説明

ハイパーブランチ中空繊維の製造方法

本発明は、1つまたは複数の溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)および場合によっては1つまたは複数のさらなるポリマー(FP)に基づく中空フィラメント(F)の製造方法であって、該溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)またはハイパーブランチポリマー(P)とさらなるポリマー(FP)との混合物を、1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過させ、その際、該紡糸口金のダイ長(L)とダイチャネル(デルタD)との比が、0.1〜9.5であることを特徴とする方法に関する。該方法を、ハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES)中空フィラメントの製造のために適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明はハイパーブランチ中空フィラメントおよび中空繊維の製造方法、および特にハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES)中空フィラメントの製造方法、およびそれらから作製された中空繊維に関する。
【0002】
繊維は多くの場合、1つまたは複数のフィラメントで構成される。例えば紡糸工程後に得られる一次材料が、フィラメントと呼ばれている。フィラメントを、より規定されたフィラメント、例えば繊維に変換することができる。繊維は、1またはそれより多くの規定されたフィラメントからなることができる。中空フィラメントまたは繊維は、1つまたはそれより多くの中空を断面内に示す、円筒状のフィラメントまたは繊維である。例えば、膨大なメンブレン用途のための、中空フィラメントまたは繊維の製造および中空繊維紡糸の重要性は、何十年間もよく認識されている。中空繊維メンブレンは特に興味深く、なぜなら、それらはテキスタイル工業、化学または医療(透析)において用途が見出されているからである。現在までのところ、溶融紡糸と溶液紡糸との両方が、中空フィラメントまたは繊維の製造において、最も広く実施されている技術である。
【0003】
紡糸工程は複雑なので、オリフィスダイを通る材料の流動性およびその流動挙動を理解することは、所望の中空フィラメントまたは繊維を、合理的な生産速度で得るために重要である。経済的な観点から、繊維の製造速度は、例えばメンブレン産業において最大生産能力および採算性を決定する1つの主要なパラメータである。しかしながら、ポリマーの流れにおける不安定性によって引き起こされる制限が、生産ライン自体における技術的な問題につながるか、または望ましくない最終製品を製造し、そのことが生産コストを増加させる。
【0004】
中空フィラメントまたは繊維紡糸の不安定性に包含されるいくつかの問題は、引取共振、ネッキング、キャピラリー破壊、不規則な断面、およびメルトフラクチャーまたは押出歪みを含む。上述の現象のほとんどは、紡糸工程の間のフィラメントまたは繊維の破損につながるか、または紡糸された繊維に沿って不均一な断面直径を生じる。典型的にはメルトフラクチャーまたは押出歪みと共に現れる紡糸の不安定性は、通常、歪んだ、粗いまたは波状のポリマー流の形態において起こる。
【0005】
紡糸技術における進歩および特定のポリマー材料における知見は、不安定性の問題を克服するための重要なキーである。中空フィラメントまたは繊維の紡糸のために一般に使用される紡糸口金は、ダイ長(L)とダイアプローチΔD(デルタD)との間の比、いわゆるL/ΔDが約10である。
【0006】
ダイアプローチは、以下の式によって示される:
デルタD=ΔD=0.5×(OD−ID)
[ここで、ODは外径であり、且つIDは内径である]。
【0007】
DE−A19511150号は、中空繊維、例えば再生セルロースのマルチフィラメント紡糸のための装置を開示している。紡糸流からの2つの流れが合わさり、沈殿浴および次の浴を通じて引き抜かれる流れになり、その後、乾燥され且つ巻き取られる。中空繊維を形成するための2つの噴流は、キャピラリーから出た後、中空繊維の内部を満たすためのチャネル充填剤を有する。該キャピラリーは、噴流の中空ゾーン内で、軸心(centering)および/または取付部(mounting)を有する。該中空ゾーンは、一連の滞留(back−up)ゾーンを形成し、それらは狭い断面を有する流部によって連結されている。円錐形の端部は、最終の滞留ゾーンで、平行な環形の隙間に移行する。
【0008】
EP−A0341978号は、外表面から突き出し、弧を描いて自体へと戻る、複数の構成要素を有する中空繊維を開示している。この中空繊維は、区分けされたオリフィスを有する紡糸口金から形成され、その際、個々の区域は、オリフィスのほぼ中心で曲がる弧の形態の第一の部分、第一の部分から伸長し且つ第三の部分に接続する第二の部分、第一の部分に対して逆に曲がった形態の第三の部分を含む。さらには、それらの中空繊維を医療用途またはテキスタイルに用いる使用が言及されている。
【0009】
一般に、押出流動挙動はポリマーの材料特性に非常に依存している。特に、ほぼ同一の粘性関数を有する直鎖または分枝鎖ポリマーの押出挙動は、大きな定性的流動特異性(qualitative flow distinction)を示す。一般に、ほぼ同一の粘性関数を有するポリマーは、大きな流動特異性を実証する。ポリマーはそれらの主鎖に沿った動きによって緩和する傾向がある。しかしながら、分枝鎖のポリマーにおいては、この動きが分岐点によって妨げられ、従って緩和時間は劇的に増加する。流動不安定性は、「ダイスウェル」によって引き起こされ、且つ、押出歪みがその結果である。ポリマー鎖の緩和時間の増加は、流動不安定性を増幅させる可能性があり、且つ、ダイスウェル作用への主な原因ともなり得る。
【0010】
WO−A2009/030620号は、ポリアリールエーテルに基づくポリマー混合物を開示する。さらには、この文献は、ポリアリールエーテル混合物を含有するポリマーメンブレン、およびその製造方法、および開示されたポリアリールエーテル材料を含有するポリマーメンブレンを透析フィルターの製造のために用いる使用に関する。
【0011】
近年、硬度に分岐した構造を有するポリマーが、それらの直鎖の類似物とは対照的な多数の官能基および高い表面反応性に基づき、支持を得てきている。分枝鎖ポリマーの様々な分類の中で、ハイパーブランチ材料、デンドリマーの発明の派生物であって互いに結合した多くの短い鎖を有し且つ平均分枝長が全体の重合度よりも非常に小さい、大きなポリマーを形成するものは、非常に新しい材料である。しかしながら、それらの流動特性はほとんど知られていない。構造の理解およびハイパーブランチ材料の合成において多くの前進があったにもかかわらず、基本的な理解の多く、特にそれらのハイパーブランチポリマーの、特にハイパーブランチ中空繊維の工業的応用は、まだ黎明期の段階である。
【0012】
Yangらは、直鎖ポリエーテルスルホン(PES)材料とハイパーブランチポリエーテルスルホン(PES)材料との両方の高分子構造および流動挙動を調査した(Polymer,第50巻,第2版,2009年1月16日,524−533ページ)。ハイパーブランチのPES材料は、その直鎖の類似物より高い分子量およびより広い分子量分布を有することが記載されている。流動の研究は、HPES/ポリビニルピロリドン(PVP)/N−メチル−2−ピロリドン(MNP)三元系から製造されるポリマー溶液が、それらの直鎖の対応物よりも長い緩和時間を有することを開示している。HPESドープのより低い緩和特性により、中空繊維紡糸の間により顕著なダイスウェリングがもたらされるだけでなく、より小さな孔径、より狭い孔径分布およびより小さい分子量カットオフ(MWCO)を有する中空繊維メンブレンが製造される。さらには、伸長粘度特性は、ハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES)が直鎖のポリエーテルスルホン(LPES)よりも大きな歪み硬化作用を有することを示している。結果として、前者から製造された膜は、高い伸長歪み下で、後者から製造されたものよりもより容易且つより速く破損する傾向がある。
【0013】
ハイパーブランチ中空フィラメントまたは繊維の製造において、根底にある2つの大きな問題は、紡糸工程の間のダウスウェルおよび流動不安定性であり、それにより、ハイパーブランチ中空フラメントおよび繊維を、公知のパラメータの下で効率的に製造することが不可能になる。この問題を解決するために、新規のパラメータが開発されている。
【0014】
本発明の1つの課題は、特に、上述の先行技術の欠点を克服する改善された方法のために、ハイパーブランチポリマーに基づく中空フィラメントの製造のための新規の方法を提供することである。本発明の1つの利点は、該方法が中空フィラメントまたは繊維の紡糸の間の、ハイパーブランチポリマー(P)のダイスウェル、流動不安定性および押出歪みを効率的に最小化することである。
【0015】
本発明は、1つまたは複数の溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)および場合によっては1つまたは複数のさらなるポリマー(FP)に基づく中空フィラメント(F)の製造方法であって、該溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)またはハイパーブランチポリマー(P)とさらなるポリマー(FP)との混合物を、1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過させ、その際、該紡糸口金のダイ長(L)とダイチャネル(デルタD)との間の比が、0.1〜9.5であることを特徴とする方法に関する。
【0016】
1つまたは複数のハイパーブランチポリマー(P)と、1つまたは複数のさらなるポリマー(FP)、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアミド(PA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン(PEI)とを組み合わせた溶液を使用することも可能である。
【0017】
本発明の好ましい実施態様において、さらなるポリマー(FP)は、10,000g/molより大きい分子量を有する無定形および/または高分子ポリマーである。
【0018】
本発明の他の好ましい実施態様においては、唯一のハイパーブランチポリマー(P)を、溶液中で、さらなるポリマー(FP)を用いないで、中空フィラメント(F)の製造のために使用する。
【0019】
本発明の他の好ましい実施態様においては、1つまたは複数のハイパーブランチポリマー(P)を、少なくとも1つのさらなるポリマー(FP)と組み合わせて、中空フィラメント(F)の製造のために使用する。
【0020】
本発明によって使用される紡糸口金(S)は、種々の幾何学的形状(G)および大きさを有してよい。紡糸口金(S)は、金属、ガラス、プラスチックまたは他の材料製であってよい。紡糸口金のために有用な材料は、当業者に公知である。
【0021】
本発明の好ましい実施態様において、ハイパーブランチポリマー(P)は、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミドおよびポリイミド-アミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリアクリロニトリルからなる群から選択される。原則的に、他のハイパーブランチポリマーも、中空繊維の製造のために使用できる。本発明の好ましい実施態様において、ハイパーブランチポリマー(P)は、ハイパーブランチポリエーテルスルホンである。
【0022】
好ましくは、ハイパーブランチポリマー(P)におけるハイパーブランチ度は、0.2〜8%である。特に、ハイパーブランチ度は0.4〜6%であり、しばしば、0.5〜4%である。本発明に関して、ハイパーブランチポリマーにおけるハイパーブランチ度は、ポリマー溶媒を除いたポリマー(P)の総量(mol%)に対するハイパーブランチ単位のパーセント(mol%)である。
【0023】
好ましくは、本発明による中空フィラメントの製造方法は、ハイパーブランチポリマー(P)をプロトン性溶媒中で、特に溶液中のポリマー濃度10〜40質量%で溶解し、その後、1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過させる段階を包含する。
【0024】
ハイパーブランチポリマー(P)を溶解できる溶媒は、好ましくはジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NPM)およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群から選択される。
【0025】
該溶液はさらに、ポリビニルピロリドン(PVP)または1つまたは複数の他の親水性ポリマー、好ましくは600〜100万Daの範囲の分子量を有するものを含む。それらのポリマーの溶液中での質量パーセンテージは、好ましくは1〜20質量%である。
【0026】
本発明の好ましい実施態様によれば、中空フィラメントまたは繊維の製造のために使用される紡糸口金(S)は、
a) 直線チャネルの幾何学的形状 (GI)、
b) 60°の角度(αII)を有する拡大チャネルを有する二重円錐形の幾何学的形状 (GII)、
c) 60°の角度(αIII)を有する円錐形の出口を有する円錐形の幾何学的形状 (GIII)、
d) 30°の角度(αIV)を有する丸い出口チャネルを有する丸い形の幾何学的形状 (GIV)
からなる群から選択される幾何学的形状(G)を有することができる。
【0027】
図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、ダイ長(LI)、紡糸口金出口の全体の一般的な外径である外径(ODI)、および内径(IDI)を有する、直線チャネルの幾何学的形状(幾何学的形状GI)を有する紡糸口金(S)を示す。
【図2】図2は、ダイ長(LII)、外径(ODII)、内径(IDII)を有し、且つ角度(αII)を有する、拡大チャネルを有する二重円錐形の幾何学的形状(幾何学的形状GII)を有する紡糸口金(S)を示す。
【図3】図3は、ダイ長(LIII)、外径(ODIII)、内径(IDIII)を有し、且つ角度(αIII)を有する、円錐形の出口を有する円錐形の幾何学的形状(幾何学的形状GIII)を有する紡糸口金(S)を示す。
【図4】図4は、ダイ長(LIV)、外径(ODIV)、内径(IDIV)を有し、且つ角度(αIV)を有する、丸い出口チャネルを有する丸い形の幾何学的形状(幾何学的形状GIV)を有する紡糸口金(S)を示す。
【図5】図5は、ダイ長(L0)、外径(OD0)および内径(ID0)を有する通常の紡糸口金(幾何学的形状G0)を示す。
【図6】図6は、容器(V)内部の溶解されたハイパーブランチポリマー(P)、溶解されたハイパーブランチポリマー(P)が通過する紡糸口金(S)、エアギャップ(A)、沈殿浴(B)、一次中空フィラメント(F1)および得られた中空フィラメント(F)を有する、通常の乾燥噴流湿式紡糸装置(W)を示す。
【0029】
様々な種類の乾燥噴流湿式紡糸装置(W)の使用が、当業者に公知である。幾何学的形状(GI)、(GII)、(GIII)および/または(GIV)を有する紡糸口金(S)を有する他の紡糸装置を使用できる。
【0030】
本発明の特定の実施態様において、幾何学的形状(GI)を有する紡糸口金(S)は、ダイ長(LI)0.2〜4.5mm、およびLI/デルタDI比0.8〜2.0を有する。
【0031】
他の好ましい実施態様において、幾何学的形状(GII)を有する紡糸口金(S)は、ダイ長(LII)0.2〜4.5mm、およびLII/デルタDII比1.2〜3.0を有する。
【0032】
本発明の特定の実施態様において、幾何学的形状(GIII)を有する紡糸口金(S)は、ダイ長(LIII)0.2〜4.5mmおよびLIII/デルタDIII比1.1〜2を有する。
【0033】
好ましくは、幾何学的形状(GIV)を有する紡糸口金(S)は、ダイ長(LIV)0.2〜4.5mm、およびLIV/デルタDIV比1.1〜2を有する。
【0034】
中空フィラメントの製造方法の好ましい実施態様において、以下の段階が含まれる:
a) ハイパーブランチポリマー(P)を極性溶媒中で、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加して、または添加しないで、溶解する段階、
b) 溶解されたハイパーブランチポリマー(P)を、乾燥噴流湿式紡糸装置(W)の容器(V)内に移す段階、
c) 溶解されたハイパーブランチポリマー(P)を、幾何学的形状(GI)、(GII)、(GIII)または(GIV)の1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過させる段階、
d) 0.1〜25cmのエアギャップ(A)を通じて、押し出されたハイパーブランチポリマー(P)をみちびく段階、
e) 押し出されたハイパーブランチポリマー(P)を、沈殿浴(B)内へとみちびき、そして押し出された溶解ハイパーブランチポリマー(P)を一次中空フィラメント(F1)へと変換する段階、
f) 一次中空フィラメント(F1)を沈殿浴(B)内でそらす段階、
g) 中空フィラメント(F)を、沈殿浴(B)外でそらす段階、
h) 中空フィラメント(F)を乾燥させる段階。
【0035】
沈殿浴(B)のために使用される非溶媒は、直鎖または分枝鎖アルコール(例えばC2〜C10−アルコール)または他のプロトン性非溶媒であってよい好ましい実施態様において、沈殿浴(B)のための非溶媒はイソプロパノール(IPA)である。非溶媒は、2つまたはそれより多くのプロトン性非溶媒の混合物であってもよい。
【0036】
エアギャップ(A)は、紡糸口金の出口と沈殿浴(B)との間の距離として定義される。
【0037】
溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)の粘度は、該工程の間、多くの場合、15〜30Pa・sである。中空繊維の製造のために使用されるポリマーに依存して、粘度は15Pa・s未満または30Pa・sより高くてもよい。
【0038】
好ましくは上述の工程の段階c)において、孔流体(bore fluid)組成物を使用する。孔流体組成物は、本願に関しては、紡糸工程の間に中空フィラメント中に製造される中空部のために用いられる流体の組成物として定義される。特に、孔流体は、紡糸口金(S)の内部の中空部(内径ID)を、好ましくは孔流体の流速1〜2ml/分の範囲で通過する。いくつかの種類の孔流体が当該技術分野で公知である。工程中の孔流体組成物は、例えば水中で0〜90質量%の溶媒N−メチル−2−ピロリドン(NMP)で構成されるか、または純水で構成されてよい。好ましくは、上述の工程において使用される孔流体は10〜90質量%のNMPと、10〜90質量%の水とからなる。
【0039】
孔流体の好ましい組成物は、非溶媒を多く含む孔流体組成物である。好ましくは、それらは、例えば幾何学的形状(GIII)または(GIV)を有する紡糸口金(S)を使用する場合、100質量%〜20質量%の水を含有できる。他の孔流体混合物も可能である。
【0040】
工程の段階a)〜c)を、様々な紡糸温度で実施できる。中空フィラメントの製造工程における(および特に段階c)における)紡糸温度は、好ましくは25℃〜150℃である。好ましい温度範囲は、50℃〜100℃である。
【0041】
工程の段階e)〜g)における一次中空フィラメント(F1)および中空フィラメント(F)を、ハイパーブランチポリマー(P)が紡糸口金(S)を通じてプレスされ、エアギャップ(A)を通じて導かれ、且つ沈殿浴(B)内に導かれた後に製造された一次中空フィラメント(F1)を巻取るために用いられるべき速度として定義される巻き取り速度で巻取ることができる。中空フィラメント(F)の製造のための工程における巻き取り速度は、例えば1〜80m/分に及んでよい。好ましい巻き取り速度は、5〜40m/分、より好ましくは6〜10m/分である。多くの場合、8m/分より速い巻き取り速度が使用される。
【0042】
本発明に記載される方法によって製造された中空フィラメント(F)を、例えば様々なポリマー製品の製造のために使用できる。さらに本発明は、本発明に記載される方法によって製造された(または得られた)中空フィラメント(F)の使用に関している。本発明の好ましい実施態様において、上述の方法によって製造された中空フィラメント(F)は、繊維および/またはメンブレンの製造のために使用される。
【0043】
中空フィラメント(F)を、本発明による方法によって製造できる。さらに本発明は、本発明に記載される方法によって製造される(または得られる)中空フィラメント(F)に関している。中空フィラメント(F)または中空繊維を、例えば医療において、例えばメンブレン式の人口腎臓および血漿分離器として、ガス分離器として、精密ろ過、限外ろ過またはナノろ過のために、またはテキスタイル産業において、適用され得るメンブレンの製造のために使用できる。そのほかに、排水処理、飲用水の浄化、または生化学工学における用途が可能である。
【0044】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0045】
実施例
実施例1:
この実施例は、ハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES)中空繊維紡糸におけるダイスウェルおよび押出歪みを最小化するための様々な紡糸口金のデザインの使用について記載する。
【0046】
本実験のために採用された直鎖のポリエーテルスルホン(LPES)製品(BASF SEのUltrason(登録商標) E6020P)は、100mol%の直鎖単位で構成されている。
【0047】
本実験のために採用されたハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES)は、2mol%の分岐単位(2%のハイパーブランチ度)および98mol%の直鎖単位で構成されており、BASF SE(ドイツ)によって供給された。LPESとHPESとの両方を、別々に使用し且つ比較し、そして以下の実施例に記載した。それらの化学構造を以下の図に示す。
【0048】
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(メルク製、シンガポール)、イソプロパノール(IPA)(メルク、シンガポール)、およびポリビニルピロリドン(PVP)(メルク、シンガポール)であって、平均Mw369000Daを有するものを、中空繊維紡糸のための、溶媒、凝集剤および添加剤としてそれぞれ用いた。ドープ溶液の調製のために、直鎖のポリエーテルスルホン(LPES)、ハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES)およびポリビニルピロリドン(PVP)粉末を、約120℃で、真空中で終夜乾燥させて、湿分を除去した。
【0049】
その後、特定の量の乾燥LPESまたはHPESを、所望の質量パーセントに従って、冷却されたNMP内にゆっくりと溶解させた。PVPをポリマードープ溶液に添加して、その最終組成を16/10/74質量%のポリエーテルスルホン(PES)/PVP/NMPで一定にした。
【0050】
ポリマー溶液を、中空繊維紡糸前に少なくとも1日、連続的に攪拌して、泡を除去した。
【0051】
その後、乾燥噴流湿式紡糸法を、表1に記載される詳細な紡糸条件にて実施した。
【0052】
【化1】

【0053】
化学構造:
(A) 直鎖のポリエーテルスルホン(LPES);
(B) ハイパーブランチポリエーテルスルホン(HPES);
(C) ポリビニルピロリドン(PVP)
(前記nは、>1の数である)。
【0054】
図6は典型的な乾燥噴流湿式紡糸装置を示す。ドープ溶液および孔流体を、特定の流速で、2つのISCOシリンジポンプを使用して、紡糸口金を通じて押し出した。紡糸口金から出てくる発生期の繊維を、マイクロレンズ(MP−E 65mm/f/2.8 1−5×)を備えたCanon EOS 350Dデジタルカメラによって速写し、且つ、その写真を評価して結果を比較した。
【0055】
【表1】

【0056】
使用された紡糸口金の幾何学的形状GI、GII、GIII、GIVおよびG0を図1〜5に示す。使用された紡糸口金は、以下の寸法を有する(表2参照):
【表2】

【0057】
同様のドープ粘度を有するLPESおよびHPESポリマー溶液を、様々なデザインを有する紡糸口金(S)を通じて押し出した。紡糸口金のデザインの中で比較すると、幾何学的形状(GII)を有する紡糸口金(S)が、LPESポリマー溶液とHPESポリマー溶液との両方について最も顕著なダイスウェルをもたらす。安定性の点では、流動安定性が、幾何学的形状(GIII)および(GIV)を有する紡糸口金(S)において、幾何学的形状(G0)を有する通常の紡糸口金(S)および幾何学的形状(GI)を有する紡糸口金(S)の場合と比較して強化されたことが明らかである。結論として、幾何学的形状(GIII)および(GIV)を有する紡糸口金(S)は、せん断応力が全体的に減少し且つ圧縮応力が強化されたことに基づき、他の紡糸口金のデザインと比較して、最も改善された流動安定性並びにより少ないダイスウェルを示す。
【0058】
実施例2:
この実施例は、様々な紡糸口金のデザインを用いて紡糸されたHPES中空繊維におけるダイスウェルおよび押出歪みを最小化するための孔流体組成物の最適化について記載する。種々の幾何学的形状を有する、使用された紡糸口金(S)の寸法は、実施例1、および表2に示されたものと同様である。
【0059】
流体の組成の変化が、HPES紡糸のダイスウェルおよび押出歪みにおいて重要な役割を果たすことが知られているので、表3に示されたものと同様の紡糸条件および図1〜図5において図示される様々な紡糸口金のデザインを使用して孔流体組成物を最適化するための紡糸を実施し、そのことによりダイスウェルおよび押出歪みを最小化できる。
【0060】
HPESドープ溶液の押出しにおける流動不安定性は、幾何学的形状(G0)の通常の紡糸口金(S)および幾何学的形状(GI)を有する紡糸口金(S)を用いて紡糸された繊維について、全ての範囲の孔流体組成において観察できることに気付くかもしれない。しかしながら、2つの紡糸口金において興味深い知見に気付くことができる。押し出されたHPESドープ溶液におけるより著しい流動不安定性は、孔流体中の溶媒(NMP)の含有率が55から99質量%に増加した際に観察できる。それ故、幾何学的形状(G0)を有する通常の紡糸口金(S)および幾何学的形状(GI)を有する紡糸口金(S)を使用した繊維紡糸の間に比較的良好な流動安定性を達成するために決定的な孔流体の組成があると推測することができる。
【0061】
【表3】

【0062】
ダイスウェル効果の観点においては、孔流体の組成は、幾何学的形状(G0)を有する通常の紡糸口金(S)または幾何学的形状(GI)、(GIII)および(GIV)を有する紡糸口金(S)を使用したHPES押出におけるダイスウェルに及ぼす限定的な効果を有するように見える。しかしながら、幾何学的形状(GII)を有する修正された紡糸口金(S)においては、90/10質量%のNMP/水の孔流体を用いて紡糸されたHPES押出の際、著しいダイスウェルが観察された。しかしながら、孔流体の組成が10/90質量%のNMP/水に低下した場合には、このひどいダイスウェルおよび流動歪みを著しくなくすことができる。これは、分岐部分内での制約された境界の下での鎖の緩和および孔流体の化学的性質が、幾何学的形状(GII)を有する紡糸口金のダイスウェルおよび流動安定性に重要な役割を果たすことを示している。他方で、幾何学的形状(GIII)および(GIV)を有する紡糸口金(S)は、様々な孔流体の組成において安定した流動を実証する。
【0063】
従って、適切な幾何学的形状を有する紡糸口金を設計すること、および適した紡糸条件を選択することが、この不安定現象を抑制するための効果的な解を提供することが強調される。
【0064】
実施例3:
この実施例は、HPES中空繊維紡糸におけるダイスウェルおよび押出歪みを抑制するために適切なダイの幾何学的形状の設計と、最適な紡糸パラメータとの組み合わせを記載する。種々の幾何学的形状を有する、使用された紡糸口金(S)の寸法は、実施例1、および表2に示されたものと同様である。
【0065】
ダイスウェルおよび流動不安定性を減少するための、他の実現性のある方策を、巻き取り速度を調節することによって行った。繊維紡糸における巻き取り速度は、紡糸されたばかりの繊維に対する外部仕事(または伸長応力)であるので、中空繊維の寸法およびモフォロジーに重要な役割を果たす決定的なパラメータである。
【0066】
紡糸方向に沿ったこの仕事(または応力)が、横方向の不安定な力を釣り合わせることができ、従って、ポリマー鎖を紡糸方向に配列させ、且つ、流動不安定性を抑制し、歪みを滑らかにする。その結果、より少ないダイスウェルおよびより良好な流動不安定性が達成できることを期待できる。パラメータを表4に示す。
【0067】
結果として、より高い巻き取り速度の紡糸が行われる場合、ダイスウェルと流動不安定性との両方を顕著に減少できることが観察された。この傾向は、幾何学的形状(GI)、(GII)、(GIII)、(GIV)および(G0)を有する全ての紡糸口金のデザインについてあてはまる。さらには、高い巻き取り速度の紡糸と非溶媒の多い孔流体組成物との組み合わせは、ダイスウェルを減少し且つ流動安定性を強化するための効果的な戦略を示す。この場合、幾何学的形状(GIII)および(GIV)を有する紡糸口金(S)を、その最も安定な流れに基づき、さらなる研究のために選択した。紡糸されたばかりの発生期の繊維は、ダイスウェルを示さず、並びに良好な流動安定性を示す。孔流体としてのNMP/水(55/45質量%)を用いて、より高い巻き取り速度で紡糸された繊維は、自由落下条件下で紡糸された繊維と比較して強化された流動安定性と共に、わずかなダイスウェルを示す。
【0068】
【表4】

【0069】
全体として、全ての紡糸口金(S)の中で最も安定な流れを示す幾何学的形状(GIII)および(GIV)を有する紡糸口金(S)、および孔流体組成と巻き取り速度との組み合わせを、適切に選択して使用することが、紡糸HPES材料のダイスウェルを抑制することにおいて、並びにそれらの中空繊維紡糸の安定性を強化することにおいて、重要であることを強調できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)および場合によっては1つまたは複数のさらなるポリマー(FP)に基づく中空フィラメント(F)の製造方法であって、該溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)またはハイパーブランチポリマー(P)とさらなるポリマー(FP)との混合物を、1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過させ、その際、該紡糸口金のダイの長さ(L)とダイチャネル(デルタD)との比が、0.1〜9.5であることを特徴とする方法。
【請求項2】
ハイパーブランチポリマー(P)が、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミドおよびポリイミド−アミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリアクリロニトリルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハイパーブランチポリマー(P)が、ハイパーブランチポリエーテルスルホンであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ハイパーブランチポリマー(P)におけるハイパーブランチ度が0.2〜8%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ハイパーブランチポリマー(P)が、プロトン性溶媒中で、溶液中のポリマー濃度10〜40質量%で溶解され、その後、1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
紡糸口金(S)が、
a) 直線チャネルの幾何学的形状 (GI)、
b) 60°の角度(αII)を有する拡大チャネルを有する二重円錐形の幾何学的形状 (GII)、
c) 60°の角度(αIII)を有する円錐形の出口を有する円錐形の幾何学的形状 (GIII)、
d) 30°の角度(αIV)を有する丸い出口チャネルを有する丸い形の幾何学的形状 (GIV)
からなる群から選択される幾何学的形状(G)を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
幾何学的形状(GI)を有する紡糸口金(S)が、ダイ長(LI)0.2〜4.5mmおよびLI/デルタDI比0.8〜2.0を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
幾何学的形状(GII)を有する紡糸口金(S)が、ダイ長(LII)0.2〜4.5mmおよびLII/デルタDII比1.2〜3.0を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
幾何学的形状(GIII)を有する紡糸口金(S)が、ダイ長(LIII)0.2〜4.5mmおよびLIII/デルタDIII比1.1〜2を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
幾何学的形状(GIV)を有する紡糸口金(S)が、ダイ長(LIV)0.2〜4.5mmおよびLIV/デルタDIV比1.1〜2を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
以下の段階:
a) ハイパーブランチポリマー(P)を極性溶媒中で、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加して、または添加しないで、溶解する段階、
b) 溶解されたハイパーブランチポリマー(P)を、乾燥噴流湿式紡糸装置(W)の容器(V)内に移す段階、
c) 溶解されたハイパーブランチポリマー(P)を、幾何学的形状(GI)、(GII)、(GIII)または(GIV)の1つまたは複数の紡糸口金(S)を通過させる段階、
d) 0.1〜25cmのエアギャップ(A)を通じて、押し出されたハイパーブランチポリマー(P)をみちびく段階、
e) 押し出されたハイパーブランチポリマー(P)を、沈殿浴(B)内へとみちびき、そして押し出された溶解ハイパーブランチポリマー(P)を一次中空フィラメント(F1)へと変換する段階、
f) 一次中空フィラメント(F1)を沈殿浴(B)内でそらす段階、
g) 中空フィラメント(F)を、沈殿浴(B)外でそらす段階、
h) 中空フィラメント(F)を乾燥させる段階
を含むことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程の間の溶融または溶解されたハイパーブランチポリマー(P)の粘度が、15〜30Pa・sであることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ポリマー製品の製造のための、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法によって製造された中空フィラメント(F)の使用。
【請求項14】
繊維および/またはメンブレンの製造のための、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法によって製造された中空フィラメント(F)の使用。
【請求項15】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法によって製造された中空フィラメント(F)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−509502(P2013−509502A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535783(P2012−535783)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066141
【国際公開番号】WO2011/051273
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【Fターム(参考)】