ナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法
【課題】大量のナノカーボンを簡易に生成することができるナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係るナノカーボン生成用触媒の処理方法は、金属材料を含むナノカーボン生成用触媒材C1に、ナノカーボン生成の前に、前記触媒材C1の表面を薬液で処理して腐食させる薬液処理工程を備えることを特徴とする。
【解決手段】本発明の一形態に係るナノカーボン生成用触媒の処理方法は、金属材料を含むナノカーボン生成用触媒材C1に、ナノカーボン生成の前に、前記触媒材C1の表面を薬液で処理して腐食させる薬液処理工程を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボンの生成方法として、アーク放電法やCVD法により触媒材としての金属上にナノカーボンを生成するが知られている。純度の高いナノカーボンが得られる方法として、金属や金属を含む触媒材上にナノカーボンを生成するCVD法が利用されている。CVD法としては熱CVD法や、それにプラズマを組み合わせたプラズマCVD法(特許文献1)が知られている。
【0003】
ナノカーボン生成用の触媒材としては、鉄、ニッケル、コバルトおよびそれらの合金が知られている。しかし、これらの触媒を用いたとしてもナノカーボンを生成できるとは限らず、生成できた場合であっても、その生成量は少なく不安定である。そこで、ナノカーボンの生成量を増加させる方法として、ナノカーボン生成前に触媒材に表面処理を加える方法が知られている。触媒材の表面処理方法として、500−1000℃で触媒を加熱する方法(特許文献2)や、水素プラズマで処理する方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−153021号公報
【特許文献2】特開2003−277033号公報
【特許文献3】特開2001−48512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の技術では以下の問題がある。すなわち、上述の触媒材の表面処理方法には、処理用の高価な設備が必要であり、あるいは処理時間が長く、大量のナノカーボンを簡易に生成することは困難である。
【0006】
本発明は上記の事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、大量のナノカーボンを簡易に生成することができるナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るナノカーボン生成用触媒の処理方法は、金属材料を含むナノカーボン生成用触媒材に、ナノカーボン生成の前に、前記触媒材の表面を薬液で処理して腐食させる薬液処理工程を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の他の一形態に係るナノカーボンの製造方法は、前記ナノカーボン生成用触媒の処理方法の後に、CVD法により前記触媒材の表面にナノカーボンを生成させるナノカーボン生成工程を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大量のナノカーボンを簡易に生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るナノカーボンの製造方法の説明図。
【図2】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理前の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図3】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理前の表面状態を示すAFM像。
【図4】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理後の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図5】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理後の表面状態を示すAFM像。
【図6】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、ナノカーボンの生成量を示すグラフ。
【図7】本発明の第2実施形態に係るナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理前の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図8】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理前の表面状態を示すAFM像。
【図9】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理後の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図10】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理後の表面状態を示すAFM像。
【図11】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、ナノカーボンの生成量を示すグラフ。
【図12】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をコバールとした場合の、薬液表面処理前の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図13】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をコバールとした場合の、薬液表面処理後の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図14】本発明の第3実施形態に係るナノカーボンの製造方法による、触媒材をコバールとした場合の、ナノカーボンの生成量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態にかかるナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法について、図1乃至図6を参照して説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るナノカーボンの製造方法を示す工程説明図である。ナノカーボンの製造方法は、触媒材にナノカーボンを成長させる成長処理工程(生成処理工程)と、この成長処理工程の前に薬液表面処理により触媒材の表面を腐食させる薬液表面処理工程(薬液処理工程)を備える。
【0013】
ここで記述するナノカーボンとは、例えばサイズの小さいカーボン材料であり、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、フラーレン等に代表される。
【0014】
図1に示すように、触媒材C1(ナノカーボン生成用触媒)として例えば金属板を用意する(工程1)。触媒材は、成長させるカーボン材の量、種類、装置条件等の各種条件に応じて適宜決定されるが、ここでは一例として矩形の板状に構成された鉄板を用いる。
【0015】
次に、この触媒材C1に対してアセトンによる超音波洗浄を実施することにより脱脂処理を行う(工程2)。
【0016】
この段階の薬液表面処理前の触媒材C1の表面の状態を図2及び図3に示す。図2は薬液表面処理前の触媒材C1の表面状態を示すSEM像、図3は薬液表面処理前の触媒材C1の表面状態を示すAFM像である。
【0017】
このとき触媒材C1の表面には酸化膜が形成されており、図2及び図3に示すように表面は平坦となっている。算術平均粗さRa=31nmとなっている。
【0018】
一方、薬液として例えば塩酸と硝酸を5対1の体積比で混合してから20分放置した溶液を用意する(工程3)。
【0019】
次に、薬液により触媒材C1の表面を腐食させる薬液表面処理を行う(工程4)。ここでは触媒材C1を薬液に浸漬する。浸漬時間は材料によって適当な時間が決定されるが、例えばここでは一例として120秒間の条件で浸漬を行う。この薬液表面処理によって、薬液で金属がエッチングされる。エッチングの効果として、表面の不均一なエッチングによるラフネスの増加と、表面酸化膜の除去と、が挙げられる。ラフネス増加のメカニズムとしては、材質によって異なるが、表面酸化膜と触媒材C1である金属素材のエッチングレートの差によって局所的にエッチングが進むモデル、合金の場合は金属の種類によってエッチングレートが異なる場合に金属間のガルバニックコロージョン(電気化学的腐食、電池効果による腐食)等が挙げられる。
【0020】
次に、薬液表面処理後に薬液から取り出した触媒材C1を窒素ブローにより乾燥させる乾燥処理を行う(工程5)。
【0021】
この段階の薬液表面処理後の触媒材C1の表面の状態を図4及び図5に示す。図4は、薬液表面処理後の触媒材C1の表面状態を示すSEM像であり、薬液表面処理後の触媒材C1の表面状態を示すAFM像である。
【0022】
図4,5に示すように、薬液表面処理後の表面は、薬液表面処理によって触媒材C1が腐食し、触媒材C1の表面がわずかに削られ、ラフネスの増加と表面酸化膜除去等により、触媒材C1の表面が僅かに粗くなり、表面に多数の細かい凹凸が見られるようになる。なおこのときの算術平均粗さRa=44nmとなった。
【0023】
薬液表面処理後の表面状態では、薬液表面処理前の表面状態に比べ、多数の細かい凹凸が形成されている。これらの凹凸によりナノカーボン生成に適した大きさの触媒微粒子の生成が促進される。すなわち、薬液処理後の表面状態は、ナノカーボンが成長する核となる触媒核が形成されやすい状態となっている。また、薬液表面処理によって、触媒材C1の表面の汚染カーボンや自然酸化膜等、触媒活性を阻害する要因を除去できるので、ナノカーボン生成量を安定して大量に得る上で大きな効果が得られる。
【0024】
次に、成長処理(生成処理)工程として、触媒材C1である鉄板をCVD装置に設置し、CVD処理を行う(工程6)。以上により触媒材の表面上に、多数のナノカーボンが生成される。
【0025】
図6のグラフに、薬液表面処理を行わなかった比較例1(処理時間0秒)、及び薬液表面処理を120秒間行った場合、のナノカーボン生成量をそれぞれ比較して示す。なお、ここでは触媒材の表面上に形成されるナノカーボン層の膜厚[μm]をナノカーボン生成量として観察した。
【0026】
図6に示すように、薬液表面処理を行わなかった比較例1は、ナノカーボンが生成されていないのに対し、薬液表面処理を施した場合には、8μm程度の膜厚でナノカーボンが生成されている。したがって、薬液表面処理を行った場合には薬液表面処理を行わない場合に比べてナノカーボンの生成量が多いことがわかる。
【0027】
本実施形態に係るナノカーボン製造方法によって生成されたナノカーボンは様々な用途に用いることができる。例えばその物理的な大きさを利用した例として、カーボンナノチューブを先端に有するカンチレバーに用いられる。また、ナノカーボンを集めると、限られた空間内で大きな表面積が得られるため、例えば金属ナノ粒子触媒の担持体として利用してもよい。さらに導電性を有するナノカーボンについては、その物理的な大きさと電荷を移動できるという2つの特徴から、例えば電子デバイスやMEMS用の電気回路素子として、1個または少量のカーボンナノチューブをチャネルや配線として利用してもよいし、カーボンナノコイルをコイルとして利用してもよい。また、大量のカーボンブラックやカーボンナノチューブを高分子材料に添加することで、高分子材料が有する加工の容易さを維持したまま、導電性を有する材料の製造に用いてもよい。なおここでの導電性は、半導体性、制電性を含む。また、携帯電話内部の部品やパソコン等のように、外部の電磁波から保護することが望ましい電子機器や、ディスプレイやオーディオ機器等のように、外部への電磁波漏洩を防止することが望ましい電子機器用途として、カーボンナノチューブやカーボンナノコイルを高分子材料に添加した電磁波シールド材や電磁波吸収体を用いても良い。
【0028】
本発明に係るナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法によれば、以下のような効果を奏する。すなわち、ナノカーボン生成量を安定して大量に得るための触媒材の表面処理を、安価な設備を用いて短時間で実施できる。例えば500−1000℃で触媒を加熱する方法や、水素プラズマで処理する方法においては、専用の高価な装置を用いる必要があり、低コスト化が困難であったが、本実施形態によれば薬液に短時間浸漬させるだけの簡易な処理を行うだけで容易にナノカーボン生成量を大幅に増加させることが出来る。このため、低コスト、短時間、かつ、簡易に、ナノカーボン生成量を安定的に増やすことが出来る。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、上記第1実施形態では、触媒材C1として鉄を示したが、他の金属あるいは非金属との混合物でもよい。例えば一般的に触媒材として用いられる材料は鉄の他ニッケル、コバルトを含む材料が挙げられる。
【0030】
例えば他の実施形態として触媒材C2としてインバーの板状部材を用いた場合を図7乃至図11に示す。なお、ナノカーボン製造方法の処理工程は上記と同様とした。また薬液表面処理工程の処理条件も上記第1実施形態と同様とし、塩酸:硝酸=5:1の混合液を用いた。図7の薬液表面処理前のSEM像及び図8のAFM像に示すように、薬液表面処理前の触媒材C2の表面の状態は、滑らかであり凹凸が少ない。このときの算術平均粗さRa=10nmある。一方薬液表面処理後のSEM像を示す図9及びAFM像を示す図10に示すように、薬液表面処理後の触媒材C2の表面の状態は細かい凹凸が多数形成されており、算術平均粗さはRa=21nmとなった。
【0031】
この実施形態においても上記第1実施形態における鉄の場合と同程度の効果が得られた。すなわち、図11に示すように薬液表面処理をしない場合の比較例2に比べて、薬液表面処理を行った場合にナノカーボン生成量が大幅に増加した。
【0032】
さらに、他の実施形態として触媒材C3としてコバールの板状部材を用いた場合を図12乃至図14に示す。なお、ナノカーボン製造方法の処理工程は上記と同様とした。また薬液表面処理工程の処理条件は上記第1実施形態と同様とし、塩酸:硝酸=5:1の混合液を用いた。なお、ここでは薬液に120秒浸漬した場合を示す。図12に示すように、薬液表面処理前の触媒材C3の表面の状態は、凹凸が少なく滑らかな状態である。一方図13に示すように、薬液表面処理後の触媒材C3の表面の状態は細かい凹凸が多数形成されている。
【0033】
この実施形態においても上記第1実施形態における鉄の場合と同程度の効果が得られた。すなわち、図14に示すように薬液表面処理をしない場合の比較例3に比べて、薬液表面処理を行った場合にナノカーボン生成量が大幅に増加した。
【0034】
この他、触媒材としてインコロイ、コンスタンタン、SUS(ステンレス)鋼を用いた場合にも効果が見られた。
【0035】
なお、薬液に関しても、上記実施形態に限られるものではなく、触媒材の材料等の条件に応じて適宜変更可能である。例えば他に、塩酸,硝酸,硫酸,フッ酸,燐酸,過酸化水素,水酸化アンモニウム,及び過硫酸アンモニウムのいずれかを含むものを適用できる。なお、塩酸と硝酸の混合液は特にニッケルに対して効果が高い。
【0036】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0037】
C1,C2,C3…触媒材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボンの生成方法として、アーク放電法やCVD法により触媒材としての金属上にナノカーボンを生成するが知られている。純度の高いナノカーボンが得られる方法として、金属や金属を含む触媒材上にナノカーボンを生成するCVD法が利用されている。CVD法としては熱CVD法や、それにプラズマを組み合わせたプラズマCVD法(特許文献1)が知られている。
【0003】
ナノカーボン生成用の触媒材としては、鉄、ニッケル、コバルトおよびそれらの合金が知られている。しかし、これらの触媒を用いたとしてもナノカーボンを生成できるとは限らず、生成できた場合であっても、その生成量は少なく不安定である。そこで、ナノカーボンの生成量を増加させる方法として、ナノカーボン生成前に触媒材に表面処理を加える方法が知られている。触媒材の表面処理方法として、500−1000℃で触媒を加熱する方法(特許文献2)や、水素プラズマで処理する方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−153021号公報
【特許文献2】特開2003−277033号公報
【特許文献3】特開2001−48512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の技術では以下の問題がある。すなわち、上述の触媒材の表面処理方法には、処理用の高価な設備が必要であり、あるいは処理時間が長く、大量のナノカーボンを簡易に生成することは困難である。
【0006】
本発明は上記の事情に基づきなされたもので、その目的とするところは、大量のナノカーボンを簡易に生成することができるナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るナノカーボン生成用触媒の処理方法は、金属材料を含むナノカーボン生成用触媒材に、ナノカーボン生成の前に、前記触媒材の表面を薬液で処理して腐食させる薬液処理工程を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の他の一形態に係るナノカーボンの製造方法は、前記ナノカーボン生成用触媒の処理方法の後に、CVD法により前記触媒材の表面にナノカーボンを生成させるナノカーボン生成工程を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大量のナノカーボンを簡易に生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るナノカーボンの製造方法の説明図。
【図2】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理前の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図3】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理前の表面状態を示すAFM像。
【図4】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理後の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図5】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、薬液表面処理後の表面状態を示すAFM像。
【図6】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材を鉄とした場合の、ナノカーボンの生成量を示すグラフ。
【図7】本発明の第2実施形態に係るナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理前の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図8】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理前の表面状態を示すAFM像。
【図9】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理後の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図10】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、薬液表面処理後の表面状態を示すAFM像。
【図11】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をインバーとした場合の、ナノカーボンの生成量を示すグラフ。
【図12】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をコバールとした場合の、薬液表面処理前の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図13】同ナノカーボンの製造方法による、触媒材をコバールとした場合の、薬液表面処理後の触媒材の表面状態を示すSEM像。
【図14】本発明の第3実施形態に係るナノカーボンの製造方法による、触媒材をコバールとした場合の、ナノカーボンの生成量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態にかかるナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法について、図1乃至図6を参照して説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るナノカーボンの製造方法を示す工程説明図である。ナノカーボンの製造方法は、触媒材にナノカーボンを成長させる成長処理工程(生成処理工程)と、この成長処理工程の前に薬液表面処理により触媒材の表面を腐食させる薬液表面処理工程(薬液処理工程)を備える。
【0013】
ここで記述するナノカーボンとは、例えばサイズの小さいカーボン材料であり、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、フラーレン等に代表される。
【0014】
図1に示すように、触媒材C1(ナノカーボン生成用触媒)として例えば金属板を用意する(工程1)。触媒材は、成長させるカーボン材の量、種類、装置条件等の各種条件に応じて適宜決定されるが、ここでは一例として矩形の板状に構成された鉄板を用いる。
【0015】
次に、この触媒材C1に対してアセトンによる超音波洗浄を実施することにより脱脂処理を行う(工程2)。
【0016】
この段階の薬液表面処理前の触媒材C1の表面の状態を図2及び図3に示す。図2は薬液表面処理前の触媒材C1の表面状態を示すSEM像、図3は薬液表面処理前の触媒材C1の表面状態を示すAFM像である。
【0017】
このとき触媒材C1の表面には酸化膜が形成されており、図2及び図3に示すように表面は平坦となっている。算術平均粗さRa=31nmとなっている。
【0018】
一方、薬液として例えば塩酸と硝酸を5対1の体積比で混合してから20分放置した溶液を用意する(工程3)。
【0019】
次に、薬液により触媒材C1の表面を腐食させる薬液表面処理を行う(工程4)。ここでは触媒材C1を薬液に浸漬する。浸漬時間は材料によって適当な時間が決定されるが、例えばここでは一例として120秒間の条件で浸漬を行う。この薬液表面処理によって、薬液で金属がエッチングされる。エッチングの効果として、表面の不均一なエッチングによるラフネスの増加と、表面酸化膜の除去と、が挙げられる。ラフネス増加のメカニズムとしては、材質によって異なるが、表面酸化膜と触媒材C1である金属素材のエッチングレートの差によって局所的にエッチングが進むモデル、合金の場合は金属の種類によってエッチングレートが異なる場合に金属間のガルバニックコロージョン(電気化学的腐食、電池効果による腐食)等が挙げられる。
【0020】
次に、薬液表面処理後に薬液から取り出した触媒材C1を窒素ブローにより乾燥させる乾燥処理を行う(工程5)。
【0021】
この段階の薬液表面処理後の触媒材C1の表面の状態を図4及び図5に示す。図4は、薬液表面処理後の触媒材C1の表面状態を示すSEM像であり、薬液表面処理後の触媒材C1の表面状態を示すAFM像である。
【0022】
図4,5に示すように、薬液表面処理後の表面は、薬液表面処理によって触媒材C1が腐食し、触媒材C1の表面がわずかに削られ、ラフネスの増加と表面酸化膜除去等により、触媒材C1の表面が僅かに粗くなり、表面に多数の細かい凹凸が見られるようになる。なおこのときの算術平均粗さRa=44nmとなった。
【0023】
薬液表面処理後の表面状態では、薬液表面処理前の表面状態に比べ、多数の細かい凹凸が形成されている。これらの凹凸によりナノカーボン生成に適した大きさの触媒微粒子の生成が促進される。すなわち、薬液処理後の表面状態は、ナノカーボンが成長する核となる触媒核が形成されやすい状態となっている。また、薬液表面処理によって、触媒材C1の表面の汚染カーボンや自然酸化膜等、触媒活性を阻害する要因を除去できるので、ナノカーボン生成量を安定して大量に得る上で大きな効果が得られる。
【0024】
次に、成長処理(生成処理)工程として、触媒材C1である鉄板をCVD装置に設置し、CVD処理を行う(工程6)。以上により触媒材の表面上に、多数のナノカーボンが生成される。
【0025】
図6のグラフに、薬液表面処理を行わなかった比較例1(処理時間0秒)、及び薬液表面処理を120秒間行った場合、のナノカーボン生成量をそれぞれ比較して示す。なお、ここでは触媒材の表面上に形成されるナノカーボン層の膜厚[μm]をナノカーボン生成量として観察した。
【0026】
図6に示すように、薬液表面処理を行わなかった比較例1は、ナノカーボンが生成されていないのに対し、薬液表面処理を施した場合には、8μm程度の膜厚でナノカーボンが生成されている。したがって、薬液表面処理を行った場合には薬液表面処理を行わない場合に比べてナノカーボンの生成量が多いことがわかる。
【0027】
本実施形態に係るナノカーボン製造方法によって生成されたナノカーボンは様々な用途に用いることができる。例えばその物理的な大きさを利用した例として、カーボンナノチューブを先端に有するカンチレバーに用いられる。また、ナノカーボンを集めると、限られた空間内で大きな表面積が得られるため、例えば金属ナノ粒子触媒の担持体として利用してもよい。さらに導電性を有するナノカーボンについては、その物理的な大きさと電荷を移動できるという2つの特徴から、例えば電子デバイスやMEMS用の電気回路素子として、1個または少量のカーボンナノチューブをチャネルや配線として利用してもよいし、カーボンナノコイルをコイルとして利用してもよい。また、大量のカーボンブラックやカーボンナノチューブを高分子材料に添加することで、高分子材料が有する加工の容易さを維持したまま、導電性を有する材料の製造に用いてもよい。なおここでの導電性は、半導体性、制電性を含む。また、携帯電話内部の部品やパソコン等のように、外部の電磁波から保護することが望ましい電子機器や、ディスプレイやオーディオ機器等のように、外部への電磁波漏洩を防止することが望ましい電子機器用途として、カーボンナノチューブやカーボンナノコイルを高分子材料に添加した電磁波シールド材や電磁波吸収体を用いても良い。
【0028】
本発明に係るナノカーボン生成用触媒の処理方法及びナノカーボンの製造方法によれば、以下のような効果を奏する。すなわち、ナノカーボン生成量を安定して大量に得るための触媒材の表面処理を、安価な設備を用いて短時間で実施できる。例えば500−1000℃で触媒を加熱する方法や、水素プラズマで処理する方法においては、専用の高価な装置を用いる必要があり、低コスト化が困難であったが、本実施形態によれば薬液に短時間浸漬させるだけの簡易な処理を行うだけで容易にナノカーボン生成量を大幅に増加させることが出来る。このため、低コスト、短時間、かつ、簡易に、ナノカーボン生成量を安定的に増やすことが出来る。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、上記第1実施形態では、触媒材C1として鉄を示したが、他の金属あるいは非金属との混合物でもよい。例えば一般的に触媒材として用いられる材料は鉄の他ニッケル、コバルトを含む材料が挙げられる。
【0030】
例えば他の実施形態として触媒材C2としてインバーの板状部材を用いた場合を図7乃至図11に示す。なお、ナノカーボン製造方法の処理工程は上記と同様とした。また薬液表面処理工程の処理条件も上記第1実施形態と同様とし、塩酸:硝酸=5:1の混合液を用いた。図7の薬液表面処理前のSEM像及び図8のAFM像に示すように、薬液表面処理前の触媒材C2の表面の状態は、滑らかであり凹凸が少ない。このときの算術平均粗さRa=10nmある。一方薬液表面処理後のSEM像を示す図9及びAFM像を示す図10に示すように、薬液表面処理後の触媒材C2の表面の状態は細かい凹凸が多数形成されており、算術平均粗さはRa=21nmとなった。
【0031】
この実施形態においても上記第1実施形態における鉄の場合と同程度の効果が得られた。すなわち、図11に示すように薬液表面処理をしない場合の比較例2に比べて、薬液表面処理を行った場合にナノカーボン生成量が大幅に増加した。
【0032】
さらに、他の実施形態として触媒材C3としてコバールの板状部材を用いた場合を図12乃至図14に示す。なお、ナノカーボン製造方法の処理工程は上記と同様とした。また薬液表面処理工程の処理条件は上記第1実施形態と同様とし、塩酸:硝酸=5:1の混合液を用いた。なお、ここでは薬液に120秒浸漬した場合を示す。図12に示すように、薬液表面処理前の触媒材C3の表面の状態は、凹凸が少なく滑らかな状態である。一方図13に示すように、薬液表面処理後の触媒材C3の表面の状態は細かい凹凸が多数形成されている。
【0033】
この実施形態においても上記第1実施形態における鉄の場合と同程度の効果が得られた。すなわち、図14に示すように薬液表面処理をしない場合の比較例3に比べて、薬液表面処理を行った場合にナノカーボン生成量が大幅に増加した。
【0034】
この他、触媒材としてインコロイ、コンスタンタン、SUS(ステンレス)鋼を用いた場合にも効果が見られた。
【0035】
なお、薬液に関しても、上記実施形態に限られるものではなく、触媒材の材料等の条件に応じて適宜変更可能である。例えば他に、塩酸,硝酸,硫酸,フッ酸,燐酸,過酸化水素,水酸化アンモニウム,及び過硫酸アンモニウムのいずれかを含むものを適用できる。なお、塩酸と硝酸の混合液は特にニッケルに対して効果が高い。
【0036】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0037】
C1,C2,C3…触媒材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を含むナノカーボン生成用触媒材に、ナノカーボン生成の前に、前記触媒材の表面を薬液で処理して腐食させる薬液処理工程を備えることを特徴とするナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項2】
前記触媒材が、鉄、インバー、コバール、ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項3】
前記薬液は、塩酸,硝酸,硫酸,フッ酸,燐酸,過酸化水素,水酸化アンモニウム,及び過硫酸アンモニウムの、少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項4】
前記薬液は、塩酸及び硝酸を5:1の体積割合で含む混合液であることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法の後に、CVD法により前記触媒材の表面にナノカーボンを生成させるナノカーボン生成工程を備えたことを特徴とするナノカーボンの製造方法。
【請求項1】
金属材料を含むナノカーボン生成用触媒材に、ナノカーボン生成の前に、前記触媒材の表面を薬液で処理して腐食させる薬液処理工程を備えることを特徴とするナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項2】
前記触媒材が、鉄、インバー、コバール、ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項3】
前記薬液は、塩酸,硝酸,硫酸,フッ酸,燐酸,過酸化水素,水酸化アンモニウム,及び過硫酸アンモニウムの、少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項4】
前記薬液は、塩酸及び硝酸を5:1の体積割合で含む混合液であることを特徴とする請求項1に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のナノカーボン生成用触媒の処理方法の後に、CVD法により前記触媒材の表面にナノカーボンを生成させるナノカーボン生成工程を備えたことを特徴とするナノカーボンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−189292(P2011−189292A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58180(P2010−58180)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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