説明

ハイブリッド車両のクラッチ制御装置およびクラッチ制御方法

【課題】アンダーシュートを回避しつつ短時間で所望の滑り状態に移行できる新規なハイブリッド車両のクラッチ制御装置およびクラッチ制御方法の提供。
【解決手段】第2クラッチCL2の油圧を目標とする第1の油圧値より低く設定した第2の油圧値にまで下げた後、目標値よりも高く設定した第3の油圧値に一旦上げてから目標値になるように第2クラッチCL2の油圧を制御する。これによって、第2クラッチCL2をそのアンダーシュートを回避しつつ短時間で所望の滑り状態にスムーズに移行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータの一方または両方を用いて駆動輪を駆動するハイブリッド車両に係る。特にモータと駆動輪とを締結または開放するための第2クラッチを制御するクラッチ制御装置およびクラッチ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車は、エンジンとモータ、およびモータと変速機、変速機と駆動輪とを順次連結した構造となっている。そして、例えば以下の特許文献1などに示すように、エンジンとモータおよびモータと変速機との間にそれぞれクラッチを設け、このクラッチの締結状態を適宜制御している。このようなクラッチ制御によってEV走行(モータ走行)とHEV走行(ハイブリッド(モータ+エンジン)走行)および制動回生などの制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−27264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような構成では、EV走行からHEV走行へ移行するためにエンジンを始動するとそのショックがモータを介して駆動輪に伝達されてしまう。
そのため、EV走行からHEV走行へ移行するためにエンジンを始動する際には、モータと変速機との間のクラッチを締結状態から滑り状態に移行している。
しかし、クラッチが油圧によって制御される場合、このように締結状態から滑り状態に移行するために単にクラッチの油圧指令値をクラッチが滑り状態に移行する容量にステップ的に落とす方法では油圧が所定値を一気に下回ってしまい(アンダーシュート)、滑り量が大きくなってしまう。
【0005】
また、このようなアンダーシュートを防ぐために油圧指令値をゆっくり低下させると、クラッチの油圧低下が遅くなり、所望の滑り状態になるまで時間が掛かってしまう。
そこで、本発明はこのような課題に解決するために案出されたものであり、その目的は、アンダーシュートを回避しつつ短時間で所望の滑り状態に移行できる新規なハイブリッド車両のクラッチ制御装置およびクラッチ制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明は、モータ駆動中にエンジンを始動するときに第2クラッチの油圧を第1の油圧値に下げて締結状態から滑り締結状態に制御するクラッチ制御手段を備えたハイブリッド車両のクラッチ制御装置に関する。
そして、前記クラッチ制御手段は、前記第2クラッチの油圧を前記第1の油圧値に下げるに際し、その前に一旦その第1の油圧値より低く設定した第2の油圧値にまで下げる。その後、前記第1の油圧値よりも高く設定した第3の油圧値に上げてから前記第1の油圧値になるように前記第2クラッチの油圧を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、従来のように第2クラッチの油圧をそのまま第1の油圧値にステップ状に下げるのではなく、前記のようにその前に2段階の油圧変化を経て目的となる第1の油圧値になるように第2クラッチの油圧を制御する。
これによって、第2クラッチをそのアンダーシュートを回避しつつ短時間で所望の滑り状態にスムーズに移行できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るハイブリッド車両100およびこれに適用するクラッチ変速制御装置の実施の一形態を示す全体システム図である。
【図2】統合コントローラ10の入出力状況を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るクラッチ変速制御方法の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図4】本発明に係る一連のクラッチ制御処理の全体を示したタイムチャート図である。
【図5】本発明に係る一連のクラッチ制御処理の要部を示したタイムチャート図である。
【図6】従来のクラッチ制御処理の一例を示したタイムチャート図である。
【図7】従来のクラッチ制御処理の他の例を示したタイムチャート図である。
【図8】本発明に係るクラッチ制御処理の要部を示したタイムチャート図である。
【図9】本発明に係るクラッチ制御処理に対する比較例を示したタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両のクラッチ制御装置の実施の一形態を添付図面を参照しながら説明する。
(構成)
先ず、本発明のクラッチ制御装置を含む一般的なハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。
図1は、本発明のクラッチ制御装置を含む後輪駆動によるハイブリッド車両100を示す全体システム図である。
図1に示すように、このハイブリッド車両100は、エンジンEと、モータMと、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2と、変速機T/Mとを有する。さらに、このハイブリッド車両100は、プロペラシャフトPSと、ファイナルギア(ディファレンシャル)DFと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)とを有する。
【0010】
エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどからなる。そして、このエンジンEは、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいてスロットルバルブのバルブ開度などを制御する。なお、エンジンEの出力軸には、エンジン回転数を検出するエンジン位置検出器S1を設ける。
モータMは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルを巻き付けた同期型モータジェネレータなどからなる。そして、このモータMは、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいてインバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御する。
【0011】
このモータMのロータ(出力軸)は、第2クラッチCL2を介して変速機T/Mの入力軸に連結する。そのため、このモータMは、インバータ3からの電力の供給を受けて駆動輪RL、RRを回転駆動する電動機として動作する。また、制動時にロータが外力により回転しているときには、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能して充電する(回生)。なお、このモータMの出力軸には、モータ回転数を検出するモータ位置検出器S2を設ける。
【0012】
第1クラッチCL1は、前記エンジンEとモータMとの間に介装した油圧式単板クラッチなどからなる。そして、この第1クラッチCL1は、第1クラッチコントローラ4からの制御指令に基づいて第1クラッチ油圧ユニット5により作り出された制御油圧により、滑り(スリップ)締結と滑り開放を含み締結・開放動作を行う。
第2クラッチCL2は、前記モータMと変速機T/Mとの間に介装された油圧式多板クラッチなどからなる。そして、この第2クラッチCL2は、後述する第2クラッチコントローラ6からの制御指令に基づいて第2クラッチ油圧ユニット7により作り出された制御油圧によって滑り(スリップ)締結と滑り開放を含み締結・開放動作を行う。
【0013】
変速機T/Mは、例えば前進5速後退1速や前進6速後退1速等の有段階またはCVT(Continuously Variable Transmission)などの無段階の変速比を車速やアクセル開度の他、後に詳述する運転状態に応じて自動的に切り換える変速機である。そして、この変速機T/Mの出力軸は、プロペラシャフトPS、ファイナルギアDFを介して左右後輪(駆動輪)RL,RRに連結する。この変速機T/Mは、変速機コントローラ8からの制御指令に基づいて変速油圧ユニット9により作り出された制御油圧によって変速動作を行う。なお、この変速機T/Mの入力軸にはその入力回転数を検出するT/M入力回転検出器S3を備える。また、その出力軸にはその出力回転数を検出するT/M入力回転検出器S4を備える。
【0014】
次に、このような構成をしたハイブリッド車両100のクラッチ制御装置を含む駆動制御装置を説明する。
この駆動制御装置は、図1に示すようにエンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、第1クラッチコントローラ4と、第1クラッチ油圧ユニット5とを有する。さらに、この駆動制御装置は、第2クラッチコントローラ6と、第2クラッチ油圧ユニット7と、変速機コントローラ8と、変速油圧ユニット9と、統合コントローラ10とを有する。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ4と、変速機コントローラ8と、統合コントローラ10は、互いに情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続する。
【0015】
エンジンコントローラ1は、図示しないエンジン回転数センサからのエンジン回転数情報を入力する。そして、このエンジンコントローラ1は、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令などに応じ、エンジン動作点を制御する指令を、例えば図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0016】
モータコントローラ2は、モータMのロータ回転位置を検出するモータ位置検出器S2からの情報を入力する。そして、このモータコントローラ2は、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令などに応じ、モータMのモータ動作点を制御する指令をインバータ3へ出力する。そして、バッテリSOC情報は、モータMの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0017】
第1クラッチコントローラ4は、図示しない第1クラッチ油圧センサと第1クラッチストロークセンサなどからのセンサ情報を入力する。そして、この第1クラッチコントローラ4は、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット5に出力する。
第2クラッチコントローラ6は、図示しない第2クラッチ油圧センサと第2クラッチストロークセンサなどからのセンサ情報を入力する。そして、この第2クラッチコントローラ6は、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL12締結・開放を制御する指令を第2クラッチ油圧ユニット7に出力する。
【0018】
変速機コントローラ8は、ドライバーが操作するアクセルの開度を検出するアクセル開度センサ(図示せず)と車速センサ(図示せず)からのセンサ情報を入力する。そして、この変速機コントローラ8は、統合コントローラ10からの制御指令に応じ、変速油圧を制御する指令を変速油圧ユニット9に出力する。
統合コントローラ10は、車両100全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うものである。
【0019】
そのため、この統合コントローラ10は、図2に示すように、エンジン位置検出器S1と、モータ位置検出器S2と、T/M入力回転検出器S3と、T/M入力回転検出器S4からの情報およびCAN通信線11を介して得られた各種情報を入力する。
そして、この統合コントローラ10は、前記エンジンコントローラ1への制御指令によりエンジンEの動作制御を行い、前記モータコントローラ2への制御指令によりモータMの動作制御(モータ出力トルク、モータ出力回転)を行う。また、この統合コントローラ10は、前記第1クラッチコントローラ4への油圧制御指令により第1クラッチCL1の締結・開放制御を行い、前記第2クラッチコントローラ6への油圧制御指令により第2クラッチCL2の締結・開放制御を行う。また、この統合コントローラ10は、変速機コントローラ8への変速制御指令により変速油圧ユニット9の制御を行う。
【0020】
(作用)
次に、このようなクラッチ制御装置によるクラッチ制御方法のうち、主にEV走行(モータ走行)からHEV走行(モータ+エンジン走行)へ移行する際の制御の流れを図3のフローチャート図を主に参照しながら説明する。そして、図中点線で囲んだステップS7〜ステップS17に係る処理が本発明の特徴部分である。
(ステップS1)
先ず、統合コントローラ10は、最初のステップS1において、TH(要求駆動力)、バッテリSOC(State Of Charge)状態、温度などによりエンジンEを始動する必要があるか否かを判断する。この結果、エンジン始動が不要であると判断したとき(No)はそのまま待機するが、エンジン始動が不要であると判断したとき(Yes)は次のステップS3に移行する。
【0021】
(ステップS3)
ステップS3では、そのエンジン始動時に第2クラッチCL2を滑らす(以下適宜「スリップ」と称す)必要があるかを判断する。
すなわち、第2クラッチCL2を締結したままエンジンEを始動させてもある所定値以上のショックがなければ第2クラッチCL2を締結状態にし、それ以外は第2クラッチCL2を滑らせると判断する。この結果、第2クラッチCL2を滑らす必要がないと判断したとき(No)はステップS23までジャンプする。反対に第2クラッチCL2を滑らす必要があると判断したとき(Yes)はそのまま次のステップS5に移行する。
【0022】
(ステップS5)
ステップS5では第2クラッチCL2の状態を確認し、駆動力容量制御中であるか否か(締結制御中)を判断する。この結果、駆動力容量制御中であると判断したとき(Yes)はステップS6側に移行する。反対に駆動力容量制御中でない、つまり締結制御中であると判断したとき(No)は、そのまま次のステップS7に移行する。
すなわち、駆動力容量制御中であれば既に目標油圧近くにいるので第2クラッチCL2をすぐに滑らすことができる。これに対し締結制御中であるとすれば、油圧を下げて滑らすまでに時間が掛かるため、滑らすまでの時間を短縮する必要がある。
【0023】
(ステップS6)
ステップS6では、モータ目標回転数を第2クラッチCL2のスリップ量分高く指示する。すなわち、第2クラッチCL2は駆動力容量制御中であるため、第2クラッチCL2をスリップさせるためにモータの目標回転数スリップ量分高くする。
(ステップS7)
一方、ステップS7では、第2クラッチCL2の油圧を、目標とする第1の油圧値P1よりも低く設定した第2の油圧値P2にまで一気に落として次のステップS9に移行する。
【0024】
(ステップS9)
ステップS9では、モータMの制御をトルク制御から回転数制御に変更して次のステップS11に移行する。すなわち、第2クラッチCL2が締結状態の場合、モータ制御はトルク制御中となっている。そのため、第2クラッチCL2を容量制御(トルク制御)に切り替えて第2クラッチCL2の滑り(スリップ)を作り出さなければならないのでモータ制御を回転数制御に切り替える。
【0025】
(ステップS11)
ステップS11では、第2クラッチCL2を滑らせるため、モータ目標回転数を第2クラッチCL2のスリップ量分高くなるように指示して次のステップS13に移行する。
(ステップS13)
ステップS13では、前記ステップS7で第2クラッチCL2の油圧を第2の油圧値P2に落としてから所定時間経過したかを判断する。そして、所定時間経過していないと判断したとき(No)はそのままの状態を所定時間キープし、所定時間経過したと判断したとき(Yes)は、次のステップS15に移行する。
【0026】
(ステップS15)
ステップS15では、第2クラッチCL2の油圧を、目標とする第1の油圧値P1よりも高く設定した第3の油圧値P3にまで一気に上げて次のステップS17に移行する。
(ステップS17)
ステップS17では、第3の油圧値P3にまで一気に上げた第2クラッチCL2の油圧が目標とする第1の油圧値P1まで徐々(斜め)に減少するようにその油圧指令値を所定のゲインで落として次のステップS19に移行する。
【0027】
(ステップS19)
ステップS19では、第2クラッチCL2の油圧指令が目標とする第1の油圧値P1になったかを判断する。この結果、目標値にならないと判断したとき(No)は、ステップS17に戻って目標値になるまで同様な処理を繰り返すが、目標値になったと判断したとき(Yes)は、次のステップS21に移行する。
(ステップS21)
ステップS21では、第2クラッチCL2のスリップ量が所定のスリップ量になったかを判断する。この結果、所定のスリップ量になっていないと判断したとき(No)は、ステップS22に移行する。反対に所定のスリップ量になったと判断したとき(Yes)は、そのまま次のステップS23に移行する。
【0028】
(ステップS22)
ステップS22では、第2クラッチCL2のスリップ量が所定量になるまで第2クラッチCL2の油圧をさらに下げてステップS21に戻る。すなわち、モータMは必要な回転数を指示しているため、後は第2クラッチCL2の容量を調整すれば良い。
(ステップS23)
一方、ステップS23では、第1クラッチCL1に対してエンジン始動時のクランキング相当の油圧指令を出してエンジンクランキングを開始して次のステップS25に移行する。
【0029】
(ステップS25)
ステップS25では、そのクランキングによってエンジンEが初爆したかを判断する。この結果、エンジンEが初爆(始動)していないと判断したとき(No)は、そのままクランキングを継続する。反対にエンジンEが初爆したと判断したとき(Yes)は、次のステップS27に移行する。
(ステップS27)
ステップS27では、第1クラッチCL1の油圧を下げてエンジンE単体で回転を上昇して次のステップS29に移行する。
【0030】
(ステップS29)
ステップS29では、エンジンEとモータMの回転数が同じ(同期)になったかを判断する。この結果、同じになっていないと判断したとき(No)は、同じになるまでそのまま待機する。反対に同じになったと判断したとき(Yes)は、次のステップS31に移行する。
(ステップS31)
ステップS31では、第1クラッチCL1を締結し、エンジンEとモータMを連結して最後のステップS33に移行する。
(ステップS33)
最後のステップS33では、さらに第1クラッチCL1を締結して処理を終了する。
【0031】
図4および図5はこれらの本発明に係る一連のクラッチ制御処理を示したタイムチャート図である。
先ず、図における「0」の時間帯はEV走行中の状態を示したものである。
この時間帯では、第2クラッチCL2、第1クラッチCL1、エンジン回転、モータ回転の状態は、以下のようになっている。
第2クラッチCL2:「締結」
油圧指令値:「P0」
第1クラッチCL1:「開放」
エンジン回転:「停止中(0rpm)」
モータ回転:「回転中」
【0032】
次に、図における「1」の時点はアクセルペダルを踏み込んだ状態を示したものであり、その状態は変わらず、以下のようになっている。
第2クラッチCL2:「締結」
油圧指令値:「P0」
第1クラッチCL1:「開放」
エンジン回転:「停止中(0rpm)」
モータ回転:「回転中」
【0033】
次に、図における「2」の時点はエンジン始動判定を示したものであり、その状態は以下のように変化している。
第2クラッチCL2:「締結」
油圧指令値:「P0」→「P2」
第1クラッチCL1:「開放」→「締結指令」
エンジン回転:「停止中(0rpm)」
モータ回転:「回転中」
【0034】
次に、図における「3」の時点は所定時間経過後第2クラッチCL2の油圧指令値を目標指令値よりも上げたものであり、その状態は以下のように変化している。
第2クラッチCL2:「締結」
油圧指令値:「P2」→「P3」
第1クラッチCL1:「締結指令」
エンジン回転:「停止中(0rpm)」
モータ回転:「回転中」
【0035】
次に、図における「4」の時点は所定時間経過後第2クラッチCL2の油圧指令値を目標指令値まで下げたものであり、その状態は以下のように変化している。
第2クラッチCL2:「滑り締結」
油圧指令値:「P3」→「P1」
第1クラッチCL1:「締結指令」
エンジン回転:「停止中(0rpm)」→「回転」
モータ回転:「回転中」
【0036】
このように本発明のクラッチ制御は、第2クラッチCL2の油圧値P0を、目標となる第1の油圧値P1に下げるに際し、その前に一旦その第1の油圧値P1より低く設定した第2の油圧値P2にまで一気に下げる。その後、すぐに目標となる第1の油圧値P1に上げるのではなく、第1の油圧値P1よりもやや高く設定した第3の油圧値P3に上げてから目標となる第1の油圧値P1になるように第2クラッチCL2の油圧を制御する。
【0037】
一方、図6および図7は、従来のクラッチ制御の一例を示したものであり、アンダーシュートが発生したり(図6)、所望の滑り状態になるまで時間が掛かってしまっている(図7)。
すなわち、図6は、第2クラッチCL2の油圧値を目標となる第1の油圧値に一気にステップ状に減少したときの実油圧の変動を示したものである(従来例1)。
図示するようにこのような制御では実油圧が目標となる第1の油圧を一気に下回ってしまい、アンダーシュートが発生してしまっている。この結果、モータ回転数が一気に上がってしまい、EV走行からHEV走行へのスムーズな移行が難しい。
また、図7は、第2クラッチCL2の油圧値を目標となる第1の油圧値に徐々に傾斜して減少したときの実油圧の変動を示したものである(従来例2)。
【0038】
図示するようにこのような制御では、図6のようなアンダーシュートは発生しないもののその後の処理がその分遅れてしまい、同じくEV走行からHEV走行へのスムーズな移行が難しい。
これに対し、本実施の形態は従来のように第2クラッチCL2の油圧をそのまま第1の油圧値にステップ状に下げるのではなく、その前に2段階の油圧変化を経て目的となる第1の油圧値になるように第2クラッチCL2の油圧を制御する。
【0039】
これによって、第2クラッチCL2をそのアンダーシュートを回避しつつ短時間で所望の滑り状態にスムーズに移行できる。
ここで、本実施の形態では第2クラッチCL2の油圧を第3の油圧値から目標値にするときにその油圧値が徐々に減少するように第2クラッチCL2の油圧を制御している。
これによって、第3の油圧値から目標値である第1の油圧値にするときのアンダーシュートも防止できる。
【0040】
但し、第3の油圧値と目標値である第1の油圧値の差が小さいときは、そのままステップ状に変化させても良く、この場合はより短時間で所望の滑り状態に移行できる。
また、図8に示すように本発明の作用・効果は初期の油圧値P0と目標値である第1の油圧値P1との差の大きさにかかわらず同様な作用・効果を発揮できる。すなわち、図8(b)のタイムチャートは油圧値P0と第1の油圧値P1との差が小さい場合の実油圧の変化を示したものであり、同様な作用・効果を発揮している。
【0041】
一方、図9は初期の油圧値P0から目標値である第1の油圧値P1にする前に、一旦第2の油圧値P2にしたものの第3の油圧値P3を経ずにそのまま第1の油圧値P1に制御した場合の実油圧の変化を示したものである。
図示するようにこのような制御ではその変化がステップ状であろうとゆっくりであろうといずれにしてもアンダーシュートが発生してしまいスムーズな移行ができなかった。
なお、前記課題を解決するための手段に開示した本願発明のクラッチ制御装置を構成する「クラッチ制御手段」は、例えば図1に示す統合コントローラ10と第2クラッチコントローラ6と第2クラッチ油圧ユニット7などに対応する。
【0042】
(効果)
以上説明したように本実施の形態に係るハイブリッド車両のクラッチ制御装置およびクラッチ制御方法にあっては、以下のような効果を発揮する。
(1)第2クラッチCL2の油圧を目標とする第1の油圧値より低く設定した第2の油圧値にまで一気に下げた後、目標値よりも高く設定した第3の油圧値に一旦上げてから目標値になるように第2クラッチCL2の油圧を制御する。
これによって、第2クラッチCL2をそのアンダーシュートを回避しつつ短時間で所望の滑り状態にスムーズに移行できる。
(2)第2クラッチCL2の油圧を第3の油圧値から目標値にするときに、その油圧値が徐々に減少するように第2クラッチCL2の油圧を制御する。
これによって、第3の油圧値から目標値である第1の油圧値にするときのアンダーシュートも防止できる。
【符号の説明】
【0043】
E…エンジン
M…モータ
CL1…第1クラッチ
CL2…第2クラッチ
T/M…変速機
PS…プロペラシャフト
DF…ファイナルギア(ディファレンシャル)
RL…左後輪(駆動輪)
RR…右後輪(駆動輪)
1…エンジンコントローラ
2…モータコントローラ
3…インバータ
4…第1クラッチコントローラ
5…第1クラッチ油圧ユニット
6…第2クラッチコントローラ(クラッチ制御手段)
7…第2クラッチ油圧ユニット(クラッチ制御手段)
8…変速機コントローラ
9…変速油圧ユニット
10…統合コントローラ(クラッチ制御手段)
11…CAN
100…ハイブリッド車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータとを第1クラッチを介して接続すると共に前記モータと駆動輪とを、油圧で制御する第2クラッチを介して接続し、前記モータ駆動中に前記エンジンを始動するときに前記第2クラッチの油圧を締結時の油圧よりも低い第1の油圧値に下げて前記第2のクラッチを締結状態から滑り締結状態に制御するクラッチ制御手段を備えたハイブリッド車両のクラッチ制御装置であって、
前記クラッチ制御手段は、前記第2クラッチの油圧を前記第1の油圧値に下げるに際し、その前に当該第1の油圧値より低く設定した第2の油圧値にまで下げた後、前記第1の油圧値よりも高く設定した第3の油圧値に上げてから前記第1の油圧値になるように前記第2クラッチの油圧を制御することを特徴とするハイブリッド車両のクラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両のクラッチ制御装置において、
前記クラッチ制御手段は、前記第2クラッチの油圧を前記第3の油圧値から前記第1の油圧値にするときに、その油圧値が徐々に減少するように前記第2クラッチの油圧を制御することを特徴とするハイブリッド車両のクラッチ制御装置。
【請求項3】
エンジンとモータとを第1クラッチを介して接続すると共に前記モータと駆動輪とを、油圧で制御する第2クラッチを介して接続し、前記モータ駆動中に前記エンジンを始動するときに前記第2クラッチの油圧を第1の油圧値に下げて前記第2のクラッチを締結状態から滑り締結状態に制御するようにしたハイブリッド車両のクラッチ制御方法であって、
前記第2クラッチの油圧を前記第1の油圧値に下げるに際し、その前に当該第1の油圧値より低く設定した第2の油圧値に下げた後、前記第1の油圧値よりも高く設定した第3の油圧値に上げてから前記第1の油圧値になるように前記第2クラッチの油圧を制御することを特徴とするハイブリッド車両のクラッチ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−188788(P2010−188788A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33175(P2009−33175)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】