説明

ナトリウム吸収阻害組成物

【課題】低分子化アルギン酸カリウムを含有する特に優れたナトリウム吸収阻害組成物、並びにそれを含有する飲食物又は医薬品などを提供すること。
【解決手段】海藻から抽出されたアルギン酸塩を、酸性条件下で40〜130℃、20分〜240時間加熱して低分子化した後、炭酸カリウムと反応させることにより得られる低分子化アルギン酸カリウムを有効成分とする、ナトリウム吸収阻害組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム吸収阻害組成物に関する。さらに本発明は、当該組成物を含有する飲食品又は医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩は、海藻類から得られる食物繊維(以下「DF」とも称する。)であり、ナトリウム吸収阻害活性を有する。アルギン酸塩を含有するナトリウム吸収阻害組成物は、医薬品、飲食品の分野で注目されている(例えば、非特許文献1又は2、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平06−237783号公報
【非特許文献1】「日本食品科学工学会誌 Vol.43 No.5」1996年、p.569−574
【非特許文献2】「日本家政学会誌Vol.44 No.1」1993年、p.3−9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、優れたナトリウム吸収阻害組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特異的なナトリウム吸収阻害活性を示すアルギン酸カリウム含有組成物を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に関する。
1.海藻から抽出されたアルギン酸又はその塩を、酸性条件下で40〜130℃、20分〜240時間加熱して低分子化した後、炭酸カリウムと反応させることにより得られる低分子化アルギン酸カリウムを有効成分とする、ナトリウム吸収阻害組成物。
2.低分子化アルギン酸カリウムが次の性質を有する、上記1.記載のナトリウム吸収阻害組成物。
(1)分子量:10万以下
(2)粘度:20mPa・s(1%水溶液)以下
(3)カルシウム及びマグネシウム吸収促進活性を有する
3.上記1.又は2.記載のナトリウム吸収阻害組成物を含有する飲食品又は医薬品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた特性を有するナトリウム吸収阻害組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
1.本発明のナトリウム吸収阻害組成物
本発明のナトリウム吸収阻害組成物は、海藻から抽出されたアルギン酸又はその塩を、酸性条件下で40〜130℃、20分〜240時間加熱して低分子化した後、炭酸カリウムと反応させることにより得られる低分子化アルギン酸カリウムを有効成分とする。
【0008】
海藻とは、例えば、コンブなどの褐藻類である。海藻からアルギン酸又はその塩を抽出する場合は、原料となる海藻を、例えば、希硫酸で洗浄した後、炭酸ナトリウム溶液で抽出して、次いで硫酸で沈殿させる方法を用いればよい。アルギン酸塩としては市販品、例えば、アルギン酸カリウム(紀文フードケミファ社製 商品番号「K−400」)を使用することができる。
【0009】
アルギン酸又はその塩を酸性条件下で加熱して低分子化する際の条件は、例えば、pH3以下、40〜130℃、20分〜240時間である。加熱による低分子化処理に加え、アルギン酸リアーゼなどの酵素処理を併用してもよい。アルギン酸又はその塩と酵素との反応条件は、例えば、品温30〜45℃、反応時間は20分〜144時間である。低分子化処理は、通常の加熱加圧装置を使用して行なえばよい。
低分子化したアルギン酸又はその塩を、炭酸カリウムと反応させることにより、カリウム置換反応が起こり、本発明の低分子化アルギン酸カリウムが得られる。
【0010】
本発明において、好ましい低分子化アルギン酸カリウムは、上記の処理によって得られ、更に以下の(1)〜(3)の性質を有するものである。
(1)分子量:10万以下
(2)粘度:20mPa・s(1%水溶液)以下
(3)カルシウム及びマグネシウム吸収促進活性を有する
【0011】
なお、好ましい分子量は3万以下であり、好ましい粘度は1〜5mPa・s(1%水溶液)である。
上記の低分子化アルギン酸カリウムは、単独又は他の成分と混合してナトリウム吸収阻害組成物として使用することができる。他の成分とは例えば、保存料、pH調整剤、賦形剤、公知のナトリウム吸収阻害組成物等である。
本発明のナトリウム吸収阻害組成物は、通常の飲食品、医薬品に添加して使用することができる。
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0012】
2種類の低分子化アルギン酸カリウムを調製し、そのナトリウム吸収阻害活性を確認した。
1.低分子化アルギン酸カリウム(本発明1)の調製:
海藻から抽出した高分子アルギン酸又はその塩を酸性条件下で110℃、40分加熱分解し、炭酸カリウムを反応させて得たものを使用した。製造した低分子化アルギン酸カリウムは、分子量12,600(極限粘度法)、粘度は1.9mPa・s(1%水溶液)、pH 5.87(1%)だった。
2.低分子化アルギン酸カリウム(本発明2)の調製:
海藻から抽出した高分子アルギン酸又はその塩を酸性条件下で70℃、144時間加熱分解し、炭酸カリウムを反応させて得たものを使用した。製造した低分子化アルギン酸カリウム2は、粘度1.9mPa・s(1%水溶液)、分子量23,000(極限粘度法)、pH 7.3(1%水溶液)だった。
3.高分子アルギン酸カリウム(比較例):
高分子アルギン酸カリウムとして、商品名「K−400」(紀文フードケミファ社製 分子量554,000、粘度444mPa・s(1%水溶液)、pH7.0(1%水溶液)、アルギン酸カリウム含量78.2%を使用した。
【実施例2】
【0013】
〔平衡透析法によるナトリウム結合能試験〕
実施例1で調製した2種類の低分子化アルギン酸カリウム(本発明1、2)について、ナトリウム結合能を評価した。
方法:
ビーカーに、外液として0.5%NaClと1%アルギン酸塩を溶解したもの200mlを入れ、内液として蒸留水5mlを加えたセルロース透析膜(三光純薬社製)を液面が同じ位置になるように浸した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、30、60、120分後に透析膜内液を100μLずつ採取し、それぞれのナトリウム濃度を炎光分析法及び原子吸光分光分析法で分析した。2時間後の内液のナトリウム量(測定値)と、0.5%NaClのみの2時間後のナトリウム量(対照)との差を見かけのナトリウム結合能として計算した。
【0014】
ナトリウム結合能(mg/g DF)=(対照(mg)−測定値(mg))/サンプルの重量(g)
結果:
高分子アルギン酸カリウムのナトリウム結合能は、37.5mg/g DFであった。一方、低分子化アルギン酸カリウム(本発明1)のナトリウム結合能は56.0mg/g DF、低分子化アルギン酸カリウム(本発明2)のナトリウム結合能は42.3mg/g DFであった。
【0015】
本発明の低分子化アルギン酸カリウムは、高分子アルギン酸カリウムよりも高いナトリウム結合能を有することが示された。
【実施例3】
【0016】
〔ミネラル吸収阻害活性試験〕
実施例1で調製した低分子化アルギン酸カリウム(本発明1)、及び高分子アルギン酸カリウム(比較例)を試料としてミネラル吸収阻害活性を測定した。
【0017】
実験方法:
食塩感受性高血圧ラット(Dahl−S)(1群6匹)に下記に示す組成の試料を2週間連続して与えた。それぞれ、精製粉末試料AIN93G(オリエンタル酵母社製)中に各成分を加えた。
【0018】
試料:
(1)1%NaCl負荷食(対照群)
(2)1%NaCl負荷+5%高分子アルギン酸カリウム添加食(比較例)
(3)1%NaCl負荷+5%低分子化アルギン酸カリウム添加食(本発明1)
【0019】
測定方法:
実験開始後5日目の10時から7日目の10時までの48時間と、12日目の10時から14日目の10時までの48時間代謝ケージに入れ、糞尿を採取した。糞は凍結乾燥後、電気コンロ(低温)で焼き、その後550℃で24時間灰化し、塩酸(12N)で抽出してICP発光分光分析計(パーキンエルマージャパン社製)を用いて各ミネラル含有量を測定した。餌は糞と同様の過程で灰化し、塩酸(12N)で抽出してICP発光分光分析計(パーキンエルマージャパン社製)を用いて各ミネラル含有量を測定した。また、餌による摂取ミネラル量から糞中への排泄量(吸収阻害量)を差し引いて出納を算出した。
「見かけの吸収量」=「餌からの摂取量」―「糞中への排泄量(吸収しなかった量)」
「見かけの吸収率」=「見かけの吸収量」÷「餌からの摂取量」×100(%)
なお、測定結果についてはTukeyの多重比較検定により統計処理を行った。
【0020】
測定結果:
測定結果を図1〜6に示した。図1、2から明らかなように、5%低分子化アルギン酸カリウムを与えた群は、試験開始後1週目、2週目ともに対照群に比べ顕著にナトリウムの吸収を阻害した。また、5%高分子アルギン酸カリウムを与えた群と比較しても有意にナトリウムの吸収阻害活性が高かった。
【0021】
図3、4から明らかなように、5%高分子アルギン酸カリウムを与えた群は、試験開始後1週目、2週目ともに対照群に比べ顕著にカルシウムの吸収を阻害した。それに対し、5%低分子化アルギン酸カリウムを与えた群は、対照群と比較してカルシウム吸収促進傾向が認められた。
【0022】
図5、6から明らかなように、5%高分子アルギン酸カリウムを与えた群は、試験開始後1週目、2週目ともに対照群に比べ顕著にマグネシウムの吸収を阻害した。それに対し、5%低分子化アルギン酸カリウムを与えた群は、試験開始後1週目、2週目ともに対照群と比較してマグネシウム吸収促進傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のナトリウム吸収阻害組成物に含まれる低分子化アルギン酸カリウムは、カルシウム及びマグネシウムの吸収を阻害せずに、強力にナトリウムの吸収を阻害する。従って、これを使用することによって、過剰に摂取されがちなナトリウムを吸収阻害、体外排出し、尚且つ有用ミネラルであるカルシウム及びマグネシウムはしっかりと吸収することが期待される。また、このナトリウム吸収阻害組成物を含む飲食品及び医薬品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ラットに低分子化又は高分子アルギン酸カリウムを与えた際の糞中ナトリウム排泄量を示す図である。
【図2】ラットに低分子化又は高分子アルギン酸カリウムを与えた際の見かけのナトリウム吸収率を示す図である。
【図3】ラットに低分子化又は高分子アルギン酸カリウムを与えた際の糞中カルシウム排泄量を示す図である。
【図4】ラットに低分子化又は高分子アルギン酸カリウムを与えた際の見かけのカルシウム吸収率を示す図である。
【図5】ラットに低分子化又は高分子アルギン酸カリウムを与えた際の糞中マグネシウム排泄量を示す図である。
【図6】ラットに低分子化又は高分子アルギン酸カリウムを与えた際の見かけのマグネシウム吸収率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻から抽出されたアルギン酸又はその塩を、酸性条件下で40〜130℃、20分〜240時間加熱して低分子化した後、炭酸カリウムと反応させることにより得られる低分子化アルギン酸カリウムを有効成分とする、ナトリウム吸収阻害組成物。
【請求項2】
低分子化アルギン酸カリウムが次の(1)〜(3)の性質を有する、請求項1記載のナトリウム吸収阻害組成物。
(1)分子量:10万以下
(2)粘度:20mPa・s(1%水溶液)以下
(3)カルシウム及びマグネシウム吸収促進活性を有する
【請求項3】
請求項1又は2記載のナトリウム吸収阻害組成物を含有する飲食品又は医薬品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−57343(P2009−57343A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227765(P2007−227765)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】