説明

ニードル軸受

【課題】輸送運搬中や保管中等軸受停止中の振動・揺動によるフレッチング、フォールスブリネリングを防止することができるニードル軸受を提供する。
【解決手段】シェル型総ニードル軸受10は、内周面に軌道面11aを、両端部に内向きフランジ部11b,11cを、それぞれ有するシェル状外輪11と、軌道面11aに沿って転動自在となるように、外輪11に組み込まれる複数のニードル12と、を備える。ニードル12は、供給される潤滑剤によって融解可能な、或は融点が45℃〜120℃であるワックス状の保持剤Wで保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードル軸受に関し、特に、一般産業用機械、鉄道車両、自動車用駆動系機械、自動車用補機類、事務機器等に利用されるニードル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニードル軸受の輸送や保管は、軌道輪とニードルを分離した状態で行う場合や、金属製や樹脂製保持器、紙管、樹脂管、ゴム栓等を利用して、ニードルの保持、固定、脱落を防止して行う場合がある。
【0003】
ニードル軸受の一例である、シェル型総ニードル軸受は、シェル状外輪と、シェル状外輪に組み込まれる複数のニードルとを備えており、コンパクトな構成で、また、保持器を具備しないため軸受の負荷容量を増加することができる。
【0004】
このようなシェル型総ニードル軸受は、客先にて軸(或は、内輪部材)に組み込まれて使用されるので、シェル状外輪にて機械的にニードルを抱え込む方式や、軸受製造元から搬出される段階で、紙管、樹脂管、ゴム栓等を利用したり、グリース等の粘着力を利用して、輸送中等におけるニードルの脱落を防止している。(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1に記載のシェル型総ニードル軸受では、シェル状外輪のフランジ部の曲げ形状、及びシェル状外輪の内周面に塗布されたグリースによって、ニードルが外輪から抜け出さずに保持されるようにしている。
【特許文献1】特開2005−133745号公報(第4頁)
【特許文献2】特開2005−256861号公報(第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、転がり軸受の損傷のうち、軌道面と転動体の接触部や嵌め合い面には、二面間の相対的な繰り返しの微小すべりによって、フレッチングと呼ばれる摩耗が生じる。中でも、軌道輪と転動体との接触部分において振動や揺動による摩耗が進み、ブリネル圧痕に似たくぼみを生じることがある。これをフォールスブリネリングと呼ぶ。これらの原因の一つには、輸送運搬中や保管中等の軸受停止中の振動・揺動が挙げられる。
【0007】
また、上述したニードルの脱落を防止する方法として、機械的にニードルを抱え込む場合、ニードルやシェル状外輪の加工が面倒でコストが嵩んでしまう。紙管、樹脂管、ゴム栓等の利用は、組み込みの際にこれらの部材を取り外す作業が必要となり、また、グリースを利用する場合には、ニードルの保持がその粘着力に委ねられることから、組み込みの際の取り扱い性が課題となっている。
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、輸送運搬中や保管中等軸受停止中の振動・揺動によるフレッチング、フォールスブリネリングを防止することができるニードル軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 内周面或は外周面に軌道面を有する軌道輪と、
軌道面に沿って転動自在となるように、軌道輪に組み込まれる複数のニードルと、
を備えるニードル軸受であって、
ニードルは、供給される潤滑剤によって融解可能なワックス状の保持剤で軌道輪に保持されることを特徴とするニードル軸受。
(2) 内周面或は外周面に軌道面を有する軌道輪と、
軌道面に沿って転動自在となるように、軌道輪に組み込まれる複数のニードルと、
を備えるニードル軸受であって、
ニードルは、融点が45℃〜120℃であるワックス状の保持剤で軌道輪に保持されることを特徴とするニードル軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニードル軸受によれば、ニードルは、供給される潤滑剤によって融解可能な、或は融点が45℃〜120℃であるワックス状の保持剤で軌道輪に保持されるので、輸送運搬中や保管中等軸受停止中の振動・揺動によるフレッチング、フォールスブリネリングを防止することができる。
特に、総ニードル軸受の場合においても、輸送、運搬中におけるニードルの脱落を確実に防止できると共に、組み込みの際の取り扱い性が良好となり、組立時間の短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のニードル軸受の一実施形態に係るシェル型総ニードル軸受について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
シェル型総ニードル軸受10は、図1に示すように、内周面に軌道面11aを、両端部に内向きフランジ部11b,11cを、それぞれ有するシェル状軌道輪であるシェル状外輪11と、軌道面11aに沿って転動自在となるように、外輪11に保持器を具備せずに組み込まれる複数のニードル12と、を備え、図示しない軸(或は内輪部材)に組みつけられて使用される。
【0013】
また、複数のニードル12が組み込まれた状態でシェル状外輪11によって画成される隙間空間には、軸に組み付けられる前のニードル12を保持し、組み付け後に供給される潤滑剤によって融解可能な、或は融点が45℃〜120℃で、使用した際の温度上昇による熱量で融解可能なワックス状の保持剤Wが充填されている。
【0014】
具体的なワックス状の保持剤Wとしては、ワックス、脂肪酸、脂肪酸アミドが挙げられ、使用箇所の温度や、潤滑油への融解性等により以下に示すものなどが使用される。
・ ポリエチレンワックス(融点102〜118℃程度)
・ モンタン酸エステルワックス(融点76〜81℃程度)
・ モンタン酸エステル部分けん化ワックス(融点93〜103℃程度)
・ パラフィンワックス(融点45〜69℃程度)
・ ステアリン酸(融点56〜69℃、部分的にエステル化されたものも含む)
・ ヒドロキシステアリン酸(融点70〜75℃)
・ ステアロアミド(融点98〜103℃)
・ オレイルアミド(融点68〜79℃)
・ エルシルアミド(融点80℃程度)
・ ベヘンアミド(融点100℃程度)
【0015】
このようなワックス状の保持剤Wは、シェル状外輪11の隙間空間に注入後に固化されてニードル12を保持し、輸送運搬中や保管中等軸受停止中の振動・揺動によるフレッチング、フォールスブリネリングを防止することができる。また、軸に組み付けられる前の輸送や運搬中におけるニードル12の脱落を確実に防止することができ、粘着性のあるグリース等に比べて組み込みの際の取り扱い性が良好となり、組立時間の短縮が図れる。
【0016】
また、軸に組み付け後は、ワックス状の保持剤Wは、供給される潤滑剤と化学反応により溶解されるので、潤滑剤内に混合され、軸受10の使用に不具合を生じることがない。また、融点が45℃〜120℃であるワックス状の保持剤Wの場合も、使用により上昇した熱量によって融解されるので、同じく潤滑剤内に混合され、軸受10の使用に不具合を生じることがない。
【0017】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
本実施形態のシェル状軌道輪は、内周面に軌道面11a、両端部に内向きフランジ部11b,11cをそれぞれ有するシェル状外輪11を使用しているが、外周面に軌道面、両端部に外向きフランジ部をそれぞれ有するシェル状内輪を使用して、シェル状内輪にニードルを組みこんでもよい。
【0018】
また、本実施形態は、シェル型総ニードル軸受について説明したが、本発明は、ニードルを保持する保持器を有するニードル軸受についても適用可能であり、また、両方の軌道輪がシェル状を有しないニードル軸受についても適用可能である。
【実施例】
【0019】
(試験1)
ここで、上記の保持剤Wのうち、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、ステアロアミドを用いて、落下テスト、輸送テストを行い、グリース、或はグリースと紙管を用いた場合との比較を行なった。ここで、使用されるシェル型総ニードル軸受としては、内径22mm、外径28mm、幅16mmのもの(DD5502201)が使用される。また、落下テストは、20cmの高さから軸受を落下させて行い、輸送テストは、トラックの荷台に載せて1000kmの走行後確認し、いずれのテストもサンプルn=100とした。表1は試験結果を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
この結果、ワックス状の保持剤Wを用いることで、落下や輸送の際のニードルの脱落が確実に防止できることが確認できた。
【0022】
(試験2)
次に、試験1と同様、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、ステアロアミドを用いて、それぞれ保持器を有するラジアルニードル軸受とスラストニードル軸受について輸送テストを行い、防製油のみ、或は別体梱包した場合との比較を行なった。ラジアルニードル軸受としては、内径95mm、外径130mm、幅63mmの内輪付きのもの(呼び番号:NA6919(日本精工製))や、内径105mm、外径125mm、幅63mmの内輪無しのもの(呼び番号:RNA6918(日本精工製))が使用された。スラストニードル軸受については、内径90mm、外径120mm、幅4mmのもの(呼び番号:FNTA−90120(日本精工製))が使用された。輸送テストは、トラックの荷台に載せて3000kmの走行後確認した。表2は試験結果を示す。
【0023】
【表2】

【0024】
この結果、ワックス状の保持剤Wを用いることで、ラジアルニードル軸受やスラストニードル軸受においても、輸送の際に微小フレッチングによる損傷を防止できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るシェル型総ニードル軸受の断面図であり、(b)は、(a)のI−I断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 シェル型総ニードル軸受(ニードル軸受)
11 シェル状外輪(シェル状軌道輪)
11a 軌道面
11b、11c 内向きフランジ部(フランジ部)
12 ニードル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面或は外周面に軌道面を有する軌道輪と、
前記軌道面に沿って転動自在となるように、前記軌道輪に組み込まれる複数のニードルと、
を備えるニードル軸受であって、
前記ニードルは、供給される潤滑剤によって融解可能なワックス状の保持剤で前記軌道輪に保持されることを特徴とするニードル軸受。
【請求項2】
内周面或は外周面に軌道面を有する軌道輪と、
前記軌道面に沿って転動自在となるように、前記軌道輪に組み込まれる複数のニードルと、
を備えるニードル軸受であって、
前記ニードルは、融点が45℃〜120℃であるワックス状の保持剤で前記軌道輪に保持されることを特徴とするニードル軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2008−20064(P2008−20064A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148373(P2007−148373)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】