ナノシート堆積膜の製造方法
【課題】或る程度の膜厚を有し、緻密で欠陥のない平坦なナノシート堆積膜を1回の処理で得るようにする。
【解決手段】TiO2、K2CO3、Li2CO3、MoO3を所定量秤量して混合し、焼成した後、水洗して不純物を除去し、さらにHClで処理して水素型の層状結晶体を生成する。次いで、この層状結晶体をゾル化溶液に投入して撹拌し、層状結晶体に単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する。一方、基板6に紫外線照射して親水性を付与し(a)、その後、基板とシラン化合物とを接触させて基板6の表面に有機分子膜7を形成し、表面電位を付与する(b)。そして、表面電位が付与された基板6を、超音波を照射しながらナノシート分散溶液に浸漬し、基板6上にチタニアナノシートを堆積させ、ナノシート堆積膜8を作製する(c)。
【解決手段】TiO2、K2CO3、Li2CO3、MoO3を所定量秤量して混合し、焼成した後、水洗して不純物を除去し、さらにHClで処理して水素型の層状結晶体を生成する。次いで、この層状結晶体をゾル化溶液に投入して撹拌し、層状結晶体に単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する。一方、基板6に紫外線照射して親水性を付与し(a)、その後、基板とシラン化合物とを接触させて基板6の表面に有機分子膜7を形成し、表面電位を付与する(b)。そして、表面電位が付与された基板6を、超音波を照射しながらナノシート分散溶液に浸漬し、基板6上にチタニアナノシートを堆積させ、ナノシート堆積膜8を作製する(c)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノシート堆積膜の製造方法に関し、より詳しくはナノシートを基板上に堆積させてナノシート堆積膜を作製するナノシート堆積膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、超薄膜材料であるナノシートは、機能性材料として各方面での使用が期待されており、特にチタニアナノシートは、光触媒薄膜や紫外線遮断用の塗布膜、光電変換用薄膜、その他各種センサへの応用が期待されている。
【0003】
そして、特許文献1には、層状チタン酸化物単結晶を剥離して薄片粒子(ナノシート)を得、これを基板上に隙間なく被覆し、次いで薄片粒子同士の重複部分を除去、低減する処理を施し、薄片粒子同士の重複部分が除去、低減されたチタニア超薄膜を得るようにしたチタニア超薄膜の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1は、カチオン性有機ポリマー溶液中に基板を浸漬して基板の表面に有機ポリマーを吸着させた後、チタニアナノシートが懸濁したナノシートコロイド溶液中に基板を浸漬して該チタニアナノシートを静電気的作用により基板上に吸着させ、これにより基板上にチタニアナノシートを隙間なく被覆している。そして、更にアルカリ水溶液中で超音波処理し、これによりチタニアナノシート同士が基板上で部分的に重複し合うのを除去乃至低減している。
【0005】
図10は、特許文献1記載の製造方法を模式的に示した製造工程図である。
【0006】
すなわち、まず、図10(a)に示すように、基板101上にカチオン性有機ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモンニウムクロライド溶液(以下、「PDDA溶液」という。)102を吸着させた後、チタニアナノシートを懸濁させたナノシートコロイド溶液中に浸漬させると、図10(b)に示すように、チタニアナノシート103が基板101の表面に吸着される。
【0007】
しかしながら、この状態では基板101に吸着されたチタニアナノシート103間に隙間104が生じたり、或いはチタニアナノシート103上に別のチタニアナノシート103が部分的に重なり合って堆積してしまうおそれがある。そこで、超音波を照射することにより、図10(c)に示すように、重複被覆部分を除去乃至低減している。
【0008】
すなわち、ナノシートコロイド溶液は、チタニアナノシート103をpH11の水酸化テトラブチルアンモニウム((C4H9)4NOH;以下、「TBAOH」という。)中に分散させたものであり、チタニアナノシート103は負極性を有している。そして、図11(a)に示すように、負極性を有するチタニアナノシート103が正極性を有するPDDA溶液102と組み合わされて基板101上に堆積されている。したがって、基板101の表面に堆積したチタニアナノシート103はPDDA溶液102との間で働く静電気的吸引力により基板102の表面に強固に吸着するが、チタニアナノシート103の重複被覆部分ではチタニアナノシート103が負極性を有することから静電気的反発力が作用し、付着力は弱くなる。そこで、TBAOH溶液中で超音波を照射してキャビテーションを生じさせ、このキャビテーションによる洗浄効果によって、図11(b)に示すように、チタニアナノシート103の重複被覆部分をTBAOH溶液中に溶解除去し、これにより重複被覆部分や隙間が低減された平坦なナノシート103を得ようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3726140号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1は、超音波を照射することにより、図11(b)に示すように、隙間を低減できるものの、皆無とすることは困難であり、したがって被覆率を100%とすることができないため、電気的特性を評価することができないという問題点があった。
【0011】
すなわち、チタニアナノシート103はPDDA溶液102との間に働く静電気的吸引力によって基板101上に堆積するが、PDDA溶液102の電荷量が飽和すると、チタニアナノシート103はそれ以上は基板101上に堆積しなくなる。しかるに、PDDA溶液102の電荷量は小さいため、1回の処理では多層膜を形成することはできず、単層膜しか得ることができない。したがって、図10(b)の状態で超音波処理を行っても、隙間を完全には埋めることができず、欠陥が残存し、このため被覆率を100%とすることができず、電気的特性を評価するのが困難である。
【0012】
また、チタニアナノシート103を成膜した後、再びPDDA溶液102で処理することにより、チタニアナノシート103の積層膜を形成し、これにより重複被覆が生じるのを回避して被覆率をほぼ100%とすることは可能である。
【0013】
しかしながら、この場合は、図10に示した工程を複数回繰り返して行わなければならず、所望の堆積膜を得るのに多大な労力と時間を要する。しかも、チタニアナノシート103の層間にはPDDA溶液102が介在するため、PDDA溶液102を除去するための工程(例えば、紫外線照射工程等)が必要となり、製造工程の煩雑化を招くおそれがある。また、PDDA溶液102等の有機ポリマーは、化学構造上、上述した工程を追加しても完全に除去するのは困難である。
【0014】
本発明はこのように事情に鑑みなされたものであって、或る程度の膜厚を有し、緻密で欠陥のない平坦なナノシート堆積膜を1回の処理で得ることができるナノシート堆積膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述したようにカチオン性有機ポリマーは電荷量が小さいため、通常、1回の処理ではナノシート単層膜しか形成することができない。
【0016】
そこで、本発明者らは、カチオン性有機ポリマーに比べ、基板表面に大きな電位を付与することができ、反応性に富むシラン化合物を使用して鋭意研究を行なったところ、1回の処理で或る程度の膜厚のナノシートを得ることのできることが分かった。
【0017】
しかしながら、単にシラン化合物を使用して堆積膜を作製しただけでは、堆積膜の層間に空気層が形成され、緻密性に劣ることが分かった。
【0018】
そこで、本発明者は、更に鋭意研究を重ねたところ、シラン化合物で処理した基板に対し、超音波を照射しながらナノシート分散溶液に浸漬することにより、前記空気層が形成されることもなく、被覆率が良好、かつ緻密で平坦なナノシート堆積膜を得ることができるという知見を得た。
【0019】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係るナノシート堆積膜の製造方法は、少なくともチタン化合物を含む複数種の化合物を混合して焼成し、層状結晶体を生成する層状結晶体生成工程と、前記層状結晶体を単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する分散溶液作製工程と、基板とシラン化合物とを接触させて前記基板の表面に有機分子膜を形成し、表面電位を付与する表面電位付与工程と、前記表面電位が付与された基板を、超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、前記基板上にチタニアナノシートを堆積させる堆積工程とを含むことを特徴としている。
【0020】
また、本発明のナノシート堆積膜の製造方法は、前記シラン化合物は、前記ナノシート分散溶液中に分散しているチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の表面電位を付与することを特徴としている。
【0021】
さらに、本発明のナノシート堆積膜の製造方法は、前記シラン化合物は、アミノ基を含有していることを特徴としている。
【0022】
また、本発明のナノシート堆積膜の製造方法は、前記表面電位付与工程を実行する前に、前記基板に親水化処理を施すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によれば、少なくともチタン化合物を含む複数種の化合物を混合して焼成し、層状結晶体を生成する層状結晶体生成工程と、前記層状結晶体を単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する分散溶液作製工程と、基板とシラン化合物とを接触させて前記基板の表面に有機分子膜を形成し、表面電位を付与する表面電位付与工程と、前記表面電位が付与された基板を、超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、前記基板上にチタニアナノシートを堆積させる堆積工程とを含むので、1回の処理で或る程度の膜厚を有し、緻密で欠陥のない平坦なナノシート堆積膜を得ることができる。
【0024】
すなわち、シラン化合物は有機ポリマー等に比べ、大きな電荷量を得ることができ、反応性に富むため、十分に大きな表面電位を基板表面に付与することができる。そして、静電気的作用により表面電位に対応した量のナノシートが基板に吸引された堆積するため、1回の処理でもって緻密で隙間のない所望膜厚のナノシート堆積膜を得ることが可能となる。しかも、照射超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、基板上にチタニアナノシートを堆積させているので、堆積膜の層間に空気層が形成されることもない。
【0025】
また、前記シラン化合物は、前記ナノシート分散溶液中に分散しているチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の表面電位を付与するので、チタニアナノシートは負極性を有することから、表面電位は正極性が付与されることとなり、チタニアナノシートは静電気的吸引力により容易に基板上に付着し堆積される。
【0026】
さらに、前記シラン化合物は、正極性を有するアミノ基を含有しているので、上記作用効果を容易に奏することができる。
【0027】
また、前記表面電位付与工程を実行する前に、前記基板に親水化処理を施すので、基板上での加水分解を容易に生じさせて有機分子膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】アルカリ型の層状結晶体の結晶構造を模式的に示した斜視図である。
【図2】水素型の層状結晶体を模式的に示した斜視図である。
【図3】チタニアナノシートが分散溶液中に分散している状態を模式的に示した図である。
【図4】親水化処理工程〜堆積工程の製造工程図である。
【図5】実施例試料のTEM画像である。
【図6】図5の拡大TEM画像である。
【図7】比較例試料のTEM画像である。
【図8】図5のA部におけるEDXチャートである。
【図9】図5のB部におけるEDXチャートである。
【図10】特許文献1に記載されたチタニア超薄膜の製造方法を示す製造工程図である。
【図11】特許文献1における超音波照射の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係るナノシート堆積膜の製造方法の一実施の形態を詳説する。
【0030】
(1)層状結晶体生成工程
まず、フラックス法を使用してアルカリ型の層状結晶体を生成する。
【0031】
すなわち、出発原料としてチタン化合物粉末の他、アルカリ金属化合物粉末、及びフラックス成分となる化合物粉末を用意する。
【0032】
本実施の形態では、アルカリ金属化合物粉末としてカリウム化合物及びリチウム化合物の各粉末、フラックス成分となる化合物としてモリブデン化合物粉末を使用するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
まず、これらチタン化合物、カリウム化合物、リチウム化合物、及びモリブデン化合物を所定量秤量して混合し、例えば、最高温度1200℃で熱処理を行い、自然冷却した後、水洗する。これによりフラックス成分であるモリブデン酸カリウム(K2MoO4)等の不純物を溶解除去し、組成式:(KxLix/3)Ti2-x/3O4で表されるアルカリ型層状結晶体を生成する。このアルカリ型層状結晶体1は、図1に示すように、TiO6八面体が稜線を共有した層状構造を有している。そして、チタニア(酸化チタン)の化学式はTiO2であり、電気的に中性であるが、TiO6八面体には若干の結晶欠陥があり、層状結晶体の層間に介在するアルカリ金属イオンM、つまりはK+、Li+が電荷的に補償する形態となっている。すなわち、アルカリ型層状結晶体1のチタニアはTi1-δO2−で表され、負極性を有している。
【0034】
次いで、このアルカリ型層状結晶体1をHCl等の酸で処理し、各層間のアルカリ金属イオン、すなわちK+、Li+をH+で置換し、ろ過、水洗して乾燥させる。これにより、図2に示すような水素型層状結晶体2が生成される。尚、この水素型層状結晶体2は、組成式HyTi2-y/4O4・nH2Oで表され、チタニアはアルカリ型層状結晶体1の場合と同様、負極性を有する。
【0035】
(2)分散溶液作製工程
水素型層状結晶体2をゾル化溶液に投入して撹拌する。するとゾル化溶液に投入された水素型層状結晶体2は、図3に示すように、単層に剥離し、チタニアナノシート3となってゾル化溶液4中に分散する。
【0036】
そしてこの後、このゾル化溶液4を純水で十分に希釈し、これによりナノシート分散溶液が作製される。
【0037】
尚、ゾル化溶液としては、水素型層状結晶体3が溶液中に単層剥離するものであれば特に限定されるものではなく、TBAOHの他、水酸化テトラメチルアンモニウム((CH3)4NOH)、水酸化テトラエチルアンモニウム((C2H5)4NOH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム((C3H7)4NOH)、n−エチルアミン(C2H5NH2)、n−プロピルアミン(C3H7NH2) 、1−アミノ−2−エタノール(CH2NH2CH2OH)、1−アミノ−3−プロパノール(CH2NH2CH2CH2OH)等を使用することができる。
【0038】
(3)親水化処理工程
次に、成膜用の基板を洗浄する。すなわち、基板をエタノールやアセトン等の有機溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行ない、その後、加熱して前記有機溶媒を蒸発させる。
【0039】
次に、図4(a)に示すように、例えば波長172nmのキセノンエキシマランプ等の紫外線ランプ5を使用し、基板6に所定時間紫外線を照射し、基板6の表面が親水性となるように処理する。そしてこれにより、基板6上での加水分解を容易に生じさせ、後述する有機分子膜を形成することができる。
【0040】
尚、基板6の材料としては、特に限定されるものではなく、Si基板、MgO基板、アルミナ基板、導電性基板、各種セラミック基板等、任意の基板を使用することができる。
【0041】
(4)表面電位付与工程
基板6をシラン化合物と接触させ、図4(b)に示すように、前記基板6の表面に有機分子膜7を形成し、ナノシート分散溶液中のチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の十分な電荷量を有する表面電位、すなわち正極性の表面電位を基板表面に付与する。
【0042】
具体的には以下の方法で基板6に表面電位を付与する。
【0043】
すなわち、本発明のシラン化合物は、加水分解基OR1と有機官能基Xとを有し、下記一般式(A)で表される。
【0044】
(OR1)3−Si−R2−X ・・・(A)
ここで、R2はエチレン基又はプロピレン基である。
【0045】
そして、少量(例えば、数mL以下)のシラン化合物を入れた容器と親水化処理された基板6とを密封容器に入れて加熱し、前記シラン化合物を蒸発させて基板表面に付着させ、次いで、この基板6を密封容器から取り出して加熱する。するとシラン化合物は基板6上で加水分解反応を起してシラノール基(Si−OH)を生成し、基板表面のOH基と水素結合する。その結果、基板6の表面には緻密な有機分子膜7が形成され、基板6に表面電位が付与される。
【0046】
尚、このような加水分解基OR1としては、加水分解反応によりシラノール基(Si−OH)を形成すればよく、例えば、メトキシ基(−CH3O)やエトキシ基(−C2H5O)を挙げることができる。
【0047】
一方、有機官能基Xは、無機物のチタニアとの化学結合に寄与するものであり、形成されるべきチタニアナノシート3のゼータ電位の極性に対し逆極性を有する官能基で構成される。本実施の形態のようにチタニアナノシート3のゼータ電位が負極性の場合は、正極性の表面電位を付与する有機官能基、例えば、アミノ基(−NH2)で構成される。
【0048】
ここで、正極性の表面電位を付与するシラン化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン((OC2H5)3SiC3H6H2N)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン((OCH3)3SiC3H6H2N)、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン((OCH3)3SiC3H6HNC2H4H2N)等を使用することができる。
【0049】
(6)堆積工程
前記表面電位が付与された基板を前記ナノシート分散溶液に浸漬し、出力100W以下、周波数20Hz以上の超音波を60〜90分間照射し、前記基板6上にチタニアナノシート3を堆積させ、これによりナノシート堆積膜8が形成される。
【0050】
すなわち、シラン化合物は有機ポリマーに比べ、大きな電荷量を有し、反応性に富むため、ナノシート分散溶液4に分散している多量のナノシートが基板6に吸着され、1回の処理で或る程度の膜厚を有し、被覆率が良好で平坦なナノシート堆積膜8を得ることができる。
【0051】
しかも、超音波を照射することにより、層間に空気層を含まない密着性の優れた所望膜厚のナノシート堆積膜を製造することができるので、層間に異物が介在することもなく、膜質も緻密であり、電気的特性を容易に評価することが可能となる。
【0052】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で変更可能であるのはいうまでもない。
【0053】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0054】
〔試料の作製〕
出発原料として、市販の高純度試薬であるTiO2、K2CO3、Li2CO3、及びフラックス成分としてのMoO3の各粉末を用意した。
【0055】
そして、まず、K2CO3粉末及びMoO3粉末を150℃の温度で16時間乾燥させ、これらK2CO3粉末及びMoO3粉末に含まれている水分を除去した。
【0056】
次いで、このTiO2、K2CO3、Li2CO3、及びMoO3の各粉末を所定量秤量して混合し、得られた混合粉末を白金坩堝に入れて焼成炉に投入し、大気雰囲気下、焼成した。具体的には、200℃/hの昇温速度で900℃〜1200℃に昇温した後、1200℃で10時間保持し、その後降温速度4℃/hで900℃まで徐冷し、900℃からは自然冷却し、これにより混合粉末を焼成し、焼結体を得た。
【0057】
そしてその後、水洗し、フラックス成分であるK2MoO4を溶解除去し、層間にアルカリ金属イオンが介在した組成式K0.88Li0.267Ti1.733O4で表されるアルカリ型層状結晶体を作製した。
【0058】
次いで、得られたアルカリ型層状結晶体をHCl水溶液に浸漬し、K+、Li+をH+で置換し、その後、ろ過、水洗し、さらに自然乾燥させて、H1.067Ti1.733O4・1.2H2Oからなる水素型層状結晶体を得た。
【0059】
次に、前記水素型層状結晶体を、ゾル化溶液としてのTBAOH((C4H9)4NOH)水溶液中に投入し撹拌する。すると水素型層状結晶体は単層に剥離し、これにより乳白色のナノシートゾル溶液が得られた。
【0060】
そして、このナノシートゾル液を、濃度が5.0vol%となるように純水で希釈し、成膜用のナノシート分散溶液を作製した。
【0061】
次に、成膜用基板としてSi基板を用意した。
【0062】
そして、まず、このSi基板をエタノール中に入れ、超音波洗浄器で10分間洗浄した。次に、Si基板をアセトン中に入れ、超音波洗浄器で10分問洗浄し、その後150℃の温度で5分間加熱し、表面のアセトンを蒸発させ、さらに。波長172nmのキセノンエキシマランプで5分間照射し、基板表面が親水性となるように処理した。
【0063】
次に、親水化処理した基板と、市販の3−アミノプロピルトリエトキシシラン溶液((OC2H5)3SiC3H6H2N))2mLを入れたビーカを密封容器中に入れ閉蓋した。そして、この密閉容器を加熱炉に入れて、80℃の温度で10時間加熱した。そしてこれにより、3−アミノプロピルトリエトキシシランが蒸発して基板表面に付着した。
【0064】
次に、基板を密封容器から取り出し、120℃の温度で5分間加熟し、基板表面で加水分解反応を起こさせ、綴密な有機分子膜を形成し、表面電位を付与した。この表面電位をケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM:Kelvin Probe Force Microscopy)で測定したところ、+3.42Vであり、十分な電位を有する正極性の表面電位が基板に付与されていることが確認された。
【0065】
次いで、表面が正極性を有する上記基板をナノシート分散溶液に投入し、出力100W、波長100Hzの超音波を照射しながら60分間浸漬し、取り出して、自然乾燥させ、実施例試料を得た。
【0066】
また、比較例として、超音波照射をしなかった試料を作製した。すなわち、実施例試料と同様、ナノシート分散溶液を作製し、またSi基板に親水性を付与した後、シラン化合物としての3−アミノプロピルトリエトキシシラン溶液で処理して基板に表面電位を付与した。そして、表面電位が付与された基板をチタニアナノシート分散溶液に投入し、超音波を照射することなく60分間浸漬し、取り出して自然乾燥させ、これにより比較例試料を得た。
【0067】
〔試料の評価〕
実施例試料及び比較例試料の試料断面をFIB(集束イオンビーム装置)でイオン照射して加工し、TEM(透過型走査顕微鏡)で観察した。
【0068】
図5は実施例試料を倍率300k倍で撮像したTEM像であり、図6は図5の試料を倍率400k倍に拡大して撮像したTEM像である。尚、図6でナノシート上に炭素保護層及びPt保護層を設けたのは、断面カット時にイオンビームを試料に直接照射した場合、試料がビーム照射によるダメージを受け、結晶構造が変わってしまうおそれがあり、それを避けるためである。
【0069】
また、図7は比較例試料を倍率300k倍で撮像したTEM像である。
【0070】
比較例試料では、図7に示すようにナノシートの層間に空気層が形成されている。これに対し実施例試料は、図6の拡大TEM像から明らかなように、層間に空気層が形成されることもなく、5nm程度の膜厚のナノシートがSi基板上に形成されているのが分かった。すなわち、図6と図7の対比から明らかなように、超音波を照射することにより、層間に空気層が形成されることもなく、被覆率が良好で、平坦かつ緻密なナノシート堆積膜が得られることが確認された。
【0071】
また、実施例試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)を使用し、図5のA部及びB部の元素成分分析を行った。
【0072】
図8はA部におけるEDXチャートを示し、図9はB部におけるEDXチャートを示している。横軸がエネルギー(keV)、縦軸はパルス数であり、P1、P2はTiのピーク位置を示している。
【0073】
この図8及び図9から明らかなように、A部ではTiが検出され、B部ではTiが検出されなかった。これによりSi基板上にはチタニアが成膜されていることが推察することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
光触媒薄膜や紫外線遮断用の塗布膜、光電変換用薄膜、その他各種センサ等、ナノ技術の適用分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
2 水素型層状結晶体(層状結晶体)
3 チタニアナノシート
4 ナノシート分散溶液
6 基板
7 有機分子膜
8 ナノシート堆積膜
【技術分野】
【0001】
本発明はナノシート堆積膜の製造方法に関し、より詳しくはナノシートを基板上に堆積させてナノシート堆積膜を作製するナノシート堆積膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、超薄膜材料であるナノシートは、機能性材料として各方面での使用が期待されており、特にチタニアナノシートは、光触媒薄膜や紫外線遮断用の塗布膜、光電変換用薄膜、その他各種センサへの応用が期待されている。
【0003】
そして、特許文献1には、層状チタン酸化物単結晶を剥離して薄片粒子(ナノシート)を得、これを基板上に隙間なく被覆し、次いで薄片粒子同士の重複部分を除去、低減する処理を施し、薄片粒子同士の重複部分が除去、低減されたチタニア超薄膜を得るようにしたチタニア超薄膜の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1は、カチオン性有機ポリマー溶液中に基板を浸漬して基板の表面に有機ポリマーを吸着させた後、チタニアナノシートが懸濁したナノシートコロイド溶液中に基板を浸漬して該チタニアナノシートを静電気的作用により基板上に吸着させ、これにより基板上にチタニアナノシートを隙間なく被覆している。そして、更にアルカリ水溶液中で超音波処理し、これによりチタニアナノシート同士が基板上で部分的に重複し合うのを除去乃至低減している。
【0005】
図10は、特許文献1記載の製造方法を模式的に示した製造工程図である。
【0006】
すなわち、まず、図10(a)に示すように、基板101上にカチオン性有機ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモンニウムクロライド溶液(以下、「PDDA溶液」という。)102を吸着させた後、チタニアナノシートを懸濁させたナノシートコロイド溶液中に浸漬させると、図10(b)に示すように、チタニアナノシート103が基板101の表面に吸着される。
【0007】
しかしながら、この状態では基板101に吸着されたチタニアナノシート103間に隙間104が生じたり、或いはチタニアナノシート103上に別のチタニアナノシート103が部分的に重なり合って堆積してしまうおそれがある。そこで、超音波を照射することにより、図10(c)に示すように、重複被覆部分を除去乃至低減している。
【0008】
すなわち、ナノシートコロイド溶液は、チタニアナノシート103をpH11の水酸化テトラブチルアンモニウム((C4H9)4NOH;以下、「TBAOH」という。)中に分散させたものであり、チタニアナノシート103は負極性を有している。そして、図11(a)に示すように、負極性を有するチタニアナノシート103が正極性を有するPDDA溶液102と組み合わされて基板101上に堆積されている。したがって、基板101の表面に堆積したチタニアナノシート103はPDDA溶液102との間で働く静電気的吸引力により基板102の表面に強固に吸着するが、チタニアナノシート103の重複被覆部分ではチタニアナノシート103が負極性を有することから静電気的反発力が作用し、付着力は弱くなる。そこで、TBAOH溶液中で超音波を照射してキャビテーションを生じさせ、このキャビテーションによる洗浄効果によって、図11(b)に示すように、チタニアナノシート103の重複被覆部分をTBAOH溶液中に溶解除去し、これにより重複被覆部分や隙間が低減された平坦なナノシート103を得ようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3726140号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1は、超音波を照射することにより、図11(b)に示すように、隙間を低減できるものの、皆無とすることは困難であり、したがって被覆率を100%とすることができないため、電気的特性を評価することができないという問題点があった。
【0011】
すなわち、チタニアナノシート103はPDDA溶液102との間に働く静電気的吸引力によって基板101上に堆積するが、PDDA溶液102の電荷量が飽和すると、チタニアナノシート103はそれ以上は基板101上に堆積しなくなる。しかるに、PDDA溶液102の電荷量は小さいため、1回の処理では多層膜を形成することはできず、単層膜しか得ることができない。したがって、図10(b)の状態で超音波処理を行っても、隙間を完全には埋めることができず、欠陥が残存し、このため被覆率を100%とすることができず、電気的特性を評価するのが困難である。
【0012】
また、チタニアナノシート103を成膜した後、再びPDDA溶液102で処理することにより、チタニアナノシート103の積層膜を形成し、これにより重複被覆が生じるのを回避して被覆率をほぼ100%とすることは可能である。
【0013】
しかしながら、この場合は、図10に示した工程を複数回繰り返して行わなければならず、所望の堆積膜を得るのに多大な労力と時間を要する。しかも、チタニアナノシート103の層間にはPDDA溶液102が介在するため、PDDA溶液102を除去するための工程(例えば、紫外線照射工程等)が必要となり、製造工程の煩雑化を招くおそれがある。また、PDDA溶液102等の有機ポリマーは、化学構造上、上述した工程を追加しても完全に除去するのは困難である。
【0014】
本発明はこのように事情に鑑みなされたものであって、或る程度の膜厚を有し、緻密で欠陥のない平坦なナノシート堆積膜を1回の処理で得ることができるナノシート堆積膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述したようにカチオン性有機ポリマーは電荷量が小さいため、通常、1回の処理ではナノシート単層膜しか形成することができない。
【0016】
そこで、本発明者らは、カチオン性有機ポリマーに比べ、基板表面に大きな電位を付与することができ、反応性に富むシラン化合物を使用して鋭意研究を行なったところ、1回の処理で或る程度の膜厚のナノシートを得ることのできることが分かった。
【0017】
しかしながら、単にシラン化合物を使用して堆積膜を作製しただけでは、堆積膜の層間に空気層が形成され、緻密性に劣ることが分かった。
【0018】
そこで、本発明者は、更に鋭意研究を重ねたところ、シラン化合物で処理した基板に対し、超音波を照射しながらナノシート分散溶液に浸漬することにより、前記空気層が形成されることもなく、被覆率が良好、かつ緻密で平坦なナノシート堆積膜を得ることができるという知見を得た。
【0019】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係るナノシート堆積膜の製造方法は、少なくともチタン化合物を含む複数種の化合物を混合して焼成し、層状結晶体を生成する層状結晶体生成工程と、前記層状結晶体を単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する分散溶液作製工程と、基板とシラン化合物とを接触させて前記基板の表面に有機分子膜を形成し、表面電位を付与する表面電位付与工程と、前記表面電位が付与された基板を、超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、前記基板上にチタニアナノシートを堆積させる堆積工程とを含むことを特徴としている。
【0020】
また、本発明のナノシート堆積膜の製造方法は、前記シラン化合物は、前記ナノシート分散溶液中に分散しているチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の表面電位を付与することを特徴としている。
【0021】
さらに、本発明のナノシート堆積膜の製造方法は、前記シラン化合物は、アミノ基を含有していることを特徴としている。
【0022】
また、本発明のナノシート堆積膜の製造方法は、前記表面電位付与工程を実行する前に、前記基板に親水化処理を施すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によれば、少なくともチタン化合物を含む複数種の化合物を混合して焼成し、層状結晶体を生成する層状結晶体生成工程と、前記層状結晶体を単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する分散溶液作製工程と、基板とシラン化合物とを接触させて前記基板の表面に有機分子膜を形成し、表面電位を付与する表面電位付与工程と、前記表面電位が付与された基板を、超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、前記基板上にチタニアナノシートを堆積させる堆積工程とを含むので、1回の処理で或る程度の膜厚を有し、緻密で欠陥のない平坦なナノシート堆積膜を得ることができる。
【0024】
すなわち、シラン化合物は有機ポリマー等に比べ、大きな電荷量を得ることができ、反応性に富むため、十分に大きな表面電位を基板表面に付与することができる。そして、静電気的作用により表面電位に対応した量のナノシートが基板に吸引された堆積するため、1回の処理でもって緻密で隙間のない所望膜厚のナノシート堆積膜を得ることが可能となる。しかも、照射超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、基板上にチタニアナノシートを堆積させているので、堆積膜の層間に空気層が形成されることもない。
【0025】
また、前記シラン化合物は、前記ナノシート分散溶液中に分散しているチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の表面電位を付与するので、チタニアナノシートは負極性を有することから、表面電位は正極性が付与されることとなり、チタニアナノシートは静電気的吸引力により容易に基板上に付着し堆積される。
【0026】
さらに、前記シラン化合物は、正極性を有するアミノ基を含有しているので、上記作用効果を容易に奏することができる。
【0027】
また、前記表面電位付与工程を実行する前に、前記基板に親水化処理を施すので、基板上での加水分解を容易に生じさせて有機分子膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】アルカリ型の層状結晶体の結晶構造を模式的に示した斜視図である。
【図2】水素型の層状結晶体を模式的に示した斜視図である。
【図3】チタニアナノシートが分散溶液中に分散している状態を模式的に示した図である。
【図4】親水化処理工程〜堆積工程の製造工程図である。
【図5】実施例試料のTEM画像である。
【図6】図5の拡大TEM画像である。
【図7】比較例試料のTEM画像である。
【図8】図5のA部におけるEDXチャートである。
【図9】図5のB部におけるEDXチャートである。
【図10】特許文献1に記載されたチタニア超薄膜の製造方法を示す製造工程図である。
【図11】特許文献1における超音波照射の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係るナノシート堆積膜の製造方法の一実施の形態を詳説する。
【0030】
(1)層状結晶体生成工程
まず、フラックス法を使用してアルカリ型の層状結晶体を生成する。
【0031】
すなわち、出発原料としてチタン化合物粉末の他、アルカリ金属化合物粉末、及びフラックス成分となる化合物粉末を用意する。
【0032】
本実施の形態では、アルカリ金属化合物粉末としてカリウム化合物及びリチウム化合物の各粉末、フラックス成分となる化合物としてモリブデン化合物粉末を使用するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
まず、これらチタン化合物、カリウム化合物、リチウム化合物、及びモリブデン化合物を所定量秤量して混合し、例えば、最高温度1200℃で熱処理を行い、自然冷却した後、水洗する。これによりフラックス成分であるモリブデン酸カリウム(K2MoO4)等の不純物を溶解除去し、組成式:(KxLix/3)Ti2-x/3O4で表されるアルカリ型層状結晶体を生成する。このアルカリ型層状結晶体1は、図1に示すように、TiO6八面体が稜線を共有した層状構造を有している。そして、チタニア(酸化チタン)の化学式はTiO2であり、電気的に中性であるが、TiO6八面体には若干の結晶欠陥があり、層状結晶体の層間に介在するアルカリ金属イオンM、つまりはK+、Li+が電荷的に補償する形態となっている。すなわち、アルカリ型層状結晶体1のチタニアはTi1-δO2−で表され、負極性を有している。
【0034】
次いで、このアルカリ型層状結晶体1をHCl等の酸で処理し、各層間のアルカリ金属イオン、すなわちK+、Li+をH+で置換し、ろ過、水洗して乾燥させる。これにより、図2に示すような水素型層状結晶体2が生成される。尚、この水素型層状結晶体2は、組成式HyTi2-y/4O4・nH2Oで表され、チタニアはアルカリ型層状結晶体1の場合と同様、負極性を有する。
【0035】
(2)分散溶液作製工程
水素型層状結晶体2をゾル化溶液に投入して撹拌する。するとゾル化溶液に投入された水素型層状結晶体2は、図3に示すように、単層に剥離し、チタニアナノシート3となってゾル化溶液4中に分散する。
【0036】
そしてこの後、このゾル化溶液4を純水で十分に希釈し、これによりナノシート分散溶液が作製される。
【0037】
尚、ゾル化溶液としては、水素型層状結晶体3が溶液中に単層剥離するものであれば特に限定されるものではなく、TBAOHの他、水酸化テトラメチルアンモニウム((CH3)4NOH)、水酸化テトラエチルアンモニウム((C2H5)4NOH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム((C3H7)4NOH)、n−エチルアミン(C2H5NH2)、n−プロピルアミン(C3H7NH2) 、1−アミノ−2−エタノール(CH2NH2CH2OH)、1−アミノ−3−プロパノール(CH2NH2CH2CH2OH)等を使用することができる。
【0038】
(3)親水化処理工程
次に、成膜用の基板を洗浄する。すなわち、基板をエタノールやアセトン等の有機溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行ない、その後、加熱して前記有機溶媒を蒸発させる。
【0039】
次に、図4(a)に示すように、例えば波長172nmのキセノンエキシマランプ等の紫外線ランプ5を使用し、基板6に所定時間紫外線を照射し、基板6の表面が親水性となるように処理する。そしてこれにより、基板6上での加水分解を容易に生じさせ、後述する有機分子膜を形成することができる。
【0040】
尚、基板6の材料としては、特に限定されるものではなく、Si基板、MgO基板、アルミナ基板、導電性基板、各種セラミック基板等、任意の基板を使用することができる。
【0041】
(4)表面電位付与工程
基板6をシラン化合物と接触させ、図4(b)に示すように、前記基板6の表面に有機分子膜7を形成し、ナノシート分散溶液中のチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の十分な電荷量を有する表面電位、すなわち正極性の表面電位を基板表面に付与する。
【0042】
具体的には以下の方法で基板6に表面電位を付与する。
【0043】
すなわち、本発明のシラン化合物は、加水分解基OR1と有機官能基Xとを有し、下記一般式(A)で表される。
【0044】
(OR1)3−Si−R2−X ・・・(A)
ここで、R2はエチレン基又はプロピレン基である。
【0045】
そして、少量(例えば、数mL以下)のシラン化合物を入れた容器と親水化処理された基板6とを密封容器に入れて加熱し、前記シラン化合物を蒸発させて基板表面に付着させ、次いで、この基板6を密封容器から取り出して加熱する。するとシラン化合物は基板6上で加水分解反応を起してシラノール基(Si−OH)を生成し、基板表面のOH基と水素結合する。その結果、基板6の表面には緻密な有機分子膜7が形成され、基板6に表面電位が付与される。
【0046】
尚、このような加水分解基OR1としては、加水分解反応によりシラノール基(Si−OH)を形成すればよく、例えば、メトキシ基(−CH3O)やエトキシ基(−C2H5O)を挙げることができる。
【0047】
一方、有機官能基Xは、無機物のチタニアとの化学結合に寄与するものであり、形成されるべきチタニアナノシート3のゼータ電位の極性に対し逆極性を有する官能基で構成される。本実施の形態のようにチタニアナノシート3のゼータ電位が負極性の場合は、正極性の表面電位を付与する有機官能基、例えば、アミノ基(−NH2)で構成される。
【0048】
ここで、正極性の表面電位を付与するシラン化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン((OC2H5)3SiC3H6H2N)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン((OCH3)3SiC3H6H2N)、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン((OCH3)3SiC3H6HNC2H4H2N)等を使用することができる。
【0049】
(6)堆積工程
前記表面電位が付与された基板を前記ナノシート分散溶液に浸漬し、出力100W以下、周波数20Hz以上の超音波を60〜90分間照射し、前記基板6上にチタニアナノシート3を堆積させ、これによりナノシート堆積膜8が形成される。
【0050】
すなわち、シラン化合物は有機ポリマーに比べ、大きな電荷量を有し、反応性に富むため、ナノシート分散溶液4に分散している多量のナノシートが基板6に吸着され、1回の処理で或る程度の膜厚を有し、被覆率が良好で平坦なナノシート堆積膜8を得ることができる。
【0051】
しかも、超音波を照射することにより、層間に空気層を含まない密着性の優れた所望膜厚のナノシート堆積膜を製造することができるので、層間に異物が介在することもなく、膜質も緻密であり、電気的特性を容易に評価することが可能となる。
【0052】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で変更可能であるのはいうまでもない。
【0053】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0054】
〔試料の作製〕
出発原料として、市販の高純度試薬であるTiO2、K2CO3、Li2CO3、及びフラックス成分としてのMoO3の各粉末を用意した。
【0055】
そして、まず、K2CO3粉末及びMoO3粉末を150℃の温度で16時間乾燥させ、これらK2CO3粉末及びMoO3粉末に含まれている水分を除去した。
【0056】
次いで、このTiO2、K2CO3、Li2CO3、及びMoO3の各粉末を所定量秤量して混合し、得られた混合粉末を白金坩堝に入れて焼成炉に投入し、大気雰囲気下、焼成した。具体的には、200℃/hの昇温速度で900℃〜1200℃に昇温した後、1200℃で10時間保持し、その後降温速度4℃/hで900℃まで徐冷し、900℃からは自然冷却し、これにより混合粉末を焼成し、焼結体を得た。
【0057】
そしてその後、水洗し、フラックス成分であるK2MoO4を溶解除去し、層間にアルカリ金属イオンが介在した組成式K0.88Li0.267Ti1.733O4で表されるアルカリ型層状結晶体を作製した。
【0058】
次いで、得られたアルカリ型層状結晶体をHCl水溶液に浸漬し、K+、Li+をH+で置換し、その後、ろ過、水洗し、さらに自然乾燥させて、H1.067Ti1.733O4・1.2H2Oからなる水素型層状結晶体を得た。
【0059】
次に、前記水素型層状結晶体を、ゾル化溶液としてのTBAOH((C4H9)4NOH)水溶液中に投入し撹拌する。すると水素型層状結晶体は単層に剥離し、これにより乳白色のナノシートゾル溶液が得られた。
【0060】
そして、このナノシートゾル液を、濃度が5.0vol%となるように純水で希釈し、成膜用のナノシート分散溶液を作製した。
【0061】
次に、成膜用基板としてSi基板を用意した。
【0062】
そして、まず、このSi基板をエタノール中に入れ、超音波洗浄器で10分間洗浄した。次に、Si基板をアセトン中に入れ、超音波洗浄器で10分問洗浄し、その後150℃の温度で5分間加熱し、表面のアセトンを蒸発させ、さらに。波長172nmのキセノンエキシマランプで5分間照射し、基板表面が親水性となるように処理した。
【0063】
次に、親水化処理した基板と、市販の3−アミノプロピルトリエトキシシラン溶液((OC2H5)3SiC3H6H2N))2mLを入れたビーカを密封容器中に入れ閉蓋した。そして、この密閉容器を加熱炉に入れて、80℃の温度で10時間加熱した。そしてこれにより、3−アミノプロピルトリエトキシシランが蒸発して基板表面に付着した。
【0064】
次に、基板を密封容器から取り出し、120℃の温度で5分間加熟し、基板表面で加水分解反応を起こさせ、綴密な有機分子膜を形成し、表面電位を付与した。この表面電位をケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM:Kelvin Probe Force Microscopy)で測定したところ、+3.42Vであり、十分な電位を有する正極性の表面電位が基板に付与されていることが確認された。
【0065】
次いで、表面が正極性を有する上記基板をナノシート分散溶液に投入し、出力100W、波長100Hzの超音波を照射しながら60分間浸漬し、取り出して、自然乾燥させ、実施例試料を得た。
【0066】
また、比較例として、超音波照射をしなかった試料を作製した。すなわち、実施例試料と同様、ナノシート分散溶液を作製し、またSi基板に親水性を付与した後、シラン化合物としての3−アミノプロピルトリエトキシシラン溶液で処理して基板に表面電位を付与した。そして、表面電位が付与された基板をチタニアナノシート分散溶液に投入し、超音波を照射することなく60分間浸漬し、取り出して自然乾燥させ、これにより比較例試料を得た。
【0067】
〔試料の評価〕
実施例試料及び比較例試料の試料断面をFIB(集束イオンビーム装置)でイオン照射して加工し、TEM(透過型走査顕微鏡)で観察した。
【0068】
図5は実施例試料を倍率300k倍で撮像したTEM像であり、図6は図5の試料を倍率400k倍に拡大して撮像したTEM像である。尚、図6でナノシート上に炭素保護層及びPt保護層を設けたのは、断面カット時にイオンビームを試料に直接照射した場合、試料がビーム照射によるダメージを受け、結晶構造が変わってしまうおそれがあり、それを避けるためである。
【0069】
また、図7は比較例試料を倍率300k倍で撮像したTEM像である。
【0070】
比較例試料では、図7に示すようにナノシートの層間に空気層が形成されている。これに対し実施例試料は、図6の拡大TEM像から明らかなように、層間に空気層が形成されることもなく、5nm程度の膜厚のナノシートがSi基板上に形成されているのが分かった。すなわち、図6と図7の対比から明らかなように、超音波を照射することにより、層間に空気層が形成されることもなく、被覆率が良好で、平坦かつ緻密なナノシート堆積膜が得られることが確認された。
【0071】
また、実施例試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)を使用し、図5のA部及びB部の元素成分分析を行った。
【0072】
図8はA部におけるEDXチャートを示し、図9はB部におけるEDXチャートを示している。横軸がエネルギー(keV)、縦軸はパルス数であり、P1、P2はTiのピーク位置を示している。
【0073】
この図8及び図9から明らかなように、A部ではTiが検出され、B部ではTiが検出されなかった。これによりSi基板上にはチタニアが成膜されていることが推察することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
光触媒薄膜や紫外線遮断用の塗布膜、光電変換用薄膜、その他各種センサ等、ナノ技術の適用分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
2 水素型層状結晶体(層状結晶体)
3 チタニアナノシート
4 ナノシート分散溶液
6 基板
7 有機分子膜
8 ナノシート堆積膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともチタン化合物を含む複数種の化合物を混合して焼成し、層状結晶体を生成する層状結晶体生成工程と、
前記層状結晶体を単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する分散溶液作製工程と、
基板とシラン化合物とを接触させて前記基板の表面に有機分子膜を形成し、表面電位を付与する表面電位付与工程と、
前記表面電位が付与された基板を、超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、前記基板上にチタニアナノシートを堆積させる堆積工程とを含むことを特徴とするナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項2】
前記シラン化合物は、前記ナノシート分散溶液中に分散しているチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の表面電位を付与することを特徴とする請求項1記載のナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項3】
前記シラン化合物は、アミノ基を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項4】
前記表面電位付与工程を実行する前に、前記基板に親水化処理を施すことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかにナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項1】
少なくともチタン化合物を含む複数種の化合物を混合して焼成し、層状結晶体を生成する層状結晶体生成工程と、
前記層状結晶体を単層に剥離させ、チタニアナノシートが分散したナノシート分散溶液を作製する分散溶液作製工程と、
基板とシラン化合物とを接触させて前記基板の表面に有機分子膜を形成し、表面電位を付与する表面電位付与工程と、
前記表面電位が付与された基板を、超音波を照射しながら前記ナノシート分散溶液に浸漬し、前記基板上にチタニアナノシートを堆積させる堆積工程とを含むことを特徴とするナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項2】
前記シラン化合物は、前記ナノシート分散溶液中に分散しているチタニアナノシートのゼータ電位とは逆極性の表面電位を付与することを特徴とする請求項1記載のナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項3】
前記シラン化合物は、アミノ基を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のナノシート堆積膜の製造方法。
【請求項4】
前記表面電位付与工程を実行する前に、前記基板に親水化処理を施すことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかにナノシート堆積膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−215470(P2010−215470A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66236(P2009−66236)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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