説明

ノンハロゲン難燃樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブル

【課題】従来のPVC混練設備及び電線押出設備をそのまま使用でき、生産効率を落とすことのないノンハロゲン難燃樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】アクリル酸、メタアクリル酸あるいはこれらの誘導体を重合又は共重合してなるアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(B)として、アルキル鎖がC10以下のフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸エステルからなるフタル酸エステルを60重量部以下、ハロゲンを含まない難燃剤(C)を60重量部以下含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりとともに、循環型社会に適応した、環境配慮型電線の開発・実用化が急務となっている。
【0003】
既に屋内向けや盤内向け、さらには制御・計装用途などの固定配線分野では、従来のポリ塩化ビニル(PVC)に代わり、ハロゲンや有害な重金属を含まないノンハロゲン難燃樹脂組成物を被覆材料として使用した、いわゆるノンハロゲン電線・ケーブルの採用が活発化している。
【0004】
そこで、特許文献1、2に、アクリル樹脂とフタル酸エステルとノンハロゲン難燃剤と酸化防止剤を使用したノンハロゲン樹脂組成物とすることが提案されている。
【0005】
PVCに代えて、特許文献1、2に提案されるようなハロゲンを含まないノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いて電線やケーブルを製造する際には、従来のPVC設備をそのまま用いてノンハロゲン難燃樹脂組成物のペレットを製造し、そのペレットを用いて電線・ケーブルを製造することが理想的である。
【0006】
図3は、PVCの製造ラインを示したもので、リボンブレンダーからなる混合機30に、粉体状のPVCをホッパ31から、油状の可塑剤をホッパ32から、安定剤や添加剤などの粉体をホッパ33から投入し、これを混合機30で混合した後、その混合物を供給フィーダ34に供給し、その供給フィーダ34から連続押出造粒機(練り機)35に投入し、連続押出造粒機35で、混合物を練り上げ、これをストランド状に押し出すと共にカットしてペレットとし、そのペレットを冷却選別機(ペレットクーラ)36に供給して、冷却選別して、製品として梱包37する。
【0007】
【特許文献1】特開2005−120194号公報
【特許文献2】特開2006−63229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ノンハロゲン難燃樹脂組成物は、ポリマーと難燃剤等から構成されており、図3で説明した、これまで使用されてきたPVCの生産設備をそのまま使用すると以下の問題点が発生し、新規に設備投資しなければならない自体に陥っていた。
【0009】
すなわち、PVCと比較して、配合材料の構成及び組成物の特性が違うため、従来の混合機30と連続押出造粒機35を使用すると、配合剤の供給ムラ、混練不足、造粒時のペレットの互着が発生してしまう問題がある。また、難燃剤等の粉体が、供給フィーダ34と連続押出造粒機35等の接続部に残り、掃除や品種変え時、その除去に時間がかかり生産効率を落とす問題がある。
【0010】
また、電線・ケーブルの押出工程でも、PVCが、掃除や品種換えなどの作業性が優れるのに対し、ノンハロゲン難燃樹脂組成物は、その組成物の持つ粘着性等により掃除や品種換えに、時間がかかっていた。また押出作業時、押出ダイスや芯金にカスがたまり、その生産効率を落としていた。
【0011】
このように、従来のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、難燃剤としての粉末と、ペレット状のポリマーを用いるため、混練の際の材料のブリッジなどによる供給ムラが生じ品質が安定しないため、PVC設備をそのまま使用することはできなかった。
【0012】
そこで、ノンハロゲン難燃樹脂組成物の混練設備として、材料の供給が手作業で行える密閉式混練装置(バンバリミキサーやニーダー)を用いることが考えられる。しかしながら密閉式混練装置への材料投入は、人の代わりに自動秤量装置を用いるのが一般的であり、設備投資がかなり増えてしまう。また、セルフクリーニング機構が無いため生産効率に劣る。
【0013】
また、一般に供給装置内の材料はスクリューや羽根、ベルトにより造粒機に供給されるがノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、材料のブリッジを抑えるために、バイブレータ、ノッカー等の材料に動的な動きを与えるアジテータなどを併用する必要があり、やはり設備投資の面で好ましくない。
【0014】
また、従来のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、混練に際し充分なシェア(せん断力)と混練時間を必要とするため、その混練設備としてはL/D値の大きい連続混練押出装置を採用する必要があった(L/Dが大きい=混練域が長い)。
【0015】
しかしながら、L/Dを長くとると、混練押出時高いトルクが必要になるだけでなく、せん断発熱により組成物に発泡が生じ安定した品質が得られない。
【0016】
また、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を従来のPVCの混練設備にて混練しようとすると、その性質から造粒後のペレット同士が連続互着してしまい良好なペレットが得られなかった。
【0017】
よって、PVCの混練設備にて混練しようとする場合には、水冷ストランド方式(ひも状に押出した組成物を水で冷却し、造粒機でペレット状にする方法)を行う必要があり、これにより付着水分の除去や一端ひも状にしなければならないことが生じ生産性に劣っていた。
【0018】
このように、従来のノンハロゲン難燃性樹脂組成物をPVCの混練設備にて混練しようとすると、さらなる設備投資が必要となり加工費の上昇を招くだけではなく、その生産性も低下してしまう。
【0019】
本発明は、従来のPVC混練設備及び電線押出設備をそのまま使用でき、生産効率を落とすことのないノンハロゲン難燃樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、アクリル酸、メタアクリル酸あるいはこれらの誘導体を重合又は共重合してなるアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(B)として、アルキル鎖がC10以下のフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸エステルからなるフタル酸エステルを60重量部以下、25重量部以上、ハロゲンを含まない難燃剤(C)を60重量部以下、30重量部以上を含むことを特徴とするノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0021】
請求項2の発明は、前記アクリル樹脂(A)は、ブチルアクリレートゴムをコアとし、メチルメタアクリレート及びノルマルブチルアクリレートを共重合してなる共重合体をシェルとする請求項1記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0022】
請求項3の発明は、アクリル系樹脂(A)と可塑剤(B)と難燃剤(C)とを混合機に投入して混合し、その混合物を連続押出造粒機で混練させて押し出すと共にこれを裁断してペレットとし、そのペレットを冷却選別機で冷却選別して得た請求項1又は2記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いて、導体を被覆する絶縁体を形成したことを特徴とする電線である。
【0024】
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いて、複数本を撚り合わせた電線の最外層シースを形成したことを特徴とするケーブルである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の材料を適用すると、従来のPVC混練設備及び電線押出設備をそのまま使用でき、生産効率を落とすことがなく、ノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いた電線の生産が可能となる。材料をノンハロゲン化しても従来のPVC設備をそのまま使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0027】
本発明は、アクリル酸、メタアクリル酸あるいはこれらの誘導体を重合又は共重合してなるアクリル系樹脂(A)100重量部(質量部)に対して、可塑剤(B)として、アルキル鎖がC10以下のフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸エステルからなるフタル酸エステルを60重量部(質量部)以下、25重量部(質量部)以上好ましくは40重量部(質量部)以上、ハロゲンを含まない難燃剤(C)を60重量部(質量部)以下、30重量部(質量部)以上、好ましくは40重量部(質量部)以上を含むノンハロゲン難燃樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルである。
【0028】
この本発明のノンハロゲン難燃樹脂組成物は、従来のPVC混練設備をそのまま使用してペレット化できると共に、そのペレットを同じく従来の電線押出設備を用いて電線・ケーブルを製造できる。
【0029】
このPVC混練設備を用いてノンハロゲン難燃性樹脂組成物をペレットとする方法を図1により説明する。
【0030】
リボンブレンダーからなる混合機10に、粉体状のアクリル系樹脂(A)をホッパ11から、油状の可塑剤(В)をホッパ12から、難燃剤(C)や酸化防止剤などの粉体をホッパ13から投入し、これを混合機10で混合した後、その混合物を、供給フィーダ14に供給し、その供給フィーダ14から連続押出造粒機15に投入し、連続押出造粒機15で、混合物を練り上げ、これをストランド状に押し出すと共にカットしてペレットとし、そのペレットを冷却選別機(ペレットクーラ)16に供給して、冷却選別して、ノンハロゲン難燃樹脂組成物からなるペレット製品を梱包17する。
【0031】
このペレット化したノンハロゲン難燃樹脂組成物を用い従来の電線押出設備を用いて電線・ケーブルを製造する。
【0032】
図2は、銅導体1に絶縁体2を被覆して電線3とし、その電線3を介在4と共に3心撚り合わせ、押え巻きテープ5を施し、最外層をシース6として押出し被覆したケーブルを示す図である。
【0033】
この絶縁体2とシース6を本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0034】
次に、本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物の詳細を説明する。
【0035】
アクリル系樹脂(A)は、アクリル酸、メタクリル酸あるいはこれらの誘導体を重合又は共重合してなり(例えば、ブチルアクリレートゴムをコア(核)とし、SP値(溶解パラメータ)9.04のメチルメタアクリレート及びSP値8.25のノルマルブチルアクリレートを共重合してなる重合体を上記コアを取り囲んだシェルとしたアクリル系樹脂)、その重合物の組成が、可塑剤(В)のアルキル鎖C8−10のフタル酸エステルのSP値(8.6〜8.9)近くに調整したものである。
【0036】
このアクリル系樹脂(A)は、分子量が70万程度に調整されており、分子量分布は、2つの山を持ち、その山のひとつは、20〜40万程度の低分子域で、可塑化時の流動性を助け、もうひとつの山は、100万程度の高分子量域で、可塑剤(B)の保持に効果をもつものである。
【0037】
本発明は、特許文献1、2に示されるアクリ樹脂と違って、アクリル酸、メタアクリル酸あるいはこれらの誘導体を重合又は共重合してなるアクリル系樹脂(A)を用いることで、可塑剤(B)との溶解度パラメータ(SP値)を同程度に調整でき、これにより、PVC設備を用いても支障なく混練・押出加工ができるものである。
【0038】
可塑剤(B)は、軟質PVCに一般的に使用される、アルキル鎖C8−10のフタル酸エステル系であり、例えば、ジノルマルオクチルフタレート(n−DOP)、ジイソオクチルフタレート、ジ2エチル−ヘキシルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート、ジオクチルテレフタレート、ジオクチルイソテレフタレート、ジ2エチル−ヘキシルイソフタレート(DOIP)などが挙げられる。
【0039】
本発明において、可塑剤(B)の添加量は、25重量部以上、好ましくは40重量部以上で、60重量部以下がより好ましい。60重量部を超えると必要な引張強度が得られない。
【0040】
ハロゲンを含まない難燃剤(C)には、金属水酸化物、亜鉛系化合物、1,3,5−トリアジン誘導体等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を併用しても良い。
【0041】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、及び、ニッケルが固溶したこれらの金属水酸化物が挙げられる。これらの金属水酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸塩やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸、又は、脂肪酸金属塩等によって表面処理されているものを用いても差し支えない。
【0042】
亜鉛系化合物は、酸化亜鉛、ほう酸亜鉛、すず酸亜鉛などが挙げられる。これらの亜鉛系化合物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸塩やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸、又は、脂肪酸金属塩等によって表面処理されているものを用いても差し支えない。
【0043】
1,3,5−トリアジン誘導体としては、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン等が挙げられる。より好適には、メラミンシアヌレートである。これらは、非イオン性表面活性剤や各種カップリング剤により表面処理されていても良い。
【0044】
本発明において、難燃剤(C)の添加量は、30重量部以上、好ましくは40重量部以上で、60重量部以下がよい。添加量が60重量部より多いと伸び値が著しく低下するため好ましくない。
【0045】
また、上記の配合剤(A)〜(C)以外にも必要に応じて、酸化防止剤、滑剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加剤を加えることが可能である。
【0046】
更に、有機過酸化物により架橋したり、電子線などの放射線により架橋してもよい。
【0047】
このように本発明においては、ブチルアクリレートゴムをコア(核)とし、SP値(溶解パラメータ)9.04のメチルメタアクリレート及びSP値8.25のノルマルブチルアクリレートを共重合してなる重合体を上記コアを取り囲んだシェルとしたアクリル系樹脂(A)と可塑剤(В)とを用いることで、従来の混合機と連続押出造粒機からなるPVC設備を何ら改良することなくそのまま使用してノンハロゲン難燃性樹脂組成物を製造することができると共に、これを用いて従来の電線押出機設備で電線・ケーブルを製造できるものである。
【実施例】
【0048】
次に実施例1〜5と比較例1〜4を表1を基に説明する。
【0049】
【表1】

【0050】
樹脂成形物及びケーブルは、以下のように作製した。
【0051】
樹脂組成物は、表1に示した配合割合で各種成分を配合し、図1で説明したリボンブレンダー(混合機10)により常温で5分混合した後、混合物を同方向2軸連続押出造粒機15に供給し混練造粒後、ペレットクーラ16により冷却し、3Φ×3mmのペレットにした。リボンブレンダー10はPVCで使用している容量500Lのものを、2軸連続押出造粒機15も同様に直径87mm、L/D=36のものを使用した。
【0052】
このペレットを、図2で説明したケーブルのシース6として、PVCで使用する80mm単軸押出機にて180℃、肉厚1mmにて押出し被覆した。
【0053】
このときの加工性評価と物性評価は以下の要領で評価した。
【0054】
加工性評価について;
混合機適性
リボンブレンダーにより、均一に混合できていること。リボンブレンダーからの排出が滞留なく、行えることを判断基準として○×で評価した。
【0055】
連続押出混練機適性
従来のPVCと比較して同等の吐出量(φ30mm2軸連続押出機で140kg/hr)がでて、なおかつペレットに互着がなく、均一にペレット化でき、その後もペレット同士がブロッキングしないことを判断基準として○×で評価した。
【0056】
ライン掃除性
ライン掃除時間がPVC作業時の平均時間20分以内であり、連続押出混練機のヘッド解体時、滞留樹脂が容易に剥離できることを判断基準として○×で評価した。
【0057】
ダイス、芯金カス
PVC同様60m/MINで押出被覆作業で、3hr連続運転し、芯金カスによるケーブルコアが発生しないか、ダイス面にカスが滞留しないか目視にて確認し、これを○×で評価した。
【0058】
ライン掃除性
同系色PVC、異種配合にて同サイズのケーブルを押出す際のライン掃除の平均時間30分以内を判断基準とし○×で評価した。
【0059】
物性評価について;
物性評価は、JCS規格4512を基準として伸び、引張り強さ、加熱後の伸び、引張り強さ、耐油特性、難燃性、加熱変形性を測定し、これを○×(上記規格の規格値に合格したものを○、不合格のものを×とする)で評価した。
【0060】
(実施例1)
実施例1は、(A)アクリル系樹脂(三菱レーヨン社のYM−017)に、(B)DOP(ジ2エチル−ヘキシルフタレート)を40重量部、(C)水酸化マグネシウム他の難燃剤を40重量部添加(窒素系難燃剤5重量部、亜鉛系難燃剤1重量部、水酸化マグネシウム34重量部添加)し、その他の添加剤として、フェノール系酸化防止剤を0.5重量部添加した系であり、混練、押出加工性、物性とも上記の○の条件を満たした。
【0061】
(実施例2)
実施例2は、可塑剤(B)をDINP(ジイソノニルフタレート)に変え、添加量を60重量部に増やし、(C)難燃剤(水酸化マグネシウム)も60重量部と増量した系であり、実施例1より可とう性が増すものの混練、押出加工性、物性とも上記の条件を満たした。
【0062】
(実施例3)
実施例3は、可塑剤(B)をDOIP(ジ2エチル−ヘキシルイソフタレート)に変え、添加量を60重量部、(C)難燃剤を50重量部とした系で、実施例1、2同様、混練、押出加工性、物性とも上記の条件を満たした。
【0063】
(実施例4)
実施例4は、可塑剤(B)を実施例3のDOIPとし、添加量を40重量部、難燃剤(C)を60重量部とした系で、実施例1、2同様、混練、押出加工性、物性とも上記の条件を満たした。
【0064】
(実施例5)
実施例5は、可塑剤(B)の添加量を25重量部、難燃剤(C)を30重量部に減量した系であり、実施例1−4同様、加工性、物性は良好である。
【0065】
(比較例1)
比較例1は、一般的な電線用のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を示した例で、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)をベースとして、難燃剤を50重量部添加した系である。
【0066】
この比較例1において、物性は、上記の規格を満たすことができたが、混練加工性、押出加工性は上記の条件を満たすことができなかった。混練では、原料の性状の違いから、その混合物を混練押出機に供給する際、供給ムラが生じ、PVC同様の供給量を得ることはできなかった。また、押出しでは、コンパウンド溶融時の金属接触面への粘着により、ダイス、芯金のカス滞留が防げず、ブレーカープレートに詰まった樹脂の除去に時間がかかったことなどが影響した。
【0067】
(比較例2)
比較例2は、実施例2に対して、難燃剤(C)を15重量部増量して、65重量部添加した系である。
【0068】
この比較例2においては、混練加工性、押出加工性は良好であるものの、引張特性の伸び値、耐油特性の伸び残率不足した。
【0069】
(比較例3)
比較例3は、DINPを増量して、65重量部添加した系である。
【0070】
この比較例3においては、混練加工性、押出加工性は良好な結果が得られたものの、物性は、引張特性の強度値不足した。
【0071】
この比較例2、3からアクリル系樹脂(A)に対して、可塑剤(B)、ハロゲンを含まない難燃剤(C)は、双方とも60重量部以下で使用することが好ましいのがわかる。
【0072】
PVCは可塑剤を、電気的結合力により、保持しているのに対しアクリル系樹脂(A)は、アクリルの組成によって、可塑剤を保持していることもあり、その可塑剤添加量や充填剤添加量に限界値が生じるものと推定する。加工性においては、PVCに対して、分子間力が小さく、分子間距離が大きいことが、可塑剤の侵入性を容易にさせている。ハロゲンを含まない難燃剤(C)未添加系ではPVCより、低せん断力でかつ短時間での混練が可能となる。また、PVC並みの難燃性を持たせるために、水酸化マグネシウム等の難燃剤を必要量添加すると、若干の粘度上昇は見られるが、PVCと同等もしくは、それ以上の加工性を保持できる特徴を示す。
【0073】
可塑剤(フタル酸エステル)への相溶化度を向上させて、より軟質PVCに近い物性を得るためには、ノルマルブチルアクリレート含有分率を上げたり、新たに2−エチルヘキシルアクリレートを共重合させて、SP値を制御する方法があり、その含有分率は、必要に応じ、変えたものを使用しても差し支えない。
【0074】
以上より本発明のアクリル系ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、可塑剤(B)の添加量は、表1に示した25〜60重量部、難燃剤(C)は、30〜60重量部がよい。
【0075】
しかし、表1には示していないが、実施例1〜5では、混練ラインの掃除時間で、以下の差が生じた。
【0076】
従来のPVCの掃除時間平均20分に対して、実施例1は12分、実施例2は13分、実施例3はl3分、実施例4は11分、実施例5は19分となった。
【0077】
実施例5の掃除性が、他の実施例1〜4に対して、遅いことは、可塑剤(B)の添加量及び、ハロゲンを含まない難燃剤(C)の添加量が少なかったため、リボンブレンダー混合槽の壁面や排出シュートに静電気による粉体の付着があったため、掃除作業に、時間を要した。
【0078】
それに対し、実施例1〜4は、可塑剤(B)の添加量が40〜60重量部で、ハロゲンを含まない難燃剤(C)の添加量を40〜60重量部の間に調整したため、混合品が程よい湿式状態となり、静電気の発生がなく、効率的に掃除を行えた。
【0079】
よって本発明のアクリル系ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、可塑剤(B)の添加量が40〜60重量部、難燃剤(C)の添加量を40〜60重量部が、掃除性の上で、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を従来のPVC設備で製造する例を示す図である。
【図2】本発明における電線・ケーブルの断面図である。
【図3】従来のPVC設備を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 銅導体
2 絶縁体
3 電線
4 介在
5 押え巻きテープ
6 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸、メタアクリル酸あるいはこれらの誘導体を重合又は共重合してなるアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(B)として、アルキル鎖がC10以下のフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸エステルからなるフタル酸エステルを60重量部以下、25重量部以上、ハロゲンを含まない難燃剤(C)を60重量部以下、30重量部以上を含むことを特徴とするノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂(A)は、ブチルアクリレートゴムをコアとし、メチルメタアクリレート及びノルマルブチルアクリレートを共重合してなる共重合体をシェルとする請求項1記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系樹脂(A)と可塑剤(B)と難燃剤(C)とを混合機に投入して混合し、その混合物を連続押出造粒機で混練させて押し出すと共にこれを裁断してペレットとし、そのペレットを冷却選別機で冷却選別して得た請求項1又は2記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いて、導体を被覆する絶縁体を形成したことを特徴とする電線。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いて、複数本を撚り合わせた電線の最外層シースを形成したことを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269939(P2009−269939A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118829(P2008−118829)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】