ナノ多孔性酸化チタン膜およびこれを用いて揮発性有機化合物を処理する方法
【課題】 白金等の第8族元素を担持したナノ多孔性酸化チタン膜、およびこれを用いてメタノール等の揮発性有機化合物を除去する方法を提供する
【解決手段】 白金が担持されている本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、メタノール供給濃度に関わらずメタノールをほぼ完全に分解し、二酸化炭素生成率もほぼ100%を示した。また、メタノール分解量も増加し、二酸化炭素生成量も大きく増加した。
【解決手段】 白金が担持されている本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、メタノール供給濃度に関わらずメタノールをほぼ完全に分解し、二酸化炭素生成率もほぼ100%を示した。また、メタノール分解量も増加し、二酸化炭素生成量も大きく増加した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ多孔性酸化チタン膜およびこれを用いて揮発性有機化合物を処理する方法に関するものであり、特に、白金等の第8族元素を担持したナノ多孔性酸化チタン膜、およびこれを用いてメタノール等の揮発性有機化合物を分解する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
常温常圧で空気中に容易に揮発する揮発性有機化合物は、比重は水よりも重く、粘性が低くて、難分解性であることが多いため、地層粒子の間に浸透して土壌・地下水を汚染する。一方、大気中に放出され、光化学反応によってオキシダントやSPM(浮遊粒子状物質)の発生に関与していると考えられている。
【0003】
大気中に放出される揮発性有機化合物は、環境省の試算では国内で年間約185万トンあり、諸外国と較べて単位面積当たりの排出量が高いため、人体や環境への悪影響が問題視されている。さらに、近年は、化学物質による室内空気の汚染が顕在化するとともに、いわゆるシックハウス症候群や化学物質過敏症など健康に関する問題が注目されている。そのため、これらの揮発性有機化合物を除去するために、光触媒活性を持つ酸化チタンを用いた揮発性有機化合物の無害化処理技術が研究されてきている。
【0004】
酸化チタンは400nm以下の紫外線領域の光を吸収し、価電子帯の電子を伝導帯に励起し、正孔を生成する。さらに、正孔は水もしくは表面水酸基と反応し、OHラジカルを生成すると考えられている。生成した電子、および正孔もしくはOHラジカルは強い反応性を有し、環境汚染物質の分解反応をはじめ、その光触媒特性が大きな関心を集めている。
【0005】
一方、酸化チタンは、フッ酸や濃硫酸以外の酸、アルカリ、有機溶媒に溶解せず、優れた化学的安定性を有するため、多孔性分離膜材料としても注目されている。
【0006】
これまで酸化チタンの光触媒特性は、酸化チタン粉末の固定床、水溶液では懸濁系、さらには無孔性基板上に酸化チタンをコーティング薄膜として性能評価が行われてきたが、光触媒の実用化に際して、固定床型、懸濁系では紫外線の散乱による光利用率の低下、懸濁系では溶液と酸化チタン粉末との分離、回収、薄膜系では表面積が小さいという点が問題点として挙げられる。
【0007】
そこで、発明者らは図1に示すように、ナノ細孔を透過させながら光触媒反応を行わせることで、膜透過側に光触媒反応した生成物を得る、膜透過型光触媒反応システムを提案している(非特許文献1,2)。
【0008】
当該システムでは、酸化チタンのナノ細孔を有機物が透過する間に、有機物が細孔表面へ表面吸着され直接分解される、あるいは細孔内に高密度に存在するOHラジカルと反応すると考えられ、対流支援による光触媒反応速度の向上、光触媒反応した溶液(あるいはガス)を膜透過側に選択的に得ることができる、膜細孔による分子篩機能との複合化、等の特徴を有すると考えられている。また、本発明者らは、当該システムは液相系だけでなく、気相系におけるメタノールの光触媒分解にも有効であることを明らかにしている(非特許文献3)。
【0009】
さらに、酸化チタンに白金などの第8族元素をドープすることで光触媒活性が大幅に増加することが報告されている。
【非特許文献1】Tsuru T, D.Hironaka, T.Yoshioka and M.Asaeda., Sep. Purif.Technol. 25, 307-314, , 2001
【非特許文献2】Tsuru T, T.Toyosada, T.Yoshioka and M.Asaeda., J. Chem. Eng. Japan, 36, 1063-1069, 2003
【非特許文献3】Toshinori Tsuru, Takehiro Kan-no, Tomohisa Yoshioka, Masashi Asaeda., Catalysis Today, 82, 41-48, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術では、揮発性有機化合物を完全に分解することはできないという問題がある。すなわち、上記膜透過型光触媒反応システムは白金などの第8族元素を担持したものではないため、酸化チタン内部あるいは表面で、光照射によって発生した正孔と電子とが再結合し、量子収率が低下してしまう。したがって、光触媒活性の向上という点では未だ不十分であり、揮発性有機化合物を完全に分解除去することはできない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、白金等の第8族元素を担持したナノ多孔性酸化チタン膜、およびこれを用いてメタノール等の揮発性有機化合物を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜を構成する二酸化チタン分子の一部または全部に、白金等の第8族に属する金属を担持させることにより、揮発性有機化合物を効率的に分解除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持していることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、光照射によって発生した電子を、上記二酸化チタン分子に担持された金属が捕獲し、電子と光照射によって生じた正孔との再結合速度を低下させるため、上記正孔の寿命を延ばすことができ、量子収率を大幅に増加させることができる。したがって、非常に効率よく揮発性有機化合物を分解することができる。
【0015】
また、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜では、上記金属は白金であることが好ましい。白金は第8族に属する元素の中でも最も活性が高い金属であるため、上記二酸化チタン分子に担持することにより、上記量子収率を最も効果的に増加させることができる。したがって、非常に効率よく揮発性有機化合物を分解することができる。
【0016】
また、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜では、上記膜が有するナノ細孔の細孔径が2〜25nmであることが好ましい。ナノ細孔中の透過機構は、細孔径が小さくなるに従って、粘性、Knudsen流れ、分子ふるいへと分類される。分子同士の衝突よりもナノ細孔の壁との接触が支配的となるKnudsen流れでは、揮発性有機化合物と、光触媒活性を有する酸化チタン細孔との接触が支配的となり、細孔径が小さくなるにつれて揮発性有機化合物の分解率が向上することが期待される。
【0017】
上記膜の細孔径が2〜25nmの範囲は、コロイドゾルの粒径を調整することによって制御が可能な範囲であり、透過機構はKnudsen流れとなる範囲である。したがって、揮発性有機化合物の分解率を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射する工程と、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、上記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備えることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、上記金属を担持しているため、光照射によって発生した多くの電子を上記金属に集めることができる。その結果、電子と正孔とが再結合する割合が減少し、電子反応速度を高めることができるため、上記金属を担持しない場合と比較して、光触媒活性が大幅に高まったものとなっている。したがって、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射し、上記膜が有するナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、一度透過させるだけでほぼ完全に揮発性有機化合物を分解することができる。
【0020】
また、本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法では、上記揮発性有機化合物がメタノール、エタノールおよび/またはアセトアルデヒドであることが好ましい。メタノール、エタノール、アセトアルデヒドは代表的な揮発性有機化合物である。本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法では、これらの揮発性有機化合物を効率よく分解することができる。したがって、上記化合物による人体や環境への影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているものであるため、上記金属を担持しない場合よりも揮発性有機化合物の分解効率を大幅に向上させることができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に光を照射する工程と、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、上記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備えるものであるため、上記化合物を一度透過させるだけでほぼ完全に分解することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜、揮発性有機化合物(以下「VOC」と称する)の処理方法について詳述する。
【0024】
(1)ナノ多孔性酸化チタン膜
本発明に係る「ナノ多孔性酸化チタン膜」とは、二酸化チタン(チタニアともいう)を主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているものである。
【0025】
上記ナノ多孔性酸化チタン膜は、二酸化チタンを主成分とする膜であるので、二酸化チタン(TiO2)のみからなるものであってもよいし、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、二酸化チタンの光触媒活性を高めるための微量の元素等を挙げることができる。
【0026】
上記基材は濾過器具として一般に使用されている材質からなる。濾過器具として一般に使用されている材質からなる、平均細孔径が1μm程度の多孔質材であれば、その形状等は特に制限されない。例えば、平均細孔径が1μm程度の透過孔を有するαアルミナやムライト等の無機質材料を用いることが好ましい例として示される。中でも、強度が高く、下地処理加工が容易にできる点で、αアルミナを用いることが好ましい。そして、その形状は、管状(1cm程度以上の外径)、キャピラリー状(1〜10mm程度の外径)、モノリス状(多数孔一体型)、平板状等と任意のものとすることができる。
【0027】
本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、上記のような基材に対し、ゾル−ゲル法またはCVD法によって直接形成されることが好ましい。上記ナノ多孔性酸化チタン膜は、細孔径を極力均一にすることが好ましいため、細孔径を制御しやすいゾル−ゲル法を用いて膜を製造することが好ましい。
【0028】
ここで、ゾル−ゲル法とは、金属塩の液状コロイド溶液を用い、引き続き行う熱処理によってゲルを得る前駆体の製造方法をいう(JIS工業用語大辞典 第5版、1294頁)。
【0029】
上記ゾル−ゲル法においては、コロイドゾルの粒径を調整することで、ナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径を制御することができる。そしてコロイドゾルの粒径は、コロイド溶液を調整する際の縮重合反応温度によって制御することができる。
【0030】
ナノ多孔性酸化チタン膜は、基材の形状によって異なるが、基材の外面、内面、または内外の両面に作製することができる。さらに、VOCの分解には、一つの多孔性膜で対応してもよいし、基材の異なる面や別の基材に相異なる方法で作成された複数の膜を用いる等してもよい。
【0031】
また、ナノ多孔性酸化チタン膜の基材への担持の態様は特に限定されるものではないが、光触媒反応の効率を高める観点から、基材に一様に担持されていることが好ましい。
【0032】
図2は、チューブ状に成形したナノ多孔性酸化チタン膜の模式図である。図2では、例えばαアルミナを基材としたナノ多孔性酸化チタン膜は、ガラス原料を用いてガラスチューブに接続され、上記ガラスチューブは、一方が閉じ、他方は上記膜を透過した透過物を回収するため開放されている。
【0033】
上記二酸化チタンの分子は、その一部または全部が第8族に属する金属を担持している。第8族に属する金属は、上述のように正孔の寿命を延ばすことができ、量子収率を大幅に増加させることができる。第8族に属する金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられるが、最も活性が高いため、白金が特に好ましく用いられる。
【0034】
二酸化チタン分子へ上記金属を担持する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、触媒を含む溶液中に担体を浸して乾燥する方法である含浸法や、光照射によってできた還元サイトで金属イオンを還元・蒸着させて金属を担持する方法である光蒸着法等を用いることができる。なお、上記「担持」とは、何らかの物質に触媒物質が載っているような状態をいう。
【0035】
一実施形態において、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜では、上記膜が有するナノ細孔の細孔径が2〜25nmであることが好ましい。メタノール等のVOCの平均自由行程は数十nmと考えられることから、上記細孔径が2〜25nmであるナノ多孔性酸化チタン膜のVOCの透過機構は、流れ場の構造が、分子間衝突と分子の境界との衝突のうち、分子の境界との衝突が主であるKnudsen流れであり、VOCと、光触媒活性を有するナノ細孔との接触が支配的となる。また、上記細孔径が2〜25nmの範囲は、コロイドゾルの粒径を調整することによって任意に制御が可能な範囲である。
【0036】
したがって、上記膜の細孔径を2〜25nmとすることにより、Knudsen流れを作り出すことができ、金属を担持した二酸化チタンとVOCとの接触頻度を増加させることができるため、VOCの分解率を向上させることができる。また、上記細孔径は小さい方が好ましい。細孔径が小さいほど、細孔内での光触媒活性サイトとVOCとの接触効率が増大するため、VOCの分解率をより向上させることができる。
【0037】
なお、平均自由行程とは、分子が他の分子と衝突して、次に他の分子と衝突するまでに進む距離の平均のことである。
【0038】
白金等の金属を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜では、光照射によって発生した正孔と電子とが二酸化チタン内部あるいは表面で再結合する。すなわち、このような電子反応過程が律速反応となる。一方、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、白金等の第8族に属する金属を担持しているものであるため、光照射によって発生した多くの電子を上記金属に集めることができる。その結果電子と正孔とが再結合する割合が減少し、電子反応速度を高めることができるため、白金等の金属を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜に比べて、光触媒活性が大幅に高まったものとなっている。
【0039】
例えば、後述する実施例に示すように、上記金属を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜は、100ppm程度のメタノールを完全に光触媒分解することはできたが、メタノールの供給濃度の増大とともに分解率は低下し、完全酸化物である二酸化炭素の生成率が減少して、有害な中間生成物であるホルムアルデヒドの生成量が増加した。一方、白金を担持したナノ多孔性酸化チタン膜はメタノールの供給濃度に関わらずメタノールをほぼ完全に分解し、ホルムアルデヒドを生成することもなく、メタノールをほぼ100%二酸化炭素にまで分解することができた。
【0040】
したがって、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、大気中に存在するVOCの分解除去に非常に有効であるということができ、空気清浄装置だけでなく、エアコンのフィルターや空気清浄機のフィルター等に用いることが可能である。
【0041】
(2)VOCの処理方法
本発明に係るVOCの処理方法は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に光を照射する工程と、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔にVOCを透過させることにより、上記VOCを分解する工程と、を備える。
【0042】
上記ナノ細孔は、気体状のVOCを透過することができる細孔径を有していればよいが、上述のようにKnudsen流れを作り出すことができるため、細孔径が2〜25nmであることが好ましく、細孔内での光触媒活性サイトとVOCとの接触効率を増大させるため、細孔径は小さいほど好ましい。
【0043】
上記VOCの種類は、大気中に存在するものを分解除去すれば、人体や環境への悪影響を防ぐことができると考えられるため、特に限定されるものではない。分解除去の対象としては、主として、工業用原料、溶剤等に含まれるVOCを挙げることができる。
【0044】
例えば、メタノール、エタノール、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、 テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、2,4−ジメチルペンタン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、m,p−キシレン、o−キシレン、スチレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、α−ピネン、リモネン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、1,1,1,−トリ クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロジブロモメタン、p−ジクロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ノナナール、デカナール等が分解除去の対象となりうる。
【0045】
また、上記VOCは、それぞれ単独で上記ナノ細孔に透過させてもよいし、混合物として透過させてもよい。
【0046】
ナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射する工程は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射することによって、光触媒反応を起こさせる工程である。照射する光は、特に限定されるものではないが、二酸化チタンが400nm以下の紫外線領域の光を吸収し、価電子帯の電子を伝道帯に励起して正孔を発生するので、紫外線を照射することが好ましい。
【0047】
上記照射は、例えば紫外線ランプによってナノ多孔性酸化チタン膜の表面に紫外光を照射することにより行われる。紫外線照射手段としては、紫外線ランプとしてのブラックライトが好適に用いられるが、その他にも、水銀ランプ、キセノンランプ等を使用することもできる。
【0048】
図1は、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔にVOCを透過させることにより、上記VOCを分解する工程を示す模式図である。本発明に係るVOCの処理方法では、VOCをナノ細孔に透過させながら光触媒反応を行わせることで、膜透過側に光触媒反応した生成物を得ることができる。
【0049】
上記ナノ多孔性酸化チタン膜は、上述のように白金等の第8属に属する金属を担持しているため、VOCの分解効率が非常に向上している。
【0050】
光の照射によってナノ多孔性酸化チタン膜に発生した正孔によって、VOCはナノ細孔を透過する間に酸化分解される。このとき、上記金属が光照射によって生じた電子を捕捉し、正孔の寿命が延びるため、上記金属が担持されていない場合と比べて、VOCの酸化分解が亢進される。その結果、VOCをナノ細孔に一度透過させるだけでほぼ完全にVOCを分解することができる。
【0051】
また、本発明に係るVOCの処理方法によれば、濾過によって細孔に目詰まりを起こしている有機物(ファウリング物質)をも分解することもできる。このことは、従来の技術において不可欠とされていた膜の洗浄あるいは逆洗等といった洗浄工程を必要とせずに、ファウリング物質を分解して膜の透過流束を回復させることを可能とするものである。
【0052】
図3は、本発明に係るVOCの処理方法を実施するための光触媒膜型反応装置1の概略を示す模式図である。
【0053】
図3に示すように、光触媒膜型反応装置1は、ガスボンベ11、マスフロー12、バブリング装置13、プレヒーター14、光源15、ナノ多孔性酸化チタン膜16、膜セル17、バルブ18、熱電対19、ガスクロマトグラフィー20、バイパスライン21を備えて構成されている。
【0054】
ナノ多孔性酸化チタン膜16は、ガスボンベ11から供給された空気とバブリング装置13において混合され、プレヒーター14で加熱されたVOCを透過するものである。上述のように、ナノ多孔性酸化チタン膜16は、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持している。
【0055】
ガスボンベ11は、空気を充填したボンベであり、空気をバブリング装置13に供給する。マスフロー12は、バブリング装置13に供給される空気の流量を調整するためのものである。バブリング装置13は、VOCを充填しており、当該化合物とガスボンベ11から供給される空気とを混合して蒸気とするためのものである。プレヒーター14は、当該蒸気を光触媒反応温度に加熱するためのものである。
【0056】
光源15は、ナノ多孔性酸化チタン膜16に光を照射するためのものであり、上述のようにブラックライトが好適に用いられるが、その他にも、水銀ランプ、キセノンランプ等を用いることもできる。
【0057】
膜セル17はVOCと空気との混合蒸気が供給される反応室である。また、膜セル17内にはナノ多孔性酸化チタン膜16が固定されている。膜セル17は、それ自身が光触媒反応を起こしたり、VOCと反応したりしない安定な物質であり、光を透過することができる物質からなるものであればよい。例えば、石英やパイレックス(登録商標)などが好適に用いられる。
【0058】
上記混合蒸気がナノ多孔性酸化チタン膜16が有するナノ細孔に入り、ナノ多孔性酸化チタン膜16に光が照射されると、光触媒反応が生じる。すなわち、光のエネルギーによってナノ多孔性酸化チタン膜16にOHラジカルが高密度に生成され、VOCがOHラジカルと反応して酸化分解される。また、VOCがナノ細孔の表面に吸着して直接分解される場合もある。
【0059】
本発明に係るVOCの処理方法では、このような過程によってVOCが酸化分解される。上記ナノ多孔性酸化チタン膜は上述のように白金等の第8属に属する金属を担持しているので、VOCをほぼ完全に酸化分解することができ、膜透過側に完全に浄化されたガスを得ることができる。
【0060】
また、後述する実施例に示すように、上記金属を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜は、VOCの供給濃度の増加に伴って分解率が低下するが、上記金属を担持したナノ多孔性酸化チタン膜を用いる本発明に係る方法ではVOCの供給濃度に関わらず高い分解率を保つことができるので、非常に効率よくVOCの酸化分解を行うことができる。
【0061】
バルブ18はガス流路を切り替えるためのものである。また、熱電対19はナノ多孔性酸化チタン膜16の温度を測定するためのものである。ガスクロマトグラフィー20は酸化分解されたVOCの組成分析を行うためのものである。また、バイパスライン21は供給VOCの濃度を調整するためのものである。
【0062】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0063】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。なお、ナノ多孔性酸化チタン膜の作製、作製したナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔の測定、ナノ多孔性酸化チタン膜への白金の担持、光触媒反応は、次のようにして行った。
【0064】
(ナノ多孔性酸化チタン膜の作製)
ナノ多孔性酸化チタン膜の作製は、ゾル−ゲル法によって行った。出発原料としてはチタンイソプロポキシド(以下「TTIP」と称する)を用いた。TTIPを分散媒としてのイソプロピルアルコール(以下「IPA」と称する)、触媒としての塩酸と混合し、その後所定量の水を加え、約4℃で1時間加水分解した。出発溶液の組成比(モル比)はTTIP/IPA/水/塩酸=1/140/4/0.4とした。
【0065】
加水分解後に所定温度(20〜50℃)で10時間熟成することで、二酸化チタンコロイドゾルの調製を行った(非特許文献1)。この熟成温度によって二酸化チタンコロイドゾルの粒径を制御することが可能であり、動的光散乱法によって測定した粒径は30〜100nm程度であった。なお、上記粒径の測定は動的光散乱光度計(ELS800、大塚電子(株)製)によって行った。
【0066】
基材としては、多孔質α−アルミナ管(孔径1μm、長さ9cm、外径1cm)を用いた。まず、上記α−アルミナ管上に二酸化チタン微粒子(ST−41、石原産業(株)製、粒径200nm)および市販の二酸化チタンのゾル溶液(STS−01,石原産業(株)製)を担持することで中間層を形成した。その後、二酸化チタンコロイドゾル(非特許文献1)を粒径の大きなコロイドから順に段階的にコーティングし、焼成することにより、ナノ多孔性酸化チタン膜を作製した。なお、上記焼成は温度450℃で15分以上、大気雰囲気中で行った。
【0067】
(ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔の測定)
作製したナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔の測定は、ナノパームポロメトリー(NanoPermPorometer、西華産業(株)製)を用いて行った。ナノパームポロメトリーは、窒素とヘキサン蒸気とを多孔質に供給し、蒸気成分の毛管凝縮による窒素透過のブロッキングによって細孔径を測定するものである。
【0068】
(ナノ多孔性酸化チタン膜への白金の担持)
ナノ多孔性酸化チタン膜への白金の担持は、光蒸着法を用いて行った。まず、試験管中で、超純水にH2PtCl6・6H2Oを溶解して調製した溶液(溶液の総重量約19.0g)に白金を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜を浸した。この溶液に窒素を約20×10−6m3/minで30分間流した後、ナノ多孔性酸化チタン膜にブラックライト(350nm、4W)を10〜120分照射した。H2PtCl6・6H2Oの初濃度は0.6mol/m3または1.9mol/m3とした。
【0069】
ブラックライト照射後、ナノ多孔性酸化チタン膜を蒸留水でリンスし、室温で30分乾燥後、100℃で90分乾燥した。担持された白金の濃度はICP分析によって決定し、ナノ多孔性酸化チタン膜に担持された白金の量はブラックライトの照射前後の濃度差から計算した。
【0070】
(光触媒反応)
ナノ多孔性酸化チタン膜16(10φ×90mm)を用い、光源15としてブラックライト(350nm、4W)4〜8本を用いた。VOC成分としてはメタノール、エタノール、またはアセトアルデヒドを用い、空気流量100〜500cc/min、VOC濃度を100〜12000ppm、水蒸気濃度を600〜25000ppm、反応温度を80〜110℃とした。
【0071】
VOC濃度はマスフロー12によって調整し、水蒸気濃度はバブリング装置13の温度(0℃、30℃)と、スイープ法とバブリング法とで4種類に調整した。分析には2台のガスクロマトグラフィー20を用い、GC1(カラム:PorapakT)ではメタノール、ホルムアルデヒド、水、蟻酸、エタノール、アセトアルデヒドの分析を行い、GC2(カラム:Gaskropack54)では二酸化炭素の定量を行った。
【0072】
〔実施例1:ナノ多孔性酸化チタン膜〕
図4は、上記方法によって作製したナノ多孔性酸化チタン膜の断面SEM像を示すものである。図4に示すように、基材の外側表面に約数μmの厚みの中間層、およびその上に形成された厚さ1μm以下のコロイドコーティング層が観察された。したがって、二酸化チタン層は中間層を含めても数μm程度と考えられる。石英板上に二酸化チタンの薄膜を作製し、UV/Vis spectra(Jasco,V−570)を用いて、二酸化チタン薄膜の紫外線透過率を測定した。その結果、膜厚1μmの二酸化チタン層の示す波長350nmの透過率は約30%程度と推定されたことから、分離選択性を発現するコロイドコーティング層においては、ブラックライトから照射された紫外光はほぼ浸透しているものと考えられる。
【0073】
図5は、ナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。図5から明らかなように、乾燥窒素の透過率で無次元化した窒素透過率が50%を示す細孔径は2nmから17nm程度に制御することが可能であった。この細孔径はコーティングに用いるコロイドゾルの粒径によって制御した。乾燥窒素の透過率は1〜2×10−5mol/s/m2/Paの範囲であった。
【0074】
なお、これらの膜の中間層は粒径が200nmの酸化チタン微粒子を用いてコーティングしているため、中間層の細孔径は数10nmの範囲と推定される。したがって、図5に示した細孔径はコロイドコーティング層の細孔径を示しているといえる。
【0075】
図6は、白金担持前後におけるナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。白金担持前の細孔径は約16nmであったが、ブラックライトを120分照射後には細孔径は10nmに減少した。
【0076】
図7は、ナノ多孔性酸化チタン膜の平均細孔径と白金蒸着量に及ぼす光蒸着時間の関係を示すものである。図7に示すように、光蒸着時間の進行とともに細孔径が減少し、白金の蒸着量は増加して、両者とも一定値に漸近する傾向が見られた。塩化白金酸の初濃度は1.95mol/m3および0.61m3としたが、初濃度によらず白金の蒸着量は一定値に漸近した。これは、白金を膜表面に形成するとブラックライトが透過しなくなり、光蒸着が終了したことによるものと考えられる。
【0077】
〔実施例2:本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜によるメタノール分解〕
図8(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応量とメタノール濃度との関係を示すものである。また、図8(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応速度とメタノール濃度との関係を示すものである。メタノールの酸化分解過程は、メタノール→ホルムアルデヒド→蟻酸→二酸化炭素として表され、酸化分解過程において有害なホルムアルデヒドが生成される。
【0078】
図8(a)に示すように、白金が担持されている本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、メタノール供給濃度に関わらずメタノールをほぼ完全に分解し、二酸化炭素生成率もほぼ100%を示した。また、メタノール分解量も増加し、二酸化炭素生成量も大きく増加した。このことから、白金担持はメタノール酸化分解反応に極めて有効であることが分かる。
【0079】
白金担持によってメタノール分解率はほぼ100%となり、また、メタノールがほぼ二酸化炭素まで酸化される完全酸化に向かう傾向を示した。
【0080】
〔実施例3:本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜によるエタノール分解およびアセトアルデヒド分解〕
図9は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜にエタノールを供給したときの濃度依存性、および白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜との比較の結果を示すものである。(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給エタノール濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給エタノール濃度との関係を示すものである。
【0081】
また、図10は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜にアセトアルデヒドを供給したときの濃度依存性、および白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜との比較の結果を示すものである。(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。
【0082】
ここで、ナノ多孔性酸化チタン膜の白金の担持量は図7より8.4×10−5gであると推定される。
【0083】
まず、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜を用いた場合の分解反応の挙動を、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜の結果と比較すると、VOCがエタノールの場合、エタノール転化率は大幅に増加し、アセトアルデヒドおよび二酸化炭素選択率はそれぞれ大幅に減少、増加しており、ナノ多孔性酸化チタン膜に白金を担持することによる分解特性の向上が確かめられた。
また、VOCがアセトアルデヒドの場合も同様に、アセトアルデヒド転化率は増加、ホルムアルデヒドおよび二酸化炭素選択率はそれぞれ減少、増加する傾向がみられた。
【0084】
〔実施例4:VOCの分解特性の挙動〕
実施例3では、空気流量を固定し供給VOC濃度を変化させることによるVOC分解特性の挙動を検討した。実施例4では、供給VOC濃度を固定し空気流量を変化させる、つまり滞留時間を変化させることによりVOC分解特性の挙動を検討した。
【0085】
図11は供給VOCをエタノール、アセトアルデヒドとした場合の滞留時間依存性を、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とで比較した結果を示すものである。(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応率と滞留時間との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と滞留時間との関係を示すものである。
【0086】
ここで、滞留時間は、アルミナ支持体管の体積(厚さ1mm)を用いて算出した。図11において、破線は本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜の結果を表し、実線は白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜の結果を表すものである。
【0087】
本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜における滞留時間依存性については、測定できた最小の滞留時間においてアセトアルデヒド選択率が一番大きく、滞留時間の値が増加していくにつれて減少し、滞留時間が0.7秒程度のところでほぼ完全酸化を維持することがわかった。またエタノール転化率は終始100%の状態を維持することがわかった。
【0088】
また、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜におけるアセトアルデヒド生成速度の挙動は極大を持ち、かつ、上に凸となっているが、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜におけるものは下に凸となっていることがわかった。
【0089】
この挙動の違いについて考えられることとして、まず、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜における分解性能が白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜のそれよりも優れているので、ナノ多孔性酸化チタン膜よりも滞留時間が小さい時点で完全酸化に向かうことが考えられる。そのために、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜におけるアセトアルデヒド分解速度の挙動の右側部分、つまり完全酸化に向かう傾向を示している部分が左にシフトした状態が再現されていると考えられる。
【0090】
〔比較例1:白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を用いたメタノール分解反応〕
図12は、種々のメタノール供給濃度におけるメタノール、二酸化炭素、ホルムアルデヒド、水が白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を透過した後の濃度の経時変化を示すものである。
【0091】
図12の(1)に示す領域では、上記ナノ多孔性酸化チタン膜への供給メタノール濃度をバイパスライン21を用いて約100ppmに調整した。光源としてはブラックライトを用いて紫外光を照射しており、輻射電熱によって上記ナノ多孔性酸化チタン膜の中心温度は約110〜120℃に保たれている。図12の(2)に示す領域において、供給メタノールを上記ナノ多孔性酸化チタン膜に全量透過させたところ、上記ナノ多孔性酸化チタン膜透過後のメタノール濃度はほぼゼロまで減少した。
【0092】
一方、図12の(2)に示す領域においては、図12の(1)に示す領域と比べて、水の濃度は750ppmから900ppmに増加し、二酸化炭素の濃度は450ppmから550ppmに増加した。ホルムアルデヒドは検出されなかった。これは、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔へ強制対流によって原料メタノールが供給され、均一な滞留時間で光触媒活性のある細孔内を透過したために、高い分解率が得られたものと考えられる。
【0093】
図12の(3)、(4)、(5)に示す領域においては、メタノール供給濃度をそれぞれ1100ppm、4400ppm、2300ppmに調整した。メタノール濃度と二酸化炭素濃度はステップ状に変化しており、比較的短時間で定常状態に達した。すなわち、メタノールの光触媒反応が起こっていることが明らかとなった。また、完全酸化への中間生成物であるホルムアルデヒドは、供給メタノールが低濃度のときは検出されなかったが、高濃度のときは検出された。
【0094】
図13は、反応速度(メタノール分解速度、ホルムアルデヒド生成速度、二酸化炭素生成速度)および反応率(メタノール転化率、ホルムアルデヒド選択率、二酸化炭素選択率)のメタノール濃度依存性を示すものである。メタノール分解速度は、上記ナノ多孔性酸化チタン膜の入り口側の濃度と透過側の濃度との差と、空気流量の積から求めたものであり、メタノール分解率、二酸化炭素生成率、ホルムアルデヒド生成率はメタノール分解速度に対するそれぞれの反応速度の割合である。
【0095】
供給メタノール濃度が低いところではメタノール分解率、二酸化炭素生成率は高く、ホルムアルデヒド生成率は低い傾向を示した。また、供給メタノール濃度の増加とともに、メタノール分解量は減少しながら漸近し、ホルムアルデヒド生成量は増加しながら漸近した。メタノール分解速度とホルムアルデヒド生成速度とはよく似た傾向を示した。
【0096】
このように、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を用いた場合は、供給メタノール濃度が増加するにつれてメタノールの分解率、二酸化炭素生成率が減少し、ホルムアルデヒドが高い生成率を保っていることから、中間生成物の割合が増加し、メタノールは完全酸化しないことが示された。完全酸化の割合が減少したのは、原料であるメタノールや中間生成物のホルムアルデヒドによって、光触媒活性なサイトが競争吸着によって占有されたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上のように、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタン分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているので、メタノール等の揮発性有機化合物を非常に効率よく分解することができる。
【0098】
そのため、本発明は例えば、エアコンのフィルター、空気清浄機のフィルターなどに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔にVOCを透過させることによりVOCを分解する工程を示す模式図である。
【図2】チューブ状に成形したナノ多孔性酸化チタン膜の模式図である。
【図3】本発明に係るVOCの処理方法を実施するための光触媒膜型反応装置1の概略を示す模式図である。
【図4】本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜の断面SEM像を示すものである。
【図5】本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。
【図6】白金担持前後におけるナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。
【図7】ナノ多孔性酸化チタン膜の平均細孔径と白金蒸着量に及ぼす光蒸着時間の関係を示すものである。
【図8】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応量と供給メタノール濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応率と供給メタノール濃度との関係を示すものである。
【図9】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給エタノール濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給エタノール濃度との関係を示すものである。
【図10】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。
【図11】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と滞留時間との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と滞留時間との関係を示すものである。
【図12】比較例1において、種々のメタノール供給濃度におけるメタノール、二酸化炭素、ホルムアルデヒド、水が白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を透過した後の濃度の経時変化を示すものである。
【図13】比較例1において、反応速度(メタノール分解速度、ホルムアルデヒド生成速度、二酸化炭素生成速度)および反応率(メタノール転化率、ホルムアルデヒド選択率、二酸化炭素選択率)のメタノール濃度依存性を示すものである。
【符号の説明】
【0100】
1 光触媒膜型反応装置
16 ナノ多孔性酸化チタン膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ多孔性酸化チタン膜およびこれを用いて揮発性有機化合物を処理する方法に関するものであり、特に、白金等の第8族元素を担持したナノ多孔性酸化チタン膜、およびこれを用いてメタノール等の揮発性有機化合物を分解する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
常温常圧で空気中に容易に揮発する揮発性有機化合物は、比重は水よりも重く、粘性が低くて、難分解性であることが多いため、地層粒子の間に浸透して土壌・地下水を汚染する。一方、大気中に放出され、光化学反応によってオキシダントやSPM(浮遊粒子状物質)の発生に関与していると考えられている。
【0003】
大気中に放出される揮発性有機化合物は、環境省の試算では国内で年間約185万トンあり、諸外国と較べて単位面積当たりの排出量が高いため、人体や環境への悪影響が問題視されている。さらに、近年は、化学物質による室内空気の汚染が顕在化するとともに、いわゆるシックハウス症候群や化学物質過敏症など健康に関する問題が注目されている。そのため、これらの揮発性有機化合物を除去するために、光触媒活性を持つ酸化チタンを用いた揮発性有機化合物の無害化処理技術が研究されてきている。
【0004】
酸化チタンは400nm以下の紫外線領域の光を吸収し、価電子帯の電子を伝導帯に励起し、正孔を生成する。さらに、正孔は水もしくは表面水酸基と反応し、OHラジカルを生成すると考えられている。生成した電子、および正孔もしくはOHラジカルは強い反応性を有し、環境汚染物質の分解反応をはじめ、その光触媒特性が大きな関心を集めている。
【0005】
一方、酸化チタンは、フッ酸や濃硫酸以外の酸、アルカリ、有機溶媒に溶解せず、優れた化学的安定性を有するため、多孔性分離膜材料としても注目されている。
【0006】
これまで酸化チタンの光触媒特性は、酸化チタン粉末の固定床、水溶液では懸濁系、さらには無孔性基板上に酸化チタンをコーティング薄膜として性能評価が行われてきたが、光触媒の実用化に際して、固定床型、懸濁系では紫外線の散乱による光利用率の低下、懸濁系では溶液と酸化チタン粉末との分離、回収、薄膜系では表面積が小さいという点が問題点として挙げられる。
【0007】
そこで、発明者らは図1に示すように、ナノ細孔を透過させながら光触媒反応を行わせることで、膜透過側に光触媒反応した生成物を得る、膜透過型光触媒反応システムを提案している(非特許文献1,2)。
【0008】
当該システムでは、酸化チタンのナノ細孔を有機物が透過する間に、有機物が細孔表面へ表面吸着され直接分解される、あるいは細孔内に高密度に存在するOHラジカルと反応すると考えられ、対流支援による光触媒反応速度の向上、光触媒反応した溶液(あるいはガス)を膜透過側に選択的に得ることができる、膜細孔による分子篩機能との複合化、等の特徴を有すると考えられている。また、本発明者らは、当該システムは液相系だけでなく、気相系におけるメタノールの光触媒分解にも有効であることを明らかにしている(非特許文献3)。
【0009】
さらに、酸化チタンに白金などの第8族元素をドープすることで光触媒活性が大幅に増加することが報告されている。
【非特許文献1】Tsuru T, D.Hironaka, T.Yoshioka and M.Asaeda., Sep. Purif.Technol. 25, 307-314, , 2001
【非特許文献2】Tsuru T, T.Toyosada, T.Yoshioka and M.Asaeda., J. Chem. Eng. Japan, 36, 1063-1069, 2003
【非特許文献3】Toshinori Tsuru, Takehiro Kan-no, Tomohisa Yoshioka, Masashi Asaeda., Catalysis Today, 82, 41-48, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術では、揮発性有機化合物を完全に分解することはできないという問題がある。すなわち、上記膜透過型光触媒反応システムは白金などの第8族元素を担持したものではないため、酸化チタン内部あるいは表面で、光照射によって発生した正孔と電子とが再結合し、量子収率が低下してしまう。したがって、光触媒活性の向上という点では未だ不十分であり、揮発性有機化合物を完全に分解除去することはできない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、白金等の第8族元素を担持したナノ多孔性酸化チタン膜、およびこれを用いてメタノール等の揮発性有機化合物を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜を構成する二酸化チタン分子の一部または全部に、白金等の第8族に属する金属を担持させることにより、揮発性有機化合物を効率的に分解除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持していることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、光照射によって発生した電子を、上記二酸化チタン分子に担持された金属が捕獲し、電子と光照射によって生じた正孔との再結合速度を低下させるため、上記正孔の寿命を延ばすことができ、量子収率を大幅に増加させることができる。したがって、非常に効率よく揮発性有機化合物を分解することができる。
【0015】
また、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜では、上記金属は白金であることが好ましい。白金は第8族に属する元素の中でも最も活性が高い金属であるため、上記二酸化チタン分子に担持することにより、上記量子収率を最も効果的に増加させることができる。したがって、非常に効率よく揮発性有機化合物を分解することができる。
【0016】
また、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜では、上記膜が有するナノ細孔の細孔径が2〜25nmであることが好ましい。ナノ細孔中の透過機構は、細孔径が小さくなるに従って、粘性、Knudsen流れ、分子ふるいへと分類される。分子同士の衝突よりもナノ細孔の壁との接触が支配的となるKnudsen流れでは、揮発性有機化合物と、光触媒活性を有する酸化チタン細孔との接触が支配的となり、細孔径が小さくなるにつれて揮発性有機化合物の分解率が向上することが期待される。
【0017】
上記膜の細孔径が2〜25nmの範囲は、コロイドゾルの粒径を調整することによって制御が可能な範囲であり、透過機構はKnudsen流れとなる範囲である。したがって、揮発性有機化合物の分解率を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射する工程と、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、上記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備えることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、上記金属を担持しているため、光照射によって発生した多くの電子を上記金属に集めることができる。その結果、電子と正孔とが再結合する割合が減少し、電子反応速度を高めることができるため、上記金属を担持しない場合と比較して、光触媒活性が大幅に高まったものとなっている。したがって、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射し、上記膜が有するナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、一度透過させるだけでほぼ完全に揮発性有機化合物を分解することができる。
【0020】
また、本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法では、上記揮発性有機化合物がメタノール、エタノールおよび/またはアセトアルデヒドであることが好ましい。メタノール、エタノール、アセトアルデヒドは代表的な揮発性有機化合物である。本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法では、これらの揮発性有機化合物を効率よく分解することができる。したがって、上記化合物による人体や環境への影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているものであるため、上記金属を担持しない場合よりも揮発性有機化合物の分解効率を大幅に向上させることができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る揮発性有機化合物の処理方法は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に光を照射する工程と、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、上記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備えるものであるため、上記化合物を一度透過させるだけでほぼ完全に分解することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜、揮発性有機化合物(以下「VOC」と称する)の処理方法について詳述する。
【0024】
(1)ナノ多孔性酸化チタン膜
本発明に係る「ナノ多孔性酸化チタン膜」とは、二酸化チタン(チタニアともいう)を主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているものである。
【0025】
上記ナノ多孔性酸化チタン膜は、二酸化チタンを主成分とする膜であるので、二酸化チタン(TiO2)のみからなるものであってもよいし、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、二酸化チタンの光触媒活性を高めるための微量の元素等を挙げることができる。
【0026】
上記基材は濾過器具として一般に使用されている材質からなる。濾過器具として一般に使用されている材質からなる、平均細孔径が1μm程度の多孔質材であれば、その形状等は特に制限されない。例えば、平均細孔径が1μm程度の透過孔を有するαアルミナやムライト等の無機質材料を用いることが好ましい例として示される。中でも、強度が高く、下地処理加工が容易にできる点で、αアルミナを用いることが好ましい。そして、その形状は、管状(1cm程度以上の外径)、キャピラリー状(1〜10mm程度の外径)、モノリス状(多数孔一体型)、平板状等と任意のものとすることができる。
【0027】
本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、上記のような基材に対し、ゾル−ゲル法またはCVD法によって直接形成されることが好ましい。上記ナノ多孔性酸化チタン膜は、細孔径を極力均一にすることが好ましいため、細孔径を制御しやすいゾル−ゲル法を用いて膜を製造することが好ましい。
【0028】
ここで、ゾル−ゲル法とは、金属塩の液状コロイド溶液を用い、引き続き行う熱処理によってゲルを得る前駆体の製造方法をいう(JIS工業用語大辞典 第5版、1294頁)。
【0029】
上記ゾル−ゲル法においては、コロイドゾルの粒径を調整することで、ナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径を制御することができる。そしてコロイドゾルの粒径は、コロイド溶液を調整する際の縮重合反応温度によって制御することができる。
【0030】
ナノ多孔性酸化チタン膜は、基材の形状によって異なるが、基材の外面、内面、または内外の両面に作製することができる。さらに、VOCの分解には、一つの多孔性膜で対応してもよいし、基材の異なる面や別の基材に相異なる方法で作成された複数の膜を用いる等してもよい。
【0031】
また、ナノ多孔性酸化チタン膜の基材への担持の態様は特に限定されるものではないが、光触媒反応の効率を高める観点から、基材に一様に担持されていることが好ましい。
【0032】
図2は、チューブ状に成形したナノ多孔性酸化チタン膜の模式図である。図2では、例えばαアルミナを基材としたナノ多孔性酸化チタン膜は、ガラス原料を用いてガラスチューブに接続され、上記ガラスチューブは、一方が閉じ、他方は上記膜を透過した透過物を回収するため開放されている。
【0033】
上記二酸化チタンの分子は、その一部または全部が第8族に属する金属を担持している。第8族に属する金属は、上述のように正孔の寿命を延ばすことができ、量子収率を大幅に増加させることができる。第8族に属する金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられるが、最も活性が高いため、白金が特に好ましく用いられる。
【0034】
二酸化チタン分子へ上記金属を担持する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、触媒を含む溶液中に担体を浸して乾燥する方法である含浸法や、光照射によってできた還元サイトで金属イオンを還元・蒸着させて金属を担持する方法である光蒸着法等を用いることができる。なお、上記「担持」とは、何らかの物質に触媒物質が載っているような状態をいう。
【0035】
一実施形態において、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜では、上記膜が有するナノ細孔の細孔径が2〜25nmであることが好ましい。メタノール等のVOCの平均自由行程は数十nmと考えられることから、上記細孔径が2〜25nmであるナノ多孔性酸化チタン膜のVOCの透過機構は、流れ場の構造が、分子間衝突と分子の境界との衝突のうち、分子の境界との衝突が主であるKnudsen流れであり、VOCと、光触媒活性を有するナノ細孔との接触が支配的となる。また、上記細孔径が2〜25nmの範囲は、コロイドゾルの粒径を調整することによって任意に制御が可能な範囲である。
【0036】
したがって、上記膜の細孔径を2〜25nmとすることにより、Knudsen流れを作り出すことができ、金属を担持した二酸化チタンとVOCとの接触頻度を増加させることができるため、VOCの分解率を向上させることができる。また、上記細孔径は小さい方が好ましい。細孔径が小さいほど、細孔内での光触媒活性サイトとVOCとの接触効率が増大するため、VOCの分解率をより向上させることができる。
【0037】
なお、平均自由行程とは、分子が他の分子と衝突して、次に他の分子と衝突するまでに進む距離の平均のことである。
【0038】
白金等の金属を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜では、光照射によって発生した正孔と電子とが二酸化チタン内部あるいは表面で再結合する。すなわち、このような電子反応過程が律速反応となる。一方、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、白金等の第8族に属する金属を担持しているものであるため、光照射によって発生した多くの電子を上記金属に集めることができる。その結果電子と正孔とが再結合する割合が減少し、電子反応速度を高めることができるため、白金等の金属を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜に比べて、光触媒活性が大幅に高まったものとなっている。
【0039】
例えば、後述する実施例に示すように、上記金属を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜は、100ppm程度のメタノールを完全に光触媒分解することはできたが、メタノールの供給濃度の増大とともに分解率は低下し、完全酸化物である二酸化炭素の生成率が減少して、有害な中間生成物であるホルムアルデヒドの生成量が増加した。一方、白金を担持したナノ多孔性酸化チタン膜はメタノールの供給濃度に関わらずメタノールをほぼ完全に分解し、ホルムアルデヒドを生成することもなく、メタノールをほぼ100%二酸化炭素にまで分解することができた。
【0040】
したがって、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、大気中に存在するVOCの分解除去に非常に有効であるということができ、空気清浄装置だけでなく、エアコンのフィルターや空気清浄機のフィルター等に用いることが可能である。
【0041】
(2)VOCの処理方法
本発明に係るVOCの処理方法は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に光を照射する工程と、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔にVOCを透過させることにより、上記VOCを分解する工程と、を備える。
【0042】
上記ナノ細孔は、気体状のVOCを透過することができる細孔径を有していればよいが、上述のようにKnudsen流れを作り出すことができるため、細孔径が2〜25nmであることが好ましく、細孔内での光触媒活性サイトとVOCとの接触効率を増大させるため、細孔径は小さいほど好ましい。
【0043】
上記VOCの種類は、大気中に存在するものを分解除去すれば、人体や環境への悪影響を防ぐことができると考えられるため、特に限定されるものではない。分解除去の対象としては、主として、工業用原料、溶剤等に含まれるVOCを挙げることができる。
【0044】
例えば、メタノール、エタノール、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、 テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、2,4−ジメチルペンタン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、m,p−キシレン、o−キシレン、スチレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、α−ピネン、リモネン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、1,1,1,−トリ クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロジブロモメタン、p−ジクロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ノナナール、デカナール等が分解除去の対象となりうる。
【0045】
また、上記VOCは、それぞれ単独で上記ナノ細孔に透過させてもよいし、混合物として透過させてもよい。
【0046】
ナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射する工程は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射することによって、光触媒反応を起こさせる工程である。照射する光は、特に限定されるものではないが、二酸化チタンが400nm以下の紫外線領域の光を吸収し、価電子帯の電子を伝道帯に励起して正孔を発生するので、紫外線を照射することが好ましい。
【0047】
上記照射は、例えば紫外線ランプによってナノ多孔性酸化チタン膜の表面に紫外光を照射することにより行われる。紫外線照射手段としては、紫外線ランプとしてのブラックライトが好適に用いられるが、その他にも、水銀ランプ、キセノンランプ等を使用することもできる。
【0048】
図1は、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔にVOCを透過させることにより、上記VOCを分解する工程を示す模式図である。本発明に係るVOCの処理方法では、VOCをナノ細孔に透過させながら光触媒反応を行わせることで、膜透過側に光触媒反応した生成物を得ることができる。
【0049】
上記ナノ多孔性酸化チタン膜は、上述のように白金等の第8属に属する金属を担持しているため、VOCの分解効率が非常に向上している。
【0050】
光の照射によってナノ多孔性酸化チタン膜に発生した正孔によって、VOCはナノ細孔を透過する間に酸化分解される。このとき、上記金属が光照射によって生じた電子を捕捉し、正孔の寿命が延びるため、上記金属が担持されていない場合と比べて、VOCの酸化分解が亢進される。その結果、VOCをナノ細孔に一度透過させるだけでほぼ完全にVOCを分解することができる。
【0051】
また、本発明に係るVOCの処理方法によれば、濾過によって細孔に目詰まりを起こしている有機物(ファウリング物質)をも分解することもできる。このことは、従来の技術において不可欠とされていた膜の洗浄あるいは逆洗等といった洗浄工程を必要とせずに、ファウリング物質を分解して膜の透過流束を回復させることを可能とするものである。
【0052】
図3は、本発明に係るVOCの処理方法を実施するための光触媒膜型反応装置1の概略を示す模式図である。
【0053】
図3に示すように、光触媒膜型反応装置1は、ガスボンベ11、マスフロー12、バブリング装置13、プレヒーター14、光源15、ナノ多孔性酸化チタン膜16、膜セル17、バルブ18、熱電対19、ガスクロマトグラフィー20、バイパスライン21を備えて構成されている。
【0054】
ナノ多孔性酸化チタン膜16は、ガスボンベ11から供給された空気とバブリング装置13において混合され、プレヒーター14で加熱されたVOCを透過するものである。上述のように、ナノ多孔性酸化チタン膜16は、二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持している。
【0055】
ガスボンベ11は、空気を充填したボンベであり、空気をバブリング装置13に供給する。マスフロー12は、バブリング装置13に供給される空気の流量を調整するためのものである。バブリング装置13は、VOCを充填しており、当該化合物とガスボンベ11から供給される空気とを混合して蒸気とするためのものである。プレヒーター14は、当該蒸気を光触媒反応温度に加熱するためのものである。
【0056】
光源15は、ナノ多孔性酸化チタン膜16に光を照射するためのものであり、上述のようにブラックライトが好適に用いられるが、その他にも、水銀ランプ、キセノンランプ等を用いることもできる。
【0057】
膜セル17はVOCと空気との混合蒸気が供給される反応室である。また、膜セル17内にはナノ多孔性酸化チタン膜16が固定されている。膜セル17は、それ自身が光触媒反応を起こしたり、VOCと反応したりしない安定な物質であり、光を透過することができる物質からなるものであればよい。例えば、石英やパイレックス(登録商標)などが好適に用いられる。
【0058】
上記混合蒸気がナノ多孔性酸化チタン膜16が有するナノ細孔に入り、ナノ多孔性酸化チタン膜16に光が照射されると、光触媒反応が生じる。すなわち、光のエネルギーによってナノ多孔性酸化チタン膜16にOHラジカルが高密度に生成され、VOCがOHラジカルと反応して酸化分解される。また、VOCがナノ細孔の表面に吸着して直接分解される場合もある。
【0059】
本発明に係るVOCの処理方法では、このような過程によってVOCが酸化分解される。上記ナノ多孔性酸化チタン膜は上述のように白金等の第8属に属する金属を担持しているので、VOCをほぼ完全に酸化分解することができ、膜透過側に完全に浄化されたガスを得ることができる。
【0060】
また、後述する実施例に示すように、上記金属を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜は、VOCの供給濃度の増加に伴って分解率が低下するが、上記金属を担持したナノ多孔性酸化チタン膜を用いる本発明に係る方法ではVOCの供給濃度に関わらず高い分解率を保つことができるので、非常に効率よくVOCの酸化分解を行うことができる。
【0061】
バルブ18はガス流路を切り替えるためのものである。また、熱電対19はナノ多孔性酸化チタン膜16の温度を測定するためのものである。ガスクロマトグラフィー20は酸化分解されたVOCの組成分析を行うためのものである。また、バイパスライン21は供給VOCの濃度を調整するためのものである。
【0062】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0063】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。なお、ナノ多孔性酸化チタン膜の作製、作製したナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔の測定、ナノ多孔性酸化チタン膜への白金の担持、光触媒反応は、次のようにして行った。
【0064】
(ナノ多孔性酸化チタン膜の作製)
ナノ多孔性酸化チタン膜の作製は、ゾル−ゲル法によって行った。出発原料としてはチタンイソプロポキシド(以下「TTIP」と称する)を用いた。TTIPを分散媒としてのイソプロピルアルコール(以下「IPA」と称する)、触媒としての塩酸と混合し、その後所定量の水を加え、約4℃で1時間加水分解した。出発溶液の組成比(モル比)はTTIP/IPA/水/塩酸=1/140/4/0.4とした。
【0065】
加水分解後に所定温度(20〜50℃)で10時間熟成することで、二酸化チタンコロイドゾルの調製を行った(非特許文献1)。この熟成温度によって二酸化チタンコロイドゾルの粒径を制御することが可能であり、動的光散乱法によって測定した粒径は30〜100nm程度であった。なお、上記粒径の測定は動的光散乱光度計(ELS800、大塚電子(株)製)によって行った。
【0066】
基材としては、多孔質α−アルミナ管(孔径1μm、長さ9cm、外径1cm)を用いた。まず、上記α−アルミナ管上に二酸化チタン微粒子(ST−41、石原産業(株)製、粒径200nm)および市販の二酸化チタンのゾル溶液(STS−01,石原産業(株)製)を担持することで中間層を形成した。その後、二酸化チタンコロイドゾル(非特許文献1)を粒径の大きなコロイドから順に段階的にコーティングし、焼成することにより、ナノ多孔性酸化チタン膜を作製した。なお、上記焼成は温度450℃で15分以上、大気雰囲気中で行った。
【0067】
(ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔の測定)
作製したナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔の測定は、ナノパームポロメトリー(NanoPermPorometer、西華産業(株)製)を用いて行った。ナノパームポロメトリーは、窒素とヘキサン蒸気とを多孔質に供給し、蒸気成分の毛管凝縮による窒素透過のブロッキングによって細孔径を測定するものである。
【0068】
(ナノ多孔性酸化チタン膜への白金の担持)
ナノ多孔性酸化チタン膜への白金の担持は、光蒸着法を用いて行った。まず、試験管中で、超純水にH2PtCl6・6H2Oを溶解して調製した溶液(溶液の総重量約19.0g)に白金を担持していないナノ多孔性酸化チタン膜を浸した。この溶液に窒素を約20×10−6m3/minで30分間流した後、ナノ多孔性酸化チタン膜にブラックライト(350nm、4W)を10〜120分照射した。H2PtCl6・6H2Oの初濃度は0.6mol/m3または1.9mol/m3とした。
【0069】
ブラックライト照射後、ナノ多孔性酸化チタン膜を蒸留水でリンスし、室温で30分乾燥後、100℃で90分乾燥した。担持された白金の濃度はICP分析によって決定し、ナノ多孔性酸化チタン膜に担持された白金の量はブラックライトの照射前後の濃度差から計算した。
【0070】
(光触媒反応)
ナノ多孔性酸化チタン膜16(10φ×90mm)を用い、光源15としてブラックライト(350nm、4W)4〜8本を用いた。VOC成分としてはメタノール、エタノール、またはアセトアルデヒドを用い、空気流量100〜500cc/min、VOC濃度を100〜12000ppm、水蒸気濃度を600〜25000ppm、反応温度を80〜110℃とした。
【0071】
VOC濃度はマスフロー12によって調整し、水蒸気濃度はバブリング装置13の温度(0℃、30℃)と、スイープ法とバブリング法とで4種類に調整した。分析には2台のガスクロマトグラフィー20を用い、GC1(カラム:PorapakT)ではメタノール、ホルムアルデヒド、水、蟻酸、エタノール、アセトアルデヒドの分析を行い、GC2(カラム:Gaskropack54)では二酸化炭素の定量を行った。
【0072】
〔実施例1:ナノ多孔性酸化チタン膜〕
図4は、上記方法によって作製したナノ多孔性酸化チタン膜の断面SEM像を示すものである。図4に示すように、基材の外側表面に約数μmの厚みの中間層、およびその上に形成された厚さ1μm以下のコロイドコーティング層が観察された。したがって、二酸化チタン層は中間層を含めても数μm程度と考えられる。石英板上に二酸化チタンの薄膜を作製し、UV/Vis spectra(Jasco,V−570)を用いて、二酸化チタン薄膜の紫外線透過率を測定した。その結果、膜厚1μmの二酸化チタン層の示す波長350nmの透過率は約30%程度と推定されたことから、分離選択性を発現するコロイドコーティング層においては、ブラックライトから照射された紫外光はほぼ浸透しているものと考えられる。
【0073】
図5は、ナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。図5から明らかなように、乾燥窒素の透過率で無次元化した窒素透過率が50%を示す細孔径は2nmから17nm程度に制御することが可能であった。この細孔径はコーティングに用いるコロイドゾルの粒径によって制御した。乾燥窒素の透過率は1〜2×10−5mol/s/m2/Paの範囲であった。
【0074】
なお、これらの膜の中間層は粒径が200nmの酸化チタン微粒子を用いてコーティングしているため、中間層の細孔径は数10nmの範囲と推定される。したがって、図5に示した細孔径はコロイドコーティング層の細孔径を示しているといえる。
【0075】
図6は、白金担持前後におけるナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。白金担持前の細孔径は約16nmであったが、ブラックライトを120分照射後には細孔径は10nmに減少した。
【0076】
図7は、ナノ多孔性酸化チタン膜の平均細孔径と白金蒸着量に及ぼす光蒸着時間の関係を示すものである。図7に示すように、光蒸着時間の進行とともに細孔径が減少し、白金の蒸着量は増加して、両者とも一定値に漸近する傾向が見られた。塩化白金酸の初濃度は1.95mol/m3および0.61m3としたが、初濃度によらず白金の蒸着量は一定値に漸近した。これは、白金を膜表面に形成するとブラックライトが透過しなくなり、光蒸着が終了したことによるものと考えられる。
【0077】
〔実施例2:本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜によるメタノール分解〕
図8(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応量とメタノール濃度との関係を示すものである。また、図8(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応速度とメタノール濃度との関係を示すものである。メタノールの酸化分解過程は、メタノール→ホルムアルデヒド→蟻酸→二酸化炭素として表され、酸化分解過程において有害なホルムアルデヒドが生成される。
【0078】
図8(a)に示すように、白金が担持されている本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は、メタノール供給濃度に関わらずメタノールをほぼ完全に分解し、二酸化炭素生成率もほぼ100%を示した。また、メタノール分解量も増加し、二酸化炭素生成量も大きく増加した。このことから、白金担持はメタノール酸化分解反応に極めて有効であることが分かる。
【0079】
白金担持によってメタノール分解率はほぼ100%となり、また、メタノールがほぼ二酸化炭素まで酸化される完全酸化に向かう傾向を示した。
【0080】
〔実施例3:本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜によるエタノール分解およびアセトアルデヒド分解〕
図9は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜にエタノールを供給したときの濃度依存性、および白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜との比較の結果を示すものである。(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給エタノール濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給エタノール濃度との関係を示すものである。
【0081】
また、図10は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜にアセトアルデヒドを供給したときの濃度依存性、および白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜との比較の結果を示すものである。(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。
【0082】
ここで、ナノ多孔性酸化チタン膜の白金の担持量は図7より8.4×10−5gであると推定される。
【0083】
まず、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜を用いた場合の分解反応の挙動を、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜の結果と比較すると、VOCがエタノールの場合、エタノール転化率は大幅に増加し、アセトアルデヒドおよび二酸化炭素選択率はそれぞれ大幅に減少、増加しており、ナノ多孔性酸化チタン膜に白金を担持することによる分解特性の向上が確かめられた。
また、VOCがアセトアルデヒドの場合も同様に、アセトアルデヒド転化率は増加、ホルムアルデヒドおよび二酸化炭素選択率はそれぞれ減少、増加する傾向がみられた。
【0084】
〔実施例4:VOCの分解特性の挙動〕
実施例3では、空気流量を固定し供給VOC濃度を変化させることによるVOC分解特性の挙動を検討した。実施例4では、供給VOC濃度を固定し空気流量を変化させる、つまり滞留時間を変化させることによりVOC分解特性の挙動を検討した。
【0085】
図11は供給VOCをエタノール、アセトアルデヒドとした場合の滞留時間依存性を、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とで比較した結果を示すものである。(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応率と滞留時間との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と滞留時間との関係を示すものである。
【0086】
ここで、滞留時間は、アルミナ支持体管の体積(厚さ1mm)を用いて算出した。図11において、破線は本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜の結果を表し、実線は白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜の結果を表すものである。
【0087】
本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜における滞留時間依存性については、測定できた最小の滞留時間においてアセトアルデヒド選択率が一番大きく、滞留時間の値が増加していくにつれて減少し、滞留時間が0.7秒程度のところでほぼ完全酸化を維持することがわかった。またエタノール転化率は終始100%の状態を維持することがわかった。
【0088】
また、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜におけるアセトアルデヒド生成速度の挙動は極大を持ち、かつ、上に凸となっているが、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜におけるものは下に凸となっていることがわかった。
【0089】
この挙動の違いについて考えられることとして、まず、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜における分解性能が白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜のそれよりも優れているので、ナノ多孔性酸化チタン膜よりも滞留時間が小さい時点で完全酸化に向かうことが考えられる。そのために、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜におけるアセトアルデヒド分解速度の挙動の右側部分、つまり完全酸化に向かう傾向を示している部分が左にシフトした状態が再現されていると考えられる。
【0090】
〔比較例1:白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を用いたメタノール分解反応〕
図12は、種々のメタノール供給濃度におけるメタノール、二酸化炭素、ホルムアルデヒド、水が白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を透過した後の濃度の経時変化を示すものである。
【0091】
図12の(1)に示す領域では、上記ナノ多孔性酸化チタン膜への供給メタノール濃度をバイパスライン21を用いて約100ppmに調整した。光源としてはブラックライトを用いて紫外光を照射しており、輻射電熱によって上記ナノ多孔性酸化チタン膜の中心温度は約110〜120℃に保たれている。図12の(2)に示す領域において、供給メタノールを上記ナノ多孔性酸化チタン膜に全量透過させたところ、上記ナノ多孔性酸化チタン膜透過後のメタノール濃度はほぼゼロまで減少した。
【0092】
一方、図12の(2)に示す領域においては、図12の(1)に示す領域と比べて、水の濃度は750ppmから900ppmに増加し、二酸化炭素の濃度は450ppmから550ppmに増加した。ホルムアルデヒドは検出されなかった。これは、上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔へ強制対流によって原料メタノールが供給され、均一な滞留時間で光触媒活性のある細孔内を透過したために、高い分解率が得られたものと考えられる。
【0093】
図12の(3)、(4)、(5)に示す領域においては、メタノール供給濃度をそれぞれ1100ppm、4400ppm、2300ppmに調整した。メタノール濃度と二酸化炭素濃度はステップ状に変化しており、比較的短時間で定常状態に達した。すなわち、メタノールの光触媒反応が起こっていることが明らかとなった。また、完全酸化への中間生成物であるホルムアルデヒドは、供給メタノールが低濃度のときは検出されなかったが、高濃度のときは検出された。
【0094】
図13は、反応速度(メタノール分解速度、ホルムアルデヒド生成速度、二酸化炭素生成速度)および反応率(メタノール転化率、ホルムアルデヒド選択率、二酸化炭素選択率)のメタノール濃度依存性を示すものである。メタノール分解速度は、上記ナノ多孔性酸化チタン膜の入り口側の濃度と透過側の濃度との差と、空気流量の積から求めたものであり、メタノール分解率、二酸化炭素生成率、ホルムアルデヒド生成率はメタノール分解速度に対するそれぞれの反応速度の割合である。
【0095】
供給メタノール濃度が低いところではメタノール分解率、二酸化炭素生成率は高く、ホルムアルデヒド生成率は低い傾向を示した。また、供給メタノール濃度の増加とともに、メタノール分解量は減少しながら漸近し、ホルムアルデヒド生成量は増加しながら漸近した。メタノール分解速度とホルムアルデヒド生成速度とはよく似た傾向を示した。
【0096】
このように、白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を用いた場合は、供給メタノール濃度が増加するにつれてメタノールの分解率、二酸化炭素生成率が減少し、ホルムアルデヒドが高い生成率を保っていることから、中間生成物の割合が増加し、メタノールは完全酸化しないことが示された。完全酸化の割合が減少したのは、原料であるメタノールや中間生成物のホルムアルデヒドによって、光触媒活性なサイトが競争吸着によって占有されたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上のように、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜は二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタン分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているので、メタノール等の揮発性有機化合物を非常に効率よく分解することができる。
【0098】
そのため、本発明は例えば、エアコンのフィルター、空気清浄機のフィルターなどに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔にVOCを透過させることによりVOCを分解する工程を示す模式図である。
【図2】チューブ状に成形したナノ多孔性酸化チタン膜の模式図である。
【図3】本発明に係るVOCの処理方法を実施するための光触媒膜型反応装置1の概略を示す模式図である。
【図4】本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜の断面SEM像を示すものである。
【図5】本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。
【図6】白金担持前後におけるナノ多孔性酸化チタン膜の細孔径分布の測定結果を示すものである。
【図7】ナノ多孔性酸化チタン膜の平均細孔径と白金蒸着量に及ぼす光蒸着時間の関係を示すものである。
【図8】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応量と供給メタノール濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜について、反応率と供給メタノール濃度との関係を示すものである。
【図9】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給エタノール濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給エタノール濃度との関係を示すものである。
【図10】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と供給アセトアルデヒド濃度との関係を示すものである。
【図11】(a)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応量と滞留時間との関係を示すものである。(b)は、本発明に係るナノ多孔性酸化チタン膜と白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜とについて、反応速度と滞留時間との関係を示すものである。
【図12】比較例1において、種々のメタノール供給濃度におけるメタノール、二酸化炭素、ホルムアルデヒド、水が白金を担持しないナノ多孔性酸化チタン膜を透過した後の濃度の経時変化を示すものである。
【図13】比較例1において、反応速度(メタノール分解速度、ホルムアルデヒド生成速度、二酸化炭素生成速度)および反応率(メタノール転化率、ホルムアルデヒド選択率、二酸化炭素選択率)のメタノール濃度依存性を示すものである。
【符号の説明】
【0100】
1 光触媒膜型反応装置
16 ナノ多孔性酸化チタン膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持していることを特徴とするナノ多孔性酸化チタン膜。
【請求項2】
上記金属は白金であることを特徴とする請求項1に記載のナノ多孔性酸化チタン膜。
【請求項3】
上記膜が有するナノ細孔の細孔径が2〜25nmであることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ多孔性酸化チタン膜。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射する工程と、
上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、上記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備えることを特徴とする揮発性有機化合物の処理方法。
【請求項5】
上記揮発性有機化合物がメタノール、エタノールおよび/またはアセトアルデヒドであることを特徴とする請求項4に記載の揮発性有機化合物の処理方法。
【請求項1】
二酸化チタンを主成分とする膜が基材の外面および/または内面に担持されたナノ多孔性酸化チタン膜であって、さらに、上記二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持していることを特徴とするナノ多孔性酸化チタン膜。
【請求項2】
上記金属は白金であることを特徴とする請求項1に記載のナノ多孔性酸化チタン膜。
【請求項3】
上記膜が有するナノ細孔の細孔径が2〜25nmであることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ多孔性酸化チタン膜。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のナノ多孔性酸化チタン膜に光を照射する工程と、
上記ナノ多孔性酸化チタン膜のナノ細孔に揮発性有機化合物を透過させることにより、上記揮発性有機化合物を分解する工程と、を備えることを特徴とする揮発性有機化合物の処理方法。
【請求項5】
上記揮発性有機化合物がメタノール、エタノールおよび/またはアセトアルデヒドであることを特徴とする請求項4に記載の揮発性有機化合物の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【公開番号】特開2006−326530(P2006−326530A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155914(P2005−155914)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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