の技術に適用したものも知られている。この方法では、得られる繊維の力学的性質、染色性や繊維の断面形状に留意しながら、冷却溶解法を検討し、10重量%〜25重量%の濃度のドープを得ている(例えば、非特許文献3参照。)。冷却溶解法は、スクリューを備えた押出機を低温に冷却したドープ製造装置を用いるとドープを連続的に製造できる。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【非特許文献2】J.M.G.Cowie他著、“Makromol, Chem.”1971年、143巻、105頁
【非特許文献3】上出健二他著、「三酢酸セルロースのアセトン溶液からの乾式紡糸」、繊維機械学会誌、(1981年)、34巻、57頁〜61頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、冷却溶解法は、TACと溶媒とを含む原料を所定温度まで低下させ、所定時間の温度維持により溶解性を確保するものである。本手法をドープ製造工程に取り入れるには、粘性液体の送液が可能かつ熱交換効率が高い「冷却型スクリュー押出機」が有効である。スクリュー押出機(以下、押出機と称する)では、スクリュー内のドープ滞留時間がスクリュー長、径、回転数によって決まるため、処理量の上限はスクリューの形状によることになる。処理量を多くするためには、押出機を大きくしたり、台数を多くしたりしなければならず、高コストの原因となる。このため、ドープ製造プロセスを設計するに当たっては、より小型、より少数で能力を達成でき、更に冷却効率を向上させる押出機の検討が重要となる。また、混練が不十分な場合、押出機出口にて送液ドープに温度分布が生じ、送液安定性やドープの溶解性に問題が生じる。
【0006】
本発明は、冷却効率を向上させ、且つ混練性を高めると共に均一なドープを得ることができるドープ製造装置及びドープの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、混練性の高い多軸(2軸)スクリューを備える押出機を用いることでドープ原料と冷媒との熱交換効率の向上を見出した。熱交換の促進によって冷却効率が向上し、ポリマーなどの溶質の溶解性が向上する。また、多軸スクリューの混練効果により温度分布が生じにくく、溶解性にムラが無くなり、温度ムラが無くなることでドープの均一性が向上することをも見出した。さらに、前記押出機出口に冷却手段を設けることで冷却時間が長くなり、溶解性が向上することも見出した。さらには、スクリュー内部を冷却することで、ドープ原液と冷媒との伝熱面積増加により冷却能力が向上する。
【0008】
本発明のドープ製造装置は、スクリューを備えた押出機にドープ原料を送ってドープを製造するドープ製造装置において、前記スクリューが多軸であり、且つ前記ドープ原料を冷却する第1冷却手段を有する。
【0009】
本発明のドープ製造装置は、スクリューを備えた押出機にドープ原料を送ってドープを製造するドープ製造装置において、前記スクリューが2軸であり、且つ前記ドープ原料を冷却する第1冷却手段を有する。前記2軸のスクリューを噛み合わせて同方向に回転することが好ましい。前記各スクリュー径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)が、0.3以上1.5以下であることが好ましい。前記各スクリュー径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)が、前記ドープの送液方向に向けて小さくなることが好ましい。
【0010】
前記第1冷却手段が、前記押出機のシリンダの外周部に冷媒供給用のジャケットであることが好ましい。前記ジャケットが前記ドープの送液方向で2区画以上に分割されていることが好ましい。前記スクリューを冷却する第2冷却手段を有することが好ましい。前記第2冷却手段が、前記スクリュー軸の内部に設けられた冷媒供給路と、前記冷媒供給路に冷媒を供給する冷却供給手段とを有することが好ましい。前記第1冷却手段または前記第2冷却手段の少なくともいずれかが、冷媒冷却用の二元冷凍機であることが好ましく、この場合には冷媒の温度分布が狭くなる間接冷却方式となる。
【0011】
前記押出機の下流側に第3冷却手段を備えたことが好ましい。前記第3冷却手段の下流側に加熱手段を備えたことが好ましい。前記押出機のドープ原料の投入口に、定量ドープ原料供給装置を設け、前記ドープの原料を供給することが好ましい。前記押出機のドープ原料の投入口に、圧力制御用のバルブを有した分岐管を設けることが好ましい。前記第1冷却手段ないし前記第3冷却手段で用いられる冷媒が、メタノール,ジクロロメタン,ハイドロフルオロエーテル,フルオロカーボンのうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
本発明のドープの製造方法は、多軸のスクリューを備えた押出機に、ポリマーと溶媒とを含むドープ原料を送ってドープを製造するドープの製造方法において、前記各スクリューにより前記ドープ原料又は前記ドープを圧縮し、且つ前記ドープ原料または前記ドープを冷却することが好ましい。前記ドープ原料または前記ドープの圧縮を前記各スクリューの径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)を前記ドープの送液方向に沿って小さくすることで行うことが好ましい。前記スクリューは2軸であり、各スクリューを噛合わせて同方向に回転させることが好ましい。
【0013】
前記ドープ原料又は前記ドープの冷却を5℃/min以上200℃/min以下の冷却速度で行うことが好ましい。前記ドープ原料または前記ドープの冷却を前記押出機のシリンダ外周部にジャケットを設け、前記ジャケット内に冷媒を供給して行うことが好ましい。前記押出機から押し出されるドープ温度が、−30℃以下となるように冷却することが好ましい。
【0014】
前記ジャケットを前記ドープの送液方向で2区画以上に分割して設け、前記ドープの原料が投入される側のシリンダ冷媒温度T1(℃)と、前記ドープが送り出される側のシリンダ冷媒温度T2(℃)とを、T2<T1として冷却することが好ましい。前記各スクリューを冷却することが好ましい。前記押出機内で調製されたドープを、前記押出機の下流に設けた冷却部でさらに冷却することが好ましい。前記冷却部でのドープの冷却を60分以内行うことが好ましい。
【0015】
前記押出機の出口ドープ温度T(℃)と、前記冷却部の冷媒温度T2(℃)とをT−30℃≦T2≦T+30℃として冷却することが好ましい。前記押出機または前記冷却部が冷媒で冷却されるものであって、前記冷媒が、メタノール,ジクロロメタン,ハイドロフルオロエーテル,フルオロカーボンのうち少なくとも1つであることが好ましい。前記ドープを前記押出機または前記冷却部にて冷却した後に、20℃/min以上の加熱速度で前記ドープを加熱することが好ましい。
【0016】
前記ポリマーがセルロースアシレートであることが好ましく、より好ましくはセルロースアセテートであり、最も好ましくはセルローストリアセテートである。前記溶媒が少なくとも酢酸メチルを含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明には、前記ドープの製造方法により製造されるドープも含まれる。本発明には、前記ドープを用いる溶液製膜方法も含まれる。前記溶液製膜方法には、共流延法、逐次流延法、逐次共流延法も含まれる。本発明には、前記溶液製膜方法により製造されるフィルムも含まれる。本発明には、前記フィルムを偏光板の保護フィルムに用いること及び前期保護フィルムを用いて構成される偏光板も含まれる。前記フィルムを用いて構成される光学補償フィルムも含まれる。前記偏光板、前記光学補償フィルムを用いて構成される液晶表示装置も含まれる。本発明には、前記フィルムを用いて構成される写真感光材料も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のドープ製造装置によれば、スクリューを備えた押出機にドープ原料を送ってドープを製造するドープ製造装置において、前記スクリューが多軸であり、且つ前記ドープの原料を冷却する第1冷却手段を有するから、冷却性能及び送液性能に優れ均一且つ溶解性に優れているドープを製造することができる。また、前記スクリューが前記ドープ原料を圧縮する圧縮部を有するものを用いると、前記ドープの原料の溶質特にポリマーの溶解性を向上させることができる。特に前記スクリューを2軸備えているものを用いると、コストの点からも有利である。この場合に、前記2軸のスクリューを噛み合わせて同方向に回転させるから、前記ドープの原料に付与される剪断が大きくなり溶解性の向上をより図ることができる。
【0019】
本発明のドープ製造装置によれば、前記ドープ製造装置の前記各スクリュー径D(mm)に対するピッチP(mm)の比が、0.3以上1.5以下であるから、前記ドープ原料に剪断を好適に付与できると共に前記スクリューの回転数を最適化することができ、前記スクリューの回転数増加に伴う剪断発熱の発生を抑制できる。前記ドープ製造装置の前記各スクリュー径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)が、前記ドープの送液方向に向けて小さくなることで、前記ドープ原料が圧縮されて前記ドープ原料の溶解性がより向上する。
【0020】
本発明のドープ製造装置によれば、前記ドープ製造装置が、前記スクリューを冷却する第2冷却手段を有することで、前記ドープ原料の熱交換効率を向上させることが可能となり、前記ドープの均一性及び溶解性を好適にできる。また、前記第2冷却手段が、前記スクリュー軸の内部に設けられた冷媒供給路と、前記冷媒供給路に冷媒を供給する冷却供給手段を有するものであるから、設備の大型化を図ることなく前記スクリューの冷却が可能となる。さらに、前記第1冷却手段または前記第2冷却手段の少なくともいずれかが、冷媒冷却用の二元冷凍機であるから、前記冷媒の冷却効率を向上及び冷媒の温度の均一化を図ることができる。
【0021】
本発明のドープ製造装置によれば、前記ドープ製造装置の前記押出機の下流側に第3冷却手段を備えるから、前記ドープ原料又は前記ドープの冷却時間を容易に長くすること可能となり、ドープの溶解性を更に向上させることができる。また、前記第3冷却手段の下流側に加熱手段を備えるから、前記ドープの均一性及び溶解性をより好適にすることが可能となる。
【0022】
本発明のドープ製造装置によれば、前記ドープ製造装置の前記押出機のドープ原料の投入口に、定量ドープ原料供給装置を設け、前記ドープの原料を供給するから、前記ドープ原料の溶質が前記溶媒に略均一に混合される。それにより、前記ドープの均一化が容易に行われる。また、前記押出機のドープ原料の投入口に、圧力制御用のバルブを有した分岐管を設けるから、前記ドープ原料を一定圧力で前記押出機に導入することが可能であり、前記ドープの均一化を容易に行うことができる。
【0023】
本発明のドープの製造方法によれば、多軸のスクリューを備えた押出機に、ポリマーと溶媒とを含むドープ原料を送ってドープを製造するドープの製造方法において、前記各スクリューにより前記ドープ原料又は前記ドープを圧縮し、且つ前記ドープの原料または前記ドープを冷却するから、前記ドープ原料の溶質特にポリマーの前記溶媒への溶解性が向上する。これにより、前記ドープの均一化及び溶解性の向上が図られる。また、前記ドープ原料または前記ドープの圧縮を前記各スクリューの径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)を前記ドープの送液方向に沿って小さくすることで行うから、特別な装置を用いることなく前記ドープの製造を行うことができる。
【0024】
本発明のドープの製造方法によれば、前記ドープの製造方法を行う際に、前記スクリューは2軸であり、各スクリューを噛合わせて同方向に回転させるから、前記ドープ原料に最も大きな剪断を付与することができる。これにより、前記ドープ原料の混練を容易に行うことができ、その結果均一且つ溶解性に優れるドープを製造することができる。
【0025】
本発明のドープの製造方法によれば、前記ドープの製造方法を行う際に、前記ドープ原料または前記ドープの冷却を前記押出機のシリンダ外周部にジャケットを設け、前記ジャケット内に冷媒を供給して行う場合であって、前記ジャケットを前記ドープの送液方向で2区画以上に分割して設け、前記ドープの原料が投入される側のシリンダ冷媒温度T1(℃)と、前記ドープが送り出される側のシリンダ冷媒温度T2(℃)とを、T2<T1として冷却するから、溶解が進行していないときの前記ドープ原料又は前記ドープの温度を高めることで送液を容易とし、溶解が進行しているドープの温度をより冷却することで更に溶解を進行させることができる。
【0026】
本発明のドープの製造方法によれば、前記ドープの製造方法を行う際に、前記各スクリューを冷却するから、前記ドープ原料又は前記ドープの冷却効率が向上する。これにより、均一且つ溶解性が向上している前記ドープを製造することができる。また、前記押出機内で調製されたドープを、前記押出機の下流に設けた冷却部でさらに冷却するから、冷却時間が長くなることによる溶解性の向上が図られる。この場合において、前記冷却部でのドープの冷却を60分以内行うから、前記ドープの生産性に優れている。
【0027】
本発明のドープの製造方法によれば、前記ドープの製造方法を行う際に、前記ポリマーがセルロースアシレートであるから、得られるドープを用いて溶液製膜法を行うことで光学特性に優れるフィルムを得ることができる。また、前記溶媒が少なくとも酢酸メチルを含むものであるから、環境保護に優れる製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0029】
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
【0030】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0031】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0032】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、
その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0033】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでも良いが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0034】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0035】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0036】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0037】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0038】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特願2003−319673号の[0141]段落から[0192]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特願2003−319673号の[0193]段落から[0513]段落に詳細に記載されている。
【0039】
(膨潤工程)
膨潤工程においては、ポリマーと溶媒とを混合し、ポリマーを溶媒により膨潤させる。膨潤工程の温度は、−10℃〜55℃であることが好ましく、通常は室温で行われる。ポリマーと溶媒との比率は、最終的に得られるドープの濃度に応じて決定する。一般に、膨潤工程におけるポリマーの量は、調製するドープの5重量%〜30重量%であることが好ましく、8重量%〜20重量%であることがさらに好ましく、10重量%〜15重量%であることが最も好ましい。溶媒とポリマーとの膨潤混合物は、ポリマーが充分に膨潤するまで攪拌することが好ましい。攪拌時間は、10分〜150分であることが好ましく、20分〜120分であることがさらに好ましい。膨潤工程において、溶媒とポリマー以外の
成分、例えば可塑剤,劣化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を添加しても良い。
【0040】
(ドープ製造装置)
図1に本発明に係るドープ製造装置10の概略図を示す。ドープ製造装置10には押出機11と冷却部である冷却機12と加熱機13とが備えられている。また、押出機11には冷媒を供給する二元冷凍機14が接続している。また、ドープの原料又は前記膨潤液(以下、これらを併せて原液と称する)15を投入する定量供給装置付きホッパ16が取り付けられている。また、ホッパ16には圧力制御用バルブ17が取り付けられている。ドープの原料とは、前記ポリマー、必要に応じて添加される添加剤などの溶質と、前記溶媒(混合溶媒であっても良い)とを併せたものを意味している。膨潤液はこれら原料から前記膨潤工程により製造されるものである。なお、以下の説明において、原液15はポリマーにTACを用い、溶媒に酢酸メチルを主溶媒(酢酸メチルの組成比が30重量%〜98重量%のもの)とした例を用いて説明するが、本発明に用いられる原液15の組成はそれに限定されるものではない。
【0041】
(冷却溶解工程)
ホッパ16から原液15が投入され押出機11内で冷却されながら混練し、圧縮させることでドープ18を得る。なお、本発明において原液15とドープ18との用語は、ドープ製造用原料(膨潤液も含む)を原液15と称し、その原液15の溶媒中に溶質を溶解または分散させたものをドープ18と称する。溶質の一部が溶媒中に溶解している状態は、原液15またはドープ18のいずれかの表現で説明する。特に断らない限り、押出機11内では、原液の溶質の一部が溶媒に溶解している。定量供給装置には、ロータリーポンプやギアポンプなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、圧力制御用バルブ17の開閉度を調整することで、原液15を押出機11中に一定圧力で供給することが可能となり、均一なドープを調製することが可能となる。
【0042】
図2に示すように押出機11は、スクリュー軸30にスクリュー羽根31が取り付けられたスクリュー32をシリンダ33内に備えている。シリンダ33の外周面にはジャケット34が取り付けられている。本発明において、原液15またはドープ18の温度を制御するために、ジャケット34は複数の区画(図では2区画)34a,34bに分割して設ける。原液15またはドープ18の送液を効率良く行えるようにシリンダ33の温度制御ができるために好ましい。シリンダ33の温度制御を行うことで、原液15又はドープ18の送液条件を適切にすることが可能となり、ドープの生産性を向上させることができる。図2では入口側である第1区画34aと出口側である第2区画34bとの2区画に分割したものを図示したが、本発明において3区画以上に分割したものを用いても良い。
【0043】
押出機11の押出機出口11aに温度計35を取り付ける。押出機出口11aでのドープ18の温度(以下、出口ドープ温度と称する)T(℃)を測定する。ドープ18が最も適切な温度となるように二元冷凍機14をコントローラ36により制御する。押出機出口11aでのドープ18の温度T(℃)を−30℃とすることが好ましいが、原液15の組成に応じて適切な温度に制御することも本発明には含まれる。また、温度の制御はコントローラ36による自動制御に限定されず、作業者が温度計の測定値を読み取り、手動でドープ出口温度を適宜変更することも本発明には含まれる。
【0044】
冷媒37a,37bをジャケット第1区画33a,ジャケット第2区画33bに送液してシリンダ33を冷却する。シリンダ33の冷却に伴い、その中の原液15又はドープ18を冷却する。冷媒37a,37bは特に限定されるものではないが、メタノール,ジクロロメタン,ハイドロフルオロエーテル,フルオロカーボン,ブラインなどを用いることができる。なお、本発明において、ジャケット34a,34b内に供給される冷媒37a,37bの温度をジャケット温度とみなすことができ、そのジャケット温度を原液15またはドープ18の温度とみなすことができる。
【0045】
本発明において、押出機11内の原液15又はドープ18の冷却速度を5℃/min以上200℃/min以下とすることが好ましい。冷却速度とは、原液15をシリンダ33内に供給した際の温度T0(℃)と前記ドープ出口温度T(℃)と、押出機11内で原液15又はドープ18送液されている時間Tc(min)とから、(T−T0)/Tcから算出される値である。冷却速度が5℃/min未満であると、原液15の冷却の進行が遅くドープ18の調製に時間がかかり、コスト高の原因となる。また、200℃/minを超えると、急激な温度低下により原液15の一部がシリンダ33内で固化するなどの異常が生じるおそれがある。これにより、ドープ18の均一性が失われるおそれもある。
【0046】
原液15又はドープ18を冷却するために冷媒37a,37bの送液速度を0.1m/s〜50m/sとするとシリンダ33を好ましく冷却でき、その中の原液15又はドープ18を均一に冷却することができる。しかしながら、本発明において冷媒37a,37bの送液速度は前記範囲に限定されるものではない。なお、冷却効率の点から図示したように原液15又はドープ18の送液方向に対して向流で冷媒37a,37bを送液することが好ましいが、並流で送液しても良い。
【0047】
ジャケット第1区画34aの温度(以下、シリンダ入口温度と称する)T1(℃)とジャケット第2区画34bの温度(以下、シリンダ出口温度と称する)T2(℃)との関係をT2<T1とする。これにより、ポリマーなどの溶質が溶媒に溶解していないときには、比較的緩やかな冷却を行い送液を可能とし、溶質の溶解が進行し送液が容易となったとき(すなわち、原液15の大半がドープ18となったとき)には、冷却温度をより低くして溶解性を更に向上させることができる。具体的にはシリンダ入口温度T1(℃)を−30℃〜5℃の範囲とし、シリンダ出口温度T2(℃)を−100℃〜−30℃の範囲とすることであるが、これら数値範囲に限定されるものではない。
【0048】
冷媒37a,37bは、ジャケット第1区画34a,ジャケット第2区画34bを流れた後に、二元冷凍機14に送られる。二元冷凍機14により冷媒37a,37bは所望の温度まで再度冷却される。二元冷凍機14については後に詳細に説明する。そして、再度ジャケット第1区画34a,ジャケット第2区画34b内に送液する。このように冷媒37a,37bを循環させることで、冷媒37a,37bが大気中に放出され環境に悪影響を及ぼすことが無くなると共にコストを低減できる。しかしながら、冷媒37a,37bを循環して再利用する方法に限定されるものではない。また、図2においては、1台の二元冷凍機14を用いている例を示しているが、2台の冷凍機(冷却機)をそれぞれの区画のジャケットに取り付けることもできる。また、温度調整用にジャケットを分割することは必ずしも必要でなく、1つのジャケットを用いても良い。または、3区画以上に分割したジャケットを用いることも本発明では可能である。
【0049】
図3に本発明に係るドープ製造装置10に用いられるスクリュー32の概略図を示す。スクリュー径をD(mm)とする。スクリュー軸30に取り付けられているらせん羽根31のピッチP1,P2,P3,P4,P5,P6,P7(mm)は、原液15又はドープ18の送液方向に沿って狭くなっている。なお、ピッチP1〜P7はらせん羽根31が、1条であればリードの長さと一致する。ピッチの関係は、P1≧P2≧P3≧P4≧P5≧P6≧P7,且つP1>P7である。これにより、原液15はシリンダ33内を送液することにより圧縮されて溶質の溶解性が向上する。なお、本発明においてらせん羽根31のねじ山の数は7つに限定されるものではなく、6以上150以下であることが好ましく、15以上120以下であることがより好ましく、37以上60以下であることが最も好ましい。また、1条タイプに限定されるものではなく、2条以上のらせん羽根31をスクリュー軸30に取り付けても良い。
【0050】
また、らせん羽根31のピッチP1〜P7が小さいと、同じ量の原液15を処理するためにスクリュー32の回転数を上昇させる(周速を速くする)必要が生じる。周速の高速化に伴い伝熱係数が向上するが、剪断発熱の影響により冷却効率の低下を招くおそれもある。そこで、2軸スクリューの場合、周速は0.20m/s以上0.40m/s以下の範囲であることが好ましい。
【0051】
また、スクリュー径D(mm)に対するピッチP1(mm)〜P7(mm)の比Rn(nは、ドープ原料入口側からのねじ山の個数)=P/D、以下ピッチ比と称する)は、0.3以上1.5以下とすることが好ましく、0.5以上1.0以下とすることがより好ましく、最も好ましくは0.7以上0.8以下とすることである。さらにドープ原料入口側のねじ山のピッチ比R1とドープ出口側のねじ山のピッチ比R7は、1<(R1/R7)≦10とすることが好ましく、1≦(R1/R7)≦5とすることがより好ましく、最も好ましくは2≦(R1/R7)≦3である。(R1/R7)が1以下であると、圧縮の効果が発現し難い又は発現しないおそれがある。また、(R1/R7)が10を超えると、送液圧力が過大となる点から好ましくない。
【0052】
また、スクリュー32、50のリード部の長さL(mm)とスクリュー径D(mm)との比(L/D)は5以上100以下であることが好ましい。より好ましくは20<(L/D)<100(リードは0.30mm〜1.5mm)、更に好ましくは50<(L/D)80(リードは0.30mm〜1.5mm又は0.75mm)また、スクリュー及びシリンダはそれぞれ1本構造のものも用いることができるが、故障時の交換の容易さから複数の部材からなるセグメント構造のものを用いることが好ましい。スクリュー32、50及びシリンダ33に用いる材質としては、耐腐食性,耐低温衝撃性,高熱伝導性及び加工性の点からSCM材(クロムモリブデン綱)及びその窒化物が好ましく用いられる。また、SUS材を用いることもできる。
【0053】
本発明に係る押出機11は複数のスクリューを備えている。図4には、2軸のスクリュー32,50を備えているものを図示している。スクリュー50もスクリュー軸51にらせん羽根52が取り付けられている。スクリュー50の形態は、前記スクリュー32の形態と同じ条件のものである。なお、図では2軸のスクリューを備えている押出機11を示しているが、3軸以上のスクリューを備える押出機を用いることも可能である。多軸のスクリュー押出機を用いることで原液15又はドープ18の混練性能が向上する。この場合における各スクリューの形態も図2及び図3に示されているスクリュー32と同じ条件のものを用いる。スクリュー押出機をドープ製造装置に用いると、冷却性能及び送液性能に優れるためドープ18の冷却送液に適する。これにより、原液15がシリンダ内を送液されると冷却されると共に圧縮されて溶質の溶解性が向上する。そのため、得られるドープには未溶解物が残らないものが得られる。
【0054】
2軸のスクリュー32,50は同方向回転させることが原液15又はドープ18に好適な剪断を付与できるために好ましいが異方向回転で行っても良い。また、原液15またはドープ18に剪断を付与する目的から噛合型であることが好ましい。噛合型とすることで、スクリューのフライトが他方のスクリューの溝に噛み合い、溝の送液流体をかきとることで、送液流体の残留を減少させるセルフクリーニング効果が発現する。これにより、過冷却や温度ムラ無く原液15又はドープ18の送液が可能となる。なお、噛合型は部分噛合型でも完全噛合型のいずれをも用いることができるが噛合度合いが大きいほどセルフクリーニング効果が発現し、原液15又はドープ18の安定送液を行うことが可能となる。なお、図4では部分噛合型を図示している。
【0055】
本発明においては、スクリュー32,50を冷却することが好ましい。これにより、原液15またはドープ18の冷却効率が飛躍的に向上する(約2倍)。そのため、原液15中の溶質(特にポリマー)の溶解性が極めて向上する。冷媒40が供給可能なようにスクリュー32,50内に流路が形成されている。
【0056】
冷媒40の供給には二元冷凍機41を用いることが好ましい。二元冷凍機41は、冷媒循環機42と熱交換器43と冷却機44とから構成されている。冷媒循環機42により冷媒40をスクリュー32,50内に供給する。そして、冷媒40は、スクリュー32,50内から送り出される。この冷媒40は原液15又はドープ18を冷却することで温度が上昇している。冷媒40を熱交換器43に供給する。熱交換器43には冷却機44から第2冷媒45が送液されている。冷媒50は、第2冷媒45と熱交換がなされて所望の温度(例えば、−90℃以上25℃以下)に冷却される。冷媒40は冷媒循環機42により再度スクリュー32,50の流路へ供給される。本発明において冷媒40の冷却に間接冷却方式である二元冷凍機41を用いることで冷媒40の温度を均一にすることができるために好ましい。この二元冷凍機は、図1に示されているシリンダ33を冷却する冷媒37を冷却する際に用いることが好ましい。なお、第2冷媒45は特に限定されるものではないが、R13,R404A,CO2,アンモニアなどを用いることが好ましい。
【0057】
図5に押出機11の横断面図を示す。スクリュー32,50を覆うようにシリンダ33が設けられている。さらに、シリンダ33を覆うようにジャケット34が取り付けられている。スクリュー32,50とシリンダ33との隙間を原液15が通過して圧縮されながらポリマーが溶媒に溶解してドープ18となる。図6に本発明に用いられる他の実施形態
の押出機60の横断面図を示す。スクリュー32,50は押出機11と同じ形態のものである。スクリュー32,50はシリンダ61内に備えられている。シリンダ61には冷媒供給用の管62が形成されているドリルジャケット63が取り付けられている。ドリルジャケット63は、連通している管62が形成されている。この管62内を冷媒が通過することによりシリンダ61を冷却する。ドリルジャケット63は冷媒が通過する距離が長くなる点で有利である。
【0058】
(冷却保持工程)
押出機11内のドープ18を冷却したまま冷却機12に送り込み、溶解を更に進行させることが好ましい。冷却機12は、内管路12aと外管路12bとを備える2重式配管を用いることで、ドープ18の送液抵抗を減少させることができる。外管路12bは複数区画(図1では3区画)に分割しているものを用いることで、冷却機12の各箇所での温度制御を容易に行うことができる。外管路12bに冷媒19を通液することで内管路12a
を冷却し、内管路12a内のドープ18を冷却する。冷却機12を用いて冷却時間を延ばすことにより、ドープ18の溶解性が向上して、品質が均一なドープ18を得ることができる。本発明において、ドープ18内を送液し冷却する時間を10分以上60分以内とすることが生産性を向上させるために好ましい。10分未満であると冷却時間を長くすることによる溶解性の向上の効果が充分に発現しないおそれがある。60分より冷却時間を長くしても、溶解性の向上はほとんど見られずにコストの点から不利になる場合がある。しかしながら、原液15の組成に応じて、冷却機12によるドープ18の冷却時間を60分より長くする方法も本発明に含まれる。
【0059】
冷却機12内を送液した冷媒19は、二元冷凍機20に送られる。温度が上昇している冷媒19を二元冷凍機20により再度冷却する。その冷媒19は、分岐管21を介して再度外管路12bに送液される。これにより、冷媒19の使用量を減少することができ、大気中に放出される冷媒量が極めて微量となるので、環境保護の点からも好ましい。本発明に用いられる冷媒19は、メタノール,ジクロロメタン,ハイドロフルオロエーテル,フルオロカーボン,コールドブライン(商品名)などを用いることが好ましく、最も好ましくはハイドロフルオロエーテルのうちの1つであるノベック(商品名)を用いることである。なお、本発明において押出機11及び冷却機12それぞれ独立して二元冷凍機14,20を設ける必要はなく、これらを1台の二元冷凍機,冷却機などを用いることも可能である。
【0060】
また、押出機出口11aでのドープ温度T(℃)に対して、冷却機12に供給される冷媒温度T2(℃)は、(T−30)℃以上(T+30)℃以下とすることが好ましい。冷媒温度T2(℃)が(T−30)℃未満であると、ドープ18を急激に更に冷却することとなり、ドープの品質が悪化したり送液の不安定化を招いたりするおそれがある。また、(T+30)℃を超えると、ドープ18の冷却時間を長くする効果が発現しないおそれがある。
【0061】
原液15を圧縮して調整されたドープ18が目標とする溶解性を有し、均一性の高いものである場合には、本発明に係るドープ製造装置10に冷却機12を取り付けることを省略することもできる。
【0062】
(加熱工程)
冷却機12の下流側に接続された加熱機13にドープ18を送液して、急激に温度を上昇させる加熱を行うことで、さらに溶解性が向上し均一なドープ18を得ることができる。また、ドープ18の流動性が高まり送液が容易となる。加熱機によるドープ18の加熱条件は特に限定されるものではないが、加熱速度を20℃/min以上、より好ましくは30℃/min以上、最も好ましくは40℃/min以上である。また、加熱時間は、60分以下が好ましく、より好ましくは30分以下、最も好ましくは10分以下である。
【0063】
製造したドープ18は、必要に応じて濃度の調整(濃縮または希釈)、ろ過、温度調整、成分添加などの処理を実施できる。添加する成分は、ドープの用途に応じて決定する。代表的な添加剤は、可塑剤,劣化防止剤(例えば、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性剤、酸捕獲剤など),染料及び紫外線吸収剤などである。ドープ18は、安定な温度範囲内で保存する必要がある。例えば、セルローストリアセテートを酢酸メチルを主溶媒とした冷却溶解法により調製したドープでは、実用的な保存温度範囲において、高温域と低温域に二つの相分離領域がある。そこで、ドープ18を安定に保存するためには、中間の均一相領域(例えば、7℃〜40℃)の温度を維持する必要がある。得られたドープは、様々な用途に用いられる。例えば、製膜設備に送られて溶液製膜法によるフィルムの製造に用いられる。
【0064】
(溶液製膜方法)
前記ドープの代表的な用途である溶液製膜法によるフィルムの製造方法について説明する。図7は、本発明に用いられる製膜設備70の概略図を示している。なお、本実施形態では、ドープを構成するポリマーは、セルロースアシレートを用いて説明するが、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。前記方法により得られるドープ18はミキシングタンク71に入れられる。ミキシングタンク71には攪拌翼72が備えられている。攪拌翼72が回転することでドープ18は攪拌されて均一なものとなっている。この際に、ドープ18に添加剤を混合させて含有させることも可能である。ドープ18は、固形分量が10重量%〜30重量%となるように濃度が調整されていることが好ましい。ドープ18は、ポンプ73により一定の流量で濾過装置74に送られて不純物が除去される。その後に、流延ダイ75に送液される。なお、本発明では濾過装置74を省略することも可能である。
【0065】
流延ダイ75よりドープ18が流延ベルト76上に流延される。なお、このときのドープ18の温度(流延温度)は、−50℃〜80℃の範囲であることが好ましいが、その範囲に限定されるものではない。流延ベルト76は、ローラ77,78に掛け渡されている。ローラ77,78は図示しない駆動装置により回転している。これにより、流延ベルト76は、無端で走行している。流延速度(流延ベルトの移動速度)は0.5m/s〜2m/sの範囲とすることが、膜厚が均一のフィルムを得るために好ましいが、この範囲に限定されるものではない。流延ベルト76上に流延されたドープ18は、徐々に溶媒が揮発して自己支持性を有するフィルム(以下、湿潤フィルムと称する)79となる。なお、流延ベルト76の表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。また、流延ベルト76に代えて、回転ドラム(流延ドラム)を用いることもできる。
【0066】
湿潤フィルム79は、剥取ローラ80に支持されながら流延ベルト76から剥ぎ取られ、ローラ81で搬送されて乾燥装置82に送られる。乾燥装置82の乾燥条件は、温度を100℃〜160℃、時間を5分〜20分の範囲とすることが好ましいが、これら範囲に限定されるものではない。乾燥装置82により湿潤フィルム79は所望の溶媒量以下のフィルム83となる。また、乾燥装置82内に多数の区画を設け、湿潤フィルム79中に含まれている溶媒量に応じて、乾燥条件を調節することが好ましい。また、乾燥装置82にテンタ式乾燥機を用いることもできる。テンタ式乾燥機を用いることで、湿潤フィルム79の流延幅方向に延伸を付与することが可能となる。また、湿潤フィルム79を乾燥する前に搬送中に搬送方向(フィルムの長手方向)にドローを付与しても良い。
【0067】
フィルム83を冷却装置84へ送り冷却することが後にフィルム83を巻き取る際に、フィルム83の変形が生じないために好ましいが、冷却装置84は省略することもできる。なお、冷却装置84でフィルム83を室温程度まで冷却することが好ましいが、その温度に限定されるものではない。冷却装置84から送り出されたフィルム83はローラ85により搬送されて巻取機86により巻き取られる。なお、冷却装置84から巻取機86まで搬送されている間に、フィルム83にナーリングを付与したり、耳切処理を行ったり、帯電量の調整を行ったりしても良い。
【0068】
本発明に係るドープを用いる溶液製膜方法は前記方法に限定されるものではない。他の実施形態、特に多層流延の実施形態について図面を参照して説明する。図8ないし図10に図示している製膜設備のうち先に示した実施形態と異なる箇所のみを図示して説明し、その他の箇所についての説明及び図示は省略する。
【0069】
図8には共流延法により製膜を行う形態の要部断面図を示す。複数のマニホールド90,91,92を有するマルチマニホールド流延ダイ93を用いて製膜を行う。それぞれのマニホールド90〜92にドープ94,95,96が供給され(供給用配管の図示は省略している)、合流部97で合流した後に流延ベルト98にドープ94〜96を流延して流延膜99を形成した後に湿潤フィルムとして剥ぎ取る。その後に湿潤フィルムを乾燥してフィルムを得る。なお、図8のマルチマニホールド流延ダイ93を用いて共流延を行う際に、本発明に係るドープを少なくとも1つ用いることで、得られるフィルムの光学特性が優れたものになる。最も好ましくは、3種類のドープ94〜96の全てに本発明に係るドープを用いることである。
【0070】
図9には共流延法により製膜を行う形態の側面図を示す。流延ダイ110の上流側にはフィードブロック111が取り付けられている。フィードブロック111に接続されている配管111a,111b,111cに給液装置(図示しない)からドープ112,113,114を送液する。ドープ112〜114をフィードブロック111内で合流させた後に流延ダイ100から流延ベルト115上にドープ112〜114を流延する。流延ベルト115上に形成される流延膜116が自己支持性を有するものとなった後に湿潤フィルムとして剥ぎ取り、乾燥を行いフィルムを得る。なお、図9の流延ダイ110を用いて共流延を行う際に、本発明に係るドープを少なくとも1つ用いることで、得られるフィルムの光学特性が優れたものになる。最も好ましくは、3種類のドープ112〜114の全てに本発明に係るドープを用いることである。
【0071】
図10には逐次流延法により製膜を行う形態の要部断面図を示す。3基の流延ダイ120,121,122が流延ベルト123上に配置している。各流延ダイ120〜122には、それぞれドープ124,125,126が給液装置(図示しない)から送液される。各ドープ124〜126を逐次的に流延ベルト123上に流延して流延膜127を形成する。流延膜127が、自己支持性を有するものとなった後に湿潤フィルムとして流延ベルト123から剥ぎ取り乾燥してフィルムを得る。なお、図10の逐次流延を行う際に、本発明に係るドープを少なくとも1つ用いることで、得られるフィルムの光学特性が優れたものになる。最も好ましくは、3種類のドープ124〜126の全てに本発明に係るドープを用いることである。
【0072】
前記各実施形態の他に、例えば回転ドラムを支持体に用いる方法を行うこともできる。また、回転ドラムを冷却する超冷却流延法を用いて溶液製膜を行うこともできる。また、図10に示す逐次流延法を行う際に、流延ダイにマルチマニホールド流延ダイを用いたり、流延ダイの上流側にフィードブロックを取り付けたりする逐次共流延法を行うこともできる。
【0073】
(フィルムなど)
前記溶液製膜方法により得られるフィルムは、ドープの均一性に優れているため、膜厚が略均一で光学特性に優れている。このフィルムは、光学特性に優れる保護フィルムとして用いることができる。偏光子を含有している偏光フィルムの両面に前記保護フィルムを貼付すると、光学特性に優れる偏光板を得ることができる。さらに、前記フィルム上に光学補償シートを貼付して得られる光学補償フィルム,防眩層がフィルム上に形成されている反射防止膜などの光学機能性膜として用いることもできる。これらフィルム製品(例えば、偏光板,光学補償フィルムなど)から液晶表示装置の一部を構成することも可能である。また、フィルム上に感光層などを形成することで写真感光材料を製造することもできる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。なお、説明は本発明に係る実験1で詳細に行い、実験2ないし実験12については、実験1と同じ条件については、説明は省略する。なお、後に実験条件及び実験結果を表1に示す。
【0075】
<実験1>
(ドープの製造)
下記の処方からなるドープ18を製造した。
セルローストリアセテート(置換度2.83,粘度平均重合度320,含水率0.4質量%,メチレンクロライド溶液中6質量%の粘度 305mPa・s) 28質量部
酢酸メチル 75質量部
シクロペンタノン 10質量部
アセトン 5質量部
メタノール 5質量部
エタノール 5質量部
可塑剤A(ジペンタエリスリトールヘキサアセテート) 1質量部
可塑剤B(トリフェニルフォスフェート) 1質量部
微粒子(シリカ(粒径20nm)) 0.1質量部
UV剤a:(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン 0.1質量部
UV剤b:2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.1質量部
UV剤c:2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.1質量部
1225OCH2CH2O−P(=O)−(OK)2 0.05質量部
なお、UV剤とは、紫外線吸収剤を意味している。
【0076】
冷却溶解性は、濾過圧変化に従う定量評価法で行った。各実験で得られたドープをギヤポンプにより濾過面積12.5cm2の濾紙(アドバンテック製#63LB)に濾過送液を行った。このときの濾圧P(kg/cm2)の経時変化と濾過量V(kg/cm2)との関係を測定した。そして、下記式から標準濾過閉塞指数Ksを算出した。なお、標準閉塞濾過指数は小数点第1位で四捨五入した。また、P0は初期濾過圧(kg/cm2)、nはべき指数を意味している。
【0077】
【数1】

【0078】
Ksが25以下のとき溶解性10、26以上30以下のとき溶解性9、31以上35以下のとき溶解性8、36以上40以下のとき溶解性7、41以上45以下のとき溶解性6、46以上50以下のとき溶解性5、51以上55以下のとき溶解性4、56以上60以下のとき溶解性3、61以上65以下のとき溶解性2、66以上のとき溶解性1の10段階評価を行った。3以下を本発明では不良品と規定した。
【0079】
圧縮型のスクリューを備える押出機を用いてドープを製造した。スクリューはその径D(mm)が30mmであり、2軸スクリュー32,50を用いた。スクリューのリード部L(mm)とスクリュー径D(mm)との比(L/D)は42のものを用いた。スクリューのピッチはピッチP1(mm)とスクリュー径D(mm)との比(P1/D)が1.50であり、ピッチP7(mm)とスクリュー径D(mm)との比(P7/D)が0.75であるものを用いた。スクリュー羽根31の溝深さd(mm)は6mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−75℃に調整した。シリンダ61の材質はSCM(クロムモリブデン綱)を用いた。また、ジャケットにはドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.04m/sとした。この場合の伝熱係数は126W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が0.2kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は1℃であった。溶解性は5であり、良品なドープ18が得られた。
【0080】
<実験2>
スクリューはその径D(mm)が65mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は52.5のものを用いた。スクリューのピッチは(P1/D)が1.50であり、(P7/D)が0.75であるものを用いた。溝深さd(mm)は12mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.14m/sとした。この場合の伝熱係数は189W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が2.6kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は1℃であった。溶解性は6であり、良品なドープ18が得られた。
【0081】
<実験3>
スクリューはその径D(mm)が180mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は70のものを用いた。スクリューのピッチは(P1/D)が1.50であり、(P7/D)が0.75であるものを用いた。溝深さd(mm)は37mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.24m/sとした。この場合の伝熱係数は234W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が35kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は1℃であった。溶解性は6であり、良品なドープ18が得られた。
【0082】
<実験4>
スクリューはその径D(mm)が180mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は70のものを用いた。スクリューのピッチは(P/D)が1.0のストレート型のものを用いた。溝深さd(mm)は37mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.33m/sとした。この場合の伝熱係数は266W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が35kg/minであり、ドープ出口温度は−68℃であり、温度分布幅は1℃であった。溶解性は5であり、良品なドープ18が得られた。
【0083】
<実験5>
スクリューはその径D(mm)が180mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は70のものを用いた。スクリューのピッチは(P/D)が0.75のストレート型のものを用いた。溝深さd(mm)は37mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.33m/sとした。この場合の伝熱係数は266W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が35kg/minであり、ドープ出口温度は−68℃であり、温度分布幅は1℃であった。溶解性は7であり、良品なドープ18が得られた。
【0084】
<実験6>
スクリューはその径D(mm)が30mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は42のものを用いた。スクリューのピッチは(P1/D)が1.50であり、(P7/D)が0.75であるものを用いた。溝深さd(mm)は6mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−75℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.04m/sとした。この場合の伝熱係数は126W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が0.2kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は1℃であった。さらに、押出機11の下流側に同一形態のスクリューを2本備える冷却押出機12を取り付けた。なお、冷却押出機のスクリューの形態などは、押出機11と同一のものを用いた。冷却押出機12におけるドープ出口温度は−68℃であった。溶解性は9であり、極めて良品なドープ18が得られた。
【0085】
<実験7>
スクリューはその径D(mm)が30mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は42のものを用いた。スクリューのピッチは(P1/D)が1.50であり、(P7/D)が0.75であるものを用いた。溝深さd(mm)は6mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−75℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.04m/sとした。この場合の伝熱係数は126W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が0.2kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は1℃であった。さらに、押出機11の下流側に2重管式冷却機12を取り付けた。なお、2重管式冷却機12の冷媒温度は−65℃とし、冷却機12内を搬送される時間は10分とした。溶解性は10であり、極めて良品なドープ18が得られた。
【0086】
<実験8>
スクリューはその径D(mm)が30mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は42のものを用いた。スクリューのピッチは(P1/D)が1.50であり、(P7/D)が0.75であるものを用いた。溝深さd(mm)は6mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−75℃に調整した。スクリュー32,50及びシリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸スクリュー32,50は、図4に示したようにその中に冷媒40を供給した。冷媒40にはノベック(商品名)を用い、−75℃に調整した。2軸のスクリュー32,50は同方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.04m/sとした。この場合の伝熱係数は126W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が0.2kg/minであり、ドープ出口温度は−70℃であり、温度分布幅は1℃未満であった。溶解性は7であり、良品なドープ18が得られた。
【0087】
<実験9>
スクリューはその径D(mm)が100mmであり、(L/D)が20のものを用いた。スクリューのピッチは(P/D)が1.0のストレート型のものを用いた。溝深さd(mm)は3mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。回転速度は周速を0.29m/sとした。この場合の伝熱係数は203W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が2.0kg/minであり、ドープ出口最低温度は−65℃であり、温度分布幅は12℃であった。溶解性は3であった。
【0088】
<実験10>
スクリューはその径D(mm)が350mmであり、(L/D)が40のものを用いた。スクリューのピッチは(P/D)が1.0のストレート型のものを用いた。溝深さd(mm)は3mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。回転速度は周速を0.29m/sとした。この場合の伝熱係数は203W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が30kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は12℃であった。溶解性は3であった。
【0089】
<実験11>
スクリューはその径D(mm)が65mmである2軸スクリュー32,50を用いた。(L/D)は52.5のものを用いた。スクリューのピッチは(P1/D)が1.50であり、(P7/D)が0.75であるものを用いた。溝深さd(mm)は12mmのものを用いた。さらに、冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。シリンダ61の材質はSCMを用い、ドリルジャケット63を用いた。2軸のスクリュー32,50は異方向噛合型で回転させた。回転速度は周速を0.14m/sとした。この場合の伝熱係数は160W/(m2・K)であった。ドープ18の製造量が2.6kg/minであり、ドープ出口温度は−65℃であり、温度分布幅は4℃であった。溶解性は4であり、良品なドープ18が得られた。
【0090】
<実験12>
比較実験としてスタティックミキサ(スルザー社製SMX)を用いてドープの製造を行った。ミキサの内径は100mmであり、ミキサの長さL(mm)との比(L/D)は10であった。また、エレメント数は5であった。ポンプにはギヤポンプを用いた。また、スタティックミキサを2重管式構造とし、外管に冷媒を通液した。冷媒19にはノベック(商品名)を用いて、−85℃に調整した。圧力上昇により送液不能であった。
【0091】
【表1】

【0092】
表1の実験1ないし実験3から製造流量を増大させることにより溶解性が向上することが分かる。これは、周速度増加の影響によるものであると考えられる。また、実験2及び実験9との比較から2軸スクリューを用いることで、ドープの出口温度が略均一となりポリマーなどの溶質の溶解性が向上することが分かる。さらに、実験3及び実験4からは、スクリューを圧縮型(圧)を用いることで溶解性が向上することが分かる。さらにいは、実験4及び実験5からは、スクリューに圧縮型を用いない場合には、スクリュー径に対するピッチの比が小さくなる(1.0から0.75へ)と溶解性が向上することが分かる。
【0093】
表1の実験1,実験6及び実験7から押出機11の下流側に冷却機12を設けることで極めて溶解性に優れるドープを得ることができることが分かる。また、実験1及び実験8からは、押出機11のスクリュー32の内部の冷却を行うことで溶解性が向上することが分かる。さらに、実験1ないし実験3並びに実験9及び実験10からは、単軸スクリューを用いる場合には、スケールアップに伴う溶解性の向上がみられないことが分かる。さらには、実験2及び実験11から2軸スクリューのスクリュー回転方向は、同方向(同)とすることで異方向(異)よりも原液15への剪断の付与が大きくなり溶解性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、難溶性の溶質を溶媒に溶解させて溶液を製造する方法にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係るドープ製造装置の概略図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】図1の要部拡大図である。
【図5】図1の要部断面図である。
【図6】本発明に係るドープ製造装置の他の実施形態の要部断面図である。
【図7】本発明に係るドープを用いる製膜設備の概略図である。
【図8】本発明に係るドープを用いる製膜設備の他の実施形態の概略図である。
【図9】本発明に係るドープを用いる製膜設備の他の実施形態の概略図である。
【図10】本発明に係るドープを用いる製膜設備の他の実施形態の概略図である。
【符号の説明】
【0096】
10 ドープ製造装置
11 スクリュー押出機
12 冷却機
13 加熱機
14 二元冷凍機
15 原液
18 ドープ
30 スクリュー軸
31 スクリュー羽根
32,50 スクリュー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューを備えた押出機にドープ原料を送ってドープを製造するドープ製造装置において、
前記スクリューが多軸であり、且つ前記ドープ原料を冷却する第1冷却手段を有することを特徴とするドープ製造装置。
【請求項2】
スクリューを備えた押出機にドープ原料を送ってドープを製造するドープ製造装置において、
前記スクリューが2軸であり、且つ前記ドープ原料を冷却する第1冷却手段を有することを特徴とするドープ製造装置。
【請求項3】
前記2軸のスクリューを噛み合わせて同方向に回転することを特徴とする請求項2記載のドープ製造装置。
【請求項4】
前記各スクリュー径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)が、
0.3以上1.5以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項5】
前記各スクリュー径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)が、
前記ドープの送液方向に向けて小さくなることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項6】
前記第1冷却手段が、前記押出機のシリンダの外周部に冷媒供給用のジャケットであることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項7】
前記ジャケットが前記ドープの送液方向で2区画以上に分割されていることを特徴とする請求項6記載のドープ製造装置。
【請求項8】
前記スクリューを冷却する第2冷却手段を有することを特徴とする請求項1ないし7いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項9】
前記第2冷却手段が、前記スクリュー軸の内部に設けられた冷媒供給路と、
前記冷媒供給路に冷媒を供給する冷却供給手段とを有することを特徴とする請求項8記載のドープ製造装置。
【請求項10】
前記第1冷却手段または前記第2冷却手段の少なくともいずれかが、冷媒冷却用の二元冷凍機であることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項11】
前記押出機の下流側に第3冷却手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし10いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項12】
前記第3冷却手段の下流側に加熱手段を備えたことを特徴とする請求項11記載のドープ製造装置。
【請求項13】
前記押出機のドープ原料の投入口に、定量ドープ原料供給装置を設け、前記ドープの原料を供給することを特徴とする請求項1ないし12いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項14】
前記押出機のドープ原料の投入口に、圧力制御用のバルブを有した分岐管を設けることを特徴とする請求項1ないし13いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項15】
前記第1冷却手段ないし前記第3冷却手段で用いられる冷媒が、メタノール,ジクロロメタン,ハイドロフルオロエーテル,フルオロカーボンのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1ないし14いずれか1つ記載のドープ製造装置。
【請求項16】
多軸のスクリューを備えた押出機に、ポリマーと溶媒とを含むドープ原料を送ってドープを製造するドープの製造方法において、
前記各スクリューにより前記ドープ原料又は前記ドープを圧縮し、且つ前記ドープ原料または前記ドープを冷却することを特徴とするドープの製造方法。
【請求項17】
前記ドープ原料または前記ドープの圧縮を
前記各スクリューの径D(mm)に対するピッチP(mm)の比(P/D)を前記ドープの送液方向に沿って小さくすることで行うことを特徴とする請求項16記載のドープの製造方法。
【請求項18】
前記スクリューは2軸であり、各スクリューを噛合わせて同方向に回転させることを特徴とする請求項16または17記載のドープの製造方法。
【請求項19】
前記ドープ原料又は前記ドープの冷却を
5℃/min以上200℃/min以下の冷却速度で行うことを特徴とする請求項16ないし18いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項20】
前記ドープ原料または前記ドープの冷却を
前記押出機のシリンダ外周部にジャケットを設け、前記ジャケット内に冷媒を供給して行うことを特徴とする請求項16ないし19いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項21】
前記押出機から押し出されるドープ温度が、−30℃以下となるように冷却することを特徴とする請求項16ないし20いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項22】
前記ジャケットを前記ドープの送液方向で2区画以上に分割して設け、
前記ドープの原料が投入される側のシリンダ冷媒温度T1(℃)と、
前記ドープが送り出される側のシリンダ冷媒温度T2(℃)とを、
T2<T1として冷却することを特徴とする請求項20または21記載のドープの製造方法。
【請求項23】
前記各スクリューを冷却することを特徴とする請求項16ないし22いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項24】
前記押出機内で調製されたドープを、前記押出機の下流に設けた冷却部でさらに冷却することを特徴とする請求項16ないし23いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項25】
前記冷却部でのドープの冷却を60分以内行うことを特徴とする請求項24記載のドープの製造方法。
【請求項26】
前記押出機の出口ドープ温度T(℃)と、
前記冷却部の冷媒温度T2(℃)とを
T−30℃≦T2≦T+30℃として冷却することを特徴とする請求項24または25記載のドープの製造方法。
【請求項27】
前記押出機または前記冷却部が冷媒で冷却されるものであって、
前記冷媒が、メタノール,ジクロロメタン,ハイドロフルオロエーテル,フルオロカーボンのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項16ないし26いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項28】
前記ドープを前記押出機または前記冷却部にて冷却した後に、20℃/min以上の加熱速度で前記ドープを加熱することを特徴とする請求項16ないし27いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項29】
前記ポリマーがセルロースアシレートであることを特徴とする請求項16ないし28いずれか1つ記載のドープの製造方法。
【請求項30】
前記溶媒が少なくとも酢酸メチルを含むものであることを特徴とする請求項16ないし29いずれか1つ記載のドープ製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−160863(P2006−160863A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353519(P2004−353519)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】