説明

ハイブリッドレンズの塗装方法

【課題】 表面の凹凸の差が大きい非球面の光学面を有するハイブリッドレンズ表面にコーティング液を均一な膜厚で塗布することができるハイブリッドレンズの塗装方法を提供する。
【解決手段】 ハイブリッドレンズを500〜900rpmの回転数で回転させながら樹脂層に滴下したコーティング液を樹脂層表面に広げる第1回転塗布工程と、第1塗布工程後、ハイブリッドレンズを1200rpm以上の回転数で回転させて樹脂層に塗膜を形成する第2回転塗布工程との2段階のスピンコート法で塗装を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスレンズ母材に樹脂層を接合してなるハイブリッドレンズに各種の塗膜を形成する塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種光学機器において、レンズや反射鏡等の光学素子の高性能化、小型軽量化、低コスト化を図るために非球面を有する光学素子の使用が盛んである。特に液晶プロジェクタ用投射レンズは、画像を近距離で高拡大する必要があるため高度な光学系となり、収差補正に必要なレンズが多数必要となる。また、光学系の最後のレンズは大口径となる。
【0003】
非球面レンズを用いて光学系を構成すると、収差補正に必要なレンズ枚数を球面レンズだけで構成した場合と比較して大幅に減らすことができる。非球面レンズの非球面量が大きくなれば、削減することができるレンズの数も増加するが、非球面量が大きい非球面レンズ、特に大口径の非球面レンズを製造することは、従来極めて困難であった。
このような大口径で非球面量が大きい非球面レンズを製造する技術として、特許文献1に示されるようなハイブリッドレンズの製造方法が開示されている。
【0004】
ハイブリッドレンズの非球面形状をした樹脂層表面に反射防止膜を成膜してハイブリッドレンズの表面反射率を低下させ、迷光等による乱反射を防止し、入射光を有効利用することで光効率を向上させることができる。そのため、樹脂層表面に反射防止膜を形成したハイブリッドレンズが要望されている
【0005】
ところが、特許文献1に記載されているハイブリッドレンズは、ガラスレンズ母材に密着性良く樹脂層を形成するため、比較的軟質な特殊な樹脂を用いる。そのため、無機蒸着膜で構成される反射防止膜を樹脂層の上に形成すると、樹脂層と反射防止膜との熱膨張率の差から、レンズとして必要な高温耐久性、例えば−30℃〜80℃の温度範囲の環境温度下に晒すと、反射防止膜にクラックや剥離が生じたり、樹脂層の変形、ガラス母材の割れなどが生じてしまう。
【0006】
そのため、ハイブリッドレンズの高温耐久性を規格内に納めるために、図1に示すように、ハイブリッドレンズ1の母材11の上に形成されている樹脂層12と無機蒸着膜で構成される反射防止膜2との間に熱膨張率が反射防止膜2と樹脂層12の中間の有機系の緩衝層3を介在させる必要があることを知見した。
【特許文献1】特開2005−60657号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているハイブリッドレンズは、樹脂層12の最小厚みTminと最大厚みTmaxの差が大きな非球面を有している。そのため、緩衝層3を形成するためのコーティング液を光学的に悪影響がないように均一な膜厚で樹脂層12表面に塗布することが困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、表面の凹凸の差が大きい非球面の光学面を有するハイブリッドレンズ表面にコーティング液を均一な膜厚で塗布することができるハイブリッドレンズの塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、第1に、ガラスレンズ母材に樹脂層を接合してなり、前記樹脂層の最大厚みが10mm以下であり、かつ前記樹脂層の有効径内での最大厚み/最小厚みの比が4以上20以下のハイブリッドレンズの前記樹脂層の表面に塗膜を形成するハイブリッドレンズの塗装方法において、前記ハイブリッドレンズを500〜900rpmの回転数で回転させながら、前記樹脂層に滴下したコーティング液を前記樹脂層表面に広げる第1回転塗布工程と、前記第1回転塗布工程後、前記ハイブリッドレンズを1200rpm以上の回転数で回転させて前記樹脂層に塗膜を形成する第2回転塗布工程とを有することを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法を提供する。
【0010】
本発明者は、表面の凹凸の差が大きい非球面にコーティング液を均一にかつ一面だけに塗布するためには、スピンコート法が有効であること、スピンコートを初期の比較的低い回転数の第1回転塗布工程と、その後の比較的回転数が大きい第2回転塗布工程の2段階で行うこと、第1回転塗布工程を500〜900rpmの回転数とし、第2回転塗布工程を1200rpm以上の回転数で行うことにより、表面の凹凸の差が大きい非球面を有するハイブリッドレンズ表面にコーティング液を均一な膜厚で塗布することができることを見い出したものである。
【0011】
本発明は、第2に、上記第1のハイブリッドレンズの塗装方法において、前記コーティング液の粘度が、20℃において0.1〜10センチポアズであることを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法を提供する。
【0012】
本発明のハイブリッドレンズの塗装方法においては、2段階回転塗布方法が採用されるが、用いられるコーティング液の粘度が20℃において0.1〜10センチポアズの範囲内であれば、表面の凹凸の差が大きい非球面に均一に塗膜を形成することが可能である。
【0013】
本発明は、第3に、上記第1のハイブリッドレンズの塗装方法において、前記第1回転塗布工程の所要時間が10秒を超え、前記第2回転塗布工程の所要時間が10秒を超えることを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法を提供する。
【0014】
第1回転塗布工程の所要時間が10秒以下では、コーティング液の十分な広がりが得られず、均一な塗膜の形成が困難になり、第2回転塗布工程の所要時間が10秒以下では押し広げたコーティング液中の溶媒の除去及び乾燥が不十分になり、膜厚分布が不均一になるおそれがある。
【0015】
本発明は、第4に、上記第1〜3いずれかのハイブリッドレンズの塗装方法において、前記コーティング液が、プライマー層、ハードコート層及び反射防止膜のいずれかを形成する液状組成物であることを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法を提供する。
【0016】
本発明のハイブリッドレンズの塗装方法は、表面の凹凸の差が大きいハイブリッドレンズに塗膜を形成する用途に広く利用可能であり、例えば、反射防止膜と樹脂層の間に緩衝層としてハードコート層、更にハードコート層と樹脂層の間に介在させるプライマー層、樹脂層の上に直接形成できる有機系反射防止膜の形成に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のハイブリッドレンズの塗装方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
本発明の塗装方法の対象となるハイブリッドレンズとしては、特許文献1の特開2005−60657号に記載されているハイブリッドレンズを例示することができる。このハイブリッドレンズは、ガラスレンズ母材に樹脂層を接合してなるもので、樹脂層の最大厚みが1〜10mmの範囲であり、樹脂層の有効径内での最大厚み/最小厚みの比が4以上20以下であり、表面の凹凸の差が大きい軸対称非球面の光学面を有する。
【0018】
このような大きな非球面の樹脂層をガラス母材の表面に形成させるために、樹脂層は以下に述べるようなハイブリッドレンズ用樹脂組成物から得られる。このハイブリッドレンズ用樹脂組成物は、シランカップリング剤の含有量が1〜10重量部、ラジカル重合性モノマーとして、下記A成分、B成分及びC成分を含有する。
【0019】
A成分:下記一般式(I)で示されるジ(メタ)アクリレート化合物の含有量が30〜90重量部、
【化1】

(式中、Rは水素またはメチル基、mは1〜5の整数、nは1〜16の整数を表す。)
【0020】
B成分:下記一般式(II)で示されるモノ(メタ)アクリレート化合物の含有量が5〜40重量部、
【化2】

(式中、Rは水素またはメチル基、Rは炭素原子数が5〜16の脂環式炭化水素基を表す。)
【0021】
C成分:1分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有するウレタンポリ(メタ)アクリレート又は1分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有するエポキシポリ(メタ)アクリレートの含有量が5〜50重量部。
【0022】
このような組成の紫外線硬化性ハイブリッドレンズ用樹脂組成物を用い、球面ガラスレンズを母材として非球面形状を転写する成形金型と組み合わせ、母材と成形金型との間に紫外線硬化性のハイブリッドレンズ用樹脂組成物を充填し、母材側から紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂組成物を硬化させた後、成形金型を脱離して、母材に成形金型からの転写で非球面形状が形成された樹脂層を接合する方法でハイブリッドレンズを製造することができる。
【0023】
このようにして得られるハイブリッドレンズは、特開2005−60657号の実施例では、外径100mmのガラス型の上に中心の厚みが0.5mm、最大樹脂層厚5mmの樹脂層を形成している。
【0024】
光学部材表面の光学面に設ける塗膜の膜厚の許容差は、光学性能に悪影響を与えないように、±10%未満、特に±5%以内の均一性を有することが好ましいとされている。表面の凹凸の差が大きい非球面の光学面を有するハイブリッドレンズにこのような均一に塗膜を形成するのは困難である。
【0025】
本発明のハイブリッドレンズの塗装方法は、塗装方法としてスピンコート法を採用する。塗膜を形成するのはハイブリッドレンズの樹脂層側の表面であり、その面だけに塗膜を形成するにはスピンコート法が適している。また、スピンコート法は、条件の設定の幅が大きく、凹凸の差が大きい非球面に対して適応性が良好であると考えられたからである。
【0026】
ハイブリッドレンズの樹脂層に形成する塗膜の種類としては、ハイブリッドレンズの樹脂層の上に直接形成する有機系反射防止膜、無機蒸着膜で構成される反射防止膜と樹脂層との間に介在する緩衝層、緩衝層と樹脂層との間に介在して緩衝層の密着性を向上させるためのプライマー層を例示することができる。
【0027】
プライマー層としては、緩衝層と樹脂層との密着性に優れる水性化アクリル−ウレタン樹脂又はポリエステル系熱可塑性エラストマーが好ましい。水性化アクリル−ウレタン樹脂とは、アクリルポリオールと多官能性イソシアネート化合物との共重合体、又はアクリルポリオールと水性化ポリウレタン樹脂との複合体であり、水に分散されたものである。
【0028】
アクリルポリオールは、水酸基をもつアクリルモノマーとこの水酸基をもつアクリルモノマーとアクリル酸エステル等の共重合可能なモノマーとの共重合アクリル樹脂である。水性化ポリウレタン樹脂は、水性ウレタン樹脂又は水分散型ポリウレタンともよばれ、多官能イソシアネート化合物とポリオールとの反応によって得られたウレタン樹脂が水溶液中にエマルジョンとして分散されているものである。
【0029】
プライマー層を構成するポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、特開2000−144048に記載されているものを例示することができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテルまたはポリエステルを使用したマルチブロック共重合体である。ハードセグメント(H)とソフトセグメント(S)との重量比率は、H/S=30/70〜90/10、望ましくは40/60〜80/20である。
【0030】
基材上へプライマー層を形成する方法は、例えば水性化アクリル−ウレタン樹脂又はポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む水溶液に必要により屈折率調整のための金属酸化物微粒子を配合し、必要により溶剤に希釈してプライマー液を調製して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。
【0031】
プライマー層の厚さは、0.5〜5μm、好ましくは2〜3μmの範囲とすることが望ましい。膜厚の分布の許容差は±1μm以内、好ましくは±0.2μm程度である。
【0032】
また、緩衝層としては、プラスチック眼鏡レンズのハードコート層を形成するコーティング液と同じ成分の組成物を好適に用いて形成することができる。ハードコート層は無機蒸着膜で構成される反射防止膜とハイブリッドレンズの樹脂層との中間の熱膨張率を有するためである。
【0033】
ハードコート層は、少なくとも下記(D)成分及び(E)成分
(D)平均粒径1〜200nmの無機酸化物微粒子、
(E)一般式:RSiXで表される有機ケイ素化合物、
(式中、Rは重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基を表し、Xは加水分解性基を表す。)
を含有するコ−ティング用組成物から形成された塗膜である。
【0034】
(D)成分の無機微粒子は、Si,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる金属の1種又は2種以上の酸化物微粒子又は複合微粒子を例示することができる。無機酸化物微粒子の種類や配合量は、目的とする硬度や屈折率等により決定されるものであるが、配合量はハードコート組成物中の固形分の5〜80重量%、特に10〜50重量%の範囲であることが望ましい。
【0035】
(E)成分の有機ケイ素化合物のRは重合可能な反応基を有する有機基であり、重合可能な反応基としては、例えばビニル基,アリル基,アクリル基,メタクリル基,エポキシ基,メルカプト基,シアノ基,イソシアノ基,アミノ基等を例示することができる。また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体的なものとして、メトキシ基,エトキシ基,メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基,ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
(E)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等がある。この(E)成分は、2種以上混合して用いてもかまわない。また、加水分解を行なってから用いた方がより有効である。
【0037】
ハードコート層形成用のコーティング用組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。
ハードコート層の膜厚は、1〜10μmの範囲、好ましくは3〜5μmの範囲とすることが望ましい。膜厚の分布の許容差は±1μm以内、好ましくは±0.2μm程度である。
【0038】
有機系反射防止膜としては、下記F成分:下記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物、
SiX4−q―r・・・(3)
(式中、Rは重合可能な反応基を有する有機基、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、Xは加水分解基であり、qは0又は1、rは0又は1である。)、
及びG成分:内部空洞を有するシリカ系微粒子を含有するコーティング組成物を塗布、重合硬化したもので形成することができる。その屈折率は、下地の屈折率よりも0.10以上低くなるように調製することが好ましい。
【0039】
有機系反射防止膜は、湿式法による簡便な方法で形成できるため、無機蒸着膜で構成される反射防止膜よりコスト的に有利である。有機系反射防止膜の膜厚は、反射防止膜として機能するために、3〜10nmの範囲、好ましくは3〜5nmの範囲とすることが望ましい。膜厚の分布の許容差は±1nm以内、好ましくは±0.2nm程度である。
【0040】
これらのプライマー層、緩衝層及び有機系反射防止膜を形成するためのコーティング液の粘度は、概ね20℃で0.1〜10センチポアズ、好ましくは1〜5センチポアズの範囲内とすることが望ましい。この範囲内の粘度であれば、凹凸の差が大きい非球面に対するスピンコート法の条件として、ほぼ同じ範囲内の条件で均一な塗膜を形成できることが判明した。このスピンコートの条件について説明する。
【0041】
スピンコート法は、図2に示すように、ハイブリッドレンズ1の塗布すべき樹脂層12の表面を上にして下側のガラス母材11の中心部を、鉛直方向の回転軸を中心として回転する回転筒31の上部に存する真空吸着チャック32などでほぼ光軸に沿って吸着保持し、回転筒31を所定の回転数で回転させながら、ハイブリッドレンズ1の樹脂層12のほぼ中心部にコーティング液供給管4よりコーティング液を滴下し、滴下したコーティング液を遠心力で押し広げて塗膜を形成する塗装方法である。
【0042】
本発明においては、凹凸の差が大きい非球面に均一な塗膜を形成するために、回転数の異なる2段階塗布工程が採用される。第1回転塗布工程は、500〜900rpm、好ましくは550〜800rpmの回転速度でハイブリッドレンズを回転させながら、滴下したコーティング液を押し広げる。第1回転塗布工程での回転数が低すぎると、コーティング液の広がりが十分でなくなり、中心部と周辺部との膜厚分布が大きくなりすぎ、均一な塗膜の形成が困難になるおそれがある。一方、第1回転塗布工程での回転数が速すぎると、全体的に膜厚が不足し、所望の膜厚の塗膜が得られないおそれがある。第1回転塗布工程の所要時間は、上記回転数を維持する時間が10秒を超え1分以内の範囲が好ましい。第1回転塗布工程の時間が10秒以下であると、コーティング液の広がりが十分ではなく、中心部と周辺部の膜厚分布が大きくなりすぎてしまうおそれがある。一方、時間が長すぎると、コーティング液を押し広げる機能を終えた後の時間が無駄になり、生産性の低下を招くおそれがある。第1回転塗布工程の所要時間は30±15秒程度である。
【0043】
第2回転塗布工程では、第1回転塗布工程後、第1回転塗布工程での回転数より速い回転数でハイブリッドレンズを回転させ、コーティング液の溶媒を振り切って除去し、塗膜を乾燥させる工程である。第2回転塗布工程における回転数は1200rpm以上、特に1500rpm以上とすることが好ましく、これ以上の回転数であれば回転数の上限はない。回転数が遅くなると、コーティング液の溶媒の除去及び乾燥が不十分となり、膜厚分布が許容差を超えるおそれがある。また、有機系反射防止膜の成膜では、中空の微粒子を用いているため溶媒の除去が遅いようであり、必要な膜厚まで薄くすることができないおそれがある。第2回転塗布工程の所要時間は10秒を超えることが好ましく、望ましくは20秒以上2分以内である。通常は40±20秒程度である。第2回転塗布工程の時間が短くなると、コーティング液の溶媒の除去及び乾燥が不十分となり、膜厚分布が許容差を超えるおそれがある。
【0044】
コーティング液を滴下する箇所は、均一な塗膜を形成できればハイブリッドレンズの中心部に限らない。また、コーティング液を滴下するタイミングは、ハイブリッドレンズが静止状態のときに滴下しても良く、上記したように回転中でも良い。
【実施例】
【0045】
<実施例1>
ハイブリッドレンズを製造し、ハイブリッドレンズの樹脂層に無機蒸着膜の反射防止膜を設けたが、樹脂層と反射防止膜の間に緩衝層を介在させた場合と介在させない場合の熱耐久性を試験した。
(1)ハイブリッドレンズの製造
ノナブチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン(株)製:商品名アイキュアM−70)65重量部、トリシクロ(5,2,1,02,6)デカン−8−イルメタクリレート(日立化成工業(株)製:商品名FA−513MS)12重量部、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートとを反応させて得られたウレタンジアクリレート(三菱レイヨン(株)製:商品名ダイヤビームU−12)20重量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン(株)製:商品名オルガノシランTSL−8730)3重量部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名IRGACURE819)300ppm、t−ブチルパーオキシイソブチレート(日本油脂(株)製:商品名パーブチルIB)1000ppmを混合し、室温でよく攪拌した後、50mmHgに減圧して15分間脱気して、ハイブリッドレンズ用樹脂組成物を得た。
鏡面仕上げし、シランカップリング剤処理(10%γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのエタノール溶液塗布及び120℃で約30分間の焼成処理)を施した外径100mm、曲率120mmのガラスレンズ母材((株)オハラ製:硝子材種S−BSL7、屈折率nd=1.515)と非球面形状に鏡面仕上げ加工した外径100mmのガラス型とを、中心の厚みを0.5mm、最大樹脂層厚5mmとなるように粘着テープを用いて組み合わせ、ハイブリッドレンズ成形型を組み立てた。上記ハイブリッドレンズ用樹脂組成物をこのハイブリッドレンズ成形型中に注入した。
次いで、ハイブリッドレンズ用樹脂組成物を注入したハイブリッドレンズ成形型をハイブリッドレンズ成形型の両側から照射強度100WのUVランプで照射するように調整したUV照射装置に投入し、6000mJ/cmの紫外線を照射して樹脂層を硬化成型した。その後、ガラス型を離型し、135℃で1時間加熱してアニール処理した。
(2)緩衝層の形成
金属アルコキシドと無機酸化物微粒子から構成される有機-無機混合化合物からスピンコートで緩衝層を形成した。
(3)反射防止膜の形成
緩衝層又は樹脂層表面にSiO/ZrO系の反射防止膜を蒸着処理した。
【0046】
(4)耐久試験1
80℃×24時間の高温保管を行った後、室温に戻して2時間後に、基材ガラスの割れ及び樹脂層の変形、さらに樹脂表面に施したAR膜のクラックを顕微鏡で観察し、変化のないものを良好とした。
(5)耐久試験2
60℃相対湿度95%の恒温恒湿槽に1週間(168時間)保管後、室温に戻して1日後に、基材ガラスの割れ及び樹脂層の変形、さらに樹脂表面に施したAR膜のクラックを顕微鏡で観察し、変化のないものを良好とした。
【0047】
(6)試験結果
試験結果を表1に示す。
【表1】

【0048】
実験例1〜4の結果より、ハイブリッドレンズの樹脂層と無機反射防止膜との間に緩衝層を介在させないと、熱耐久性に劣ることが認められる。
【0049】
<実施例2>
実施例1で製造したハイブリッドレンズの樹脂層の表面にスピンコートで各種の膜の成膜を行った。
1.プライマー層の形成
(1)コーティング液の調製
樹脂として商品名パラサイトα、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル:メタノール:水=75:24:1の容量比で用い、固形分濃度10重量%、粘度が2.3cps(温度20℃)のプライマー組成物を調製した。
(2)プライマー層の塗布
実施例1で製造したハイブリッドレンズの樹脂層に表2に示す条件で第1回転塗布工程と第2回転塗布工程の2段階法でスピンコートし、次のような評価を行った。なお、コーティング液はスピン回転のほぼ中央に5ml滴下した。結果を表2に示す。
評価方法
(1)膜厚
○ : 膜厚が狙いとする範囲内にある。
△ : 膜厚は狙いとする値+10%未満の許容差内にある。
× : 膜厚が狙いとする値から10%以上薄すぎるか、厚過ぎる。
(2)膜厚分布
○ : 場所(特に中心部と周辺部)による膜厚差が許容範囲内にある。
△ : 場所(特に中心部と周辺部)による膜厚差が許容範囲+10%以内のレベルにある。
× : 場所による膜厚差が狙いとする値から10%以上はずれている。
(3)総合評価
○ : 「膜厚」並びに「膜厚分布」の評価が何れも○である。
△ : 「膜厚」並びに「膜厚分布」の評価がどちらかが○または△である場合
× : 「膜厚」または「膜厚分布」の評価がどちらかが×である場合
【0050】
【表2】

【0051】
第1回転塗布工程の回転数(第一回転数)が500rpm未満(P−1〜P−6)であると、回転数が遅いため、塗布液の広がりが十分でなく、中心部と周辺部との膜厚分布が大きすぎることが認められる。また、第1回転数が1000rpmを超えると、回転数が速すぎるため、全体的に膜厚が不足することが認められる。
一方、第2回転塗布工程の回転数(第二回転数)が1000rpm(P−14)では回転時間が40秒でも溶媒の除去及び乾燥が不十分となり、膜厚分布が許容差を超えている。第二回転数が1200rpm以上であれば、回転時間を20秒以上にすれば、膜厚分布が均一になる。
第1回転数が適切な範囲であれば、第2回転数が速くなってもそれほど影響がないことが認められる。
【0052】
2.ハードコート層の形成
(1)コーティング液の調製
無機微粒子として商品名オスカル1432を67重量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを14重量部、ビニルトリメトキシシランを14重量部、テトラメトキシシランを15重量部の割合で溶媒のプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解してハードコート層形成用のコーティング液を調製した。固形分濃度は25重量%、粘度は1.8cps(温度20℃)である。
(2)コーティング液の塗布
実施例1で製造したハイブリッドレンズの樹脂層に表3に示す条件で第1回転塗布工程と第2回転塗布工程の2段階法でスピンコートし、プライマー層形成のときと同じ評価を行った。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
第1回転塗布工程の回転数(第一回転数)が500rpm未満(H−1〜H−7)であると、回転数が遅いため、塗布液の広がりが十分でなく、中心部と周辺部との膜厚差が許容差を超えることが認められる。但し、第1回転数が500rpmでは、回転時間が10秒を超えないと、塗布液の広がりが十分でなく、中心部と周辺部との膜厚差が許容差を超えることが認められる。また、第1回転数が900rpmを超えると、回転数が速すぎるため、全体的に膜厚がやや不足するが膜厚差はほとんど認められない。1000rpmを超えると、回転数が速すぎるため、膜厚が不足することが認められる。
一方、第2回転塗布工程の回転数(第二回転数)が1500rpmの場合、回転時間が10秒では回転時間が短いため、溶媒の除去及び乾燥が不十分となり、膜厚分布が許容差を超えてしまう。第1回転数が適切な範囲であれば、第2回転数が速くなってもそれほど影響がないことが認められる。
【0055】
3.有機系反射防止膜の形成
(1)コーティング液の調製
固形分として、有機ケイ素化合物と中空のシリカ系微粒子を用い、溶媒のプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解してハードコート層形成用のコーティング液を調製した。固形分濃度は25重量%、粘度は2.0cps(温度20℃)である。
(2)コーティング液の塗布
実施例1で製造したハイブリッドレンズの樹脂層に表4に示す条件で第1回転塗布工程と第2回転塗布工程の2段階法でスピンコートし、プライマー層形成のときと同じ評価を行った。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
第1回転塗布工程の回転数(第1回転数)が500rpm未満(R−1〜R−4)であると、回転数が遅いため、塗布液の広がりが十分でなく、中心部と周辺部との膜厚差が許容差を超えることが認められる。但し、第1回転数が500rpmでは、回転時間が10秒(R−5)では、塗布液の広がりが十分でなく、中心部と周辺部との膜厚差が許容差を超えることが認められる。また、第1回転数が900rpmを超えると、回転数が速すぎるため、全体的に膜厚がやや不足するが膜厚差はほとんど認められない。1000rpmを超えると、回転数が速すぎるため、膜厚が不足することが認められる。
一方、第2回転塗布工程の回転数(第2回転数)が1800rpmの場合、回転時間が10秒(R−8)では回転時間が短いため、溶媒の除去及び乾燥が不十分となり、膜厚分布が許容差を超えてしまう。第1回転数が適切な範囲であれば、第2回転数が速くなってもそれほど影響がないことが認められる。有機系反射防止膜の形成では、中空のシリカ微粒子を用い、溶剤の蒸発速度が遅いため、第2回転塗布工程でコーティング液が振り切られ、反射防止膜として必要な薄膜まで薄く制御されるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のハイブリッドレンズの塗装方法は、プロジェクタなどの光学系に用いられるハイブリッドレンズに反射防止膜を形成する前処理としての緩衝層の塗装などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ハイブリッドレンズの一実施形態の断面図である。
【図2】スピンコートを説明する概念図である。
【符号の説明】
【0060】
1:ハイブリッドレンズ、2:反射防止膜、3:緩衝層、11:ガラス母材、12:樹脂層、31:回転筒、32:チャック、4:コーティング液供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスレンズ母材に樹脂層を接合してなり、前記樹脂層の最大厚みが10mm以下であり、かつ前記樹脂層の有効径内での最大厚み/最小厚みの比が4以上20以下のハイブリッドレンズの前記樹脂層の表面に塗膜を形成するハイブリッドレンズの塗装方法において、
前記ハイブリッドレンズを500〜900rpmの回転数で回転させながら、前記樹脂層に滴下したコーティング液を前記樹脂層表面に広げる第1回転塗布工程と、
前記第1回転塗布工程後、前記ハイブリッドレンズを1200rpm以上の回転数で回転させて前記樹脂層に塗膜を形成する第2回転塗布工程と
を有することを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッドレンズの塗装方法において、
前記コーティング液の粘度が、20℃において0.1〜10センチポアズであることを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法。
【請求項3】
請求項1記載のハイブリッドレンズの塗装方法において、
前記第1回転塗布工程の所要時間が10秒を超え、前記第2回転塗布工程の所要時間が10秒を超えることを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のハイブリッドレンズの塗装方法において、
前記コーティング液が、プライマー層、ハードコート層及び有機系反射防止膜のいずれかを形成する液状組成物であることを特徴とするハイブリッドレンズの塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−72248(P2007−72248A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260322(P2005−260322)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】