説明

ナノファイバー積層体およびその製造方法

【課題】ポリウレタン樹脂を用いるエレクトロスピニング法において、紡糸溶液の溶媒を有機溶媒から水系にすることで有機溶媒による問題点を無くし、且つ、ナノファイバー積層体が3次元構造を成すことにより均質で微細な細孔径を有するナノファイバー積層体を提供する。
【解決手段】エレクトロスピニング法により得られるナノファイバー積層体であり、前記ナノファイバーが、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンをエレクトロスピニングすることにより形成されてなることを特徴とするナノファイバー積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法により得られるナノファイバー積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレクトロスピニング法によるナノファイバー積層体の製造に関し、種種研究が行われている。エレクトロスピニング法は、原料であるポリマーを溶媒に溶解させた紡糸溶液を微細孔から一定速度で押出すと同時に紡糸溶液に高電圧を印加することで、コレクターとの間に静電気力を発生させ、その力によって紡糸溶液をコレクターに向かってジェットとして噴射し、その過程において溶媒が揮発し、コレクター上にナノファイバーを積層させ、ナノファイバー積層体を得る方法である。
【0003】
上記エレクトロスピニング法によって得られるナノファイバー積層体は、数nm〜数μmの直径を有するナノファイバーが3次元構造を成した積層体であり、単位体積当たりの表面積が非常に大きく、他の製造方法で製造したポリマー繊維積層体と比べて非常に大きな空隙率と比表面積を有する。
【0004】
近年、例えば、医療用チューブの一部に、エレクトロスピニング法によって形成される膜部材を用いる技術が開発されている(特許文献1など参照)。
特許文献1には、膜部材となる繊維材料として、種種の樹脂が記載されており、実施例として、クロロホルム/メタノール混合溶液を溶媒として、ポリカプロラクトンをエレクトロスピニングすることが開示されている。
【0005】
また、繊維材料としてポリウレタン樹脂を用いるエレクトロスピニング法が既に知られている(特許文献2など参照)。
特許文献2には、ポリウレタン樹脂調製の際に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等の有機溶媒が使用されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−011942公報
【特許文献2】特開昭58−034823公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エレクトロスピニング法は、上記したように、一般に、紡糸溶液を作製する際に溶媒として有機溶媒を使用することが多いため、爆発の危険性や腐食の問題、環境汚染、人体への影響が問題となることがある。
【0008】
特に医療用途として使用する場合、残留溶媒の点を考慮すると有機溶媒の使用は好ましくない場合がある。仮に有機溶媒を使用した場合、溶媒を除去する必要があるときには、製造コストが増加する。
【0009】
また、繊維材料としてポリウレタン樹脂を用いる場合には、N,N−ジメチルホルムアミドが用いられることが公知であるが、このN,N−ジメチルホルムアミドは可燃性液体であり、また、皮膚や目に接触すると炎症を発生することが知られている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ポリウレタン樹脂を用いてエレクトロスピニングするにあたって、紡糸溶液の溶媒として有機溶媒を用いることなく製造されてなり、且つ、3次元構造を成し、均質で微細な細孔径を有するナノファイバー積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、エレクトロスピニング法により得られるナノファイバー積層体であり、前記ナノファイバーが、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンをエレクトロスピニングすることにより形成されてなることを特徴とするナノファイバー積層体によって達成される。
【0012】
上記発明においては、水溶性ポリマーがポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、コラーゲン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースから成る群より選択されることが好ましい。
【0013】
上記発明においては、ナノファイバー積層体の細孔径が50nm〜180μmであることが好ましい。
【0014】
上記発明においては、ナノファイバー積層体の通気度が0.01〜150cm/cm/secであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の目的は、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンをエレクトロスピニングすることにより、ナノファイバーを形成させ、積層させることを特徴とするナノファイバー積層体の製造方法によって達成される。
【0016】
上記発明においては、水溶性ポリマーがポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、コラーゲン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択されることが好ましい。
【0017】
上記発明においては、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンが、ポリウレタン樹脂を0.1〜50質量%含有することが好ましい。
【0018】
上記発明においては、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンが、水溶性ポリマーを0.1〜20質量%含有することが好ましい。
【0019】
更に、本発明の目的は、上記製造方法により得られたナノファイバー積層体を熱処理することを特徴とするナノファイバー積層体の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、使用する紡糸溶液の溶媒を水系にすることにより、すなわち、ポリウレタン樹脂エマルジョンを紡糸溶液として用いることにより、従来の有機溶媒を用いた場合の上記問題点を無くすことが可能となった。
【0021】
また、本発明は、水溶性ポリマーをポリウレタン樹脂エマルジョンに含有させることにより、エレクトロスピニング法によるナノファイバー積層化が可能であり、3次元構造を成し、均質で微細な細孔径を有するナノファイバー積層体が得られる。
【0022】
また、本発明のナノファイバー積層体は、エレクトロスピニング後、熱処理することにより、細孔径を小さくすることができる。このため、有機溶媒を用いたエレクトロスピニング法により得られるナノファイバー積層体の細孔径よりもより微細な細孔径を有するナノファイバー積層体を得ることが可能である。すなわち、本発明においては、エレクトロスピニング法により製造されたナノファイバー積層体の細孔径を、目的に応じて、エレクトロスピング後に調整できるものである。
【0023】
更に、本発明のナノファイバー積層体は、エレクトロスピニング法により製造された状態では、耐水性が不十分であることがあるが、熱処理することにより、ナノファイバー積層体に耐水性を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のナノファイバー積層体を製造する際に使用する、エレクトロスピニング法を実施する装置の一例の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の詳細を説明する。
【0026】
本発明のナノファイバー積層体は、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョン(以下、調整エマルジョンと記す)を紡糸溶液とし、この紡糸溶液を正または負に帯電させ、紡糸ノズルから、紡糸溶液とは逆極性に帯電させたあるいは接地させたコレクターへ向けて紡出することで得られるエレクトロスピニング法によるナノファイバー積層体である。
【0027】
本発明で使用するポリウレタン樹脂エマルジョンとしては、自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンまたは強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンがあり、本発明においては、特に自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンが、ポリウレタン樹脂エマルジョン中のポリウレタン樹脂の平均粒径が小さい等の点から好適である。
自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンとは、ポリウレタン樹脂エマルジョン中のポリウレタン樹脂がカルボン酸基、スルホン酸基等の親水性基を有するものを意味し、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等の分子内にカルボン酸基を有するポリヒドロキシ化合物等を共重合させることで得ることができる。更に自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンは、乳化安定性を向上させるために界面活性剤を併用してもよい。
一方、強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンとは、親水性基を有しない、界面活性剤を用いて強制的に乳化したポリウレタン樹脂エマルジョンを意味する。
【0028】
このポリウレタン樹脂エマルジョン中のポリウレタン樹脂の組成は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分からなるものであり、ポリオール成分としては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ−2−メチルテトラメチレングリコール、ポリブタンジオールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート、ポリ−1,6−ヘキサンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールカーボネート、ポリノナンジオールカーボネート、ポリエチレングリコールアジペート、ポリカプロラクトン、ポリ−β−メチルバレロラクトン、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ−2−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−2−ヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられ、適宜1種または組み合わせて用いればよい。
【0029】
さらに、鎖伸長剤として用いられる短鎖ジオール化合物としては、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、ノナンジオール、オクタンジオール、ジメチロールヘプタン等のグリコール及び上記したジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられ、適宜1種または組み合わせて用いればよい。
【0030】
一方、ポリイソシアネート成分であるジイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
また、鎖伸長剤として短鎖ジアミン化合物を使用してもよい。そのような短鎖ジアミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(p−アミノフェニル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ヒドラジン、ピペラジン、テトラエチレンペンタミン等が挙げられる。
【0032】
ポリウレタン樹脂エマルジョンの製造は、自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンまたは強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンの一般的な製造方法により行う。例えば、上記各成分をアセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の有機溶媒を用いて反応させ、得られるポリウレタンポリマーを水に分散させてエマルジョンとする。製造過程で使用した有機溶媒は、減圧蒸留等により除去することが望ましい。
また、本発明で用いるポリウレタン樹脂エマルジョンは、一般に市販されているものを使用することができる。
【0033】
本発明に用いる水溶性ポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、コラーゲン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、少なくとも1種が用いられる。ポリウレタン樹脂エマルジョンに水溶性ポリマーを含有させるのは、ポリウレタン樹脂エマルジョン単体をエレクトロスピニングしたのではナノファイバー積層体が製造できないからである。すなわち、ポリウレタン樹脂エマルジョン単体をエレクトロスピニングした場合には、ポリウレタン樹脂がファイバー形状にならず、粒子状に紡出されてしまい、ナノファイバーが形成されず、ナノファイバー積層体が得られない。
【0034】
また、本発明に用いる水溶性ポリマーの中でもポリエチレンオキシドは分子量が大きいため、ポリウレタン樹脂エマルジョン中に少量含有させるだけで、ナノファイバーを形成することが可能である。また、少量の含有量でよいため、エレクトロスピング後のナノファイバー中のポリウレタン比率の高い物が得られる。以上のことから、ポリエチレンオキシドを用いることが好ましい。
【0035】
次に、本発明のナノファイバー積層体を製造する装置について説明する。図1は本発明のナノファイバー積層体を製造する際に使用する、エレクトロスピニング法を実施する装置の一例の概略を示す説明図である。図1に示されるエレクトロスピニング装置は、紡糸溶液を入れるシリンジ1と紡糸溶液を押出す押出し機2、高電圧電源3と電圧を印加する紡糸ノズル4、紡糸ノズル4および逆極性に帯電させたあるいは接地させた回転コレクター5からなる。なお、図1に示した装置は一例であり、ナノファイバー積層体を形成するにあたり、このエレクトロスピニング装置に限定はされない。
【0036】
紡糸ノズル4の内径は、通常0.2〜1mmである。また、ノズル先端はベベルまたはノンベベルを使用できるが、紡糸安定性の面から見て、ノンベベルを用いることが好ましい。
【0037】
上記装置を使用して、本発明のナノファイバー積層体は、例えば、次のようにして製造される。すなわち、まず、ポリウレタン樹脂エマルジョンと水溶性ポリマーとを混合し、調整エマルジョンとする。
【0038】
本発明に係る調整エマルジョンは、調整エマルジョンに対し、好ましくは0.1〜50質量%のポリウレタン樹脂を含有する。
ポリウレタン樹脂含有量が50質量%を超える調整エマルジョンの場合でもエレクトロスピニングによりナノファイバーの形成は可能だが、紡糸安定性は悪くなる傾向にある。
【0039】
また、調整エマルジョン中のポリウレタン樹脂の平均粒径は、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは1〜300nm、更に好ましくは5〜150nmである。ポリウレタン樹脂の平均粒径が小さい方が、より細い直径のナノファイバーを得るのに適している。
【0040】
また、水溶性ポリマーは、調整エマルジョンに対し、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは1.5〜15質量%含有される。
水溶性ポリマーの含有量は、使用する水溶性ポリマーの種類、重合度により適宜設定すればよい。
得られるナノファイバーの直径は、主として使用する水溶性ポリマーの含有量に依存する。すなわち、水溶性ポリマーの含有量が少ないとナノファイバーの直径は細くなる傾向にあり、逆に、水溶性ポリマーの含有量が多いとナノファイバーの直径は太くなる傾向にある。
ポリエチレンオキシドを用いる場合には、調整エマルジョンに対し、0.5〜5.0質量%とすることが好ましい。
【0041】
また、本発明に係る調整エマルジョンには、必要に応じて、添加剤や助剤を配合してもよい。この添加剤や助剤としては、例えば、顔料、染料、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、滑剤等が挙げられる。
【0042】
次に、上記のような調整エマルジョンを紡糸溶液として、上記装置により、エレクトロスピニングを行う。
【0043】
エレクトロスピニングするにあたっては、例えば、高電圧電源3より5〜40kVの電圧が印加され、紡糸溶液は0.4〜2.3kV/cmの強電場によりエレクトロスピニングされ、回転コレクター5へ向けてジェットとして噴射される。その過程において溶媒である水が揮発し、回転コレクター5には直径1nm〜10μmのナノファイバーが積層する。
【0044】
このとき、回転コレクター5上に、基材となる材料を予め設置させておいてもよい。
基材としては、織物、編物、不織布、レース、フェルト等の布や離型紙、フィルム、アルミ箔等の薄膜材および帯電あるいは接地可能な金属加工材料等を用いることができる。
【0045】
装置稼働中の紡糸雰囲気は適宜調整すればよく、紡糸安定性を向上させる上で、相対湿度を好ましくは40%RH以下、より好ましくは30%RH以下にするのが好適である。
【0046】
上記のようにして得られるナノファイバー積層体は、ポリウレタン樹脂と水溶性ポリマーとがナノファイバーを形成し、積層してなるものである。
得られたナノファイバー積層体は、1nm〜10μmの直径を有するナノファイバーが3次元構造を成した積層体であり、単位体積当たりの表面積が非常に大きく、他の製造方法で製造したポリマー繊維積層体と比べて非常に大きな空隙率と比表面積を有する。
【0047】
また、ナノファイバー積層体は、熱処理を行なうことにより、より微細な細孔径を発現することが可能である。
更に、ナノファイバー積層体は、エレクトロスピニング法により製造された状態では、耐水性が不十分であることがあるが、熱処理することにより、ナノファイバー積層体に耐水性を付与することが可能である。
これらはポリウレタン樹脂あるいは水溶性ポリマーが熱処理により架橋、または溶着、または熱収縮することで可能となる。
【0048】
上記熱処理は、大気、窒素、酸素中やヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等の希ガス中で行なわれる。また、処理温度は50〜180℃、処理時間は1秒〜1時間とすることが好適である。各条件は、使用するポリウレタン樹脂エマルジョン、目的とする細孔径等に応じて適宜設定すればよい。
【0049】
本発明のナノファイバー積層体は、上記のような、エレクトロスピニングすることにより得られたもの、および、その後、目的に応じて熱処理したものが含まれるが、その細孔径は、50nm〜180μmであることが好ましい。熱処理前のナノファイバー積層体は、200nm〜180μmの細孔径を有し、また、熱処理後のナノファイバー積層体は、50nm〜100μmの細孔径を有することが好適である。
細孔径は、最大細孔径、最小細孔径または平均流量細孔径の測定が可能であるが、上記細孔径の範囲は、最大細孔径および最小細孔径両方の値を包含するものである。
【0050】
また、本発明のナノファイバー積層体の通気度は、0.01〜150m/cm/secであることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0052】
本発明で得られるナノファイバー積層体の繊維径(直径)は、SEM写真から任意に50箇所を測定し平均値を算出した。
【0053】
本発明で得られるナノファイバー積層体の細孔径は、バブルポイント法(JIS K3832 7.2.1 方法A)により測定した。
【0054】
また、細孔径として、最大細孔径、最小細孔径および平均流量細孔径を測定した。
【0055】
本発明で得られるナノファイバー積層体の通気度は、A法(フラジール形法)(JIS L1096 8.27.1)により測定した。
【0056】
本発明で得られるナノファイバー積層体の耐水性は、2cm角のナノファイバー積層体をホットスターラーにて80℃の純水中で500rpm、5分間撹拌し、積層体を維持できた物を○、積層体表面から積層体の一部またはナノファイバーが剥離したが積層体の形態を維持してした物を△、積層体が維持出来なかった物を×と評価した。
【0057】
[実施例1]
自己乳化型エステル系ポリウレタン樹脂エマルジョン(ポリウレタン樹脂含有率43質量%、平均粒径60nm)20gに、純水1.5gとポリエチレンオキシド(重量平均分子量500,000)0.5512gとを添加し、調整エマルジョンを得た。このときの調整エマルジョン中のポリウレタン樹脂含有率は39.0質量%であった。
得られた調整エマルジョンを、図1に示す装置でエレクトロスピニングし、ナノファイバー積層体を作製した。エレクトロスピニングの条件は、気温25℃、湿度20%RH、紡糸ノズルノンベベル(内径0.48mm)、押出し速度1ml/h、紡糸ノズル・コレクター間距離15cm、印加電圧12kV、コレクター回転速度0.8m/min、紡出時間4hとした。
得られたナノファイバー積層体の繊維径、細孔径、通気度をそれぞれ測定した。
【0058】
次に、作製したナノファイバー積層体を、110℃に調温した角型乾燥機中で180秒間熱処理した。
得られた熱処理後のナノファイバー積層体の細孔径、通気度を測定した。その結果、1.16〜7.60μmの細孔径と13.38cm/cm/secの通気度を得た。耐水性は熱処理前が△であったのに対し、熱処理後は○であった。
上記の結果を、表1に併せて示す。
【0059】
[実施例2]
自己乳化型エステル系ポリウレタン樹脂エマルジョン(ポリウレタン樹脂含有率43質量%、平均粒径60nm)10.6gに、純水19gとポリエチレンオキシド(重量平均分子量500,000)0.7590gとを添加し、調整エマルジョンを得た。このときの調整エマルジョン中のポリウレタン樹脂含有率は15.0質量%であった。
得られた調整エマルジョンを、実施例1と同様の条件でエレクトロスピニングした。
得られたナノファイバー積層体の繊維径、細孔径、通気度をそれぞれ測定した。
【0060】
次に、実施例1と同様の条件で熱処理した。
得られた熱処理後のナノファイバー積層体の細孔径、通気度を測定した。その結果、0.23〜1.36μmの細孔径と0.25cm/cm/secの通気度を得た。耐水性は熱処理前が×であったのに対し、熱処理後は○であった。
上記の結果を、表1に併せて示す。
【0061】
[実施例3]
自己乳化型エステル系ポリウレタン樹脂エマルジョン(ポリウレタン樹脂含有率43質量%、平均粒径60nm)6gに、純水21.9gとポリエチレンオキシド(重量平均分子量500,000)0.7154gとを添加し、調整エマルジョンを得た。このときの調整エマルジョン中のポリウレタン樹脂含有率は9.0質量%であった。
得られた調整エマルジョンを、実施例1と同様の条件でエレクトロスピニングした。
得られたナノファイバー積層体の繊維径、細孔径、通気度を測定した。
【0062】
次に、実施例1と同様の条件で熱処理した。
得られた熱処理後のナノファイバー積層体の細孔径、通気度をそれぞれ測定した。その結果、0.16〜1.16μmの細孔径と0.05cm/cm/secの通気度を得た。耐水性は熱処理前が×であったのに対し、熱処理後は○であった。
上記の結果を、表1に併せて示す。
【0063】
[実施例4]
自己乳化型アクリルエステル系ポリウレタン樹脂エマルジョン(ポリウレタン樹脂含有率38質量%、平均粒径70nm)10gに、純水14.7gとポリエチレンオキシド(重量平均分子量500,000)0.6330gとを添加し、調整エマルジョンを得た。このときの調整エマルジョン中のポリウレタン樹脂含有率は15.0質量%であった。
得られた調整エマルジョンを、図1に示す装置でエレクトロスピニングし、ナノファイバー積層体を作製した。エレクトロスピニングの条件は、気温25℃、湿度20%RH、紡糸ノズルノンベベル(内径0.48mm)、押出し速度1ml/h、紡糸ノズル・コレクター間距離15cm、印加電圧18kV、コレクター回転速度0.8m/min、紡出時間4hとした。
得られたナノファイバー積層体の繊維径、細孔径、通気度をそれぞれ測定した。
【0064】
次に、作製したナノファイバー積層体を、90℃に調温した角型乾燥機中で10秒間熱処理し、得られた熱処理後のナノファイバー積層体の細孔径、通気度を測定した。その結果、0.33〜1.42μmの細孔径と0.20cm/cm/secの通気度を得た。耐水性は熱処理前後とも○であった。
上記の結果を、表1に併せて示す。
【0065】
[比較例1]
ポリウレタン樹脂(エステル系、硬度80A、押出し成形可能品)を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)とアセトンの8:7の混合溶媒に15質量%溶解しエレクトロスピニングした。エレクトロスピニングの条件は気温25℃、湿度20%RH、紡糸ノズルノンベベル(内径0.94mm)、押出し速度1ml/h、紡糸ノズル・コレクター間距離15cm、印加電圧18kV、コレクター回転速度0.8m/min、紡出時間4hとした。
得られたナノファイバー積層体の繊維径、細孔径、通気度を測定した。
【0066】
次に、実施例1と同様の条件で熱処理した。
得られた熱処理後のナノファイバー積層体の細孔径、通気度を測定した。その結果、1.44〜5.39μmの細孔径と14.08cm/cm/secの通気度を得た。耐水性は熱処理前後とも○であった。
有機溶媒を用いてエレクトロスピニングしたナノファイバー積層体は、熱処理しても、細孔径は小さくならなかった。
上記の結果を、表1に併せて示す。
【0067】
[比較例2]
ポリエチレンオキシドを用いなかった他は、実施例1と同様にして、エレクトロスピニングした。
その結果、ポリウレタン樹脂はファイバー形状を取らず粒子状に紡出され、ナノファイバー積層体は得られなかった。
【0068】
【表1】

【符号の説明】
【0069】
1 シリンジ
2 押出し機
3 高電圧電源
4 紡糸ノズル
5 回転コレクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法により得られるナノファイバー積層体であり、前記ナノファイバーが、水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンをエレクトロスピニングすることにより形成されてなることを特徴とするナノファイバー積層体。
【請求項2】
水溶性ポリマーがポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、コラーゲン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択される請求項1記載のナノファイバー積層体。
【請求項3】
ナノファイバー積層体の細孔径が50nm〜180μmである請求項1または2記載のナノファイバー積層体。
【請求項4】
ナノファイバー積層体の通気度が0.01〜150cm/cm/secである請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノファイバー積層体。
【請求項5】
水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンをエレクトロスピニングすることにより、ナノファイバーを形成させ、積層させることを特徴とするナノファイバー積層体の製造方法。
【請求項6】
水溶性ポリマーがポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、コラーゲン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択される請求項5記載のナノファイバー積層体の製造方法。
【請求項7】
水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンが、ポリウレタン樹脂を0.1〜50質量%含有する請求項5または6記載のナノファイバー積層体の製造方法。
【請求項8】
水溶性ポリマーを含有するポリウレタン樹脂エマルジョンが、水溶性ポリマーを0.1〜20質量%含有する請求項5〜7いずれか1項に記載のナノファイバー積層体の製造方法。
【請求項9】
得られたナノファイバー積層体を熱処理することを特徴とする請求項5〜8いずれか1項に記載のナノファイバー積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248665(P2010−248665A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101069(P2009−101069)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】