説明

ナノ繊維の製造方法

本発明はキトサンまたはコラーゲンの生体重合体を基材として製造される重合体マトリックスの静電紡糸によるナノ繊維の製造方法に関する。生体重合体は紡糸前に、30重量%〜90重量%の濃度の酢酸、乳酸、マレイン酸、リン酸三水素およびそれらの混合物の群から選択される有機酸または無機酸を含む溶媒系に、純粋状態で、または補助無毒性重合体との混合物として溶解し、次いでこの溶液を紡糸用電極と収集用電極との間の静電界に装入する。生成される生体重合体ナノ繊維は乾燥塊中に90重量%より多い量の生体重合体を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は紡糸用電極と収集用電極との間の静電界における紡糸によりキトサンまたはコラーゲンの生体重合体を基材として製造されるポリマーマトリックスのナノ繊維を製造する方法に関する。
【0002】
さらにまた、本発明はキトサンまたはコラーゲンの生体重合体(biopolymer)の静電紡糸によって製造されるナノ繊維の少なくとも1枚の層を含む布地に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)
生体重合体の特徴は多くの特異な性質を有することにあり、そのため医療用途に適するものであり、第一に生体適応性および無毒性によるものである。それらの重要な用途には、例えば包帯および硬膏の製造ばかりでなく、またインプラントおよび抗接着性マットの製造があり、これらの場合、生体重合体は組織間の術後接着の発生の危険性を明白に減少させる。それらの重要な用途にはまた、歯科医療、化粧品および皮膚または骨の欠損の充填用に形成外科における用途がある。数種の生体重合体は生体分解性であり、このことは、例えば酵素の作用により分解可能であることを意味する。
【0004】
生体重合体のナノ繊維状材料は高い多孔度および大きい比表面積を有し、酸素は貫通できるが、微生物は浸透できない。これらのナノ繊維状材料は同時に、使用される生体重合体の上記性質の全部を保有する。生体重合体ナノ繊維は、例えば火傷の治癒に適しており、この場合、これらは治癒に最適な湿度を確保し、同時に傷口からの滲出液の除去を確実にする。これらはまた、包帯材料、硬膏などに適している。
【0005】
重要な生体重合体の1種はキトサンであり、これはβ−(1→4)2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラン単位および2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラン単位から構成されている多カチオン性多糖類である。その化学的組成によって、キトサンはセルロースと非常に類似しており、2番目に最も広範囲に存在する再生可能な天然資源である。キトサンはアルカリ脱アセチル化によりキチンから抽出され、キチンの供給源には、甲殻を有する軟体動物、例えば貝類、ムラサキガイ類(mussels)、カニ類およびザリガニ類がある。キチンはまた、昆虫の被蓋(tctrics)およびキノコ類に含まれている。キトサンは生理学的pHにおいて正に帯電していることから生体分解性であり、生体適合性である。これはまた、生体接着性であることから、傷の治癒に非常に有利である。キトサンはまた、止血作用を有し、従って出血を止める。キトサンはまた、抗菌作用を有する。現時点で、そのLDLコレステロールおよび重金属を吸着する能力によって、減量食品(reduction diets)の大部分に含まれている。これらの性質によって、キトサンは医療用途に、例えば前記の硬膏および包帯用に直接に指定されるが、キトサンはまた、出血を止める充填剤として歯科医療で、または身体中への抗接着性マットとして指定される。キトサンはまた、廃水または液体、例えばビール、ワインまたはミルクの精製用に生物工学分野で使用されている。
【0006】
大部分のタイプのキトサンは水に不溶性であるが、5より低い溶液pHを有する有機酸に溶解する。最も頻繁に使用される溶媒は酢酸、乳酸、マレイン酸、シュウ酸などである。
【0007】
現時点で、格別に多くの科学研究所および大学がキトサンに関係している。ナノ繊維を得るためには、静電紡糸方法が使用される。現時点で、キトサンからのナノ繊維はニードル(needle)またはジェット(jet)紡糸用電極を備えた紡糸装置により製造されている。WO2007093805A1は、キトサンおよびアルギネートからの複合繊維の製造を開示しており、この方法では、キトサン繊維がアルギネート繊維の表面を覆っていることから、キトサンの最大含有量は80%に達する。繊維の径が50μmであることから、これらの繊維はナノ繊維ではない。
【0008】
WO2006133118A1は一般的に、水溶性重合体のナノ繊維層と水不溶性重合体のナノ繊維層が交互に存在するナノ繊維形態の生体重合体に関する。この場合、生成されるナノ繊維の径は1〜25000nmの範囲にあり、いずれもナノ径ではない。KR100652469Bは、抗菌性ナノ繊維に関するものであり、この繊維はポリエチレンテレフタレートとの混合物としてキトサンから製造されている。溶媒として、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールまたはトリフルオロ酢酸が使用されている。
【0009】
もう一つの韓国特許は紡糸用電極としてジェットを用いるキチンまたはキトサンのナノ繊維の製造に関する。溶媒として、N−メチルモルホリンオキシド、ヘキサフルオロ−2−プロパノールまたはヘキサフルオロアセトン水和物およびギ酸が使用されている。
【0010】
WO2006048829特許は医療用途、主として皮膚の保護および皮下充填剤としての用途におけるナノ繊維形態のキチンの新規誘導体に関する。使用されている生体重合体はオキシキチン、グルコレートのキチン、ヒアルロレートのキチンである。この特許ではまた、ナノ繊維の製造にニードル紡糸用電極が使用されている。
【0011】
WO03042251A1特許は、主として化粧品用途に活性および溶解性を増加する目的でナノ寸法繊維の形態でキトサンを含有する複合体の製造を開示している。しかしながら、生成されるナノ繊維の長さは格別に制限されており、5〜200nmの範囲で変化し、他方、それらの径は5〜30nmの範囲にある。この寸法はナノ繊維と言うよりはナノ粒子の寸法に相当する。
【0012】
もう一つの特許KR1020050048360AAは組織エンジニアリング用のナノ繊維不織布の製造に関するものであり、ナノ繊維の製造には、キトサン、コラーゲン、アルギン酸の群からの天然重合体および合成重合体、例えば乳酸のホモポリマー、乳酸とグルコン酸とのコポリマー、グルコン酸のホモポリマーおよびそれらの混合物が使用された。天然重合体と合成重合体との比率は4:1〜1:4である。
【0013】
比較的大量の刊行物が存在し、その中の数種はポリエチレンオキシドとの混合物としてのキトサンのナノ繊維の製造に関するものである。これらの刊行物の一つに、Bin Duanの論文があり(Journal of Biomaterial Science、Polymer Edition、51巻、2004、797−811頁)、この論文におけるキトサン:PEOの最大比は2:1であり、また溶媒として、2%酢酸が使用されている。ナノ繊維の製造には毛細管が用いられ、得られたナノ繊維径は80〜180nmである。
【0014】
もう一つの刊行物、N.Bhattarai(Biomaterials、26巻、Iss.31、2005、6176−6184頁)は、最大比90:10のキトサン:PEO混合物からのナノ繊維の製造に関するものであり、溶媒として、非イオン系界面活性剤トリトン(Tritron)X−100(登録商標)が使用されている。紡糸用電極としてはシリンジ(syringe)が使用され、適用電圧は20〜25kVであり、および電極間の距離は17〜20cmである。補助溶媒として、ジメチルスルホキシドが添加されている。
【0015】
X.Gengらは、濃酢酸中のキトサンの紡糸に関連している(Biomaterials、26巻、2005、5427−5432頁)。彼らは90%酢酸中の7%キトサンを4kV/cmの適用電圧で使用した。さらに高い適用電圧ではナノ繊維欠陥品が生じる。より低い濃度の酸を使用した場合、重合体溶液の過度に高い表面張力の問題が生じる。紡糸用電極としてはノズルが使用され、得られたナノ繊維径は130nmである。
【0016】
キトサンからの可能なもう一つのナノ繊維の製造方法は、ポリビニルアルコールを添加したキトサン溶液を紡糸する方法であり、この方法はLei Liおよび彼のグループが関与している(Carbohydrate Polymers、62巻、2006、142−158頁)。原料溶液は2%酢酸中のPVA/キトサンの83/17(重量/重量)比の混合物から構成されており、達成されるナノ繊維の径は20〜100nmである。次いで、NaOH中ですすぐことによってPVAをナノ繊維から除去する。
【0017】
医療に最も使用されているもう一種の生体重合体はコラーゲンであり、コラーゲンは特に、骨の治療、インプラント、人工歯充填、人工皮膚、人工軟骨、椎骨、などに適用することができる。コラーゲンは、特に皮膚、血管壁、軟骨、靭帯に含まれている。19のタイプのコラーゲンが知られており、その中の数種は酢酸に可溶性である。医療において、主としてタイプI、IIおよびIIIが使用される。コラーゲンは規則的に反復するアミノ酸Gly−Pro−Hypでα−螺旋を形成している3種のポリペプチドから形成されている。コラーゲンは水溶性であり、2〜3種の溶媒に可溶性であり、その中で最も使用される溶媒はヘキサフルオロイソプロパノールである。化学的分解または熱的分解によって、ゼラチンが得られる。
【0018】
CN1944724は、キトサンとコラーゲンとの複合体の製造に関する特許である。この特許では、ヘキサフルオロイソプロパノールおよびトリフルオロ酢酸、またはそれらの混合物が溶媒として使用された。タイプIのコラーゲンの紡糸に関する刊行物の一つは、J.A.Matthewsの論文であり(Biomacromolecules、3巻、2002、232−238頁)、ここではヘキサフルオロイソプロパノールが溶媒として適用されている。
【0019】
WO2006068421A1は、ポリヒドロキシアルカノエート、コラーゲンまたはゼラチンから形成されているナノ繊維の製造を開示している。これらのナノ繊維の製造に適用された紡糸用電極はノズル(nozzle)またはニードルであり、ナノ繊維の径は50〜2000nmの範囲で変化する。
【0020】
前記特許または刊行物から明白なように、生体重合体、特にキトサンまたはコラーゲンのナノ繊維のいかなる連続的製造方法も知られていない。紡糸用電極を形成するニードルからの静電紡糸は滴状の重合体溶液が消費された後、中断される。重合体溶液が供給されるノズルまたは毛細管からの紡糸はいずれも連続法ではない。これはノズルまたは毛細管の小さい内径が妨げになり、そのクリーニング期間として紡糸加工を中断せねばならないからである。さらにまた、上記方法により今日まで製造されているナノ繊維は充分な品質のものではなく、それらの層は均一ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は静電紡糸により生体重合体のナノ繊維を製造する方法であって、背景技術の欠点を改善する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
本発明の目的は、本発明に従いキトサンまたはコラーゲンの生体重合体を基材とした製造される重合体マトリックスの静電紡糸によるナノ繊維の製造方法によって達成され、その要旨は生体重合体を紡糸前に、純粋状態で、または補助無毒性重合体との混合物として、30〜90重量%の濃度の酢酸、乳酸、マレイン酸、リン酸三水素およびそれらの混合物の群から選択される有機酸または無機酸を含有する溶媒系に溶解し、次いでこの溶液を紡糸用電極と収集用電極との間の静電界に装入することにあり、生成される生体重合体ナノ繊維は乾燥塊中に生体重合体を90重量%よりも多い量で含んでいる。
【0023】
同時に、生体重合体ナノ繊維が乾燥塊中に生体重合体を95重量%よりも多い量で含んでいると有利である。
溶媒系が酢酸を含む場合、紡糸により一定の品質が得られる。
【0024】
キトサンのナノ繊維の製造において、150kDaより低い分子量を有するキトサンを紡糸前に、50重量%よりも高い濃度の酢酸に補助無毒性重合体PEOとともに溶解すると有利である。
キトサンの繊維はまた、請求項5に示されているように、PEOを添加することなく製造することができる。
コラーゲンのナノ繊維の製造において、コラーゲンを紡糸前に、希酢酸および1〜3%の濃度を有する水溶性補助重合体PEOまたはPVAを含む溶媒系に溶解すると有利である。
前記方法によって、紡糸加工に付することができる別種の重合体の静電紡糸の場合の品質に相当する品質のナノ繊維の製造において常習的に前記生体重合体の静電紡糸を行うことができる。
紡糸用の電気的静電界において、生体重合体溶液を紡糸用電極の紡糸手段の活動性帯域の表面に配置すると、一定の良好な紡糸効果が得られる。
同時に、生体重合体溶液を紡糸用電極の表面を経て紡糸用静電界に供給すると、有利である。
紡糸用電極は長方形形状であって、その周囲の部分が生体重合体溶液中に延びている回転性紡糸用電極から形成すると有利である。
有利な態様において、このような紡糸用電極は非導電性材料から形成されている一対の面を含み、これらの面間にワイヤから形成された紡糸手段が配置されており、この紡糸手段は周囲を取り囲んで、回転軸に対し平行に分布しており、および相互に導電性に連結している。
紡糸用静電界において、生体重合体溶液が紡糸手段の活動性紡糸帯域の表面に配置されていると、また有利であることができる。
紡糸期間中、コードの活動性紡糸帯域は収集用電極に対し安定した位置を有し、また生体重合体溶液はその長さ方向のコードの移動により、または適用によりコードの活動性紡糸帯域に供給される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(態様の例)
キトサンは単独で、または、理想的な場合、生体適合性であって、生体分解性である水溶性の補助的無毒性重合体との混合物として溶解させる。その例は、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイドまたはポリビニルピロリドンである。キトサンは溶媒系に応じて5〜25重量%の濃度で使用する。溶媒系は有機酸または無機酸、特に酢酸から構成されており、酢酸の濃度は30%より高く、90%より低くする。乳酸、マレイン酸およびリン酸三水素またはそれらの混合物をまた使用することができる。キトサンと補助重合体との比率はナノ繊維の乾燥塊について90:10より高い。この溶液に、上昇させた温度下に網状化剤(reticulate agents)、例えばジアルデヒド化合物、ジカルボン酸化合物、ゲニピン(genipin)、クエン酸三ナトリウム塩を添加することができる。この方法はキトサンの分子量、脱アセチル化度、濃度または粘度、表面張力、周辺温度および湿度、ならびに電極の回転およびタイプ、電極間の距離および適用電圧などの技術的パラメーターに依存する。
【0026】
溶液を製造するための特定の態様の例では、65.7%酢酸450g中にキトサン31.5gを使用する。溶液をできれば短期間50℃に加温してキトサンの溶解を増加させ、24時間にわたり混合すると有利である。放置後、この混合物を水中ポリエチレンオキサイド3%溶液112.5gと混合する。キトサンとPEOとの比率(重量/重量)は生成されるナノ繊維の乾燥塊100gについて90.3:9.7である。このキトサン含有量は100%近くまで増加することができるが、同時的に性能は低下する。
【0027】
生体重合体の前記溶液の静電紡糸には、重合体溶液の紡糸用電極を含む静電紡糸装置を使用した。この装置は、その周囲部分が貯蔵容器内に存在する生体重合体溶液中にまで延びている回転可能に据付られた紡糸手段を含んでいる。この回転可能な紡糸手段は、その回転によって生体重合体溶液を高強度の静電界中に移送する。この高強度の静電界は紡糸用電極とそれに対応して配列されている収集用電極間の電位差により作り出される。一方で、収集用電極に対応して配置されている回転可能な紡糸手段の表面部分は当該紡糸手段の活動性紡糸帯域を提供する。紡糸に際し、生体重合体溶液は紡糸用電極の紡糸手段の活動性紡糸帯域の表面に存在する静電界に見出されなければならない。このような回転可能な紡糸手段は、例えばCZ特許294274に従い、またはCZPV2006−545またはCZPV2007−485に従い動作させることができる。
【0028】
生体重合体の前記溶液の製造には、別のタイプの紡糸手段を使用することもできるが、紡糸用静電界に存在する生体重合体溶液は紡糸用電極の紡糸手段の活動性紡糸帯域の表面に見出されなければならない。このような紡糸手段は上記特許294274または本発明明細書に従う別のタイプの回転可能な紡糸手段から形成することもできる。生体重合体溶液の紡糸はCZPV2007−485に従うコード(code)紡糸用電極によっても成功裏に実行され、このコード紡糸用電極の活動性紡糸帯域は収集用電極に対し安定な位置を有し、生体重合体溶液の当該コードの活動性紡糸帯域への供給は、その長さ方向でコードの適用によって、またはコードの運動によって行われることから、回転可能な紡糸手段の適用に必須条件はない。この場合、静電界に存在する紡糸される生体重合体溶液は、紡糸手段の活動性帯域の表面に見出されなければならない。
【0029】
上記キトサン溶液の具体的な紡糸に際し、当該溶液の一部を貯蔵槽に注入した。この貯蔵槽は紡糸用電極、特に円柱状またはコード状紡糸用電極を備えていた。電極を備えた貯蔵槽は静電紡糸によるナノ繊維製造装置内に配置した。基板材料として、静電防止性表面仕上げを有する表面積17g/mのポリプロピレン製スパンボードを使用し、また収集用電極として、CZPV2006−477に従う非イオン化性円柱状電極を使用した。紡糸用電極における処理期間中、60〜75kVの一定電圧を設定し、および収集用電極にはアースを付けた。電極間の距離は100〜200mmであった。紡糸用電極の回転速度は3〜10回転/分であり、および基板材料の移動は20cm/分であった。周辺空気の相対湿度は20℃の温度において30%であった。
【0030】
同一の方法を使用し、下記溶液を静電紡糸に付し、類似の結果を得た。
【0031】
タイプIコラーゲンの紡糸をその希酢酸中の溶液から行った。医療用途で問題を生じることがあるハロゲン溶媒は使用しなかった。酢酸の残留物はナノ繊維状材料を短時間かけて加温することによって除去することができる。このコラーゲンのナノ繊維はキトサンと同一の様相で網状に配列させることができる。得られたコラーゲンと補助重合体との重量比は90:10よりも高い。コラーゲンのナノ繊維の製造には、特に上記コード紡糸用電極を適用することができ、適用電圧は6〜7kV/cmである。
【0032】
0.5M酢酸中の10%コラーゲン溶液12gを製造する場合、99%酢酸6gおよび水中3%PEO1.2gと混合する。すなわち、ナノ繊維の乾燥塊100gあたり98.5%コラーゲンである。PEOの利用によってコラーゲンの量を減少させると、紡糸プロセスの性能は増大される。
【0033】
前記技術の利点はナノ繊維中の生体重合体の含有量が多いこと、およびナノ繊維の表面密度が広範囲である、すなわち0.05〜100g/mであることにある。生成されるキトサンのナノ繊維は10〜250nmの径を有することができ、およびコラーゲンのナノ繊維は10〜200nmの径を有することができる。全部の場合について、長時間の連続的紡糸プロセスが達成された。
【0034】
例1
紡糸前、平均75%の脱アセチル化度を有する低分子量(5〜30mpa.sの粘度を伴う0.5%酢酸溶液中の0.5%キトサン溶液について150kDaよりも低い分子量)のキトサンを50%より高い濃度を有する希酢酸に溶解し、次いで最低12時間にわたり混合しながら放置する。安定化後、分子量300000〜400000および濃度1〜3%のPEOなどの水溶性重合体中の賦形剤の混合物と35℃までの温度、60%までの湿度において混合し、次いでこの溶液を紡糸用電極と収集用電極との間の静電界に供給する。
【0035】
例2
コラーゲンを紡糸前に、酢酸87.5重量%、水溶性重合体賦形剤(PEOまたはPVA)(濃度1〜3%)を含む溶媒系に35℃までの温度、60%までの湿度で溶解し、この溶液を紡糸用電極と収集用電極との間の静電界に供給する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
(産業上利用可能性)
キトサンおよびコラーゲンのナノ繊維は多大の適用可能性を備えており、中でも第一に医療用途に適用可能性を備えている。ナノ繊維がほぼあらゆる表面密度を有する可能性を有することからまた、無基板材料、抗接着性マット、硬膏、インプラント、および望ましくない骨および歯欠損の充填剤として適用することができる。その止血効果によって、キトサンは経済的価格の減少および同時に傷治癒の速度上昇を伴い手術時に使用することができ、あるいはまた歯科医療において、出血を止めるために使用することができる。コラーゲンナノ繊維は、損傷された病巣、靭帯および腱の取替え品として、または骨、例えば椎骨間板の損傷における取替え品として、またはインプラントのコーティングとして、それらの用途が確実に見出されるであろう。かかる用途においては、身体中への異種要素導入後の臓器における負の免疫学的応答が減少される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンまたはコラーゲンの生体重合体を基材として製造される重合体マトリックスの静電紡糸によるナノ繊維の製造方法であって、生体重合体を紡糸前に、純粋状態で、または補助無毒性重合体との混合物として、30重量%〜90重量%の濃度の酢酸、乳酸、マレイン酸、リン酸三水素およびそれらの混合物の群から選択される有機酸または無機酸を含む溶媒系に溶解し、次いでこの溶液を紡糸用電極と収集用電極との間の静電界に装入することを含み、生成される生体重合体ナノ繊維が乾燥塊中に生体重合体を90重量%より多い量で含むことを特徴とするナノ繊維の製造方法。
【請求項2】
生体重合体ナノ繊維が乾燥塊中で生体重合体を95重量%より多い量で含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒系が酢酸を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
キトサンを基材として製造される重合体マトリックスの静電紡糸による前記請求項のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法であって、150kDaより低い分子量を有するキトサンを紡糸前に、50重量%より高い濃度の酢酸に補助無毒性重合体PEOとともに溶解することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
キトサンを基材として製造される重合体マトリックスの静電紡糸による請求項1〜4のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法であって、150kDaより低い分子量を有するキトサンを紡糸前に、50重量%より高い濃度の酢酸に溶解することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
コラーゲンを基材として製造される重合体マトリックスの静電紡糸による前記請求項のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法であって、コラーゲンを紡糸前に、希酢酸および1〜3%の濃度を有する水溶性補助重合体PEOまたはPVAを含む溶媒系に溶解することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
生体重合体溶液を紡糸用電極の紡糸手段の活動帯域の表面上に位置している紡糸用電気的静電界に存在させることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
生体重合体溶液を紡糸用電極の表面上の紡糸用静電界に供給することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
紡糸用電極は、その周囲部分が生体重合体溶液中にまで延びている長方形の回転性紡糸用電極から形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
回転性紡糸用電極が非導電性材料から形成されている一対の面を含み、これらの面の間にワイヤから形成された紡糸手段を備えており、これらの紡糸手段は周囲を取り囲んで回転軸に対し平行に均等に分布されており、および相互に導電性に連結していることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
紡糸用静電界における生体重合体溶液が紡糸手段の活動性紡糸帯域のコードの表面に配置されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
コードの活動性紡糸帯域が、紡糸期間中、収集用電極に対し安定な位置を有し、生体重合体溶液はコードへの適用により、またはコードの運動によりその長さ方向に供給されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
キトサンまたはコラーゲンの生体重合体の静電紡糸により製造されたナノ繊維の少なくとも1枚の層を含む布地であって、生体重合体から製造される製造されたナノ繊維層が0.05〜100g/mの表面密度を有することを特徴とする布地。

【公表番号】特表2011−500980(P2011−500980A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529224(P2010−529224)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/CZ2008/000124
【国際公開番号】WO2009/049565
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(507336444)エルマルコ、エス.アール.オー (17)
【Fターム(参考)】