説明

ハイブリッド車両

【課題】動力分割機構に入力されるトルクを低減できるとともにその入力されるトルクの変動を適切に抑制することが可能なハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】キャリアC2に内燃機関10が、サンギアS2に第1MG11が、リングギアR2に出力部14がそれぞれ連結された遊星歯車機構18を含む動力分割機構13を備えたハイブリッド車両1において、内燃機関10と遊星歯車機構18との間にシングルピニオン型の増速用遊星歯車機構15が設けられ、増速用遊星歯車機構15のサンギアS1が、ダンパー16を介してケース2と連結され、増速用遊星歯車機構15のキャリアC2が内燃機関10と連結され、増速用遊星歯車機構15のリングギアR2が遊星歯車機構18のキャリアC2と連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から出力された動力を遊星歯車機構等の差動機構にて分割してモータ・ジェネレータと駆動輪とに伝達可能なハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
動力分割機構として遊星歯車機構を備え、サンギアにモータ・ジェネレータが、キャリアに内燃機関が、リングギアに駆動輪がそれぞれ連結されたハイブリッド車両が知られている。また、このような車両において内燃機関と動力分割機構との間に変速機構として、キャリアに内燃機関が、リングギアに動力分割機構がそれぞれ連結された遊星歯車機構と、キャリアとリングギアとを係合させたり離間させたりすることが可能なクラッチと、遊星歯車機構のサンギアをロック可能なブレーキとが設けられたハイブリッド車両が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4370637号公報
【特許文献2】特開2010−164125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されているようなハイブリッド車両にディーゼル機関等の高トルクでトルク変動が大きい内燃機関を搭載した場合、モータ・ジェネレータに掛かる負荷を抑制するために動力分割機構に入力されるトルクを低下させたりそのトルクの変動を抑制したりする必要がある。特許文献1の車両では、ブレーキで変速機構のサンギアをロックして内燃機関の動力を増速させることにより動力分割機構に入力されるトルクを低減できる。しかしながら、この場合でもトルク変動を十分に抑制できないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、動力分割機構に入力されるトルクを低減できるとともにその入力されるトルクの変動を適切に抑制することが可能なハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車両は、内燃機関と、モータ・ジェネレータと、駆動輪に動力を伝達するための出力部と、相互に差動回転可能な第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を有するとともに第1回転要素に前記内燃機関が、第2回転要素に前記モータ・ジェネレータが、第3回転要素に前記出力部がそれぞれ連結された差動機構を含む動力分割機構と、を備えたハイブリッド車両において、前記内燃機関と前記差動機構との間の動力伝達経路中に設けられ、かつ相互に差動回転可能な第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を有するとともにこれら回転要素を共線図上に配列したときに前記第1回転要素、前記第2回転要素、前記第3回転要素の順番で並ぶ増速用差動機構をさらに備え、前記増速用差動機構の第1回転要素が、振動を減衰可能なダンパーを介して回転不能な固定部材と連結され、前記増速用差動機構の第2回転要素が、前記内燃機関と連結され、前記増速用差動機構の第3回転要素が、前記差動機構の第1回転要素と連結されている(請求項1)。
【0007】
本発明のハイブリッド車両によれば、増速用差動機構にて内燃機関から出力された動力が増速されるので、第2回転要素のトルクよりも第3回転要素のトルクの方が小さくなる。そのため、動力分割機構に入力されるトルクを低減できる。そして、これによりモータ・ジェネレータで受けるべき反力を小さくできるので、モータ・ジェネレータを小型化できる。また、このようにトルクを低減することにより、内燃機関の出力トルクの変動幅を小さくできるので、動力分割機構に入力されるトルクの変動を抑制できる。さらに第1回転要素がダンパーを介して固定部材と連結されているため、内燃機関の出力トルクが変動した場合に第1回転要素を回転させ、ダンパーでそのトルク変動を小さくできる。そのため、内燃機関の出力トルクを十分に小さくしてから動力分割機構に伝達できる。従って、動力分割機構に入力されるトルクの変動を適切に抑制することができる。
【0008】
また、本発明では、ダンパーを固定部材と第1回転要素との間に設けたので、回転体と回転体との間にダンパーを設ける場合と比較してダンパーの設計や選択の自由度を高めることができる。また、このような位置にダンパーを設けることにより内燃機関からダンパーに入力されるトルクを小さくできるので、ダンパーを小型化できる。
【0009】
本発明のハイブリッド車両の一形態において、前記増速用差動機構は、シングルピニオン式の遊星歯車機構であり、前記増速用差動機構の第1回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギアであり、前記増速用差動機構の第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリアであり、前記増速用差動機構の第3回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギアであってもよい(請求項2)。この形態では、サンギアがダンパーを介して固定部材に連結され、キャリアが内燃機関と連結され、リングギアが動力分割機構の差動機構と連結される。このように遊星歯車機構の各回転要素を連結することにより、内燃機関の出力トルクを遊星歯車機構で小さくして動力分割機構に出力できる。
【0010】
この形態においては、前記キャリアと前記リングギアとの間の変速比をρとした場合に、前記サンギアと共に回転する部分のイナーシャが、前記キャリアと共に回転する部分のイナーシャの(ρ/(1+ρ)倍以下になるように前記遊星歯車機構が構成されていてもよい(請求項3)。サンギアと共に回転する部分のイナーシャをこのように設定することにより、サンギアと共に回転する部分のイナーシャトルクをキャリアと共に回転する部分のイナーシャトルクよりも小さくできる。そのため、内燃機関のトルク変動で内燃機関の回転が変動した場合にサンギアと共に回転する部分のイナーシャトルクがリングギアから出力されることを防止できる。従って、動力分割機構に伝達されるトルクの変動をさらに抑制できる。
【0011】
本発明のハイブリッド車両の一形態において、前記増速用差動機構は、シングルピニオン式の遊星歯車機構であり、前記増速用差動機構の第1回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギアであり、前記増速用差動機構の第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリアであり、前記増速用差動機構の第3回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギアであってもよい(請求項4)。この形態では、リングギアがダンパーを介して固定部材に連結され、キャリアが内燃機関と連結され、サンギアが動力分割機構の差動機構と連結される。このように遊星歯車機構の各回転要素を連結することにより、内燃機関の出力トルクを遊星歯車機構で小さくして動力分割機構に出力できる。
【0012】
この形態においては、前記キャリアと前記リングギアとの間の変速比をρとした場合に、前記リングギアと共に回転する部分のイナーシャが、前記キャリアと共に回転する部分のイナーシャの(1/(1+ρ)倍以下になるように前記遊星歯車機構が構成されていてもよい(請求項5)。リングギアと共に回転する部分のイナーシャをこのように設定することにより、リングギアと共に回転する部分のイナーシャトルクをキャリアと共に回転する部分のイナーシャトルクよりも小さくできる。そのため、内燃機関のトルク変動で内燃機関の回転が変動した場合にリングギアと共に回転する部分のイナーシャトルクがサンギアから出力されることを防止できる。従って、動力分割機構に伝達されるトルクの変動をさらに抑制できる。
【0013】
本発明のハイブリッド車両の一形態において、前記増速用差動機構の第3回転要素は、伝達されるトルクの上限を制限可能なトルクリミッタを介して前記差動機構の第1回転要素と連結されていてもよい(請求項6)。このようにトルクリミッタを設けることにより、ダンパーの設計や選択の自由度をさらに高めることができる。また、上述したように第3回転要素から出力されるトルクは、第2回転要素のトルクよりも小さい。そのため、このような位置にトルクリミッタを設けることによりトルクリミッタに入力されるトルクを低減できる。従って、トルクリミッタの容量を低減できる。
【0014】
本発明のハイブリッド車両の一形態において、前記増速用差動機構の第1回転要素は、前記ダンパー及び伝達されるトルクの上限を制限可能なトルクリミッタを介して前記固定部材と連結されていてもよい(請求項7)。このような位置にトルクリミッタを設けてもダンパーの設計や選択の自由度をさらに高めることができる。また、トルクリミッタに入力されるトルクを低減できるので、トルクリミッタの容量を低減できる。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したように、本発明のハイブリッド車両によれば、増速用差動機構により内燃機関から出力されたトルクを小さくできるので、動力分割機構に入力されるトルクを低減できる。これによりモータ・ジェネレータで受けるべき反力を小さくできるので、モータ・ジェネレータを小型化できる。また、動力分割機構に入力されるトルクの変動を抑制できる。さらに第1回転要素がダンパーを介して固定部材と連結されているため、ダンパーでそのトルク変動を小さくできる。そのため、内燃機関の出力トルクを十分に小さくしてから動力分割機構に伝達できる。従って、動力分割機構に入力されるトルクの変動を適切に抑制することができる。また、本発明では、ダンパーを固定部材と第1回転要素との間に設けたので、ダンパーの設計や選択の自由度を高めることができる。さらに、内燃機関からダンパーに入力されるトルクを小さくできるので、ダンパーを小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の形態に係るハイブリッド車両のスケルトン図。
【図2】第1の形態の増速用遊星歯車機構及び遊星歯車機構の共線図。
【図3】本発明の第2の形態に係るハイブリッド車両の要部のスケルトン図。
【図4】第2の形態の増速用遊星歯車機構の共線図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係るハイブリッド車両のスケルトン図を示している。なお、図1では要部のみを示し、その他の部分の図示を省略している。この車両1は、内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)10と、第1モータ・ジェネレータ(以下、第1MGと略称することがある。)11と、第2モータ・ジェネレータ(以下、第2MGと略称することがある。)12とを備えている。エンジン10は、自動車等に搭載される周知のディーゼルエンジンであるため、詳細な説明を省略する。第1MG11及び第2MG12は、電動機及び発電機として機能する周知のものである。
【0018】
また、車両1には、動力分割機構13と、車両1の駆動輪3に動力を伝達するための出力部14と、増速用差動機構としての増速用遊星歯車機構15とが設けられている。エンジン10の出力軸10aには増速用遊星歯車機構15が接続されている。また、増速用遊星歯車機構15には動力分割機構13の入力軸13aが接続されている。すなわち、エンジン10は増速用遊星歯車機構15を介して動力分割機構13と接続されている。エンジン10から出力された動力は、増速用遊星歯車機構15で変速され、その後入力軸13aを介して動力分割機構13に伝達される。動力分割機構13には、第1MG11及び出力部14も接続されている。動力分割機構13は、増速用遊星歯車機構15を介して伝達されたエンジン10の動力を第1MG11と出力部14とに分割できるように構成されている。
【0019】
図に示すように増速用遊星歯車機構15は、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。増速用遊星歯車機構15は、外歯歯車であるサンギアS1と、そのサンギアS1に対して同軸的に配置された内歯歯車としてのリングギアR1と、これらのギアS1、R1に噛み合うピニオンギアP1を自転可能かつサンギアS1の周囲を公転可能に支持するキャリアC1とを備えている。サンギアS1は、ダンパー16を介して固定部材としてのケース2と連結されている。なお、このケース2は車両1の車体に固定されているトランスアクスルケースである。ダンパー16は、振動を減衰可能な周知の装置である。そのため、詳細な説明は省略する。なお、ダンパー16としては例えば捩りバネ等が用いられる。そのため、サンギアS1は、ダンパー16が許容する範囲内でしか回転することができない。キャリアC1は、エンジン10の出力軸10aと連結されている。リングギアR1は、トルクリミッタ17を介して入力軸13aと接続されている。トルクリミッタ17は、入力されるトルクが予め設定された所定の上限値未満の場合にはリングギアR1と入力軸13aとを連結し、入力されるトルクが上限値以上になるとリングギアR1と入力軸13aとを切り離す。なお、このトルクリミッタ17は周知の装置であるため、詳細な説明を省略する。このように増速用遊星歯車機構15の各回転要素が連結されることにより、この形態ではサンギアS1が本発明の増速用差動機構の第1回転要素に相当し、キャリアC1が本発明の増速用差動機構の第2回転要素に相当し、リングギアR1が本発明の増速用差動機構の第3回転要素に相当する。
【0020】
動力分割機構13は、差動機構としてのシングルピニオン型の遊星歯車機構18を備えている。遊星歯車機構18は、外歯歯車であるサンギアS2と、そのサンギアS2に対して同軸的に配置された内歯歯車としてのリングギアR2と、これらのギアS2、R2に噛み合うピニオンギアP2を自転可能かつサンギアS2の周囲を公転可能に支持するキャリアC2とを備えている。この図に示すようにサンギアS2は第1MG11のロータ軸11aと連結されている。キャリアC2は入力軸13aと連結されている。そのため、キャリアC2は入力軸13a及びトルクリミッタ17を介して増速用遊星歯車機構15のリングギアR1と連結されている。リングギアR2は出力部14の出力軸19と連結されている。このように遊星歯車機構18の各回転要素が連結されることにより、キャリアC2が本発明の差動機構の第1回転要素に相当し、サンギアS2が本発明の差動機構の第2回転要素に相当し、リングギアR2が本発明の差動機構の第3回転要素に相当する。また、第1MG11が本発明のモータ・ジェネレータに対応する。
【0021】
出力部14は、出力軸19と、出力軸19に一体回転するように設けられたドリブンギア20とを備えている。第2MG12のロータ軸12aには、ドライブギア21が設けられている。ドリブンギア20はそのドライブギア21と噛み合っている。出力軸19は、不図示のデファレンシャル機構等を介して駆動輪3と動力伝達可能に接続されている。
【0022】
図2は、増速用遊星歯車機構15及び遊星歯車機構18の共線図を示している。この図において「ENG」はエンジン10を、「MG1」は第1MG11を、「MG2」は第1MG12を、「OUT」は出力軸19をそれぞれ示している。また、「S1」、「C1」、「R1」は、それぞれ増速用遊星歯車機構15のサンギアS1、キャリアC1、リングギアR1を示している。そして、「S2」、「C2」、「R2」は、それぞれ遊星歯車機構18のサンギアS2、キャリアC2、リングギアR2を示している。「ρ1」は増速用遊星歯車機構15のキャリアC1とリングギアR1との間の変速比を示している。この変速比ρ1には、増速用遊星歯車機構15のサンギアS1とキャリアC1との間の変速比を1とした場合に0より大きくかつ1未満の値が設定される。「ρ2」は遊星歯車機構18のキャリアC2とリングギアR2との間の変速比を示している。この変速比ρ2には、遊星歯車機構18のサンギアS2とキャリアC2との間の変速比を1とした場合に0より大きくかつ1未満の値が設定される。
【0023】
上述したように増速用遊星歯車機構15はシングルピニオン型の遊星歯車機構である。そのため、サンギアS1を固定した場合、キャリアC1に入力されたトルクは、リングギアR1から1/(1+ρ1)倍されて出力される。そのため、この図に示したようにエンジン10からトルクT1が入力されると、リングギアR1からはそのトルクT1に1/(1+ρ1)を乗じたトルクT2が出力される。このように増速用遊星歯車機構15では、エンジン10から入力されたトルクが低減される。
【0024】
以上に説明したように、本発明の第1の形態によれば、エンジン10と動力分割機構13との間に増速用遊星歯車機構15を設けたので、エンジン10の出力トルクを小さくして動力分割機構13に伝達できる。これにより第1MG11で受けるべき反力を小さくできるので、第1MG11を小型化できる。また、このように出力トルクを小さくすることによりエンジン10の出力トルクの変動を小さくして動力分割機構13に伝達できる。さらに増速用遊星歯車機構15のサンギアS1はダンパー16を介してケース2と連結されている。そのため、エンジン10の出力トルクが変動した場合にサンギアS1を回転させ、ダンパー16でそのトルク変動を小さくすることができる。従って、エンジン10の出力トルクの変動を十分に小さくしてから動力分割機構13に伝達できる。
【0025】
この第1の形態では、ダンパー16がサンギアS1とケース2との間に設けられている。ダンパー16は回転体と回転体との間に設けることもできるが、この場合にはダンパー16として設けるバネの種類や長さ及びバネの配置位置等が制約される。この場合と比較して回転しないケース2とサンギアS1との間にダンパー16を設けることにより、これらの制約を緩和することができる。そのため、ダンパー16の設計や選択の自由度を高めることができる。そして、このような位置にダンパー16を設けることによりエンジン10からダンパー16に入力されるトルクを小さくできる。そのため、ダンパー16を小型化できる。また、この形態ではリングギアR1と動力分割機構13との間にトルクリミッタ17を設けたので、さらにダンパー16の設計や選択の自由度を高めることができる。上述したようにリングギアR1から出力されるトルクT2は、エンジン10の出力トルクT1より小さい。そのため、このような位置にトルクリミッタ17を設けることにより、トルクリミッタ17の容量を低減できる。
【0026】
なお、この形態では、トルクリミッタ17をダンパー16とサンギアS1との間に設けてもよい。この場合にも同様にダンパー16の設計や選択の自由度を高めることができる。また、トルクリミッタ17の容量を低減できる。
【0027】
この第1の形態では、増速用遊星歯車機構15のサンギアS1と共に回転する部分(以下、サンギア軸と称することがある。)のイナーシャIsが、増速用遊星歯車機構15のキャリアC1と共に回転する部分(以下、キャリア軸と称することがある。)のイナーシャIcの(ρ1/(1+ρ1)倍以下になるように増速用遊星歯車機構15を構成してもよい。以下、その理由を説明する。
【0028】
キャリア軸のイナーシャトルクTcは、以下の(1)式で示すことができる。なお、この(1)式中のωcはキャリア軸の回転数を示している。
【0029】
【数1】

【0030】
サンギア軸のイナーシャトルクTsは、リングギアR1の回転数変化が無いと仮定すると、以下の(2)式で示すことができる。なお、この(2)式中のωsはサンギア軸の回転数を示している。
【0031】
【数2】

【0032】
ここで、サンギア軸のイナーシャトルクTsをキャリア軸の回転数ωcで表すと以下の(3)式になる。なお、ρ1は増速用遊星歯車機構15のキャリアC1とリングギアR1との間の変速比を示している。
【0033】
【数3】

【0034】
サンギア軸のイナーシャトルクTsをキャリア軸のトルクに変換すると以下の(4)になる。
【0035】
【数4】

【0036】
従って、サンギア軸のイナーシャIsをキャリア軸のイナーシャIcの(ρ1/(1+ρ1)倍以下にしてサンギア軸で発生するイナーシャトルクTsをキャリア軸で発生するイナーシャトルクTcよりも小さくすることにより、エンジン10のトルク変動でエンジン10の回転が変動した場合にサンギア軸のイナーシャトルクTsがリングギアR1から出力されることを防止できる。従って、動力分割機構13に伝達されるトルクの変動をさらに抑制できる。
【0037】
(第2の形態)
次に図3及び図4を参照して本発明の第2の形態に係るハイブリッド車両を説明する。図3はこの形態に係るハイブリッド車両1の要部のスケルトン図を示している。この形態において第1の形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
図3に示したようにこの形態では、増速用遊星歯車機構15のリングギアR1がダンパー16を介してケース2と連結されている。そして、増速用遊星歯車機構15のサンギアS1がトルクリミッタ17を介して入力軸13aと接続されている。なお、トルクリミッタ17よりも駆動輪3側の構成は、この形態においても第1の形態と同様である。そのため、それらの部分の図示は省略した。なお、このように増速用遊星歯車機構15の各回転要素が連結されることにより、この形態ではリングギアR1が本発明の増速用差動機構の第1回転要素に相当し、キャリアC1が本発明の増速用差動機構の第2回転要素に相当し、サンギアS1が本発明の増速用差動機構の第3回転要素に相当する。
【0039】
図4はこの形態の増速用遊星歯車機構15の共線図を示している。なお、この図において「ρ3」は増速用遊星歯車機構15のキャリアC1とリングギアR1との間の変速比を示している。それ以外の符号は図2と同じである。変速比ρ3には、増速用遊星歯車機構15のサンギアS1とキャリアC1との間の変速比を1とした場合に0より大きくかつ1未満の値が設定される。この形態においても増速用遊星歯車機構15はシングルピニオン型の遊星歯車機構である。そのため、リングギアR1を固定した場合、キャリアC1に入力されたトルクは、サンギアS1からρ3/(1+ρ3)倍されて出力される。そのため、この図に示したようにエンジン10からトルクT1が入力されると、サンギアS1からはそのトルクT1にρ3/(1+ρ3)を乗じたトルクT2が出力される。このようにこの形態においても増速用遊星歯車機構15においてエンジン10から入力されたトルクが低減される。
【0040】
本発明の第2の形態によれば、増速用遊星歯車機構15によって動力分割機構13に伝達されるトルクを小さくできるので、第1MG11を小型化できる。また、エンジン10の出力トルクの変動を小さくして動力分割機構13に伝達できる。そして、増速用遊星歯車機構15のリングギアR1はダンパー16を介してケース2と連結されているため、ダンパー16でエンジン10の出力トルクの変動を小さくできる。従って、エンジン10の出力トルクの変動を十分に小さくしてから動力分割機構13に伝達できる。
【0041】
また、この第2の形態では、ダンパー16をリングギアR1と回転しないケース2との間に設けたので、ダンパー16として設けるバネの種類や長さ及びバネの配置位置等に関する制約を緩和できる。そのため、ダンパー16の設計や選択の自由度を高めることができる。そして、このような位置にダンパー16を設けることによりエンジン10からダンパー16に入力されるトルクを小さくできるので、ダンパー16を小型化できる。また、この形態ではサンギアS1と動力分割機構13との間にトルクリミッタ17を設けたので、さらにダンパー16の設計や選択の自由度を高めることができる。トルクリミッタ17は、サンギアS1と動力分割機構13との間に設けられているので、トルクリミッタ17の容量を低減できる。
【0042】
なお、この形態では、トルクリミッタ17をダンパー16とリングギアR1との間に設けてもよい。この場合にも同様にダンパー16の設計や選択の自由度を高めることができる。また、トルクリミッタ17の容量を低減できる。
【0043】
この第2の形態では、増速用遊星歯車機構15のリングギアR1と共に回転する部分(以下、リングギア軸と称することがある。)のイナーシャIrが、キャリア軸のイナーシャIcの(1/(1+ρ3)倍以下になるように増速用遊星歯車機構15を構成してもよい。リングギア軸のイナーシャトルクTrは、以下の式(5)で示すことができる。
【0044】
【数5】

【0045】
ここでリングギア軸のイナーシャトルクTrをキャリア軸のトルクに変換すると、以下の(6)式になる。
【0046】
【数6】

【0047】
そのため、リングギア軸のイナーシャIrをこのように設定してリングギア軸で発生するイナーシャトルクTrをキャリア軸で発生するイナーシャトルクTcよりも小さくすることにより、エンジン10のトルク変動でエンジン10の回転が変動した場合にリングギア軸のイナーシャトルクTsがサンギアS1から出力されることを防止できる。従って、動力分割機構13に伝達されるトルクの変動をさらに抑制できる。
【0048】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明のハイブリッド車両に搭載される内燃機関は、ディーゼルエンジンに限定されず、火花点火式の内燃機関であってもよい。
【0049】
増速用遊星歯車機構は、シングルピニオン型の遊星歯車機構に限定されず、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であってもよい。なお、ダブルピニオン型の遊星歯車機構の場合には、リングギアが内燃機関と連結される。そして、サンギア又はキャリアのいずれか一方がダンパーを介してケースと連結され、他方がトルクリミッタを介して動力分割機構と連結される。この場合でも上述した各形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 車両
3 駆動輪
10 内燃機関
11 第1モータ・ジェネレータ
13 動力分割機構
14 出力部
15 増速用遊星歯車機構(増速用差動機構)
16 ダンパー
17 トルクリミッタ
18 遊星歯車機構(差動機構)
S1 増速用遊星歯車機構のサンギア(増速用差動機構の第1回転要素、第3回転要素)
R1 増速用遊星歯車機構のリングギア(増速用差動機構の第3回転要素、第1回転要素)
C1 増速用遊星歯車機構のキャリア(増速用差動機構の第2回転要素)
S2 遊星歯車機構のサンギア(差動機構の第2回転要素)
R2 遊星歯車機構のリングギア(差動機構の第3回転要素)
C2 遊星歯車機構のキャリア(差動機構の第1回転要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、モータ・ジェネレータと、駆動輪に動力を伝達するための出力部と、相互に差動回転可能な第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を有するとともに第1回転要素に前記内燃機関が、第2回転要素に前記モータ・ジェネレータが、第3回転要素に前記出力部がそれぞれ連結された差動機構を含む動力分割機構と、を備えたハイブリッド車両において、
前記内燃機関と前記差動機構との間の動力伝達経路中に設けられ、かつ相互に差動回転可能な第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を有するとともにこれら回転要素を共線図上に配列したときに前記第1回転要素、前記第2回転要素、前記第3回転要素の順番で並ぶ増速用差動機構をさらに備え、
前記増速用差動機構の第1回転要素が、振動を減衰可能なダンパーを介して回転不能な固定部材と連結され、
前記増速用差動機構の第2回転要素が、前記内燃機関と連結され、
前記増速用差動機構の第3回転要素が、前記差動機構の第1回転要素と連結されているハイブリッド車両。
【請求項2】
前記増速用差動機構は、シングルピニオン式の遊星歯車機構であり、
前記増速用差動機構の第1回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギアであり、
前記増速用差動機構の第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリアであり、
前記増速用差動機構の第3回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギアである請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記キャリアと前記リングギアとの間の変速比をρとした場合に、前記サンギアと共に回転する部分のイナーシャが、前記キャリアと共に回転する部分のイナーシャの(ρ/(1+ρ)倍以下になるように前記遊星歯車機構が構成されている請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記増速用差動機構は、シングルピニオン式の遊星歯車機構であり、
前記増速用差動機構の第1回転要素は、前記遊星歯車機構のリングギアであり、
前記増速用差動機構の第2回転要素は、前記遊星歯車機構のキャリアであり、
前記増速用差動機構の第3回転要素は、前記遊星歯車機構のサンギアである請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記キャリアと前記リングギアとの間の変速比をρとした場合に、前記リングギアと共に回転する部分のイナーシャが、前記キャリアと共に回転する部分のイナーシャの(1/(1+ρ)倍以下になるように前記遊星歯車機構が構成されている請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記増速用差動機構の第3回転要素は、伝達されるトルクの上限を制限可能なトルクリミッタを介して前記差動機構の第1回転要素と連結されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
前記増速用差動機構の第1回転要素は、前記ダンパー及び伝達されるトルクの上限を制限可能なトルクリミッタを介して前記固定部材と連結されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107531(P2013−107531A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255196(P2011−255196)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】