説明

ナノ粒子体及びその製造方法

【課題】極性有機溶媒に対しても非極性有機溶媒に対しても分散性に優れるナノ粒子体を提供する。
【解決手段】金属又は金属酸化物のナノ粒子に、下記化学式(1)
【化1】


(ただし、R1は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、n=8〜16の整数、m+k=3であり且つm=1又は2、k=1又は2である。)
で示されるリン酸系の界面活性剤で表面を被覆するもので、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、銀、酸化チタン又は酸化鉄のナノ粒子であるもので、極性有機溶媒への親和性を有する親水基と非極性有機溶媒への親和性を有する疎水基とを粒子表面に有するナノ粒子体とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子体及びその製造方法、並びにナノ粒子体を分散させたナノ粒子分散体、ナノ粒子を含む複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は、医薬品、光学材料、顔料、触媒、電子材料等の広い分野で利用されている。本願において、ナノ粒子とは、平均粒子径がナノサイズ(1nm以上100nm以下)である粒子をいう。ナノ粒子の中で平均粒子径が10nm未満の粒子のみを指すときはシングルナノ粒子という。特に、粒子径が数nmの金属酸化物のシングルナノ粒子は特異な電磁気・光学的特性を示し、これらを樹脂などに高密度に分散させることによって、高密度記録媒体や光学素子等の新規材料の開発が期待されている。金属酸化物のナノ粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化インジウムなどのナノ粒子がよく知られている。酸化チタンのナノ粒子は、可視域における高い透明性などの特性を有し、光学フィルタやレンズ、塗料、化粧品等に利用されている。また、酸化鉄のナノ粒子は電磁波吸収体材料等に利用されており、銀のナノ粒子は抗菌材料等に利用されている。
【0003】
ナノ粒子の持つこのような優れた性能は、基材中への分散の均一性が高いほど、より十分に発揮されると考えられる。しかし、ナノ粒子は凝集しやすく、分散体中のナノ粒子の濃度が高いほど凝集しやすい。
【0004】
金属酸化物のナノ粒子を樹脂中に分散させる際にはまず、ナノ粒子を樹脂溶剤に均一に分散させる必要がある。従来、逆ミセル法、有機金属錯体の熱分解法などにより脂肪酸などの有機物で被覆された機能性ナノ粒子の調製方法が知られている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1参照)。いずれも得られたナノ粒子はヘキサンを始めとした非極性溶媒に一次粒子まで完全に均一分散が可能であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】P.A.Dresco他、「Langmuir」、15巻、p.1945−1951、1999年
【非特許文献2】T.Hyeon他、「Journal of the American Chemical Society」、123巻、p.12798−12801、2001年
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−69046号公報(0014段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1や非特許文献2に記載された調整法では、メタノール等の極性を有する溶媒には分散できず、得られたナノ粒子が完全分散する溶媒は特定の溶媒に限られるという問題があった。また、分散可能な溶媒が限られていることで、用途が限定されてしまうという問題があった。
【0008】
さらに、たとえナノ粒子を特定の溶媒で分散させることができても分散液中のナノ粒子を乾燥粉体にすると、凝集して溶媒への再分散が困難となり、ナノ粒子を再分散させた溶液を作製できないという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点を鑑みてなされたものである。本発明の第1の目的は、極性有機溶媒に対しても非極性有機溶媒に対しても分散性に優れるナノ粒子体を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、分散体中におけるナノ粒子の分散均一性に優れるナノ粒子分散体を提供することにある。
【0011】
本発明の第3の目的は、基材中におけるナノ粒子の分散均一性に優れる複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、上記第1の目的を達成するため、金属又は金属酸化物のナノ粒子に、下記化学式(1)
【化1】

(ただし、R1は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、n=8〜16の整数、m+k=3であり且つm=1又は2、k=1又は2である。)
で示されるリン酸系の界面活性剤で表面を被覆することを特徴とするナノ粒子体の製造方法を提供する。本発明の第1の態様によれば、ナノ粒子の表面がかかる界面活性剤で覆われるため、極性のある有機溶媒にも非極性の有機溶媒にも分散性に優れている。R1は、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、エチニル基、プロパルギル基が挙げられる。R1がアリル基であることは好ましい。上記化学式(1)の界面活性剤が、Rについては、炭素数10又は12のアルキル基、あるいは、炭素数14又は16のアルキル基が好ましい。なかでも、少ない量の界面活性剤でも高い分散性を実現できるナノ粒子体を得られる点において、また得られるナノ粒子体を各種有機溶媒に分散させたときの透明性の高さの点において、Rが炭素数10又は12のアルキル基であることが好ましく、n=12であることが特に好ましい。
【0013】
上記化学式(1)で示されるリン酸系の界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキル(アルケニル、アルキニル)エーテルと長鎖α−オレフィンオキサイドとを縮合させ、公知の方法を用いてリン酸エステル化することにより容易に得ることができる。
【0014】
上記したナノ粒子体の製造方法は、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、銀、酸化チタン又は酸化鉄のナノ粒子であることが好ましい。
【0015】
また、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタンのナノ粒子であって、前記ナノ粒子を含有する水溶液に、前記界面活性剤を含有する水溶液を混合する混合工程を含むことが好ましい。前記混合工程が、攪拌を行いながら前記希釈水溶液に前記界面活性剤を含有する水溶液をすばやく添加し、さらに攪拌を行うものであることがより好ましい。また、混合後に回収した粒子を乾燥する乾燥工程を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記混合工程において、界面活性剤の量を酸化チタン1gに対し1mmol以上3mmol以下とすることが好ましい。
【0017】
また、前記ナノ粒子が、平均粒子径8nm以下のシングルナノ粒子であることが好ましい。
【0018】
あるいは、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化鉄のナノ粒子であって、水酸化鉄水溶液を加熱して水溶液中に酸化鉄を生成させた水溶液に前記界面活性剤を混合する混合工程を含むことが好ましい。また混合した液の中に生成される析出物を磁石で回収して、乾燥させ粉末にすることが好ましい。
【0019】
またあるいは、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、銀のナノ粒子であって、硝酸銀水溶液に、前記界面活性剤と還元剤とを含有する水溶液を混合する混合工程を含むことが好ましい。混合した液にトルエンを加えて有機層に粒子を抽出させ、かかる有機層を回収して、溶媒を蒸発乾固させ粉末にすることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様は、上記第1の目的を達成するため、金属又は金属酸化物のナノ粒子に、下記化学式(1)
【化2】

(ただし、R1は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、n=8〜16の整数、m+k=3であり且つm=1又は2、k=1又は2である。)
で示されるリン酸系の界面活性剤で表面に被覆を施した粉末であることを特徴とするナノ粒子体を提供する。本発明の第2の態様によれば、ナノ粒子の表面が疎水基と親水基の両方で覆われているため、極性のある有機溶媒にも非極性の有機溶媒にも分散可能である。R1は、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、エチニル基、プロパルギル基が挙げられる。R1がアリル基であることは好ましい。上記化学式(1)の界面活性剤が、Rについては、炭素数10又は12のアルキル基、あるいは、炭素数14又は16のアルキル基が好ましい。各種有機溶媒に分散させたときの透明性の高さの点において、上記化学式(1)の界面活性剤が、Rについては、炭素数10又は12のアルキル基、あるいは、炭素数14又は16のアルキル基が好ましい。なかでも、Rが炭素数10又は12のアルキル基であることが好ましく、nについては、n=12であることが特に好ましい。
【0021】
上記したナノ粒子体は、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタン、酸化鉄又は銀のナノ粒子であることが好ましい。
【0022】
また、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタンのナノ粒子であって、平均粒子径8nm以下のシングルナノ粒子であることが好ましい。
【0023】
また、極性有機溶媒への親和性を有する親水基と非極性有機溶媒への親和性を有する疎水基とを粒子表面に有することが好ましい。分散性の点から、前記親水基が長鎖エチレンオキサイド基を含むものであり、前記疎水基が長鎖アルキル基を含むものであることが好ましい。特に、前記親水基が炭素数8〜16の直鎖のエチレンオキサイド基を含むものであり、前記疎水基が炭素数10〜16の長鎖アルキル基を含むものであることがより好ましく、さらに、前記親水基と前記疎水基が1つの分子内で分岐したものであって、分岐点がナノ粒子の表面に結合したリン酸基にエステル結合した炭素原子であることがさらに好ましい。
【0024】
また、非極性有機溶媒、極性有機溶媒のいずれに対しても平均凝集粒子径が200nm以下で分散することが好ましい。非極性有機溶媒、極性有機溶媒のいずれに対しても動的光散乱法による平均凝集粒子径が30nm以下で分散することがより好ましい。また、非極性有機溶媒、極性溶媒のいずれに分散させても透明性があることが好ましい。
【0025】
また、本発明の第3の態様は、上記第2の目的を達成するため、上記した本発明の第2の態様のナノ粒子体を、非極性有機溶媒又は極性有機溶媒中に分散する分散工程を含むことを特徴とするナノ粒子分散体製造方法を提供する。本発明の第3の態様によれば、溶媒に分散させるナノ粒子が凝集が極めて少なくしかも有機溶媒の極性の大小によらず分散性が高いナノ粒子体であるので、再度非極性有機溶媒や極性有機溶媒に分散させることによって、ナノ粒子が均一に分散された分散体を得られる。前記分散工程が、溶媒に超音波を照射しながらナノ粒子体を分散させる工程であることが好ましい。凝集を防止しながら分散されるので、より均一な分散体を得られる。
【0026】
また、本発明の第4の態様は、上記第2の目的を達成するため、上記した本発明の第2の態様のナノ粒子体と、非極性有機溶媒又は極性有機溶媒とを含有することを特徴とするナノ粒子分散体を提供する。本発明の第4の態様によれば、有機溶媒に分散されているのが、凝集が極めて少なくしかも有機溶媒の極性の大小によらず分散性が高いナノ粒子体であるので、分散体中のナノ粒子の分散均一性が高い。
【0027】
また、前記ナノ粒子体が、分散体中で平均凝集粒子径200nm以下であることが好ましい。さらに、前記ナノ粒子体が、分散体中で平均凝集粒子径30nm以下であることが好ましい。さらに、透明性を有することが好ましい。
【0028】
上記したナノ粒子分散体は、前記有機溶媒が、エタノール、メタクリル酸メチル、トルエン又はテトラヒドロフランであることが好ましい。
【0029】
また、本発明の第5の態様は、上記第3の目的を達成するため、上記した本発明の第4の態様のナノ粒子分散体に、樹脂溶液を添加して、溶媒を蒸発させて硬化させることを特徴とする複合材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第1の態様のナノ粒子体の製造方法又は本発明の第2の態様のナノ粒子体によれば、極性有機溶媒に対しても非極性有機溶媒に対しても分散性に優れる。
【0031】
また、本発明の第3の態様のナノ粒子分散体製造方法又は本発明の第4の態様のナノ粒子分散体によれば、分散体中におけるナノ粒子の分散均一性に優れる。
【0032】
また、本発明の第5の態様の複合材料の製造方法によれば、基材中におけるナノ粒子の分散均一性に優れる複合材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のナノ粒子体の実施例1A及び本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aaの作製フロー図である。
【図2】本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aa及び本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aaの各作製段階における状態を示す図である。
【図3】本発明のナノ粒子体の実施例1A、実施例1A´、実施例1A´´、比較例1X及び界面活性剤P12−10のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図4】本発明のナノ粒子体の実施例1B、実施例1B´、実施例1B´´、比較例1X及び界面活性剤P12−14のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図5】本発明のナノ粒子体の実施例1C、実施例1C´、実施例1C´´、比較例1X及び界面活性剤P8−10のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図6】本発明のナノ粒子体の実施例1D、実施例1D´、実施例1D´´、比較例1X及び界面活性剤P16−10のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図7】本発明のナノ粒子体の比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´、比較例1X及び界面活性剤S10のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図8】本発明のナノ粒子体の比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´、比較例1X及び界面活性剤S0のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図9】本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aa〜d、実施例1A´a〜d、実施例1A´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図10】本発明のナノ粒子分散体の実施例1Ba〜d、実施例1B´a〜d、実施例1B´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図11】発明のナノ粒子分散体の実施例1Ca〜d、実施例1C´a〜d、実施例1C´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図12】本発明のナノ粒子分散体の実施例1Da〜d、実施例1D´a〜d、実施例1D´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図13】本発明のナノ粒子分散体の実施例1D´´a〜dについての分散直後及び数日後の動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図14】本発明のナノ粒子分散体の比較例2Sa〜d、比較例2S´a〜d、比較例2S´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図15】本発明のナノ粒子分散体の比較例3Ta〜d、比較例3T´a〜d、比較例3T´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。
【図16】本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aa〜d、実施例1A´a〜dの透明性観察結果を示す図である。
【図17】本発明のナノ粒子分散体の実施例1A´´a〜d、実施例1B´´a〜d、実施例1C´´a〜d、実施例1D´´a〜dの透明性観察結果を示す図である。
【図18】本発明のナノ粒子分散体の実施例2Aa〜dの透明性観察結果を示す図である。
【図19】本発明のナノ粒子分散体の実施例3Aa〜dの透明性観察結果を示す図である。
【図20】本発明のナノ粒子分散体の比較例2Sa〜d、比較例2S´a〜d、比較例2S´´a〜dの透明性観察結果を示す図である。
【図21】本発明のナノ粒子分散体の比較例3Ta〜d、比較例3T´a〜d、比較例3T´´a〜dの透明性観察結果を示す図である。
【図22】本発明のナノ粒子分散体の実施例1A´a〜dの粒度分布図である。
【図23】本発明の複合材料の実施例1A´dFの透明性観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者らは、金属酸化物又は金属のナノ粒子に、疎水基と親水基の両方を有するアニオン系の特定のリン酸系界面活性剤を作用させると、粒子表面が界面活性剤で被覆された、ナノ粒子体を得ることができることを見出した。さらに、このようなナノ粒子体は、容易に非極性溶媒から極性溶媒まで、広い範囲の溶媒に分散でき、平均凝集粒子径が極めて小さく、透明性、および分散安定性の良好なナノ粒子分散体を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0035】
本発明の最良の実施形態は、金属又は金属酸化物のナノ粒子に、上記化学式(1)で示されるリン酸系の界面活性剤で表面を被覆するナノ粒子体及びその製造方法並びにかかるナノ粒子体を、非極性有機溶媒又は極性有機溶媒中に分散させたナノ粒子分散体及びその製造方法である。
【0036】
(ナノ粒子)
ナノ粒子は金属又はその酸化物のナノ粒子であって、リン酸と錯体を形成するものであれば特に制限されるものではないが、遷移金属であることが好ましい。金属又はその酸化物としては、例えば、銀、酸化チタンや酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化亜鉛などが挙げられるが、透明性の面からは、酸化チタンや酸化鉄、銀が好ましい。極性有機溶媒に分散させても非極性有機溶媒に分散させても、分散均一性が高く、透明性の高い分散液を得ることができる。なかでも、着色の少なさの面から、酸化チタンがより好ましい。
【0037】
ナノ粒子の一次粒子径は、100nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましい。一次粒子径が100nmを超えると分散がしにくくなる。平均粒子径8nm以下のシングルナノ粒子であると、得られるナノ粒子体は、有機溶媒に分散させるとき、溶媒の極性を問わず、一次粒子のレベルで分散でき、かかるナノ粒子体を再分散させたナノ粒子分散体は、粒子が均一に分散されるので均一性が高い。粒子径は小さい方がよく、下限は技術的に可能な限り限定されない。
【0038】
ナノ粒子の結晶構造は限定されないが、一次粒子径が比較的小さい方が分散性の点で優れるため、例えば酸化チタンであれば、粒子径が8nm以下を実現できるアナターゼ型が好ましい。
【0039】
ナノレベルの粒子に均一に表面修飾をするために、例えば、酸化チタンの場合、酸化チタンのナノ粒子を水中に分散させゾル状態にした酸化チタンゾルを出発原料とすることが好ましい。酸化鉄の場合、硫酸鉄の水和物と塩化鉄の水和物の混合水溶液を出発原料とすることが好ましく、銀の場合、硝酸銀水溶液を出発原料とすることが好ましい。出発原料中の金属又は金属酸化物の濃度は限定されず、たとえば、5wt%の薄いものであっても30wt%の濃いものであってもよい。
【0040】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、上記化学式(1)で表わされる界面活性剤が好ましい。本発明において、かかる界面活性剤は、粒子の表面を被覆する、表面被覆剤の役割を果たす。ナノ粒子の表面がかかる界面活性剤で覆われるため、極性のある有機溶媒にも非極性の有機溶媒にも分散可能で、しかも分散性に優れている。前記界面活性剤は、アニオン系の界面活性剤で、疎水基と親水基の両方を有するリン酸系界面活性剤であり、粒子表面に結合するリン酸基から疎水性を示すアルキル基と親水性を示すエチレンオキサイド基との枝分かれまでが近いので、ナノ粒子の表面を疎水基と親水基がバランスよく覆うため、得られるナノ粒子体は、極性のある有機溶媒にも非極性の有機溶媒にも分散性が高い。得られるナノ粒子体を、極性のある有機溶媒に分散させたときも、非極性の有機溶媒に分散させたときも、分散液の透明性が高い。したがって、得られるナノ粒子体は、従来利用できなかったり、十分に機能を発揮できなかったりした分野にもナノ粒子を利用可能となる。
【0041】
上記化学式(1)において、Rは炭素数10〜16のアルキル基、n=8〜16の整数であるが、Rについては、炭素数10又は12のアルキル基、あるいは、炭素数14又は16のアルキル基が好ましい。R1は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基であるが、R1がアリル基であることは好ましい。なかでも、少ない量の界面活性剤でも高い分散性を実現できるナノ粒子体を得られる点において、また得られるナノ粒子体を各種有機溶媒に分散させたときの透明性の高さの点において、上記化学式(1)の界面活性剤が、Rが炭素数10又は12のアルキル基であることが好ましく、nについては、n=12であることが特に好ましい。得られるナノ粒子体は、極性有機溶媒にも非極性有機溶媒にも一次粒子レベルで極めて良好に分散することができる。溶媒の選択肢が広くなり、利便性が非常に高く、広い分野で利用できる。
【0042】
粒子に結合する基(上記化学式(1)ではリン酸基)に近いところで疎水基(上記化学式(1)では長鎖アルキル鎖)と親水基(エチレンオキサイド鎖)に分岐していることがより好ましい。
【0043】
(ナノ粒子体)
界面活性剤で被覆修飾した粒子は、極性有機溶媒への親和性を有する親水基と非極性有機溶媒への親和性を有する疎水基とを粒子表面に有することが好ましい。極性有機溶媒への分散を可能とする親水基と非極性有機溶媒への分散を可能とする疎水基の両方を有しているので、極性有機溶媒でも非極性有機溶媒でも分散時に凝集体を形成しにくく高い分散性を発揮できる。分散性の点から、前記親水基が長鎖エチレンオキサイド基を含むものであり、前記疎水基が長鎖アルキル基を含むものであることが好ましい。特に、前記親水基がn数が8〜16のポリオキシエチレン基を含むものであり、前記疎水基が炭素数10〜16の長鎖アルキル基を含むものであることがより好ましく、さらに、前記親水基と前記疎水基が1つの分子内で分岐したものであって、分岐点がナノ粒子の表面に結合したリン酸基にエステル結合した炭素原子であることがさらに好ましい。
【0044】
非極性有機溶媒、極性有機溶媒のいずれに対しても平均凝集粒子径が200nm以下で分散することが好ましい。溶媒を問わず粒子が凝集せずに微細な粒子で分散するため、かかるナノ粒子体を分散させて得られるナノ粒子分散体は、前記ナノ粒子体が、分散体中で平均凝集粒子径200nm以下である分散体となり、したがって、分散体の中の粒子の均一性が高くなる。非極性有機溶媒、極性有機溶媒のいずれに対しても平均凝集粒子径30nm以下で分散することがより好ましい。一次粒子レベルで分散するため、得られるナノ粒子分散体が、前記ナノ粒子体が、分散体中で平均凝集粒子径30nm以下である分散体となり、したがって分散体の中の粒子の均一性がさらに高くなる。また、非極性有機溶媒、極性溶媒のいずれに分散させても透明性があることが好ましい。得られるナノ粒子分散体は、有機溶媒の極性を問わず、透明性を有し、したがって、光学材料や化粧品など応用分野が広くなる。さらに、透明性が高いことがより好ましい。より高性能な材料として応用できる。
【0045】
(溶媒)
ナノ粒子体を再分散させる溶媒としては、極性の大小を問わず、多様な有機溶媒が可能で、特に制限されない。たとえば、ペンタン、ヘキサンやオクタデカンなどの脂肪族飽和炭化水素、ドデセン、トリデセンやヘプタデセンなどの脂肪族不飽和炭化水素、トルエン、キシレンやベンゼンなどの芳香族炭化水素、また、これらのハロゲン化物(たとえばジクロロメタン、クロロホルムや四塩化炭素など)、また、エタノール、メタノールやブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンやジエチルケトンなどのケトン、メタクリル酸メチル、サリチル酸メチルや酢酸エチルなどのエステル、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)やN−メチルピロリドン(NMP)などのアミド類が挙げられる。
【0046】
(有機ポリマー)
複合材料を形成する有機ポリマーは、特に制限されず、例えば、ポリオレフィン樹脂やアクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0047】
(ナノ粒子体の製造方法)
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタンのナノ粒子であって、前記ナノ粒子を含有する水溶液に、前記界面活性剤を含有する水溶液を混合する混合工程を含むことが好ましい。ナノ粒子と界面活性剤との混合性がよくなるので、ナノ粒子の各粒子表面を均一に被覆しやすい。前記混合工程が、攪拌を行いながら前記希釈水溶液に前記界面活性剤を含有する水溶液をすばやく添加し、さらに攪拌を行うものであることがより好ましい。粒子表面への界面活性剤による被覆がより均一にできる。また、混合後に回収した粒子を乾燥する乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥した粉末としてナノ粒子体が得られるので、別の溶媒に再分散させやすい。また、取扱いや持ち運びが容易となる。また、ナノ粒子体の表面が被覆されているため、乾燥してもまとまりよく、粉末が飛散しにくい。したがって安全性にも優れる。
【0048】
前記混合工程において、界面活性剤の量を酸化チタン1gに対し1mmol以上3mmol以下とすることが好ましい。酸化チタン1gに対し3mmolを超えても高い分散性は有するが、表面修飾に寄与しない界面活性剤が多くなるため、コスト面では3mmol以下とすることが好ましい。また、界面活性剤が3mmolを超えると、界面活性剤同士が親水基を外側に向けた二分子層を形成しやすくなるので、ナノ粒子体の回収率の点でも3mmol以下とすることが好ましい。また、添加物はなるべく少ない方が不純物が少ないので好ましい。一方、1mmol未満であると、十分に粒子表面を被覆できないので、得られたナノ粒子体の分散性の点から1mmol以上とすることが好ましい。酸化チタン1gに対し1mmolでも十分に粒子表面の被覆を行うことができ高い分散性を有するが、酸化チタン1gに対し2mmol以上では、得られるナノ粒子体を有機溶媒に分散させたときの分散液の透明性が、溶媒の極性を問わず極めて高くなる。
【0049】
あるいは、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化鉄のナノ粒子であって、水酸化鉄水溶液を加熱して水溶液中に酸化鉄を生成させた水溶液に前記界面活性剤を混合する混合工程を含むことが好ましい。界面活性剤でナノ粒子の各粒子表面を均一に被覆しやすい。また混合した液の中に生成される析出物を磁石で回収して、乾燥させ粉末にすることが好ましい。不純物を含みにくく、乾燥した粉末としてナノ粒子体が得られるので、別の溶媒に再分散させやすい。また、取扱いや持ち運びが容易となる。また、ナノ粒子体の表面が被覆されているため、乾燥してもまとまりよく、粉末が飛散しにくい。したがって安全性にも優れる。
【0050】
またあるいは、前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、銀のナノ粒子であって、硝酸銀水溶液に、前記界面活性剤と還元剤とを含有する水溶液を混合する混合工程を含むことが好ましい。銀コロイドを生成する段階で界面活性剤による被覆を同時に行うので、ナノ粒子の各粒子表面を均一に被覆しやすい。混合した液にトルエンを加えて有機層に粒子を抽出させ、かかる有機層を回収して、溶媒を蒸発乾固させ粉末にすることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0052】
<ナノ粒子体の実施例1A及びナノ粒子分散体の実施例1Aaの作製>
図1は、本発明のナノ粒子体の実施例1A及び本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aaの作製フロー図である。ナノ粒子分散体の実施例1Aaは、ナノ粒子体の実施例1Aから作製する。ナノ粒子体の実施例1Aの作製過程においては、ナノ粒子を含有する水溶液に、前記界面活性剤を含有する水溶液を混合する混合工程を含む。ナノ粒子分散体の実施例1Aaの作製過程においては、かかるナノ粒子体を、非極性有機溶媒又は極性有機溶媒中に分散する分散工程を含む。詳細には以下のように作製した。
【0053】
(界面活性剤の合成例)
ナノ粒子体の実施例1Aでは、次の様に合成して得た界面活性剤を用いた。
【0054】
攪拌機、還流冷却器、温度計を備えた反応容器に、ポリ(12モル)オキシエチレンアリルエーテル587g(1モル)及び三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体1.2gを仕込み、60±5℃に保ちながらα−オレフィンオキサイド(炭素数12、14混合)205g(1モル)を2時間かけて滴下し、同温度にて2時間熟成した。
【0055】
次に、65℃以下を保ちながら無水リン酸71g(0.5g)を2〜3時間かけて投入し、その後60±5℃で3時間熟成し、イオン交換水10.8g(0.6モル)を加え、さらに80℃で5時間熟成することで界面活性剤P12−10を得た。
【0056】
上記の様に合成された界面活性剤P12−10は、上記化学式(1)で示されるリン酸系の界面活性剤であって、化学式(1)中のn=12であって、R1がアリル基で、Rが炭素数10のアルキル基であるものとRが炭素数12のアルキル基であるものを中心とし、m=2かつk=1であるリン酸モノエステルとm=1かつk=2であるリン酸ジエステルとを主成分とする混合物である。界面活性剤P12−10は、電離している側が粒子表面に結合する官能基であるリン酸基に結合している炭素原子の箇所で炭素数12の直鎖のエチレンオキサイド基を含む親水基と、炭素数10又は12の長鎖アルキル基である疎水基に分岐している。
【0057】
(ナノ粒子体の実施例1A)
最初にナノ粒子体の実施例1Aを作製した。まず、pH1.4の硝酸酸性の酸化チタンゾル(STS100、結晶子径5nm、平均粒子径6〜8nm、酸化チタン濃度20wt%、石原産業株式会社製)10gをイオン交換水80gで希釈した。出発原料がシングルナノ粒子の分散液であるため、得られるナノ粒子体が再分散する際に、分散が良ければ一次粒子のレベルで分散でき、均一性を高くできる。
【0058】
次に、希釈した溶液に、攪拌を施しながら界面活性剤P12−10の水溶液20gを加えた。ゾルの希釈水溶液に界面活性剤水溶液を混合することでナノ粒子と界面活性剤との混合性がよくなるので、ナノ粒子の各粒子表面を均一に被覆しやすい。実施例1Aにおいて、界面活性剤は、酸化チタン1gに対し1.0mmolの割合となるようにした。上記酸化チタンゾル10g中に2gの酸化チタンが含まれるため、上記界面活性剤は4.0mmolとした。攪拌を行いながら希釈水溶液に界面活性剤を含有する水溶液をすばやく添加し、さらに攪拌を行った。これにより、粒子表面への界面活性剤による被覆がより均一にできる。
【0059】
攪拌は、ビーカー内でスターラーを用いて3時間行った。図2は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aa及び本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aaの各作製段階における状態を示す図である。図2(1)は、攪拌中の状態を示す。
【0060】
界面活性剤の水溶液を添加後、すぐに溶液は白濁し、白い凝集物が析出した。図2(2)は、溶液中で粒子が凝集している状態を示す。界面活性剤は、粒子表面を被覆して粒子の表面修飾を行う表面被覆剤の役割を果たす。析出したのは、界面活性剤により表面修飾された粒子である。析出した凝集物を遠心分離で回収し、4回純水で洗浄した。洗浄により、粒子に結合していない界面活性剤や硝酸が除去される。回収率は100%近かった。
【0061】
次に、室温で一昼夜(17時間)真空乾燥を行った。これにより水分を除去し、粉末状態のナノ粒子体の実施例1Aを得た。図2(3)は、乾燥させた状態を示す。図2(3)において、丸く表わされた粒子の表面は、針状に突き出して表わされた界面活性剤で被覆されている。乾燥した粉末としてナノ粒子体が得られた。
【0062】
(ナノ粒子分散体の実施例1Aa)
作製したナノ粒子体の実施例1Aの粉末を粒子濃度が3wt%となるように2分間の超音波照射を5回行いながら、エタノール(EtOH:COH)(99.5%特級、関東化学株式会社製)に分散させて溶液状態とし、ナノ粒子分散体の実施例1Aaを得た。図2(4)は、ナノ粒子分散体の実施例1Aaで、ナノ粒子体の実施例1Aが分散されている状態を示す。超音波照射を行うことで、凝集を防止しながら分散されるので、より均一な分散体を得られる。
【0063】
<ナノ粒子体の実施例1A´及び実施例1A´´の作製>
実施例1Aにおいて界面活性剤P12−10を酸化チタン1gに対し1.0mmolの割合となるようにしたが、変形例として、酸化チタン1gに対する界面活性剤P12−10の割合を、2.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1A´とした。実施例1A´は、その他の点は上述したナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。回収率は100%に近かった。酸化チタン1gに対する界面活性剤P12−10の割合を3.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1A´´とした。実施例1A´´は、その他の点は上述したナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。回収率は50%程度であった。界面活性剤の量が多くなりすぎると界面活性剤分子が親水基を外側に向けた二分子層を形成しやすくなり、回収率が少し下がったと考えられる。
【0064】
<ナノ粒子体の実施例1B、実施例1B´及び実施例1B´´の作製>
別の変形例として、界面活性剤P12−10の代わりに、界面活性剤P12−14(α−オレフィンオキサイド(炭素数12、14混合)205g(1モル)をα−オレフィンオキサイド(炭素数16、18混合)271g(1モル)に変更した以外は合成方法は上述した界面活性剤P12−10の合成方法と同じで、上記化学式(1)におけるRが炭素数14のアルキル基であるものとRが炭素数16のアルキル基であるものを中心とした混合物である以外は界面活性剤P12−10と同様である混合物)としたものをナノ粒子体の実施例1Bとした。また、酸化チタン1gに対する界面活性剤P12−14の割合を、2.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1B´、3.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1B´´とした。上述した点以外はナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。
【0065】
<ナノ粒子体の実施例1C、実施例1C´及び実施例1C´´の作製>
また、別の変形例として、界面活性剤P12−10の代わりに、界面活性剤P8−10(ポリ(12モル)オキシエチレンアリルエーテル587g(1モル)をポリ(8モル)オキシエチレンアリルエーテル410g(1モル)に変更した以外は合成方法は上述した界面活性剤P12−10の合成方法と同じで、上記化学式(1)におけるn=8である以外は界面活性剤P12−10と同様である混合物)としたものをナノ粒子体の実施例1Cとした。酸化チタン1gに対する界面活性剤P8−10の割合を、2.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1C´、3.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1C´´とした。これらの実施例に用いた界面活性剤P8−10は、エチレンオキサイドの炭素数n以外の点は界面活性剤P12−10と同じである。上述した点以外はナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。
【0066】
<ナノ粒子体の実施例1D、実施例1D´及び実施例1D´´の作製>
また、同様に、界面活性剤P12−10の代わりに、界面活性剤P16−10(ポリ(12モル)オキシエチレンアリルエーテル587g(1モル)をポリ(16モル)オキシエチレンアリルエーテル763g(1モル)に変更した以外は合成方法は上述した界面活性剤P12−10の合成方法と同じで、上記化学式(1)におけるn=16である以外は界面活性剤P12−10と同様である混合物)としたものをナノ粒子体の実施例1Dとした。酸化チタン1gに対する界面活性剤P16−10の割合を、2.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1D´、3.0mmolにしたものをナノ粒子体の実施例1D´´とした。これらの実施例に用いた界面活性剤P16−10は、エチレンオキサイドの炭素数n以外の点は界面活性剤P12−10と同じである。上述した点以外はナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。
【0067】
<ナノ粒子体の実施例2Aの作製>
また別の変形例として、実施例1Aにおいて粒子の種類を酸化チタンでなく酸化鉄としたものをナノ粒子体の実施例2Aとした。ナノ粒子体の実施例2Aは、界面活性剤量や製造方法も実施例1Aとは異なり、水酸化鉄水溶液を加熱して水溶液中に酸化鉄を生成させた水溶液に前記界面活性剤を混合する混合工程を含むものであって、詳細には以下のように作製した。
【0068】
硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)0.765gと塩化第二鉄6水和物(FeCl・6HO)1.23gを30mlのイオン交換水に溶解させた水溶液に、攪拌を施しながら25wt%アンモニア水(NHOH水溶液)を3.75ml滴下して中和し、水酸化鉄水溶液を得た。その水溶液を80℃に昇温したのち、その水溶液に界面活性剤P12−10を0.36g加え、フラスコ内でスターラーを用いて80℃で1時間攪拌を施して混合することによって、酸化第二鉄(Fe)粒子を生成させて界面活性剤で粒子表面を被覆修飾した。攪拌後、生成した粒子を磁石により回収し、室温で一昼夜(17時間)真空乾燥を行った。これにより水分を除去し、粉末状態の酸化鉄のナノ粒子体の実施例2Aを得た。
【0069】
<ナノ粒子体の実施例3Aの作製>
またさらに別の変形例として、実施例1Aにおいて粒子の種類を酸化チタンでなく銀としたものをナノ粒子体の実施例3Aとした。ナノ粒子体の実施例3Aは、界面活性剤量や製造方法も実施例1Aとは異なり、硝酸銀水溶液に界面活性剤と還元剤とを含有する水溶液を混合する混合工程を含むものであって、詳細には以下のように作製した。
【0070】
還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)18mgと、13mgの界面活性剤P12−10とを、25mlのイオン交換水に溶解させた水溶液を1液とし、硝酸銀(AgNO)21mgを25mlの超純水に溶解させた水溶液を2液とし、1液に2液を氷浴中で攪拌しながら滴下し、Agコロイドを調製した。さらに、このように調整したAgコロイドにトルエンを50ml加えたのち、攪拌しながら0.1mol/lのリン酸(HPO)水溶液を10ml程度加えることで、界面活性剤P12−10で表面修飾させた銀ナノ粒子を有機層に抽出した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発乾固させて、粉末状態の銀のナノ粒子体の実施例3Aを得た。
【0071】
<ナノ粒子分散体の実施例1Aa−10%の作製>
また、ナノ粒子分散体の実施例1Aaの変形例として、粒子濃度が10wt%となるように分散させた、ナノ粒子分散体の実施例1Aa−10%を作製した。その他の条件はナノ粒子分散体の実施例1Aaと同じように作製した。ナノ粒子体の実施例1Aは、粒子濃度が10wt%という高濃度でも有機溶媒に分散した。
【0072】
<ナノ粒子分散体の実施例1Ab、実施例1Ac及び実施例1Adの作製>
また、ナノ粒子分散体の実施例1Aaの変形例として、ナノ粒子体の実施例1Aをエタノールに分散させる代わりに、テトラヒドロフラン(THF:CO)(安定剤含有脱水型有機合成用、和光純薬工業株式会社製)に分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1Abとし、メタクリル酸メチル(MMA:CH=C(CH)COOCH)(モノマー、和光特級、和光純薬工業株式会社製)に分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1Acとし、トルエン(Toluene:CH(C))(99.5%、和光純薬工業株式会社製)に分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1Adとした。実施例1Ac、実施例1Ac、実施例1Acとも、その他の点は上述したナノ粒子分散体の実施例1Aaと同じように作製した。実施例1Aは、エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの有機溶媒にも容易に分散した。
【0073】
<ナノ粒子分散体の1A´a、実施例1A´b、実施例1A´c及び実施例1A´dの作製>
別の変形例として、ナノ粒子体の実施例1A´を、エタノールに分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1A´aとし、テトラヒドロフランに分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1A´bとし、メタクリル酸メチルに分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1A´cとし、トルエンに分散させたものをナノ粒子分散体の実施例1A´dとした。これらの実施例は、他の点については上述したナノ粒子分散体の実施例1Aaと同じように作製した。実施例1A´は、エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの有機溶媒にも容易に分散した。
【0074】
<ナノ粒子分散体の他の実施例の作製>
また、ナノ粒子体の実施例1A´´、実施例1B、実施例1B´、実施例1B´´、実施例1C、実施例1C´、実施例1C´´、実施例1D、実施例1D´、実施例1D´´、実施例2A、実施例3Aについても同様に、エタノールに分散させたものをそれぞれナノ粒子分散体の実施例1A´´a、実施例1Ba、実施例1B´a、実施例1B´´a、実施例1Ca、実施例1C´a、実施例1C´´a、実施例1Da、実施例1D´a、実施例1D´´a、実施例2Aa、実施例3Aaとし、テトラヒドロフランに分散させたものをそれぞれナノ粒子分散体の実施例1A´´b、実施例1Bb、実施例1B´b、実施例1B´´b、実施例1Cb、実施例1C´b、実施例1C´´b、実施例1Db、実施例1D´b、実施例1D´´b、実施例2Ab、実施例3Abとし、メタクリル酸メチルに分散させたものをそれぞれナノ粒子分散体の実施例1A´´c、実施例1Bc、実施例1B´c、実施例1B´´c、実施例1Cc、実施例1C´c、実施例1C´´c、実施例1Dc、実施例1D´c、実施例1D´´c、実施例2Ac、実施例3Acとし、トルエンに分散させたものをそれぞれナノ粒子分散体の実施例1A´´d、実施例1Bd、実施例1B´d、実施例1B´´d、実施例1Cd、実施例1C´d、実施例1C´´d、実施例1Dd、実施例1D´d、実施例1D´´d、実施例2Ad、実施例3Adとした。ナノ粒子分散体のこれらの実施例は、他の点については上述したナノ粒子分散体の実施例1Aaと同じように作製した。ナノ粒子体の実施例1A´´、実施例1B、実施例1B´、実施例1B´´、実施例1C、実施例1C´、実施例1C´´、実施例1D、実施例1D´、実施例1D´´、実施例2A、実施例3Aはいずれも、エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの有機溶媒にも容易に分散した。
【0075】
<ナノ粒子体の比較例及びナノ粒子分散体の比較例の作製>
硝酸酸性の酸化チタンゾル(STS100、結晶子径5nm、平均粒子径6〜8nm、酸化チタン濃度20wt%、石原産業株式会社製)を100℃で熱風乾燥を行い、ナノ粒子体の比較例1Xを得た。また、別の比較例として、硝酸酸性の酸化チタンゾル(STS100、結晶子径5nm、平均粒子径6〜8nm、酸化チタン濃度20wt%、石原産業株式会社製)10gをイオン交換水80gで希釈した分散液に、界面活性剤を添加せず、アセトンを加えて粒子を析出させ、上記実施例1Aと同様な遠心分離を行った後、100℃で熱風乾燥を行い、ナノ粒子体の比較例1Yを得た。比較例1Yは、他の点は上述したナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。
【0076】
また、界面活性剤が異なる比較例として、実施例1Aにおいて界面活性剤を界面活性剤P12−10とした代わりに、下記化学式(2)
【0077】
【化3】

【0078】
で示される、アニオン重合性界面活性剤(SE−10N、株式会社ADEKA製)(以下、界面活性剤S10という。)とし、酸化チタン1gに対し1.0mmolの割合となるようにしたものをナノ粒子体の比較例2S、酸化チタン1gに対する界面活性剤S10の割合を、2.0mmolにしたものをナノ粒子体の比較例2S´とし、3.0mmolにしたものをナノ粒子体の比較例2S´´とした。比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´とも、その他の点は上述したナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。界面活性剤S10は、粒子表面に結合する官能基に親水基であるエチレンオキサイド基を介してから分岐した疎水基を有する。
【0079】
また、界面活性剤が異なる別の比較例として、実施例1Aにおいて界面活性剤を界面活性剤P12−10とした代わりに、下記化学式(3)
【0080】
【化4】

【0081】
(ただし、Rは、炭素数12〜14のアルキル基)で示される、アニオン重合性界面活性剤(エレミノールJS−20 有効成分38.7%、三洋化成工業株式会社製)(以下、界面活性剤S0という。)とし、酸化チタン1gに対し1.0mmolの割合となるようにしたものをナノ粒子体の比較例3T、酸化チタン1gに対する界面活性剤S0の割合を、2.0mmolにしたものをナノ粒子体の比較例3T´とし、3.0mmolにしたものをナノ粒子体の比較例3T´´とした。比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´とも、その他の点は上述したナノ粒子体の実施例1Aと同じように作製した。界面活性剤S0は、粒子表面に結合する官能基に結合した炭素原子の箇所で分岐した疎水基を有する。
【0082】
また、ナノ粒子体の比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´、比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´についても同様に、エタノールに分散させたものをナノ粒子分散体の比較例2Sa、比較例2S´a、比較例2S´´a、比較例3Ta、比較例3T´a、比較例3T´´aとし、テトラヒドロフランに分散させたものをナノ粒子分散体の比較例2Sb、比較例2S´b、比較例2S´´b、比較例3Tb、比較例3T´b、比較例3T´´bとし、メタクリル酸メチルに分散させたものをナノ粒子分散体の比較例2Sc、比較例2S´c、比較例2S´´c、比較例3Tc、比較例3T´c、比較例3T´´cとし、トルエンに分散させたものをナノ粒子分散体の比較例2Sd、比較例2S´d、比較例2S´´d、比較例3Td、比較例3T´d、比較例3T´´dとした。これらの比較例は、他の点は上述したナノ粒子分散体の実施例1Aaと同じように作製した。
【0083】
本発明の実施例1A等に用いた界面活性剤P12−10と、比較例2S等に用いた界面活性剤S10及び比較例3T等に用いた界面活性剤S0について、下記表1に詳細な情報を示す。
【0084】
【表1】

【0085】
P12−10とS0について、界面活性剤のアルキル基R、Rは複数の炭素数が混合しており、S0は炭素数が12のものが大部分であるので、表1中、分子量については、S0では上記化学式(3)においてR=C1225として算出し、P12−10では上記化学式(1)において、m=2、k=1、n=12、R1=CHCHCH、R=C1021として算出した。
【0086】
<ナノ粒子体の特性:定性分析>
各実施例及び比較例並びに界面活性剤についてのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計;Fourier Transform Infrared Spectroscopy)でのスペクトル測定により、粒子表面の構造について定性分析を行った。サンプルは、各実施例については試料0.03gに臭化カリウム(KBr)0.4g、各比較例については試料0.5gにKBr0.05gの混合比で調整した。また界面活性剤であるP12−10については試料0.0034gにKBr0.3987g、P12−14については試料0.0027gにKBr0.3700g、P8−10については試料0.0051gにKBr0.4078g、P16−10については試料0.0042gにKBr0.3979gの混合比で調整した。
【0087】
図3は、本発明のナノ粒子体の実施例1A、実施例1A´、実施例1A´´、比較例1X及び界面活性剤P12−10のFT−IRスペクトルを示す図である。図3において、aは実施例1A´´、bは実施例1A´、cは実施例1A、dは比較例1X、eは界面活性剤P12−10のスペクトルを示す。実施例1A´´、実施例1A´、実施例1Aのスペクトルでは、界面活性剤由来と考えられる2800〜3000cm−1付近のC−H伸縮振動ピークが観察された。また、界面活性剤の親水基のP=O伸縮振動のピークが観察された。これらの結果によって、実施例1A、実施例1A´、実施例1A´´が界面活性剤P12−10で被覆されていることが確認された。
【0088】
図4は、本発明のナノ粒子体の実施例1B、実施例1B´、実施例1B´´、比較例1X及び界面活性剤P12−14のFT−IRスペクトルを示す図である。図4において、aは実施例1B´´、bは実施例1B´、cは実施例1B、dは比較例1X、eは界面活性剤P12−14のスペクトルを示す。実施例1B´´、実施例1B´、実施例1Bのスペクトルでは、界面活性剤由来と考えられる2800〜3000cm−1付近のC−H伸縮振動ピークが観察された。また、界面活性剤の親水基のP=O伸縮振動のピークが観察された。これらの結果によって、実施例1B、実施例1B´が界面活性剤P12−14で被覆されていることが確認された。
【0089】
図5は、本発明のナノ粒子体の実施例1C、実施例1C´、実施例1C´´、比較例1X及び界面活性剤P8−10のFT−IRスペクトルを示す図である。図5において、aは実施例1C´´、bは実施例1C´、cは実施例1C、dは比較例1X、eは界面活性剤P8−10のスペクトルを示す。実施例1C´´、実施例1C´、実施例1Cのスペクトルでは、界面活性剤由来と考えられる2800〜3000cm−1付近のC−H伸縮振動ピークが観察された。また、界面活性剤の親水基のP=O伸縮振動のピークが観察された。これらの結果によって、実施例1C、実施例1C´が界面活性剤P8−10で被覆されていることが確認された。
【0090】
図6は、本発明のナノ粒子体の実施例1D、実施例1D´、実施例1D´´、比較例1X及び界面活性剤P16−10のFT−IRスペクトルを示す図である。図6において、aは実施例1D´´、bは実施例1D´、cは実施例1D、dは比較例1X、eは界面活性剤P16−10のスペクトルを示す。実施例1D´´、実施例1D´、実施例1Dのスペクトルでは、界面活性剤由来と考えられる2800〜3000cm−1付近のC−H伸縮振動ピークが観察された。また、界面活性剤の親水基のP=O伸縮振動のピークが観察された。これらの結果によって、実施例1D、実施例1D´が界面活性剤P16−10で被覆されていることが確認された。
【0091】
よって、これらの実施例は、極性有機溶媒への親和性を有する親水基と非極性有機溶媒への親和性を有する疎水基とを有する界面活性剤と同様のピークが現れていることから、極性有機溶媒への親和性を有する親水基と非極性有機溶媒への親和性を有する疎水基とを粒子表面に有するナノ粒子体と言える。界面活性剤の種類から、前記親水基が長鎖エチレンオキサイド基、詳細にはn数が8〜16のポリオキシエチレン基、を含むものであり、前記疎水基が長鎖アルキル基、詳細には炭素数10〜16の長鎖アルキル基、を含むものである。前記親水基と前記疎水基は1つの分子内で分岐したものであって、分岐点はナノ粒子の表面に結合したリン酸基にエステル結合した炭素原子である。
【0092】
図7は、本発明のナノ粒子体の比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´、比較例1X及び界面活性剤S10のFT−IRスペクトルを示す図である。図7において、aは比較例2S´´、bは比較例2S´、cは比較例2S、dは比較例1X、eは界面活性剤S10のスペクトルを示す。比較例2S´´、比較例2S´、比較例2Sのスペクトルでは、界面活性剤由来と考えられる2800〜3000cm−1付近のC−H伸縮振動ピークと、1461、1512、1609cm−1のフェニル環伸縮振動のピークが観察された。また、界面活性剤の親水基のO=S=O対称伸縮振動のピークが観察された。これらの結果によって、比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´が界面活性剤S10で被覆されていることが確認された。
【0093】
図8は、本発明のナノ粒子体の比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´、比較例1X及び界面活性剤S0のFT−IRスペクトルを示す図である。図8において、aは比較例3T´´、bは比較例3T´、cは比較例3T、dは比較例1X、eは界面活性剤S0のスペクトルを示す。比較例3T´´、比較例3T´、比較例3Tのスペクトルでは、界面活性剤由来と考えられる2800〜3000cm−1付近のC−H伸縮振動ピークと、1740cm−1のC=O伸縮振動のピークが観察された。また、界面活性剤の親水基のO=S=O対称伸縮振動のピークが観察された。これらの結果によって、比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´が界面活性剤S0で被覆されていることが確認された。
【0094】
<ナノ粒子体の特性:定量分析>
界面活性剤の定量分析は熱重量分析(TGA)でもできるが、例えば親水基がスルホン酸の界面活性剤の場合にはチタンの硫酸塩のような不揮発成分が残り不完全燃焼している可能性があるため正確な定量が困難となるなどの不具合があるので、有機元素分析による定量分析を行った。下記表2は、本発明のナノ粒子体の実施例1A、実施例1A´、比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´、比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´の有機元素分析による定量分析結果を示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表中の結合量は、以下の数式(1)〜(3)によって算出したDの値である。
【0097】
【数1】

【0098】
上記数式(1)中のAは表2の炭素含有量で、これは、実施例及び比較例の炭素含有量(wt%)である。例えば、比較例2Sの炭素含有量は21.35(wt%)、比較例2S´の炭素含有量は21.14(wt%)である。また、上記数式(1)中のBは、解離した界面活性剤の分子量(g/mol)である。Bの値は、上記表1の分子量(親水基が解離している場合)の値を用いた。また、上記数式(1)中のCは、各リン酸系の界面活性剤の炭素数(#)である。Cの値は、上記表1の一分子当たりの炭素原子数の値を用いた。上記数式(1)中のSは、界面活性剤で被覆による修飾を行った粒子の界面活性剤量(wt%)である。
【0099】
【数2】

【0100】
上記数式(2)中のTは、界面活性剤で被覆による修飾を行った粒子の酸化チタン量(wt%)である。
【0101】
【数3】

【0102】
上記数式(3)中のDは結合量で、酸化チタン1g当たりの、界面活性剤で被覆による修飾を行った粒子表面における界面活性剤結合量(mmol/g)である。
【0103】
表2から、比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´とも、酸化チタン1g当たりの界面活性剤S10の結合量は、0.68mmol程度で、添加量による差はほとんどなかった。界面活性剤S0の結合量は、添加量が2mmolである比較例3T´で飽和結合量に達した。界面活性剤P12−10では、最大1.13mmol結合した。水溶液中でのスルホン酸の解離状態の違いによるものか、界面活性剤S0の方が界面活性剤S10より反応性が高く、比較例3T、比較例3T´、比較例3T´´の方が、比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´よりも結合量が多かった。比較例2S、比較例2S´、比較例2S´´では、スルホン酸1分子に対して粒子表面のTi-OH1分子が結合することから、これらの比較例では、粒子表面にかなりの未結合水酸基が残存していると考えられる。
【0104】
<ナノ粒子分散体の特性:平均凝集粒子径>
各ナノ粒子分散体について、各溶媒中での強度基準の平均凝集粒子径(50%径)を動的光散乱法(DLS)で分散直後に測定した。図9は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aa〜d、実施例1A´a〜d、実施例1A´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。図9において、(a)はナノ粒子体の実施例1Aを分散させたナノ粒子分散体であって、溶媒がエタノールであるナノ粒子分散体の実施例1Aa、THFであるナノ粒子分散体の実施例1Ab、MMAであるナノ粒子分散体の実施例1Ac、トルエンであるナノ粒子分散体の実施例1Ad(これらの実施例をまとめて実施例1Aa〜dと表す。以下同様にまとめて表す)、(b)はナノ粒子分散体の実施例1A´a〜d、(c)はナノ粒子分散体の実施例1A´´a〜d、について測定された平均凝集粒子径を示す。実施例1Aaと実施例1A´aとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、実施例1A´bと実施例1A´´bとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、図9において、それぞれプロットが重なっている。
【0105】
図10は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1Ba〜d、実施例1B´a〜d、実施例1B´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。図10において、(a)はナノ粒子分散体の実施例1Ba〜d、(b)はナノ粒子分散体の実施例1B´a〜d、(c)はナノ粒子分散体の実施例1B´´a〜d、について測定された平均凝集粒子径を示す。実施例1B´cと実施例1B´´cとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、実施例1B´dと実施例1B´´dとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、図10において、それぞれプロットが重なっている。
【0106】
図11は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1Ca〜d、実施例1C´a〜d、実施例1C´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。図11において、(a)はナノ粒子分散体の実施例1Ca〜d、(b)はナノ粒子分散体の実施例1C´a〜d、(c)はナノ粒子分散体の実施例1C´´a〜d、について測定された平均凝集粒子径を示す。実施例1C´bと実施例1C´´bとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、実施例1C´cと実施例1C´´cとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、図11において、それぞれプロットが重なっている。
【0107】
図12は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1Da〜d、実施例1D´a〜d、実施例1D´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。図12において、(a)はナノ粒子分散体の実施例1Da〜d、(b)はナノ粒子分散体の実施例1D´a〜d、(c)はナノ粒子分散体の実施例1D´´a〜d、について測定された平均凝集粒子径を示す。実施例1D´bと実施例1D´´bとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、実施例1D´cと実施例1D´´cとは平均凝集粒子径はほぼ同じ値で、図12において、それぞれプロットが重なっている。
【0108】
図9〜図12に示したように、ナノ粒子分散体の実施例1Aa〜d、実施例1A´a〜d、実施例1A´´a〜d、実施例1Ba〜d、実施例1B´a〜d、実施例1B´´a〜d、実施例1Ca〜d、実施例1C´a〜d、実施例1C´´a〜d、実施例1Da〜d、実施例1D´a〜d、実施例1D´´a〜dは、いずれも、動的光散乱法による平均凝集粒子径が200nm以下で粒子が分散していた。したがって、ナノ粒子分散体のこれらの実施例では、粒子の分散性がよく、均一性に優れている。また、ナノ粒子体の実施例1A、実施例1A´、実施例1A´´、実施例1B、実施例1B´、実施例1B´´、実施例1C、実施例1C´、実施例1C´´、実施例1D、実施例1D´、実施例1D´´のいずれも、エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの溶媒に対しても高い分散性を有するといえる。
【0109】
図9〜図12に示したいずれのナノ粒子体の実施例も、エチレンオキサイドと長鎖アルキル基を両方有したリン酸系の界面活性剤で粒子表面を被覆修飾されている。したがって、これらの実施例は粒子表面に親水基と疎水基を両方有し、溶媒に再分散させたとき、図9〜図12に示したように、極性の高い溶媒から低い溶媒まで幅広い溶媒中で優れた分散性を有する。これらの実施例において、粒子表面の被覆に用いる界面活性剤P12−10、P12−14、P8−10、P16−10は、いずれもが親水性を示すエチレンオキサイドと疎水性を示す長鎖アルキル基を両方有したリン酸系であり、親水基と疎水基を両方有することがナノ粒子体の分散性を向上させた。これらの界面活性剤は粒子表面に結合するリン酸基からアルキル基とエチレンオキサイド基との枝分かれまでが近いので、極性溶媒にも非極性溶媒にも極めて良好に分散可能となった。
【0110】
これらの実施例において、粒子表面の被覆に用いる界面活性剤がP12−10、P12−14、P8−10、P16−10のいずれでも、図9〜図12に示したように、界面活性剤の量が、酸化チタン1gに対し1.0mmol〜3.0mmolで高い分散性を示した。これらの実施例において、界面活性剤がP16−10である場合を除き、酸化チタン1gに対し3.0mmolで、平均凝集粒子径が50nm以下で、一次粒子径近くまで溶媒に再分散しており、極めて高い分散性を示した。したがって、エチレンオキサイド基について上記化学式(1)でn=8〜12のとき、分散性の面でより好ましい。
【0111】
これらの実施例において、粒子表面の被覆に用いる界面活性剤がP12−14又はP8−10である場合は、図10及び図11に示したように、界面活性剤の量が、酸化チタン1gに対し1.0mmolよりも2mmol以上の方が分散性は良かった。したがって、界面活性剤量を2mmol以上に増やすことが、分散性の面でより好ましい。
【0112】
一方、図9に示したように、界面活性剤のエチレンオキサイド基について上記化学式(1)でn=8〜12である界面活性剤P12−10を用いた被覆をしたナノ粒子体である実施例1A、実施例1A´及び実施例1A´´では、いずれも溶媒の極性の有無によらず極めて高い分散性を示した。
【0113】
図9に示されたように、界面活性剤P12−10を用いた被覆では、界面活性剤の量が酸化チタン1gに対し1.0mmolである実施例1Aでも、十分に粒子表面が被覆され、溶媒の極性の有無によらず高い分散性を示した。酸化チタン1gに対し2.0mmol以上の割合とすることが分散性をより向上させた。
【0114】
界面活性剤の量が少なくてすむ方がコスト面では好ましい。また、添加物が増えると不純物が増えるので、純度の点からも、界面活性剤の量が少なくてすむ方が好ましい。また量が多すぎると表面修飾に寄与しない界面活性剤が多くなり二分子層を形成しやすくなるため、回収率の点でも、界面活性剤の量が適量であることが好ましい。しかし界面活性剤の量が粒子を被覆するのに少なすぎて得られた粒子の分散性が悪いと好ましくない。界面活性剤P12−10を用いた表面被覆では、酸化チタン1gに対し1mmolという少量添加の実施例1Aでも高い分散性を示すので、コスト、純度、回収率の点でも極めて効果が高い。
【0115】
界面活性剤がP12−10では、いずれの溶媒でも少量添加の実施例1Aでも平均凝集粒子径が50nm以下と極めて高い分散性を示した。したがって、界面活性剤がP12−10であるナノ粒子体の実施例においては、溶媒の極性を問わず、分散体中で、ナノ粒子の凝集が少なく均一性に優れている。特に、ナノ粒子分散体の実施例1A´a〜d及び実施例1A´´a〜dでは、動的光散乱法による平均凝集粒子径が30nm以下で、一次粒子径程度であった。したがって、界面活性剤がP12−10であって界面活性剤の量が酸化チタン1gに対し2mmol以上であるナノ粒子体の実施例では、溶媒の極性を問わず、分散体中で、ナノ粒子の凝集が極めて少なく極めて均一性に優れている。
【0116】
図13は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1D´´a〜dについての分散直後及び数日後の動的光散乱法による測定結果を示す図である。実施例1D´´も溶媒に分散後、数日間静置することで、全ての溶媒に良好に一次粒子径近くまで再分散した。したがって、粒子表面の被覆に用いる界面活性剤がP16−10であるナノ粒子体の実施例においても、溶媒の極性を問わず、分散体中で、ナノ粒子の凝集が少なく均一性に優れている。
【0117】
ナノ粒子体の実施例2A及び実施例3Aも、エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの溶媒に対しても容易に分散し、ナノ粒子分散体の実施例2Aa〜d、実施例3Aa〜dを得られた。
【0118】
図14は、本発明のナノ粒子分散体の比較例2Sa〜d、比較例2S´a〜d、比較例2S´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。図14において、(a)はナノ粒子分散体の比較例2Sa〜d、(b)はナノ粒子分散体の比較例2S´a〜d、(c)はナノ粒子分散体の比較例2S´´a〜d、について測定された平均凝集粒子径を示す。ナノ粒子体の比較例2Sと比較例2S´と比較例2S´´のいずれも、溶媒がエタノールでは高い分散性を示したが、極性が小さくなると分散性が悪くなり、溶媒が、THFでは平均凝集粒子径が50nm以上、MMAでは平均凝集粒子径が100nm程度、トルエンでは平均凝集粒子径が100nm以上であった。界面活性剤S10の添加量による分散性の違いは見られなかった。ナノ粒子体の比較例2Sと比較例2S´と比較例2S´´では、未結合の残留水酸基が多く残っているが、溶媒の極性が下がるにつれ、水酸基同士の引力の働きが大きくなるため、極性の小さい溶媒で分散性が低くなったと考えられる。
【0119】
したがって、界面活性剤S10を粒子表面に被覆させたナノ粒子体では、非極性溶媒で分散性が悪く、溶媒の極性によって分散性に差があり、溶媒の極性を問わずに高い分散性を示すことはできなかった。
【0120】
図15は、本発明のナノ粒子分散体の比較例3Ta〜d、比較例3T´a〜d、比較例3T´´a〜dの動的光散乱法による測定結果を示す図である。図15において、(a)はナノ粒子分散体の比較例3Ta〜d、(b)はナノ粒子分散体の比較例3T´a〜d、(c)はナノ粒子分散体の比較例3T´´a〜d、について測定された平均凝集粒子径を示す。ナノ粒子体の比較例3Tと比較例3T´と比較例3T´´のいずれも、溶媒がTHFでは分散性が良いが、溶媒がエタノールの場合、動的光散乱法による平均凝集粒子径が約1000nm付近以上と、分散性が非常に悪かった。溶媒がMMA、トルエンではやや分散性が悪く、特に、界面活性剤の添加量が酸化チタン1gに対し1.0mmolでは、平均凝集粒子径が200nm以上で、分散性が極めて悪かった。溶媒がTHF、MMA、トルエンの場合は界面活性剤S0の添加量が増えると分散性は向上した。逆に、溶媒がエタノールの場合は、界面活性剤S0の添加量が増えると凝集が大きくなり、分散性が悪くなった。
【0121】
ナノ粒子体の比較例3Tと比較例3T´と比較例3T´´では、THFでは高い分散性を示したが、界面活性剤S0が極性の高いエステル基を有するので、MMA、トルエンといった低極性の溶媒では凝集がやや生じ、さらに、界面活性剤S0が親水基のエチレンオキサイドを有さないため、ナノ粒子体の粒子表面が疎水化され極性溶媒であるエタノール中では分散性が悪かったと考えられる。
【0122】
したがって、界面活性剤S0を粒子表面に被覆させたナノ粒子体では、極性有機溶媒で分散性が悪く、溶媒の極性によって分散性に差があり、溶媒の極性を問わずに高い分散性を示すことはできなかった。
【0123】
<ナノ粒子分散体の特性:透明性>
各ナノ粒子分散体について、分散後、24時間静置させた後の透明性を観察した。詳細には、それぞれの分散体を作成直後に透明な容器(直径18mmのサンプル瓶)に入れ、白地に黒の横文字柄があるボードの前に置いて24時間静置させ、容器のまま、背面にある横文字模様が透けるかどうか、また沈降するかを観察し撮影した。
【0124】
図16は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1Aa〜d、実施例1A´a〜dの透明性観察結果を示す図である。
【0125】
ナノ粒子分散体の実施例1Aa〜d、実施例1A´a〜dは、いずれも沈降がなく、透明性が高かった。また、着色もほとんどなく、したがって無色度が高かった。特に、ナノ粒子分散体の実施例1Aa〜c、実施例1A´a〜dでは、また容器の後ろにあるボードの文字がはっきり見える程度に非常に高い透明性を示した。ナノ粒子体の実施例1A、実施例1A´では、再分散させる有機溶媒の極性の有無によらず、極めて高い透明性及び高い無色度のTiOナノ粒子/有機溶媒サスペンジョンであるナノ粒子分散体を得られる。透明性について、溶媒の極性による差がないという点において、実施例1A´がより好ましい。
【0126】
図17は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1A´´a〜d、実施例1B´´a〜d、実施例1C´´a〜d、実施例1D´´a〜dの透明性観察結果を示す図である。
【0127】
ナノ粒子分散体の実施例1A´´a〜d、実施例1B´´a〜d、実施例1C´´a〜d、実施例1D´´a〜dは、いずれも沈降がなく、容器の後ろにあるボードの文字がはっきり見える程度に非常に高い透明性を示した。また、着色もほとんどなく、したがって無色度が高かった。また、特に、ナノ粒子分散体の実施例1A´´a〜d、実施例1B´´a〜d、実施例1C´´a〜d、実施例1D´´dでは、透明性が特に高かった。ナノ粒子体の実施例1A´´は、再分散させる溶媒の極性の有無によらず、実施例1A´と同程度に、極めて高い透明性及び高い無色度のTiOナノ粒子/有機溶媒サスペンジョンを得られる。したがって、透明性について、溶媒の極性による差がないという点において、実施例1A´も実施例1A´´も同程度に好ましい。
【0128】
ナノ粒子体の実施例1B´´、実施例1C´´、実施例1D´´も、再分散させる溶媒の極性の有無によらず、高い透明性及び高い無色度のTiOナノ粒子/有機溶媒サスペンジョンを得られる。特にナノ粒子体の実施例1B´´、実施例1C´´では、再分散させる溶媒の極性の有無によらず、実施例1A´´と同程度に、極めて高い透明性及び高い無色度の酸化チタンナノ粒子/有機溶媒サスペンジョンであるナノ粒子分散体を得られる。
【0129】
上記化学式(1)に示される界面活性剤で被覆された酸化チタンナノ粒子体は、再分散させる溶媒の極性によらず、透明性の高いナノ粒子分散体を得られる。
【0130】
図18は、本発明のナノ粒子分散体の実施例2Aa〜dの透明性観察結果を示す図である。エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの有機溶媒においても、茶色に着色したが、沈降もなく透明性が高かった。有色ながら、背面にある横文字模様が透けるほど透明であった。透明性が高いナノ粒子分散体は、ナノ粒子体の分散性が極めて高い。したがって、上記化学式(1)に示される界面活性剤で被覆された酸化鉄ナノ粒子体は、再分散させる溶媒の極性によらず、透明性の高いナノ粒子分散体を得られる。
【0131】
図19は、本発明のナノ粒子分散体の実施例3Aa〜dの透明性観察結果を示す図である。エタノール、THF、MMA、トルエンのいずれの有機溶媒においても、黄色に着色したが、沈降もなく透明性が高かった。有色ながら、背面にある横文字模様が透けるほど透明であった。上記化学式(1)に示される界面活性剤で被覆された銀ナノ粒子体は、再分散させる溶媒の極性によらず、透明性の高いナノ粒子分散体を得られる。
【0132】
図20は、本発明のナノ粒子分散体の比較例2Sa〜d、比較例2S´a〜d、比較例2S´´a〜dの透明性観察結果を示す図である。比較例2Sa〜d、比較例2S´a〜d、比較例2S´´a〜dは、いずれも沈降はなく、透明性は、溶媒がエタノールでは高かったが、THF、MMA、トルエンの順に透明性は低くなり、白濁した。分散性が悪いと、ナノ粒子分散体の透明性も低かった。界面活性剤S10の添加量による分散性の違いは見られなかった。
【0133】
図21は、本発明のナノ粒子分散体の比較例3Ta〜d、比較例3T´a〜d、比較例3T´´a〜dの透明性観察結果を示す図である。比較例3Tdでは沈降が見られたが、比較例3Ta〜c、比較例3T´a〜d、比較例3T´´a〜dは、いずれも沈降がなかった。しかし、透明性は、ナノ粒子分散体の比較例3Ta〜c、比較例3T´a、比較例3T´c〜d、比較例3T´´a、比較例3T´´c〜dで悪く、白濁した。分散性が悪いと、ナノ粒子分散体の透明性も低かった。
【0134】
したがって、界面活性剤S0又はS10で被覆させたナノ粒子体の比較例は、有機溶媒の極性によっては透明性が低くなってしまう。一方、界面活性剤P12−10、P12−14、P8−10、又はP16−10で被覆させたナノ粒子体の実施例では、有機溶媒の極性によらず透明性が高かった。
【0135】
<ナノ粒子分散体の特性:粒度分布>
図22は、本発明のナノ粒子分散体の実施例1A´a〜dの粒度分布図である。実施例1A´a〜dにおいて、酸化チタンナノ粒子が一次粒子近くまで分散していることが確認された。
【0136】
本発明のナノ粒子体の実施例1A、実施例1A´、実施例1A´´、実施例1B、実施例1B´、実施例1B´´、実施例1C、実施例1C´、実施例1C´´、実施例1D、実施例1D´、実施例1D´´、実施例2A、実施例3Aによれば、極性有機溶媒に対しても非極性有機溶媒に対しても分散性に優れる。ナノ粒子の分散液から作製したナノ粒子体を再分散させることは非常に困難であるが、これらの実施例によれば、溶媒の極性によらず再分散可能である。しかも、完全に再分散させることができる。有機溶媒に3wt%、10wt%と高濃度で再分散させることができる。
【0137】
界面活性剤P12−10、P12−14、又はP8−10で被覆させたナノ粒子体の実施例では、有機溶媒の極性によらず分散性が極めて高く、透明性が極めて高かった。界面活性剤P16−10で被覆させたナノ粒子体の実施例も、分散して数日経過後には、有機溶媒の極性によらず分散性が極めて高くなった。
【0138】
界面活性剤P12−10、P12−14、又はP8−10で被覆させたナノ粒子体の実施例のなかでも、界面活性剤の量を酸化チタン1gに対し2.0mmol以上の割合としたナノ粒子体の実施例によれば、再分散させたナノ粒子分散体の実施例が、極めて高い分散性と透明性を有し、一次粒子程度で再分散させることができた。
【0139】
界面活性剤P12−10で被覆したナノ粒子体の実施例では、再分散させたナノ粒子分散体の実施例が、分散性、透明性の点で優れていた。粒子の種類が酸化チタンであるナノ粒子体の実施例によれば、再分散させたナノ粒子分散体の実施例が、透明性だけでなく無色度が高かった。
【0140】
界面活性剤P12−10で被覆したナノ粒子体の実施例では、界面活性剤の量が酸化チタン1gに対し1.0mmolの割合でも、極めて高い分散性と透明性を有し、一次粒子程度で再分散させることができた。
【0141】
本発明のナノ粒子体の実施例では、再分散させる溶媒を問わず分散可能で、しかもいずれの溶媒にも分散性が高く、本発明のナノ粒子分散体の実施例は、分散体中におけるナノ粒子の分散均一性に優れる分散体であり、均一性だけでなく透明性も高い。したがって、光学材料や化粧品など応用分野が広くなる。
【0142】
本発明のナノ粒子体の実施例によれば、いずれも、乾燥した粉末であるので、別の溶媒に再分散させやすい。また、取扱いや持ち運びが容易となる。また、ナノ粒子体の表面が被覆されているため、乾燥してもまとまりよく、粉末が飛散しにくい。したがって安全性にも優れる。また、本発明のナノ粒子体の上述した実施例によれば、溶媒の選択肢が広くなり、利便性が非常に高く、広い分野で利用できる。
【0143】
本発明のナノ粒子体の上述した実施例によれば、いずれも、従来利用できなかったり、十分に機能を発揮できなかった分野にもナノ粒子を利用可能となる。
【0144】
本発明のナノ粒子体の製造方法によれば、ナノ粒子と界面活性剤との混合性がよくなるので、ナノ粒子の各粒子表面を均一に被覆しやすい。また、粒子表面への界面活性剤による被覆がより均一にできる。また、乾燥した粉末としてナノ粒子体が得られるので、別の溶媒に再分散させやすい。また、取扱いや持ち運びが容易となる。また、ナノ粒子体の表面が被覆されているため、乾燥してもまとまりよく、粉末が飛散しにくい。したがって安全性にも優れる。
【0145】
本発明のナノ粒子分散体の製造方法によれば、凝集が極めて少なくしかも疎水基と親水基を表面に有する分散性の高いナノ粒子体が、凝集を防止しながら再分散されるので、ナノ粒子が分散体中に均一に分散される。また、分散体中におけるナノ粒子の分散均一性に優れるナノ粒子分散体を得られる。また、透明性の高いナノ粒子分散体を得られる。
【0146】
<複合材料>
本発明の複合材料の実施例1A´dFは、ナノ粒子体の実施例1A´とエポキシ樹脂との複合材料で、詳細には、以下のように作製した。
【0147】
まず、本発明のナノ粒子分散体の実施例1A´d(粒子0.1056g+トルエン3.50g)に液状エポキシ樹脂のトルエン溶液(液状エポキシ2.0g+トルエン1.5g)を添加したのち、エバポレーターでトルエンを蒸発させ、液状エポキシ/TiO複合物を作製した。かかる液状エポキシ/TiO複合物は、高い透明性を示した。次に、かかる液状エポキシ/TiO複合物に、硬化剤としてポリエーテルイミド(PEI)0.1gを添加し、混合したのち、真空脱泡させ、その後、120℃で2時間、160℃で1.5時間硬化させることで、実施例1A´dFであるエポキシ/TiO複合体(5wt%)が得られた。
【0148】
図23は、本発明の複合材料の実施例1A´dFの透明性観察結果を示す図である。図23は、複合材料の実施例1A´dFを入れた透明な容器(直径18mmのサンプル瓶)を上から見た図で、複合材料の実施例1A´dFの厚みは3mmで、サンプル瓶の下には、白地に黒の横文字柄があるボードを置いた。3mm厚の実施例1A´dFを通しても、下に置いたボードの横文字柄がよく見えた。すなわち、複合材料の実施例1A´dFは、極めて高い透明性を示した。透明性が高いことから粒子が実施例1A´dFの中に極めて均一に分散していることが分かる。
【0149】
本発明の実施例1A´dFの複合材料によれば、透明性を有するので、光学材料等、広範な分野で利用可能となる。
【0150】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。また、上記各実施の形態の構成要素を発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
近年大量合成可能となったナノ粒子を、材料や医薬品等様々な分野で応用する際に問題となる、有機溶媒中での凝集現象を、その溶媒が極性を有していてもいなくても防止することができる。様々な溶媒に一次粒子レベルで極めて均一に分散させることができる。したがって、化粧品、医薬、顔料、複合材料、光学材料、電磁材料などの分野で利用できる。たとえば、ナノ粒子が酸化チタンのとき、均一に分散させることにより解像度が高くなることが期待されるインク材料、均一に分散させることにより高屈折率の実現が期待される光学用プラスチックレンズ及びピックアップレンズなどに利用できる。ナノ粒子が酸化鉄のとき、均一に分散させることによって、電磁波吸収能が高くなることが期待される電磁波吸収体材料などに利用できる。ナノ粒子が銀のとき、均一に分散させることによって、抗菌作用が大きくなることが期待される抗菌材料などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又は金属酸化物のナノ粒子に、下記化学式(1)
【化1】

(ただし、R1は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、n=8〜16の整数、m+k=3であり且つm=1又は2、k=1又は2である。)
で示されるリン酸系の界面活性剤で表面を被覆することを特徴とするナノ粒子体の製造方法。
【請求項2】
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、銀、酸化チタン又は酸化鉄のナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子体の製造方法。
【請求項3】
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタンのナノ粒子であって、前記ナノ粒子を含有する水溶液に、前記界面活性剤を含有する水溶液を混合する混合工程を含むことを特徴とする請求項2に記載のナノ粒子体の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、界面活性剤の量を酸化チタン1gに対し1mmol以上3mmol以下とすることを特徴とする請求項3に記載のナノ粒子体の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、平均粒子径8nm以下のシングルナノ粒子であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のナノ粒子体の製造方法。
【請求項6】
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化鉄のナノ粒子であって、水酸化鉄水溶液を加熱して水溶液中に酸化鉄を生成させた水溶液に前記界面活性剤を混合する混合工程を含むことを特徴とする請求項2に記載のナノ粒子体の製造方法。
【請求項7】
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、銀のナノ粒子であって、硝酸銀水溶液に、前記界面活性剤と還元剤とを含有する水溶液を混合する混合工程を含むことを特徴とする請求項2に記載のナノ粒子体の製造方法。
【請求項8】
金属又は金属酸化物のナノ粒子に、下記化学式(1)
【化2】

(ただし、R1は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、n=8〜16の整数、m+k=3であり且つm=1又は2、k=1又は2である。)
で示されるリン酸系の界面活性剤で表面に被覆を施した粉末であることを特徴とするナノ粒子体。
【請求項9】
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタン、酸化鉄又は銀のナノ粒子であることを特徴とする請求項8記載のナノ粒子体。
【請求項10】
前記金属又は金属酸化物のナノ粒子が、酸化チタンのナノ粒子であって、平均粒子径8nm以下のシングルナノ粒子であることを特徴とする請求項9に記載のナノ粒子体。
【請求項11】
極性有機溶媒への親和性を有する親水基と非極性有機溶媒への親和性を有する疎水基とを粒子表面に有することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載のナノ粒子体。
【請求項12】
非極性有機溶媒、極性有機溶媒のいずれに対しても平均凝集粒子径が200nm以下で分散することを特徴とする請求項8から請求項11のいずれかに記載のナノ粒子体。
【請求項13】
請求項8から請求項12のいずれかに記載のナノ粒子体を、非極性有機溶媒又は極性有機溶媒中に分散する分散工程を含むことを特徴とするナノ粒子分散体製造方法。
【請求項14】
請求項8から請求項12のいずれかに記載のナノ粒子体と、非極性有機溶媒又は極性有機溶媒とを含有することを特徴とするナノ粒子分散体。
【請求項15】
前記ナノ粒子体が、分散体中で平均凝集粒子径200nm以下であることを特徴とする請求項14に記載のナノ粒子分散体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図22】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−159464(P2010−159464A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2999(P2009−2999)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (研究集会名) 化学工学会第40回秋季大会 (主催者名) 社団法人化学工学会 (開催日) 平成20年9月24日
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】