説明

ニワトリLIFタンパク質およびその利用

【課題】 トランスジェニックニワトリを作出するために必須であるニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化阻害因子を供給すること。
【解決手段】 ニワトリLIFタンパク質を安定に発現する細胞株を取得して、当該タンパク質を首尾よく単離および精製し、さらに当該タンパク質を大量生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニワトリLIFタンパク質を恒常的に得るための原核生物株または真核生物細胞株、ならびに当該細胞株によって産生されるニワトリLIFタンパク質およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生物固有の遺伝子の機能解析は、特定の遺伝子が導入された動物、または特定の遺伝子がノックアウトされた動物を作出することによって、飛躍的に進歩した。このような動物、すなわち、トランスジェニック動物は、医学生物学だけでなく広範な研究領域において使用されており、各領域における研究開発に大きな進歩をもたらしている。
【0003】
ニワトリは、有用な産業動物であり、(1)飼育コストが低い、(2)産子数が多い、(3)卵生であるために胚操作が簡便である、などの理由によって、ウシ、ブタ、ヒツジに代わるトランスジェニック動物の有力な候補として注目されている。トランスジェニックニワトリの作出が可能になれば、有用物質を生産するために、トランスジェニックニワトリを動物工場として用いることができ、応用分野のさらなる広がりが期待できる。
【0004】
トランスジェニック動物の作出方法としては、受精卵に外来遺伝子を直接導入するトランスジェニック法、および、胚性幹細胞(ES細胞)を介する遺伝子導入法が挙げられる。ES細胞は、ジーンターゲッティング法によってゲノムの特定の位置に目的の遺伝子を導入したり、ノックアウトすることができることから、現在広く応用されている細胞である。ES細胞法は、内因性の遺伝子をターゲティングするための強力なツールとして使用されており、ES細胞法を用いて種々のテーゲティングマウスが作出されている。また、生殖系列によって高頻度に分化する胚性生殖細胞(EG細胞)法は、ES細胞法とともに有効な手段であると考えられている。
【0005】
ES細胞を用いる場合、遺伝子操作中に細胞分化を抑制することが重要である。ES細胞を培養する際、フィーダー(feeder)細胞を用いるか、または分化を抑制するための因子としてのLIF(白血病阻止因子(Leukemia Inhibitory Factor))を使用する必要がある。
【0006】
白血病阻害因子(LIF)は、IL−6ファミリーサイトカインの1つである。LIFは、マウス骨髄性白血病細胞株M1をマクロファージへと分化させる因子として同定された(例えば、非特許文献1を参照のこと)。しかし、現在では、マウスES細胞を未分化状態で維持するために必須のサイトカインであることが知られており(例えば、非特許文献2を参照のこと)、マウスES細胞培養の簡便化またはトランスジェニックマウスの作出において利用されている。また、E.coli発現系を用いて作製されたマウスまたはヒト由来のリコンビナントLIFタンパク質が市販されている。
【0007】
マウス以外では、メダカ、ウサギ、ブタ、サルおよびヒトのES細胞またはEG細胞がこれまでに単離されている。しかし、導入遺伝子を首尾よく生殖系へ導入し得るのはマウスおよびニワトリだけである。また、ニワトリではES細胞またはEG細胞を首尾よく培養することができず、細胞の安定な系が未だ確立されていない。これまで、マウスLIFリコンビナントタンパク質(rmLIF)またはヒトLIFリコンビナントタンパク質(rhLIF)を種々のサイトカインと組合わせて使用してニワトリのES細胞またはEG細胞の安定な細胞株を確立しようと試みられているが、未だ達成されていない。
【0008】
鳥類では、LIFだけでなく他のIL−6ファミリーサイトカインに関しても解析が進んでいない。IL−1、IL−2、IL−6、IL−8、IL−15、IL−16、IL−17およびIL−18の相同遺伝子がニワトリにおいて見出されているが、これらは哺乳動物におけるホモログとアミノ酸レベルで20〜40%程度の相同性しか有さない。また、哺乳動物由来のIL−1およびIL−2は、その固有の効果をニワトリ細胞に対して発揮することができない(例えば、非特許文献3および4を参照のこと)。
【0009】
ニワトリES細胞の培養系を確立することを目的として、本発明者らは、ニワトリのLIF遺伝子をクローニングし、原核生物宿主を用いて当該遺伝子がコードするタンパク質を組換え発現させた(例えば、特許文献1および非特許文献5を参照のこと)。
【0010】
具体的には、本発明者らは、LPSで刺激したニワトリ単球系白血病細胞株(IN24)を用いたサブトラクション法によって、ニワトリLIF遺伝子断片を得、この断片の塩基配列からRACE法によって完全長のニワトリLIF遺伝子をクローニングした。
【0011】
配列決定したニワトリLIF cDNAは789bpであり、推定211アミノ酸からなるLIFタンパク質をコードする。ニワトリLIFは、マウスLIFおよびヒトLIFと比較した場合、アミノ酸レベルでの相同性は39〜43%とかなり低いものであったが、6箇所のシステイン残基の位置は完全に保存されていた。また、種々のニワトリ細胞および組織におけるmRNAの発現解析の結果、ニワトリLIF遺伝子は、全ての細胞および組織において発現していた。
【0012】
また、種々のニワトリ細胞および組織におけるニワトリLIF遺伝子の発現を確認した。さらに大腸菌を用いて作製したニワトリLIFリコンビナントタンパク質が、ニワトリのES細胞またはEG細胞の分化を抑制することを確認した。
【特許文献1】特開2003−9869公報(平成15年1月14日公開)
【非特許文献1】Tomida,Mら、J.Biol.Chem.259,10978−10982(1984)
【非特許文献2】Smith A.ら、Nature,336,688−690(1988)
【非特許文献3】Klasing,K.C.ら、Dev.Comp.Immuno.11,385−394(1987)
【非特許文献4】Schauenstein,K.ら、Dev.Comp.Immuno.12,823−831(1988)
【非特許文献5】Horiuchiら、J.Biol.Chem.279(23),24514−24520(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまでマウスおよび/またはニワトリのES細胞の培養には、大腸菌発現系を用いた原核型rmLIFが利用されている。原核型rmLIFは比較的簡便に生産することができるので大量生産されているが、原核型rchLIFは、大腸菌発現系では封入体(インクルージョンボディー)を形成してしまうので、タンパク質の精製効率が非常に低く、大量生産することは非常に困難であった。すなわち、ニワトリLIFタンパク質を市場に供給するためには大量生産する必要があるが、大腸菌発現系ではそれが不可能であった。
【0014】
また、大腸菌によって大量生産を行った場合、LPSなどのエンドトキシンが混入する危険性が高いので、精製タンパク質の質に致命的な影響を与え、ニワトリLIFタンパク質を胚性幹細胞の培養液中に直接投与して作用させることができなくなる。そのため、大腸菌等の原核生物細胞を宿主細胞として産生させたタンパク質は、非常に厳密で高度な精製を必要とする。
【0015】
さらに、原核生物細胞を用いて組換え発現させたタンパク質(原核型のリコンビナントタンパク質)においては、翻訳後修飾が起こらない。また、原核型のタンパク質は、正確な立体構造をとらない場合が多い。そのため、翻訳後修飾を必要とする真核生物由来のタンパク質において、その生物活性が制限されていることが多い。また、ニワトリLIFタンパク質において、サイトカインとしての活性発現には糖鎖が重要であると考えられる。
【0016】
このように、ニワトリのES細胞またはEG細胞の培養系を確立するためには、市場に容易に供給することができる程度のrchLIFを得ること、および所望の生物活性を有するrchLIFを得ることが必要である。
【0017】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、正しい立体構造を取りかつ糖鎖付加型である真核型rchLIFを安定して取得すること、さらに、真核型rchLIFを用いてニワトリES細胞またはEG細胞の細胞株を確立し、トランスジェニックニワトリを作出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、公知の大腸菌発現系において独自の創意工夫を重ねることによって、真核型のニワトリLIFリコンビナントタンパク質(rchLIF)を取得することができ、よって本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明に係るポリペプチドは、胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号6に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列
からなり、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴としている。
【0020】
本発明に係るポリペプチドは、胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされ、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴としている。
【0021】
本発明に係るポリペプチドは、胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
によってコードされ、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴としている。
【0022】
本発明に係るポリペプチドは、胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされ、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴としている。
【0023】
本発明に係るポリペプチドは、糖鎖が付加されていることが好ましい。
【0024】
本発明に係るポリペプチドにおいて、上記糖鎖がハイマンノース型N結合、バイセクティングGlcNAc、シアル酸、またはβ結合ガラクトースであることが好ましい。
【0025】
本発明において、上記真核生物宿主がCHO−K7細胞またはCHCC−OU2細胞であることが好ましい。
【0026】
本発明に係るベクターは、上記のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
【0027】
本発明に係る細胞は、上記のポリペプチドを安定して産生することを特徴としている。
【0028】
本発明に係る馴化培地は、上記の細胞を培養することによって得られることを特徴としている。
【0029】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記の細胞を用いることを特徴としている。
【0030】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物は、上記のポリペプチドを含むことを特徴としている。
【0031】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物は、上記の細胞を含むことを特徴としている。
【0032】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物は、上記の馴化培地を含むことを特徴としている。
【0033】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養キットは、上記のポリペプチドを備えることを特徴としている。
【0034】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養キットは、上記の細胞を備えることを特徴としている。
【0035】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養キットは、上記の馴化培地を備えることを特徴としている。
【0036】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養方法は、上記のポリペプチドを用いることを特徴としている。
【0037】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養方法は、上記の細胞を用いることを特徴としている。
【0038】
本発明に係る胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養方法は、上記の馴化培地を用いることを特徴としている。
【0039】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出キットは、上記のポリペプチドを備えることを特徴としている。
【0040】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出キットは、上記の細胞を備えることを特徴としている。
【0041】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出キットは、上記の馴化培地を備えることを特徴としている。
【0042】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出方法は、上記のポリペプチドとともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含することを特徴としている。
【0043】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出方法は、上記の細胞とともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含することを特徴としている。
【0044】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出方法は、上記の馴化培地とともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含することを特徴としている。
【0045】
本発明に係る抗体は、上記のポリペプチドに特異的に結合することを特徴としている。
【0046】
本発明に係る抗体は、配列番号11〜13のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに結合することを特徴としている。
【発明の効果】
【0047】
本発明を用いれば、物理化学的に安定なニワトリLIFタンパク質を安定して供給することができる。また、本発明を用いれば、これまで困難であったニワトリの胚性幹細胞(ES細胞)または胚性生殖細胞(EG細胞)の未分化状態をより効率よく維持させて、安定な細胞株を樹立することができる。さらに本発明を用いれば、トランスジェニックニワトリを作出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
上述したように、本発明者らは、独自の創意工夫を重ねることによって、真核型のニワトリLIFリコンビナントタンパク質(rchLIF)を取得することができ、よって本発明を完成するに至った。
【0049】
以下、本発明に係るポリペプチド、およびその利用について詳述する。
【0050】
(1)ポリペプチド
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、組換え的に生成されてもよい。
【0051】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0052】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、および真核生物宿主(例えば、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0053】
1つの局面において、本発明は、LIF活性を有するポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される場合、「LIF活性」は、初期胚由来の細胞の未分化状態を維持する活性、特に、ES細胞またはEG細胞の分化を阻害する活性が意図される。本発明に係るポリペプチドは、特に、ニワトリのES細胞またはEG細胞の分化を阻害することが好ましい。マウスまたはヒト由来のLIFタンパク質は、ニワトリ胚由来の細胞に対して実用的なLIF活性を有さない。
【0054】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
【0055】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体でありかつLIF活性を有するポリペプチドが好ましい。
【0056】
本明細書中で使用される場合、「配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、配列番号1に示される塩基配列の75〜707位からなるポリヌクレオチドによってコードされ、シグナル配列(配列番号1に示される塩基配列の75位〜146位によってコードされる配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸1〜24位)を含む。LIF活性を有する成熟型のポリペプチドは、当該シグナル配列が切断された形態(配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)であるが、本明細書中で使用される場合、「配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」に包含される。
【0057】
このような変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0058】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0059】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチドのLIF活性を変化させない。
【0060】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0061】
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie, J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306−1310 (1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
【0062】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法(変異誘発法)に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望のLIF活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0063】
1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、LIF活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号6に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列
からなるポリペプチドであることが好ましい。このような変異ポリペプチドは、上述したように、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0064】
他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、LIF活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされることが好ましい。
【0065】
別の局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、LIF活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
によってコードされることが好ましい。
【0066】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0067】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような検出用プローブとしても有用である。
【0068】
さらに別の局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、LIF活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされることが好ましい。
【0069】
例えば、「本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの参照(QUERY)塩基配列に少なくとも95%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチド」によって、対象塩基配列が、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの参照塩基配列の100ヌクレオチチド(塩基)あたり5つまでの不一致(mismatch)を含み得ることを除いて、参照配列に同一である、ということが意図される。換言すれば、参照塩基配列に少なくとも95%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチドを得るために、参照配列における塩基の5%までが、欠失され得るかまたは別の塩基で置換され得るか、あるいは参照配列における全塩基の5%までの多くの塩基が、参照配列に挿入され得る。参照配列のこれらの不一致は、参照塩基配列の5’または3’末端位置または参照配列における塩基中で個々にかまたは参照配列内の1以上の隣接した群においてのいずれかで分散されて、これらの末端部分の間のどこでも起こり得る。この参照配列は、本明細書中で記載されるように、配列番号6に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、改変体、誘導体またはアナログであり得る。
【0070】
任意の特定の核酸分子が、例えば、配列番号1に示される塩基配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるか否かは、公知のコンピュータープログラム(例えば、Bestfit program(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,WI 53711)を使用して決定され得る。Bestfitは、SmithおよびWatermanの局所的相同性アルゴリズムを用いて、2つの配列間の最も良好な相同性セグメントを見出す(Advances in Applied Mathematics 2:482〜489(1981))。Bestfitまたは任意の他の配列整列プログラムを用いて、特定の配列が、本発明に従う参照配列に対して、例えば、95%同一であるか否かを決定する場合は、同一性のパーセントが参照塩基配列の全長にわたって計算され、そして参照配列におけるヌクレオチド数全体の5%までの相同性におけるギャップが許容されるように、パラメーターが設定される。
【0071】
特定の実施形態では、参照(QUERY)配列(本発明に係る配列)と対象配列との間の同一性(全体的な配列整列ともいわれる)は、Brutlagらのアルゴリズム(Comp.App.Biosci.6:237〜245(1990))に基づくFASTDBコンピュータープログラムを使用して決定される。%同一性を計算するために、DNA配列のFASTDB整列において使用される好ましいパラメーターは:Matrix=Unitary、k−tuple=4、Mismatch Penalty=1、Joining Penalty=30、Randomization Group Length=0、Cutoff Score=1、Gap Penalty=5、Gap Size Penalty=0.05、Window Size=500または対象塩基配列の長さ(どちらかより短い方)である。この実施形態に従って、対象配列が、5’または3’欠失に起因して(内部の欠失が理由ではなく)QUERY配列よりも短い場合、FASTDBプログラムが、同一性パーセントを算定する場合に、対象配列の5’短縮化および3’短縮化を考慮しないという事実を考慮して、手動の補正が結果に対してなされる。QUERY配列と比較して5’末端または3’末端が短縮化された対象配列については、同一性パーセントは、一致/整列していない、対象配列の5’および3’であるQUERY配列の塩基数を、QUERY配列の総塩基のパーセントとして計算することにより補正される。ヌクレオチドが一致/整列しているか否かの決定は、FASTDB配列整列の結果によって決定される。次いで、このパーセントが、指定されたパラメーターを使用する上記のFASTDBプログラムによって計算された同一性パーセントから差し引かれ、最終的な同一性パーセントスコアに到達する。この補正されたスコアが、本実施形態の目的で使用されるものである。QUERY配列と一致/整列していない対象配列の5’塩基および3’塩基の外側の塩基のみが、FASTDB整列に示されるように、同一性パーセントスコアを手動で調整する目的で計算される。例えば、90塩基の対象配列が、同一性パーセントを決定するために100塩基のQUERY配列と整列される。その欠失は、対象配列の5’末端で生じ、従ってFASTDB整列は、5’末端の最初の10塩基の一致/整列を示さない。10個の不対合塩基は、配列の10%(整合していない5’末端および3’末端での塩基の数/QUERY配列中の塩基の総数)を表し、そのため10%が、FASTDBプログラムによって計算される同一性パーセントのスコアから差し引かれる。残りの90残基が完全に整合する場合、最終的な同一性パーセントは90%である。別の例において、90残基の対象配列が、100塩基のQUERY配列と比較される。この場合、その欠失は内部欠失であり、そのためQUERY配列と整合/整列しない対象配列の5’末端または3’末端の塩基は存在しない。この場合、FASTDBによって算定される同一性パーセントは、手動で補正されない。再度、QUERY配列と整合/整列しない対象配列の5’末端および3’末端の塩基のみが手動で補正される。他の手動の補正は、本実施形態の目的のためにはなされない。
【0072】
さらなる実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、糖鎖が付加されていることが好ましい。本実施形態に係るポリペプチドは、特定の糖鎖が付加されていることによって、物理化学的に安定でありかつ生物活性が高い。好ましい糖鎖としては、ハイマンノース型N結合、バイセクティングGlcNAc、シアル酸、またはβ結合ガラクトースが挙げられる。
【0073】
特定の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、受託番号[ ]によって示される細胞(寄託手続き中)によって産生されることを特徴としている。本実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、上記細胞より分泌された成熟形態のrchLIFである。成熟形態rchLIFは、シグナルペプチドが切断されており、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる(対応するcDNA配列は配列番号5に示される塩基配列からなる)。本実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、受託番号[ ]によって示される細胞によって産生されることによって、常に一定条件で、均質なタンパク質として精製することができる。
【0074】
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0075】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0076】
また、本発明に係るポリペプチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製されてもよい。
【0077】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明に係るポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端またはC末端に付加され得る。
【0078】
本実施形態に係るポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)にN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態に係るポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
【0079】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、下記で詳述されるように組換え生成されてもよい。
【0080】
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行なうことができる。
【0081】
下記に詳細に記載するように、本発明に係るポリペプチドは、胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物、培養キットまたは培養方法において有用である。
【0082】
このように、本発明に係るポリペプチドは、ニワトリ胚細胞の未分化状態を維持することができるポリペプチドであって、少なくとも、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるかまたはその活性を保持した変異体であればよいといえる。すなわち、上記ポリペプチドと特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とが連結されたポリペプチドも本発明に含まれることに留意すべきである。また、上記ポリペプチドと特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とは、それぞれの機能を阻害しないように適切なリンカーペプチドで連結されていてもよい。
【0083】
つまり、本発明の目的は、LIF活性を有するポリペプチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリペプチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるLIF活性を有するポリペプチドも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0084】
(2)ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド
1つの局面において、本発明は、LIF活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
【0085】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、または、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0086】
また本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドに融合され得る。
【0087】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個(または数百個以上)結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、合成されてもよい。
【0088】
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、少なくとも12nt(ヌクレオチド)、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図される。少なくとも20ntの長さのフラグメントによって、例えば、配列番号1に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号1に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号1に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0089】
別の局面において、本発明に係るオリゴヌクレオチドは、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその変異体にハイブリダイズすることが好ましい。「変異体」は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0090】
別の局面において、本発明は、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその変異体のフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを提供する。
【0091】
本発明に係るオリゴヌクレオチドがLIF活性を有するポリペプチドをコードしない場合でさえ、当業者は、本発明に係るポリヌクレオチドが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のプライマーとして本発明に係るポリペプチドを作製するために使用され得ることを容易に理解する。本発明に係るポリペプチドをコードしない本発明に係るオリゴヌクレオチドの他の用途としては、以下が挙げられる:(1)cDNAライブラリー中のvhd遺伝子またはその対立遺伝子もしくはスプライシング改変体の単離;(2)vhd遺伝子の正確な染色体位置を提供するための、分裂中期染色体スプレッドへのインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、「FISH」)(Vermaら,Human Chromosomes:A Manual of Basic Techniques,Pergamon Press,New York(1988)に記載される);および(3)特定の組織におけるvhdのmRNA発現を検出するためのノーザンブロット分析。
【0092】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった1本鎖のDNAまたはRNAを包含する。本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少が観察される。本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0093】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法としては、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離する種々の公知の方法が挙げられる。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製して、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすれば、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得することができる。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)であればよい。このようなハイブリダイゼーションによって選択されるポリヌクレオチドとしては、天然のポリヌクレオチドが挙げられるが、これに限定されない。
【0094】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する別の方法として、PCRを用いる方法が挙げられる。このPCR増幅方法は、例えば、本発明に係るポリヌクレオチドのcDNAの5’側および/または3’側の配列(またはその相補配列)を利用してプライマーを調製する工程、これらのプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等をテンプレートにしてPCR増幅する工程を包含することを特徴としており、本方法を使用すれば、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得することができる。
【0095】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、IN24(ニワトリ単核球白血病細胞株)、肝臓、または胸腺のような生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図される。
【0096】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを用いれば、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを検出することによって、LIF活性を有するポリペプチドを発現する生物を容易に検出することができる。
【0097】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、LIF活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたはLIF活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、LIF活性を有するポリペプチドを発現する生物または組織を容易に検出することができる。なおさらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、上記生物体またはその組織もしくは細胞におけるLIF活性を有するポリペプチドの発現を抑制することができる。
【0098】
つまり、本発明の目的は、LIF活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドの作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるLIF活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0099】
(3)本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドの利用
(A)ベクター
本発明は、LIF活性を有するポリペプチドを産生するために使用されるベクターを提供する。本発明に係るベクターは、上述した本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されないが、pGEX、pSecTag2などが好ましい。例えば、LIF活性を有するポリペプチド(シグナル配列を含んでも含まなくてもよい)をコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0100】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0101】
本発明に係る発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
【0102】
上記発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物などから慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなど)に従って、目的タンパク質を回収、精製することができる。
【0103】
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養については、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、またはネオマイシン、Zeocin、ジェネティシン、ブラストシジンS、ハイグロマイシンBなどの薬剤耐性遺伝子、およびE.coliおよび他の細菌における培養については、カナマイシン、Zeocin、アクチノマイシンD、セフォタキシム、ストレプトマイシン、カルベニシリン、ピューロマイシン、テトラサイクリンまたはアンピシリンなどの薬剤耐性遺伝子が挙げられる。ニワトリ由来の細胞を用いる場合は、ジェネティシンまたはネオマイシンは適しておらず、Zeocinが好ましい。
【0104】
上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
【0105】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、動物細胞(例えば、ニワトリ由来の培養細胞(CHCC−OU2細胞、LMH細胞)、CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞)などを挙げることができるが、CHCC−OU2細胞が好ましい。
【0106】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明に係るポリペプチドを昆虫で発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0107】
本発明に係るベクターを使用して上記ポリヌクレオチドを生物または細胞に導入すれば、当該生物または細胞中にLIF活性を有するポリペプチドを発現させることができる。
【0108】
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む真核細胞発現用ベクターであればよいといえる。
【0109】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する真核細胞発現用ベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得した真核細胞発現用ベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0110】
(B)形質転換体
本発明は、上述したLIF活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含むことが意図される。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物、植物または動物が挙げられる。
【0111】
本発明に係る形質転換体は、上述したLIF活性を有するポリペプチドが発現されることを特徴とする。本発明に係る形質転換体は、LIF活性を有するポリペプチドが安定的に発現することが好ましい。
【0112】
一実施形態において、本発明に係る形質転換体は、本発明に係るベクターを、ポリペプチドが発現され得るように真核生物中に導入することによって取得される。好ましくは、本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリペプチドを安定して発現する細胞である。最も好ましくは、本発明に係る形質転換体は、受託番号[ ]によって示される細胞である。受託番号[ ]によって示される細胞より分泌されたrchLIFは成熟形態である。成熟形態rchLIFは、シグナルペプチドが切断されており、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる(対応するcDNA配列は配列番号5に示される塩基配列からなる)。本発明に係るポリペプチドを安定的に発現する細胞は、ES細胞またはEG細胞を培養する際のフィーダー細胞として使用することができる。
【0113】
(C)ポリペプチドの生産方法
本発明は、本発明に係るポリペプチドを生産する方法を提供する。本発明に係るポリペプチドの生産方法を用いれば、LIF活性を有するポリペプチドを低コストでありかつ環境に低負荷な条件下で提供することが可能となる。また、本発明に係るポリペプチドの生産方法を用いれば、LIF活性を有するポリペプチドを容易に生産することが可能となる。
【0114】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るベクターを用いることを特徴とする。
【0115】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、真核生物宿主を用いる組換え発現系を用いることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明に係るポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能に宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られる上記ポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0116】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0117】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを天然または組換え的に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することを特徴とする。本発明に係るポリペプチドは、成熟形態で細胞から分泌されるので、本発明に係るポリペプチドを天然または組換え的に発現する細胞の培養上清から回収することができる。好ましい細胞としては、受託番号[ ]によって示される細胞が挙げられる。このような細胞を用いる場合、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、培養上清を回収する工程を包含する。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上述したポリペプチドを精製する工程をさらに包含してもよい。
【0118】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0119】
つまり、本発明の目的は、真核生物宿主を用いてLIF活性を有するポリペプチドを生産する方法を提供することにあるのであって、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0120】
(D)培養組成物、培養キットまたは培養方法
本発明は、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を含む培養組成物を提供する。本発明に係る培養組成物は、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞が、培養培地中に含まれる形態であっても、必要に応じて培養培地に添加される形態であってもよい。本発明に係る培養組成物に含まれるポリペプチドは、上述したポリペプチドの生産方法に従って産生されたポリペプチドであることが好ましい。本明細書中で使用される場合、本発明に係る細胞を培養して得た馴化培地自体もまた培養組成物に包含される。
【0121】
本発明に係るポリペプチドを含む培養組成物は、胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するために、特に、ニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するために、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を使用することが好ましい。
【0122】
本発明はまた、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を備える培養キットを提供する。本発明に係る培養キットは、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を単独で備えても、必要に応じて他の試薬をさらに備えてもよい。本発明に係る培養キットに備えられるポリペプチドは、上述したポリペプチドの生産方法に従って産生されたポリペプチドであることが好ましい。
【0123】
本発明に係るポリペプチドを備える培養キットは、胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するために、特に、ニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するために、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を使用することが好ましい。本発明に係る培養キットは、本発明に係る細胞を培養して得た馴化培地を備えてもよい。
【0124】
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を用いる培養方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る培養方法は、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を培養培地中に添加する工程を包含する。本発明に係る培養方法において使用されるポリペプチドは、上述したポリペプチドの生産方法に従って産生されたポリペプチドであることが好ましい。
【0125】
本発明に係るポリペプチドを用いる培養方法は、胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するために、特に、ニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するために、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を使用することが好ましい。本発明に係る培養方法は、本発明に係る細胞を培養して得た馴化培地を用いてもよい。
【0126】
(E)トランスジェニックニワトリを作出するためのキットおよび方法
本発明は、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を備えるトランスジェニックニワトリを作出するためのキットを提供する。本発明に係るキットは、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を単独で備えても、必要に応じて他の試薬をさらに備えてもよい。本発明に係るキットに備えられるポリペプチドは、上述したポリペプチドの生産方法に従って産生されたポリペプチドであることが好ましい。
【0127】
本発明に係るキットは、トランスジェニックニワトリを作出する際に、ニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞の未分化状態を維持するために、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を使用することが好ましい。本発明に係るトランスジェニックニワトリを作出するためのキットは、本発明に係る細胞を培養して得た馴化培地を備えてもよい。
【0128】
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞を用いてトランスジェニックニワトリを作出するための方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る培養方法は、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞とともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含する。本発明に係る培養方法において使用されるポリペプチドは、上述したポリペプチドの生産方法に従って産生されたポリペプチドであることが好ましい。
【0129】
本発明に係るトランスジェニックニワトリ作出方法は、トランスジェニックニワトリを作出する際に、ニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る細胞とともに培養してこれらの細胞の未分化状態を維持することが好ましい。本発明に係るトランスジェニックニワトリを作出するための方法は、本発明に係る細胞を培養して得た馴化培地を用いてもよい。
【0130】
トランスジェニックニワトリを作出するためには、ニワトリの胚性幹細胞(ES細胞)または胚性生殖細胞(EG細胞)を首尾よく継代培養しなければならない。ニワトリES様細胞およびEG様細胞について、従来の培養方法は、トランスジェニックニワトリを作製するには大きな問題点を有する。具体的には、ES様細胞およびEG様細胞について、公知のいずれの培養方法を用いて培養しても全能性(生殖系列(精子または卵子)に分化する能力)を維持しているのは初代培養時のみであり、継代培養後は全能性を消失している。このことは、ES様細胞およびEG様細胞へ遺伝子を導入した後、継代培養を経てトランスジェニックニワトリを作出することが不可能であることを示す。
【0131】
ニワトリES様細胞を培養する方法を以下に示す。
【0132】
4.5g/LのDulbecco’s modified Eagle medium(DMEM) high glucose(Invitrogen)を基本培地とし、2mM L−グルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清、2%ニワトリ血清、1mMピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1μMの各ヌクレオチド(アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン)、0.16mM β−メルカプトエタノールとともに、サイトカインを添加した培地を用いる。添加するサイトカインとしては、従来、FGF2(1ng/mL)、ヒトIGF−1(1〜5ng/mL)、ヒトIL−11(1ng/mL)、ヒトSCFまたはマウスSCF(1ng/mL)、マウスLIF(10ng/mL)(必要に応じてさらに哺乳類由来のIL−6ファミリーサイトカイン数種、可溶型IL−6受容体など)が用いられているが、これらの代わりに、またはこれらに加えて、本発明に係るポリペプチド(すなわち、rchLIFタンパク質)を用い、以下の手順に従って培養を行う:
1.放卵直後の受精卵から濃厚卵白を取り除き、胚を上向きに置く。
2.胚が中央に位置するように濾紙で作製したリングをかぶせ、リングの外枠に沿ってはさみで胚をカットする。
3.濾紙リングに張り付いた胚をピンセットで取り出し、卵黄のついた方を上にしてPBS中に置き、卵黄を丁寧に取り除く。
4.胚の明領域(中心部分)を直径2〜3mmのピペット等で抜き、抜いた細胞塊を回収する。
5.低濃度のトリプシン等で細胞塊をばらばらにする。
6.10×細胞/cmの割合で上記培養液中に細胞を播き、7.5%CO条件下にて37℃で培養する。
7.細胞の状態を確認しながら3〜6日毎に培地交換を行う。
8.SSEA−1もしくはEMA−1の抗原が発現維持されているか否か、またはアルカリフォスファタ-ゼ活性によって、胚の未分化状態が維持されているか否かを判断する。
【0133】
ニワトリEG様細胞を培養する方法を以下に示す。
【0134】
4.5g/LのDulbecco’s modified Eagle medium(DMEM) high glucoseを基本培地とし、2mM L−グルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清、2%ニワトリ血清、1mMピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1μMの各ヌクレオチド(アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン)、0.16mM β−メルカプトエタノール、20μg/mL conalbuminとともに、サイトカインを添加した培地を用いる。添加するサイトカインとしては、従来、FGF2(10ng/mL)、ヒトIGF−1(10ng/mL)、ヒトIL−11(0.04ng/mL)、ヒトSCFまたはマウスSCF(5ng/mL)、マウスLIF(5〜10units/mL)が用いられているが、これらの代わりに、またはこれらに加えて、本発明に係るポリペプチド(すなわち、rchLIFタンパク質)を用いて培養を行う。
【0135】
ニワトリEG様細胞の培養には孵卵2.5日ごろに胚血液中に存在する循環始原生殖細胞(cPGC)または孵卵5〜5.5日ごろに生殖原基に到達した生殖腺始原生殖細胞(gPGC)の利用が行われているが、培養が可能と報告されているのはgPGCである。以下にその手順を述べる:
1,孵卵5日ごろの受精卵から生殖原基に相当する部分を取り出す。
2.0.25%トリプシン−EDTA溶液中で生殖原基をばらばらにし、5%CO条件下、上記培地中にて37℃で7〜10日間培養する。
3.緩やかなピペッティング操作でEG様細胞のコロニーを回収し、先に培養しておいたニワトリ胚線維芽細胞(CEF)上にて、上記培地中、5%CO条件下にて37℃で7〜10日間培養する。
4.SSEA−1もしくはEMA−1の抗原が発現維持されているか否か、またはPAS染色陽性であるか否かによって、胚の未分化状態が維持されているか否かを判断する。
【0136】
トランスジェニックニワトリを作出するためには、遺伝子を導入した後少なくとも4〜5代の継代が可能なニワトリES様細胞およびEG様細胞を得る必要がある。本発明に係る真核型のニワトリLIFポリペプチド(rchLIF)は、マウスLIFタンパク質(rmLIF)よりも効果が明らかに高い。このようなrchLIFを用いることによって、添加サイトカインを減らすことが可能であり、真核型ニワトリLIFをベースにした全能性維持および生殖系列への分化能維持を実現することができる培地および培養方法を開発することができる。また、このような培地および培養方法を用いる、有用遺伝子を導入した後のニワトリES様細胞およびEG様細胞の継代培養時において、組み込まれた遺伝子が相同遺伝子組み換えで導入されていることを確認し、選抜されたES細胞またはEG細胞をニワトリ胚に戻して、キメラを作出する。さらに、戻し交配を行えば、トランスジェニックニワトリを得ることができる。
【0137】
(F)抗体
本発明は、本発明に係るポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。より詳細には、本発明に係る抗体は、ニワトリLIFタンパク質には結合するがマウスLIFタンパク質には結合しない。
【0138】
一実施形態において、本発明に係る抗体は、LIFタンパク質依存的なSTAT3活性化を阻害することができる。すなわち、本実施形態に係る抗体は、LIF活性を阻害することができる。好ましくは、本実施形態に係る抗体は、配列番号11〜13のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと結合する。好ましくは、本実施形態に係る抗体は、モノクローナル抗体である。
【0139】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0140】
〔実施例1:E.coliにおけるニワトリLIFタンパク質の発現〕
本発明者らは、非特許文献5に記載の方法に従って、原核型のrchLIFを精製した。原核型のLIFは、図1に示すような塩基配列およびアミノ酸配列を有する。図2には、ニワトリLIFアミノ酸配列をヒトまたはマウスのLIFアミノ酸配列と比較した。
【0141】
原核型のrchLIFを、電気泳動によって分離した後、ゲルをCBB染色によって可視化した(図3)。その結果、原核型rchLIFは、純度が90%以上であり、SDS−PAGE上で約19kDaのおおよその分子量を有することがわかった(1mL培養から1〜5μg)。
【0142】
〔実施例2:CHO細胞におけるニワトリLIFタンパク質の発現〕
使用した真核生物細胞用発現ベクターpSecTag2A(Invitrogen)を図4に示す。このベクターは分泌シグナルとしてIgκ鎖リーダー配列と、検出精製用タンパクとしてC末にはmycエピトープおよびポリヒスチジンTagとが付加されている。なお、本実施形態において、真核型rchLIFの発現実験にpSecTag2Aを利用したが、他のベクターも利用可能であることを当業者は容易に理解する。
【0143】
LPSで刺激したIN24細胞から抽出した総RNAをテンプレートとして、5’末端にHindIII部位を有するプライマー(CCAAGCTTGCGGGCGCTGCTGGGGACGAG:配列番号7)およびXhoI部位を有するプライマー(CCCTCGAGCCGCGGGGCTGAGGTGAGGTA:配列番号8)を用いるRT−PCRを行い、シグナルペプチドを有さない成熟型のニワトリLIF cDNAをクローニングした。このcDNAは、シグナルペプチドをコードする領域を含んでいない。このcDNAを、pSecTag2Aベクターのマルチクローニングサイト(MCS)のHindIII/XhoI部位に挿入して、ベクター(pSecTag2A−LIFmh)を作製した。このベクターをCHO−K1細胞にリポフェクション法を用いて導入した。リポフェクション法は、PolyFect Transfection Reagent(QIAGEN)を用いて定法に従って行った。ベクターを導入した細胞を、Zeocin含有培地中で培養することによって、Zeocin耐性遺伝子を安定して保有する細胞(すなわち、導入遺伝子を安定して保有する細胞)を選択して、所望の細胞をクローニングした。クローニングした細胞を数ヶ月間Zeocin添加培地中で培養することによって真核型rchLIFを安定して発現する細胞株を得た。
【0144】
真核型rchLIFを安定して発現する細胞株をZeocin含有培地中で生育させた後、培養上清を回収し、フィルターろ過(φ22nm)によって培養上清中の不溶性の不純物を除去した。His−Tagタンパク質の精製にはProBond(Invitrogen)を用いた。1mLのレジンに対して40mLの培養上清を吸着させ、レジンの4倍量の洗浄液で8回洗浄した後、溶出した(レジンと等量の溶出液×10回)。溶出画分をSDS−PAGEに供した後、ゲルの銀染色および抗LIF抗体(HUL2)(または抗tag抗体)を用いたイムノブロッティング解析に供して、目的のバンドの溶出されている画分を回収した。抗LIF抗体(HUL2)については、以下の実施例7で詳述する。
【0145】
回収したタンパク質をPBSで透析した。タンパク質量を定量した後、液体窒素で急冷して−80℃で凍結保存した。また、精製した真核型rchLIFをSDS−PAGEに供した後、銀染色した(図7)。真核型rchLIFを安定に発現するCHO−K1細胞株は、1mL培養上清中0.5μgの真核型rchLIFを産生した。
【0146】
〔実施例3:ニワトリ細胞におけるニワトリLIFタンパク質の発現〕
ニワトリ細胞を用いて取得したrchLIFは、CHO産生真核型rchLIFより活性が強いことが期待されるので、ニワトリ細胞株に真核型rchLIFを産生させることを試みた。
【0147】
pSecTag2A(Invitrogen)におけるIgκ鎖リーダー配列、mycエピトープおよびポリヒスチジンTagの部分を全て配列番号3および図5に示した塩基配列に置き換えて挿入したベクターを構築した(pSecTag2A−cLIFh)。この塩基配列から翻訳される真核型rchLIFのアミノ酸配列を配列番号4および図5に示す。配列番号3および図5に示した塩基配列は、ニワトリ細胞株に真核型rchLIFを発現させ、分泌された真核型rchLIFの精製が簡便であるように、開始コドンおよびリーダー配列を含むニワトリLIF遺伝子の塩基配列全長の終始コドンの直前に6×ヒスチジンタグの塩基配列を付加している。図5に示すように、このアミノ酸配列中のリーダー部分(図中下線部)はニワトリ細胞中の翻訳後修飾により切断され、リーダー部分が除かれた形態で真核型rchLIFが細胞外に分泌される。配列中には原核型にはない糖鎖が付加されることが予想される領域を示す。
【0148】
ニワトリ細胞株としては、LMH細胞が、組換え発現系によく使用されている。LMH細胞は市販されており、増殖力が強いため培養が容易であり、遺伝子導入効率も高いので、タンパク質の強制発現などによく使われている(エストロジェンレセプター強制発現LMH株はATCCより市販されており、ホルモン応答研究などで広く使われている)。LMH細胞を用いてrchLIFを取得することを試みたが、ニワトリLIF発現ベクターを導入してrchLIFを強制発現させるとLMH細胞の死滅が生じ、どのような工夫を重ねてもrchLIFを安定的に産生する細胞株を得ることができなかった。
【0149】
LMH細胞以外にニワトリ由来の接着系細胞株としてCHCC−OU2細胞が知られている。しかし、CHCC−OU2細胞は市販されておらず、増殖力が弱く、細胞培養が難しく、遺伝子導入効率が低いという欠点を有する。遺伝子導入効率が低く増殖力も弱い細胞は組換え発現には適さないことは当業者には明らかであり、実際、CHCC−OU2細胞を用いてタンパク質を強制発現させた報告は皆無であった。よって、ニワトリLIF組換えタンパク質をニワトリ由来の細胞から取得することは一見不可能であった。
【0150】
本発明者らは、LMH細胞の死滅の原因がrchLIFの生物活性(すなわち、文化抑制作用)に起因すると考え、LMHなど分化程度の高い細胞の利用は難しいが、ニワトリ初期胚線維芽細胞由来であるCHCC−OU2細胞は、培養条件を首尾よく設定すれば、LIF発現依存的な細胞の死滅が生じることなく、LIF強制発現下でも正常に増殖するのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、CHCC−OU2細胞を用いてrchLIFの取得を試みた。CHCC−OU2は、LMH細胞など他のニワトリ培養細胞株よりも増殖力および遺伝子導入効率がはるかに劣るため、培養およびクローニングを行なうために試行錯誤を重ねた。しかし、本発明者らは、培養条件等工夫を重ねることによってrchLIFを安定に発現するCHCC−OU2株を得ることに成功した(図6)。
【0151】
具体的には、LPSで刺激したIN24細胞から抽出した総RNAをテンプレートとして、5’末端にNheI部位を有するプライマー(GCGCTAGCCATGAGGCTCATCCCC:配列番号9)およびEcoRI部位を有するプライマー(CGGAATTCACGCGGGGCTGAGGTAG:配列番号10)を用いるRT−PCRを行い、シグナルペプチドを有するニワトリLIF cDNAをクローニングした。このcDNAは、シグナルペプチドをコードする領域を含んでいる。このcDNAを、pSecTag2Aベクターのマルチクローニングサイト(MCS)周辺のNheI/EcoRI部位に挿入して、ベクター(pSecTag2A−cLIFh)を作製した。このベクターをCHCC−OU2細胞にリポフェクション法を用いて導入した。リポフェクション法は、PolyFect Transfection Reagent(QIAGEN)を用いて定法に従って行った。ベクターを導入した細胞を、Zeocin含有培地中で培養することによって、Zeocin耐性遺伝子を安定して保有する細胞(すなわち、導入遺伝子を安定して保有する細胞)を選択して、所望の細胞をクローニングした。クローニングした細胞を数ヶ月間Zeocin添加培地中で培養することによって真核型rchLIFを安定して発現する細胞株を得た。
【0152】
その結果、上述した培養条件下では、CHCC−OU2細胞は、rchLIFを強制発現させても死滅しなかった。
【0153】
具体的には、上述したpSecTag2A−cLIFhをニワトリCHCC−OU2細胞株にリポフェクション法により導入した。導入後に細胞をZeocin含有培地を用いて培養することによって、Zeocin耐性遺伝子を安定に保有する細胞(ベクターを安定に保有する)を選択した。その際、一過性の発現が終了した細胞の死滅が起こり、生細胞の密度は著しく低下し、最終的には、単独の細胞がディッシュに点在する程度となる。通常このような低密度でのCHCC−OU2細胞の培養は困難であり、次第に分裂能を失い死滅する。そこで、90%馴化培地による培地交換を週一回程度行い、継代は月一度程度にまで控えた。継代の際のトリプシン処理はできるだけ短時間(3分程度)とし、細胞回収のための遠心分離も1000rpmで3分間程度と、できるだけ細胞にダメージが加わらないようにした。このようにして数ヶ月間Zeocin添加培地中で培養することによって真核型rchLIFを安定して発現する細胞株(すなわち、導入遺伝子を安定に保有する細胞)を選択し、コロニークローニングによってクローニングした。樹立した真核型rchLIF産生細胞株を、常法に従って−80℃で凍結保存した。
【0154】
タンパク質に付加したHis−Tagを利用して、ニッケルカラムによりタンパク質を精製した。具体的には、真核型rchLIFを安定して発現する細胞株をZeocin含有培地中で生育させた後、培養上清を回収し、フィルターろ過(φ22nm)によって培養上清中の不溶性の不純物を除去した。His−Tagタンパク質の精製にはProBond(Invitrogen)を用いた。1mLのレジンに対して40mLの培養上清を吸着させ、レジンの4倍量の洗浄液で8回洗浄した後、溶出した(レジンと等量の溶出液×10回)。溶出画分をSDS−PAGEに供した後、ゲルの銀染色および抗LIF抗体(HUL2)(または抗tag抗体)を用いたイムノブロッティング解析に供して、目的のバンドの溶出されている画分を回収した。
【0155】
回収したタンパク質をPBSで透析した。タンパク質量を定量後、液体窒素で急冷して−80℃で凍結保存した。また、精製した真核型rchLIFをSDS−PAGEに供した後、銀染色した(図7)。真核型rchLIFを安定に発現するCHCC−OU2細胞株は、増殖速度は遅いが、真核型rchLIFの大量調製が可能となった(1mL培養上清から5μg)。
【0156】
図7に示すように、真核型rchLIFは、CHO産生またはCHCC−OU2産生のいずれもが原核型rchLIFよりも泳動度が遅く、複数のバンドとして検出された。
【0157】
次に、抗LIF抗体(HUL2)を用いたウエスタンブロッティング法により、rchLIFを検出した。具体的には、100ng/レーンのタンパク質を、12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEによって分離した後、180mVで3時間の条件下でImmun−Blot PVDF Membrane(BIO−RAD)に転写した。このメンブレンを、5%脱脂粉乳中にて室温で1時間ブロッキングした後、一次抗体(上述した抗LIF抗体(HUL2))とともに4℃で一晩インキュベートした。メンブレンを洗浄した後、二次抗体(HRP標識化抗マウスIg抗体)とともに室温で1時間インキュベートした。メンブレンを洗浄した後、ECL Plus(アマシャム)を用いて目的のバンドを検出した。その結果、図8に示したように、CHO産生真核型rchLIFは20〜37kDaの間に、ニワトリ細胞株産生真核型rchLIFは19〜30kDaの間に、いずれも数本のバンドとして検出された。これは、糖鎖の付加の状況が異なることに起因して異なる分子量の真核型rchLIFが産生されていることを示す。
【0158】
〔実施例4:真核型ニワトリLIFタンパク質における糖鎖付加〕
100ng/レーンのタンパク質を12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEによって分離した後、180mVで3時間の条件下でImmun−Blot PVDF Membrane(BIO−RAD)に転写した。このメンブレンをメタノールで処理した後、TBSで洗浄した。次いで、TBS中5%のBSAを用いて、このメンブレンを室温で1時間ブロッキングし、TBS中1%のレクチン液とともに室温で1時間インキュベートした。レクチンとしては、Biotinylated Lectin Kit I(Vector Laboratories Inc.)を用いた。TBS−Tで洗浄した後、VECTASTAIN Elite ABC Kit(Vector Laboratories Inc.)を用いて、レクチンが特異的に結合したバンドを検出した。
【0159】
レクチン(ConA、RCA、WGA)染色を行った結果を図9に示す。図9に示したように真核型rchLIFが特異的に染色された。
【0160】
この結果より、全ての真核型rchLIFはハイマンノース型N結合の糖鎖、バイセクティングGlcNAcおよびシアル酸を有すること(ConA、およびWGA)、ニワトリ細胞株産生真核型rchLIFはβ結合ガラクトースを有すること(RCA)が示された。以上の結果から、真核型rchLIFは、糖鎖付加において、CHO産生系とニワトリ細胞産生系との間で異なることがわかった。
【0161】
〔実施例5:種々のrchLIFの生物活性〕
rchLIFの生物活性はニワトリES細胞(ニワトリ胚盤葉細胞)の未分化状態を維持する活性として測定することができる。
【0162】
精製した真核型rchLIF(20ng/ml)をニワトリES細胞の培養系に添加して8日間培養した。LIF非添加の条件下では、ニワトリES細胞は嚢胞性胚葉体を形成し未分化状態が維持されない(図10−1)。原核型rchLIFを添加した条件下では、ニワトリES細胞は未分化状態を7日間維持したが、培養8日目には嚢胞性胚葉体が出現した(図10−2)。CHO産生真核型rchLIF添加の条件下では、小型の嚢胞性胚葉体が多数検出され、未分化状態が維持されていない(図10−3)。これらに対して、ニワトリ細胞株産生真核型rchLIF添加の条件下では、ニワトリES細胞が8日間の培養後も未分化状態を維持し、かつ嚢胞性胚葉体がほとんど形成されていないことがわかった(図10−4)。
【0163】
以上の結果は、ニワトリES細胞の培養にはrchLIFであれば効果(未分化状態の維持)を奏するが、原核型rchLIFよりも真核型rchLIFの方がより好ましく、特にニワトリ細胞が産生する真核型rchLIFが最も効果が高いことを示す。また、原核型rchLIFよりも真核型rchLIFの方がニワトリES細胞の未分化状態を長く維持することがわかった。
【0164】
〔実施例6:種々のrchLIFの安定性〕
これまでの結果からニワトリES細胞の培養系にニワトリ細胞株が産生した真核型rchLIFの効果が高いことがわかった。そこで次に糖鎖付加によるタンパク質の安定性の試験を行った。原核型rchLIFおよび真核型rchLIFを高温(50℃または80℃)で6時間保温した場合、さらに、酸性(pH2.8)またはアルカリ性(pH10.6)で6時間室温インキュベートして、リコンビナントタンパク質分解の程度をSDS−PAGEを用いて解析した。また各処理条件による生物活性の変化をニワトリES細胞培養系へ添加して調べた。
【0165】
その結果、図11に示したように原核型rchLIFでは80℃の熱処理とアルカリ処理でバンドの減少が確認された。また真核型rchLIFでは80℃処理により低分子のバンドの減少が認められたがそれ以外にバンドの減少は認められず、種々の処理に対して真核型rchLIFは極めて安定であることがわかった。
【0166】
次に、原核型rchLIFまたは真核型rchLIFをニワトリES細胞の培養系に20ng/mlの濃度で添加して嚢胞性胚葉体の出現を指標にLIFの生物活性を測定した。
【0167】
その結果、図12に示したように、原核型rchLIFを使用した場合には多数の嚢胞性胚葉体の出現が認められたが、真核型rchLIFを使用した場合にニワトリES細胞は、円形のコロニーを形成したまま嚢胞性胚葉体の出現は全く認められなかった。以上の結果は、真核型rchLIFはその生物活性においても種々の処理に対して極めて安定であることを示している。
【0168】
〔実施例7:ニワトリLIFタンパクに対する抗体〕
原核型ニワトリLIFタンパク質全長を免疫原として抗LIF抗体を作製した。免疫原はフロイントアジュバンドと等量で混合し、マウスに腹腔内注射により免疫した。追加免疫を初回免疫後2週間おきに行い、四次免疫まで行った。四次免疫を細胞融合の3日前に行ない、尾静脈注射による免疫を行った。
【0169】
マウスより採血して得られたポリクローナル抗体を用いて、結合特異性を調べたところ、得られた抗体は、マウスLIFタンパク質とニワトリLIFタンパク質との間の交差反応を示さなかった。
【0170】
上述の実施例で示したように、胚盤葉細胞に対する生物活性および/またはSTAT3のリン酸化において、rchLIFとrmLIFとの間で違いがあることが明らかである。この違いは、両者間のアミノ酸配列が大きく異なることに起因し、その結果、リガンド/レセプター相互作用が異なっていることが考えられる。そこで、LIFにおけるリガンド/レセプター相互作用に関連する領域を解析することを目的として、rchLIFとレセプターとの結合に関与することが予想される領域(すなわち、rchLIFの親水性領域)に対する抗体を作製した。
【0171】
具体的には、シグナルペプチドを除いた成熟型ニワトリLIFタンパク質のアミノ酸第23〜35位(EQTRRQVALLNAT:配列番号11)、第96〜111位(GNITRDQEELNPMAKE:配列番号12)、または第148〜164位(GLISNLTCLLCKHYNIF:配列番号13)からなる合成ペプチドとキャリアータンパク質(keyhole limpet hemocyanin(KLH,Imject(登録商標) Maleimide Activated mcKLH,PIERCE)との複合体を免疫原とした。免疫原は水酸化アルミニウムゲルアジュバンドと等量で混合し、マウスに腹腔内注射により免疫した。追加免疫を初回免疫後2週間おきに行い、四次免疫まで行った。四次免疫を細胞融合の3日前に行い、尾静脈注射による免疫を行った。
【0172】
マウスより採血して得られたポリクローナル抗体を用いて、結合特異性を調べたところ、いずれの抗体においてもマウスLIFタンパク質とニワトリLIFタンパク質との間の交差反応は検出されなかった。さらに、これらの抗体は、rchLIF依存的なSTAT3のリン酸化を阻害した。s
さらに、ニワトリLIFタンパク質全長に対するモノクローナル抗体および上記ペプチドに対するモノクローナル抗体を作製した。四次免疫を行った後、血清中の抗体価が十分上昇したことを確認したマウスから脾臓を摘出し、脾細胞を回収した。脾細胞は融合用親株細胞(SP2/0−Ag14)と融合させ、HAT(hypoxanthin aminopterin thymidinem Invitrogen)選択培地中で、融合細胞を選択した。rchLIFを抗原としたELISA法およびウエスタンブロット法(WB)を用いて、抗ニワトリLIF抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、限界希釈法によりクローニングを行い、ニワトリLIFタンパク質全長に対するマウス抗ニワトリLIFモノクローナル抗体(HUL1)および成熟型ニワトリLIFタンパク質のアミノ酸第148〜164位(配列番号13)を特異的に認識するマウス抗ニワトリLIFモノクローナル抗体(HUL2)を得た。さらに、Mouse monoclonal antibody isolation kit(Amersham)を用いてこれらの抗体のサブクラスを調べたところ、HUL1はIgG2b、HUL2はIgAであることが確認された。
【0173】
得られたモノクローナル抗体はいずれも、ウエスタンブロッティング解析の結果、原核型ニワトリLIFタンパク質および真核型ニワトリLIFタンパク質の両方を強く認識することがわかった。特に、HUL2は、rchLIF依存的な胚盤葉細胞のSTAT3のリン酸化を阻害した。
【産業上の利用可能性】
【0174】
ニワトリLIFタンパク質(rchLIF)は、ニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害して未分化状態を維持させるために有効である。特に、真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生された真核型rchLIFは、物理化学的に安定であり、かつ生物活性が非常に高い。本発明者らは、このような真核型rchLIFを安定に供給することができる細胞を得ることによって、トランスジェニックニワトリの作出に不可欠なニワトリLIFタンパク質を大量生産することを可能にした。このような真核型rchLIFを用いれば、所望のトランスジェニックニワトリを容易に作出することができ、所望の動物工場として活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】図1は、ニワトリLIF遺伝子の塩基配列およびニワトリLIFタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】図2Aは、LIFタンパク質のアミノ酸配列を、マウス、ヒトおよびニワトリ間で比較したアラインメントを示す図である。図2Bは、マウス、ヒトおよびニワトリ間でのLIFタンパク質のアミノ酸配列の同一性を示す図である。
【図3】図3は、E.coli発現系から精製したrchLIFを電気泳動した後CBB染色したSDS−PAGEゲルを示す図である。
【図4】図4は、真核生物細胞用の発現構築物を示す図である。
【図5】図5は、真核生物細胞用のベクターに挿入したニワトリLIF遺伝子の塩基配列およびコードされるタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図6】図6は、真核型rchLIFを安定に発現するニワトリCHCC−OU2細胞を示す写真である。
【図7】図7は、真核型rchLIFを電気泳動した後銀染色したSDS−PAGEゲルを示す図である。
【図8】図8は、抗ニワトリLIF抗体を用いたイムノブロッティング法により検出した真核型rchLIFを示す写真である。
【図9】図9は、真核型rchLIFを電気泳動した後レクチン染色した結果を示す写真である。
【図10】図10は、ニワトリ胚盤葉細胞の培養系に真核型rchLIFを添加した際の、嚢胞性胚葉体の形成および細胞未分化状態の維持を示す写真である。
【図11】図11は、熱処理およびアルカリ処理を施した原核型rchLIFまたは真核型rchLIFを電気泳動した後銀染色したSDS−PAGEゲルを示す図である。
【図12】図12は、ニワトリ胚盤葉細胞の培養系に原核型rchLIFまたは真核型rchLIFを添加した際の、嚢胞性胚葉体の形成を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号6に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号6に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列
からなり、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされ、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
によってコードされ、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴とするポリペプチド。
【請求項4】
胚性幹細胞または胚性生殖細胞の分化を阻害するポリペプチドであって:
(a)配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされ、かつ真核生物宿主を用いる組換え発現系によって産生されることを特徴とするポリペプチド。
【請求項5】
上記真核生物宿主がCHO−K1細胞またはCHCC−OU2細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする真核生物宿主に用いる発現ベクター。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドを安定して産生することを特徴とする細胞。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞を培養することによって得られる馴化培地。
【請求項9】
請求項7に記載の細胞を用いることを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物。
【請求項11】
請求項7に記載の細胞を含むことを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物。
【請求項12】
請求項8に記載の馴化培地を含むことを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養組成物。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドを備えることを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養キット。
【請求項14】
請求項7に記載の細胞を備えることを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養キット。
【請求項15】
請求項8に記載の馴化培地を備えることを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養キット。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドを用いることを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養方法。
【請求項17】
請求項7に記載の細胞を用いることを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養方法。
【請求項18】
請求項8に記載の馴化培地を用いることを特徴とする胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養するための培養方法。
【請求項19】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドを備えることを特徴とするトランスジェニックニワトリ作出キット。
【請求項20】
請求項7に記載の細胞を備えることを特徴とするトランスジェニックニワトリ作出キット。
【請求項21】
請求項8に記載の馴化培地を備えることを特徴とするトランスジェニックニワトリ作出キット。
【請求項22】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドとともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含することを特徴とするトランスジェニックニワトリ作出方法。
【請求項23】
請求項7記載の細胞とともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含することを特徴とするトランスジェニックニワトリ作出方法。
【請求項24】
請求項8に記載の馴化培地とともにニワトリの胚性幹細胞または胚性生殖細胞を培養する工程を包含することを特徴とするトランスジェニックニワトリ作出方法。
【請求項25】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする抗体。
【請求項26】
配列番号11〜13のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに結合することを特徴とする抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−31043(P2008−31043A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336747(P2004−336747)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】