説明

ニッケル・水素蓄電池

【課題】 高容量で高率充放電特性に優れると共に、自己放電も抑制されて保存特性も優れたニッケル・水素蓄電池が得られるようにする。
【解決手段】 正極1と、水素吸蔵合金を用いた負極2と、アルカリ電解液と、正極と負極との間に設けられる繊維性のセパレータ3とを備えたニッケル・水素蓄電池において、負極に、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlaMb(式中、Lnは希土類元素、Zr及びTiから選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x<0.30、2.8≦y≦3.9、0.10≦a≦0.25、0≦b≦0.5の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を用いると共に、上記のセパレータの少なくとも一部にイオン交換性微粉体を固着させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、正極と、水素吸蔵合金を用いた負極と、アルカリ電解液と、正極と負極との間に設けられるセパレータとを備えたニッケル・水素蓄電池に係り、特に、高容量で高率充放電特性に優れると共に、自己放電も抑制されて保存特性にも優れたニッケル・水素蓄電池が得られるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ蓄電池としては、ニッケル・カドミウム蓄電池が広く使用されていたが、近年においては、ニッケル・カドミウム蓄電池に比べて高容量で、またカドミウムを使用しないため環境安全性にも優れているという点から、負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル・水素蓄電池が注目されるようになった。
【0003】
そして、近年においては、このようなニッケル・水素蓄電池が、ハイブリッド自動車や電動工具等の用途にも使用されるようになり、さらに高容量であり、大電流で急速に充放電させた場合における特性の低下も少ない、高率充放電特性に優れたニッケル・水素蓄電池が強く要望されるようになった。
【0004】
ここで、ニッケル・水素蓄電池の負極に使用する水素吸蔵合金としては、一般にCaCu5型の結晶を主相とする希土類−ニッケル系水素吸蔵合金や、Ti,Zr,V及びNiを含むラーベス相系の水素吸蔵合金が使用されているが、これらの水素吸蔵合金は、水素吸蔵能力が必ずしも十分であるとはいえず、ニッケル・水素蓄電池をさらに高容量化させることは困難であった。
【0005】
また、上記のように高容量で高率充放電特性にも優れたニッケル・水素蓄電池を得るにあたっては、このニッケル・水素蓄電池における正極と負極との間に設けるセパレータを薄くすることが有効であるが、セパレータを薄くすると、電池作製時における電極のバリがセパレータを突き抜けて、ショートが発生しやすくなると共に、得られたニッケル・水素蓄電池において自己放電が発生して、保存特性が大きく低下するという問題があった。
【0006】
そして、近年においては、電極のバリがセパレータを突き抜けたりするのを防止するため、引張強さ及びヤング率の高い繊維を用いて耐貫通力を高めた電池用セパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかし、このように耐貫通力を高めた電池用セパレータを用いた場合、電池の内部抵抗が増大して、高率充放電特性が大きく低下するという問題があった。
【0008】
また、近年においては、セパレータを構成する繊維の一部にイオン交換性微粉体を固着させ、このイオン交換性微粉体によりアルカリ電解液中におけるアンモニウムイオンやマンガンイオン等の有害イオンを吸着・捕集させて、自己放電を抑制するようにしたものも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
しかし、このように繊維の一部にイオン交換性微粉体を固着させたセパレータを使用した場合においても、高容量で高率充放電特性に優れると共に、保存特性にも優れたニッケル・水素蓄電池を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2001−155709号公報
【特許文献2】特開平9−330694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、正極と、水素吸蔵合金を用いた負極と、アルカリ電解液と、正極と負極との間に設けられるセパレータとを備えたニッケル・水素蓄電池における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、高容量で高率充放電特性に優れると共に、自己放電も抑制されて保存特性にも優れたニッケル・水素蓄電池が得られるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明においては、上記のような課題を解決するため、正極と、水素吸蔵合金を用いた負極と、アルカリ電解液と、正極と負極との間に設けられる繊維性のセパレータとを備えたニッケル・水素蓄電池において、上記の負極に、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlab(式中、Lnは希土類元素、Zr及びTiから選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x<0.30、2.8≦y≦3.9、0.10≦a≦0.25、0≦b≦0.5の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を用いると共に、上記のセパレータの少なくとも一部にイオン交換性微粉体を固着させるようにした。
【0012】
ここで、上記のニッケル・水素蓄電池において、上記のイオン交換性微粉体としては、耐アルカリ性でかつアルカリ電解液中でイオン交換性を有する金属酸化物、金属水酸化物及びその無機塩から選択される少なくとも一種を用いることができ、特に、チタン酸化物、チタン水酸化物及びその無機塩から選択される少なくとも一種を含むものを用いることが好ましい。
【0013】
また、上記のニッケル・水素蓄電池において、上記のセパレータとしては、例えばポリオレフィン系の繊維で構成された不織布等を用いることができる。
【0014】
また、上記のニッケル・水素蓄電池において、負極に用いる上記の水素吸蔵合金としては、その結晶構造がCeNi型又はCeNi型に類似した構造のものを用いることが好ましい。
【0015】
また、上記のニッケル・水素蓄電池においては、上記の正極に厚みが0.3mm以下の非焼結式ニッケル極を用いると共に、上記の負極の厚みを0.2mm以下にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明におけるニッケル・水素蓄電池のように、その負極に上記の一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlabで表される水素吸蔵合金を用いると、CaCu5型の結晶を主相とする希土類−ニッケル系水素吸蔵合金に比べて、この水素吸蔵合金の水素吸蔵能力が高くかつその表面における反応抵抗も低いため、高容量で高率充放電特性に優れたニッケル・水素蓄電池が得られるようになると共に、この水素吸蔵合金が微紛化することも少なく、この水素吸蔵合金からアルカリ電解液中に有害イオンが溶出するのも抑制されるようになる。特に、上記の水素吸蔵合金として、その結晶構造がCeNi型又はCeNi型に類似した構造のものを用いると、さらに高容量で高率充放電特性に優れたニッケル・水素蓄電池が得られるようになる。
【0017】
また、この発明におけるニッケル・水素蓄電池のように、繊維性のセパレータの少なくとも一部にイオン交換性微粉体を固着させると、このイオン交換性微粉体によりアルカリ電解液中におけるアンモニウムイオンやマンガンイオン等の有害イオンが吸着・捕集されるようになり、また上記のように水素吸蔵合金の微紛化によるアルカリ電解液中への有害イオンの溶出も抑制される結果、自己放電がより一層防止されて、保存特性が大きく向上するようになる。また、上記のようにイオン交換性微粉体を固着させることにより、セパレータにおけるアルカリ電解液の保持性能も向上され、電池の内部抵抗が低減されて、高率充放電特性がさらに向上されると共に、このセパレータの強度も向上し、電池作製時における電極のバリがセパレータを突き抜けるのも防止されて、ショートの発生も少なくなる。
【0018】
また、上記のニッケル・水素蓄電池において、正極に厚みが0.3mm以下の非焼結式ニッケル極を用いると共に、上記の負極の厚みを0.2mm以下にすると、正極や負極における反応抵抗が減少して、ニッケル・水素蓄電池における高率充放電特性が更に向上される。なお、このように正極や負極の厚みを薄くした場合においても、上記のような水素吸蔵合金を用いることによって、容量密度が200mAh/cm3以上のニッケル・水素蓄電池を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、この発明の実施例に係るニッケル・水素蓄電池について具体的に説明すると共に、比較例を挙げ、この発明の実施例に係るニッケル・水素蓄電池においては、電池作製時におけるショートの発生が抑制されると共に、電池の内部抵抗が低減されて、高率充放電特性も向上し、さらに自己放電も抑制されて、保存特性も向上することを明らかにする。なお、この発明におけるニッケル・水素蓄電池は、下記の実施例に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0020】
(実施例)
この実施例においては、負極を作製するにあたり、希土類元素のLa,Pr及びNdと、Zrと、Mgと、Niと、Alと、Coとを所定の合金組成になるように混合し、これを高周波誘導溶解炉により溶融させた後、これを冷却させて、水素吸蔵合金のインゴットを得た。なお、この水素吸蔵合金の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析した結果、この水素吸蔵合金の組成は(La0.20Pr0.495Nd0.295Zr0.010.83Mg0.17Ni3.03Al0.17Co0.10になっていた。
【0021】
そして、この水素吸蔵合金のインゴットをアルゴン雰囲気中において950℃で熱処理して均質化させた後、この水素吸蔵合金のインゴットを不活性雰囲気中において機械的に粉砕し、これを分級して、体積平均粒径が35μmになった上記の組成の水素吸蔵合金の粉末を得た。なお、上記の水素吸蔵合金の粉末の体積平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定した。
【0022】
また、このようにして得た水素吸蔵合金の粉末について、Cu−Kα管をX線源とするX線回折装置を用い、スキャンスピード1°/min,管電圧40kV,管電流40mA,スキャンステップ0.02°でX線回折測定を行った。この結果、上記の水素吸蔵合金は、Ce2Ni7型の結晶構造のものとピークの位置が略一致しており、この水素吸蔵合金はCe2Ni7型の結晶構造或いはこれに近い結晶構造になっていると考えられる。
【0023】
そして、上記の水素吸蔵合金の粉末100重量部に対して、結着剤としてポリエチレンオキシドを0.5重量部、ポリビニルピロリドンを0.6重量部の割合で加え、これらを混練させてスラリーを調製した。そして、このスラリーを負極支持体のニッケルメッキしたパンチングメタルの両面に均一に塗布し、これを乾燥させ、厚みが0.2mmになるまで圧延させた後、所定の寸法に切断して、上記の水素吸蔵合金を含む負極を作製した。
【0024】
また、正極を作製するにあたっては、硫酸コバルト粉末13.1gを水に溶かした水溶液1000mlに、水酸化ニッケル粉末100gを加え、次いで1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら滴下し、pHを11に調整しながら1時間攪拌させた後、生成した沈殿物を濾別し、これを水洗し、約25℃の室温で真空乾燥させて、表面に水酸化コバルトの被覆層が形成された水酸化ニッケル粒子からなる粉末を得た。
【0025】
次いで、このように水酸化コバルトの被覆層が形成された水酸化ニッケル粒子の粉末と25重量%水酸化ナトリウム水溶液とを1:10の重量比で混合し、これを空気中において80℃で8時間加熱処理した後、これを水洗し、65℃で乾燥させて、水酸化ニッケル粒子の表面にナトリウム含有コバルト化合物からなる被覆層が形成され、平均粒径が10μmになった正極活物質の粉末を得た。なお、この正極活物質について、上記の水酸化ニッケルに対する被覆層中におけるコバルトの割合を原子吸光法により求めたところ、水酸化ニッケルに対する被覆層中のコバルトの量は5重量%であった。
【0026】
そして、上記の正極活物質の粉末100重量部と、平均粒径が1μmの三酸化二イットリウム(Y23)粉末1重量部と、結着剤の1重量%メチルセルロース水溶液20重量部とを混練してペーストを調製した。そして、このペーストをニッケル発泡体(多孔度95%;平均孔径200μm)からなる正極支持体の空孔内に充填し、これを乾燥し、加圧成形して、厚みが0.3mmになった非焼結式ニッケル極からなる正極を作製した
【0027】
また、セパレータとしては、ポリプロピレンとポリエチレンの繊維で構成されて目付けが32g/m2になったセパレータの表面に、イオン交換性微粉体として粒径が1μmになったTiO2粉末を、バインダーを用いずに固着させた。ここで、セパレータに対するTiO2粉末の固着量を固着工程前後のセパレータの重量変化から算出した結果、TiO2粉末の固着量はセパレータ1m2当り1gになっていた。なお、セパレータの表面にTiO2粉末を固着する方法は、特開2003−286660号公報に示される方法に準拠した。
【0028】
そして、アルカリ電解液として、KOHとNaOHとLiOH・H2Oとが8:0.5:1の重量比で含まれ、これらの総和が30重量%になったアルカリ水溶液を使用し、設計容量が1700mAh、電池体積が8.1cm3、容量密度が209.9mAh/cm3になった、図1に示すような円筒型のニッケル・水素蓄電池を作製した。
【0029】
ここで、上記のニッケル・水素蓄電池を作製するにあたっては、図1に示すように、正極1と負極2との間にセパレータ3を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶4内に収容させ、上記の負極2の一端を電池缶4内部の底面に取り付けられた負極集電体5に接続させる一方、上記の正極1の一端を正極集電体6に接続させると共に、この正極集電体6のリード部6aを正極外部端子7が設けられた正極蓋8における正極外部端子7と反対側の面に接続させた。そして、この電池缶4内に上記のアルカリ電解液(図示せず)を注液した後、この電池缶4と正極蓋8との間に絶縁パッキン9を配して封口し、この絶縁パッキン9により電池缶4と正極蓋8とを電気的に分離させた。また、上記の正極蓋8に設けられたガス放出口8aを閉塞させるようにして、この正極蓋8と正極外部端子7との間にコイルスプリング10によって付勢された閉塞板11を設け、電池の内圧が異常に上昇した場合には、このコイルスプリング10が圧縮されて、電池内部のガスが大気中に放出されるようにした。
【0030】
(比較例1)
比較例1においては、上記の実施例におけるセパレータの表面にTiO2粉末を固着させないようにし、それ以外は、上記の実施例の場合と同様にして、比較例1のニッケル・水素蓄電池を作製した。
【0031】
(比較例2)
比較例2においては、負極を作製するにあたり、組成が(La0.80Ce0.14Pr0.20Nd0.041.0Ni3.79Co0.80Mn0.30Al0.29になったCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金で、その体積平均粒径が35μmになったものを用いるようにし、それ以外は、上記の実施例の場合と同様にして、比較例2のニッケル・水素蓄電池を作製した。
(比較例3)
比較例3においては、負極を作製するにあたり、上記の比較例2と同様に、組成が(La0.80Ce0.14Pr0.20Nd0.041.0Ni3.79Co0.80Mn0.30Al0.29になったCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金で、その体積平均粒径が35μmになったものを用いると共に、セパレータとしては、上記の比較例1のようにTiO2粉末を固着させていないものを用いるようにし、それ以外は、上記の実施例の場合と同様にして、比較例3のニッケル・水素蓄電池を作製した。
【0032】
ここで、上記の実施例及び比較例1〜3のニッケル・水素蓄電池に用いた水素吸蔵合金の組成及びセパレータへのTiO2粉末の固着量をまとめて下記の表1に示した。
【0033】
また、上記のようにして実施例及び比較例1の各ニッケル・水素蓄電池を作製した場合におけるショート発生率を求め、その結果を下記の表1に合わせて示した。
【0034】
【表1】

【0035】
この結果、TiO2粉末からなるイオン交換性微粉体を固着させたセパレータを用いた実施例のニッケル・水素蓄電池は、TiO2粉末からなるイオン交換性微粉体を固着させていないセパレータを用いた比較例1のニッケル・水素蓄電池に比べて、電池作製時におけるショート発生率が大きく低下していた。これは、上記のようにTiO2粉末からなるイオン交換性微粉体を固着させたセパレータを用いると、電極のバリによってセパレータの繊維が切断されるのが抑制されたためであると考えられる。
【0036】
次に、上記のように作製した実施例及び比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池を、それぞれ25℃の温度条件の下で、170mAの電流で16時間充電させた後、340mAの電流で1.0Vまで放電させ、これを1サイクルとして、2サイクルの充放電を行い、各ニッケル・水素蓄電池を活性化させた。
【0037】
そして、このように活性化させた実施例及び比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池を、それぞれ25℃の温度条件の下で、0.85Aの電流で1時間充電させて、0.5時間放置した後、1.7Aの電流で10秒間放電を行い、放電終了時の電圧Va1を測定し、0.5時間休止した後、1.7Aの電流で10秒間充電を行い、充電終了時の電圧Vb1を測定した。続いて、0.5時間休止した後、5.1Aの電流で10秒間放電を行い、放電終了時の電圧Va2を測定し、0.5時間休止した後、5.1Aの電流で10秒間充電を行い、充電終了時の電圧Vb2を測定した。
【0038】
そして、上記のようにして測定した各電圧(V)及び各電流値(A)から下記の式により、実施例及び比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池における放電時のI−V抵抗(Ω)及び充電時のI−V抵抗(Ω)を算出し、その結果を下記の表2に示した。
【0039】
放電時のI−V抵抗(Ω)=(Va1−Va2)/(5.1−1.7)
充電時のI−V抵抗(Ω)=(Vb2−Vb1)/(5.1−1.7)
【0040】
また、上記のように活性化させた実施例及び比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池を、それぞれ25℃の温度条件の下で、1.7Aの電流で0.8時間充電させた後、1.7Aの電流で1.0Vまで放電させ、この時の各ニッケル・水素蓄電池の放電容量C1を求めた。続いて、25℃の条件下で、1.7Aの電流で0.8時間充電させた後、60℃の恒温槽内で7日間放置し、さらに、25℃の温度条件の下で1時間放置した後、1.7Aの電流で1.0Vまで放電させて、この時の各ニッケル・水素蓄電池の放電容量C2を求め、これらの放電容量C1、C2から下記の式により、実施例及び比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池における容量維持率を算出し、その結果を下記の表2に示した。
【0041】
容量維持率(%)=(C2/C1)×100
【0042】
【表2】

【0043】
この結果、上記の実施例のニッケル・水素蓄電池においては、放電時及び充電時におけるI−V抵抗が比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池に比べて低くなっており、高率充放電特性が向上していた。
【0044】
これは、上記の実施例のように(La0.20Pr0.495Nd0.295Zr0.010.83Mg0.17Ni3.03Al0.17Co0.10の組成になったCe2Ni7型の結晶構造或いはこれに近い結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いると、比較例2,3のように(La0.80Ce0.14Pr0.20Nd0.041.0Ni3.79Co0.80Mn0.30Al0.29の組成になったCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いた場合に比べて、水素吸蔵合金表面での反応抵抗が低減されるようになり、また上記の実施例のようにTiO2粉末からなるイオン交換性微粉体を固着させたセパレータを用いると、このセパレータにおけるアルカリ電解液の保持性能が向上して、セパレータにおける抵抗も低減されたためであると考えられる。
【0045】
また、上記の実施例のニッケル・水素蓄電池においては、比較例1〜3の各ニッケル・水素蓄電池に比べて、容量維持率が高くなっており、放置時における自己放電が抑制されて保存特性が向上していた。
【0046】
これは、上記の(La0.20Pr0.495Nd0.295Zr0.010.83Mg0.17Ni3.03Al0.17Co0.10の組成になったCe2Ni7型の結晶構造或いはこれに近い結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いると、(La0.80Ce0.14Pr0.20Nd0.041.0Ni3.79Co0.80Mn0.30Al0.29の組成になったCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いた場合に比べて、水素吸蔵合金が微粉化するのが抑制され、微粉化により有害イオンとなる金属イオンがアルカリ電解液中に溶出するのが低減されると共に、上記のようにTiO2粉末からなるイオン交換性微粉体を固着させたセパレータを用いた結果、アルカリ電解液中における上記の金属イオンやアンモニウムイオン等の有害イオンが吸着・捕集されるようになったためであると考えられる。
【0047】
なお、上記の実施例においては、イオン交換性微粉体としてTiO2粉末を用いたが、イオン交換性微粉体はTiO2粉末に限定されるものではなく、前記のように耐アルカリ性でかつアルカリ電解液中でイオン交換性を有する金属酸化物、金属水酸化物及びその無機塩の微粉体であれば同様の効果が得られると考えられる。
【0048】
また、上記の実施例においては、セパレータに対するTiO2粉末の固着量を1g/m2にしたが、セパレータに対するTiO2粉末の固着量はこの量に限定されるものではない。但し、TiO2粉末の固着量が少ないと、TiO2粉末を固着させたことによる上記のような効果を十分に得ることができなくなる一方、その固着量が多くなりすぎると、セパレータにおける空隙が少なくなって、セパレータにおけるアルカリ電解液の保持性能が低下して、セパレータにおける抵抗の抵抗が増大する。このため、セパレータに対するTiO2粉末等のイオン交換性微粉体の固着量は、ニッケル・水素蓄電池における特性等を考慮して適宜選択して定めるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の実施例及び比較例において作製したアルカリ蓄電池の概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池缶
5 負極集電体
6 正極集電体
6a リード部
7 正極外部端子
8 正極蓋
8a ガス放出口
9 絶縁パッキン
10 コイルスプリング
11 閉塞板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、水素吸蔵合金を用いた負極と、アルカリ電解液と、正極と負極との間に設けられる繊維で構成されたセパレータとを備えたニッケル・水素蓄電池において、上記の負極に、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlab(式中、Lnは希土類元素、Zr及びTiから選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x<0.30、2.8≦y≦3.9、0.10≦a≦0.25、0≦b≦0.5の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を用いると共に、上記のセパレータの少なくとも一部にイオン交換性微粉体を固着させたことを特徴とするニッケル・水素蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載のニッケル・水素蓄電池において、上記のイオン交換性微粉体として、耐アルカリ性でかつアルカリ電解液中でイオン交換性を有する金属酸化物、金属水酸化物及びその無機塩から選択される少なくとも一種を用いたことを特徴とするニッケル・水素蓄電池。
【請求項3】
請求項2に記載のニッケル・水素蓄電池において、上記のイオン交換性微粉体が、チタン酸化物、チタン水酸化物及びその無機塩から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とするニッケル・水素蓄電池。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のニッケル・水素蓄電池において、上記のセパレータにポリオレフィン系の繊維で構成された不織布を用いたことを特徴とするニッケル・水素蓄電池。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のニッケル・水素蓄電池において、上記の負極に用いる水素吸蔵合金の結晶構造がCeNi型又はCeNi型に類似した構造であることを特徴とするニッケル・水素蓄電池。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のニッケル・水素蓄電池において、上記の正極が0.3mm以下の厚みの非焼結式ニッケル極で構成されると共に、上記の負極の厚みが0.2mm以下であることを特徴とするニッケル・水素蓄電池。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のニッケル・水素蓄電池において、その容量密度が200mAh/cm3以上であることを特徴とするニッケル・水素蓄電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−66676(P2007−66676A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250560(P2005−250560)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】