説明

ノイズ測定装置およびノイズ測定方法

【課題】簡単な制御でMG2によるノイズの測定精度を上昇させることのできるノイズ測定装置およびノイズ測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明のノイズ測定装置1は,第1および第2の回転電機(MG1,MG2)を有する供試体10の回転時のアコースティックノイズを測定するものであって,第1および第2の入出力回転軸(31,32,33)の回転速度を個別に操作するモータ42,44,47と,各モータを制御する操作計測盤20と,供試体10のアコースティックノイズを取得するマイク24とを有し,第1および第2の入出力回転軸を,MG1が回転しない回転速度比にて回転させ,その状態でマイク24により供試体10のアコースティックノイズを取得するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばHVトランスアクスルのように,2つの回転電機と複数の入出力回転軸を有する供試体の各所から発生するノイズを測定するための測定装置および測定方法に関する。さらに詳細には,2つの回転電機のそれぞれを発生源とするノイズを個別に測定できるノイズ測定装置およびノイズ測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車に用いられるHVトランスアクスルは,2つのモータ・ジェネレータ(以下,MGという)とデフとを有し,それらが各種のギアを介して連結されているものである。2つのMGは,エンジンからの駆動力を受けて回転され,各種のギアとデフとを介して,両輪へつながる出力軸を回転させる。以下では,エンジンからの入力軸が連結され,主にジェネレータとして機能する側のMGをMG1という。また,各種のギアとデフとを介して両輪への出力軸が連結され,主にモータとして機能する側のMGをMG2という。なお,各種のギアには2つのプラネタリギアのリングギアが一体化された複合プラネタリギアが含まれ,MG1の回転軸はFrプラネタリギアのサンギアに,MG2の回転軸はRrプラネタリギアのサンギアに接続されている。
【0003】
モータノイズ,ギアノイズ等のノイズを測定する際には,ノイズの発生源毎にできるだけ個別に測定することが望まれる。しかし,ノイズの測定は,一般にマイクによる集音によって行われるため,測定対象箇所から発生するノイズを,測定箇所以外の駆動音や測定装置自体によるノイズと分けて抽出することは難しい。これに対してギアノイズの測定方法として従来より,ダミー供試体を用いて暗騒音を求める測定方法(特許文献1参照。)や,冷却装置のモータ騒音を小さくした測定方法(特許文献2参照。)等が提案されている。
【0004】
なお,従来のHVトランスアクスルのノイズ測定方法は,以下のようなものであった。まず,測定対象のHVトランスアクスルのエンジンからの入力軸と両輪への出力軸との3軸を,それぞれ3軸ベンチの各軸に接続する。そして,MG1のノイズを測定する際には,両輪への出力軸をベンチ側から停止させることにより,MG2を停止させた状態で,MG1にトルクを発生させる。また,MG2のノイズ測定の際には,MG2にトルクを発生させるとともに,エンジンからの入力軸をフリーにしていた。
【特許文献1】特開2004−101400号公報
【特許文献2】特開2006−23244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来のノイズ測定方法では,MG2によるノイズの測定精度を上昇させることは容易ではなかった。その理由は,MG2のノイズ測定のためにMG2にトルクを発生させると,複合プラネタリギアを介してMG1の連れ回りが発生してしまうからである。そのうえ,このときのサンギアとキャリアとの速度比は不安定な状態であり,測定の度にMG1によるノイズの重畳量が変化する。そのため,MG2によるノイズを精密に求めることは困難であるという問題点があった。
【0006】
本発明は,前記した従来のノイズ測定方法が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,簡単な制御でMG2によるノイズの測定精度を上昇させることのできるノイズ測定装置およびノイズ測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のノイズ測定装置は,第1および第2の回転電機と,第1および第2の入出力回転軸とを有し,第1の回転電機と第1の入出力回転軸と第2の入出力回転軸との3者の回転速度が1次結合の関係となるとともに,第2の回転電機と第2の入出力回転軸との2者の回転速度が比例関係となるようにギヤで結合されている供試体の回転時のアコースティックノイズを測定するノイズ測定装置であって,第1および第2の入出力回転軸の回転速度を個別に操作する回転速度操作部と,回転速度操作部を制御する制御部と,供試体のアコースティックノイズを取得するノイズ取得部とを有し,制御部は,回転速度操作部により,第1および第2の入出力回転軸を,第1の回転電機が回転しない回転速度比にて回転させ,その状態でノイズ取得部により供試体のアコースティックノイズを取得する第1モードの測定を行うものである。
【0008】
本発明のノイズ測定装置によれば,回転速度操作部により第1および第2の入出力回転軸の回転速度を個別に操作するので,第1および第2の入出力回転軸を,第1の回転電機が回転しない回転速度比にて回転させることができる。すなわち,第2の回転電機を回転させたときの第1の回転電機の連れ回りを打ち消すように,第1および第2の入出力回転軸を回転させることができる。従って,第1の回転電機が回転していない状態で第2の回転電機から発生するノイズを取得できる。これにより,簡単な制御で第2の回転電機によるノイズの測定精度を上昇させることができる。なお,本発明におけるアコースティックノイズとは,騒音または振動を意味する。また,本発明における回転速度比には,符号,すなわち回転の向きの関係も含むものとする。
【0009】
制御部は,加速時および減速時に,ノイズ取得部により供試体のアコースティックノイズを取得することが望ましい。
このようなものであれば,特にノイズが発生しやすい加速時と減速時のアコースティックノイズを取得することができる。
【0010】
制御部は,回転速度操作部により第1の入出力回転軸を回転させるとともに第2の入出力回転軸を停止させ,その状態でノイズ取得部により供試体のアコースティックノイズを取得する第2モードの測定を行うことが望ましい。
このようにすれば,第2の回転電機が回転していない状態で,第1の回転電機から発生するアコースティックノイズを取得することができる。
【0011】
第2の入出力回転軸を2つ有し,それらがデフを介して第2の回転電機に結合されている供試体を対象とし,回転速度操作部は,2つの第2の入出力回転軸の回転速度を常に一致させることが望ましい。
このようにすれば,デフから発生するノイズをより小さくした状態でアコースティックノイズを測定することができる。
【0012】
制御部は,基準回転速度にゲインを掛けた回転速度で第1の入出力回転軸を回転させることを回転速度操作部に指示する第1速度指令信号と,基準回転速度に第2のゲインを掛けた回転速度で第2の入出力回転軸を回転させることを回転速度操作部に指示する第2速度指令信号とを出力する速度指令制御部と,第1モードの測定の際に,速度指令制御部における第1のゲインと第2のゲインとの比を,供試体にて第1の回転電機を停止させた状態での第1および第2の入出力回転軸のギア比と等しく設定するゲイン設定部とを有することが望ましい。
供試体にて第1の回転電機を停止させた状態での第1および第2の入出力回転軸のギア比と等しい回転速度比で第1および第2の入出力回転軸を回転させると,第1の回転電機を停止させた状態で第2の回転電機を回転させることができる。
【0013】
第2の回転電機にトルクを発生させる運転部を有し,制御部は,運転部により第2の回転電機にトルクを発生させつつ,第1モードの測定を行うことが望ましい。
このようにすれば,トルク発生時のアコースティックノイズを測定することができる。なお,運転部は第1の回転電機にもトルクを発生させることが望ましい。
【0014】
また,本発明は,第1および第2の回転電機と,第1および第2の入出力回転軸とを有し,第1の回転電機と第1の入出力回転軸と第2の入出力回転軸との3者の回転速度が1次結合の関係となるとともに,第2の回転電機と第2の入出力回転軸との2者の回転速度が比例関係となるようにギヤで結合されている供試体の回転時のアコースティックノイズを測定するノイズ測定方法であって,第1および第2の入出力回転軸を,第1の回転電機が回転しない回転速度比にて回転させ,その状態で供試体のアコースティックノイズを取得するノイズ測定方法にも及ぶ。
【発明の効果】
【0015】
本発明のノイズ測定装置およびノイズ測定方法によれば,簡単な制御でMG2によるノイズの測定精度を上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,HVトランスアクスルのノイズを測定する測定装置に本発明を適用したものである。
【0017】
本形態のノイズ測定装置1は,図1に示すように,供試体10を取り付けて使用されるものである。図中太線で囲んだ部分が供試体10である。まず,本形態の測定対象である供試体10について説明する。本形態の供試体10は,HV車に搭載されるHVトランスアクスルである。
【0018】
本形態の測定対象である供試体10は,図2に示すように,2つのMG(MG1,MG2)とデフ13とを有している。さらにそれらが互いに複合プラネタリギア14とカウンタドリブンギア15とを介して結合されている。MG1は,主にジェネレータとして機能する側のMGであり,MG2は,主にモータとして機能する側のMGである。さらに,MG1とMG2の各ロータの回転軸11a,12aと同軸の位置には,この供試体10が自動車に搭載された状態でエンジンからの駆動を受けるエンジン軸16が配置されている。そして,デフ13の左右の軸が,左右の車軸に結合される左右のドライブシャフト軸17,18である。
【0019】
図2中に実線で示す範囲が供試体10である。MG1の回転軸11aとMG2の回転軸12aとエンジン軸16とは,複合プラネタリギア14を介して結合されている。複合プラネタリギア14は,MG1側のFrプラネタリギア14Aと,MG2側のRrプラネタリギア14Bとの2組のプラネタリギア機構を有し,このうち,Frプラネタリギア14Aのリングギア14A1とRrプラネタリギア14Bのリングギア14B1とが一体的に形成されているものである。
【0020】
すなわち,複合プラネタリギア14は,大リングギア14Dを有している。リングギア14A1,14B1はともに,大リングギア14Dの内面側に形成されている。また,大リングギア14Dの外面側には,カウンタドライブギア14Cが形成されている。カウンタドライブギア14Cは,カウンタドリブンギア15と噛み合っている。これにより,大リングギア14Dとデフ13とが,カウンタドリブンギア15を介して結合されている。
【0021】
これらのギアの関係を簡略化して図3に示す。Frプラネタリギア14Aは,リングギア14A1,キャリア14A2,サンギア14A3が組み合わされたものである。Rrプラネタリギア14Bは,リングギア14B1,キャリア14B2,サンギア14B3が組み合わされたものである。Frプラネタリギア14Aのキャリア14A2はエンジン軸16に,同じくサンギア14A3はMG1の回転軸11aに,それぞれ接続されている。
【0022】
また,MG2の回転軸12aは,Rrプラネタリギア14Bのサンギア14B3に接続されている。Rrプラネタリギア14Bのキャリア14B2は固定されている。これにより,カウンタドリブンギア15とMG2とは,単にギアで結合されているのと同等の関係である。なお,MG1が第1の回転電機,MG2が第2の回転電機,エンジン軸16が第1の入出力回転軸,ドライブシャフト軸17,18が第2の入出力回転軸にそれぞれ相当する。
【0023】
このように結合されていることから,MG1の回転軸11aとエンジン軸16と左右のドライブシャフト軸17,18との回転速度の関係は,1次結合の関係となっている。すなわちそれらの3つのうちの1つの回転速度は,他の2つの回転速度を用いて1次式で表すことができる。ここで,後述の理由により,ドライブシャフト軸17,18の回転速度は等しいものとする。また,MG2の回転軸12aとカウンタドリブンギア15との回転速度の関係は,比例関係となっている。従って,左右のドライブシャフト軸17,18とMG2の回転軸12aとの回転速度の関係も,比例関係となっている。すなわち定数倍である。なお,これらの関係の係数は,供試体10の種類ごとに異なる。
【0024】
本形態のノイズ測定装置1は,図1に示すように,操作計測盤20,バッテリシミュレータ21,トルク指令制御装置22,インバータ23,マイク24,FFT装置25を有している。さらに,供試体10が配置されて,その各軸の回転を制御するための3軸ベンチ30を有している。3軸ベンチ30は,INPUT軸31,左OUTPUT軸32,右OUTPUT軸33の3軸を有している。
【0025】
測定時には,図2に示すように,供試体10のエンジン軸16がINPUT軸31に,左右のドライブシャフト軸17,18がそれぞれ,左OUTPUT軸32と右OUTPUT軸33とに結合される。なお,本形態のノイズ測定装置1での測定時には,左右のOUTPUT軸32,33は常時同じ速度で回転するか,またはともに停止するように操作される。すなわち,左右のドライブシャフト軸17,18は,あたかもデフ13がロックされているかのように等速に制御される。
【0026】
本形態のノイズ測定装置1は,図1に示すように,INPUT軸31には,第1トルクメータ41と第1モータ42(M1)とが接続されている。すなわち,第1モータ42の軸はINPUT軸31に直結されている。左OUTPUT軸32には,第2トルクメータ44と第2モータ45(M2)が接続されている。また,右OUTPUT軸33には,第3トルクメータ46と第3モータ47(M3)とが接続されている。第2モータ45の軸は左OUTPUT軸32に,第2モータ47の軸は右OUTPUT軸33にそれぞれ直結されている。各モータ42,45,47には,それぞれサーボアンプ51,52,53が接続されている。いずれの軸も,サーボアンプからの入力を受けたモータによって回転制御される。回転時のトルクは,トルクメータで測定される。
【0027】
操作計測盤20は,計測者が操作して,測定のための各種パラメータを設定し,測定結果を取得するためのものである。操作計測盤20には,指示入力部61,ノイズ測定結果取得部62,速度指令制御部63が設けられている。指示入力部61は,測定の開始・終了の指示や供試体10の種類,設定トルク,設定速度等を,計測者が指示入力するためのものである。この指示入力部61が,本形態のノイズ測定装置1の全体の統括制御を行う。指示入力部61には,供試体10の種類等に対応させて,測定起動からの経過時間に対する複数種類の設定速度vが記憶されているので,計測者はそのうちから選択して入力する。指示入力部61はさらに,供試体10の種類等の入力を受けて,後述する速度ゲインKa,Kbを速度指令制御部63に設定する。
【0028】
本形態のノイズ測定は,MG1の回転軸11aやMG2の回転軸12aの加速時と減速時とに発生するノイズをそれぞれ測定することを目的としている。そのために,測定対象のMGの回転軸の回転速度を,例えば図4の最上段に示すように,停止状態から一定割合で最高速度まで加速する加速期間と,最高速度から一定割合で停止状態まで減速する減速期間とが設けられるように変化させる。この一連の速度変化を速度スイープという。この速度変化を示すのが上記の設定速度vであり,加速度や到達させる最高速度は,供試体10の種類や測定条件によりそれぞれ異なる。
【0029】
ノイズ測定結果取得部62は,測定結果を取得して,操作計測盤20に表示するとともに記録するためのものである。速度指令制御部63は,測定対象の供試体10の種類に応じた速度指令によって,3軸ベンチ30の各軸の回転速度を制御するためのものである。速度指令制御部63は,OUTPUT軸制御部63aとINPUT軸制御部63bとを有している。OUTPUT軸制御部63aは,サーボアンプ52,53に速度指令を出力して,左右のOUTPUT軸32,33の回転を制御するためのものである。本形態では,サーボアンプ52,53に出力される速度指令は同じものである。INPUT軸制御部63bは,サーボアンプ51に速度指令を出力して,INPUT軸31の回転速度を制御するためのものである。
【0030】
速度指令制御部63は,指示入力部61に入力された供試体10の種類と測定対象(MG1またはMG2)とに基づいて算出された速度ゲインKa,Kbの設定を受ける。あるいは,供試体10の種類を受けて,速度指令制御部63において速度ゲインKa,Kbを算出するようにしてもよい。そして,測定時には,速度指令制御部63は,時々刻々の設定速度vに速度ゲインKa,Kbをそれぞれ乗算して,2種類の速度指令ω2,ω1を算出する。さらに,サーボアンプ51に速度指令ω1を,サーボアンプ52,53の両方に速度指令ω2をそれぞれ出力する。なお,速度ゲインKa,Kbの算出方法については後述する。
【0031】
バッテリシミュレータ21は,MG1とMG2とに電力を供給するバッテリを模したものである。そして,バッテリシミュレータ21は,操作計測盤20から運転の開始や停止等の指示を受け,指示入力部61によって設定された各種の運転条件に基づいてインバータ23に駆動用の電力を供給するものである。トルク指令制御装置22は,指示入力部61からの計測者の指示に従って,インバータ23にトルク指令を出力するものである。また,トルク指令が許容範囲外であるような場合にはエラー信号を操作計測盤20へ出力することになる。
【0032】
インバータ23は,バッテリシミュレータ21から供給された電力を供試体10の駆動に適した交流電力に変換するものである。そのとき,トルク指令制御装置22からのトルク指令に基づいて,交流電力の電力値が調整される。インバータ23は,MG1とMG2とに個別に調整した電力を供給することができる。マイク24は,ノイズを集音してFFT装置25へ送出するものである。FFT装置25は,各トルクメータ41,44,46から受けたトルク値に基づいて,マイク24から受けた音のデータを周波数解析するものである。この結果は,各トルクメータ41,44,46のトルク値とともに,ノイズ分布として操作計測盤20のノイズ測定結果取得部62に入力される。
【0033】
本形態では,例えば,MG1を回転させるときには,トルク指令制御装置22によるトルク指令に基づいて,インバータ23からMG1に交流電力を供給する。MG2についても同様である。ここで,MG1,MG2から見て,モータ42,45,47が非常に重い。そのため,実際の回転速度は各モータに支配される。そこで,例えばMG1については,速度指令ω1に基づいて,サーボアンプ51からモータ42に電力が印加される。これにより,モータ42→INPUT軸31→エンジン軸16→キャリア14A2→サンギア14A3→回転軸11aと動力が伝搬され,MG1が速度指令ω1に基づいた回転速度で回転される。
【0034】
次に,本形態による測定方法について説明する。測定開始に先立ち,計測者は,本形態のノイズ測定装置1に供試体10を取り付ける。さらに計測者は,供試体10の種類を指示入力部61から入力する。本形態では,以下の2種のモードでのノイズ測定を行う。
(1)MG2のノイズ+ギアノイズの測定(第1モード)
(2)MG1のノイズ測定(第2モード)
である。なお,(1)において「ギアノイズ」とは,主にRrプラネタリギア14Bリングギア14B1の噛み合い,カウンタドリブンギア15の噛み合い,デフ13の噛み合いなどのギアの噛み合いノイズである。これらは,MG2を回転させると必ず連動して回転される部材である。そのため,MG2のノイズをギアノイズと切り離して測定することは不可能である。(1)と(2)のいずれの測定においても,他方のMGを停止させた状態で,測定対象であるMGを速度スイープさせる。
【0035】
(1)MG2のノイズ+ギアノイズの測定は,MG1を停止させた状態でMG2を速度スイープさせることによって行う。そして,MG2の加速期間と減速期間とができるようにするのである。MG2の回転速度が左右のOUTPUT軸32,33の回転速度に比例することから,MG2の回転速度を速度スイープさせるためには,左右のOUTPUT軸32,33を設定速度vに基づいて回転させればよい。すなわち,ω2=vであるので,Ka=1とすればよい。
【0036】
一方,左右のOUTPUT軸32,33が回転されている状態でMG1を停止させるために,連れ回りを打ち消す回転をINPUT軸31に与える。そのために,INPUT軸31の回転速度に対するOUTPUT軸32,33の回転速度の比を示すギア比Pを求め,速度ゲインKbを,Kb=Pとする。すなわち,ω1=v×Kb=vPとする。この回転速度は,何らかの手段によりMG1を強制的に停止させた状態で,左右のOUTPUT軸32,33を回転させたときの,INPUT軸31の連れ回り回転速度と同じである。
【0037】
ギア比係数Pは,以下の式で求めることができる。
P = r1×r2×r3
ただし,
r1 = デフ13のギア比
r2 = カウンタドリブンギア15のギア比
r3 = Frプラネタリギア14Aのサンギア14A3を固定したときのキャリア14A2とリングギア14A1とのギア比
である。なお,r1〜r3のギア比はいずれも,INPUT側/OUTPUT側の比率である。
【0038】
すなわち,このモードの測定では,Ka=1,Kb=Pに設定される。このようにすれば,MG1を停止させた状態でMG2を速度スイープさせることができる。なお,このギア比Pは,供試体10のギア構成により決定される。従って,この速度ゲインKa,Kbは供試体10ごとに決まった値である。そこで,あらかじめ算出して,供試体10の種類に対応させて操作計測盤20に記憶させておくとよい。
【0039】
この測定時の各所の速度変化を図4に示す。計測者によって測定開始が指示されると,バッテリシミュレータ21が運転開始され,インバータ23に電力が供給される。インバータ23からの電力によりMG2にトルクが発生し,やや遅れて速度指令ω2が立ち上げられる。この時点を時刻t1とする。このとき同時に速度指令ω1も立ち上げる。すると,速度指令ω2に従って,MG2の回転速度が上昇する。このときMG2はトルクを発生し続けている。そして,MG2の速度が,あらかじめ決められた最高速度に到達した時点を時刻t2とする。時刻t2に到達したら,MG2に発生させるトルクをいったん0にする。速度指令ω2は,時刻t2の後も,しばらくの間最高速度のままに保持される。その後,MG2に逆向きのトルクを発生させ,それとともに速度指令ω2も減少させていく。MG2が減速し始めた時点が時刻t3である。そして,MG2の回転速度が0になった時点が時刻t4である。
【0040】
このモードでは,図4の3段目に「M2,M3軸速度」として示している速度がOUTPUT軸32,33の速度であり,これが設定速度vでもある。OUTPUT軸32,33の速度が,この速度となるように,速度指令ω2(vに相当)に基づいて,サーボアンプ52,53によって第2モータ45,第3モータ47の回転が制御される。一方,INPUT軸31は,速度指令ω1(v×Kbに相当)に基づいて回転される。すなわち,サーボアンプ51によって,図4の1段目に示すように第1モータ42の回転が制御される。これにより,MG1は停止された状態で保持される。
【0041】
そして本形態では,加速期間(t1〜t2の間)と減速期間(t3〜t4の間)の発生ノイズをマイク24で集音し,FFT解析する。この測定期間中は,MG1は停止されているので,主な騒音の発生源はMG2およびカウンタドリブンギア15,デフ13である。従って,MG2によるノイズをかなり精密に測定することができる。
【0042】
(2)MG1のノイズ測定は,MG2を停止させた状態でMG1を速度スイープさせることによって行う。MG2は,左右のOUTPUT軸32,33の回転を停止させることで停止させることができる。従って,ω2=0とすればよい。すなわち,Ka=0とすればよい。一方,INPUT軸31は,設定速度vに基づいて速度スイープさせる。すなわち,ω1=vであり,Kb=1とすればよい。これにより,図5の2段目に示すように,MG1の回転速度が制御される。なお,この設定速度vは,(1)の測定の場合と同じでなくてもよい。
【0043】
この測定時の各所の速度変化を図5に示す。計測者によって測定開始が指示されると,バッテリシミュレータ21が運転開始され,インバータ23に電力が送出される。インバータ23は,トルク指令制御装置22によるトルク指令に基づいて,MG1に交流電力を供給する。その後,速度指令ω1が立ち上げられる。そして,サーボアンプ51によって第1モータ42の回転が制御され,それによりMG1の回転が開始される。この時点を時刻t5とする。そして速度指令ω1の上昇により速度がさらに上昇し,あらかじめ決められた最高速度に到達する。この時点を時刻t6とする。時刻t6に到達したら,MG1に発生させるトルクを0にする。その後,MG1に逆向きのトルクを発生させ,それとともに速度指令ω1を減少させて,MG1を減速させる。この減速し始めた時点を時刻t7とする。そして,MG1の速度が0になった時点が時刻t8である。
【0044】
このモードでは,MG2には速度指令ω2=0が設定されているので,図5の4段目のグラフに示すように,第2モータ45,第3モータ47は回転されない。すなわち,左右のOUTPUT軸32,33は回転しない。これより,図5の5段目のグラフに示すように,MG2は回転しない。そして,このモードでは,加速期間(t5〜t6の間)と減速期間(t7〜t8の間)の発生ノイズをマイク24で集音し,FFT解析する。この測定中は,MG2は停止されているので,主な騒音の発生源はMG1である。従って,MG1によるノイズを精密に測定することができる。
【0045】
以上詳細に説明したように,本形態のノイズ測定装置1によれば,
(1)MG2ノイズ+ギアノイズの測定では,Ka=1,Kb=Pとする。従って,MG1の回転が停止された状態で,MG2の回転速度が速度スイープされる。
(2)MG1のノイズ測定では,Ka=0,Kb=1とする。従って,MG2の回転が停止された状態で,MG1の回転速度が速度スイープされる。
従って,測定箇所以外からの余分な騒音はごく小さく,簡単な制御でMG2のノイズの測定精度を上昇させることのできるノイズ測定方法となっている。なお,(1)と(2)の測定の順序は逆でもよいし,(1)のみを行うものでもよい。
【0046】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,上記の形態の(1)の測定ではOUTPUT軸32の設定速度vを記憶しておき,INPUT軸31の速度指令ω1を算出するとしているが,INPUT軸31の速度指令ω1に相当するものを設定速度として記憶しておき,OUTPUT軸32の速度指令ω2をω2=ω1/Pから算出するとしてもよい。
また,トルク発生の有無でノイズに差がないものであれば,MG1,MG2にトルクを発生させない状態でノイズの測定をしてもよい。
また例えば,マイクに変えて加速度ピックアップを供試体に接触させて設けることにより,振動を測定するためのものとすることもできる。レーザーを利用すれば,非接触で振動を測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本形態に係るノイズ測定装置の概略構成図である。
【図2】ノイズ測定装置の測定対象である供試体の概略構成図である。
【図3】供試体のギア構成を模式的に示した説明図である。
【図4】MG2ノイズおよびギアノイズ測定時のタイムチャートである。
【図5】MG1ノイズ測定時のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 ノイズ測定装置
10 供試体
20 操作計測盤
23 インバータ
24 マイク
42 第1モータ
44 第2モータ
47 第3モータ
61 指示入力部
63 速度指令制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の回転電機と,第1および第2の入出力回転軸とを有し,第1の回転電機と第1の入出力回転軸と第2の入出力回転軸との3者の回転速度が1次結合の関係となるとともに,第2の回転電機と第2の入出力回転軸との2者の回転速度が比例関係となるようにギヤで結合されている供試体の回転時のアコースティックノイズを測定するノイズ測定装置において,
第1および第2の入出力回転軸の回転速度を個別に操作する回転速度操作部と,
前記回転速度操作部を制御する制御部と,
供試体のアコースティックノイズを取得するノイズ取得部とを有し,
前記制御部は,前記回転速度操作部により,第1および第2の入出力回転軸を,第1の回転電機が回転しない回転速度比にて回転させ,その状態で前記ノイズ取得部により供試体のアコースティックノイズを取得する第1モードの測定を行うことを特徴とするノイズ測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ測定装置において,
前記制御部は,加速時および減速時に,前記ノイズ取得部により供試体のアコースティックノイズを取得することを特徴とするノイズ測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のノイズ測定装置において,
前記制御部は,前記回転速度操作部により第1の入出力回転軸を回転させるとともに第2の入出力回転軸を停止させ,その状態で前記ノイズ取得部により供試体のアコースティックノイズを取得する第2モードの測定を行うことを特徴とするノイズ測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載のノイズ測定装置において,
第2の入出力回転軸を2つ有し,それらがデフを介して第2の回転電機に結合されている供試体を対象とし,
前記回転速度操作部は,2つの第2の入出力回転軸の回転速度を常に一致させることを特徴とするノイズ測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載のノイズ測定装置において,
前記制御部は,
基準回転速度にゲインを掛けた回転速度で第1の入出力回転軸を回転させることを前記回転速度操作部に指示する第1速度指令信号と,基準回転速度に第2のゲインを掛けた回転速度で第2の入出力回転軸を回転させることを前記回転速度操作部に指示する第2速度指令信号とを出力する速度指令制御部と,
第1モードの測定の際に,前記速度指令制御部における第1のゲインと第2のゲインとの比を,供試体にて第1の回転電機を停止させた状態での第1および第2の入出力回転軸のギア比と等しく設定するゲイン設定部とを有することを特徴とするノイズ測定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載のノイズ測定装置において,
第2の回転電機にトルクを発生させる運転部を有し,
前記制御部は,前記運転部により第2の回転電機にトルクを発生させつつ,第1モードの測定を行うことを特徴とするノイズ測定装置。
【請求項7】
第1および第2の回転電機と,第1および第2の入出力回転軸とを有し,第1の回転電機と第1の入出力回転軸と第2の入出力回転軸との3者の回転速度が1次結合の関係となるとともに,第2の回転電機と第2の入出力回転軸との2者の回転速度が比例関係となるようにギヤで結合されている供試体の回転時のアコースティックノイズを測定するノイズ測定方法において,
第1および第2の入出力回転軸を,第1の回転電機が回転しない回転速度比にて回転させ,その状態で供試体のアコースティックノイズを取得することを特徴とするノイズ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−216486(P2009−216486A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59188(P2008−59188)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】