説明

ニッケル焼結基板の製造方法

【課題】多数列が形成された焼結基板を作製しても、各列の液保持特性が同一となる焼結基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のニッケル焼結基板10の製造方法は、ニッケル粉末と造孔剤と増粘剤とを含有するニッケルスラリー12を複数列の焼結基板が形成されるように導電性芯体11に塗布してスラリー塗布基板11aとするスラリー塗布工程と、スラリー塗布基板11aのスラリーを乾燥させてスラリー乾燥基板11bとする乾燥工程と、スラリー乾燥基板11bの厚み調整を行って厚み調整基板11cとする厚み調整工程と、厚み調整基板11cを焼結する焼結工程とを備える。そして、厚み調整工程において、厚み調整前のスラリー乾燥基板11bの内の最も厚みが薄い列のスラリー乾燥基板11bの厚みに対して20μm以上で、150μm以下の厚み低減を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル−水素蓄電池やニッケル−カドミウム蓄電池などに用いられるニッケル正極板の基板に採用されているニッケル焼結基板に係り、特に、ニッケルスラリーを導電性芯体に塗布した後に焼結を行って複数列の焼結基板を同時に形成するニッケル焼結基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の用途は、例えば、携帯電話、パーソナルコンピュータ、電動工具、電動自転車、ハイブリッド自動車、電気自動車など多岐に亘るようになった。これら用途のうち、特に、ハイブリッド自動車や電気自動車などのような車輌関係の用途においては、アルカリ蓄電池が広く用いられている。そして、これらの用途に用いられるアルカリ蓄電池においては、高出力化、長寿命化の要望が高まっている。また、車輌関係の用途においては、組電池として多数の単電池が直列接続されて用いられるため、個々の電池の容量ばらつきを低減させる要望も強くなった。
【0003】
ところで、アルカリ蓄電池の正極にはニッケル正極板が用いられるが、この種の高出力で長寿命が要求される用途に用いられるニッケル正極板の基板材料としてはニッケル焼結基板を用いるのが一般的である。これは、ニッケル焼結基板の骨格となるニッケル骨格が緻密で、長期間に亘って導電性が保持されるためである。このようなニッケル焼結基板を用いてニッケル正極板を作製する場合、含浸法により正極活物質(水酸化ニッケル)をニッケル焼結基板の細孔内に充填するようになされている。このため、個々の電池の容量ばらつき(正極活物質の充填量のばらつき)を低減させるためには、ニッケル焼結基板の厚みばらつきの低減が求められるようになった。
【0004】
この場合、導電性芯体へのニッケル粉末の塗布量や焼結温度を正確に制御することにより、厚みばらつきが少ないニッケル焼結基板が作製されることとなる。ここで、ニッケルスラリーの塗布工程→乾燥工程→焼結工程の各工程を経てニッケル焼結基板を作製する場合、乾燥工程においては水分蒸発を目的としている。このため、乾燥工程においては環境温度の影響を受けやすいとともに、端列と中央列との環境影響の受けやすさの相違から、結果として列間の厚みばらつきが発生しやすい状況となる。このため、このようにして得られたニッケル焼結基板においては、整形して厚み調整を行う必要性が生じることとなる。
【0005】
そこで、焼結後のニッケル焼結基板を圧延して厚み調整が行われるようになったが、圧延後にニッケル骨格のスプリングバック現象に起因する反発が生じて、厚みばらつきが改善されない場合があった。この場合、強く圧延すると、焼結後のニッケル骨格が切断されることにより、強度低下や活物質間の導電性低下が発生するという新たな問題も生じるようになった。そこで、例えば、特許文献1(特開平5−174814号公報)にて、乾燥基板に0μm〜40μm程度の厚み調整工程(最も薄い列に厚みを揃える)を加えることで、ニッケル焼結基板の厚みの変動が抑制されることが提案されるようになった。
【特許文献1】特開平5−174814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した特許文献1にて提案されたニッケル焼結基板の厚み調整の手法においては、焼結前であるため、ニッケル粉の間に樹脂材料(ゲル化した増粘剤や造孔剤)が保持されている。そのため、部分変形が起こりにくい他、後の工程で焼結されてニッケル骨格が形成されるため、ニッケル骨格の切断やスプリングバック現象が発生する恐れもなく、安定した厚みのニッケル焼結基板を作製することが可能となる。これにより、ニッケル焼結基板の厚みばらつきが低減されるため、活物質の充填量のばらつきが低減し、電池容量のばらつきを低減させることが可能となる。ところが、これだけでは十分とは言えなかった。
【0007】
そこで、さらなる厚みばらつき低減を実現させるため、本発明者等は種々の検討を行い、その検討過程において以下のような知見を導き出した。即ち、通常、乾燥後の厚みばらつきを低減させるためには、最も薄い列の厚みに調整するため、最も薄い列に対して10μm程度までの厚み調整量で十分であるという知見を得た。ところが、乾燥後の厚み調整量(厚み低減量)が20μm未満までの領域の焼結基板においては、液保持特性において非常に大きな変動があることが明らかになった。
【0008】
つまり、乾燥後、20μm未満の範囲で厚み調整(厚み低減)を行うと、形成された焼結基板のニッケル質量や厚み(通常、焼結基板の表面に形成された凸部間で厚みが測定される)が同一であっても、複数列が形成された焼結基板において、各列の焼結基板の液保持特性が同一とは言えず、結果として活物質の充填量がばらつき、電池容量がばらつくことになるという知見を得た。
そこで、本発明は上記知見に基づいてなされたものであって、複数列が同時に形成される焼結基板を作製しても、各列の液保持特性が同一となる焼結基板の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ニッケルスラリーを導電性芯体に塗布した後に焼結を行って複数列の焼結基板を同時に形成するニッケル焼結基板の製造方法であって、ニッケル粉末と造孔剤と増粘剤とを含有するニッケルスラリーを複数列の焼結基板が形成されるように導電性芯体に塗布してスラリー塗布基板とするスラリー塗布工程と、スラリー塗布基板を乾燥させてスラリー乾燥基板とする乾燥工程と、スラリー乾燥基板の厚み調整を行って厚み調整基板とする厚み調整工程と、厚み調整基板を焼結する焼結工程とを備えるとともに、厚み調整工程において、スラリー乾燥基板の内の最も厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して20μm以上で、150μm以下の厚み低減となるように厚み調整を行うようにしたことを特徴とする。
【0010】
ここで、厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して20μm以上の厚み調整(厚み低減)を行うと、焼結基板の液保持指数が安定し、かつ活物質保持性が向上することが明らかになった。特に、50μm以上の厚み調整(厚み低減)領域においては、さらに液保持性が向上することが明らかとなった。なお、焼結基板の液保持指数は焼結基板が保持できる含水量/(焼結基板の厚み×焼結基板のニッケル粉の質量)で表され、焼結基板の単位空間、単位ニッケル質量当たりにどれだけの液が保持できるかを示す指標として用いられるものである。そして、液保持指数は空間量だけではなく、液を保持するニッケル量(表面積)や空隙の大きさが関与する。これは、特に、空隙が大きすぎると液の垂れ落ちが起こり、逆に、空隙が小さすぎると液が浸透しないこととなるからである。
【0011】
この場合、焼結基板の内部に形成された大きな孔や、表面に形成された囲われていないような不完全な孔では、液を保持することができなくて液が垂れ落ちることとなる。ところが、厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して20μm以上の厚み調整(厚み低減)を行うと、塗布時に生じた表面の微細な凹凸などが潰されることとなる。これにより、囲われていないような不完全な孔が形成されなくなることにより、液保持特性が向上することとなる。この場合、特に、50μm以上の厚み調整(厚み低減)領域においては、大粒径あるいは凝集した造孔剤、より程度の大きな気泡に起因した大孔を潰すことが可能となるので、液保持特性がさらに向上することとなる。
【0012】
なお、厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して150μmを超えるような厚み調整(厚み低減)領域においては、スラリー乾燥基板が緻密になりすぎるため、焼結後にも造孔剤や造粘剤などが焼結基板内に残留する場合がある。このため、焼結温度や焼結時間の制御を厳密に行う必要がある。また、150μmを超えるような厚み調整(厚み低減)領域においては、加圧力により導電性芯体に伸びが発生することとなって、得られた焼結基板が蛇行するようになる。このため、厚み調整(厚み低減)領域の上限値は150μmとするのが望ましい。この場合、連続生産性の観点からすると、厚み調整(厚み低減)はスラリー乾燥基板が一対の回転ローラ間を通過することにより行われるようにするのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して20μm以上の厚み調整(厚み低減)を行うことで、表面の微細な凹凸が平坦になる。これにより、どの列の焼結基板も均等な厚みになるとともに、液を均等に保持できるようになる。また、厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して50μm以上の厚み調整(厚み低減)を行うと、大粒径あるいは凝集した造孔剤、より程度の大きな気泡に起因した大孔を潰すことが可能となるので、液保持特性がさらに向上する。これにより、活物質の充填量のばらつきが少なく、かつ電池容量のばらつきが少ないニッケル正極板が得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明をニッケル−水素蓄電池のニッケル正極板に適用されるニッケル焼結基板の製造方法の一実施の形態を図1に基づいて以下に説明する。なお、図1は本発明の焼結基板の製造方法の概略構成の一例を模式的に示す断面図である。また、図2は乾燥後の厚み調整量(厚み低減量)と液保持指数の関係を示すグラフである。
【0015】
1.ニッケル焼結基板の作製
まず、図1に示すような焼結基板の製造装置100を用意する。ここで、焼結基板の製造装置100は、ニッケルメッキが施された穿孔鋼板からなる導電性芯材11をロール状に巻き取っている巻き出しロール101と、得られた焼結基板をロール状に巻き取る巻き取りロール102と、導電性芯材11を搬送する搬送ローラ103,104,105,106,107と、導電性芯材11にニッケルスラリー12を塗着して塗膜を形成するスラリー槽108と、塗膜(塗着されたスラリー)を所定の厚みに調整する厚み調整スリット109と、塗膜を乾燥させる乾燥機110と、乾燥後の塗膜の厚みを調整する厚み調整用回転ローラ111と、厚みを調整された塗膜を還元性雰囲気で焼結する焼結炉112とから構成されている。
【0016】
なお、導電性芯材11は、例えば、厚みが60μmの穿孔鋼板からなり、その表面に厚みが5μmのニッケルめっきが施されているとともに、複数列(例えば、5列乃至8列)の焼結基板が形成されるように所定の配列となるように穿孔がなされている。この場合、予め、ニッケルメッキが施された穿孔鋼板からなる導電性芯材11をロール状に巻き取られた巻き出しロール101を所定位置に配置した後、この巻き出しロール101に巻き取られた導電性芯材11の先端部を搬送ローラ103、スラリー槽108内の搬送ローラ104、厚み調整スリット109、乾燥機110、厚み調整ローラ111、搬送ローラ105,106、焼結炉112内および搬送ローラ107を通して巻き取りロール102に巻き付けられているものとする。
【0017】
ついで、嵩密度が0.57g/cm3で、フィッシャーサイズ(なお、このフィッシャーサイズはフィッシャー サブシーブ サイザー(Fisher Sub-Sieve Sizer)で測定した平均粒径のことを意味する)が2.5μmのニッケル粉末40質量部と、造孔剤としてのメチルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体を主成分とする完全発泡有機中空体(平均粒径は60μm)0.1質量部と、3質量%のメチルセルロース水溶液60質量部とを真空引きしながら混練して、ニッケルスラリー12を調製した。ついで、このように調製されたニッケルスラリー12をスラリー槽108内に収容した後、巻き取りロール102を所定の速度で巻き取ることにより、巻き出しロール101にロール状に巻き取られた導電性芯材11は巻き出しロール101から巻き出される。
【0018】
これにより、スラリー槽108内のニッケルスラリー12中を通過する過程で導電性芯材11の両面にニッケルスラリー12が付着して塗膜が形成される。そして、導電性芯材11が厚み調整スリット109を通過することにより余分についたニッケルスラリー12が掻き落とされることにより、塗膜の塗着厚さが調整されたスラリー塗布基板11aが形成されることとなる。この場合、塗膜の厚みが導電性芯材11の片面当たり300μmの厚みになるように厚み調整スリット109の間隔が調整されている。こうして塗膜が導電性芯材11の片面当たり300μmの厚さに調整されたスラリー塗布基板11aは、温度が800℃に維持された乾燥機110に入り、塗膜が乾燥されてスラリー乾燥基板11bが形成されることとなる。なお、このとき乾燥機110内に滞在する時間が30秒間となるように巻き取りロール102の回転速度が調整されている。
【0019】
ついで、得られたスラリー乾燥基板11bを一対の厚み調整用回転ローラ111の間を通過させることにより、スラリー乾燥基板11bの厚みが調整されて厚み調整基板11cが形成されることとなる。この場合、スラリー乾燥基板11bが一対の厚み調整用回転ローラ111間を通過した地点(図1のY地点)での厚みが、一対の厚み調整用回転ローラ111の間を通過する前の地点(図1のX地点)での厚みよりも所定量だけ薄くなるように、一対の厚み調整用回転ローラ111の間隔を調整した。なお、この場合、厚みが最も薄い列の厚みが所定量だけ薄くなるように調整した。
【0020】
ここで、一対の厚み調整用回転ローラ111間を通過した地点(図1のY地点)での厚みが、25μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板11cを厚み調整基板aとした。また、同様に、39μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板11cを厚み調整基板bとし、52μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板11cを厚み調整基板cとし、73μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板11cを厚み調整基板dとした。さらに、7μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板11cを厚み調整基板eとし、4μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板11cを厚み調整基板fとした。
【0021】
ついで、上述のよう厚み調整された厚み調整基板11c(a〜f)を焼結炉112内を通過させるようにした。この場合、焼結炉112内は水素を含む還元性雰囲気中で約900〜1000℃の温度に加熱されていて、これらの厚み調整基板11c(a〜f)が焼結炉112内を通過することにより、導電性芯材11の両面に形成された焼結層が所定の厚み(片面での厚み)t(この場合は、t=150μmとした)となり、多孔度が85%となるように焼結温度および焼結時間が調整されて、焼結基板10(A〜F)が形成されることとなる。
【0022】
なお、乾燥後の厚みが25μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板aを用いたものを焼結基板Aとした。同様に、39μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板bを用いたものを焼結基板Bとし、52μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板cを用いたものを焼結基板Cとし、73μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板dを用いたものを焼結基板Dとした。また、7μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板eを用いたものを焼結基板Eとし、4μmだけ薄くなるように厚み調整された厚み調整基板fを用いたものを焼結基板Fとした。
【0023】
2.焼結基板の液保持特性の測定
上述のように作製した各焼結基板10(A〜F)の厚みをマイクロメータを用いて測定するとともに各焼結基板10(A〜F)の質量を測定した。この後、予め測定した導電性芯体11の質量(事前に測定されている)との差分から、各焼結基板10(A〜F)のニッケル粉の質量を算出した。ついで、各焼結基板10(A〜F)を純水に浸漬させた後、濾紙で表面の水分を拭き取って、含水基板(A〜F)とした。この後、これらの含水基板(A〜F)の質量を測定し、各焼結基板10(A〜F)の質量との差および水の密度から液保持性を示す各焼結基板10(A〜F)の含水量(cm3)を求めた。
【0024】
ついで、上述のようにして求めた各焼結基板10(A〜F)の含水量(cm3)、ニッケル粉の質量(g)、厚み(mm)に基づいて、各焼結基板10(A〜F)の液保持指数(m2/kg)を算出すると、下記の表1に示すような結果が得られた。なお、液保持指数(=焼結基板の含水量/(焼結基板の厚み×ニッケル粉の質量))は、単位空間、単位ニッケル質量当たりにどれだけの液が保持できるかを示す指標となるものである。そして、表1の結果から、厚み調整量を横軸(X軸)とし、液保持指数を縦軸(Y軸)にしてグラフに表すと、図2に示すような結果となった。
【表1】

【0025】
上記表1および図2の結果から明らかなように、乾燥後の厚み調整量が20μm未満の領域においては、液保持指数が非常に低下していることが分かる。一方、乾燥後の厚み調整量が20μm〜50μmの領域においては、液保持指数がほぼ安定していることが分かる。さらに、乾燥後の厚み調整量が50μm以上の領域では、さらに液保持指数が上昇していることが分かる。
【0026】
ここで、乾燥後の厚み調整量が20μm未満の領域において液保持指数が低下し、厚み調整量が20μm以上の領域において液保持指数が向上する理由を図3に基づいて検討する。なお、図3は、乾燥後の基板の状態と、焼結後の基板の状態を模式的に示す図である。そして、図3(a1)は、厚み調整をしなかった場合の乾燥後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図であり、図3(a2)は、その焼結後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図である。図3(b1)は、厚み調整量が10μmの場合の乾燥後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図であり、図3(b2)は、その焼結後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図である。図3(c1)は、厚み調整量が20μmの場合の乾燥後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図であり、図3(c2)は、その焼結後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図である。図3(d1)は、厚み調整量が50μmの場合の乾燥後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図であり、図3(d2)は、その焼結後の基板片面の一部の状態を模式的に示す断面図である。
【0027】
ここで、乾燥後に厚み調整をしなかった場合、図3(a1)に示すように、乾燥後のスラリー乾燥基板11bの表面には凹凸が形成されているとともに、その内部には多数の孔径が大きい気泡B1が形成されることとなる。そして、このスラリー乾燥基板11bを焼結しても、図3(a2)に示すように、表面に形成された凹凸は消滅することなく凹凸C1として残存することとなる。また、内部に形成された多数の孔径が大きい気泡B1は、図3(a2)に示すように、焼結により収縮してそれまでより孔径が小さくなった気泡B1’となるが、これも消滅することなく残存することとなる。
【0028】
また、乾燥後の厚み調整量を10μmとした場合、図3(b1)に示すように、乾燥後のスラリー乾燥基板11bの表面には凹凸が形成されているとともに、その内部には多数の孔径が大きい気泡B2が形成されることとなる。そして、このスラリー乾燥基板11bを焼結しても、図3(b2)に示すように、表面に形成された凹凸は消滅することなく凹凸C2として残存することとなる。また、内部に形成された多数の孔径が大きい気泡B2は、図3(b2)に示すように、焼結により収縮してそれまでより孔径が小さくなった気泡B2’となるが、これも消滅することなく残存することとなる。
【0029】
この場合、表面に存在する凹凸C1や凹凸C2は囲われていない不完全な穴となる。このため、このような凹凸C1や凹凸C2は、液を保持することができなくて液が垂れ落ちると考えられる。また、内部に存在する孔径が大きい気泡B1’や気泡B2’においても、液を保持することができないため、液が垂れ落ちると考えられる。このため、乾燥後の厚み調整量が20μm未満の領域においては液保持指数が低下したと考えられる。
【0030】
一方、乾燥後の厚み調整量を20μmとした場合、図3(c1)に示すように、乾燥後のスラリー乾燥基板11bの表面に凹凸は形成されなくなるが、その内部には多少孔径が大きい気泡B3が形成されることとなる。そして、このスラリー乾燥基板11bを焼結すると、図3(c2)に示すように、内部に形成された気泡B3は焼結により収縮してそれまでより孔径が小さくはなるが、依然として気泡B3’として存在することとなる。ところが、表面の微細な凹凸などが潰されて表面に不完全な穴が存在することがないので、液保持指数が向上したと考えられる。
【0031】
さらに、乾燥後の厚み調整量を50μmとした場合、図3(d1)に示すように、乾燥後のスラリー乾燥基板11bの表面に凹凸は形成されなくなるが、その内部には多少孔径が大きい気泡B4が形成されることとなる。そして、このスラリー乾燥基板11bを焼結すると、図3(d2)に示すように、内部に形成された孔径が大きい気泡B4は焼結により収縮してそれまでより孔径が小さくなる(最終基板厚みが同等なので基板内の小さい孔と平均化される)。このように、50μmの厚み調整(厚み低減)領域においては、大粒径あるいは凝集した造孔剤、より程度の大きな気泡に起因した大孔を潰すことが可能となるので、液保持特性がさらに向上したと考えられる。
【0032】
以上のことから、複数列の焼結基板を同時に作製する場合においては、最も厚みが薄い列に対して厚み調整量を20μm以上に制御するのが望ましいことが分かる。これにより、厚みや液保持特性が均一なニッケル焼結基板が作製され、活物質の充填量のばらつきが少なく、かつ電池容量のばらつきが少ないニッケル極板が得られることとなる。この場合、50μm以上の厚み調整量領域で液保持指数がさらに向上していることを考慮すると、最も厚みが薄い列に対して50μm以上の厚み調整を行うことで、変動が小さく高電池容量となるニッケル焼結基板が作製できることが分かる。
【0033】
なお、最も厚みが薄い列に対して150μmを超えるような厚み調整を行うと、焼結前のスラリー乾燥基板11bが緻密になりすぎるため、焼結を行っても、造孔剤や造粘剤などが焼結基板内に残留する可能性がある。このため、焼結温度や焼結時間の制御を厳密に行う必要があったり、また、厚み調整時の加圧力により導電性芯体の伸びが発生して、得られた焼結基板が蛇行するという不具合が生じるようになる。このため、厚み調整量の上限値は150μmにするのが望ましいということができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
なお、上述した実施の形態においては本発明のニッケル焼結基板をニッケル−水素蓄電池のニッケル正極板に適用する例について説明したが、本発明のニッケル焼結基板はニッケル−水素蓄電池に限ることなく、ニッケル−カドミウム蓄電池などの他のアルカリ蓄電池のニッケル焼結式極板(正、負極用)にも適用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の焼結基板の製造方法の概略構成の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】乾燥後の厚み調整量と液保持指数の関係を示すグラフである。
【図3】乾燥後の基板の状態と、焼結後の基板の状態を模式的に示す図であり、図3(a1)は、厚み調整をしなかった場合の乾燥後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(a2)は、その焼結後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(b1)は、厚み調整量が10μmの場合の乾燥後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(b2)は、その焼結後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(c1)は、厚み調整量が20μmの場合の乾燥後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(c2)は、その焼結後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(d1)は、厚み調整量が50μmの場合の乾燥後の基板の状態を模式的に示す断面図であり、図3(d2)は、その焼結後の基板の状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10…ニッケル焼結基板、11…導電性芯体、11a…スラリー塗布基板、11b…スラリー乾燥基板、11c…厚み調整基板、12…スラリー、100…焼結基板製造装置、101…巻き出しロール、102…巻き取りロール、103,104,105,106,107…搬送ローラ、108…スラリー槽、109…厚み調整スリット、110…乾燥機、111…厚み調整用回転ローラ、112…焼結炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルスラリーを導電性芯体に塗布した後に焼結を行って複数列の焼結基板を同時に形成するニッケル焼結基板の製造方法であって、
ニッケル粉末と造孔剤と増粘剤とを含有するニッケルスラリーを複数列の焼結基板が形成されるように導電性芯体に塗布してスラリー塗布基板とするスラリー塗布工程と、
前記スラリー塗布基板を乾燥させてスラリー乾燥基板とする乾燥工程と、
前記スラリー乾燥基板の厚み調整を行って厚み調整基板とする厚み調整工程と、
前記厚み調整基板を焼結する焼結工程とを備えるとともに、
前記厚み調整工程において、前記スラリー乾燥基板の内の最も厚みが薄い列の厚みに対して20μm以上で、150μm以下の厚み低減となるように厚み調整を行うようにしたことを特徴とするニッケル焼結基板の製造方法。
【請求項2】
前記厚み調整工程において、前記スラリー乾燥基板の内の最も厚みが薄い列のスラリー乾燥基板の厚みに対して50μm以上で、150μm以下の厚み低減となるように厚み調整を行うようにしたことを特徴とする請求項1に記載のニッケル焼結基板の製造方法。
【請求項3】
前記厚み低減は前記スラリー乾燥基板が一対の回転ローラ間を通過することにより行うようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のニッケル焼結基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−118317(P2010−118317A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292550(P2008−292550)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】