説明

ノンハロゲン難燃性ケーブル

【課題】高い難燃性を得ると共に電子線照射をしても絶縁電線と被覆層との間に発生する隙間を抑制することができ、密着強度の低下を防止したノンハロゲン難燃性ケーブルを提供する。
【解決手段】導体11aの外周に絶縁層11bを有する絶縁電線11を複数撚り合わせた多芯撚線の外側に内層12bを設け、その内層12bに外層12aを設けたケーブルにおいて、上記外層12aが、熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して難燃剤を30質量部以上含有する樹脂組成物からなり、上記内層12bが、酢酸成分(VA)量33%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる樹脂組成物からなり、上記外層12aが架橋処理されてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)にメラミンシアヌレート(MC)およびリン化合物を配合した樹脂組成物を最外層とし、最外層以外の層をエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)とすることで、絶縁電線と被覆層との密着強度の低下を抑え、かつ高い難燃性をもつノンハロゲン難燃性ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)は優れた機械特性、低温での柔軟性を有することから、自動車、ロボット、電子機器用等に使用されるケーブルの被覆材料として広く用いられている。
【0003】
自動車、ロボット、電子機器用等に使用されるケーブルには難燃性、耐熱性、耐摩耗性など種々の特性が要求される。
【0004】
従来技術の樹脂組成物は、難燃性を得るために、熱可塑性ポリウレタン(TPU)に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤やアンチモン化合物を配合した樹脂組成物が主流であった。
【0005】
従来技術で得られた樹脂組成物は、燃焼時に難燃剤に含まれるハロゲン化合物から有害なガスが発生することや、埋め立て時に材料に配合された重金属が溶出するといった問題があった。
【0006】
特許文献1では、ケーブルの最外層の樹脂組成物として熱可塑性ポリウレタンを用い、絶縁電線とシース間の被覆層としてエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする樹脂を用いると共に、最外層の樹脂組成物を電子線照射により架橋することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−95439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、被覆層の最外層以外の被覆層に、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いると電子線照射で被覆層を架橋する際、電子線照射のエネルギーでケーブルが発熱し、EVAの結晶が溶けて膨張した状態で、EVAおよびTPUが架橋され、構造が固定した状態となり、その後、照射が完了して常温になると、被覆層の収縮により絶縁電線と被覆層との間に隙間が発生し、密着強度の低下が問題となる問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、被覆層の最外層を熱可塑性ポリウレタン(TPU)にメラミンシアヌレート(MC)およびリン化合物を配合した樹脂組成物を採用して高い難燃性を得ると共に電子線照射をしても絶縁電線と被覆層との間に発生する隙間を抑制することができ、密着強度の低下を防止したノンハロゲン難燃性ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、導体の外周に絶縁層を有する絶縁電線を複数撚り合わせた多芯撚線の外側に内層を設け、その内層に外層を設けたケーブルにおいて、上記外層が、熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して難燃剤を30質量部以上含有する樹脂組成物からなり、上記内層が、酢酸成分(VA)量33%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる樹脂組成物からなり、上記外層が架橋処理されてなることを特徴とするノンハロゲン難燃性ケーブルである。
【0011】
請求項2の発明は、上記外層が電子線照射により架橋されてなり、架橋度(ゲル分率)が60%以上である請求項1記載のノンハロゲン難燃性ケーブルである。
【0012】
請求項3の発明は、上記難燃剤が、トリアジン誘導体および/またはリン化合物である請求項1または2記載のノンハロゲン難燃性ケーブルである。
【0013】
請求項4の発明は、上記熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して、上記難燃剤として、トリアジン誘導体30〜100質量部およびリン化合物0〜30質量部含有させた請求項1〜3にいずれかに記載のノンハロゲン難燃性ケーブルである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁電線と内層との密着強度の低下を抑え、かつ高い難燃性を得ることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のノンハロゲン難燃性ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の実施例と比較例における密着強度を測定する試験装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
先ず本発明のノンハロゲン難燃性ケーブルの構造を図1により説明する。
【0018】
図1において、ノンハロゲン難燃性ケーブル10は、導体11aの外周に絶縁層11bを有する絶縁電線11を複数撚り合わせた多芯撚線の外周に、被覆層12が形成されて構成される。被覆層12としては、多芯撚線の外周に内層12bが被覆され、その内層12bの外周に外層(シース)12aが被覆されて形成されるが、内層12bは多層に形成するようにしてもよい。
【0019】
本発明において、絶縁電線11の絶縁層11bの樹脂材料として、ポリエチレンを主成分とした樹脂組成物、外層12aの樹脂材料として、熱可塑性ポリウレタン(TPU)を主成分とし、内層12bの樹脂材料として、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分とした樹脂組成物が用いられる。
【0020】
外層12aは、熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して難燃剤を30質量部以上含有する樹脂組成物からなることが好ましく、内層12bは、酢酸成分(VA)量33%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる樹脂組成物が用いられる。
【0021】
ノンハロゲン難燃性ケーブル10は、絶縁電線11を複数撚り合わせた多芯撚線の外周に内層12bが押出被覆され、その内層12bの外周に外層12aが押出被覆して形成され、その外層12aが電子線照射等により架橋処理されてなるものである。この時の架橋度は60%以上が好ましく、60%未満では耐熱性が劣る。
【0022】
本発明で使用することのできる熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、低温での柔軟性、機械的強度、耐油耐薬品性に優れた樹脂である。熱可塑性ポリウレタンとしては、ポリエステル系ウレタン樹脂(アジペート系、カプロラクトン系、ポリカーボネイト系)、ポリエーテル系ウレタン樹脂を挙げることができる。
【0023】
熱可塑性ポリウレタンに含有する難燃剤は、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して30質量部以上が好ましい。30質量部より少ないと、優れた難燃性を得ることができないおそれがある。
【0024】
また、難燃剤としては、トリアジン誘導体やリン化合物を用いることが好ましく、これらを単独または併用して用いることができる。トリアジン誘導体としては、シアヌル酸、メラミン誘導体、メラミンシアヌレート(MC)を挙げることができ、より好ましくはメラミンシアヌレートを用いるのが良い。
【0025】
外層に適用する熱可塑性ポリウレタン(TPU)に配合するメラミンシアヌレート(MC)量としては、30質量部未満では良好な難燃性を得ることができないため、30質量部以上がよい。また110質量部より多い場合、機械的強度が著しく低下する可能性があるため、110質量部以下、より好ましくは100質量部以下がよい。
【0026】
リン化合物としては35質量部より多いとブルームが発生する可能性があるため、35質量部以下がよく、より好ましくは30質量部以下がよい。
【0027】
メラミンシアヌレート(MC)とリン化合物の配合量は、より好ましくは、メラミンシアヌレート(MC)を、30〜100質量部、好ましくは30〜50質量部およびリン化合物を0〜30質量部、好ましくは0〜10質量部である。この範囲であれば、難燃性、引張特性、摩耗特性が余裕を持って確保することができる。
【0028】
リン化合物としてはトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェートなどの芳香族縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物などがあげられる。
【0029】
また、外層以外に採用する内層の主成分であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)のVA量が33%未満では、ケーブルに電子線照射を施すと、絶縁電線と内層との間に隙間が発生し密着強度が低下する。さらに、酸素の供給が増すため、難燃性の低下にもつながる。
【0030】
隙間の発生は次のようなメカニズムによる。
【0031】
(1)電子線照射のエネルギーでケーブルが発熱し、EVAの結晶が溶けて膨張する。(2)膨張した状態で熱可塑性ポリウレタン(TPU)およびEVAに架橋反応が起こり構造が固定される。(3)照射が完了すると常温に冷却されEVAが収縮する。(4)EVAと絶縁電線は接着していないので熱可塑性ポリウレタン(TPU)側に収縮し、絶縁電線とに隙間が発生すると考えられる。
【0032】
したがって、結晶成分の少ないEVAを適用することで、膨張を防ぎ、この隙間を抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0033】
EVAのVA量が多いと結晶成分は少なくなる。隙間の発生を抑制するためには33%以上のVA量が必要である。
【実施例】
【0034】
実施例1〜11と比較例1、2を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1〜11と比較例1、2のケーブルの作製は、次の通り行った。
【0037】
径0.08mmの素線を48本撚り合わせた導体に絶縁層として低密度ポリエチレンを外径1.4mmになるように40mm押出機(L/D=24)を用いて、押出被覆する。得られた絶縁電線を照射量100kGyで電子線を照射し、この絶縁電線を2本撚り合わせた多芯撚り線を用意した。
【0038】
上記多芯撚り線上に被覆層として内層材料を外径が3.4mmとなるように被覆し、さらに、被覆層としての外層材料を外径4.0mmになるように押出被覆した。得られたケーブルを電子線照射し、被覆層を架橋させ、図1に示すような被覆層が2層からなるケーブルを作製した。
【0039】
ケーブルの評価としては以下の通りに行った。
【0040】
引張特性としての引張強さと伸びは、JISC3005に準拠して評価し、引張強さ9MPa以上、破断伸び150%以上を合格とした。
【0041】
耐熱性はケーブルを自己径に巻付け、200℃の老化槽に30分放置し、形状が保持されているものを合格とした。
【0042】
難燃性評価には、ケーブルを水平に保ち、10秒間炎を当て、炎を取り去った後30秒以内に消火したもの合格とし、試験数に対して消火時間(秒)の平均値を示した。
【0043】
架橋度評価は、JASOD 608−92のAVXに準拠してゲル分率として評価した。ゲル分率は60%以上を合格とした。
【0044】
耐摩耗性は、JASOD 608−92の摩耗テープ法により評価し、9m以上のものを合格とした。
【0045】
密着強度の評価は、図2に示すように、100mmにカットしたケーブル10の片端末から75mm被覆層を除去し(25mm被覆層を残す)、対撚り絶縁電線110を露出させた後、対撚り絶縁電線110側から穴径3.0mmのダイス13を通し、残した被覆層と接触させ、ショッパー型引張試験機を用いて、対撚り絶縁電線110を引っ張り、被覆層が抜ける力を測定した。20N以上のものを合格とした。
【0046】
ブルームの評価は、ケーブルの外層を50倍の光学顕微鏡で観測してブルームの有無を調べた。
【0047】
上記評価方法において総合評価としては、全ての評価で合格のものは二重○、難燃性および密着強度が合格のものは○、難燃性または密着強度のいずれかが不合格となったものは総合評価として×とした。
【0048】
実施例1〜11
外層材料において、熱可塑性ポリウレタン(TPU)としてET890(BASFジャパン製)、メラミンシアヌレートとしてMC−5S(堺化学工業製)、リン化合物として、芳香族縮合リン酸エステル、PX−200(大八化学工業製)、内層材料として、EVA(VA=33%)EV170(三菱デュポンケミカル製)または、EVA(VA=46%)EV45LX(三菱デュポンケミカル製)を用い、表1に示した配合で内層と外層を形成し、電子線照射量を200〜50kGyで架橋した。
【0049】
比較例1
外層材料において、熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して、メラミンシアヌレート(MC)を25質量部、内層材料としてEVA(VA=46%)を用い、照射量を200kGyとして架橋した。
【0050】
比較例2
外層材料において、熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して、メラミンシアヌレート(MC)を25質量部、内層材料としてEVA(VA=25%)を用い、照射量を200kGyとして架橋した。
【0051】
表1より、実施例1〜7は、メラミンシアヌレートは30質量部以上、100質量部以下とし、どの評価においても良好な結果が得られたため、総合評価を二重○とした。
【0052】
実施例8、9は照射量を100kGy、50kGyとした例であり、実施例1と比較して架橋度評価としてのゲル分率は低くなるが、100kGyの実施例8は、どの評価も良好であり、総合評価を二重○とした。これに対し50kGyの実施例9は、耐熱性評価で溶融状態となったが、密着強度とブルームの評価が合格であるため、総合評価を○とした。
【0053】
実施例10は、メラミンシアヌレート40質量部、リン化合物35質量部とした例であり、実施例4のメラミンシアヌレート50質量部、リン化合物を30質量部とした例に比べて、リン化合物の配合量が多いためブルームが観測されたが、実用上は問題がなく、難燃性、密着強度が良好であったため総合評価を○とした。
【0054】
実施例11は、メラミンシアヌレート110質量部、リン化合物30質量部とした例であり、実施例6のメラミンシアヌレート100質量部、リン化合物を30質量部とした例に比べて、メラミンシアヌレートの配合量が多いため、引張強さが9.7MPaであったが、難燃性、密着強度が良好であったため総合評価を○とした。
【0055】
実施例に対して、比較例1、2は、メラミンシアヌレートの配合量が25質量部と少ないため、難燃性が不合格であった。また比較例1はVA含有量が46%のEVAを用いているため、密着強度は良好であるのに対して、比較例2はVA含有量が25%のEVAを用いているため密着強度が低下している。
【0056】
よって、EVAのVA含有量は33%以上がよいことがわかった。
【0057】
以上より、外層材料としての熱可塑性ポリウレタン(TPU)に充てんする難燃剤の配合量が少ないと十分な難燃性を得ることができず、多すぎると機械的特性の低下や、ブルームが発生するおそれがある。また、内層材料に高VA量(33%以上)のEVAを採用しないと十分な密着強度を得ることができない。そのため、熱可塑性ポリウレタン(TPU)に最適なメラミンシアヌレート(MC)とリン化合物を添加し、内層材料には高VA量のEVAを採用する必要がある。
【符号の説明】
【0058】
10 ケーブル
11 絶縁電線
110 対撚り絶縁電線
11a 導体
11b 絶縁層
12 被覆層
12a 外層
12b 内層
13 ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に絶縁層を有する絶縁電線を複数撚り合わせた多芯撚線の外側に内層を設け、その内層に外層を設けたケーブルにおいて、上記外層が、熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して難燃剤を30質量部以上含有する樹脂組成物からなり、上記内層が、酢酸成分(VA)量33%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる樹脂組成物からなり、上記外層が架橋処理されてなることを特徴とするノンハロゲン難燃性ケーブル。
【請求項2】
上記外層が電子線照射により架橋されてなり、架橋度(ゲル分率)が60%以上である請求項1記載のノンハロゲン難燃性ケーブル。
【請求項3】
上記難燃剤が、トリアジン誘導体および/またはリン化合物である請求項1または2記載のノンハロゲン難燃性ケーブル。
【請求項4】
上記熱可塑性ポリウレタン(TPU)100質量部に対して、上記難燃剤として、トリアジン誘導体30〜100質量部およびリン化合物0〜30質量部含有させた請求項1〜3にいずれかに記載のノンハロゲン難燃性ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−150896(P2011−150896A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11271(P2010−11271)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】