説明

ニトリルゴム組成物

【課題】ゴム金属積層板のゴム層形成に用いられるニトリルゴム組成物であって、金属板上に塗布されたゴム層表面のスジ不良およびゴム加硫後の加硫ムラなどの発生を低減せしめることを可能とするものを提供する。
【解決手段】ニトリルゴム100重量部に対してシリカ5〜40重量部、シランカップリング剤0.5〜5.0重量部およびアミド系ワックス0.5〜5.0重量部を含有せしめたニトリルゴム組成物。このニトリルゴム組成物は、シランカップリング剤とともにアミド系ワックスが配合されているので、金属板塗布用ゴム糊中のシリカの凝集が有効に防止される。また、これを有機溶媒に溶解または分散させて得られるゴム糊溶液中に凝集物が確認されるまでの時間が、例えば常温で72時間というように長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム組成物に関する。更に詳しくは、ゴム層塗布金属板表面のスジ不良、加硫ムラなどの発生を低減せしめるニトリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンガスケット部のように温度変化が大きくなる部分では、その温度変化に起因してエンジンとガスケットとの接合面間にフレッティングが生ずる。ガスケットとして用いられるゴム金属積層体は、例えばこのようなフレッティングによって大きなせん断応力が生じ、ゴム層と金属板との摩擦により、ゴム層の剥離や摩耗が発生し、金属板からゴム層が剥がれてしまうといった問題がある。
【0003】
本出願人は先に、特許文献1においてニトリルゴム100重量部に対して、DBP吸油量30〜100ml/100g(ASTM D1765-91準拠)のカーボンブラック40重量部以上、粒子径0.01〜0.1μmのシリカ15〜100重量部、カーボンブラックおよびシリカ以外の無機充填剤0〜40重量部および有機過酸化物5〜20重量部、好ましくはシリカの凝集を防止すべくさらにシランカップリング剤2〜10重量部(およびマイクロクリスタリンワックス0.5〜5重量部)を含有せしめたニトリルゴム組成物を有機溶剤に溶解、分散させたニトリルゴム溶液を用いることを提案している。しかるに、シランカップリング剤を用いた場合であっても、シリカの凝集に起因して、ゴム生地調製中にゴム生地溶液の凝集が発生し、凝集部分が金属板へ塗布されることでゴム層塗布金属板表面のスジ不良、加硫ムラなどの発生原因を生じることがあり、さらにその点での改善が求められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/016922
【特許文献2】特開平6−248116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゴム金属積層板のゴム層形成に用いられるニトリルゴム組成物であって、金属板上に塗布されたゴム層表面のスジ不良およびゴム加硫後の加硫ムラなどの発生を低減せしめることを可能とするものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ニトリルゴム100重量部に対してシリカ5〜40重量部、シランカップリング剤0.5〜5.0重量部およびアミド系ワックス0.5〜5.0重量部を含有せしめたニトリルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るニトリルゴム組成物は、シランカップリング剤とともにアミド系ワックスが配合されているので、金属板塗布用ゴム糊中のシリカの凝集が有効に防止される。かかるニトリルゴム組成物は、これを有機溶媒に溶解または分散させて得られるゴム糊溶液中に凝集物が確認されるまでの時間が、例えば常温で72時間というように長く、またかかるゴム糊用ニトリルゴム組成物を用いて製造されたゴム金属積層体は、ゴム糊用ニトリルゴム組成物中のシリカの凝集に起因するゴム層塗布表面のスジ不良あるいは加硫ムラの発生が目視ではあまりみられないといったすぐれた効果を奏し、ガスケット、特に船外機向けのガスケットとして有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ニトリルゴム(NBR)としては、結合アクリロニトリル含量が18〜48%、好ましくは31〜42%で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が30〜85、好ましくは40〜70のアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムが用いられ、実際にはかかる性状を有する市販品をそのまま用いることができる。結合アクリロニトリル量がこれより少ないと、ゴム層の積層に際して用いられる接着剤との接着性が乏しくなり、一方結合アクリロニトリル量がこれより多い場合には、耐寒性が損なわれるようになる。また、ムーニー粘度がこれより小さいと、耐摩擦・摩耗特性が乏しくなり、一方ムーニー粘度がこれより大きいと、混練加工性が損なわれるようになる。かかる性状のニトリルゴムには、シリカ、酸化亜鉛、シランカップリング剤およびアミド系ワックスが添加されてニトリルゴム組成物が調製される。
【0009】
シリカとしては、ハロゲン化けい素または有機けい素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法ホワイトカーボン、けい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法ホワイトカーボンなどであって、非晶質シリカを用いることができ、好ましくは粒子径0.01〜0.1μmのものが用いられる。シリカの粒子径がこれより大きいと、耐摩耗性が悪化し、一方シリカの粒子径がこれより小さいと、シリカをゴムに分散させる際に粒子が凝集して大きくなり、やはり耐摩耗性が悪化するようになる。かかるシリカとしては、市販品、例えば日本シリカ工業製品Nipsil LPなどがそのまま用いられる。また、その比表面積は約20〜300m2/g、好ましくは約50〜250m2/g程度のものが一般に用いられる。ホワイトカーボンは、その価格、取扱性および耐摩耗性の良さから、一般的に用いられているカーボンブラックと比べて耐摩耗性に劣るものの、接着剤との接着性を向上させ、また高温・高面圧でのゴムのフローを防止する。
【0010】
シリカは、ニトリルゴム100重量部当り、5〜40重量部、好ましくは10〜20重量部の割合で用いられる。シリカがこれより少ない割合で用いられると、目的とする金属との接着性が得られず、摩擦・摩耗時にゴム層の剥離が発生するようになり、一方これより多い割合で用いられると、ゴム硬度が高くなり、またゴム弾性も失われるようになる。
【0011】
ここでシリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、そのためゴム中へのシリカ粒子の分散を良くするためには、混練時間を長くすることが必要である。また、シリカ表面は、そのシラノール基の特性から親水性であり、一方ゴムは親油性であることから、お互いに反発し、長時間放置したゴムコンパウンドは、溶剤への溶解性が低下し、シリカの凝集を発生させる。その結果、ゴム糊溶解液中の粒子が大きくなり、塗布面のザラツキ、耐摩耗性低下の原因となってしまうことがある。
【0012】
そのため、かかるシリカの凝集を防止すべく、好ましくはシリカ混練時にシランカップリング剤が配合される。シリカ表面はシランカップリング剤で処理され、その凝集が防止される。一般に、ゴム業界で使用されているシランカップリング剤XSi(OR)3は、シリカなどの無機材と反応するアルコキシ基とゴムなどの有機材と反応する官能基からなり、シリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤のアルコキシ基の加水分解で生じたシラノール基との脱水縮合反応、すなわちシリカとシランカップリング剤とのカップリング反応により、シリカ粒子表面のシラノール基を減少させ、ゴム中の分散を改良するとともに、シランカップリング剤の他方の官能基とゴム分子とのゲル化反応により、シランカップリング剤とゴム分子とが化学的結合して補強構造をつくるものとされている。
【0013】
シランカップリング剤としては、通常ゴム業界で使用されているものであればビニル系、グリシドキシ系、メタクリロキシ系、アミノ系、メルカプト系、スルフィド系等特に限定されないが、例えばビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕テトラスルフィドおよび特許文献2等に記載されるγ-トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、γ-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィド等のテトラスルフィド類などが挙げられ、例えば市販品のビニル系シランカップリング剤であるモメンティブ社製品ビニルシラン(A-172NTJ)などをそのまま使用することができる。
【0014】
これらのシランカップリング剤は、ニトリルゴム100重量部当り0.5〜5.0重量部、好ましくは1.0〜3.0重量部の割合で用いられる。シランカップリング剤がこれより少ない割合で用いられると、シリカの凝集があり、塗布表面のザラツキ発生、耐摩耗性が損なわれる場合があり、一方これより多い割合で用いられると、ゴムの架橋密度が上がり、シール性の悪化、熱老化後の屈曲により割れが発生し、熱劣化後の耐摩耗性が悪化するようになる。
【0015】
さらに本発明では、シリカの凝集をさらに防止すべく、シランカップリング剤とともにアミド系ワックスが用いられる。アミド系ワックスとしては、炭素数10〜22の飽和または不飽和の高級脂肪酸アミド、例えばオレイン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミドなどが用いられ、これらは市販品である日本化成製品ダイアミッドO-200、同社製品ダイアミッドY、ライオンアーマー社製品アーマイドHT-Pなどをそのまま使用することができる。
【0016】
これらのアミド系ワックスは、ニトリルゴム100重量部当り0.3〜5.0重量部、好ましくは0.5〜2.0重量部の割合で用いられる。アミド系ワックスがこれより少ない割合で用いられると、金属板に適用されるゴム糊中のシリカの凝集を十分に防止することができなくなり、一方これより多い割合で用いられると、常態値での破断時伸びの値が低くなり、その結果打ち抜き後に糸状のバリが発生し、不適合につながるようになる。
【0017】
以上の必須成分よりなるニトリルゴム組成物中には、加硫剤、ステアリン酸等のアミド系ワックス以外の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の受酸剤、老化防止剤、パラフィン系、ポリエステル系等の可塑剤などゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。加硫剤としては、パーオキサイド系の加硫剤であれば、ニトリルゴム100重量部当り1〜20重量部、好ましくは4〜8重量部の割合で用いられ、またイオウ系の加硫剤も同様に用いることができる。また、受酸剤として酸化亜鉛を用いる場合には、ニトリルゴム100重量部当り25重量部以下、好ましくは3〜7重量部の割合で用いられる。
【0018】
上記ニトリルゴム組成物は、インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練してニトリルゴム組成物を形成させた後、この組成物を有機溶剤、例えばケトン類、芳香族炭化水素類またはこれらの混合溶剤などに溶解または分散させることにより、ゴム糊として調製される。かかるゴム糊は、金属板の片面または両面に、接着剤層およびゴム層を順次積層させてなるゴム金属積層体のゴム層形成に用いられ、その加硫が行われる。加硫は、一般に約150〜250℃、約20秒〜30分間のプレス加硫を行うことにより行われる。
【0019】
ゴム金属積層体の金属板としては、ステンレス鋼板、軟鋼板、亜鉛メッキ鋼板、SPCC鋼板、銅板、マグネシウム板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。これらは、一般に脱脂した状態で用いられ、必要に応じて金属表面をショットブラスト、スコッチブライド、ヘアーライン、ダル仕上げなどで粗面化することが行われる。また、その板厚は、シール材用途の場合にあっては、一般に約0.1〜1mm程度のものが用いられる。
【0020】
これらの金属板上には、好ましくはプライマー層が形成される。プライマー層は、ゴム金属積層体の耐熱性および耐水性の大幅な向上が望めるものであり、特にゴム金属積層体をシール材として使用する場合にはそれを形成させることが望ましい。
【0021】
プライマー層としては、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム等の金属の化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系被膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系被膜など、一般に市販されている薬液あるいは公知技術をそのまま用いることができるが、好ましくは少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物を含んだプライマー層や、さらにこれに金属酸化物またはシリカを添加したプライマー層、さらに好ましくはこれらのプライマー層形成成分にアミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとの加水分解縮合生成物を加えたプライマー層(特許文献1)が用いられる。この加水分解縮合生成物は、単独でも用いられる。
【0022】
得られたプライマー溶液は、金属板上にスプレー、浸せき、刷毛、ロールコータ等を用いて、約50〜200mg/m2量の目付量で塗布され、室温または温風にて乾燥させた後、約100〜250℃、約0.5〜20分間焼付処理され、プライマー層が形成される。
【0023】
また、接着剤としては、シラン系、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系など一般に市販されている接着剤をそのまま使用することができるが、好ましくはノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂の2種類のフェノール樹脂と未加硫ニトリルゴムからなる接着剤が使用できる。
【0024】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノールなどフェノール水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはそれらの混合物とホルムアルデヒドとを、シュウ酸、塩酸、マレイン酸などの酸触媒の存在下において縮合反応させることによって得られる融点80〜150℃の樹脂、好ましくはm-クレゾールとホルムアルデヒドから製造された融点120℃以上のものが使用される。
【0025】
レゾール型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノールなどフェノール水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはそれらの混合物とホルムアルデヒドとを、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムなどのアルカリ触媒の存在下において縮合反応させることによって得られるものが使用される。
【0026】
未加硫のニトリルゴムとしては、市販品である極高ニトリル含量(ニトリル含量43%以上)、高ニトリル含量(同36〜42%)、中高ニトリル含量(同31〜35%)、中ニトリル含量(同25〜30%)および低ニトリル含量(同24%以下)の各種NBRをそのまま用いることができるが、好ましくはゴム層形成に用いられたものと同じものが用いられる。
【0027】
これらの各成分を含有する接着剤は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などの有機溶剤単独またはこれらの混合溶剤に溶解され、溶液状として使用される。
【0028】
好ましい接着剤を形成する以上の各成分は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂10〜1000重量部、好ましくは60〜400重量部および未加硫ニトリルゴム30〜3000重量部、好ましくは60〜900重量部の割合でそれぞれ用いられる。これらの各成分は、成分合計量濃度が約3〜10重量%になるように有機溶剤を加え、混合、攪拌することにより加硫性接着剤として調製される。レゾール型フェノール樹脂がこれより多く用いられると、高ニトリルゴム材料の接着性が低下し、一方これより少ない場合には金属面との接着性低下が起こるようになる。また、未加硫ニトリルゴムがこれより多く用いられると、金属面との接着性が低下するほか、粘度上昇が大きくなり、塗布作業に支障をきたすようになる。一方、これより少ない場合には、接着対象であるニトリルゴムとの相溶性が低下し、接着不良となる。これらの各成分を用いての接着剤の調製は、各成分の所定量をそれぞれ有機溶剤中に溶解し、攪拌、混合することにより行われる。
【0029】
塗布型クロメート処理を施さない金属板上への接着剤層の形成は、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に、上記接着剤溶液を塗布し、室温下で風乾させた後、約100〜250℃で約5〜30分間程度の乾燥を行うことにより行われる。
【0030】
接着剤層としては、一層の構成のみならず多層構成とすることもできる。例えば、プライマー層上には有機金属化合物を含むフェノール系の接着剤層を形成し、さらにその上には上記ニトリルゴム組成物を含むフェノール系接着剤層を設けて接着剤を多段塗布した上で、ゴム層を形成させたものが挙げられる。このような構成とすることにより、接着剤層の塗布工程は増加するものの、プライマー層およびゴム層の接着性をより強固なものとすることが可能となる。
【0031】
接着剤層上には、前記ゴム糊が約10〜200μm程度の厚みとなるように塗布され、加硫が行われる。得られたゴム金属積層体には、ゴムの粘着防止を目的として、樹脂系、グラファイト系などのコーティング剤をゴム層上に塗布することもできる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0033】
実施例1
ニトリルゴム(JSR製品N235S) 100重量部
シリカ(日本シリカ製品ニップシールLP) 12 〃
酸化亜鉛1種(堺化学製品) 5 〃
α,α′-ジ(第三ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン 6.5 〃
(日本油脂製品ペロキシモンF-40)
ビニル系シランカップリング剤(モメンティブ社製品A-172NTJ) 2 〃
オレイン酸アミド(日本化成製品ダイヤミッドO-200) 1 〃
以上の各配合成分をニーダおよびオープンロールで混練し、混練物について、下記方法によりゴム糊寿命およびゴム糊作製可能な生地寿命を測定した。
ゴム糊寿命:ゴム生地を固形分濃度25%のトルエン溶液として調製したゴム糊中に
凝集物が確認されるまでの経過時間を測定
ゴム糊作成可能な生地寿命:ゴム生地をトルエン中に投入、固形分濃度25%(不揮
発分)で溶解してゴム糊を調製した際に、十分に溶解
しないために発生する塊等が存在せず、良好に溶解可
能な日数を測定
【0034】
また、上記混練物について、180℃、3分間のプレス加硫を行って厚さ2mmのテストピースを作製し、JIS K6253に準拠してタイプA デュロメーターで硬さを、またJIS K6251に準拠して常態物性をそれぞれ測定した。
【0035】
〔ゴム金属積層体の作製〕
アルカリ脱脂した厚さ0.2mmのステンレス鋼板(日新製鋼製品SUS301)の表面に、チタンテトラ(アセチルアセトネート)1.0重量部、アルコキシシラン加水分解縮合物2.5重量部、水10.0重量部およびメタノール86.5重量部よりなるシラン系プライマーを浸せき法により塗布して、加熱空気で乾燥させた後、約200℃で5分間焼付処理され、プライマー層(目付量:250mg/m2)が形成された。なお、ここで用いられたアルコキシシラン加水分解縮合物は、次のようにして製造された。
【0036】
攪拌機、加温ジャケットおよび滴下ロートを備えたフラスコに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン40重量部および水20重量部を仕込み、pHが4〜5になるように酢酸を加えて調整し、数分間攪拌した。さらに攪拌を続けながら、ビニルトリエトキシシラン40重量部を滴下ロートを使って徐々に滴下した。滴下終了後、約60℃の温度で5時間加熱還流を行い、室温迄冷却してアルコキシシラン加水分解縮合物を得た。
【0037】
このプライマー層上に、メチルエチルケトン90重量部に未加硫ニトリルゴム(日本合成ゴム製品N-237;中高ニトリル)2重量部を添加した後、レゾール型フェノール樹脂(ロードファーイースト社製品ケムロックTS1677)5重量部および塩素化ポリエチレン(ダイソー製品SE-200Z)3重量部を添加して調製した接着剤組成物溶液を塗布し、室温下で風乾させた後、約200℃で約5分間加熱して厚さ約2μmの接着剤層を形成させた。次いで、前記ニトリルゴム組成物を、固形分濃度が25重量%となるようにトルエン-メチルエチルケトン(重量比9:1)混合溶剤に溶解し、カーボンブラック、充填材等の分散状態の指標となるゴム溶液での粒度(指標は20μm以下)をJIS K5600に準拠して測定した後、これを塗布、乾燥して約20μmの厚みの未加硫ニトリルゴム層を形成し、次いで窒素雰囲気中で180℃、6分間のプレス加硫を行い、ニトリルゴム層を形成した。
【0038】
形成された加硫ゴム層表面には、その粘着防止を目的としてポリブタジエン樹脂とセルロース樹脂バインダー、グラファイトを添加したサゾールワックスのトルエン分散液を塗布し、200℃、5分間の空気加熱による加熱処理を行い、厚さ5μmの粘着防止層を形成させて、ゴム金属積層体を作製した。得られたゴム金属積層体のゴム層塗布表面には、スジ不良あるいは加硫ムラはみられなかった。
【0039】
得られたゴム金属積層体について、下記方法により屈曲性試験および打ち抜き仕上げ性試験が行われた。
屈曲性試験:TSK 7606Gに準拠し、180°屈曲した後における耐久性を評価した。ゴム
剥離がみられないものを○、ゴム剥離がみられたものを×とした
打ち抜き仕上げ性試験:打ち抜き工程において問題が生じなかったものを○、問題が生
じたものを×と評価した
【0040】
実施例2
実施例1において、シランカップリング剤量が1重量部に、またオレイン酸アミド量が0.5重量部に、それぞれ変更されて用いられた。得られたゴム金属積層体のゴム層塗布表面には、スジ不良あるいは加硫ムラはみられなかった。
【0041】
実施例3
実施例1において、オレイン酸アミドの代わりにステアリン酸アミド(ライオン・アクゾ社製品アーマイドHT-P)が同量用いられた。得られたゴム金属積層体のゴム層塗布表面には、スジ不良あるいは加硫ムラはみられなかった。
【0042】
実施例4
実施例1において、オレイン酸アミドの代わりにラウリン酸アミド(日本化成製品ダイヤミッドY)が同量用いられた。得られたゴム金属積層体のゴム層塗布表面には、スジ不良あるいは加硫ムラはみられなかった。
【0043】
比較例1
実施例1において、シランカップリング剤およびオレイン酸アミドが用いられなかった。
【0044】
比較例2
実施例1において、シランカップリング剤量が6重量部に、またオレイン酸アミド量が6重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0045】
比較例3
実施例1において、オレイン酸アミドが用いられなかった。
【0046】
比較例4
実施例1において、シランカップリング剤が用いられなかった。
【0047】
比較例5
実施例1において、オレイン酸アミドの代わりに、パラフィン系ワックス(精工化学製品サンタイトR)が同量用いられた。
【0048】
以上、各実施例および比較例で得られた結果は、次の表1〜2に示される。

表1
測 定 項 目 実施例1 実施例2 実施例3 実施例4
〔ゴム糊特性〕
ゴム糊寿命 約72時間 約72時間 約72時間 約72時間
ゴム糊作成可能な生地寿命 約14日 約14日 約14日 約14日
〔常態物性〕
硬度 (Duro A) 91 91 91 91
破断強さ (MPa) 11〜13 11〜13 11〜13 11〜13
破断時伸び (%) 160〜190 160〜190 160〜190 160〜190
〔ゴム積層金属板素材特性〕
屈曲性 ○ ○ ○ ○
打ち抜き仕上げ性 ○ ○ ○ ○

表2
測 定 項 目 比較例1 比較例2 比較例3 比較例4 比較例5
〔ゴム糊特性〕
ゴム糊寿命 約12時間 約120時間 約60時間 約48時間 約60時間
ゴム糊作成可能な生地寿命 約7日 約21日 約12日 約10日 約12日
〔常態物性〕
硬度 (Duro A) 91 91 91 91 91
破断強さ (MPa) 11〜13 11〜13 11〜13 11〜13 11〜13
破断時伸び (%) 160〜190 50〜60 160〜190 160〜190 160〜190
〔ゴム積層金属板素材特性〕
屈曲性 ○ × ○ ○ ○
打ち抜き仕上げ性 ○ × ○ ○ ○

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴム100重量部に対してシリカ5〜40重量部、シランカップリング剤0.5〜5.0重量部およびアミド系ワックス0.3〜5.0重量部を含有せしめてなるニトリルゴム組成物。
【請求項2】
アミド系ワックスが、炭素数10〜22の飽和または不飽和の高級脂肪酸アミドである請求項1記載のニトリルゴム組成物。
【請求項3】
アミド系ワックスが、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドまたはラウリン酸アミドである請求項2記載のニトリルゴム組成物。
【請求項4】
さらに25重量部以下の酸化亜鉛を含有させた請求項1記載のニトリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項1または4記載のニトリルゴム組成物を用いてゴム層を形成させたゴム金属積層体。

【公開番号】特開2012−219230(P2012−219230A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88808(P2011−88808)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】