説明

ナノファイバーシート及びその製造方法並びに繊維強化複合材料

【課題】解繊により十分に微細化されている上に、セルロース繊維の結晶度が大きく、高透明性で、高弾性率、低線熱膨張係数、かつ高耐熱性で平坦性や平滑性の高い繊維強化複合材料を実現することができるナノファイバーシートを安価に得る。
【解決手段】結晶セルロースを主成分とし、ナノファイバーシート中のリグニン含有量が10ppm以上10重量%以下であり、該ナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを含浸後、20J/cmでUV硬化し、真空中、160℃で2時間熱処理させて得られる繊維樹脂複合材料であって、トリシクロデカンジメタクリレート硬化物の含有量が60重量%、ナノファイバーの含有量が40重量%の繊維樹脂複合材料が下記(1)〜(3)の物性を満たすナノファイバーシート。
(1) 100μm厚での波長600nmの光の平行光線透過率が70%以上
(2) ヤング率が5.0GPa以上
(3) 線熱膨張係数が20ppm/K以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノファイバーの不織布(以下「ナノファイバーシート」と称す。)及びその製造方法に係り、詳しくは、好ましくは木粉を原料として得られる、ナノファイバーの結晶化度が高く、高弾性率、低線熱膨張係数で、しかも耐熱性に優れ、光透過率の高い均質で平坦な繊維強化複合材料を実現することができるナノファイバーシート及びその製造方法に関する。
本発明はまた、このナノファイバーシートにマトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料として最も一般的なものに、ガラス繊維に樹脂を含浸させたガラス繊維強化樹脂が知られている。通常、このガラス繊維強化樹脂は不透明なものであるが、ガラス繊維の屈折率とマトリクス樹脂の屈折率とを一致させて、透明なガラス繊維強化樹脂を得る方法が、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0003】
ところで、LEDや有機エレクトロニクスデバイスの実装に用いられる透明フレシキシブル基板には、低熱膨張性、高強度、高弾性、軽量性等が要求される。しかし、ガラス繊維強化樹脂基板では、低熱膨張性、高強度を満たすことはできても、軽量性を満たすことはできない。また、通常のガラス繊維補強では、繊維径がマイクロサイズのため、特定の雰囲気温度、特定の波長域以外では透明にならず、実用上透明性は不十分であった。さらに、雰囲気温度の変化に対して平坦性や表面の平滑性が悪化する問題があった。
【0004】
このような状況において、本出願人は先に、温度や可視波長域にかかわらず、また組み合わせる樹脂材料の屈折率にさほど影響を受けることなく、優れた透明性を示し、かつ表面平滑性にも優れ、低熱膨張性で、高強度、軽量、かつフレキシブルな繊維強化複合基板材料として、平均繊維径が4〜200nmの繊維とマトリクス材料とを含有し、50μm厚換算における波長400〜700nmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料を提案した(特開2005−60680号公報)。
本出願人はまた、この繊維強化複合材料の吸湿性を改善すべく、繊維強化複合材料を構成するセルロース繊維の水酸基を化学修飾した繊維強化複合材料を提案した(特願2006−22922号)。
【0005】
特開2005−60680号公報や特願2006−22922号では、バクテリアにより産生されたセルロース繊維(以下「バクテリアセルロース」と称す。)、又はパルプやコットン等を解繊してミクロフィブリル化したセルロース繊維をシート化したものにマトリクス材料を含浸させている。
【0006】
また、特開2003−155349号公報には、セルロース繊維等の天然繊維を懸濁状態で2枚の回転するディスク間で解繊してなる超微細繊維が提案されている。この特開2003−155349号公報では、機械的解繊処理を10〜20回繰り返して行うことにより繊維の微細化を行っている。
【0007】
特開2005−60680号公報、特願2006−22922号、特開2003−155349号公報に記載されるような微細繊維のシートにマトリクス材料を含浸させて透明性の高い繊維強化複合材料を得るためには、シートを形成する繊維が十分に細繊化(ナノファイバー化)されている必要がある。また、高弾性率で低線熱膨張係数の繊維強化複合材料を実現するためには、繊維を構成する結晶セルロースが解繊により破壊されず、結晶度の高い状態を維持していることが必要とされる。
【特許文献1】特開平9−207234号公報
【特許文献2】特開平7−156279号公報
【特許文献3】特開2005−60680号公報
【特許文献4】特願2006−22922号
【特許文献5】特開2003−155349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2005−60680号公報や特願2006−22922号に記載されるバクテリアセルロースやパルプ、コットンを原料とするナノファイバーでは、次のような不具合があった。
【0009】
バクテリアセルロースは、繊維自体が絡み合いでは無く主として分岐によりネットワークが形成されているため、ネットワークが解繊されずに絡まってしまい、解繊が困難であった。また、このように繊維のネットワークが主として分岐に基づいて形成されているために、均一でうねりや反りのないシートを作ることが難しい。得られる繊維強化複合材料の複屈折が大きいという欠点もある。
また、バクテリアセルロースの場合、培養に時間がかかるため、高コストとなってしまう問題点もあった。
【0010】
また、パルプを原料として得られるナノファイバーでは、パルプは、それ自体乾燥されたものであり、解繊前に乾燥処理がされたものは、ナノファイバー間及びナノファイバー内部のセルロース結晶間の水素結合が発達し、この結果、機械的な解繊によるナノファイバー化が困難である。解繊によるナノファイバー化のために解繊処理の程度を上げて、解繊処理時間、解繊処理強度や解繊処理回数を増やしてゆくと、結晶セルロースが破壊されて結晶化度が低下し、このために、得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数が大きなものとなり、またヤング率が低下するという欠点がある。
【0011】
また、コットンを原料とするナノファイバーでは、コットンは元来リグニンやヘミセルロースを含まないために、次のような理由で機械的な解繊効率が悪く、ナノファイバー化のために解繊処理の程度を上げて、解繊処理時間、解繊処理強度や解繊処理回数を増やしてゆくと、パルプの場合と同様に結晶セルロースが破壊されて結晶化度が低下し、このために、得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数が大きなものとなり、また弾性率が低下するという欠点がある。
即ち、コットンは、元来、リグニンやヘミセルロースを全く含まれていないため、リグニン除去によりリグニンが除去された後の空隙による繊維の多孔化が起こらず、機械的解繊時のトリガーしての空隙が得られない。また、リグニン残留も無いため、繊維間でのリグニンによる可塑剤的な作用も期待できない。このため、機械的解繊の効率が悪い。
【0012】
このようなことから、パルプやコットン由来のナノファイバーでは、透明樹脂と複合して透明コンポジット材料とした場合に高透明性と低線熱膨張係数及び高いヤング率との併立が困難であった。
【0013】
また、特開2003−155349号公報に記載される微細繊維でも、10〜20回も繰り返して解繊を行って微細化を図る結果、やはり結晶セルロースの破壊のために得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数が大きなものとなる。なお、特開2003−155349号公報で、このように繰り返し解繊を行っている理由としては、特開2003−155349号公報では、解繊前にリグニンの除去を行わないため、ナノファイバー間の水素結合が発達しており、上述の如く、リグニンが除去された後の空隙に由来する繊維の多孔化が起こらず、解繊効率が悪いことが考えられる。また、このように、リグニンが除去されていないナノファイバーでは、耐熱性が悪く、高温条件にさらされると、たとえイナート雰囲気や真空雰囲気であっても、残留しているリグニンなどが変色する問題がある。
【0014】
本発明は上記従来の問題点を解決し、解繊により十分に微細化されている上に、セルロース繊維の結晶度が大きく、高透明性で高弾性率、低線熱膨張係数、かつ高耐熱性で平坦性や平滑性の高い繊維強化複合材料を実現することができるナノファイバーシートを安価に得ることを目的とする。
本発明はまた、このようなナノファイバーシートにマトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ナノファイバー前駆体を解繊してナノファイバーを製造するに当たり、解繊に先立ちナノファイバー前駆体の乾燥を行わず、所定の水分含有量のナノファイバー前駆体を解繊処理すること、好ましくは更にナノファイバー前駆体中のリグニンの一部を除去することにより、ナノファイバー前駆体の解繊効率を高めることができ、結晶セルロースを破壊するような過度の解繊処理を行うことなく容易にナノファイバーを得ることができ、この結果、高透明性と、高ヤング率及び低線熱膨張係数の併立を図ることが可能となることを見出した。
【0016】
本発明は、このような知見に基くものであり、以下を要旨とする。
【0017】
[1] ナノファイバーの不織布(以下「ナノファイバーシート」と称す。)において、
結晶セルロースを主成分とし、
該ナノファイバーシート中のリグニン含有量が10ppm以上10重量%以下であり、
該ナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを含浸後、20J/cmでUV硬化し、真空中、160℃で2時間熱処理させて得られる繊維樹脂複合材料であって、トリシクロデカンジメタクリレート硬化物の含有量が60重量%、ナノファイバーの含有量が40重量%の繊維樹脂複合材料が、下記(1)〜(3)の物性を満たすことを特徴とするナノファイバーシート。
(1) 100μm厚での波長600nmの光の平行光線透過率が70%以上
(2) ヤング率が5.0GPa以上
(3) 線熱膨張係数が20ppm/K以下
【0018】
[2] [1]において、前記ナノファイバーが木粉から得られることを特徴とするナノファイバーシート。
【0019】
[3] [1]又は[2]において、前記ナノファイバーの水酸基の一部が化学修飾されていることを特徴とするナノファイバーシート。
【0020】
[4] [3]において、前記化学修飾がアシル化処理であることを特徴とするナノファイバーシート。
【0021】
[5] [3]又は[4]において、前記ナノファイバーの化学修飾による置換度が0.05〜1.2であることを特徴とするナノファイバーシート。
【0022】
[6] [1]〜[5]のいずれかのナノファイバーシートを、ナノファイバー前駆体を機械的に解繊することにより製造する方法であって、前記解繊前の全ての工程で、ナノファイバー前駆体中の水分含有量が3重量%以上であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0023】
[7] [6]において、固型分含有量が0.1〜5重量%のナノファイバー前駆体溶液若しくは分散液を機械的に解繊してナノファイバーを得ることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0024】
[8] [7]において、前記ナノファイバー前駆体を酸化剤に浸漬するリグニン除去工程後、前記解繊工程を行うことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0025】
[9] [8]において、前記酸化剤が亜塩素酸ナトリウム水溶液であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0026】
[10] [6]〜[9]のいずれかにおいて、前記解繊工程がグラインダー処理工程であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0027】
[11] [10]において、前記グラインダー処理において、砥石直径が10cm以上、砥石間間隔が1mm以下の向かい合った板状の砥石を用い、砥石の回転数500rpm以上、砥石間のナノファイバー前駆体の滞留時間1〜30分の条件で処理することを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0028】
[12] [6]〜[11]のいずれかにおいて、前記解繊工程で得られたナノファイバーの水分含有量が3重量%未満となるように乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0029】
[13] [6]〜[12]のいずれかにおいて、前記ナノファイバー前駆体をアルカリに浸漬するヘミセルロース除去工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0030】
[14] [13]において、前記アルカリが水酸化カリウム水溶液であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0031】
[15] [6]〜[14]のいずれかにおいて、前記解繊工程で得られたナノファイバーを抄紙する抄紙工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0032】
[16] [15]において、前記解繊工程で得られたナノファイバーの水酸基の一部を化学修飾する化学修飾工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【0033】
[17] [1]〜[5]のいずれかに記載のナノファイバーシートにマトリクス材料を含浸させてなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【0034】
[18] [17]において、前記マトリクス材料が、ガラス転移温度100℃以上で、100μm厚での平行光線透過率が60%以上の非結晶性合成樹脂であることを特徴とする繊維強化複合材料。
【0035】
[19] [18]において、前記非結晶性合成樹脂のヤング率が0.5〜6GPaであり、かつ前記ナノファイバーシートのヤング率よりも低く、線熱膨張係数が20〜140ppm/Kであり、かつ前記ナノファイバーシートの線熱膨張係数よりも大きいことを特徴とする繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0036】
本発明のナノファイバーシートは、結晶セルロースを主成分とするため、弾性率が高く、線熱膨張係数が低い。また、リグニン含有量が所定の範囲となるようにリグニンが除去されたものであるため、解繊効率が高く、従って、高透明性の繊維強化複合材料を得ることができ、また、耐熱性にも優れる。
【0037】
本発明のナノファイバーシートの製造方法によれば、所定の水分含有量のナノファイバー前駆体を機械的に解繊するため、ナノファイバー前駆体を効率的に解繊することができ、従って、結晶セルロースを破壊するような過度な解繊を行うことなく、十分な透明性を確保し得るナノファイバーを得ることができる。このため、このような本発明のナノファイバーシートにマトリクス材料を含浸させてなる繊維強化複合材料は、その高透明性、高弾性率、低線熱膨張性により、各種用途に有用であり、特にマトリクス材料として非結晶性合成樹脂を用いた繊維樹脂複合材料は、更に、高強度、低比重であり、配線基板等の基板材料や、移動体用窓材料、有機デバイス用ベースシート、特にフレキシブルOLED用シート、面発光照明シート等に有効である。また、フレキシブル光導波路基板、LCD基板にも適用でき、シート上にトランジスタや透明電極、パッシベーション膜、ガスバリア膜、金属膜等、無機材料、金属材料、精密構造を設ける用途、中でもロールツーロールプロセスで製造する用途に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0039】
[各材料の物性値等]
本発明において規定される各材料の物性値、その他の特性等の詳細ないし測定方法は以下の通りである。なお、測定方法については、実施例の項で具体的に記載する。
【0040】
(1) 平行光線透過率
ナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを含浸させてなる繊維樹脂複合材料の平行光線透過率は、後述の実施例の項に記載の方法に従って、ナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを、トリシクロデカンジメタクリレート含有量が60重量%、ナノファイバー含有量が40重量%となるように含浸後、20J/cmでUV硬化し、真空中、160℃で2時間熱処理することにより硬化させて得られた厚さ100μmの成形板に対して、厚さ方向に波長600nmの光を照射した時の平行光線透過率(直線光線透過率)である。なお、平行光線透過率は、空気をレファレンスとして、光源とディテクターを被測定基板(試料基板)を介して、かつ基板に対して垂直となるように配置し、平行光線(直線透過光)を測定することにより求めることができる。
ナノファイバーシート、非結晶性合成樹脂の平行光線透過率についても、試料厚さ100μmで上記と同様にして測定される。
【0041】
(2) ヤング率
JIS K7113,ASTMD638に準拠して、幅5mm、長さ50mm、厚さ100μmに成形した試料に対して、変形速度5mm/minで引張試験を行い、比例限界以下での歪み量に対する応力から求めた。
【0042】
(3) 線熱膨張係数
試料を20℃から150℃に昇温させた際の線熱膨張係数であり、ASTM D696に規定された条件下で測定された値である。
【0043】
(4) ナノファイバーのセルロース結晶化度
ナノファイバーのセルロース結晶化度は、X線回折測定により得られたX線回折図上の結晶散乱ピーク面積の割合として定義した。製造されたナノファイバーシートをサンプルホルダーに装着し、X線回折の回折角度を10゜から32゜まで操作して測定して得られたX線回折図からバックグラウンド散乱を除去した後、X線回折曲線上の10°、18.5°、32°を直線で結んだ面積が非晶部分となり、それ以外が結晶部分となる。
ナノファイバーのセルロース結晶化度は回折図全体の面積に対する結晶部分の割合として、下記の式により算出した。
結晶化度=(結晶部分の面積)/(X線回折図全体の面積) ×100(%)
【0044】
(6) 非結晶性合成樹脂の結晶化度
非結晶性合成樹脂の結晶化度は非晶質部と結晶質部の密度から結晶化度を算出する密度法により求める。
【0045】
(7) 樹脂のガラス転移温度(Tg)
DSC法により測定される。
【0046】
(8) ナノファイバーシートの繊維占有率
下記式で算出する。
【数1】

【0047】
(9) 水分含有量
試料を必要に応じて加熱して絶乾状態とし、その前後の重量の差から水分含有量を求める。
例えば、木粉は常温では絶乾状態とはならないため、加熱する。具体的には、木粉は105℃のオーブンで1晩放置すると完全な乾燥状態となるため、その前後の重量差から水分含有量を求めることができる。
【0048】
(10) リグニンの定量方法
硫酸法により、次のようにして測定した。
秤量びん及びガラスフィルターを秤量しておく(ガラスフィルター及び秤量びんの合計重量:Mg)。精秤した約1gの試料(試料重量:Mr)を100mlビーカーに移し、約20℃の72%硫酸15mlを加え、よく撹拌した後、20℃で4時間放置する。これを、1000ml三角フラスコに、蒸留水560mlを用いて洗い移し、還流冷却管をつけて、4時間沸騰させる。放冷後内容物をガラスフィルターで吸引濾過後、500ml熱水で洗浄する。ガラスフィルターを秤量びんに移し、105℃で恒量になるまで乾燥し秤量する(測定重量:Mn)。
リグニン含有量は下記式で求められる。
リグニン含有量(重量%)=(Mn−Mg)/Mr ×100
【0049】
(11) ヘミセルロースの定量方法
以下の手順で行った。
精秤した試料約1gを200ml容ビーカーに入れ(試料重量:Mh)、20℃の17.5重量%水酸化ナトリウム溶液25mlを加え、試料を均一に湿潤させて4分間放置後、5分間ガラス棒で試料を押しつぶし、十分に解離させてアルカリ液の吸収を均一にする。ビーカーを時計皿で蓋をし、放置する。以上の操作は20℃の恒温水槽中で行う。
水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後、ガラス棒でかき混ぜながら20℃の蒸留水を注加する。引き続き1分間かき混ぜた後、20℃の恒温水槽中に5分間放置し、秤量したガラスフィルターで吸引濾過する。濾液は元に返して再濾過(濾過処理は5分以内に完了すること)し、ガラス棒で圧搾しながら5分以内に蒸留水で洗浄する。なお、洗浄の終点はフェノールフタレイン中性とする。洗浄した残渣に10重量%酢酸40mlを注ぎ、5分間放置後に吸引し、蒸留水1Lで洗浄する。105℃で恒量になるまで乾燥し秤量する(測定値:Mz)。
ヘミセルロース含有量は下記式で求められる。
ヘミセルロース含有量(重量%)=(Mh−Mz)/Mh ×100
【0050】
(12) 化学修飾による水酸基の置換度
ナノファイバーの水酸基の化学修飾の程度を表す置換度は、無水グルコース単位に存在する3個の水酸基に対して導入された置換基数である。例えばアセチル基置換度(DS)は次の計算式で求められる。
DS={(反応後のシート重量)/(反応前のシート重量)×162.14−162.14}/42
但し、各シートの重量は、リグニン、ヘミセルロースを除くセルロースシートの値として計算する。
【0051】
(13) 木粉のサイズ
木粉の長径、長径/短径比は、次のようにして求められる。
長径は試料を顕微鏡観察することにより測定される。
同様に短径を測定し、その結果から、長径/短径比を計算する。
また、短径は所定の大きさのメッシュを通すことにより、測定することもできる。凝集により、木粉サイズの測定が困難な場合は、乾燥することにより対処することができる。
【0052】
(14) 繊維強化複合材料の繊維含有量
繊維強化複合材料の繊維含有量は繊維強化複合材料の製造に用いたマトリクス材料の重量とナノファイバーシートの重量とから求めることができる。
【0053】
[ナノファイバーシート]
本発明のナノファイバーシートは、結晶セルロースを主成分とし、ナノファイバーシート中のリグニン含有量が10ppm以上10重量%以下であり、このナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを、トリシクロデカンジメタクリレート(TCDDMA)の含有量が60重量%、ナノファイバーの含有量が40重量%となるように含浸させて、20J/cmでUV硬化し、真空中、160℃で2時間熱処理させて得られる繊維樹脂複合材料(以下「TCDDMA(60)/NF(40)複合材料」と称す。)が下記(1)〜(3)の物性を満足するものである。
【0054】
(1) 100μm厚での波長600nmの光の平行光線透過率が70%以上
(2) ヤング率が5.0GPa以上
(3) 線熱膨張係数が20ppm/K以下
【0055】
<結晶セルロース含有率>
本発明において、ナノファイバーシートが「結晶セルロースを主成分とする」とは、結晶セルロース含有率、即ち、ナノファイバーシートのセルロース結晶化度が40%以上であることを言い、好ましくは結晶セルロース含有率は50%以上である。ナノファイバーシートの結晶セルロース含有率が小さすぎると、十分な高弾性率、低線熱膨張係数を得ることができない。また、結晶セルロースは、熱伝導率の向上にも有効であり、セルロース結晶化度の高いナノファイバーシートであれば高い熱伝導係数を得ることができる。ナノファイバーのセルロース結晶化度の上限は特に制限しないが、繊維の端部や周辺部は結晶構造が乱れて非晶状態になっており、またリグニンおよびヘミセルロース等の非セルロース物質を含んでいることから、セルロース結晶化度100%はあり得ない。実用的には90%以下、さらには80%以下が好ましい。
【0056】
<リグニン含有量>
ナノファイバーシートのリグニン含有量が多く、後述のリグニン除去工程において、リグニンの除去が十分に行われていないと、リグニンを除去した後の空隙を機械的解繊時のトリガーとして、機械的解繊効率を高める効果を十分に得ることができない。
しかし、リグニン含有量が10重量%より多いナノファイバーシートでは、残留リグニンが180℃以上での高温処理時の変色の原因となり、好ましくない。180℃以上での高温処理は、例えば透明導電膜の製膜工程やフォトリソグラフィープロセスにおける焼付け工程あるいは塗布型の透明材料や発光材料の乾燥・硬化処理、低分子量成分や残留溶媒除去処理で通常必要とされる加熱処理温度であり、従って、180℃以上の耐熱性は有機デバイス用基板材料、透明材料として用いる場合には重要な特性である。従って、本発明において、ナノファイバーシートのリグニン含有量は10重量%以下とする。
【0057】
一方で、リグニンは、後述の機械的解繊工程において、可塑剤的な作用を奏するため、ある程度のリグニンを含むことが機械的解繊効果の向上のために必要である。リグニン含有量が10ppmより少ないと、機械的解繊によるナノファイバー化が不十分になり易いため、本発明においてナノファイバーシートのリグニン含有量は10ppm以上であることを必須とする。
ナノファイバーシートのリグニン含有量の下限は好ましくは20ppm以上、より好ましくは50ppm以上、最も好ましくは100ppm以上であり、上限は好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0058】
<ヘミセルロース含有量>
本発明のナノファイバーシートにおいて、ヘミセルロース含有量には特に制限はないが、ヘミセルロース含有量が多いものは透明コンポジットとした際に、熱膨張係数の低減が不足したり、弾性率が低下したり、熱伝導係数が低下したりする問題がある。逆に、少ないものはリグニンの混合ほどではないが、同様のメカニズムにより、解繊が不十分となり易いことから、ヘミセルロース含有量は10重量%以下、特に7重量%以下で100ppm以上、特に200ppm以上であることが好ましい。
【0059】
<化学修飾>
本発明のナノファイバーシートのナノファイバーは、その水酸基の一部が化学修飾されていても良く、水酸基を化学修飾することにより、耐熱性を高め、熱分解温度の向上、変色防止、線熱膨張係数の低下、吸湿性の低減を図ることができる。
この化学修飾により水酸基に導入される置換基には特に制限はないが、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基等の1種又は2種以上が挙げられる。好ましくは、アシル化である。
【0060】
化学修飾の程度としては、過度に化学修飾による水酸基の置換割合が少な過ぎると化学修飾による耐熱性、吸湿性等の改善効果を十分に得ることができず、逆に多過ぎると、化学修飾のための処理工程でナノファイバーの結晶セルロースが破壊される恐れがあることから、前述の置換度として1.2以下、より好ましくは0.8以下特に0.6以下で0.05以上、より好ましくは0.2以上、特に0.4以上であることが好ましい。
【0061】
<ナノファイバーシートのその他の物性>
本発明のナノファイバーシートのその他の好適な物性としては、
線熱膨張係数:20ppm/K以下、好ましくは15ppm/K以下、より好ましくは
10ppm/K以下、最も好ましくは5ppm/K以下
ヤング率:4GPa以上、好ましくは5GPa以上、より好ましくは7GPa以上、
最も好ましくは12GPa以上
繊維占有率:5〜70%、好ましくは20〜50%
平行光線透過率:厚さ100μmとして12%以上、好ましくは15%以上、より好ま
しくは18%以上、最も好ましくは20%以上
であることが挙げられる。なお、ナノファイバーシートに面内異方性がある場合は、2方向の平均値が上記物性を満たすことが好ましい。
【0062】
ナノファイバーシートの線熱膨張係数が大きいと、ナノファイバーシートを複合化することによる熱膨張低減効果を十分に得ることができない。ナノファイバーシートの線熱膨張係数の下限については特に制限はないが、通常1ppm/K以上である。線熱膨張係数がこれより小さいと不要な歪みがナノファイバーシートにかかっている恐れがある。
【0063】
ナノファイバーシートのヤング率が小さいと、透明コンポジットとした際に、熱膨張係数不足、弾性率不足、熱伝導率不足となる。ナノファイバーシートのヤング率の上限については特に制限はないが、通常15GPa以下である。
【0064】
ナノファイバーシートの繊維占有率が大き過ぎると十分量のマトリクス材料を含浸し得ず、逆に小さ過ぎると複合材料のナノファイバー量が不足し、いずれの場合も特性の改善された繊維強化複合材料を得ることができない。前者の場合はセルロースの吸湿性により、繊維強化樹脂材料としての吸湿性が上がってしまう懸念がある。
【0065】
ナノファイバーシートの平行光線透過率が小さいと、高透明性の複合材料を得ることができない。ナノファイバーシートの平行光線透過率の上限については特に制限はないが、通常70%以下である。本発明における平行光線透過率の測定方法では、絶対透過率を測定しているので、フレネル反射は必ず含まれる。従って、平行光線透過率の測定値が90%を超える場合は、測定が不適切である可能性がある。
【0066】
<TCDDMA(60)/NF(40)複合材料の物性>
本発明に係るTCDDMA(60)/NF(40)複合材料は、下記の物性を満足する。
(1) 100μm厚での波長600nmの光の平行光線透過率が70%以上、好ましくは80%以上
(2) ヤング率が5.0GPa以上、好ましくは7GPa以上
(3) 線熱膨張係数が20ppm/K以下、好ましくは15ppm/K以下
【0067】
TCDDMA(60)/NF(40)複合材料の100μm厚での平行光線透過率が小さいと高透明性の繊維強化複合材料を提供し得ず、透明性が要求される用途への適用が困難となる。この平行光線透過率の上限については特に制限はないが、通常90%以下である。本発明における平行光線透過率の測定方法では、絶対透過率を測定しているので、フレネル反射は必ず含まれる。従って、平行光線透過率の測定値が90%を超える場合は、測定が不適切である可能性がある。
【0068】
TCDDMA(60)/NF(40)複合材料のヤング率が小さいと高弾性率の繊維強化複合材料を提供し得ない。TCDDMA(60)/NF(40)複合材料のヤング率の上限については特に制限はないが、通常20GPa以下である。
【0069】
TCDDMA(60)/NF(40)複合材料の線熱膨張係数が大きいと低熱膨張性の繊維強化複合材料を提供し得ない。TCDDMA(60)/NF(40)複合材料の線熱膨張係数の下限については特に制限はないが、通常3ppm/K以上である。
【0070】
<ナノファイバー原料>
本発明のナノファイバーシートのナノファイバーは、木粉から得られることが好ましい。
【0071】
即ち、前述の如く、バクテリアセルロースでは高価であること、また均一でうねりや反りのないシートを得ることが難しく、また複屈折が大きいなどの問題がある。
【0072】
また、コットンでは、リグニンやヘミセルロースを含まないために機械的解繊効果が悪く、例えばグラインダー処理で解繊する場合、コットンは木粉の10倍以上の解繊処理時間を要するために、結晶セルロースが破壊されて結晶化度が低下するという問題がある。
【0073】
また、パルプでも乾燥が行われるために、やはり機械的解繊効率が悪い。なお、通常パルプの水分含有量は常温で10重量%程度である。
【0074】
これに対して、木粉であれば、後述の如く、適当なリグニン除去処理、及びヘミセルロース除去処理を行った後、乾燥させることなく機械的解繊を行うことにより、結晶セルロースを破壊するような過度な解繊処理を必要とすることなく、結晶化度を高く維持してナノファイバー化を達成することができる。しかも、バクテリアセルロースのような繊維の分岐もないため、均一でうねりや反りのないシートを得ることができ、複屈折を低減することが可能である。
【0075】
原料となる木粉としては、木材の粉、竹材の粉などが好適に使われるが、中でも特に長径が2mm以下で、30μm以上のものが好適である。木粉の長径が大きすぎると、その後の機械的解繊工程で解繊が不十分になる可能性がある。木粉の長径が小さすぎると、粉砕時にセルロース結晶が破壊されて結晶化度が不十分になり、目的とする効果が得られない可能性がある。
【0076】
木粉の長径の上限は、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下、最も好ましくは500μm以下である。また、木粉の長径の下限は、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上、最も好ましくは100μm以上である。
また、木粉の長径と短径の比は、大き過ぎるグラインダーにかかりにくくなるので好ましくない。長径/短径で好ましくは40以下、より好ましくは20以下、最も好ましくは10以下である。この比は通常1以上である。
【0077】
また、ナノファイバーの原料木粉は水分含有量が3重量%以上であることが好ましい。木粉の水分含有量が3重量%未満では、セルロース繊維同士が近接してセルロース繊維間の水素結合が発達し、機械的解繊効果が悪く解繊が不十分となる。木粉の水分含有量が70重量%を超えると木粉が軟化して取扱いや、搬送が難しくなる。
【0078】
木粉としては竹粉、針葉樹の木粉、広葉樹の木粉等、好適に使うことができるが、リグニン除去においては、広葉樹の木粉が簡易にリグニン除去を行える利点がある。
上記好適な物性を満たす木粉は、広葉樹、針葉樹、竹、ケナフ、ヤシなどから調達可能だが、この中では、広葉樹、針葉樹の幹や枝から調達することが好ましい。
【0079】
[ナノファイバーシートの製造方法]
本発明のナノファイバーシートの製造方法は、前述のような本発明のナノファイバーシートを製造する方法であって、ナノファイバー前駆体、好ましくは木粉を機械的に解繊してナノファイバーを得る解繊工程を含むものであるが、具体的には次のような手順で実施される。このような手順において、(f)の機械的解繊工程より前の全ての工程において、ナノファイバー前駆体の水分含有量が3重量%以上である、つまり、決して3重量%未満にならないことを特徴とする。ナノファイバー前駆体の水分含有量は好ましくは4重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上である。ナノファイバー前駆体中の水分含有量が少なすぎる工程を経ると、セルロース繊維同士が近接して、セルロース繊維間の水素結合が発達し、機械的解繊効果が悪く、解繊が不十分となる。
(a)脱脂工程
(b)リグニン除去工程
(c)洗浄工程
(d)ヘミセルロース除去工程
(e)水洗工程
(f)機械的解繊工程
(g)抄紙工程
更に、上記抄紙工程後にナノファイバーの水酸基の化学修飾のための
(h)化学修飾工程
を有していてもよい。
【0080】
なお、原料としては、前述の如く、木粉が好適に用いられる。
以下に、本発明のナノファイバーシートの製造方法を、その手順に従って説明する。
なお、以下においては、木粉を原料、即ちナノファイバー前駆体としてナノファイバーシートを製造する場合を例示して説明するが、本発明のナノファイバーシートの製造方法は、解繊により、前述の物性を満たす本発明のナノファイバーシートを製造することができるのであれば、原料としては木粉以外のものも用いることができる。
【0081】
<脱脂工程>
脱脂工程は、有機溶媒を用いて抽出を行う工程であることが好ましく、この有機溶媒としては、特にエタノール・ベンゼン混液が好適に用いられる。即ち、エタノール・ベンゼン混液は、溶出力が大きいという利点が有り、好ましい。
【0082】
エタノール・ベンゼン混液を用いる脱脂処理は、まず、木粉を円筒濾紙に入れ、ソックスレー抽出器フラスコにエタノール・ベンゼン混液(エタノール:ベンゼン=1容:2容)を入れる。抽出器を組み立てて湯浴中で6時間抽出する。この操作では、溶媒が弱く沸騰して約10分間に1回の割合でサイホン管を通じて還流する程度に加熱する。抽出処理後、溶媒を湯浴上で蒸留回収し、試料を風乾させる。
この工程では木粉等に数%以下含まれる油溶性の不純物を除去することが目的である。油溶性の不純物の除去が不十分であると、高温処理時の変色、経時変化、熱膨張低減不足、弾性率低下などの問題が発生する場合がある。
【0083】
<リグニン除去工程>
リグニン除去工程は、木粉を酸化剤に浸漬する工程であることが好ましく、この酸化剤としては、特に亜塩素酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
【0084】
このようなリグニン除去処理は、亜塩素酸ナトリウムと酢酸を用いるWise法が、操作が簡単で大量の木粉に対しても適応できるという利点が有り、好ましい。
Wise法によるリグニンの除去は、まず、脱脂した木粉1gを蒸留水60ml、亜塩素酸ナトリウム0.4g、氷酢酸0.08mlの溶液中に入れ、70〜80℃の湯浴中で時折撹拌しながら1時間、加温する。1時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム0.4g、氷酢酸0.08mlを加えて反復処理をする。この操作を針葉樹の場合は計4回以上、広葉樹の場合は計3回以上行う。
【0085】
なお、上記の各試薬濃度や添加量、処理濃度、処理時間は一例であって、何らこれに限定されない。
【0086】
その他のリグニン除去方法としては例えば、パルプ製造工程で採用される塩素処理とアルカリ抽出による多段処理や、二酸化塩素漂白、アルカリ存在下での酸素による漂白などがある。しかし、塩素処理はセルロースの重合度低下を引き起こすので避けることが望ましい。
【0087】
このリグニン除去処理は、前述のリグニン含有量のナノファイバーシートが得られるように、その処理条件を適宜調整する。
【0088】
<洗浄工程>
上記リグニン除去処理後は、木粉を冷水(約500ml)及びアセトン(約50ml、アセトンの代りにエタノール、メタノールでも良い)で順次洗浄する。この洗浄で水分や残留薬剤、残渣等を除去する。
【0089】
<ヘミセルロース除去工程>
ヘミセルロース除去工程は、木粉をアルカリに浸漬する工程であることが好ましく、このアルカリとしては、水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
ヘミセルロースの除去に用いるアルカリは強過ぎるとセルロースの結晶を溶解ないし変質させてしまい、弱すぎるとヘミセルロースの除去効果が得られないため、水酸化カリウム水溶液であれば3〜10重量%、特に5〜8重量%程度の濃度のものを用いるのが好ましい。
なお、低濃度であれば水酸化ナトリウム水溶液も使用可能であるが、水酸化ナトリウムの方が水酸化カリウムよりもセルロース結晶を変質させ易いので、好ましくは水酸化カリウム水溶液を用いる。
浸漬時間は、アルカリの濃度にもよるが、例えば5重量%の水酸化カリウム水溶液であれば、室温で1晩浸漬することによりヘミセルロースの除去が可能である。
【0090】
このヘミセルロース除去処理は、前述のヘミセルロース含有量のナノファイバーシートが得られるように、その処理条件を適宜調整する。
【0091】
<水洗工程>
ヘミセルロース除去工程後の水洗工程は、例えば、アルカリに浸漬した木粉を吸引濾過で回収し、吸引しながら水洗を行うことにより実施される。このときの水洗に使用される水の量は木粉が中和される量であれば良く、例えば10gの木粉に対して、2L以上の水が用いられる。
【0092】
<機械的解繊工程>
機械的解繊工程では固型分含有量が0.1〜5重量%のナノファイバー前駆体溶液、若しくは分散液を用いることが好ましい。この固型分含有量はさらに好ましくは、0.1〜3重量%である。固型分含有量が多すぎると解繊前又は最中に流動性が悪化して、解繊不十分となる。少なすぎると、解繊効率が悪く、工業的に不適切である。
機械的解繊は、グラインダーもしくはグラインダーと他の装置との組合せにより行うことが好ましい。
グラインダーは、上下2枚のグラインダー(砥石)の間隙を原料が通過するときに発生する衝撃、遠心力、剪断力により、原料を超微粒子に粉砕する石臼式粉砕機であり、剪断、磨砕、微粒化、分散、乳化、フィブリル化を同時に行うことができるものである。グラインダー以外の手段としては、他にホモジナイザー、リファイナーなどが挙げられるが、リファイナーやホモジナイザーだけでナノレベルまで均一に解繊することは難しく、通常はグラインダー処理のみか、或いはグラインダー処理を最初に実施しその後にリファイナー、ホモジナイザー処理を実施することが好ましい。
【0093】
グラインダーによる機械的解繊においては、向かい合った板状の砥石を用い、
砥石間間隙:1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1mm以
下、最も好ましくは0.05mm以下、0.001mm以上、好ましく
は0.005mm以上、より好ましくは0.01mm以上、最も好まし
くは0.03以上
砥石の直径:10cm以上、100cm以下、好ましくは50cm以下
砥石の回転数:500rpm以上、好ましくは1000rpm以上、最も好ましくは
1500rpm以上、5000rpm以下、好ましくは3000rpm
以下、最も好ましくは2000rpm以下
砥石間の木粉の滞留時間:1〜30分、より好ましくは5〜20分、最も好ましくは
10〜15分
処理温度:30〜90℃、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃
の条件で実施される。
【0094】
砥石間間隙が上記値未満、直径が上記値超過、回転数が上記値超過、滞留時間が上記値超過の場合は、セルロースの結晶性が低下し、得られるナノファイバーシートの高弾性率、低熱膨張等の特性が低下するので好ましくない。
砥石間間隙が上記値超過、直径が上記値未満、回転数が上記値未満、滞留時間が上記値未満の場合は、十分なナノファイバー化を行えない。
また、解繊処理温度が上記値超過では、木粉が沸騰して解繊効率が低下したり、結晶セルロースが劣化する恐れがあり、上記値未満では解繊効率が悪い。
【0095】
<抄紙工程>
上記機械的解繊後、得られた含水ナノファイバーを抄紙して水分除去を行うことによりナノファイバーシートを得ることができる。
【0096】
この水分除去法としては、特に限定されないが、放置やコールドプレス等でまず水をある程度抜き、次いで、そのまま放置するか、又はホットプレス等で残存の水を完全に除去する方法、コールドプレス法の後、乾燥機にかけたり、自然乾燥させたりして水をほぼ完全に除去する方法等が挙げられる。
【0097】
上記の水をある程度抜く方法としての放置は、時間をかけて水を徐々に揮散させる方法である。
【0098】
上記コールドプレスとは、熱をかけずに圧を加えて、水を抜き出す方法であり、ある程度の水を絞り出すことができる。このコールドプレスにおける圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPaより小さいと、水の残存量が多くなる傾向があり、10MPaより大きいと、ナノファイバーシートが破壊される場合がある。また、温度は特に限定されないが、操作の便宜上、常温が好ましい。
【0099】
上記の残存の水をほぼ完全に除去する方法としての放置は、時間をかけてナノファイバーを乾燥させる方法である。
【0100】
上記ホットプレスとは、熱を加えながら圧をかけることにより、水を抜き出す方法であり、残存の水をほぼ完全に除去することができる。このホットプレスにおける圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.2〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPaより小さいと、水を除去できなくなる場合があり、10MPaより大きいと、得られるナノファイバーが破壊される場合がある。また、温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃より低いと、水の除去に時間を要し、一方、300℃より高いと、セルロース繊維の分解等が生じるおそれがある。
【0101】
また、上記乾燥機による乾燥温度についても、100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。乾燥温度が100℃より低いと、水の除去ができなくなる場合があり、一方、300℃より高いと、セルロース繊維の分解等が生じるおそれがある。
透明樹脂コンポジットシートの熱膨張係数をより低減させる目的では、ホットプレスがより好ましい。これは、繊維絡み合い部の水素結合をより強化することができる為である。
【0102】
<化学修飾工程>
抄紙により得られたナノファイバーシートのナノファイバーの水酸基を化学修飾する工程は、ナノファイバーのセルロース繊維の水酸基を、酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上で化学修飾することにより、疎水性官能基をエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合のいずれか1種以上により導入する工程であることが好ましい。
なお、以下において、ナノファイバーの水酸基の一部が化学修飾されたナノファイバーシートを「誘導体化ナノファイバーシート」と称す。
【0103】
本発明において、化学修飾によりナノファイバーの水酸基に導入する官能基としては、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられ、セルロース繊維の水酸基には、これらの官能基の1種が導入されていても良く、2種以上が導入されていても良い。
【0104】
これらのうち、特にエステル系官能基が好ましく、とりわけ、アセチル基等のアシル基、及び/又はメタクリロイル基が好ましい。
【0105】
特に、後述のマトリクス材料としての非結晶性合成樹脂が有する官能基と同一ないしは同種の官能基を導入することにより、ナノファイバーの官能基とマトリクス材料の樹脂の官能基とで共有結合し、良好な吸湿性低減効果と透明性向上効果が得られ好ましい。
【0106】
また、メタクリロイル基、ピバロイル基、長鎖アルキル基、長鎖アルカノイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のように比較的嵩高い官能基を導入する場合、このような嵩高い官能基のみでナノファイバーの水酸基を高い置換度で化学修飾することは困難である。従って、このような嵩高い官能基を導入する場合には、嵩高い官能基を一旦導入した後、再度化学修飾を行って、残余の水酸基にアセチル基、プロパノイル基、メチル基、エチル基等の嵩の小さい官能基を導入して置換度を高めることが好ましい。
【0107】
なお、上記官能基を導入するための酸、アルコール、ハロゲン化試薬、酸無水物、及びイソシアナートよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる化学修飾剤としては、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0108】
【表1】

【0109】
ナノファイバーの化学修飾は常法に従って行うことができ、例えば、前述のナノファイバーシートを化学修飾剤を含む溶液に浸漬して適当な条件で所定の時間保持する方法などを採用することができる。
【0110】
この場合、化学修飾剤を含む反応溶液としては、化学修飾剤と触媒のみであっても良く、化学修飾剤の溶液であっても良い。化学修飾剤及び触媒を溶解する溶媒としては、水、一級アルコール及び二級アルコール以外では特に制限は無い。触媒としてはピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、水素ナトリウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができる。反応速度の速さや、重合度低下の防止のためピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。化学修飾によるナノファイバーシートの着色の問題が無く、反応温度を高めて置換度を高めることができる点においては、酢酸ナトリウムが好ましい。また、化学修飾によるナノファイバーシートの着色の問題が無く、室温下、短時間かつ少量の化学修飾剤添加量の反応条件において置換度を高めることができる点においては、過塩素酸あるいは硫酸が好ましい。反応溶液を化学修飾剤溶液とする場合、反応溶液中の化学修飾剤濃度は1〜75重量%であることが好ましく、塩基性触媒存在下においては25〜75重量%であることが更に好ましく、また、酸性触媒存在下においては1〜20重量%であることが更に好ましい。
【0111】
化学修飾処理に於ける温度条件としては過度に高いとセルロース繊維の黄変や重合度の低下等が懸念され、過度に低いと反応速度が低下することから塩基性条件下においては40〜100℃程度、酸性条件下においては10〜40℃が適当である。この化学修飾処理においては、1kPa程度の減圧条件下、1時間程度静置し、ナノファイバーシート内部の細部に反応溶液を内部までよく注入することでナノファイバーと化学修飾剤との接触効率を高めるようにしても良い。また、反応時間は用いる反応液及びその処理条件による反応速度に応じて適宜決定されるが、通常、塩基性条件下では24〜336時間程度、酸性条件下では0.5〜12時間程度である。
【0112】
前述の機械的解繊及び抄紙により得られるナノファイバーシートは、その繊維の交差・密着構造のために、前述の化学修飾剤を含む反応液の浸透性が悪く、化学修飾の際の反応速度が遅い場合がある。
【0113】
そこで、本発明では、前述の抄紙工程において、水分除去処理を行う前の水分を含むナノファイバーシートを、必要に応じてコールドプレスのみを行って、水分の一部のみを除去し、若干の水分を含む状態とし(第1の工程)、この含水ナノファイバーシート中の水を、適当な有機溶媒(第1の有機溶媒)と置換し(第2の工程)、この有機溶媒を含むナノファイバーシートを反応液に接触させることにより、含水ナノファイバーシート内に反応液を効率的に浸透させ(第3の工程)、ナノファイバーと反応液との接触効率を高めることにより化学修飾の反応速度を高めることが好ましい。
【0114】
ここで、用いる第1の有機溶媒としては含水ナノファイバーシート内の水から第1の有機溶媒へ、更に化学修飾剤を含む反応液への置換を円滑に行うために水及び、化学修飾剤を含む反応液と互いに均一に混ざり、なおかつ、水及び反応液よりも低沸点であるものが好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン等のケトン;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;酢酸等のカルボン酸;アセトニトリル等のニトリル類等、その他ピリジン等の芳香族複素環化合物等の水溶性有機溶媒が好ましく、入手の容易さ、取り扱い性等の点において、エタノール、アセトン等が好ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0115】
含水ナノファイバーシート中の水を第1の有機溶媒と置換する方法としては特に制限はないが、含水ナノファイバーシートを第1の有機溶媒中に浸漬して所定の時間放置することにより含水ナノファイバーシート中の水を第1の有機溶媒側へ浸出させ、浸出した水を含む第1の有機溶媒を適宜交換することによりナノファイバーシート中の水を第1の有機溶媒と置換する方法が挙げられる。この浸漬置換の温度条件は、第1の有機溶媒の揮散を防止するために、0〜60℃程度とすることが好ましく、通常は室温で行われる。
【0116】
なお、この含水ナノファイバーシート中の水を第1の有機溶媒と置換するに先立ち、含水ナノファイバーシートをコールドプレスして、ナノファイバーシート中に含まれる水分の一部を除去することが、水と第1の有機溶媒との置換を効率的に行う上で好ましい。
【0117】
このプレスの程度は、後述の誘導体化ナノファイバーシートへの含浸用液状物の含浸に先立つプレスとで、目的とする繊維含有率の繊維強化複合材料が得られるように設計されるが、一般的には、プレスにより、含水ナノファイバーシートの厚さがプレス前の厚さの1/2〜1/20程度となるようにすることが好ましい。このコールドプレス時の圧力、保持時間は、0.01〜100MPa(ただし、10MPa以上でプレスする場合は、ナノファイバーシートが破壊される場合があるので、プレススピードを遅くするなどしてプレスする。)、0.1〜30分間の範囲でプレスの程度に応じて適宜決定される。プレス温度は、上記の水と有機溶媒との置換時の温度条件と同様の理由から0〜60℃程度とすることが好ましいが、通常は室温で行われる。このプレス処理により厚さが薄くなった含水ナノファイバーシートは、水と第1の有機溶媒との置換を行っても、ほぼその厚さが維持される。ただし、このプレスは必ずしも必要とされず、含水ナノファイバーシートをそのまま第1の有機溶媒に浸漬して水と第1の有機溶媒との置換を行っても良い。
【0118】
このようにして、ナノファイバーシート中の水を第1の有機溶媒と置換した後、有機溶媒を含むナノファイバーシートを前述の反応液中に浸漬して化学修飾を行う。この際の処理条件としては、前述の水を除去した後のナノファイバーシートの化学修飾処理の際の処理条件と同様であるが、反応速度の向上で処理時間については、塩基性条件下では12〜118時間程度、酸性条件下では0.3〜3時間程度である。
【0119】
この化学修飾は、前述の置換度でナノファイバーの水酸基が化学修飾されるような程度となるように行われる。
【0120】
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料は、上述のような本発明のナノファイバーシートにマトリクス材料を含浸させてなるものである。
【0121】
〈マトリクス材料〉
本発明の繊維強化複合材料のマトリクス材料は、本発明の繊維強化複合材料の母材となる材料であり、後述の好適な物性を満たす繊維強化複合材料を製造することができるものであれば特に制限はなく、有機高分子、無機高分子、有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子等の1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0122】
以下に本発明に好適なマトリクス材料を例示するが、本発明で用いるマトリクス材料は何ら以下のものに限定されるものではない。
【0123】
マトリクス材料の無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料などのセラミックス等が挙げられ、これらは例えばアルコラートの脱水縮合反応により形成することができる。また、有機高分子としては、天然高分子や合成高分子が挙げられる。
【0124】
天然高分子としては、再生セルロース系高分子、例えばセロハン、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
【0125】
合成高分子としては、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等が挙げられる。
【0126】
上記ビニル系樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。これらは、各樹脂内において、構成される各単量体の単独重合体や共重合体であっても良い。
【0127】
上記ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレン等の単独重合体又は共重合体、あるいはノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0128】
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0129】
上記酢酸ビニル系樹脂とは、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルに、ホルムアルデヒドやn−ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやブチルアルデヒド等を反応させたポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0130】
上記フッ素樹脂としては、テトラクロロエチレン、ヘキフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0131】
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。なお、この明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。ここで、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。また、(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂のモノマーにおける重合性官能基の数に特に制限はないが、中では重合性官能基の数が1乃至2のもの、もしくはその混合物が靱性や耐熱性の観点から好適に用いられる。
【0132】
上記重縮合系樹脂としては、アミド系樹脂やポリカーボネート等が挙げられる。
【0133】
上記アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0134】
上記ポリカーボネートとは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物をいう。
【0135】
上記重付加系樹脂としては、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
【0136】
上記エステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。上記芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の後述するジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。上記脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体、上述するジオール類、上記脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等が挙げられる。上記不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及び必要に応じてスチレン等のビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0137】
上記Uポリマーとしては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸及びイソフタル酸等からなる共重合体が挙げられる。
【0138】
上記液晶ポリマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸と、テレフタル酸、p,p’−ジオキシジフェノール、p−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレン等との共重合体をいう。
【0139】
上記ポリエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンや4,4’−ジヒドロベンゾフェノン等の単独重合体や共重合体が挙げられる。
【0140】
上記ポリエーテルエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノン等の共重合体が挙げられる。
【0141】
上記アルキド樹脂としては、ステアリン酸、パルチミン酸等の高級脂肪酸と無水フタル酸等の二塩基酸、及びグリセリン等のポリオール等からなる共重合体が挙げられる。
【0142】
上記ポリスルホンとしては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体が挙げられる。
【0143】
上記ポリフェニルレンスルフィドとしては、p−ジクロロベンゼンや硫化ナトリウム等の共重合体が挙げられる。
【0144】
上記ポリエーテルスルホンとしては、4−クロロ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体が挙げられる。
【0145】
上記ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリト酸や4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンや、後述するジイソシアネート化合物等からなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン等からなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等からなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4’−ジアミノジフェニルメタン等からなるビスマレイイミド型ポリイミド等が挙げられる。
【0146】
上記重付加系樹脂としては、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0147】
上記ウレタン樹脂は、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体である。上記ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、上記ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0148】
上記付加縮合系樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0149】
上記フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0150】
上記尿素樹脂やメラミン樹脂は、ホルムアルデヒドや尿素、メラミン等の共重合体である。
【0151】
上記開環重合系樹脂としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。上記ポリアセタールとしては、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド等の共重合体が挙げられる。上記エポキシ樹脂とは、エチレングリコール等の多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0152】
本発明においては、このようなマトリクス材料のうち、特に非晶質でガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子が透明性に優れた高耐久性の繊維強化複合材料を得る上で好ましく、このうち、非晶質の程度としては、結晶化度で10%以下、特に5%以下であるものが好ましく、結晶化度がこれより大きいと透明性や平坦性に問題が発生する可能性がある。また、Tgは110℃以上、特に120℃以上、とりわけ130℃以上のものが好ましい。Tgが110℃未満のものでは、例えば沸騰水に接触した場合に変形するなど、透明部品、光学部品等としての用途において、耐久性に問題が発生する。
【0153】
本発明において、好ましい透明マトリクス樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ノボラック樹脂、ユリア樹脂、グアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂等の熱硬化樹脂が挙げられ、これらの中でも特に透明性の高いアクリル樹脂、メタクリル樹脂が好ましい。
【0154】
これらのマトリクス材料は、1種単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0155】
<好適なマトリクス材料>
上述のマトリクス材料のうち、特に本発明に好適なマトリクス材料は、
(i) アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂などの透明、非晶質かつ硬化後のガラス転移温度が高い、例えば100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、最も好ましくは200℃以上の光硬化樹脂もしくは熱硬化樹脂
(ii) その他、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、非晶質ポリオレフィン、ポリエーテルイミド、アクリルなどの透明、非晶質かつガラス転移温度の高い、例えば100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、最も好ましくは200℃以上の熱可塑合成樹脂
(iii) シリケート、チタネート等のゾルゲル法により製膜する透明な無機樹脂材料
(iv) 上記硬化樹脂、熱可塑樹脂、無機樹脂材料の複合(ハイブリッド樹脂材料)
などである。
【0156】
特に、
100μm厚さの平行光線透過率:60%以上、好ましくは70%以上、より好まし
くは80%以上
線熱膨張係数:20〜140ppm/K、好ましくは40〜120ppm/K、
より好ましくは50〜100ppm/K
結晶化度:5%以下
ガラス転移温度(Tg):120℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは
200℃以上
ヤング率:0.5〜6GPa、好ましくは1〜5GPa、より好ましくは2〜5
GPa
の非結晶性合成樹脂が好ましい。
さらに、ヤング率がナノファイバーのヤング率よりも低く、又、線熱膨張係数がナノファイバーのそれよりも大きいことが好ましい。これは、ナノファイバーシートとの繊維強化複合材料とすることで、高ヤング率、低線熱膨張係数が達成できるからである。
【0157】
非結晶性合成樹脂の平行光線透過率が小さいと高透明性の繊維樹脂複合材料を得ることができない。非結晶性合成樹脂の100μm厚での平行光線透過率の上限には特に制限はないが、通常90%以下である。本発明における平行光線透過率の測定方法では、絶対透過率を測定しているので、フレネル反射は必ず含まれる。従って、平行光線透過率の測定値が90%を超える場合は、測定が不適切である可能性がある。
【0158】
非結晶性合成樹脂の線熱膨張係数が小さいものは、例えば架橋密度を無理に上げている可能性があり、結果として脆くなっている等、樹脂の物性が崩れている恐れがある。非結晶性合成樹脂の線熱膨張係数が大き過ぎると十分に低熱膨張性の繊維樹脂複合材料を得ることができない。
【0159】
非結晶性合成樹脂の結晶化度が大きいと、非結晶性合成樹脂としての透明性を十分に得ることができない。
【0160】
非結晶性合成樹脂のガラス転移温度(Tg)が低いと得られる繊維樹脂複合材料の耐熱性が不足する。特に、透明電極形成を考慮した場合、十分な導電性を確保するために、ガラス転移温度(Tg)は120℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であることが必要とされる。非結晶性合成樹脂のガラス転移温度(Tg)の上限は特に制限はないが、通常250℃以下である。
【0161】
非結晶性合成樹脂のヤング率が大き過ぎると、脆くなったり、強い異方性が発現する等してフレキシブルシートとしての特性に問題が発生する。小さいと、樹脂としての複合効果に欠ける。
なお、非結晶性合成樹脂のヤング率は、例えば紫外線硬化型アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂では通常0.1〜2GPa程度、熱可塑性アクリル系樹脂では通常0.5〜1.5GPa程度、ポリカーボネート系樹脂及びポリエーテルスルフォン系樹脂では通常0.5GPa程度、環状ポリオレフィン系樹脂では通常1GPa程度である。
【0162】
また、線熱膨張係数については、例えば紫外線硬化型アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂では通常30〜70ppm/K程度、熱可塑性アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリエーテルスルフォン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂では通常50〜80ppm/K程度である。
【0163】
<繊維含有率>
本発明の繊維強化複合材料の繊維(ナノファイバー)含有量は、5〜60重量%であることが好ましく、10〜50重量%であることがより好ましく、20〜40重量%であることが最も好ましい。
繊維強化複合材料中の繊維含有量が上記範囲よりも少ないとナノファイバーを用いたことによる弾性率、線熱膨張係数、強度等の改善効果を十分に得ることができず、上記範囲よりも多いと相対的にマトリクス材料の量が少なくなり、マトリクス材料によるナノファイバー間の接着、又はナノファイバー間の空間の充填が十分でなくなり、強度や透明性、表面の平坦性が低下するおそれがあり、また、吸湿性、コスト等の面においても好ましくない。
【0164】
本発明の繊維強化複合材料の好適な物性は、前述のTCDDMA(60)/NF(40)複合材料の物性と同様である。
【0165】
[繊維強化複合材料の製造方法]
本発明の繊維強化複合材料を製造するには、上述の非結晶性合成樹脂等のマトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を、前記ナノファイバーシート又は誘導体化ナノファイバーシートに含浸させ、次いでこの含浸用液状物を硬化させる。
【0166】
ここで、含浸用液状物としては、流動状のマトリクス材料、流動状のマトリクス材料の原料、マトリクス材料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、及びマトリクス材料の原料の溶液から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0167】
上記流動状のマトリクス材料としては、マトリクス材料そのものが流動状であるもの等をいう。また、上記流動状のマトリクス材料の原料としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体等が挙げられる。
【0168】
更に、上記マトリクス材料を流動化させた流動化物としては、例えば、熱可塑性のマトリクス材料を加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
【0169】
更に、上記マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体が固形状の場合、これらを加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
【0170】
また、上記マトリクス材料の溶液やマトリクス材料の原料の溶液とは、マトリクス材料やマトリクス材料の原料を溶媒等に溶解させた溶液あるいは分散させたスラリーが挙げられる。この溶媒は、溶解対象のマトリクス材料やマトリクス材料の原料に合わせて適宜決定されるが、後工程でこれを除去するに当たり、蒸発除去する場合、上記マトリクス材料やマトリクス材料の原料の分解を生じさせない程度の温度以下の沸点を有する溶媒が好ましい。例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、あるいはこれらの混合物、あるいはこれらに水を加えた混合物等、さらにそれ自体に重合性、架橋性のあるアクリルモノマー類などが用いられる。
【0171】
このような含浸用液状物を、ナノファイバーシートの単層体、又はナノファイバーシートを複数枚積層した積層体に含浸させて、ナノファイバー間に含浸用液状物を十分に浸透させる。この含浸工程は、その一部又は全部を、圧を変化させた状態で行うのが好ましい。この圧を変化させる方法としては、減圧又は加圧が挙げられる。減圧又は加圧とした場合、ナノファイバー間に存在する空気を上記含浸用液状物と置き換えることが容易となり、気泡の残存を防止することができる。
【0172】
上記の減圧条件としては、0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)が好ましい。減圧条件が93.3kPa(700mmHg)より大きいと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。一方、減圧条件は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0173】
減圧条件下における含浸工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この温度が0℃より低いと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。なお、温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(当該減圧条件下での沸点)が好ましい。この温度より高くなると、溶媒の揮散が激しくなり、かえって、気泡が残存しやすくなる傾向がある。
【0174】
上記の加圧条件としては、1.1〜10MPaが好ましい。加圧条件が1.1MPaより低いと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。一方、加圧条件は10MPaより高くてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0175】
加圧条件下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜200℃がより好ましく、30〜100℃が最も好ましい。この温度が0℃より低いと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。一方、300℃より高いと、マトリクス材料が変性、変色するおそれがある。
【0176】
ナノファイバーシートに含浸させた含浸用液状物を硬化させるには、当該含浸用液状物の硬化方法に従って行えば良く、例えば、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の原料の場合は、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等が挙げられる。
【0177】
また、含浸用液状物がマトリクス材料をグラフト反応により流動化させた流動化物の場合は、冷却すれば良く、また、含浸用液状物がマトリクス材料の原料を熱可塑化等により流動化させた流動化物の場合は、冷却等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等の組合せが挙げられる。
【0178】
また、含浸用液状物がマトリクス材料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の蒸発や風乾等による除去等が挙げられる。更に、含浸用液状物がマトリクス材料の原料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の除去等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等との組合せが挙げられる。なお、上記蒸発除去には、常圧下における蒸発除去だけでなく、減圧下における蒸発除去も含まれる。
【0179】
なお、ナノファイバーシートのナノファイバーの水酸基の一部を化学修飾した誘導体化ナノファイバーシートに含浸用液状物を含浸させる場合は、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化ナノファイバーシート中の反応液をマトリクス材料を形成し得る含浸用液状物と置換し、その後、含浸用液状物を硬化させれば良い。
【0180】
また、誘導体化ナノファイバーシートへの含浸用液状物の含浸には、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化ナノファイバーシートをホットプレスして乾燥誘導体化ナノファイバーシートとし、この乾燥誘導体化ナノファイバーシートに含浸用液状物を含浸させても良い。
【0181】
或いは、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化ナノファイバーシート中に含まれる反応液を有機溶媒(第2の有機溶媒)と置換し(第4の工程)、即ち、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化ナノファイバーシートを第2の有機溶媒へ漬けて、反応液を洗い流し(この際、第2の有機溶媒を数回交換する)、その後、必要に応じて、第2の有機溶媒漬け誘導体化ナノファイバーシートをホットプレスして乾燥誘導体化ナノファイバーシートとした後含浸用液状物を含浸する。或いは、第2の有機溶媒漬け誘導体化ナノファイバーシートをコールドプレスして成形後、含浸用液状物へ含浸して、第2の有機溶媒と含浸用液状物とを置換する(第5の工程)ようにしても良く、この場合には、誘導体化ナノファイバーシート中への含浸用液状物の含浸を効率的に行うことができる。なお、以下において、このようにして、化学修飾処理後の反応液を含む誘導体化ナノファイバーシート中に含まれる反応液を有機溶媒と置換し、その後含浸用液状物を含浸する方法を、「有機溶媒置換法」と称す場合がある。
【0182】
ここで、用いる第2の有機溶媒としては、化学修飾剤を含む反応溶液から第2の有機溶媒へ、更に含浸用液状物への置換を円滑に行うために、反応液及び含浸用液状物と互いに均一に混ざり、なおかつ、低沸点であるものが好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン等のケトン;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;酢酸等のカルボン酸;アセトニトリル等のニトリル類等、その他ピリジン等の芳香族複素環化合物等の水溶性有機溶媒が好ましく、入手の容易さ、取り扱い性等の点において、エタノール、アセトン等が好ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0183】
反応液を含む誘導体化ナノファイバーシート中の反応液を第2の有機溶媒と置換する方法としては特に制限はないが、このナノファイバーシートを第2の有機溶媒中に浸漬して所定の時間放置することによりナノファイバーシート中の反応液を第2の有機溶媒側へ浸出させ、浸出した反応液を含む第2の有機溶媒を適宜交換することにより誘導体化ナノファイバーシート中の反応液を第2の有機溶媒と置換する方法が挙げられる。この浸漬置換の処理条件は、前述の含水ナノファイバーシート中の水を第1の有機溶媒と置換する際の条件と同様の条件を採用することができる。
【0184】
含浸用液状物の含浸に先立つコールドプレス又は前述のホットプレスの程度は、目的とする繊維強化複合材料の繊維含有率やナノファイバー間の絡み合いを固定化する目的において、その必要強度に応じて適宜決定されるが、一般的には、プレスにより、ナノファイバーシートの厚さがプレス前の厚さの1/2〜1/20程度となるようにすることが好ましい。このコールドプレス又はホットプレス時の圧力、保持時間は、0.01〜100MPa(ただし、10MPa以上でプレスする場合は、ナノファイバーシートが破壊される場合があるので、プレススピードを遅くするなどしてプレスする。)、0.1〜30分間の範囲でプレスの程度に応じて適宜決定されるが、コールドプレス温度は0〜60℃程度、通常は室温とすることが好ましい。また、ホットプレス温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃より低いと、水の除去に時間を要し、一方、300℃より高いと、ナノファイバーシートの分解等が生じるおそれがある。ナノファイバー間の絡み合いを固定化する目的まで考慮した場合は、ホットプレス処理を実施することが好ましい。絡み合いを固定化することにより、繊維樹脂複合材料の熱膨張係数低減やヤング率向上に効果が期待される。特に前者に対して効果が期待される。
【0185】
プレス処理は、最終的に得られる繊維強化複合材料の繊維含有率の調整のために行われる場合がある。前工程におけるプレスで繊維含有率が十分に調整されている場合には、このプレスは必ずしも必要とされず、第2の有機溶媒を含む誘導体化ナノファイバーシートをそのまま含浸用液状物との置換に供しても良い。
【0186】
第2の有機溶媒を含む誘導体化ナノファイバーシート中の第2の有機溶媒を含浸用液状物と置換する方法及び乾燥誘導体化ナノファイバーシートに含浸用液状物を含浸させる方法としては特に制限はないが、第2の有機溶媒を含む誘導体化ナノファイバーシート又は乾燥誘導体化ナノファイバーシートを含浸用液状物中に浸漬して減圧条件下に保持する方法が好ましい。これにより、誘導体化ナノファイバーシート中の第2の有機溶媒が揮散し、代りに含浸用液状物が誘導体化ナノファイバーシート中に浸入することで、誘導体化ナノファイバーシート中の第2の有機溶媒が含浸用液状物に置換される。或いは、乾燥誘導体化ナノファイバーシート中に含浸用液状物が浸入して、誘導体化ナノファイバーシート中に含浸用液状物が含浸される。
【0187】
この減圧条件については特に制限はないが、0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)が好ましい。減圧条件が93.3kPa(700mmHg)より大きいと、第2の有機溶媒の除去又は含浸用液状物の浸入が不十分となり、誘導体化ナノファイバーシートのナノファイバー間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。一方、減圧条件は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0188】
減圧条件下における置換工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この温度が0℃より低いと、媒介液の除去が不十分となり、ナノファイバー間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。なお、温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(当該減圧条件下での沸点)が好ましい。この温度より高くなると、溶媒の揮散が激しくなり、かえって、気泡が残存しやすくなる傾向がある。
【0189】
また、誘導体化ナノファイバーシートを含浸用液状物中に浸漬した状態で、減圧と加圧とを交互に繰り返すことによっても誘導体化ナノファイバーシート中に含浸用液状物を円滑に浸入させることができる。
【0190】
この場合の減圧条件は、上記の条件と同様であるが、加圧条件としては、1.1〜10MPaが好ましい。加圧条件が1.1MPaより低いと、含浸用液状物の浸入が不十分となり、ナノファイバー間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。一方、加圧条件は10MPaより高くてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0191】
加圧条件下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。この温度が0℃より低いと、含浸用液状物の浸入が不十分となり、ナノファイバー間に第2の有機溶媒又は空隙が残存する場合が生じることがある。一方、300℃より高いと、マトリクス材料が変性するおそれがある。
【0192】
なお、この含浸用液状物中への誘導体化ナノファイバーシートの浸漬を行うに際しては、誘導体化ナノファイバーシートを複数枚積層して含浸用液状物中に浸漬しても良い。また、含浸用液状物を含浸させた後の誘導体化ナノファイバーシートを複数枚積層して後の硬化工程に供しても良い。
【実施例】
【0193】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、ナノファイバーシート、非結晶性合成樹脂、繊維樹脂複合材料の各種物性の測定方法は次の通りである。
【0194】
[平行光線透過率]
<測定装置>
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−4100形分光度計」(固体試料測定システム)を使用。
<測定条件>
・6mm×6mmの光源マスク使用
・測定サンプルを積分球開口より22cm離れた位置において測光した。サンプルをこの位置に置くことで、拡散透過光は除去され、積分球内部の受光部に直線透過光のみが届く。
・リファレンスサンプルなし。リファレンス(試料と空気との屈折率差によって生じる反射。フレネル反射が生じる場合は、平行光線透過率100%ということはあり得ない。)がないため、フレネル反射による透過率のロスが生じている。
・光源:ヨウ素タングステンランプ
・試料厚さ:100μm
・測定波長:600nm
【0195】
[線熱膨張係数]
セイコーインスツルメンツ製「TMA/SS6100」を用い、ASTM D 696に規定された方法に従って下記の測定条件で測定した。
〈測定条件〉
昇温速度:5℃/min
雰囲気:N
加熱温度:20〜150℃
荷重:3mg
測定回数:3回
試料長:4×15mm
モード:引っ張りモード
【0196】
[ヤング率]
JIS K7161を参考として、幅5mm、長さ50mm、厚さ100μmの成形板について変形速度5mm/minで引張試験を行い、比例限界以下での歪み量に対する応力からヤング率を求めた。
なお、厚さはダイヤルゲージで測定した。
【0197】
[吸湿率]
(1) 試料を乾燥雰囲気下、50℃で24h静置後、重量を測定した(乾燥重量W)。
(2) 次に20℃で湿度60%の雰囲気下に、重量が一定になるまで静置後、重量を測定した(吸湿重量W)。
(3) 乾燥重量W及び吸湿重量Wより、下記式で吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=(W−W)÷W×100
【0198】
[耐熱温度]
以下の熱重量分析により、重量減少が起こる温度を耐熱温度とした。
測定装置:2950TGA(TAインスツルメント社製)
測定条件:窒素気流下、10mgの試料を110℃まで昇温後、10分間その温度に保持し、続いて、昇温速度10℃/minの昇温速度にて500℃まで昇温した。
【0199】
[反り・うねり]
繊維樹脂複合材料の5cm×5cmの大きさの領域において、平坦面上に置いた場合の反りやうねりが1mm以下であるものを良(○)とし、1mmを超えるものを不良(×)とした。
【0200】
繊維占有率、リグニン含有量、その他の物性等については、前述の通りである。
【0201】
実施例1
長径500μm、長径/短径比10、水分含有量5重量%のラジアータナパイン由来の木粉をエタノール・ベンゼン混液(エタノール:ベンゼン=1容:2容)により脱脂処理し、その10gを、蒸留水600ml、亜塩素酸ナトリウム4g、氷酢酸0.8mlの溶液中に入れ、70〜80℃の湯欲中で時折撹拌しながら1時間、加温した。1時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム4g、氷酢酸0.8mlを加えて反復処理した。この操作を5回行った。
その後、冷水約5L及びアセトン約500mlで洗浄した。
次いで、この木粉10gを5重量%水酸化カリウム水溶液に浸漬し、室温で一晩放置した後、吸引濾過で回収し、吸引しながら、約2Lの水で中性になるまで洗浄した。
このようにしてリグニン除去及びヘミセルロース除去処理を施した木粉を、下記の条件のグラインダー処理で機械的解繊した。グラインダー処理は1回のみ行った。
【0202】
<グラインダー処理>
使用機種名:(株)増幸産業「セレンディピター」型式MKCA6−3
砥石のグレード:MKG−C 80#
砥石直径:15cm
砥石間距離:砥石を十分に押し付けたところから、200μm砥石を浮かせた。砥石表面
の凹凸を平均した面間の間隔は200μmであった。
回転速度:1500rpm
1回の滞留時間:繊維含有率1%の懸濁液1Lで15分
温度:50〜60℃
【0203】
得られた含水ナノファイバーを濾紙上で挟んで水分を除去しシート状とした。さらに2MPaで4分間、120℃にてホットプレスして水を完全に除去し、厚さ80μmの乾燥ナノファイバーシートとした。
【0204】
得られたナノファイバーシートを3×4cmにカットして、減圧下、三菱化学(株)製アクリル樹脂(TCDDMA)に浸して12時間静置した。その後、ベルトコンベアー型のUV照射装置(フュージョンシステムズ製、Fusion F300 and LC6Bベンチトップコンベアー)を用い、樹脂を含浸したナノファイバーシートに紫外線を照射して硬化させた。このときの総照射エネルギー量は20J/cmであった。その後、真空中、160℃で2時間アニール(加熱処理)した。
得られた繊維樹脂複合材料の樹脂含有量は60重量%である。
【0205】
このときのグラインダー処理前までの木粉の最低水分含有量、得られたナノファイバーシート及び繊維樹脂複合材料の各種物性の測定結果を表2に示した。
【0206】
比較例1
実施例1において、グラインダー処理を10回行ったこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0207】
比較例2
実施例1において、グラインダー処理前に木粉の乾燥処理を行ったこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0208】
比較例3
実施例1において、木粉の代りにコットンリンターを用い、リグニン除去及びヘミセルロース除去を行わなかったこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0209】
比較例4
比較例3において、グラインダー処理を10回行ったこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0210】
比較例5
凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株に培養液を加え、1週間静置培養した(25〜30℃)。培養液表面に生成したバクテリアセルロースのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加えた。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行った。培養液には、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)を用いた。
【0211】
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、2重量%のアルカリ水溶液で2時間煮沸し、その後、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去し、バクテリアセルロース中のバクテリアを溶解除去した。次いで、得られた含水バクテリアセルロース(含水率95〜99重量%のバクテリアセルロース)を、120℃、2MPaで3分ホットプレスし、厚さ約80μmの、バクテリアセルロース(以下「BC」と記載する。)シート(含水率0重量%)を得た。
ナノファイバーシートとして、このBCシートを用いたこと以外は実施例1と同様にして繊維樹脂複合材料を製造し、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0212】
比較例6
比較例5において、バクテリア除去後の時点の水分含有量95〜99重量%のものについて、実施例1と同様のグラインダー処理を10回施したこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0213】
実施例2
実施例1において、ナノファイバーシートの製造において、得られた含水ナノファイバーシートに以下のアセチル化処理Aを施したこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
<アセチル化処理A>
1) 含水ナノファイバーシート(10×10cm)を2MPaで1分間室温にてコールドプレスして水を除去し、厚さ1mmとした。
2) プレスしたナノファイバーシートをアセトンに浸し、このナノファイバーシートの内部の水を完全に除去した。得られた溶媒置換ナノファイバーシートを110℃で3分間、2MPaでホットプレスした。
3) セパラブルフラスコに無水酪酸3mL、酢酸40mL、トルエン50mL、60重量%過塩素酸0.2mLを加えて反応溶液を調製した。
4) 2)で作製したナノファイバーシートを3)で調製した反応溶液に浸し、1時間、室温にて反応を行った。
5) 反応終了後、得られたアセチル化ナノファイバーシートをメタノールで洗浄し、ナノファイバーシート内部の反応液を完全に除去した。
【0214】
実施例3
実施例1において、ナノファイバーシートの製造において、得られた含水ナノファイバーシートに、以下のアセチル化処理Bを施したこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
<アセチル化処理B>
1) 含水ナノファイバーシート(10×10cm)を2MPaで4分間、120℃にてホットプレスして水を完全に除去し、厚さ40μmの乾燥ナノファイバーシートとした。
2)セパラブルフラスコに無水酪酸3mL、酢酸40mL、トルエン50mL、及び60重量%過塩素酸0.2mLを加えて反応溶液を調製した。
3) 2)で作製したナノファイバーシートを3)で調製した反応溶液に浸し、1時間、室温にて反応を行った。
4) 反応終了後、得られたアセチル化ナノファイバーシートをメタノールで洗浄し、ナノファイバーシート内部の反応液を完全に除去した。
5) 100℃、2MPaの圧力で4分間プレスし、乾燥させた。
【0215】
比較例7
比較例2において、ナノファイバーシートの製造において得られた含水ナノファイバーシートに、実施例3と同様のアセチル化処理Bを施したこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0216】
比較例8
比較例3において、ナノファイバーシートの製造において得られた含水ナノファイバーシートに、実施例2と同様のアセチル化処理Aを施したこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0217】
比較例9
比較例4において、ナノファイバーシートの製造において得られた含水ナノファイバーシートに、実施例3と同様のアセチル化処理Bを施したこと以外は同様にしてナノファイバーシートの製造及び繊維強化複合材料の製造を行い、各種物性の測定結果を表2に示した。
【0218】
【表2】

【0219】
表2より次のことが明らかである。
最低水分含有量5重量%の木粉について、1回のグラインダー処理のみを行った実施例1では、ナノファイバーシートの結晶セルロース含有量が高く、平行光線透過率が高く、また線熱膨張係数が小さく、ヤング率が高い。このナノファイバーシートから得られた繊維樹脂複合材料も、平行光線透過率が高く、線熱膨張係数が小さくヤング率が高く、反り、うねりの問題もない。
また、このナノファイバーシートについて更にアセチル化を行った実施例2,3では、ナノファイバーシートの線熱膨張係数が更に小さくなり、得られる繊維樹脂複合材料の耐熱性、吸湿性が改善される。
【0220】
木粉を用いてもグラインダー処理を過度に行った比較例1では、結晶セルロースが破壊され、線熱膨張係数が大きくなり、また、ヤング率が小さくなる。また、グラインダー処理前に木粉を乾燥した比較例2では、1回のグラインダー処理では、ナノファイバー化を十分に行えないために、平行光線透過率が低くまた、線熱膨張係数も大きい。このナノファイバーシートを更にアセチル化した比較例7でも線熱膨張係数や平行光線透過率の改善は図れない。
【0221】
また、コットンを原料とする比較例3,4のうち、グラインダー処理が1回の比較例3ではナノファイバー化が十分でないために平行光線透過率が低く、また線熱膨張係数も大きい。グラインダー処理を10回行った比較例4では、平行光線透過率は向上するが、結晶セルロースが破壊されるために、線熱膨張係数が大きくなり、ヤング率は小さくなる。また、このナノファイバーシートを更にアセチル化した比較例8,9でも線熱膨張係数は若干改善するが十分な効果は得られない。
【0222】
BCを原料とした比較例5,6のうちグラインダー処理を行わない比較例5では平行光線透過率、線熱膨張係数、ヤング率等においては良好な結果が得られるが、反り、うねりの問題がある。グラインダー処理を行った比較例6では、更に結晶セルロースの破壊で平行光線透過率、線熱膨張係数及びヤング率が悪化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーの不織布(以下「ナノファイバーシート」と称す。)において、
結晶セルロースを主成分とし、
該ナノファイバーシート中のリグニン含有量が10ppm以上10重量%以下であり、
該ナノファイバーシートにトリシクロデカンジメタクリレートを含浸後、20J/cmでUV硬化し、真空中、160℃で2時間熱処理させて得られる繊維樹脂複合材料であって、トリシクロデカンジメタクリレート硬化物の含有量が60重量%、ナノファイバーの含有量が40重量%の繊維樹脂複合材料が、下記(1)〜(3)の物性を満たすことを特徴とするナノファイバーシート。
(1) 100μm厚での波長600nmの光の平行光線透過率が70%以上
(2) ヤング率が5.0GPa以上
(3) 線熱膨張係数が20ppm/K以下
【請求項2】
請求項1において、前記ナノファイバーが木粉から得られることを特徴とするナノファイバーシート。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ナノファイバーの水酸基の一部が化学修飾されていることを特徴とするナノファイバーシート。
【請求項4】
請求項3において、前記化学修飾がアシル化処理であることを特徴とするナノファイバーシート。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記ナノファイバーの化学修飾による置換度が0.05〜1.2であることを特徴とするナノファイバーシート。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のナノファイバーシートを、ナノファイバー前駆体を機械的に解繊することにより製造する方法であって、前記解繊前の全ての工程で、ナノファイバー前駆体中の水分含有量が3重量%以上であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、固型分含有量が0.1〜5重量%のナノファイバー前駆体溶液若しくは分散液を機械的に解繊してナノファイバーを得ることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記ナノファイバー前駆体を酸化剤に浸漬するリグニン除去工程後、前記解繊工程を行うことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記酸化剤が亜塩素酸ナトリウム水溶液であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項において、前記解繊工程がグラインダー処理工程であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記グラインダー処理において、砥石直径が10cm以上、砥石間間隔が1mm以下の向かい合った板状の砥石を用い、砥石の回転数500rpm以上、砥石間のナノファイバー前駆体の滞留時間1〜30分の条件で処理することを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項12】
請求項6ないし11のいずれか1項において、前記解繊工程で得られたナノファイバーの水分含有量が3重量%未満となるように乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項13】
請求項6ないし12のいずれか1項において、前記ナノファイバー前駆体をアルカリに浸漬するヘミセルロース除去工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項14】
請求項13において、前記アルカリが水酸化カリウム水溶液であることを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項15】
請求項6ないし14のいずれか1項において、前記解繊工程で得られたナノファイバーを抄紙する抄紙工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項16】
請求項15において、前記解繊工程で得られたナノファイバーの水酸基の一部を化学修飾する化学修飾工程を含むことを特徴とするナノファイバーシートの製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のナノファイバーシートにマトリクス材料を含浸させてなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項18】
請求項17において、前記マトリクス材料が、ガラス転移温度100℃以上で、100μm厚での平行光線透過率が60%以上の非結晶性合成樹脂であることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項19】
請求項18において、前記非結晶性合成樹脂のヤング率が0.5〜6GPaであり、かつ前記ナノファイバーシートのヤング率よりも低く、線熱膨張係数が20〜140ppm/Kであり、かつ前記ナノファイバーシートの線熱膨張係数よりも大きいことを特徴とする繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2008−24788(P2008−24788A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197106(P2006−197106)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度文部科学省 フレキシブル・ユビキタス端末の実現 産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】