説明

ハイドロダイナミックカップリング

本発明は、羽根を有する一次ホィールと、羽根を有する二次ホィールとを有する、ハイドロダイナミックカップリングに関するものであって、一次ホィールと二次ホィールは一緒になって、作業媒体で充填可能な作業室を形成し;一次ホィールと二次ホィールは、互いに対して回転可能に軸承されており、その場合に軸受が少なくとも間接的に一次ホィールと二次ホィールの間に設けられており、その軸受が羽根ホィールの間に作用する半径力および/または軸力を吸収する。本発明に基づくハイドロダイナミックカップリングは、次の特徴:軸受が滑り軸受として形成されており、その軸受の互いに対して移動する軸受コンポーネントの間に、ハイドロダイナミックカップリングの駆動において、ハイドロダイナミック圧力を供給される軸受液体のフィルムが形成され、かつ軸受液体の圧力が、作業室内に構築される、作業媒体の圧力に依存していることを、特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロダイナミックカップリングと、その場合に特に、羽根ホィールの軸承に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロダイナミックカップリングは、知られている。これらは、ドライブトレインから駆動されるトレインへトルクを伝達するために用いられる。ドライブトレインは、ハイドロダイナミックカップリングの第1の羽根ホィールによって、駆動されるトレインは第2の羽根ホィールによって、駆動結合内へ接続されている。第1の羽根ホィールは、通常、ポンプホィールと称され、第2の羽根ホィールはタービンホィールと称される。
【0003】
ハイドロダイナミックカップリングを強化していわゆるターボ複合システム内で使用することが知られている。この種のシステムは、排ガスエネルギ利用を有する自動車ドライブトレインに関する。この種の自動車ドライブトレインは、内燃機関を有しており、その排ガス流内に排ガス利用タービンが接続されている。内燃機関は、もちろん、クランク軸を駆動する。同時に、排ガス利用タービンの駆動出力がクランク軸へ伝達される。排ガス利用タービンとクランク軸との間の駆動結合内に、ハイドロダイナミックカップリングが接続されており、それはまず排ガス利用タービンからクランク軸へトルクを伝達するために用いられる。しかしハイドロダイナミックカップリングは、通常、第2機能、すなわちハイドロダイナミックブレーキの機能を有している。この種のハイドロダイナミックブレーキは、リターダの概念でも知られている。ハイドロダイナミックカップリングが、リターダとして働く場合に、その2つの羽根ホィールの1つ、特にカップリング駆動において排ガス利用タービンによって駆動される、羽根ホィールが、回動しないように機械的にロックされる。従って以下の駆動状態が生じる:クランク軸が、固定されていない羽根ホィールを駆動し、その羽根ホィールがハイドロダイナミックカップリングの作業室内の作業媒体を介してトルクを固定された羽根ホィールへ伝達し、従って制動される。これが、クランク軸の磨耗のない制動をもたらし、従って車両の制動をもたらす。
【0004】
この種のターボ複合システム内では、ポンプホィールとタービンホィールとは言わない方が、解明に役立つ。というのは、説明したように、ある時は一方の羽根ホィールが、そしてまたある時な他方の羽根ホィールが駆動され、従ってポンプとして働くからである。従って、排ガス利用タービンと駆動結合で接続されている羽根ホィールを一次ホィールと称し、クランク軸と駆動結合で接続されている羽根ホィールを二次ホィールと称するのが、一般的である。
【0005】
本発明は、特にこの種のターボ複合システム内で使用される、ハイドロダイナミックカップリングないしは対応するドライブトレインに関する。
【0006】
ポンプホィールとタービンホィール、ないしはハイドロダイナミックカップリングの一次ホィールと二次ホィールは、記載されたシステム内で互いに対して回転可能に軸承されている。その場合に軸承は、通常、2つのホィールの間に唯一の軸受配置が設けられるように、構成されている。この相対軸承は、たとえば、公開番号EP0995918A2を有する欧州特許出願に記載されているように、2つの玉軸受を有している。
【0007】
使用目的に最適な軸承を得るために、すでに多くに努力がなされている。すなわち、上述した欧州特許出願は、この種の玉軸受内に使用される潤滑剤を扱っている。それ以前の形態とは異なり、軸受は潤滑剤を満たされて、かつ外へ向かってはシールされている。しかし、この軸受配置も、その前に知られている他の軸受配置も、それが常に玉軸受または転がり軸受である、という特徴を有している。
【0008】
これは、以下の背景を有している:もちろん、ハイドロダイナミックカップリングの分野のコンストラクターには、滑り軸受も知られている。しかし、この種の滑り軸受は、特にターボ複合システム内で、ハイドロダイナミックカップリングの羽根ホィールを軸承するのには不適であると見なされてきた。この種のカップリングにおいて、1つには、多くの駆動状態で著しい半径方向の力と特に軸力が生じ、それが設けられている軸受によって吸収されなければならない。それに対して他の駆動状態においては、わずかな力しか生じない。さらに、特にターボ複合システムにおいて、羽根ホィールの間の相対回転数が変化する。すなわち、ターボカップリング駆動においては、相対回転数、すなわち一次ホィールと二次ホィールの間の回転数差が分当たり役120から360回転であると見なすことができる。この回転数差は、ハイドロダイナミックカップリングのスリップ、さらにはエンジン回転数およびクランク軸とハイドロダイナミックカップリングの間の変換比に依存する。それに対してスリップが100%のリターダ駆動においては、相対回転数は分当たり4000から12000回転になり得る。特に、カップリング駆動における比較的小さい相対回転数には、原則的に、特に脂潤滑を有する転がり軸受が適している。
【0009】
しかし、ハイドロダイナミックカップリングの既知の形態には、使用される転がり軸受が、特に相対回転数が高い場合に、適しておらず、それが早期の軸受磨耗をもたらす、という欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術に比較して改良された、ハイドロダイナミックカップリングと、特にハイドロダイナミックカップリングを有するドライブトレインを提供することである。特に、上述した欠点を除去しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づく課題は、請求項1に記載のハイドロダイナミックカップリングと、請求項8に記載の自動車ドライブトレインによって解決される。従属請求項は、本発明の特に好ましい展開を記述している。
【0012】
発明者は、従来の形態に反して、一次ホィールと二次ホィールの間の相対軸受として滑り軸受を使用することに成功した。様々な駆動状態において変化する軸力を、軸受支持能力を超える危険なしで、確実に制御することができるようにするために、滑り軸受の軸受圧力、すなわち、軸受液体のハイドロダイナミック圧力が、作業媒体の循環によって形成される、作業室内の圧力に従って調節される。その場合に特に、軸受液体として作業媒体の一部が使用されると効果的であって、その場合にこれが作業室から軸受内へ案内される。
【0013】
高い圧力は、ハイドロダイナミックカップリングの作業室内の作業媒体循環の中で、外側端縁に存在し、それに対して低い圧力は、トーラス形状の作業室の内部に、いわゆるリターダアイ内に存在する。従って、支持すべき大きい力のために滑り軸受内で高い圧力を達成することができるようにするために、好ましくは、作業媒体は作業室内に生じる流れ循環の外側の端縁から取り出される。作業室と滑り軸受の間の案内ルートを短くすることに関しては、それに応じた取出し開口部が、トーラス形状の作業室の半径方向内側の周面に設けられる。
【0014】
本発明の好ましい形態によれば、滑り軸受は、いわゆるアキシャル/ラジアル軸上であり、すなわち、軸力も半径力も吸収する軸受である。特にこの滑り軸受は、唯一の軸受であって、それが一次ホィールと二次ホィールの間の相対軸受として設けられている。
【0015】
作業媒体の一部が軸受媒体として設けられている場合に、滑り軸受は好ましくはリターダ循環から媒体を供給され、その媒体が次にリターダへの流入通路へ搬出される。循環がからになった場合には、滑り軸受が乾いたまま走行する危険がある。しかし、からの循環は、適切な充填制御によって確実に回避することができる。
【0016】
本発明に基づいて滑り軸受を形成することは、以下の認識を利用している:相対軸受を介して搬出すべき大きい力が一次ホィールと二次ホィールの間に生じる、リターダ駆動において、ハイドロダイナミックカップリングの作業室内には、高い子午線流れ速度とそれに伴って高い流れ圧力(特に流れ循環の外側の端縁における、ハイドロダイナミック圧力)が存在する。従って滑り軸受内にも本発明に従って高い圧力が構築されるので、滑り軸受は大きい力を吸収することができ、互いに対して移動する軸受コンポーネントが動き出す危険はない。
【0017】
それに対してカップリング駆動においては、比較的小さい子午線流れ速度とそれに伴って小さい流れ圧力が存在する。吸収すべき軸力は、小さい。作業室内の圧力が小さいことに基づいて、滑り軸受内にも低い圧力が生じる。しかしこの種の圧力は、吸収すべき軸力が小さいので、各駆動状態において十分である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例と付属の図を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に基づいて形成されたハイドロダイナミックカップリングの主要な部分領域を軸方向の断面で示している。羽根を有する一次ホィール1と羽根を有する二次ホィール2が見える。2つの羽根ホィール1と2は、それらが一緒になってトーラス形状の作業室3を形成するように、対向して配置されている。ターボ複合システム内で使用される場合に、カップリング駆動において一次ホィール1は、少なくとも間接的に排ガス利用タービンを介して駆動される。従って一次ホィール1内の作業媒体は半径方向外側へ加速され、作業室3内には、矢印TK(ターボカップリング駆動)で示す方向に、一次ホィール1と二次ホィール2の間に巡回流が生じる。この巡回流の構築によって、トルクが一次ホィール1から二次ホィール2へ伝達される。
【0020】
リターダ駆動においては、一次ホィール1は固定され、すなわち回動しないように機械的にロックされる。二次ホィール2は、エンジンのクランク軸によって少なくとも間接的に駆動されるので、二次ホィール2内の作業媒体は半径方向外側へ加速され、矢印Rで示す方向に作業媒体循環が生じる。二次ホィール2から一次ホィール1へ流れ循環によって伝達されたトルクは、適切なロック機構、たとえば多板クラッチを介して搬出される。
【0021】
図1において、略語ANTは排ガスタービンを示し、その軸承が図1の右に示唆されており、略語KWはクランク軸を示し、そのクランク軸は通常、適切なトランスミッションによって図1の左側に接続されている。
【0022】
二次ホィール2は、リターダ入力軸5と一体的に形成されている。カップリング従動軸と称することもできる、リターダ入力軸は、−説明したように−リターダ駆動においてはクランク軸によって駆動される。二次ホィール2は、リターダ入力軸5上に形成された軸受4によって軸承されている。軸受4は、本発明によれば、互いに対して移動する2つの軸受コンポーネント4.1と4.2を有する滑り軸受である。第1の軸受コンポーネント4.1は、リターダ入力軸5の速度で、従って二次ホィール2の速度で回転する。第2の軸受コンポーネント4.2は、一次ホィール1の速度で回転する。
【0023】
駆動中に、2つの軸受コンポーネントの間に、軸受媒体のフィルムが形成される。この軸受媒体は、作業室3の最も小さい周の半径上に位置する取出し箇所3.1を介して作業室3から取り出された、作業媒体の一部である。図から明らかなように、選択された通路案内によって、まず半径方向内側へ、その後軸方向に軸受4内へと、作業室3と軸受4の間に極めて短い流れルートを得ることができ、それが圧力損失をわずかなものにする。次に作業媒体は軸受4から軸方向に流出し、再び半径方向内側へ方向変換されて、流入通路6内へ流入し、その流入通路を介して作業媒体が作業室3内へ案内される。
【0024】
図2には、内燃機関10によって駆動されるクランク軸11と、内燃機関10の排ガスによって駆動される排ガス利用タービン12の間の駆動結合内の、ハイドロダイナミックカップリング13の配置が示されている。ハイドロダイナミックカップリングの一次ホィール1は、多板クラッチ14によって制動して、回動しないようにロックすることができる。この状態において、ハイドロダイナミックカップリングはリターダとして作用し、すなわち、トランスミッションを介してリターダ入力軸5と結合されているクランク軸11が、二次ホィール2を駆動し、それによって制動される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に基づく滑り軸受を有するハイドロダイナミックカップリングを示している。
【図2】ドライブトレイン内のハイドロダイナミックカップリングの配置を示している。
【符号の説明】
【0026】
1 一次ホィール
2 二次ホィール
3 作業室
4 軸受
4.1 第1の軸受コンポーネント
4.2 第2の軸受コンポーネント
5 リターダ入力軸
6 流入通路
10 内燃機関
11 クランク軸
12 排ガス利用タービン
13 ハイドロダイナミックカップリング
14 多板クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.1 羽根を有する一次ホィール(1)と;
1.2 羽根を有する二次ホィール(2);
を有し、
1.3 一次ホィール(1)と二次ホィール(2)が一緒になって、作業媒体で充填可能な作業室(3)を形成し;
1.4 一次ホィール(1)と二次ホィール(2)が互いに対して回転可能に軸承されており、その場合に軸受(4)が少なくとも間接的に一次ホィール(1)と二次ホィール(2)の間に設けられており、前記軸受が羽根ホィール(1、2)間に作用する半径力および/または軸力を吸収する、
ハイドロダイナミックカップリングにおいて、次の特徴:
1.5 軸受(4)が滑り軸受として形成されており、前記軸受の互いに対して移動可能な軸受コンポーネント(4.1、4.2)の間に、ハイドロダイナミックカップリングの駆動において、ハイドロダイナミック圧力を供給される軸受液体のフィルムが形成され、かつ
1.6 軸受液体の圧力が、作業室(3)内に構築される、作業媒体の圧力に依存する、
ことを特徴とするハイドロダイナミックカップリング。
【請求項2】
軸受液体が、作業室(3)から軸受(4)内へ案内される作業媒体の一部であることを特徴とする請求項1に記載のハイドロダイナミックカップリング。
【請求項3】
軸受(4)が、アキシャル/ラジアル軸受であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のハイドロダイナミックカップリング。
【請求項4】
作業室(3)から軸受(4)内へ案内される作業媒体の一部が、作業室(4)内に生じる流れ循環の外側端縁から取り出されることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載のハイドロダイナミックカップリング。
【請求項5】
ハイドロダイナミックカップリングが2つの駆動モード:
5.1 一次ホィール(1)が駆動されて、作業室(3)内の作業媒体の流れ循環を介してトルク伝達によって二次ホィール(2)を駆動する、第1のカップリング駆動モード、
5.2 一次ホィール(1)が回動しないように機械的にロックされ、二次ホィール(2)が駆動されて、作業室(3)内の作業媒体の流れ循環を介してトルクを一次ホィール(1)へ伝達する、リターダ駆動モード、
を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のハイドロダイナミックカップリング。
【請求項6】
二次ホィール(2)がリターダ入力軸(5)上に相対回動不能に支持され、一次ホィール(1)は軸受(4)によってリターダ入力軸(5)に対して回転可能かつ前記リターダ入力軸上に軸承されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のハイドロダイナミックカップリング。
【請求項7】
一次ホィール(1)と二次ホィール(2)の間に、唯一の軸受(4)が配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のハイドロダイナミックカップリング。
【請求項8】
8.1 クランク軸(11)を駆動する、内燃機関(10)と、
8.2 クランク軸(11)との駆動結合内に、クランク軸(11)が排ガス利用タービン(12)によって駆動されるように、接続可能な、排ガス利用タービン(12)と、
を有する、自動車ドライブトレインにおいて、
8.3 駆動結合内に、請求項1から7のいずれか1項に記載のハイドロダイナミックカップリング(13)が設けられており、その場合に一次ホィール(1)が排ガス利用タービン(12)によって、少なくとも間接的に駆動されることを特徴とする自動車ドライブトレイン。
【請求項9】
一次ホィール(1)が、多板クラッチ(14)によって、回動しないように機械的にロック可能であることを特徴とする請求項8に記載の自動車ドライブトレイン。
【請求項10】
ハイドロダイナミックカップリング(13)の作業媒体が、自動車冷却循環の冷却媒体、特に水または水混合物であることを特徴とする請求項8または9のいずれか1項に記載の自動車ドライブトレイン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−515608(P2007−515608A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545973(P2006−545973)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013976
【国際公開番号】WO2005/064183
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(594118017)フォイト・ターボ・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カーゲー (35)
【氏名又は名称原語表記】Voith Turbo GmbH & Co. KG
【Fターム(参考)】