説明

ニッケル光沢メッキを施した電池

【課題】コスト高にならず、機器側に特別の負担を強いることなく、商品としての外観性を大きく損なうことなく、低電圧で高容量の電池から大電流を効率良く取り出すことができる良好な接触状態を、長期にわたって安定的に確保することができる電池を提供する。
【解決手段】鋼鈑にニッケル光沢メッキを施した電極端子部12a,32aを有する電池において、上記鋼鈑表面の仕上げ区分をダル仕上げにするとともに、上記ニッケル光沢メッキ中の硫黄および硫黄化合物の割合を0.02重量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケル光沢メッキを施した電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、たとえばデジタル・スチールカメラなどのように、大電流を必要とする電池利用機器が多くなり、これに応じて、たとえばニッケル−水素電池のように、重負荷(大電流放電)用の高容量乾電池が提供されるようになってきた。
【0003】
たとえばLRなどの乾電池の起電力は略1.5V程度の低電圧であるが、この低電圧電池から大電流を効率良く取り出すためには、電池と負荷(機器)間の電気接続状態を長期間にわたって良好かつ安定に保つ必要がある。電池は通常、バネ接触端子を有する電池ホルダ(電池ケース)に装填された状態で使用される。この場合、電池側の端子部と電池ホルダ側の端子部との間の接触状態をとくに良好かつ安定にする必要がある。
【0004】
このため、電池側の端子部には、鋼鈑にニッケルメッキを施したものが使用されている。さらに、商品である電池の外観を良くするために、従来は、図5に示すように、表面仕上げ区分がブライト(鏡面)仕上げの鋼鈑にニッケル光沢メッキを施したものが使用されていた。
【0005】
図5は従来の電池断面とその端子部分の部分拡大モデルを示す。同図に示す電池は、固形状正極合剤21、電解液を含浸するセパレータ22、ゲル状負極合剤23からなる発電要素が有底筒状の電池缶11bに装填されるとともに、その正極缶11bが負極端子板31bとガスケット35によって閉塞・封口されている。
【0006】
正極缶11bは正極集電体を兼ねるとともに、その外底部に凸状の正極端子部12bが形成されている。負極端子板31bはその内側面(電池内部側)に負極集電子25が溶接接続されるとともに、その外側中央面が負極端子部32bを形成している。端子部11bと32bを除いた側胴部は外装材15で被覆されている。
【0007】
正極缶11bは、図中に部分拡大モデルで示すように、鋼鈑部111bとメッキ部112bとを有する。鋼鈑部111bの表面はブライト仕上げされている。メッキ部112bはそのブライト仕上げ面に施されたニッケル光沢メッキによって形成されている。これにより、正極端子部12bの表面は平滑な鏡面光沢を呈している。同様に、負極端子板31bも、図中に部分拡大モデルで示すように、表面がブライト仕上げされた鋼鈑部311bとニッケル光沢メッキによるメッキ部312bとにより形成され、これにより、平滑な鏡面光沢を呈する負極端子部32bが形成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の電池は、その端子部12b,32bの表面が平滑な鏡面光沢を呈していて商品としての外観性(意匠的効果)は良好であるが、たとえばデジタル・スチールカメラのような重負荷機器の電池ホルダに装填して使用する場合に、次のような問題が生じる。
【0009】
すなわち、電池の端子部12b(32b)の表面が平滑な鏡面光沢に仕上げられていると、その端子部12b(32b)と機器側(電池ホルダ側)接触子(接触片)との接触状態が端子面全体での接触となるため、機器側の接触圧が分散されて小さくなってしまう。低電圧で接触圧が十分に確保されないと、接触不良が生じやすい。これを回避するためには機器側にて十分な接触圧力を付与できるような対策手段が必要となるが、そのためには特別に強力なバネ圧の付与が必要になるなど、機器側の負担が大きくなる。
【0010】
そこで、本発明者は、表面仕上げ区分がダル(粗面)仕上げの鋼鈑を使用することを検討した(たとえば特許文献1参照)。ダル仕上げされた鋼鈑の表面にニッケル光沢メッキを施すと、商品としての外観性(意匠的効果)をそれほど損なうことなく、端子表面に微細な凹凸(ミクロレベル)を形成することができる。これにより、機器側接触子との接触面積は小さくなる代わりに、接触圧が局部的に集中することにより、低電圧でも確実な電気接触状態を形成できるようになる。
【0011】
図4は端子部の表面状態による電気接触状態を模式的に拡大して示す。同図の(b)に示すように、表面が平滑な鏡面光沢状態の端子部12b(32b)では、機器側接触子50との間に作用する接触圧が分散されて確実な電気接触が得難い。しかし、同図の(a)に示すように、表面に微細な凹凸がある端子部12c(32c)では、その凹凸の凸部分に接触圧が集中することにより、低電圧でも確実な電気接触状態を得ることができる。
【0012】
ところが、本発明者が知得したところによると、ニッケル光沢メッキされた端子表面に、図4の(a)に示すような微細な凹凸を形成しても、長期の間に接触状態が劣化し、とくに大電流を取り出す場合に問題となるような接触状態の劣化を生じることが判明した。この場合、接触状態を改善する手段として、端子部に導電性と化学的安定性にすぐれた導電材料、たとえば金などをメッキするという方法もあるが、コスト高になるという問題が生じる。
【0013】
本発明は、以上のような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、コスト高にならず、また、機器側に特別の負担を強いることなく、さらに、商品としての外観性を大きく損なうことなく、低電圧で高容量の電池から大電流を効率良く取り出すことができる良好な接触状態を、長期にわたって安定的に確保することができるようにした電池を提供することにある。
【0014】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【特許文献1】特開平6−314563
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、鋼鈑にニッケル光沢メッキを施した電極端子部を有する電池において、上記鋼鈑表面の仕上げ区分がダル仕上げで、上記ニッケル光沢メッキ中の硫黄および硫黄化合物の割合が0.02重量%以下であることを特徴とする電池である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コスト高にならず、また、機器側に特別の負担を強いることなく、さらに、商品としての外観性を大きく損なうことなく、低電圧で高容量の電池から大電流を効率良く取り出すことができる良好な接触状態を、長期にわたって安定的に確保することができるようにした電池を提供することができる。
【0017】
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明の技術が適用された電池の一実施形態を示す。同図に示す電池はLR6型の高容量アルカリ乾電池であって、有底円筒状の電池缶11a内に、固形状正極合剤21、電解液を含浸するセパレータ22、ゲル状負極合剤23からなる発電要素が装填されるとともに、その正極缶11aが負極端子板31aとガスケット35により閉塞および封口されている。
【0019】
正極缶11aは正極集電体を兼ねるとともに、その外底部に凸状の正極端子部12aが形成されている。負極端子板31aはその内側面(電池内部側)に負極集電子25が溶接接続されるとともに、その外側中央面が負極端子部32aを形成している。端子部11aと32aを除いた側胴部は外装材15で被覆されている。
【0020】
正極缶11aは、図中に部分拡大モデルで示すように、鋼鈑部111aとメッキ部112aとを有する。鋼鈑部111aの表面はダル仕上げされている。ブライト区分の表面仕上げは表面が平滑で鏡面状態であるが、ダル区分の表面仕上げでは微細な凹凸を有する粗面状となっている。
【0021】
メッキ部112aはそのダル仕上げ面に施されたニッケル光沢メッキによって形成されている。ニッケル光沢メッキはメッキ中に一定以上の硫黄を含有させることにより形成されるが、本発明ではメッキ中の硫黄および硫黄化合物の割合を0.02重量%以下に抑えたメッキ部112aを形成している。正極端子部12aは、そのダル仕上げの鋼鈑部111aとニッケル光沢メッキ部112aとよって形成されている。
【0022】
同様に、負極端子板31aにおいても、図中に部分拡大モデルで示すように、表面がダル仕上げされた鋼鈑部311aと、硫黄および硫黄化合物の割合を0.02重量%以下に抑えたニッケル光沢メッキによるメッキ部312aとにより負極端子部32aが形成されている。
【0023】
すなわち、ニッケル光沢メッキされた従来の端子部は、硫黄および硫黄化合物の割合が0.05重量%と大きく、長期保存の間にその表面に化成皮膜(たとえば酸化膜)が生成し、この化成皮膜が大電流を取り出すときに問題となるような接触抵抗増大の原因となることが判明した。本発明者は、その化成皮膜の生成原因がニッケル光沢メッキ中の硫黄分にあることをあきらかにした。つまり、ニッケルメッキ中の硫黄割合をあるところまで低減させることにより、上記化成皮膜による接触抵抗増大を効果的に抑制できることが判明した。さらに、上記化成皮膜による接触抵抗増大を長期にわたって回避させるためには、ニッケルメッキ中の硫黄および硫黄化合物の割合を0.02重量%e以下にすればよいことが判明した。
【0024】
実施形態の電池は、少なくとも電極端子部12a,32aを形成する部分の鋼鈑表面の仕上げ区分がダル仕上げであるとともに、ニッケルメッキ中の硫黄および硫黄化合物の割合が0.02重量%以下であることにより、長期にわたって良好かつ安定な電気接触状態を確保することを可能にしている。
【0025】
また、上記のように構成された端子部12a,32aは表面に微細な凹凸を有していて、図4の(a)に模式的に示したように、接触圧が局部的に集中することにより、低電圧でも確実な電気接触状態を形成することができる。
【0026】
さらに、端子部12a,32aの外観についても、従来のニッケル光沢メッキのような平滑な鏡面状ではないが、無光沢メッキよりは良好であり商品としての外観性はそれほど損なわない。たとえば、従来のニッケル光沢メッキによって得られる平滑な鏡面状態は、端子面のわずかな歪みが鏡面反射により目立ってしまうが、硫黄および硫黄化合物の割合を0.02重量%以下にした本発明のニッケル光沢メッキの表面状態は、その歪みを目立たなくすることができる。
【0027】
図2は、本発明電池と従来電池について行った放電による電圧変化の試験結果を示す。試験サンプルとして使用した電池の構成および試験条件は次のとおりである。
【0028】
本発明電池(A11〜A22):正極/負極端子部は、鋼鈑表面の仕上げ区分がダル仕上げで、硫黄および硫黄化合物の割合が0.01重量%のニッケル光沢メッキが2μm厚さで施されている。
【0029】
従来電池(B11〜B22):正極/負極端子部は、鋼鈑表面の仕上げ区分がブライト仕上げで、硫黄および硫黄化合物の割合が0.05重量%のニッケル光沢メッキが2μm厚で施されている。
【0030】
試験条件:サンプル電池(被試験電池)をバネ式電池ホルダに装填し、DSCモードによる放電試験(200mAで0.5秒間通電と300mAで5.95秒間通電を1サイクルとする放電試験)を行いながら放電電圧の推移を観測した。電池ホルダはサンプル電池の正極/負極端子部に10〜11Nの荷重で圧接するようにバネ付勢される接触子を有する。この電池ホルダの接触子を介してサンプル電池の放電電圧を測定した。
【0031】
上記条件による試験を、サンプル電池ごとに、初度と60℃/90%(相対湿度)の環境で20日間保存した後とでそれぞれ2回ずつ行った。その結果、同図に示すように、保存前の初度における放電性能と保存後における放電性能のいずれにおいても、本発明電池は従来電池よりも大幅に高い放電電圧を得られることが判明した。初度の試験での放電電圧は端子部の初期における電気接触状態を反映し、保存後の試験での放電電圧は端子部の経時劣化状態を反映するが、本発明電池では両状態が共に大幅に改善されている。
【0032】
図3は、本発明電池と従来電池について行った接触抵抗経時変化の試験結果を示す。接触抵抗は純金製からなるφ1.0mmの棒状接触子(プローブ)を用いて測定した。同図に示すように、従来電池の接触抵抗は保存日数に応じて高くなったが、本発明電池では保存による接触抵抗の増大がほとんど認められなかった。
【0033】
端子部の外観については、前述したように、従来電池は平滑な鏡面光沢を呈している点が美観的な長所となり得る反面、端子面のわずかな歪みが鏡面反射により目立ってしまう。これは美観的にはあきらかに短所である。一方、本発明電池は、従来程の光沢性はないが無光沢メッキよりは外観が良好であり、少なくとも、商品としての外観性を大きく損なうものではなかった。
【0034】
以上、本発明の技術をその代表的な実施形態である電池について説明したが、本発明は上述した以外にも種々の実施形態および応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
コスト高にならず、また、機器側に特別の負担を強いることなく、さらに、商品としての外観性を大きく損なうことなく、低電圧で高容量の電池から大電流を効率良く取り出すことができる良好な接触状態を、長期にわたって安定的に確保することができる電池を提供することができる。
【0036】
外部から過大な接触圧を付与しなくても、良好な電気接触状態を長期にわたって安定的に確保することができる低電圧用端子材料およびバネ接触端子を提供することができる。
【0037】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の技術が適用された電池の一実施形態を示す断面図および部分拡大モデル図である。
【図2】本発明電池と従来電池の放電電圧変化の試験結果を示すグラフである。
【図3】本発明電池と従来電池の接触抵抗の経時変化の試験結果を示すグラフである。
【図4】端子部の表面状態による電気接触状態を示すモデル図である。
【図5】従来の電池の構成例を示す断面図および部分拡大モデル図である。
【符号の説明】
【0039】
11a 電池缶
111a 鋼鈑部
112a 光沢メッキ部
12a 正極端子部
15 外装材
21 正極合剤
22 セパレータ
23 負極合剤
25 負極集電子
31a 負極端子板
311a 鋼鈑部
312a 光沢メッキ部
32a 負極端子部
35 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼鈑にニッケル光沢メッキを施した電極端子部を有する電池において、上記鋼鈑表面の仕上げ区分がダル仕上げで、上記ニッケル光沢メッキ中の硫黄および硫黄化合物の割合が0.02重量%以下であることを特徴とする。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−127999(P2006−127999A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316847(P2004−316847)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】