説明

ハイブリッド車両のパワーステアリング装置

【課題】ハイブリッド車両の走行状態に関わらず、良好な燃費性能を確保しつつ、大きな操舵トルクを出力可能なハイブリッド車両のパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両1のパワーステアリング装置20は、モータ回生走行時やモータ発進時にエンジン2が停止状態にあり、且つ、クラッチ3が切断状態にある場合、ハイブリッド車両1の走行速度に応じて、パワーステアリング装置において操舵トルクを増幅する増幅手段24の駆動源である、電動モータ25とエンジン2を選択的に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの動力を用いて走行する車両では、ドライバーがステアリングから入力した操舵トルクが操舵機構を介して操舵輪に伝達されることにより、旋回動作が行われる。車両を旋回させるために必要な操舵トルクは、ドライバーが直接ステアリングから入力するには負担が大きいため、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するパワーステアリング装置が広く用いられている。
【0003】
この種のパワーステアリング装置は、その駆動方式としてモータ駆動方式とエンジン駆動方式とがある。モータ駆動方式は、バッテリに充電された電力で電動モータを回転駆動することによって、パワーステアリング装置を駆動するための油圧ポンプ等を動作させる。一方、エンジン駆動方式は、該油圧ポンプ等をエンジンの動力の一部(エンジン回転)を用いて動作させる。
【0004】
モータ駆動方式では、エンジン駆動方式のようにエンジンの駆動を伴わない分だけ燃費向上が望めるが、大きな操舵トルクの要求に対応するためにはモータの大型化が不可避になってしまい、コスト増加や搭載性の悪化が生じるという問題点がある。一方、エンジン駆動方式はエンジンの出力の一部を使用しているため、大きな操舵トルクの要求に対しても対応が可能であるが、エンジンの駆動を伴う分だけ燃費性能が低下してしまうという問題点がある。このような両者のメリット及びデメリットに鑑みて、乗用車などの要求操舵トルクが比較的小さい車両では、モータ駆動方式のパワーステアリング装置が採用される一方、例えばトラックやバスなどの大型車両では、大きな要求操舵トルクに対応するためエンジン駆動方式が採用されている。
【0005】
ところで近年、環境意識の高まりに伴い、ハイブリッド車両が着目されている。ハイブリッド車両では走行用動力源としてエンジン及び走行用モータを備えており、これらの少なくとも一方から出力された動力で走行する。ハイブリッド車両では走行用動力源としてモータを使用する分、エンジンの運転期間を短縮し、燃費性能を向上させることができる。特許文献1では、ハイブリッド車両にパワーステアリング装置が補機の一種として搭載された例が開示されている。特許文献1では、パワーステアリング装置は基本的にエンジンや走行用モータから出力される走行用動力の一部を利用して駆動されるが、ハイブリッド車両の走行状態によってはパワーステアリング装置に供給される動力が不足する場合がある。このような場合、特許文献1では走行用モータとは別に、補機の駆動用として電動モータを備えており、動力が不足した場合に、当該電動モータを駆動することにより不足分を補うとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−126448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、補助用の電動モータで不足分を補うことができるとされているが、ハイブリッド車両では、走行状態によってはエンジンが停止状態にある場合がある。このような場合、エンジン以外の駆動源(走行用モータや補助用の電動モータ)で要求操舵トルクを賄う必要があるが、大きな要求操舵トルクへの対応を考慮すると、補助用の電動モータの大型化が不可避となるという問題点がある。特に大型のハイブリッド車両では発進時の据え切り動作や右左折時に大きな操舵トルクが必要とされるため、この問題点は顕著となる。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、ハイブリッド車両の走行状態に関わらず、良好な燃費性能を確保しつつ、大きな操舵トルクを出力可能なハイブリッド車両のパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1のハイブリッド車両のパワーステアリング装置は上記課題を解決するために、エンジン及び走行用モータ間にクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置であって、前記ハイブリッド車両の走行速度を検知する車速検知手段と、前記エンジン又は、前記ハイブリッド車両に搭載された電動モータのいずれか一方から出力された動力で駆動されることにより、前記ステアリングから入力された操舵トルクを増幅する増幅手段と、前記増幅手段の駆動源として前記エンジン又は前記電動モータのいずれか一方を選択する駆動源選択手段とを備え、モータ回生走行時に前記エンジンが停止状態にあり、且つ、前記クラッチが切断状態にある場合、前記駆動源選択手段は、前記車速検知手段によって検知された走行速度が第1閾値以上であるとき、前記増幅手段の駆動源として前記電動モータを選択し、前記車速検知手段によって検知された走行速度が前記第1閾値未満であるとき、前記エンジンを始動して、前記増幅手段の駆動源として前記エンジンを選択することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、エンジンが停止状態、且つ、クラッチが切断状態にあるモータ回生走行時において、高速走行状態(走行速度が第1閾値以上の走行状態)にある場合には増幅手段の駆動源として電動モータを選択する。これにより、エンジンが停止状態にあるモータ回生走行時においてもエンジン以外の駆動源である電動モータからの出力を用いてパワーステアリングを駆動できるので、エンジンの運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また、高速走行状態では、大きな要求操舵トルクを伴うステアリング操作が行われない傾向があるので、駆動源としてエンジンに比べて発生可能な操舵力が小さい電動モータで賄うことができる。
【0011】
一方、低速走行状態(走行速度が第1閾値未満の走行状態)にある場合には、増幅手段の駆動源としてエンジンを選択する。これにより、エンジンの動力を利用して、電動モータでは対応が困難な大きな要求操舵トルクにも対応することができる。このように本発明では、モータ回生走行時におけるハイブリッド車両の走行速度に応じて要求操舵トルクの大きさに応じた駆動源を選択することで、エンジンの運転期間を短縮して燃費性能を確保しつつ、様々な走行状態における要求操舵トルクにも対応することができる。
【0012】
また、本発明に係る第2のハイブリッド車両のパワーステアリング装置は上記課題を解決するために、エンジン及び走行用モータ間にクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置であって、前記ハイブリッド車両の走行速度を検知する車速検知手段と、前記エンジン又は、前記ハイブリッド車両に搭載された電動モータのいずれか一方から出力された動力で駆動されることにより、前記ステアリングから入力された操舵トルクを増幅する増幅手段と、前記増幅手段の駆動源として前記エンジン又は前記電動モータのいずれか一方を選択する駆動源選択手段とを備え、モータ発進時に前記エンジンが停止状態にあり、且つ、前記クラッチが切断状態にある場合、前記駆動源選択手段は、前記車速検知手段によって検知された走行速度が第2閾値未満であるとき、前記増幅手段の駆動源として前記電動モータを選択し、前記車速検知手段によって検知された走行速度が前記第2閾値以上であるとき、前記エンジンを始動して、前記増幅手段の駆動源として前記エンジンを選択することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、エンジンが停止状態、且つ、クラッチが切断状態にあるモータ発進時において、低速走行状態(第2閾値未満の車速領域)にある場合には増幅手段の駆動源として電動モータを選択する。これにより、上記第1のパワーステアリング装置と同様に、エンジン停止時においてもエンジン以外の駆動源である電動モータからの出力を用いてパワーステアリングを駆動できるので、エンジンの運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また、発進時の低速領域では、自車両の前方に障害物がある場合などにおいても、ブレーキなどの制動手段のみの作動によって車両を容易に停車させることができるので、障害物を回避するために大きな操舵力を用いてステアリングを急操作する必要がなく、駆動源としてエンジンに比べて発生可能な操舵力が小さい電動モータで足りる。
【0014】
一方、モータ発進時の走行速度が大きい(第2閾値以上の走行速度)にある場合には、増幅手段の駆動源としてエンジンを選択する。発進時の走行速度が大きい場合では、自車両の前方に障害物がある場合などにおいて、ブレーキなどの制動手段のみの作動によって自車両を障害物の手前で停車させることが困難な状況があり、その場合は、障害物を回避するために大きな操舵力でステアリングを急操作することがある。そこで、駆動源としてエンジンを選択することによって、このような大きな操舵力が要求された場合にも対応可能とし、車両の安全性を確保することができる。このように、大きな操舵力が要求される場合に限ってエンジンを始動することで、エンジンの作動期間を短縮してハイブリッド電気自動車の良好な燃費を確保しつつ、必要に応じて大きな操舵力の要求に対しても対応することができる。
【0015】
第2のパワーステアリング装置では、好ましくは、前記ステアリングの操舵速度が所定値よりも大きい場合、前記駆動源選択手段は、前記エンジンを始動して、前記増幅手段の駆動源として前記エンジンを選択するとよい。操舵速度が所定値よりも大きい急ハンドル操作時には、要求される操舵力も大きくなる。そこで、このように操舵速度の検出値に基づいて、要求される操舵力が大きい場合にエンジンを始動させて対応するとよい。これにより、大きな操舵力の要求時に限ってエンジンを始動させるので、安全性を確保しながら、エンジンの運転期間を短縮して、燃費向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る第1のパワーステアリング装置によれば、エンジンが停止状態、且つ、クラッチが切断状態にあるモータ回生走行時において、高速走行状態(走行速度が第1閾値以上の走行状態)にある場合には増幅手段の駆動源として電動モータを選択する。これにより、エンジンが停止状態にあるモータ回生走行時においてもエンジン以外の駆動源である電動モータからの出力を用いてパワーステアリングを駆動できるので、エンジンの運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また、高速走行状態では、大きな要求操舵トルクを伴うステアリング操作が行われない傾向があるので、駆動源としてエンジンに比べて発生可能な操舵力が小さい電動モータで賄うことができる。
【0017】
一方、低速走行状態(走行速度が第1閾値未満の走行状態)にある場合には、増幅手段の駆動源としてエンジンを選択する。これにより、エンジンの動力を利用して、電動モータでは対応が困難な大きな要求操舵トルクにも対応することができる。このように本発明では、モータ回生走行時におけるハイブリッド車両の走行速度に応じて要求操舵トルクの大きさに応じた駆動源を選択することで、エンジンの運転期間を短縮して燃費性能を確保しつつ、様々な走行状態における要求操舵トルクにも対応することができる。
【0018】
本発明に係る第2のパワーステアリング装置によれば、エンジンが停止状態、且つ、クラッチが切断状態にあるモータ発進時において、低速走行状態(第2閾値未満の車速領域)にある場合には増幅手段の駆動源として電動モータを選択する。これにより、上記第1のパワーステアリング装置と同様に、エンジン停止時においてもエンジン以外の駆動源である電動モータからの出力を用いてパワーステアリングを駆動できるので、エンジンの運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また、発進時の低速領域では、自車両の前方に障害物がある場合などにおいても、ブレーキなどの制動手段のみの作動によって車両を容易に停車させることができるので、障害物を回避するために大きな操舵力を用いてステアリングを急操作する必要がなく、駆動源としてエンジンに比べて発生可能な操舵力が小さい電動モータで足りる。
【0019】
一方、モータ発進時の走行速度が大きい(第2閾値以上の走行速度)にある場合には、増幅手段の駆動源としてエンジンを選択する。発進時の走行速度が大きい場合では、自車両の前方に障害物がある場合などにおいて、ブレーキなどの制動手段のみの作動によって車両を障害物の手前で停車させることが困難な状況があり、その場合は、障害物を回避するために大きな操舵力を用いてステアリングを急操作することがある。そこで、駆動源としてエンジンを選択することによって、このような大きな操舵力が要求された場合にも対応可能とし、車両の安全性を確保することができる。このように、大きな操舵力が要求される場合に限ってエンジンを始動することで、エンジンの作動期間を短縮してハイブリッド電気自動車の良好な燃費を確保しつつ、必要に応じて大きな操舵力の要求に対しても対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】ECUの内部構成を機能的に示す機能ブロック図である。
【図3】本実施形態に係るハイブリッド車両に搭載されたパワーステアリング装置の制御内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0022】
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両1の全体構成を概念的に示すブロック図である。ハイブリッド車両1は走行用動力源としてエンジン2及びモータ4(走行用モータ)を有するパラレル式ハイブリッド電気自動車である。エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とはクラッチ3を介して接続されており、該クラッチ3の接続状態に応じて動力の伝達が切り換えられる。クラッチ3が接続状態にある場合には、動力源としてエンジン2、またはエンジン2とモータ4を併用し、クラッチ3が切断状態にある場合には、動力源としてモータ4を用いて、変速機5にて所定のギア比でプロペラシャフト6に伝達される。プロペラシャフト6に伝達された動力は、差動装置7及び駆動軸8を介して駆動輪9(後輪)が駆動されることにより、ハイブリッド車両1の走行が行われる。
【0023】
エンジン2は、ハイブリッド車両1の動力源の一つとして機能する内燃機関であり、ガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。ガソリンエンジンの場合には燃焼室に直接燃料を噴射する、いわゆる直噴式ガソリンエンジンであってもよい。
【0024】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間の接続状態を切り替える動力伝達機構である。クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2及びモータ4の出力トルクは共に駆動輪9側に伝達される。一方、クラッチ3が切断状態にある場合、エンジン2の出力トルクはモータ4側に伝達されないため、駆動輪9側にはモータ4からの出力トルクのみが伝達されることとなる。
【0025】
モータ4(走行用モータ)は、所定の磁場を発生させるステータ(固定子)と、該ステータによって発生された磁場を横切るように回転するロータ(回転子)とを含んでなる電動機である。モータ4は、インバータ10を介してバッテリ11から供給される電力により力行駆動することにより、駆動トルクを発生させ、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する。またモータ4が回生駆動された場合には、回生エネルギーを発生させることによって発電を行うと共に、制動トルクを発生させて回生ブレーキとしても機能する。尚、モータ4で発電された電力は、インバータ10にて直流変換された後、バッテリ11に充電される。
【0026】
変速機5は複数の変速段を有するマニュアルトランスミッション又はオートマティックトランスミッションであり、その変速段は段階的に可変であってもよいし、連続的に可変であってもよい。
【0027】
バッテリ11は、モータ4を力行駆動するための電力を蓄積する二次電池セルからなる蓄電池である。バッテリ11には予め直流電力が充電されており、放電時に出力された直流電力がインバータ10によって交流変換され、モータ4の力行駆動のために消費される。一方、モータ4の回生駆動時には、モータ4で発電した交流電力をインバータ10によって直流変換し、バッテリ11に充電される。
【0028】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続される。このときモータ4を力行駆動すると、駆動輪9にはエンジン2及びモータ4の双方からの出力トルクが伝達されることとなる。つまり、駆動輪9を駆動させるためのトルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなったときには、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りを用いてモータ4を回生駆動させ、発電した電力をバッテリ11に充電することもできる。
【0029】
一方、クラッチが切断状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断される。このときモータ4を力行駆動すると、駆動輪9にはエンジン2からの出力トルクは伝達されず、モータ4からの出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。
【0030】
ハイブリッド車両1の走行方向(旋回方向)は、ドライバーによってステアリング30から入力された操舵トルクがパワーステアリング装置20にて増幅後、操舵輪(前輪)21に伝達されることにより決定される。パワーステアリング装置20は、第1のパワーステアリングポンプ22,第2のパワーステアリングポンプ23によって制御される油圧によって駆動され、ハイブリッド車両1の旋回挙動を行うためにドライバーがステアリング30から入力した操舵トルクを増幅し、ドライバーの操舵負担を軽減する。
尚、本実施形態に係るハイブリッド車両1は前輪が操舵輪21であり、後輪が駆動輪9である場合を例示しているが、例えば前輪が操舵輪21と駆動輪9を兼用していてもよいし、この例に限られないことは言うまでもない。
【0031】
尚、本実施形態に係るパワーステアリング装置20は、ステアリング30から操舵輪21までをロッドやシャフト等を介して機械的に接続した上で、油圧により操舵力をアシストするインテグラル式パワーステアリング装置を採用している。具体的に説明すると、例えばステアリングホイールから入力された操舵トルクが、ステアリングコラムを介してP/Sブースターに伝達され、ピットマンアーム、ドラグリンク及びナックルアームを順に介して操舵輪21に伝達され、該P/Sブースターにてパワーステアリングポンプから供給される油圧に基づいて操舵トルクが増幅され、ピットマンアームやドラグリンク及びナックルアームを経て、操舵輪21に伝達されるようになっている。このように本実施例ではインテグラル式パワーステアリング装置を用いているが、他の方式のパワーステアリング装置を用いてもよいことは、言うまでも無い。以下の説明では、パワーステアリング装置20の増幅機能を増幅手段24として機能的に図示し、その機械的構成などの詳細な説明は適宜省略することとする。
【0032】
第1のパワーステアリングポンプ22は、エンジン2から出力された動力の一部で駆動されることにより、増幅手段24を油圧制御する油圧ポンプである。第2のパワーステアリングポンプ23は、電動モータ25から出力された動力で駆動されることにより、増幅手段24を油圧制御する油圧ポンプである。このように本実施形態では、増幅手段24の駆動源として、エンジン2と電動モータ25とがあるが、これらは後述するECU18によって選択されることによって、いずれか一方からの動力に基づいて増幅手段24が駆動されるようになっている。
【0033】
尚、本実施形態ではエンジン2によって駆動される第1のパワーステアリングポンプ22と、電動モータ25によって駆動される第2のパワーステアリングポンプ23とを別々に設けているが、共通するパワーステアリングポンプをエンジン2及び電動モータ25で駆動するように構成してもよい。
【0034】
電動モータ25は上述のモータ4(走行用モータ)と同様に、所定の磁場を発生させるステータ(固定子)と、該ステータによって発生された磁場を横切るように回転するロータ(回転子)とを含んでなる電動機である。電動モータ25は、インバータ10を介してバッテリ11から供給される電力で駆動され、電気エネルギーを回転エネルギーとして出力する。尚、電動モータ25はハイブリッド車両1に搭載された他の補機類(エアコン用コンプレッサー、エア機器用コンプレッサーなど)の駆動用モータを兼用していてもよい。
【0035】
ハイブリッド車両1には走行速度を検出するための車速センサ26と、ドライバーのステアリング30の操舵速度を検出するための操舵速度センサ27とが設けられている。これらの検出値は後述するように本発明に係る各種処理に用いられるようになっている。
【0036】
ECU18は、ハイブリッド車両1の各部位から取得した信号に基づいて、ハイブリッド車両1の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される。ECU18は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されているが、これら各種制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0037】
ここで図2はECU18の内部構成を機能的に示す機能ブロック図である。車速センサ26はハイブリッド車両1の走行速度を検出し、その検出値はECU18の走行速度検出部31において取得される。また、操舵速度センサ27はステアリング30の操舵速度を検出し、その検出値はECU18の操舵速度検出部32において取得される。また、走行モード判定部33はハイブリッド車両1の動力源であるエンジン2及びモータ4にアクセスして、それぞれの駆動状態を検出することにより、ハイブリッド車両1の走行モード(モータ回生走行モードやモータ発進モードなど)を判定する。
【0038】
これら走行速度検出部31、操舵速度検出部32及び走行モード判定部33の処理結果は、駆動源選択部34に送信される。駆動源選択部34は受信した各種処理結果に基づいて、増幅手段24の駆動源としてエンジン22又は電動モータ25のいずれを選択すべきか判断する。そして、エンジン22及び電動モータ25のそれぞれに制御信号を送信することにより、選択した駆動源を始動することによりパワーステアリング装置20を駆動する。
【0039】
続いて図3を参照して、上記説明したハイブリッド車両1におけるパワーステアリング装置20に関する制御内容について、詳細に説明する。図3は、本実施形態に係るハイブリッド車両1に搭載されたパワーステアリング装置20の制御内容を示すフローチャートである。
【0040】
まずECU18は、走行モード判定部33においてハイブリッド車両1の走行モードがモータ発進モードであるか否かを判定する(ステップS101)。ここでモータ発進モードとは、停車中のハイブリッド車両1を発進させる際に、エンジン2を停止した状態でモータ4の動力のみを使って走行を行わせる走行モードである。モータ発進モードの実施条件としては、例えば、ハイブリッド車両1の走行速度が所定値以下であることにより停車状態が確認できていること、モータ4で発進を行うために必要なバッテリ11の充電残量(SOC:State of Charge)が十分残存していること、ブレーキペダル(不図示)がOFFであることによりドライバーの発進意思が確認できていること、発進時に必要なトルクがモータ4が出力可能な最大トルクより小さいことなどが総合的に考慮され、これらの条件を充足した場合にモータ発進モードが実行される。
【0041】
モータ発進モードである場合(ステップS101:YES)、ECU18は走行速度検出部31から取得した走行速度Vが閾値V未満である否かを判定する(ステップS102)。この閾値Vは本発明に係る「第2閾値」の一例である。閾値Vは、障害物回避などを行う際にステアリング30の操舵を行うことなく、ブレーキなどの制動装置を駆動することによって安全に停車可能な走行速度の最大値として予め規定された基準値であり、より好適には5〜10km/hに設定されている。
【0042】
走行速度Vが閾値V以上である場合(ステップS102:NO)、ECU18の駆動源選択部34は、増幅手段24の駆動源としてエンジン2を選択する(ステップS103)。発進時の走行速度が大きい場合、ハイブリッド車両1はブレーキなどの制動手段(不図示)のみ作動によって車両を該車両の前方に存在する障害物の手前で停車させることが困難な状況があり、障害物を回避するために大きな操舵力を用いてステアリング30を急操作することがある。この場合、駆動源としてエンジン2を選択することにより大きな要求操舵トルクにも対応可能とすることで、車両の安全性を確保することができる。
【0043】
ここでステップS103においてエンジン2を選択した場合、停止状態にあるエンジン2を始動する方法として、ファイアリングとモータリングの2種類がある。前者のファイアリングは、エンジン2に燃料を供給することでクラッチ3の接続状態に関わらず、エンジン2を始動できる。後者のモータリングはクラッチ3を接続状態に切り替えることで、エンジン2に燃料を供給することなく、駆動輪9側の走行エネルギーをクラッチ3を介してエンジン2に供給することで始動することができる(すなわち、モータの駆動力でエンジン2を回転させる)。特に後者のモータリングは、エンジン2への燃料供給を伴わないため、良好な燃費性能が得られる点において好ましい。
【0044】
一方、走行速度Vが閾値V未満である場合(ステップS102:YES)、ECU18は更に、操舵速度検出部32が取得した検出値に基づいて、ステアリング30の操舵速度Vが閾値V1未満であるか否かを判定する(ステップS104)。操舵速度が閾値V1以上である場合(ステップS104:NO)、すなわち急ハンドル操作時には、要求される操舵力も大きくなる。そのため、増幅手段24の駆動源としてエンジン2を選択する(ステップS103)。このように大きな操舵力の要求時に限ってエンジン2を始動させることによって、安全性を確保しながら、エンジンの運転期間を効果的に短縮して、燃費向上を図ることができる。
【0045】
一方、操舵速度が閾値V1未満である場合(ステップS104:YES)、ECU18は増幅手段24の駆動源として電動モータ25を選択する(ステップS105)。これにより、エンジン2の停止時においてもエンジン2以外の駆動源である電動モータ25からの出力を用いて増幅手段24を駆動できるので、エンジン2の運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また、発進時の低速領域ではブレーキなどの制動手段によって容易に停車させることができるので、障害物などを回避するために大きな操舵力を用いてステアリング30を急操作する必要がなく、駆動源としてエンジン2に比べて発生可能な操舵力が小さい電動モータ25で足りる。
【0046】
このように駆動源選択部34において増幅手段24の駆動源が選択されると、その選択結果に応じてエンジン2又は電動モータ25に、それぞれ始動又は停止に対応する制御信号を送信する。これにより、選択された駆動源を用いてパワーステアリング装置20の駆動が実現される。
【0047】
続いて、ステップS101においてハイブリッド車両1の走行モードがモータ発進モードではないと判定された場合(ステップS101:NO)について説明する。この場合、ECU18は更にハイブリッド車両1の走行モードがモータ回生走行モードであるか否かを判定する(ステップS106)。ここで、モータ回生走行モードとは、モータ3を回生駆動させることにより車両の運動エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリ11に回収する走行モードである。モータ回生走行モードの実施条件としては、例えば、ブレーキペダル(不図示)がOFFであることによりドライバーに加速意思がないことが確認できていること、モータ4の最大回生トルクが要求減速トルクより大きいことなどが総合的に考慮され、これらの条件を充足した場合にモータ回生走行モードが実行される。モータ回生走行モードでない場合(ステップS106:NO)、ECU18は処理を終了する(エンド)。
【0048】
一方、モータ回生走行モードである場合(ステップS106:YES)、ECU18は更にクラッチ3が切断状態にあるか否かを判定する(ステップS107)。クラッチ3が接続状態にある場合(ステップS107:NO)、ECU18の駆動源選択部34は増幅手段24の駆動源としてエンジン2を選択する(ステップS108)。この場合、モータ回生走行モードにあるハイブリッド車両1は走行状態にあるため、回転する駆動輪9を介してエンジン2に車両の運動エネルギーが伝達され、エンジン2は駆動状態にある(燃料供給はされていなくとも、クラッチ3が接続されているので、駆動輪9側からの回転エネルギーによってエンジンは回転状態にある)。そのため、エンジン2を駆動源として選択することによって、エンジン2の出力エネルギーを有効利用して、車両全体のエネルギー効率を高めることができる。
【0049】
尚、ステップS108において駆動源として選択されたエンジン2の始動方法は、上述のステップS103におけるエンジン2の始動方法と同様に、モータリングとファイアリングのいずれを採用してもよく、より好ましくはモータリングが好ましい。
【0050】
一方、モータ回生走行モードにおいてクラッチ3が切断状態にある場合(ステップS107:YES)、ECU18は走行速度検出部31から取得した車速センサ26の検出値に基づいて、走行速度Vが閾値V未満であるか否かを判定する(ステップS109)。走行状態にあるハイブリッド車両1ではカーブ等を旋回走行する際にステアリング30の操舵が行われるが、この操舵に必要なトルクは、走行速度Vに依存する。具体的には、走行速度Vが閾値V以上の高速走行状態では、急ハンドル等の大きな操舵トルクが必要とされるステアリング操作は行われない傾向にある。一方、走行速度Vが閾値Vより小さな中低速走行状態では、操舵時に必要とされるトルクの値は大きくなる傾向がある(走行速度が小さくなるに従い、要求操舵トルクは次第に据え切り時に近づいていく)。上記閾値Vはこのような操舵時に必要とされる操舵トルクが一定値以上となる走行速度を規定する基準値として設定されたものであり、より好適には50〜60km/hであるとよい。
【0051】
走行速度Vが閾値V以上である場合(ステップS109:YES)、ECU18の駆動源選択部34は増幅手段24の駆動源として電動モータ25を選択する(ステップS108)。この場合、エンジン2以外の駆動源である電動モータ25からの出力を用いて増幅手段24を駆動できるので、エンジン2の運転期間を効果的に短縮して燃費向上を図ることができる。また走行速度Vが閾値V以上である高速走行状態にあるので、要求操舵トルクも比較的小さく、電動モータ25によって賄うことができる。
【0052】
一方、走行速度Vが閾値V未満である場合(ステップS109:NO)、ECU18の駆動源選択部34は増幅手段24の駆動源としてエンジン2を選択する(ステップS110)。この場合、走行速度Vが閾値V未満である低速走行状態にあるため、要求操舵トルクは比較的大きくなる傾向にあるが、駆動源としてエンジン2を選択することにより、電動モータ25では対応が困難な大きな要求操舵トルクにも対応することができる。
【0053】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両1では、モータ発進時やモータ回生走行時などのエンジンが停止状態にある走行状態においても、走行速度に応じて要求操舵トルクの大きさに適した駆動源を選択することで、エンジン2の運転期間を短縮して燃費性能を確保しつつ、様々な走行状態における要求操舵トルクにも対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、エンジン及び走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して駆動輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置の技術分野に関する。
【符号の説明】
【0055】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 クラッチ
4 モータ(走行用モータ)
5 変速機
6 プロペラシャフト
7 差動装置
8 駆動軸
9 駆動輪
10 インバータ
11 バッテリ
18 ECU
20 パワーステアリング装置
21 操舵輪
22 第1のパワーステアリングポンプ
23 第2のパワーステアリングポンプ
24 増幅手段
25 電動モータ
26 車速センサ
27 操舵速度センサ
30 ステアリング
31 走行速度検出部
32 操舵速度検出部
33 走行モード判定部
34 駆動源選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び走行用モータ間にクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置であって、
前記ハイブリッド車両の走行速度を検知する車速検知手段と、
前記エンジン又は、前記ハイブリッド車両に搭載された電動モータのいずれか一方から出力された動力で駆動されることにより、前記ステアリングから入力された操舵トルクを増幅する増幅手段と、
前記増幅手段の駆動源として前記エンジン又は前記電動モータのいずれか一方を選択する駆動源選択手段と
を備え、
モータ回生走行時に前記エンジンが停止状態にあり、且つ、前記クラッチが切断状態にある場合、前記駆動源選択手段は、
前記車速検知手段によって検知された走行速度が第1閾値以上であるとき、前記増幅手段の駆動源として前記電動モータを選択し、
前記車速検知手段によって検知された走行速度が前記第1閾値未満であるとき、前記エンジンを始動して、前記増幅手段の駆動源として前記エンジンを選択することを特徴とするハイブリッド車両のパワーステアリング装置。
【請求項2】
エンジン及び走行用モータ間にクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記走行用モータの少なくとも一方から出力された動力で走行するハイブリッド車両において、ステアリングから入力された操舵トルクを増幅して操舵輪に伝達するハイブリッド車両のパワーステアリング装置であって、
前記ハイブリッド車両の走行速度を検知する車速検知手段と、
前記エンジン又は、前記ハイブリッド車両に搭載された電動モータのいずれか一方から出力された動力で駆動されることにより、前記ステアリングから入力された操舵トルクを増幅する増幅手段と、
前記増幅手段の駆動源として前記エンジン又は前記電動モータのいずれか一方を選択する駆動源選択手段と
を備え、
モータ発進時に前記エンジンが停止状態にあり、且つ、前記クラッチが切断状態にある場合、前記駆動源選択手段は、
前記車速検知手段によって検知された走行速度が第2閾値未満であるとき、前記増幅手段の駆動源として前記電動モータを選択し、
前記車速検知手段によって検知された走行速度が前記第2閾値以上であるとき、前記エンジンを始動して、前記増幅手段の駆動源として前記エンジンを選択することを特徴とするハイブリッド車両のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記ステアリングの操舵速度が所定値よりも大きい場合、前記駆動源選択手段は、前記エンジンを始動して、前記増幅手段の駆動源として前記エンジンを選択することを特徴とする請求項2に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−103552(P2013−103552A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247436(P2011−247436)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】