説明

ニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法

【課題】各種圧電特性がバランス良く優れたニオブ酸アルカリ系圧電材料を製造するための方法を提供する。
【解決手段】ニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法であって、前記圧電材料となる化合物の原料と溶媒とを混合する混合ステップs11と、前記化合物と前記溶媒との混合物を、焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップs13と、前記仮焼成ステップ後の前記混合物にバインダーを添加したものを所定の形状に成形する成形ステップs15と、前記成形ステップにて得た成形物を酸素雰囲気中で焼結させる焼成ステップs17と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料としては、PZT(PbTiO−PbZrO)組成系セラミックスがよく知られている。PZTは、電気機械結合係数や圧電定数などの圧電特性に優れ、このPZTは、センサー、超音波モーター、フィルターなどの圧電素子に広く使用されている。
【0003】
ところで、近年では、環境に対する要請から工業製品の「鉛フリー」化が急務となっている。当然、PZTも最終的に工業製品に使用されるため、圧電材料も、鉛(Pb)が含まれているPZTから、鉛を含まない他の圧電材料に置換していく必要がある。
【0004】
そして、鉛を含まない圧電材料(非鉛圧電材料)としては、一般式KNa(1−x)NbOで表される化合物(KNN)、一般式(K1-aNa1−bLi(Nb1−c−dTaSb)Oで表される化合物などに代表されるニオブ酸アルカリ系の圧電材料や、チタン酸バリウム(BaTiO)系の圧電材料などがある。なお、KNNを主成分として含む圧電材料(以下、KNN系圧電材料)については、例えば、以下の特許文献1に記載されている。当該文献1では、KNNにおけるxの値が0.02≦x≦0.5で、そのKNNにFeとCoの少なくともいずれかを添加した圧電材料が開示されている。また、圧電材料に関する一般的な技術については、以下の非特許文献1や2に詳しく記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭56−12031号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】FDK株式会社、”圧電セラミックス(技術資料)”、[online]、[平成23年11月15日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/cyber-j/pdf/BZ-TEJ001.pdf>
【非特許文献2】NECトーキン株式会社、”圧電セラミックス Vol.04”、[online]、[平成23年11月15日検索]、インターネット<URL:http://www.nec-tokin.com/product/piezodevice1/pdf/piezodevice_j.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、環境問題に関わる上記背景に鑑み、ニオブ酸アルカリ系の圧電材料の特性改良に取り組み、KNNを母材として実用に耐える圧電特性を維持しつつ、耐湿性を向上させた圧電材料を発明し、これを特許出願した(特願2010−39062:先発明1)。また、KNN以外のニオブ酸アルカリ系圧電材料についても組成や添加物を検討し、これを特許出願した(特願2010−57735:先発明2,特願2010−161855:先発明3)。
【0008】
ところで、本発明者は、ニオブ酸アルカリ系の圧電材料の各種圧電特性(電気機械結合係数Kp、機械的品質係数Qm、比誘電率εr)をさらに向上させるべく、鋭意研究を続けており、その研究過程で、ニオブ酸アルカリ系の圧電材料では、各種圧電特性(電気機械結合係数Kp、機械的品質係数Qm、比誘電率εr)をさらに向上させようとすると、その全てをバランス良く向上させることが難しい、ということを知見した。特に、Qmとεrが相反関係にあり、先発明1〜3の延長線上では、Qmとεrの双方の特性をさらに向上させることが極めて困難であることが分かった。
【0009】
例えば、上記先発明2,3は、ニオブ酸アルカリ系の圧電材料として、圧電性を発現する物質(以下、母材)として、一般式{(K1-aNa1−bLi}(Nb1−c−dTaSb)Oで記載される化合物を用い、その母材にガラスと、銅(Cu)酸化物を添加した圧電材料であった。これらの発明に係る圧電材料は、従来のニオブ酸アルカリ系の圧電材料よりも優れた特性を有していたが、圧電特性おける機械的品質係数Qmと比誘電率εrをともに向上させることが難しかった。
【0010】
そこで、ニオブ酸アルカリ系以外の非鉛圧電材料であるBaTiOを主要な母材として用いた圧電材料も検討したが、従前から、BaTiOは、キューリー温度が低く、100℃前後で脱分極が起こって圧電性が失われるため、実用化に関して大きな問題があった。また、焼結温度が1300℃付近であり、緻密な構造を得ることも困難であった、そのため、機械的な強度が不足し、所定の形状に加工する際に破損するなどして生産性が低下する、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
===本発明までの経緯===
上述したように、ニオブ酸アルカリ系圧電材料とBaTiOは、実用的な非鉛圧電材料として期待されているものの、それぞれに解決しなければならない問題がある。そこで本発明者は、ニオブ酸アルカリ系圧電材料と、BaTiOの双方を含む圧電材料であれば、双方の欠点が補完されて、Qmとεrの双方の特性がさらに向上するとともに、生産性の低下も抑止できると考えた。そして、一般式{(K1-aNa1−bLi}(Nb1−c−dTaSb)O+xmol%BaTiO+ymol%CuOで表される圧電材料であって、0≦a≦0.9、0≦b≦0.3、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0.5≦x≦7.0、0.9≦n≦1.2、0.1≦y≦8.0とすることで、Qmとεrの双方の特性をバランス良く向上させることができるともに、生産性を向上させることもできる、ということを知見し、この圧電材料を、特許出願した(特願2011−35782:先発明4)。
【0012】
その後、この先発明4よりもさらに特性に優れた圧電材料を求めて様々な組成のニオブ酸アルカリ系圧電材料について検討してみた。しかし、大きな進展は見られなかった。そこで、圧電材料となる化合物やその化合物の組成、あるいは添加物の種類や添加量など、圧電材料の構成だけではなく、圧電材料の構成に応じた製造方法を検討することが必要であると判断した。本発明は、各種圧電特性がバランス良く、しかも個々の圧電特性が極めて優れたニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法を提供することを目的としている。
【0013】
===本発明の開示===
本発明者は、上記目的を達成するために、先発明1〜4に想到する過程で得た圧電材料の構成と圧電特性との関係についての知見を参考にしつつ、各種製造方法について鋭意研究を重ね、本発明に想到した。そして、本発明は、ニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法であって、
前記圧電材料となる化合物の原料と溶媒とを混合する混合ステップと、
前記化合物と前記溶媒との混合物を、焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップと、
前記仮焼成ステップ後の前記混合物にバインダーを添加したものを所定の形状に成形する成形ステップと、
前記成形ステップにて得た成形物を酸素雰囲気中で焼結させる焼成ステップと、
を含むことを特徴とするニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法としている。
【0014】
また、前記圧電材料が、一般式{(K1-aNa1−bLi}(Nb1−c−dTaSb)O+xmol%BaTiO+ymol%CuOで表される化合物であり、前記混合ステップでは、0≦a≦0.9、0≦b≦0.3、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0.5≦x<10.0、0.1≦y≦8.0、0.9≦n≦1.2、となるように当該化合物の原料を混合することを特徴とするニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法とすることもできる。あるいは、前記圧電材料が、一般式KNa(1−x)NbOで表される化合物を含んでいることを特徴とするニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、環境に優しく、各種圧電特性がバランス良く優れた圧電材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】圧電材料の製造方法を説明するための工程図である。
【図2】従来例および第1の実施例に係る製造方法で作製した、一般式(K1-aNa1−bLi(Nb1−c−dTaSb)O+xmol%BaTiO+ymol%CuOで表される圧電材料AにおけるTG/DTA分析の結果を示す図である。
【図3】上記圧電材料Aの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】圧電材料の概略構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===圧電材料===
先発明4は、組成式が{(K1-aNa1−bLi}(Nb1−c−dTaSb)O+xmol%BaTiO+ymol%CuOで表され、かつ、0≦a≦0.9、0≦b≦0.3、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0.5≦x≦7.0、0.9≦n≦1.2、0.1≦y≦8.0となる圧電材料であった。この圧電材料(以下、圧電材料A)は、各種圧電特性がバランス良く優れている、ということが確認されている。そこで、第1の実施例に係る圧電材料の製造方法として、まず、この実績がある上記の圧電材料Aの特性をさらに向上させるための製造方法を挙げる。
【0018】
===圧電材料の作製手順===
一般的な圧電材料は、セラミックスであり、基本的には、圧電性の起源となる物質に添加剤を加えた混合物を焼結する、という手順により得られる。第1の実施例の製造方法も、この基本的な手順に従う。しかし、第1の実施例の製造方法では、製造対象となる圧電材料をニオブ酸アルカリ系圧電材料とするとともに、焼結時の条件を工夫することで、圧電材料Aの特性をさらに向上させることができる。
【0019】
図1の(A)および(B)に、それぞれ従来例に係る製造方法の手順および第1の実施例に係る製造方法の手順を示した。図1(A)に示した従来例の製造方法では、まず、圧電材料Aの原料を所定量秤量して配合し(s1)、ボールミル中にその原料と溶媒となるアルコール(エタノールなど)を入れて湿式混合する(s2)。それによって、圧電材料Aの原料が混合されるとともに粉体状に粉砕される。そして、この混合物を大気中で950℃の温度で1時間(h)〜3h仮焼成する(s3)。
【0020】
つぎに、仮焼成によって得た粉末を24h湿式混合するとともに、その混合物にバインダーとしてPVA水溶液を加えて混合して粉砕することで、適宜な大きさの粒子径の粉末に造粒する(s4)。さらに、その造粒された粉末を目的とする形状に成形する(s5)。そして、上記成形物を所定温度下(例えば、300℃〜500℃程度)に置いて、バインダーを除去したのち、大気中で900℃〜1200℃の温度で1h焼成し(s7)、圧電セラミックスを得る。また、その圧電セラミックスを、直径Φ≧15mm以上で、厚さt=1.0mmとなる円板状に加工し(s8)、その円板の両面にAg電極を焼き付ける(s9)。最後に、120℃のシリコンオイル中において、4Kv/mmの電界で分極処理を30分間行って圧電材料とする(s10)。
【0021】
一方、図1(B)に示した第1の実施例に係る製造方法では、焼成工程(s17)が、酸素雰囲気中で焼成している点が従来例の製造方法と異なっている。従来例の製造方法では、焼成工程(s7)を大気中で行っていた。焼成工程(s17)以外の他の工程(s11)〜(s16)、(s18)〜(s20)については、従来例の製造方法における工程(s1)〜(s6)、(s8)〜(s10)と同様である。そして、従来例、および第1の実施例の各製造方法で組成(a〜d,x,y,nの各値)を変えた各種圧電材料Aをサンプルとして作成した。なお、a〜d,x,y,nの各値が発明3にて規定した範囲から外れているサンプルも同時に作製した。
【0022】
以下の表1に各サンプルの組成を示した。
【表1】

【0023】
表1には、No.1〜No.29の29通りの組成が示されている。作製したサンプルは、この29通りの組成で、従来例と第1の実施例のそれぞれの製造方法で作製した合計58種類の圧電材料Aである。また、表中において、発明3にて規定した組成から外れている値については、「※」印を付した。
【0024】
===特性評価===
表1に示したように、従来例と第1の実施例のそれぞれの製造方法によって、組成が異なる合計58種類のサンプルを作製した。そして、作製した各サンプルを大気中で24h放置し、その後、各サンプルの比誘電率εr、電気機械結合係数Kp(%)、および機械的品質係数Qm(%)を測定した。
【0025】
表2に、当該測定結果を示した。
【表2】

【0026】
表2には、従来例の製造方法で作製したサンプルのεr、Kp(%)、Qm(%)の測定値が示されているとともに、第1の実施例の製造方法で作製した同じ組成のサンプルについての各圧電特性(εr,K,Qm)の特性増減率(Δεr,ΔK,ΔQm)が示されている。また、表2において、発明3で規定した範囲から外れている組成については「※」を付している。
【0027】
特性増減率は、誘電率εrを例に挙げると、ある組成の圧電材料Aを従来例の製造方法で作製したときの誘電率がεr1で、同じ組成の圧電材料Aを第1の実施例の製造方法で作製したときの誘電率がεr2であれば、誘電率の特性増減率Δεr(%)は、
Δεr={(εr2−εr1)/εr1}×100
の式によって求められる数値であり、従来例の製造方法に対して特性が劣化している場合は、εr2−εr1<0であるので、特性増減率は負の値となる。そして、表2に示した結果より、第1の実施例の製造方法で作製したサンプルは、従来例の製造方法で作製したサンプルに対し、全ての組成で、全ての圧電特性が向上していることが分かる。
【0028】
<特性向上について>
上記表2に示した結果より、酸素雰囲気中で焼成することで、圧電材料Aの特性を向上させることが確認できた。この特性向上のメカニズムとしては、まず、結晶化がより促進されている、ということが考えられる。そこで、図1における成形工程(s5,s15)後の圧電材料Aの原材料を所定の速度で昇温していきながら焼成し、その焼成過程で周知のTG/DTA(Thermo Gravimetry/Differential Thermal Analysis)を行い、当初の質量からの変化率重量変化率(%)と示唆熱(基準物質と圧電材料Aとの温度差:℃)とを同時に測定した。図2に、当該TG/DTA分析の結果を示した。図中では、酸素雰囲気中での焼成したときの特性を示すグラフを実線で示し、大気中で焼成したときの特性を示すグラフ曲線を点線で示した。なお、焼成温度は、約1100℃としている。
【0029】
図2において、まず、示唆熱の特性曲線(101,102)を見ると、約750℃で、結晶化に伴う発熱反応が現れ、900℃近辺で、その発熱反応のピーク(103,104)が見られる。そして、酸素雰囲気中で焼成したときの示唆熱特性曲線101におけるピーク103の方が、大気中で焼成したときの示唆熱特性曲線102におけるピーク104よりも大きくなっている。また、発熱反応の温度範囲104も大気中で焼成したときの範囲105より広い。これは、酸素雰囲気中で焼成することで、結晶化がより促進される、ということを示している。
【0030】
また、結晶化の温度より高温側の示唆熱特性を見ると、大気中での示唆熱特性曲線102には、焼成温度の近傍でアルカリ成分の溶解熱による吸熱反応と思われる示唆熱の落ち込み106が見られる。一方、酸素雰囲気中では、その温度における吸熱反応は見られず、アルカリ成分が結晶構造中に封じ込まれた、ということが示された。重量増加率特性については、結晶化に伴う発熱反応のピーク(103,104)に対応する温度で、酸素雰囲気中での特性曲線111に、酸化に伴う重量増加を示すピーク113が認められた。一方、大気中での重量増加率曲線112には、酸化を示す重量増加が認められなかった。
【0031】
以上より、酸素雰囲気中で焼成する第1の実施例の製造方法で作製したサンプルでは、結晶化が促進され、その結晶化に伴って、結晶構造中に酸素とアルカリ成分が封じ込まれ、その結果、酸素空孔の少ない理想的な結晶構造となり、圧電特性が向上した、と考えることができる。なお、作製後のサンプルの密度を測定したところ、第1の実施例の製造方法で作製したサンプルの密度が、従来例の製造方法で作製したサンプルに対して5〜10%高く、結晶構造がより緻密になっていることが確認された。
【0032】
さらに、表2の結果から、第1の実施例の製造方法で作製したサンプルでは、特に、Qmの特性向上が顕著であり、従来例と比較して50%以上も向上したサンプル(No.2,No.3)もあった。これは、発明3に想到する過程で、CuOを添加することによりQmが向上することが知見されていることから、このCuOによるQmの特性向上効果が酸素雰囲気中で焼成することにより、さらに増強されたものと思われる。そこで、CuOによるQmの特性向上のメカニズムを解明するために、圧電材料Aの結晶構造を電子顕微鏡によって観察した。
【0033】
図3は、ある組成の圧電材料Aの電子顕微鏡写真であり、図3(A)と(B)は、それぞれ、従来例の方法とによって作製したある組成の圧電材料Aと、第1の実施例の製造方法で作製した同じ組成の圧電材料Aを示している。図3に示した写真から、従来例の製造方法で作製した圧電材料Aでは、CuO(写真中、白い斑点)が局在しているのに対し、第1の実施例の製造方法で作製した圧電材料Aでは、CuOが均一に分散されていること分かる。これは、図4に示したように、圧電材料1は、結晶粒(ドメイン)10がモザイク状につなぎ合わされた構造を有しており、Cu(銅)を含む物質が各ドメイン10間の境界(粒界)11に入り込むと、ある周波数で急激にドメインの分極方向が反転する、所謂「ピン留め効果」を助長し、その結果、Qmが向上する、というメカニズムが考えられる。そして、第1の実施例の製造方法で圧電材料Aを作製すると、その銅がより均一に分散されるため、各ドメイン10でピン留め効果が一斉に発現する、と考えられる。周知のごとく、Qmの大きさは、電気的に測定すると共振曲線の鋭さに相当し、各ドメイン10の分極が均一であれば、Qmの特性も向上する。
【0034】
===第2の実施例===
上述したように、酸素雰囲気中で焼成した圧電材料Aは、大気中で焼成した圧電材料Aよりも圧電特性が優れている、ということが分かった。そこで、酸素雰囲気中で焼成することによる特性向上が他のニオブ酸アルカリ系圧電材料にも当てはまるか否かを確認することにした。そして、第2の実施例に係る圧電材料の製造方法として、代表的なニオブ酸アルカリ系圧電材料であるKNNを母材とした各種圧電材料を酸素雰囲気中で焼成する例を挙げる。なお、第2の実施例おける製造方法は、原料が異なるだけで、製造手順自体は、図1(B)に示した手順と同様である。
【0035】
表3に、第2の実施例の製造方法で作製した各種圧電材料の組成を示した。
【表3】

【0036】
表3において、組成No.30は、KNNに添加物を加えていない圧電材料であり、No.31は、添加物としてCuOを加えた圧電材料である。No.34〜No.36は、KNNにガラスを添加した先発明1に係る圧電材料の中から代表的な組成を選んだものであり、その他は、一般的な添加物をKNNに加えた圧電材料の組成である。そして、表3に示した組成を有するKNNを母材とした各種圧電材料について、大気中で焼成したものと、酸素雰囲気中で焼成したもののそれぞれについて、圧電特性を測定した。
【0037】
表4に、当該測定結果を示した。
【表4】

【0038】
表4は、KNNを母材とした各種圧電材料について、従来例の製造方法で作製した圧電材料の各種圧電特性(εr、Kp、Qm)の測定値と、第2の実施例の製造方法で作製した同じ組成の圧電材料についての各圧電特性(εr,K,Qm)の特性増減率(Δεr,ΔK,ΔQm)を示している。そして、この表4に示した結果より、KNNを母材とした圧電材料においても、酸素雰囲気中で焼成することにより圧電特性が向上することが確認できた。なお、KNNは、圧電材料Aと比較すると組成に含まれる希少金属の種類が少ないため、KNNを母材とした圧電材料は、上記の圧電材料Aよりも安価に提供することが可能となる。そして、圧電素子を組み込んだ機器では、性能より価格が優先される場合あれば、性能がより重視される場合もあることから、圧電素子が組み込まれる機器の用途や、その機器に対する要求に応じ、圧電素子を構成する圧電材料には、KNNと上記圧電材料Aのいずれかを採用すればよい。
【0039】
ところで、表3に示した各種組成の圧電材料は、代表的なニオブ酸アルカリ系圧電材料であるKNNや、そのKNNに各種添加剤を加えた圧電材料であり、そのいずれもが酸素雰囲気で焼成することによって特性が向上する、ということが確認できた。したがって、このKNNや上記の圧電材料Aに限らず、他のニオブ酸アルカリ系圧電材料においても、酸素雰囲気中で焼成することで特性を向上させることが十分に期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明は、圧電ブザーや超音波モーターなどの圧電性を利用した機器や素子に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 圧電材料、10 結晶粒(ドメイン)、11 粒界、
101,102 示唆熱特性曲線、111,112 重量増加率曲線、
s1,s11 原料配合工程、s2,s12 混合粉砕工程、
s3,s13 仮焼成工程、s7,s17 焼成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法であって、
前記圧電材料となる化合物の原料と溶媒とを混合する混合ステップと、
前記化合物と前記溶媒との混合物を、焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップと、
前記仮焼成ステップ後の前記混合物にバインダーを添加したものを所定の形状に成形する成形ステップと、
前記成形ステップにて得た成形物を酸素雰囲気中で焼結させる焼成ステップと、
を含むことを特徴とするニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記圧電材料は、一般式{(K1-aNa1−bLi}(Nb1−c−dTaSb)O+xmol%BaTiO+ymol%CuOで表される化合物であり、前記混合ステップでは、0≦a≦0.9、0≦b≦0.3、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0.5≦x<10.0、0.1≦y≦8.0、0.9≦n≦1.2、となるように当該化合物の原料を混合することを特徴とするニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記圧電材料は、一般式KNa(1−x)NbOで表される化合物を含んでいることを特徴とするニオブ酸アルカリ系圧電材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−110362(P2013−110362A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256486(P2011−256486)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】