説明

ノイズフィルタ

【課題】 フィルタ部とコネクタ部を一体化し、かつコイルとコネクタの接続部を短くする、または削除するのでインピーダンス特性のバラツキ要因が排除され、特性の安定化と共に、小型化及び低コスト化も同時に実現しうるノイズフィルタの提供を目的とする。
【解決手段】 ノイズフィルタは、コイル1の空芯部にコア2とコネクタ端子4を同時に収納するボビンケース3を有し、コイル1とコネクタ端子4を直接接合する構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器から発生する電磁ノイズや、外部から伝播する電磁ノイズを吸収し、機器の動作・機能障害を防止するために使用されるノイズフィルタに関するもので、特に自動車の窓ガラスなどに内蔵される、ラジオ受信用の車載アンテナに好適なノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車市場における電子制御技術や高速通信技術の技術革新が目覚しく、エンジンの点火装置、ハイブリッド車のインバータ装置、電動スイッチなどの各種電子制御装置(ECU)などによる多種の電磁ノイズ発生が顕著である。そこで、該電磁ノイズを抑制・除去して装置の誤動作防止やラジオを初めとした各種情報信号の送受信障害を防止するために用いられる、ノイズフィルタが一般的に使用されている。
【0003】
例えば車載ラジオ用ノイズフィルタは、電磁ノイズの抑制とラジオ受信感度向上の為に使用されているが、対象となる広範囲のラジオ周波数帯域においてインピーダンス特性の変動を最小限に抑える必要があった。また、昨今の交通情報サービスの多様化や自動車内外の高速データ通信化により、車載用の各種電子制御装置(ECU)の耐ノイズ性能要求が一層高まってきている。
【0004】
図5は従来のノイズフィルタを説明する図である。図示しないコアを含むコイル7の一方の端末にはブッシュ9が、他方の端末にはBNCコネクタ10が各々コイル7から離れた構成で接続されている。コイル7の端末と同軸ケーブル12の端部はブッシュ9を介して接続され、前記ブッシュ9とBNCコネクタ10を固定するように絶縁ケース8で覆い、同軸ケーブル12の他端をBNCコネクタ11に接続している。このようなノイズフィルタは、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−340770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のノイズフィルタのコイルとコネクタ間には隙間があるため、各々を接続するリード線が長くなってしまい、そのリード線の長さ及び接触抵抗の影響により高周波領域での特性変動が避けられず、その結果、ノイズ抑制効果が変化・低下し、ラジオ受信感度・性能が低下する場合があった。また、接続リード線の使用による部材コストの増加や、外形寸法が増大するという欠点があった。
【0007】
従って、本発明は、コイル空芯部にコア及びコネクタを収納することにより、フィルタ部とコネクタ部を一体化し、かつコイルとコネクタの接続部を短くする、または削除するのでインピーダンス特性のバラツキ要因が排除され、特性の安定化と共に、小型化及び低コスト化も同時に実現しうるノイズフィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決するために、電磁ノイズの除去機能の低下やラジオ受信感度・性能の低下を引き起こす代表的な要因である接続リード線を削除し、すなわち、接続リード線自体が持つ不要なL成分や、接続リード線自体が持つアンテナ作用による悪影響を排除し、筒状に巻回したコイルの空芯部にコアとコネクタを同時に収納・挿配し、フィルタ部とコネクタ部とを一体化させ、コイルとコネクタ間の接続距離を短くすることで、バラツキが少ない安定したインピーダンス特性を確保するよう構成する。
【0009】
本発明によれば、フィルタ部と、外部装置へ接続する少なくとも1つのコネクタ部と、前記フィルタ部と前記コネクタ部を中継する接続部を備えたノイズフィルタであって、前記フィルタ部は筒状に巻回したコイルと、前記コイルの空芯部に挿配されたコアから成り、かつ前記コネクタ部は前記コイルの空芯部に配設して成ることを特徴とするノイズフィルタが得られる。
【発明の効果】
【0010】
コイル空芯部にコア及びコネクタを収納することにより、フィルタ部とコネクタ部を一体化し、かつ従来よりあったコイルとコネクタの接続部を短くする、または削除するのでインピーダンス特性のバラツキ要因が排除され、特性の安定化と共に、小型化及び低コスト化も同時に実現しうるノイズフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本発明のノイズフィルタを説明する外観図で、図1(a)は上面図を、図1(b)は正面図を、図1(c)は左側面図を、図1(d)は右側面図をそれぞれ示す。
【0013】
ノイズフィルタは、図示しないコイル及びコアとコネクタ端子4を内蔵したボビンケース3とから成るフィルタ部と、バッテリーへ接続するコネクタ6と、これらを中継する絶縁被覆付きリード線5とから成るコネクタ部で構成されている。なお、絶縁被覆付きリード線5の一端は、コネクタ6の圧着部6aで圧着・半田付けしている。
【0014】
図2は、本発明のノイズフィルタのフィルタ部の内部構造を示す拡大断面図で、図2(a)は上面断面図を、図2(b)は正面断面図を、図2(c)は左側面断面図を、図2(d)は右側面断面図をそれぞれ示す。
【0015】
フィルタ部はコイル1、コア2、ボビンケース3、コネクタ端子4から構成される。コイル1、コア2、コネクタ端子4を収納したボビンケース3は、絶縁用封止樹脂で一体成形されている。
【0016】
コイル1は、円筒状に巻回された往復2層巻の構造で、コイルの巻終り端末1bは、コネクタ端子4の片側端末に直接半田付けして接合しており、コイルの巻始め端末1aは図示しない絶縁被覆付きリード線に接続される。なお、前記絶縁被覆付きリード線を介して車載バッテリーへと接続される。
【0017】
コア2は、半円柱状の2つのコアをコネクタ端子4の左右から挟むような構成でボビンケースに挿配している。
【0018】
ボビンケース3は、円柱状で、その中心部に半円柱状の2つのコア2を収納する半円形の仕切り穴と、コネクタ端子4を収納する長方形の仕切り穴が形成されている。また、円柱底面にはコネクタ端子4が外部機器と接続するための開穴部3dを設けている。
【0019】
図3および図4は、本発明のノイズフィルタのボビンケース構造を説明する外観斜視図である。
【0020】
図3はコイル、コア、コネクタ端子を各々独立して収納する場合のボビンケースの外観斜視図を示し、ボビンケース3はコイル収納部3aと、2つのコア収納部3bと、コネクタ端子収納部3cとから成る構造をしている。
【0021】
図4はコイル、コアのみを独立して収納する場合のボビンケースの外観斜視図を示し、ボビンケース3はコイル収納部3aとコア収納部3bとを備えている。コネクタ端子はコア収納部3bにコアと一緒に収納するため、コアとコネクタ端子間は絶縁フィルムや絶縁紙等(図示せず)を用いて絶縁して収納する。なお、絶縁性の高いNi−Zn系フェライトコアを用いる場合は、前記絶縁処置を行わなくてもよい。
【0022】
コイルは、筒状に巻回された空芯コイルで、外形を保持するために必要に応じて数箇所を接着したり、皮膜融着線を用いて熱固着してもよい。空芯部形状は、横断面が円形、楕円形、多角形等、どんな形状でもよいが、ワイヤ皮膜への曲げ応力を軽減できる、円形がより好ましい。ワイヤ線径は所要電流により、また巻回数は要求される周波数帯域、インピーダンス特性により、更に巻構造は、単層巻、多層巻の何れでもよく、要求寸法により、それぞれ設計・調整するのが好ましい。また、巻線の材質は、銅、アルミニウム等の導電材を絶縁塗装や絶縁被覆した、汎用的な絶縁導線であればいずれでもよい。
【0023】
コアの材質は、高周波での磁気特性、鉄損に有効な、Ni−Zn系、Mn−Zn系等のフェライトが好ましい。また、コア形状は、コイル1の空芯部に挿入できる、柱状形であれば円柱、楕円柱、多角柱等どんな断面形状のものでもよい。但し、スペースの有効活用と小型化の観点から、コイル空芯部の形状と同一の断面形状とするのがより好ましい。更に、前記柱状のコアを長手軸方向に2等分割した2つのコアで、コネクタ端子を上下または左右から挟むようにコイル空芯部に挿配する構成でもよい。なお、このような分割コアを用いる場合に使用するボビンケースは、図3、図4に示した形態の何れでもよい。しかし、上記の分割コア以外に、柱状の中央部が貫通した筒状の一体型コアを用いて、前記貫通部にコネクタ端子を挿配する構成でもよく、その貫通穴形状も前記同様に横断面が円形、楕円形、多角形どんな断面形状でもよい。なお、この一体型コアを用いる場合には、図4に示した形態のボビンケースを使用するのがよい。
【0024】
ボビンケースは、絶縁用封止樹脂の成形体で、エポキシ系やフェノール系の熱硬化性樹脂や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)等の熱可塑性樹脂の何れの樹脂を用いてもよい。また、構造は、コア、コイル、コネクタ端子の各々が絶縁されている構造であればよく、図3に示すような前記各部品全てが個別に収納する構造でも、図4に示すようなコアとコイルのみが隔離される構造でもよい。但し、図4の場合は、コイルとコネクタ端子間には絶縁用の薄板、フィルム、テープ等を用いて、コイルとコネクタ端子が直接接触しないようにするのが好ましい。更に、外観および仕切り形状は、スペースの有効活用と小型化の観点からコイル、コア、コネクタ端子がスムーズに挿入できるよう、それぞれの外形に合った形状にするのが好ましい。
【0025】
コネクタ端子は、片側を外部機器との結合端末とし、もう片側の先端はコイルのワイヤ先端部を保持できるようU字形に形成され、当該部にコイルワイヤを挟みこみ、圧着・半田付けし、接合するのがよい。コネクタ端子の材質は、汎用的な黄銅のほか、硬銅、青銅、鉄−クロム合金(ステンレス)等の合金製を用いてもよく、剛性と比抵抗から適宜選定するのが好ましい。
【0026】
絶縁被覆付きリード線は、コイルのもう一方のワイヤ先端とバッテリー端末へ接続するコネクタとを中継する線で高耐熱、高耐圧性の被覆電線を選定するのが好ましく、また線径は所要電流によりAWGサイズを適宜調整するのが好ましい。なお、絶縁被覆付きリード線とコネクタは圧着部6aで圧着・半田接合するのが好ましい。
【0027】
コア、コイル、コネクタ等をボビンケースに収納した後に、ボビンケースに封止樹脂を充填して固着するのが好ましい。以下、実施例を用いて詳述する。
【実施例】
【0028】
外形φ7mm、長さ30mmの円柱状巻冶具に、線径φ1.7mmのポリエステルエナメル被覆銅線(PEW)を14ターンを往復2層巻きし、エポキシ接着剤EP−138(セメダイン社製)を巻始め、巻終り部に塗布・接着して空芯コイルを作製した。
【0029】
コア2は、Ni−Zn系フェライト材とし、外形φ4mm、長さ20mmの円柱状コアを長手軸方向に2等分した半円柱状コアを2個用意した。
【0030】
ボビンケース3は、図3に示す形態で、内径φ5mm、外径φ18mm、肉厚0.6mm、長さ25mmの円柱状でポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂で成形したものを用いた。
【0031】
コネクタ端子4は、汎用的な黄銅を用い、コイルのワイヤ先端部を保持できるよう片側がU字形に形成されたものを用いた。
【0032】
絶縁被覆付きリード線5は、長さ70mmの自動車用被覆電線(仕様名:AVS線、AWG16)を用いた。
【0033】
上記の要領で作製し、図1に示したノイズフィルタと同様の本発明によるノイズフィルタを得た。また、同一部材、製法で、コイルとコネクタ端子間に接続リード線を有する図5に示したノイズフィルタを作製し、比較例とした。本発明によるノイズフィルタと比較例によるノイズフィルタのインピーダンス特性のバラツキと受信障害有無について比較を行い、その結果を表1に示す。なお試料数はn=20とし、特性バラツキに関しては、AMおよびFMラジオ周波数帯域の代表3周波数でのインピーダンスの最小値、最大値、標準偏差(σ)を比較した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示す通り、本発明のノイズフィルタは、インピーダンス特性の代表3周波数の何れにおいても、特性バラツキが約30%以上低減し、安定した特性を示している。また、受信障害は、本発明では20個中ゼロであったのに対し、接続リード線を有する比較例では20個中2個であった。
【0036】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のノイズフィルターにより、車載用の各種電子制御装置(ECU)、電動スイッチなどから発生する多種電磁ノイズを抑制・除去し、ラジオの受信障害のみならず、各種電子制御装置の誤動作、機能障害を防止すると共に、今後益々発展が注目されている、自動車間の高速通信技術の向上、各種情報サービスの多様化、市場の拡大化に不可欠で、より厳しい耐ノイズ性能と小型化が求められる車載用装置による安全運転支援システムや高度道路交通システム(ITS)などの高度情報通信ネットワークの構築にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のノイズフィルタを説明する外観図、図1(a)は上面図、図1(b)は正面図、図1(c)は左側面図、図1(d)は右側面図。
【図2】本発明のノイズフィルタのフィルタ部の内部構造を示す拡大断面図、図2(a)は上面断面図、図2(b)は正面断面図、図2(c)は左側面断面図、図2(d)は右側面断面図。
【図3】本発明のノイズフィルタのボビンケースの外観斜視図。
【図4】本発明のノイズフィルタのボビンケースの外観斜視図。
【図5】従来のノイズフィルタを説明する図。
【符号の説明】
【0039】
1 コイル
1a 巻始め端末
1b 巻終り端末
2 コア
3 ボビンケース
3a コイル収納部
3b コア収納部
3c コネクタ端子収納部
3d 開穴部
4 コネクタ端子
5 絶縁被覆付きリード線
6 コネクタ
6a 圧着部
7 コイル
8 絶縁ケース
9 ブッシュ
10、11 BNCコネクタ
12 同軸ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ部と、外部装置へ接続する少なくとも1つのコネクタ部と、前記フィルタ部と前記コネクタ部を中継する接続部を備えたノイズフィルタであって、前記フィルタ部は筒状に巻回したコイルと、前記コイルの空芯部に挿配されたコアから成り、かつ前記コネクタ部は前記コイルの空芯部に配設して成ることを特徴とするノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−54713(P2009−54713A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218644(P2007−218644)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】