説明

ネットワーク機器

【課題】省電力化のための回路構成要素を少なくし、格別なソフトウェア制御を行うことなく、複数の省電力手段の組合せ及び選択により省電力化を図ることができるネットワーク機器を提供する。
【解決手段】 スイッチングハブ1は、ネットワークケーブル4a,4bの長さに対応して省電力モードに設定する省電力手段を有するポートを、少なくとも1ポート以上有している。省電力手段は、省電力モードへの切り替え、及び通常モードへの切り替えを行う省電力モード選択スイッチ6と、通信制御用のLSIチップ11a,11bへ供給するバイアス電流を制御するバイアス電流制御切替部9a,9bとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力タイプのネットワーク機器に係わり、特に、複数のポートを持つイーサーネット(登録商標)スイッチングハブにおいて、ネットワークケーブルの長さに応じて省電力モード又は通常モードに選択可能とし、消費電力の削減を可能とした省電力モード機能付きのネットワーク機器に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が進んでいる昨今、世の中では、省電力化などによる環境保護に配慮したグリーンIT技術が、ますます重要になってきた。この種の従来の省電力化技術の一例としては、例えば複数のポートを制御するHUB(集線装置)において、ポートからのデータ入力の監視を行うデータ監視部と電力供給制御部とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された従来のHUBは、全てのポートから一定期間データの入力がなくなった際に、電力供給制御部により、ポート間のパケット転送制御を行う通信制御LSIへの電力供給を中断してHUBをサスペンド状態とし、サスペンド状態において、ポートに受信データが検出されると、電力供給制御部より通信制御LSIへ電力供給を再開し、元の状態に復元するようにしている。このように、この従来のHUBは、接続ノードの使用状態に応じてHUBへの電源供給をオン・オフ制御することで省電力化を図っている。
【0004】
また、従来の省電力化技術の他の一例としては、例えば装置内部の温度異常を検知することによって、スイッチングハブ動作とリピータハブ動作を切り替えて消費電力の低減を図ったスイッチングハブが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、従来の省電力化技術の更に他の一例としては、例えばネットワークシステム全体の消費電力を検知しながら、消費電力があるレベルを超えないようにネットワークシステムを制御し、安定したシステム稼働を実現するサーバ装置及びネットワークシステムが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、従来の省電力化技術の更に他の一例としては、例えば端末のそれぞれが接続される複数のポートにおいて、使用されているポートの数に応じて端末間の通信の処理を損なわない必要最低限の動作クロック周波数を算出し、消費電力を低減可能としたスイッチングハブが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、従来の省電力化技術の更に他の一例としては、例えばスイッチングハブの一部回路の動作周波数を制御して必要最低限の電流供給や発熱制御を実施し、ランニング消費コスト及び騒音を低減するスイッチングハブが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
この特許文献5に記載された従来のスイッチングハブは、プロトコル処理部、符号部、復号部、送信回路部、受信回路部、物理制御部等に依存する回路部と、クロスバススイッチ部、パケットメモリ部、フォワーディング/キュー制御回路部といった共通回路部と、周波数制御回路部と、VCO回路部とにより構成されている。受信回路部は、各ポートの使用状況を判断し、使用されていないポートが存在する場合は、VCO回路部から供給する動作周波数を周波数制御回路部で低減するように制御するようになっている。これにより、無駄のない必要最小限の電力で動作が可能になり、消費電力を有効に活用することができるとしている。
【0009】
また、従来の省電力化技術の更に他の一例としては、例えば通信データサイズの所定値を判断し、通信速度を切り替えることによって、消費電力を低減するネットワーク機器が知られている(例えば、特許文献6参照)。この従来のネットワーク機器は、他のネットワーク機器から受信されるデータのデータサイズが所定値未満であるか否かを判断し、データサイズが所定値未満であると判断された場合は、通信速度を第1の速度のままの状態に維持し、データサイズが所定値未満でないと判断された場合は、通信速度を第1の速度よりも高速な第2の速度に切り替えるようになっている。
【特許文献1】特開2000−253035号公報
【特許文献2】特開2002−33755号公報
【特許文献3】特開2002−142385号公報
【特許文献4】特開2002−247065号公報
【特許文献5】特許第3606226号公報
【特許文献6】特開2006−270470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜6に記載された従来の省電力化技術は、高機能なネットワーク機器に適用されており、次の(1)〜(4)の様々な課題があった。
(1)通信周波数、データサイズ、消費電力の検知、温度検知などの検知回路部と、検知回路部により検知されたデータを分析するための分析部と、更に分析部で解析した結果によって、通信周波数、通信速度、LSIの供給電源を制御するための制御部とが必要になり、省電力化のための回路を構成する部品点数が多くなり、コストが高くなる。
(2)上記(1)のような回路構成では、CPUのようなマイクロプロセッサ、データ記憶メモリに依存するソフトウェア制御が必要になり、構成が複雑になる。
(3)上記(1)のような回路構成では、多くの回路構成部品自体に消費電力がかかることは避けられない。
(4)省電力化の手段は単一であり、複数の省電力手段により省電力化を図るものではないので、省電力効果は限られている。
【0011】
従って、本発明は、上記従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、
(1)省電力化のための回路構成要素を少なくし、
(2)専用のソフトウェア制御を行うことなく、
(3)複数の省電力手段の組合せ及び選択により省電力化を図ることができるネットワーク機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、ネットワークケーブルの長さに対応して省電力モードに設定する省電力手段を有するポートを、少なくとも1ポート以上有することを特徴とするネットワーク機器にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構成で、ネットワークケーブルの長さに合わせて消費電力の省力化を実現することができるとともに、格別なソフトウェア処理を必要とせず、コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の代表的な実施の形態である省電力モード(ECOモード)機能付きのスイッチングハブを利用した省電力システムの一構成例を示す概略図である。
【0016】
[第1の実施の形態]
(省電力システムの構成)
図1において、符号1は、第1の実施の形態に係る典型的なネットワーク機器であるECOモード機能付きのスイッチングハブの外観構成を示している。このスイッチングハブ1は、特に限定されるものではないが、7個の下位ポートP1〜P7と1個の上位ポートP8とを有している。これらの下位ポートP1〜P7は、ネットワークケーブルの長さ(ケーブル長)に対応してECOモードで動作させることができるように制御する省電力手段を有するポートである。
【0017】
スイッチングハブ1は、図1に示すように、省電力システムを構築するためにECOモード選択スイッチ6をECOモードに選択し、スイッチングハブ1の2個の下位ポートP1,P3と下位端末機器2a,2bとの間をネットワークケーブル4a,4bでそれぞれ接続している。下位端末機器2a,2bとしては、例えばスイッチングハブ1に近い同じエリア(例えば、スイッチングハブ1と同じフロアの事務室)に設置されているパソコンなどが挙げられる。ネットワークケーブル4a,4bは、例えばUTP(Unshielded Twist Pair)(登録商標)ケーブルを使用している。そのネットワークケーブル4a,4bの長さは、IEEE802.3規格に準拠した最大100m以下であれば、特に限定されるものではなく、この第1の実施の形態では、例えば50mの短尺に制限されている。
【0018】
一方、スイッチングハブ1の上位ポートP8と上位機器(上位サーバ)3との間は、図1に示すように、ネットワークケーブル5で接続されている。上位機器3は、例えばスイッチングハブ1から遠い別のエリア(例えば、スイッチングハブ1とは別のフロアの情報管理センター)に設置されているホストゲートウェイなどが挙げられる。ネットワークケーブル5としては、前述したUTPケーブルが使用されている。そのケーブル5の長さは、例えばIEEE802.3規格に準拠した最大100mの長尺である。
【0019】
(スイッチングハブの構成)
図2は、図1におけるスイッチングハブの動作ブロック図である。同図において、この第1の実施の形態による省電力手段は、ECOモードへの切り替え、及び通常モードへの切り替えを行うECOモード選択スイッチ6と、通信制御用のPHY(Physical Layer)チップ(LSIチップ)11a,11bのバイアス電流を制御するバイアス電流制御切替部9a,9bとを備える。ECOモード選択スイッチ6は、スイッチングハブ1のECOモード又は通常モードを設定するディップタイプの可動開閉器である。なお、PHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限するための構成例については後述する。
【0020】
ECOモード選択スイッチ6をECOモードに選択したとき、スイッチングハブ1は、ECOモード状態になる。このECOモードは、ネットワークケーブル4a,4bの長さに合わせてPHYチップ11a,11bが最低限動作可能な程度にPHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限することで、PHYチップ11a,11bの消費電流を調整したモードである。一方、ECOモード選択スイッチ6を通常モードに選択したとき、スイッチングハブ1は、通常モード状態となる。この通常モードは、50mの短尺に制限されているネットワークケーブル4a,4bを、IEEE802.3規格に準拠した最大100mのネットワークケーブルに替えて下位端末機器2a又は2bと接続する必要性が生じた場合に、最大100mのネットワークケーブルの長さに合わせてPHYチップ11a,11bが確実に動作できるようにPHYチップ11a,11bのバイアス電流をIEEE802.3規格に準拠した値とすることで、PHYチップ11a,11bの消費電流を調整したモードである。
【0021】
バイアス電流制御切替部9a,9bは、ECOモードを選択したとき、通常モードの動作からECOモードの動作に切り替わり、下位端末機器2a,2bと通信するときの物理層の通信制御を行う通信制御用のPHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限する。PHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限することによって、PHYチップ11a,11bの伝送する信号振幅レベルは小さくなり、図2に示すように、絶縁用パルストランス15a,15b、送受信端子17a,17bを経由して、長さが50mに制限されたネットワークケーブル4a,4bを介して下位端末機器2a,2bと接続され、通信が行われる。
【0022】
一方、ECOモード選択スイッチ6をECOモード又は通常モードに選択したにもかかわらず、バイアス電流制御部10は常に、IEEE802.3規格に準拠した信号振幅レベルとなるように通信制御用のPHYチップ12のバイアス電流を制限する。PHYチップ12が伝送する信号振幅レベルは、IEEE802.3規格に準拠して設定されており、図2に示すように、絶縁用パルストランス16、送受信端子18を経由して、長さがIEEE802.3規格に規定した最大100mまで接続可能なネットワークケーブル5を介して上位機器3が接続され、通信が行われる。
【0023】
(バイアス電流制御切替部の構成)
次に、図3を参照しながら、PHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限するための一例を説明する。図3は、図2におけるバイアス電流制御切替部の内部回路の一構成例を概略的に示す図である。なお、図3は、ECOモード選択スイッチ6をECOモードに選択した状態を示している。
【0024】
図3において、バイアス電流制御切替部9a,9bは、制御信号バッファ部90aとバイアス電流切替部91とを備える。ECOモード選択スイッチ6がECOモードに選択された場合は、ECOモードの制御信号が、制御信号バッファ部90aを介してバイアス電流切替部91のバイアス電流制御用の切替FETスイッチ91aのゲートをOFFさせる。その切替FETスイッチ91aのゲートをOFFすることによって、バイアス電流制限抵抗91bとバイアス電流制限抵抗91cとはシリーズ接続となる。PHYチップ11a,11bと接地との間の抵抗値は、バイアス電流制限抵抗91bとバイアス電流制限抵抗91cとの合計抵抗値となる。その合計抵抗値でPHYチップ11a,11bと接地との間の電流が調整され、PHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限することが可能になる。
【0025】
一方、ECOモード選択スイッチ6が通常モードに選択された場合は、通常モードの制御信号が、図3に示すように、制御信号バッファ部90aを介してバイアス電流切替部91の切替FETスイッチ91aのゲートをONさせる。その切替FETスイッチ91aのゲートをONすることによって、切替FETスイッチ91aは接地となる。PHYチップ11a,11bと接地との間の抵抗値は、バイアス電流制限抵抗91bだけとなる。そのバイアス電流制御抵抗91bのみでPHYチップ11a,11bと接地との間の電流が調整され、PHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限することになる。
【0026】
この第1の実施の形態にあっては、ECOモード選択スイッチ6が通常モードに選択された場合のバイアス電流制限抵抗91bは、PHYチップ11a,11bに規定された抵抗値を実装している。これは、IEEE802.3規格に準拠した信号振幅レベルを保証するため、通常モードを選択した場合のバイアス電流制限抵抗91bの抵抗値を変更することができないからである。
【0027】
ECOモード選択スイッチ6がECOモードに選択された場合は、バイアス電流制限抵抗91bの抵抗値を変更することはできないが、バイアス電流制限抵抗91cの抵抗値は、ネットワークケーブル4a,4bの長さの制限度合に可変することが可能である。バイアス電流制限抵抗91cの抵抗値を大きくすることで、ネットワークケーブル4a,4bの長さを短くすることが可能であり、PHYチップ11a,11bの消費電力を少なくすることができる。このように、ネットワークケーブル4a,4bの長さに合わせてスイッチングハブ1の消費電力の度合が制御できる。
【0028】
(伝送信号レベルの波形)
図4(a)は、スイッチングハブを通常モードにしたときのPHYチップの伝送信号レベルの実測波形を模式的に示している。図4(b)は、スイッチングハブをECOモードにしたときのPHYチップの伝送信号レベルの実測波形を模式的に示している。これらの図において、横軸は時間(μS)を示し、縦軸は電圧値(V)を示す。測定時の信号伝送速度は、例えば1Gbpsである。
【0029】
図4(a)は、スイッチングハブ1を通常モードにした場合のPHYチップ11a,11bの伝送信号レベルの実測波形の一例であり、IEEE802.3規格に準拠した信号伝送波形である。
【0030】
図4(b)は、スイッチングハブ1をECOモードにした場合のPHYチップ11a,11bの伝送信号レベルの実測波形の一例であり、ネットワークケーブル4a,4bの長さを50mまでに制限したときの信号伝送波形である。図4(b)に示す信号伝送波形は、IEEE802.3規格に準拠した図4(a)に示す信号伝送波形と比べて、PHYチップ11a,11bの伝送信号の振幅レベルが小さくなっただけであり、伝送信号の形と質とは、変形も変化もしていない。この図4(b)から明らかなように、スイッチングハブ1のECOモードでの送受信の正常性を保証できることが分かる。
【0031】
実際のネットワーク環境を考慮して、ケーブル長に対応したECOモードにすることで、PHYチップ11a,11bの内部バイアス電流を制限して伝送信号の振幅を小さく抑え、PHYチップ11a,11bの内部回路の消費電力を抑制することができる。IEEE802.3規格に準拠した最大ケーブル長である100mのネットワークケーブルに対応した通常モードでの消費電力と、ケーブル長を50mに制限したECOモードでの消費電力とでは、ECOモードの電力削減効果は、約20%の電力削減となる。
【0032】
なお、図示例にあっては、ECOモード選択スイッチ6を開状態(OFF)とした場合にECOモード状態に切り替え、ECOモード選択スイッチ6を閉状態(ON)とした場合に通常モードに設定する回路構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばECOモード選択スイッチ6を閉状態(ON)とした場合にECOモード状態に切り替え、ECOモード選択スイッチ6を開状態(OFF)とした場合に通常モード状態に設定する回路構成を使用してもよいことは勿論である。
【0033】
(第1の実施の形態の効果)
上記第1の実施の形態であるスイッチングハブ1によると、次の様々な効果が得られる。
(1)省電力化のための回路構成要素を少なくし、格別なソフトウェア制御を行う必要がないので、低コストであり、簡単な構成で、ネットワークケーブルの長さに合わせて省電力化を実現することができる。
(2)一般に、例えばIEEE802.3規格に準拠したネットワーク機器が適用されるネットワークシステムにおいては、IEEE802.3規格に準拠したネットワークケーブルにおける減衰等を考慮する必要があり、伝送信号の振幅は、ネットワークケーブルの最大ケーブル長に合わせて設定される。ネットワークケーブルの最大ケーブル長よりも短いネットワークケーブルは、必要以上に大きい振幅で伝送信号を出力していることになる。
図1における省電力システムにおいては、スイッチングハブ1のECOモードの状態下に稼働し、スイッチングハブ1と下位端末機器2a,2bとの間に接続されるネットワークケーブル4a,4bのケーブル長に応じた振幅の伝送信号が出力されるので、必要以上に大きい振幅の伝送信号を出力することを防止することができるようになり、余分な電力を消費することがない。
(3)下位端末機器2a,2bと接続する場合などは、ネットワークケーブル4a,4bを短尺にすることができるため、下位端末機器2a,2bへの伝送に要するドライブ電流をセーブすることができ、スイッチングハブ1の消費電力を節減することが可能である。
(4)スイッチングハブ1をECOモードに切り替えるとき、バイアス電流制限抵抗を制御し、PHYチップ11a,11b内部のバイアス電流を制限することで、送受信の正常性を保証しながら、省電力効果を実現することが可能になる。
(5)複数のケーブル長に対応するECOモードへの切替えを可能とすることに加えて、ケーブル長を制限しない(例えば、IEEE802.3規格に準拠した最大ケーブル長である100mに対応する)通常モードへの切替えも可能である。
(6)実際のネットワーク環境において、スイッチングハブ1と、同じエリアに設置された下位端末機器2a,2bとの間の距離が短く、かつ、別のエリアに設置された上位機器3との間の距離が遠い場合は、上記第1の実施の形態に係るスイッチングハブ1を使用することによって、省電力効果を実現することが可能になり、環境に優しい省電力システムが得られる。
【0034】
[バイアス電流制御切替部の変形例]
上記のように構成されたスイッチングハブ1は、例えばIEEE802.3規格に準拠した最大ケーブル長100m以下、例えば50mの短尺ケーブル長で動作するように、バイアス電流制御切替部9a,9bの値を最大ケーブル長100mの対応からケーブル長50mの対応へ切り替えられるように選択可能とし、ECOモードと通常モードとの2つの動作モードに切り替える構成を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明にあっては、例えば各種のケーブル長に合わせて多段階のECOモード選択方式を採用することで、バイアス電流制御切替部9a,9bの値を多段階に選択する構成とすることができる。
【0035】
ECOモード選択スイッチ6を通常モードに選択したとき、スイッチングハブ1は、上述したように通常モード状態となり、PHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限しなくなる。この場合は、PHYチップ11a,11bの伝送信号の振幅レベルは、IEEE802.3規格に準拠して設定され、絶縁用パルストランス15a,15b、送受信端子17a,17bを経由して、長さがIEEE802.3規格に規定した最大100mまで接続可能な各種の長さのネットワークケーブルを介して下位端末機器2a,2bと接続され、通信を行うことができる。
【0036】
スイッチングハブ1におけるユーザーの実際のネットワーク環境やニーズを考慮し、パソコンなどの下位端末機器2a,2bにアップリンクしている下位ポートP1,P3に対しては、複数のECOモードの中からケーブル長に合わせたECOモードを選択することができる。ユーザーの使用方法の変更の際には、ECOモードで使用していた下位ポートP1,P3を通常モードへ切替えることも可能となる。スイッチングハブ1の実際の使用に合わせてECOモード選択スイッチ6をECOモード又は通常モードに適宜に選択することで、例えばIEEE802.3規格に規定した最大100mのケーブル長を有するネットワークケーブルの使用も可能となる。
【0037】
複数のケーブル長に対応した複数のECOモードの中からケーブル長に合わせたECOモードが選択できるとともに、例えばIEEE802.3規格に準拠した最大ケーブル長に対応した通常モードに切り替えることができるため、ケーブル長に合わせた省電力化を可能とするともに、例えばIEEE802.3規格に準拠した最大ケーブル長に対応した機器として全ポートを使うこともできる。
【0038】
[第2の実施の形態]
次に、図1及び図2を参照しながら、第2の実施の形態における省電力手段の一例を説明する。この省電力手段は、上記第1の実施の形態に係る省電力手段と、通信状態を確認する通信表示部である通信表示系LED8と、通信表示スイッチであるLED VIEW選択スイッチ7とを有している。
【0039】
LED VIEW選択スイッチ7としては、例えばトグルタイプの開閉器を使用することができる。ECOモード選択スイッチ6をECOモードに選択した場合は、LED VIEW選択スイッチ7を有効化することができる。ユーザーがスイッチングハブ1の通信表示系LED8を確認したい場合には、LED VIEW選択スイッチ7をオン状態に選択する。ユーザーがLED VIEW選択スイッチ7を押すことで所定角度に傾斜した状態を維持している間は、実際の通信状態に合わせた通信表示系LED8の表示(例えばリンク時に「点灯」、アクト時に「点滅」、そしてネットワークケーブルの接続がない場合やリンク状態が未確立などの場合は「消灯」)を確認することができる。ユーザーがLED VIEW選択スイッチ7を押さなければ、通信表示系LED8が消灯状態になる。
【0040】
一方、スイッチングハブ1のECOモード選択スイッチ6を通常モードに選択した場合は、ユーザーがLED VIEW選択スイッチ7をON操作又はOFF操作しても、LED VIEW選択スイッチ7が無効化されており、スイッチングハブ1の通信表示系LED8は、実際の通信状態に合わせた表示になる。
【0041】
実際のネットワーク環境においては、通信表示系LED8を常時確認する必要がない。このことから、スイッチングハブ1をECOモードに稼働した場合は、電源表示LED以外の通信表示系LED8を消灯した状態に維持するように構成し、通信状態等を確認したいときだけLED VIEW選択スイッチ7を使用して通信表示系LED8の機能を働かせるように構成したので、LED発光によるエネルギーの消費を節減することができる。これにより、スイッチングハブ1の消費電力を節減することが可能となる。スイッチングハブ1の通信表示系LED8の消灯により、約2%の電力削減効果を得ることができる。
【0042】
(第2の実施の形態の効果)
上記第2の実施の形態であるスイッチングハブ1によると、上記第1の実施の形態の効果に加えて次の効果が得られる。
(1)スイッチングハブ1のECOモード選択スイッチ6をECOモードに選択した場合は、上記第1の実施の形態のようにPHYチップ11a,11bのバイアス電流を制限することに加えて、スイッチングハブ1の電源の状態を表示する電源表示LED以外の通信に関連する全ての通信表示系LED8を消灯状態にすることで、スイッチングハブ1の消費電力を更に一層抑制することができる。
【0043】
[第3の実施の形態]
更に、図1及び図2を参照しながら、第3の実施の形態における省電力手段の一例を説明する。上記第1の実施の形態にあっては、2個の下位ポートP1,P3(送受信端子17a,17b)に対して単一のECOモード選択スイッチ6を設けていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばECOモード選択スイッチ6を各ポートP1,P3(送受信端子17a,17b)に個別に設けることも可能である。ECOモード選択スイッチ6を他のポートP2,P4〜P7に個別に設けることも可能であることは勿論である。この第3の実施の形態にあっても、上記第2の実施の形態に係る通信表示系LED8及びLED VIEW選択スイッチ7を備えることができる。
【0044】
(第3の実施の形態の効果)
上記第3の実施の形態であるスイッチングハブ1によれば、上記第1及び第2の実施の形態の効果に加えて次の効果が得られる。
(1)使用するケーブル長に対応してECOモードを個別に設定することができるとともに、ユーザーの実際のネットワーク環境やニーズに十分に適合させることができるようになり、実用的な価値が大きい。
【0045】
[第4の実施の形態]
更に、図1及び図2を参照しながら、第4の実施の形態における省電力手段の一例を説明する。下位ポート及び上位ポートに空きポートがある場合は、LSIチップの固有省電力方法の一つであるオートパワーセーブ機能を併用することで、大幅な電力削減効果が得られる。ECOモード選択スイッチ6をECOモード又は通常モードに選択したにもかかわらず、PHYチップ11a,11b,12の固有機能であるオートパワーセーブ機能を併用することができる。
【0046】
スイッチングハブ1の電源起動直後に、LSI内部機能設定ROM14により、スイッチングチップ(MAC:メディアアクセス制御、LSIチップ)13の内部レジスタを設定し、PHYチップ11a,11b,12のオートパワーセーブ機能を有効に設定にすることができる。PHYチップ11a,11b,12のオートパワーセーブ機能が有効になると、スイッチングハブ1と下位端末機器2a,2bとの間のネットワークケーブル4a,4b、あるいはスイッチングハブ1と上位機器3との間のネットワークケーブル5が未接続のとき、並びに、下位端末機器2a,2bもしくは上位機器3が電源ダウンしたとき、スイッチングハブ1における未使用の下位ポート及び上位ポートに対応したPHYチップ11a,11b,12のオートパワーセーブ機能が稼働する。
【0047】
このとき、スイッチングハブ1の未使用の下位ポート及び上位ポートがオートパワーセーブ状態に入り、PHYチップ11a,11b,12の内部に設けられた図示しないリンク信号検出用回路及び管理用シリアル・インターフェース(例えば、MDIO/MDC)のみがアクティブ状態となり、PHYチップ11a,11b,12の消費電力の抑制を図ることができる。
【0048】
また、オートパワーセーブ状態では、接続相手機器である下位端末機器2a,2b並びに上位機器3の接続状態を監視するため、定期的(数秒間隔)にWAKE−UP信号(例えば、FLP「First Link Pulse」信号、NLP「Normal Link Pulse」信号)を送出し、接続相手機器の有無をモニターニングする。一旦、接続相手機器を検出した場合は、オートパワーセーブ状態を解除し、通常の動作状態に復帰する。このように、PHYチップ11a,11b,12の固有機能であるオートパワーセーブ機能を併用することにより、スイッチングハブ1に未使用ポートがある場合には、その未使用ポートに対応したPHYチップの消費電力を約15%削減することができる。
【0049】
(第4の実施の形態の効果)
この第4の実施の形態に係る省電力手段のオートパワーセーブ機能と、上記第1〜第3の実施の形態に係る省電力手段の機能との組合せ、及びこれらの機能の選択により省電力化を効果的に図ることができる。
【0050】
以上の説明からも明らかなように、上記各実施の形態にあっては、IEEE802.3規格の伝送技術の構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、例えばIEEE802.3規格以外の他の伝送技術に適用することができることは勿論であり、本発明の初期の目的を十分に達成することができる。従って、本発明は、上記各実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の代表的な実施の形態であるECOモード機能付きのスイッチングハブを利用した省電力システムの一構成例を示す概略図である。
【図2】図1におけるスイッチングハブの動作ブロック図である。
【図3】図2におけるバイアス電流制御切替部の内部回路の一構成例を概略的に示す図である。
【図4】(a)は、スイッチングハブを通常モードにしたときのPHYチップの伝送信号レベルの実測波形を模式的に示す図であり、(b)は、スイッチングハブをECOモードにしたときのPHYチップの伝送信号レベルの実測波形を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 スイッチングハブ
2a,2b 下位端末機器
3 上位機器
4a,4b,5 ネットワークケーブル
6 ECOモード選択スイッチ
7 LED VIEW選択スイッチ
8 通信表示系LED
9a,9b バイアス電流制御切替部
10 バイアス電流制御部
11a,11b,12 PHYチップ
13 スイッチングチップ
14 LSI内部機能設定ROM
15a,15b,16 絶縁用パルストランス
17a,17b,18 送受信端子
90a 制御信号バッファ部
91 バイアス電流切替部
91a 切替FETスイッチ
91b,91c バイアス電流制限抵抗
P1〜P7 下位ポート
P8 上位ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークケーブルの長さに対応して省電力モードに設定する省電力手段を有するポートを、少なくとも1ポート以上有することを特徴とするネットワーク機器。
【請求項2】
前記省電力手段は、前記省電力モードへの切り替え、及び通常モードへの切り替えを行う省電力モード選択スイッチと、前記省電力モード選択スイッチの操作に基づき通信制御用のLSIチップのバイアス電流を制御するバイアス電流制御切替部とを有していることを特徴とする請求項1記載のネットワーク機器。
【請求項3】
前記バイアス電流制御切替部は、前記LSIチップのバイアス電流を設定するバイアス電流抵抗器の値を調整することにより前記LSIチップの消費電流を制限することを特徴とする請求項2記載のネットワーク機器。
【請求項4】
前記省電力モード選択スイッチは、前記ポート毎に個別に設けられていることを特徴とする請求項2記載のネットワーク機器。
【請求項5】
前記省電力手段は更に、通信状態を確認する通信表示部と、通信表示スイッチとを有し、
前記省電力モードを選択した場合には、前記通信表示スイッチの操作により前記通信表示部への電源供給のON/OFFを選択できるように構成され、
前記通常モードを選択した場合には、前記通信表示スイッチの操作を無効にするように構成されていることを特徴とする請求項2記載のネットワーク機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−28448(P2010−28448A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187381(P2008−187381)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(591004146)平河ヒューテック株式会社 (18)
【Fターム(参考)】