説明

ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2−サブユニットの調節配列及びこれをコードする配列を含むゲノムDNA断片、及びこれらの断片又は突然変異断片を用いて作製されたトランスジェニック動物

【課題】nAChRのβ2 −サブユニットの調節配列及びこれをコードする配列を含むDNAを発現することによって、ニコチンの薬理学的効果、nAChRの役割、ニコチン耽溺、ニコチン欠乏と関連する痴呆などに関する有用な情報を得、nAChRと関連した活性、行動を回復又は調節する化合物をスクリーニングすることができるDNAなどを提供する。
【解決手段】特定の塩基配列及び緊縮条件下にDNAにハイブリダイズする配列から実質的になる、nAChRのβ2 −サブユニットのプロモーターを含む単離されたDNA、これを含む組換えベクター、形質転換有機体、これを導入されているトランスジェニック非ヒト哺乳動物など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のβ2 −サブユニットのDNA及びクローンに関する。本発明は、また、β2 −サブユニットニューロンnAChRの調節配列及びこれをコードする配列を含むゲノムDNA断片、及びこれらの断片又は突然変異断片を用いて作製されたトランスジェニック動物に関する。5’のフランキング配列は、プロモーターを含み、これが、ニューロンに特異的な発現をもたらす。ゲノムクローンにより、ニコチン系、及びニコチンに対する薬理学的応答におけるβ2 −サブユニット遺伝子の重要性が、証明されている。本発明は、また、DNA配列を含むベクター、ベクターにより形質転換された細胞、本配列を有するトランスジェニック動物、及びこれらのトランスジェニック動物より誘導されるセルラインに関する。更にまた、本発明は、上述したもの全ての用途を記載するものである。
【0002】
本明細書に引用する参考文献は、明細書の終わりに、著者及び発行年又は引用番号を記載する。
【背景技術】
【0003】
ニューロン特異的発現
組換えDNAに基づく多くの操作では、組織特異的な発現が、必要である。遺伝子導入療法における、望ましくない、又は潜在的に有害な副作用、及び操作は、適正な組織特異的発現を行うことによって、減少することができる。更に、一つのセルタイプ単独に対してある種のタンパク質の発現をコントロールすることができると、重要な治療又は解析の目的で、科学者が、これらの細胞をマッピング、認識又は精製する能力が、向上する。興味の対象である細胞が、ニューロン、又はニューロンの特定のサブセットである場合、ニューロン特異的又はサブセット特異的な発現をもたらすDNA配列が、必要となる。
【0004】
有機体により発現されるタンパク質は、ニューロンにより、しばしば、特定の目的に利用される。これらのタンパク質の特定のサブユニット又は成分を、ニューロン組織中のみで発現させることによって、ニューロンは、その目的に応じて、タンパク質活性を、作り替える。特定の、ニューロン特異的なサブユニット、又は成分を、発見し、なぜこれらが、ニューロン組織においてのみ産生されるかを解明することによって、ニューロン特異的な発現をもたらすDNA成分への鍵が得られる。
【0005】
アセチルコリン受容体の生物学に関する本発明者らの知識により、本発明のための重要な知見が得られた(Changeux, The New Biologist, Vol. 3, No. 5, pp. 413-429)。異なる型のアセチルコリン受容体が、異なる組織に確認されており、異なるアゴニストに応答する。その一種類であるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は、ニコチンに応答する。この型のサブグループは、ニューロンにおいてのみ確認されており、ニューロンnAChRと称される。
【0006】
一般的には、5種類の型のサブユニットが、アセチルコリン受容体複合体を形成する。受容体中のサブユニットの型により、アゴニストに対する特異性が決定される。ある種の細胞群に対する特定のアセチルコリン受容体型の局在化をコントロールするのが、これらのサブユニットの発現パターンである。これらの特異的発現パターンの獲得に関与する遺伝的メカニズムにより、組織に特異的、又はより限定された細胞群に特異的な発現に対するコントロール能が得られる。本発明者らの研究は、プロモーター配列における規定された要素により、β2 −サブユニットのためのニューロン特異的な発現が得られることを示している。
【0007】
ニコチンの薬理学的効果
上述したように、nAChRは、アゴニストであるニコチンに応答する。ニコチンは、学習及び記憶を含む行動の多くの面に関与している(1,2)。ニコチンの薬理学的効果及び行動学的効果は、ニューロンnAChRと関係する。低用量のニコチン(23)又はニコチン様アゴニスト(16)を用いた研究では、脳における高親和性nAChRが、受動的忌避行動に対するニコチンの効果に介在することが、示唆されている。従って、ニューロンnAChRが変化しているモデルシステムにより、ニコチンの薬理学的効果、認識の過程におけるニューロンnAChRの役割、ニコチン耽溺、及びニコチン系における欠損と関連する痴呆に関する有用な情報が、得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(α7 −サブユニットは、in vitro6,7 において、機能性ホモオリゴマーを生成することができるが)機能的ニューロンnAChRは、少なくとも一種類の型のα−サブユニット及び一種類の型のβ−サブユニットを含む五量体タンパク質複合体である(3〜5)。β2 −サブユニットは、本研究のために、7種類の公知のα−サブユニット及び3種の公知のβ−サブユニットから選択した(3)。脳において、広く発現されており(8〜10)、脳のほとんどの領域では、その他のβ−サブユニットが、発現しないためである(10)。したがって、このサブユニットの突然変異により、CNSニコチン系における有意な欠損が生じるはずである。本発明者らは、薬理学及び行動学におけるβ2 −サブユニットの関与に関して、検討を行った。トランスジェニックマウスにおいて、β2 −サブユニットを突然変異させるために、遺伝子ターゲッティングを用いた。
【0009】
本発明者らは、ニコチンに対する高親和性結合部位が、β2 −サブユニット突然変異に対してホモ接合性である、つまりβ2 −/−であるマウスの脳には存在しないことを、発見した。更に、脳スライスの電気生理学的記録により、これらのマウス由来の視床ニューロンが、ニコチン投与に応答しないことが明らかになった。最後に、行動学的試験により、ニコチンは、連想学習の一手段である受動的忌避試験において、β2 −/−マウスの能力を、向上させないことが証明されている。逆説的に、突然変異マウスは、この試験において、非突然変異同胞種よりも、高い能力を示すことができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の簡単な概要及びその有用性
本発明の特徴においては、我々は、ニューロンnAChRのβ2 −サブユニットの調節及びコード領域を含むDNAの15kbの断片について記載する。我々は、β2 −サブユニット遺伝子のプロモーターを、in vitro及びトランスジェニックマウスにおいて特徴づけるものである。我々は、本遺伝子の正の調節に関与するE−ボックス及びその他の共通タンパク質結合配列を含む、数種類のDNA要素について、記載するものである。更に、我々は、β2 −サブユニットプロモーターの細胞特異的な転写が、転写された配列に位置する一つを含む、少なくとも二つの負の調節要素を含むことを示すものである。
【0011】
これらの特徴の好ましい実施態様は、特定のプロモーター配列、並びに各種細胞及び有機体におけるニューロン特異的発現のコントロールにおけるその用途に関する。1163bp配列及び862bp配列は、両者とも、ニューロン特異的発現をもたらす。その他の実施態様には、必須活性化要素を含む、図1の−245〜−95の配列、及びリプレッサーを含む図1の−245〜−824の配列が含まれる。NRSE/RE1配列からなるリプレッサー要素は、転写された領域にも存在する。これらのゲノム配列からなるある種のプラスミドについても、同様に記載する。
【0012】
プロモーター配列は、ある種の規定された細胞におけるタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの発現をコントロールする能力を有するため、重要である。例えば、以下に示すようなトランスジェニックマウスにおいては、トキシンなどをコードする配列は、ニューロンに対して作用し、疾患状態におけるこれらの細胞の崩壊をまねる。その他のものも、以下に記載するデータより、明らかであろう。
【0013】
替わりに、プロモーターは、ある種のニューロンに対して、コードされた成長因子又は腫瘍発生性、腫瘍形成性若しくは不死化タンパク質をコントロールして、腫瘍発生をまねることができる。これらの細胞は、培養物中に単離及び増殖させることができる。別の用途においては、プロモーター配列は、in situ において特定のニューロンを認識、又は細胞選別技術により、ニューロンを単離するために、レポーター配列に有効に結合させることができる。単離、精製されたニューロンは、次に、in vitroにおける生化学的又は遺伝子学的解析に用いることができる。LacZ及びルシフェラーゼなどのレポーター配列については、以下に記載する。
【0014】
本発明の別の特徴においては、本発明者らは、マウスのニューロンnAChRのβ2 −サブユニットのゲノムクローンを提供するものである。これらのクローンは、哺乳類のニコチン系及びニコチンの薬理学の解析において有用である。本発明者らは、β2 −サブユニットのゲノムクローンを、ニコチンの高親和性結合をはたきだすために用いたトランスジェニックマウスを用いた解析について、記載する。
【0015】
記載した欠失突然変異体に加えて、β2 −サブユニットのエキソン又は調節配列に取り込まれた突然変異により、有用な突然変異トランスジェニック動物が得られるであろう。これらの突然変異は、点突然変異、欠失突然変異又は挿入突然変異であることができ、nAChRの非有効な活性、又は非活性受容体を得ることができる。このような突然変異動物により、化合物の、nAChR活性若しくは機能を回復又は調節する能力を決定するための方法が、可能となり、このような方法を考案することができる。機能の調節は、受容体の数、活性若しくはその他の補償のメカニズムを、アップレギュレーティング又はダウンレギュレーティングすることによって、行うことができる。また、化合物が、記載する、又は公知(17、22、18、2、19、21、23、24を参照)の行動学的解析における野生型の行動を回復又は調製する能力を決定するための方法は、突然変異動物を用いて、考案することができる。行動学的解析は、記憶、学習、不安症、運動活性及び注意力を、非処理動物又は患者と比較して、試験することからなるが、これに限定されるわけではない。したがって、nAChRと関連した活性若しくは行動を回復又は調節する化合物を選択するための薬理学的解析(12、13、14、15、20を参照)は、本発明により提供される突然変異動物により行うことができる。可能性のある治療薬の投与量及び量は、確立された技術により決定することができよう(例えば、参考文献16を参照)。
【0016】
トランスジェニック動物又はこれらの動物から誘導される細胞からなる現在のモデルシステムは、学習及び行動に対するニコチンの役割、ニコチンの薬理学、ニコチン耽溺、及びニコチン系における欠乏と関連する疾患の状態を解析するのに使用することができる。更に、ニコチン耽溺又はニコチン系における欠乏に対する潜在的な治療法を、トランスジェニック動物、又はこれらより誘導される細胞及びセルライン、又はファージβ2 (CNCM受託番号I−1503)のDNA断片若しくは完全なDNAをトランスフェクションさせたいずれのセルラインによっても、試験することができる。これらのセルラインは、β2 −サブユニット配列を有する又はβ2 −サブユニット配列において突然変異を起こしたホモ接合又はヘテロ接合トランスジェニック動物から、直接得られる全てを含むものである。加えて、これは、天然型β2 −サブユニット配列又は突然変異β2 −サブユニット配列を用いた培養物中に形成されるセルラインを含むものである。ここで使用する技術は、例えば、PCT WO 90/11354 に引用されているそれらである。
【0017】
高親和性ニコチン結合部位が減少しているアルツハイマー病などの痴呆症により、この欠乏の補償のための薬物をスクリーニングするために、本モデルを使用することができることが示唆される。したがって、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体の活性を回復又は検出できる程度にもたらす能力について、化合物をスクリーニングする方法であって、本化合物を、適当なセルラインに付加する、又は本化合物を、トランスジェニック動物に導入することからなる方法を、考案することができる。本発明により得られるトランスジェニック動物及びセルラインは、これらの方法において、用いることができる。このような動物又はセルライン系は、β2 遺伝子の活性を回復又は調節することができる化合物を、選択するためにも使用することができる。
【0018】
β2 −サブユニット遺伝子配列(野生型又はその突然変異体の断片)により得られたトランスジェニック動物は、二重トランスジェニック動物を発生させるために使用することができる。この目的のために、β2 −サブユニットトランスジェニック動物を、同一種のその他のトランスジェニック動物又は同一種の天然の突然変異動物と、交配させることができる。得られる二重トランスジェニック動物、又はそれより誘導される細胞を、親のβ2 −サブユニットトランスジェニック動物と同じ用途に使用することができる。
【0019】
プロモーター配列及びゲノムクローンの両者は、調節タンパク質が存在するか又はしないかについて解析するために使用することができる。以下のゲルシフト法は、このような用途を、例示するものである。配列又はクローンは、放射性核種、蛍光化合物などのマーカー、又は架橋タンパク質若しくはアビジン−ビオチンなどの化合物を、取り込む又は結合させることによって、プローブとして使用することもできる。これらのプローブは、ニューロンの作用若しくはアセチルコリン受容体系に関与するタンパク質、核酸又はその他の化合物を認識或いは測定するために使用することができる。
【0020】
有用なβ2 突然変異動物、セルライン又は配列を発生させるために、核酸配列を突然変異させる又は修飾するための公知の方法を、本発明と組み合わせて使用することができる。このような方法には、点突然変異、部位特異的突然変異誘発、欠失突然変異、挿入突然変異、相同的組換えより得られる突然変異、及びDNA若しくはDNAを有する細胞の化学的又は放射線処理により得られる突然変異が含まれるが、これらに限定されるわけではない。DNA配列解析は、所望又は必要であれば、発生した突然変異を調べるために使用する。次に、突然変異動物、セルライン又は配列を、本発明者らが記載するDNA配列、システム、測定法、方法又は工程に使用する。突然変異を起こしたDNAは、定義によりゲノムDNAとは、異なる又は同一ではないであろう。突然変異動物は、また、ここに記載する配列を含む、又は本発明により使用可能となる第一のトランスジェニック動物を、第二の動物と交配することによって、作製する。第二の動物は、第一の動物に含まれるDNAとは異なるDNAを含むことができる。このような方法で、突然変異動物の各種ラインを作製することができる。
【0021】
更にまた、ここに記載するDNA配列を、上述したように交配し、これらのDNA配列を、発現ベクターに結合させ、β2 −サブユニットタンパク質又はβ2 −サブユニット配列から誘導される突然変異体を発現させるために、組換えDNA技術が利用可能である。したがって、β2 −サブユニット又は突然変異体は、その生化学的又は行動学的活性について、解析することができる。このような方法で、有効なnAChRの発現を妨げる突然変異DNA配列を、作製することができる。
【0022】
代わりに、記載するプロモーター配列を、その他のタンパク質の発現を誘導するために、発現ベクター又はシステムにおいて使用することができる。得ることのできるDNA配列は、したがって、これらのDNA配列を転写、又はこれらのDNA配列によりコードされるタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチドを産生するために、本発明者らが記載するプロモーター又は調節配列に結合させることができる。
【0023】
関連技術の記載
In situ におけるハイブリダイゼーション(Wada et al., 1989; Hill et al., 1993; Zoli et al., 1994) 及び免疫組織化学(Hill et al., 1993) による従来の研究により、これまでにクローニングされたニューロンnAChRサブユニットの全てが、厳密なニューロン特異的分布を示すことが証明されている。しかし、異なるサブユニットも、脳内のニューロンの小さなサブセットに対してのみ、同様に厳密な分布を示す。例えば、nAChRα2 −サブユニットのトランスクリプトは、ニワトリの間脳のSpiriformis lateralis の核(Daubas et al., 1990) 又はラットの脚間核(Wada et al., 1988) においてのみ、検出される。また、β3 、β4 及びα3 −サブユニットトランスクリプトは、脊椎動物の脳における構造の小さいセットにおいてのみ検出される(Zoli et al., 1994 中の参考文献)。
【0024】
nAChR、α4 、α5 、α6 及びβ2 −サブユニット遺伝子トランスクリプトは、比較すると、はるかに広い分布を示す(Wada eT al., 1989; Zoli et al., 1994中の参考文献)。例えば、β2 −サブユニットトランスクリプトは、CNSのニューロンの多く及び末梢ニューロンの全てに認められ、nAChRを発現する(Role, 1992; Hill et al., 1993) 。
【0025】
これらのサブユニットの発現の違いの結果、脊椎動物においては、nAChRが、種により、非常に多様に存在する。それぞれの種は、ニューロンの多様なカテゴリー又はグループと関連する、定義された発現パターンを有する。例えば、内側手綱由来のニューロンは、脚間核由来のそれらと相互に結合し、それぞれが、異なる生理学的及び薬理学的特性を示す(Mulle et al., 1991)、異なるセットのnAChRサブユニットを発現する(参考のため、Role, 1992を参照)。
【0026】
ニューロンにおけるnAChR遺伝子転写の調節を説明する遺伝的メカニズムについては、これまで限られた情報しか得られていない。In vitroで解析を行ったニワトリα7 −サブユニット遺伝子のプロモーターに関するこれまでの研究では、転写調節を司るDNA要素を特徴づけることができなかった(Matter-Sadzinski et al., 1992) 。別の研究では、α2 −サブユニット遺伝子のプロモーターが、一部特徴づけられ、サイレンサーが、記載され、配列が決定されている(Bessis et al., 1993, Daubas et al., 1993も参照)。
【0027】
ある種の証拠により、特にβ2 −サブユニットに関する研究が、詳細に行われている。脳のニューロンのほとんどにおいて、これは発現されている(Hill et al., 1993) 。また、β2 −トランスクリプトの出現のタイミングは、ニューロン分化のそれと、密接に平行している(Zoli et al, 1994)。従って、我々は、その転写を調節する遺伝メカニズムについて研究することを決定した。
【0028】
本発明の簡単な記載
遺伝子構造
我々は、マウスのnAChRβ2 −サブユニット遺伝子の調節配列及びそれをコードする配列を含む遺伝子断片を、クローニングした。本発明者らは、調節領域の少なくとも一部が、異なる哺乳類の種においても、保存されていることを発見した。特に、NRSE/RE1に対応する+16〜+38bpの領域を、図1に記載する。プライマー伸長生成物のRNアーゼによる保護及び増幅を用いて、我々は、1カ所の大きな、そして3カ所の小さい転写開始部位を発見した(図1)。プライマーの伸長実験は、異なる2種類の逆転写酵素を用い、異なるバッチのmRNA及び異なるプライマーにより行った。これらのPCRに基づく技術により、我々は、逆転写酵素の停止部位ではなく、転写開始部位に対応する同一の断片を増幅及びサブクローニングすることができた。我々が特徴づけた転写開始部位は、最長のラット(Deneris et al., 1988)及びヒト(Anand and Lindstrom, 1990) β2 cDNA5’末端の位置から下流に位置する(図1を参照)。これは、ヒト及びラットでは、別の転写開始部位が、使用されていることを意味する。種間におけるこのような不一致は、筋nAChR(Duerr et al., 1994, Dong et al., 1993; Toussaint et al., 1994 も参照)のεサブユニットについては、既に証明されている。α2 −サブユニット遺伝子(Bessis et al., 1993) とは反対に、上流にエキソンは、検出することができなかった。
【0029】
1.2kbp のフランキング領域の構造に関する解析によって、Sp1部位及びE−ボックスを含む核タンパク質結合のための多くの共通モチーフが示された。1.2kbの非欠失プロモーターの約90bpが、転写され、この領域は、NRSE/RE1配列を含む(Kraner et al., 1992; Mori et al., 1992)。ポリオーマウイルス(Bourachot et al., 1989)又はfos遺伝子(Lamb et al., 1990) などの異なる系における転写開始部位の下流に、調節要素が存在することは、既に記載されている。
【0030】
プロモーター領域は、エキソン1に位置するEco47III (図1を参照)と、4.5kb上流のBamHI部位の間に位置する。一つの好ましい実施態様は、図1に記載した、EcoRI及びEco47III 部位の間の1163bpの配列である。調節配列は、Eco47III 部位から2kb下流に位置するかもしれない。nAChRβ2 −サブユニット配列由来の調節要素は、これらに結合した、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドをコードするヌクレオチド配列のニューロン特異的発現をコントロールするために使用することができる。該タンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、トキシン、栄養因子、ニューロペプチド、腫瘍形成性、腫瘍発生性若しくは不死化タンパク質、又はニューロンの機能を変更することのできるその他のあらゆるタンパク質であることができる。
【0031】
1163bpのプロモーターは、細胞特異的転写を達成する
1163bpのプロモーターは、β2 −サブユニット遺伝子の組織特異的及び一時的に特異的である転写の両者のための調節配列を含有する。一時的トランスフェクションの実験により、1163bpの断片は、nAChRβ2 −サブユニット遺伝子の細胞特異的発現をもたらすための十分な情報を含むことが示された。我々は、同一のプロモーターが、βガラクトシダーゼ(β−gal)レポーター遺伝子の厳密な細胞特異的転写をコントロールすることを示した。更に、導入遺伝子構成物は、胎児神経系の初期の発達の間、内因性β2 −サブユニット遺伝子と同一のタイミングで、活性化されると考えられる(Zoli et al., 1994)。発達の後期の段階では、末梢β2 発現ニューロンの多くは、まだ標識されている(図4C、D)。
【0032】
トランスジェニックマウスにおいて、β2 −サブユニットプロモーターのコントロール下、β−galを発現する2種類のライン(13及び26)を発生させることによって、プロモーター配列を試験した。CNSにおいては、βガラクトシダーゼ発現のパターンは、2種類のラインの間で異なっていた。正常にβ2 を発現する細胞のサブセットのみが、導入遺伝子を発現する。導入遺伝子及び内因性遺伝子の発現におけるこの種の不一致は、ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ遺伝子プロモーター(Mercer et al., 1991; Hoyle et al., 1994) 又はGAP−43遺伝子(Vanselow et al., 1994) については、既に記載されている。性器結節及び皮膚筋における導入遺伝子のライン13においては、予想外の発現が観察された。これらの組織は、ライン26においては、染色されないため、この発現は、導入遺伝子の組込み部位に由来すると考えられる。我々の知る限りでは、遺伝子導入により研究されたニューロンプロモーターの多くは、小さい割合の導入遺伝子ラインにおいて、異所性発現を示す(Forss-Petter et al., 1990; Kaneda et al., 1991; Banerjee et al., 1992; Hoesche et al., 1993; Logan et al., 1993, Vanselow et al., 1994)。しかし、当業界の技術では、導入遺伝子の発現パターンが、本来の遺伝子のそれを、厳密に反映又は重複しているラインの構成が可能である。詳細については、遺伝子導入操作の結果を示す参考文献を参照。
【0033】
β−gal陽性細胞の分布を、その他の公知のニューロンマーカーのそれと比較することによって、コリンアセチルトランスフェラーゼ、TrkA(高親和性神経成長因子受容体)及びp75(低親和性神経成長要素受容体)発現細胞の分布には、類似性があることが明らかになっている(Yan and Johnson, 1988: Pioro and Cuello, 1990a, b; Ringstedt et al., 1993) 。詳細には、発達中のラットでは、p75が、ほぼ全部の神経節及び中心核において発現されており(不確帯及び視床下部核以外)、これは、導入遺伝子を発現したものである(Yan and Johnson, 1988) 。p75の発現は、(β2 −プロモーター導入遺伝子の発現と同様)多くの末梢神経節及び脳核においては、一時的であり、周産期又は生後早い年齢で、検出不可能なレベルに低下することも、興味深い。したがって、β2 −サブユニットプロモーターは、p75の活性化によりコントロールされる要素を含み、又はβ2 導入遺伝子及びp75遺伝子の両者が、共通の調節要素によりコントロールされている可能性がある。
【0034】
結論として、本プロモーターでは、脳で活性であるある種の調節要素が欠落するが、存在する調節要素が、PNS、脊髄及び幾つかの脳構造における、細胞及び発達に特異的なβ−ガラクトシダーゼの発現を可能とするのに十分である。このプロモーターは、また、ニューロン組織における調節タンパク質を認識するための測定法に使用することもできる。
【0035】
DNA調節要素
β2 −サブユニット遺伝子の転写に関与するDNA要素を更に特徴づけするため、我々は、1163bpプロモーターを欠失又は突然変異させ、結果として得られた構成物を一時的トランスフェクションにより解析した。遠位5’末端領域内に存在するリプレッサー要素は、線維芽細胞内では活性であるが、神経芽腫内では活性でない。したがって、この要素によって少なくとも部分的に、β2 −サブユニット遺伝子のニューロン特異的発現が説明される。プロモーターを更に解析すると、589bpを欠失させた場合に、神経芽腫内では活性が増大するが線維芽細胞内では増大しないということが示される(図6、862Eと283E−Luciを比較すること)。
【0036】
NRSE/RE1要素は、プロモーターの3’末端に位置する。この要素は既に、ニューロン細胞内でプロモーターの活性を制限することが示されている(Kraner et al., 1992; Mori et al., 1992; Li et al., 1993)。β2 −サブユニット遺伝子の1163bpのプロモーターにおいては、この配列の点突然変異が、線維芽細胞中の転写活性を100倍(〜100fold)増大させ、このことが、この配列が、β2 −サブユニット遺伝子のニューロン特異的発現に関与していることを、意味している。その上、配列を比較すると、この配列が、ラット及びヒトβ2 −サブユニットcDNA内(Deneris et al., 1988; Anand and Lindstrom, 1990)並びに中重量ニューロフィラメント遺伝子、CAM−L1遺伝子、カルビンジン遺伝子又は小脳Ca結合タンパク質遺伝子(以下に示す表2を参照)などの神経系内で発現される遺伝子のいくつかのプロモーターの中で、高度に保存されていることが示される。
【0037】
【表2】

【0038】
表2:1163bpプロモーターの近位領域内の正及び負の調節要素
その他のニューロンプロモーターとの、β−サブユニットプロモーターの近位サイレンサーのアラインメント。配列は(Maue et al., 1990; Naチャンネル、受託番号M31433)、(Mori et al., 1990; SCG10、M90489)、(Sauerwald et al., 1990; Synapsin I、M55301)、(Kohl et al., 1992; CAML1遺伝子、X63509)、(Gill and Christakos, 1993; カルビンジン遺伝子、L11891)、(Zopf et al., 1990; ニューロフィラメント遺伝子、X17102、逆配向)から取られたものである。番号付けは Gen Bank/EMBLライブラリ内の配列を意味する。
【0039】
図6に記載した欠失実験は、ヌクレオチド−245と−95の間に必須活性化部位が存在することを示している。この領域内でSp1結合部位及びE−ボックスを検出することができた。Sp1部位は、汎存要素であり、一方E−ボックスは、筋肉内(nAChRα1 −サブユニットについてはBessereau et al., 1994を参照)並びにニューロン内(Guillemot et al., 1993)でのいくつかの遺伝子調節メカニズムに関与してきた。2回回転軸要素も同様に、チロシンヒドロキシラーゼ遺伝子(Yoon and Chikaraishi, 1994)、SCG10遺伝子(Mori et al., 1990)、GAP43遺伝子(Nedivi et al., 1992)のそれらなどのいくつかのニューロンプロモーター内、又はN−CAM遺伝子のフランキング領域内(Chen et al., 1990)でも報告されている。以下に示す表3に示されている結果は、神経芽腫において、E−ボックス/2回回転軸内で突然変異を受けた1163bpのプロモーターが野生型プロモーターに比べて著しく活性が低いことを証明している。その上、ゲルシフト測定(図7)は、E−ボックス/2回回転軸が、特異的複合体を結合させることができることを更に証明している。これは、E−ボックス/2回回転軸が、β2 −サブユニット遺伝子の転写の活性化の少なくとも一部分を司ることを示唆している。しかし、非相同プロモーターのトランス作用実験は、E−ボックスが27bp上流にあるSp1部位と協力して、転写を正に活性化させることを示唆している。E−ボックスとSP1結合部位の間のこの種の協力は、既に、筋肉nAChRα1 −サブユニット転写の調節についても証明されている(Bessereau et al., 1993)。
【0040】
【表3】

【0041】
表3:1163bpプロモーターの近位領域内の正及び負の調節要素
1163bpプロモーターの近位部分内の突然変異の効果。野生型又は突然変異を受けたプロモーターの活性は、プロモーター無しのKS−Luciプラスミドのルシフェラーゼ活性に合わせて正常化している。EE1.2−Luciの活性は、図3からのものである。
【0042】
結論として、我々は、β2 −サブユニット遺伝子が、負の作用をする要素とE−ボックスを含む1つの正の要素により基本的に調節されることを示してきた。この二重調節は、いくつかのニューロン遺伝子に共有される一般的特長であると思われ(Mandel and Mckinnon, 1993)、ニューロン遺伝子の転写の微調節を可能にしている。その上、我々の遺伝子導入に関する研究は、1163bpのプロモーターが緊密なニューロン特異的発現をもたらすものの、いくつかの発達要素又はCNS特異的調節要素が欠如していることを示している。
【0043】
図1
β2 −サブユニット遺伝子のイニシエーターATGをとり囲む領域のヌクレオチド配列
4つの垂直な矢印の頭は、転写開始部位に対応する、RACE−PCR及びSLICを用いて発見された4つの末端を示す。垂直な矢印は、最長のラット(r)及びヒト(h)のβ2 −サブユニットcDNAクローンの5’末端に対応する位置を表わしている(Deneris et al., 1988)。図3に記載する実験に使用した欠失の終点は、配列の上に示す。イントロン内に位置するヌクレオチドは、小文字でタイプしている。
【0044】
図2
β2 −サブユニットmRNAの5’末端のマッピング
a.RNアーゼ保護実験。イントロン1の158ヌクレオチド及び上流の配列の789ヌクレオチド(−634/+155)を含む32Pで標識されたRNAプローブに対して、DBA2マウスの脳(それぞれレーン2及び3、5及び15μg )及び酵母tRNA(レーン1、15μg)由来の総RNAをハイブリダイズした。保護されたバンドのサイズを、DNAと比較してのRNAのアクリルアミドの低移動度に応じて(Ausubel et al., 1994)、及び万能プライマーでプライミングされたM13mp18の配列との比較により評価した。ゲルの左側部分の矢印は、主要な保護バンドを指している。
b.SLICを用いた転写開始部位の認定。図の下部は、SLIC又はRACE−PCRのために使用するオリゴヌクレオチドを記載し、その方針を示している。SLIC実験においては、プライマーの伸長を、オリゴヌクレオチドpEx3を用いて行った。cDNAの最初のストランドを、その後オリゴヌクレオチドA5’に連結させ、結果として得られた断片を、まずオリゴヌクレオチドA5’−1/p0 を用い次にA’−2/p1を用いて増幅させた。その後、増幅させた断片を、1.2%のアガロースゲル上に配置した。ゲルをブロッティングし、オリゴヌクレオチドp2に対しハイブリダイズした。レーン1:全DBA2マウス脳RNA5μg 、レーン2−3:それぞれ逆転写酵素及びRNAを用いないコントロール。マイナス:T4RNAポリメラーゼを省略した。RACE−PCRを用いて、同じ結果を得た。
【0045】
図3
In vitroでのβ2 −サブユニットプロモーターの細胞特異的発現
プロモーター無しのプラスミド(「材料と方法」の中で記述するKS−Luci)の活性に合わせて、プラスミドのルシフェラーゼ活性を正常化した。ルシフェラーゼオリゴヌクレオチド(「材料と方法」の中で記述する)を用いた、EE1,2−Luciによりトランスフェクションを行ったSK−N−Beから抽出したmRNAについてのRACE−PCRは、増幅された断片が、適正な転写開始部位について予想されたサイズを有することを示した。
【0046】
図4
トランスジェニックマウスにおけるβ2 −サブユニットプロモーターの細胞特異的発現
a.E13胚の全マウント着色。矢印の頭は皮膚筋における異所的発現を指している。
b.腰仙レベルでのE13胚の側矢状断面内でのβ−ガラクトシダーゼ活性の検出。矢印の頭は、脊髄の前角及び背角内での標識を示す。
c.同じ胚の隣接する断面内でのβ2 −サブユニットのトランスクリプトの検出。dr:背根神経節;t:蓋;og:交感神経節鎖;tr:三叉神経節。
【0047】
図5
トランスジェニックマウスにおけるβ−ガラクトシダーゼの発現
a.網膜(re)及び三叉神経節(tr)(E14.5)の染色。
b.心副交感神経節ニューロン(pg)(E14.5)の染色。
c.脊髄(pl)の横断面、dr:背根神経節、og:交感神経節
d.脊髄(pl)の腹側図。小さい方の矢印は、認識されなかったニューロンを表わす。
【0048】
図6
β−サブユニットプロモーターの5’末端欠失を含むルシフェラーゼ融合遺伝子の発現
プラスミドは、nnnE−Luciと呼ばれ、ここで、nnnは、挿入ヌクレオチドのサイズであり、Eは、5’末端制限部位(Eco47III)である。矢印は、転写開始部位を表わす。EE1.2−Luciの活性は、図3からのものである。
【0049】
図7
ゲルシフト実験
移動度シフト実験のオートラジオグラム。使用したプローブは、32Pで標識した二本鎖E−Dオリゴヌクレオチドであった。このオリゴヌクレオチドは、E−ボックス/2回回転軸要素のみを有しており、一方オリゴヌクレオチドS−Eは、Sp1結合部位並びにE−ボックス/2回回転軸要素を有している。競合性オリゴヌクレオチドを、100倍モル過剰においてのみ使用したS−Eを除き、10倍及び100倍のモル過剰で使用した。
【0050】
図8は、ニューロンnAChRのβ2 −サブユニットをコードする遺伝子の分断を示す。a−iは、マウスβ2 −サブユニット遺伝子の通常のゲノム構造である。組換え事象によって除去されたエキソンの部分は、淡い灰色で示している。ATG:イニシエーターメチオニン。囲いは、エキソンI〜IVを表わす。a−iiは、内因性β2 −サブユニット遺伝子を分断するのに使用した標的置換ベクターである。イニシエーターメチオニン及び第一のエキソンの残りが、NLS−lacZのコード領域及びMClneoR発現カセット25によって置き換えられている。この構成物は、PC12細胞(図示せず)の安定なトランスフェクションの後、lacZの発現をコントロールすることができたが、lacZ DNAにおける明らかな組換えの欠如にもかかわらず、組換え動物中に、lacZの発現は検出されなかった。ジフテリアトキシン−A遺伝子(DTA)26を使用して、無作為的な組込みに対して選択を実施した。a−iiiは、突然変異β2 −遺伝子の構造である。制限部位:H、HindIII ;R、EcoRI;E、Eco47III ;P、PstI。黒の矢印は、胚ステム(ES)細胞中の組換え事象を検出するために使用したプライマーを示す。灰色の矢印は、野生型又は突然変異β2 遺伝子を検出するために使用したプライマーを示す。bは、+/+マウス、+/−マウス及び−/−マウスから得た末端DNAのPCR解析図である。cは、パネルbで解析したものと同じマウスから得た、HindIII で制限した末端DNAのサザーンブロッティング解析図である。dは、β2 −サブユニットに対して作製したモノクローナル抗体を用いた、全脳タンパク質のウエスタンブロッティング解析図である。
【0051】
方法。a:多クローニング部位(MCS)をMClネオカセットに挿入することにより、β2 −標的ベクターを構成した(GTC GAC GGT ACC GCC CGG GCA GGC CTG CTA GCT TAA TTA AGC GGC CGC CTC GAG GGG CCC ATG CAT GGA TCC) 。ATGに対する4.1kbのEcoRI−Eco47III β2 −ゲノム断片5’及びβ2 −遺伝子の最初のイントロン内で開始する1.5kbのPstI β2 −ゲノム断片をMCS中にクローニングした。前記のエレクトロポレーション25により、HMl27,28 胚ステム細胞(5×107 個)を、線形化した標的ベクターでトランスフェクションした。生存する24個のG418耐性クローンをPCRによって選別した(β2 −プライマー GCC CAG ACA TAG GTC ACA TGA TGG T;ネオプライマー GTT TAT TGC AGC TTA TAA TGG TTA CA)。4個が陽性であり、これらを、後にサザーンブロッティング解析によって確認した。クローンを、non-agoutiC57BL/6マウスから得た3.5日齢の胚盤胞に注入し、受容性のメスに播種した。得られたオスのキメラマウスを、F1、C57BL/6xDBA/2のnon-agoutiメスと交配した。15匹のキメラのうち、1匹が生殖系列伝達を示した。β2 +/−ヘテロ接合体を交配し、子孫をPCR解析によって評価した(パネルb)。b:PCRは、94°/1分、65°/2分及び72°/1分の35サイクルであった。c:前記29のようにサザーンブロッティングを実施した。標的構成に使用した1.5kbのPstIゲノム断片を無作為的なプライミングによって標識した。d:前記29のように、モノクローナル抗体27011を用いて、ウエスタンブロッティングを実施した。
【0052】
図9及び図10は、in situ におけるハイブリダイゼーション及びトリチウム化ニコチン結合を用いた、マウス脳におけるニューロンnAChRのマッピングを示す。図9は、nAChRのβ2 −、α4 −及びβ4 −サブユニットをコードするcDNAの配列に基づくアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを用いて、β2 +/+、+/−及び−/−マウスの脳から得た連続切片におけるそれぞれのmRNAを検出したin situ におけるハイブリダイゼーションである。視床中間区分が示されている。白の矢印は、β4 −アンチセンスオリゴヌクレオチドによって標識されたMHbを示す。図10は、野生型、ヘテロ接合体及びβ2 −突然変異体のマウスの脳における高親和性結合部位を表わす、トリチウム化ニコチンを用いた受容体オートラジオグラフィーである。線条、視床及び蓋のレベルを表わす切片が示されている。
【0053】
方法。in situ におけるハイブリダイゼーションを次のように実施した。In situ におけるハイブリダイゼーション手順。凍結した組織をクリオスタットで切断し(厚さ14μm の切片)、ポリ−1−リシン被覆スライドに解凍しながらマウントし、−80℃で1〜3日間貯蔵した。この処置は、Young らの方法(1986)にしたがって実施した。すばやく4%パラホルムアルデヒドを用いて、切片を室温で5分間固定化し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄したのち、エタノール及びクロロホルム中でアセチル化し、脂質を除去した(5分)。これらを、パラフィルムカバースリップの下、37℃で2〜4時間プレハイブリダイズした。プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション混合物の組成は、0.02M トリスHCl(pH7.5)中、50%ホルムアミド、0.6M NaCl、0.1M ジチオトレイトール、10%デキストラン硫酸エステル、1mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、1XDenhardt溶液(50×=1%ウシ血清アルブミン/1%フィコール/1%ポリビニルピロリドン)、0.1mg/ml ポリA(Boehringer)、0.5mg/ml 酵母RNA(Sigma)、0.05mg/ml ニシン精液DNA(Promega)であった。プローブを、切片30μl 当り2,000〜3,000Bcq の濃度で加えた(切片当り約15fmolに相当)。カバースリップを取り外し、まず室温で2×標準生理食塩水クエン酸(SSC)溶液(3M NaCl/0.3M クエン酸ナトリウム)ですすぎ(5分間2回)後、切片を、2×SSC/50%ホルムアミド中42℃で15分間4回洗浄し、次いで1×SSC中、室温で30分間2回洗浄した。すべての洗浄溶液に1mMジチオトレイトールを加えた。氷冷蒸留水ですすぎ、乾燥させたのち、10〜20日間、Hyperfilm βmax (Amersham)に暴露し、次いで1〜2か月間、写真乳剤(NTB2、Kodak)に暴露した。
【0054】
組織調製物の解析。種々のmRNAの標識パターンの解析を、フィルムオートラジオグラム及びエマルジョンオートラジオグラムの両者で実施した。トルイジンブルーを用いて全胚の連続切片を対染色したのち、解剖学的構造の同定を実施した。脳における解剖学的面積及び末梢神経系(PNS)構造の認識の定義は、The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates(Paxinos and Watson, 1986)、The Atlas of Developing Rat Brain (Paxinos et al., 1991)、The Atlas of Mouse Development(Kaufman, 1992)及びThe Atlas of the Prenatal Mouse Brain(Schambra et al., 1992)を含む異なるアトラスを基に実施した。脳神経節の発達に関しては、Altman and Bayerの図版及び記載(1982)を参照した。いくつかの中枢及び末梢構造(例えば、脳神経運動核、自律運動節)の同定を確認するために、コリンアセチルトランスフェラーゼのin situ をいくつかの切片に対して実施した。
【0055】
2人の実験者の主観的評価に基づき、1+(低い強度)〜3+(高い強度)のスコアを、解剖学的構造の標識に割り当てた。20×冷プローブで置換したのちの、高い細胞充実性をもつ非神経性組織(肝及び筋など)若しくは高い細胞外マトリックスの密度を持つ非神経性組織(軟骨など)中の粒子の密度、又は神経構造上の標識の密度を、バックグラウンド標識と考慮した。細胞レベルでカウントする粒子が存在しないとき、慎重にスコアを評価しなければならない。例えば、発現する構造の標識強度の低下は、陰性細胞の増殖又はニューロンプロセスの形成によって生じる構造中の陽性細胞の分散によるものかもしれない。オリゴヌクレオチドは同じ長さを有し、同じプロトコルにしたがって標識したが、信号強度又は異なるトランスクリプトを比較することは試みなかった。別段指定しない限り、図に示す標識は、オリゴヌクレオチドNo.31(α3)、47(α4)、51(α2)及び62(α4)を使用して得たものである(オリゴヌクレオチド特性については表2及び表3を参照)。
【0056】
特異性のコントロール。mRNAごとに、配列の唯一部分(例えば、nAChRサブユニットの場合、M3とM4との間の想像上の細胞質ループ)にある2〜4個のオリゴヌクレオチドを選択した。特異性の初期評価は、Genbank /EMBL中の他の既知の配列との可能な相同性を探索することによって実施した。特異性の組織学的試験には、以下を考慮した。1.mRNAごとに2個以上のオリゴヌクレオチドプローブが、同じパターンを示す(図1)。2.成体ラットの中枢構造の標識のパターンが、他の著者たちによって確認されたもの(Wada et al., 1989; Dineley-Miller and Patrick, 1992)と一致している。3.使用した大部分のオリゴヌクレオチドが、同様なGC含量をもつ45量体である(表2及び表3)とすると、各オリゴヌクレオチドプローブが他のプローブの特異性のコントロールを構成している。4.混合物への20倍過剰の冷プローブの添加により、標識が完全に消滅した(図2)。
【0057】
使用したオリゴヌクレオチドプローブは、規準2を満たすことができなかったα3 mRNAに対する4個のプローブを除き、すべてがこれらの規準を満たすものであった。cRNAプローブに基づく以前の研究は、成体ラットにおけるこのサブユニットmRNAの比較的広い分布を示し、顕著には、大脳皮質層IV、内鼻皮質層II、前側及び腹側視床核、内側及び側方顔面神経膝核、内側手綱、後側視床下部並びに乳頭土核、松果体、V及びVII 神経の運動核、青斑、疑核及び最後野において高いレベルを示した(Wada et al., 1989)。これらの観察結果の相違に関し、成体ラット中、内側手綱、松果体の中間部、最後野、V神経の運動核及び小脳においてのみ高レベルのα3 mRNA信号を検出することができ、いくつか視床核及び青斑においてはレベルは低かった。この矛盾の一部は、リボプローブに比べて低いオリゴヌクレオチドプローブの感度の低さに帰すことができる。しかし、特にプローブの加水分解を組織学的手法(Wada et al., 1989)で実施する場合に、cRNAプローブの特異的コントロールを実施する難点を考慮すると、以前にα3 mRNAに帰属していたいくらかの標識が、から他の(nAChR関連)RNA配列に実際に誘導することが可能である。
【0058】
オリゴヌクレオチド:β2 :5'-TCG CAT GTG GTC CGC AAT GAA GCG TAC GCC ATC CAC TGC TTC CCG-3' ;α4 :5'-CCT TCT CAA CCT CTG ATG TCT TCA AGT CAG GGA CCT CAA GGG GGG-3'; β4:5'-ACC AGG CTG ACT TCA AGA CCG GGA CGC TTC ATG AAG AGG AAG GTG-3' 。B:Clarke et al.による記載30にしたがって、 3H−ニコチン結合を実施した。14μm の冠状切片を、50mMトリス(pH7.4)/8mM CaCl2 /4nM 3H−Lニコチン中、室温で30分間インキュベートした。L−ニコチンビタルトレートの存在下において非特異的結合を評価した。インキュベーションに続き、切片を氷冷PBSで2分間ずつ2回すすぎ、氷冷水ですばやくすすいだ。スライドをHyperfilm 3Hに60日間暴露した。
【0059】
図11及び12は、β2 +/+マウス及び−/−マウスのMHb及び前側視床におけるニコチン誘発電流のパッチクランプ記録である。図11は、野生型マウス及びβ2 −/−マウスのMHb及び前側視床における細胞からの記録を表わす。アゴニストのオフレートは、MHbにおけるほうが前側視床におけるよりも有意に大きく、その結果、二つの構造の間で異なる応答速度をもたらしている。MHbのニコチンアゴニストは、β2 −/−動物中には維持されたが、β2 −/−マウスにおいては、前側視床のニコチンアゴニストに対する応答は完全に廃されている。図12は、β2 +/+マウス及び−/−マウスの種々の核におけるニコチンアゴニストに対する応答を示す。
【0060】
方法。氷冷ACSF媒体(125mM NaCl/26mM NaHCO3 /25mM グルコース/1.25mM NaH2 PO4 /2.5mM KCl/2mM CaCl2 /1mM MgCl2 、pH7.3)中、Dosakaスライサーを使用して、8〜12日齢のマウスの視床から冠状のスライスを得た。スライスをこの同じ媒体中に1〜8時間維持した。Zeiss 顕微鏡を通してスライス中の細胞を視覚化した。150mM CsCl/10mM EGTA/10mM HEPES/4mM 二ナトリウムATP/4mM MgCl2 をKOHでpH7.3に調節したものを含む2〜4MOhm硬質ガラスピペットを用いて全細胞記録を得た。スライスの上方に配した直径50μM のピペットを介して、重力により、150mM NaCl/10mM HEPES/2.5mM KCl/2mM CaCl2 /1mM MgCl2 を含む溶液を5〜10秒のパルスで細胞に適用した。記録は、CNQX(5μM)及びGABAアンタゴニストSR−95531(10μM)の存在下において実施した。電流は、Axopatch ID (Axon Instrument)パッチ増幅器によって記録し、Compaqパーソナルコンンピューターでデジタル化し、PClampプログラム(Axon Instrument)によって更に解析した。
【0061】
図13及び14は、受動忌避試験におけるβ2 −/−マウス及びそれらの野生型同胞種の能力を示す。図13は、訓練後に賦形剤又はニコチン(10μ/kg)のいずれかを注射したのちの、保持試験における種々のレベルの足への衝撃に対する応答を示す。訓練試行中の平均ステップスルー潜時は、突然変異マウスの場合には17.0±3.6秒であり、それらの非突然変異同胞種の場合には15.0±3.5秒であった。図14は、賦形剤又はニコチン(10μg/kg)のいずれかを注射された野生型マウスとホモ接合体β2 突然変異マウスとの間の、2.00mAmpの強度の電流衝撃を足に印加した場合の保持潜時の差を示す棒グラフである。データは、以下の分類、すなわち、野生型+賦形剤(n=27);野生型+ニコチン(n=23);β2 −突然変異マウス+賦形剤(n=17);β2 −突然変異マウス+ニコチン(n=17)の平均+/−SEMとして表わす。統計的解析は、相違の混合因数解析を使用し、続いて単純効果の事後試験を行うことによって実施した。#、p<0.05、賦形剤注射後の野生型対突然変異マウス;*、p<0.01、野生型マウスにおけるニコチン対賦形剤。
【0062】
方法。本文に記載のように、Nordberg及びBergh の方法20並びにFaiman et al. の方法20にしたがって、受動忌避試験を実施した。ニコチンを(ビタルトレート、Sigma)0新たにPBSに溶解した。訓練試行中、同量の賦形剤又はニコチンのいずれかを腹腔内注射したのち、ただちに足に電気衝撃を印加した。
【0063】
図15は、β2 −サブユニット遺伝子及びプロモーターの全部又は一部を含むファージ及びプラスミドの図である。プラスミドの名称においては、数字が断片の大きさを表わし、文字が、それを生成するのに使用した制限部位を表わす。
【実施例】
【0064】
以下の記載及び実施例は、本発明の実施態様及び範囲を例示するものである。本発明は、この記載の範囲に限定されるものではない。更にこの記載及び本明細書の付随する各節及び参考として包含されている資料は、クレームの全ての実施を可能にするものである。
【0065】
以下の例及び実施態様は、当然のことながら、当該業界において公知の技術によって修正することができる。記載又は請求されている核酸配列の変動は、本発明者らが示した効果又は利点を変えることなく、公知の方法によって生み出すことができる。したがって、かかる変動は、当記載及び本発明の範囲に含まれる。
【0066】
材料と方法
ゲノムクローンの分離
全ラットcDNA(カリフォルニア州サンディエゴのThe Salk InstituteのJ. Boulter博士及びS. Heinemann博士から提供された)を含むPCX49プラスミド(Deneris et al., 1988)を、EcoRIで切断し、2.2kbまでの(〜2.2kb)断片を単離し、マウスDBA2ゲノムDNAのEMBL3バクテリオファージライブラリをスクリーニングするためのプローブとしてこれを使用した。最初のエキソンから15kbまで(〜15kb)上流のDNA及び5kbまで(〜5kb)下流のDNAに広がる1つの独特のクローンを得た。図1は、イニシエーターATGから1.2kb上流のヌクレオチド配列を示す。
【0067】
ハイブリダイゼーションの条件は、このプローブのための緊縮条件を決定するために、公知の技術29により修正することができる。β2 −サブユニット配列に対するハイブリダイゼーションを可能にする充分に緊縮な条件を開発するために、温度(約45℃〜約65℃)及びSSC緩衝液濃度(約0.1×SSC〜約6×SSC)などのハイブリダイゼーション条件の変更、並びに洗浄条件の温度及びそのための緩衝液の変更を行うことが可能である。したがって、このハイブリダイゼーション手順に基づき、その他のライブラリから、その他の関連する配列を単離することができる。45℃及び6×SSCなどのハイブリダイゼーション条件を使用することによって、ヒト配列が分離されよう。
【0068】
1994年12月13日に、パスツール研究所国立微生物培養収集所(CNCM)(25, Rue du Docteur Roux, 75724 PARIS CEDEX 15,フランス)において、3件の寄託が行われた。ファージ、λβ2 nAChRは、受入れ番号I−1503として寄託されている。このファージは、マウスのニューロンnAChRのβ2 −サブユニットのエキソン全てをコードする配列及びプロモーター配列を含む15〜20kbのゲノムDNAを含んでいる。プラスミドを有する2つのE. coli 培養物も同様に寄託された。E. coli DH5α内のプラスミドpSA9は、受託番号I−1501が付与されており、β2 −サブユニットのエキソン1、2及び3についてコードする領域及び調節配列を含むマウスゲノムDNA9kbを含む。E. coli DH5α内のプラスミドpEA5は、受託番号I−1502が付与されており、Eco47−III 部位の約1.2kb上流の領域及びβ2 −サブユニットのエキソン1〜5をコードする領域を含むマウスゲノムDNA5kbを含む。本発明者らは、EMBL、GenBank 及びDDBJヌクレオチド配列データベースに、受託番号X82655として、ここに報告するヌクレオチド配列データを寄託するつもりである。
【0069】
転写開始部位のマッピング
mRNAのマッピングのために、我々は、E13期又はE15期のDBA2胚から抽出した全RNAの異なるバッチを使用した。DNA汚染を避けるため、RNA試料をまずDNアーゼIで消化させた。
RNアーゼ保護。Bluescript SK (Stratagene)中に、イントロン1の一部を含むXbaI/PstI断片を挿入した。その後プラスミドを、Bg1IIで線形化させ、T7プロモーターを用いてRNAプローブを合成した。その後、Ausbel et al. (1994)に記載されているように、保護実験を行った。
【0070】
RACE−PCR(Frohman et al., 1988)
mRNAを、80℃で5分間、プライマー10pmolを用いて、ハイブリダイズした。供給業者が推奨する緩衝液中、37℃で45分間、MMLV400u(Gibco)を用いてcDNAの合成を行った。フェノール/クロロホルム抽出の後、cDNAをエタノール沈降させた。37℃で30分間、0.2M のカコジル酸カリウム;25mMのトリス−HClpH6.6;25mg/ml のBSA;1.5mMのCoCl2 ;50nMのdATP及び50uのターミナルトランスフェラーゼ(Boehringer)中、ターミナルトランスフェラーゼ反応を行った。フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈降の後、Promega のTaqDNAポリメラーゼを用いて、ターミナルトランスフェラーゼ反応の10分の1を増幅させた(94℃;55℃;72℃で1分、30サイクル)。増幅させた断片を次にアガロースゲル上に配置した。ゲルをブロッティングし、オリゴヌクレオチドp2 にハイブリダイズした。我々は、脳からのmRNAをマッピングするため、cDNA合成用のプライマとしてpEx2を、そしてPCRのためにp0/BEpTを用いた。トランスフェクションを行った細胞からmRNAをマッピングするには、OLUCI3(cDNAの合成)及びOLUC12/BEpT(PCR)を用いた。
【0071】
SLIC(Dumas Milnes Edwards et al., 1991)
42℃で45分間、50mMのトリス−HClpH8.3;8mMのKCl;1.6mMのMgCl2 ;5mMのスペルミジン;0.5mMのdNTP;1u/μl のRNasin;0.1mg/ml のBSA;70mMのβ−メルカプトエタノール;80uのAMV逆転写酵素(Promega)中、プライマーとしてpEx3(6pmol) を用いて、5μg の全RNAから、まずcDNAを合成した。その後、NaOH中でRNAを分解させた。次にcDNAの第1のストランドを、オリゴヌクレオチドA5’と連結させた。得られた一本鎖cDNAを、次に、オリゴヌクレオチドA5’−1/p0及びA5’−2/p1での2回のPCR増幅に付した(94℃で1分;60℃で30秒;72℃で45秒で35サイクル)。
【0072】
オリゴヌクレオチド配列は以下のとおりであった。
A5’:5'-CTGCATCTATCTAATGCTCCTCTCGCTACCTGCTCACTCTGCGTGACATC
A5’−1:5'-GATGTCACGCAGAGTGAGCAGGTAG
A5’−2:5'-AGAGTGAGCAGGTAGCGAGAGGAG
p0:5'-CCAAAGCTGAACAGCAGCGCCATAG
p1:5'-AGCAGCGCCATAGAGTTGGAGCACC
p2:5'-AGGCGGCTGCGCGGCTTCAGCACCACGGAC
pEx2:5'-GCCGCTCCTCTGTGTCAGTACCCAAAACCC
pEx3:5'-ACATTGGTGGTCATGATCTG
BEpT:5-GCGGGATCCGAATTC(T)21 A/C/G
OLUCI3:5'-CGAAGTATTCCGCGTACGTGATG
OLUCI2:5'-ACCAGGGCGTATCTCTTCATAGC
【0073】
プラスミドの構築
KS−Lusi:Bluescript KSの対応する部位において、pSVOALプラスミドのHindIII /KpnI制限断片(de Wet et al., 1987)をサブクローニングした。その後、ルシフェラーゼ遺伝子の最も5’のEcoRI/BsmI(45bp)断片を(de Wet et al., 1987)にしたがって、欠失させ、SalI部位で置換した。ひき続き、ポリアデニル化部位を含むSV40の342bpのPvuII/HindIII 制限断片を、アダプタを用いて、EagI部位にサブクローニングした。
【0074】
EE1.2−Luci:λβ2 ファージの1.2kbp のEcoRI/Eco47II断片を、アダプタを用いて、KS−LuciのEagI/SaII部位に挿入した。「分子生物学における現行のプロトコル」(Ausubil et al., 1994)におけるように、Bal3.1エキソヌクレアーゼを用いて、プロモーターの5’末端欠失を得た。
【0075】
Sculptorキット(Amersham)を用いて、突然変異を導入した。NRSE/RE1配列中、突然変異を受けた配列は、この突然変異がNRSE要素の活性を低下させることが示されたため(Morl et al., 1992)、ACCACGGACAではなく、+24ACCACTTACAであった。E−ボックス配列中では、突然変異を受けた配列はTCCACTTGではなく、−120TCCTCAGGであった。図7は、核タンパク質が、野生型配列に結合することができるが、突然変異を受けた配列には結合できないことを示している。
【0076】
細胞のトランスフェクション
1%のグルタミン及び1%のストレプトマイシンを補給したDMEM+10%FCS中、神経芽細胞種N1E115、ヒトSK−N−Be、HeLa及び3T6線維芽細胞、293ヒト腎細胞及びSVLT線条体細胞(Evrard et al., 1990)を成長させた。1%のグルタミン及び1%のストレプトマイシンを補給したDMEM+10%のHS+5%のFCS中、PC12細胞を成長させた。
【0077】
60mm2 プレート当り105 〜4×105 個の細胞の割合で、細胞を播種した。翌日、150mMのNaCl中、2.5μl のTransfectam(IBF/Sepracor)と混合した1μg のDNAを用いて、750μl のDMEM+2%ペニシリン/ストレプトマイシン中、5〜12時間、細胞をトランスフェクションした。48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。Qiagen又はWizard prep(Promega)キットを用いて、DNAを調製した。プラスミド活性を比較する際には、全てのプラスミドを同じ日に調製した。各々のプラスミドについて少なくとも2つの異なるDNA調製物を試験した。全てのトランスフェクションを、二重に実施し、少なくとも3回繰り返した。
【0078】
トランスジェニックマウスの産生
EE1.2−Luci由来のルシフェラーゼ遺伝子を切除し、nlsLacZ遺伝子で置換した(Kalderon et al., 1984)。TAEアガロースゲルからβ2 −プロモーター/nlsLacZ断片を電気溶出し、次にエタノール沈降によって更に精製し、最後にトリス−HCl10mM pH7.5;EDTA0.1mM中で再懸濁させた。DNA溶液(3ng/ml)を、C57BL6×SJLハイブリッドの受精卵母細胞内に注入した。組織の染色を、Mercer et al., 1991 に記載されているとおりに行った。
図8の方法も参照のこと。
【0079】
ゲルシフト検定
「分子生物学における現行のプロトコル」におけるように、α〔32P〕CTP及びKlenow酵素又はγ〔32P〕ATP及びT4ポリヌクレオチドキナーゼのいずれかを用いて、オリゴヌクレオチドを標識した。核抽出物を、記載のとおり(Bessis et al., 1993)、107 (〜107 )個までの細胞から調製した。結合のためには、1nmolの標識されたオリゴヌクレオチドを、20μl 中10mMのHepes pH8、10%のグリセロール、0.1mMのEDTA、0.1M のNaCl、2mMのDTT、0.1mg/ml のBSA、4mMのMgCl2 、4mMのスペルミジン、1mMのPMSF、1μg のpolydIdC中、0.5μg のタンパク質抽出物と混合した。氷上で10分間反応物をインキュベートした。その後、DNA−タンパク質複合体を、7%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。
【0080】
本実験に用いたオリゴヌクレオチドは、以下の配列を伴う二本鎖のものであった(下線のあるヌクレオチドは、突然変異を受けたオリゴヌクレオチドと野生型オリゴヌクレオチドの間で変更されたものである)。
E−D:5'-TCCTCCCCTAGTAGTTCCACTTGTGTTCCCTAG
Mut−E:5'-CCTCCCCTAGTAGTTCCTCAGGTGTTCCCTAGA
S−E:5'-CTAGCTCCGGGGCGGAGACTCCTCCCCTAGTAGTTCCACTTGTGTTCCCTAG
【0081】
結果
β2 −サブユニットをコードする遺伝子の5’フランキング配列の特徴づけ
β2 −サブユニットをコードする遺伝子を含むλファージをクローニングし、イニシエーターATGを取り囲む領域を配列決定した(図1)。転写開始部位を、まず最初にRNアーゼ保護によりマッピングした(図2のa)。この方法により我々は、少なくとも3つの開始部位を検出することができた。しかしながら、これらの実験では、わずかな付加的開始部位は検出されなかった可能性がある。主要な保護バンドのサイズは、約150ヌクレオチドと見積られた。開始部位をより精確に確認し、位置設定するため、我々は、プライマー伸長生成物の増幅(図2のb)から成るRACE−PCR(cDNA末端の急速増幅;Prohman et al., 1988) 及びSLIC(cDNAの一本鎖連結;Dumas Milnes Edwards et al., 1991)の両方を実施した。両方の技術により、我々が図1に記載した4つの開始部位に対応する同じ断片をサブクローニングし、配列決定することが可能であった。−13の開始部位はきわめて稀であり、RNアーゼマッピングにより検出されなかったのであろう。
【0082】
フランキング領域(図1)の配列の分析により、いくつかのコンセンサスDNA結合要素が明らかになった:すなわち、Sp1部位(−146)、cAMP応答性要素結合(CREB)部位(−287;Sassone-Corsi, 1998)、核受容体応答要素(−344〜−356:Parker, 1993)、GATA−3部位(−1073;Ko and Engel, 1993) 、及び弱縮重オクタマー(八量体)モチーフ(−522)。更に、2回回転軸対称要素内に含まれているE−ボックス(−118)を認識することができた。近位領域(−245〜+82)は同様に、ある程度の調節上の意義をもちうる異常に高いGC含有量(67%)及び多数のジヌクレオチドCpGを有している(Antequera and Bird, 1993)。最終的に、NRSE(神経制限性サイレンサー要素;Mori et al., 1992)又はRE1(制限要素;Kraner et al,, 1992)配列と同一の20bpの配列が、1.2kbp 断片の3’末端に発見された(+18〜+38)。
【0083】
β2 −サブユニット遺伝子のフランキング配列の1.2kbp の断片がin vitroでのニューロン特異的発現を促進する。
ルシフェラーゼ遺伝子に融合されたβ2 −サブユニット5’フランキング領域の1163bpのEcoRI/Eco47III 断片(−1125〜+38)を含む構築物を生成した(de Wet et al., 1987) (プラスミドEE1.2−Luci)。読み過しを避けるため、β2 −サブユニット配列から上流に、SV40のポリアデニル化部位を挿入した。次に、褐色細胞腫(PC12)細胞、神経芽腫セルラインNIE115及びSK−N−Be、SVLT、線条体セルライン(Evrard et al., 1990) 、NIH3T6又はHeLa線維芽細胞及びヒト腎セルライン293の中への一時的トランスフェクションにより、プラスミドEE1.2−Luciの転写活性を試験した。RT−PCRを用いて、我々は、神経芽腫及びPC12細胞は、正常に、β2 −サブユニットmRNAを発現するが、線条体SVLTセルライン又は3T6線維芽細胞はこれを発現しないことを確認した。図3は、PC12細胞及び神経芽腫において、1.2kbp の断片が、その他のセルラインにおけるよりもレポーター遺伝子の転写を媒介する上で、20〜180倍の活性を示すことを示している。線維芽細胞、293細胞及びSVLT細胞においては、1.2kbp 断片の転写活性は、プロモーター無しのベクターのそれと比べて、著しく高いものではない(図3)。したがって、β2 −サブユニットプロモーターは、これらのセルラインでは活性ではない。これらのin vitroにおけるトランスフェクション実験は、1163bp断片が、内因性β2 −サブユニット遺伝子の発現パターンを模擬し、かくして細胞特異的プロモーターを含むことを証明している。
【0084】
トランスジェニックマウスにおける1163bpプロモーター
In vivo で1163bpプロモーターを試験するために、EcoRI/Eco47III 断片を、nls−β−ガラクトシダーゼリポーター遺伝子(Kalderon et al., 1984) から上流に連鎖させた。SV40からのポリアデニル化シグナルを、コーディング配列の下流に連結した。その後、得られた4.7kbの断片を、F1ハイブリッドマウス(C57B16×SJL)からの受精卵の雄前核内にマイクロインジェクションした。子孫の尾から抽出したDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、β−ガラクトシダーゼ遺伝子の有無について分析した。3つの独立したファウンダー(founder)を得、発現についてこれを分析した。
【0085】
2つのライン(13及び16)が、ニューロン内で発現を有し、3番目のラインは、全く発現しなかった。これは、1163bpのプロモーターが、in vivo でのニューロン特異的発現を駆動するのに充分な調節要素を含んでいることを示している。末梢神経系PNSでは、両方のラインとも同じ構造にて発現した。これとは対照的に、CNSでは、ライン26の標識パターンは、ライン13のそれのサブセットである。ここではライン13だけを詳細に記述する。予想されたとおり、大部分の末梢β2 −発現神経節が、β−ガラクトシダーゼ(β−gal)を発現し、一方CNSでは、β2 −陽性領域のサブセットのみが、β−galを発現した。例えば、図4のcは、腰仙脊髄のニューロンの大部分が、β2 −サブユニットのトランスクリプトを発現し、一方、前角及び背角内のニューロンのサブユニットのみが、β−gal活性を呈することを示している。
【0086】
導入遺伝子の発現は、E10.5及びE11胚の末梢神経節に検出することができた。E13全胚(図4のa)及び更に加齢した脳(E17、PO及び成人期)の中で、標識を検査した。E13において、標識は、PNS内で顕著であった:すなわち、背根神経節(DRG、図4及び5のc、d;脳神経と関連したいくつかの神経節(三叉神経節、図5のa参照、膝神経節、舌咽神経節及び迷走神経節);交感神経鎖の神経節(図5のc、d);網膜の神経節細胞(図5のa)及び心壁中の推定上の副交感神経節(図5のb)で、標識が強力に観察された。E13では、脳幹及び前脳の両者において、いくつかの脳脊髄幹レベルでも、陽性細胞クラスターが存在していた。染色したニューロンのクラスターは、腹面及び側面脊髄にも観察された。
【0087】
発達の更に後期(E17)において、陽性ニューロンが、いくつかの基底終脳核中にクラスター化して発見されたが、一方尾状−果核の中では、分散した細胞が染色された。間脳レベルでは、不確帯及び網様視床核、並びに多数の視床下部核に、陽性クラスターが存在していた。脳幹内では、脳神経の大部分の運動核(迷走神経の背面運動核を除く)が、ある程度から高いものに至るまでの標識を示した。更に、V中脳核の分散した細胞は、橋核、前置舌下神経核及びいくつかの橋中脳被蓋内の分散した細胞と同様、高度に染色されたと思われた。
【0088】
ライン13内のPOでは、陽性細胞の分布は、既に、それ以前の年令におけるよりも更に制限されているように思われた(例えば、基底終脳及び動眼神経核内の標識は、明らかに減少していた)。成体動物のCNS内では、標識された細胞は、視床下部内でのみ検出された。ライン13では、細胞のいくつかのクラスターが、胃腸管(胃及び十二指腸)の粘膜及び膵で染色された。ライン13の性器結節及びいくつかの表在筋に、異所性標識が検出されたが、これらの組織のいずれも、ライン26では染色されなかった。
【0089】
最小細胞特異的プロモーターの認識
プロモーター活性に関与する調節要素をより詳しく調査するため、我々は、1163bpプロモーターの5’欠失を含む一連のプロモーターを生成した。これらのプラスミドは、線維芽細胞及びSK−N−Be細胞内への一時的トランスフェクションによって試験した。これら2つのセルラインは、最も容易にトランスフェクションされたセルラインであったために選ばれたものである。更に、神経芽腫のラインは、最初末梢構造から分離され(Biedler et al., 1978)、1163bpプロモーターによって支持された調節要素を研究するための便利な手段となっている。
【0090】
157bpが、1163bpプロモーター(図1に示されているプラスミド1006E−Luci)の5’末端から欠失された時点では、神経芽腫ではルシフェラーゼ活性は、著しく変化しなかったが、線維芽細胞では増大した(図6)。301bpを更に欠失させた場合、残りのプロモーターの活性は、線維芽細胞内で増大し続けたが、神経芽腫内では増大し続けなかった(プラスミド862E−Luci、図6を参照)。したがって、157及び301bpの欠失したプラスミドは、線維芽細胞内でのみ活性であるリプレッサー要素を有する。しかしながら、トランケートされた862bpプロモーターは、なおもニューロン特異的活性を呈し(図6、両方のセルライン中の862E−Luciの活性を比較のこと)、このことは、1.2kbp プロモーターが、付加的な調節要素を有していることを示している。更に、−824と−245の間には、リプレッサーが存在し得た(神経芽腫内の862E及び283E−Luciの活性を比較のこと)。この推定上の調節要素を更には分析しなかった。実際、283bpプロモーター(プラスミド283E−Luci)は、なおも線維芽細胞よりも神経芽腫で、〜160倍もの活性を示し、プロモーターのこの近位部分内にもう1つのニューロン特異的調節要素が存在することが確認されている。
【0091】
近位の283bpプロモーターの5’末端から150bpを欠失させた場合、線維芽細胞と神経芽腫の両者において、転写活性が非常に低下しているのが検出された(プラスミド133E−Luciの活性を参照のこと)。このことは、すなわち、非常に重要な正の調節要素が欠失したことを示している。これらの正の及び負の要素については、更に、プロモーターの近位部分の欠失及び突然変異研究によって調査した。
【0092】
近位領域内の負及び正の調節要素
β2 −サブユニットプロモーターの3’末端は、推定上のタンパク質要素結合部位を含む。β2 −サブユニット遺伝子調節におけるこれらの要素の役割を分析するため、我々は、これらの結合部位に突然変異を含むプラスミドを生成した。欠失実験を用いて、−95と−245の間に、活性化物質を検出した(図3参照、283Eと133E−Luciの間の差)。nt−118に位置するE−ボックスが優れた候補であったことから、我々は、転写活性に対するこの要素におけける突然変異の効果を分析した。表3は、野生型プロモーターのそれと比べた場合の突然変異を受けたプロモーターの転写活性が40%低下していることを示している。非ニューロン組織中のE−ボックスの役割は、転写の基底レベルが、線維芽細胞中で、既に低いものであったために、更に評価が困難であった。
【0093】
プロモーターの調節におけるE−ボックスの役割を更に理解するため、我々はこの配列と相互作用することのできるタンパク質複合体について調査した。プローブとして33bp配列(nt−135〜−103、オリゴヌクレオチドE−D)を用いて、ゲルシフト測定を行った。神経芽腫又は線維芽細胞からの核抽出物を32−P標識オリゴヌクレオチドと混合したところ、3つの複合体が観察された(図7)。これは全て、過剰の標識オリゴヌクレオチドE−Dにより、完全に置換されていた。これとは対照的に、E−ボックス/2回回転軸内で競合的オリゴヌクレオチドを突然変異させたところ、いかなる競合も見られなかった(オリゴヌクレオチドMut.E、図7のレーン「Mut.E」を参照のこと)。このことは、E−ボックス/2回回転軸が、核タンパク質を結合することのできる−135/103配列内に含まれる唯一の要素であることを示している。この配列は、β−サブユニットプロモーターの活性に関与すると考えられる。
【0094】
近位領域内には、NRSE/RE1配列も存在しており、線維芽細胞内ではサイレンサーとして作用するが、PC12細胞又は神経芽腫内では作用しないことが示されている(Kraner et al., 1992; Li et al., 1993; Mori et al., 1992) 。1169bpプロモーターの存在下でのこの配列の点突然変異により、線維芽細胞内では転写活性が105倍に上昇したが、神経芽腫内ではわずか3倍に上昇したにすぎなかった(表3)。したがって、この配列は、β2 −サブユニット遺伝子の細胞特異的発現の少なくとも一部分を司る。
【0095】
トランスジェニックマウスにおける高親和性ニコチン受容体の除去により、忌避学習の変化が生じる
nAChRのβ2 −サブユニットを、胚の(ES)細胞の中で分断し、このサブユニットが欠如しているマウスをひきつづき発生させた(図8)。β2 −/−マウスは生存可能で正常に交尾し、明らかな肉体的欠損を示さなかった。脳の全体的サイズ及び組織は正常であった(例えば、図9及び図10を参照のこと)。抗−β2 モノクローナル27011(図8d)を用いた全脳ホモジネートのウエスタンブロット分析及びポリクローナル抗−β2 抗体9 を用いた脳全体を通しての免疫細胞化学反応は、コントロールのマウスにおいて検出された免疫反応性がβ2 −/−マウスには見られず、β+/−マウスでは低下していたことを証明した。β2 −アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたin situ のハイブリダイゼーションによって、β2 −/−マウス内でβ2 をコードするmRNAを検出することはできなかった。
【0096】
α4 −及びβ2 −サブユニットの分布は、脳の中で大幅に重複し、これらのサブユニットは、組み合わさってCNS12内で優性なnAChRイソ型タンパク質を形成すると考えられる。卵母細胞発現実験6 に基づくと、α4 −サブユニットと機能的ヘテロ五量体を形成することもできることがこれまでに確認されたのは、β4 −だけである。β4 −サブユニットは、内側手綱(MHb)及び脚間核(IPN)10 内での発現を伴って、β2 +/−マウス又はβ2 −/−マウスの脳の中で正常に発現され、β2 −サブユニットを置換するためのアップレギュレーションは脳のどこにも見られなかった(図9)。又、突然変異マウスにおいて、α4 −(図9)、α5 −又はβ3 −サブユニットのmRNAの発現が著しく変わることもなかった。
【0097】
平衡結合実験によると、ニコチンは、α4 −及びβ2 −サブユニット13-15 の分布と一致する分布をもつ高親和性部位(10nM13,14 に近いKD)の集団に結合することが示された。β2 +/+、+/−及び−/−マウスからの脳切片内の高親和性nAChRを視覚化するため、定量的受容体オートラジオグラフィを行った(図10)。
【0098】
In situ でのニコチン結合は、β2 −/−の動物においては完全に破壊され、β2 +/−の動物では全ての脳部域内で約50%低下し、この高親和性結合を媒介する上でのβ2 −サブユニットの関与を表わしている。
【0099】
トランスジェニックマウスの電気生理学
きわめて高いレベルのβ2 (及びα4 )サブユニットmRNA(図9)を発現する前部視床のニューロンを、ニコチンに対する電気生理学的応答について研究した。スライス作成に容易に利用できるこの部域は、1μM のジヒドロ−β−エリスロイジンによって遮断された155+/−73pAの平均内部電流で、野生型動物において、10μM のニコチンに対し一貫して応答した。応答のアゴニスト順位は、in vitro6 でのα4 /β2 −含有ニコチン性受容体について見られるものと匹敵するものであった(ニコチン>DMPP>シチジン)(図11)。前部視床ニューロンは、アゴニスト応答の完全な回復には、数分から1時間を必要とし、このことは、受容体応答が脱感作に陥りやすいことを示唆している。その上、再現可能な応答のためには、1μM という比較的高用量が必要とされ、これは、ニコチンがその高親和性部位に結合して活性化するのではないことを意味している。したがって、脱感作されたコンホーメーションにおいては、高親和性ニコチン結合部位は、nAChRであろう。
【0100】
β2 −/−マウスにおいては、ニコチンに対する前部視床ニューロンの応答は、試験したニューロンの100%において完全に破壊された(図12)。コントロールとして、α3 及びβ4 の両者ともが強く発現されているMHb内のニューロンも同様に試験した。ニコチンは、野生型マウスにおいて505+/−132pAの平均内側電流をひき起こし、この応答のアゴニスト潜在性は、α3 /β4 含有受容体についての階級(ランク)順に従っていた(シチシン=ニコチン>DMPP)(図11)。予想したとおり、ニコチンに対するMHb内の細胞の応答は、突然変異マウスにおいて維持された。
【0101】
β2 サブユニットは、野生型動物8-10の神経節内で発現されるが、心拍数又は基底体温には明らかな差異は全くなかった。高用量のニコチンに対して感受性を有し、かつnAChR16のβ2 /α4 イソ型タンパク質に対して選択的である薬物によって修正されない自発的歩行活動は、β2 −/−、β+/1、及びβ+/+マウスにおいて著しく異なっていなかった。
【0102】
認識及び行動に関する結果
2つの手順を用いて、突然変異体及び野生型マウスにおいて、学習及び記憶を試験した。モリスの水迷路17,18 は、空間的指向性学習を評価する。この試験での突然変異体マウスの能力は、可視プラットフォームタスク又は隠ぺいプラットフォームタスクで試験した場合に、野生型マウスの能力と異なっていなかった(5日間の訓練後に到達した最小水泳時間:突然変異体(n=8):7.4+/−1.4秒:野生型(n=8):8.2+/−2.0秒)。移行試験では、両者の動物群とも、同じプラットフォーム横断数で、約35%の時間をプラットフォーム四分円内で過ごした(突然変異体:4+/−0.4;野生型:3.9+/−0.6)。
【0103】
同じくニコチン投与に対するその薬理的感受性19,20 のため選択された、受動的忌避試験を用いて、阻害性忌避応答の保持を評価した。この試験は、マウスをシャトルボックスの充分に照明されたチャンバ内に入れるトレーニングトライアルからなり、隣接する暗いチャンバ内に入るまでの時間を測定した。暗いチャンバに入った時点で、穏やかな逃避不可能な衝撃を足に与え、賦形剤又はニコチン(10μg/kg)をマウスに注射した。24時間後に、暗いチャンバへ入るまでの時間を測定することによって、保持を評価した。明るいチャンバ内で過ごした時間(保持潜時)は、突然変異体及び野生型マウスの両者において、加えられた足部衝撃に比例して増大した。
【0104】
しかしながら、ニコチンによる処置は、野生型マウスにおいてのみ約80秒だけ上向きに曲線を移動させることによって、保持を一貫して促進した(p<0.01)(図13)。ニコチン投与は、突然変異マウスでは全く効力が無かった。興味深いことに、保持潜時は、突然変異体マウスについての方が、その非突然変異体で賦形剤注入された同胞よりも有意に高いものであった(p<0.05)(図14)。
【0105】
痛覚閾値が低下したか又は情動性が増大した動物においては、受動的忌避試験での保持の増加が観察できる。したがって、この実験に関与した全てのマウスについて、挙動試験を更に行った。突然変異体マウスは、足部衝撃に対する尻込み、発声又は跳躍応答について、その非突然変異体同胞との相異を示さなかった。15分間2コンパートメント式装置内での探査活動を測定することによって、情動性を試験した21,22 。暗いコンパートメント内で過ごした平均時間;暗いコンパートメント内での歩行活動及びコンパートメント間の移動は、突然変異体と野生型マウスの間で異なっていなかった。したがって、痛覚感受性の変化も情動性の変化も、受動的忌避試験において見られた保持潜時の差異を説明することができない。
【0106】
低用量のニコチン23又は特異的ニコチンアゴニスト16を用いた研究は、受動的忌避に対するニコチンの効果を、脳内の高親和性nAChRが媒介することを、示唆している。したがって、β2 −/−マウスには高親和性結合部位が欠如していることから、ニコチンが、この試験についてのβ2 −/−マウスの能力を変えることはできない。しかしながら、野生型マウスに比べての突然変異マウスの能力の向上は、かなり驚くべきものである。β2 −サブユニット突然変異の逆説的効果についてはいくつかの説明を提案することができる。1つの仮説は、ニコチン注入が、脱感作ひいてはnAChRの不活化の結果として受動的忌避についての野生型マウスの能力を向上させ、試験に対する能力の向上が導かれる、というものである。
【0107】
したがって、受容体の欠如したマウスの挙動は、受容体が脱感作されたマウス24の挙動を模擬していると考えられる。もう一つの可能性は、nAChRが少なくとも2つの経路に存在して、反応の効果と相互作用して、受動的忌避において測定された行動を起こさせるというものである。一つの経路がもう一つの経路に比べて、生理学的により活性であるならば、不活性経路は、野生型動物におけるニコチン注入により優先的に刺激され、一方より活性な経路は、β2 −遺伝子の不活化により優先的に影響されることになる。
【0108】
上述の実験は、β2 −サブユニットを含むnAChRが、特異的学習タスクという、受動的忌避に対するニコチンの効果を媒介することを証明している。これらのマウスは、CNSにおけるニコチンの薬理的効果を研究するためのモデルシステムを提供しており、ニコチン系の欠乏が関与する認知プロセス、ニコチン嗜癖、及び痴呆における高親和性nAChRの役割を解明する上で有用である。
【0109】
参考文献
以下の各参考文献は、参考のため、本明細書に、特に記載する。
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【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、β2 −サブユニット遺伝子のイニシエーターATGをとり囲む領域のヌクレオチド配列を示す。
【図2】図2は、β2 −サブユニットmRNAの5’末端のマッピングを示す。
【図3】図3は、in vitroでのβ2 −サブユニットプロモーターの細胞特異的発現を示す。
【図4】図4は、トランスジェニックマウスにおけるβ2 −サブユニットプロモーターの細胞特異的発現を示す。
【図5】図5は、トランスジェニックマウスにおけるβ−ガラクトシダーゼの発現を示す。
【図6】図6は、β−サブユニットプロモーターの5’末端欠失を含むルシフェラーゼ融合遺伝子の発現を示す。
【図7】図7は、ゲルシフト実験を示す。
【図8】図8は、ニューロンnAChRのβ2 −サブユニットをコードする遺伝子の分断を示す。
【図9】図9は、in situ におけるハイブリダイゼーション及びトリチウム化ニコチン結合を用いた、マウス脳におけるニューロンnAChRのマッピングを示す。
【図10】図10は、in situ におけるハイブリダイゼーション及びトリチウム化ニコチン結合を用いた、マウス脳におけるニューロンnAChRのマッピングを示す。
【図11】図11は、β2 +/+マウス及び−/−マウスのMHb及び前側視床におけるニコチン誘発電流のパッチクランプ記録を示す。
【図12】図12は、β2 +/+マウス及び−/−マウスのMHb及び前側視床におけるニコチン誘発電流のパッチクランプ記録を示す。
【図13】図13は、受動忌避試験におけるβ2 −/−マウス及びそれらの野生型同胞種の能力を示す。
【図14】図14は、受動忌避試験におけるβ2 −/−マウス及びそれらの野生型同胞種の能力を示す。
【図15】図15は、β2 −サブユニット遺伝子及びプロモーターの全部又は一部を含むファージ及びプラスミドを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1
【表1】


に示す配列及び緊縮条件下にDNAにハイブリダイズする配列から実質的になる、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2 −サブユニットのプロモーターを含む単離されたDNA。
【請求項2】
タンパク質、ポリペプチド又はペプチドをコードするヌクレオチド配列に作用的に連鎖した請求項1記載のDNAを含む単離されたDNA。
【請求項3】
タンパク質、ポリペプチド又はペプチドが、レポーター遺伝子である請求項2記載の単離されたDNA。
【請求項4】
レポーター遺伝子が、LacZ又はルシフェラーゼである請求項3記載の単離されたDNA。
【請求項5】
請求項1又は2のヌクレオチド配列並びに緊縮条件下に核酸にハイブリダイズする配列に対して相補的な単離された核酸。
【請求項6】
請求項1の表1の約−245〜約−95の配列から実質的になる、プロモーターとして作用する単離されたDNA。
【請求項7】
配列が、請求項1の表1の約−245〜約−824の配列である請求項6記載の単離されたDNA。
【請求項8】
配列が、請求項1の表1の約−135〜約−103の配列である請求項6記載の単離されたDNA。
【請求項9】
配列が、請求項1の表1の約+16〜約+36の配列である請求項6記載の単離されたDNA。
【請求項10】
配列が、請求項1の表1の約−1125〜約−825の配列である請求項6記載の単離されたDNA。
【請求項11】
請求項1記載のヌクレオチド配列を含む組換えベクター。
【請求項12】
請求項2のヌクレオチド配列を含む組換えベクター。
【請求項13】
請求項9又は10記載のベクターを含む形質転換有機体。
【請求項14】
腫瘍形成性、腫瘍発生性又は不死化性の遺伝子に作用的に連鎖した請求項1のDNAを含む配列を有する単離されたDNA。
【請求項15】
すべての生殖細胞及び体細胞が請求項2記載のDNAを含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物であって、DNAがその哺乳動物又はその哺乳動物の祖先に胚段階で導入されている哺乳動物。
【請求項16】
請求項15記載の哺乳動物から細胞を単離する、哺乳動物細胞をin vitroにおいて培養する方法。
【請求項17】
マウスである請求項15記載の哺乳動物。
【請求項18】
哺乳動物がマウスである請求項16記載の方法。
【請求項19】
ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2 −サブユニットの少なくとも1個のエキソンをコードする、クローニングされたゲノムDNA配列。
【請求項20】
マウスニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2 −サブユニットのためのゲノムDNAクローンを単離する方法であって、マウスゲノムDNAライブラリを用意し、適当な条件下に、別の哺乳動物種から得たニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2 −サブユニットをコードするDNAプローブをハイブリダイズすることを含む方法。
【請求項21】
プラスミドpSA9。
【請求項22】
プラスミドpEA5。
【請求項23】
ファージλβ2 nAChR。
【請求項24】
請求項1又は19記載の配列から実質的になる核酸プローブ。
【請求項25】
請求項1又は19記載のDNA及びタンパク質を含む巨大分子複合体。
【請求項26】
転写的に活性なタンパク質を測定又は同定する方法であって、請求項1又は19記載のDNAを、核抽出物とともに、適当な条件下にインキュベートする方法。
【請求項27】
DNAが、オリゴヌクレオチドE−D、Mut−E又はS−Eの配列である請求項26記載の方法。
【請求項28】
非ヒト組織からニューロンを単離する方法であって、コードされたタンパク質がレポーター遺伝子であるところの請求項15記載のトランスジェニック哺乳動物を用意し、そのレポーター遺伝子を発現するニューロンを同定し、レポーター遺伝子を発現するニューロンを他の細胞から分離することを含む方法。
【請求項29】
非ヒトのトランスジェニック哺乳動物中のニューロンを標的にして所望のポリペプチド、タンパク質又はペプチド生成物を発現する方法であって、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2 −サブユニットの遺伝子を、相同組換えにより、哺乳動物のゲノム中の、DNA配列によってコードされている所望の生成物をコードするDNAで置き換えることを含む方法。
【請求項30】
DNAが点突然変異、欠失、挿入又は他の手段によって変異されたものであり、それにより、トランスジェニック哺乳動物の生化学的測定又は行動的測定により測定されるように、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体の活性が変化している請求項15記載の哺乳動物。
【請求項31】
請求項30記載の哺乳動物から産生されたセルライン。
【請求項32】
DNAが点突然変異、欠失、挿入又は他の手段によって変異されたものであり、それにより、トランスジェニック哺乳動物の生化学的測定又は行動的測定により測定されるように、該DNAから発現されたニューロンニコチン性アセチルコリン受容体のβ2 −サブユニットの活性が変化している請求項1又は19記載の組換えDNA。
【請求項33】
制限酵素又は機械的せん断によって請求項23のDNAを切断することによって得ることができる単離されたDNA断片。
【請求項34】
タンパク質、ポリペプチド又はペプチドをコードする非相同DNA配列に作用的に連鎖した請求項1のDNA又は請求項1のDNAの断片から実質的になるDNA。
【請求項35】
ニューロン細胞中の作用的に連鎖したDNA配列の転写を促進するのに十分な配列を含む請求項34記載のDNA。
【請求項36】
そのゲノム中に、請求項1〜10のいずれか1項記載のDNAに相当する異質のヌクレオチド配列を含むセルライン。
【請求項37】
ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体の活性を回復する、又は検出可能に生じさせる能力に関して化合物をスクリーニングする方法であって、請求項31又は36記載のセルラインに化合物を加えるか、又は、請求項30記載の哺乳動物中に化合物を導入することを含む方法。
【請求項38】
請求項1若しくは19のDNA又はそれから誘導されたDNAから本質的になる突然変異組換えDNAであって、β2 −サブユニット遺伝子又はその断片が、適当な発現系及びホストにおける効率的なニコチン性アセチルコリン受容体の発現を妨げるDNA。
【請求項39】
野生型又は突然変異DNAを有する第一の哺乳動物を用意し、該第一の動物を、異なる同一ではないDNAを有する第二の哺乳動物と交配させることによって発生させる請求項15記載のトランスジェニック哺乳動物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−99686(P2008−99686A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259536(P2007−259536)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【分割の表示】特願平7−326094の分割
【原出願日】平成7年12月14日(1995.12.14)
【出願人】(593218462)インスティチュート・パスツール (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】