説明

ナノ結晶性セルロース製造からの廃液の流れの分画

ナノ結晶性セルロース(NCC)製造中に、かなりの量の硫酸が使用される。NCCの分離後には、残存している溶液は糖及び残留硫酸を含有する。糖はモノマー形態及びオリゴマー形態をしている。NCCの製造コストを削減するために、及び他の付加価値製品を生産するために、廃酸の流れは糖オリゴマー、糖モノマー及び酸に分画することができる。酸は濃縮後、NCC製造工程にリサイクルすることができる。糖モノマー及び糖オリゴマーは、他の価値ある化学品の製造に使用することができる。本目的を達成するために膜ナノろ過を使用することができる。200ダルトンの範囲の分子量カットオフを有するポリマー製膜を使用した。本手法を利用して、酸の大部分を透過液に回収した一方、糖を一層小さな流れに濃縮した。分離された酸/透過液の流れにおける糖のレベルは、元の濃度のわずか約3%に過ぎなかった。オリゴマー状の糖からモノマー状の糖を分離するために、第2の膜ろ過の段階を使用することができる。2つの糖の流れは、付加価値製品を生産するために、様々な用途において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース含有フードストックからナノ結晶性セルロース(NCC)を製造する際に生成する廃糖/廃酸の流れの、酸、糖モノマー及び糖オリゴマーへの分画に関する。
【0002】
糖から残留酸、とりわけ硫酸を分離するために膜ろ過(ナノろ過)が使用され、こうしてNCC製造工程内において酸のリサイクルを可能にする。
【0003】
この手法は、NCC工程に必要とされる酸の量、したがってNCCの製造コストを削減する。第2のろ過ステップを用いて、糖はモノマー状及びオリゴマー状の糖にさらに分画され得る。分画された糖は、様々な付加価値製品に使用することができる。
【背景技術】
【0004】
木材パルプを含む数種のセルロース源からナノ結晶性セルロース(NCC)を製造するには、酸加水分解ステップを必要とする。セルロース性の出発原料に応じて、硫酸、硝酸、リン酸又は塩酸など、かなりの量の酸が使用され得る。ナノ結晶性セルロースは、パルプ繊維及びミクロ結晶性セルロースの特性とは異なる、非常に興味深く独特な特性を有する。ナノ結晶性セルロースは、いくつかの用途に使用することができる。
【0005】
一般に、50から70wt%の間の濃度の硫酸が使用される。NCC粒子の分離後、硫酸及び糖に富む溶液が得られる。この廃酸の流れ(spent acid stream)は、懸濁した固体を含まず、また糖オリゴマー、糖モノマー及び酸を主に含有しており、この流れは廃棄問題を生じる廃流(waste stream)と一般に見なされる。
【0006】
酸を分離してNCC工程に再利用できれば、NCC工程の操業コスト及び環境への廃流の排出が削減される。これには、蒸発によって酸が元のレベルまで濃縮されることを必要とするが、糖が酸から分離されない場合、酸を濃縮すると、これらの糖が脱水によって分解を招き、フルフラール及びヒドロキシメチフルフラール及び低分子量の有機酸のような生成物の形成に至る。さらに、蒸発工程中の糖のカラメル化により、酸の濃縮ステップ中に、熱伝導領域が汚れる(fouling)可能性がある。
【0007】
オリゴマーは発酵の阻害物(inhibitor)として作用するので、オリゴマーの存在下においてモノマー状の糖の発酵は、実施するのに容易でない工程である。オリゴマーは、2〜10の重合度を有するポリマー状の炭水化物である。糖オリゴマーからの糖モノマーの分離は望ましい、且つ魅力的な選択肢であり、この選択肢は他の付加価値製品の生産に役立つ可能性がある。モノマー状の糖を発酵して、エタノールを生産し得る。オリゴマー状の糖は、例えば食品及び医薬品産業において使用することができる。最近、いくつかの食品において成分として添加されると、栄養面での利益のために、オリゴ糖への関心が高まっている。セルロースオリゴマー(例えば、セロビオース)は、動物飼料に添加されると、プレ−バイオティクスとして作用することが公知である。日本では、医療用医薬品、食品、及び化粧品中にセロビオースを配合することが開発されている。フルクトオリゴ糖及びガラクトオリゴ糖を投与すると、直腸において有益なバクテリアの数を増加できる一方、有害なバクテリアの数を抑制できることが、別の研究により示された。
【0008】
キシロオリゴ糖は、プレバイオティクスとして利用することができ、また直腸がんのリスクを低下させる傾向がある。キシロオリゴ糖は食品成分として使用され、またコレステロールレベルを低下させる傾向がある。人乳は、少なくとも21種類の異なるオリゴ糖を含有している可能性があると報告された。乳児の成長及び免疫システムの発達において、これらのオリゴ糖が極めて重要な役割を果たしている。いくつかの研究が行われており、牛乳を主成分とする乳児用調製粉乳へガラクト−オリゴ糖を添加することの利益が示された。消費者の健康意識の向上により、これらの糖オリゴマーの乳製品及びデザートへの配合が世界規模で増加している。オリゴ糖はまた、皮膚処置用の化粧品中にも配合されている(EP0591443)。
【0009】
様々な用途において酸溶液からの糖の分離が、従来技術で検討されている。イオン交換などの数種の手法が考案されている。従来技術における研究の大部分は、バイオマスの加水分解物溶液を取り扱うものである。
【0010】
例えば、米国特許第5,580,389号では、バイオマスの強酸加水分解由来の糖から酸を分離することについて議論している。この方法は、シリカの除去、脱結晶化、加水分解、及び糖/酸の分離などの数種のステップを必要とする。糖/酸の分離は、糖を保持するため強酸樹脂を用いて実施された。酸を使用して、樹脂を再生成し2%の糖液が得られた。
【0011】
米国特許第5,407,580号は、イオン排除を利用して、糖などの非イオン性成分から酸を分離する方法を記載している。
【0012】
米国特許第5,968,362号は、バイオマスの酸加水分解ステップからの酸及び糖を分離する方法を記載している。加水分解物から酸を保持するために、この方法は陰イオン交換樹脂又はイオン包接クロマトグラフィー用の材料を必要とする。生成した糖には、酸及び金属が混入している。該溶液を中和して金属を析出させるために、この発明者は石灰で処理することを提案している。
【0013】
米国特許第5,403,604号は、限外ろ過、ナノろ過、及び逆浸透を含む膜ユニット一式を用いた、絞り汁(juice)からの糖分離について取り扱っている。糖はNF膜によって保持される一方、クエン酸などの酸は通過する。フィードの流れの中の総酸濃度は約0.79wt%となる一方、糖の総量は4.3から14.3%で変動する。
【0014】
米国特許第7,338,561号は、糖、多価の陽イオン、一価の金属陽イオン、一価の陰イオン及び多価の無機陰イオン、及び/又は有機酸の陰イオンを含有する水溶液を精製する方法を記載している。この方法は、強力な陰イオン樹脂、強力な陽イオン樹脂、ナノろ過用装置、結晶化ユニット、逆浸透ユニット、及び最大2つのクロマトグラフィー用カラムを使用する。この手法は、乳清を処理する限外ろ過ユニットからの透過液に適用された。所望の分離を実施するために、これらのユニットすべてを使用することは複雑であり、また経済的に魅力的とは思われない。
【0015】
米国特許第7,077,953号は、木材チップを酸性溶液にさらした後に得られた加水分解物溶液からの酸の回収について取り扱っている。この場合、糖及び酸はリグニン、金属、及び懸濁した固体などの数種の他の化合物が混入していた。加水分解工程からの糖の大部分を分離するために、クロマトグラフィーユニットが使用される。発酵/蒸留ユニットなどの処理用ユニットへ送られることになる糖を溶出するために、水が用いられる。クロマトグラフィーユニットは、濃縮するために一層多量のエネルギーを必要とする希釈生成物を発酵時に与える希釈糖の流れを与える。残存している糖を除去するために、ナノろ過ユニットを使用してクロマトグラフィーシステムからの酸に富む流れが処理される。この発明者はまた、糖を濃縮するためにクロマトグラフィーユニットの前に、第2のナノろ過ユニットを示唆している。しかし、この場合、塩化物及びカリウムなどの一価の金属及び他のイオンが酸の流れ中に蓄積して、蒸発中に金属製表面の汚れ又は腐食を引き起こす恐れがある。さらに、このようなシステムでは、リグニンが濃縮物又は糖の流れ(透過液)中に蓄積して、リグニンの混入を引き起こすことが予期される。糖中に存在する金属又はリグニンは、エタノールなど他の価値ある製品にする糖の発酵を阻害する恐れがある。この発明者は、糖をさらに分画することは試みなかった。
【0016】
米国特許第5,869,297号は、デキシトロースを分離するためにポリアミドのナノフィルターを使用したナノろ過を使用している。フィード溶液は、二糖及び三糖などのより高級な(higher)糖を含有した。
【0017】
米国特許第7,008,485号は、数種の低モル質量化合物を互いに分離するために、ナノろ過の使用を記載している。この手法には、ヘキソース糖からのペントース糖の分離、マルトトリオースからのマルトースの分離、及び廃液からのキシロースの回収が含まれる。ナノフィルターの前に、イオン交換、限外ろ過、クロマトグラフィー、濃縮、pH調整、ろ過、希釈及び結晶化などの、1つ又は複数の前処理ステップが必要となる場合がある。さらなる分離のために、ナノろ過工程において、これらのユニットの任意の組合せが下流で必要となる場合がある。
【0018】
糖から酸を分離する、及び糖モノマーから糖オリゴマーを分離する試みは、従来技術において行われなかった。出発フィードストックは、リグニン及び金属を実質的に含有しない漂白パルプであるので、NCCプラントからの廃酸は、一般的なバイオマス加水分解物の流れよりかなり純度が高い。さらに、イオン交換は、樹脂を再生成するために化学品を使用し、且つ希釈な流れを与える。こうして、特にバイオマス加水分解物の流れよりも廃酸の純度が高いNCC製造の場合では、膜の使用と比較すると、このような手法は経済的な魅力に乏しい可能性がある。廃酸を糖モノマー、糖オリゴマー及び酸に分画するには、異なる分子量カットオフを有する膜を有する2つのナノろ過ユニット一式で十分である。一般には、オリゴマーは2以上の重合度を有する。したがって、モノマーからのオリゴマーの分離には、糖/酸の分離に使用される膜よりも一層隙間の広い膜を必要とする。数種の分離ユニットが必要となる上記の方法と比較すると、この手法は経済的にかなり実現可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、水性廃液とりわけナノ結晶性セルロース(NCC)の製造において生成する水性廃液を、酸及びモノマー状の糖及びオリゴマー状の糖に分画する方法を提供することを目的とする。NCC工程において、酸はリサイクルすることができる一方、糖モノマー及び糖オリゴマーは他の付加価値製品の製造に使用され得る。
【0020】
本発明はまた、NCCを製造する方法を提供することも目的とする。
【0021】
さらに、本発明は、漂白木材パルプの酸加水分解によってNCCを製造する方法における改善を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一態様では、水性廃液から無機酸を回収する方法であって、
ナノ結晶性セルロース(NCC)の製造から誘導される、無機酸及び糖を含む水性液を用意するステップと、
無機酸の通過に選択性を示すナノ膜の第1の側に、前記液を接触させるステップと、
前記膜の、前記第1の側の反対の第2の側にある前記無機酸を含有し前記糖を実質的に含まない水性透過液を回収するステップと、を含む方法を提供する。
【0023】
本発明の別の態様では、漂白木材パルプの酸加水分解のステップ、並びに酸及び糖を含有する水性廃液からNCCを分離するステップを含むNCCを製造する方法における、前記酸に選択性を示すナノ膜を使用して前記水性廃液から、前記糖を実質的に含まない酸水溶液を分離するステップを含む改善を提供する。
【0024】
本発明のさらに別の態様では、NCCを製造する方法であって、
漂白木材パルプの酸加水分解のステップと、
前記加水分解からNCCを回収するステップと、
前記酸加水分解から、漂白木材パルプの前記加水分解から誘導される酸及び糖を含有する水性廃液を回収するステップと、
前記水性廃液を本発明の方法に施して、前記ナノ膜からの前記水性透過液を、漂白木材パルプの酸加水分解に適した濃度を有する酸水溶液まで濃縮して、さらに前記酸水溶液を酸の供給として、前記酸加水分解にリサイクルするステップと、
を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】NCCプラントからの廃液の流れの、糖オリゴマー、糖モノマー及び酸への分画を図示したフロー図である。糖からの酸の分離は、ナノろ過ユニットを使用して最初に達成される。オリゴマーは、第2の膜ユニットを使用してモノマーから分離される。酸は濃縮されて、NCCプラントにリサイクルされる。
【図2】NCCプラントからの廃液の分画について、代替的な選択肢のフロー図である。糖オリゴマーは、膜ユニットを使用して酸/糖モノマー混合物から最初に分離される。次いで、酸はナノろ過によってモノマー状の糖から分離される。酸は濃縮されて、NCCプラントにリサイクルされる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書では、硫酸の使用を参照にしてNCCの製造が特に記載されるが、他の酸、とりわけ塩酸などの無機酸が使用されてよい。
【0027】
漂白パルプからのNCCの製造中に、硫酸及び糖を含有する廃流が得られる。糖から酸を分離するために、ナノろ過が利用される。酸の大部分を回収できることが見出された。分離された酸の流れ中に残存している糖含量は、元の糖含量のわずか数パーセンテージに過ぎなかった。こうして、酸は濃縮されて、NCC製造工程にリサイクルすることができる一方、モノマー状の糖はエタノール、ソルビトール、コハク酸、及びヒドロキシメチルフルフラールなどの他の有用な製品の生産に使用され得る。オリゴマー状の糖は、食品又は医薬品産業において使用され得る。
【0028】
分離された酸の流れは実質的に糖を含まず、これによって、NCC製造工程にとって、糖含量が、適切に濃縮を行った後の分離された酸の流れの酸源としての受け入れを妨げないよう、糖含量は十分低く意図される。一般に、ナノろ過ユニットから分離される酸の流れは、0.8重量%未満、さらに通常では0.5重量%未満、好ましくは約0.3%重量以下の糖対酸の比を有するべきである。
【0029】
NCC製造工程の第1のステップには、漂白パルプをサイズが1mm未満の粒子に粉砕することが必要である。次に、濃縮された硫酸が45〜65℃で、セルロース粒子に添加される。機械撹拌をしながら約25分間、システムを反応させる。次に、かなりの量の水を添加して、酸を希釈し反応を停止させる。ろ過ステップの間、NCCは濃縮されて、酸及び糖から分離される。このステップからの廃液/廃酸の溶液は、主に硫酸及び糖を含有する。
【0030】
廃酸中の糖は、モノマー及びオリゴマーの混合物である。モノマー及びオリゴマーの分離は、付加価値製品の生産につなげることができるので、有益である。図1は、2つの膜ろ過ユニットを用いて、廃酸を酸、モノマー及びオリゴマーに分ける例を示している。NCCプラント400からの廃酸のフィードの流れ1は、最初にナノろ過ユニット100に供給されて、ここで酸の流れ3が糖から分離される。酸の流れ3は、蒸発300によって、例えば一般には50から70wt%の間の所望の濃度まで濃縮することができ、さらにNCC製造プラント400において再使用するためのリサイクルの流れ4として送る。濃縮ユニットの他の組合せもまた、使用することができる。ナノろ過ユニット100からのオリゴマー状の糖及びモノマー状の糖の流れ2は、第2の膜ユニット200に供給されて、ここで糖モノマーの流れ5が、流れ6を形成する糖オリゴマーから分離される。必要であれば、流れ6中のオリゴマーのさらなる分画が可能である。
【0031】
オリゴマー状の糖がモノマー状の糖よりも大きいので、第2のろ過ユニット200のナノ膜は、第1のユニット100のものよりも大きな細孔サイズを有する。一般には、オリゴマーは2より大きい重合度を有する。したがって、適切な分子量カットオフ(以下の例で記載したものよりも大きい)を有する膜ユニットが、オリゴマー糖からモノマー糖を分離することができる。
【0032】
糖モノマー及び糖オリゴマーの最終濃度を向上させるために、ナノろ過ユニット100からの流れ2の一部は、濃縮物の流れ7としてリサイクルして、ユニット100へのフィードの流れ1と混合することができる。同様に、最終製品のオリゴマー濃度をさらに向上するために、第2のろ過ユニット200からの流れ6の一部を、濃縮物の流れ8としてユニット200に入る流れ2にリサイクルすることができる。
【0033】
図2は本発明の分離のための第2の構成を示している。この場合、ナノろ過ユニット200はNCCプラント400からの廃酸のフィードの流れ1を処理して廃酸及び糖モノマーの流れ2から糖オリゴマーの流れ6を分けるために最初に使用され得る。第2のろ過ユニット100は、酸の流れ3及び糖モノマーの流れ5として、流れ2から酸及び糖モノマーを分離するために使用され得る。例えば、糖モノマーの発酵中に存在すると阻害物として作用することが公知である糖オリゴマーの妨害無しに、流れ5の糖モノマーは発酵されて、高効率的にエタノールを生産し得る。
【0034】
糖オリゴマーの流れ6は、食品、医薬品及び製紙産業用の幅広い範囲の化学品を生産するために使用することができる。
【0035】
上記の手法は、(モノマー状及びオリゴマー状の形態で)糖、及び硫酸又は塩酸又は他の酸を含有する廃溶液に適用される。
【0036】
流れ3中の酸は、ユニット300中で一般には50から70wt%の間の濃度に濃縮されて、NCCプラント400に流れ4でリサイクルされる。
【0037】
糖モノマー濃度を向上させるため、流れ5の一部を流れ7としてユニット200へ向かう流れ2にリサイクルする。同様に、流れ6中に存在する糖オリゴマーの濃度を向上させるために、流れ6の一部を、流れ8として流れ1にリサイクルしてもよい。
【0038】
ナノ膜は水性透過液として、それを介して酸のイオンの移動が可能となるように選択される一方、糖の通過は本質的に妨害される、又は防止される。ナノ膜は、酸の小さなイオンの通過はできるがより大きな糖分子は通過できないナノポアを有する。
【0039】
ナノろ過ユニット用の適切な膜は約200の分子量カットオフ(MWCO)を有し、こうして約200以上(グルコースのMWは180)の分子量を有する糖から、酸(硫酸のMWは98)を分離する。さらに、MWが唯一の因子であり、糖分子の配向又は空間配列もまた、糖がナノ膜の細孔を通過する妨げとなり得る因子でもある。つまり糖モノマー間の弱い結合会合も、糖がナノ膜の細孔を通過する妨げとなることができる。したがって、グルコースが180のMWを有しても、酸と一緒に約200のMWカットオフを有する膜を通過して移動することはない。
【0040】
第1に、酸はサイズが小さなH陽イオンを有しており、これらは溶液の電気的中性を維持するために、陰イオン(HSO、SO2−)を引っ張り容易に膜を通過することができる。
【0041】
オリゴマー状の糖(糖の主成分)は200より大きなMW、一般には少なくとも約360を有しており、膜によりはじかれる。当然ながら、サイズ以外の因子がナノろ過を用いる分離に影響を及ぼす可能性があり、したがって、このような分離結果を予想することは、当業者にとって容易ではない。
【0042】
図1において、糖モノマーのMWと糖オリゴマーのMWとの中間のMWカットオフを有するナノろ過ユニット200によって、糖オリゴマーからのモノマー糖の分離が達成され、これにより糖モノマーの通過が可能になる。図2の実施形態において、この同一のユニット200は酸及び糖モノマーの通過を可能にし、これにより酸及び糖モノマーが、第1の段階において透過液として糖オリゴマーから分離され、その後に、酸が第2の段階において、ナノろ過ユニット100によって糖モノマーから分離される。
【0043】
酸の流れの中の糖含量は、初期フィード含量のほんのわずか、例えば約3%である。糖含量は別のろ過ユニットによって低下し得るが、これは不必要であり、また本工程を経済的に魅力に乏しいものにする。驚くべきことに、NCCを形成するための漂白木材パルプの酸加水分解での使用に満足するレベルまで酸が濃縮される場合、このような低い糖のレベルでは問題に遭遇しない。一方、酸はNCCプラントにリサイクルされるので、酸中の糖は失われない。
【0044】
特に、透過液として回収される酸は、漂白木材パルプを酸加水分解してNCCを形成するのに適するように、60重量%から68重量%、さらに特には約64重量%の濃度まで濃縮される。
【0045】
特に、低い糖含量では、NCCを形成するための漂白木材パルプの酸加水分解の使用に必要な濃度レベルまで分離した酸の流れを濃縮する蒸発工程の間には、糖は析出せず、また汚れを引き起こさないことが驚くべきことに見出されている。同時に、本発明の方法は価値ある製品、より特にはモノマー状の糖の価値ある製品、及び別個のオリゴマー状の糖の価値ある製品として糖の回収を可能にするという利点がある。
【0046】
酸及び糖を分離する別の手法には、イオン交換、膜ろ過、及びクロマトグラフィーが含まれ得る。これらの方法のコスト及びエネルギー消費は、出発フィードストックに依存する。NCCの流れはきれいであり(懸濁した固体、金属、リグニンを含まない)、したがって膜分離はコスト効率が高い手法である。
【0047】
分離した酸は、糖含量が低い限り、NCCプラントにリサイクルされることになる。ナノ膜によって、酸の中の糖含量は一定、且つ低いことが見出された。
【0048】
この廃液中に見られる糖は、アラビノース、ガラクトース、グルコース、キシロース及びマンノースのモノマー及びオリゴマーの混合物である。表Iに、軟木材の漂白パルプからNCCを製造した後の糖及び硫酸に関する廃酸の組成の例を表す。表Iに見られるように、セルロースの酸加水分解物中に見出される主要な糖はグルコースである。この特定のサンプルでは、糖の約38%はモノマー形態である一方、残りはオリゴマー形態である。この特定のサンプルにおける酸の濃度は、約71.5g/Lであった。このように、酸の濃度は約7wt%であった一方、糖含量は約0.5wt%であった。
【表1】

【0049】
硫酸は約98の分子量を有する一方、糖は約180(グルコースの場合)の分子量を有する。この特定の場合、分離は主に糖溶液からの硫酸の除去を必要とする。本発明者らの目的は、酸の濃縮ステップ(蒸発)中に、糖が蒸発器上でカラメル化することがないように、その中の糖の濃度をできる限り低くしながら、できる限り多くの酸を回収することであった。
【0050】
約200ダルトンの分子量カットオフを有するKoch Membrane Systems社製のナノろ過膜SelRO(登録商標)MPF−34は、幅広い範囲のpHで安定なので、これを選択した。一般に、酸/糖を含有する流れの温度は、40〜65℃の範囲である。溶液を45℃に加熱して、膜のラブ−セルシステム(lab−cell system)に置いた。膜は約28cmの表面積を有した。ゲージ圧約420psiの一定圧力を適用した。ユニットは約500mLの溶液を処理することができる。セルから排出するろ液を、別のフラスコに集めた。濃縮物は、ろ過ユニットの上部区画で循環した。ナノろ過膜を通過する初期流束は32lmh(リットル/m/時)であり、また糖が濃縮されるにつれてわずかに低下した。同一条件下及び同一のナノろ過膜を使用すると、NCCプラントからの廃酸の場合における膜浸透流束は、一般的なバイオマス加水分解物の流れを処理して得られる流束よりも2倍とかなり速い。
【0051】
実験の終わりに、ユニットを停止してサンプルを解析した。本実験室試験の結果を表IIに示す。初期硫酸の約82%が透過溶液中に回収された。濃度因子を向上することにより、一層多量の酸の回収が可能である。ナノろ過を使用して糖を濃縮したが、クロマトグラフィー分離の場合、糖は希釈されることになる。硫酸の流れ中には、糖の初期量のわずか3%が見られるに過ぎなかった。本分離を達成するために、他のポリマー製及び無機製のナノろ過膜を使用することができる。モノマー糖からのオリゴマー糖の分離には、200ダルトンより大きな細孔サイズを有する膜が必要となることになる。
【0052】
約66.6g/L(又は6.66wt%)の硫酸濃度を有する透過液約100mLを、蒸発によって約8mLの体積に濃縮した。最終溶液は、約725g/l(>60wt%)の酸濃度を有した。酸濃縮ステップ中、又は酸濃縮ステップ後に、糖が関連する析出は観察されなかった。NCC製造工程において使用される酸濃度は約60wt%である。こうして、蒸発器の表面上における糖が関連する汚れの問題を何ら懸念すること無く、回収される酸を本工程において利用することができる。
【表2】

【0053】
本発明では、単一のナノろ過ステップにより、酸から糖を驚くほど良好に分離するので、クロマトグラフィーユニットを必要としない。さらに、ナノろ過ステップは、リグニン及び金属などの発酵阻害物を含まない、発酵に望ましい濃縮された糖の流れを与えた。
【0054】
従来技術において、ナノ結晶性セルロース製造からの廃酸の流れを、モノマー、オリゴマー及び酸に分画するためのナノろ過の使用に関する言及はなされていない。したがって、従来技術は本発明を示唆するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性廃液から無機酸を回収する方法であって、
ナノ結晶性セルロース(NCC)の製造から誘導される、無機酸及び糖を含む水性液を用意するステップと、
無機酸の通過に選択性を示すナノ膜の第1の側に、前記液を接触させるステップと、
前記膜の、前記第1の側の反対の第2の側にある前記無機酸を含有し前記糖を実質的に含まない水性透過液を回収するステップと、
を含む上記方法。
【請求項2】
前記糖がモノマー状の糖の画分及びオリゴマー状の糖の画分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の側にある前記ナノ膜の非透過液に前記糖を回収して、前記モノマー状の糖の画分に選択性を示す第2の膜の第1の側に前記非透過液を接触させて、前記第2の膜の、前記第1の側と反対の第2の側にある前記モノマー状の糖の画分を含有する水性透過液を回収して、且つ前記第2の膜の前記第1の側にある前記第2の膜の非透過液として前記オリゴマー状の糖の画分を回収する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記液を前記ナノ膜に接触させる前記ステップの前に、前記酸及び前記モノマー状の糖の画分の通過に選択性を示す第3の膜の第1の側に前記液を接触させて、前記第3の膜の、前記第1の側と反対の第2の側にある前記酸及び前記モノマー状の糖の画分を含む透過液を回収して、且つ前記第3の膜の前記第1の側にある非透過液として前記オリゴマー状の糖の画分を回収する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記無機酸が硫酸である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ膜から回収した、前記無機酸を含有する水性透過液が、0.5重量%未満の糖対酸の比を有する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノ膜からの前記水性透過液を50重量%から70重量%の濃度を有する酸水溶液に濃縮するステップ、及び前記酸水溶液を酸の供給としてNCC製造にリサイクルするステップをさらに含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
モノマー状の糖の価値ある製品及びオリゴマー状の糖の価値ある製品を含む価値ある製品として、前記糖を回収するステップをさらに含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
漂白木材パルプの酸加水分解のステップ、並びに酸及び糖を含有する水性廃液からNCCを分離するステップを含むNCCを製造する方法であって、改善は前記酸に選択性を示すナノ膜を使用して前記水性廃液からの前記糖を実質的に含まない酸水溶液を分離するステップを含む上記方法。
【請求項10】
前記分離するステップが、
ナノ結晶性セルロース(NCC)の製造から誘導される、無機酸及び糖を含む水性液を用意するステップと、
無機酸の通過に選択性を示すナノ膜の第1の側に、前記液を接触させるステップと、
前記膜の、前記第1の側の反対の第2の側にある前記無機酸を含有し前記糖を実質的に含まない水性透過液を回収するステップと、を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記糖がモノマー状の糖の画分及びオリゴマー状の糖の画分を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の側にある前記ナノ膜の非透過液に前記糖を回収して、前記モノマー状の糖の画分に選択性を示す第2の膜の第1の側に前記非透過液を接触させて、前記第2の膜の、前記第1の側と反対の第2の側にある前記モノマー状の糖の画分を含有する水性透過液を回収して、かつ前記第2の膜の前記第1の側にある前記第2の膜の非透過液として前記オリゴマー状の糖の画分を回収する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記液を前記ナノ膜に接触させる前記ステップの前に、前記酸及び前記モノマー状の糖の画分の通過に選択性を示す第3の膜の第1の側に、前記液を接触させて、前記第3の膜の、前記第1の側と反対の第2の側にある前記酸及び前記モノマー状の糖の画分を含む透過液を回収して、かつ前記第3の膜の前記第1の側にある非透過液として前記オリゴマー状の糖の画分を回収する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記無機酸が硫酸である、請求項9から13までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ膜から回収した、前記無機酸を含有する水性透過液が、0.5重量%未満の糖対酸の比を有する、請求項9から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノ膜からの前記水性透過液を、50重量%から70重量%の濃度を有する酸水溶液に濃縮するステップ、及び前記酸水溶液を酸の供給としてNCC製造にリサイクルするステップをさらに含む、請求項9から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
モノマー状の糖の価値ある製品及びオリゴマー状の糖の価値ある製品を含む価値ある製品として、前記糖を回収するステップをさらに含む、請求項9から16までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
NCCを製造する方法であって、
漂白木材パルプの酸加水分解のステップと、
前記加水分解からNCCを回収するステップと、
前記加水分解から、漂白木材パルプの前記加水分解から誘導される酸及び糖を含有する水性廃液を回収するステップと、
前記水性廃液を請求項1から6までのいずれか一項に記載した方法に施して、前記ナノ膜からの前記水性透過液を、漂白木材パルプの酸加水分解に適した濃度を有する酸水溶液まで濃縮して、かつ前記酸水溶液を酸の供給として、前記酸加水分解にリサイクルするステップと、
を含む上記方法。
【請求項19】
前記濃度が50重量%から70重量%である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
モノマー状の糖の価値ある製品及びオリゴマー状の糖の価値ある製品を含む価値ある製品として、前記糖を回収するステップをさらに含む、請求項18又は19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−501825(P2013−501825A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524065(P2012−524065)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001198
【国際公開番号】WO2011/017797
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】